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2014.9 金属資源レポート 33 252チリの電力市場 資源探査部探査第1課課長代理 前サンティアゴ事務所副所長 縫部 保徳 はじめに 近年の銅の生産コストの上昇は世界的な傾向である が、世界最大の産銅国チリではその傾向が顕著であり 競争力喪失が懸念されている。その様な状況の中、コ スト上昇の主因の1つに電力コストの上昇があると言 われ、チリは鉱業国の中でも電力価格が非常に高いと される。また、電力の安定供給懸念とともに安価な電 力調達の見込みが立たないことから、FSの見直しな どを迫られている鉱業開発プロジェクトも存在する。 このように、生産、開発の両方において電力の安定 供給と価格の問題は大きな課題となっており、チリの 電力市場について知ることは、同国の銅産業が抱える 問題を理解する一助になると思われる。電力価格を決 定するファクターは複雑多様で全てを理解するのは非 常に困難であることから、本稿では大局の理解を目標 として、チリの電力市場に関するエッセンスをまとめ てみたい。 1. チリの電力システム チリには以下のそれぞれ独立した4系統の電力供給 システムが存在し、相互接続はしていない(図1)。 北部供給システム(SING: Sistema Interconectado delNorteGrande)、供給範囲は第XV州~第II州。 中 央 供 給 シ ス テ ム(SIC: Sistema Interconectado Central)、供給範囲は第III州~第X州。 アイセンシステム(SistemadeAysén)、供給範囲 は第XI州。 マガジャネスシステム(SistemadeMagallanes)、 供 給 範 囲 は 第 XII 州 で、Punta Arenas・Puerto Natales・Porvenirの3系統のサブシステムからなる。 それぞれの供給システムは、発電規模やシステム内 のユーザー構成などが大きく異なっている。 SINGの発電設備容量は全国の20%程度で、電源は 火力がほとんど全てを占めており、多数の大規模鉱山 に電力を供給している。 SICは全国の発電設備容量の75%以上を占めてお り、電源は多様で主に水力及び火力によって構成され ており、ユーザーのほとんどは家庭である。 アイセンシステム及びマガジャネスシステムは両シ ステム合わせても発電設備容量が全国の1%程度で、 発電施設の規模は非常に小さく、ユーザー数も少ない。 発電・送電・配電の組織構成もSICやSINGと異なって おり、1社がすべてを担っている。 2. 銅鉱業セクターの電力使用量と電力料金 の推移 チリの銅鉱業セクターの電力使用量は、鉱石品位の 低下、採掘箇所の深部化、鉱石の硬化などが原因で年々 増加している(図2)。今後は、地下水の枯渇から鉱業 用水への海水利用が進むなどの要因も加わり、銅鉱業 が使用する電力はさらに増加、2025年の電力消費量は 2013年の約2倍に達すると予測されている(図2)。 図1. チリの電力供給システム(Compendio Minería Chilena 2013を基にJOGMEC作成)

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チリの電力市場資源探査部探査第1課課長代理前サンティアゴ事務所副所長 縫部 保徳

はじめに 近年の銅の生産コストの上昇は世界的な傾向であるが、世界最大の産銅国チリではその傾向が顕著であり競争力喪失が懸念されている。その様な状況の中、コスト上昇の主因の1つに電力コストの上昇があると言われ、チリは鉱業国の中でも電力価格が非常に高いとされる。また、電力の安定供給懸念とともに安価な電力調達の見込みが立たないことから、FSの見直しなどを迫られている鉱業開発プロジェクトも存在する。 このように、生産、開発の両方において電力の安定供給と価格の問題は大きな課題となっており、チリの電力市場について知ることは、同国の銅産業が抱える問題を理解する一助になると思われる。電力価格を決定するファクターは複雑多様で全てを理解するのは非常に困難であることから、本稿では大局の理解を目標として、チリの電力市場に関するエッセンスをまとめてみたい。

1. チリの電力システム チリには以下のそれぞれ独立した4系統の電力供給システムが存在し、相互接続はしていない(図1)。

・‌‌北部供給システム(SING‌ :‌Sistema‌Interconectado‌del‌Norte‌Grande)、供給範囲は第XV州~第II州。・‌‌中央供給システム(SIC‌ :‌Sistema‌Interconectado‌Central)、供給範囲は第III州~第X州。・‌‌アイセンシステム(Sistema‌de‌Aysén)、供給範囲は第XI州。・‌‌マガジャネスシステム(Sistema‌de‌Magallanes)、供 給 範 囲 は 第XII州 で、Punta‌Arenas・Puerto‌Natales・Porvenirの3系統のサブシステムからなる。

 それぞれの供給システムは、発電規模やシステム内のユーザー構成などが大きく異なっている。 SINGの発電設備容量は全国の20%程度で、電源は火力がほとんど全てを占めており、多数の大規模鉱山に電力を供給している。 SICは全国の発電設備容量の75%以上を占めており、電源は多様で主に水力及び火力によって構成されており、ユーザーのほとんどは家庭である。 アイセンシステム及びマガジャネスシステムは両シ

ステム合わせても発電設備容量が全国の1%程度で、発電施設の規模は非常に小さく、ユーザー数も少ない。発電・送電・配電の組織構成もSICやSINGと異なっており、1社がすべてを担っている。

2. 銅鉱業セクターの電力使用量と電力料金の推移

 チリの銅鉱業セクターの電力使用量は、鉱石品位の低下、採掘箇所の深部化、鉱石の硬化などが原因で年々増加している(図2)。今後は、地下水の枯渇から鉱業用水への海水利用が進むなどの要因も加わり、銅鉱業が使用する電力はさらに増加、2025年の電力消費量は2013年の約2倍に達すると予測されている(図2)。

図1. チリの電力供給システム(Compendio Minería Chilena 2013を基にJOGMEC作成)

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 チリの電力価格は2008年から大きく増加、大手鉱山会社のトータルコストも2008年以降増加のペースが上がっている(図3)。電力価格の高騰は、2007年のアルゼンチンからの天然ガス供給途絶の影響が大きく、天然ガス火力発電所への依存の大きかったSINGの電力

3. 電力市場の規制機関 チリの電力セクターは公的機関及び民間機関によって統制されている(図4)。以下には電力セクターを統制する各機関の役割を簡単に紹介する。

3-1. エネルギー省(Ministerio de Energía) 電力行政を司る政府機関。エネルギー省は、電力セクターが正常に機能し発展するように計画、政策、規則の作成・調整を行い、エネルギーに関連するすべてのテーマについて政権に助言を行う。省エネ、保安、電力供給システムの適切な操業及び発展などに必要な電力セクターに適用される規準の作成、提案及び公布を行い、一連のエネルギー行政を遂行する。これら業

務の実施のため、エネルギーに関連する規準の作成や査察、実施を担う機関及び組織に協力要請を行う場合もある。

3-2. 国家エネルギー委員会  (CNE : Comisión Nacional Energía) エネルギー省傘下の公共機関。本委員会は技術的な機関であり、最も経済的な運転と両立させながら、不足のない良質なサービス提供のために発電・送電・配電企業が実施するサービスの料金や技術基準の分析を行う。エネルギー省を通じ、エネルギーセクター発展のためのテーマに関する助言を政府に行う場合もある。

価格が2008年~2009年にかけて特に高騰している。近年では、干魃による水不足で水力発電からの電力供給が減ったSICにおいて電力価格の高騰が話題になっている。

図2. チリの銅鉱業セクターの電力使用量(Consejo Minero HP 及 び COCHILCO(2013)を 基 にJOGMEC作成)

図3. SING及びSICの自由市場需要家電力価格及びチリ大手鉱山会社のトータルコスト

(Consejo Minero HP及びCOCHILCO(2014)を基にJOGMEC作成)

図4. チリの電力セクターと公的機関の関係(青色は政府機関)

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3-3. 電力・燃料監督庁(SEC :Superintendencia de Electricidad y Combustibles)

 電力市場の管理・監督を担うエネルギー省傘下の機関。

3-4. 専門家審議会(Panel de Expertos) 2004年3月に公布・施行された法律第19,940号により設立された独立団体。その権限は、厳格に規制されている。電力関係の法律を適用した際に生じる矛盾や紛争について、電力会社やその他機関が従わねばならない拘束力のある見解を表明する。

3-5. 経済給電センター(CDEC : Centro de Despacho Económico de Carga)

 公的機能を有する民間組織で、相互接続された電力施設の運転を調整する。電力システムにおける最低コストによる運転の安全性を守り、送電システムへの自由なアクセスを保障することが主要な任務である。 電力会社は、操業のために相互接続する必要があるが、電力システム内の発電設備容量が200MWを超えると、経済給電センターが発電施設運営の管理調整を実施すると定められている。

3-6. 環境省(Ministerio del Medio Ambiente) 国民の汚染のない環境で生活する権利、環境の保護、自然や環境資産の保全などを担う政府機関。環境影響評価システムの管理、環境関連規則の作成、環境汚染防止計画の立案などを行う。

4. 電力関連法令 チリは世界で最初に電力セクター改革を実施し、規制を撤廃した国である。規制を撤廃した1981年の電力サ ー ビ ス 一 般 法( 法 令 第1号 )以 降 に 公 布(promulgación)された電力関係法令を年表として表1にまとめた。

 次に主な法令の概要について述べる。

4-1. 電力サービス一般法(法令第1号:DFL1) 1981年に公布されたこの法令により、チリの電力セクター改革が行われ、規制が撤廃された。特定の事由がある場合を除き、民間セクターが独自に行う投資、生産、消費に関する決定への国家の介入を制限する1980年代初頭の政府施策の一環であった。政府当局は、発電事業が競争により効率化が図れると判断、競争に適した条件を整えることとした。一方、送電及び配電事業は複数社が市場に参入するよりも、1社による送電網拡張の方が経済的に効率がよいと判断され、独占事業として継続されることとなり、国家による統制が続くこととなった。

公布年 法令1981年 電力サービス一般法(Ley General de Servicios

Eléctricos)(法令第1号)1985年 発電所及び送電線の相互接続運転調整に関する規則令

(Reg lamento de Coo rd inac ión de la Operación Interconectada de Centrales Generadoras y Líneas de Transporte)(大統領令第6号)

1997年 電力サービスに関する規則令(Reglamento de Servicios Eléctricos)(大統領令第327号)

2004年 暫定措置法I(Ley Corta I)(法律第19,940号)2004年 専門家審議会に関する規則令(Reglamento del

Panel Expertos)(大統領令第181号)2005年 暫定措置法II(Lay Corta II)(法律第20,018号)2005年 電力サービスの安全及び品質に関する技術規準

(Norma Técnica de Seguridad y Calidad de Servicio) (司法外裁定第9号)

2006年 非在来型発電及び小規模発電に関する規則令(Reglamento para Medios de Generación No Convencionales y Pequeños medios de Generación)(大統領令第244号)

2006年 発 電 会 社 間 の 電 力 融 通 に 関 す る 規 則 令(Reglamento de Transferencias de Potencia entre Empresas Generadoras)(大統領令第62号)

2007年 改正電力サービス一般法(Texto Refundido de la Ley General de Servicios Eléctricos)(法令第4号)

2007年 経済給電センターに関する規則令(Reglamento de los Centros de Despacho Económico de Carga)(大統領令第291号)

2008年 非在来型再生可能エネルギー源発電法(Ley de Generación de Energía Eléctrica con Fuentes de Energía Renovables no Convencionales)

(法律第20,257号)2011年 火力発電所排出基準(Norma de Emisiones de

Centrales Termoeléctricas)(大統領令第13号)2012年 補完サービスに関する規則令(Reglamento de

Servicios Complementarios)(大統領令第130号)

2013年 非在来型再生可能エネルギーによる電源構成拡張法(Ampliación de la Matriz Energetica m e d i a n t e F u e n t e s R e n o v a b l e s n o Convencionales)(法律第20,698号)

2013年 経 済 給 電 セ ン タ ー に 関 す る 規 則 令 の 改 正(Modifica el Reglamento de los Centros de Despacho Económico de Carga)( 大 統 領 第115号)

2014年 独立した電力システムの相互接続を促進するための電力サービス一般法改正(法律第20,726号)

4-2. 発電所及び送電線の相互接続運転調整に関する規則令(大統領令第6号:DS6)

 電力サービス一般法に準じて、発電施設容量100,000kW超の規模で電力システムに接続している発電所及び送電施設の運転調整を義務付ける1985年に公布された規則令。本規則令に従い調整運転を行う施設の所有者は、電力システム内のサービスの安全と施設全体の最低コストでの運転を両立させ、また、送電容量が十分であるかを調査検証するため、各電力システム内に運転委員会となる給電配電センターを組織した。

表1. 1981年以降の電力関連法令

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4-3. 電力サービスに関する規則令  (大統領令第327号:DS327) 電力サービス一般法の規則を定めるために1997年に公布された規則令。これにより発電所及び送電線の相互接続運転調整に関する規則令は廃止され、送電施設の所有者も経済給電センターに参加させた。電力システムのリアルタイム運転に関する調整を行うため、各システムが単一の給電・制御センター(CDC‌ :‌Centro‌de‌Despacho‌y‌Control)を保有することを要求した。 また、認可、地役権、電力施設所有者間の関係、需要家及び所轄官庁などのセクターについての詳細を規定した。サービスの質、罰金、規制市場需要家に対するセグメント料金設定法などに関する規定も定められた。

4-4. 暫定措置法I(法律第19,940号) 2004年に公布された暫定措置法Iでは、送電システム の た め の 料 金 制 度、 幹 線(troncal)、 副 線(subtransmisión)、追加送電線(adicional)などの定義が定められた。幹線送電線及び副線送電線を通じて行う送電は公共サービス事業と定め、それらを運営する企業またはオーナーは公開株式会社(sociedad‌anómina‌abierta)でなければならず、発電事業または配電事業に携わることはできないとした。送電部門に関し、幹線経由の送電料金を定め、拡張及び開発にかかる手続きも規定した。また、配電会社に対し、認可地域内に所在する発電会社で自由市場需要家に電力を供給するものへのサービスを義務付ける規定が設けられた。 さらに、自由市場から電力を購入することの出来る需要家の要件を2,000kWから500kWに引き下げた。配電会社の認可地域内に所在する自由市場に参加できる規模の需要家は、自由市場から電力を購入するか、規制市場から電力を購入するかを選択することができるようになった。 上記の他、電力セクター内の紛争解決を行う専門家審議会を創設し、さらに、補完サービス、サービスの安全及び品質に関する技術基準、小規模発電などの概念が導入された。

4-5. 専門家審議会に関する規則令  (大統領令第181号:DS181) 暫定措置法Iが施行される以前は、電力セクターでの紛争は当事者間での解決に任されていた。専門家審議会は、紛争解決プロセスの均一化、期間の短縮、最終裁定をも含む独立した審級の創設、料金規制プロセスにおけるリスクの減少を目的として創設され、その機能が本規則令で定められた。

4-6. 暫定措置法II(法律第20,018号) 暫定措置法IIでは、規制市場の需要家に対する電力価格の決定及び電力購入契約の割り当てに関する改定

が行われ、国家エネルギー委員会が6か月おきに決定していた短期ノード価格(precio‌de‌nudo‌de‌corto‌plazo)に代わり、長期ノード価格(precio‌de‌nudo‌de‌largo‌plazo)といわれる価格を規制入札において決定することが定められた。

4-7. 電力サービスの安全及び品質に関する技術規準  (司法外裁定第9号) 2005年に司法外裁定(Resolución‌Exenta)第9号として、国家エネルギー委員会が電力サービス一般法に基づく電力サービスの安全及び品質に関する技術規準を公表した。これにより電力システムの計画・操業及び運転計画の研究・分析についての専門用語が統一された。 本基準により情報・通信プラットフォームが改善され、それに基づく相互接続電力システムの調整が現在も行われている。また、電力市場関係者の技術情報へのアクセス及び透明性が向上し、経済給電センターが調整する施設に関し、設計及び操業の最低要求基準の遵守に対する監査が強化された。 本技術基準は2014年4月に最新の更新がなされている(司法外裁定第131号)。

4-8. 非在来型発電及び小規模発電に関する規則令  (大統領令第244号:DS244) 2006年に公布された本規則令は、アルゼンチンからの天然ガス輸入が制限されたために、電源構成の拡大及び多様化の必要に迫られたことを背景に導入された。電力システムへの新規プレイヤーの参入促進のため、注入電力が9MWを超えない発電所と余剰出力が20MWを超えない非在来型エネルギー由来の発電所の運転、販売及び投資に関する条件を規定した。

4-9. 発電会社間の電力融通に関する規則令  (大統領令第62号:DS62) この規則令により、常時電力算出法の変更がなされた。起動時間や発電ユニットの負荷など、電力システムの安全性に関連する事項の計算法が廃止された。

4-10. 経済給電センターに関する規則令   (大統領令第291号) 本規則令により、経済給電センターの構成及び操業に関する改定がなされ、経済給電センターの役員に自由市場の需要家が含まれることになった。また、電力システムの調整に関する役員会の機能を制限する一方、内規及び年間予算の排他的な作成、経済給電センターの機能全般に対する検討及びシステム運営に関する長期的方針の確立が使命として定められた。 さらに、技術面に関する運転・通電料部門(Direcciones‌de‌Operación‌y‌Peajes)の自治性及び独立性を保証し、電力システムの調整及び経済的運転、通電料(pago‌de‌ los‌peajes)の計算及び支払いのための方法が定められた。それらの方法は、規準であるこ

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との担保のため、その適用には国家エネルギー委員会の同意を得、事前に公開協議に諮る必要がある。相違が生じた場合には、専門家審議会により解決が図られる。

4-11. 経済給電センターに関する規則令改正   (大統領第115号:DS115) 2013年の経済給電センターに関する規則令の改正では、役員会の構成、内規の作成、被調整者の権利・義務などについて定められた。役員会のメンバーに発電会社、幹線送電会社、副線送電会社の代表、自由市場の需要家が入る点については維持されたが、役員構成の変更(代表者の人数を各セグメント1名へ減員)、在任期間の延長(3年間、2度再選可能)、新選任法の導入(3人の選出理事及び専門企業からのアドバイスによる選出)が行われた。また、外部からの干渉疑惑を避けるため、役員が企業から独立していることの証明を求め、被調整企業からの独立性を担保した。 内規の作成及び承認について、提案は経済給電センターの構成メンバーとの協議が求められ、異議があった場合の解決を専門家審議会に求める可能性があること、内規の決定には国家エネルギー委員会の承認が必要なことが規定された。 権利・義務については、被調整者からの情報要求が定められ、現行電力規準の履行を担保する施策の採用や経済給電センターのメンバーが3か月毎に報告書を作成することも規定された。

4-12. 非在来型再生可能エネルギー関連法 非在来型再生可能エネルギー関連の法律には、2008年の法律第20,257号と2013年の法律第20,698号があり、発電会社に対し、需要家への供給電力の一部に一定割合の非在来型再生可能エネルギー由来の電力を導入することを義務付けている。 法律第20,257号では、2007年8月31日以降に締結する電力購入契約について、2024年に発電会社が販売する電力の10%は非在来型再生可能エネルギー由来とすることが義務付けられた。 法律第20,698号では、2013年7月1日以降の契約について、2025年の販売電力の20%を非在来型再生可能エネルギー由来とすることを定めた。

4-13. 火力発電所排出基準(大統領令第13号:DS13) 火力発電所の排出基準を定めた環境省の大統領令は2011年に公布された。この基準により、火力発電所の運転で発生する粒子状物質及びその他汚染物質(窒素酸化物や硫黄酸化物など)の排出が規制された。

4-14. 独立した電力システムの相互接続を促進するための電力サービス一般法改正(法律第20,726号)

 現在接続されていない北部供給システムと中央供給システムの相互接続を政府が提案可能とする電力サービス一般法の改正は2014年に公布された。2013年2月、国家エネルギー委員会が幹線送電システムの拡張計画に両システムの相互接続を盛り込んだ際には、独立した電力システム間の接続はそれに利害関係のある民間企業が開発すべきと電力サービス一般法に規定されているとして電力会社が反対の声を上げていた。電力会社は、国家エネルギー委員会の幹線送電システム拡張計画中の両システム相互接続事業を現行法規に従い無効とするよう専門家審議会に求めた。専門家審議会は電力会社からの申し立てを認めた一方、政府は所轄官庁が電力部門の機能向上に必要と判断した場合の電力システム相互接続施設建設促進メカニズムを導入する電力サービス一般法の改正を提案、これが承認された。

5. 電力市場の構造

5-1. セグメント 現在のチリの電力市場の構造は1981年公布の電力サービス一般法により定められ、同法により発電(Generación)、送電(Transmisión、23kV以上の電圧を送電する施設)、配電(Distribución)のセグメントに分離された(図5)。特別な場合を除く政府の関与が制限されており、あらゆるセグメントへの全ての投資は民間資本により行われる。また、電力市場への参入及び投資スキームは市場原理に従うとされており、セグメント間の垂直統合については法律により制限されている。

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 発電セグメントについては、自然独占事業ではないと判断され、自由競争が導入されている。このため、民間企業が独自で場所や技術、規模など投資の決定を行っている。自由市場及び規制市場の需要家への電力販売契約を通じて電力を販売、これが発電企業の安定収入源となっているが、スポット市場でも電力が取り引きされている。 送電セグメントは、発電事業と異なり自然独占事業と見なされており、参入やアクセスの条件は規制されている。共通仕様幹線網(幹線)の整備計画は国家エネルギー委員会が4年毎に作成している。送電施設の建設は入札により業者が選定される。送電事業の実施に認可取得は要求されないが、送電線設置のための国有地使用や私有地の地役権強制のために認可が必要とされることが通常である。幹線システム保有企業の報酬は法律で定められており、施設交換コストや運転コス

トなどの市場価格を足し上げて算出される。また、幹線及び副線システム施設の第三者の使用について、電力サービス一般法はシステム所有者によるいかなる差別も禁止している。追加送電線システムに関しては、送電線のルートが公用地を通っている場合に限り、公共使用権が発生する。送電システムを中心とした他のセグメントとの関係を図6に示した。 配電セグメントは、送電セグメントと同じく自然独占事業と見なされており、法律で規定された手続きを経て各企業に認可地域が割り当てられている。配電企業は電力を必要とするあらゆる需要家に対する電力供給義務が法律により定められている。配電企業の事業は配電のみではなく、エネルギーマーケッティング事業(請求書の発行、消費電力の測定、経営業務)も実施しており、これらの業務は自然独占事業とは見なされていない。

図5. チリの電力供給市場の構造

図6. 送電システムとその他セグメントの関係

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5-2. 電力市場と電力価格  チ リ の 電 力 市 場 に は 契 約 市 場(Mercado‌de‌Contratos)とスポット市場(Mercado‌de‌Spot)が存在する(図7)。 契約市場は全てが需要で成り立っている市場である。大規模需要家(接続容量2,000kW超、または、接続容量500kW超で発電企業との間で契約を締結することを選択した需要家)は、価格規制の対象外となり、電力価格及びその他の条件は自由に取り決めることができる(自由市場)。一方、接続容量2,000kW以下、または、500kW超で契約を選択しない需要家は、政府が統制する料金を支払う規制対象となり、電力価格は公共入札で決定される(規制市場)。 スポット市場は、発電企業間の電力融通で成り立っている市場である。発電施設の運転は経済給電センタ

ーの調整指令によって行われることから、電力販売契約量に対する余剰・不足電力が発電企業間で融通され、スポット市場を形成する。電力量の取り引きは、瞬間マージナルコスト(Costo‌Marginal‌ Instantáneo)により行われる。電力量のマージナルコストは、各発電施設が繋がっている相互接続システムの中に注入されている電力で最もコストの高い発電施設の発電変動コストにより査定されるもので、実際には一時間毎に記録されている。電力のマージナルコストは、需要ピーク時に必要な追加電力を提供するのに最も経済的な発電施設への投資に関連しており、相互接続されているすべての発電施設の常時電力(Potencia‌Firme)の合計が電力システムの年間ピーク需要と同じになるように査定される。

 発電企業・送電企業・配電企業・需要家の間の相互関係及びそれぞれの間で取り引きされる電力価格について図8に示した。 発電セグメントには自由競争が導入されているため、発電企業同士はセグメント内で競争し、発電した電力を以下のように販売している。

・合意価格(自由価格)での大規模需要家への販売・‌‌当局が管理する入札において決定される価格(規制価格[長期ノード価格])での配電企業への販売・‌‌スポット市場におけるマージナルコストでの別の発電企業への販売

 配電企業はスポット市場で電力を購入することが認められていないため、発電企業から契約を通じて電力を調達しており、次の3者に電力を販売することができる。

・‌‌認可地域内に存在する中規模需要家(接続容量500kW超2,000kW以下)に双方合意の価格で販売。配電会社の認可地域内に存在する中規模需要家は、電力を発電会社から直接購入することも配電会社から購入することも可能・‌‌規制市場の需要家への販売。この取り引きは、最終配電価格で行われる・‌‌別の配電企業への販売。この取り引きも最終配電価格で行われる

 需要家が配電企業に支払う最終配電価格とは、長期平均ノード価格(当局管理の下で行われる入札で決定される規制価格)、通電料(幹線送電使用料)、投資コスト・維持管理費・操業コスト・固定費などを含む配電付加価値(VAD‌:‌Valor‌Agregado‌de‌Distribución)の合計である。配電付加価値は、国家エネルギー委員会が4年毎に行う調査で決定され、関連パラメータは効率的に操業を行う模範的配電企業をベースに見積もられる。

図7. チリの電力需給市場の構造

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 これまでに述べたとおり、チリでは一定の信頼性を確保した上で最低コストで需要を満たすようマージナルコストに基づき、経済給電センターが発電プラントの運転の管理及び調整を行っている。発電企業の電力販売は、自由市場と規制市場からなる契約市場と発電企業同士で電力の融通を行うスポット市場で行われている。契約市場では電力量及び電力による課金がなさ

れるが、自由市場では発電・配電企業と需要家の間の合意により、規制市場では公開入札による長期ノード価格に基づき料金が設定される。経済給電センターが効率の高いシステムから操業を行うよう発電プラントの運転調整を行っているため、スポット市場ではマージナルコストに基づき決定される価格で電力がやり取りされる(図9)。

図8. 電力市場内の相互関係と取り引きされる電力価格

図9. チリの電力価格体系

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5-3. 電力購入契約(PPA) 接続容量2,000kW以上の需要家、配電企業の認可地域内に位置する接続容量500kW超の需要家は自由市場の需要家となる。中規模以上の鉱山は全て自由市場の需要家である。自由市場では発電企業と需要家が、電力料金や電力供給の条件を定めた契約(電力購入契約、PPA‌:‌Power‌Purchase‌Agreement)を締結する。電力購入契約の締結が、需要家(鉱山会社)及び発電企業にとってリスクの低減及びファイナンス条件の向上に繋がる。電力購入契約においても、電力サービスの安全及び品質に関する技術規準は遵守しなければならない。 自由市場の需要家は契約を発電企業と直接締結しなければならないが、配電企業の認可地域内に所在する500kW超の需要家は配電会社を通じて契約することも可能である。 鉱山の場合には所在地とその規模により、通常、電力購入契約を発電企業と直接に締結している。 自由市場の需要家と発電企業の間の電力購入契約では、電力供給に関する技術的・商業的・経済的条件が取り決められる。また、電力サービスの安全及び品質に関する技術規準に定められる品質や信頼性の条件に加え、電力供給の方式、契約期間、何らかの事由により需要家が電力供給を失った場合の条件なども定められる。 発電企業と鉱山会社の間で取り交わされる電力購入契約は、実績最大需要(Demanda‌Máxima‌Leída)と固定料金(Cargo‌Fijo)の2種類の様式が一般的である。

(1) 実績最大需要 実績最大需要電力購入契約は、2種類(有効電力需要[Potencia‌Activa‌Demanda]及び有効消費電力量‌[Energía‌Activa‌Consumida])の月間料金に基づいた構造となっている。 有効電力需要(PMáx‌leída)は、電力購入契約の中で合意される供給点において需要家が要求する電力が時間毎に記録されたものである。有効電力需要は、電力購入契約の中で合意される最低電力(PMínima)以上で、かつ、契約電力(PConvenida)以下となる。 有効消費電力量は、供給地点において月間に測定される電力量である。供給点とは需要家が電力を受け取る変電所のことであり、そこから消費地に電力が供給される。 有効電力需要の料金計算には通常次の式が利用される。

 ただし、

PPOTENCIA=需要家が支払う有効電力需要の月間料金(US$建て)PBASE−P=電力単価(US$/kW−月)CPI=支払い月の米国消費者物価指数CPI0=契約オファー提出日の消費者物価指数PMáx‌leída=実績月間最大電力需要PMínima=需要家に義務付けられた最低電力PConvenida=発電会社が供給を義務付けられた電力

 また、有効消費電力量の料金は次の式で計算される。

PENERGÍA=需要家が支払う有効消費電力量の月間料金(US$建て)PBASE−E=電力量単価(US$/MWh)a1...n=各指数への重み付け係数(総和は1)Index1...n=電力量価格指数EConsumida=月間有効消費電力量(MWh)

 通常利用される電力量価格指数には次のようなものがある。

Index1=ディーゼルオイル月極め平価(US$/㎥)Index2=重油No.6月極め平価(US$/㎥)Index3=国家エネルギー委員会が決定する石炭月極め平価Index4=液化天然ガス(Henry‌Hub)月間平均価格Index5=電力量マージナルコストの月間平均Index6=消費者物価指数

 上述の電力購入契約の構造は、発電企業の入札に使用されるものと類似しており、この契約の収益性は電力量料金が鍵を握る。 電力及び電力量の料金計算は、投資に対する必要な利益を発電企業が確保できるよう意図されており、スポット市場の発電コストなども賄えるようになっている。また、料金の中に電力抽出に関連する通電量も含めることが可能で、発電企業が需要家に供給すべき電力に比例する負担としてそのコストを転嫁することができる。

(2) 固定料金 固定料金電力購入契約とは、発電ユニットが発電する電気のすべてまたは一定割合を需要家が購入する契約であり、次のような料金が含まれる。

・‌‌発電プロジェクトへの投資をオーナーが要求する利益率で回収できるよう調整された月間固定料金(CFM‌:‌Cargo‌Fijo‌Mensual)

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2014.9 金属資源レポート42(261)

・発電コストを反映させた料金(PENERGÍA)・‌‌契約電力に比例する受け渡し(traspaso‌[pass‌through])コスト、その他すべてのコスト、契約を保証する発電ユニットの運転に関連した利益

 月間固定料金は通常次の式で計算される。

CFM=需要家が支払う月間固定料金(US$建て)CFABASE=発電会社が妥当な利益率で投資を回収できるように電力購入契約で合意したUS$建て年間料金CPI=支払い月の米国消費者物価指数CPI0=契約オファー提出日の消費者物価指数

 電力量による料金は次の式で通常計算する。

PENERGÍA=需要家が使用電力量に応じて支払う月間料金(US$建て)CVC=発電ユニットの燃料変動費用(US$/MWh)CVNC=発電ユニットの非燃料変動費用(US$/MWh)p=発電企業の電力注入点と供給点間の送電損失∆CMG=発電企業の電力注入点と供給点間のマージナルコストの差(US$/MWh)EConsumida=月間有効消費電力量(MWh)

 この場合、電力量に応じて支払う月間料金の計算は一時間毎に行う。需要家は、契約電力の割合に応じ、発電ユニットが発電した全ての電力量及び発電コストに関する権利を有する。したがって、発電企業は電力供給の継続性を保証する設備の整備を行わねばならず、履行できない場合には不足した電力についてマージナルコストとして査定された超過コストを負担しなければならない。 経済給電センターの調整により発電量が需要家が消費した電力よりも少なかった場合には、発電企業はその差をマージナルコストに換算して負担しなければならない。一方、発電量が需要家の消費した電力よりも多かった場合には、超過分をマージナルコストと発電変動コストにより換算した金額として需要家に払い戻す。

おわりに チリの電力市場について、規制当局、関連法制及び電力価格体系、特に鉱山会社が発電企業と締結する電力購入契約について、その概要をまとめた。チリ鉱業セクターの電力消費量は今後も伸びていくことが確実な状況であり、本稿が生産コスト中でも重要な割合を占める電力コストを理解する一助になれば幸いである。

(2014.7.16)

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