モジュール 8:臨死期のケア...

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ELNEC-J クリティカルケアカリキュラム 指導者用ガイド 2016 モジュール 8: 臨死期のケア 指導者用アウトライン Page 1 スライド 1 :表紙 スライド 2 :モジュールの概要 このモジュールでは、臨死期の患者とその家族のケアに焦点を当て、臨死期に最善の ケアを提供するために必要なことについて理解します。 スライド 3 :目標 このモジュールの目標は、5 つです。 1. 臨死期にある患者とその家族の身体的、精神的、社会的、スピリチュアル なニーズについて説明することができる。 2. 臨死期にある患者とその家族の準備を整えるために必要なことについて説 明することができる。 3. 臨死期にある患者によく見られる身体的徴候・症状と必要なケアを説明す ることができる。 4. 看取り時の対応と留意点について理解することができる。 5. 臨死期における看護師の役割について理解することができる。 スライド4 :講義内容一覧:Ⅰ. 臨死期とは このモジュールでは、まず初めに臨死期について概説し、臨死期における時間の経過 に応じた患者の変化やケア内容を説明したのち、臨死期における看護師の役割につい て講義を進めていきます。 スライド 5 :「臨死期」 まず、「臨死期」の定義について学びます。 広辞苑の定義では、「死の瀬戸際まで行くこと」と定義されています。 日本医師会の終末期医療のガイドラインでは、終末期を広義と狭義に分けて定義 し、狭義の定義を、「臨死の状態で、死期が切迫している時期」としている。 臨死期の定義はさまざまであるが、ELNEC-J クリティカルケアにおいては、臨死期 の定義を、適切な治療を行ったが効果がなく、死が不可避と判断されてから、死 モジュール 8 :臨死期のケア 指導者用アウトライン

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スライド 1 :表紙

スライド 2 :モジュールの概要

このモジュールでは、臨死期の患者とその家族のケアに焦点を当て、臨死期に最善の

ケアを提供するために必要なことについて理解します。

スライド 3 :目標

このモジュールの目標は、5つです。

1. 臨死期にある患者とその家族の身体的、精神的、社会的、スピリチュアル

なニーズについて説明することができる。

2. 臨死期にある患者とその家族の準備を整えるために必要なことについて説

明することができる。

3. 臨死期にある患者によく見られる身体的徴候・症状と必要なケアを説明す

ることができる。

4. 看取り時の対応と留意点について理解することができる。

5. 臨死期における看護師の役割について理解することができる。

スライド 4 :講義内容一覧 :Ⅰ. 臨死期とは

このモジュールでは、まず初めに臨死期について概説し、臨死期における時間の経過

に応じた患者の変化やケア内容を説明したのち、臨死期における看護師の役割につい

て講義を進めていきます。

スライド 5 :「臨死期」

まず、「臨死期」の定義について学びます。

広辞苑の定義では、「死の瀬戸際まで行くこと」と定義されています。

日本医師会の終末期医療のガイドラインでは、終末期を広義と狭義に分けて定義

し、狭義の定義を、「臨死の状態で、死期が切迫している時期」としている。

臨死期の定義はさまざまであるが、ELNEC-J クリティカルケアにおいては、臨死期

の定義を、「適切な治療を行ったが効果がなく、死が不可避と判断されてから、死

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までの期間(数時間から数日)」とし、その時期におけるケアについて取り扱うこ

ととします。

次に、「死または死にゆくこと」とはどのようなことでしょうか?

「死」は誰にでもいつかは訪れるものですが、死に対する受け止め方や死への向

かい方は一人 ひとり異なります。また、同じ疾患にあっても臨死期の状態は一

人ひとり異なることを認識する必要があります。

⇒ そのため、エンド・オブ・ライフ・ケアにおいても個別性への配慮が重要に

なってきます。

また、死への過程において、患者や家族は身体的・精神的・社会的・スピリチュ

アルな苦痛を 経験します。

⇒ そこで、臨死期では、患者・家族が限られた時間を有意義に過ごせるように、

患者・ 家族の身体的・精神的・社会的・スピリチュアルなニーズを把握し、

それらに対応する必要があります。

【参考文献】

日本医師会 HP: グランドデザイン 2009 . ―国民の幸せを支える医療であるために,

http://dl.med.or.jp/dl-med/nichikara/gd2009.pdf[Accessed 12/12/2014]

スライド 6 :講義内容一覧:

Ⅱ. 患者とその家族が死を迎える準備を整えるために看護師がすべきこと

次に、患者とその家族が死を迎える準備を整えるために看護師がすべきことを

学習します。

スライド 7 :オープンで誠実なコミュニケーションを心がける

クリティカルケア領域では、「死」について患者・家族と話しをするという文化は

あまり構築されていません。しかし、本領域でも「死」についてオープンで誠実なコ

ミュニケーションを図るよう心がける必要があります。

具体的には、

最期まで「その人らしさ」を尊重したケアを提供することを保証し、感じたこと

や思いやりの気持ちを伝えます。

分かりやすい言葉で情報を提供します。

患者・家族が死にゆくプロセスを準備できるようにします。

患者が意思疎通可能な場合、死を知覚した本人の思いを受け止めます。

例えば、残された時間をどのように過ごしたいのかをお聞きし、可能な範囲

で希望に沿った援助を行います。

家族が抱えている「患者が死ぬこと」についての不安や恐怖、別れの辛さや悲しみ

を理解し、家族が感情を表出できるようにします。

患者のそばに存在しつづけることを保証します。

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スライド 8 :予後予測をケアに活用する

現在行っている積極的治療を維持するのか、減量するのか、中止するのかを検

討します。

予後を予測することは、救命を目的とした治療、CV ポートの挿入や胃ろうの造設、

検査など、苦痛を伴うような治療・処置を行うか否かの検討に役立ちます。

療養の場を検討します。

予後を予測することによって、限りある時間の中で、患者がどこでどのように過

ごしたいと考えているのかを確認し、患者・家族の意思決定を支援するケアにつ

なげることができます。

例えば、個室への移動や一般病棟・緩和病棟への転棟などです。

患者の有意義な時間の過ごし方をサポートします。

予後を予測し、身辺整理、遺産相談、墓参り、会いたい人に会うなど、患者の希

望をできるだけ叶えることができるよう配慮することができます。

家族や会いたい人との面会時間を十分確保するように調整します。

家族の心の準備 をサポートします。

家族は、患者の状態が改善することを願っており、死が近づいていることを否認

する場合があります。

家族が、患者の病状や患者の病期をどのように認識しているのかを理解する必要

があります。

家族の感情を理解しながら、死が避けられないことを認め、看取りの準備をして

いけるようにサポートします。

看護師は、予後予測を参考にしながら、多職種チームで話し合い、それぞれの時期

に合った適切なケアを提供していくことが重要となります。

【参考文献】

高橋美賀子 ( 2008 ) 予後予測. 濱口恵子, 小迫冨美恵, 千崎美登子, 他 編. 一 般病棟でで

きる! がん患者の看取りのケア. (p. 26 - 33). 東京: 日本 看護協会出版会.

【予後予測スケールについて】(補助教材を参照)

予後予測スケールとして妥当性が検証され、広く用いられているものは以

下の2つである。予後予測スケールによる客観的評価は 1 つの目安であり、

身体所見や日常生活動作、栄養状態の評価などを判断する上で重要となる。

Palliative Prognostic Score (PaP Score) :補助教材 1

Palliative Prognostic Index (PPI) :補助教材2

他にも以下の 2 つがあるがそれぞれの特徴がある。

予後予測スコア:補助教材 3

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予後予測スコアは、生存期間と関連している臨床症状や臨床徴候、血液検査デ

ータなどを組み合わせることで、生存期間を予測するものである。

APACHE (Acute Physiology and Chronic Health Evaluation) Ⅱ

:補助教材 4

APACHEⅡは重症度判定、院内死亡率の予測に用いられているため参考に

はなるが、患者個人の予後の正確な予測には用いられていない。

【 ※ 補助教材参照 】

【参考文献】

Maltoni M, Nanni O, Pirovano M, et al. ( 1999 ) Successful

validation of the palliative prognostic score in terminally ill

cancer patients. Journal of Pain and Symptom Management 17 :

240 - 247.

Morita T, Tsunoda J, Inoue S,et al. ( 1999 ) The Palliative

Prognostic Index: a scoring system for survival prediction of

terminally ill cancer patients. Supportive Care in Cancer 7 : 128-

133.

恒藤暁、平井啓、池永昌之ら(2000)末期癌患者の身体症状と日常生活動作障害

からみた予後予測.緩和医療学 2(2).192-198.

菊池信孝 (2008) 予後予測のツール. 緩和ケア編集委員会 編 . 臨床と研究に役立つ 緩和ケ

アのアセスメント・ツール. (p.144-145). 東京: 青海社.

Knaus WA, Draper EA, Wagner DP,et al. ( 1985 ) APACHEⅡ:a

severity of disease classification system. Crit Care Med 13(10) : 818-

829.

石本倫子、秋田豊和、相川恭一郎ら(2007) 高知医療センター救命救急センターに

おける APACHEⅡscore の検討. 医学検査 56(11) .1448-1451

岩瀬良範、崎尾秀彰、奥田千秋ら(1990) APACHEⅡと重症患者の評価. 呼吸

9(10) .1191-1196.

スライド 9 :患者・家族の死への不安が最小限になるよう配慮する

患者・家族が死を意識すると、「死」への不安を抱くようになります。その場合は、

患者・家族の死への不安が最小限になるよう配慮します。

患者・家族の看取りの経験や死にゆく過程に対するイメージを確認します。

現在は、身近な人との死別の経験が少なくなってきており、少ない看取りの経験が

トラウマになっていることがあります。そのため、テレビや映画の場面のイメージ

をもっていることがあります。

今後患者に起こりうる徴候や症状、日常生活の変化について、患者・家族の状況に

配慮しながら伝えていきます。

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患者や家族は、死が避けられないと気付いたり、説明を受けていたりしていても、

「間違いであってほしい」、「奇跡が起きてほしい」、「少しでも長く生きていた

い」と願うものである。そのような感情を持ちながらも、死が避けられないことを

受け止め、覚悟を決めたり、心の準備をするため、そのような 感情に寄り添いな

がら、患者や家族がお別れの準備ができるように整えていくことが重要です。

今後どこでどのように過ごしたいかについて患者・家族に確認し、患者・家族の希

望を尊重します。

患者や家族がどこでどのように過ごしたいと考えているかの意向に変化がない

か を確認して、患者や家族の意向に沿えるようにケアを計画します。

また、患者の意向に合わせた療養環境やサポート体制を多職種チームと連携を

図りながら整えます。

患者・家族が安楽に過ごせるようにすることを保証します。

患者の苦痛症状を緩和し、 家族が患者の変化に対応して生活できるようにサポー

トする。

患者の不安を取り除くために、患者のそばに寄り添い、同時に原因を探求しま

す。

身体的苦痛の緩和や環境調整など不安を取り除くケアを提供します。

【参考文献】

全日本病院協会 終末期医療に関するガイドライン策定検討会 編 (2009) 終末期医療に 関

するガイドライン―よりよい終末期を迎えるために

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/dl/s1224-14f.pdf [Accessed 27/02/2014]

スライド 10 :講義内容一覧:Ⅲ. 死が近づいた時期 (日単位)

臨死期のケアを考えるうえで、まず「死が近づいた時期 (日単位)」に焦点を当て、 説

明していきます。

スライド 11 :死亡前の数日間における主な身体症状

この報告は入院した患者の記録を対象にした後ろ向き研究です。医師の記録から、慢

性腎不全、慢性閉塞性肺疾患、うっ血性心不全などの非悪性腫瘍患者 656名の死亡前

の 2週間における症状を見てみると、呼吸困難、浮腫、疼痛などの症状が多いことが

分かりますが、重要なことは様々な症状が複合的に認められるということでした。

身体的苦痛は患者らしい生活を送ることを阻害するため、看護師は身体的苦痛を積極

的にコントロールしながら、精神的・社会的・スピリチュアルな側面にも目を向け、

全人的なケアを提供する必要があります。

【参考文献】

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Lau KS, Tse DM, Tsan Chen TW, et al. (2010) Comparing noncancer and cancer

deaths in Hong Kong: a retrospective review. Journal of pain and symptom

management 40(5):704-714.

スライド 12 :臨死期の「呼吸困難」に対するケア

呼吸困難を緩和させるためには、原因治療と緩和を目的とした薬物または非薬物療

法が行われますが、臨死期では原因治療は困難です。

呼吸困難による不安や苦痛を軽減するために、モルヒネなどによる鎮痛・鎮静、

または抗不安薬の使用を検討します。

ステロイド薬、気管支拡張薬、利尿薬は、直接的な症状改善を目的に投与され

ます。

非薬物療法としては、酸素投与や体位の工夫、または傍に寄り添いながらの声かけ

やタッチングなど安心感を提供できるケアなどを行います。

【参考文献】

Campbell ML. (2004). Terminal dyspnea and respiratory distress. Crit Care

Clin20(3):403-417.

有田健一, 三戸晶子, 梶原俊毅. (2010). 過去 20 年間における肺線維症・間質性肺炎

終末期の緩和医療に関する検討. 日本胸部臨床 69(4): 353-361

スライド 13 :臨死期の「浮腫」に対するケア

クリティカルケアにおける臨死期にある患者の輸液療法は確立されていません。

参考として、生命予後 1~2 週間のがん患者の輸液に関する推奨として、「終末

期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013 年版」では、下記のように記

載されています。

生命予後が 1~2 週間と予測されるような、日中の 50%を臥床しているような

Performance Status3や終日臥床しているようなPerformance Status 4 ような

終末期がん患者に対して、全身倦怠感の改善を目的とした輸液を行わないこ

とを推奨している。

また、輸液が真に患者や家族にとって有益と判定され、患者本人や家族の希

望や了承があれば実施の適応となるが、体液貯留や分泌物の増加による不利

益を生じていないかフォローする必要があります。

【参考文献】

日本緩和医療学会:終末期がん患者に対する輸液療法に関するガイドライン

2013 年版.

http://www.jspm.ne.jp/guidelines/glhyd/2013/index.php?isbn=97843071015

92[ Accessed 12 / 14/ 2014 ]

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スライド 14 :臨死期の栄養療法の考え方

2009 年の米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)と米国集中治療医学会(SCCM)によ

るガイドラインにおいて、「終末期症例では,特殊な栄養療法は必ずしも必要では

ない」と述べられています。

しかし、「食べること」「栄養をとること」は人間本来の本質的・生理的な欲求で

ある。これらが損なわれると、患者の QOL や満足度は低下する場合があり、また

家族には最期までこの欲求を満たしたいというニードがあります。

したがって、栄養療法を行うかどうかの判断は、患者およびその家族との十分なコ

ミュニケーションや現実的な目標に基づいて、また患者自身の意思を尊重して決断

されるべきです。

【参考文献】

McClave SA, Martindale RG, Vanek VW, et al. (2009) Guidelines for the

Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult

Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American

Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.) J Parenter Enteral

Nutr 33:277-316.

森直治, 東口高志 (2013):終末期医療における栄養療法. コンセンサス癌治療.

12(1): 43-45.

スライド 15 :精神的、スピリチュアルな側面の変化

この時期の患者は、身体的な変化だけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな

側面において多くの変化があります。

クリティカルケア領域では、鎮静している場合が多いですが、意識がある患者にお

いて精神的、スピリチュアルな側面の変化を認識しておくことは、非常に大切な視

点になります。

具体的には、以下の4つが挙げられます。

死が近いことを認識する。

人は死が近いことを本能的な感覚によって自然に察知するとも言われており、

病状から自然に死を察知したり、家族などから間接的に知ります 。

死への不安や未知のものに対する恐れを感じることもあります。

人は未知や見慣れない、予測できない出来事に対して何らか恐れを感じる。

例えば、緩和することのない痛みに対する恐れなどです。

見捨てられることや一 人でいること、また無力感に対する恐れも感じます。

コントロール感や機能の喪失に苦悩する

死亡数日前より水分摂取や会話・応答の障害が急増します。

他者に依存しなければならないことに対する苦痛 が生じてきます。

より内観的になり、周囲への関心が薄れる時期でもあります。

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家族や友人、介護者など、身近な人であっても距離を置きたいという気持ちにな

ることがあります。

【参考文献】

Smith SA. ( 2006 ) 第 5 章 差し迫った死 . 高橋美賀子 監訳. ホスピス・コ

ンセプト. ( p.74 - 85). 東京: エルゼビア・ ジャパン.

河野友信 ( 1986 ) 死にゆく人の心理 . 平山正実, デーケン A 編. 身近な死の

経験に学ぶ. ( p.61 ). 東京: 春秋社.

スライド 16:精神的、スピリチュアルな側面に対するケア

精神的、スピリチュアルなニーズに対するケアに関しては、下記のような内容が挙げ

られます。

患者との関係を確立します。

・ 意識が有無に関わらず、患者に常に関心を向ける

・ 患者と共に時間を過ごし存在を提供する

・ 身体的接触を用いる

・ 沈黙を用いる

現実を受け入れることを援助します。

・ 症例によっては、現実への直面化を促す

・ 起こっていること・懸念を明確化するように促す

・ 具体的、現実的、正確な情報を提供する

・ 根拠の合理性を検討し、他の見方を促すことで極端な認知を修正する

・ 患者が対応できるであろうこと、今までにも対応できたことを保証する

・ 問題解決に役立つ対処様式をとるように促す

感情を受け入れることを援助します。

・ (特に否定的な)感情の表出を促進する

・ 感情を明確するように促す

・ その感情をもつことが一般的である(異常でない)ことを保証する

ソーシャルサポートを強化します。

・ 家族、友人、サポートグループなど、患者が必要としている関係を可能な限り

継続できるように配慮する

くつろげる環境や方法を提供します。

・ ベッドに臥床したままでも移送し、自然やペットと触れる機会を作る

・ 環境:美しいもの・香り・色に配慮する、好みのもの・なじみのものを飾る

・ 好みの音楽を聴いてもらう

・ 絵・写真など飾る

・ リラクゼーション:祈り、イメージ、瞑想、漸進的筋弛緩法、自律訓練法、呼

吸法、気分転換

積極的に身体・精神症状緩和を行います。

医療チームをコーディネートします。

・ 適切な宗教家や心理専門職へ紹介する

・ これらのケアを日常的なケアの中に反映させます。

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・ 何かケアを提供するというのではなく、患者・家族の話をじっくり聴いたり、そば

にいたりするだけで孤独感や死への恐怖が和らぐことがあります。

【引用文献】

森田達也, 井上聡,千原明. ( 2001 ) 終末期がん患者の霊的・実存的苦痛に対するケ

ア:系統的レビューにもとづく統合化.緩和医療学.3(4):444-456

スライド 17 :臨死期の治療抵抗性の苦痛

臨死期には治療抵抗性の苦痛を認めることがあります。

・治療抵抗性の苦痛とは、①すべての治療が無効である、あるいは②患者の希望と全

身状態から考えて、予測される生命予後までに有効で、かつ合併症の危険性と侵襲

を許容できる治療手段がないと考えられる場合の苦痛を指します。

具体的には鎮静を考慮するような治療抵抗性の苦痛とは、せん妄、呼吸困難、過剰な

気道分泌、痛み、嘔気・嘔吐、全身倦怠感、痙攣・ミオクローヌス、不安、抑うつ、

心理・実存 的苦痛(希望のなさ、生きる意味のなさ など)などが挙げられます。

【参考文献】

日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会 編 (2010 ) 苦痛緩和の ための

鎮静に関するガイドライン 2010 年版. (p.23-41) . 東京: 金原出版.

スライド 18 :治療抵抗性の苦痛への対応

治療抵抗性の苦痛が生じた場合、苦痛緩和のために、鎮静薬を使用することについ

て考慮する必要がある

深い持続的鎮静

・ 治療抵抗性の苦痛に対して、特に深い持続的な鎮静を行う際は、同時にコミ

ュニケーションをとることが難しくなることも患者・家族に十分伝えておく

必要がある。

・ 患者の聴覚は最期まで残っていることを十分に説明し、家族のつらさを傾聴

することが大切である。

十分な評価・治療を行わずに治療性抵抗性であると判断してはならない。

・ そのため、多職種チームで判断することが重要である。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2010)

【 ※ 補足スライド 40, 41参照 】

スライド 19 :死が近づいた時期の家族のニーズ

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終末期患者の配偶者の持つニーズとして、Hampe は下記の 8 つのニーズを抽出して

いる。

患者の状態を知りたい

・ 家族は、患者に少しでも良くなってほしい、長生きしてほしいという希望を

もっているため、現在の状況を知りたい、症状を改善する方法を知りたいと

いうニードがある 。

患者のそばにいたい

・ 時間の許す限り、患者のそばにいたいと思う。

患者の役に立ちたい

・ 患者のためにできることや患者にとって最善であると思うことを見出し、残

された時間の限り全力を尽くしたいと思う 。

感情を表出したい

・ 患者の死が近づきつつあると気付き、様々な感情を体験している。

・ 家族は現実に向き合い、自分自身を保つために、自分の感情を親身に聞いて

ほしいという気持ちをもつ。

医療スタッフから受容と支持と慰めを得たい

・ 病院という特殊な環境のなかで、また、終末期という不確かな状況のなかで、

常に緊張し続けている。

・ 医療スタッフに対して、自分たちの状況や苦悩を分かってほしいという気

持ちや、相談相手になってほしいと思う。

患者の安楽を保証してほしい

・ 患者の苦しむ姿をみるのはつらいと感じ、最期まで安楽であることを保証

してほしいと願う。

家族メンバーより慰めと支持を得たい

・ 患者の死が近づきつつあると感じた家族員は、相談し、互いに精神的に支えな

がら患者の残された時間を有意義に過ごせるように支えていくことを望む。

・ しかし、主介護者の役割を担っている家族の負担が大きく、身体的にも精

神的にも疲労してきた時、他の家族員に対して、世話を手伝ってほしい、

家庭内の役割を分担してほしいという気持ちを抱く。

死期が近づいたことを知りたい

・ 家族は、死別のための心の準備や死別にともなう準備(葬儀の準備や家の片

づけ、親戚への連絡など)のため、また、死に目にあいたいために、死期を

知りたいという気もちが表出されるようになる。

(Hampe SO, 1977)

【参考文献】

・Hampe SO 著, 中西睦子, 浅岡明子 訳 ( 1977 ) 病院における終末期患者および死亡

患者の配偶者のニード. 看護研究 10(5): 386-397.

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スライド 20 :死が近づいた時期の家族に対するケア

これまで述べたニーズや予期悲嘆の状態にある家族に対するケアとして、以下のこ

とが示唆されている。

患者の状況を理解できるように情報提供する

一回ではなく、何回か説明する。

医療用語を使わないようにする。

家族がケアに参加できるように配慮する

・ 家族は、患者のそばにいたい、役に立ちたいというニーズを持っている。

・ 家族が患者のケアに参加することは、患者に対してできるだけのことをし

た という満足感につながり、死別後の悲嘆のプロセスによい影響を及ぼ

す。

精神的苦痛を表出できるように支援する

・ 家族が感情を表出できるように支援する。家族が現実に向き合っていく過程

で、気持ちが萎えてしまったり、エネルギーが消耗してしまったりしないよ

うに、情緒的に支える。

・ また、気分転換を勧めたり、休息がとれるように配慮したりする。

充実した時間が持てるように配慮する

・ 患者と家族が充実した時間を持てるように、患者が寝ているベッドごと外に

行く機会を設定するなど、ともに過ごせる時間を確保する。

家族メンバーの力を合わせるように勧める

・ 個々の家族メンバーが互いに情緒的に支え合い、役割分担して協力して行え

るように働きかける。

・ その中で、対応が難しい問題について相談に応じ、活用できるリソースや問

題解決に役立つ対処方法を紹介する。

死に対する準備を勧める

・ 死別に対する心の準備や死別後に必要となる具体的な事柄の準備をしていく

ように勧める。

・ 死亡時に必要な衣類や、親戚や友人への連絡先のリストなど、死が近づいて

きた時期に準備してもらうよう説明する。

・ 予後予測は難しいが、家族が、準備ができていなくて心残りや罪責感を残さ

ないように必要な情報を提供していく。

・ 献体や臓器/組織提供の意思がある場合、手続きについて確認する。

(鈴木, 2003)

【参考文献】

・鈴木志津枝 ( 2003 ) 家族がたどる心理プロセスとニーズ. 家族看護 1(2):35-42.

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スライド 21 :講義内容一覧 <Ⅳ. 死が差し迫った時期 (時間単位) >

次に、「死が差し迫った時期 (時間単位)」に焦点を当て、説明していく。

スライド 22 :死が差し迫った時期の患者の身体的徴候と症状は?

皆さんが経験した死が差し迫った患者に見られた身体的徴候と症状とは、どんなも

のであったか振り返ってみましょう。

この時期の身体的徴候と症状に関する文献が少ないため、臨床の体験から情報

を共有する。

スライド 23 :よく見られる身体的徴候と症状

死が近づいていることのおよその予測として、死亡前 48時間以内に見られる徴候

を示す。これは、長期ケア施設で亡くなった患者のカルテを評価した結果である。

呼吸器困難、痛み、死前喘鳴が多く見られている。

しかしながら、病院のクリティカルケア領域の臨死期にある患者は人工呼吸器を装

着している状況もあるため、死前喘鳴という徴候に遭遇することは少ないかもしれ

ない。

死前喘鳴とは、患者の死期が近づいたとき、気道内分泌液が増加して下咽頭か

ら喉頭にかけて「ゴロゴロ」という喘鳴が呼気時に聞こえる状態を指す。

【参考文献】

・ Hall P, Schroder C, Weaver L (2002) The last 48 hours of life in long-term care: a

focused chart audit. Journal of the American Geriatrics Society 50(3):501-6.

スライド 24:身体症状に対するケア

呼吸困難を緩和させるために薬物または非薬物療法が行われるが、死が差し迫

った時期では原因治療は特に難しい。

呼吸困難による不安や苦痛を軽減するために、鎮痛・鎮静、または抗不安

薬の使用を検討する。また、実施中の場合はその適性を再評価する。

非薬物療法として、気道内分泌物および口腔内貯留物の効果的な吸引、酸

素投与、体位の工夫、傍に寄り添い声かけやタッチングなど安心感を提供

できるケアなどを行う。

これまでと同様に苦痛症状の緩和に対するケアを継続する

死前喘鳴に対するケア

患者は意識が低下しており、苦しくないこと、必要以上の吸引は苦痛をもたらす

ことを家族に説明し、理解を得る。

体位の工夫

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・ 舌根沈下があると喘鳴が強くなるため、側臥位や顔を横に向けるなどして音

の改善をはかる。

眼球乾燥に対するケア

開眼している状態のときは、閉眼への試みとともに、目の保湿のため点眼薬を使

用する。

【参考文献】

有田健一, 三戸晶子, 梶原俊毅 他. (2010). 過去 20年間における肺線維症・間質性肺炎

終末期の緩和医療に関する検討. 日本胸部臨床 69(4): 353-361.

桑名寿美 (2008) 呼吸困難感・喘鳴への対応. 濱口恵子, 小迫冨美恵, 千崎美登子, 他 編. 一

般病棟でできる!がん患者の看取りのケア. (p. 134). 東京: 日本看護協会出版会.

大谷木靖子 ( 2008 ) 予後が時間単位と予測される場合 ケアの留意事項. 濱 口恵子, 小

迫冨美恵, 千崎美登子, 他 編. 一般病棟でできる!がん患 者の看取りのケア. (p. 145). 東

京: 日本看護協会出版会.

スライド 25 :死が差し迫った時期の患者に対するケアの留意点

最期まで人格をもった ひとりの人として接する

意識レベルが低下して反応が乏しくても、‘人’として接する必要がある 。

安心できるような穏やかな声かけを行う

患者の苦痛が最小限になるように、必要なケアを精選し、それらのケアを継続して行う

患者自身が苦痛を正確に伝えることができない場合、表情や姿勢などからアセスメント

を行う

使用中の薬剤量の調整 (増量、減量、中止) や薬剤の変更を検討する

オピオイドの急激な減量・中止は避ける (退薬症状が出現するため)

意識が低下していても痛みの感覚は残っているため基本的に使用中のオピオイドは継

続する。

確実に投与でき、投薬に伴う苦痛が少ない方法を選択する

内服ができない場合は、直腸、経皮、皮下、静脈などから投与する。

頻回な静脈ラインの確保や坐薬挿入の姿勢をとることの苦痛に対して十分配慮する。

スライド 26 :死が差し迫った時期の家族に対するケア

家族の意向を尊重する

家族が、看取りが近いことを理解できているかを確認し、残された時間にやってお

きたいことや会っておきたい人などを確認し、それらを実現できるように支援する。

だれとどのように過ごしたいのかを確認する。

看取りの場面に立ち会いたい人、会わせたい人を確認する 。

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症状の変化や徴候に関して家族に説明する

今後起こりうる変化 について説明する。

死前喘鳴について説明する 。

看護師が気をつけて行っていることについて説明する。

家族ができることを伝える

手を握る、身体をさすることなど

そばにいるだけでよいことを伝える。

ケアへの参加を促す。

・ 「自分もやってあげることができた」と家族自身が思えることが大切である。

ただし、家族の負担を考慮するとともに、家族の食事や休息時間を確保できるよう

配慮する。

患者の聴覚は最期まで残っていることを説明し、話しかけるように伝える

「最期まで耳は聴こえるといわれていますので、声をかけてあげてください」と 伝

える。

看取り時は、お別れが近づいていることを告げ、「お別れの言葉をかけてください」

と伝える。

患者が好きな音楽をかけるなど

家族が適宜、休息がとれるように配慮する

面会時間・環境の調整をする

家族に待機してもらうのかを多職種で検討する

患者の身体状況、家族の住所、家族の疲労度などを総合的に多職種間で話し合い検討

した上で、家族に待機のご説明をする。

【参考文献】

Shinjo T, Morita T, Hirai K, et al. (2010 a) Care for Imminently Dying Cancer

Patients: Family Members' Experiences and Recommendations. Journal of

Clinical Oncology 28(1): 142-147.

スライド 27 :講義内容一覧 <Ⅴ. 臨死期にある患者の急変時の対応>

スライド 28 :蘇生行為中の家族の立ち会い

院外心停止患者の家族570人を対象に心肺蘇生に立会うことの影響を調査し、心理的

要因へ良い影響を与える(心的外傷後ストレス障害症状を抑える、不安やうつ症状

の軽減など)ことを報告した。

また、この研究ではサポートするスタッフを置き、立ち会いに対する家族の意思を

確認しその場を支える介入が、その心理的要因へ肯定的な結果をもたらしたと報告

し、家族の意思の確認と立ち会いを支えることの重要性を示唆している。

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家族の立ち会いを支える援助は、家族が立ち合い場面に入る前から始められる。

例えば、患者に起きている事柄(心肺蘇生のため裸である、皮膚の色の変化な

ど)、実施されている治療行為(薬剤投与、人工呼吸、気管内挿管など)を立ち

会い前に説明する。

(Jabre P et,2013)

家族がその場にいてナースや医師の蘇生努力を見ることには次のような利点がある。

・ 患者が死に向かいつつあることを理解できること

・ 可能なことがすべて行われていること知ること

・ 患者がまだ温かいうちに患者に触れ、まだ患者が聞き取れるうちに、伝えたいこ

とを話せること

・ これ以上の蘇生努力が無益であることを理解すること

・ 死の事実を受け入れること

(Martin J, 1991)

日本での家族側への調査では、立ち会うことが有益なのか有害なのかを示す結論は

得られなかったが、家族に対して立ち会うことを望むかどうかを確認し、蘇生現場

での立ち会いの機会を与えることについては、否定するものではないことが示唆さ

れている。

(山勢, 2006)

一方、「蘇生行為中の家族の立ち会いについての肯定意見には、文化などの影響の

可能性もある。」という意見や「心肺蘇生に立ち会うことが家族の不利益となる場

合もある。そのような経験は、目にすることで恐怖につながりトラウマとなる可能

性がある。」とも言われているため、立ち会いに対する家族の意思を確認すること、

その場を支えることが最も大切である。

(Colbert Adler, 2013)

(Osuagwu, 1991)

スライド 29 :患者の意思に沿うために

患者の意思を尊重する。

患者の意思が確認できる場合は、患者の意思を確認し、尊重する。

急変時に、患者の意思決定能力がない場合は、患者の意向に沿った治療が選択でき

るように、下記について家族に確認する。

アドバンス・ディレクティブ(事前指示)、リビング・ウィル

・ アドバンス・ディレクティブは、意思決定能力がなくなったときにどのような治

療を選択するかについて口頭か書面で示すことである。

・ リビング・ウィルは、アドバンス・ディレクティブを文書で残したものであり、

延命処置の拒否や苦痛をやわらげる治療の希望、植物状態となったときの延命維

持装置の中止など、自分が生きている間に、今後起こることに関して前もって示

しておく書面である。

代理意思決定者

・ 急変した時に、誰を代理人にしてほしいと患者が希望していたかを確認する。

DNAR (Do Not Attempt Resuscitation)

・ 患者本人または患者の利益にかかわる代理者の意思決定をうけて心肺蘇生法を行

わないことである。

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急変時に患者の意図しない対応がなされないように、事前に患者・家族と話し合い、

調整しておく必要がある。

予期しないイベントが突然起きたとき、もしくはアドバンスド・ケア・プランニ

ングが計画されていないとき、心肺蘇生は通常行われてしまう。

患者・家族が、急変時に起こり得る症状やその対応について十分な説明を受け、

患者が家族や医療スタッフと十分な話し合いを行ったうえで意思決定できるよう

に、事前に調整していく必要がある。

時期を見計らって、家族が不在な場合にどうするか、看取りたい人は誰かなど具

体的に話し合い、家族が納得して最期を迎えられるようにする。

【参考文献】

白浜雅司 (2004) アドバンス・ケア・プランニング. 池永昌之, 木澤義之 編. ギア・チ

ェンジ―緩和医療を学ぶ二十一会. (p. 80-85). 東京: 医学書院.

佐藤美紀 (2008) 急変時の家族への対応. 濱口恵子, 小迫冨美恵, 千崎美登子 他 編. 一

般病棟でできる!がん患者の看取りのケア. (p. 164-165). 東京: 日本看護協会出版会.

スライド 30 :講義内容一覧 <Ⅵ. 死亡時>

スライド 31 :看取り

家族の状況

家族は最期まで奇跡を願っていることが多く、取り乱すことや医師の言葉の意味

を理解できないことがある。

臨終を告げられることにより、現実と向き合い、喪失の悲しみを体感する。

⇒ 残された家族にとって、臨終を告げられることが喪失の痛みを癒していくプロセ

スの始まりとなる。

(阿部, 2008)

死亡診断:医師は、心拍停止、呼吸停止、瞳孔散大により死亡を確認し、臨終を

家族に伝える。

家族への対応

現実に起こっていることを落ち着いて伝える。

死が予想外に早かったり、臨終に立ち会いたい人が間に合わなかったりする場合

は、これまで心肺蘇生はしないと話し合っていても、蘇生処置を望む場合がある。

その場合、まず落ち着くことができるような関わりを行い、これまで話し合って

決めてきた内容を振り返り、患者にとっての蘇生処置の意味を一緒に考える。

医師と相談して、来るべき人が揃うまで死亡宣告を待つ。

死亡確認以外は、家族が患者の一番近くにいることができるように、機器類の位

置や医療スタッフの立ち位置に配慮する。

(佐藤, 2008)

患者と家族のこれまでの経過に敬意をはらい、ねぎらう 。

「○○さん、お疲れさまでした」 、「○○さんも、ご家族も、皆さんでよく頑張

られましたね」 など

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立ち会えなかった家族には、「ご家族のお気持ちは、○○さんに十分伝わってい

ると思います」など配慮した声かけも重要である。

スライド 32:看取り後の対応

文化への配慮

死に関する信念は、年齢、人種、宗教、スピリチュアリティ、性別、社会経済状

態、教育水準、伝統、しきたり、儀式,痛み、苦痛、死、死後の生活についての

考え方の影響を受ける。

(Lipson JG & Dibble SL, 2005)

看護師は、地域の主な文化や集団の文化的考え方、死に関するしきたり、儀式に

ついて一般的な理解をしておかなければならない。

事前に、死亡後の衣装や慣習、儀礼についての希望を確認しておき、可能な限り

希望に沿ったケアを提供する。

家族が患者と過ごす時間の確保

医療スタッフは席をはずし、家族だけで患者とお別れする時間を設ける。

家族が死の現実を認識し、落ち着いて、十分にお別れができるように配慮する。

複雑性悲嘆のリスクをアセスメントし、サポートに関する情報提供、相談ルート

の確認 などが必要であればタイミングをはかって働きかける。

家族に死後のケアへの参加意思を確認

ドレーンなどが抜去された時点で、家族にケアへの参加の意思を確認する。

無理に参加してもらう必要はない。

家族と共に患者をねぎらい、患者に畏敬の念を表しながらケアを行う。

家族や親類などへの連絡の支援

家族が落ち着いて、すぐに連絡するべき人は誰なのかを考えられるように手伝う。

病院を出るまでの予定や手続きなどを伝える。

例)霊安室に移るのか、死後のケアにどのくらいの時間がかかるのか など

移送の手配 を支援する。

臓器提供・献体の意思の再確認と関係機関への連絡

臓器提供・献体の意思を再確認し、その意思があれば、すみやかに関係機関に連

絡をとり、指示に従う。

関係する医療スタッフへの連絡

患者の療養に関わった方の患者への思いを踏まえ、コメディカル、これまでの療

養および治療過程で連携してきた施設や病棟のスタッフ、外来スタッフなどに連

絡する。

検死の場合、家族への丁寧な説明と配慮

普通の亡くなり方でない異常な状況下(他殺、自殺、事故死、災害死、突然死な

ど)で亡くなった人の死因などを調べることを検死という。

検死の必要性をご家族に十分説明する。あるいは医師の説明を分かりやすい言葉

で補足する。

検案前後、ご家族がお別れをする時間を可能な限り確保する。

スライド 33 :臓器 / 組織提供

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臓器提供は、「脳死後」あるいは「心臓が停止した死後」にできる。

臓器の移植に関する法律が 2009 年に改定され、2010 年に施行された。

改正された臓器の移植に関する法律の要点は

①親族への優先提供意思表示が可能

②本人の臓器提供に関する拒否の意思がない場合、家族の承諾で臓器移植が可能

→移植に関わる脳死判定を行うことができる場合

本人が;

A:書面により臓器提供の意思表示をし、かつ

B:脳死判定の拒否の意思表示をしていない場合

であって、家族が脳死判定を拒まないとき、または家族がいないとき

本人について;

A:臓器提供の意思が不明であり、かつ

B:脳死判定の拒否の意思表示をしていない場合

であって、家族が脳死判定を行うことを書面により承諾するとき

③上記の②により 15 歳未満の小児からの臓器提供が可能

④国及び地方公共団体は移植医療に対して普及・啓発を行うことを求めており、そ

の一環として、臓器を提供する意思の有無を運転免許証および保険者証に記載する

ことができるようもとめている。

【参考文献】

社団法人日本臓器移植ネットワーク HP:臓器移植に関する法律

http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/index.html[Accessed 05/01/2015]

社団法人日本臓器移植ネットワーク HP:臓器の移植に関する法律の一部を改正する

法律 http://www.jotnw.or.jp/jotnw/revision.html[Accessed 05/01/2015]

社団法人日本臓器移植ネットワーク HP:臓器の移植に関する法律施行規則の一部を

改正する省令(第八十号)http://www.jotnw.or.jp/jotnw/revision.html[Accessed

05/01/2015]

社団法人日本臓器移植ネットワーク HP:「臓器の移植に関する法律」の運用に関す

る指針 http://www.jotnw.or.jp/jotnw/revision.html[Accessed 05/01/2015]

スライド 34 :臓器提供が開始されるには

患者の書面による臓器提供の意思表示

家族からの希望

医療スタッフからの臓器提供への選択肢提示

によって対応が開始される。

臓器提供における選択肢提示は死後の事柄ではなく、通常医療に加えて、治療経過

中の対応であると認識する必要がある。

意思表示カード

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救急搬送された場合では、臓器提供に対する意思表示の確認を本人はおろか、

動揺している家族に対して確認することも困難なことがある。現在、意思表

示はカード以外にも運転免許証や保険証の裏面にも記載可能であり、確認が

必要である。

家族からの希望

家族からの希望を傾聴する際は、事務的な紙面上の確認ばかりでは不十分で

ある。家族の悲嘆ケアは十分に行われるべきであり、家族は倫理的葛藤の渦

中におかれているため家族の総意をまとめられるように支援していくことが

必要である。

選択肢提示

家族心理を軽視して選択肢提示が行われた場合は家族関係が悪化する可能性

がある。家族心理を把握し理解できるのは、主治医を含めた医療スタッフで

あるため、その機能を最大限に生かすためにも提供病院は継続性のあるシス

テム構築がもとめられる。

【参考文献】

社団法人日本臓器移植ネットワーク HP:厚生労働省法令等データベースシステム

http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/index.html[Accessed 05/01/2015]

小野元 (2011) 選択肢提示とは(脳死下、心停止下).日本臨床救急医学会移植医療

における救急医療のあり方に関する検討委員会 編. 臓器提供時の家族対応のあり方.

(p. 37-41). 東京: へるす出版.

スライド 35 :臓器提供がドナー家族の悲嘆に与える影響

臓器提供がドナー(臓器提供者)家族の悲嘆に与える影響について、臓器提供を行うこ

とで悲嘆が軽減することや、死別の心痛を軽減すると示されているものもあれば、逆に

臓器提供がストレスになる臓器提供者家族も存在する。

肯定的側面

愛他的行為

愛する人は亡くなってしまったが、その人から提供された臓器で病気に苦しむ人

が救われたことを肯定的にとらえている。

故人の意思尊重

家族にとって最後まで本人らしい生き方を支える行為であり、その選択を本人も

喜んでくれるだろうと評価する。

生命の永続

故人の臓器を提供し、移植臓器を受け取った側の人の中で活かし続けることで、

故人とのつながりを維持し喪失の悲しみに対処する行為となる。

移植臓器を受け取った人からの感謝

移植臓器を受け取った人からサンクスレターを送られることで、臓器提供者家族

は「愛他的行為」「故人の意思尊重」「生命の永続」の 3 つの肯定的意味づけが

現実的なかたちになったことを確認することができる。

(中西、2010)

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臓器提供における否定的側面

故人の遺体を傷つけること

臓器提供を拒否した家族の主な理由は遺体を傷つけたくないという思いであり、

これは臓器提供をおこなった家族にとっても、意思決定の際に最も葛藤する部分

である。

家族、親族内の葛藤

特定の家族だけで臓器提供を決定してしまうと、のちに親戚を含む拡大家族から

否定的な意見が出され、トラブルに発展する恐れがある。

臓器提供の依頼、選択肢提示によるストレス

臓器提供に否定的な考えをもつ家族にとって、予想していなかった申し出であり、

悲しみの中にある家族に対して配慮に欠けるものとして受け取られる可能性があ

る。

手続きに関する問題

手続きが早く進みすぎてしまったことで、十分に面会して別れを告げる機会が失

われたことや最期をゆっくり看取ることができなかったなどがあげられる。

サンクスレターや報告に対する不満

移植臓器を受け取った人からサンクスレターが送られないことで臓器提供を後悔

する家族も存在する。

周囲の反応

マスメディアを含む周囲の反応が臓器提供者家族にとってストレスになることも

示されている。

生命の永続

臓器提供によって故人を活かし続けることが、ドナー家族にとってマイナスにも

影響することがある。遺族が取り組むべきグリーフワークの中に「喪失の現実を

受け入れること」があるが、臓器提供=故人の生命の永続という認識の強い家族

にとって極めて困難な課題となってしまう。

(中西、2010)

【参考文献】

中西健二(2010)ドナー家族の死別悲嘆とその影響要因に関する文献研究.人間福

祉学研究.3(1): 7-18

Riley & Coolican (1999) Linda Phillips Riley & Margaret Beatty Coolican, Needs of Families of Organ Donors: Facing Death and Life Critical Care Nurse

19(2):53-59.

白井太一 (2006) 脳死臓器提供におけるドナー家族の悲嘆心理と看護介入に関する研

究.北海道医療大学看護福祉学部学会誌 2(1): 81− 86.

スライド 36 :ドナー家族への支援

家族が精神的危機状態に陥らないためのケア

家族を気にかける

家族と患者への気持ちを共有することは家族の精神的ケアになる。

家族の認識を語る場を設ける

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家族が誰かに話をすることで家族自身が客観的に問題を見つめる機会とな

る。

問題の対処法について話し合う

直面する問題に対し、どのような対処法で対応しようとしているのか、家

族に語ってもらうことで、家族自身がもつ対処能力を理解することができ

る。

外的資源を利用した対処法

地域のコミュニティー、職場、福祉機関などの利用できる資源を紹介する。

看護師に話をすることも外的資源の一つであることを伝える。

患者へのタッチングを行えるよう配慮する

家族は何もできないという無力感に捉われがちである。患者の手を擦った

り、顔を清拭したりするなどのケアは家族が患者の現状を認識する一助と

なる。

病状説明を密に行う

家族の大きなニーズの一つに患者の状態や行われている治療や処置につい

て知りたいというものがある。

臓器提供に対する家族の合意が得られるよう支援する

家族の気持ちを拝聴する場を設ける

家族の総意を支援するにあたって、家族ごとに意思決定者が異なることを

念頭に置いておく。意思決定者の意向が本当に家族の総意であるのか、相

反する意見がないのかなども同時に観察しておく。

必要な情報を適切な時に提供する

医師の話を理解できたか、看護師の伝えられる範疇で丁寧に説明する。ケ

アの内容を伝えることは家族にとっても患者がどのような入院生活を送っ

ているかを知る大切な情報である。

意思決定の判断を支援する

看護師は家族の支援者であることを伝える。また、看護師はアドボケータ

ーであるが、中立として存在する。

家族の安寧を保証する

日中の待機場所の確保

家族内で落ち着いて話し合いができるような場所を確保する。

夜間の家族の休息場所の確保

院内に家族用の宿泊場所がある場合は使用を促す。もしくは静かに安全に

横になれるようなスペースを確保する。

家族の日常生活を整える場所を作る

今まで通りの身支度ができるように状況を整え支援する。通常の身支度が

できない場合は精神的危機状態を表しているため早急の対応が必要である。

患者へのタッチングやケアの参加を促す

家族が患者に対して何かできたという実感をもつことができる。家族は重

症患者に触れてはいけないと思っていることが多いため、看護師からその

機会を提供することが必要。

臓器提供時は移植用の臓器保護を行うため、最低限の昇圧剤の使用や輸液、カニュ

レーションなどの侵襲的な処置を行うこともあるため、家族には十分に配慮をして

説明する必要がある。

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【参考文献】

藤野智子(2011)家族の心理と標準的対応.日本臨床救急医学会移植医療における

救急医療のあり方に関する検討委員会 編. 臓器提供時の家族対応のあり方. (p. 59-63).

東京: へるす出版.

藤野智子(2011)臓器提供家族への看護師の役割.日本臨床救急医学会移植医療に

おける救急医療のあり方に関する検討委員会 編. 臓器提供時の家族対応のあり方. (p.

70-75). 東京: へるす出版.

スライド 37 :講義内容一覧 <Ⅵ. 結論>

スライド 38 : 結論

臨死期にある患者・家族の身体的、精神的、社会的、スピリチュアルなニーズを把

握し、全人的ケアを行う

患者、家族が望む形で安楽と平穏、尊厳を保って過ごせるように配慮する

臨死期にある患者、家族のケアは、多職種と連携して取り組む

スライド 39 :補足スライド

これ以降のスライドは、必要に応じて使用してください。

スライド 40:深い持続的鎮静の治療とケアの実際・1

深い持続的鎮静の治療とケアの実際について、「苦痛緩和のための鎮静に関するガイド

ライン 2010 年版」では下記のように示されている。

1. 医学的適応の検討

1) 「耐えがたい苦痛」として考えられること

せん妄、呼吸困難、過剰な気道分泌、痛み、 嘔気、 嘔吐、 全身倦怠感、 痙攣、

ミオクローヌス、不安、抑うつ、心理・実存的苦痛 など

2) 治療抵抗性の評価

苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン 2010 年版「治療抵抗性判断のため

のチェックリスト」を参考にする 。

3) 全身状態・生命予後の評価

通常、深い持続的鎮静の対象となる患者の生命予後は、数日以下である。

2. 患者・家族の希望の確認

1) 意思決定能力の評価

2) 患者と家族の意思が一致することが望ましい 。

患者の意思決定能力を評価

自分の意思を伝えることができる。

関連する情報を理解できる。

鎮静によって生じる影響の意味を認識できる。

患者の意思を確認

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患者の明確な意思

患者の明確な意思がない場合には以前に患者が表明していた意思

患者の意思が不明な場合は家族の意思

家族と共に話し合う

患者あるいは家族の意思を照らし合わせて家族と共に検討し、家族内で意思が一

致するように話し合いをもつ。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2010)

スライド 41 :深い持続的鎮静の治療とケアの実際・2

3. 鎮静の開始

1) 鎮静方法

持続的鎮静:中止する時期をあらかじめ定めずに、意識の低下を継続して維

持する鎮静

間欠的鎮静 :一定期間意識の低下をもたらした後に薬物を中止・減量して、

意識の低下しない時間を確保する鎮静

2) 鎮静水準

浅い鎮静:言語的・非言語的コミュニケーションができる程度の軽度の意識

低下をもたらす鎮静

深い鎮静 :言語的・非言語的コミュニケーションができないような深い意識

低下をもたらす鎮静

第1 選択薬は、ミダゾラムとする 。

3) 鎮静方法の決定

苦痛を緩和できる範囲で、意識水準や身体機能に与える影響が最も少ない方

法を優先する。

間欠的鎮静や浅い鎮静を優先し、それらによって効果が得られない場合に、

患者と家族と相談し持続的深い鎮静を検討する。

開始後は、病態が改善したかどうかを定期的に評価し、鎮静継続の必要性を

検討する。

4. 鎮静開始後の患者・家族へのケア

1) 鎮静開始後の評価

評価項目:苦痛の程度、意識水準、鎮静による有害事象、鎮静以外の方法で

苦痛が緩和される可能性、病態、家族の希望の変化

評価回数:目標とする鎮静が達成されていない状態では20 分に1 回以上、目

標とする鎮静が達成されている状態では、1 日に3 回以上とする。

2) 患者の尊厳に配慮したケアの継続

鎮静開始前と同じように、声かけや環境整備などを行う。

3) 家族へのケア

家族の心配や不安を傾聴し、悲嘆や身体的・精神的負担に対する支援を行う

特に、家族が患者のためにできることをともに考える 。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2010)

スライド 42:死が近づいた時期の患者に対するケアの留意点

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安楽の保持

患者が好む体位の工夫

・ 患者は痛みや呼吸困難により自分が好む姿勢をとりやすい。

・ 患者の好む体位をもとに、患者の快適性を考慮し、苦痛にならない範囲での体位変換

を行う。

・ 褥瘡対策チームと連携しながら、除圧・減圧のための体圧分散用具の使用を検討する。

・ 骨突出部やその周囲の皮膚の観察を行いケアしていくとともに、失禁管理も重要とな

る。

清潔ケア

・ 発汗による皮膚の湿潤や、反対に脱水による皮膚の乾燥により皮膚の生理的な防御機

能が低下し、褥瘡が起こりやすくなる。

・ 患者にとって苦痛の少ない体位を考え、患者の疲労を最小限にするために 2 名以上の

看護師で実施するように調整する。

・ 患者の状況に合わせ、部分清拭を行う。

定期的な口腔ケア

・ 食事摂取量の低下に伴い、唾液腺の分泌量も減少し、口腔内が乾燥しやすく、 口腔

内の自浄作用も低下する。

・ 定期的な口腔ケアを行い、保湿剤などを塗布し、口腔内の乾燥を防ぐことが大切であ

る。

・ 輸液療法に関するガイドラインでは、予後 1~2 週間以下の終末期患者の口渇の改善に

口腔ケアを行うことが推奨されている。

(日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会, 2013b)

気分転換、リラクセーション、マッサージ など

・ 離床することが少なくなることによる苦痛を最小限にするために、マッサージ、 体

位変換、気分転換などのケアも効果がある。

処置・ケアの見直し

患者の苦痛を最小限におさえ、安楽に過ごせるように、実施している処置やケアを再

評価する。

この時期の治療やケアの中止や変更は、患者や家族が見放されたと思うことがあるの

で、患者の負担や安楽を考えていること、このことによって死期が早まることはない

ことをきちんと説明する。

・ 検査 : 血糖、血液、尿など

・ 測定 : バイタルサインの測定、体重、モニター類

・ カテーテル類 : 検査や点滴類、カテーテル類、モニターなどの不必要な処置が

ないか

・ 褥瘡ケア、清潔ケア、 体位変換などのケア回数

日常生活の援助

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患者の生活習慣や意向に沿い、患者の尊厳を守る。

患者が 1 人ではできなくなった清潔ケア、身の回りの整理・整頓、排泄介助など の

援助については、患者の喪失感や負担感が軽減するように配慮して行う。

安全の確保

転倒のリスク

・ 全身の衰弱により筋力が低下、薬剤の影響によるふらつき、浮腫による下肢の感覚

異常などが原因で転倒のリスクが高くなる。

・ 安全面にも配慮した環境を整える。

誤嚥のリスク

・ 誤嚥のリスクも高くなることから、食事の形態や姿勢等に十分配慮する。

・ 家族にも誤嚥のリスクを説明し、安全な方法で介助できるように支援する。

静脈ルートなどの事故抜去のリスク

・ 計画外抜去を予防するため、意識レベルの査定に加え、環境面も配慮する。

【参考文献】

豊田邦江 ( 2008 ) 症状が悪化している患者への対応. 濱口恵子, 小迫冨美恵, 千崎美

登子, 他 編. 一般病棟でできる!がん患者の看取りのケア. ( p. 96-97 ) . 東京: 日本看

護協会出版会.

スライド 43 :死後の(エンゼルケア)・1

家族が最期のお別れをしてから、死後硬直が始まる前に行う 。

家族が患者と十分にお別れのときを過ごすことができるように配慮する。

その際、ケアを開始する時間を告げて、退室する 。

死後硬直は、死後 2~3 時間で起こる。

排泄物による汚染を予防し、外観を整える 。

創がある場合は医師に連絡して縫合してもらう。 (佐藤, 2003)

人工肛門や回腸導管などの処置は医師に従う。

ドレーン類はすべて抜去し、ガーゼなどで圧迫固定をする。 (佐藤, 2003)

チューブ類や医療機器は死亡確認後に取り外す。

完全に取り外せないものは、途中からはずし、目立たないように配慮する。

ペースメーカーを外す必要性について家族に説明する。

温湯を使用して全身清拭を行う(湯灌)。

希望に応じて、髭そり、顔剃り、整髪、結髪、化粧を施す。 (佐藤, 2003)

義歯を使用していた患者は義歯を装着する。 (佐藤, 2003)

口が閉じない場合は、枕を高くし、下顎を押し上げるようにする。(佐藤, 2003)

両手を前胸部で合わせる。

(合掌の) 手が離れてしまう場合は、両手首を包帯等で固定する。 (佐藤, 2003)

鼻腔や口腔、肛門に綿を詰めることの意義については、見解が分かれている 。

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患者らしさを表現できるような衣類 の着替えを行う。

亡くなった患者が生前に好んで着ていた衣服や、家族が着せたい衣類を身につけられる

ようにする。

死後の儀礼

死と生は反対の世界と考えられ、平常の所作と逆の行為をすることで此の世と彼の世を

区別する意味がある。

着物 (死に装束) は左前合わせ

着物の帯紐は縦に結ぶ

手を組む

合掌:両方の手のひらを顔や胸の前で合わせて拝むことで、人間の最も敬虔な姿を象徴

しており、懺悔や感謝の気持ちを込めて祈る行為である。(佐藤, 2003)

末期の水 (死水をとらせる)

新しい小筆や大きめの綿棒、割り箸の先にガーゼや脱脂綿を巻きつけたものを白い糸で

縛り、小皿や湯呑み茶碗に用意した水に浸し、軽く死者の口唇を潤す方法が一般的

である。

死にゆく患者との血縁の濃い順、あるいは関係が深い順に 1 人ずつ死者の口唇を水で濡

らし最期のお別れをする儀式のひとつである。(佐藤, 2003)

湯灌は逆さ水とする:

水に湯を足す。

スライド 44:死後の(エンゼルケア)・2

死化粧

皮膚の乾燥を予防し、その人らしい表情や髪形に整える。(小林, 2011)

家族への声かけ

頑張ってきたことを伝える。

家族の状況を考慮しながら「ご一緒にケアをしませんか」などと声をかけ、家族の

希望に応じてケアを一緒に行う。など

ご遺体の変化を予防する

冷却は、ご遺体の腐敗の原因になる細菌群の発育を抑える。腐敗による変化は不可逆

であり、腹腔内圧、胸腔内圧の上昇による体液の漏出も生じる。腐敗を遅らせるため

に、死後 4 時間以内に、下腹部、上腹部、胸部を冷却する。腐敗の進行が激しいと予

想される場合は、前側頸部、鼠径部、腋窩部も冷却する。(伊藤, 2009)

スライド 45:死後の(エンゼルケア)に対する家族の希望

死後のケアに対する家族の希望

スライドに、がん患者の遺族435 名を対象とした質問紙調査の結果を示した。

対象者の遺族の42.7%が死後のケア(エンゼルケア)に対して「改善が必要」と回答

した。

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遺族が考える死亡後の身体の問題

顔:浮腫 (6.0%)、綿詰め (2.4%)、不自然な化粧 (1.8%)

身体:血液や排泄物の汚れ (1.8%)、悪臭 (0.9%)

遺族の50%以上が好ましくないと考えるケア

手を組むための固定

口を閉じるための固定

身体を白い布で覆う

好ましいと考えるケア

適度な化粧

生前の面影に近づける

(Shinjo T et al., 2010b)

スライド 46 :看護師が家族と一緒に行う死後のケア(エンゼルケア)

スライドには、がん患者の遺族598 名を対象に、遺体へのケアを看護師が家族と一

緒に行うことについての家族の体験や気持ちについて質問紙調査を行った結果を示

した。

対象者の遺族の40%(219 名)が実際に看護師と一緒に遺体へのケアを行っていた。

遺体へのケアの内容

穏やかな表情にしてくれた

亡くなった後でも生前と同じような配慮や扱いをしてくれた

目や口を閉じるようにしてくれた

家族の意向(服装、帽子、めがね、入れ歯、髪型など)を聞いて取り入れてくれ

たなど

遺族の体験や気持ち

体をきれいにすることができてうれしかった

お化粧をして、穏やかな表情にしてあげられて良かった

家族だからご遺体へのケアをしてあげたい

ご遺体のケアを一緒にすることでねぎらいの気持ちを持った

故人への感謝の気持ちを持つことができた など

看護師が死後のケア(エンゼルケア)を家族と一緒に行う目的や方法を説明したう

えで、家族の意向を確認し、家族とともに死後のケア(エンゼルケア)を行うこと

は家族にとっての良い思い出ともなりうることが示唆されている。

(山脇, 2013)

スライド 47 :臨死期のケアプログラム

臨死期のケアプログラムとして、英国で作成されたリバプール・ケア・パスウェイ

(LCP) がある。

(Ellershaw J & Wilkinson S, 2003)

LCP 日本語版 (病院バージョン) が作成され、試用・評価が進められている。

(茅根 , 2007)

LCP の目標は、患者が看取り時期にあることを判断し、患者・家族が、安楽に、安

心して、臨死期を過ごせるために必要なケアが確実に受けられることである。

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看取り前後の時期に、医療スタッフが必要なケアが見落としなく提供できるように、

確認しておくべき事項をチェックリスト形式で確認する。

(LCP 日本語版 HP)

【参考文献】

・ 二宮朋子(2007) LCP ―看取りに関するクリティカルパス. 緩和医療学 9(3): 224.

スライド 48: リバプール・ケア・パスウェイ(LCP)

リバプール・ケア・パスウェイ(LCP)

LCP の使用基準は、多職種チームが予後数日と判断し、かつ下記の項目のうち 2 項

目以上があてはまる場合となっている。

・患者が寝たきりの状態である

・半昏睡/意識低下が認められる

・ごく少量の水分しか口にできない

・錠剤の内服が困難である

(茅根 , 2007)

スライド 49 :臨終期の法的手続き

臨終時には、下記の法的手続きが必要となるため、家族に行政の届出について説明する

必要がある

死亡届 (死亡診断書・死亡検案書)

期限:7 日以内

提出:市区町村役場 → 埋火葬許可証の発行

年金受給停止手続き

期限:10 日以内

提出:市区町村役場または社会保険事務局

国民健康保険資格喪失届

期限:14 日以内

提出:市区町村役場

介護保険の資格喪失届

期限:14 日以内

提出:市区町村役場

世帯主の変更届:14 日以内 など

期限:14 日以内

提出:市区町村役場

スライド 50 :法的脳死判定の際の標準的手順

法的脳死判定の際の標準的手順

1、虐待の有無の判断

・脳死下臓器提供、あるいは心臓死後臓器提供に関わらず、虐待が疑われた児童(18

歳未満)からの臓器提供は行われない。そのため、脳死下臓器提供の手順の最初に

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虐待の有無を確認する必要がある。

2、脳死とされうる状態と判断されたとき

・下記の脳死とされうる状態の臨床兆候を認めたときは次の手続きに進む

法に規定する脳死判定を行ったとしたならば、脳死とされうる状態

→器質的障害により深昏睡及び自発呼吸を消失した状態と認められ、かつ、器質的能障

害の原疾患が確実に診断されていて、原疾患に対して行いうるすべての適切な治療を行

った場合であっても回復の可能性が認められる者に該当すると認められる者

(「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針)

3、家族へのオプション提示

・家族らの脳死についての理解の状況などを踏まえ、臓器提供の機会があること(オ

プション提示)、及び承諾に関わる手続きに際して、日本臓器移植ネットワークコー

ディネータによる説明があることを口頭、または書面により告げる。併せて臓器提供

に関して、本人が何らかの意思表示を行っていたかについて把握するように努める。

・説明の承諾があった場合は日本臓器移植ネットワークに連絡する

4、コーディネーターの家族への説明

・コーディネーターから臓器移植に関する説明を家族に行う。臓器提供及び脳死判定

を拒否する意思がないことを確認し、承諾が得られた場合は法的脳死判定へと進む。

【参考文献】

社団法人日本臓器移植ネットワーク HP:「臓器の移植に関する法律」の運用に関す

る指針 http://www.jotnw.or.jp/jotnw/revision.html[Accessed 05/01/2015]

横田裕行(2011)法的脳死判定から臓器提供への標準的手順.日本臨床救急医学会

移植医療における救急医療のあり方に関する検討委員会 編. 臓器提供時の家族対応の

あり方. (p. 11-14). 東京: へるす出版.

スライド 51 :臓器移植における国内の現状

2010 年(平成 22 年)改正法施行後、脳死下臓器提供の件数は増加しているが脳死

下/心停止後の臓器移植者総数としては大きな増加はみられていない。

日本人の文化的背景には遺体を尊重し大切にする文化があり、欧米諸国とくらべ

て臓器移植の件数が上昇しないのは日本人の持つ文化背景が影響していることが

考えられる。

【参考文献】

社団法人日本臓器移植ネットワーク HP:厚生労働省法令等データベースシステム

http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/index.html[Accessed 05/01/2015]

厚生労働省 HP:臓器移植の現状

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000047621.html[Accessed

20/01/2015]