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シェールガス革命が日本の石油化学産業に及ぼす変革 · 図4...
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1/8 Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含
まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については
一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
作成日: 2014/4/3
調査部: 伊原 賢
公開可
シェールガス革命が日本の石油化学産業に及ぼす変革
(JOGMEC調査部、日刊工業新聞社ほか)
米国産シェールガスからの化学製品がもたらす価格破壊に対して、日本の石油化学産業は生き残
れるかについて考察する。
1. はじめに
21 世紀に入って、脚光を浴びるようになったシェールガスによる天然ガスの大供給余力を背景に、
天然ガスの利用技術の普及が望まれている。水平坑井(こうせい)や水圧破砕といった技術の進歩に
より、シェールガスに代表される膨大な量の非在来型の天然ガスを取り出せることが明らかとなり、世界
の天然ガスの可採年数は 60年から、少なくとも 160年を超えるのは確実になった。天然ガスの供給余
力が高まると、その利用も熱を帯びてくる。
米国では21世紀に入ると原油生産量が減少し輸入量が増加し始め、ピークオイル論が取り沙汰され
た。そこにシェールガスの採掘が始まり、天然ガスを今までよりも安価で大量に得ることが出来るように
なり、米国のあらゆる産業に活気を呼び戻すシェールガス革命が現れた。米国の石油化学産業はシェ
ールガスに含有されるエタンやプロパンから、エチレン、プロピレン、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレ
ン)留分といった石油化学の基礎製品を造り始めた(図 1)。海外に生産をシフトしていたアンモニアや
メタノールの製造プラントの北米回帰が始まった。
米国におけるエチレンの製造コストは、エタンの原料コストが全体の 5~6割を占めているため、シェ
ールガス増産による天然ガス由来のエタンの原料価格は、原油由来のナフサのそれよりも大幅に安く
なり、大幅なコストダウンにつながり、米国石油化学の国際競争力の向上が期待されている。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含
まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については
一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図1 石油化学製品の製造
2. 石油化学原料としてのシェールガス革命
2-1. シェールガスの特性
シェールガスの主成分はメタンであり、エタン・プロパン・ブタンなどの天然ガス液(NGL)も含まれて
いる(図2)。天然ガスの処理プラントでは、硫黄分や重金属が除去された後、深冷分離(気体の混合物
を液体窒素や液体ヘリウムなどによって冷却して液化し、沸点の違いによってそれぞれの気体に分離
すること)によりエタン、プロパン、ブタンに分離される。分離されたガスの純度は 90%以上となる。エタ
ンは専用のパイプラインで石油化学プラントに送られる。プロパンは液化石油ガス(LPG)として消費地
に送られる。ブタンも液化状態で石油精製プラントに送られる。
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図2 米国における天然ガス産出成分と呼称
メタンはほとんど燃料として用いられるが、一部は水蒸気と反応させ、合成ガス(一酸化炭素、水素)
としてから、メタノールが合成される。メタノールからはエチレンやプロピレンを合成できる。水素はアン
モニア合成に利用される。
NGLに含有されるエタンは、ほぼエチレンの製造に使われる。プロパンは一部エタンに混合して(エ
タン:プロパン=8:2)、クラッカーの原料にも用いられるが、大半は LPGとして燃料に使う。ブタンは大
部分をガソリンに混合して燃料として使用する(図3)。
図3 シェールガス由来の化学品原料(着色部)
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2-2. エチレンプラントの工程
エチレンプラントは、熱分解工程(ホットセクション)と分離精製工程(コールドセクション)よりなる(図
4)。熱分解工程では、原料炭化水素と水蒸気の混合物を加熱炉内の反応管に導入し、バーナーによ
って管の外側から加熱する。分解反応は「無触媒ラジカル反応」であり、反応温度は750~900 ℃、反
応時間は0.1~1 秒程度である。
図4 エチレンプラントの工程
ナフサや天然ガスのC2+の炭化水素を熱的に分解すると結合は遊離基(ラジカル)的に切断され、
以後の反応はラジカル反応として進行する。熱分解反応が高温で実施されるのは、エチレンやプロピ
レンなどの有用な低級オレフィンの精製に化学平衡上有利な反応条件となるためである。ナフサなど
の高温熱分解反応ではエチレンの生成が主となり、その他、プロピレンなどの低分子量オレフィン、低
分子量パラフィンが生成される。これは、直鎖状パラフィンの熱分解で生成する炭素ラジカルのβ切断
が高温下で早く起こるためである(図5)。
ナフサ
天然ガス C2+
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図5 エチレンの生成
触媒を用いると、エチレンよりもプロピレンが多くでき、また、異性化による枝分かれ構造のオレフィン
が出来てしまい、石油化学基礎製品としては好ましくないものとなる。したがって、ナフサや天然ガス
のエタンなどを高温で熱分解し、できるだけ直鎖のオレフィンを収率良く生産する方法が採られる。反
応生成物は熱交換器によって急冷され、分離精製工程に導かれる。
分離精製工程では主として蒸留によって反応生成物を分離する。エチレンの蒸留精製においては、
水素、メタン、エチレン、エタンなどの混合物を液体にするために高圧・低温の運転条件となる。蒸留
以外には、各種不純物除去、アセチレンなどのアルキン(CnH2n-2)をアルケン(CnH2n)に転換するため
の水素添加、ブタジエンを精製するための溶媒抽出などの処理がなされる。代表的な方法として、スト
ーンアンドウエブスター(Stone&Webster)法やルーマス(Lummus)法がある。
なお、GTL(天然ガスからの液体燃料化)プラントからは、硫黄分や芳香族を含まない直鎖状のナフ
サが取れるため、エチレンプラントの良質な原料として期待される。
2-3. シェールガス革命の影響
北米のシェールガス価格は4 ドル/100万Btu (100万Btu = 25.2万kcal)程度と安価に推移しており、
天然ガスを原料としたエチレンやプロピレンといった化学製品の製造プラントの建設計画が進んでい
る。アジアや欧州は、原油を原料として用いて、石油精製工業において精製されるナフサ、もしくは輸
入ナフサを石油化学工業の原料としている。
石油化学原料の選択には、今後の天然ガス価格と原油価格との比が大事だ。両者のエネルギー換
算比は2000年前後では1近傍であったが、2011年には7倍まで開き、米国エネルギー情報局(EIA)に
よれば、2020年~2040年には4前後での推移が予想されている。従って、シェールガス増産による天
然ガス由来のエタンの原料価格は原油由来のナフサの原料価格よりも大幅に安値となり、エチレン製
造の大幅なコストダウンにつながり、米国石油化学の国際競争力の向上にもつながると期待されてい
る。
石油メジャーのシェルは東部のマーシェラスシェールガス田のエタンを利用するエチレンプラントの
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新設を発表し、ダウ・ケミカルもメキシコ湾岸でエチレンプラント新設を発表している。表1、表2に北米
における新規増設の天然ガス液(NGL)分留プラント計画と新規増設エタンクラッカー計画を示す。
NGL からエタンを回収するプラント、そのエタンからエタンクラッカーでエチレン・プロピレンを生産す
るプラントの建設計画が多数あることがわかる。
表1 米国の新規増設NGL分留プラントの計画 出所:各種報道より作成
表2 北米の新規増設エタンクラッカー計画 出所:各種報道より作成
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計画に連なる企業は大手であり、8割程度の実現が予想される。エタンクラッカー増設によりエチレン
の生産は増加する見込みである。一方、原料の軽質化によって、エタンクラッカーからのプロピレン生
産は減少が予想されている。また、FCC(Fluid Catalytic Cracker:流動接触分解装置)からもプロピレン
が生産されるので、製油所からのプロピレン生産は現状維持と仮定しているが、製油所の稼働が落ち
るとプロピレン生産はさらに減少することになる。
2-4. 日本の石油化学産業に与えるダメージ
日本の石油化学産業は原油を蒸留して得られるナフサをクラッキングして得られるエチレンを原料と
している。日本のエチレンの生産能力は2012年末で720万トンであったが、2012年の生産量は614万ト
ンだった。内需は年500万トン程度で、過去20年はほぼ横ばいである。
日本のエチレン誘導体の輸出をエチレン換算で見ると、年200万~240万トンで推移していたが、ここ
数年は減少に転じている(2012年 190万トン)。輸入量は年40万トンレベルで推移してきたが、2012年
には年70万トンに達したのだ。
米国のエチレン価格はシェールガス革命前に1000ドル/トンだったものが、シェールガス革命後は
350ドル/トンまで下がった。アジアのナフサベースのエチレン価格1750ドル/トンのなんと5分の1であ
る。高密度ポリエチレンはアジアの2100ドル/トンに対して505ドル/トン、エチレングリコールはアジア
の1400ドル/トンに対して350ドル/トンと共に4分の1になった。
これだけの開きがあると、米国で生産され日本に輸出される価格と、日本でナフサから生産される価
格では勝負にならない。現状、米国のエタンクラッカーの能力は2000万トン/年で、中南米に一部輸出
されているが、表2のようにエタンクラッカーが新規増設されると、輸出余力が増し、欧州及びアジアに
流入してくることとなる。米国ではプロパンの脱水素によりプロピレンが、ブタンの酸化脱水素によりブ
タジエンがナフサ由来よりも安価で製造できるのだ。
米国から安価なエチレン誘導体がアジアに流入してくると、日本からの輸出が最初に影響を受けるこ
とになる。日本のエチレン生産体制は年700万トンから年500万トンレベルに縮小を余儀なくされよう。
エチレン年200万トンの削減は、日本のエチレンプラント15基の3基を止めるだけでは追いつかないの
だ。エチレン誘導体が日本に輸出されると、国内生産のエチレン誘導体は競合が困難となろう。特に
ポリエチレン、塩化ビニルなどエチレンを原料とした誘導体の生産が困難になろう。結果、エチレンセ
ンターの維持が難しくなり、副生されるプロピレン、ブタジエン、ベンゼンなどが生産されなくなり、それ
らの慢性的な不足が予想される。日本のナフサクラッカーの経済性は著しく低下し、休止を余儀なくさ
れよう。
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かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については
一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
3. まとめ
日本の石油化学産業は1974年、1979年と二度のオイルショックを経験したが、為替変動や国内外の
高度成長に助けられ、この半世紀は順調に発展した。しかし、21世紀に入り世界の石油化学産業は大
きな変革期を迎えている。
中東の産油国は原油生産に伴う天然ガス(随伴ガス)を用いて自国で大規模なエタンクラッカーとポ
リエチレンなどのエチレン誘導体の製造を開始した。中東で採掘される安価な随伴ガスから製造され
るエチレン誘導体は、欧州やアジアへの輸出を目指す。中国は中東原油の最大輸入国になりつつあ
るが、輸入原油の依存度を下げるために、独自に石炭を原料とした化学産業を展開中だ。
米国では21世紀に入ると原油生産量が減少し輸入量が増加し始め、ピークオイル論が取り沙汰され
た。そこにシェールガスの採掘が始まり、天然ガスを今までよりも安価で大量に得ることが出来るように
なり米国のあらゆる産業に活気を呼び戻すシェール革命が現れた。米国の石油化学産業はシェール
ガスに含有されるエタンやプロパンから、エチレン、プロピレン、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)
留分といった石油化学の基礎製品を造っている。米国におけるエチレンの製造コストは、エタンの原
料コストが全体の 5~6割を占めているため、シェールガス増産による天然ガス由来のエタンの原料価
格は原油由来のナフサのそれよりも大幅に安くなり、エチレン製造の大幅なコストダウンにつながり、
米国石油化学には国際競争力の向上が期待される。世界一安価なエチレンを製造できるようになった
のだ。北米では安価なエタンクラッカーの新設が次々と計画され建設が始まり、そこから派生する数年
後の米国のエチレン誘導体の生産量は米国需要の倍近くとなろう。その増加分は欧州やアジアへの
輸出に当てられよう。
中東の石油化学製品輸出の日本への影響は、中国の需要が堅調なため、まだ大きくないが、日本
の石油化学産業は、中東からのうねりに競合できず、エチレンセンターの統合や縮小が始まっている
(三菱化学、旭化成ほか)。その矢先にシェール革命によってもたらされた米国の安価なエチレン誘導
体の輸出に追い討ちをかけられることになろう。シェール革命の影響はあまりにも大きく、かつてのオ
イルショックの時のような助け船は期待できない。
<参考図書>
・ 日刊工業新聞社「天然ガスシフトの時代」、2012年12月25日発行、伊原賢 末廣能史 著
・ 日刊工業新聞社「シェールガス革命“第二の衝撃” 危機に陥る日本の化学産業」、2014年1月30日発行、室井
高城 著
以上