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中山智是

「町工場に革新をもたらしたダイヤ精機のオペレーション改革(3年の改革)について」

2016年2月9日

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オペレーションズ・マネジメント

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オペレーション改革のポイント!• 1年目、意識改革。2年目、チャレンジ(生産管理改革)。3年目、維持継続発展(改革の標準化)。• 職人の KKD (勘と経験と度胸)による汎用機の利用から、数値制御機器の導入によって作業効率の向上を実現。• 生産工程の一元管理で、顧客からの進捗状況確認に素早く回答できる体制を構築した。• バーコードによる入力の簡素化と、必ず使う図面管理への統一で、すべての社員が使えるシステムを構築した。• 加工実績をデータベース化し、すべての社員が活用することでウィークポイントの改善につなげている。

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目次1.背景2.目的3.内容4.効果、結果5.まとめ6.参考文献

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1. 背景1.1 「ダイヤ精機株式会社」とは• 東京都に本社を置く自動車メーカー及び各種部品メーカー向けの金型・ゲージ・治工具の設計・製作・製造を

行う一貫加工メーカー。 ※特に、超精密金属加工を得意とし多品種少量生産の一貫加工を行う。• http://www.daiyaseiki.co.jp/

• 資本金 1億8,700万円<沿革>

1964年(昭和39年)8月 - 大田区矢口にダイヤ精機製作所設立。ゲージ各種精密部品、冷鍛型ピストン型製造販売開始。

1969年(昭和44年)8月 - ダイヤ精機株式会社に組織変更。

1975年(昭和50年)5月 - 現本社工場開設。

1981年(昭和56年)5月 - ダイヤエンジニアリング株式会社設立。

1986年(昭和61年)6月 - 矢口工場開設。

2004年(平成16年) - 諏訪貴子が代表取締役に就任。 4

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1. 背景1.2 「変革の手腕を振るう2代目社長 諏訪貴子」とは• 諏訪貴子社長は、 1971 年 5 月生まれの 44 歳。 1995 年 4 月、成蹊大学工学部卒業後、ユニシアジェックスに入社。エンジニアして 2 年間勤務後、 1997 年出産を機に退職。翌 1998 年、先代社長の父保雄の要請でダイヤ精機に入社。総務担当時に社長である保雄と経営の考えの相違で、入退社を 2 回程繰返す。 2004 年、保雄の逝去を機に 32 歳で社長に就任。 2011 年から経済産業省・産業構造審議会の委員を務める。 2012 年 12 月 6 日、日経ウーマン主催のウーマン・オブ・ザ・イヤー 2013 大賞(リーダー部門)を受賞するなど、各方面から注目を受けている。

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1. 背景1.3 「市場環境とダイヤ精機」について• 自動車離れによる国内需要の低下、ガソリン代の高騰、自動車および自動車関連部品の生産拠点の海外シフトなどで、自動車を取り巻く日本国内の環境は、非常に厳しくなっていた。国内の自動車関連メーカーに求められているのは、他社を圧倒する開発力とコスト力の強化、製造リードタイムの短縮だった。

• 顧客の環境変化に追従するダイヤ精機においても、高精度・高品質を追求し続ける姿勢や、少量・多品種生産への対応、短納期・特急生産への対応、原価低減要求に対する対応などが当然求められていた。

• 一方で、 1964 年(昭和 39 年)の設立から 44 年を迎えるダイヤ精機も、社員の高年齢化が進んでいた。今後、自社の財産である一流職人のノウハウを、もの作りデータベースとして蓄積を進めると共に、技術と技能を後世にスムーズに継承していくことが課題となっていた。

• ダイヤ精機では、 2004 年に経営者が交代したことをきっかけに、 3 年計画で経営の改革に取り組んだ。 1 年目の 2004 年は社員の意識改革と組織構造の再構築を図った。 2 年目には、設備投資による社内の活性化に取り組み、さらに生産管理システムの刷新で IT 経営を実践。3年目には、維持継続発展を掲げ改革の標準化を行った。

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1. 背景1.4 「生産管理における問題点」とは• 一般的な精密機器メーカーでは、1ヶ月に取り扱う製品数は100点ほどである。それに対して、ダイヤ精機は、図面だけで7000枚。出荷製品数は1万点にも達していた。• 「 AS 400」というオリジナルの生産管理システムを使用していたが、売り掛け、買い掛け管理用で受注後の進捗管理はできていなかった。•時に、取引先からイレギュラーな「特急対応」の注文が来ていたが、進捗管理ができていなかったために、幹部の勘と度胸で対応していた。

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2. 目的2.1 「1年目意識改革」の目的•危機的状況を乗り越えるために、社員一人ひとりに、自分たちが生まれ変わり、会社を変えなくていけないという意識を持たせる。• コミュニケーションの核をつくること。• 会社の土台を整える。

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2. 目的2.2 「2年目チャレンジ」の目的•世の中で「良い」と言われているものをどんどん取り入れ、新しいことに取り組む。2.3 「3年目維持・継続・発展」の目的•それまでの2年間で会社の基盤をつくるために必要な改革、改善には一通り手をつけている。それをいかに継続していくか。

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3. 内容3.1. 「1年目意識改革の具体策」とは• OJTを軸とした人材育成により、個々人のレベルアップと社員のモチベーションを向上。⇒研修の実施。 TPO に合わせた挨拶、5 S 、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)のあり方、品質、コスト管理、 PDCA の考え方など。• 組織構造の再構築。⇒経営方針の策定、創業事業であるゲージ事業の継続。• トップダウン業務指示組織からボトムアップ化により、意見を集める意見集約型組織の構築。⇒QC (品質管理)サークル、若手の会、中堅の会、職人の会など。

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3. 内容3.2.1 「2年目チャレンジの具体策」とは• 生産設備の老朽化に対し、ダイヤ精機の強みを最大限に生かせる設備投資を実施。⇒それまで長年の経験と独自の感覚が必要だった汎用機使用から、数値を入力さえすれば自動で研磨できる「 NC研磨機」の導入をした。• 生産性の維持と技術継承を同時進行する教育モデルを確立。⇒若手社員にそれまでとは逆に、 NC研磨機を先に扱わせ、平行して汎用機の使い方を教えた。• 生産管理システムの全面変更。⇒ 「進捗管理・原価管理」を目的にバーコードを使用して簡単に情報が入力できるテクノア社の「 TECHS-BK 」を導入する。

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3. 内容3.2.2 「生産管理システム」の構築顧客需要への対応力を高める。• 多品種少量生産を徹底管理する。• 生産の進捗を管理する。•リードタイムを短縮する。•決められた納期を守る。•急な注文や設計依頼にも応えられる体制を整える。⇒対応力の強化に繋がる。急な依頼にも対応可能になる。

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Page 13: 「町工場に革新をもたらしたダイヤ精機のオペレーション改革(3年の改革)について」 中山智是

3. 内容3.2.3 「生産管理に IT を活用」• 熟練した職人でも活用可能な生産管理システム• 従来は、売掛・買掛管理のみシステムで自動化してた。生産工程はシステム化されておらず、受注

後の作業は各工場長へ指示を出すのみ。顧客から進捗状況の問い合わせを受けた時は、営業担当者が各工程を回って確認していた。また、営業担当者の情報管理は個々で行っており、社内での情報共有化は図られていなかった。

• 新システムでは、受注から納品までの流れをすべて自動化した。受注入力作業後、作業指示書の代わりに必要最低限の情報を記載したバーコードをプリントアウトし、各図面に添付して工場と協力工場に配布。各工程では、作業開始時と終了後に指示書をバーコードで読み取る仕組みとなる。これにより、進捗状況と工数の情報は、すべての社員が社内のどこからでもパソコン上で確認できるようになった。

• IT 機器の使用は、高齢な熟練職人にはなかなか受け入れにくい側面があった。そこで「特別な操作はしない」「面倒な作業はしない」など作業の簡略化に徹底してこだわり、バーコードを活用した1 回入力とした。 ( 図2:参照 )

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3. 内容3.2.4 「 IT によるオペレーション改革・前」

既存システムにより売掛・買掛管理は出来ていたが、受注後の作業指示は各向上長の指示のみであった。進捗は客先からの問合せの時に営業が各工程を探しに行っていた。また各営業の情報管理は個々で行っていた。

(図1)14

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3. 内容3.2.5 「 IT によるオペレーション改革・後」 

受注入力作業後、作業指示書の代わりに必要最低限の情報を載せたバーコードをプリントアウトして各図面に添付し工場及び協力工場に配布する。各工程で開始と終了をバーコードで読み取ることで進捗と工数の情報をパソコン上で確認出来るようになった。(データの蓄積と一元管理)

(図2)15

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3. 内容3.2.6 「加工実績をデータベースで蓄積し、現場のウィークポイント発見につなげる」 ダイヤ精機では、 IT を顧客ニーズの変化に追従するツールとして捉えている。そのために、中小企業が得意とする経験やカンに頼った製造方法を徐々に改め、作業の標準化を進める必要があった。そこで、製品の流れや加工実績をデータベース化し、現場のウィークポイントを見つける用途に活用している。そのためには、現有データベースの活用と IT 化業務を社員全員に定着させる必要があった。これらの課題をクリアするために、現場で必ず使用する「図面」を用いたシステムを開発。作業指示書は極力作らず、現場では必要な情報を載せたバーコードを図面に貼り付けるだけとした結果、運用もスムーズに進んでいる。

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3. 内容3.3 「改革の標準化」• 2年間でつくり上げた仕組みや流れを整理し、標準化した。•受注から制作、納品までの業務の進め方を示した「業務処理基準書」•検査手順をまとめた「検査基準書」•不良品から発生した時に社内報告するための「不良発生報告書」•材料を購入する際の手順を定めた「間材購入基準書」• 製品の品質について定めた「品質管理基準書」

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4. 効果・結果4.1 「1万点に及ぶ製品の生産情報の一元管理」 

材料取り

形状加工穴開け

作業工程

1.未着手2.着手3.中断4.完了

1.未着手2.着手3.中断4.完了

1.未着手2.着手3.中断4.完了

PC で一元管理

社員は、いつ、どの製品の、どの作業に取りかかるべきかを明確に把握できる。作業の流れや仕事の段取りが、スムーズになった。作業日報や進捗日報は必要なくなった。現場管理者の管理業務も減り、ものづくりに専念できる時間が増えた。 18

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4. 効果・結果4.2 「生産管理・側面からの効果」• 定量的な成果として、特急対応件数が月 10件から 20件へと 2倍増を達成した。不採算製品は月 8 、 9件から 0 、 1件へと、約 8分の 1以下に削減。生産リードタイムも 30 日から 21 日へと、 9 日間の短縮に成功している。その結果、生産総工数は 15%削減できた。

• 定性的な成果としては、顧客からの進捗問い合わせに対する回答が簡単にできるようになった。また、短納期製品の管理が容易になった結果、正確かつ短時間での納期の回答ができ、顧客からの信頼度アップにも貢献している。

• また、従来は少量・多品種化によって、現場管理者の管理業務が急増してしまい、作業効率の低下傾向が見られた。 IT によるオペレーション改革によって管理業務が軽減した結果、職人本来の業務である「もの作り」に特化できるようになり、社員のモチベーションも向上している。 19

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4. 効果・結果4.3 「経営的側面からの効果」•従来は製品管理ができていなかったため、月の途中では、その月の売り上げがいくらになるのか、見通しが立たなかった。システム導入後は、そんな心配がなくなった。納入済みのもの、納入見込みのなどが明確に把握でき、正確に当月の売り上げが見込めるようになった。• また、新たなシステムは、材料費、外注費、作業工程などを入力する

ことで、制作完了後に製品の原価を計算することができる。1品1品の原価を把握した上で、コストのかかっている箇所をピンポイントで外注から内製に切り替えるなどの策が立てられるようになった。

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4. 効果・結果4.4 「生産管理一元化による効果」

品質向上 コスト削減 納期短縮

新規設備の導入オフライン組織の立上げ ムダの排除原価意識の向上 生産管理システム再構築

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5. まとめ5.1 「業務効率化から戦略的利用へ」諏訪貴子社長の行った改革は、伊丹敬之氏著「経営戦略の論理」において論じられる戦略定義に当てはめることができる。「現状の姿」⇒ P.6~ P.7 「背景」で述べた市場環境やダイヤ精機についてである。伊丹氏は、著書にて「あるべき姿」とは、目標を達成するために必要なオペレーションであり、そして、「変革シナリオ」はオペレーション改革の構想に他ならないと述べている。「あるべき姿」= P.10~ P.17 の「内容」で述べた3年の改革に必要となるオペレーションである。「変革のシナリオ」= P.8~ P.9 の「目的」で述べた3年の改革の構想である。ダイヤ精機においては、戦略(あるべき姿と変革のシナリオ)は、業務を効率化し、経営管理を支援するのみならず、顧客が求める「対応力」を高めることに繋がり、自社のコアコンピタンスを高めることになった。つまりは、ダイヤ精機に限らず町工場と言われ低迷する「ものつくり産業」においては、 IT が競争優位をもたらす戦略的武器となり得る余地があることを示していると言える。

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5. まとめ5.2.1 「変革を支えた人、環境つくり」諏訪貴子社長のオペレーション改革を成功へと導いた要因は、現状の姿から目標へ導く戦略が適切であったと先述した。更には、その戦略を成功へと導く礎として、良好な人間関係の構築、或いは、人材育成にあったと言えるのではないかと考える。松下電器産業(現パナソニック)創業者松下幸之助氏は、「物をつくる前にまず人をつくることの大切さ」を従業員に説き、 「松下電器は何をつくるところかと尋ねられたら、松下電器は人をつくるところです。併せて電気器具もつくっております。こうお答えしなさい」と事あるごとに話していたとされる。 23

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5. まとめ5.2.2 「変革を支えた人、環境つくり」諏訪貴子社長もまた、人を大切にすること、人をつくることに注力することで、職人が高齢化し、若者が育たないとされる、町工場における問題点を克服し、職人から若者へと技能継承がスムーズに行える環境を構築したと言える。

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• 諏訪貴子著 「町工場の娘」 (日経 BP 社)• 図1、2 経済産業省  IT経営成功事例集より http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/it-keiei/itjirei/case2008/case_daiyaseiki_01.html

• 伊丹敬之著 「経営戦略の論理」(日本経済新聞出版社)

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6. 参考文献