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帝京大学 CVS セミナー スライドの説明 この写真は 1952 年世界で初めて人体に埋め込まれた人工弁である。当時は、人工心肺装置 はなく、心臓の中に埋め込むことは技術的に不可能であり、この弁は下行大動脈に埋め込 まれた。大動脈弁閉鎖不全症に対してこの手術は行われ、下行大動脈よりも末梢の逆流だ けを防止した。それでも心拡大の退縮など、一定の効果はみられたと報告されている。 人工弁の歴史において、 1960 年はまさに記念すべき年であった。 3 10 日に Harken によ り、世界初の心臓内への人工弁置換術を行われた。 2010 年は人工弁生誕 50 周年といえる。 ここでは機械弁、生体弁それぞれの歴史を振り返る。 50 年前の人工弁はボール弁といって、このようなラムネ玉のようなボールが上下に運動し、 逆流防止弁としての機能を果たしていた。 最初に起こった技術革新はクロスカバーの採用であった。当初のボール弁はケージと呼ば れるボールを収納している部分や、弁輪に縫い付ける sewing ring(縫い付ける輪)の部分は むき出しになっていたが、Braunwald らはこの部分をポリエチレンメッシュで覆うように した。メッシュ部分は移植後、体内では生体組織でおおわれるようになり、抗血栓性を獲 得する。その結果人工弁による塞栓症の頻度は大幅に低下した。 機械弁の開発の歴史においてもっとも重要な技術革新は、弁の素材としてパイロライトカ ーボンを採用したことである。現在の機械弁はすべてこの素材で作られている。そもそも なぜボール状の弁を用いていたのかというと、耐久性に優れた素材がなかったからである。 ボール弁の特徴は比較的単純なデザインにあり、デザイン状壊れにくい形状であった。現 在の二葉弁のようなやや複雑な人工弁をつくろうにも、どうしても hinge と呼ばれる接合 部分などは非常に細やかな構造となり、相当に耐久性に優れた素材でないとすぐに壊れて しまう。よってデザインを変えるには、耐久性に優れた素材の開発が急務であったのであ る。 パイロライトカーボンは熱硬化性樹脂を 2000℃付近で加熱炭化し生成する。その特徴は、 軽い、耐久性に優れる、生体との親和性が高く、抗血栓性にすぐれる(ただし完全な抗血 栓性素材ではなく、ワーファリンなど抗凝固療法は必要)ことにある。特にパイロライト カーボンは 4 億回の開閉運動に耐えうるとされている。 パイロライトカーボンの導入により、機械弁のデザインは一気に進化する。まず Bjork Shiley 弁など傾斜ディスク弁が登場する。このデザインの開発には日本の外科医和田寿郎 氏らの功績があったことは有名である。そして 1977 年に二葉弁が開発される。現在用いら れる機械弁はすべて二葉弁であり、30 年以上基本的なデザインは変わっていないことにな る。ではこのようにデザインが改良されるようになって、人工弁の機能はどのように変化 したのであろうか? こちらのグラフはそれぞれの人工弁を使用した場合の、術後遠隔期生存率を比較したもの である。不思議なことに遠隔期の生存率という観点からは、最も初期のデザインであるボ

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スライドの説明

この写真は 1952年世界で初めて人体に埋め込まれた人工弁である。当時は、人工心肺装置

はなく、心臓の中に埋め込むことは技術的に不可能であり、この弁は下行大動脈に埋め込

まれた。大動脈弁閉鎖不全症に対してこの手術は行われ、下行大動脈よりも末梢の逆流だ

けを防止した。それでも心拡大の退縮など、一定の効果はみられたと報告されている。

人工弁の歴史において、1960年はまさに記念すべき年であった。3月 10日に Harkenによ

り、世界初の心臓内への人工弁置換術を行われた。2010年は人工弁生誕 50周年といえる。

ここでは機械弁、生体弁それぞれの歴史を振り返る。

50年前の人工弁はボール弁といって、このようなラムネ玉のようなボールが上下に運動し、

逆流防止弁としての機能を果たしていた。

最初に起こった技術革新はクロスカバーの採用であった。当初のボール弁はケージと呼ば

れるボールを収納している部分や、弁輪に縫い付ける sewing ring(縫い付ける輪)の部分は

むき出しになっていたが、Braunwald らはこの部分をポリエチレンメッシュで覆うように

した。メッシュ部分は移植後、体内では生体組織でおおわれるようになり、抗血栓性を獲

得する。その結果人工弁による塞栓症の頻度は大幅に低下した。

機械弁の開発の歴史においてもっとも重要な技術革新は、弁の素材としてパイロライトカ

ーボンを採用したことである。現在の機械弁はすべてこの素材で作られている。そもそも

なぜボール状の弁を用いていたのかというと、耐久性に優れた素材がなかったからである。

ボール弁の特徴は比較的単純なデザインにあり、デザイン状壊れにくい形状であった。現

在の二葉弁のようなやや複雑な人工弁をつくろうにも、どうしても hinge と呼ばれる接合

部分などは非常に細やかな構造となり、相当に耐久性に優れた素材でないとすぐに壊れて

しまう。よってデザインを変えるには、耐久性に優れた素材の開発が急務であったのであ

る。

パイロライトカーボンは熱硬化性樹脂を 2000℃付近で加熱炭化し生成する。その特徴は、

軽い、耐久性に優れる、生体との親和性が高く、抗血栓性にすぐれる(ただし完全な抗血

栓性素材ではなく、ワーファリンなど抗凝固療法は必要)ことにある。特にパイロライト

カーボンは 4億回の開閉運動に耐えうるとされている。

パイロライトカーボンの導入により、機械弁のデザインは一気に進化する。まず Bjork

Shiley 弁など傾斜ディスク弁が登場する。このデザインの開発には日本の外科医和田寿郎

氏らの功績があったことは有名である。そして 1977年に二葉弁が開発される。現在用いら

れる機械弁はすべて二葉弁であり、30 年以上基本的なデザインは変わっていないことにな

る。ではこのようにデザインが改良されるようになって、人工弁の機能はどのように変化

したのであろうか?

こちらのグラフはそれぞれの人工弁を使用した場合の、術後遠隔期生存率を比較したもの

である。不思議なことに遠隔期の生存率という観点からは、最も初期のデザインであるボ

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ール弁においても成績は比較的良好で、デザインの革新があったにもかかわらず、生存率

はそれほどかわっていない。(もちろん無作為比較試験のような研究ではなく、患者背景も

相当に異なっており、データの信憑性はそれほど高くない)弁のデザインの改良により、

もっとも進化したのは血行動態である。こちらの表は、それぞれの弁を移植した場合、そ

の弁の前後で生じる血圧の差の平均値である。大動脈弁狭窄症においても平均血圧

50mmHg あれば手術が必要と判断される。その面からいえば、ボール弁の平均圧較差

24mmHgというのは、やや高すぎると考えざるを得ず、人工弁の機能としてはあまり良好

ではない。平均圧較差はデザインが改良されるにつれ、明らかに改善している。こちらの

図はそれぞれの弁を用いるとどのような血流パターンとなるのかが示されている。生理的

な血流パターンにおいては、中心流、つまり管の中央になるほど血流が早くなるようにな

っている。こちらの図をみると新しいデザインになるほど、より生理的な血流パターンに

近づいていることがよくわかる。つまりデザインの改良によって、通過する血流パターン

がどんどん改善されてきたことが分かる。

次に生体弁の開発の経緯をみる。最初に用いられた生体弁はホモグラフトとよばれ、亡く

なったヒトの弁を採取したものである。ホモグラフトは感染に特に強いとされ、現在でも

用いられている。次にあるオートグラフトというのは自分の弁ということである。大動脈

弁に病気があれば、肺動脈弁を採取して大動脈弁に埋め込むという手術がいわゆるロス手

術である。ここまでの生体弁はすべてヒトの組織を用いたものであった。ヒト以外の生体

材料を体内に植え込む場合、最も問題となるのが抗原性、つまり術後の拒絶反応である。

他種の動物の組織を体内にそのまま埋め込めば、拒絶反応が生じてしまう。そのため何ら

かの化学的処理を行い、抗原性をなくす必要がある。そこで考え出されたのがグルタルア

ルデハイド処理であり、現在用いられているすべての異種生体弁もまずグルタルアルデハ

イド処理が行われている。グルタルアルデハイド処理とは、もともとは皮革のなめしに用

いられていた技術であり、滅菌効果、架橋による強度の保持、抗原性の消去といった効果

が期待される。こうした技術を導入することによって、初めて動物の組織を手術に用いる

ことができるようになり、人間に比較的心臓の大きさの近い、ブタの弁がまず用いられた。

そして 1981年には、ウシの心嚢膜を弁の材料として用いられるようになる。現在も生体弁

には、ブタ弁とウシ心嚢膜弁の二つがあり、それぞれ特色を持っている。それ以後も小さ

な技術革新を繰り返し、生体弁は確実に発展を遂げている。まず低圧固定法の導入があげ

られる。弁を高圧で固定するとコラーゲンのひだが失われ、湾曲やよじれの原因となり、

また弁も菲薄化する。 低圧固定では、弁組織の弾力が保持される。次に、デルリンステン

トの導入があげられる。ステントというのは、弁組織を固定する骨組みになる部分のこと

であるが、ここに弾力性のある素材を用いることにより、弁尖に加わるストレスを軽減し

ている。そして最も重要な技術革新が抗石灰化処理の導入である。生体弁は、遠隔期に壊

れてくる(構造的弁务化)ことが知られているが、その原因の一つが石灰化である。カル

シウムの沈着により生体弁が壊れるのである。その原因としては、遺残したリン脂質(生

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体の膜などに豊富に含まれている)にカルシウムが沈着することや、アルデハイド基にカ

ルシウムが結合することがあげられる。こうした石灰化を予防するためにさまざまな処理

方法が考案され、現在各社からでている生体弁のもっとも大きな特徴となっている。

帝京大学 心臓血管外科

講師 真鍋 晋

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参考資料

参考文献 1

Ann Thorac Surg 2005;79:776-83

方法 1977 年から 2002 年までに SJM 人工弁を用いて単独弁置換術を行った 4480

人(大動脈弁置換 2982人、僧帽弁置換 1498人)を対象とした。平均追跡期間は平均 7年

結果 手術死亡率は大動脈弁置換術 4%、僧帽弁置換術 9%であった。

大動脈弁置換術後 10年の発症頻度

血栓塞栓症 11.7%

出血合併症 17.5%

弁感染 1.7%

再手術 1.4%

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参考文献 2

Ann Thorac Surg 2001;72:753-757

方法 1981 年から 1984 年の間に 267 人の患者が、4 つの施設で、Carpentier

Edwards pericardial生体弁を用いた大動脈弁置換術を受けた。平均年齢は 65歳(21歳か

ら 86 歳)であった。平均追跡期間は 12 年であった。1 次エンドポイントは構造的弁务化

による摘出であった。

結果

1. 構造的弁务化回避率は、5 年間で 99%、10 年間で 94%、15年間では 77%であった。

2. 構造的弁务化のリスクは時間と手術時若年令で指数関数的に増加する。

3. 死亡の危険性を考慮すると、65歳以上の高齢者は 15年間で構造的弁务化で人工弁摘出

する可能性は 10%に満たない。

結論 Carpentier-Edwards 生体弁の耐久性は良好で、65 歳以上の高齢者への使用

を正当化しうる。

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参考文献 3

J Am Coll Cardiol 2000;36:1152-8

生体弁と機械弁の臨床成績を比較した無作為比較試験。術後 15年の遠隔期成績

が明らかとなっている。調査時期が 1977-82 年と古く、本研究で使用されてい

る人工弁(生体弁:Hancock I、機械弁:Bjork-Shiley)は現在では使用されて

いない。

方法 13箇所のVeterans Affairsセンターで、大動脈弁置換術または僧帽弁置換術患者を単独で行う患者575

例に、使用する人工弁を生体弁または機械弁のどちらかに無作為に割り振った。

結果

全体の死亡率は、大動脈弁位は機械弁が低く、僧帽弁位は差はなかった。

ほとんどの人工弁機能不全は 65歳以下の症例で見られた。

人工弁機能不全の頻度は大動脈弁位:生体弁 26%、機械弁 0%、僧帽弁位:

生体弁 44%、機械弁 4%であった。65歳以上では、大動脈弁位:生体弁 9%、

機械弁 0%、僧帽弁位:生体弁 20%、機械弁 6%であった。→高齢者では生

体弁でも弁务化は比較的尐ない。

再手術は有意に生体弁を用いた大動脈弁置換術に多かった。

出血合併症は機械弁の患者に多かった。

塞栓症は両群に差はみられなかった。

結論 15 年の時点では大動脈弁位では生体弁より機械弁のほうが生存率は良好であ

った。その理由は主に弁機能不全が機械弁では実質皆無であったことによる。弁機能不全

は大動脈弁位でも僧帽弁位でも生体弁のほうが多く、65 歳以下の患者ではその率はより高

い。一方 65歳以上の患者では大動脈弁位の弁機能不全は生体弁と機械弁の間に差はみられ

なかった。再手術は大動脈弁位では生体弁により多かった。塞栓症の発生率はどちらの人

工弁でも差はみられなかったが、出血合併症は機械弁により多かった。

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大動脈弁置換術 僧帽弁置換術

機械弁 生体弁 機械弁 生体弁

全死亡 66% 79% 81% 79%

人工弁関連合併症 65% 66% 73% 81%

塞栓症 18% 18% 18% 22%

出血 51% 30% 53% 31%

人工弁感染 7% 15% 11% 17%

血栓弁 2% 1% 1% 1%

弁周囲逆流 8% 2% 17% 7%

再手術 10% 29% 25% 50%

人工弁機能不全 0% 23% 5% 44%

下線は統計学的に有意差のあるもの

死亡原因

大動脈弁置換術 僧帽弁置換術

機械弁 生体弁 機械弁 生体弁

人工弁関連死亡 37% 41% 44% 57%

心臓死亡 17% 21% 31% 19%

(人工弁関連以外)

非心臓死 36% 26% 18% 9%

不明 10% 12% 7% 15%

若年者(65 歳以下)と高齢者では臨床成績にかなり違いがあることが予想されるが、これ

らのRCTでは対象症例数が尐なすぎるためこうした sub group解析を十分に行うことがで

きない。

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参考文献4

Twelve-year comparison of a Bjork-Shiley mechanical heart valve with porcine

bioprostheses

Bloomfield P, et al.

生体弁と機械弁の臨床成績を比較した無作為比較試験。術後 12年の遠隔期成績

が明らかとなっている。調査時期が古く、本研究で使用されている人工弁(生

体弁:Hancock I、Carpentier-Edwards porcine機械弁:Bjork-Shiley)は現在

ではほとんど使用されていない。

方法 無作為比較試験を行い、機械弁と生体弁の間で耐久性と弁関連合併症の頻度を調べた。261 例が単独

僧帽弁手術、211例が単独大動脈弁手術、61例が二弁置換術で、平均 12年間の追跡調査を行った。

結果

機械弁を使用したほうが、生存率が良い傾向を認めたが、統計学的な有意差

にはいたらなかった。

術後 5 年間では再手術の頻度は変わらなかったが、12 年間では生体弁を使

用した場合より多くの患者で再手術が必要となった。(8.5% vs. 37.1%)

入院や輸血が必要となるような出血合併症は機械弁を用いたほうが高頻度

であった。(18.6% vs. 7.1%)

塞栓症の発生頻度に差はみられなかった。(21.1% vs. 26.4%)

結論 人工弁がそこなわれず生存している確率は生体弁よりも機械弁のほうが高か

ったが、機械弁は抗凝固療法が不可欠で、出血合併症の頻度が高いことに注意が必要であ

る。

大動脈弁置換術 僧帽弁置換術

機械弁 生体弁 機械弁 生体弁

全死亡 43% 48% 53% 61%

塞栓症 11.5% 22.5% 31.5% 32.2%

出血 32.6% 9.7% 24.5% 24.5%

人工弁感染 4.8% 2.2% 2.3% 7.4%

再手術 4.2% 22.6% 9.9% 43.1%

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参考文献5

(J Am Coll Cardiol 2009;54:1862–8)

生体弁と機械弁の臨床成績を比較した無作為比較試験。調査時期が比較的新し

く、本研究で使用されている人工弁(生体弁:Carpentier-Edwards porcine,

Carpentier-Edwards Pericardial, 機械弁:St. Jude Medical, CarboMedics)

はほぼ現在使用されている型のものである。平均追跡期間が 8 年とやや短い。

倫理的配慮から対象が 55歳から 70歳の大動脈弁症例限定されている。

方法 無作為比較試験を行い、機械弁と生体弁の間で耐久性と弁関連合併症の頻度を調べた。対象は 310 例

の 55~70歳の単独大動脈弁置換術症例で、平均 8年間の追跡調査を行った。

結果

生存率は両群で差はなかった。

弁务化と再手術は生体弁のほうが有意に多かった。

塞栓症、出血合併症の発生頻度に差はみられなかった。(21.1% vs. 26.4%)

結論 生存率、塞栓症、出血合併症、感染において機械弁と生体弁で差はみられな

かった。ただ弁务化と再手術は生体弁に多かった。

機械弁 生体弁

全死亡 27.5% 30.6%

心臓死 16.7% 21.7%

人工弁関連死亡 6.7% 8.1%

人工弁関連合併症 23.4% 28.6%

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生体弁 vs. 機械弁 retrospective study

参考文献 6

Twenty-year comparison of tissue and mechanical valve replacement

Khan SS, et al.

J Thorac Cardiovasc Surg 2001;122:257-69

方法 生 体 弁 ( Hanclck, Carpentier-Edwards porcine, Carpentier-Edwards

pericardial)または機械弁(St Jude Medical)を用いて、初回大動脈弁、僧帽弁、または両

弁置換術を行った 18 歳以上の患者 2533 人の人工弁関連合併症や生存率の分析を行う。大

動脈弁位は機械弁 666個、生体弁は 723個、僧帽弁位は機械弁 513個、生体弁 402個、二

弁置換施行例では、機械弁 161個、生体弁 68個であった。平均年齢 68歳(機械弁 64.5歳、

生体弁 72.0歳)であった。

結果

1. 生体弁と機械弁に生存率の差はみられなかった。

2. 多変量解析では使用した人工弁の種類は生存率に影響を与えなかった。

3. 年齢(65歳以上または以下)、冠疾患の有無によりグループ分けを行っても、生体弁と

機械弁で生存率の差はみられなかった。

4. 出血合併症は生体弁の大動脈弁置換術患者で低かったが、僧帽弁や両弁置換術の患者

では有意差はみられなかった。

5. 塞栓症の発生頻度は機械弁と生体弁で差はみられなかった。

6. 再手術は、大動脈弁位、僧帽弁位どちらも生体弁で多かった。

7. 再手術の危険性は、大動脈弁位、僧帽弁位どちらも遠隔期になるほど増加した。

8. 人工弁関連合併症全体では、当初は機械弁を用いた大動脈弁置換術で高率であるが、

機械弁を用いた僧帽弁置換術ではそれほど高率ではない。しかし、僧帽弁置換術では

手術から 7年、大動脈弁置換術では手術から 10年経過した時点で、生体弁の合併症発

生頻度が逆転して機械弁よりも高くなる。

結論 生体弁でも機械弁でも 20年間の生存率に差はみられない。大動脈弁位の機械

弁で出血合併症が多く、生体弁ではいずれの部位でも遠隔期の再手術が多いことでそれぞ

れの差は相殺される。生体弁の再手術率は年数がたつにつれ増加する。

大動脈弁置換術 僧帽弁置換術

機械弁 生体弁 機械弁 生体弁

塞栓症 2.5 %/year 2.1 %/year 2.9 %/year 2.5 %/year

出血 2.0 %/year 0.7 %/year 1.9 %/year 1.5 %/year

人工弁感染 0.3 %/year 0.6 %/year 0.3 %/year 0.5 %/year

血栓弁 0.3 %/year 0.0 %/year 0.2 %/year 0.05 %/year

人工弁関連合併症 5.2 %/year 4.8 %/year 5.6 %/year 7.4 %/year

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生体弁 vs. 機械弁 retrospective study

参考文献 7

Biological versus mechanical valves. Analysis of 1,116 valves inserted in 1,012 adult

patients with a 4,818 patient-year and a 5,327 valve-year follow-up

Hammond GL, et al.

J Thorac Cardiovasc Surg 1987;93:182-98

方法 1974年から 1985年の間に生体弁または機械弁による手術を受けた 18歳から

88 歳のすべての症例において、塞栓症、抗凝固療法関連出血、弁感染、弁周囲逆流、弁機

能不全、再手術、心臓死、弁関連死亡を分析した。これらの分析は 11年間にわたって行わ

れた。533例が 606個の生体弁(Carpentier-Edwards 482、Hancock 108、Ionescu-Shiley

15、その他 1)を置換された。479 例が 510 個の機械弁(Star-Edwards 178、St. Jude

Medical166、Bjork-Shiley164、その他 2)を置換された。

大動脈弁位 僧帽弁位 三尖弁位 肺動脈弁位

生体弁 328 252 24 2

機械弁 330 175 5

結果

1. 塞栓症、弁周囲逆流による再手術の頻度は機械弁のほうが多かった。

2. 弁機能不全は生体弁に多かった。

3. 合併症頻度と弁関連死亡率は、手術後最初の 5 年間は生体弁で良く、続く 5 年間では

機械弁で優位であった。

4. しかし術後 10年間全体ではどちらの人工弁でも差はみられなかった。

結論 どちらかの人工弁を恒常的に使用することを支持する直接的な証拠はほとん

どみられなかった。

機械弁 生体弁

塞栓症 2.0 %/year 0.7 %/year

出血 0.6 %/year 0.2 %/year

人工弁感染 1.0 %/year 0.9 %/year

再手術 0.7 %/year 2.4 %/year

心臓死 5.3 %/year 4.8 %/year

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生体弁 vs. 機械弁 retrospective study

参考文献 8

Long-term outcome after biologic versus mechanical aortic valve replacement in 841

patients.

Peterseim DS, et al.

J Thorac Cardiovasc Surg 1999;117:890-897

背景 大動脈弁置換術において人工弁の至適選択基準を確立する。

方法 初回単独大動脈弁置換術を施行された 841 例を分析する。生体弁

(Carpentier-Edwards) 429例、機械弁(St. Jude Medical) 412例であった。

結果

1. 患者背景に違いはなかった。

2. 10年の生存率に両群に差はなかった。(生体弁 54%、機械弁 50%)

3. 多変量解析では生存率を悪化させる要因として、高齢、腎疾患、肺疾患、40%以下の

左室駆出率の低下、糖尿病、冠疾患があげられた。

4. 人工弁の選択は生存率に影響を与えなった。

5. 大動脈弁再置換術の予測因子は、若年齢と生体弁の使用であった。

6. 塞栓症の発生頻度は両群で同等であったが、出血合併症の発生頻度は生体弁の方が尐

なかった。

7. 6ヶ月以内の弁周囲逆流は生体弁よりも機械弁に多かった。

8. 弁関連合併症回避 10年生存率は 65歳以下の患者では機械弁でよく、65歳以上の患者

では生体弁で良好であった。

9. 腎疾患、60歳以上の肺疾患、左室駆出率 40%以下の心機能不全、冠疾患を合併した患

者では予測される余命が 10年以下であった。

結論 初回単独大動脈弁置換術において、65 歳以下で予測される余命が尐なくとも

10年以上である場合には機械弁の使用を考慮するべきである。65歳以上であったり、予測

される余命が 10年以下であるような患者には生体弁の使用を検討するべきである。

帝京大学 心臓血管外科

講師 真鍋 晋