ワイル病病原レフ.トスピラに対する モノクローナ...

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394 感染症学雑誌 第57巻 第5号 ワ イ ル 病 病 原 レ フ.トス ピ ラに 対 す る モノクローナル抗体の性状 愛媛大学医学部第1内 科学教室(指 導 小林 譲教授) (昭 和57年12月29日 受 付) (昭 和58年2月15日 受 理) Key words: monoclonal antibody Weil's disease, Leptospira interrogans serovar copenhageni, Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiae ワイル病病原 レプ トスピラの分類,同 定 を確 実 で しか も容易 に行 う 目的 で, Leptospira interrogans serovar copenhageni 白 水 株,M20株 serovar icterohaemorrhagiae RGA 株に対す るモノクローナ ル 抗 体 を作 製 し,そ の性状の検討を行 った .抗 白水 抗 体10系 統,抗M20抗 体5系 統,抗RGA体5系 統,合 計20系 統 の モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 が 得 ら れ た.抗 白 水 抗 体 で は, serovar copenhageni にのみ反応 す る抗 体 が1系 統,serovar copenhageni serovar icterohaemorrhagiae とに 同程 度 に反 応す る抗 体 が7系 統,そ の 中 間 の 性 状 を 示 す 抗 体 が2系 統 得 られ た .抗M20抗 体 で は, serovar copenhageni icterOhaemorrhagiae とに同程 度 に反応 す る抗体 が3系 統, serovar copenhageni に は 低 い 価 で,ictero- haemorrhagiae に は高 い価 で反応 す る抗体 が1系 統, serogroup Icterohaemorrhagae 以外に serovar pyrogenes に も反 応 す る抗 体 が1系 統 得 られ た.抗RGA抗 体 で は, serovar icterohaemorrhagiae にの み反応 を示 す抗 体が2系 統, serovar icterohaemorrhagiae に高い価で反応 し, copenhageni に は低 い価 で反 応 す る抗体 が2系 統, serogroup Icterohaemorrhagiae 以外に serovar pyrogenes ‚Æcanicola にも 反応 を示 す 抗体 が1系 統得 られた. これ らの結 果, serovar copenhageni serovar icterohaemorrhagiae serovar pyrogenes canicola と近 い 関 係 に あ る こ とが 証 明 さ れ,ま た,従 来,血 清 学 的 に完 全 型,不 完全型の関係にあると されていた serovar copenhageni icterohaemorrhagiae は,そ れ ぞれ の血 清型 にの み存在 す る抗原 と 両 者 に 共 通 な 抗 原 と を 持 っ て い る こ と が 明 らか に な っ た.こ れ ら のserovarcopenhageniとictero- haemorrhagiaeの それぞれ一方のみに反応する抗体ならびに両者に反応する抗体とを用いることに よ っ て,ワ イル病病原体 の同定は,確 実 で し か も容 易 に 行 うこ とが 可 能 と な っ た . ま た,こ れ ら の抗 体 の 中 に は,顕 微 鏡 的 凝 集 反 応 に お い て,レ プ トス ピ ラ が ひ も状 に 凝 集 し て 非 常 に 長 くな っ て い る所 見 が しぼ しば 認 め られ,さ らに,反 応 域 の 幅 の 比 較 的 狭 い も の で は,著 明な前地帯現 象 を認 め た. 1.は じめ に 1915年 に稲 田 と井 戸1)に よ って 黄 疸 出 血 性 レ プ トス ピ ラ 病(ワ イ ル 病)の 病原体 Leptospira icter- ohaemorrhagiae が 発 見 され た.そ の後,病 原 レプ トス ピ ラは世 界 各 地 で血 清 型 の異 な る もの が 相 次 い で 分 離 され る に した が っ て,そ れ らの 同定 や 抗 原 分 析 の た め に 交 叉 吸収 試 験 に よ る方 法 が進 歩 し た.1938年 Borg-Petersen は2), L. ictero- haemorrhagiae の 血 清 型 が2亜 型 に 分 け られ,両 者 は共 通 抗 原 の ほ か に,一 方 に の み あ って,他 別 刷 請求 先:(〒791-02)愛 媛 県 温泉 郡 重 信 町 志津 川454 愛媛大学医学部第1内 玉井 伴範

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394 感染症学雑誌 第57巻 第5号

ワイル病病 原 レフ.トス ピ ラに対 す る

モ ノク ロー ナル抗 体 の 性状

愛媛大学医学部第1内 科学教室(指 導 小林 譲教授)

玉 井 伴 範

(昭 和57年12月29日 受 付)

(昭 和58年2月15日 受 理)

Key words: monoclonal antibody Weil's disease,

Leptospira interrogans serovar copenhageni,Leptospira interrogans serovar icterohaemorrhagiae

要 旨

ワイル病 病原 レプ トス ピ ラの分類,同 定 を確 実 で しか も容易 に行 う 目的 で, Leptospira interrogans

serovar copenhageni 白水株,M20株 と serovar icterohaemorrhagiae RGA 株 に対す るモ ノク ローナ

ル抗 体 を作 製 し,そ の性 状 の検討 を行 った.抗 白水 抗体10系 統,抗M20抗 体5系 統,抗RGA体5系

統,合 計20系 統 の モ ノ ク ロー ナル抗体 が得 られた.抗 白水抗 体で は, serovar copenhageni にのみ反応

す る抗 体 が1系 統, serovar copenhageni と serovar icterohaemorrhagiae とに同程度に反応する抗体

が7系 統,そ の中間 の性 状 を示す 抗体 が2系 統 得 られ た.抗M20抗 体 で は, serovar copenhageni と

icterOhaemorrhagiae とに同程度に反応する抗体が3系 統, serovar copenhageni には低 い価 で, ictero-

haemorrhagiae には高い価で反応する抗体が1系 統, serogroup Icterohaemorrhagae 以外に serovar

pyrogenes に も反応 す る抗 体が1系 統 得 られ た.抗RGA抗 体 では, serovar icterohaemorrhagiae にの

み反応を示す抗体が2系 統, serovar icterohaemorrhagiae に高い価 で反 応 し, copenhageni には低い価

で反応する抗体が2系 統, serogroup Icterohaemorrhagiae 以外に serovar pyrogenes ‚Æcanicola に も

反応を示す抗体が1系 統得られた.

これ らの結 果, serovar copenhageni と serovar icterohaemorrhagiae が serovar pyrogenes や

canicola と近 い 関係 にあ る こ とが証 明 され,ま た,従 来,血 清 学 的 に完 全型,不 完全型 の 関係 に あ る と

されて いた serovar copenhageni と icterohaemorrhagiae は,そ れぞれの血清型にのみ存在する抗原 と

両 者 に共 通 な抗 原 とを持 って い る こ とが 明 らか に な った.こ れ らのserovarcopenhageniとictero-

haemorrhagiaeの そ れ ぞ れ一 方 のみ に反応 す る抗 体 な らび に両 者 に 反応 す る抗 体 とを 用 い る こ と に

よって,ワ イル病病 原体 の同定 は,確 実 で しか も容 易 に行 うこ とが可 能 となった.

また,こ れ らの抗 体 の中 には,顕 微 鏡的 凝集 反応 に おい て,レ プ トス ピラが ひ も状 に凝集 して非常 に

長 くな って い る所見 が しぼ しば認 め られ,さ らに,反 応 域 の幅 の比較 的狭 い もので は,著 明な前地 帯 現

象 を認 め た.

1.は じめ に

1915年 に稲 田 と井 戸1)に よ って 黄 疸 出 血 性 レ プ

トス ピ ラ病(ワ イ ル病)の 病 原 体 Leptospira icter-

ohaemorrhagiae が発見された.そ の後,病 原 レプ

トスピラは世界各地で血清型の異なるものが相次

いで分離 されるにしたがって,そ れらの同定や抗

原分析のために交叉吸収試験による方法が進歩し

た.1938年 に Borg-Petersen は2), L. ictero-

haemorrhagiae の血清型が2亜 型に分けられ,両

者は共通抗原のほかに,一 方にのみあって,他 方

別刷請求先:(〒791-02)愛 媛県温泉郡重信町志津川454

愛媛大学医学部第1内 科 玉井 伴範

昭和58年5月20日 395

に な い 抗 原 が あ る こ とを 報 告 し た が,Gispenと

Schuffnerは3)こ れ を 確 認 し,前 者 の 代 表Wijn-

berg株 はAとBの 両 抗 原 を 持 っ た 完 全 型L.

icterohaemorrhagiaeAB,後 者 の 代 表Kantr-

owicz株 はA抗 原 の み を 持 つ 不 完 全 型L.ictero.

haemorrhagiaeAと 呼 ん だ.さ ら に.こ れ らは世

界 的 に 広 く分 布 し て い る こ とを 指 摘 した4).他 方,

山本 は5),わ が 国 で 分 離 され たL.icterohaemorr-

hagiaeも 完 全 型 と不 完 全 型 と が あ る こ とを 明 ら

か に した.し か し,そ れ らは そ れ ぞ れWijnberg株

とKantrowicz株 と は一 致 せ ず,血 清 学 的 に そ れ

ら相 互 間 は きわ め て 複 雑 な 関 係 に あ る と報 告 し

た.そ の後,L.icterohaemorrhagiaeABの 代 表

はM20株,L.icterohaemorrhagiae Aの 代 表 は

RGA株 が 用 い られ た が6),さ らに そ の後,完 全 型

と不 完 全 型 とい う呼 び方 を 改 め て,そ れ ぞ れ 独 立

した 血 清 型 とす る こ と に な り,従 来 のLictero-

haemorrhagia ABはL.copenhageniと な り,L.

icterohaemorrhagiae AがL.icterohaemorr-

hagiaeと な った7).さ らに 病 原 レ フ.トス ピ ラは 血

清 型 の異 な る も の が180余 りに お よ ん で い るが,こ

れ らを 一 括 してL.interrogansと す る こ とに な

り7),現 在 で はL.icterohaemorrhagiaeは,L.

interrogans serovar icterohaemorrhagiae, L:

copenhageniはL.interrogans serovar copen-

hageniと 呼 ぶ よ うに な った.こ の よ うな 過 程 を経

て,1977年,Yanagawaら8)は,わ が 国 に もser-

ovar icterohaemorrhagiaeの ほ か にserovar

copenhageniに 属 す る もの が 存 在 す る こ とを 明 ら

か に した:し か し,こ れ ら二 つ の 血 清 型 はsero-

group Icterohaemorrhagiaeに 属 し,互 い に類 属

反 応 が 強 い た め,通 常 の凝 集 反 応 で 区別 す る こ と

は 困 難 で あ る.こ れ を 区別 す る に は,交 叉 吸 収 試

験9)や 血 清 型 特 異 抗 原 の 作 製10)11)な ど複 雑 な 操 作

を 必要 と した.

他 方,1975年 にKohlerとMilstein12)に よ って

細 胞 融 合 法 に よ る モ ノ ク ロナ ー ル 抗 体 の作 製 法 が

開 発 さ れ,特 異 性 の 高 い 抗 体 が 得 られ る よ うに

な った.モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 に よ る レ プ トス ピ ラ

の 抗 原 の解 析 に つ い て,小 野 ら13)は レ プ トス ピ ラ

の 型 特 異 抗 原 に 対 す る モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 を,吉

田 ら14)は,抗Kremastosモ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 を作

製 し,そ の抗 原 の 解 析 を行 って い る:

本 研 究 は,ワ イル 病 病 原 レ プ トス ピ ラの 分 類,

同 定 を 確 実 で しか も容 易 に 行 う 目的 で,細 胞 融 合

法 に よ って,serovar copenhageni白 水 株,M20株

と,serovar icterohaemorrhagiae RGA株 に 対 す

る モ ノ ク ロー ナ ル抗 体 を 作 製 し,そ の 性 状 に つ い

て検 討 した 成 績 を報 告 す る.

I.実 験 材 料 な らび に方 法

1.マ ウ ス骨 髄 腫 細 胞

米 国,Salk研 究 所 よ り分 与 され たP3×63Ag8.

653(Ag8.603)細 胞15)を,10%非 働 化 ウ シ胎 児

血 清(FCS)加RPMI1640培 地 に,100μM.8-ア ザ

Table 1 Leptospira used

396 感染症学雑誌 第57巻 第5号

グ ア ニ ン を加 え た 培 養 液 に よ り,5%CO2,37℃ に

維 持 した.細 胞 融 合 に際 して は,そ の前 日 に培 養

液 を 交 換 し た細 胞 を 用 い た.

2.レ プ トス ピ ラ

レ プ トス ピ ラは,起 源,場 所,年 をTable1に

示 した.こ れ ら の レプ トス ピ ラは,九 州 大 学 医 学

部 第1内 科 学 教 室,国 立 予 防 衛 生 研 究 所,な らび

に 山 本 脩 太 郎 東 京 大 学 名 誉 教 授 よ り分 与 さ れ,

10%非 働 化 ウサ ギ 血 清 加Korthof培 地 で 維 持 し

た.凝 集 反 応 用 抗 原,免 疫 用 抗 原 は,継 代 後7~14

日 目の もの を 用 い た.免 疫 原 に は,serovar copen-

hageni白 水株,M20株 と,serovar icterohaemor-

rhagiae RGA株 を 用 い た.

3.マ ウ ス

当 教 室 で 飼 育,維 持 して い るBALB/c系 マ ウス

を,レ プ トス ピ ラの 免 疫,ハ イ ブ リ ドーマ の 腹 腔

内 接 種,お よびfeeder layerと し て胸 腺 細 胞 を得

るた め に用 い た.

4.免 疫 マ ウ ス お よび 免 疫 血 清

ウ サ ギ 血 清 未 添 加 のKorthof培 地 で レ プ トス

ピ ラを10,000rpm,30分 遠 沈 に よ り3回 洗 浄 した.

最 終 的 に1ml当 り1,0~3.0×108個 に な る よ う

に生 理 食 塩 液 に浮 遊 させ た.次 い で,こ れ を0.05%

ホ ル マ リ ンで 不 活 化 し,マ ウ ス1匹 に つ き0.5ml

を5日 間 隔 で4回 腹 腔 内 へ 接 種 し,基 礎 免 疫 と し

た.そ れ よ り5~9日 の 間 に 同 様 の 洗 浄i操 作 を

行 っ た の ち,1m1当 り2.5~7.5×108個 に な る よ

う生 理 食 塩 液 で調 整 した レプ トス ピ ラ浮 遊 液 を 作

製 し,ホ ル マ リン を 加 えず,マ ウス1匹 につ き0.2

mlを 静 注 し最 終 免 疫 と した.4一 部 の マ ウス は 最 終

免 疫 後10日 目 に 採 血 し,血 清 を 分 離 し た の ち,-

20℃ に 保 存 し免 疫 マ ウ ス血 清 と した.

5.モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 の作 製

5.1.脾 細 胞 の調 製

最 終 免 疫 の3日 後 に脾 を 摘 出 し,藤 原 ら16)の方

法 に 準 じ,脾 細 胞 浮 遊 液 を 作 製 した.す なわ ち,

免 疫 マ ウス2匹 を 脱 血 した の ち,無 菌 的 に脾 を取

り出 し,血 清 未 添 加 のEagle培 地 のDulbecco修

正 最 低 必 須 培 地(D'MEM)を 入 れ た シ ャー レ中

に 入 れ た.次 い で,ス テ ン レ ス ・ス チ ール メ ッ シ ュ

#200の 上 に の せ,ス パ ー テル で メ ッシ ュを軽 く押

しな が ら脾 を つ ぶ し,適 宜D'MEMを 加 え て細 胞

を洗 い 出 し,遠 心 管 に 集 め た.次 い で1000rpm,5

分 間 遠 沈 を3回 繰 り返 して 洗 浄 す る と.2~3×

108個 の脾 細 胞 が 得 られ,こ れ をD'MEM20mlに

浮 遊 させ た 。

5.2.45%ポ リエ チ レン グ リコ ール 液17)

ポ リエ チ レ ン グ リ コ ー ル(PEG分 子 量4000,

Sigma)9gにD'MEMを 加 え て 最 終 容 量 が20m1

に な る よ うに した.2NNaOHに よ りpH7.3に 補

正 し,ミ リポ ア フ ィル タ ー(pore size 0.45μm)

を 用 い て 炉 過 滅 菌 し,4℃ に保 存 した.

5.3.HT培 地,HAT培 地

HT培 地 は,RPMI1640培 地 に20%FCS,2mM

グ ル タ ミン,10-4Mヒ ポ キ サ ンチ ン,1.6×10-5M

チ ミジ ン,ス トレ プ トマ イ シ ン100μg/ml,ペ ニ シ

リソG100U/mlの 割 合 で 加 え た17).HT培 地 に

0:4μMア ミノ ブ テ リン を 加 え てHAT培 地 を 作

製 した18).

5.4.細 胞 融 合

細 胞 融 合 に際 して は,前 日に 新 し い培 養 液 と交

換 して お いたAg8.653細 胞 を,D'MEMで1000

rpm,5分 間遠 沈 し,2回 洗 浄 した.脾 細 胞 と,Ag

8.653細 胞 が10対1の 割 合 に な る よ うに調 製 し,プ

ラス チ ック チ ュ ー ブ(Falcon2070)で よ く混 和 後,

1000rpm,5分 間 遠 沈 した.沈 渣 に45%(W/V)

ポ リエ チ レ ン グ リ コ ール1mlを 約1分 間 か け て

徐 々 に 加 え,37℃ で7分 間 静 置 した.次 い で,D'

MEM15m1を 約5分 間 か け て 徐 々 に 加 え て 反 応

を停 止 させ,さ ら にD'MEM25mlを 追 加 した の

ち 遠 沈 し,上 清 を 吸 引 した.あ らか じめ37℃ に 加

温 して お い たHT培 地 に,Ag8:653細 胞 が1ml

あ た り1×106個 とな る よ うに沈 渣 を 浮 遊 さ せ た:

96穴 平 底 マ イ ク ロ プ レー ト(Falcon3040)に 各 穴

あ た り0.05mlず つ 分 注 し,5%CO2,37℃ で培 養

した.細 胞 融 合 後24時 間 目 に,2倍 量 の ア ミノ ブ

テ リン を含 むHAT培 地 を0.05mlず つ 追 加 し,さ

らに5日 後 に も,通 常 量 の ア ミノ ブテ リン を 含 ん

だHAT培 地 を0.1m1追 加 し た.細 胞 融 合 後

10~14日 目に,コ ロ ニ ーの 増 殖 が 認 め られ る よ う

に な った 穴 の 上 清 を0.1mlと り,顕 微 鏡 的 凝 集 反

応19)で抗 体 の 有 無 を調 べ た.

昭和58年5月20日 397

5.5.ハ イ ブ リ ドー マ の ク ロ ー ニ ン グ お よ び 維

抗 体 産 生 が 認 め ら れ た 細 胞 は,限 界 希 釈 法 に

よ って ク ロー ニ ン グ を行 った.す なわ ち,4~5

週 齢 のBALB/c系 マ ウ ス の胸 腺 を と り,先 に述 べ

た 脾 細 胞 の調 製 法 に 準 じて胸 腺 細 胞 の浮 遊 液 を 作

製 し た.次 い で1000rpm,5分 間 遠 沈 し てD'

MEMで3回 洗 浄 し,胸 腺 細 胞 が1m1あ た り1

~2×107個 と な る よ うに20%FCS加HT培 地 に

浮 遊 させ,こ れ を96穴 平 底 マ イ ク ロプ レ ー トに0.1

mlず つ 分 注 し,feederlayerを 作 製 した.ハ イ ブ

リ ドー マ は1m1あ た り6個 と な る よ うに 希 釈

し,1穴 あ た り0.1m1ず つ 分 注 した.ク ロー ニ ン グ

後10日 目 頃 か ら コ ロ ニ ー が 認 め ら れ る よ うに な

り,1コ ロ ニ ー のみ が 認 め られ る穴 の 上 清 を顕 微

鏡 的 凝 集 反 応 で 検 索 し,抗 体 陽 性 の コ ロ ニ ー は再

度,前 述 と同様 の 方 法 で ク ロー ニ ング した.

2度 ク ロー ニ ン グ を行 って 増 殖 して きた 抗 体 産

生 ハ イ ブ リ ドー マ は,24穴 平 底 プ レ ー ト(Nunc

168357),次 い で,10m1の プ ラ ス チ ック培 養 フ ラ ス

コ(Falcon3013)に 移 して 大 量 培 養 し,上 清 を-

20℃,細 胞 を-80℃ に保 存 した.さ らに,一 部 の

細 胞 は,あ らか じめ7~10日 前 に プ リス タ ソ(2,

6,10,14-tetramethylpentadecane)0.5m1を 腹 腔

内 注 射 し て お い たBALA/c系 マ ウ ス の 腹 腔 内

に,ハ イ ブ リ ドー マ2×107個/mlを0.5ml接 種

し,約2週 間 後 に腹 水 を 採 取 した.

6.顕 微 鏡 的 凝 集 反 応

免 疫 マ ウ ス血 清,ハ イ ブ リ ドーマ 培 養 上 清,な

ら び に 腹 水 の 抗 体 価 の 測 定 に は,Schuffner-

Mochtar19)法,あ るい は,そ の変 法 に よ る顕 微 鏡 的

凝 集 反 応20)を 用 い た.す なわ ち,継 代 後7~14日 目

の レ プ トス ピ ラ を ほ ぼ5×107/mlに 調 整 し,小 試

験 管 また は,12穴 の 絵 具 皿 に0.05~0.1ml入 れ,こ

れ に 等 量 の被 検 液 を加 えて よ く混 和 し,37℃ に2

~3時 間 静 置 後,暗 視 野 顕 微 鏡 で検 鏡 した.判 定

は,50%以 上 の レプ トス ピ ラ の減 少 を も って 陽 性

と した.

7.染 色 体 分 析

対 数 増 殖 期 に あ るAg8.653細 胞 お よ び 抗 体 産

生 ハ イ ブ リ ドー マ の 細 胞 浮 遊 液 に,最 終 濃 度 が

0:07μg/mlに な る よ うに コル セ ミ ド(GIBCO)を

加 え,120分 間 静 置 した.次 い で,細 胞 浮 遊 液 を1000

rpm,5分 間 遠 沈 し,上 清 をす て,沈 渣 に0.075M

KCLを 加 え て細 胞 を 浮 遊 させ,37℃,10分 間低 張

処 理 を した.そ の後 遠 沈 し,沈 渣 を少 量 の0.075M

KCLに 浮 遊 させ,た だ ち に低 張 液 の10-20倍 の 固

定 液(メ タ ノ ール3:氷 酢 酸1の 混 合 液)を 加 え,

15分 間 静 置 した.さ らに,再 び遠 沈 後,沈 渣 を 少

量 の 固 定 液 に 再 浮 遊 させ,ス ラ イ ドガ ラス 上 に油

下 し,炎 乾 燥 し,ギ ム ザ染 色 を 施 し て標 本 を 作 製

し,中 期 核 分 裂 像 を 鏡 検 した.お の お の の ハ イ ブ

リ ドー マ につ い て30個 の 分 裂 像 に つ き算 定 し,平

均 値,標 準 偏 差 を 算 出 した.

8.モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 の 免 疫 グ ロ ブ リ ン ク ラ

ス ・サ ブ ク ラ ス

2度 ク ロ ー ニ ン グ を 行 った 後 の抗 体 産 生 ハ イ ブ

リ ドー マ の培 養 上 清 を50%飽 和 硫 酸 ア ンモ ニ ウ ム

(pH7.1)塩 析 法 に よ り,約50倍 に濃 縮 した.抗 マ

ウ スーIgG1,IgG2a, IgG2b,AgG3,IgM, IgA,x鎖,

λ 鎖-家 兎 血 清(Miles)を 用 い,micro-Ouchter-

lony法 に よ り同定 した.

III.成 績

本 研 究 で は,細 胞 融 合 法 に よ り作 製 した ハ イ ブ

リ ドー マ か ら産 生 され る モ ノク ロ ーナ ル 抗 体 の う

ち,抗 白水 抗 体 はSHIRMA,抗M20抗 体 はM20

MA,抗RGA抗 体 はRGAMAと 名 づ け た.抗 白

水 抗 体 は,SHIRMA-1~10の10系 統 抗M20抗 体

はM20MA-1~5の5系 統,抗RGA抗 体 は

RGAMA-1~5の5系 統 合 計20系 統 の 抗 体 産 生

ハ イ ブ リ ドー マが 得 られ た(Table2) .

1.ハ イ ブ リ ドー マ の 染 色 体 数

ハ イ ブ リ ドー マの 染 色 体 数 は,Table2に 示 す

よ うに,平 均81.7か ら90.4で,標 準 偏 差 は2倍 を

と り8.4か ら17.8,範 囲 は70か ら114で あ った.

Ag8.653細 胞 の染 色体 は56.5±9.4,範 囲 が49か ら

76で,マ ウ ス体 細 胞 の 染 色 体 数 は40で あ る の で,

ハ イ ブ リ ドー マ の染 色 体 数 はAg8.653細 胞 と,マ

ウス の 染 色 体 を 加 え た 価 に ほ ぼ 等 し くな っ て い

た.

2.モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 の 免 疫 グ ロ ブ リ ン ク ラ

ス ・サ ブ ク ラ ス の 同定

398 感染症学雑誌 第57巻 第5号

Table 2 Hybridomas producing monoclonal anti-Shiromizu, anti-

M20 and anti-RGA antibodies

Legend: Chromosome of P 3 X 63 A g 8, 653: Mean•}2 SD = 56.5•}9.4,

Range = 49-76

The titer is expressed as the reciprocal of dilution

-=negative or less than 1:10

SHIRMA: anti-Shiromizu monoclonal antibody

M 20 MA: anti-M20 monoclonal antibody

RGAMA: and-RGA monoclonal antibody

モ ノ ク ロ ーナ ル 抗 体 の 免 疫 グ ロ ブ リ ン は,mi-

cro-Ouchterlony法 に よ り検 討 した 結 果,IgG1が

2系 統,IgG3が9系 統IgMが8系 統,IgAが1

系 統 で あ り,IgG2aとIgG2bは 認 め られ な か った.

またLi鎖 は20系 統 す べ て がx型 で あ った(Table

2).

3.免 疫 株 に対 す る培 養 上 清 お よ び 腹 水 の抗 体

免 疫 株 に 対 す る抗 体 価 は,培 養 上 清 に お い て は,

10倍 か ら5,120倍 で あ っ た.プ リス タ ン処 置 マ ウ ス

の腹 腔 内 ヘ ハ イ ブ リ ドー マ を接 種 し て得 られ た 腹

水 に お い て は,SHIRMA-9とM20MA-4で は 凝

集 が 認 め られ な くな った が,そ の他 の18系 統 で は

1,280倍 か ら327,680倍 と,上 清 に比 べ て4な い し

4,096倍 高 い抗 体 価 を 示 し た(Table2).

4.免 疫 マ ウス血 清 の 血 清学 的 性 状

抗 白水,抗M20,抗RGA免 疫 マ ウ ス血 清 は,

い ず れ も,白 水 株,M20株,RGA株,Ictero1株

の す べ て に 反 応 し,こ れ ら4株 に 対 し て は2倍 よ

り以 上 の 抗 体 価 の差 は 認 め られ ず,ほ ぼ 同 じ抗 体

価 を示 した.し か し,本 研 究 で 用 い た そ れ ら以 外

の 血 清 型 の レ プ トス ピ ラ に は 反 応 が 認 め ら れ な

昭和58年5月20日 399

400 感染症学雑誌 第57巻 第5号

か った(Table3).

5. ハ イ ブ リ ドー マ腹 水 の血 清 学 的 性 状

5.1. 抗 白水 モ ノ ク ロ ー ナ ル抗 体

抗 白 水 抗 体 の う ち,SHIRMA-1は,serovar

copenhageni白 水 株,M20株 に40,960倍 とい う高

い 抗 体 価 で 反 応 を 示 し た が,serovar ictero-

haemorrhagiae RGA株,Ictero1株 の み な らず,

他 の血 清 型 の もの に は10倍 以 下 で あ り,反 応 は認

め られ なか っ た.ま た,SHIRMA-2,3は 白水 株,

M20株 の 抗 体 価 と比 較 し て,そ れ ぞ れ1/32,1/128

の価 でRGA株,Ictero1株 に も反 応 が 認 め られ

た.し か し,そ れ 以 外 の 血 清 型 の もの に は反 応 し

な か った.SHIRMA-4~10は,白 水,M20,RGA,

Ictero1の4株 に反 応 した.こ れ らの うち,SHIR-

MA-8,9はserovar icterohaemorrhagiaeに2

~4倍 高 い 価 で 反 応 した が,他 の モ ノ ク ロ ーナ ル

抗 体 は,2倍 よ り以上 の 差 は な く,ほ ぼ 同 じ価 で

反 応 し,特 にSHIRMA-6は4株 に 同 じ価 で反 応

が 認 め られ た(Table3) .な おSHIRMA-9は 腹

水 で抗 体 価 が 認 め られ な か った た め 培 養 上 清 の 価

を 示 し た.他 の ハ イ ブ リ ドー マ 培 養 上 清 で は,

SHIRMA-2,3でRGA株,Ictero1株 に反 応 が

認 め られ な か った が,こ れ は培 養 上 清 の抗 体 価 が

腹 水 の そ れ に 比 べ て低 か った こ とに よ る と思 わ れ

る.そ の他 の 培 養 上 清 は 腹 水 とほ ぼ 同 様 の類 属 反

応 が 認 め られ た.

5.2. 抗M20モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体

M20MA-1は,白 水 株,M20株 に そ れ ぞ れ

81,920倍,40,960倍 で 反 応 し,RGA株,Ictero1

株 に は5,120倍 と免 疫 株 の1/8の 価 で反 応 した が,

さ らに,serovar pyrogenes Salinem株 に も5,120

倍 で反 応 が 認 め られ た.M20MA-2は2倍 以 内 の

差sM20MA-3は 同 じ価 で4株 に反 応 した.M20

MA-4は 培 養 上 清 を 示 した が,白 水 株,M20株 に は

同'じ価,RGA株 に2倍,Ictero1株 に は8倍 高 い

価 で 反 応 した.M20MA-5は,免 疫 株 のM20に

5,120倍,同 じ血 清 型 の 白 水 株 に は320倍 と低 い 価

で 反 応 した の に対 して,RGA株,Ictero1株 に は

そ れ ぞ れ,81,920倍 と免 疫 株 の16倍 の 高 い価 を 示

した(Table3).ハ イ ブ リ ドー マ培 養 上 清 で は

M20MA-1でIctero1株 に,ま たM20MA-5で

白水 株 に 対 して反 応 が み られ な か った 以外 は,腹

水 とほ ぼ 同 様 の類 属 反 応 が認 め られ た.

5.3. 抗RGAモ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体

RGAMA-1,2は,RGA株,Ictero1株 に そ れ

ぞ れ10,240倍,40,960倍 と高 い 価 で 反 応 した が,

白水 株,M20株 の み で な く,他 の 血 清 型 の もの に

は10倍 以 下 で あ り反 応 は 認 め ら れ な か った.

RGAMA-3,4は,白 水 株,M20株 に 対 し て も,RGA

株,Ictero1株 と比 較 して そ れ ぞ れ1/256,1/1024

と 低 い 価 な が ら 反 応 が 認 め ら れ た.他 方,

RGAMA-5は,白 水,M20,RGA,Ictero1の4

株 に2倍 以 内 の 価 で反 応 が 認 め られ た が,さ らに,

serovar pyrogenes Salinem株 とserovar

canicola Hond UtrechtIV株 に もそ れ ぞ れ

81,920倍,10,240倍 の 高 い価 で 反 応 し た(Table

3).ハ イ ブ リ ドー マ培 養 上 清 で も,RGAMA-3,4

は 白 水 株,M20株 に反 応 が み られ な か った が,こ

れ らは 抗 体 価 の 高 さ と も関連 し,そ の 他 の 抗 体 は

腹 水 とほ ぼ 同様 の 類 属 反 応 が 認 め られ た.

6. モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 に よ る レ プ トス ピ ラ凝

集 反 応 の 所 見

従 来 の 免 疫 ウサ ギ 血 清 に よ る凝 集 反 応 所 見 は,

血 清 希 釈 倍 数 が 低 い と こ ろ で は 比 較 的 粗 い 大 き な

凝 集 塊 が 認 め られ,希 釈 が 高 くな る に従 って 密 な

凝 集 塊 とな り,上 清 に は レプ トス ピ ラが ほ とん ど

認 め られ な くな り,更 に 希 釈 が進 む と遊 離 の レ プ

トス ピ ラが 増 加 して く る とい う所 見 が 認 め られ

る.こ れ に対 して モ ノ ク ロ ー ナ ル抗 体 を 用 い て 凝

集反 応 を行 った 場 合 に は,通 常 の免 疫 ウサ ギ血 清

を 用 い た 場 合 に み られ る よ うな大 きな 粗 い 凝 集 塊

を 認 め る も の や,凝 集 像 は ほ とん ど認 め られ ず,

レ プ トス ピ ラの 数 が 減 少 した 所 見 の ほ か に,特 徴

あ る凝 集 像 と して,レ プ トス ピ ラが ひ も状 に非 常

に長 く連 な る所 見 が し ば しぼ 認 め られ た .ま た 抗

体 の 希 釈 倍 数 の 高 い 所 で は凝 集 像 が 明 らか で あ る

が,そ の 幅 が 免 疫 ウサ ギ血 清 に 比 べ て狭 く,希 釈

倍 数 が低 くな る に つ れ て 凝 集 像 が 消 失 し,ほ と ん

ど対 照 と同 じ所 見 を 示 す 場 合 も多 く認 め られ た.

これ らの凝 集 所 見 は,同 じ レプ トス ピ ラ の株 を 用

い た 場 合 ほ とん ど常 に 同 じで あ る が,同 じ抗 体 を

用 い て も,レ プ トス ピ ラ株 が 異 な る と所 見 が異 な

昭和58年5月20日 401

る場 合 が あ った.

IV. 総 括 な らび に考 察

本 研 究 で は,ワ イ ル 病 病 原 レ プ トス ピ ラに 対 す

る モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 細 胞 融 合 法 に よ り作 製

し,そ の 性 状 の 検 討 を 行 った.

得 られ た20系 統 の モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 の うち,

SHIRMA-1は,免 疫 株 の 白 水 株 に40,960倍,

RGAMA-1,2はRGA株 に そ れ ぞ れ10,240倍,

40,960倍 と 高 い 抗 体 価 を 示 し た が,serovar

copenhageniとicterohaemorrhagiaeの 間 で 類

属 反 応 は 全 く認 め られ ず,ま た 他 の血 清 群 の もの

に も反 応 は認 め られ な か った.

ま た,SHIRMA-2,3お よびRGAMA-3.4はser-

ovar copenhageniとicterohaemorrhagiaeと に

反 応 した が,そ れ らの 血 清型 の 違 い に よ って 抗 体

価 に著 しい 差 が 認 め られ た.す な わ ち,SHIRA-2,

3は 免 疫 株 の 白水 株 と,同 じ血 清 型 に属 す るM20

株 に は 高 い 価 で 反 応 し た が,RGA株 とIctero1

株 に は そ の 価 の そ れ ぞ れ1/32,1/128の 価 を示 し

た.ま たRGAMA-3,4で は,免 疫 株 のRGA株 と,

同'じ血 清 型 のIctero1株 に 高 い価 で 反 応 した が,

白水 株 とM20株 に 対 して は,そ れ ぞ れ1/256,1/

1024と い う低 い価 を 示 した.こ の よ うな抗 体 価 に

著 し い差 が 認 め られ た 抗 体 で は,ハ イ ブ リ ドー マ

培 養 上 清 の よ う な低 い 抗 体 価 の 材 料 に よ る場 合

は,類 属 反 応 が 認 め られ な い こ とが あ った.

他 方,SHIRMA-4~10,M20MA-2~4は,

serovar copenhageniとicterohaemorrhagiaeの

4株 に対 して す べ て2~4倍 以 内 の 差 で反 応 し,

これ ら両 血 清 型 の共 通 抗 原 に対 す る抗 体 の 性 状 を

示 した.

ま た,M20MA-5は 免 疫 株 のM20株 に5,120倍,

同 じ血 清 型 に 属 す る 白水 株 に320倍 と低 い価 で 反

応 した の に 対 し て,異 な る 血 清 型 のRGA株 と

Ictero1株 に は81,920倍 と高 い価 で反 応 す る とい

う性 状 を 示 した.

さ ら に,M20MA-1,RGAMA-5は,serovar

copenhageniとicterohaemorrhagiaeと に 反 応

す る の み で な く,前 者 はserovar pyrogenes,後 者

* serovar pyrogenesとcanicolaに も 反 応 が 認

め られ た.M20MA-1はRGA株,Ictero1株,

serovar pyrogenes Salinem株 に 対 して 抗 体 価 が

低 く,い ず れ も免 疫 株 のM20株 に対 す る価 の1/8

を 示 し た.RGAM-5は,免 疫 株 のRGA株 に

81,920倍 で反 応 し,serovar icterohaemorrhagiae

とcopenhageniの4株 お よ びSalinem株 に は ほ

ぼ 同 じ 価 で 反 応 が 認 め ら れ た が,serovar

canicola Hond UtrechtIV株 に は1/8の 価 を 示 し

た.こ れ ら の血 清 型 に対 す る 類 属 反 応 は免 疫 家 兎

血 清 で は み られ るが,マ ウス 免 疫 血 清 で は,通 常

み られ な い.こ の よ うな血 清 学 的 性 状 を示 す 抗 体

が 得 られ た こ とは,マ ウ ス で もserogroup Ictero-

haemorrhagiae以 外 の 血 清 群 に 対 す る抗 体 を 産

生 す る ク ロ ー ンの 存 在 を 証 明 しえ た もの で あ る.

また,こ の よ うな 血 清 学 的 性 状 は,serovar copen-

hageniとicterohaemorrhagiaeがserovar

pyrogenesやcanicolaと 血 清 学 的 に 近 い 関 係 に

あ る こ とを証 明 す る も の で あ る.

従 来,レ プ トス ピ ラ の血 清 型 の 同定 は,免 疫 家

兎 血 清 を 用 い て 交 叉 吸 収 試 験 に よ っ て行 わ れ て き

た9)21).す なわ ち,十 分 な量 の異 な る株 で 免 疫 血 清

中 の 抗 体 を 吸収 後,免 疫 株 に対 す る抗 体 価 が 常 に

10%な い しそ れ 以上 残 っ て い る場 合,そ れ らは 異

な った血 清 型 に属 す る と定 義 づ け られ て い る.そ

して 当初 は 吸 収 後 の 抗 体 価 の残 りが 相 互 に10%な

い しそ れ 以 上 必 要 で あ った が,現 在 で は,少 な く

と も片方 に10%な い しそ れ 以 上 あ れ ば そ れ らは 異

な っ た血 清 型 とす る こ と に改 め られ た21).し か し,

こ の方 法 も,免 疫 血 清 と吸 収 抗 原 との 量 的 関 係 が

重 要 で,過 剰 の 抗 原 を加 え る と非 特 異 的 吸 収 の 可

能 性 が あ り,さ ら に詳 細 な 検 討 が必 要 と され て い

た21).こ の よ うな レ プ トス ピ ラの 同 定 法 に比 べ て,

SHIRMA-1,RGAMA-1,2に 代 表 さ れ る血 清 型 特

異 性 の 高 い モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 用 い る 同 定 法

は,確 実 で しか も容 易 で あ り,抗 原 分 析 に は ま さ

に 画期 的 方 法 と考 え られ る.

ワ イル 病 の 病 原 体 は,1915年 に稲 田 と井 戸1)に

よ ってL.icterohqemorrhagiaeが 発 見 され た.そ

の後,1938年 にBorg-Petersen2)は そ れ を2亜 血 清

型 に 分 け て 完 全 型(AB)と 不 完 全 型(A)と した

が,そ れ ら の 国 際 的 な 代 表 株 と し て,前 者 に は

M20株,後 者 に はRGA株 が 用 い られ て き た7).

402 感染症学雑誌 第57巻 第5号

1960年 代 に 入 り,病 原 性 レ プ トス ピ ラが,L.inter-

rogansと し て一 括 され る と と も に7),そ の 分 類 も

す で に 述 べ た よ うに,亜 血 清 型 を廃 止 して これ ら

を そ れ ぞ れ 独 立 した血 清 型 と して取 り扱 う こ と に

な っ た.こ の よ うな こ と に併 っ て.従 来 のL,icter-

ohaemorrhagiae ABはL.interrogans serovar

copenhageniと な り,L.icterohaemorrhagiae A

はL.interrogans serovar icterohaemorrhagiae

と し て,二 つ の 異 な った 血 清 型 に 分 け て 扱 わ れ る

こ とに な った.し か しな が ら,そ れ ら二 つ の血 清

型 に対 して 作 製 した モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 の性 状 を

み る と,serovar copenhageniに はSHIRMA-1

が,serovar icterohaemorrhagiaeに はRGAMA-

1,2が そ れ ぞ れ 型 特 異 的 に反 応 を 示 す こ とか ら,両

者 は 従 来 報 告 され て い た よ うな完 全 型(AB)と 不

完 全 型(A)と の 関 係 で は な くて,そ れ ぞ れ が 固 有

の 抗 原 と,両 者 に共 通 な 抗 原 とを持 って い る こ と

が 明 らか に な った.

ワ イル 病 病 原 体 の血 清 型 は,従 来 の よ うに一 括

してL.icterohaemorrhagiaeと し,抗 原 性 の相 異

は亜 血 清 型 と して 取 り扱 う方 が 臨 床 的 に は 便 利 の

よ うに 思 わ れ るが,現 在 の よ うにそ れ らを そ れ ぞ

れ独 立 の 血 清 型 と し て取 り扱 うよ うに な る と,患

者 や 動 物 か ら分 離 され た レ プ トス ピ ラの 同 定 は,

す べ て 煩 雑 な 吸収 試 験 を必 要 とす る.こ の よ うな

臨 床 的 あ る い は疫 学 的 観 点 か ら も,血 清 型 特 異 性

の高 い モ ノク ロ ーナ ル 抗 体 に よ る分 離 株 の 迅 速 な

同定 は きわ め て有 用 性 が 高 い もの と思 わ れ る.

顕 微 鏡 的 凝 集 反 応 に お け る レ プ トス ピ ラの 凝 集

所 見 は,融 合 細 胞 の 系 統 に よ って ほ ぼ一 定 した 様

式 を示 す が,従 来 の 患 者 血 清 や 免 疫 動 物 血 清 に よ

る反 応 所 見19)20)とは 異 な る も の と して,レ プ トス

ピ ラが ひ も状 に密 に 凝 集 し て非 常 に長 くな って い

る所 見 が し ば しぼ 見 られ た.こ の よ うな所 見 は,

レ プ トス ピ ラの 抗 原 決 定 基 の 分 布 に よ るた め か,

あ る い は 抗 体 が レ プ トス ピ ラ相 互 間 を密 に 凝 集 し

た 結 果 と も考 え られ る.

さ らに,反 応 域 の 問 題 と して,従 来 の 免 疫 動 物

血 清 や 患 者 回復 期 血 清 の よ うな ポ リク ロ ー ナ ル な

血 清 で は,か な り抗 体 価 の 高 い血 清 を 用 い た場 合,

血 清 の 高 濃 度 領 域 で も,そ の 所 見 が対 照 と全 く同

様 とい う こ とは な い が,モ ノ ク ロ ー ナル 抗 体 で は,

抗 体 の 系 統 に よ って は反 応 域 の 幅 が比 較 的 狭 い も

の が あ り,こ の よ うな抗 体 で は,抗 体 過 剰 の 部 分

で は,対 照 群 との 間 に差 が み られ な い こ とが あ っ

た.こ の よ う な 現 象 は 前 地 帯 現 象(prozone

phenomenon)と いわ れ る も の で,モ ノ ク ロ ー ナ ル

抗 体 は1つ の抗 原 決 定 基 との み 結 合 す る抗 体 と考

え られ るた め に,従 来 の顕 微 鏡 的 凝 集 反 応 で は著

明 で な い この よ うな現 象 が,レ プ トス ピ ラ に対 す

る モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 用 い た 反 応 で 観 察 さ れ

た.こ の よ うな こ と は,モ ノ ク ロー ナ ル 抗 体 の ス

ク リー ニ ン グ試 験 や,定 量 的 に 抗 体 価 と測 定 す る

場 合 に,判 定 を誤 ら な い よ うに と くに 注 意 す る必

要 が あ る と思 わ れ る.

従 来 の 家 兎 あ る い は マ ウス の血 清 は,本 研 究 で

得 られ た モ ノ ク ロ ーナ ル 抗 体 の 混 合 物 に相 当 す る

抗 体 群 で あ り,こ の よ うな抗 血 清 を 用 い て の 抗 原

分 析 に は お のず か ら限 界 が あ った.今 後,こ れ ら

の モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 な らび に 異 な っ た レ プ トス

ピ ラ株 か ら作 製 した モ ノク ロ ーナ ル 抗 体 を 用 い て

比 較 検 討 す る こ とに よ っ て,さ ら に多 くの レ プ ト

ス ピ ラの 血 清 学 的 な 類 縁 関 係 が 明 らか に な る も の

と思 わ れ る.

本研究 は,1982年4月,第56回 日本感染症学会 および,

第19回 レプ トス ピラシンポジウムにおいて報告 した.

文 献

1) 稲 田竜吉, 井戸 泰: ワイル氏病病原体-新 種 ス

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昭和58年5月20日 403

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14) 吉 田雅 喜, 小 野 悦 郎, 梁 川 良, 喜 田 宏: Heb-

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404 感染症学雑誌 第57巻 第5号

Characterization of Monoclonal Antibodies AgainstCausal Organisms of Weil's Diseas

Tomonori TAMAIThe First Department of Internal Medicine, School of Medicine, Ehime University, Ehime, Japan

Monoclonal antibodies against causal organisms of Weil's disease were produced by the somatic cellhybridization technique. Leptospira interrogans serovar copenhageni Shiromizu and M 20 strains andserovar icteroharmorrhagiae RGA strain were used as immunogens. Twenty monoclonal antibodies wereestablished; 10 anti-Shiromizu monoclonal antibodies, 5 and-M 20 monoclonal antibodies and 5 anti-RGA monoclonal antibodies. In oder to clarify the immunological characteristics of these antibodies,

microagglutination titers of these 20 monoclonal antibodies against the following 12 strains wereestimated; serovar copenhageni Shiromizu and M 20, serovar icterohaemorrhagiae RAG and Ictero 1,serovar javanica Verdrat Batavia 46, serovar canicola Hond Utrecht IV, serovar pyrogenes Salinem,serovar autumnalis Akiyami A, serovar Pomona Pomona, serovar australis Ballico, serovar grippotyphosaMoskva V and serovar hebdomadis Ballico, serover grippotyphosa Moskva V and serovar hebdomadishebdomadis.

According to the patterns of the microagglutination titers, 20 monoclonal antibodies were diviedeinto following types.

1. Anti-Shiromizu monoclonal antibodies.1) One monoclonal antibody reacted only to serovar copenhageni.2) Two monoclonal antibodies reacted to serovar copenhageni in a high titer and serovar ic-

teroharmorohagiae in a low titer.3) Seven monoclonal antibodies reacted to both serovars in almost the same titer.2. Anti-M 20 monoclonal antibodies.1) Three monoclonal antibodies were reactive to serovar copenhageni and serovar ic-

terohaemorrhagiae in almost the same titer.2) One monoclonal antibody was reactive to serovar copenhageni in a low titer and serovar ic-

terohaemorrhagiae in a high titer.3) One monoclonal antibody was reactive not only to serogroup Icterohaemorrhagiae but also

serovar pyrogenes.3. Anti-RGA monoclonal antibodies.1) Two monoclonal antibodies reacted only to serovar icterohaemorrhagiae.2) Two monoclonal antibodies reacted to serovar icterohaemorrhagiae in a high titer and serovar

copenhageni in a low titer.3) One monoclonal antibody reacted not only to serogroup Icterohaemorrhagiae but also to serovar

pyrogenes and serovar canicola.It is suggested that serovar copenhageni and serovar icterohaemorrhagiae are closely related to

serovar pyrogenes and serovar canicola. Serologically, serovar copenhageni has been classified as acomplete type and serovar icterohaemorrhagiae has been classified as a incomplete type, but it is in-dicated that each serovar has it's own antigen (s) and the common antigens.

As for the findings of agglutination, some of these 20 monoclonal antibodies exhibited uniqueagglutination patterns in which leptospira agglutinated like a long piece of string. Some of thesemonoclonal antibodies which had a narrow reactive range showed the remarkable prozone phenomenon.

Monoclonal antibodies which react to only serovar copenhageni or serovar icterohaemorrhagiae andmonoclonal antibodies which react to these two serovars may be useful for identification of causalorganisms of Weil's disease.