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代数学・幾何学序論
松本 圭司 (Keiji Matsumoto)
北海道大学 大学院理学研究院 数学部門
平成 25年度前期月曜 IIコマ, 理学部5号館 5-301, ver. 2012.05.10
1 履修に関して
成績は 試験での得点, レポートの内容, 出席状況 により評価を行う. な
お, 講義に関する連絡事項は
http://www.math.sci.hokudai.ac.jp/̃ matsu/L251.html
を参照せよ. 休講および試験通知, 評価基準, 成績分布, レポート問題, 等
を公開する予定. 連絡先は
研究室:理学部4号館4階 4-407, 電話番号: 011-706-2675
e-mail: matsu@math.sci.hokudai.ac.jp
レポートの提出先は, 理学部3号館3階の数学事務室前にある代数学・
幾何学序論用のレポート受付ボックス No. 3.
講義の内容は, 複素数, 集合と写像の基礎, 空間内の図形(直線, 平面,
球面)の方程式 ついて解説する.
教科書: 特に指定しない (適当なものが存在しない).
複素数に関する参考文献:
• 斉藤正彦著 線型代数入門 附録 III §4.
集合と写像の基礎に関する参考文献:
• 松坂和夫著 集合・位相入門 第1章.
空間内の図形の方程式に関する参考文献:
• 斉藤正彦著 線型代数入門 第1章.
1
2 複素数
2.1 複素数体の構成
高校では, 2乗すると −1 となる架空の数 i の存在を仮定 して, 複素数
の集合 C = {a+ bi | a, b ∈ R} を定めた.
しかし, 仮定が偽の命題は結論がすべて真 となってしまうので, i の存
在を仮定したままではいけない. そこで2乗すると −1 となる数を既知
のものから具体的に構成する.
二つの実数の組 (a, b) が一つの元となる集合
R2 = {(a, b) | a, b ∈ R}
に以下のように和と積を定める.
(a, b) + (c, d) = (a+ c, b+ d), (a, b)× (c, d) = (ac− bd, ad+ bc).
この和と積に関して, 交換法則, 結合法則, 分配法則 が成立する.
集合 R2 の特別な二つの元 (0, 0) と (1, 0) は, R2 の任意の元 (a, b) に
対して
(0, 0) + (a, b) = (a, b), (1, 0)× (a, b) = (a, b)
をみたす. (0, 0) を和に関する単位元 といい, (1, 0) を積に関する単位元
という.
和に関しては, 任意の元 (a, b) に対して (−a,−b) は (a, b)+ (−a,−b) =
(0, 0) をみたす. (−a,−b) を (a, b) の和に関する逆元 という.
積に関しては, (0, 0) でない任意の元 (a, b) に対して
(a, b)×( a
a2 + b2,
−b
a2 + b2
)= (1, 0)
をみたす.( a
a2 + b2,
−b
a2 + b2
)を (a, b) の積に関する逆元 という.
任意の元 (a, b) に対して (0, 0) × (a, b) = (0, 0) ̸= (1, 0) となるので
(0, 0) には積に関する逆元は存在しない.
注意 1 一般に集合 X に 前記の性質をみたす和と積が定義されたときに
集合 X は体となる という.
2
R2 の部分集合 {(a, 0) | a ∈ R} はこの和および積に関して閉じている.
つまり
(a, 0) + (b, 0) = (a+ b, 0), (a, 0)× (b, 0) = (ab, 0)
となる. この集合は 和と積の構造まで込めて実数の集合 R と同じ ものと考えられるので, (a, 0) を単に a と表すことにする.
さらに R2 の任意の元 (a, b) に対して
(a, b) = (a, 0)× (1, 0) + (b, 0)× (0, 1)
なので (0, 1) を i で表す とR2 の任意の元 (a, b) は a+ bi で表す ことが
できる.
このように表記した元を複素数と呼び, 複素数全体の集合を C で表すことにする. この定義のもとで
i2 = (0, 1)× (0, 1) = (0× 0− 1× 1, 0× 1 + 1× 0) = (−1, 0) = −1
となっている.
2乗すると −1 となる 架空の数の存在を仮定しない で, 実数の集合 Rより大きい集合 R2 に複素数の和と積に対応している和と積を定義する
ことで 2乗すると −1 となる数を構成していることに注意してほしい.
複素数 z = x + yi に対して x を z の実部 といい Re(z) で表し, y を
z の虚部 といい Im(z) で表す. また z̄ = x− yi を z の共役複素数 と呼
ぶ. 以下の関係式が成立する.
Re(z) =z + z̄
2, Im(z) =
z − z̄
2i.
実数 |z| =√zz̄ =
√x2 + y2 を z の絶対値 と呼ぶ. 定義より z ∈ R と
z̄ = z とは同値 であり z = 0 と |z| = 0 とは同値 である.
0 でない複素数 z = x+ yi に対して
cos θ =x
|z|, sin θ =
y
|z|
をみたす θ を z の偏角と呼び arg z で表す. 偏角 arg z のとりかたには
2π の整数倍が加わる分の自由度 がある. z = 0 に対しては偏角は定義し
ない.
3
複素数 z の絶対値と偏角を用いて z は
z = |z|{cos(arg z) + sin(arg z)i}
と表示できる. このように絶対値と偏角を与えると複素数は一意的に決
定する. 複素数 z をその 絶対値と偏角の指定 で決定する方法を 極形式
という.
複素数の集合 C の正体が R2 なので, 複素数 z = x+ yi を座標平面内
の点 (x, y) として図示することができる. そのとき z̄, |z|, arg z は下記
のように表せる.
-
Re
6Im
O
rz
rz̄
x
y
−y
�����
���
����
|z|
arg z
図 1: 虚役複素数, 絶対値, 偏角
二つの複素数 z1, z2 に対して
z1 + z2 = z̄1 + z̄2, z1z2 = z̄1z̄2,
が成立する.
また z1 と z2 の絶対値と偏角をそれぞれ r1, θ1, r2, θ2 とおき, 積 z1z2
4
を三角関数の加法定理を用いて計算すると
z1z2 = {r1(cos θ1 + i sin θ1)}{r2(cos θ2 + i sin θ2)}
= r1r2{(cos θ1 cos θ2−sin θ1 sin θ2)+i(sin θ1 cos θ2+cos θ1 sin θ2)}
= r1r2{cos(θ1 + θ2) + i sin(θ1 + θ2)}
となる. したがって
|z1z2| = |z1||z2|, arg(z1z2) = arg z1 + arg z2 + 2πn (n ∈ Z)
となる.
0 でない複素数 z と自然数 m に対して, 複素数 zm の絶対値と偏角は
|zm| = |z|m, arg(zm) = m arg z + 2πn (n ∈ Z)
となる.
このことを利用して 0 でない複素数 α に対して, 方程式
zm = α
を解くことができる.
この方程式の根の絶対値は m乗すると |α|になるのでその値は |α|1/m
であり, この方程式の 根の偏角 は m倍すると arg α になるのでその値
は 1marg α である.
α の偏角 arg α のとり方に 2π の整数倍が加わる分の自由度がある こ
とに注意すると, 方程式 zm = α には m個の相異なる根
zj = |α|1/m{cos(argα + 2πj
m) + sin(
argα + 2πj
m)i},
j = 0, . . . ,m−1 が存在する.
複素数の和は平面ベクトルの和と同じであり, 複素数の絶対値は平面ベ
クトルとみなしたときの大きさと同じなので, 以下の三角不等式が成立
する.
|z1 + z2| ≤ |z1|+ |z2|, ||z1| − |z2|| ≤ |z1 − z2|.
問題 1 複素数 z = 1− i, −3 +√3i, (−3 +
√3) + (3 +
√3)i の実部, 虚
部, 共役複素数, 絶対値, 偏角を答えよ.
5
z1 + z2
z1
z2
|z1 + z2| |z2|
|z1| |z1| z1
z2
|z2||z1 − z2|
z1 − z2
図 2: 三角不等式
問題 2 絶対値が 64, 偏角が −5π4の複素数 α の実部と虚部を求めよ. ま
た z3 = α となる z を全て求めよ.
複素数係数の2次方程式
az2 + bz + c = 0, a(̸= 0), b, c ∈ C
は C 内に重複度を込めて 2つの解 をもつ.
両辺に 4a をかけて以下のように完全平方式に変形する.
(2az + b)2 = b2 − 4ac
b2 − 4ac の絶対値 r と偏角 θ を求めて
δ =√r(cos
θ
2+ i sin
θ
2)
とおく. ±δ は2乗すると b2 − 4ac なので z = −b±δ2aが解である. また,
b2 − 4ac = 0 のときは重根となる.
問題 3 2次方程式 z2 − 2iz − 1 + 2i = 0 の解を求めよ.
別の複素数体の構成法を簡単に紹介する.
1. 行列による構成法.
実2次正方行列の集合の部分集合
X = {aE + bJ | a, b ∈ R}, E =
(1 0
0 1
), J =
(0 −1
1 0
)
6
を考える. 行列の和と積に関して
(aE + bJ) + (cE + dJ) = (a+ c)E + (b+ d)J,
(aE + bJ)× (cE + dJ) = (ac− bd)E + (ad+ bc)J
が成立する (積については EJ = JE = J , J2 = (−1)E を用いている).
X の部分集合 X = {aE|a ∈ R} は和と積の構造まで込めて実数の集合R と同じであり, J は J2 = (−1)E をみたすので J が虚数単位 i に対応
し, X の元 aE + bJ と複素数 a+ bi とが対応している.
集合 X の元 A = aE + bJ に対して√det(A) が複素数 a + bi の絶対
値 に相当し, 転置行列 tA = aE− bJ が a+ bi の 共役複素数 と対応する.
また 複素数 a+ bi の偏角を θ とすると
cos θ =a√
a2 + b2, sin θ =
b√a2 + b2
なので
A =√a2 + b2
(a√
a2+b2− b√
a2+b2
b√a2+b2
a√a2+b2
)=√
det(A)
(cos θ − sin θ
sin θ cos θ
)
であり, A内に正の向きに θ回転させる1次変換の表現行列が潜んでいる.
2. 多項式による構成法
実数係数の多項式全体の集合
R[x] = {a0 + a1x+ · · ·+ anxn | a0, a1, . . . , an ∈ R}
とする.
R[x] の各元 f(x) に対して 1+x2 で割ったときの余り r(x) = a+ bx を
集めて集合X = {a+ bx | a, b ∈ R} を作る.
集合 X の元 r(x) = a+bxと s(x) = c+dxに対して,和を r(x)+s(x) =
(a+ c)+(b+d)xで定め, 積を r(x)s(x) = ac+(ad+ bc)x+ bdx2 を 1+x2
で割った 余り (ac− bd) + (ad+ bc)x で定める.
変数 x を虚数単位 i とみなせば複素数の集合 C が得られる. 多項式環
R[x] の極大イデアル (x2 + 1) による剰余としての複素数体 C の構成法と呼ばれる.
7
2.2 複素数変数の指数関数と三角関数
指数関数や三角関数を複素変数 z = x+ iy の関数に拡張しておく. ex,
sin x, cos x は R 全体で収束する Taylor 級数
ex =∞∑n=0
xn
n!= 1 + x+
x2
2!+ · · ·+ xn
n!+ · · ·
sinx =∞∑n=0
(−1)nx2n+1
(2n+ 1)!= x− x3
3!+
x5
5!− · · ·+ (−1)nx2n+1
(2n+ 1)!+ · · ·
cosx =∞∑n=0
(−1)nx2n
(2n)!= 1− x2
2!+
x4
4!− · · ·+ (−1)nx2n
(2n)!+ · · ·
に展開される. 複素変数の指数関数は上記の級数の変数 x を複素数変数
z に変えることで定義する. つまり, z ∈ C に対して
ez = exp(z) =∞∑n=0
zn
n!= lim
N→∞
N∑n=0
zn
n!
で定める.
一般に複素数列 {cn} に関する級数∞∑n=0
cn に対して, 級数∞∑n=0
|cn| が収
束 するとき, 級数∞∑n=0
cn は絶対収束 するという.
命題 1 (1) 絶対収束する級数は収束し, 収束する値は和の順序のとり方
によらず定まる.
(2) 絶対収束する2つの級数∞∑n=0
cn,∞∑n=0
dn に対して,
(∞∑n=0
cn)(∞∑n=0
dn) =∞∑n=0
(n∑
k=0
ckdn−k)
が成立する.
注意 2 (1) この命題の証明は基礎数学Cで行われる予定.
(2) 絶対収束しない級数は, 和の順序を変えることで収束する値が変化
する場合がある.
8
ez の定義式における級数の各項の絶対値をとってできる級数は
∞∑n=0
∣∣∣∣znn!∣∣∣∣ = ∞∑
n=0
|z|n
n!= e|z|
となるので, 任意の複素数 z に対して指数関数を定義する級数は 絶対収
束 する.
命題 2 複素変数の指数関数も ez+w = ezew (z, w ∈ C) をみたす.
証明 指数関数の定義, 命題 1 (2), 2項定理より
ezew = (∞∑n=0
zn
n!)(
∞∑n=0
wn
n!) =
∞∑n=0
(n∑
k=0
zkwn−k
k!(n− k)!)
=∞∑n=0
1
n!(
n∑k=0
n!
k!(n− k)!zkwn−k) =
∞∑n=0
(z + w)n
n!= ez+w
を得る. □
指数関数に純虚数 iy (y ∈ R) を代入する下記の公式が得られる.
命題 3 (オイラーの公式)
eiy = cos y + i sin y, y ∈ R.
証明
eiy = 1 + (iy) +(iy)2
2!+
(iy)3
3!+
(iy)4
4!+
(iy)5
5!+ · · ·
= 1 + iy − y2
2!− iy3
3!+
y4
4!+
iy5
5!+ · · ·
= (1− y2
2!+
y4
4!− · · · ) + i(y − y3
3!+
y5
5!− · · · )
= cos y + i sin y.
となる. □
9
eiy は 絶対値が 1 で偏角が y の複素数 である. 特に eπi = −1, e2πi = 1
であり, 整数 n に対して ez+2nπi = ez となる.
指数法則より
ex+iy = exeiy = ex(cos y + i sin y) (x, y ∈ R)
である. つまり ez は 絶対値が eRe(z) で 偏角が Im(z) の複素数である.
問題 4 ド・モアブルの公式
(cos y + i sin y)n = cos(ny) + i sin(ny), y ∈ R, n ∈ N,
を示せ.
複素変数の指数関数を用いて, 複素変数の三角関数 sin z, cos z (z ∈ C)を
sin z =eiz − e−iz
2i, cos z =
eiz + e−iz
2
で定める.
命題 4 複素変数の三角関数でも加法公式が成立する.
証明 sin に関する加法定理を証明する. 指数法則を用いて
sin z cosw + cos z sinw
=
(eiz − e−iz
2i
)(eiw + e−iw
2
)+
(eiz + e−iz
2
)(eiw − e−iw
2i
)=
ei(z+w) + ei(z−w) − ei(−z+w) − ei(−z−w)
4i
+ei(z+w) − ei(z−w) + ei(−z+w) − ei(−z−w)
4i
=ei(z+w) − e−i(z+w)
2i= sin(z + w)
を得る. □
問題 5 複素変数の cos z は cos(z + w) = cos z cosw − sin z sinw をみた
すことを示せ.
10
加法公式を用いて sin(x+ iy), cos(x+ iy) の実部と虚部を求める.
sin(x+ iy) = sinx cos(iy) + cos x sin(iy)
= sinxei(iy) + e−i(iy)
2+ cos x
ei(iy) − e−i(iy)
2i
=ey + e−y
2sin x+ i
ey − e−y
2cos x
cos(x+ iy) = cosx cos(iy)− sinx sin(iy)
= cosxei(iy) + e−i(iy)
2− sinx
ei(iy) − e−i(iy)
2i
=ey + e−y
2cosx− i
ey − e−y
2sin x
y = 0 の場合, つまり z が実数 x のときは, 実変数の sin, cos と一致して
いる.
問題 6 exp(1 + π3i), exp(log 3− 3π
4i) の値を求めよ.
問題 7 ez = −1− i となる z をすべて求めよ.
問題 8 複素変数の三角関数でも sin2 z + cos2 z = 1 となることを示せ.
問題 9 sin i, cos i の値を求めよ.
問題 10 eix = cos x + i sinx を用いて, 以下の等式を示せ. ここで x は
2π の整数倍でない実数とする.
n∑k=0
cos(kx) =sin n+1
2x cos nx
2
sin x2
,
n∑k=0
sin(kx) =sin n+1
2x sin nx
2
sin x2
.
11
3 集合と写像の基礎
3.1 集合
いくつかのものをひとまとまりに考えた「ものの集まり」を集合 とい
う. ただし, どんなものを取ってきても, それが その集まりにあるかない
かがはっきり定まっているものでないといけない.
例 1 (1) 開区間 (0, 1) は 0 < x < 1 をみたす実数の集合.
(2) 自然数全体の集合は 1, 2, 3, . . . からなる.
(3) 「大きな自然数の集まり」は, 1000 がこの集まりに属するかがはっ
きりきまらないので, 集合として扱わない. 「999 より大きな自然
数の集まり」は, 集合として扱う.
(4) T =
(1 2
0 1
), J =
(0 −1
1 0
)とそれらの逆行列たちの有限個の積
Tm1Jn1 · · ·TmkJnk (m1, n1, . . . ,mk, nk は整数) 全体は集合として扱
う. この集合に入っているものは, 成分が整数の 2 × 2 行列になっ
ていることはわかる. しかし, 成分が整数のどんな 2 × 2 行列がこ
の集合に入るかの判定は容易でない.
集合はアルファベットの大文字で表すことが多い. よく使う記号とし
て, 自然数全体の集合 N, 整数全体の集合 Z, 有理数全体の集合 Q, 実数全体の集合 R, 複素数全体の集合 C がある.
集合 A に属しているもの a を A の元あるいは要素といい, a ∈ A ある
いは A ∋ a で表す. a が集合 A に属さないとき, a ̸∈ A あるいは A ̸∋ a
で表す. 集合 A の元が有限個のとき, A は有限集合であるという. A が
有限集合のとき, その元の個数を A の位数といい, |A| あるいは#(A) で
表す. 元が1つもない集合を空集合といい, ϕ で表す. ϕ も有限集合とし,
|ϕ| = 0 である. 元の個数が無限個ある集合を無限集合という.
集合を表記する手段として,
(1) 元をすべて列挙する.
例: 整数を n を 3 で割ったときの余りの集合 A は,
{0, 1, 2}.
12
(2) 元がその集合に属する条件を記載.
例: 座標平面 R2 内の原点中心半径 1 の内部の集合は,
{(x, y) ∈ R2 | x2 + y2 ≤ 1}.
(3) 生成系を与える.
例: 3次元実ベクトル空間 V 内の1次独立な2つのベクトル v1, v2 で
張られる 2次元部分空間は,
⟨v1, v2⟩.
元が集合であるような集合も取り扱う. そのような集合を取り扱っている
と喚起したい場合, 集合族といって区別することがある.
問題 11 以下の集合を元がその集合に属する条件を記載せよ.
(1) 開区間 (0, 1) に属する有理数の集合.
(2) 次数が3以下の xの実係数多項式の集合.
(3) すべての成分が整数で行列式が 1 となる2次正方行列の集合.
2つの集合 A, B に対して, A の任意の元 a が B の元 (For ∀a ∈ A,
a ∈ B) となるとき A は B に含まれる, B は A を含む, A は B の部分
集合であるといい,
A ⊂ B, B ⊃ A
で表す. そうでないとき, つまり A の元 a で a /∈ B となるものが存在す
る (∃a ∈ A s.t. a /∈ B) とき
A ̸⊂ B, B ̸⊃ A
で表す. 空集合 ϕ は, すべての集合の部分集合と約束する. A ⊂ B と
B ⊂ A が成立するとき, A と B は等しいといい A = B で表す. A ⊂ B
で A ̸= B, A ̸= ϕ のとき A は B の真部分集合であるといい,
A ⊊ B, B ⊋ A
で表す.
13
問題 12 A ⊂ B かつ B ⊂ C ならば A ⊂ C を示せ.
問題 13 A = {0, 1, 2} とする。A の部分集合全体からなる集合族 A を元をすべて列挙することで表し, 位数 |A| を求めよ.
集合 A と集合 B に対して, A の元と B の元を全部あつめてできる集
合を A と B の 和集合 あるいは A と B の 結び といい
A ∪B, B ∪ A
で表す. A ∪B は
{x | x ∈ A または x ∈ B}
であり,
x ∈ A ∪B ⇔ x ∈ A または x ∈ B,
x /∈ A ∪B ⇔ x /∈ A かつ x /∈ B.
定義から以下が成立することを示すことができる.
A ⊂ A ∪B, B ⊂ A ∪B, A = A ∪ A,
(A ∪B) ∪ C = A ∪ (B ∪ C).
最後の等式はかっこを省略することができることを意味するので, 単に
A ∪ B ∪ C で表す. この集合は A, B, C の元を全部あつめてできる集合
を意味する. より一般に集合 A1, . . . , An (n は自然数)に対して, それら
の和集合∪n
i=1Ai を
n∪i=1
Ai = {x | ∃i ∈ {1, . . . , n} s.t. x ∈ Ai}
で定める. さらに, 無限集合 I の元 i に対して, 集合 Ai が定まっている
ときに, それらの和集合∪
i∈I Ai を∪i∈I
Ai = {x | ∃i ∈ I s.t. x ∈ Ai}
で定める. I が自然数の集合 N のとき∪
i∈NAi を∞∪i=1
Ai で表す. 定義に
極限を用いていないことに注意する.
14
例 2 自然数 n で定まる閉区間 An =[ 1n, 1]に対して
∞∪n=1
An = (0, 1].
証明
•∪∞
n=1An ⊂ (0, 1] であること.
x を∪∞
n=1An の任意の元とする. ∃n ∈ N s.t. x ∈ An. これは1
n≤ x ≤ 1 をみたす自然数 n が存在していることを意味する.
この x は 0 < x ≤ 1 をみたすので x ∈ (0, 1] である. ゆえに∪∞n=1An ⊂ (0, 1] である.
•∪∞
n=1An ⊃ (0, 1] であること.
x を (0, 1] の任意の元とする. x ≤ 1 はみたしている. 1/x より大
きな自然数 n をとると, 不等式1
n< x をみたす. この n に対して
1
n≤ x ≤ 1 をみたすので x ∈ An である. ゆえに x ∈
∪∞n=1An とな
り,∪∞
n=1An ⊃ (0, 1] である.
以上より∪∞
n=1An = (0, 1]. □
集合 A と集合 B に対して, A にも B にも属している元を全部あつめ
てできる集合を A と B の 共通集合あるいは A と B の 交わり といい
A ∩B, B ∩ A
で表す. A ∩B は
{x | x ∈ A かつ x ∈ B}
であり,
x ∈ A ∩B ⇔ x ∈ A かつ x ∈ B,
x /∈ A ∩B ⇔ x /∈ A または x /∈ B.
定義から以下が成立することを示すことができる.
A ⊃ A ∩B, B ⊃ A ∩B, A = A ∩ A,
15
(A ∩B) ∩ C = A ∩ (B ∩ C).
最後の等式はかっこを省略することができることを意味するので, 単に
A ∩ B ∩ C で表す. この集合は A, B, C すべてに属する元をあつめてで
きる集合を意味する. より一般に集合 A1, . . . , An (n は自然数)に対して,
それらの共通集合∩n
i=1Ai を
n∩i=1
Ai = {x | For ∀i ∈ {1, . . . , n}, x ∈ Ai}
で定める. さらに, 無限集合 I の元 i に対して, 集合 Ai が定まっている
ときに, それらの共通集合∩
i∈I Ai を∩i∈I
Ai = {x | For ∀i ∈ I s.t. x ∈ Ai}
で定める. I が自然数の集合 N のとき∩
i∈NAi を∞∩i=1
Ai で表す. 定義に
極限を用いていないことに注意する.
問題 14 自然数 n で定まる開区間 An =(−1
n, 1)に対して
∞∩n=1
An = [0, 1)
となることを示せ.
集合 A と集合 B に対して, A の元であるが B の元でないものあつめ
てできる集合を A と B の 差集合 といい A−B で表す. A ⊃ B のとき,
A−B を A に対する B の補集合ともいう.
例 3 実数の集合 R に対する有理数 Q の補集合 R−Q は, 無理数全体の
集合である.
考察の対象となる集合 X が定まっていて, 登場するすべての集合がX
の部分集合となるときに, X をその考察における普遍集合あるいは全体
集合という. 全体集合 X が与えられているとき, X に対する集合 A の
補集合 X − A を単に A の補集合 といい Ac で表す. 定義より
Ac = {x ∈ X | x /∈ A}, x ∈ Ac ⇔ x /∈ A,
16
A ∪ Ac = X, A ∩ Ac = ϕ,
(Ac)c = A, ϕc = X, Xc = ϕ,
A ⊂ B ⇔ Ac ⊃ Bc
を示すことができる.
命題 5 (ド・モルガンの法則)
(A ∪B)c = Ac ∩Bc, (A ∩B)c = Ac ∪Bc.
証明 (A ∪B)c = Ac ∩Bc を示す.
• (A ∪B)c ⊂ Ac ∩Bc であること.
x を (A ∪ B)c の任意の元とする. x /∈ A ∪ B である. x は A の元
でなくさらに B の元でない. ゆえに x ∈ Ac ∩Bc.
• (A ∪B)c ⊃ Ac ∩Bc であること.
x を Ac ∩ Bc の任意の元とする. x は A の元でもなくさらにB の
元でもない. x は A ∪B の元でない. よって x ∈ (A ∪B)c.
(A ∩B)c = Ac ∪Bc は演習問題とする. □
問題 15 以下を示せ.
(1) (A ∩B)c = Ac ∪Bc.
(2) (A−B)− C = A− (B ∪ C).
(3) A− (B − C) = (A−B) ∪ (A ∩ C).
集合 A と集合 B に対して, A の元 a と B の元 b との組 (a, b) 全体の
集合を A と B の直積集合といいA×B で表す. A と B の直積集合は
A×B = {(a, b) | a ∈ A, b ∈ B}
と表記され, (a, b) ∈ A × B の a を第一成分あるいは第一座標, b を第二
成分あるいは第二座標という. A と B とが異なる集合の時, A × B と
B × A とは異なる集合とみなす.
17
例 4 A = {0, 1}, B = {f, g, h} のとき,
A× A = {(0, 0), (0, 1), (1, 0), (1, 1)},
A×B = {(0, f), (0, g), (0, h), (1, f), (1, g), (1, h)},
B × A = {(f, 0), (f, 1), (g, 0), (g, 1), (h, 0), (h, 1)},
B ×B = {(f, f), (f, g), (f, h), (g, f), (g, g), (g, h), (h, f), (h, g), (h, h)}.
A と B が位数 m, n の有限集合ならば, 直積集合 A×B は位数 mn の
有限集合となる.
集合 A1, . . . , An (n は自然数) に対して, 直積集合A1 × · · · × An を
A1 × · · · × An = {(a1, . . . , an) | a1 ∈ A1, . . . , an ∈ An}
で定める.
3.2 同値関係
一般に, 集合 A の任意の2元の間にある関係 ∼ が成り立つか成り立たないかが指定されているとする. 関係 ∼ が A の任意の元 a, b, c に対して
a ∼ a (反射律)
a ∼ b ⇒ b ∼ a (対称律)
a ∼ b, b ∼ c ⇒ a ∼ c (推移律)
をみたすとき, この関係 ∼ は同値関係であるという.
例 5 (1) 実数の集合 R に定義されている通常の等号 = はR の同値関係である.
(2) m を 2 以上の自然数とする. 整数の集合 Z に ∼ を
a ∼ b ⇔ a− b が m の倍数
で定めると ∼ は同値関係である. 実際, a − a = 0 = 0 × m なの
で, 反射律が成立. a ∼ b ならば ∃p ∈ Z s.t. a − b = m × p. ゆえ
に b − a = m × (−p) なので b ∼ a となり, 対称律が成立. さらに
18
b ∼ c ならば ∃q ∈ Z s.t. b− c = m× q なので, a− c = m× (p+ q)
となり a ∼ c である. ゆえに推移律が成立. この同値関係によって
a ∼ b となるとき,
a ≡ b mod m
で表す.
(3) 実数全体の集合 R に ∼ を
a ∼ b ⇔ a− b が 2π の整数倍
で定めると ∼ は同値関係である.
(4) 実 (m,n)型行列全体の集合 Mm,n に ∼ を
A ∼ B ⇔左基本変形で A を B にできる
で定めると ∼ は同値関係である.
(5) 実数係数多項式全体の集合 R[x] に ∼ を
f(x) ∼ g(x) ⇔ f(x)− g(x) が (x2 + 1) で割り切れる
で定めると ∼ は同値関係である.
問題 16 例 5 の (3), (4), (5) の ∼ が同値関係であることを示せ.
A に同値関係 ∼ が定義されているとき, 同値な元を集めて A の部分集
合が定義できる. この部分集合を ∼ による同値類という.
問題 17 A の同値関係 ∼ による2つの同値類 A1, A2 は, A1 ∩ A2 が空
集合でなければ A1 = A2 であることを示せ.
集合 A は, すべての同値類の共通部分のない和集合となっている. 逆
に, 集合 A が Ai (i ∈ I) たちの共通部分のない和集合となっているとき,
∼ を a ∼ b を ∃i ∈ I s.t. x, y ∈ Ai で定義すると ∼ は同値関係となる.
集合 A に同値関係 ∼ があるとき, それによる同値類全体からなる集
合族
{Ai | Ai は ∼による同値類 }
を A の同値関係 ∼ による商集合 という.
19
例 6 (1) 例 5 の (2) の同値関係による Z の商集合は,
{mZ, 1 +mZ, . . . , (m− 1) +mZ}
である. ここで i+mZ は集合 {i+m× k | k ∈ Z} を表す.
(2) 複素数 z の偏角 arg z は, 例 5 の (3) の同値関係による R の商集合のものと考えると都合がよい.
(3) 例 5 の (3) の同値関係による R[x] の商集合が複素数の集合とみなせる.
問題 18 例 5 の (4) の同値関係による Mmn の商集合は, どのような集
合となるかを答えよ.
3.3 写像
集合 A の各元 a に対して, 集合 B の元をただ1つ定める規則 f を A
から B への写像といい,
f : A → B, f : A ∋ a 7→ b ∈ B, b = f(a)
等で表す. 特に B が実数の集合 R (複素数の集合 C の場合も有) の部分
集合となるとき, f を関数という. 集合 A を f の定義域という. 集合 B
の部分集合 f(A) = {f(a) ∈ B | a ∈ A} を f の値域あるいは f による A
の像という. 写像 f : A → B に対して, 直積集合 A×B の部分集合
Gf = {(a, b) ∈ A×B | a ∈ A, b = f(a)}
を f のグラフ という.
写像 f : A → B が
f(A) = B, (つまり for ∀b ∈ B, ∃a ∈ A s.t. f(a) = b)
をみたすとき f は全射あるいは上への写像であるという. また
a1 ̸= a2 ⇒ f(a1) ̸= f(a2) (またはその対偶 f(a1) = f(a2) ⇒ a1 = a2)
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をみたすとき f は単射あるいは一対一写像であるという. 写像 f が全射
であり単射でもあるとき, f は全単射あるいは上への一対一写像であると
いう. 写像 f が全単射のとき, B の任意の元 b に対して f(a) = b となる
a ∈ A が一意的に存在する. 従って b ∈ B に対してこの a ∈ A を対応さ
せる規則が定義でき, B から A の写像が得られる. これを f の逆写像と
いい, f−1 で表す.
全射性や単射性を有しない一般的な写像 f : A → B に対しても B の
任意の元 b に対して, A の部分集合
{a ∈ A | f(a) = b}
(f で移すと b となる a ∈ Aの集合) が定義できる. これを f による b の
逆像といい f−1(b) で表す (f の逆写像が定義されているわけではない).
この集合は空集合になることもありうるし, 多くの元からなる場合もあ
る. f が全単射のとき, 任意の b ∈ B に対して f−1(b) がいつでも A の1
元だけからなる集合になるので, 逆像を対応させることが写像となり, そ
れが f の逆写像となる.
写像 f : A → B が全射または単射であることは, 対応の規則 f だけで
なく集合 A, B の取り方で変化する. 写像を考える際は, 集合 A, B の設
定にも気を配ること.
例 7 (1) A を R の部分集合とし, B をR+ = {x ∈ R | x ≥ 0} を含むR の部分集合とする. 2次関数
f : A ∋ x 7→ y = f(x) = x2 ∈ B
を考える. A = B = R の場合, B から −1 をとると, f(a) = −1
となる a は R には存在しないので, f は全射でない. また, A の
異なる2元 3, −3 に対して f(3) = f(−3) = 9 となるので, f は単
射でない. A = R, B = R+ の場合, f は全射となる. また, A が
R+ の部分集合の場合, f は単射となる. A = B = R+ ならば f
は全単射である. そのとき f には逆写像が定義されるが, それは
R+ ∋ x 7→√x ∈ R+ である.
(2) 正弦関数
sin : R ∋ x 7→ y = sinx ∈ R
21
は, 全射でも単射でもない. 写像の行先を R から閉区間 [−1, 1] に
変更すると全射となる. 正弦関数 sin の 0 の逆像 sin−1(0) は,
sin−1(0) = {x ∈ R | sin x = 0} = {nπ | n ∈ Z}
であるので, 行先を変更しても正弦関数 sin は単射でない. 正弦関
数 sin の定義域を閉区間[− π
2,π
2
]に変更し, 閉区間 [−1, 1] への関
数と考えると, この関数は全単射となる. この制限した関数には逆
写像が定義できるので, それを sin による逆像 sin−1 と区別し arcsin
あるいは Sin−1 で表す.
P を A の部分集合とする. f による P の像 f(P ) を
f(P ) = {f(a) ∈ B | a ∈ P}
で定める.
Q を B の部分集合とする. f による Q の逆像 f−1(Q) を
f−1(Q) = {a ∈ A | f(a) ∈ Q}
(f で移すと Q に属する a ∈ A の集合)で定める.
命題 6 写像 f : A → B と A の部分集合 P, P ′, B の部分集合 Q,Q′ に
対して, 以下が成立する.
P ⊂ P ′ ⇒ f(P ) ⊂ f(P ′),
f(P ∪ P ′) = f(P ) ∪ f(P ′), f(P ∩ P ′) ⊂ f(P ) ∩ f(P ′),
Q ⊂ Q′ ⇒ f−1(Q) ⊂ f−1(Q′),
f−1(Q ∪Q′) = f−1(Q) ∪ f−1(Q′), f−1(Q ∩Q′) = f−1(Q) ∩ f−1(Q′),
f−1(f(P )) ⊃ P, f(f−1(Q)) ⊂ Q.
問題 19 命題 6 を証明せよ.
22
2つの写像 f1 : A → B と f2 : A → B が, 任意の a ∈ A に対して
f1(a) = f2(a)
をみたすとき f1 = f2 と定める.
2つの写像 f : A → B と g : B → C に対して, 合成写像 g ◦f : A → C
を
g ◦ f : A ∋ a 7→ g(f(a)) ∈ C
で定める.
命題 7 写像 f : A → B と g : B → C がともに全射ならば, 合成写像
g ◦ f : A → C は全射. 写像 f : A → B と g : B → C がともに単射なら
ば, 合成写像 g ◦ f : A → C は単射.
証明 g ◦ f が全射であることを示す. g が全射なので C の任意の元 c に
対して, g(b) = c となる b ∈ B が存在する. f が全射なので, その b に対
して, f(a) = b となる a ∈ A が存在する. g ◦ f(a) = g(f(a)) = g(b) = c
となるので g ◦ f は全射. g ◦ f が単射であることを示すことは演習問題とする. □
問題 20 写像 f : A → B と g : B → C がともに単射ならば, 合成写像
g ◦ f : A → C は単射となることを示せ.
命題 8 写像 f : A → B, g : B → C, h : C → D に対して
(h ◦ g) ◦ f = h ◦ (g ◦ f).
証明 A の任意の元 a に対して,
[(h ◦ g) ◦ f ](a) = [h ◦ (g ◦ f)](a)
を示せばよい. 上記の左辺は
[(h ◦ g) ◦ f ](a) = (h ◦ g)(f(a)) = h(g(f(a))),
上記の右辺は
[h ◦ (g ◦ f)](a) = h((g ◦ f)(a)) = h(g(f(a))).
両者は一致している. □
23
命題 8から, 写像の合成についてはかっこを省略することができる. 命
題 8 にある合成写像を単に h ◦ g ◦ f で表す.
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