大量の土砂を伴う洪水流の斐伊川放水路への分 流と土砂流入抑制...

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大量の土砂を伴う洪水流の斐伊川放水路への分 流と土砂流入抑制に関する研究 後藤 岳久 1 ・福岡 捷二 2 ・柴田 3 1 正会員 中央大学研究開発機構 機構助教(〒112-8551 東京都文京区春日 1-13-27E-mail:[email protected] 2 フェロー 中央大学研究開発機構 機構教授(〒112-8551 東京都文京区春日 1-13-27E-mail:[email protected] 3 正会員 国土交通省 中国地方整備局 出雲河川事務所長(〒693-0023 出雲市塩冶有原町 5-1E-mail:[email protected] 斐伊川は平常時も土砂移動が生じ,洪水時には河床波の発達・変形が洪水流況,抵抗,土砂輸送に著し く影響を及ぼす網状砂州河川である.斐伊川放水路は 15km 付近で分流し,分流堰直下流には,斐伊川本 川からの土砂流入を抑制するための沈砂池が設置されている.本川から放水路への土砂流入を出来得る限 り抑制することは,斐伊川放水路や沈砂池,斐伊川本川の上下流河道を維持管理していく上で重要である. 本研究では,観測水面形時系列データを用いた一般底面流速解析法により,平成 25 9 月洪水における 斐伊川放水路分流区間の洪水流量配分と河床変動,放水路への土砂流入量を把握する.検討結果を踏まえ, 放水路への土砂流入を抑制するための対策について検討する. Key Words: sandy braided river, river bifurcation, sediment transport, flood way, settling pond 1. 背景 斐伊川は網状流路を有し,その砂州上には河床波が折 り重なって形成されている.斐伊川の河床波の波高は, 洪水時の水深の 1/3~1/6 倍程度であることから,河床波 の発達・変形が流れの抵抗変化や土砂輸送に大きな影響 を及ぼす.また,斐伊川の河床材料の代表粒径は 1~2mm と比較的細かいことから(-4 参照),平水時 においても砂州の深掘れ部で土砂が移動し,一年を通じ て土砂移動の活発な砂河川である 1) このような土砂輸送特性を有する斐伊川では,河口付 近の浸水被害を軽減するために,大橋川の拡幅,尾原ダ ム・志津見ダムの整備,斐伊川放水路整備の三つの事業 を柱とした治水事業が行われてきた.斐伊川放水路は, 斐伊川の洪水を神戸川へ分流するために建設されたが, 大量の土砂を伴う斐伊川の洪水流を分流させることから, 神戸川への土砂流入量を抑制することが求められている. このため,放水路の分流堰直下流には沈砂池が設置され ており(-1 -2 ),実洪水における沈砂池の堆砂機 能評価や,神戸川への土砂流入の抑制方法の検討が求め られている. 斐伊川の洪水時の河床変動・土砂輸送については,宇 民らは音響測深機・空中写真により洪水中の河床波の発 達・変形について観測し 2) ,上野らは河床波の波高・移 動速度と浮遊砂濁度の観測から,洪水時の流砂量を推定 した 3) .福岡は洪水時の水面形の時間変化には河床形 状・河床抵抗の変化の影響が現れていることから,観測 -1 斐伊川放水路の分流区間 -2 斐伊川放水路の分流堰と沈砂池 (a) 分流堰(上流から望む) (b) 斐伊川放水路の沈砂池 護岸 斐伊川放水路 16 15k 14k 沈砂池 護岸 砂堤 砂堤 Google I_895 土木学会論文集B1(水工学) Vol.73, No.4, I_895-I_900, 2017.

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大量の土砂を伴う洪水流の斐伊川放水路への分

流と土砂流入抑制に関する研究

後藤 岳久 1・福岡 捷二 2・柴田 亮 3

1正会員 中央大学研究開発機構 機構助教(〒112-8551 東京都文京区春日 1-13-27)

E-mail:[email protected]

2フェロー 中央大学研究開発機構 機構教授(〒112-8551 東京都文京区春日 1-13-27)

E-mail:[email protected] 3正会員 国土交通省 中国地方整備局 出雲河川事務所長(〒693-0023 出雲市塩冶有原町 5-1)

E-mail:[email protected]

斐伊川は平常時も土砂移動が生じ,洪水時には河床波の発達・変形が洪水流況,抵抗,土砂輸送に著し

く影響を及ぼす網状砂州河川である.斐伊川放水路は 15km 付近で分流し,分流堰直下流には,斐伊川本

川からの土砂流入を抑制するための沈砂池が設置されている.本川から放水路への土砂流入を出来得る限

り抑制することは,斐伊川放水路や沈砂池,斐伊川本川の上下流河道を維持管理していく上で重要である.

本研究では,観測水面形時系列データを用いた一般底面流速解析法により,平成 25 年 9 月洪水における

斐伊川放水路分流区間の洪水流量配分と河床変動,放水路への土砂流入量を把握する.検討結果を踏まえ,

放水路への土砂流入を抑制するための対策について検討する.

Key Words: sandy braided river, river bifurcation, sediment transport, flood way, settling pond

1. 背景

斐伊川は網状流路を有し,その砂州上には河床波が折

り重なって形成されている.斐伊川の河床波の波高は,

洪水時の水深の 1/3~1/6 倍程度であることから,河床波

の発達・変形が流れの抵抗変化や土砂輸送に大きな影響

を及ぼす.また,斐伊川の河床材料の代表粒径は

1~2mm と比較的細かいことから(図-4 参照),平水時

においても砂州の深掘れ部で土砂が移動し,一年を通じ

て土砂移動の活発な砂河川である 1).

このような土砂輸送特性を有する斐伊川では,河口付

近の浸水被害を軽減するために,大橋川の拡幅,尾原ダ

ム・志津見ダムの整備,斐伊川放水路整備の三つの事業

を柱とした治水事業が行われてきた.斐伊川放水路は,

斐伊川の洪水を神戸川へ分流するために建設されたが,

大量の土砂を伴う斐伊川の洪水流を分流させることから,

神戸川への土砂流入量を抑制することが求められている.

このため,放水路の分流堰直下流には沈砂池が設置され

ており(図-1,図-2),実洪水における沈砂池の堆砂機

能評価や,神戸川への土砂流入の抑制方法の検討が求め

られている.

斐伊川の洪水時の河床変動・土砂輸送については,宇

民らは音響測深機・空中写真により洪水中の河床波の発

達・変形について観測し 2),上野らは河床波の波高・移

動速度と浮遊砂濁度の観測から,洪水時の流砂量を推定

した 3).福岡は洪水時の水面形の時間変化には河床形

状・河床抵抗の変化の影響が現れていることから,観測

図-1 斐伊川放水路の分流区間

図-2 斐伊川放水路の分流堰と沈砂池

(a) 分流堰(上流から望む)

(b) 斐伊川放水路の沈砂池

護岸

※斐伊川放水路 16

15k

14k

沈砂池

護岸

砂堤

砂堤

Google

I_895

土木学会論文集B1(水工学) Vol.73, No.4, I_895-I_900, 2017.

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水面形時系列を水面の境界条件として取り込む洪水流・

河床変動解析法を提案している 4).これは,各時刻の観

測水面形を既知量として計算に取り込み,洪水中の河床

高の変化を未知量として推定する方法である.内田・福

岡は,水深積分モデルの枠組みで流れの三次元性や圧力

の非静水圧成分を評価できる一般底面流速解析法

(GBVC 法)を開発し 5),この解析法を観測水面形時系

列を再現するように計算し,実洪水中の河床変動を明ら

かにしてきた.岡田らは,斐伊川において観測水面形の

時間変化を用いた一般底面流速解析法と二次元河床変動

解析法により,河床波の発達・変形による抵抗変化や洪

水中の河床変動を評価し,放水路への土砂流入量につい

て議論している 6).しかし,斐伊川放水路の沈砂池内の

流れと堆砂については未検討であり,放水路への土砂流

入量の検証も十分ではなかった.

分流区間における流量配分・流砂量配分の研究につい

ては,川合らが精力的に研究している.彼らの派川に越

流堰を設置した分流実験では,堰前面で生じる上昇流が

堰前面の土砂を巻き上げることにより,堰前面の土砂が

派川に流入することを明らかにしている 7).太田らは堰

を越流する流砂の評価するため,掃流砂から浮遊砂への

遷移を考慮した三次元河床変動解析法を開発している 8).

このような堰前面での流砂の力学も重要であるが,斐伊

川では,斐伊川本川の河床変動・土砂輸送,分流区間の

流量配分の評価と放水路への流入流砂量の抑制が喫緊の

重点課題である.このため,本研究では,観測水面形時

系列を用いた一般底面流速解析法と二次元河床変動解析

法により,平成 25 年 9 月洪水の放水路分流区間の洪水

流の分流,土砂流入機構を評価し,放水路への土砂流入

抑制策について検討する.

2. 平成 25年 9月洪水観測体制

図-3 は,平成 25 年 9 月洪水における洪水観測体制を

示す.本洪水では,上島観測所から宍道湖の区間と斐伊

川放水路に水位計を縦断的に設置し,放水路分流区間で

は約 200~400m 間隔で詳細な水位観測が実施された.こ

れにより,斐伊川本川と放水路の詳細な水面形時系列デ

ータを観測している.洪水流量ハイドログラフは,上島

(18.6km),大津(12.4km),菅沢橋(放水路, 11.5km)におい

て,浮子による観測が行われた.また,濁度計とバケツ

採水による浮遊砂観測は,図-3 に示す位置で行われた.

濁度は河床上約 30cm の位置で計測され,バケツ採水は

水面付近で採水した.

3. 解析方法および解析条件

斐伊川では,大きな河床波の発達・変形が流れの抵抗

や土砂移動に著しく影響を及ぼすこと,沈砂池内では三

次元的な流れが卓越することから,流れの非静水圧成分

を考慮した一般底面流速解析法により三次元流速場を計

算する.河床変動解析法については,芦田・道上式によ

り掃流砂量を計算し,浮遊砂は浮遊砂濃度の三次元移流

拡散方程式により計算する.浮遊砂の底面からの浮上量

は板倉・岸の式,土砂の沈降速度はストークス式で評価

する.沈砂池は固定床領域とし,各メッシュにおいてt

秒間の流出流砂量が初期河床からの土砂堆積量に比べて

大きい場合は,そのメッシュの流出流砂量を 0とした.

解析区間は,上島(18.6km)から宍道湖および大井谷橋

(放水路,10.9km)とし,低水路粗度係数は観測水面形を

再現するように設定した 6).分流区間上流の本川左岸の

護岸(図-1)の粗度係数は 0.02(m-1/3・s)とし,沈砂池お

よび放水路の粗度係数も同値を用いた.掃流砂の上流端

境界条件は,平衡流砂量を与えた.浮遊砂の計算では,

上島(18.6km)の観測浮遊砂濃度と計算底面浮遊砂濃度が

一致するように,解析の上流助走区間(18.8~19.8km)にお

いて,板倉・岸の浮上量式 9)の係数を 3 倍とした.これ

により,解析上流端からの流入浮遊砂量を評価した.河

床変動解析区間(0.0~18.8km)の浮上量式の係数は原著 9)と

同じ値を用いた.上流助走区間において,浮上量式の係

数の調整が必要だった理由は,上島地点の濁度の観測高

と計算の底面浮遊砂濃度の高さには違いがあること,濁

度の粒径成分と計算の浮遊砂の粒径成分に違いがあるこ

とが考えられ,これについては今後検証が必要である.

図-3 平成25年9月洪水における観測体制

上島(18.6k)

濁度計・バケツ採水

濁度計

バケツ採水

水位観測地点

流量観測地点

斐伊川

大津(12.4k)

菅沢橋(11.5k)

大井谷橋(10.9k)

神戸川

Flow

図-4 斐伊川の河床材料粒度分布

質量

通過

百分

率(%

)

0

20

40

60

80

100

0.01 0.1 1 10

実測(0~2km)

実測(3~18km)

解析(20k~2.0km)

解析(2.0km~下流端)

粒径(mm)

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図-4 は,実測と解析に用いた河床材料粒度分布を示

す.また,放水路分流区間には,河床の砂で作られた砂

堤 1)が設置されており(図-1),砂堤の存在は初期河床

形状で考慮した.

4. 平成25年9月洪水の解析結果

図-5 は斐伊川本川と放水路における観測水面形時系

列の観測結果と解析結果の比較を示し,図-6 は流量ハ

イドログラフの観測結果と解析結果を示す.解析水面形

は,観測水面形の時間変化を良く再現している.本川の

水面形は,放水路に分流していない時間(9/3 21 時,9/5

4 時)では,平均河床高と概ね平行になっている.しか

し,ゲートが倒伏し放水路への分流が開始されると,本

川分流区間下流の水位上昇量が小さくなり,分流地点上

流の 14.5km~15km 付近の水面勾配が急になっている.

放水路の水面形は,河床勾配とほぼ平行である.ここで,

分流堰の起伏ゲート(図-2)は,本川流量が 500m3/s を

超えると倒伏し,洪水減水期に 400m3/s を下回ると起立

する操作規則になっている.観測水面形時系列を再現し

た本解析結果より,放水路への洪水分派率は,流量ピー

ク付近で約 48%と見積もられた. 図-7 は,浮遊砂濃度の観測と解析の結果を示す.計

算された底面浮遊砂濃度は,大津(12.4km) ・上島

(18.6km)の観測浮遊砂濃度をほぼ説明している.

図-8 は,本川分流区間及び放水路沈砂池における河

床変動コンターの観測結果と解析結果を示す.河床変動

の解析結果は,水面勾配の急な分流区間上流で洗掘が生

じ,水面勾配が緩くなる分流区間下流で堆積している.

解析結果は,分流区間上流の洗掘範囲や洗掘深が小さい

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

9/3 12:00 9/4 00:00 9/4 12:00 9/5 00:00 9/5 12:00 9/6 00:00

上島解析

大津解析

菅沢橋解析

分派率

ゲート倒伏 ゲート起立

13.0

14.0

15.0

16.0

17.0

18.0

19.0

13 14 15

9/3 21cal 9/3 21calr9/4 4cal 9/4 4calr9/4 9cal 9/4 9calr9/4 13cal 9/4 13calr9/4 17cal 9/4 17calr9/5 4cal 9/5 4calr

解析(左岸)

解析(左岸)

解析(左岸)

解析(左岸)

解析(左岸)

解析(左岸)

解析(右岸)解析(右岸)

解析(右岸)

解析(右岸)

解析(右岸)

解析(右岸)

図-5 水面形時系列の観測結果と解析結果

標高

(T.P

.m)

縦断距離

(km)

分流区間

(a) 斐伊川本川 (b) 放水路

プロット:観測水位

実測平均河床

標高

(T.P

.m) プロット:観測水位

平均河床

沈砂池

流量

(m3 /

s)

分派

率%

(放

水路

/本川

) プロット

:観測流量

図-6 流量ハイドログラフの解析結果と観測結果 図-7 底面付近の浮遊砂濃度の観測結果と解析結果の比較

浮遊

砂濃

度(無

次元

)

図-8 河床変動の観測結果と解析結果の比較

実測値 解析結果

実測土砂堆積量 約 16,000m3

縦断距離(km)

沈砂池下流端越流堰

解析平均河床初期河床

砂堤の崩壊

I_897

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ものの観測結果をほぼ再現している.また,砂堤は洪水

流によって崩壊し,その下流で土砂堆積が生じている.

一方,沈砂池内の堆積河床形状については,土砂が左岸

側に堆積する傾向を解析結果は概ね説明しているものの,

実測よりも堆積量や範囲が小さく計算されている.この

原因については,後述する.

図-9 は,本川および放水路における洪水ピーク時と

減水期の解析流砂量の縦断分布を示す.本川の流砂量縦

断分布については,水面勾配の急な分流区間上流で掃流

砂量が急激に多くなっており,その他の区間では浮遊砂

量が掃流砂量よりも多くなっている.放水路では,掃流

砂の殆どは減勢工前面で捕捉され,沈砂池内では掃流砂

は殆ど生じていない.浮遊砂は,その一部が減勢工前面

で捕捉されているものの,減勢工を通過した浮遊砂の多

くはそのまま下流に流出している.

図-10 は放水路における土砂の沈降速度 wsと摩擦速度

図-14 本川における沈降速度ws/摩擦速度u*

0

0.5

1

1.5

2

12 13 14 15 16 17 18

0.1mm 0.2mm 0.3mm0.5mm 0.6mm 0.8mm

分流区間

縦断距離(km)沈

降速

度w

s/摩

擦速

度u

*

標高(T.P.m

)

減勢工

越流堰

沈砂池放水路

浮遊砂濃度(無次元)

縦断距離(km)12.9512.8512.75

5

10

15

縦断距離(km)

減勢工

越流堰

沈砂池放水路

標高(T.P.m

)

浮遊砂濃度(無次元)

12.9512.8512.75

5

10

15

2

7

12

0

0.1

0.2

0.3

0.4

12.5 12.55 12.6 12.65 12.7 12.75 12.8 12.85 12.9 12.95 13

13:00掃流砂 13:00浮遊砂 18:00掃流砂

18:00浮遊砂 系列5 系列6

減勢工

13:00平均河床 18:00平均河床

沈砂池

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

12.4 13.4 14.4 15.4 16.4 17.4 18.4

13:00掃流砂 13:00浮遊砂

18:00掃流砂 18:00浮遊砂

(a) 右岸

図-9 流砂量の縦断図

全断

面流

砂量

(m3 /

s)

全断

面流

砂量

(m3 /

s)

縦断距離(km)

図-11 沈砂池内の浮遊砂濃度分布(洪水ピーク時)

図-10 放水路内における沈降速度ws/摩擦速度u*

(b) 左岸

縦断距離(km)

縦断距離(km)

沈降

速度

ws/

摩擦

速度

u *

(a) 斐伊川本川

(b) 放水路

分流区間

0

0.5

1

1.5

2

2.5

12.5 12.55 12.6 12.65 12.7 12.75 12.8 12.85 12.9 12.95 13

系列3

系列4

系列5

0.1mm0.2mm0.3mm

沈砂池減勢工

標高

(T.P

.m)

(m/s)

(m/s)

WS==0.04(m/s)

WS==0.025(m/s)

WS==0.008(m/s)

図-12 流量ハイドログラフと流入・流出土砂量の関係

底面流速(m/s)

洪水ピーク(9/4 13:00)

15km

14km

沈砂池

底面流速(m/s)

洪水減水期(9/4 18:00)

15km

14km

沈砂池

3.0(m/s)

)

3.0(m/s)

図-13 洪水ピーク時及び洪水減水期の底面流速コンター

0.0E+00

1.0E+03

2.0E+03

3.0E+03

4.0E+03

5.0E+03

6.0E+03

7.0E+03

8.0E+03

9/4 0:00 9/4 12:00 9/5 0:00 9/5 12:00 9/6 0:00

掃流砂浮遊砂合計

解析流量ハイドログラフ(15.0k地点)

流量

(m3/s)

流量ピーク

9/4 15:00

9/418:00

累積流

砂量(

m3)

全ゲート起立開始4,5号ゲート

倒伏完了

2,3号ゲート倒伏完了

1号ゲート倒伏完了

実線:流入土砂量破線:流出土砂量

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u*の比を示し,図-11 は洪水ピーク時における沈砂池内

の流速分布と浮遊砂濃度分布を示す.ここで,図-10 の

摩擦速度は断面平均値を示している.沈砂池内の流下方

向流速は約 0.6m/sであり,沈砂池内の流速は流下するに

つれて大きくなる傾向にある.図-10 より,減勢工の上

流では, 0.3mm以下の粒径に対する ws/u*は 1.0を下回っ

ており,土砂が浮上し易い条件になっている.一方,沈

砂池内では,粒径 0.1mmを除いて ws/u*が 1.0を上回って

おり,一度堆積した土砂は再浮上しにくい状態にある.

図-11 より,沈砂池下流端付近では, 0.1m/s 以上の上昇

流が生じており,これは浮遊砂の沈降速度よりも大きい.

このため,浮遊砂として流入した細砂の多くが,沈砂池

下流に流出したものと考えられる.沈砂池や減勢工付近

の流れと土砂堆積については,今後発生する洪水におい

て,観測結果と解析結果を比較検証する.

図-12 は放水路への流入流砂量及び沈砂池からの流出

流砂量の累積値と流量ハイドログラフの関係を示し,図

-13 は洪水ピーク時および洪水減水期における底面流速

コンターを示す.計算結果において,放水路への総流入

流砂量の累計値は約 7,000m3であり,そのうち浮遊砂が

約 2,700m3,掃流砂が約 4,300m3と見積もられた.解析で

は浮遊砂の 7 割程度が沈砂池下流から流出し,3 割程度

が沈砂池及び減勢工前面で堆積している.流入した掃流

砂の多くは,減勢工・沈砂池内で捕捉されており,沈砂

池下流への土砂流出量の殆どが浮遊砂である.一方,測

量結果から算出した沈砂池の堆積土砂量は,土砂の空隙

率を 0.4 とすると約 16,000m3であり,解析の流入土砂量

が少なく計算されていることが分かる.このため,沈砂

池内の土砂堆積量が小さく計算されていた.解析の流入

流砂量が少なく計算された原因の一つとして,分流区間

上流の河床洗掘量が図-8 に示すように実測よりも小さ

く計算されていることが挙げられ,この要因については

次のように考えられる.図-14 は,斐伊川本川の沈降速

度 wsと摩擦速度 u*の比を示す.分流区間上流の 15km付

近では,ws/u*が急激に小さくなり,粒径 0.8mmに対する

ws/u*も 1.0 を下回っている.このように掃流力が縦断的

に急激に増加する分流区間では,洪水時の河床波の発達

が顕著であることから 6),局所的な流砂量の評価方法に

課題があるものと考えられる.

次に,流量ハイドログラフと流入土砂量の時間変化の

関係(図-12)を考察する.浮遊砂の流入量は,流量増

加に伴って多くなり,洪水減水期には減少している.一

方,掃流砂は洪水減水期に多く流入している.この理由

は,次の通りである.本川では洪水ピークまでに河床波

が発達し,洪水減水期には洪水流が河床波の深掘れ部に

集中する(図-13).さらに,分流点直上流の左岸側には

護岸が設置されていることから(図-1,図-2),護岸際

で洪水流が加速され,分流堰に向かった流れが卓越し,

掃流砂の流入量が増加したものと考えられる.

5. 放水路への土砂流入抑制策

斐伊川放水路や沈砂池,神戸川,本川上下流河道の維

持管理のためには,放水路への土砂流入量は出来るだけ

少ない方が良いことから,本章では放水路への流入土砂

量を抑制する方法について検討する.4 章より,分流区

間上流の左岸護岸際での流れの集中は,流入掃流砂量を

洪水減水期に増加させていた.そこで本研究では,本川

分流区間の左岸に図-15 に示す様な砂州を護岸前面に造

成し,護岸際への流れの集中を緩和する.造成する砂州

の規模や高さは周囲の砂州と同様とし,前面の水あたり

部には保護工を施す.浮遊砂については,現行のゲート

操作規則よりも早い段階でゲートを起こし,洪水減水期

に土砂が流入しないようにする.

図-16 は流量ハイドログラフを示し,図-17 は流入流

砂量の累積値を示す.砂州を造成した場合においても,

分派流量は現況の分派流量とほぼ等しい.流入流砂量に

ついては,砂州を造成した場合では,現況の土砂流入量

に比べて浮遊砂の流入量はほぼ変わらないが,流入掃流

砂量は現況の約 7割程度に減少している.これに加え,

ゲートを減水期の早い段階で起こすと,現況の半分程度

の総流入土砂量に抑制できる可能性がある.図-18 は,

洪水後の河床変動コンターを示す.造成した砂州の前面

では,流れの集中により洗掘が生じており,盛土砂州前

面の保護工の設計について,今後検討する必要がある.

6. 結論

本研究は,観測水面形時系列を用いた一般底面流速解

析法により,平成 25 年 9 月洪水における斐伊川放水路

13

13.5

14

14.5

15

15.5

16

16.5

17

17.5

100 150 200 250 300 350 400 450 500 550 600

初期河床(A‐A’断面)

標高(T.P.m

)

横断距離(m)

0.5m

90~50m

初期河床(B‐B’断面)

砂州造成 保護工

図-15 護岸沿いの流れの集中を緩和するための砂州の造成

(b) 砂州造成断面

沈砂池

H25.9洪水ピーク

砂堤

(a) 砂州造成位置

I_899

Page 6: 大量の土砂を伴う洪水流の斐伊川放水路への分 流と土砂流入抑制 …c-faculty.chuo-u.ac.jp/~sfuku/sfuku/paper/... · 時間変化を用いた一般底面流速解析法と二次元河床変動

分流区間の洪水流の分流と土砂流入を評価し,放水路へ

の土砂流入抑制策を検討した.本研究の主な結論を示す. 1) 本解析では,沈砂池内の土砂堆積量と流入土砂量が,

実測の堆積土砂量よりも少なく計算された.この要

因の一つとして,分流区間上流の洗掘量が実測より

も小さく計算された影響が考えられる.分流区間上

流では,掃流力の縦断的な増加に伴い河床波が発達

することから,河床波の発達が顕著な流れ場の局所

的な流砂量の評価法を検討する必要がある.

2) 分流区間上流左岸の護岸前面に砂州を造成し,放水

路に向かう流れの集中を緩和することにより,本洪

水では,放水路へ流入する掃流砂量を現況の約 7割

程度に抑制した.さらに,洪水減水期の早い段階で

ゲートを起こすことにより,同規模の洪水では,流

入する土砂量を半分程度に抑制できることを示した.

参考文献

1) 後藤岳久,福岡捷二,舛田直樹:取水用砂堰の繰返し崩

壊による大規模砂州の形成・河幅縮小軽減策の研究,河

川技術論文集,第21巻,pp.271-276,2015. 2) 宇民 正,上野鉄男,木下良作,鈴木 篤,佐近裕之,

笠見紀之:斐伊川における砂州の動態観測,水工学論文

集, Vol. 42, pp.1099-1104,1998. 3) 上野鉄男,宇民 正,木下良作,鈴木 篤,佐近裕之,

山崎隆洋,三加茂利明,奈島光宏:斐伊川における洪水

時の流砂量計測の試み,水工学論文集, Vol. 43,pp.707-712,1999.

4) 福岡 捷二:実務面からみた洪水流・河床変動解析法の最

前線と今後の調査研究の方向性,河川技術論文集,第20巻,2014.

5) 内田龍彦,福岡捷二:浅水流の仮定を用いない水深積分

モデルによる種々な小規模河床形態の統一的解析法の構

築,土木学会論文集B1(水工学),Vol.69, No.4,I_1135-I_1140,2013.

6) 岡田裕之介,大吉雄人,福岡捷二:斐伊川放水路への洪

水分派に伴う分派点付近の本川河床変動に関する研究,

河川技術論文集,第20巻,pp.247-252,2014. 7) 川合 茂:開水路分岐部における流量・流砂量配分に関

する研究,京都大学(博士論文),1991. 8) 太田一行,佐藤隆宏,中川 一:掃流から浮遊への遷移を

考慮した三次元河床変動解析手法 -河川横断構造物上流

の局所洗掘現象への適用,土木学会論文集B1(水工学),

Vol. 71, No. 4,p p. I_883-I_888,2015. 9) 板倉忠興:河川における乱流拡散現象に関する研究,土

木試験所報告,第 83号,1984.

(2016. 9. 30 受付)

DIVERSION OF FLOOD FLOW ASSOCIATED WITH A LARGE AMOUNT OF SEDIMENT TRANSPORT INTO THE HII RIVER FLOODWAY AND MEASURES

REDUCING INFLOW SEDIMENT DISCHARGE

Takahisa GOTOH, Shoji FUKUOKA and Ryo SHIBATA

In the Hii River with braided channels, developments and deformations of sand waves during a flood affect flood flows and sediment transports. The Hii River floodway has a settling pond at the river bifur-cation point for reducing sediment discharge to the downstream. For managements of the Hii River bifur-cation section and the floodway, reduction of inflow sediment discharge into the floodway is required. The General Bottom Velocity Computation method was employed for computation of flood, which took account of time series of observed water surface profiles. We estimated flood discharges, bed variations and sediment transports in the river bifurcation section and the floodway during the flood of Sept. 2012. In addition, we propose reduction measures of inflow sediment discharge into the floodway.

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9/3 12:00 9/4 00:00 9/4 12:00 9/5 00:00 9/5 12:00 9/6 00:00

上島解析

大津解析

菅沢橋解析

分派率

ゲート倒伏 ゲート起立

菅沢橋解析(現況)

図-17 流入流砂量の累積値

図-16 流量ハイドログラフの解析結果

流量

(m3 /

s)

分派

率%

(放

水路

/本川

) プロット

:観測流量

0.0E+00

1.0E+03

2.0E+03

3.0E+03

4.0E+03

5.0E+03

6.0E+03

7.0E+03

8.0E+03

9/4 0時 9/4 6時 9/4 12時9/4 18時 9/5 0時 9/5 6時9/5 12時9/5 18時 9/6 0時

全ゲート起立

全ゲート起立(現況)

累積流砂

量(

m3)

合計(砂州+ゲート) 合計(砂州) 合計(現況)

浮遊砂(砂州+ゲート) 浮遊砂(砂州) 浮遊砂(現況)

掃流砂(砂州+ゲート) 掃流砂(砂州) 掃流砂(現況)

図-18 河床変動結果(抑制策を実施した場合)

砂堤の崩壊

I_900