農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進...

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農業の持続的な発展に向けた取組 3

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農業の持続的な発展に向けた取組

第3章

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農林水産業・農山漁村には、農業生産額の減少や担い手の高齢化等の様々な課題がある一方、高い生産技術や世界に評価される日本食、のどかな農村風景、豊かな資源等を有するなど、潜在的に大きな可能性があると考えられます。農山漁村に受け継がれた豊かな資源を活用して、農山漁村の潜在力を最大限に引き出していくためには、生産現場自らが需要の動向を敏感につかみ、農林水産業の高付加価値化等を積極的に推進する「攻めの農林水産業」を展開することが重要です(図3-1)。

このため、農林水産省では、平成25(2013)年1月に農林水産大臣を本部長とした「攻めの農林水産業推進本部」を設置し、国内農業を産業として強くしていく対策と多面的機能の発揮を図る政策とを、車の両輪として検討を進めているところです。「攻めの農林水産業」については、①需要のフロンティアの拡大、②生産から消費までのバリュー

チェーン1の構築、③生産現場(担い手、農地等)の強化を3つの戦略としています。最初の戦略である需要のフロンティアを拡大するためには、国内外に日本の強みを活かせる市場を創

造することが重要です。このため、今後10年で倍増が見込まれる世界の食市場に、日本の農林水産物・食品が評価される環境を整備し、日本の「食文化・食産業」の海外展開(Made by Japan)、日本の農林水産物・食品の輸出(Made in Japan)、世界の料理界での日本食材の活用促進(Made from Japan)の取組を一体的に推進するとともに、国民の新たなライフスタイルに即応した農林水産物・食品の開発を進めることとしています。

2つ目の戦略である生産から消費までのバリューチェーンの構築を進めるためには、農林水産業が多様な業種と連携することにより第1次産業の価値を高めるとともに、知的財産を的確に保護することにより、長期にわたり通用するブランドを構築することが重要です。

さらに、3つ目の生産現場の強化を図るためには、農業の構造改革を進めることが重要であり、法人経営・大規模家族経営の推進や青年就農の促進、農地集積の推進・耕作放棄地2の解消に取り組むことが重要です。

図3-1 「攻めの農林水産業」の概要

5.人・農地プランの戦略的展開6.担い手への農地集積/耕作放棄地の発生防止・解消の抜本的な強化

7.大区画化などの農業基盤整備の推進

1.国別・品目別輸出戦略の構築2.食文化・食産業のグローバル展開

3.多様な異業種との戦略的連携4.新品種・新技術の開発・普及、知的財産の活用等

9.水産業:水産物の消費・輸出拡大、持続可能な養殖の推進

8.森林・林業:新たな木材需要の創出と国産材の安定供給体制の構築

生産現場(担い手、農地等)

の強化

需要のフロンティアの拡大

農山漁村の豊かな資源が成長の糧となる地域の魅力があふれる社会の実現

食料自給率(カロリーベース・生産額ベース)・食料自給力の維持向上

農山漁村に受け継がれた豊かな資源を活用した経済成長と多面的機能の発揮

生産から消費までのバリューチェーンの構築

「攻めの農林水産業」3つの戦略の方向

184の先進事例(「現場の宝」)を踏まえ、9課題を検討

先進事例の横展開(全国展開)を図り、

「攻めの農林水産業」を実現

資料:農林水産省作成

1、2 [用語の解説]を参照。

140

 

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第1節 農業の構造改革の推進

(1)農業構造の変化

(農地流動化は着実に進展)

農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することにより、農地の有効利用を促進することが重要です。

このため、昭和50(1975)年の農用地利用増進事業の創設以降、利用権(賃借権等)設定による農地流動化を推進してきました。具体的には、昭和55(1980)年の農用地利用増進法の制定、平成5

(1993)年の農業経営基盤強化促進法の制定(認定農業者制度1の創設)、平成6(1994)年の認定農業者に対するスーパーL資金の創設等により、利用権(賃借権等)の設定を中心とする農地の流動化は着実に進展しています(図3-1-1)。

平成22(2010)年の利用権設定(純増分)の面積は、前年の6万2千haに比べて3千ha増加し6万5千haとなっています。

図3-1-1 農地の権利移動面積の推移

15

10

5

0

6.56.56.26.2

万ha

昭和45年(1970)

平成2(1990)

47 50 55 60 5 6 12 17 2122

日本列島改造論(地価上昇)

賃貸借による農地流動化を進める

農用地利用増進事業の創設

農用地利用増進法を制定し、

農用地利用増進事業を位置付け

認定農業者制度の創設

認定農業者制度に対する

スーパーL資金の創設

経営安定対策の導入決定 利用権

設定(純増分)

所有権移転

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:「利用権設定(純増分)」は、農業経営基盤強化促進法による利用権設定面積から利用権の更新及び利用権の解約等を差し引いたもの。

(大規模経営体への農地集積が進展)

平成24(2012)年の販売農家1戸当たりの平均経営耕地面積は、全国2.07ha、北海道22.34ha、都府県1.49haとなっています。また、販売農家のうち主業農家1戸当たりの平均経営耕地面積は、平成24(2012)年には、全国5.18ha、北海道28.05ha、都府県2.94haとなっていますが、階層ごとに分析すれば、大規模経営体に農地の集積が進んでいます。米麦等の土地利用型農業に供されている耕地面積のうち、20ha以上の農業経営体が耕作する面積の割合は、平成22(2010)年において32%を占めています(図3-1-2)。この割合の推移をみると、平成2(1990)年から平成12(2000)年にかけては5ポイントの上昇でしたが、平成12(2000)年から平成22(2010)年にかけては11ポイント上昇しており、大規模経営体への農地集積が加速している状況がうかがえます。

1 [用語の解説]を参照。

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第1部

第3章

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図3-1-2 土地利用型農業における20ha以上の経営体が耕作する面積の割合の推移

3683683803803983983232

21211616

11911979796565

20ha以上の経営体が耕作する面積

20ha未満の経営体が耕作する面積

20ha以上の経営体が耕作する面積の割合(右目盛)

平成2年(1990)

12(2000)

22(2010)

資料:農林水産省「農林業センサス」、「耕地及び作付面積統計」に基づく試算注:1)土地利用型農業の耕地面積合計は、「耕地及び作付面積統計」の全耕地面積から、樹園地面積、田で野菜を作付けている面積、畑で

野菜等を作付けている延べ面積を除いた数値。2)平成2(1990)年、平成12(2000)年は販売農家と販売目的の農家以外の農業事業体を合わせた数値。平成22(2010)年は農

業経営体の数値。3)「20ha以上の経営体が耕作する面積」は、「農林業センサス」の20ha以上の経営体による経営耕地面積。4)「20ha未満の経営体が耕作する面積」は、土地利用型農業の耕地面積合計から「20ha以上の経営体が耕作する面積」を差し引いた数値。

%500

400

300

200

1000

35302520151050

万ha

(農地面積の半分は担い手が利用)

認定農業者数は、平成22(2010)年をピークに僅かに減少しており、平成24(2012)年においては、前年に比べて4%(8,953経営体)減少し23万8千経営体となりました(図3-1-3)。

この減少の背景には農業経営改善計画の計画期間(5年間)を終了した認定農業者が、高齢化等を理由に農業経営改善計画の再認定申請を行わなかった事例が増えたこと等が考えられます。

一方、認定農業者等の担い手が利用する農地面積(所有権又は賃借権等の集積面積)は着実に増加しており、平成22(2010)年における担い手の利用面積は、平成7(1995)年の86万haに比べて2.6倍に増加し226万haとなっています。また、農地面積全体に占める担い手の利用面積の割合も17%から49%まで32ポイント増加しており、農地面積の半分は担い手が利用している状況にあります(図3-1-4)。

図3-1-4 農地面積に占める担い手の利用面積の推移

農地面積に占める担い手の利用面積

農地面積に占める担い手の利用面積の割合(右目盛)

459469483504 49.138.5

27.817.1

22618113486平成7年(1995)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:1)農林水産省「集落営農実態調査」、「耕地及び作付面積統計」、農林水産省調べにより作成。

2)「担い手の利用面積」とは、認定農業者(特定農業法人含む)、市町村基本構想の水準到達者、特定農業団体(平成15(2003)年度から)、集落営農を一括管理・運営している集落営農(平成17(2005)年度から)が、所有権、利用権、作業委託(基幹3作業:耕起・代かき、田植え、収穫)により経営する面積。

%6005004003002001000

6050403020100

万ha

図3-1-3 認定農業者数の推移万経営体

23.824.624.924.6

19.2

14.5

九州・沖縄中国四国近畿東海北陸

東北

北海道

関東

25

20

15

10

5

0

3.23.23.33.3

2.6

1.4

4.74.94.94.9

3.6

2.84.95.15.25.1

4.13.4

1.81.81.81.81.2

1.00.91.01.01.0

0.70.5

1.11.11.11.10.9

0.6 2.02.22.22.21.6

1.35.15.35.45.34.53.6

平成12年(2000)

資料:農林水産省調べ注:1)各年3月末現在の数値。

2)関東は、山梨県、長野県、静岡県を含む。

17(2005)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

142

第1節 農業の構造改革の推進

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(法人経営体の増大と大規模化)

法人経営体数は年々増加しており、平成24(2012)年の法人数は、平成12(2000)年の5,272法人と比べて2倍以上の1万4,100法人となりました(図3-1-5)。また、法人経営体数の増加に伴い、農地面積全体に占める法人の農地利用面積の割合も上昇しており、平成24(2012)年の割合は6.2%となっています。

また、法人経営体数の増加とともに、法人経営体の経営規模も拡大しており、平成22(2010)年における全法人経営体数に占める販売金額が1億円以上の法人経営体数の割合は、全体の24%(3,036法人)を占めています(表3-1-1)。さらに、経営耕地面積規模別にみると、20ha以上の法人は、全法人経営体数の22%(2,805法人)、農地面積の80%(15万5千ha)を占めています(表3-1-2)。

図3-1-5 法人経営体数と農地面積に占める利用面積の推移

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:1)農林水産省「農林業センサス」(平成22(2010)年まで)、「農業構造動態調査」(平成24(2012)年)、「耕地及び作付面積統計」

により作成。2)法人経営体は、農家以外の農業事業体のうち販売目的のもので、平成2(1990)年までは会社のみであり、平成7(1995)年から

は農事組合法人、農協、特例民法法人等を含む。3)平成24(2012)年は牧草地経営体を含む。

1,797 2,581 2,842 2,803 2,9024,986

5,272

8,700

12,51114,100

0.1 0.4 0.4 0.4 0.4 1.5 1.62.5

4.2

6.2

50 55(1980)

60 平成2(1990)

7 12(2000)

17 22(2010)

24(2012)

農地面積全体に占める法人の農地利用面積の割合(右目盛)

法人経営体数

昭和45年(1970)

0

2

4

6

8

0

4,000

8,000

12,000

16,000法人 %

表3-1-1 農産物販売金額規模別の法人経営体数(平成22(2010)年)

(単位:法人、%)

経営体数合計 12,511 (100)

1億円以上 3,036 (24)

3億円以上 1,164 (9)

5億円以上 648 (5)

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:1)農林水産省「2010年世界農林業センサス」により作成。

2)表中の( )は全体に占める割合。

表3-1-2 経営耕地面積規模別の法人経営体数と農地面積(平成22(2010)年)

(単位:法人、万ha、%)

20ha未満 20~30 30~50 50ha

以上 合計

経営体数 9,706(78)

946(8)

931(7)

928(7)

12,511(100)

農地面積 3.8(20)

2.3(12)

3.5(18)

9.6(50)

19.3(100)

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:表3-1-1の注釈参照。

(経営体の大規模化に伴い雇用労働力は増加)

法人経営体の増大と大規模化の進展により、法人の雇用者数は年々増加傾向にあります。平成22(2010)年における法人経営体の常雇1人数、常雇を雇い入れた法人数は、平成17(2005)年に比べてそれぞれ28%、36%増加し、6万8千人、7千法人となっています(図3-1-6)。また、臨時雇2については、平成22(2010)年において6千の法人経営体が7万人を雇い入れています。

このような中、平成22(2010)年では、雇用者10人以上の法人経営体数が4,089法人となり、法人経営体全体の33%を占めています(表3-1-3)。

1 主として農業経営のために雇った人であり、雇用契約(口頭の契約を含む。)に際し、あらかじめ7か月以上の期間を定めて雇った人。2 日雇、季節雇など農業経営のために臨時雇いした人のことであり、ゆい(労働交換)・手間替え、手伝い(金品の接受を伴わない無償の受入

労働)を含む。なお、農作業を委託した場合の労働は含まない。また、主に農業経営以外の仕事のために雇っている人が農繁期などに農業経営のための農作業に従事した場合や、7か月以上の契約で雇った人がそれ未満で辞めた場合を含む。

143

第1部

第3章

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表3-1-3 雇用者(常雇及び臨時雇)人数規模別の法人経営体数(平成22(2010)年)

(単位:法人、%)経営体数

合計 12,511 (100)10人以上 4,089 (33)

うち20人以上 1,804 (14)うち30人以上 955 (8)

うち50人以上 388 (3)

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:1)農林水産省「2010年世界農林業センサス」により作成。

2)図3-1-6の注釈参照。

図3-1-6 法人経営体の常雇人数等の推移

資料:農林水産省「農林業センサス」注:農業生産関連事業等の農業以外の仕事のために雇った人数は含まない。

45.5 49.4 52.967.7

4.1 4.25.1

6.9

0

2

4

6

8

0

20

40

60

80

100

平成7年(1995)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

千人

常雇人数

常雇を雇い入れた法人経営体数(右目盛)

千法人

(家族経営体の大規模化)

家族経営体数(販売農家数)は、高齢化や後継者不足による離農、小規模農家の集落営農1への参加等を背景として年々減少しており、平成24(2012)年には前年に比べて3.7%減少し150万4千戸となりました(表3-1-4)。

一方、経営耕地面積が5ha以上の家族経営体数(販売農家数)は増加傾向にあり、平成22(2010)年においては9万戸となっており、大規模化が進展しています(図3-1-7)。

また、家族経営体(販売農家)の経営耕地面積に占める5ha以上層の家族経営体(販売農家)の経営耕地面積の割合は、年々上昇しており、平成22(2010)年においては、45%を占めています。

表3-1-4 家族経営体数の推移(単位:万戸)

昭和45年(1970)

50(1975)

55(1980)

60(1985)

平成2年(1990)

7(1995)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

家族経営体数 540.2 495.3 466.1 437.6 297.1 265.1 233.7 196.3 163.1 156.1 150.4

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:1)農林水産省「農林業センサス」(平成22(2010)年まで)、「農業構造動態調査」(平成23(2011)年以降)。

2)昭和60(1985)年までは総農家、平成2(1990)年以降は販売農家。

図3-1-7 経営耕地面積規模別の家族経営体数と農地集積割合の推移

%50

40

30

20

10

0

26262222

35353030

26262323

2121

45454040

35353131

28282323

20201717

1414

万戸10

8

6

4

2

0

2.02.01.91.9

4.14.13.93.93.73.73.73.73.63.6

9.09.08.88.88.68.68.48.48.08.07.67.67.27.26.86.87.27.2

昭和45年(1970)

50 55(1980)

60 平成2(1990)

7 12(2000)

17 22(2010)

昭和45年(1970)

50 55(1980)

60 平成2(1990)

7 12(2000)

17 22(2010)

5ha以上

5ha以上10ha以上10ha以上

20ha以上

20ha以上

(家族経営体数) (農地集積割合)

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:1)農林水産省「農林業センサス」により作成。

2)表3-1-4の注釈2)参照。3)平成2(1990)年の集積割合は、各階層の農家数(平成2(1990)年)と平均耕地面積(平成7(1995)年)により推計。

1 [用語の解説]を参照。

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第1節 農業の構造改革の推進

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(法人化への過渡期にある集落営農は、近年1万2千前後で推移)

集落営農は、集落を単位として農作業に関する一定の取り決めの下、地域ぐるみで農作業の共同化や機械の共同利用を行うことにより、経営の効率化を目指す取組です。高齢化や担い手不足が進行している地域において、農業、農村を維持する上で有用な形態として全国的に拡大しています。

任意組織(非法人)の集落営農数は、法人化への過渡期にあるため、新設がある一方で法人化による減少もあり、近年、1万2千前後で推移しています(図3-1-8)。

図3-1-8 集落営農数(任意組織)の推移

集落営農14,000

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

2,000

0

11,71711,71712,14912,14912,31112,31111,53911,53911,63411,63411,46611,46610,86210,862

9,6399,6399,4179,417

平成17年(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

25(概数)(2013)

資料:農林水産省「集落営農実態調査」注:1)平成18(2006)年以前は5月1日現在、平成19(2007)年以降は2月1日現在の数値。

2)平成24(2012)年、平成25(2013)年は、東日本大震災の影響により、宮城県及び福島県の休止・不明の組織は含まない。

集落営農が地域農業を担う安定的な経営体として発展していくためには、その取組を任意の集まりから法人としての取組に発展させ、農地の安定的な利用や、取引信用力の向上等を図ることが重要です

(表3-1-5)。このため、任意組織(非法人)としての集落営農を、法人化に向けての準備・調整プロセスと考え、一定の期間後、法人化を促していくことが重要となっています。

表3-1-5 集落営農における任意組織と法人組織の違い

任意組織としての集落営農 法人化した場合

法人格

なし あり○作業受託はできても、農地利用権の設定は不可能

○安定雇用することも難しい

○ 農地利用権の設定が可能となる (規模拡大交付金を受給できるようになる)

○青年就農者などを安定雇用することが可能となる

経営判断できる体制

法律に基づかない、メンバーの合意による役員体制 法律に基づく役員体制○ 合意次第で役員の決定権限は様々であるが、一般的

にはメンバーの総意がないと新たな経営判断は難しい○ 役員はメンバー内から選ぶしかなく、高齢化が進行

した時、役員がいなくなるおそれ

○ 役員の権限は明確であり、生産物販売先や生産資材調達先の変更など、経営発展・所得向上のための経営判断を役員が機動的に行えるようになる

○ 役員に職員や外部の人を登用することもでき、組織として継続できる

投資財源の確保

内部留保はできない 内部留保できる○ 将来の経営展開のための投資財源の確保はできない ○将来の経営展開のための投資財源を確保できる

組織としての融資や出資は受けられない 融資や出資も受けられる

雇用の確保

難しい 可能○ 雇用保険・労災保険などの福利厚生はなく、青年の

就職先として適切でない○農の雇用事業の対象にならない

○ 雇用保険・労災保険などの福利厚生が整い、青年を雇用しやすくなる

○農の雇用事業の対象となる

備考 任意組織としての集落営農は、法人化に向けての準備・調整期間と考えるべきもの

資料:農林水産省作成

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第1部

第3章

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(株式会社等のリース方式による農業参入が進展)

平成21(2009)年12月15日に改正農地法が施行され、農業生産法人1以外の一般法人や特定非営利活動法人(NPO法人)2等が農業に新規参入する際の規制が大幅に緩和されました。これにより、貸借であれば、農地を適正に利用するなどの一定の条件の下において、全国どこでも参入が可能になりました。

この改正を受け、平成21(2009)年12月から平成24(2012)年12月の3年間で新たに1,071の法人が農業に参入しています(図3-1-9)。改正農地法施行以前6年半(平成15(2003)年4月~平成21(2009)年12月)の間に参入した法人数は436法人であることを踏まえると、改正農地法施行後の一般法人等の参入は改正前の5倍のペースで進んでいます。

一方、改正農地法施行後、新たに参入した1,071法人の組織形態をみると、株式会社が671法人

事 例

営農組合との役割分担により効率的な経営を行う集落営農の取組

長野県飯いい

島じま

町まち

の(株)田た

切ぎり

農産は、地域の後継者不足に対応するため、農作業の担い手、農地の受け皿となる組織として平成17

(2005)年に設立され、その後、平成21(2009)年に地域の98%(265戸)の農業者が出資する株式会社に組織変更を行いました。

同社は、農地所有者で構成される田切地区営農組合と共同で営農活動を行っており、具体的には、田切地区営農組合が農地の利用調整を行い、実際の農作業や販売は同社が行うこととしています。このため、品目ごとの団地化が容易になるなど、効率的な営農が可能となっています。

また、同社では、水稲、大豆、そば、ねぎ等の栽培を行っており、全ての作物についてエコファーマー*の認定を受けています。これらの環境に配慮した農産物生産の取組により、首都圏のそば屋

(そば、ねぎの販売)や地元の酒造組合(酒米の販売)等の実需者との契約栽培が増加し、安定した営農計画を立てられるようになりました。また、米の直接販売、農産物直売所「キッチンガーデン」の設立、地元食品企業との連携による新商品開発等、積極的に事業を展開しています。なお、新規事業の取組に当たっては、株式会社化したことによる速やかな意思決定が強みとなっています。

近年は、営農活動に加えて、新規就農者を地域に定着させるための取組も行っており、①ねぎ等の栽培技術の提供、②同社が利用している農地の提供(独立後に利用権設定)、③就農直後の無収入を補うために同社で雇用するなどの支援を行っています。

今後は、地区の農業者が5年後、10年後も農業を続けていくことのできる「永続できる農業」を目指して、新規作物を導入し、効率的な農地利用を進め、利益配分と雇用の拡大を目指すこととしています。

*「エコファーマー」については第3章第8節「環境保全を重視した農業生産の推進」を参照。

静岡県

岐阜県

長野県山梨県

富山県 群馬県埼玉県

飯島町

乗用機械による水稲の除草作業

○農地の利用調整

○農作業○販売

田切地区営農組合

(株)田切農産

1、2 [用語の解説]を参照。

146

第1節 農業の構造改革の推進

Page 9: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(63%)と最も多く、次いでNPO法人等255法人(24%)、特例有限会社1145法人(14%)の順となっています。

また、参入した法人が生産する営農作物は、野菜が最も多く、46%(492法人)を占めており、次いで、複合19%(199法人)、米麦等17%(183法人)の順となっています(図3-1-10)。

さらに、参入した法人を業種別にみると、食品関連産業が25%(270法人)、農業・畜産業15%(162法人)、建設業13%(144法人)となっています。

図3-1-9 一般法人による農業新規参入の推移(改正農地法施行後の増加数)

364364

NPO法人等

特例有限会社

株式会社

法人1,200

1,000

800

600

400

200

0

6666 6363235235

677677134134108108

435435

1,0711,071255

(24%)255

(24%)145

(14%)145

(14%)

671(63%)671

(63%)

平成22年(2010)

23(2011)

24(2012)

資料:農林水産省調べ注:各年12月末現在の数値。

図3-1-10 営農作物別参入法人数(平成24(2012)年12月末現在)

その他 8法人(1%)

畜産(飼料用作物) 25法人(2%)花き 30法人(3%)

工芸作物 42法人(4%)

92法人(8%)

果樹 92法人(8%)

複合

米麦等野菜

参入法人492法人(46%)

199法人(19%)

183法人(17%)

(1,071法人)

資料:農林水産省調べ注:「米麦等」は、米、麦、そば、大豆、小豆等、「複合」は2種

類以上を栽培している法人。

日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という。)が農業に参入した食品企業者等に行った調査によると、「食品製造業」と「食品卸売業」の5割以上が「原料の安定的な確保」や「本業商品の付加価値化、差別化」を目的に農業に参入したと回答しています(図3-1-11)。また、「建設業」では、「経営の多角化」や「雇用対策(人材の有効活用)」を目的として参入したとの回答が多く、業種によって農業に参入する目的に違いがみられます。なお、いずれの業種においても「地域貢献」を目的として参入したとの回答が多くなっています。

図3-1-11 業種別農業参入の目的(複数回答)

0 20 40 60 80雇用対策(人材の有効活用)

地域貢献利益の確保

経営の多角化企業のイメージアップ

本業商品の付加価値化・差別化トレーサビリティの確保

原材料の調達コストの削減原材料の安定的な確保

建設業

食品製造業食品卸売業

%資料:(株)日本政策金融公庫「企業の農業参入調査」(平成24(2012)年1月公表)注:全国の農業参入企業422社を対象とした調査(回答率32.7%)。

1 平成18(2006)年5月1日の会社法施行以前に有限会社であった会社であって、同法施行後、商号の中に「有限会社」を用いて存続している株式会社。

147

第1部

第3章

Page 10: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(女性農業者の7割が農業経営方針の策定に関与)

平成24(2012)年における基幹的農業従事者数177万8千人のうち女性農業者は42%(74万7千人)を占めており、農業や地域活動の担い手として重要な役割を果たしています。

平成24(2012)年に、農林水産省が女性農業者に対して行った調査によると、7割の女性農業者が農業経営方針の策定に関わっていると回答しました(図3-1-12)。年代別にみると、20歳代から30歳代においては、親世代が経営の中心であったり、子育て期間中であることから、経営方針策定に関与していると答えた割合は5割程度となっていますが、50歳代以上においては8割以上が関与していると答えています。

また、経営者としての意識をみると、47%が自分が「経営者である」と回答しているなど、経営全体の把握や方針決定への関与により、女性の経営参画が進展していることがうかがえます(図3-1-13)。

図3-1-12 農業経営方針策定への関わり(女性農業者)

0.0

無回答

どちらとも言えない

関わっていない

関わっている

全体

100806040200

2.7

1.3

0.7

0.4

1.3

9.9

11.0

21.4

23.1

27.3

15.8

6.7

5.1

17.6

27.8

27.3

12.9

80.7

82.6

60.3

48.7

45.5

69.9

20歳代

30歳代

40歳代

50歳代

60歳代以上

資料:農林水産省「女性の農業への関わり方に関するアンケート調査結果」(平成25(2013)年1月実施)

注:1)女性農業者を対象とした郵送調査(回答数1,816人)2)数値は四捨五入しており、合計とは一致しない。

図3-1-13 自分が経営者であるとの意識(女性農業者)

無回答

どちらとも言えない

経営者ではない

経営者である

10040 60 80200

9.0

7.4

4.8

2.9

4.5

6.6

12.2

12.7

20.0

16.8

19.3

15.3

19.5

21.0

40.1

52.7

61.4

31.7

59.2

59.0

35.2

27.5

14.8

46.5全体

20歳代

30歳代

40歳代

50歳代

60歳代以上

資料:農林水産省「女性の農業への関わり方に関するアンケート調査結果」(平成25(2013)年1月実施)

注:図3-1-12の注釈参照。

(女性役員・管理職がいる経営は、売上げや収益力が向上)

農産物販売金額が1千万円以上の農家では、女性の基幹的農業従事者のいる経営体が9割を占めるなど、女性がいる経営体は、いない経営体と比べて販売金額が大きい傾向にあります(図3-1-14)。

日本公庫が6次産業化1や大規模経営に取り組む農業者を対象に行った調査によると、「女性役員・管理職がいる」経営は、6次産業化等の設備投資を実施後、3年間で売上高が23%増加したのに対し、

「女性役員・管理職がいない」経営では、9.4%の増加にとどまり、13.6ポイントの乖離となりました(図3-1-15)。また、経営の収益力を示す売上高経常利益率の比較においても、「女性役員・管理職がいる」経営では2ポイント上昇したのに対し、「女性役員・管理職がいない」経営では、0.1ポイント低下しました(表3-1-16)。

また、農村女性による地域農産物を活用した加工や販売等の起業活動の取組は、全国で約1万件あり、年々増加しています2。また、女性の基幹的農業従事者がいる経営体は、農業生産以外にも、農産物加工、観光農園、農家民宿、輸出等に取り組んでいる割合が高くなっており3、女性の能力を活かして経営の多角化に取り組む傾向が強いことがうかがえます。

1 [用語の解説]を参照。2 農林水産省「農村女性による起業活動実態調査」3 農林水産省「農業経営構造の変化」(農林水産省「2010年世界農林業センサス」(組替集計))

148

第1節 農業の構造改革の推進

Page 11: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

この背景には、女性の目線による細やかな気配りや対応、女性ならではのアイディアが経営面においても強みとなっていること等があるものと考えられ、今後も女性の感性を活かした経営の展開を通じて、農業・農村の活性化につながることが期待されます。

図3-1-14 農産物販売金額規模別女性の基幹的農業従事者の有無別農家数割合

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:農林水産省「2010 年世界農林業センサス」(組替集計)により作成。

41

7484 91 92 92 91 89

59

2616 9 8 8 9 11

0

20

40

60

80

100

300万円未満

300~500万円

500~1,000万円

1,000 ~2,000万円

2,000 ~3,000万円

3,000 ~5,000万円

5,000万~ 1億円

1億円以上

女性あり% 女性なし

図3-1-15 女性役員等の有無による売上高増加率の比較

100 20 30

女性役員・管理職がいる

女性役員・管理職がいない

13.6ポイントの乖離

23.0 23.0

9.4 9.4

資料:(株)日本政策金融公庫「農業経営の現場での女性活躍状況調査」(平成25(2013)年1月公表)

注:1)日本公庫の融資資金を利用し設備投資等を行った全国の6次産業化・大規模経営に取り組む農業者2,078先を対象とした調査(回収率48.3%)

2)設備投資等を行う前と3年後を比較したもの。

図3-1-16 女性役員等の有無による売上高経常利益率の比較

女性役員・管理職がいる2.0ポイント上昇融資前0.9% → 融資後

2.9%

女性役員・管理職がいない0.1ポイント低下融資前1.5% → 融資後

1.4%

資料:(株)日本政策金融公庫「農業経営の現場での女性活躍状況調査」(平成25(2013)年1月公表)

注:図3-1-15の注釈参照。

(地域社会や農業経営における女性の参画)

農業委員に占める女性の割合や農業協同組合の役員に占める女性の割合は、近年、増加傾向にありますが、平成24(2012)年では、それぞれ6.1%(2,171人)1、5.1%(969人)2となっており、依然として低い水準となっています。このため、関係団体における女性役員等の登用目標の設定を促すとともに、地域の理解・機運の醸成に向けた啓発活動を展開しています。一方、家族で取り組む農業経営について、経営方針や役割分担等を明確にする「家族経営協定3」は、

女性の経営参画を促すとともに、経営体としての組織力を向上させる取組として有効です。家族経営協定の締結数は年々増加しており、平成24(2012)年における締結農家数は、前年に比べて2,113戸(4%)増加し5万715戸4となりました。また、家族経営協定を締結するなど、女性を農業経営に参画させ、女性の能力を十分に活かした経営体は、販売金額が大きい傾向がみられます5。

1 全国農業会議所調べ(平成24(2012)年9月1日現在)2 JA全中調べ(平成24(2012)年7月31日現在)3[用語の解説]を参照。4 農林水産省調べ5 農林水産省「農業経営構造の変化」(農林水産省「2005年農林業センサス」(組替集計))

149

第1部

第3章

Page 12: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(女性の活躍に必要なこと)

平成24(2012)年に農林水産省が女性農業者を対象に行った調査によると、女性農業者の活躍に必要なことは、「女性自身の意欲・意識の向上」が最も高くなっており、次いで「家族の理解」、「女性自身の能力の向上」の順となっています(図3-1-17)。また、20~30歳代においては、「女性同士のネットワーク」や「情報や機会の提供」との回答が多くなっており、若い世代においては、女性自身の努力や家族の協力に加えて、ネットワークづくりや情報提供へのニーズが高いことがうかがえます。

図3-1-17 女性農業者の活躍に必要なこと(複数回答)

0 10 20 30 40 50 60 70

女性自身の意欲・意識の向上

家族の理解

女性自身の能力向上

女性同士のネットワーク

情報や機会の提供

地域の理解

全体

20~ 30歳代40~ 50歳代60歳代以上

%資料:農林水産省「女性の農業への関わり方に関するアンケート調査結果」(平成25(2013)年1月実施)注:女性農業者を対象とした郵送調査(回答数2,070人)

(異業種と結び付く女性経営者のネットワークの形成)

地域資源を活かした加工品づくりや直売所等での販売、農業体験受入れやレストランの経営等、女性の感性を活かした事業が各地で展開されています。今後、農山漁村の女性による取組を一層発展させていくためには、女性農林漁業者相互のネットワーク形成はもとより、異業種や民間企業との結び付きを深めていくことが重要です。

そこで、平成24(2012)年10月に「女性農林漁業者とつながる全国ネット」(愛称:「ひめこらぼ」)を立ち上げ、女性農林漁業者だけでなく、異業種や民間企業、消費者等も参加し、ビジネスパートナーとしての関係づくりや、情報交換・交流・連携を進めています。12月には、東京ビッグサイトで開催された「農業フロンティア2012」において、メンバーが生産した野菜や加工品等の展示・販売やビジネスアピールを行いました。また、平成25(2013)年3月には東京で全国セミナーを開催しました。

「農業フロンティア 2012」における出展ブース 全国セミナーの様子

150

第1節 農業の構造改革の推進

Page 13: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

事 例

女性農業者の取組

(1)女性の社会進出と地位向上に向けた根強い取組福井県敦

つる賀が

市し

の上うえ

野の

香か

代よ

子こ

さんは、福井県では珍しくいちじく栽培に取り組むなど積極的な営農活動を展開する一方、平成16(2004)年には敦賀市農業委員会初の女性農業委員に就任し、3期目の平成22(2010)年からは福井県初の女性農業委員会会長として活躍し、4期目の平成24(2012)年からは、会長職は後継者へ継承したものの、引き続き女性農業委員として活動しています。また、平成24(2012)年3月からは福井県初の農業共済の理事としても活躍しています。

敦賀市農業委員会の農業委員に就任する前、県の農業指導士として活躍していた上野さんは、農業への女性の参画を進めるため、近隣地区と合同で女性農業委員選出に向けた嘆

たん願がん

活動等の取組を7年にわたり展開した結果、敦賀市農業委員会の農業委員枠21人中2人を議会による女性推薦枠とすることが認められました。その後、平成16(2004)年の選挙により、上野さん自身は農業委員への当選を果たすことができたことから、敦賀市農業委員会では議会推薦枠(2人)と合わせて計3人の女性農業委員が誕生しました。

上野さんは、女性が社会に進出していくためには、「夫の理解とともに女性自身が外に出て行く意識を持つことが重要である」と考えており、全国各地で行われている講演活動等を通じて女性の社会進出を呼びかけています。

(2)周囲の女性を巻き込んだ「ハート型キュウリ」の産地PRに向けた取組千葉県 旭

あさひ市し

の平ひら

野の

佳よし

子こ

さんは、施設野菜農家に生まれ、平成9(1997)年に就農しました。平成16(2004)年に経営移譲を受け、経営主として「JAちばみどり旭胡瓜部会」に参加するようになりましたが、集まりに出てくる女性が少ないことに疑問を持ち、女性生産者に呼びかけ、市場関係者への試食会等を開催し、女性による産地PRに取り組んでいます。また、平成18(2006)年には、きゅうりの需要を伸ばすために、部会内に「ハート倶楽部」を結成し、初代代表となって「ハート型キュウリ」の生産、販売促進活動等に取り組み、現在12人で活動し、年間5万本を出荷しています。

胡瓜部会の参加者は、男性がほとんどで、女性は参加しにくい雰囲気がありましたが、平野さんは、自ら先頭に立って試食会を開催すること等により、女性が自分の意見を発言できる環境づくりに貢献しました。また、「ハート型キュウリ」の栽培に取り組むことで、女性たちがきゅうり栽培に主体性を持つようになり、女性たちの農業経営への参画意識の向上に大きく貢献しました。

神奈川県

東京都

千葉県

埼玉県茨城県

旭市

平野佳子氏

京都府

岐阜県

福井県石川県

滋賀県

敦賀市

上野香代子氏

151

第1部

第3章

Page 14: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

1[用語の解説]を参照。

(2)構造改革の大きな節目の到来

(年齢別にみた基幹的農業従事者の状況)

平成24(2012)年における基幹的農業従事者1の年齢構成をみると、65歳以上が60%、40代以下が全体の10%であり、世代間バランスの崩れた状況となっています(図3-1-18)。

図3-1-18 年齢階層別の基幹的農業従事者数(平成24(2012)年)

0.1 2.5 5.9 9.825.5

52.5

81.5

0 1 36

14

30

46

15 ~ 19歳 30~ 3920~ 29 40~ 49 60~ 6950~ 59 70歳以上

基幹的農業従事者数

基幹的農業従事者数全体に占める割合(右目盛)

資料:農林水産省「農業構造動態調査」(組替集計)

基幹的農業従事者合計数178万人

40代以下18万人(10%)

65歳以上106万人(60%)

0

10

20

30

40

50

0

20

40

60

80

100

140

120

万人60%

この基幹的農業従事者の年齢構成を地域別にみると、平成2(1990)年から平成24(2012)年にかけて、全ての地域において65歳以上の占める割合が上昇しており、平成24(2012)年では、北海道(31%)を除く各地域で56%から75%を占めています(図3-1-19)。中でも、北陸、中国地域の高齢化率(65歳以上が占める割合)は高くなっており、それぞれ69%、75%となっています。北海道については、65歳以上の占める割合が上昇しているものの、中心的な年齢層は50~59歳層

(24%)であり、49歳以下を合わせると53%を占め、他の地域と比べて年齢構成が若くなっています。

図3-1-19 地域別基幹的農業従事者の年齢構成

12 527

15 144 8 3 11 5 10 4 8 4 4 1 9 4 15 6

146

20

14 17

512

3

145

135

134 8

2

145

15

7

27

14

26

2430

17

27

10

27

15

25

12

25

1222

7

26

13

30

16

19

16

12

1619

17

22

16

20

15

20

14

21

16

22

15

20

18

18

15

27

60

1431

20

56

31

69

28

60

32

65

33

65

43

75

31

61

22

56

0

20

40

60

80

100

全国

北海道

東北

北陸

関東・東山

東海

近畿

中国

四国

九州・沖縄

60 ~ 64歳

50~ 59歳40~ 49歳39歳以下

65歳以上

平成2(1990)年

資料:農林水産省「1990年世界農林業センサス」、「農業構造動態調査」注:1)東山は山梨県、長野県を指す。農業地域は[用語の解説]を参照。

2)数値は四捨五入しており、合計とは一致しない。

平成24(2012)年%

152

第1節 農業の構造改革の推進

Page 15: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

また、基幹的農業従事者の年齢構成を農業経営組織別にみると、稲作では高齢化率が最も高く、74%を占めており、平均年齢も69.9歳と最も高齢となっていますが、一方、酪農や養豚においては高齢化率が低く、それぞれ26%(平均年齢55.1歳)、31%(平均年齢57.3歳)となっています(図3-1-20)(表3-1-6)。

これは、酪農や養豚においては、経営規模の大きい農家が多く、農業所得も多い傾向1にあることから後継者が確保されやすいこと等が背景にあると考えられます。

図3-1-20 農業経営組織別基幹的農業従事者の年齢構成(平成22(2010)年)

%100

80

60

40

20

0

5258

31

53

26

5840

5674

61

1414

15

13

13

14

14

13

13

1319

17

28

19

29

17

23

17

915

8711

8

15

712

82

6 75147175106

15

稲作

全体

露地野菜

施設野菜

果樹類

酪農

肉用牛

養豚

複合経営

準単一複合経営

単一経営

資料:農林水産省「2010年世界農林業センサス」注:1)「単一経営」、「準単一複合経営」、「複合経営」は[用語の解説]を参照。

2)数値は四捨五入しており、合計とは一致しない。

65歳以上

39歳以下

60~64歳

50~59歳

40~49歳

表3-1-6 農業経営組織別の基幹的農業従事者の平均年齢及び販売金額が1千万円以上の販売農家数割合(平成22(2010)年)

(単位:歳、%)

全体単一経営

準単一複合経営

複合経営稲作 露地

野菜施設野菜 果樹類 酪農 肉用牛 養豚

基幹的農業従事者の平均年齢 66.1 69.9 64.5 59.9 65.5 55.1 63.2 57.3 65.1 63.2

販売金額が1千万円以上の販売農家数割合 7 1 14 35 6 85 22 79 11 18

資料:農林水産省「2010年世界農林業センサス」

(基幹的農業従事者数の推移)

基幹的農業従事者数の推移を年齢別にみると、昭和一けた世代が最多階層となっているため、昭和35(1960)年は、30歳代が最多階層となっていますが、その後、最多階層は高年齢層にシフトし、平成22(2010)年では、70歳以上層が最多階層となっています(図3-1-21)。

1 営農類型別の農業所得については第3章第4節「農業産出額と農業所得等の動向」を参照。

153

第1部

第3章

Page 16: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

図3-1-21 年齢階層別基幹的農業従事者数の推移

昭和35(1960)年(推計)昭和35(1960)年(推計)

昭和一けた世代

昭和45(1970)年(推計)昭和45(1970)年(推計)

昭和55(1980)年(推計)昭和55(1980)年(推計)

平成12(2000)年平成12(2000)年平成2(1990)年平成2(1990)年

平成22(2010)年

万人

20~ 29 30~ 39 40~ 49 50~ 59 60~ 69 70歳以上15~ 19歳

300

250

200

150

100

50

0

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:1)農林水産省「農林業センサス」、総務省「国勢調査」により作成。

2)昭和35(1960)年は農業就業者数(国勢調査)の年齢構成から推計。また、昭和55(1980)以前は、平成2(1990)年の総農家と販売農家の比率(年齢階層別)から推計。

3)15~ 19歳については、平成2(1990)年までは16歳以上、平成12(2000)年以降は15歳以上。

(平成23(2011)年の新規就農者数は前年より7%増加)

今後、高齢農業者のリタイアが見込まれる中、将来における我が国の農業を支える人材となる新規就農者を育成・確保することは重要な課題となっています。

新規就農者数は、経済成長期には一貫して減少しましたが、平成2(1990)年から平成12(2000)年まで増加傾向で推移しました(図3-1-22)。その後、平成18(2006)年以降は、減少傾向で推移していますが、平成23(2011)年の新規就農者数は、前年に比べて3,550人(7%)増加し5万8,120人となりました。このうち、地域農業の担い手として期待される39歳以下の若い就農者については、前年に比べて1,070人(8%)増加し1万4,220人となりました。

これら新規就農者の約3割は生計が安定しないことから5年以内に離農しており、定着するのは1万人程度 1となっています。

図3-1-22 新規就農者数の推移

リーマンショック農の雇用事業創設

青年就農者への無利子資金の創設

バブル崩壊

新規就農者(39歳以下)新規就農者(40歳以上)

新規就農者(全体)

千人

昭和45年(1970)

平成2(1990)

6(1994)

12(2000)

22(2010)

23(2011)

20(2008)

18(2006)

120

100

80

60

40

20

0

14.214.213.213.215.015.0

14.414.414.714.711.611.66.36.3

4.84.8

33.733.743.943.9

41.441.4

51.851.8

45.645.6

66.366.3

65.965.9

32.532.5

11.411.4

73.473.4

68.568.5 58.158.154.654.666.866.860.060.0

81.081.077.177.1

38.838.8

15.715.7

116.6116.6

資料:農林水産省「農業経営構造の変化」注:1)農林水産省「農家就業動向調査」(昭和45(1970)~平成2(1990)年)、「農業構造動態調査」(平成3(1991)年~平成15(2003)年)、

「農林業センサスと農業構造動態調査(組替集計)」(平成16(2004)、平成17(2005)年)、「農林業センサス」(平成6(1994)年)、「新規就農者調査」(平成18(2006)年~)により作成。

2)平成17(2005)年以前の新規就農者数は、新規自営農業就農者のみ、平成18(2006)年以降は新規雇用就農者と新規参入者を含んだ値。3)平成22(2010)年の新規参入者は、東日本大震災の影響により、岩手県、宮城県、福島県の全域及び青森県の一部地域を除いて集計。4)平成23(2011)年は、東日本大震災の影響で調査不能となった福島県の一部地域を除いて集計。

1 農林水産省調べ

154

第1節 農業の構造改革の推進

Page 17: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

平成23(2011)年における新規就農者数を就農形態別にみると、新規自営農業就農者1は4万7,100人(対前年比5%増)、新規雇用就農者2は8,920人(対前年比11%増)、新規参入者3は2,100人(対前年比21%増)となっており、全体(5万8,120人)に占めるそれぞれの割合は、新規自営農業就農者81%、新規雇用就農者15%、新規参入者4%となっています(図3-1-23)。また、39歳以下の若い就農者についてみると、新規自営農業就農者は7,560人(対前年比1%減)、

新規雇用就農者は5,860人(対前年比21%増)、新規参入者は800人(対前年比25%増)となっており、39歳以下全体(1万4,220人)に占めるそれぞれの割合は、新規自営農業就農者53%、新規雇用就農者41%、新規参入者6%となっています。特に、新規雇用就農者の割合は、平成21(2009)年以降上昇傾向にあります。

図3-1-23 就農形態別新規就農者数の推移

0.8(6%)

14.2

13.215.014.414.314.7

千人16

14

12

10

8

6

4

2

0

0.60.60.60.60.7

5.9(41%)4.9

5.15.54.13.7

7.6(53%)7.7

9.38.39.610.3

新規参入者新規雇用就農者

新規自営農業就農者

58.154.6

66.860.0

73.581.0

千人 (全体) (39歳以下)90

70

50

30

80

60

40

1020

0

2.1(4%)1.7

1.92.0

1.82.2

8.9(15%)

8.0

7.68.4

7.36.5

47.1(81%)

44.857.449.6

64.472.4

新規参入者

新規雇用就農者

新規自営農業就農者

平成18年(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

平成18年(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「新規就農者調査」注:図3-1-22の注釈3)、4)参照。

新規就農者数の割合を経営類型別にみると、新規自営農業就農者においては、稲作58%、野菜15%、果樹13%等となっており、稲作が半数以上を占めています(図3-1-24)。また、新規雇用就農者においては、畜産が32%、野菜27%、稲作15%等となっています。新規参入者においては、野菜53%、果樹15%、稲作13%等となっており、野菜が過半数を占めています。

1~3 [用語の解説]を参照。

図3-1-24 新規就農者の経営類型別割合

新規参入者新規雇用就農者

新規自営農業就農者

資料:農林水産省「新規就農者調査」(平成23(2011)年)、「2010年世界農林業センサス」(組替集計)、全国農業会議所「新規就農者(新規参入者)の就農実態に関する調査結果」(平成22(2010)年11月実施)

注:1)「新規自営農業就農者」、「新規雇用就農者」の営農類型は、販売金額1位の部門。「新規参入者」の営農類型は、就農1年目の販売金額1位の農業経営作目。

2)数値は四捨五入しており、合計とは一致しない。

58

15 13

5

5 2

15

2753

13

3

15

2

8

73

32

75 11 3

0

20

40

60

80

100

稲作畑作

野菜

果樹花き・花木畜産その他

155

第1部

第3章

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事 例

独立自営農業に奮闘する青年

広島県広ひろ

島しま

市し

の中なか

岡おか

亮りょう

さん(27歳)は、非農家で育ちましたが、農業を営む祖父母や近所の農家の姿を見て農業に魅力を感じ、就農を決意しました。広島県立農業技術大学校を卒業し、広島市の支援事業「ひろしま活力農業経営者育成事業」による研修(1年目の基礎研修、2年目の実地研修)を経て、平成19(2007)年に21歳で就農しました。

就農に当たって、農地は、研修2年目の実地研修を行った農地を市のあっせんにより有償で借入れ、資金は国の補助と農協からの無利子貸付(平成25(2013)年完済予定)を活用しました。

現在は、施設面積30a(11棟のハウス)で7人のパート従業員を雇用し、ほうれんそう、みずな等の軟弱野菜の周年栽培を行っています。売上高は就農6年目で1,300~1,400万円までになっており、今後は1,500~2,000万円を目標としています。

また、ヤンマーファーム(ヤンマー(株)が運営する農場)の研修生の受入れ、地域の消防団活動、広島県農業協同組合青壮年連盟の役員としての活動を通じて、できるだけ多くの人と交流するよう心掛け、意欲的に農業に取り組んでいます。

山口県

広島県

岡山県

島根県広島市

中岡亮氏

(非農家出身者や若者の就農ルートとして雇用就農が増加)

非農家出身者や若者が農業に従事する場合、農地の確保に加え、機械・施設の取得等の初期投資等が負担となりますが、農業法人等への雇用を通じた就農は、これらの負担がないことから、近年、新規雇用就農者数は増加傾向にあります。

平成23(2011)年における新規雇用就農者数を出身別にみると、非農家出身者数が前年に比べて1,060人(17%)増加し7,440人となっており、新規雇用就農者全体の83%を占めています(図3-1-25)。また、年齢別にみると、39歳以下の青年層が前年に比べて1,010人(21%)増加し5,860人となっており、新規雇用就農者全体の66%を占めています。

図3-1-25 出身別・年齢別にみた新規雇用就農者数の推移

8.98.98.08.07.67.6

8.48.47.37.3

農家出身

非農家出身

(出身別) (年齢別)

資料:農林水産省「新規就農者調査」注:図3-1-22の注釈3)、4)参照。

千人10

8

6

4

2

0

7.47.46.46.46.16.17.07.05.85.8

1.51.51.71.71.51.51.41.41.51.5

8.98.98.08.07.67.6

8.48.47.37.3 60歳以上

40~ 59歳

39歳以下

千人10

8

6

4

2

0

0.80.80.80.80.80.8

0.50.50.90.9 2.22.2

2.42.41.71.72.42.4

2.32.3

5.95.94.94.95.15.15.55.54.14.1

平成19年(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

平成19年(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

156

第1節 農業の構造改革の推進

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事 例

一般企業並の方針で新規学卒者の採用を強化している取組

石川県白はく

山さん

市し

の(株)六ろく

星せい

は、昭和52(1977)年に5軒の農家が集まり、共同で農作業を行う生産組合をベースとして平成元

(1989)年に有限会社化、平成19(2007)年に株式会社化しました。現在は、250軒以上の農家からの受託を含む約140haの栽培面積で水稲・野菜の生産・加工・販売等を行っており、約100人のスタッフ(役員9人、社員32人、パート約60人)で運営しています。

同社の社員は約9割が非農家出身者で、平均年齢は33歳と比較的若い人材が中心となっています。同社は、優秀な人材を獲得するためには、待遇面の整備が不可欠であるとの考えから、大卒の初任給19万円程度、年3回の賞与の支給等一般企業並の給与水準を確保し、各種社会保険も完備しています。社員の採用に当たっては、石川県内の各大学への求人案内やホームページ等を活用した県外学生への求人案内を行い、平成24(2012)年は30人以上の応募の中から新卒者を5人採用しました。

新入社員は、その時点での各部門(生産、加工、販売、管理等)の実情と、個人の素質に合わせて各部署へと配属されます。各部署では、「計画」、「実行」、「点検」、「改善」の一連の流れに沿って業務改善を図ることとしており、自らの考えに基づき業務を行い、課題解決ができる人材の育成を目指しています。

今後は、周辺地域農家の高齢化により受託面積の増加が予想されることから、事業の拡大に対応するための人材育成が急務となっており、一般企業人としての基礎研修を含む新卒採用者を対象とした人材育成システムの強化を進めています。

岐阜県福井県石川県

富山県白山市

営農スタッフの皆さん

店舗スタッフの皆さん

事 例

法人における農業経営者育成の先進的な取組

山梨県 中ちゅう

央おう

市し

の農業生産法人(株)サラダボウルは、平成16(2004)年に設立され、現在の栽培面積は15ha、スタッフ30人(社員・パート)で野菜を中心に農産物の生産・販売等を行っています。

同社では、人材育成に力を入れており、独自の手法・仕組みを構築しています。リーダーとなる人材を育てるためには、知識やノウハウの土台となるメンタリティの強化が最も重要であるとの考えから、自ら学ぶ姿勢を持った自立型の人材を育てることを目指して指導を行っています。

具体的には、心の中の願望を全て書き出す「WISH・LIST(ウィッシュ・リスト)」の作成、各自の強みと弱みを分析する「SWOT(スウォット)分析」の実施、キャリアプランを明確化する事業計画書の作成等を通じて、若者が農業を辞めてしまう背景にある漠然とした不安を、解決すべき課題へと転換させ、経営者としての視

静岡県

長野県 山梨県

群馬県埼玉県

神奈川県

東京都

中央市

田中社長(前列右)とスタッフの皆さん

157

第1部

第3章

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(円滑な経営資源の継承に向けた取組)

日本公庫がスーパーL資金等の融資先である農業者に対して、後継者の有無について調査を行ったところ、7.5%の農業者が「いないので、後継者を探している」と回答しています(図3-1-26)。これまで地域の担い手として専業的な経営を展開してきた農家においても、家族や親族の後継者が確保できないケースがあり、全国の各地域において、経営資源や経営ノウハウを家族や親族以外の新規就農者等に引き渡す経営継承の事例がみられます。経営継承には、経営の移譲を希望する新規就農者が研修生として2年から3年間、経営主らとともに働きながら農業を学び、農地や施設を引き継いでいくケースと、経営者と継承希望者が共同で法人を設立し、継承希望者が社員として働きながら法人運営にも参画し、その後、経営者を交代していくケース等があります。しかしながら、現実には権限の委譲が不十分であったり、継承時期が明確に示されていないなどの理由により、継承希望者が不信感を抱き撤退してしまうケースや、経営継承を期待し若者を雇用したものの本人に経営参画の意志がなく、経営継承を断られるケース等、経営の引継ぎが円滑に進まない例もみられます。このように家族や親族以外の者に経営を円滑に継承させるためには、経営者と継承希望者との信頼関係の形成や継承希望者の意欲や能力の向上がポイントとなります。また、経営資源の移譲に関する覚書や契約書の作成、共同作業による技術指導や作業記録に基づくノウハウの伝達、継承希望者が地域社会から認知されるための仲介等が求められます。さらに、経営者と継承希望者との相性の確認、移譲する資産の公正な評価、円滑な資産移譲のためのリース事業の活用、規模拡大のための農地あっせん等、第三者の立場にある関係機関の介在が重要です。このため、平成20(2008)年度から、後継者不在農家と就農希望者を結び付けて、円滑な経営の継承のための支援を行う「農業経営継承事業」が実施されており、移譲希望者と継承希望者のマッチング、継承のための研修等への支援が行われています。

図3-1-26 営農類型別後継者の有無

将来的に廃業予定のため必要ない

いないので、後継者を探している

現時点では必要ない

家族・親族以外の後継者又は候補者がいる

家族・親族内に後継者又は候補者がいる

全体稲作畑作果樹酪農肉用牛養豚

100806040200

4.24.06.43.55.44.73.1

20.417.5

17.726.420.720.418.8

7.58.86.6

9.56.25.45.8

4.34.82.9

3.32.24.34.8

63.665.066.3

57.365.665.267.5

資料:(株)日本政策金融公庫「平成24年度下半期農業景況調査」(平成25(2013)年3月公表)注:全国のスーパーL資金及び農業改良資金融資先(21,376先)を対象とした調査(回収率34.7%)

点の習得を図っています。同社では、生産や販売等の経験を積み、農業経営者として独立するスタッフに対して、農地の確保や販売先の紹介の支援を行っています。これまで、独立して就農した人や他法人へのキャリアアップを行った人は20人から30人おり、全国各地で地域農業のリーダーとなっています。同社は今後も、農業を志す人が1人でも多く農業での自己実現を果たせるよう、人材の育成を図っていくこととしています。

158

第1節 農業の構造改革の推進

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(就農に向けた技術習得)

地域農業の担い手を養成する中核的な教育機関である道府県農業大学校は、就農に必要な技術や知識の習得を図る「農業経営者育成教育機関」として42道府県に設置されています。同校では2年間の養成課程を中心に、講義と実習の組合せによる農業研修教育を実施しており、養成課程卒業者等を対象とした研究課程のほか、新規就農者や農業者の経営の発展段階に対応した多様なコースを研修課程として開設しています。

近年、道府県農業大学校の入学者数は、2千人前後で推移していますが、入学者に占める非農家出身者の割合は増加傾向にあり、平成24(2012)年度は5割を超えています(図3-1-27)。また、卒業生の就農率は5割程度で推移しており、平成24(2012)年度は雇用就農者数(416人)が自営就農者数

(320人)を初めて上回りました。このような中、平成24(2012)年度から、就農希望者や経営発展を目指す農業者等のレベルの向上

を図り、今後の地域農業のリーダーとなる人材の層を厚くすることを目的として、農業経営者育成教育機関に対する新たな支援が始まりました。具体的には、全国レベルで高度な農業経営者育成教育を実施する教育機関を選定(平成24(2012)年度は(一社)アグリフューチャージャパン)し、県農業大学校等の学生や農業者を対象とした研修への支援を行うとともに、この機関が行うインターネットを活用した講義の配信や地域の中核教育機関(県農業大学校等)の講師に対する研修への支援等を行っています。また、県農業大学校等に対しては、①高度な農業経営者育成教育機関との連携を前提とした、教育内容の改善に向けた計画の策定、②改善計画に基づく新たな教育カリキュラムの実施、③地域の農業法人等との連携等による教育体制の強化等に必要な支援が行われています。

さらに、これらの取組に加え、(一社)アグリフューチャージャパンは、高度な経営力を備え、かつ、地域農業のリーダーとなる人材を育成することを目的とし、平成25(2013)年4月に「日本農業経営大学校」(校舎は東京都 港

みなと区く

)を開校しました。

図3-1-27 道府県農業大学校の学生数の推移

388 348 361 352 320

202 187 293 286 416294 292 186 200

244

0

500

1,000

自営就農者数

雇用就農者数

その他

人884 827 840 838

980

49%

2,008人

23(2011)

48%

1,753人

22(2010)

52%

1,612人

21(2009)

52%

1,576人

20(2008)

就農率50%

卒業生数1,754人

平成19年度(2007)

1,922人

24(2012)

2,058人

23(2011)

2,205人

22(2010)

1,889人

21(2009)

入学者数1,725人

平成20年度(2008)

61 57 51 52 48

39 43 50 48 52

0

50

100

非農家出身

(出身別入学者数割合) (卒業生のうち就農者数)

資料:全国農業大学校協議会「全国農業大学校の概要」を基に農林水産省で作成注:1)就農者数における「その他」は、継続研修と農業以外の仕事が主(就職者数のうち農業従事者)の合計。

2)数値は四捨五入しており、合計とは一致しない。

農家出身

159

第1部

第3章

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コラム

日本農業経営大学校の開校と教育方針

日本の農業を活性化させるためには、農業界と産業界、学界などオールジャパンの力を結集し、次世代の農業経営者を育成することが必要との認識から、農業界と産業界が参画して、(一社)アグリフューチャージャパンが設立されました(平成24(2012)年2月)。同法人は、平成24(2012)年度から農林水産省の事業等を活用して、農業大学校の学生等を対象とした農業経営セミナー等を行ってきましたが、平成25(2013)年4月に新たに「日本農業経営大学校」を開校しました。同校では1学年定員20人を対象に全寮制による2年間の教育を通じ、高度な経営力を備え、かつ地域農業のリーダーとなる人材を育成します。

同校の入学資格は19~40歳の農業実践者・新規就農見込み者であり、農業未経験者や高校卒業見込み者は、入学前に一定期間の農場実習が必要となります。平成25(2013)年度は、第1期生として、社会人や大学卒業生等21人が入学しました。

同校の教育の特徴は、農業経営者の育成に特化していることであり、農業経営に必要な「経営力」、「農業力」、「社会力」、「人間力」をバランス良く備えた人材を育てることとしています。このため、農業界、産業界、学界からのトップクラスの講師を招へいし、国内外の幅広いテーマを取り扱うことで、世界的な視野を持ちつつ、地域で実践できる能力・資質を養います。

2年間のカリキュラムは、経営戦略、マーケティングに加え、最先端の農業技術や国内外の農業政策等を学ぶ講義や演習、経営者、実務者等による特別講義、さらに先進農業経営体や農業外企業での現地実習で構成されます。1年目は、農業経営者として目指す目標を設定するとともに課題を認識し、知識・技術の習得と体系化を中心に学びます。2年目は、卒業後の進路を見定めた上で、農業外企業への派遣実習や経営計画の策定に取り組みます。

卒業後は、全寮制により寝食を共にした学生同士を始め、教員、講師陣、アグリフューチャージャパンの会員との幅広いネットワークを活かし、自らの農業経営を実践し、日本農業を牽引する存在となることが期待されています。

なお、平成25(2013)年度は東京都品しな

川がわ

区く

での仮校舎、平成26(2014)年度以降は東京都 港みなと

区く

の本校舎において授業が行われます。

日本農業経営大学校開校式 (平成 25(2013)年 4 月 4 日)

コラム

農学系学部の人気の高まり

近年、大学入試における農学系学部の志望者数は増加傾向で推移しており、農業分野への関心の高まりがうかがえます。平成24(2012)年における志願者数は、前年に比べて国公立大学では1,117人(4%)、私立大学では3,018人(4%)増加しました。また、志願倍率は、前年に比べて国公立大学では同水準となっていますが、私立大学では0.5ポイント上昇しました。

160

第1節 農業の構造改革の推進

Page 23: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(耕地面積は引き続き減少)

耕地面積は、工場用地、道路、宅地等への転用や耕作放棄等によるかい廃のため減少が続いているものの、その減少幅は近年縮小傾向となっており、平成24(2012)年においては前年に比べて1万2千ha減少し454万9千haとなりました(図3-1-28)。

平成23(2011)年における耕地面積は、東日本大震災の津波等により1万6,800ha減少したものの、平成24(2012)年においては3,840haの農地が復旧され、津波被災地の復旧が計画的に進められています。

図3-1-28 耕地面積及び耕地の増加・減少要因別面積の推移

0

耕地面積

万ha650

600

550

500

450454.9469.2483.0

503.8524.3537.9546.1557.2

579.6600.4607.1

平成24年減少面積自然災害:1,400ha耕作放棄:6,940ha

平成23年減少面積自然災害:16,800ha耕作放棄:7,870ha

かい廃

拡張

万ha平成24年増加面積開墾:1,780ha復旧:3,840ha

0.2 0.6

3.31.7

干拓・埋立て復旧

その他その他

開墾開墾

工場用地・宅地等への転用工場用地・宅地等への転用

耕作放棄耕作放棄

自然災害

昭和35年(1960)資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」注:1)拡張面積及びかい廃面積は、共に田畑転換を除く。

2)「工場用地・宅地等への転用」については、昭和39(1964)年から調査を行っており、それ以前は「その他」に含まれる。3)「耕作放棄」については、平成5(1993)年から調査を行っており、それ以前は「その他」に含まれる。

40(1965)

45(1970)

50(1975)

55(1980)

平成2(1990)

60(1985)

7(1995)

12(2000)

17(2005)

24(2012)

6

4

2

0

-2

-4

-6

-8

-10

-12

大学入試における農学系学部の志願状況%

私立大学農学系学部志願倍率(右目盛)

国公立大学農学系学部志願倍率(右目盛)

万人

私立大学農学系学部志願者数

国公立大学農学系学部志願者数

平成18年(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

20181614121086420

12

10

8

6

4

2

0

10.49.99.49.29.19.19.4

4.84.84.54.54.34.24.6

7.36.96.56.25.96.06.13.02.92.82.82.72.62.9

資料:文部科学省「国公立大学入学者選抜学部系統別志願状況」、日本私立学校振興・共済事業団「私立大学・短期大学等入学志願動向」を基に農林水産省で作成

161

第1部

第3章

Page 24: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(耕地利用率の向上が課題)

耕地利用率1を長期的にみると、計算上の分子となる作付(栽培)延べ面積が分母となる耕地面積を上回って減少したことにより、昭和35(1960)年の133.9%から大きく低下し、近年は92%前後で推移しています(図3-1-29)。

平成23(2011)年における耕地面積は、平成22(2010)年に比べて3万ha減少し456万haとなる一方、作付(栽培)延べ面積は、平成22(2010)年に比べて4万ha減少し419万haとなりました。この結果、平成23(2011)年の耕地利用率は、前年に比べて0.3ポイント低下し91.9%となっています。

平成23(2011)年は、水田における飼肥料作物の作付(栽培)面積等が増加したものの、東日本大震災や東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)の事故の影響を受けた区域において水稲の作付(栽培)面積等が大きく減少したため、耕地利用率は低下しました。

中でも、東日本大震災や東電福島第一原発の事故の影響を受けた宮城県(0.9万ha減)と福島県(2万ha減)の2県の作付(栽培)延べ面積の減少は、全体(4万ha減)の7割を占めています。

図3-1-29 耕地利用率等の推移

平成23(2011)年作付(栽培)延べ面積減少内訳宮城県:0.9万ha福島県:2.0万ha東北(宮城県・福島県以外):0.2万ha東北以外:1.0万ha

607 600 580 557 546 538 524 504 483 469 467 465 463 461 459 456

813743

631 576 571 566 535

492 456 438 435 431 427 424 423 419

133.9

123.8

108.9103.3 104.5 105.1 102.0

97.794.5 93.4 93.0 92.6 92.2 92.1 92.2 91.9

60

70

80

90

100

110

120

130

140

400

0

500

600

700

800

900万ha %

作付(栽培)延べ面積

耕地利用率(右目盛)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」注:耕地利用率(%)=作付(栽培)延べ面積/耕地面積×100

昭和35年(1960)

40 45(1970)

50 55(1980)

60 平成2(1990)

7 12(2000)

17 18(2006)

19 20(2008)

21 22(2010)

23(2011)

0

耕地面積

(地域によって異なる耕地利用率)

耕地利用率を都道府県別にみると、東北、北陸、中国では低い府県が多数ある一方、九州の中でも、佐賀県(132.5%)と福岡県(112.1%)は110%を上回っています(図3-1-30)。

佐賀県や福岡県において耕地利用率が高い背景には、温暖な気候の下、以前から水田二毛作が行われてきたこと、生産された麦と製粉会社等の地元の実需者との結び付きが強いこと、水稲の田植え時期と小麦の収穫時期が重なり、水田二毛作の障害となる水稲の早生品種の栽培が行われなかったこと等があると考えられます。一方、その他の地域では、農家の兼業化や水稲の早生品種の導入

図3-1-30 都道府県別耕地利用率(平成23(2011)年)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

70 ~ 80%80~ 90%90~ 100%100~ 110%110~%

1 耕地面積を100とした作付面積の割合。

162

第1節 農業の構造改革の推進

Page 25: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

等により二毛作が行われなくなったこと等から、耕地利用率が低い状況にあります。また、平成23(2011)年の耕地利用率を平成22(2010)年と比較すると、福島県では、東日本大

震災や東電福島第一原発の事故の影響により作付(栽培)延べ面積が2万ha減少したため、耕地利用率は10.3ポイント低下し75.0%となりました。一方、北海道においては、そば、麦、大豆等の作付

(栽培)延べ面積が増加したことから、耕地利用率は0.2ポイント上昇し99.4%となりました。栃木県においては飼料用米、秋田県においては飼料用米とそばの作付(栽培)延べ面積が増加したため、耕地利用率は、それぞれ93.4%(1.2ポイント上昇)、85.0%(0.7ポイント上昇)となりました。

(土地持ち非農家による耕作放棄地の増加)

平成22(2010)年において、土地持ち非農家1が所有している耕地(77万ha)のうち73%

(56万ha)は他の農業者に貸し出されていますが、24%(18万ha)は耕作が放棄されています

(表3-1-7)。耕作放棄地面積は、平成に入ってから、高齢者

のリタイア等に伴い、急激に拡大しています。特に、土地持ち非農家の耕作放棄地面積が急増しており、平成22(2010)年では耕作放棄地面積全体の半分を占めています(図3-1-31)。土地持ち非農家の耕作放棄地面積が増加した要因は、高齢農業者のリタイアの増加に加え、複数の相続人により農地の所有権が細分化されてしまうなど、農地の権利調整を円滑に行うことが難しくなったこと等が考えられます。また、このほかに、不在村者所有の耕作放棄地もあるとみられます。

平成17(2005)年から平成22(2010)年の間、土地持ち非農家戸数は120万戸から14%増加し、137万戸となり、その耕作放棄地面積は16万haから12%増加し、18万haとなっており、今後も、農業者の高齢化により、土地持ち非農家の耕作放棄地面積は増加すると見込まれます。

このため、耕作放棄地の発生抑制と貸借による農地集積を図る観点から、リタイアする農家から円滑に農地を継承するための取組を強化することが必要となっています。

図3-1-31 農家等区分別耕作放棄地面積の推移

昭和50年(1975)

平成2年(1990)

55(1980)

60(1985)

7(1995)

12(2000)

22(2010)

17(2005)

資料:農林水産省「農林業センサス」注:1)右端の( )内は、全体の農家(世帯数)であり、耕作放棄地のない農家(世帯)を含む。

2)昭和60(1985)年以前は、販売農家、自給的農家の区分がない。

3.2 3.1 3.8 6.6 8.313.3 16.2 18.29.9 9.2 9.7

11.312.0

15.4

14.412.4

0

5

10

15

20

25

30

35

40万ha

3.84.1

5.67.9

9.0

39.638.634.3

24.421.7

13.512.313.1

総農家所有

平成22(2010)年163万戸

販売農家所有

平成22(2010)年90万戸

自給的農家所有

平成22(2010)年137万戸

土地持ち非農家所有

表3-1-7 土地持ち非農家等所有耕地の有効利用状況(平成22(2010)年)

(単位:万ha、%)

所有している耕地

うち 他に貸出

うち 耕作放棄

販売農家面積 275 20 12割合 100.0 7.2 4.5

自給的 農家

面積 40 16 9割合 100.0 38.8 22.4

土地持ち 非農家

面積 77 56 18割合 100.0 72.8 23.6

資料:農林水産省「2010年世界農林業センサス」

1 [用語の解説]を参照。

163

第1部

第3章

Page 26: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(農作業死亡事故の防止に向けた取組)

農作業を安全に行い、農作業事故を防止することは、農業生産の振興や農業経営の安定を図る上で、基本的かつ重要な事項です。また、近年の農業従事者の高齢化等に伴い、農作業安全対策の一層の徹底が必要となっています。

このような状況を踏まえ、平成22(2010)年から、行政機関、農業機械製造業者、販売店、農業団体等全国の関係機関の協力の下、農作業繁忙期で事故が多く発生する春と秋に「農作業安全確認運動」を実施しています。平成24(2012)年の農作業安全確認運動では、平成23(2011)年度に全国農業機械士協議会が(一社)日本農村医学会と連携して実施した調査により明らかとなった事故原因(機械作業の中断時にエンジンや作業機を動かしたままにしておいたために巻き込まれた、除草の不徹底により路肩が不明確となっていたため機械ごと転落した等)に基づいた安全対策の現場での周知浸透を推進するとともに、現場と各分野の専門家及び行政機関等によるネットワークを構築しました。

また、事故発生件数の多いトラクターの転倒事故対策として、転倒時に自動通報するシステムの実用化に向けた試験等が進められています。

これらの農業安全対策の取組もあり、平成23(2011)年の農作業事故による死亡事故件数は、前年に比べて8%(32件)減少し366件となりました(図3-1-32)。しかしながら、依然として、農作業死亡事故の8割を65歳以上の高齢者が占めていることから、高齢者に対する安全指導の強化に向けた取組を推進していくことが重要となっています。

また、万が一の事故に備えるため、労働災害補償保険(労災保険)への加入も必要です。労災保険は、雇用労働者の負傷等を補償するための制度ですが、個人事業主である農業者も、特定農作業従事者1や指定農業機械作業従事者2、中小事業主等3のいずれかに当てはまる場合は特別加入することが可能となっています。平成23(2011)年度末において、労災保険の特別加入制度に加入している農業者は12万4千人にとどまっていることから、引き続き、労災保険制度の仕組みや加入のメリットの理解促進を図り、加入促進に向けた取組を進めていくこととしています。

図3-1-32 年齢別農作業中の死亡事故発生件数の推移

資料:農林水産省調べ

11 30 18 13 12 2346 58 33 37 38 2929

2327 34 27 33

53 4441 38 28 42

252 242255 286 293 239

0

100

200

300

400

500

平成18年(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

391 397 374408 398

366

49歳以下

60~ 64歳50~ 59歳

70歳以上65~ 69歳

81% 77%79%79%

72%

78%

1 年間の農業生産物総販売額が300万円以上又は経営耕地面積2ha以上の規模で、①トラクター等の農業機械を使用する作業、②2m以上の高所での作業、③サイロ、むろ等の酸欠危険のある作業、④農薬散布、⑤牛・馬・豚に接触する作業に従事している者。

2 自営農業者(兼業農家を含む)のうち、次に指定された機械を使用し農作業を行う者。①動力耕うん機その他の農業用トラクター、②動力溝掘機、③自走式田植機、④自走式防除用機、⑤自走式動力刈取機、自走式収穫用機械、⑥トラック、自走式運搬用機械、⑦動力脱穀機や動力草刈機等の定置式又は携帯式機械。

3 常時300人以下の労働者を使用する事業者本人又はその家族従事者(法人の場合は代表者以外の役員)であって、要件(1年間に100日以上にわたり労働者を使用することが見込まれ、雇用する労働者について労働保険関係が成立、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること)を満たす者。

164

第1節 農業の構造改革の推進

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第2節 人と農地の問題を解決する取組等

(1)人と農地の問題を解決する取組

(人と農地の問題を解決する取組の推進)

農業者の高齢化や後継者不足、耕作放棄地の増加等により、地域農業の展望を描くことが困難な集落や地域が多数存在している中、各地域における人と農地の問題を解決していくことが重要な課題となっています。このため、平成24(2012)年度から、集落や地域における農業者の徹底した話合いを通じて、今後

の中心となる経営体と、その経営体への農地の集積方法や、中心となる経営体とそれ以外の農業者を含めた地域農業の在り方等を定めた「人・農地プラン」の作成が進められています。また、同プランの実行をベースとした新規就農者対策や農地集積対策等の支援策が講じられています(図3-2-1)。「人・農地プラン」に位置付けられると、45歳未満で独立して就農する農業者に対する青年就農給付金や、中心となる経営体に農地を提供する農家等への農地集積協力金、スーパーL資金の貸付当初5年間無利子化といった様々な支援を受けることができます。また、一旦プランを決めても、新規就農者が新たに出てきたときや、集落営農・法人を立ち上げ、中心となる経営体となるとき等、随時、プランを見直すことができ、定期的に見直しを行ってより良いプランにしていくことが重要です。

図3-2-1 「人・農地プラン」の概要

〈新規就農者の人・農地プランへの位置付け〉○ 新規就農者は、人・農地プランに位置付けられることが見込まれれば、青年就農給付金の支援を受けることができます。

〈早期の人・農地プラン作成が重要〉○ 新規就農は、時期を問わないので、支援を受けるためには、早めに人・農地プランの作成に向けた話合いを始めることが必要です。

〈集落における話合いにあたって〉○ 人・農地プランの範囲は、集落や自治会等のエリアが基本ですが、地域の実情に応じて複数集落やもっと広いエリアでも可能です。

○ 地域の将来に関する話合いですので、経営主だけでなく奥さんや息子さんも積極的に参加して下さい。

  などは、見直せば、2のメリットを受けられます。

◎ 新規就農者が新たに出てきたとき◎ 集落営農・法人を立ち上げ、中心となる経営体となるとき◎ 引退を決意して農地集積協力金をもらおうとするとき

☆ 最初からパーフェクトなプランにする必要はありません。☆ 一旦プランを決めても、

資料:農林水産省作成

  といった支援を受けることができます。

◎ 青年就農給付金(経営開始型) (原則45歳未満で独立・自営就農する方)  ※準備型(研修中)は、人・農地プランと関係なく給付します

◎ 農地集積協力金 (中心となる経営体に農地を提供する方)

◎ スーパーL資金の貸付当初5年間無利子化 (認定農業者)

☆ 人・農地プランに位置付けられると、

  などを決めていただきます。

☆ 集落・地域が抱える「人と農地の問題解決」のため、        集落・地域における話合いによって、

2 人・農地プランには、様々なメリットがあります。

1 人・農地プランは、人と農地の問題を解決するための「未来の設計図」です。

3 人・農地プランは、随時、見直すことができます。

◎ 今後の中心となる経営体(個人、法人、集落営農)はどこか◎ 中心となる経営体へどうやって農地を集めるか◎ 中心となる経営体とそれ以外の農業者(兼業農家、自給的農家)を 含めた地域農業の在り方(生産品目、経営の複合化、6次産業化)

(「人・農地プラン」の作成状況)

平成25(2013)年3月末現在における「人・農地プラン」の作成状況をみると、プラン作成予定の市町村数は1,560市町村に上り、そのうち集落・地域への説明を実施した地区のある市町村は、全体の

165

第1部

第3章

Page 28: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

98%の1,524市町村となっているほか、既にプラン作成に至った地区のある市町村は、84%(1,312市町村、7,573地域)となっています(表3-2-1)。このプランの作成状況を地域別にみると、北陸97%、九州・沖縄93%、北海道92%となっています。

表3-2-1 「人・農地プラン」の進捗状況(平成25(2013)年3月末現在)(単位:市町村)

人・農地プランを作成しようとしている市町村数

左の進捗状況

集落・地域への説明をおおむね終了している市町村数

集落・地域での農業者の話合いが始

まっている 市町村数

人・農地プランに関する検討会の開催に至っている

市町村数

人・農地プランの作成に至っている

市町村数*

北海道 171 167 (98%) 161 (94%) 158 (92%) 158 (92%)東北 210 208 (99%) 185 (88%) 173 (82%) 173 (82%)関東 376 358 (95%) 302 (80%) 291 (77%) 289 (77%)北陸 79 79 (100%) 77 (97%) 77 (97%) 77 (97%)東海 117 114 (97%) 103 (88%) 90 (77%) 89 (76%)近畿 152 143 (94%) 125 (82%) 115 (76%) 113 (74%)

中国四国 195 195 (100%) 178 (91%) 171 (88%) 170 (87%)九州・沖縄 260 260 (100%) 250 (96%) 243 (93%) 243 (93%)

全国計 1,560 1,524 (98%) 1,381 (89%) 1,318 (84%) 1,312 (84%)地域数 《17,481地域》 《7,573地域》

資料:農林水産省調べ注:1)*当該市町村の地域の中に、既に人・農地プランが作成されたところがある市町村の数。

2)( )は、人・農地プランを作成しようとしている市町村数に対する割合。3)関東は、山梨県、長野県、静岡県を含む。

(新規就農対策の推進)

農業内外の青年の就農意欲を喚起し、新規就農者の確保と就農後の定着を図るため、平成24(2012)年度から、原則として45歳未満の独立・自営の新規就農者を対象として、就農前の研修期間(準備型、最長2年間)及び経営が不安定な就農直後(経営開始型、最長5年間)の所得を確保する「青年就農給付金」の給付(年間150万円)が行われています。また、農業法人等への雇用就農を促進するため、農業法人等が実施する新規就農者に対する実践的な研修(OJT研修)を支援する「農の雇用事業」が平成20(2008)年度から実施されています。平成24(2012)年度からは、支援単価の引上げや支援期間の延長が行われています。さらに、平成24(2012)年度からは、就農希望者や経営発展を目指す農業者等のレベルを向上させ、今後の地域農業のリーダーとなる人材の層を厚くすることを目的として、高度な農業経営者教育機関等に対する支援が講じられています1。関係者の努力に加えて、これらの取組を有効に活用することにより、将来の日本農業を支える新たな人材の育成・確保が期待されます。

(農地の利用集積の一層の推進)

「人・農地プラン」の実効性を確保するためには、同プランで位置付けられた今後の中心となる経営体への農地の利用集積2を円滑かつ的確に行う必要があります。平成21(2009)年の改正農地法により創設された農地利用集積円滑化事業は、農地の利用集積を通じて、効率的な農業を行えるよう、市町村段階に設置される農地の仲介組織である農地利用集積円滑化

1 農業経営者教育機関等に対する支援については第3章第1節「農業構造改革の推進」を参照。2〔用語の解説〕を参照。

166

第2節 人と農地の問題を解決する取組等

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事 例

団体(市町村、市町村公社、農業協同組合等)が、農地の所有者の委任を受ける形で農地所有者に代わって意欲ある農業者と契約を締結するものです。このことを踏まえ、平成23(2011)年度から、農地利用集積円滑化事業により、面的集積を行うた

めに、新たに規模拡大を行った場合に、その面積に応じて、10a当たり2万円が交付される規模拡大加算が措置されています。平成23(2011)年度においては、16,937ha(7,102件)に対して交付されました。また、平成24(2012)年度からは、「人・農地プラン」に定められた地域の中心となる経営体の農

地集積に協力する者(農地の出し手)に対して農地集積協力金(0.5ha以下は30万円/戸、0.5~2haは50万円/戸、2ha以上は70万円/戸)が交付されています。

集落・地域における「人・農地プラン」の先進的取組

(1) 農事組合法人と個別経営の役割分担を明らかにした「人・農地プラン」を作成山口県阿

あ武ぶ町ちょう福ふく賀が地区は、準高冷地に位置する県内屈指の農業地帯です。

同地区内の4集落において、平成24(2012)年12月に「人・農地プラン」を作成し、平成28(2016)年までに対象集落の農地76.6haのうち74.3%を今後の地域の中心となる経営体(1法人、5農家)に集積することとしています。プランの作成に当たっては、経営の安定化・効率化を図るため、2つの特定農業団体*1(集落営農)を統合して農事組合法人*2を新設し、対象となる農地の大半を占める土地利用型農業(水稲、飼料作物、大豆)は当該法人に集積し、農地の出し手は用排水路管理及び草刈りを担当することとしています。また、土地利用型農業以外の野菜農家(5人中4人は農事組合法人の構成員)はエコファーマーの認定を受け、同地区のほうれんそうを「福賀ほうれん草」としてブランド化を一層推進することとしています。プランの作成を契機として、土地利用型農業は農事組合法人が担い、野菜作は個別経営体が担うという役割分担が明確になるなど、地域農業の方向性が明らかとなったことから、今後はプランの実現に向けて取り組むこととしています。

*1 農業経営基盤強化促進法第23条に基づき、担い手不足が見込まれる地域において、その地域の農地面積の3分の2以上について農作業を受託する相手方として、一定の地縁的まとまりを持つ地域の地権者(農用地利用改善団体)が作成する特定農用地利用規程に位置付けられた任意組織であって、農業経営を営む法人となることが確実と見込まれる団体。

*2 [用語の解説]を参照。

(2) 地域農業の将来を考えた有志が自発的に「人・農地プラン」の作成を推進新潟県佐

さ渡ど市し新にい穂ぼ北きた方かた地区は、市の中央部に位置する平地水田地帯であり、

水稲経営を中心に、しいたけ、いちご等との複合経営も行われています。同地区では、平成24(2012)年4月に「人・農地プラン」を作成し、平成25(2013)年3月に当該プランの見直しを行っています。このプランにおいては、平成28(2016)年までに同地区の農地81.1haのうち92.5%を

山口県

広島県

島根県

福岡県

阿武町

ほうれんそう栽培の様子

新潟県

群馬県 栃木県

福島県

佐渡市

167

第1部

第3章

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(2)農業者戸別所得補償制度の実施状況 ※平成25年産からは経営所得安定対策として実施

(農業者戸別所得補償制度の加入状況)

平成22(2010)年度から導入された戸別所得補償制度については、初年度においては、水田農業を対象として、①水田を活用して食料自給率向上のポイントとなる麦・大豆等の生産拡大を促す対策と、②米の需給調整に参加した農業者等に対して、恒常的なコスト割れ相当分を補填する対策をセットで行う、モデル対策が実施されました。平成23(2011)年度からは、水田農業に加え、麦・大豆等の畑作物にも対象を広げて本格実施されました。平成24(2012)年度における実施状況をみると、加入件数は、平成23(2011)年度より7千件増加し115万7千件となりました(表3-2-2)。また、交付金別にみると、米の戸別所得補償交付金は101万件、水田活用の所得補償交付金は59万件、畑作物の所得補償交付金は8万8千件となりました。加入件数を経営形態別にみると、個人は114万2千件、法人は8千件、集落営農は8千件となっています。

表3-2-2 農業者戸別所得補償制度の交付金別・経営形態別加入件数の推移(単位:件)

件数

交付金別 経営形態別米の

所得補償交付金

水田活用の所得補償交付金

畑作物の所得補償交付金

個人 法人集落営農

構成農家数

平成23年度(2011) 1,150,159 1,008,018 539,741 74,610 1,135,010 7,563 7,586 241,336

24(2012) 1,157,466 1,010,413 587,558 87,995 1,141,851 8,040 7,575 235,643

対前年差 7,307 2,395 47,817 13,385 6,841 477 ▲ 11 ▲ 5,693

資料:農林水産省調べ

(米の所得補償交付金)

米の所得補償交付金は、米の生産数量目標に従って生産を行う農業者に対して、標準的な生産費と標準的な販売価格の差額分に相当する交付金を直接交付するものです。

今後の地域の中心となる経営体(1法人、6農家)に集積することとしています。プランの作成に当たっては、集落内の有志15人(中心経営体6人、連携農業者7人、その他農業者2人)が自発的にプラン作成委員会を設置し、そこを中心に集落で話合いを行いました。その際には、県・市担当者から作成方法等の助言を得ながら、国等の担当者へも問い合わせを行いました。また、プラン作成の際に、中心経営体のほ場とそれ以外のほ場が明確化されたことから、今後は、農地集積のメリット措置を利用しながら、ほ場の連坦化(1団地3haから5ha)や更なる農地集積に取り組んでいくこととしています。

同地区の水田に飛来するトキ

168

第2節 人と農地の問題を解決する取組等

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平成24(2012)年度における米の所得補償交付金加入者の作付計画面積は、平成23(2011)年度より2万5千ha増加し115万4千haとなりました(表3-2-3)。平成24(2012)年度の主食用米の生産数量目標が793万tと前年に比べ2万t(面積換算で4千ha)削減された中で、米の所得補償交付金の対象面積は増加しています。平成23(2011)年度の米の所得補償交付金に

ついて、主食用米の作付面積規模別の加入率をみると、大規模層ほど加入率が高く、5ha以上では98%が加入している一方、0.5ha未満では4割が未加入となりました(表3-2-4)。また、実際に交付された交付金の6割は、加入者の1割に当たる2ha以上層の加入者に交付されています。一方で、2ha未満の比較的規模の小さい層への交付は4割程度あります(表3-2-5)。

表3-2-4 米の所得補償交付金の主食用米の作付面積規模別加入率(平成23(2011)年度)

(単位:万ha、%)

合計 0.5ha未満

0.5~1 1~2 2~3 3~5 5ha

以上

支払対象面積 112.8 14.7 17.6 18.7 9.4 11.0 41.6

水稲共済加入面積 142.5 25.2 25.8 26.7 13.2 14.4 42.2

加入率 79.1 58.3 68.1 69.9 70.8 76.6 98.4

資料:農林水産省調べ

表3-2-5 米の所得補償交付金の主食用米の作付面積規模別支払対象者数及び支払額(平成23(2011)年度)

(単位:万件、億円、%)

合計 0.5ha未満

0.5~1 1~2 2~3 3~5 5ha

以上

支払対象者数 100.8 52.2 25.0 13.6 3.9 2.9 3.3

割合 100.0 51.8 24.8 13.5 3.9 2.9 3.3

支払額 1,533 140 224 259 135 160 615

割合 100.0 9.2 14.6 16.9 8.8 10.5 40.1

資料:農林水産省調べ

(水田活用の所得補償交付金)

水田活用の所得補償交付金は、水田で麦、大豆、米粉用米、飼料用米等を生産する農業者に対して、主食用米並の所得を確保し得る水準の交付金を面積払で直接交付するものです。平成24(2012)年度における水田活用の所得補償交付金加入者の作付計画面積は、前年度より6千

ha増加し51万5千haとなっています(表3-2-6)。具体的には、前年度と比べて、加工用米、新規需要米(特にWCS用稲1)、そば、飼料作物が増加する一方で、麦、大豆は減少しています。

表3-2-6 水田活用の所得補償交付金加入者の品目別作付面積(単位:ha)

合計 麦 大豆 飼料作物新規需要米

そば なたね 加工用米米粉用米 飼料用米 WCS用稲

平成23年度(2011) 508,890 169,665 111,069 100,881 63,877 7,263 33,758 22,856 35,260 643 27,494

24(2012) 514,533 166,087 107,008 102,928 66,770 6,365 34,656 25,750 38,105 680 32,955

対前年差 5,643 ▲ 3,579 ▲ 4,062 2,048 2,893 ▲ 899 898 2,894 2,845 37 5,460

資料:農林水産省調べ

表3-2-3 米の所得補償交付金加入者の作付計画面積

(単位:ha)

加入者の作付計画面積

生産数量目標の面積換算値

平成23年度(2011) 1,128,201 1,504,000

24(2012) 1,153,641 1,500,000

対前年差 25,439 ▲4,000

資料:農林水産省調べ

1 WCS用稲については、[用語の解説]の稲発酵粗飼料を参照。

169

第1部

第3章

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(畑作物の所得補償交付金)

畑作物の所得補償交付金は、麦、大豆、てんさい、でん粉原料用ばれいしょ、そば、なたねの生産数量目標に従って生産を行う農業者に対して、標準的な生産費と標準的な販売価格の差額分に相当する交付金を直接交付するものです。平成24(2012)年度における畑作物の所得補償交付金加入者の作付計画面積は、前年度より1万7千ha増加し48万8千haとなりました。品目別に作付計画面積をみると、麦、大豆、そばは前年度より増加し、てんさい、でん粉原料用ばれいしょ、なたねは減少しています(表3-2-7)。

表3-2-7 畑作物の所得補償交付金加入者の品目別作付面積(単位:ha)

合計麦

大豆 てんさいでん粉原料用ばれいしょ

そば なたね小麦 二条大麦 六条大麦 はだか麦

平成23年度(2011) 470,948 232,999 196,456 18,400 13,651 4,492 110,984 60,383 18,296 46,871 1,415

24(2012) 488,047 242,369 202,647 19,008 15,989 4,725 111,806 59,014 18,145 55,445 1,268

対前年差 17,098 9,370 6,191 608 2,338 233 822 ▲ 1,369 ▲ 150 8,573 ▲ 147

資料:農林水産省調べ

170

第2節 人と農地の問題を解決する取組等

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第3節 農業生産基盤の整備・保全(農業生産基盤整備の実施状況)

農業の基盤は、土地と水であり、良好な営農条件を備えた農地や農業用水等を確保するための農業生産基盤の保全管理・整備は、我が国の農業生産力を支える上で重要な役割を担っています。我が国では、生産性の高い優良農地を確保するため、これまで、農地や農業水利施設1の整備を推進してきました。この結果、平成23(2011)年における水田の整備状況をみると、30a程度以上の区画に整備済みの

水田面積は155万haであり、水田面積全体の6割を占めています(表3-3-1)。また、畑については、畑地面積全体の7割に当たる154万haにおいて末端農道が整備されるとともに、2割に当たる45万haにおいて畑地かんがい施設が整備されています。さらに、農業水利施設については、ダムや取水堰

せき、用排水機場等の点的な基幹的施設が7千か所、農

業用用排水路が地球10周分に相当する40万km以上、このうち基幹的水路が5万km整備されています。こうした農業水利ストック全体の資産価値は、再建設費ベース2で32兆円、このうち基幹的水利施設3は18兆円に達すると算定されています(図3-3-1)。

表3-3-1 農地の整備状況(平成23(2011)年)

(田)

田面積 30a程度未満30a程度以上区画整備済面積

30a~1ha 1ha程度以上面積(万ha) 247 92 134 21構成割合(%) 100 37.1 54.2 8.6

(畑)

面積(万ha)

整備率(%)参考

(平成22年3月)参考

(平成22年3月)耕地面積 208.7 209.7 - -

末端農道整備率 154.3 154.2 73.9 73.5畑地かんがい施設整備率 45.1 44.4 21.6 21.1

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「農業基盤情報基礎調査」注:1)「耕地及び作付面積統計」は7月15日時点、「農業基盤情報基礎調査」は3月31日時点。

2)末端農道整備済とは、幅員3m以上の農道に接している畑をいう。

図3-3-1 農業水利ストックの形成と資産価値

(主な農業水利ストック)

農業用用排水路 約40万km以上(地球約10周分)

うち基幹的水路 約5万kmダム、取水堰、用排水機場等 約7千か所

資料:農林水産省調べ注:1)農業水利施設の再建設費ベースによる評価算定。

2)各年3月末の数値。

7 14 18

15

2532

0

10

20

30

40

昭和62年(1987)

平成14(2002)

21(2009)

兆円その他施設基幹的水利施設

(資産価値の推移)

1[用語の解説]を参照。2 既存の施設と同等の施設を現在新設すると仮定した場合の建設費。3 受益面積100ha以上の農業水利施設。

171

第1部

第3章

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(農業生産基盤の整備による効果)

区画整理等の農地の基盤整備は、農業機械による農作業効率の向上を可能とし、労働生産性の向上に大きく貢献しました。基盤整備を実施した全国208地区を対象に行った調査によると、事業実施前と比較して、事業実施後の水稲の生産費は15.7万円/10aから9.1万円/10aに約4割減少、水稲労働時間は42.6時間/10aから18.7時間/10aに約6割削減、担い手の面積は7.1haから19.1haへ約3倍に拡大するなど1、農地の整備は、生産コストの低減のみならず、農業経営の安定化にも寄与しています。このほか、区画整理や暗

あん渠きょ排水等の整備により、排水条件が改善され、水田での畑作が可能となるこ

とから、基盤整備実施地区の耕地利用率は向上し、平成20(2008)年度から平成23(2011)年度の実績によると年間耕地利用率は104%(全国平均は92%)となっています2。また、小麦・大豆の単収についても、水田の基盤整備が進んでいる地域ほど高くなる傾向がみられます(図3-3-2)。

図3-3-2 水田整備率と小麦・大豆の単収の関係(平成20(2008)年)

330 327 360 383 408

0

100

200

300

400

500

0~ 20% 20~ 40% 40~ 60% 60~ 80% 80~ 100%

kg/10a

147 153 160182

196

0

50

100

150

200

0~ 20% 20~ 40% 40~ 60% 60~ 80% 80~ 100%

kg/10a

資料:農林水産省調べ

(小 麦) (大 豆)

基盤整備の実施に際しては、関係者や関係機関等による綿密な話合いが行われており、事業推進のための土地利用調整や地域における将来の営農方針に関する合意形成が図られています。このような中、平成20(2008)年度から平成22(2010)年度の間に基盤整備を完了した地区の実績をみると、事業実施後において、1千ha当たりの認定農業者数及び農業生産法人数が全国平均より高い水準に増加しています(図3-3-3)。

図3-3-3 基盤整備実施地区における認定農業者数と農業生産法人数の変化

46

68

0

20

40

60

80

事業実施前 事業実施後

経営体/千ha

全国平均54

1.0

3.5

0

4

3

2

1

事業実施前 事業実施後

経営体/千ha

全国平均2.4

(認定農業者数) (農業生産法人数)

資料:農林水産省調べ注:1)基盤整備実施地区における認定農業者数及び農業生産法人数は、平成20(2008)年度から平成22(2010)年度に基盤整備を完了

した地区の実績。2)全国平均は、全国の認定農業者数及び農業生産法人数(農林水産省経営局調べ)と耕地面積(耕地及び作物面積統計)より算出。

1 平成15(2003)年から平成17(2005)年にほ場整備事業が完了した全国208地区における平成21(2009)年時点の聞き取り調査結果による実績。

2 平成18(2006)年度から平成21(2009)年度に基盤整備を実施した農地約4.6万haを対象に、整備後翌々年度の作付状況を調査した実績。

172

第3節 農業生産基盤の整備・保全

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また、基盤整備が実施された地区は、実施されていない地区に比べて、担い手への農地の集積が進むとともに、耕作放棄地の発生割合が低くなる傾向がみられます(図3-3-4)。例えば、静岡県磐

いわ田た市し下しも野の部べ地区では、受益面積26.4haのうち3分の1の約8.7haが耕作放棄地と

なっていましたが、基盤整備を行うことにより全ての耕作放棄地が解消するとともに、担い手への農地の集積面積が1.6haから7.1haに大きく増加しました。また、このことに加え、1ha当たりの労働時間も事業実施前と比べて85%低下し、労働生産性も改善しました(図3-3-5)。

図3-3-5 静岡県磐田市下野部地区の例

(農地集積)

(労働時間の減少(水稲1ha当たり))

1.6

7.1

0

2

4

6

8

事業実施前

資料:農林水産省調べ

事業実施後

ha

616

95

0

350

700

事業実施前 事業実施後

時間/ha

85%減

4.4倍

図3-3-4 田の30a程度以上区画整備率と耕作放棄地率(平成22(2010)年)

20%未満 20~ 40% 40~ 60% 60~ 80% 80%以上(30a程度以上区画整備率)

0

2

4

6

(耕作放棄地率)

%

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「2010年世界農林業センサス」、「農業基盤情報基礎調査」

注:1)50ha以上の田がある市町村を対象としている。2)耕作放棄地率として示した値は、田の整備率によって階

層分けされた各市町村全体の耕作放棄地率であり以下の式により表される。耕作放棄地率=販売農家の田の耕作放棄地面積/(販売農家の田の耕作放棄地面積+販売農家の田の経営耕地面積)×100

3)区画整備率とは、30a程度以上に区画整備された田の全体に占める割合。

5.44.8

3.22.7

1.3

このほか、畑地かんがい事業を実施した地区では、収益性の高い作物の生産が拡大し、農業産出額が大幅に増加するなどの効果が各地でみられます。例えば、豊川用水地区では、毎年のように水不足に悩まされていましたが、水源開発から末端ほ場ま

で整備を一貫して実施した結果、キャベツ、トマト、メロン等の収益性の高い作物の生産が大幅に増加し、地域の農業産出額は約10倍に増加しました(図3-3-6)。

173

第1部

第3章

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図3-3-6 豊川用水地区(愛知県豊とよ

橋はし

市し

・田た

原はら

市し

)の例

(作付構成の変化)

その他

麦・陸稲

かんしょ

飼料作物

すいか

メロン

トマト

キャベツ

はくさい

レタスカリフラワー ブロッコリー

スイートコーン

だいこん

にんじん

0

20

40

60

80

100

S30 S35 S40 S45 S50 S55 S60 H2 H7 H12 H170

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

S40 S45 S50 S55 S60 H2 H7 H12 H17

野菜

果実

花き

工芸作物

麦・雑穀・いも類ほか

昭和43年豊川用水全面通水

(渥美地域の農業産出額の推移)単位:百万円

約10倍95,010

%

昭和43年

豊川用水

全面通水 9,660

資料:農林水産省調べ注:渥美地域は豊橋市、田原市(旧渥美町、赤羽根町、田原町含む)。

(農地の大区画化・汎用化等の推進)

近年、農業機械の大型化・高速化に伴い、生産性の向上を図るため、1ha程度以上の区画に整備するほ場の大区画化が進められていますが、平成23(2011)年3月現在、1ha程度以上の区画に整備された水田は21万haに過ぎず、全体の約1割にとどまっている状況にあります。また、畑としても利用可能な排水が良好な水田は、30a程度以上の区画に整備済みの水田155万haの3分の2の106万haとなっていますが、残り3分の1の49万haは排水が良好でない状態にあります(図3-3-7)。今後、国内供給の多くを輸入に依存している麦・大豆等の生産を拡大し食料自給率の向上を図っていくため、ほ場の大区画化を進めるとともに、排水条件等を改善し、水田を有効利用していくことが必要です。このような状況を踏まえ、平成24(2012)年3月に閣議決定された新たな土地改良長期計画においては、持続可能な力強い農業を実現するため、農地の大区画化・汎用化について、機械の共同利用や営農技術普及等の施策と連携を図りながら、担い手への農地集積を加速するための整備を重点化して推進することとしています。その際、既に区画が整備されている水田のけい畔除去等による区画拡大や暗

あん渠きょ排水の整備について

は、農業者自らによる施工等も活用し、迅速かつ安価に推進することとしています(図3-3-8)。また、暗

あん渠きょ排水と地下かんがいを両立し、地下水位を作物の生育状況に適した水位に制御し、自在に

田畑輪換を行う地下水位制御システムの導入も進められています。このシステムは、平成23(2011)年度末時点で全国89地区(17道県)で実施され、7,594haのほ場に導入されています。このシステムの整備により、水管理の作業時間の削減や大区画化との相乗効果による生産コストの低減が期待されています(図3-3-9)。

174

第3節 農業生産基盤の整備・保全

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図3-3-7 水田の整備状況(平成23(2011)年)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「農業基盤情報基礎調査」注:1)区画整備済とは、30a程度以上に区画整理された田(大

区画は1ha程度以上)。2)排水良好とは、地下水位が70cm以深かつ湛水排除時間  が4時間以下の田。

うち大区画21万ha(9%)

区画整備済155万ha(63%)

未整備92万ha(37%)

汎用田

水田面積 247万ha

排水良好でない49万ha

排水良好106万ha

図3-3-8 けい畔の除去による区画の拡大

水路水路

(農業者の自力施工)

暗渠設置区画拡大

(盛り土)(切り土)

道路道路

資料:農林水産省作成

図3-3-9 地下水位制御システム

設定水位-30cm

小排水路幹線パイプ小排水路幹線パイプ

地下水位を調節

設定水位+20cm

水稲作付け時の深水管理(+20cm) 畑作時の地下水位(-30cm)

地下水位の自在の調整が可能資料:農林水産省作成

地下水位を調節

(農業水利施設の適切な保全管理の推進)

基幹的水利施設は、その多くが、戦後の食糧増産や高度経済成長の時代に整備されたものであるため、現在、老朽化が急速に進行し、更新等が必要な時期を迎えています。我が国の基幹的水利施設のうち耐用年数を迎えるものは、毎年500施設程度となっています(図3-3-10)。これを再建設費ベースでみると、平成21(2009)年時点で既に標準耐用年数を超過している基幹的

水利施設は全体の2割を占めており、また、今後10年間で標準耐用年数を超過する基幹的水利施設を含めると、全体の3割に達します(図3-3-11)。このような中、経年的な劣化による水路の漏水等の突発的な事故も増加傾向にあります。

175

第1部

第3章

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図3-3-10 耐用年数を迎える基幹的水利施設数

昭和55年(1980)

60(1985)

平成2(1990)

7(1995)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

27(2015)

32(2020)

37(2025)

施設数

0

100

200

300

400

500

600

5年間移動平均値

資料:農林水産省「農業基盤情報基礎調査」による推計(平成23(2011)年3月時点)

注:1)基幹的水利施設とは、受益面積100ha以上のダム、頭首工、用排水機場、水路等の施設。

2)土地改良事業の経済効果算定に用いる標準耐用年数を用い、耐用年数に達したものは更新されるものとして作成。

現在

図3-3-11 基幹的水利施設の老朽化状況

さらに今後10年のうちに標準耐用年数を超過する施設を加えると

5.6兆円(全体の31%)

3.1兆円(全体の17%)

既に標準耐用年数を超過した施設

全体17.9兆円 県営等

1.7兆円県営等1.7兆円

国営0.8兆円国営0.8兆円

県営等2.3兆円県営等2.3兆円

国営0.8兆円国営0.8兆円

資料:農林水産省「農業基盤情報基礎調査」注:基幹的水利施設(受益面積100ha以上の農業水利施設)の資

産価値(再建設費ベース)。

基幹的水利施設の老朽化が急速に進行する一方、国、地方公共団体等の財政状況は逼ひっ迫ぱくしており、施

設の老朽化に対応した補修が進まない状況にあります。このため、基幹的水利施設が将来にわたり安定的にその役割を発揮することが困難になるおそれが生じています。土地改良長期計画においては、基幹的水利施設の効率的な保全・整備を行う観点から、これまでの全面的な改修・更新に代え、機能の監視・診断等によるリスク管理を行いつつ、劣化の状況に応じた補修・更新等を計画的に行うことにより、施設の長寿命化とライフサイクルコストの低減を図る戦略的保全管理を推進することとしています(図3-3-12)。平成24(2012)年3月末現在、基幹的水利施設の47%(再建設費ベース)で機能診断が実施されており、この結果を踏まえ、必要な施設に重点化した整備を行うことにより、施設の長寿命化とライフサイクルコストの低減を図っています。

図3-3-12 施設の長寿命化とライフサイクルコストの低減を図る戦略的な保全管理

これまでこれまで 今後の重点的な取組今後の重点的な取組

早めの補修早めの補修 ライフサイクルコストの低減ライフサイクルコストの低減

【水路壁の補修による長寿命化】【水路壁の補修による長寿命化】水路壁のひび割れ老朽化による水路の倒壊資料:農林水産省作成

【全面更新】【全面更新】

建設事業完了

建設事業完了

更新事業

更新事業

更新事業

更新事業

更新事業

更新事業

建設事業完了

建設事業完了

○施設の破損、耐用年数で全面更新 ○補修等の整備の計画的な実施による施設の長寿命化

耐用年数 耐用年数 耐用年数の延伸

定期的な機能診断

176

第3節 農業生産基盤の整備・保全

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区画整理等の基盤整備済み農地のうち整備後40年以上を経過している農地は、水田38万ha(整備済み田の25%)、畑8万ha(整備済み畑の18%)となっており、農地周りの農業用用排水路等についても基幹的水利施設と同様に老朽化が進行しています(図3-3-13)。また、農家数の減少や土地持ち非農家の増加に

よる水管理の脆ぜい弱じゃく化や水路等の施設の保全管理1

に向けた共同活動力の低下が懸念されています。このため、老朽化の進行に対処するとともに、

東日本大震災を踏まえたリスク管理の観点から、地域に根ざした組織を核とした農地・農業用水等の保全管理等の拡大が一層必要とされており、平成23(2011)年度からは、「農地・水保全管理支払交付金」により、集落の手による水路の長寿命化のための補修等の活動が支援されています。土地改良長期計画においては、農地・水保全管理支払等の活動で培われてきた自主性や農村の協働力

等を活用しつつ、NPO等も含め多様な主体の参画により、広域的な保全管理を担う体制の整備を推進していくこととしています。

(防災・減災対策の推進)

我が国は、年間を通して降雨が多く台風の常襲地帯であるとともに、地形が急

きゅう峻しゅんで変化に富むこ

とから、災害の発生しやすい自然条件にあります。特に近年においては、集中豪雨の発生回数が増加傾向にあるほか、東日本大震災では、農地の浸水や農業水利施設の破損等が発生し、農業生産や農村生活に様々な影響を及ぼしました(図3-3-14)。このような状況を踏まえ、我が国では、事前防

災の考え方による「国土強靱化」をハード・ソフト両面にわたり、計画的に推進することとし、大規模災害に備えた防災・減災対策、インフラの総点検や老朽化対策等を推進することとしています。また、土地改良長期計画においては、老朽化したため池の整備や排水機場の改修等による農地湛水被害の解消や土地改良施設の耐震強化の推進等により、災害に強い農村社会の形成を図ることとしています。例えば、農業水利施設の一つであるため池の整備状況をみると、全国約21万か所のため池のうち、

決壊した場合に人命・人家等に影響を及ぼすおそれがあるとされるため池2が約1万4千か所存在しており、これらに対しては、耐震強化を含めた堤体の改修・補強等のハード整備と併せ、ハザードマッ

1 取水や排水にかかる日常的な用水の管理や集落で行う水路の泥上げ、水路の補修等の保全活動等。2 警戒ため池という。

図3-3-14 1時間降水量50mm以上の降雨の年間発生回数(1千地点当たり)

昭和55年(1980)

平成2(1990)

12(2000)

0

50

100

150

200

250

300

350

400回

資料:農林水産省作成

1977~1986年平均

約1.5倍

1997~2006年平均

図3-3-13 農地の基盤整備時期

資料:農林水産省作成 注:「土地利用基盤整備基本調査」に基づき、整備後40年(コン

クリート構造物の耐用年数)以上を経過する整備済み面積の割合は、平成23(2011)年度で田は25%、畑は18%と試算。農地周りの農業用用排水路も同様の割合で老朽化が進むものと推定。

383

287

221183 193

8144

9465 45

115

0

100

200

300

400

40年以上前

35~39年前

30~34年前

25~29年前

20~24年前

19年前以下

千ha 田畑

278

177

第1部

第3章

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プ1の作成、防災情報伝達体制の整備等の地域に応じた減災対策を推進していく必要があります。一方、ため池の情報と地図情報を組み合わせ、豪雨や地震時のため池の被災を予測し、防災情報を配信するシステムが開発されており、平成23(2011)年度末時点で市町村等を中心に30団体以上で導入されています(図3-3-15)。また、今後、大規模地震が発生する確率の高い地域においては、施設の耐震強化を推進し、大規模地震等の被災によりライフライン等への影響が極めて大きいダム、頭首工等の重要構造物については、レベル2地震動2に対する耐震設計・照査等を推進することとしています。

図3-3-15 ため池防災情報配信システム(例)

震災発生後、揺れによるため池被災の可能性(危険度)予測(自治体防災担当者PC)震災発生後、揺れによるため池被災の可能性(危険度)予測(自治体防災担当者PC)

資料:農林水産省作成

豪雨によるため池被災を原因とした被害予測(自治体防災担当者PC)豪雨によるため池被災を原因とした被害予測(自治体防災担当者PC)

震央距離の入力震央距離の入力 推計震度分布の表示推計震度分布の表示 ため池の条件検索ため池の条件検索

ため池決壊の氾濫エリアの予測ため池決壊の氾濫エリアの予測

●効果的な避難●適切な放流時期の判断→実施●効果的な避難●適切な放流時期の判断→実施

●効率的なため池点検の実施 ●効率的なため池点検の実施 

ため池被災可能性の予測ため池被災可能性の予測現況~ 6時間後までの降雨量分布の入力

現況~ 6時間後までの降雨量分布の入力

1 洪水、高潮、津波、土砂災害等の地域的な危険を予測し図に表現したもの。2 陸地近傍に発生する大規模なプレート境界型地震や内陸直下型地震による断層近傍域の地震動(震度6弱程度以上)。

178

第3節 農業生産基盤の整備・保全

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第4節 農業産出額と農業所得等の動向(農業・食料関連産業の国内生産額は国内生産額全体の1割)

平成22(2010)年度における我が国の第1次産業(農林漁業)の国内生産額1は、11兆1千億円となっていますが、第2次産業(関連製造業)と第3次産業(流通業・飲食店)を含めた農業・食料関連産業の国内生産額は94兆3千億円となり、国内生産額全体(905兆6千億円)の1割を占めています(図3-4-1)。

図3-4-1 農業・食料関連産業の国内生産額

製造業289.8

(32.0%)

建設業53.8

(5.9%)卸売・小売業99.8(11.0%)

金融・保険業35.7(3.9%) サービス業

154.3(17.0%)

その他80.3

(8.9%)

電気・ガス・水道業24.0(2.7%)

農林水産業11.9(1.3%)

情報通信業46.3(5.1%)

不動産業68.8(7.6%)

運輸業40.1(4.4%)

(単位:兆円)

(単位:兆円)

鉱業0.8(0.1%)

関連製造業36.6

(38.8%)

関連投資1.9

(2.1%)

関連流通業23.9

(25.4%)

農林漁業11.1

(11.8%)

飲食店20.7

(21.9%)

平成22(2010)年我が国の

国内生産額905.6兆円

平成22(2010)年度農業・食料関連産業の国内生産額94.3兆円

資料:内閣府「国民経済計算」、農林水産省「農業・食料関連産業の経済計算」注:1)「我が国の国内生産額」は平成22(2010)年、「農業・食料関連産業の国内生産額」は平成22(2010)年度。

2)国内生産額905.6兆円は、各経済活動による産出額を合計した値であり、農業・食料関連産業の国内生産額の94.3兆円は、農業・食料関連産業に含まれる各産業の生産額を合計した値である。

3)「農業・食料関連産業の経済計算」における林業の生産額は特用林産物のみで、素材生産は含んでいない。

(農業総産出額は米を中心に減少傾向で推移)

我が国の農業総産出額2は、昭和59(1984)年に11兆7千億円に達しましたが、その後は、多少の増減がみられるものの、減少傾向で推移しています(図3-4-2)。平成23(2011)年の農業総産出額は、前年の8兆1千億円に比べて1.5%増加し8兆2千億円となり

ましたが、昭和59(1984)年に比べて3兆5千億円(30%)減少しています。この推移を品目別にみると、野菜は昭和59(1984)年当時に比べて2千億円(8%)増加しました

が、米、畜産、果実は減少傾向で推移し、中でも米については2兆円(53%)と大きく減少しています。また、これらの品目について、平成23(2011)年における農業総産出額に占める割合を昭和59

(1984)年と比べると、果実はほぼ同水準(8%から9%)となっていますが、野菜は17%から26%に上昇し、畜産も28%から31%まで上昇しています。一方、米については34%から22%まで12ポイント低下しています。

1 農業サービス及び中間生産物(種子、飼料作物等)を含み、加工農産物は含まない。2 加工農産物を含み、農業サービス及び中間生産物(種子、飼料作物等)を含まない。

179

第1部

第3章

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図3-4-2 農業総産出額の推移

昭和59年(1984)

平成2(1990)

12(2000)

22(2010)

23(2011)

20(2008)

1.8兆円(22%)

2.1兆円(26%)

0.7兆円(9%)

2.6兆円(31%)

1.0兆円(12%)

8.2兆円8.5兆円8.1兆円

0

2

4

6

8

10

12

野菜

果実

畜産

その他

米3.9(34%)

2.0(17%)

3.3(28%)

1.6(14%)

11.7兆円 11.5兆円

9.1兆円

0.9(8%)

兆円

資料:農林水産省「生産農業所得統計」 注:その他は、麦類、雑穀、豆類、いも類、花き、工芸作物、その他作物、加工農産物の計。

(農業総産出額の減少要因)

昭和59(1984)年から平成23(2011)年の期間における農業総産出額の推移を①昭和59(1984)年から平成2(1990)年、②平成2(1990)年から平成12(2000)年、③平成12(2000)年から平成23(2011)年に分けて、その変化をみると、平成2(1990)年から平成12(2000)年における減少額(2兆3,632億円)が最も大きくなっています(図3-4-3)。この期間における減少要因を価格要因と生産要因に分けてみると、価格要因が73%を占めており、価格の下落が農業総産出額の減少に大きく影響したと考えられます。また、平成12(2000)年から平成23(2011)年の期間における農業総産出額の減少は、生産要因が92%を占めており、近年は生産量の減少が農業総産出額の減少に大きく影響していると考えられます。農業総産出額の増減を品目別にみると、米はいずれの期間においても産出額が減少しています。その減少要因をみると、昭和59(1984)年から平成2(1990)年の期間では、生産要因が54%を占めていますが、平成2(1990)年以降は、生産要因が低下し、価格要因が大部分を占めています。このように、近年における米の産出額の減少は、価格の下落が大きく影響していると考えられます。野菜の産出額は、平成2(1990)年から平成12(2000)年の期間で大きく減少しましたが、平成12(2000)年から平成23(2011)年の期間では僅かに増加しています。その増減要因をみると、平成2(1990)年から平成12(2000)年の期間では、価格要因による減少が88%を占めていますが、平成12(2000)年から平成23(2011)年の期間では、生産要因による増加が価格要因による減少を僅かに上回ったことから、産出額の増加に結び付いたと考えられます。畜産の産出額は、平成2(1990)年から平成12(2000)年の期間で減少しましたが、平成12

(2000)年から平成23(2011)年の期間では僅かに増加しています。その増減要因をみると、平成2(1990)年から平成12(2000)年の期間では、価格要因による減少が66%を占めていますが、平成12(2000)年から平成23(2011)年の期間では、価格要因による増加が生産要因による減少を上回ったことから、産出額の増加に結び付いたと考えられます。果実の産出額は、平成2(1990)年から平成12(2000)年の期間と平成12(2000)年から平成23(2011)年の期間、それぞれ産出額が減少していますが、その減少要因は、生産要因(生産量の減少)が影響していると考えられます。

180

第4節 農業産出額と農業所得等の動向

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図3-4-3 品目別年代別農業総産出額の減少要因

資料:農林水産省「生産農業所得統計」、「農業物価統計調査」を基に農林水産省で作成注:1)農業総産出額は、加工農産物を除いた数値。

2)各期間の農業産出額の変化(ΔV)は、下記の式により表され、価格要因(ΔP×Q)、生産要因(P×ΔQ)に分解される(交絡要因(ΔP×ΔQ)は僅かであるため考慮していない)。

  ΔV=(P+ΔP)×(Q+ΔQ)-P×Q (V:農業産出額、P:農産物価格指数/100、Q:実質農業産出額)  なお、実質農業産出額は、農業産出額を農産物価格指数(平成22(2010)年=100)で除したものである。

0

0-5,000-10,000-15,000-20,000-25,000

5,00010,000

-5,000

-10,000

-15,000

-20,000

-25,000

5,000

10,000価格要因

-23,632

-8,719-7,341 -8,749

-4,713

6,162

-4,741

204 -1,594 913 1,023 -677

農業全体

農業総産出額の増減額

米 野菜 畜産昭和59(1984)~平成2(1990)年

平成2(1990)~ 12(2000)年平成12(2000)~ 23(2011)年

億円

(増 減 額)

(増減額の要因別内訳)

-2,164

-6,707-2,344

果実

昭和59(1984)~平成2(1990)年

平成12(2000)~ 23(2011)年平成2(1990)~ 12(2000)年

128%

-228%

-73%

-27%

-8%

-92%

-46%

-54%-88%

-12%

-96%

-4%

144%

-44% -88%

-12%

1,684%1,684%

-1,584%

44% 72%51%

-151%-66%

350%

-250%

-34%

56%

-63%-172%

生産要因

-37%

億円

(地域によって異なる農業産出額の減少状況)

平成23(2011)年における地域別の農業産出額を平成2(1990)年と比較すると、いずれの地域においても減少しています(図3-4-4)。東北、北陸においては、農業産出額に占める米の産出割合が高いため、東北が1兆9,461億円から1

兆2,571億円に、北陸が6,856億円から4,442億円に、それぞれ35%減少しました。北海道においては、米の産出額は減少しているものの、野菜が1,574億円から1,903億円に21%増

加するとともに、畜産が4,765億円から5,223億円に10%増加したことから、農業産出額の減少は、1兆1,175億円から1兆137億円と9%の減少にとどまっています。また、九州・沖縄については、畜産のうち肉用牛の産出額が2,075億円から2,211億円に7%増加し

たものの、米を中心とする他の作物の産出額が減少したため、農業産出額は2兆1,410億円から1兆7,027億円に20%減少しています。

181

第1部

第3章

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図3-4-4 地域別農業産出額の推移

億円-20%

-31%-28%

-35%

-35%

17,027

21,410

8,350

12,147

4,5486,6677,301

10,135

4,4426,856

19,086

24,936-23%

12,571

19,461

-9%

1,013711,175

平成2(1990)年平成23(2011)年

資料:農林水産省「生産農業所得統計」

果実

野菜

畜産

その他

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

0北海道

東北

北陸

関東・東山

東海

近畿

中国・四国

九州・沖縄

-32%

コラム

品目別の生産分布状況

米、野菜、果実及び畜産の産出額を都道府県別にみると、米は、新潟県、北海道、秋田県等の東日本地域での産出額が多くなっています。また、野菜は、北海道(ばれいしょ、たまねぎ等)のほか、都市圏に近い千葉県(かんしょ、ねぎ等)、茨城県(かんしょ、トマト等)において多くなっています。果実は、青森県(りんご等)、和歌山県(みかん、うめ等)、山形県(おうとう等)で多く、畜産は、北海道(生乳、肉用牛等)、鹿児島県(肉用牛、豚等)、宮崎県(ブロイラー、肉用牛等)で多くなっています。このように我が国の農業は、様々な地域特性に応じた多様な農業生産が展開されていることがうかがえます。

品目別農業産出額上位5都道府県(平成23(2011)年)(単位:億円)

米 野菜 果実 畜産都道府県 産出額 都道府県 産出額 都道府県 産出額 都道府県 産出額

1位 新潟県 1,604 北海道 1,903 青森県 751 北海道 5,2232位 北海道 1,291 千葉県 1,568 和歌山県 604 鹿児島県 2,3773位 秋田県 1,062 茨城県 1,542 山形県 524 宮崎県 1,5394位 茨城県 915 熊本県 1,065 愛媛県 496 岩手県 1,2935位 山形県 816 愛知県 1,035 山梨県 491 茨城県 1,079

資料:農林水産省「生産農業所得統計」

182

第4節 農業産出額と農業所得等の動向

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米の産出額

200億円未満200~ 400億円400~ 600億円600~ 800億円800億円以上

野菜の産出額

200億円未満200~ 500億円500~ 1,000億円1,000 ~ 1,500億円1,500億円以上

果実の産出額

50億円未満50~ 100億円100~ 200億円200~ 400億円400億円以上

畜産の産出額

200億円未満200~ 500億円500~ 1,000億円1,000 ~ 2,000億円2,000億円以上

資料:農林水産省「生産農業所得統計」を基に農林水産省で作成

(自然災害による農業関係の被害)

平成24(2012)年度においては、4月の暴風、6月から7月にかけての梅雨前線豪雨等、9月の台風第16号、第17号等により、農産物生産や園芸施設、農業用施設等に様々な被害が生じました。これらの自然災害による農業関係の被害額は、全体で1,072億円にのぼっています(表3-4-1)。特に、台風第4号を含む梅雨前線豪雨等の発生時は、福岡県、熊本県、大分県、佐賀県等を中心とす

る地域が度重なる豪雨に見舞われ、米、野菜等で浸冠水、土砂流入等の被害が発生しました。このため、農林水産省では「梅雨前線豪雨等に関する農林水産省緊急災害対策本部」を設置するとともに、災害関連資金の無利子化、農業用ハウス等の再建・修繕への助成等の支援策を実施しました。

183

第1部

第3章

Page 46: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

表3-4-1 自然災害による農業関係の被害額(平成24(2012)年度)(単位:億円)

農業関係農作物等 農地、農業用施設等

暴風(4月) 90.3 89.5 0.8梅雨前線豪雨等(台風第4号含む)(6月~7月) 676.8 94.4 582.4台風第16号(9月) 26.0 19.8 6.2台風第17号(9月) 63.7 43.8 19.9大雪(12月~3月) 113.6 113.6 0その他 101.3 26.4 74.9計 1,071.7 387.5 684.2

資料:農林水産省調べ注:1)平成25(2013)年5月15日現在。

2)被害額は、各都道府県からの報告を取りまとめたもの。3)「梅雨前線豪雨(台風第4号を含む)」の被害額は、平成24(2012)年6月8日からの豪雨及び暴風雨の被害額。

梅雨前線豪雨による農作物冠水、土砂等流入(熊本県) 台風第 17 号によるほうれんそうハウスの損壊(栃木県)

(自然災害による損失を補償し、農業者の経営安定に寄与する農業災害補償制度)

我が国の農業は、台風等による風水害、冷害等の自然災害にしばしば見舞われ、広い地域にわたり甚大な被害を受けやすいという特徴があります。このため、このような自然災害により農業者が被る損失について、保険の仕組みを用いて補填する農業災害補償制度が設けられています。農業災害補償制度のうち、農作物(水稲、陸稲、麦)、家畜、果樹、畑作物、園芸施設を対象とした5つの共済事業については、農業者の負担軽減を図るため、農業者が支払う掛金のうち原則として2分の1を国が負担しています。農作物共済については、我が国の基幹作物を対象としていることから、作物ごとの耕作面積が一定規模以上の者は、加入が義務付けられており(当然加入)、その他の共済事業については、任意加入となっています。平成23年産(度)において、共済に加入している農家数は、延べ215万戸となっており、種類別の加入率(引受率)は、当然加入となっている水稲、麦は9割以上、その他の共済事業については、家畜共済では、乳用牛92%、肉用牛67%、果樹共済では25%、畑作物共済では66%、園芸施設共済では47%となっています(表3-4-2)。また、平成22(2010)年産(度)においては、1,156億円の共済金を支払っており、加入農業者の経営安定に寄与しました(図3-4-5)。

184

第4節 農業産出額と農業所得等の動向

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表3-4-2 共済事業種類別引受数量及び引受率(平成23年(2011)年産(度))

水稲 麦 乳用牛等 肉用牛等 肉豚 果樹(収穫) 畑作物 園芸施設

引受数量(千ha、千頭) 1,475 263 2,257 2,360 1,672 41 273 24

引受率(%) 92.4 96.6 92.0 67.2 21.6 24.7 66.4 47.0

資料:農林水産省調べ注:1)速報値(平成24(2012)年8月31日現在)。

2)家畜共済及び園芸施設共済は、年度の数値。3)家畜共済の引受率は、頭数引受率、その他は面積引受率。4)果樹共済には、他に樹体を対象とした共済がある。

図3-4-5 共済金の支払状況の推移

資料:農林水産省調べ注:1) 平成22(2010)年産(度)の果樹共済及び園芸施設共済の数値については、速報値(平成24(2012)年8月31日現在)。

2) 家畜共済及び園芸施設共済は、年度の数値。

0

500

1,000

1,500

2,000億円

平成13年(2001)

14(2002)

15(2003)

16(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

874959

1,871

1,353

840

1,090

836 772

1,0571,156

農作物

家畜

果樹畑作物園芸施設

(農業経営体の所得の動向)

農産物の販売を目的とする農業経営体(個別経営)の所得は、農産物の生産・販売等により得られる農業所得1、農業経営体が経営する農産加工、農家民宿、農家レストラン等の農業に関連する事業により得られる農業生産関連事業所得2、これら以外の事業・兼業等により得られる農外所得3、年金等の収入で構成されています。平成23(2011)年における農業経営体(個別経営)の総所得の構成をみると、年金等の収入が最も

多く、次いで農外等所得、農業所得の順となっています。これを主副業別にみると、主業経営体においては農業所得、準主業経営体においては農外等所得、副業的経営体においては年金等の収入が最も多くなっています(図3-4-6)。また、農業経営体(個別経営)の農業所得の推移をみると、平成22(2010)年においては前年に比

べて17%増加し122万円となりましたが、平成23(2011)年においては前年に比べて2%減少し120万円となりました。

1~3 [用語の解説]を参照。

185

第1部

第3章

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図3-4-6 主副業別の所得の推移

副業的経営体準主業経営体主業経営体農業経営体(個別経営)

416416395395398398

530530

638638612612590590606606555555

463463466466457457

万円

農業所得

農外等所得

年金等の収入

700

600

500

400

300

200

100

0

224224212212217217

110110

176176162162808087878282

183183182182183183

159159154154157157

381381426426430430

454544443434

161161162162169169

323230302424383837372020

465465475475438438

120120122122104104

資料:農林水産省「農業経営統計調査 経営形態別経営統計(個別経営)」注:農外等所得には農業生産関連事業所得を含む。

平成21(2009)年 平成23(2011)年

平成22(2010)年

次に、平成23(2011)年の農業経営体(個別経営)の農業所得を営農類型別にみると、前年に比べて水田作経営と畑作経営では農業所得が増加しています(図3-4-7)。水田作経営においては、米価格の上昇、収量が増加したこと等により、前年に比べて3万円(6%)増加しました。また、畑作経営においては、麦類、ばれいしょ、てんさい等の収量の増加、戸別所得補償制度の実施に伴う交付金の増加により14万円(6%)増加しました。一方、露地野菜作経営、施設野菜作経営においては、野菜価格の低下や原油価格の高騰により、前年に比べてそれぞれ18万円(9%)、28万円(6%)減少しました。酪農経営においては、1戸当たりの飼養頭数の増加等により農業粗収益は増加しているものの、とうもろこし等の飼料原料価格が高騰し配合飼料価格が上昇したことや原油価格の高騰による燃料単価の上昇等により農業経営費が増加したことから、前年に比べて64万円(9%)減少しました。養豚経営においても、農業粗収益は増加しましたが、飼料費等が増加したことから、農業所得は前年に比べて29万円(4%)減少しました。

図3-4-7 営農類型別農業所得の推移(農業経営体(個別経営))

平成21(2009)年平成22(2010)年平成23(2011)年

万円800

600

400

200

0

629658

396

168206122

656720768

171172145

413441382

177195177231217217

514835

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

水田作

畑作

露地野菜作

施設野菜作

果樹作

酪農

肉用牛

養豚

(農業経営費の増加が農業所得を圧迫)

農業粗収益に占める農業所得の割合を示す農業所得率は、経営状況を表す指標の一つです。農業経営体(個別経営)と主業経営体の農業所得率を比較すると、主業経営体の農業所得率は、農業経営体(個

186

第4節 農業産出額と農業所得等の動向

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別経営)に比べておおむね5から8ポイント高くなっています(図3-4-8)。また、その推移をみると、農業経営体(個別経営)、主業経営体共に平成22(2010)年は前年に比べて上昇したものの、低下傾向にあります。一方、平成23(2011)年における農業粗収益を平成16(2004)年と比較すると、農業粗収益は

389万円から469万円に21%増加していますが、農業経営費も263万円から350万円に33%増加しており、農業経営費の増加率が農業粗収益の増加率を上回る状況となっています(図3-4-9)。この背景には、農業経営費の多くを占める農機具費、飼料費、光熱動力費等の増加があるものと考えられます。

図3-4-8 農業所得率の推移

0

%40

30

平成16年(2004)

18(2006)

20(2008)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「経営形態別経営統計(個別経営)」注:「農業所得率」=農業所得/農業粗収益×100

農業経営体(個別経営)

主業経営体

31.733.3

32.331.2

34.736.0

36.438.9

25.5

26.8

24.224.7

28.930.3

31.132.4

図3-4-9 農業粗収益と農業経営費の推移(農業経営体(個別経営))

万円 万円500

400

300

200

100

0

120

100

80

60

40

20

0平成16年(2004)

18(2006)

20(2008)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「経営形態別経営統計(個別経営)」

農業粗収益

農業経営費

農機具費(右目盛)

飼料費(右目盛)

光熱動力費(右目盛)

54514850

38373736

2523212523211917

4542424538

323030

350335327330294

282274263

469457431438

413405398389

このような中、農林水産省が農業者を対象に行った調査によると、農業経営における課題として、「農業所得の安定」が90.7%と最も高くなっており、次いで、「農業資材(肥料、農薬、飼料、燃料等)のコスト低減」(80.5%)の順となっています(図3-4-10)。このように、農業者の意識としても、農業資材コストが経営上の大きな課題となっていることがうかがえます。

図3-4-10 農業経営における課題(複数回答)

90.7 80.5

57.343.0 38.4

28.2 25.0 24.2 16.4

0農業所得の安定

農業資材(肥料、

農薬、飼料、燃料

等)のコスト低減

収量の安定・向上

設備(農業機械等)の

有効利用

販路開拓

人件費の確保

生産規模の拡大

資金不足

経営多角化

20

資料:農林水産省「食料・農業・農村及び水産業・水産物に関する意識・意向調査」(平成25(2013)年2月実施)注:農業者モニター 1,269人を対象に行ったアンケート調査(回収率88.3%)。

406080100%

187

第1部

第3章

Page 50: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

コラム

 「新たな農業経営指標」

これからの農業を担う農業経営者が更なる経営発展を実現していくためには、経営計画をきちんと立ててそれを実行するとともに、自らの経営を客観的に捉え、問題点や課題を発見し、それらの改善に取り組んでいくことが重要です。そのため、農林水産省では、先進的な農業経営者や税理士等の専門家を交えて、農業経営の改善に必要な取組の実施状況や経営データを客観的に把握することができる「新たな農業経営指標」を検討し、平成24(2012)年3月に策定しました。この「新たな農業経営指標」は、農業経営の発展に欠かせない経営管理、生産、販売・加工、財務、労務、地域活動に関する14の取組を示す「経営改善のためのチェックリスト」と労働力、農地、生産・販売、財務について数値で経営状況を確認する「経営データの入力フォーム」、経営発展の方向性と目標達成への道筋を明らかにする「指標による評価結果シート」から成り、幅広い農業者が簡単に利用できるよう工夫されたものとなっています。平成24(2012)年度から、認定農業者は、この指標を用いて毎年自己チェックを行い、その結果を市町村に提出することとなりました。この指標を活用することによって、農業者が経営の改善や発展に取り組むことが期待されます。

「経営改善のためのチェックリスト」記入例

分野 番号 項目 取組指標 選択肢 取組状況

改善の優先度

1 目標設定 中長期的に目指す経営の姿を経営目標として定め、家族・従業員等と共有している。

① 明確な目標を立て、それを家族・従業員等と共有できている。② 目標は立てているが、家族・従業員等と十分に共有できておらず、自分でもあまり意識していない。③ 目標を立てていない。

① -

2 計画立案 目標達成に向けた経営計画を立て、それに従って営農活動を行っている。

① 文書化した経営計画があり、これを基に、営農活動を行っている。② おおまかな計画はあるが、必ずしも計画を意識せず営農活動を行うこともある。③ 経営計画を立てていない。

② ○

3 評価・改善 定期的に経営状況の確認・評価を行い、経営改善を図っている。

① 毎年、経営計画の達成状況を確認・評価し、次期計画の改善に結び付けている。② 経営判断をしたり、問題が発生しそうな時には、経営状況の確認・評価を行うようにしている。③ 経営状況の確認・評価を意識的に行ったことがない。

② △

4 農作業記録 毎日の農作業記録を書面で残し、作業の改善に役立てている。

① GAP等に基づき、生産工程を適切に管理し、作業改善に結びつけている。② 主な農作業については、作業内容や作業時間等の記録を残すようにしている。③ カレンダーに記入したり、メモを残しておく程度できちんとした農作業の記録は付けていない。

② ○

5 資材調達 資材価格の比較・検討を行い、調達先を決めている。

① 複数の調達先を比較・検討し、価格・サービス等を総合的に判断して調達先を決めている。② 他の調達先についても調べているが、調達先を変更したことはない。③ 調達先について比較・検討をしたことがない。

② △

6 コスト管理 生産に係るコストを常に管理し、収益の増加を図っている。

① 機械の償却費や支払金利等も含め、すべての生産コストを把握し、その低減に努めている。② 資材費等の直接的な経費については、生産単位(10a、1頭など)当たりで把握できている。③ 生産に係るコストを自分で計算したことがない。 ② △

7 強み把握 他と比較して、自らの農産物の品質や特性の強みを把握している。

① 市場のニーズや消費者の評価を把握し、強みを活かした販売戦略の構築や商品開発を行っている。② 強みは把握しているが、販売戦略には十分には活かされていない。③ 強みが何かよく分からない。

② ○

8 販路確保 複数の販路を比較・検討して販路を決定するなど、安定的な販売のための取組を行っている。

① 複数の販売先を比較・検討し、総合的に判断して販路を決定している。② 他の販売先についても検討したことがあるが、基本的には販路は固定している。③ 販路を変更しようと考えたことがない。

① -

9 付加価値 リスクへの備えをした上で、食品加工や直接販売等による付加価値の向上に取り組んでいる。

① 付加価値の向上に取り組むとともに、食の安全や消費者の信頼に関わる取組を行い、リスクに対応している。② 付加価値の向上に取り組んでいるが、食品事故等のリスクへの対応が十分とは言えない。③ 付加価値の向上に取り組んでいない。

③ ×

10 資金区分 経営のための資金と家計のための資金を明確に区分している。

① 経営と家計の間の資金移動について、事業主報酬や給与の形で定額とするなど一定のルールを定めている。② 経営と家計の資金を区分しているが、経営と家計の間の資金移動に特段ルールを設けていない。③ 経営と家計の資金を区分していない。

① -

11 財務諸表 財務諸表を整備し、適切な財務管理や税務申告を行っている。

① 貸借対照表を作成し、適切な財務管理を行っている。② 帳簿を付け、青色申告は行っているが、貸借対照表は作成していない。③ 青色申告に必要な帳簿を付けていない。

② ○

12 労働環境 家族・従業員の意欲を高めるために、労働環境の改善に取り組んでいる。

① 家族や従業員が意欲を持って従事できるよう、労働環境の改善に積極的に取り組んでいる。② 農作業安全への配慮など、一定の労働環境の改善には取り組んでいる。③ 労働環境の改善について、あまり関心をもっていない。

① -

13 福利厚生 家族や従業員を含め、必要な社会保険や労働保険、公的年金等に加入している。

① 家族や従業者等すべてが必要な社会保険や労働保険、公的年金等に加入している。② 必要な保険・年金に経営主は加入しているが、家族や従業員は加入していないものがある。③ 必要な保険・年金のうち、経営主が加入していないものがある。

③ ○

14 地域活動 地域農業の発展に資する活動を行っている。① 地域農業に関する活動で中心的な役割を担っている。② 関係者とともに地域農業に関する活動に参加している。③ 地域農業に関する話合いには最低限参加しているが、具体的な活動は行っていない。

① -

経営管理

生産

販売・加工

財務

労務

地域活動

記入例

○:早急(1年以内)に改善すべきもの△:2~ 3年以内に改善すべきもの×:当面取り組む考えのないもの-:すでに優れた取組が行われているもの

番号 項目 取組指標 選択肢

5 資材調達 ② △

改善の優先度

取組状況

資材価格の比較・検討を行い、調達先を決めている。

① 複数の調達先を比較・検討し、価格・サービス等を総合的に判断して調達先を決めている。② 他の調達先についても調べているが、調達先を変更したことはない。

③ 調達先について比較・検討をしたことがない。

6 コスト管理 ② △

生産に係るコストを常に管理し、収益の増加を図っている。

① 機械の償却費や支払金利等も含め、すべての生産コストを把握し、その低減に努めている。② 資材費等の直接的な経費については、生産単位(10a、1頭など)当たりで把握できている。③ 生産に係るコストを自分で計算したことがない。

資料:農林水産省作成

「新たな農業経営指標」 ロゴマーク

188

第4節 農業産出額と農業所得等の動向

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第5節 主要農畜産物の生産等の動向

(1)米

(米の消費量、生産量は減少傾向)

平成23(2011)年度における米の消費仕向量(生産量+輸入量±在庫増減量)は、前年度と同量の902万tとなっていますが、平成12(2000)年度の979万tから8%(77万t)減少しています(図3-5-1)。また、平成23(2011)年度における1人当たり供給数量は、東日本大震災後に一時的に需要が増加

した前年度の59.5kgに比べて3%(1.7kg)減少し57.8kgとなっており、平成12(2000)年度の64.6kgから11%(6.8kg)減少しています。このような中、米の生産量は、減少傾向にありますが、作柄等により変動があり、平成23(2011)

年度における生産量 1は、前年度の855万tに比べて2万t増加し857万tとなっています。なお、農林水産省は、毎年、過去の需要実績を基に全国及び都道府県別の米の生産数量目標を設定

し、農業者、生産者団体等との連携の下、生産数量目標に沿った米の作付を推進しています。都道府県別の生産数量目標の設定に際しては、作付面積が生産数量目標(面積換算値)を下回った実績や都道府県間調整2による生産数量目標の減少等が配慮されています。平成24(2012)年産の水稲作付面積(子実用)3は、加工用米等の作付け増加により前年産の157万

haに比べて5千ha増加し158万haとなりましたが、平成12(2000)年産の176万haと比べると10%(18万ha)減少しています(図3-5-2)。この作付面積の推移を地域別にみると、平成24(2012)年産の作付面積は平成12(2000)年産に

比べて、北海道は17%、東北は13%減少しているのに対して、北陸は5%、関東・東山は6%の減少となっており、地域によって減少率に違いがみられます。

図3-5-1 米の生産量、消費仕向量等の推移

kg

1人当たり供給数量(右目盛) 輸入量

消費仕向量生産量

万t

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

資料:農林水産省「食料需給表」

昭和55年度(1980)

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

0

180

160

140

120

100

80

60

40

200

57.864.670.078.9

902979

1,0481,121

1008853

8579491,050975

図3-5-2 水稲(子実用)の地域別作付面積の推移

3030 2525 2121 2020 1919 1818 1818

99 88 66 66 66 66 66

1919 1616 1313 1212 1212 1212 1111

17171515 1212 1212 1111 1111 1111

17171414 1111 1111 1010 1010 1010

41413636

3232 3131 3030 3030 3030

29292626

2222 2222 2121 2121 2121

5757

5252

4545 4444 4242 3939 4040

1515

1515

1313 1212 1111 1111 1111

235235

206206

176176 170170 163163 157157 158158

0

50

100

150

200

250

昭和55年産(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

万ha北海道

四国 九州中国

近畿東海関東・東山北陸東北

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

1「食料需給表」における国内生産量。飼料用、燃料用等の食用以外の生産量を含む。2 米以外の作物振興等により生産数量目標の削減を希望する都道府県と米の生産拡大を希望する都道府県の間で生産数量目標を調整する仕組み。3 飼料用、燃料用等の食用以外の水稲及び陸稲の作付面積を含まない。

189

第1部

第3章

Page 52: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

さらに、水稲の作付面積規模別に販売農家数と作付面積の割合をみると、作付面積規模5ha以上の販売農家数の割合は平成12(2000)年の1.4%から平成22(2010)年の2.6%に1.2ポイント増加するとともに、作付面積に占める割合も14%から23%に9ポイント増加しており、水稲経営における規模拡大は着実に進んでいます(図3-5-3)。

図3-5-3 販売目的で水稲を作付けした販売農家数と作付面積の規模別割合

122万ha

147万ha

116万戸

174万戸

22(2010)

12(2000)

22(2010)

平成12年(2000)

水稲作付面積

販売農家数

76.676.6

72.872.8

40.040.0

32.332.3

19.819.8

21.221.2

36.636.6

32.632.6

2.22.2

3.33.3

9.79.7

11.811.8

1.11.1

1.91.9

8.98.9

12.612.6

0.30.3

0.70.7

4.94.9

10.710.7

資料:農林水産省「農林業センサス」0 20 40 60 80 100

10.0ha以上3.0 ~ 5.0ha

5.0 ~ 10.0ha1.0 ~ 3.0ha1.0ha未満

(米の作柄と取引価格の状況)

平成24(2012)年産米の作柄については、作況指数1102となりましたが、地域別にみると、北海道は107、東北は103と作柄が良くなった一方、九州では6月の日照不足や台風第16号による被害等の影響により97と作柄が悪くなりました。また、平成24(2012)年産米の相対取引価格の動向をみると、新米への切り替わり時期の前年産米在庫水準が低かったことに加え、震災の影響を懸念した集荷競争があったこと等を反映し、前年を上回る水準となっています(図3-5-4)。米の価格は、需給状況等を踏まえ、民間事業者の間での交渉により形成されることが基本です。米の生産・流通を安定させるためには、生産者と需要者の播種前契約や産地、卸及び需要者の3者による事前契約等の取組の広がりが重要となっています。

図3-5-4 米の相対取引価格の推移

0

平成20年産平成21年産

平成22年産

平成23年産

平成24年産円/玄米60kg

平成20年(2008)9月

21(2009)9月

22(2010)9月

23(2011)9月

24(2012)9月

25(2013)3月

17,000

16,000

15,000

14,000

13,000

12,000

資料:農林水産省調べ注:1) 価格には、運賃、包装代、消費税相当額が含まれている。

2) 産地銘柄ごとの前年産検査数量ウエイトで加重平均した価格。

15,163

15,000

15,169

14,106

13,040 13,283

15,19615,541

16,65016,534

1[用語の解説]参照

190

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 53: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

なお、平成23(2011)年8月から2年間の期間で、米の先物取引の試験上場が認可されており、平成24(2012)年における米の先物取引の出来高は、1日800枚(約3千t)程度1となっています。

(米粉用米の計画生産量の伸びが鈍化)

米の消費及び生産が減少を続ける中、食料自給率の向上、水田の有効活用に向けて、米粉の生産・利用の拡大等が進められています。米粉用米の生産量については、平成22(2010)

年度から実施された戸別所得補償制度において10a当たり8万円の助成措置が講じられたこと等により、平成20(2008)年産の600tから平成23(2011)年産には4万tまで大幅に増加しました(図3-5-5)。しかしながら、平成24(2012)年産は、米粉を使った最終製品の需要の伸びが鈍化したこと等により、前年産に比べて14%減少し3万5千tとなっています。

(規模の大きい層ほど労働力の収益性が向上)

近年における稲作部門の農業粗収益の推移をみると、平成20(2008)年から平成22(2010)年にかけて米価の下落等により販売収入等が年々低下しましたが、平成22(2010)年は戸別所得補償制度が導入されたことにより増加に転じ、平成23(2011)年は、米価の上昇等により前年に比べて7千円/10a(6%)増加しています(図3-5-6)。また、農業所得2については、農業経営費がほぼ横ばいで推移する中、農業粗収益の増加に伴い平成21(2009)年以降増加しており、平成23(2011)年は前年に比べて6千円/10a(30%)増加し2万6千円/10aとなっています。稲作の作付面積規模別に10a当たりの農業経

営費をみると、0.5ha未満層は15万9千円/10aとなっていますが、規模が拡大するにつれて減少し、7~10ha層で8万円/10aと最も低くなっています(図3-5-7)。しかしながら、10ha以上層では、新たな大規模農業機械の導入や雇用労働力の増加等に伴い、農業経営費は増加に転じています。農業経営費のうち農機具等をみると、農業経営費が最も高い0.5ha未満層は7万7千円/10aとなっ

ていますが、規模が拡大するにつれて減少し、7~10ha層では、2万6千円/10aと0.5ha未満層の3分の1となっています。

1 東京コメ(1枚6t)と大阪コメ(1枚3t)を合計した値。2[用語の解説]を参照。

図3-5-5 米粉用米の計画生産量の推移

t50,000

40,000

30,000

20,000

10,000

0

34,52140,311

27,796

13,041

566平成20年産(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

資料:農林水産省「新規需要米の取組計画認定状況」注:計画生産量は認定数量。

図3-5-6 稲作部門の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

農業所得

農業経営費

米戸別所得補償

共済・補助金等(戸別所得補償以外)販売収入等

千円/10a140

120

100

80

60

40

20

02620141920242825

10410310510895989999

130123119

127115121127124 35

65

7886 1122

11697113122108113119119

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

農業粗収益

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:平成20(2008)年から税制改正による減価償却の算定方法の変更に伴い、同年以降の農業経営費は平成19(2007)年以前と直接比較できない。

191

第1部

第3章

Page 54: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

図3-5-7 稲作部門の稲作作付面積規模別10a当たり農業経営費(平成23(2011)年)

その他(雇用労働費等)

賃借料・作業委託料農機具・自動車・建物光熱動力

肥料・薬剤

0.5ha未満

0.5~1.0ha

1.0~2.0ha

2.0~3.0ha

3.0~5.0ha

5.0~7.0ha

7.0~10.0ha

10.0~15.0ha

15.0~20.0ha

20.0ha以上

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

千円/10a180

160

140

120

100

80

60

40

20

0

8888878782828080858589899090104104

124124

159159

34342828282826262828262623232222

2424

3030

778877777799661515

1818

2626

262629292727262629293333393944445959

7777

555555555555666666661717161615151616161616161616171718182020

また、稲作作付面積規模別に農地と労働力の収益性をみると、作付面積当たりの農業所得は、0.5ha未満層では2万9千円/10aの赤字となっていますが、1~2ha層では3万円/10aの黒字となっています(図3-5-8)。2ha以上層では、規模が拡大するにつれて農業所得は徐々に増大しますが、20ha以上層では若干の減少に転じています。一方、家族労働1時間当たりの農業所得は、規模が拡大するにつれて増加しており、作付面積規模の大きい層ほど労働力の収益性が向上する傾向にあります。

図3-5-8 稲作部門の稲作作付面積規模別収益性(平成23(2011)年)

-293

30 37 43 47 49 50 53 51

-61

10 1420

2427

3237

40

-10

10

30

50

40

20

0

-40

0

40

80

120

160

200千円/10a

作付面積10a当たり農業所得

家族農業労働1時間当たり農業所得(右目盛)

100円/時間

0.5ha未満

0.5~1.0ha

1.0~2.0ha

2.0~3.0ha

3.0~5.0ha

5.0~7.0ha

7.0~10.0ha

10.0~15.0ha

15.0~20.0ha

20.0ha以上

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

(2)小麦

(小麦の作付面積は半数を北海道が占める)

平成23(2011)年度における小麦の消費仕向量は、前年度の638万tに比べて5%(32万t)増加し670万tとなっており、平成12(2000)年度の631万tから6%(39万t)増加しています(図3-5-9)。また、平成23(2011)年度における1人当たり供給数量は、前年度の32.7kgに比べて0.1kg増加し32.8kgとなっており、平成12(2000)年度の32.6kgから1%(0.2kg)増加しています。一方、平成23(2011)年度における生産量は、天候の影響により作柄が悪かった前年度の57万tに比べて32%(18万t)増加し75万tとなっており、平成12(2000)年度の69万tから9%(6万t)

192

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 55: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

増加しています。なお、平成23(2011)年度における小麦の輸入量は、前年度の547万tに比べて18%(101万t)

増加し648万tとなっています。この主な背景として、とうもろこし価格の高騰を受けて、飼料用小麦の輸入が増加したこと等が挙げられます。このような中、小麦の作付面積は、米の生産調整の拡大に伴い、平成2(1990)年産には26万haまで増加しましたが、作柄・品質が不安定なことや、水稲の作付早期化に伴う裏作麦の減少等により、平成12(2000)年産には18万3千haに減少しました(図3-5-10)。平成17(2005)年産以降は、20万ha程度で推移しており、平成24(2012)年産の作付面積は、平成22(2010)年産以降の作柄が悪かったこと等から他作物への転換等が進み、前年に比べて1%(2千ha)減少し20万9千haとなっています。この作付面積を地域別にみると、北海道の作付面積は全国の57%を占めており、大規模な小麦の主

産地となっています。また、平成12(2000)年産と比べると、北海道と九州でそれぞれ16%(1万6千ha)、20%(6千ha)増加しています。

図3-5-9 小麦の生産量、消費仕向量等の推移

kg

1人当たり供給数量(右目盛)

輸入量

消費仕向量

生産量

万t700

600

500

400

300

200

1000

60.0

50.0

40.0

30.0

20.0

10.0

0.0

32.832.631.732.2

670631627605648

569531556

75699558

昭和55年度

(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

資料:農林水産省「食料需給表」

図3-5-10 小麦の地域別作付面積の推移

資料:農林水産省「作物統計」

24(2012)

22(2010)

23(2011)

17(2005)

12(2000)

平成2(1990)

昭和55年産(1980)

3.93.9 4.84.8 2.82.8 3.73.7 3.33.3 3.53.5 3.43.4

1.11.11.41.4

1.11.1 1.41.4 1.51.5 1.51.5 1.51.54.44.4

4.74.7

2.62.6 2.62.6 2.22.2 2.22.2 2.22.21.01.0

1.21.28.88.8

12.112.1

10.310.311.611.6 11.611.6 11.911.9 11.911.9

19.119.1

26.026.0

18.318.321.421.4 20.720.7 21.221.2 20.920.9

0

5

10

15

20

25

30万ha

北海道

九州近畿東海

関東・東山

東北

また、小麦の作付面積規模別に販売農家数と作付面積の割合をみると、作付面積規模5ha以上の販売農家数の割合は、平成12(2000)年の9%から平成22(2010)年の25%まで16ポイント増加しています(図3-5-11)。また、作付面積に占める割合は、特に作付面積規模10ha以上の販売農家の割合が22%から45%に大幅に増加しており、規模拡大の進展がみられます。

図3-5-11 販売目的で小麦を作付けした販売農家数と作付面積の規模別割合

%100806040200

45.2

22.3

10.4

2.6

28.7

26.6

14.4

6.3

10.6

12.7

9.8

5.5

10.5

21.7

21.4

22.3

5.0

16.7

44.0

63.4販売農家数

小麦作付面積

平成12年(2000)

22(2010)

12(2000)

22(2010)

9万1千戸

4万3千戸

14万9千ha

15万2千ha

1.0~3.0ha1.0ha未満 3.0~5.0ha 5.0~10.0ha 10.0ha以上

資料:農林水産省「農林業センサス」

193

第1部

第3章

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(パン・中華麺用小麦の作付面積が拡大)

小麦は、そのたんぱく質含量の違いによって用途が異なり、たんぱく質含量が多い硬質(強力)小麦はパンや中華麺として、たんぱく質含量が中程度の中間質(中力)小麦はうどん等の麺類として、たんぱく質含量の少ない軟質(薄力)小麦はケーキ等として、それぞれ用いられます。我が国では、これまで、たんぱく質含量が中程度の日本麺用の品種が主に作付けされてきましたが、今後、小麦の作付けを増大させていくためには、国内産小麦の伸びる余地が大きいパン・中華麺用小麦の生産拡大を図ることが課題となっています。このような状況を踏まえ、近年、パン・中華麺用品種の開発・普及が進んでいます。北海道では、製パン適性がカナダ産小麦と同等として評価が高い「春よ恋」や、パン・中華麺用に日本麺用品種とブレンドして利用する超強力小麦「ゆめちから」が開発され、普及が進められています。また、都府県においても、製パン適性の優れた「ゆめかおり」、福岡県の博多ラーメン向けの「ちくしW2号」等が開発されました。「ちくしW2号」は、福岡県が「ラー麦」の名称とロゴマークを商標登録し、ラー麦を使ったラーメンにのみ使用許可したほか、観光資源である屋台と連携するためのサンプル麺を無償提供するなど普及促進に努めています。今後、これらの新品種の普及を進めることにより、パン・中華麺用途への供給拡大が期待されます。近年、パン・中華麺用小麦の作付面積は、着実に増加しており、平成24(2012)年産の作付面積は2万6千ha、小麦の作付面積に占める割合は12%まで増加しています(表3-5-1)。中でも、超強力小麦の「ゆめちから」については、平成24(2012)年産から1千ha以上の作付けが開始されており、大手製パンメーカーが中力小麦「きたほなみ」とブレンドして国産小麦を100%使用した食パンを発売するなど、食料自給率向上への貢献が期待されています。

表3-5-1 パン・中華麺用小麦の作付面積の推移(単位:ha、%)

平成18年産(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

小麦全体 218,300 209,700 208,800 208,300 206,900 211,500 209,200パン・中華麺用小麦 15,839 15,692 16,882 17,726 20,210 21,550 25,949(小麦全体に占める割合) (7.3) (7.5) (8.1) (8.5) (9.8) (10.2) (12.4)

ゆめちから - - - - 56 159 1,214春よ恋 8,459 7,080 6,760 6,500 7,098 7,774 9,539ミナミノカオリ 706 1,094 1,705 2,025 2,740 3,644 3,753ゆめかおり - - - 4 43 251 416ちくしW2号 - - - 149 566 767 880

資料:農林水産省調べ

また、日本麺用の品種についても収量や品質の向上を図るため、新品種の開発、普及が進められています。北海道においては、平成20(2008)年産では「ホクシン」が主に作付けされていましたが、平成21(2009)年産以降、小麦粉の色、うどんへの加工適性や製粉性が優れた多収品種「きたほなみ」への転換が進められ、平成23(2011)年産では、ほぼ全ての日本麺用品種が「きたほなみ」となっています(表3-5-2)。都府県においても、従来広く作付けされてきた「農林61号」の作付面積が近年減少傾向で推移しており、「さとのそら」等の品質や栽培性に優れた新しい品種への転換が進展しています。

194

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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表3-5-2 日本麺用品種の作付面積の推移(単位:ha)

平成18年産

(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

小麦全体 218,300 209,700 208,800 208,300 206,900 211,500 209,200北海道 120,500 117,100 115,700 116,300 116,300 119,200 119,200

ホクシン 104,264 102,596 103,756 96,373 72,901 545 21きたほなみ - - - 6,888 29,636 106,948 104,628

都府県 97,700 92,600 93,100 92,000 90,600 92,300 90,100農林61号 36,342 32,754 30,963 29,968 27,647 26,263 19,508イワイノダイチ 2,008 3,017 3,578 4,282 4,492 5,024 4,936あやひかり 1,803 1,904 2,240 2,224 2,557 2,841 2,911さとのそら - - - 11 118 1,428 7,012

資料:農林水産省調べ

(経営安定に向け単収向上・コスト削減が課題)

水田作経営と畑作経営における麦類作部門の農業粗収益の推移についてみると、販売収入等については、平成18(2006)年から平成19(2007)年にかけて大きく減少していますが、これは、平成19(2007)年以降、麦の政府買入制度が廃止され、民間流通の下で販売価格が決定されるようになったことが要因で、販売価格の減少分を品目横断的経営安定対策で措置することにより、農業粗収益の水準が維持されました(図3-5-12)(図3-5-13)。その後、水田作では平成22(2010)年度から、畑作では平成23(2011)年度から、それぞれ戸別所得補償制度が実施されたことにより、農業粗収益の確保が図られています。このような中、近年、水田作経営における農業所得は増加傾向にある一方、畑作経営における農業所

得は低下傾向にあります。今後は、小麦の単収の向上や生産コストの削減に一層取り組むことが課題となっています。

図3-5-12 水田作経営麦類作部門の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

100

80

60

40

20

90

70

50

30

100

2825191721181917

53525456

49475049

817773737064

706612

3348444018

1917

5523

1321253030465149

農業所得

農業経営費 戸別所得補償共済・補助金等(戸別所得補償以外)

販売収入等

千円/10a

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

農業粗収益

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

図3-5-13 畑作経営麦類作部門(北海道)の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

2023

312919262326

5956

575655565858

79818985

73818184

10

58

534535

1296

46

2325364138707279

100

80

60

40

20

90

70

50

30

100

農業所得農業経営費 戸別所得補償共済・補助金等

(戸別所得補償以外)販売収入等

千円/10a

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

農業粗収益

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

195

第1部

第3章

Page 58: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(3)大豆

(大豆の輸入量は減少傾向)

平成23(2011)年度における大豆の消費仕向量(油糧用、食用等)は、前年度の364万tに比べて12%(45t)減少し319万tとなっており、平成12(2000)年度の496万tから36%(177万t)減少しています(図3-5-14)。大豆は、食用油等の油糧用に加えて、豆腐、みそ、しょうゆ等の食用があり、平成23(2011)年度の消費仕向量(319万t)のうち油糧用は65%(207万t)、食用は30%(95万t)を占めています。国内で生産された大豆は、ほぼ全量が食用として、豆腐用(60%)、煮豆・そう菜用(9%)、納豆用(12%)、みそ・しょうゆ用(9%)等に仕向けられています(図3-5-15)。平成23(2011)年度における大豆の1人当たり供給数量は、前年度の6.3kgに比べて2%(0.1kg)減少し6.2kgとなっており、平成12(2000)年度の6.4kgから3%(0.2kg)減少しています。一方、平成23(2011)年度における生産量は、前年度と同程度の22万tとなっていますが、平成12(2000)年度の24万tから8%(2万t)減少しています。なお、平成23(2011)年度における輸入量は、前年度の346万tに比べて18%(63万t)減少し283万tとなっており、平成12(2000)年度の483万tから41%(200万t)減少しています。この主な背景として、大豆の国際価格高騰の影響等により油糧用の需要がなたね油に移行していることが挙げられます。

図3-5-14 大豆の生産量、消費仕向量等の推移

食用食用

kg1人当たり供給数量(右目盛)

輸入量

消費仕向量

生産量

万t700

600

500

400

300

200

1000

7.06.0

5.04.03.02.01.00.0

6.26.26.46.46.56.5

5.35.3

959510110199998383

319319

496496482482439439

283283

483483468468440440

2222242422221717昭和55年度(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

資料:農林水産省「食料需給表」注:1)生産量、輸入量、消費仕向量には、飼料用、種子用、油

糧用・加工用(みそ用、しょうゆ用等)、減耗量が含まれる。1人当たり供給数量はこれらを含まない粗食料の値。

2)食用は、粗食料にみそ用、しょうゆ用仕向量を加えた値。

図3-5-15 大豆の需要量及び国産大豆の用途(平成23(2011)年度)

大豆需要の用途別割合

食用大豆の国産割合

国産大豆の用途別供給割合

0

20

40

60

80

100%

油糧用2,067千t65%

食用950千t30%

その他171千t 5%

輸入738千t78%

国産212千t 22%

豆腐60%(27%)

その他9%みそ・しょうゆ9%(12%)納豆

12%(21%)

煮豆・そう菜9%(60%)

3,188千t

資料:農林水産省調べ注:「国産大豆の用途別供給割合」の( )内の値は各用途におけ

る国産の割合。

大豆の作付面積は、米の生産調整の拡大に伴い、昭和62(1987)年には16万3千haまで増加しましたが、転作目標の緩和等により、平成6(1994)年には6万1千haに減少しました(図3-5-16)。平成17(2005)年以降は、13万haから14万ha程度で推移しており、平成24(2012)年の作付面積は13万1千haとなっています。平成24(2012)年の作付面積を地域別にみると、平成12(2000)年に比べて、北海道で1万1千ha(68%)、東海で4千ha(55%)増加している一方、関東・東山で5千ha(31%)、北陸で2千ha(13%)減少しています。また、大豆の作付面積を田畑別にみると、昭和45(1970)年頃は畑における作付けが中心でしたが、その後、米の生産調整において大豆が転作作物に位置付けられたことや、土地改良事業による水田の汎

196

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 59: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

用化が推進されたこと等から、田における作付けが増加しました。一方、畑における作付面積は、畑のかい廃や野菜等の収益性の高い作物への転換により減少し、平成24(2012)年は、田における作付面積が全体の85%(11万2千ha)を占めています(図3-5-17)。

図3-5-16 大豆の地域別作付面積の推移千ha180

160

140

120

100

80

60

40

20

0

131131137137138138134134123123

6161

163163

142142

27272626242421211616

77

1818

2323

33333535383834343030

1818

4242

3939

13131414151515151515

1616

99

11111212141416161616

1111

21211818

121212121111101077

9988

9999997788

131399

55 55667788

55

15151212 5555212122222121232321217724242020

昭和55年産(1980)

62(1987)

平成6(1994)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

北海道

東北

北陸

中国四国九州

関東・東山

東海近畿

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

図3-5-17 大豆の田畑別作付面積の推移

180

160

140

120

100

80

60

40

20

0

131137138134123

61

163

142

11211711911197

31

11586

2020192425304857

昭和55年産

(1980)

62(1987)

平成6(1994)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

千ha

近年における大豆の作付面積は、平成21(2009)年の14万5千haから平成24(2012)年の13万1千haに1万4千ha減少しています(表3-5-3)。これを都道府県別にみると、作付面積の減少が大きい秋田県、宮城県、栃木県等においては、新規需要米作付面積が増加している傾向がみられます。これは、湿田が多く大豆の収量が上がらないことから新規需要米への転換が進んだものと考えられます。一方、北海道の作付面積は2,700ha増加しているほか、三重県では、地域一体となった水田の団地的利用とブロックローテーションの取組等により760ha増加しており、大豆の生産拡大に向けては、排水性等の条件の良い水田を団地的に利用し、湿害の回避や作業性の向上を図る取組が重要となっています。

表3-5-3 平成21(2009)年産以降の都道府県別大豆作付面積の増減(単位:ha)

大豆作付面積 新規需要米作付面積平成21年産(2009)

(①)

24(2012)

(②)

増減(②-①)

21(2009)

(③)

24(2012)

(④)

増減(④-③)

全国 145,400 131,100 ▲14,300 18,142 68,091 49,949

上位

北海道 24,500 27,200 2,700 99 1,320 1,221三重県 3,360 4,120 760 186 850 664滋賀県 5,430 5,700 270 153 978 825岐阜県 2,690 2,780 90 318 1,002 684兵庫県 2,670 2,700 30 140 624 484

下位

秋田県 10,100 7,620 ▲2,480 1,252 3,252 2,000宮城県 11,500 9,040 ▲2,460 1,257 3,754 2,497栃木県 4,830 2,710 ▲2,120 1,028 5,912 4,884山形県 7,250 5,640 ▲1,610 1,057 3,323 2,266新潟県 7,140 5,630 ▲1,510 1,282 5,035 3,753

資料:農林水産省「作物統計」、「新規需要米の取組計画認定状況」注:新規需要米は、認定面積。

197

第1部

第3章

Page 60: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

大豆の作付面積規模別に販売農家数と作付面積の割合をみると、作付面積規模1ha以上の販売農家数の割合は、平成12(2000)年の8%から平成22(2010)年の18%まで10ポイント上昇しています(図3-5-18)。また、作付面積に占める割合は、特に5ha以上を作付けする販売農家の割合が14%から35%まで21ポイント上昇しており、規模拡大の進展がみられます。

図3-5-18 販売目的で大豆を作付けした販売農家数と作付面積の規模別割合

100806040200

35.0

14.3

2.8

1.0

16.0

9.7

3.3

0.6

27.1

26.7

12.3

6.2

10.4

19.1

11.4

10.3

11.5

30.2

70.2

82.0

販売農家数

大豆作付面積

平成12年(2000)

22(2010)

12(2000)

22(2010)

15万8千戸

9万4千戸

5万7千ha

7万1千ha

0.5~1.0ha0.5ha未満 3.0~5.0ha1.0~3.0ha 5.0ha以上

資料:農林水産省「農林業センサス」

(技術普及による単収・品質の向上を推進)

大豆は湿害に弱いため、作付けする水田を団地化し排水対策を徹底することが必要です。このため、地域の気象条件や土壌条件に応じて湿害を回避し、単収や品質の向上、安定化を図る新しい耕起・播種等技術(いわゆる「大豆300A技術」)が開発されています。この技術は単収300kg/10a、品質Aクラス(1等、2等)を確保することを目指しており、本技術の導入により収益性が向上し、大豆の作付けが拡大することが期待されています。大豆300A技術の普及面積は、増加傾向で推移しており、平成23(2011)年産は、前年に比べて1,100ha増加し3万2千haとなっています(図3-5-19)。また、平成23(2011)年産における地域別の普及面積を平成20(2008)年産と比較すると東海は3,200ha(74%)増加、東北は2,900ha(71%)増加、北陸は1,400ha(21%)増加しており、この3地域で全体の7割を占めています。このように、大豆300A技術は、地域により普及状況に違いがみられることから、産地、都府県、試験研究機関、国等が相互に連携し、更なる普及に向けた取組を推進することが重要となっています。

(経営の安定に向け単収の安定・向上が課題)

大豆を含む豆類作部門の農業粗収益の推移をみると、水田作経営では平成16(2004)年以降、おおむね8万円/10aから9万円/10aの間で推移していますが、特に平成16(2004)年と平成20(2008)年は、農業粗収益が9万3千円/10aと高くなっています(図3-5-20)。この主な背景として、平成16

図3-5-19 大豆300A技術の地域別普及面積の推移

北海道

関東

東北

九州中国・四国近畿

東海

北陸

40

35

30

25

20

15

10

5

0

31.730.626.7

21.1

7.07.55.1

4.12.01.63.0

1.5 8.17.98.26.6

7.67.45.34.43.33.03.12.72.72.11.41.2

千ha

平成20年産(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省調べ注:関東には、山梨県、長野県、静岡県を含む。

198

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 61: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(2004)年は、天候の影響により大豆の収穫量が減少し価格が高騰したこと、平成20(2008)年は天候に恵まれ、単収が高かったことが考えられます(図3-5-22)。また、畑作経営では、平成16(2004)年以降おおむね7万円/10aから8万円/10aの間で推移して

いますが、平成20(2008)年は単収が高かったことから農業粗収益が8万3千円/10aと最も高くなっています(図3-5-21)。一方、農業経営費は、水田作、畑作共に5万円/10a程度で安定的に推移していることから、農業所

得は、農業粗収益の増減に応じて変動しています。このように、農業所得は大豆の単収や価格の影響を受けることから、経営の安定・向上を図るために

は、単収や品質の向上、安定化を図ることが課題となっています。

図3-5-20 水田作経営豆類作部門の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

120

100

80

60

40

20

0

3434

23233434

38383434393934344141

56565757

555555554848525249495252

90908080

898993938282

90908383

939355

2828555550504444

33333030

29295555

2626

30302626343443433838575753536363

農業所得農業経営費

戸別所得補償

共済・補助金等(戸別所得補償以外)

販売収入等

千円/10a

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

農業粗収益

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

図3-5-21 畑作経営豆類作部門(北海道)の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

農業粗収益

戸別所得補償農業所得

農業経営費

共済・補助金等(戸別所得補償以外)

販売収入等

千円/10a

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

100

80

60

40

20

0

90

70

50

30

10

30232630

232521

27

5051535348474648

8174

7983

707367

75 81317

9

1165

3 10

63626274606663

72

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

図3-5-22 大豆の単収と落札価格の推移千円/60kg単収

大豆落札価格(右目盛)

kg/10a200

150

100

50

0

20

15

10

5

0

8.306.836.657.087.366.846.93

15.84 160162158178

164161168

119

平成16年産

(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「作物統計」、(財)日本特産農産物協会「大豆入札取引結果」

(4)野菜

(野菜の消費量、生産量は減少傾向)

平成23(2011)年度における野菜の消費仕向量は、前年度の1,451万tに比べて3%(44万t)増加し1,495万tとなっていますが、平成12(2000)年度の1,683万tから11%(188万t)減少しています(図3-5-23)。また、平成23(2011)年度における1人当たり供給数量は、前年度の88.1kgに比べて3%(3.0kg)

199

第1部

第3章

Page 62: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

増加し91.1kgとなっていますが、平成12(2000)年度の102.4kgから11%(11.3kg)減少しています。一方、平成23(2011)年度における生産量は、前年度の1,173万tに比べて1%(13万t)増加し1,186万tとなっていますが、平成12(2000)年度の1,370万tから13%(184万t)減少しています。なお、平成23(2011)年度における輸入量は、前年度の278万tに比べて11%(31万t)増加し309万tとなっていますが、平成12(2000)年度の312万tから1%(3万t)減少しています。このような中、平成23(2011)年の作付延べ面積は、前年に比べて7千ha(1%)減少し54万1千haとなっており、平成12(2000)年の62万haに比べて7万9千ha(13%)減少しています(図3-5-24)。また、平成23(2011)年の作付延べ面積を地域別にみると、平成12(2000)年に比べて全ての地域で減少していますが、平成2(1990)年と比べると、北海道において6万5千haから11万2千haに4万7千ha(72%)増加しています。

図3-5-23 野菜の生産量、消費仕向量等の推移

kg

1人当たり供給数量(右目盛)

輸入量

消費仕向量

生産量

万t1,8001,6001,4001,2001,0008006004002000

200180160140120100806040200

昭和55年度

(1980)

平成2(1990)

12(2000)

23(2011)

資料:農林水産省「食料需給表」

1,663 1,585

1,370 1,186

50 155

312 309

1,713 1,739 1,683 1,495

113.0 108.4 102.4 91.1

図3-5-24 野菜の地域別作付延べ面積の推移

東北 北陸 関東・東山

東海

近畿 中

国 四国

九州

北海道70

60

50

40

30

20

10

0

54.154.154.854.856.356.362.062.062.562.564.464.4

11.211.211.411.411.211.212.112.1

6.56.55.15.1

6.96.97.17.17.37.38.18.1

8.78.78.28.2

2.32.32.32.32.42.42.62.6

2.92.93.13.1

14.714.714.814.815.315.317.017.0

18.918.920.520.5

3.83.83.93.94.24.24.54.55.25.26.36.3

2.52.52.52.52.82.83.03.03.93.94.54.5

2.62.62.62.62.62.62.82.83.43.43.83.82.32.32.32.32.52.52.92.93.63.63.53.5

7.67.67.67.67.87.88.68.69.19.19.19.1

万ha

昭和55年(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

(だいこん、はくさい等の生産水準が大幅に低下)

主要野菜の生産量の推移をみると、昭和55(1980)年を100とした場合、レタスはサラダ需要の増加等を背景に平成2(1990)年に136まで上昇し、その後140程度で推移しているほか、にんじん、ねぎ、たまねぎは90から100の水準を維持しています(表3-5-4)。一方、きゅうり、だいこん、はくさい、なす、さといもの生産量は長期的に低下傾向で推移しており、平成23(2011)年には60以下の水準となっています。これらの品目が低下した主な背景としては、漬物を始めとする需要の減退等の影響が考えられます。

200

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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表3-5-4 主要野菜における生産水準の推移(昭和55(1980)年=100)

昭和55年産(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

(参考)23(2011)収穫量(千t)

レタス 100 136 141 145 141 142 542にんじん 100 109 114 102 99 103 617ねぎ 100 103 100 92 89 90 485たまねぎ 100 114 108 94 90 93 1,070キャベツ 100 100 94 88 88 89 1,375ピーマン 100 106 106 95 85 88 142ほうれんそう 100 109 90 85 76 75 264ばれいしょ 100 104 85 80 67 70 2,387トマト 100 76 80 75 68 69 703きゅうり 100 91 75 66 58 57 585だいこん 100 87 70 60 56 56 1,493はくさい 100 75 64 57 55 56 897なす 100 90 77 64 53 52 322さといも 100 69 50 40 37 37 171

資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」

(加工・業務用への対応が重要)

近年、女性の社会進出、単身世帯の増加等の生活スタイルの変化により、食の外部化1・簡便化が進行しています。このような中、国内の野菜需要は、家計消費用から加工・業務用に変化しています。野菜需要に占める加工・業務用の需要の割合は、昭和50(1975)年の36%から上昇傾向で推移しており、平成2(1990)年には昭和50(1975)年に比べて15ポイント上昇し51%となっています(図3-5-25)。加工・業務用需要の割合は平成2(1990)年

以降も緩やかに上昇しており、平成22(2010)年の加工・業務用需要の割合は56%となっています。また、加工・業務用需要を加工原料用と業務用別にみると、平成12(2000)年には、加工原料用と業務用がそれぞれ27%でしたが、近年、加工原料用需要の割合が上昇する一方、業務用需要の割合が低下しており、平成22(2010)年には、加工原料用が5ポイント上昇し32%、業務用が3ポイント低下し24%となっています。さらに、加工・業務用需要に占める輸入野菜の割合をみると、ばれいしょを除く指定野菜2(13品目)

は、平成2(1990)年の12%から平成17(2005)年の32%に上昇しています(図3-5-26)。平成22(2010)年は、平成17(2005)年に比べて2ポイント低下したものの平成17(2005)年とほぼ同水準の30%となっています。一方、家計消費用需要に占める輸入野菜の割合は、平成2(1990)年の0.5%から平成22(2010)

年の2%3に上昇しているものの、加工業務用に比べて僅かであることから、野菜の輸入量の増加は加

図3-5-25 野菜の加工・業務用割合の推移

%100

80

60

40

20

0

444546495364

242527

323027514736

昭和50年(1975)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

60(1985)

家計消費用 加工原料用 業務用

資料:農林水産政策研究所「農林水産政策研究所レビュー No.48」、農林水産省調べ

注:昭和60(1985)年以前は農林水産省調べ。

1[用語の解説]を参照。2 消費量が多く国民生活にとって重要な野菜で、野菜生産出荷安定法施行令(昭和41年政令第224号)で定めるキャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、たまねぎ、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ばれいしょ、ピーマン、ほうれんそう、レタスの14品目。

3 農林水産政策研究所「農林水産政策研究所レビューNo.48」

201

第1部

第3章

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工・業務用需要と結び付いていると考えられます。このため、国産野菜における加工・業務用需要に向けた供給拡大や安定供給体制の確立が課題となっています。

図3-5-26 野菜の加工・業務用における輸入品割合の推移

さといもにんじんたまねぎトマト

100

80

60

40

20

0

395153

78

30

505449

78

3246

3436

77

2610

218

66

12

指定野菜(13品目)

平成2年度(1990)

平成12年度(2000)

平成17年度(2005)

平成22年度(2010)

資料:農林水産政策研究所「農林水産政策研究所レビューNo.48」注:指定野菜(13品目)は、ばれいしょを除く指定野菜。

コラム

野菜生産の機械化一貫体系の実用化

加工・業務用野菜の価格は、生鮮用に比べて安価な場合が多く、安定した経営を図るためには、低コスト化・省力化が不可欠です。野菜の生産においては、特に収穫、調製作業に多くの時間が割かれるため、収穫、調製用の新型農業機械の開発・普及を推進しています。

○加工用ほうれんそう収穫機 【平成23(2011)年実用化】・地上部のみを刈り取り、加工用で不要な株もとは収穫しない。・収穫作業時間が手作業の10分の1に短縮され、全作業時間は28時間/10aと、慣行(177時間/10a)の16%に短縮。・同じ軟弱野菜であるこまつな(栽培期間:6~8月)と組み合わせた利用が可能(ほうれんそうの栽培期間:9~5月)。

○加工用・業務用キャベツ収穫機 【平成25(2013)年実用化予定】・高精度の刈り取り機構でキャベツを一斉収穫。・機上で選別、調製作業を行い、大型コンテナに直接収容することで調製・出荷作業を省力化。・大型コンテナに収容した後、そのままトラックやJR貨物に積み込めるため、流通経費も節減可能。

202

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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○たまねぎ調製装置 【平成25(2013)年実用化予定】・貯蔵乾燥させたたまねぎの根と葉切りを1時間当たり3,500個処理可能(人力の2倍速)。・コンテナ単位で投入されたたまねぎを1玉ずつ分離し、向きを揃えながら自動で処理。

(経営の安定に向け価格の安定が重要)

露地野菜作経営における農業粗収益の推移をみると、平成16(2004)年以降、53万円/10aから58万円/10aの間で推移しています(図3-5-27)。農業経営費は平成20(2008)年に減価償却の算出方法が変更されたこと等により前年に比べて3万円/10a増加し36万円/10aとなり、その後は35万円/10a程度で推移しています。農業所得については、20万円/10aから25万円/10aの間で推移していますが、平成23(2011)年は、野菜価格の低下等により前年を下回っています。施設野菜作経営における農業粗収益の推移をみると、平成16(2004)年以降、おおむね増加傾向に

あり、平成23(2011)年は25万5千円/100m2と近年で最も高くなっています(図3-5-28)。農業経営費については、光熱動力費の割合が高いことから、燃料価格の変動に伴い平成16(2004)年から平成20(2008)年にかけて増加し、その後やや減少しますが、平成23(2011)年には再び増加に転じています。農業粗収益、農業経営費共に増加傾向で推移していることから、農業所得はおおむね9万円/100m2から10万円/100m2の間で推移しています。野菜は、気象条件の影響を受けて作柄が変動しやすい上に保存性も乏しいため、国が主要野菜につい

て計画的な生産・出荷を進めていても価格が変動しやすい特性があります。このため、価格変動が野菜農家の経営に及ぼす影響を緩和し、次期作の確保と消費者への安定的な供給を図るため、著しく価格が下落したときには生産者に補給金を交付する価格安定対策を実施しています。

図3-5-27 露地野菜作経営の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

農業所得農業経営費農業粗収益千円/10a600

500

400

300

200

100

0

196222205216215233216254

351353353360326318318320

547574559576

541551534574

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

図3-5-28 施設野菜作経営の100m2当たり農業粗収益及び農業所得の推移

232 229 235 234 239252 255

129 133 135 139 150 150 158

104 96 100 96 90 101 97

0

50

100

150

200

250

300

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

千円/100m2

農業粗収益 農業経営費 農業所得

247

157

90

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

203

第1部

第3章

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(5)果実

(果樹の栽培面積はみかんを中心に減少傾向)

平成23(2011)年度における果実の消費仕向量は、前年度の772万tに比べて2%(16万t)増加し788万tとなっていますが、平成12(2000)年度の869万tから9%(81万t)減少しています(図3-5-29)。また、平成23(2011)年度における1人当たり供給数量は、前年度の36.6kgに比べて2%(0.7kg)増加し37.3kgとなっていますが、平成12(2000)年度の41.5kgから10%(4.2kg)減少しています。一方、平成23(2011)年度における生産量は、前年度の296万tに比べて1万t増加し297万tとなっていますが、平成12(2000)年度の385万tから23%(88万t)減少しています。なお、平成23(2011)年度における輸入量は、前年度の476万tに比べて4%(20万t)増加し496万tとなっており、平成12(2000)年度の484万tから2%(12万t)増加しています。このような中、果樹の栽培面積の推移をみると、平成23(2011)年の栽培面積は前年に比べて3千ha減少し24万4千haとなっており、平成12(2000)年の28万6千haから4万3千ha(15%)減少しています(図3-5-30)。また、平成23(2011)年の栽培面積を地域別にみると、昭和55(1980)年に比べて、九州は5万8千ha(58%)減少、四国は2万7千ha(49%)減少しており、九州、四国の減少が特に顕著となっています。果樹の栽培面積の推移を品目別にみると、昭和55(1980)年から平成23(2011)年にかけて、みかん(うんしゅうみかん)は9万2千ha(66%)減少しており特に減少が顕著となっています(図3-5-31)。

図3-5-30 果樹の地域別栽培面積の推移

沖縄

東北

北陸 関東・東山

東海

近畿

中国

四国

九州

北海道万ha45

40

35

30

25

20

15

10

5

0

24.424.424.724.726.526.5

28.628.6

34.634.6

40.840.8

5.05.05.15.15.45.4

5.75.7

6.36.3

6.66.6

4.94.94.94.95.25.25.55.5

6.36.3

6.46.4

2.02.02.02.02.22.22.22.2

2.62.6

3.53.5

2.82.82.92.92.92.93.03.03.33.3

3.63.6

1.61.61.61.61.81.82.12.12.82.8

3.43.4

2.92.92.92.93.33.33.63.64.64.6

5.65.6

4.24.24.34.34.74.75.45.47.37.310.010.0

昭和55年(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

図3-5-31 果樹の品目別栽培面積の推移

みかん

その他日本なしぶどう

その他かんきつ類

かき

りんご45

40

35

30

25

20

15

10

5

0

24.424.424.724.726.526.5

28.628.6

34.634.6

40.840.8

7.17.17.37.37.67.6

7.97.9

9.39.3

9.29.2

1.41.41.41.41.61.61.81.8

2.02.0

2.02.0

1.91.91.91.92.02.02.22.2

2.62.6

3.03.0

2.32.32.32.32.52.52.62.63.03.0

2.92.9

4.04.04.14.14.34.34.74.75.45.4

5.15.1

2.82.82.82.83.03.03.33.34.34.3

4.54.5

4.84.84.94.95.55.56.26.28.18.114.014.0

万ha

昭和55年(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」

図3-5-29 果実の生産量、消費仕向量等の推移

kg1人当たり供給数量(右目盛)

輸入量 生産量

消費仕向量万t1,000

800

600

400

200

900

700

500

300

1000

60

50

40

30

20

10

0昭和55年度(1980)

平成2

(1990)

12(2000)

23(2011)

資料:農林水産省「食料需給表」

620

490 385

297

154

298

484

496

764 776 869

788

38.8 38.841.5

37.3

204

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

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(果物の消費水準はみかん等で低下、バナナは上昇)

主要果物の家計購入数量の推移をみると、昭和55(1980)年を100とした場合、平成24(2012)年は、みかんが28と大きく低下しています(表3-5-5)。また、りんご、他の柑きつ類、なし、ぶどう、ももについても低下傾向で推移しており、平成24(2012)年の生鮮果物全体の消費水準は66となっています。このような中、輸入が主であるバナナとグレープフルーツ1は、それぞれ181、116まで上昇しています。

表3-5-5 果物の1人当たり家計購入数量の推移(昭和55(1980)年=100)

昭和55年(1980)

平成2(1990)

12(2000)

17(2005)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

(参考)24(2012)消費量(g)

りんご 100 103 89 79 79 78 69 3,493みかん 100 54 41 36 29 26 28 3,979他の柑きつ類 100 87 80 71 71 63 69 3,397

グレープフルーツ - 100 194 161 140 136 116 675オレンジ - 100 77 66 73 81 93 753

なし 100 83 84 76 53 60 57 1,385ぶどう 100 86 77 72 60 50 68 880かき 100 113 108 99 74 79 100 1,020もも 100 76 84 86 72 67 74 600バナナ 100 100 156 161 180 173 181 6,633生鮮果物計 100 81 75 73 67 65 66 27,548

資料:総務省「家計調査」(二人以上の世帯)注:1)グレープフルーツ、オレンジは平成2(1990)年を100とした指数。

2)平成2(1990)年以前は農林漁家世帯を除く結果。

(価格の変動が農業所得に大きく影響)

みかんは、果実数が多くなる年(表年)と少なくなる年(裏年)が交互に発生する特性(隔年結果)が顕著であり、この特性がみかんの価格に影響を与えています。これをみかんの農産物価格指数の推移でみると、平成17(2005)年を100とした場合、表年に当たる平成21(2009)年は112となりましたが、裏年に当たる平成22(2010)年は172に上昇しています(図3-5-32)。なお、平成23(2011)年は表年に当たりますが、天候不順等により生産量が少なかったことから、150と表年の中では高い価格水準となっています。このような状況を踏まえ、みかん部門の農業粗

収益をみると、表年に当たる平成21(2009)年は42万5千円/10aであったのに対し、裏年に当たる平成22(2010)年は46万3千円/10aまで増加、平成23(2011)年は表年に当たるものの、天候不順等による不作のため前年並の水準となっています(図3-5-33)。光熱動力費の変動等により農業経営

1 グレープフルーツは平成2(1990)年を100とした値。

図3-5-32 みかん及びりんごの農産物価格指数の推移(平成17(2005)年=100)

みかん(早生温州)

りんご

250

200

150

100

50

0

150172

112149

127

204

100129

96967076

9490100103

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「農業物価統計」注:平成16(2004)年の指数については、平成17(2005)年基準の指数と接続させるためのリンク係数を用いて算出した。

205

第1部

第3章

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費の増減がみられるものの、農業所得の増減は、おおむねみかんの農産物価格指数の増減に伴って変動しており、みかん部門の農業所得に価格が大きく影響を与えていると考えられます。みかんに次いで栽培面積の多いりんご部門の農業粗収益は、平成19(2007)年の40万9千円/10aから平成21(2009)年の35万2千円/10aに減少し、その後は37万円/10a程度で推移しています(図3-5-34)。また、農業経営費は平成19(2007)年以降、24万円/10aから25万円/10a程度で推移しています。このため、農業所得は農業粗収益の減少に伴って、平成19(2007)年の17万3千円/10aから平成21(2009)年の10万9千円/10aに減少し、その後は11万円/10aから12万円/10a程度で推移しています。りんごの農産物価格指数の推移をみると、平成17(2005)年を100とした場合、平成19(2007)年の94から平成21(2009)年の70まで低下した後、平成22(2010)年と平成23(2011)年は96まで回復しており、りんご部門においても農業所得の増減要因として価格が大きく影響を与えていると考えられます(図3-5-32)。

図3-5-33 みかん部門の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

農業粗収益 農業所得農業経営費千円/10a600

500

400

300

200

100

0

143143165165100100124124

154154221221

126126168168

322322299299325325331331273273269269274274268268

465465463463425425

456456427427

490

399399436436

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

図3-5-34 りんご部門の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

500

400

300

200

100

0

112112124124109109131131173173173173154154171171

254254245245242242246246236236232232230230211211

366366369369352352377377

409409405405384384382382

千円/10a農業粗収益 農業所得農業経営費

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

(優良品目・品種への転換を推進)

みかんやりんご等は、豊作や表年で供給量が需要量を上回ると価格が低下し、農業所得の減少につながることから、供給の安定に取り組むことが必要です。特に、競争力の低い品種の供給は価格低下を招きやすく、品目全体の価格にも影響を及ぼすことがあります。そこで、高品質果実の生産供給を通じて、産地の競争力強化と収益力向上を図るため、食べやすさ、おいしさ等の消費者ニーズに対応した優良品目・品種への転換の加速化と安定供給体制の確立が課題となっています。このような中、優良品目・品種への改植及びこれにより生じる未収益期間に対する支援が実施されており、優良品目・品種への累積転換面積は、平成23(2011)年度の2,930haまで増加しています(図3-5-35)。

図3-5-35 果樹の優良品目・品種への累積転換面積の推移

うんしゅうみかん

りんご

その他かんきつ

その他品目ha3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

2,930

2,110

1,441

965

457

331

184

130

538

411

300222

933

653

463298 1,128

862548361平成19年度(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省調べ注:転換面積は果樹経営支援対策事業における事業計画の承認を

受けた面積。

206

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 69: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

また、みかんとりんごについては、産地における摘果等の計画的生産出荷の実施により需給及び価格の安定を図ってもなお、一時的に出荷が集中した場合、生食用果実を緊急的に加工原料用に仕向ける措置に対する支援(緊急需給調整特別対策事業)が講じられています。平成24(2012)年産のみかんにおいては、極早生みかんの出荷が集中して価格が低迷したことを受

けて、10月20日から31日まで緊急需給調整特別対策事業を実施し、出荷計画数量の13%に相当する3千t(計画承認ベース)が市場から隔離されて、果汁原料用等として出荷されました。

(6)花き

(花きの農業総産出額は減少傾向)

平成23(2011)年における花きの農業総産出額は、前年の3,512億円に比べて135億円(4%)減少し3,377億円となっており、平成7(1995)年の4,360億円と比べると23%(983億円)減少しています。また、平成23(2011)年における農業総産出額に占める花きの割合は、前年の4.3%に比べて0.2

ポイント低下し4.1%となっており、平成12(2000)年の4.9%に比べると0.8ポイント低下しています(図3-5-36)。さらに、花きの農業産出額の推移を地域別にみると、平成23(2011)年においては、関東・東山、

東海、九州がそれぞれ、857億円(25%)、820億円(24%)、656億円(19%)となっており、3地域で全国の7割を占めています。

図3-5-36 花きの地域別農業産出額の推移

%6420

4.14.34.74.94.23.3

2.01.7

百億円

東北

北陸

関東・東山 東海

近畿 中国四国

九州

北海道

23(2011)

22(2010)

17(2005)

12(2000)

7(1995)

平成2(1990)

60(1985)

昭和55年(1980)

50

40

30

20

10

0

33.835.1

40.544.745.3

38.4

22.9

17.2

2.32.6

3.03.02.7

8.68.89.4

10.911.310.4

6.95.5

8.28.310.611.011.0

9.0

5.63.9

2.33.03.12.8

1.52.02.42.72.7

6.67.07.78.38.26.43.42.4

(農業総産出額に占める割合)

(農業産出額)

沖縄

資料:農林水産省「生産農業所得統計」 注:都道府県別に推計した農業産出額を合計した全国値は、都道府県間を移動した中間生産物の産出額が重複計上されていること等から農業

総産出額と一致しない。

花きの農業総産出額が減少傾向で推移する中、花きの輸入額は、関税が廃止された昭和60(1985)年以降、増加傾向で推移していましたが、平成19(2007)年をピークに近年は500億円程度で推移しており、平成23(2011)年の輸入額は502億円となっています(図3-5-37)。

207

第1部

第3章

Page 70: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

輸入額を種類別にみると、切り花の割合が高く、平成23(2011)年は351億円と輸入額全体の70%を占めています。また、切り花に占める輸入切り花の割合(数量ベース)も上昇傾向にあり、平成22(2010)年は23%に達しています。

図3-5-37 花きの輸入額の推移

切り花に占める輸入切り花の割合(数量ベース)(右目盛)

根付きの植物等

球根類

切り花類

億円600

500

400

300

200

100

0

25

20

15

10

5

0

23.3

20.619.218.918.317.2

12.9

10.5

6.3

2.8

502

524

476517565

532488

413432

270

86

818784

9410597

94

7559

44

20

707176101124120

107

121147

54 351366316322336315287

21722617258

昭和60年(1985)

平成2(1990)

7(1995)

12(2000)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:財務省「貿易統計」、農林水産省「植物検疫統計」

(日持ちの向上が重要)

切り花の1世帯当たりの購入金額の推移をみると、平成13(2001)年には1万1,500円でしたが、平成23(2011)年には18%減少し9,400円となっています(図3-5-38)。また、購入金額を世帯主の年齢別にみると、年齢が低い層ほど切り花の購入金額が少なくなっているほか、60~69歳層を除く全ての年齢層において、購入金額が減少する傾向がみられます。

図3-5-38 世帯主の年齢別切り花の購入金額の推移

百円

平均

200

150

100

50

0

128147

87

4532

15

94

145145121

70

4132

107

149157139

79

5330

115

29歳以下 30~39 40~49 50~59 60~69 70歳以上

平成13年(2001)

平成23年(2011)

平成18年(2006)

資料:総務省「家計調査」(二人以上の世帯)

このような中、花きの消費を拡大していくためには、消費者のニーズに適した花きを提供していくことが重要です。花きの関係団体が花き販売店を対象に行った調査によると、消費者から受ける質問事項として「花の日持ち」や「管理方法」が高い割合を占めており、消費者が花きを購入する際、花の日持ちや花を長く楽しむための管理方法を重視していることがうかがえます(図3-5-39)。また、消費者を対象とした調査においても、花きを購入する場合に求めることとして、「花の香り、美しさ」に続き、「新鮮で日持ち

208

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 71: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

するかどうか」が多くを占めています(図3-5-40)。国産花きの需要拡大に向けて、国産花きの強みを活かしつつ、日持ちの良さや品質の高さ等の商品情

報を消費者まで的確に伝えることが重要と考えられます。このため、切り花業界では、消費者が購入した花の日持ち日数を明示した、花の日持ち保証販売を推

進しており、平成23(2011)年3月には、MPS(花き産業総合認証)ジャパン株式会社から日持ち保証の切り花を販売する小売店向けにマニュアルが発行されています。このような小売店に対する支援に加えて、花の日持ちの向上には、生産・流通・小売の各段階におけ

る適切な管理を実施する必要があることから産地を対象とした採花後の管理技術等の普及が課題となっています。

図3-5-39 花き販売店への消費者の質問事項

不明あまりない時々ある

よくある

装飾方法(飾る場所等)

花の名前(品種)

花の名前(品目)

花の値段

管理方法

花の日持ち

100806040200

1.0

2.2

1.2

1.4

0.7

0.9

36.7

32.3

12.9

16.7

4.0

6.2

52.5

49.8

48.2

44.1

55.3

52.7

9.8

15.7

37.7

37.8

40.0

40.2

資料:(一社)日本生花通信配達協会アンケート調査注:平成21(2009)年5~6月に花キューピット協同組合関係

者886人を対象として実施。

図3-5-40 花きを購入する場合に必要なこと(3つまで選択)

%商品に値頃感が

あるか

商品の品揃え、陳列方法、値段が明記されているか

家庭でのお手入れなど、花に関する

知識の提供

花の持つ安らぎやいやし感

新鮮で日持ちがするかどうか

花の香り、美しさ

50403020100

25.125.1

25.925.9

28.528.5

31.731.7

38.738.7

46.646.6

資料:東海花き普及・振興協議会アンケート調査注:平成20(2008)年に東海3県(愛知県、三重県、岐阜県)

の消費者1,000人を対象として実施。

さらに、花きを教育や地域活動等に取り入れる取組を新たに「花はな育いく」として位置付け、その活動を推

進しています。花き業界と都市緑化関係者が主体となった「全国花育活動推進協議会」(事務局:(財)日本花普及セ

ンター)では、花育の普及・啓発、モデル地区での花育活動、幼稚園・保育園や小学校等における花や緑に関する授業へのアドバイザーの派遣等の活動を展開しています。

(鉢物・盆栽・植木類を中心に輸出が増加)

平成23(2011)年における花きの輸出額は、前年の67億円に比べて6%(4億円)増加し71億円となっており、平成14(2002)年以降、世界経済の停滞等により輸出が減少した平成21(2009)年を除き増加傾向で推移しています(図3-5-41)。また、輸出額の内訳をみると、鉢物・盆栽・植木類等が全体の9割を占めています。さらに、その輸出先は、急速な経済発展に伴うアジア地域における植木、緑化木等に対する需要拡大

等を背景として、ベトナム、香港、中国向けが急増しています。このような中、平成24(2012)年にオランダで開催された「2012年フェンロー国際園芸博覧会(フ

ロリアード2012)」においては、日本の花きの育種・栽培技術が高く評価され、今後の花きの輸出増加が期待されています。

209

第1部

第3章

Page 72: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

図3-5-41 花きの品目別輸出金額の推移

葉・枝、その他加工

切り花(生鮮)切り花(生鮮)鉢物・盆栽・植木等

球根類球根類

苗物(挿穂・接ぎ穂)

億円80

70

60

50

40

30

20

10

0

70.967.0

49.758.656.6

28.819.616.113.613.2

1.92.7

2.43.02.0

2.52.1

2.71.31.8

1.31.81.9

2.2

2.32.52.72.2

66.961.6

44.752.451.2

23.314.19.88.88.4

平成14年(2002)

15(2003)

16(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成

コラム

2012年フェンロー国際園芸博覧会(フロリアード2012)が開催

平成24(2012)年4月5日から10月7日まで、オランダ王国フェンロー市において「2012年フェンロー国際園芸博覧会(フロリアード2012)」が開催されました。フロリアードは、オランダが10年に一度開催する国際園芸博覧会で、我が国は平成4(1992)年から参加し、今回が3回目の参加となります。今回の博覧会では「自然と調和する人生」を開催テーマとして、42か国、36機関が参加し、期間中に205万人の来場がありました。同博覧会において日本政府は、「日本の花を感じよう-自然と生きる知恵」をテーマとした展示を行い、期間中に506品種の日本産花きを展示しました。また、8月1日はジャパンデーと位置付けられ、日本の伝統的な文化等を紹介する催し物等を通じて、多くの来場者が生け花や縁日イベント等を楽しみました。日本政府の出展会場には、開催期間を通じて全来場者の3割に相当する60万人が訪れ、同博覧会の主催者から屋内展示部門の第1位となる「金賞」を受賞するとともに、展示された日本産の花きが参加42か国中で唯一、オランダ政府代表賞「フロリアード2012で最も美しい花々」を受賞しました。また、品種のコンテストでは、7品種が1席、4品種が2席、4品種が3席を受賞するなど、日本産花きの育種・栽培技術が高く評価されるとともに、日本政府の出展会場で開かれた商談会では、オランダ、ドイツ等の花き関係業者と商談が成立するなど多くの成果を得ることができました。

日本産花きの展示の様子 品種のコンテストで最高得点を獲得した 「親王」(シンビジウム)

210

第5節 主要農畜産物の生産等の動向

Page 73: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(経営の安定に向け、農業経営費の削減が課題)

露地花き部門における農業粗収益の推移をみると、平成16(2004)年から平成19(2007)年にかけて62万円/10aから64万円/10aの間で推移し、平成20(2008)年には58万5千円/10aまで減少しましたが、その後は増加に転じ、平成23(2011)年の農業粗収益は67万2千円/10aとなっています(図3-5-42)。また、農業経営費は平成16(2004)年から平成19(2007)年にかけて30万円/10a程度で推移していましたが、平成20(2008)年以降は、肥料・農薬費や雇用労賃等の上昇に伴い増加傾向で推移しており、平成23(2011)年は41万5千円/10aとなっています。農業所得については、平成20(2008)年の23万9千円/10aから平成22(2010)年の30万1千円

/10aに6万2千円/10a増加しましたが、平成23(2011)年は、前年に比べて4万4千円/10a(15%)減少し25万7千円/10aとなっています。施設花き部門における農業粗収益の推移をみると、平成16(2004)年以降、おおむね26万円

/100m2から29万円/100m2の間で推移していますが、農業経営費は、平成16年以降、光熱動力費等の上昇に伴い増加傾向で推移しており、平成23(2011)年は平成16(2004)年以降で最も高い22万円/100m2となっています(図3-5-43)。農業所得については、平成16(2004)年以降、農業経営費の増加に伴い減少傾向で推移しており、平成23(2011)年は、前年に比べて2万7千円/100m2減少し5万4千円/100m2となっています。

図3-5-43 施設花き部門の100m2当たり農業粗収益及び農業所得の推移

農業粗収益 農業所得農業経営費

千円/100m2350

300

250

200

150

100

50

0

54548181

585852527979838383839494

220220206206201201214214196196191191187187177177

274274286286259259266266276276274274270270271271

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

図3-5-42 露地花き部門の10a当たり農業粗収益及び農業所得の推移

千円/10a800

700

600

500

400

300

200

100

0

257301

253239

312325

309

341415394369346

305318

313

298

672695621

585617643622639

平成16年(2004)

17(2005)

18(2006)

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

農業粗収益 農業所得農業経営費

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

注:図3-5-6の注釈参照。

211

第1部

第3章

Page 74: 農業の持続的な発展に向けた取組 - maff.go.jp第1節 農業の構造改革の推進 (1)農業構造の変化 (農地流動化は着実に進展) 農業の持続的な発展を図るためには、地域の実情に応じて意欲ある担い手に農地を集積することによ

(7)そば

(作付面積は増加傾向)

そばは、北海道を中心に畑作物として作付けされるほか、水田における転作作物として、近年、作付面積は増加傾向で推移しています(図3-5-44)。特に、平成23(2011)年に戸別所得補償制度が本格実施されたことに伴い、平成23(2011)年産は前年産に比べて8,700ha(18%)増加し5万6千ha、平成24(2012)年産は前年産に比べて4,600ha(8%)増加し6万1千haとなっています。また、平成24(2012)年産の収穫量は、作付面積の増加に加え、天候に恵まれ生育が良好であったことから単収が大幅に増加し、4万5千tと前年産に比べて1万3千t(39%)増加しています。

(作付け拡大に向け、単収の向上・安定が課題)

そばは、播種後3か月程度で収穫できるため、畑作地帯では、麦、豆類、ばれいしょ等、水田地帯では、水稲、麦、大豆等との輪作体系等、地域条件に応じた作付体系に組み入れやすい作物です。このため、麦の後作(二毛作)等の農地の高度利用を推進することで、作付拡大が見込まれます(図3-5-45)。一方、そばは湿害に弱いため、単収は年次変動が大きくなっています(図3-5-46)。また、地域によってばらつきがあり、畑地での作付割合が高い北海道は単収が全国に比べて高く、水田への作付割合が高い東北地域等は低い状況にあります。実需者からは、安定的な生産が求められていることから、水田の団地的な利用、排水対策の徹底、多収性や難脱粒性等の機械化収穫適性を備えた品種の開発・普及が進められています。品種については、北海道において「レラノカオリ」、九州において「春のいぶき」の普及が進められています。

図3-5-44 そばの収穫量及び地域別作付面積の推移

5.5 3.6 2.9 2.2 2.6 3.0 3.0

4.2 4.5 5.3 7.4 8.1 9.4 10.32.3 4.7 4.4 5.3 6.3 6.54.6 7.2

9.5 12.013.0

14.9 15.9

4.5 4.99.1

14.815.4

19.321.7

24.2 25.9

34.4

43.547.7

56.461.0

0

0

10

20

30

40

50

60

70

昭和55年産(1980)

平成元(1989)

10(1998)

16(2004)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

千ha

北海道

四国

九州

中国

関東・東山北陸

東北

16 21 18 20 30 32

45

20

40

60千t

資料:農林水産省「作物統計」注:平成16(2004)年の収穫量は主産県計。

(作付面積)

(収穫量)

図3-5-46 そばの単収(北海道、東北)の推移

95

0

20

40

60

80

100

平成14年産

(2002)

16(2004)

18(2006)

20(2008)

22(2010)

24(2012)

kg/10a

654949

7758 62

7352

87

69 72

91

4350 49

40 4551

北海道

全国

東北

資料:農林水産省「作物統計」注:1)平成21(2009)年産までは主産県調査。

2)東北については、平成14(2002)年産から平成16(2004)年産は東北6県、平成19(2007)年産から平成21(2009)年産は青森県、秋田県、山形県、福島県の作付面積合計と生産量合計から算出。

図3-5-45 そばの作付けによる水田の高度利用のイメージ

(東北地方(麦の後作そば))

<現状>

<高度利用>

<現状>

<高度利用>

2年目1年目 3年目

水稲水稲 水稲水稲 そばそば小麦小麦

水稲水稲 水稲水稲 小麦小麦

(関東以西の早期水稲地帯(水稲の後作そば)1年目 2年目 3年目

大豆大豆

大豆大豆そばそば水稲水稲 小麦小麦

水稲水稲

水稲水稲

資料:農林水産省作成

水稲水稲 小麦小麦

212

第5節 主要農畜産物の生産等の動向