ねじ部品の機械的性質 - Nikkan...8.8 9.8 10.9 12.9 d<16 d>16 引張強さRm [MPa]...
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第1章ねじ部品の機械的性質
ねじ締結体を安全に使用するには、適正な強度
設計と確実な締結作業、十分なメンテナンスが必
要です。
適正な強度設計を行うためには、まずねじ部品
単体の強度を知らなければなりません。ねじ部品
は、もっとも汎用性の高い機械要素です。したが
って、その寸法や強度は規格に細かく規定されて
います。本章では、JIS 規格に規定されているね
じ部品の強度について説明します。
くびれ
ひずみε0
真応力
断面積A標点距離ι
応力σ
σB
σyσw
σw≒ 2σB
σ= AP
ε= ιιΔ
P
P
σB:引張強度σy:降伏応力σw:疲労強度
応力-ひずみ線図
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第 1 章 ねじ部品の機械的性質
ねじやボルトは、一般に単体で使用されず、図 1-1や図 1-2に示すように、
締結される部材(以下、被締結物)を挟んだ状態で、めねじに締結するか、ナ
ットで締結して使用されます。このように、ねじやボルトおよびナットで締結
されたものを、一般に“ねじ締結体”と呼びます。またボルトとナットで締結
されたものを、“ボルト・ナット締結体”と呼んだりもします。最近では、“ボ
ルト締結体”と呼ばれることも多いようです。本書では、“ねじ締結体”もしく
は“ボルト・ナット締結体”と呼ぶこととします。
図 1-1 や図 1-2 のように、ねじやボルトは締付けて用いられます。ここで
“締付け”とは、スパナやドライバーなどで、ねじやボルトを締付ける作業で
す。より正確な締付けを行う場合は、トルクレンチなどを用いて、締付けトル
クを管理して締付け作業が行われます。しかし、いかに正確な締付けトルクで
締付けたとしても、信頼性を十分に確保できた!と思うのは危険です。なぜな
ら、ねじ締結体にとって重要なのは、締付けトルク Tではなく、ねじやボルト
で被締結物を締付ける“締付け力 F”だからです。ここで締付け力は、図 1-1
や図 1-2 に示すように、ボルトに引張り力として、被締結物に圧縮力として、
同じ大きさの力が作用します。締付け力は、ボルトに作用する力として“締付
け軸力”や単に“軸力”もしくは“予張力”と呼ばれたりしますが、本書では
主に“締付け力”を用い、状況に応じて“軸力”という言葉を用います。
さて、この締付け力をしっかりと管理されたねじ締結体は、ゆるみや疲労破
壊に対して信頼性が高く、ねじやボルトがもつ本来の強度を十分に発揮できま
す。しかし、締付け力が不十分な場合には、ねじ締結体の信頼性は低下し、ね
じやボルトが持つ本来の強度を生かすことができません。したがって、いかに
高強度のねじを使用したところで、締付け作業を適確に行わなければ、ねじ締
結体の信頼性は向上しないということです。
ねじ締結体とは
1-1 中 難易
9
本章では、まずボルトなどのねじ部品単体の強度について、JIS に規定され
ている強度区分と機械的性質を紹介します。締付け理論や締付け法に関しては、
第 2章および第 3章で説明します。
ボルト頭部 締付けトルク:T座面
被締結物
おねじ
めねじ
F
FF
締付け力:F
図 1-1 ねじ締結体
締付け力:F
ボルト
被締結物被締結物
ナット
F F
F F
図 1-2 ボルト ・ナット締結体
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第 1 章 ねじ部品の機械的性質
ねじ締結体に用いられる鋼製ボルトやステンレス鋼製ボルト、非鉄金属製ボ
ルトの機械的性質は、JIS B 1051(1)、JIS B 1054(2)、JIS B 1057(3)に規定されて
います。ここでは、まず鋼製ボルトの強度区分と機械的性質について説明しま
す。
表 1-1に、JIS B 1051 に規定されている鋼製ボルトの強度区分と、各強度区
分におけるボルトの引張強さ Rm、0.2%耐力 Rp0.2 もしくは下降伏点 Rel、保障
荷重応力 Sp を示しています。JIS B 1051 には、試験方法をはじめ、その他の機
械的性質が規定されています。まずボルトの強度区分の表記について説明しま
す。たとえば、表 1-1 におけるボルトの強度区分“12.9”では、“12.9”におけ
る小数点より左側の数値が、引張強さの 1/100 倍を表し、小数点とその右側の
数値が、引張強さ Rm に対する 0.2%耐力もしくは下降伏点の割合を示します。
すなわち強度区分 12.9 のボルトであれば、「12」の 100 倍の 1200 MPa が引張
強さ Rm となり、1200 MPa の 9 割の 1080 MPa が呼びの 0.2%耐力 Rp0.2 となり
表 1-1 鋼製ボルト・小ねじの機械的性質(JIS B 1051(1)から抜粋)
機械的性質強 度 区 分
3.6 4.6 4.8 5.6 5.8 6.88.8
9.8 10.9 12.9d<16 d>16
引張強さ Rm[MPa]
呼び 300 400 500 600 800 900 1000 1200最小 330 400 420 500 520 600 800 830 900 1040 1220
下降伏点Rel または0.2%耐力Rp0.2[MPa]
呼び 180 240 320 300 400 480 640 720 900 1080
最小 190 240 340 300 420 480 640 660 720 940 1100
保証荷重応力 Sp[MPa] 180 225 310 280 380 440 580 600 650 830 970
鋼製ボルトの強度区分と機械的性質
1-2 中 難易
11
ます。ボルトの強度区分は、図 1-3に示すように、ボルト頭部の上面と側面に
記載されているので、ボルトを見ただけでその強度を把握することができます。
ここで、引張強さや 0.2%耐力もしくは下降伏点は、ボルトの引張試験によ
って評価されます。引張試験には、図 1-4(a)に示した「削出試験片」による
引張試験と、図 1-4(b)に示した「製品状態」で行う引張試験があり、0.2%
耐力や下降伏点は、削出試験片による引張試験で求められます。なお、削出試
験片は、実物のボルトから削り出して製作されます。
12.9
12.9
12.9
12.9
(a) 六角ボルト
(b) 六角穴付きボルト図 1-3 ボルトの強度区分の表示例(1)
S0
L0LCLt
r r
d 0
b
d
(b) 製品状態(実物)
(a) 削出試験片(平滑試験片)図 1-4 ボルト ・ナット締結体の荷重-伸び線図(1)
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第 1 章 ねじ部品の機械的性質
ここで詳細な説明は省略しますが、製品状態で行う引張試験における引張強
さの算出や、ねじ部の応力の算出の際に用いられるボルトの断面積は、ボルト
の谷の断面積でなく、式(1.1)で表されるボルトの有効断面積 Asが用いられ
ます。
Ad d
4 2s2 3
2
=+r
e o (1.1)
式(1.1)における d2 はねじの有効径であり、d3 はねじの谷の径です。
ボルトの材質は、低強度区分のボルトには炭素鋼が用いられ、高強度ボルト
には炭素鋼や SCM435 などの合金鋼の焼入焼戻材が用いられます。また表 1-1
のように、引張強さ Rm と 0.2%耐力 Rp0.2、下降伏点 Rel には、それぞれ「呼
び」と「最小」が記載されています。「呼び」とは、強度区分記号の構成上、便
宜的に設けられたものであり、おねじ部品に適用する引張強さおよび耐力の最
小値は、それらの呼びの値と同じか、それよりも大きくなっています。
表 1-1 の保証荷重応力は、製品状態のボルトを用いた保障荷重試験で評価さ
れます。保障荷重試験は、規定の保証荷重をボルトに負荷し、ボルトに永久伸
びが生じたかどうかで判定されます。保障荷重は、降伏点の 90%前後に設定さ
れており、保証荷重試験は、締付け長さ内に 6ピッチ程度の完全ねじ部が含ま
れるように、おねじ部品をナットまたは治具にはめ合せて行われます(4)。
上記のねじ部品の機械的性質は、ねじ部品単体の静的な強度について規定さ
れたものです。一方、ねじ締結体の強度は、ねじ部品単体の強度ばかりでなく、
締結後のねじ締結体としての強度で考えなければなりません。すなわち、ねじ
を締結した後、ねじ締結体に外力が作用しない場合は、締結時にねじが降伏し
ないように、また被締結物で陥没を起こさないように設計をすれば問題ありま
せん。しかし、締結後のねじ締結体に外力が作用する場合には、ねじ部品単体
にどの程度の力が追加されるのかを知らなければなりません。
図 1-5に、一般的に示される軟鋼の応力-ひずみ線図を示しています。図 1-4
に示したボルトの削出試験片の引張試験でも、強度区分によっての差異はあり
ますが、同様の応力-ひずみ線図を得ることができます。静的な荷重のみを受け
る場合のねじ締結体の設計は、ねじ部品の引張強さや降伏点を基準として行わ
れます。しかし、繰返し荷重のような動的な荷重を、ねじ締結体が受ける場合