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課題研究 P3 理論ゼミ
第 5章 原子核の幾何的な形
加須屋春樹
2016年 5月 10日
原子核はどのくらいの大きさか、どのような形をしているのか。
このようなことを知るには例えば陽子や α粒子を原子核にぶつけて散乱を測定すればいい。しかしそのような実験
から詳細な情報を得るのは難しい。その理由は第 1に陽子や α粒子はそれ自身拡がりを持っているため散乱断面積は
標的だけでなく入射粒子の構造をも反映してしまう、第 2に標的との間には電磁的な相互作用だけでなく核力が働く
ためその相互作用は複雑であるから。
小さな物体を研究するには電子散乱が適している。なぜなら電子は内部構造を持たない点状の粒子と考えられてお
り、原子核と電子の間の相互作用はよくわかっている電磁相互作用によって起こるものであるから。また電磁相互作
用の結合定数 αは 1よりずっと小さいので高次の補正はわずかしか効かない。
5.1 電子散乱の運動学
電子の静止質量は小さい (mec2 ≃ 0.511[MeV])ので、散乱実験における運動は相対論的に扱う必要がある。古典
力学では標的が入射粒子に比べてずっと重い場合、散乱の前後で入射粒子のエネルギーは変化しないとしてよい。相
対論でもこのようなことは言えるだろうか。
4元運動量 pの電子が 4元運動量 P の原子核によって弾性散乱される場合を考える。我々が知っているのは 4元運
動量の保存:p+ P = p′ + P ′ (1)
とローレンツ不変の式:
p2 = p′2 = m2ec
2 (2)
P 2 = P ′2 =M2c2 (3)
である。
さて、目標は散乱前後の電子のエネルギーの間の関係をみつけることである。まず (1)を自乗して
p2 + 2pP + P 2 = p′2 + 2p′P ′ + P ′2 (4)
(2),(3)を用いればp · P = p′ · P ′ (5)
となる。たいていの場合、反跳を受けた粒子は測定されず、散乱された電子のみが測定される。そこで (1)より P ′ を
消去してp · P = p′ · (p+ P − p′) = p′p+ p′P −m2
ec2 (6)
を得る。実験室系で標的は衝突前には静止しているとして、4元運動量はそれぞれ次のようになる。
p = (E/c,p), p′ = (E′/c,p′), P = (Mc,0), P ′ = (E′P /c,P
′). (7)
これらを用いて (6)からEMc2 = E′E − |p||p′| cos θ c2 + E′Mc2 −m2
ec4 (8)
1
が得られる。ここで p と p′ の成す角 (散乱角) を θ とした。ここまでは厳密な計算。ここで m2ec
4 を無視し、
E ≈ |p|c, E′ ≈ |p′|c として計算してもよいが、折角なのでこのまま厳密に計算を進める。e ≡ E/Mc2, e′ ≡E′/Mc2, s ≡ me/M と無次元化して
e = e′e−√e2 − s2
√e′2 − s2 cos θ + e′ − s2
∴ (e+ 1)2 − (e2 − s2) cos2 θe′2 − 2(e+ 1)(e+ s2)e′ + (e+ s2)2 + (e2 − s2)s2 cos2 θ = 0 (9)
よって
e′ =(e+ 1)(e+ s2)±
√(e+ 1)2(e+ s2)2 − (e+ 1)2 − (e2 − s2) cos2 θ(e+ s2)2 + (e2 − s2)s2 cos2 θ
(e+ 1)2 − (e2 − s2) cos2 θ(10)
となる。ただし複合は 0 ≤ θ ≤ π/2のとき +,π/2 ≤ θ ≤ π のとき −をとる。s = 0とすると簡単になって
e′ =e
1 + e(1− cos θ)(11)
∴ E′ =E
1 + E/Mc2 · (1− cos θ)(12)
このように弾性散乱では散乱された電子の散乱角 θ とエネルギー E′ の間には 1対 1の関係が成り立つ。なお、電子
と原子核の散乱では標的が陽子 1個であっても s ≈ 1/1800であるから (10)と (11)はほぼ等しい結果を与える。
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
E'/E
θ[°]
E=1MeV A=50E=500MeV A=50E=10GeV A=50E=1MeV A=1E=500MeV A=1E=10GeV A=1
図 1: E′/E の角度依存性
図から分かるように、古典論の場合と異なり、me ≪ M であっても E′ と E が大きく異なることがありうる。す
なわち相対論では、入射粒子の静止質量を含む全エネルギーと比べて標的粒子の全エネルギーがずっと大きい場合に
E ≈ E′ となる。相対論ではエネルギーと質量は等価であり、この結果はもっともである。
5.2 ラザフォードの散乱断面積
電子と原子核の散乱における断面積は相対論的量子力学によって正確に記述される。しかしまずは非相対論的に、
スピンの効果を無視し、散乱中心の空間的な拡がりも無視して考えよう。この場合に電荷 Zeの標的による電荷 ze運
動エネルギー Ekin の粒子の散乱の微分断面積を与える式はラザフォードの散乱公式として知られる。(dσ
dΩ
)Rutherford
=(zZe2)2
(4πε0)2(4Ekin)2 sin4 θ
2
(13)
2
この式は古典的な計算によって得られたものであるが、非相対論的量子力学での計算によってもまったく同じ式を
得る。そのためラザフォードの散乱公式 (13)は実に様々な導出が可能であり、今回は古典力学から 2種類、非相対論
的量子力学から 2種類の導出を紹介する。
古典力学による導出その 1 ∼オイラー・ラグランジュ方程式を解く ∼
ポテンシャル U(r) = a/r の中を質量mの粒子が運動する。この系のラグランジアンは極座標で
L =1
2m(r2 + r2θ2)− U(r) (14)
と書ける。従ってオイラー・ラグランジュ方程式は
d
dt(mr) = mrθ2 +
dU
dr(15)
d
dt(mr2θ) = 0 (16)
第 2式からmr2θ = const. = L。第 1式から
E = const. =1
2m(r2 + r2θ2) + U(r)
=1
2mr2 +
L2
2mr2+ U(r) (17)
ゆえに
dr
dt=
√2
m(E −W (r)) W (r) =
L2
2mr2+ U(r)
∴ dθ
dr=dθ
dt
dt
dr=
L√2m
1
r2√E −W (r)
(18)
θφ
rminb
散乱角を ϕとして図より
π − ϕ =2L√2m
∫ ∞
rmin
1
r2√E −W (r)
(19)
ただし rmin は E −W (r) = 0の根。W (r)の具体形を代
入し b = L/√2mE, s = b/r, c = a/Ebとすると
ϕ = π − 2
∫ b/rmin
0
ds√1− cs− s2
= π − 2
cos−1 s+ c2√
1 + c2
4
b/rmin
0
= π − 2 cos−1 c/2√1 + c2
4
∴ cos
(π
2− ϕ
2
)= sin
ϕ
2=
c/2√1 + c2
4
∴ tanϕ
2=c
2=
a
2Eb
∴ b =a
2E
1
tanϕ/2(20)
bは衝突パラメータであり、bを用いて断面積を表せば
dσ = 2πb|db| = 2πb
∣∣∣∣ dbdϕ∣∣∣∣ dϕdΩdΩ
∴ dσ
dΩ=
b
sinϕ
∣∣∣∣ dbdϕ∣∣∣∣
=( a
4E
)2 1
sin4 ϕ/2(21)
3
古典力学による導出その 2 ∼ 運動量移行を用いて ∼
θφ
Fz
b
z
θ0
入射粒子の運動量を p、散乱粒子の運動量を p′ とする。
標的が十分重く |p| = |p′|が成り立つとして
運動量移行 q = p− p′
|q| = 2|p| sin ϕ2
ϕ : 散乱角 (22)
運動量の変化は力積に等しく
|q| =∫ ∞
−∞Fzdt =
∫ θ0
−θ0
a
r2cos θ
dt
dθdθ
角運動量 L = mr2dθ
dt= |p|bより
|q| =∫ θ0
−θ0
a
r2cos θ
mr2
|p|bdθ
= 2ma
|p|bsin θ0 = 2
ma
|p|bcos
ϕ
2(ϕ = π − 2θ0) (23)
よって
2|p| sin ϕ2= 2
ma
|p|bcos
ϕ
2
∴ b =a
2E
1
tanϕ/2(24)
あとはその 1と同様。
非相対論的量子力学による導出その 1 ∼シュレディンガー方程式を解く ∼
略 (猪木・川合等参照)
拡がった電荷分布による散乱
(非相対論的量子力学による導出その 2 ∼フェルミの黄金律を用いて ∼)
ここではフェルミの黄金律を用いて非相対論量子力学によって計算する。この方法が他より優れているところは中
心の電荷が空間的に拡がっている場合も同じ取り扱いができる点にある。そこでそのような場合も同時に扱うことに
する。
入射粒子の (静止質量含む)エネルギーと比べて標的の静止質量が大きく、反跳が無視できる場合について考える。
その場合には 3元運動量によって計算できる。Zeが小さければ、すなわち
Zα≪ 1 (25)
ならば、すなわち電磁相互作用が小さければ、ボルン近似を使い、入射電子および散乱後の電子の波動関数 ψi と ψf
を平面波で記述することができる:
ψi =1√Veip·x/ℏ, ψf =
1√Veip
′·x/ℏ (26)
規格化 ∫V
|ψi|2dV = naV ここで V =Na
na(27)
第 4章より黄金律を用いて、微分断面積は (4.19)より
dσ
dΩ=V
va
2π
ℏ| ⟨ψf |Hint|ψi⟩ |2
d2n
dE′Ω(28)
4
状態密度は (4.16)より
d2n =V |p′|2d|p′|dΩ
(2πℏ)2=
1
(2πℏ)2
(E′
c
)2dE′
cdΩ (29)
ここで |p′| ≈ E′/cを用いた。va ≈ cとなるので、以上より
dσ
dΩ=
V 2E′2
(2π)2(ℏc)4| ⟨ψf |Hint|ψi⟩ |2 (30)
を得る。
次に遷移行列要素 ⟨ψf |Hint|ψi⟩を求める。電気的ポテンシャル ϕ中での電荷 eの相互作用演算子は Hint = eϕだ
から
⟨ψf |Hint|ψi⟩ =e
V
∫e−ip′·x/ℏϕ(x)eip·x/ℏd3x (31)
運動量移行 q = p− p′ として
=e
V
∫ϕ(x)eiq·x/ℏd3x (32)
eiq·x/ℏ = −ℏ2/|q|2 eiq·x/ℏ
= − eℏ2
V |q|2
∫ϕ(x) eiq·x/ℏd3x (33)
グリーンの定理 :∫(u u− v u)d3x = 0 for ∀u, v s.t.
∫(u∇v − v∇u) · ndS = 0
= − eℏ2
V |q|2
∫ϕ(x) eiq·x/ℏd3x (34)
Poisson方程式 : ϕ(x) = −ρ(x)/ε0 (電荷密度 : ρ(x))
=eℏ2
ε0V |q|2
∫ρ(x) eiq·x/ℏd3x (35)
電荷分布関数 f(x) : ρ(x) = Zef(x) 規格化条件 :∫f(x)d3x = 1
=Z · 4παℏ3c
|q|2V
∫f(x)eiq·x/ℏd3x (36)
F (q) =∫f(x)eiq·x/ℏd3xを形状因子 (form factor)と呼ぶ。F (q)は f(x)をフーリエ変換した形になっている (詳
しくは後述)。
以上より散乱の微分断面積はdσ
dΩ=
4Z2α2(ℏc)2E′2
|qc|2|F (q)|2 (37)
となる。
ラザフォード散乱では標的の空間的な拡がりは無視するため f(x) = δ(x) i.e. F (q) = 1として(dσ
dΩ
)Rutherford
=4Z2α2(ℏc)2E′2
|qc|2(38)
仮定により反跳を無視し、電子のエネルギーと運動量の絶対値
は相互作用の前後で変化しないとすると図より
|q| = 2|p| sin θ2
(39)
であり、E = γmc2, |p| = βγmcを用いて(dσ
dΩ
)Rutherford
=Z2α2(ℏc)2
4(β2γmc2)2 sin4 θ2
(40)
を得る。
β → 1 β2γmc2 ≃ γmc2 = E (41)
β → 0 β2γmc2 ≃ β2mc2 = mv2 = 2Ekin (42)
5
であるから、相対論的には (dσ
dΩ
)Rutherford
=Z2α2(ℏc)2
4E2 sin4 θ2
(43)
非相対論的には (dσ
dΩ
)Rutherford
=Z2α2(ℏc)2
(4Ekin)2 sin4 θ
2
(44)
となり、(44)は (入射粒子の電荷 e→ zeとして)古典的な計算によって得られた (13)に一致する。
場の理論による考察
いままでの議論を場の理論から眺めてみる。場の理論の言葉では電磁相互作
用は光子の交換によって起こる。光子は、それ自身は電荷を持っておらず、相
互作用をしている双方の電荷に結合する。その結果、遷移行列要素に Ze · e、断面積に (Ze2)2 の寄与をする。3元運動量移行 q は交換された光子が持ち運
ぶ運動量であるから、光子の換算ド・ブロイ波長は
λ– =ℏ|q|
=ℏ|p|
1
2 sin θ2
(45)
となる。もし λ–が標的の空間的な拡がりよりもずっと大きければ内部構造は分解されず、標的粒子は点状なものとみ
なされる。λ–が大きくなるのは運動量 |p|が小さい場合と散乱角 θ が小さい場合であり、したがって標的の内部構造
を知るには高エネルギーで |p|を大きくすればよいこと、小さい角度の散乱には内部構造の影響が少ないことがわかる。しかし後述するように非常に小さな |q|からわかる情報もある。光子は質量を持っていないので、行列要素のなかの伝播関数は 1/Q2、非相対論的近似では 1/|q|2 である。この伝
播関数は断面積の中に自乗で入ってくるので、電磁相互作用においては、断面積は 1/|q|4 で特徴的に急激に減少する。
5.3 モットの散乱断面積
ここまでスピンを無視してきたが、相対論的なエネルギーではラザフォードの散乱断面積はスピンの効果のため変
更を受ける。モットの散乱断面積は電子散乱を電子スピンによる効果を考慮に入れて記述するもので、相対論的量子
力学から (dσ
dΩ
)∗
Mott
=
(dσ
dΩ
)Rutherford
·(1− β2 sin2
θ
2
)(46)
と導出される。*は標的粒子の反跳が無視されていることを示す (反跳が無視できない場合は第 6 章で)。(40) を用
いて (dσ
dΩ
)∗
Mott
=Z2α2(ℏc)2
4(β2γmc2)2 sin4 θ2
(1− β2 sin2
θ
2
)(47)
と書ける。相対論的なエネルギーでのモットの散乱断面積は、散乱角が大きくなるにつれラザフォードの散乱断面積
よりもずっと速く減少することがわかる。β → 1の極限では(dσ
dΩ
)∗
Mott
=Z2α2(ℏc)2
4E2 sin4 θ2
cos2θ
2(48)
と書ける。これは θ = 180 で 0になる。
この意味を考えよう。β → 1 の極限では、スピン s の運動方向 p/|p| への射影は保存量である。この量をヘリシティ (helicity)と呼び
h =s · p|s||p|
(49)
と定義される。スピンが進行方向を向いている粒子はヘリシティ +1を持っており、スピンがその反対方向を向いて
いる粒子はヘリシティ −1を持っている。
6
180 方向への散乱の場合、運動量は散乱の前後で 180 向き
を変えるため、ヘリシティの保存のためにはスピンもその射影
の向きを変えなければならない (スピンフリップ)。しかし、全
角運動量は保存されるため、標的のスピンがゼロの場合、これは
不可能である。散乱の際の軌道角運動量は運動の方向に垂直な
ので、角運動量の運動の方向の成分を変えないから。したがっ
て β → 1の極限では 180 散乱は完全に抑制される。
標的がスピンを持つ場合は、標的のスピンが変化することで
角運動量が保たれうるため、180 散乱は可能となる。
5.4 原子核の形状因子
運動量移行 |q|が大きくななると仮想光子の換算波長が小さくなり空間分解能が上がる。すなわち原子核のカタチが見える。
原子核の空間的な拡がりは形状因子 F (q)により記述される。以下では球対称な系の形状因子に話を限り、F (q2)
と書く。
実験では、形状因子の絶対値はモットの散乱断面積と実験で得られた断面積の比として決定される:(dσ
dΩ
)実験
=
(dσ
dΩ
)∗
Mott
· |F (q2)|2 (50)
図は形状因子を測る典型的な装置。電子ビームは線形加速器により供給され、薄い標的にぶつけられる。散乱され
た粒子は磁気スペクトロメータによって測定される。様々な角度 θ で測定できるように標的のまわりで装置を回転さ
せることができる。
前述の通り、反跳が無視でき、ボルン近似が使えるという条件の下では、形状因子 F (q)は電荷分布 f(x)をフーリ
エ変換した形になっている:
F (q) =
∫f(x)eiq·x/ℏd3x (51)
球対称な場合は f(x) = f(|x|) = f(r)であり
F (q2) =
∫f(r)ei|q|r cos θ/ℏr2dϕd(cos θ)dr
= 2π
∫f(r)r2
ℏi|q|r
[ei|q|r cos θ/ℏ
]1−1dr
= 4π
∫ ∞
0
f(r)r2sin |q|r/ℏ|q|r/ℏ
dr (52)
7
規格化
1 =
∫f(x)d3x =
∫f(r)r2dϕd(cos θ)dr = 4π
∫ ∞
0
f(r)r2dr (53)
原理的には、実験によって決定された形状因子の q2 依存性から逆フーリエ変換により動径方向の電荷分布 f(r)が得
られる:
f(r) =1
(2π)3
∫F (q2)e−iq·x/ℏd3q (54)
しかし実際には、f(r)としていくつかのパラメータをもつモデルを考え、それを用いて F (q2)を計算し、測定データ
とよく一致するようにパラメータを動かすということを行う。
10-15
10-10
10-5
100
105
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
dσ/d
Ω[b
/sr]
θ[°]
RutherfordMott
Experiment
図 2: 電子散乱による微分断面積 (12Cに E = 420MeVで電子を入射した場合のシミュレーション。電荷分布は一様
球を仮定。)
電荷分布から形状因子の計算
• 点状 f(x) = δ(x)
F (q2) =
∫δ(x)eiq·x/ℏd3x = 1 定数 (55)
例)電子
8
ρ(r)
r
図 3: ρ(r)
|F(q2 )|
|q|
図 4: |F (q2)|
• 指数関数型 f(r) =a3
8πexp(−ar) (a > 0)
F (q2) = 4π
∫ ∞
0
a3
8πexp(−ar)r2 sin |q|r/ℏ
|q|r/ℏdr
=a2
2
ℏ|q|
Im
[∫ ∞
0
r exp[(i|q|/ℏ− a)r]dr
]∫ ∞
0
r exp[(i|q|/ℏ− a)r]dr =
[r
1
i|q|/ℏ− aexp[(i|q|/ℏ− a)r]
]∞0
−∫ ∞
0
1
i|q|/ℏ− aexp[(i|q|/ℏ− a)r]dr
= − 1
(i|q|/ℏ− a)2[exp[(i|q|/ℏ− a)r]]
∞0
=1
(i|q|/ℏ− a)2
=1
(a2 + (|q|/ℏ)2)2a2 − (|q|/ℏ)2 + 2ia|q|/ℏ
∴ F (q2) =a2
2
ℏ|q|
2a|q|/ℏ(a2 + (|q|/ℏ)2)2
=1
(1 + |q|2/a2ℏ2)2双極子型 (56)
ρ(r)
r
図 5: ρ(r)
|F(q2 )|
|q|
図 6: |F (q2)|
例)陽子
9
• ガウス型 f(r) =
(a2
2π
) 32
exp
(−a
2r2
2
)
F (q2) = 4π
∫ ∞
0
(a2
2π
) 32
exp
(−a
2r2
2
)r2
sin |q|r/ℏ|q|r/ℏ
dr
= 4π
(a2
2π
) 32 ℏ|q|
∫ ∞
0
r exp
(−a
2r2
2
)sin(|q|r/ℏ)dr
∫ ∞
0
r exp
(−a
2r2
2
)sin(|q|r/ℏ)dr =
[1
−a2e−
a2r2
2 sin(|q|r/ℏ)]∞0
−∫ ∞
0
1
−a2e−
a2r2
2|q|ℏ
cos(|q|r/ℏ)dr
=1
a2|q|ℏ
1
2
∫ ∞
−∞exp
(−a
2
2r2 + i
|q|rℏ
)︸ ︷︷ ︸− a2
2 (r−i|q|a2ℏ )
2− |q|2
2a2ℏ2
dr
=1
2a2|q|ℏ
√2π
aexp
(− |q|2
2a2ℏ2
)
∴ F (q2) = 4π
(a2
2π
) 32 ℏ|q|
1
2a2|q|ℏ
√2π
aexp
(− |q|2
2a2ℏ2
)= exp
(− |q|2
2a2ℏ2
)ガウス型 (57)
ρ(r)
r
図 7: ρ(r)
|F(q2 )|
|q|
図 8: |F (q2)|
例)6Li
• 一様球 f(r) =
3/4πR3 (r ≤ R)
0 (r > R)
F (q2) = 4π
∫ ∞
0
f(r)r2sin |q|r/ℏ|q|r/ℏ
dr
=3
R3
ℏ|q|
∫ R
0
r sin(|q|r/ℏ)dr
∫ R
0
r sin(|q|r/ℏ)dr =[r
(− ℏ|q|
cos(|q|r/ℏ))]R
0
+
∫ R
0
ℏ|q|
cos(|q|r/ℏ)dr
= −R ℏ|q|
cos(|q|R/ℏ) +(
ℏ|q|
)2
[sin(|q|r/ℏ)]R0
= −R ℏ|q|
cos(|q|R/ℏ) +(
ℏ|q|
)2
sin(|q|R/ℏ)
10
∴ F (q2) =3
R3
(ℏ|q|
)3 (sin(|q|R/ℏ)− |q|R
ℏcos(|q|R/ℏ)
)= 3α−3(sinα− α cosα) 振動する (58)
ただしα = |q|R/ℏρ(r)
r
図 9: ρ(r)
|F(q2 )|
|q|
図 10: |F (q2)|
sinx− x cosxのゼロ点をニュートン法を用いて計算すると
x0 = 4.49, 7.75, 10.9, · · · (59)
となった。一様球のモデルを図の測定データに適用すると、
R = 4.49× ℏ|q|
≃ 4.49× ℏc2E sin θ
2
≃ 4.49× 200 [MeV · fm]
2× 420 [MeV]× sin 51
2
≃ 2.5 fm (60)
となる。
-15
-10
-5
0
5
10
15
0 2 4 6 8 10 12 14
sin(x)-x*cos(x)
図 11: sinx− x cosxのグラフ
11
• フェルミ関数 ρ(r) =ρ(0)
1 + e(r−c)/a(規格化 4π
∫ρ(r)r2dr = Z)
∫1
1 + e(r−c)/aeiq·x/ℏd3x = 4π
∫ ∞
0
1
1 + e(r−c)/ar2
sin |q|r/ℏ|q|r/ℏ
dr
= 4πℏ|q|
∫ ∞
0
f(r)g(r)dr (61)
ここで f(r) = 1/(1+ e(r−c)/a), g(r) = r sin(|q|r/ℏ)とした。aが小さいときゾンマーフェルト展開が使える。
ゾンマーフェルト展開 [1] 滑らかな任意の関数 g(ϵ)とフェルミ分布関数 f(ϵ) = 1/(1 + eβ(ϵ−µ))の積の積分を考える。このとき、温
度 T が十分低温であれば積分は次のように展開される。
I =
∫ ∞
0
dϵ g(ϵ)f(ϵ) ≃ G(µ) +π2
6(kBT )
2G′′(µ) (62)
ただし G(ϵ) =∫ ϵ
0dtg(t)は g(ϵ)の不定積分であり、G(ϵ)f(ϵ) → 0 (ϵ→ ∞)であるとする。
今 µ→ c, kBT → aであり、
G(r) =
∫ r
0
dr′g(r′) =
∫ r
0
dr′r′ sin(|q|r′/ℏ)
=
[r′(− ℏ|q|
)cos(|q|r′/ℏ)
]r0
+ℏ|q|
∫ r
0
dr′ cos(|q|r′/ℏ)
= − ℏ|q|r cos(|q|r/ℏ) +
(ℏ|q|
)2
sin(|q|r/ℏ) (63)
より∫1
1 + e(r−c)/aeiq·x/ℏd3x ≃ 4π
ℏ|q|
(G(c) +
π2
6a2G′′(c)
)= 4π
(ℏ|q|
)3 (sin(|q|c/ℏ)− |q|c
ℏcos(|q|c/ℏ)
)+ 4π
π2
6a2
ℏ|q|
(sin(|q|c/ℏ) + |q|c
ℏcos(|q|c/ℏ)
)= 4πc3α−3(sinα− α cosα) +
2π3
3a2cα−1(sinα+ α cosα) 振動する (64)
ただしα = |q|c/ℏ
ρ(r)
r
図 12: ρ(r)
|F(q2 )|
|q|
図 13: |F (q2)|
例)40Ca
12
たいへん軽い核を別にすれば、すべての原子核は振動する形状因子を持っている。すなわちある程度明確な縁が
ある。
図はカルシウム同位体 40Caと 48Caによる電子散乱の微分断
面積。以下の点でおもしろい。
• 断面積が |q| の広い範囲で測られており、107 ものオー
ダーで変化している。
• 極小値が 3 つ観測されており、精密な情報を得ることが
できる。
• 極小値の位置から 48Caの半径が 40Caの半径より大きい
ことがわかる
小さな |q|からわかること
原子核の半径に関する情報は形状因子の極小値の位置によっ
てばかりでなく、q2 → 0 での形状因子の振舞いによってもわ
かる。仮想光子の波長が原子核の拡がり R よりもずっと大きい
とき|q|Rℏ
≪ 1 (65)
であり、F (q2)は |q|のべきに展開できる:
F (q2) =
∫f(x)eiq·x/ℏd3x
=
∫f(x)
∞∑n=0
1
n!
(i|q||x| cos θ
ℏ
)n
d3x ここでθ = ∢(x, q)
=
∫ ∞
0
∫ +1
−1
∫ 2π
0
f(x)
∞∑n=0
1
n!
(i|q|r cos θ
ℏ
)n
r2dϕ d cos θdr
= 2π
∫ ∞
0
∫ +1
−1
f(r)∞∑
n=0
(−)n
(2n)!
(|q|rℏ
)2n
cos2nθ r2d cos θdr
= 2π
∫ ∞
0
f(r)
[ ∞∑n=0
(−)n
(2n)!
(|q|rℏ
)2ncos2nθ
2n+ 1
]+1
−1
r2dr
= 4π∞∑
n=0
(−)n
(2n+ 1)!
(|q|ℏ
)2n ∫ ∞
0
f(r)r2(n+1)dr (66)
電荷の平均自乗半径 (mean square radius)を
⟨r2⟩ =∫ ∞
0
r2f(x)d3x = 4π
∫ ∞
0
r4f(r)dr (67)
で定義すると、
F (q2) = 1− 1
6
q2⟨r2⟩ℏ2
+ · · · (68)
と書ける。したがって ⟨r2⟩を決めるには形状因子 F (q2)を q2 のたいへん小さな値まで測ることが必要である。
⟨r2⟩ = −6ℏ2dF (q2)
dq2
∣∣∣∣q2=0
(69)
が成り立つ。
原子核の電荷分布
多くの精密測定の結果以下のようなことがわかった
13
• 原子核の動径方向の電荷分布はよい近似で 2つのパラメータをもつフェルミ関数で記述される:
ρ(r) =ρ(0)
1 + e(r−c)/a(70)
• 定数 cは ρ(r)が半分まで減少した点の半径、aはぼやけの大きさを表すパラメータであり、大きな原子核では
経験的にc = 1.07 ·A1/3 fm, a = 0.54 fm (71)
である。
• 中ぐらいないし重い原子核では近似的に
⟨r2⟩ = r0 ·A1/3 ここで r0 = 0.94 fm (72)
が成り立つ。原子核を一様球 (f(r) = 3/4πR3 (r ≤ R), 0 (r > R))と近似すると
⟨r2⟩ = 4π
∫ ∞
0
r4f(r)dr =3
R3
∫ R
0
r4dr =3
5R2 (73)
であるから、定量的にはR = 1.21 ·A1/3 fm (74)
が成り立つ。半径のこの定義は質量公式 (2.8)でも使われた。
• 表面の厚さ tは電荷密度が最大値の 90% から 10% まで減少する領域の厚さとして定義される:
t = r(ρ/ρ0=0.1) − r(ρ/ρ0=0.9) (75)
ここで ρ/ρ0 = X のときの原子核の中心からの距離を r(ρ/ρ0=X) とした。
1
1 + e(r(ρ/ρ0=X)−c)/a= X
∴ r(ρ/ρ0=X) = a ln1−X
X+ c (76)
より、すべての重い原子核で tはほぼ同じで
t = a
(ln
0.9
0.1− ln
0.1
0.9
)= 2a ln 9 ≈ 2.40 fm (77)
である。
• 原子核の中心における電荷密度 ρ(0)は、質量数が大きくなるとわずかに減少するが、A/Z · ρ(0),すなわち中心における核子密度はほとんど全ての原子核で同じになる (飽和):
ρN ≈ 0.17核子/fm3 (78)
• いくつかの原子核は球状からずれて回転楕円体に変形している。その正確な形は電子の弾性散乱では決定できない。縁がぼやけているように見えるだけ。
• 6,7Li,9Be,特に 4Heといった軽い核では、原子核の内部で核子密度が一定にならず、電荷分布はむしろほぼガ
ウス型をしている。
14
5.5 非弾性散乱による原子核の励起
弾性散乱の場合は粒子は始状態と終状態で同一であり、標的は反跳を受けるだけで励起されない。入射エネルギー
と散乱後のエネルギーは 1対 1に対応する。
しかし実際の実験では標的が励起されることでより大きなエネルギー移行を伴った非弾性散乱も起こる。そのため
散乱された電子のスペクトルは、弾性散乱の大きなピークの横に、個々のエネルギーレベルへの励起を示すピークが
いくつか立つ。
参考文献
[1] 2015年度後期 統計力学 C講義資料
[2] ランダウ=リフシッツ 『力学』
[3] 倉澤治樹 原子核物理学講義ノート mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/C0000051459/nucleus.pdf
[4] 猪木・川合 『量子力学 II』
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[4]p454~p456より
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