肺保護換気+肺胞リクルートメント 臨床工学部渡邊...
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肺保護換気+肺胞リクルートメント
臨床工学部 渡邊拓也
2017年7月4日慈恵ICU勉強会
JAMA.2017;317(14):1422-1432.
はじめに
• 術後肺合併症は心臓外科術後によく見られ、しばしば術後の罹患率と死亡率を増加させる
Anesthesiology.2011;114(5):1102-1110.Anesthesiology.2015;123(3):692-713.
NEnglJMed.2013;369(5):428-437.Anesthesiology.2013;118(6):1307-1321.
• これまでの研究では、コントロール群で【high Vt +noPEEP】とし、介入群で 【lowVt +noPEEP】または【lowVt +PEEP】による比較検討をしている。
Objective低一回換気量による肺保護換気にIntensiveまたはModerateの肺胞リクルートメントを加えた場合、心臓外科術後患者の肺合併症を減少させることはできるか?
JAMA.2017;317(14):1422-1432.
Design :RandomizedClinicalTrial
Setting :SingleICUthe University of SãoPauloinBrazilDecember 2011-2014
Patients :心臓外科術後の低酸素血症患者
Methods :
Intensive recrutment群(低一回換気量+強度肺保護換気)
Moderate recrutment群(低一回換気量+中等度肺保護換気)
2群間を比較する
Inclusion criteria
・心臓外科手術患者(CABG、弁膜症手術、または両方、人工心肺のありなし含む)
・ICU入室時に低酸素血症であった症例
低酸素血症の定義PEEP≧5cmH2O設定で、P/F比<250mmHg
Exclusioncriteria• 18歳以下・ 80歳以上• 既存の肺疾患(既往もしくは術前に気道閉塞が示唆されている。1秒率<70%)
• 心臓外科手術の既往• 神経筋疾患の既往• 肺高血圧症(mean PAP≧ 35mmHg)• 左室駆出率(EF< 35%)• BMI20以下・ 40以上• 緊急手術症例• VADの使用• NAD2μg/kg/min以上の使用• ICU入室時に抵抗性の低血圧あるいは不整脈• ICU入室時に気胸、エアリーク• 他の研究に登録されている
Primary outcome• 病院滞在中の術後肺合併症肺合併症のスコアを用いて比較(病院滞在中毎日評価し、最も悪いスコアを記録)
Secondary outcome• ICU滞在期間• 病院滞在期間• 病院死亡率• Barotoraumaの発生
Grade 肺合併症スコア
0 ① 兆候なし
1 いずれか1つ
① 乾性咳嗽② 微小無気肺:異常な肺所見と37.5℃以上の発熱(他に起因する既往がない)③ 呼吸困難(他に起因する既往がない)
2 いずれか2つ
① 湿性咳嗽② 気管支狭窄音:新しいWheezeingまたは潜在的喘鳴③ 室内気で低酸素血症(SpO2≦90%)④ 無気肺:レントゲン異常所見(2人専門家の意見が一致)に加えて37.5℃以上の発熱があるか、異常肺診察所見がある
⑤ 介入を必要とする高炭酸ガス血症(PaCO2>50mmHg)
3 いずれか1つ
① 胸水による胸腔穿刺の施行② 肺炎:レントゲン異常所見(2人専門家の意見が一致)、加えて以下の2つを満たす臨床症状がある。(白血球増加または減少、発熱、可能性分泌物)、加えて病理学的陽性(グラム染色または培養)または抗生剤の必要な場合
③ 気胸④ NPPVの使用:下記のうち少なくとも一つを満たす場合使用する酸素投与でSpO2≦90%、5L/min以上の酸素投与、RR>30回/min
⑤ 抜管後48時間未満の再挿管
4 ① 換気不全:手術後の48時間以上の人工呼吸器管理、または再挿管後48時間以上の人工呼吸器管理
5 ① 退院前の死亡
その他の解析
• 術後5日間で24時間以上の酸素必要人数• ICU人工呼吸器使用時間• NIV使用した人数• 肺炎人数• 創部感染人数• 術後6時間の出血量>300ml• 病院滞在中の心血管合併症(septicshock、Af、再手術)
肺力学的パラメータ
• P-Vcurve(リクルートメント前と4時間後)• ABP・HR( 2回のリクルートメント前中と1、3、5分後)
• EIT:ElectricalImpedanceTomography( 2回のリクルートメント前中と1、3、5分後)
• 血液ガス(2回のベースラインとリクルートメント15分後)
Sample size
• Moderate strategy GroupでGrade≧3の肺合併症発生率を30%とする
• Intensive strategy Groupで15%に低下するとした
• αエラー 5% 検出力 90%
• サンプル数を320 各群160名となった
NEnglJMed.2013;369(5):428-437.JAMA.2006;296(15):1851-1857.
JAMA.2006;296(15):1851-1857.CritCareMed.2005;33(10):2253-2258.
解析方法
• ITT解析で行われた• 連続変数はカイ二乗検定が用いられた• 肺合併症のオッズ比推定に、マンホイットニーU検定と多変量ロジスティッック解析が用いられた
• 分類変数はフィッシャーの正確確率検定と尤度比検定が用いられた
• ICUと病院滞在期間はlogrank検定でカプランマイヤー曲線が用いられた
• 有意差はP値<0.05とした• SPSS Ver19を使用した
1
• ICU入室後にVCVによる人工呼吸器設定VCV、Vt 6ml/kg(予測体重)、FIO2:0.60、PEEP:5cmH2O
2
• ランダム化• 肺胞リクルートメント(Intensive13cmH2OとModerate8cmH2O)
3
• PV curve測定• 1回目のIntensiveとModerate リクルートメント
4
• 4時間後 PV curve測定• 2回目のIntensiveとModerate リクルートメント
5• ウィーニング PS:5 PEEP:Intensive13cmH2O Moderate8cmH2O
6
• 抜管後、以下のいずれかを満たせばNPPVを使用する酸素投与でSpO2≦90% 5L/min以上の酸素投与 RR>30回/min
Study Protocol
• ICUに入室した心外術後患者• 基本的人工呼吸器設定 VCVVt 6ml/kg(予測体重)、FIO2:0.60、PEEP:5cmH2O
• 研究登録後 コンピュータにより1:1でランダム化割付(web-basedprogramにより)
• フェンタニルまたはミダゾラムのボーラス投与で鎮静した
• PVcurve測定時は一時的にシスアトラクリウムによる筋弛緩を行なった。
• PVcurve前に基本的人工呼吸器設定は5分間前に設定されました
• PVcurveのあとはランダム化されIntensive strategy Group:PEEP13cmH2OModerate strategy Group:PEEP8cmH2Oそれぞれのリクルートメントを実施した
• リクルートメント中は動脈圧モニタリングされた
alveolar recruitment maneuvers
Pressure-Volumecurve測定
• Hamilton社製 GalileoGoldVentilatorを使用• P-Vtoolを使用して、PVカーブを測定する• どちらの割付でもPEEP5cmH2Oからスタートする• 1秒ごとに2cmH2Oずつ、30cmH2Oまで気道内圧を上昇させる
• 同じスピードで、PEEP5cmH2Oに戻す• 4時間後に同様の手順を行う
Intensive strategy Group• 60秒間 3サイクルの換気リクルートメント設定• PCVで換気• PEEPを30cmH2Oまで上げる• DrivingPressureは15cmH2O• 呼吸回数は15回/min• 吸気時間は1.5s• FIO2は0.40
• 60秒の間はA/CまたはPCVを受ける• Vt6ml/kg(PBW)となるように調整をする• 吸気時間は1.0s• PEEPは13cmH2O• PaCO2が35〜45になるように呼吸回数を調整する
60秒間 60秒間 60秒間 60秒間 60秒間 60秒間
Moderate strategy Group• 30秒間 3回サイクルの換気リクリートメント設定• CPAP• PEEPは20cmH2O• FIO2は0.60
• 60秒の間はA/CまたはVCVを受ける• Vt6ml/kg(PBW)となるように調整をする• 吸気時間は1.0s• PEEPは8cmH2O• FIO2 0.60• PaCO2が35〜45になるように呼吸回数を調整する
30秒間 60秒間 30秒間 60秒間 30秒間 60秒間
リクルートメント開始基準
・患者の血行動態が安定していることが条件
①血行動態が良好 Legraising testが陰性②昇圧剤を使用し血圧を最適化
MBP≧80mmHg Intensive strategy GroupMBP≧70mmHg Moderate strategy Group
・少なくとも15秒はリクルートメントが実施できること・血行動態が不安定のため、中断した場合は5分後に再開する
ウィーニングと抜管ウィーニング• 4時間後のPVcurve、2回目リクルートメント後にウィーニングを進めるPS:5 PEEPは群ごと固定(Intensive13cmH2OModerate8cmH2O)
抜管後• 低酸素血症で大量の気道分泌物がある場合はNPPVが適応される適応には下記のうち少なくとも一つを満たすこと– 酸素投与でSpO2≦90%– 5L/min以上の酸素投与– RR>30回/min
NIV設定 CPAP:10cmH2O(必要ならばPS:5〜10cmH2O)
1
• ICU入室後にVCVによる人工呼吸器設定VCV、Vt 6ml/kg(予測体重)、FIO2:0.60、PEEP:5cmH2O
2
• ランダム化• 肺胞リクルートメント(Intensive13cmH2OとModerate8cmH2O)
3
• PV curve測定• 1回目のIntensiveとModerate リクルートメント
4
• 4時間後 PV curve測定• 2回目のIntensiveとModerate リクルートメント
5• ウィーニング PS:5 PEEP:Intensive13cmH2O Moderate8cmH2O
6
• 抜管後、以下のいずれかを満たせばNPPVを使用する酸素投与でSpO2≦90% 5L/min以上の酸素投与 RR>30回/min
Intensive strategy Group Moderate strategy Group
結果
比較的若い人が多い
軽度肥満が多い
高血圧
脂質異常
糖尿病
AMIの既往
CABGが多い
人工心肺が多い
グラフとは3本以上
内胸動脈大伏在静脈
+バランス3L
Primary outcome
Intensive strategy Groupでスコア4、5が減少
Primary outcome
Intensive strategy Groupで有意にスコアの減少スコア2、3、4において、それぞれ減少
Secondary outcome
いずれの結果においてもIntensive strategy Groupが少ない結果
Kaplan-Meier Survival Analysis for Time to Hospital Discharge and Intensive Care Unit Discharge
病院退院・ICU退室いずれも、Intensive strategy Groupで有意差あり
病院退院 ICU退室
1回目(baseline)と2回目(4時間後)を比較して、Intensive strategy Groupでコンプライアンスの改善がみられる
PV curvesによるコンプライアンスの測定
両群改善傾向にあるが、Intensive strategy Groupでより少ない
術後の低酸素血症(SpO2≦90%、roomAir)の割合
リクルートメント時の血行動態
Intensive strategy Groupのリクルートメント時で血圧低下が起こる
HRについては両群で変化はなし
sys
meandia
HR
1回目 2回目
ABP
Intensive strategy Groupで背側の換気が改善している(それぞれリクルートメントの5分後に測定)
EITによる評価n=19
n=14
抜管前ではIntensive strategy Groupで有意に換気が改善
術後5日までの肺合併症
術後5日のそれぞれの肺合併症においてもIntensive strategy Groupで有意な改善が見られた(p=0.006)
呼吸パラメータ血液ガス計測値
DrivingPressureは低下
プラトー圧は上昇
血液ガスの改善
コンプライアンスの改善
NPPVの使用頻度
術後日数経過とともにIntensive群でNPPVは少なくなる
Discussion
• Intensive strategy Groupは心臓外科術後患者の肺合併症を減らすことができた。
• 病院滞在期間やICU滞在期間は短期間となったが、死亡率やbarotraumaの件数には違いが見られなかった。
• 本研究はIntensive strategyが臨床結果に影響を与えることを示した初めての研究である。
Discussion
• 注目すべきことは、コントロール群でも肺保護換気が行われているということである。(低一
回換気+PEEP)両群の大きな違いは肺保
護の強さである。
• 腹部手術における肺保護換気(ProtectiveVSNonprotective )の研究でも肺合併症を改善する同様の結果がえらえれている。
NEnglJMed.2013Aug1;369(5):428-37.
Discussion
• 本研究では、術中や抜管後に肺胞リクルートメントはされていない。術後ICUで実施することにより安全性および有効性に良い結果をもた
らした可能性がある。
• ICUのモニタリング下で肺リクルートメントを実施することで血行動態の安定化が容易にでき
たのかもしれない。
Limitation
• 単施設研究である。• 肺合併症スコアが結果に影響している可能性がある。(主観的評価が含まれる)
• 人工心肺の使用による肺障害を受けた患者が多くいた可能性がある。
• ICU入室からの水分バランスや鎮静の程度について記述がない。
全ての患者に高いPEEPが最適か?
• 同じ圧力で肺全体が均等に膨らむわけではない。一方を開いている間、他方は障害を受けている可
能性がある。(VILI:ventilator-inducedlunginjury)
• PEEPレベルが全ての患者に最適とは限らない。
• 様々な研究対象群で、どの組み合わせが効果的なのかは明確になったわけではない(低Vt? 高PE
EP? 両方?)
• 本研究により、高PEEPによる換気は、低いDrivingPressureとなった。
• DrivingPressureを低くするためには、 PEEPを固定すべきか、それとも調整すべきか問題となる。
• 高PEEPでDrivingPressureが変わらないか、増加することがあれば、肺胞を開く代償が肺崩壊に
つながるのではないか?
• 本研究では肺保護の有用性を示したが、どのような患者が高PEEPの換気で効果的かは不明
なままである。
私見
• 術後患者における高PEEP肺保護換気の効果を示す重要な結果となった
• 今後の臨床に向けて低Vt ・高PEEP ・Recruitingmaneuver・ DrivingPressureの組み合わせを考慮した人工呼吸器設定をする必要がある
• Recruitingmaneuver手技やPVcurveによるDrivingPressure測定が人工呼吸器管理で重要なスキルであるかもしれない
• 今後のICU人工呼吸器管理として、技士ができるようにしていきたい!