臨床試験のデザイン、データの確認ポイント、 そして読み解 …Study Design...

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2014626独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 スペシャリスト(臨床医学担当) 中林 哲夫 110回日本精神神経学会学術総会 教育講演7 臨床試験のデザイン、データの確認ポイント、 そして読み解き方

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2014年6月26日独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 スペシャリスト(臨床医学担当)

中林 哲夫

第110回日本精神神経学会学術総会教育講演7

臨床試験のデザイン、データの確認ポイント、そして読み解き方

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第110回日本精神神経学会学術総会(横浜) 2014年6月26日 Tetsuo Nakabayashi, MD., PhD.

本演題発表に関連して、開示すべきCOI関係にある企業等はありません。

これまでの臨床とPMDA(医薬品医療機器総合機構)での新薬の承認審査関係の業務関わった経験に基づき、個人の考えとしての解説であり、PMDAの見解を示すものではありません。

公開情報をもとに説明しますが、職務上の守秘義務により、お話出来ない事もあります。出来るだけ具体的な事例に基づき、解説を試みます。

ご質問、ご意見は大歓迎です。

はじめに2

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本日のTHEMAとFOCUS

THEMA

臨床試験の成績の確認では、まず p値?

試験成績で統計学的に有意な差が得られた

= 有効性が示された?

FOCUS

臨床医のための、臨床試験成績の確認ポイント

試験デザインと評価項目

臨床試験成績

3

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臨床疑問の定式化

PECO

Patient どのような患者に

Exposure どのような介入(治療)を行うと

Comparison 何と比較して

Outcome どのような結果が得られるか?

4

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臨床試験の基本情報

Kamijima K et al, J Affect Disord. 2013 Dec;151(3):899-905. doi: 10.1016/j.jad.2013.07.035. Epub 2013 Aug 28

P

E

C

O

5

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臨床疑問の定式化(再掲)

PECO

Patient どのような患者に

Exposure どのような介入(治療)を行うと

Comparison 何と比較して

Outcome どのような結果が得られるか?

PECO

Patient どのような患者に

Exposure どのような介入(治療)を行うと

Comparison 何と比較して

Outcome どのような結果が得られるか?

Study Design

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Study Design(試験デザインごとの長所と短所を理解する)

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臨床試験のデザイン例 ①

RStudy Drug

Control

randomization無作為化並行群間比較試験

非盲検非対照試験 Study Drug

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各試験デザインの長所と短所 ①

長所 短所

無作為化並行群間比較試験

有効性及び安全性の強い証拠を得ることができる

前提条件が最も少ない 試験期間の長さを比較的自由に

設定可能 1人の被験者の中止による影響

が比較的少ない

同一被験者内での比較は困難 被験者内での比較を行う試験と

比較して、必要な被験者数が多い

非盲検非対照試験(前後比較)

全員に介入することが出来る介入した情報が多く得られる

無作為化、盲検化等の手続きが不要

試験期間の長さが比較的自由に設定可能

プラセボ効果や、「平均への回帰」現象により、有効性が過大評価される可能性がある

参考: ICH E10 厚生労働省医薬局審査管理課長. 「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」について. 医薬審発第136号, http://www.pmda.go.jp椿広計ら編. これからの臨床試験 医薬品の科学的評価 –原理と方法. 朝倉書店丹後俊郎ら編. 臨床試験ハンドブック –デザインと統計解析-. 朝倉書店

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実薬比較試験(非劣性試験)の問題点

Placebo Active Control Study Drug

Effectsize

非劣性マージン(effect size * 1/2) 試験薬と対照の差

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実薬比較試験(非劣性試験)の問題点

Placebo Active Control Study Drug

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非盲検非対照試験

Mirtazapine 002試験 Duloxetine 15A203D試験

Source: レメロン錠、リフレックス錠申請資料(CTD2.7.6)http://www.pmda.go.jp

Source: サインバルタカプセル審査報告書http://www.pmda.go.jp

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非盲検非対照試験の注意点

平均への回帰現象 “regression to mean”

偏った対象集団(特別に良い、悪いなど)の試験では、その平均値は一般集団の平均値に近くなるという統計学的現象

変動する症状を有する慢性疾患では、状態が悪い時期に試験に参加し、参加後にランダムな変動により改善に向かう傾向

参考: 井村裕夫監修. NIH 臨床研究の基本と実際, 丸善株式会社丹後俊郎ら編. 臨床試験ハンドブック –デザインと統計解析-. 朝倉書店

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臨床試験のデザイン例 ②

RStudy DrugStudy Drug

Control

ランダム化治療中止試験(randomized withdrawal study)

Study Drug

Control Study Drug

Controlwash-out

R無作為化クロスオーバー試験 wash

-out

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ランダム化治療中止試験(randomized withdrawal study)

(95)(96)(97)(100)

(103)

(108)

(112)(117)(117)

(79)(85)(87)

(93)

(96)

(108)

(115)

(117)(118)

0.7

0.8

0.9

1.0

0 2 4 6 8 10 12 14 16

二重盲検期における再燃までの時間(週)

非再

燃率

(累積

確率

p=0.026 (プラセボとの比較:ログランク検定)

( ) 症例数

STL群

PLA群

Sertraline A0501048試験

Source: ジェイゾロフト錠申請資料(CTD2.7.6) http://www.pmda.go.jp

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各試験デザインの長所と短所 ②

長所 短所

ランダム化治療中止試験

再発予防(効果の持続性)を検討することができる

プラセボの投与期間を短くすることができる

治療に反応した被験者のみが対象(enriched)であり、有効性が過大評価される可能性がある

離脱反応が起こる可能性

無作為化クロスオーバー試験

被験者ごとの各介入の評価が得られる

被験者間での変動が大きい場合でも、必要となる被験者数が比較的少ない

前提条件が多い持越し効果や時期効果の影響第2期以降の安全性評価が困難試験期間が比較的長い1人の被験者の中止の影響が大きい

参考: ICH E10 厚生労働省医薬局審査管理課長. 「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」について. 医薬審発第136号, http://www.pmda.go.jp椿広計ら編. これからの臨床試験 医薬品の科学的評価 –原理と方法. 朝倉書店丹後俊郎ら編. 臨床試験ハンドブック –デザインと統計解析-. 朝倉書店

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プラセボ対照比較試験とランダム化治療中止試験

Kupfer DJ, J Clin Psyhicatry, 52 (5, suppl), 28-34, 1991

Response, Remission, Recovery, Relapse, and Recurrence of Depression

Placebo-controlled study

Withdrawal study

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無作為化クロスオーバー試験

Initial treatment period Crossover treatment period

Painful chemotherapy-induced peripheral neuropathyDuloxetine 60 mg/day vs. PlaceboRandomized, double-blind, placebo-controlled cross-over trial

Smith EM et al, JAMA. 2013 Apr 3;309(13):1359-67. doi: 10.1001/jama.2013.2813.

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Endpoint(主要評価項目の結果を確認する)

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主要評価項目

試験の目的に直結した主要な変数

症例数の設計にも使用

→ 検証的試験では、主要評価項目の結果を先ずは確認

副次評価項目

主要評価項目の補足的な測定値

もしくは副次目的に関連した効果の測定値

主要評価項目と副次評価項目

参考: ICH E9 厚生労働省医薬安全局審査管理課長. 「臨床試験臨床試験のための統計的原則」について.医薬審第1047号, http://www.pmda.go.jp佐久間昭ら監訳. 臨床試験用語辞典. 朝倉書店丹後俊郎ら編. 臨床試験ハンドブック –デザインと統計解析-. 朝倉書店

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主要評価項目

Source: ClinicalTrials.gov

Condition: schizophrenia and major depressive disorder phase II or phase III

Study design: randomized, double-blind, parallel-group, placebo-controlled study (without withdrawal study)

Age: adult (18-65 years old) or senior (over 65 years old)

Primary endpoint: efficacy assessment Sponsored by industry Start year: 2004-2013

Locations: all countries

Major Depressive Disorder (N = 159)

HAM-D34%

MADRS50%

IDS-C302%

QIDS-SR1%

CGI-S1%

unknown12%

(54)

(79)

(19)

PANSS71%(72)

unknown (positive and negative symptoms)

3%

BPRS 1%

Negative SymptomsPANSS 1%SANS 3%NSA-16 16%

Cognitive Functionsunknown 3%CNS Vital Signs Cognition Battery 1%CogState 3%MCCB 8%

Schizophrenia (N = 101)

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反応率と寛解率(うつ病を対象とした臨床試験)

代表的な副次評価項目(うつ病)

反応率(%)

MADRS/ HAM-D合計スコアがベースラインから50%以上減少した被験者の割合

寛解率(%)各試験により定義されている(一定の定義はない)

(例) HAM-D合計スコアが7点以下に減少した被験者の割合

参考: 厚生労働省医薬食品局審査管理課長. 「抗うつ薬の臨床評価ガイドライン」について. 薬食審査発1116第1号, http://www.pmda.go.jpEuropean Medicines Agency, Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP). Clinical

investigation of medicinal products in the treatment of depression (EMA/CHMP/185423/2010 Rev. 2), 30 May 2013. http://www.ema.europa.eu/ema/

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反応率(うつ病を対象とした臨床試験)

参考: Furukawa TA et al. J Clin Psychopharmacol, 27: 531-534, 2007Leucht S et al. J Affect Disord. 2013 Jun;148(2-3):243-8. doi: 10.1016/j.jad.2012.12.001. Epub 2013 Jan 26Rush AJ et al. Report by the ACNP Task Force on response and remission in major depressive disorder. Neuropsychopharmacology. 2006 Sep;31(9):1841-53. Epub 2006 Jun 21.中林哲夫. 精神科治療学. 28 (4): 413-420, 2013

Furukawa TA et al (2007): 7 studies (placebo-controlled: 1, active-controlled: 5, single arm: 1)

Leucht S et al (2003) : 40 studies (mirtazapine)

CGI-Improvement

1. very much improved

2. much improved

3. minimally improved

HAM-D17

Change fromBaseline

Furukawa et al(2007)

~-18 -11~-17 -4~-10

Leucht et al(2013)

~-20 - -

% Change fromBaseline

Furukawa et al(2007)

~-73 -46~-72 -15~-45

Leucht et al(2013)

-75~-85 -50~-60 -25~-35

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寛解 (うつ病を対象とした臨床試験)

Frank, E. et al: Arch. Gen. Psychiatry, 48: 851-855, 1991.

Response:A response can be thought

of as the point at which a partial remission begin.

Remission:>=2 weeks to < 6 months asymptomaticAsymptomatic: HAM-D17 =<7

臨床試験での 「寛解」

≒臨床での「寛解」

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ある患者さんに、薬剤Aと薬剤Bのどちらを投与しようかと考えている。

どのように判断しますか?

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有効性の外部比較(試験間の直接比較)

試験名 投与群評価例数

主要評価項目

評価指標 ベースライン 変化量

Mirtazapine 001

プラセボ群 70

HAM-D17

22.5 ± 3.6 -10.4 ± 7.5

MIR 15 mg群 65 23.2 ± 4.5 -13.3 ± 6.8

MIR 30 mg群 66 22.5 ± 3.3 -13.8 ± 6.9

MIR 45 mg群 69 22.1 ± 3.2 -11.9 ± 7.6

Duloxetine 16A203C

プラセボ群 145

HAM-D17

20.4 ± 4.2 -8.3 ± 5.8

DUL 40 mg群 73 20.6 ± 4.4 -10.5 ± 5.7

DUL 60 mg群 74 20.4 ± 4.1 -10.0 ± 6.4

DUL併合群 147 20.5 ± 4.2 -10.2 ± 6.1

PAR群 148 20.4 ± 4.8 -9.4 ± 6.9

Escitalopram

MLD55-11MDD21

プラセボ群 100

HAM-D17

22.5 ± 3.6 -13.2 ± 6.8

ESC 10 mg群 96 22.3 ± 3.5 -13.6 ± 6.9

ESC 20 mg群 101 22.2 ± 3.7 -12.3 ± 7.0

MLD5511M31

プラセボ群 124

MADRS

29.0 ± 5.6 -10.7 ± 9.5

ESC 10 mg群 120 29.4 ± 5.8 -13.7 ± 10.0

ESC 20 mg群 119 29.8 ± 6.0 -13.6 ± 8.8

ESC併合群 239 29.6 ± 5.9 -13.7 ± 9.4PAR群 121 29.8 ± 5.9 -14.2 ± 9.9

Paroxeine(徐放錠)

PCR112810

プラセボ群 171HAM-D17

22.6 ± 2.75 -10.4 ± 0.62

PAR-CR群 158 22.7 ± 2.62 -12.8 ± 0.61PAR群 83 22.7 ± 2.64 -12.5 ± 0.78

中林哲夫, 精神科治療学, 28 (4): 413-420, 2013, 引用改編

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有効性の外部比較(試験間の直接比較)

試験間の直接比較は原則的にできない

試験の実施時期、試験デザインや試験環境など、多くの変動因子が関係している

被験者集団の比較可能性が保証されていない

参考: ICH E10 厚生労働省医薬局審査管理課長. 「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」について. 医薬審発第136号, http://www.pmda.go.jp丹後俊郎ら編. 臨床試験ハンドブック –デザインと統計解析-. 朝倉書店

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重症度とEffect Size

Kirsch I et al, PLoS Med 5(2): e45 Fournier JC, JAMA. 6;303(1):47-53, 2010

Meta-analysesRandomized, placebo-controlled trial in patients with Major Depressive DisorderKirsch I et al: 35 trialsFournier JE et al: 6 trials

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Walsh BT et al, JAMA 287(14):1840-1847, 2002

Kemp AS et al, Schizophr Bull. 36(3):504-9, 2010

うつ病を対象とした試験 統合失調症を対象とした試験

28臨床試験の実施時期の影響

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対照(実薬・プラセボ)による試験成績の違い

MADRS変化量

Wade Aet al. (2002)

SCT-MD-26(2005)

MLD55-1 MDD21(2004-)

MLD5511M31(2008-)

-13.6

-16.3

-10.0

-13.3

-15.9

-17.2

-15.2

-10.7

-13.7 -13.6

-19.1 -18.4 -18.0

-15.9

-22.0

-17.0

-12.0

-7.0

Ventura Det al. (2007)

Khan Aet al. (2007)

プラセボ対照試験 実薬対照試験

PBO: placebo ESC: escitalopram SER: sertraline DUL: duloxetine

Escitalopram(SSRI)のうつ病を対象とした臨床試験

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臨床疑問の定式化(再掲)

PECO

Patient どのような患者に

Exposure どのような介入(治療)を行うと

Comparison 何と比較して

Outcome どのような結果が得られるか?

Study Design

PECO

Patient どのような患者に

Exposure どのような介入(治療)を行うと

Comparison 何と比較して

Outcome どのような結果が得られるか?

Result and Interpretation

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有効性の証明

臨床試験での有効性の成績

主要解析の結果 (Primary Outcome)

副次解析の結果 (Secondary Outcome)

有効性の証明

よく計画され、適切に実施された臨床試験

事前に計画された主要解析による統計学的に有意な結果

(主要評価項目)

得られた結果の臨床的意義

参考: ICH E8 厚生省医薬安全局審査管理課長, 臨床試験の一般指針について, 医薬審第1047号,平成10年11月30日, http://www.pmda.go.jp独)医薬品医療機器総合機構, 新医薬品承認審査業務に関わる審査員のための留意事項, 平成20年4月17日, http://www.pmda.go.jp丹後俊郎ら編. 臨床試験ハンドブック –デザインと統計解析-. 朝倉書店

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Outcome ①(目標症例数)

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目標症例数に未達であった臨床試験

Source: 「医療上の必要性に係る基準」への該当性に関する専門作業班(WG)の評価, http://www.mhlw.go.jp

placebo

Fluvoxaminep = 0.032

小児の強迫性障害を対象としたプラセボ対照比較試験(S114.3.118試験)

• 主要評価項目: 改善(JCY-BOCS合計スコアがベースラインから25%以上減少)までの日数• 目標症例数: 130例• 被験者数: 20例• 改善までの日数(中央値): プラセボ群 44.5日 フルボキサミン群22.5日 (p = 0.032)

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臨床試験の症例数の設定

症例数の設計に必要な条件

α: 第一種の過誤(偽陽性)の確率(検定の有意水準)

β: 第二種の過誤(偽陰性)の確率

SD: バラツキの大きさ

Δ(delta): 予想される差

被験者数

計画より極端に被験者数が少ない

= 検出力(1-第二種の過誤の確率)の不足

必要以上に被験者数が多い

= 臨床的に意味のない微妙な効果を検出する可能性/倫理的問題

参考: 浜田知久馬著. 学会・論文発表のための統計学 統計パッケージを誤用しないために. 真興交易医書出版部角間辰之ら著. バイオ統計シリーズ② 臨床試験のデザインとバイオ統計. 近代科学社野村英樹ら著. 臨床医による臨床医のための本当はやさしい臨床統計. 中山書店永田靖著. サンプルサイズの決め方. 朝倉書店

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Outcome ②(部分集団解析)

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主解析と副次解析(部分集団解析)

Spinal and bulbar muscular atrophyLeuprorelin (n=100) vs. pacebo (n=99)48-week, randomized, double-blind placebo-controlled trial

p=0.063 p=0.009

All patients Patients with disease duration < 10 years

Katsuno M et al, Lancet Neurol. 2010 Sep;9(9):875-84. doi: 10.1016/S1474-4422(10)70182-4. Epub 2010 Aug 4.

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部分集団解析

部分集団、交互作用及び共変量ICH E9 厚生労働省医薬安全局審査管理課長. 「臨床試験臨床試験のための統計的原則」について.医薬審第1047号, http://www.pmda.go.jp

• 多くの場合、部分集団別解析又は交互作用解析は探索的であるため、探索的であることを明確に確認しておくべき

• 試験治療の有効性(若しくは有効性がないこと)、又は安全性に関する結論は、どのようなものであっても、 探索的な部分集団別解析のみに基づいていては受け入れ難い

事前に計画された主要解析の結果を確認 post hoc(事後的)な解析は、あくまでも傾向の確認

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Outcome ③(欠測値の補完方法による結果の違い)

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臨床試験での中止・脱落

• Dropout rates• Double-blind randomized controlled

clinical trials of antipsychotic drugs (trial duration =< 12 weeks)

• Thirty-one trials, 10058 subjects

Weighted mean dropout rates in the active treatment arms• Placebo-controlled trials: 48.1 %• Active-control trials: 28.3 %

Kremmer G et al, Arch Gen Psychiatry, 62: 1305-1312, 2005

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Escitalopram (SSRI: selective serotonin reuptake inhibitor) Duloxetine (SNRI: serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor)

Khan A et al, Clin Drug Invest, 27 (7): 481-492, 2007

● Escitalopram (n=136)

○ Duloxetine (n=126)

● Escitalopram (n=110)

○ Duloxetine (n=91)

● Escitalopram (n=136)○ Duloxetine (n=126)

● Escitalopram (n=110)○ Duloxetine (n=91)

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異なる欠測値の補完方法による結果の違い ①

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-18

-16

-14

-12

-10

-8

-6

-4

-2

0

0 1 2 4 6 8

-18

-16

-14

-12

-10

-8

-6

-4

-2

0

0 1 2 4 6 8

LOCF(last-observation-carried-forward method)

OC(observed case)

××

×

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異なる欠測値の補完方法による結果の違い ②

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DUL群

Khan A et al, Clin Drug Invest, 27 (7): 481-492, 2007

• 投与中止理由

• 用法・用量の設定– 開始用量– 増量幅, 増量間隔

論文での考察内容

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ESC群

異なる欠測値の補完方法による結果の違い ③

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Outcome ④(群間の比較可能性)

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Two primary analyses were conducted with repeated-measures analysis of variance (ANOVA) with the last-observation-carried-forward method (intention to treat) on the MADRS data, response at 2 weeks, and response across all study assessments(significance at p<0.025).

Fitzgerald PB et al, Am J Psychiatry. 2006;163(1):88-94

優越性 = 有効性の証明 ?

Major Depressive DisorderRandomized, Sham-controlled TrialRepetitive Transcranial Magnetic Stimulation (rTMS)

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(LOCF)

Fitzgerald PB et al, Am J Psychiatry. 2006;163(1):88-94

優越性 = 有効性の証明 ?

Major Depressive DisorderRandomized, Sham-controlled TrialRepetitive Transcranial Magnetic Stimulation (rTMS)

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SUMMARY (臨床試験の確認ポイント)

臨床試験の実施計画 試験デザイン

主要評価項目と主要解析(仮説に直結)

症例数設計の根拠と被験者数

臨床試験の成績 群間の比較可能性

• ベースラインの被験者背景に差がないか?

• いずれかの群で多く中止・脱落していないか?

主要解析の結果

主要解析と副次解析で結果に齟齬がないか?• 副次解析の結果のみで、有効性を過度に主張していないか?

• 主要解析と副次解析で結果に齟齬がある場合、考察されているか?

試験間の直接比較は基本的には出来ない

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Information

E-mail: [email protected]

PMDA Homepage: http://www.pmda.go.jp

PMDA review report:

http://www.info.pmda.go.jp/approvalSrch/PharmacySrchInit?

PMDA regulatory science:

http://www.pmda.go.jp/regulatory/index.html

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