家蚕幼虫における血液遊離アミノ酸組成と生殖巣の...

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家蚕幼虫における血液遊離アミノ酸組成と生殖巣の関係 誌名 誌名 蠶絲研究 ISSN ISSN 00364495 巻/号 巻/号 107 掲載ページ 掲載ページ p. 102-113 発行年月 発行年月 1978年7月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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家蚕幼虫における血液遊離アミノ酸組成と生殖巣の関係

誌名誌名 蠶絲研究

ISSNISSN 00364495

巻/号巻/号 107

掲載ページ掲載ページ p. 102-113

発行年月発行年月 1978年7月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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蚕糸研究 第 107号 1978年 7月

Sansi-Kenkyu (Acta Sericologica)

No.107, July, 1978

家蚕幼虫における血液遊離アミノ酸組成と生殖巣の関係

井口民夫・新保博・中村晃三・玉沢享*

家蚕の幼虫および踊の血液遊離アミノ酸組成は雌雄によって呉なっており,特に含硫ア

ミノ酸の中間代謝物であるシスタチオニンおよびランチオニン濃度は雌の方が常に高い値

を示している 6,7,8) 卵形成期以前の幼虫において, このような血液遊離アミノ酸組成の雌

雄差が如何なる原因によって惹起されるかは興味あることである.今回はこれに対する生

殖栄一の摘出ならびに卵巣と精巣の交換移植の影響を調べ,さらにジナンドロモノレフについ

て生殖巣組織および斑紋の両性形質の混在程度と血液遊離アミノ酸組成の関係を検討した

ので,その結果を報告する.

本文に先だち,本稿のご校閲をいただいた生理部長伊藤智夫博士に対して謹んで感謝の

意を表する.

材料および方法

品種目 124号x支 124号のカイコを桑葉粉末を含む人工飼料9)によって飼育し 5齢起

蚕で雌維に分け,生殖巣の摘出またはその交換移植を行った 交換移植は生殖巣摘出後直

ちに雌には精巣を,雄には卵巣をそれぞれ 1対ずつ移植した.これらの手術はすべてエチ

ノレエーテノレで、麻酔して行い,傷付けのみ行ったものを対照とした 採血は 5齢 6日後(熱

蚕〕に,移植器官が生存していることを確かめたのち低温下で行った.採血後直ちに遠心

分離によってJut球を除去し,その上澄み 1mlに対して 10%トリクローノレ酢酸 1mlを加

えて冷蔵庫に保存した 3000rpmの遠心分離によって蛋白質を沈澱除去し, その沈澱残

澄をさらに 5%トリクローノレ酢酸で洗浄したのち,再度遠心分離して得られた上澄みを先

の上澄みと合せた.エチノレエーテノレによってトリクローノレ酢酸を除いて pHを 4.0とし,

クエン酸緩衝液 (pH2.2)でlOmlに希釈し,その 0.5mlを分析試料とした.アミノ

酸分析は日立製 KLA-3B形を用い,クエン酸緩衝液によるシングノレカラム法で行った.

つぎに斑紋の雌形質として黒縞 (ps), tff~形質として姫 (P) を指標として, 玉沢の方

法14)によって,ps/psxP/Pの産下直後の卵をー100C で処理して誘発されたジナドロ

モルフを桑葉で飼育し,その熱蚕期における血液遊離アミノ酸組成を検討した.ジナンド

*北海道大学農学部

103

ロモノレフの採血は個体ごとに低温下で行った.採血後の幼虫は直ちに解剖して生殖巣の観

察を行い,卵巣をもつもの,精巣をもつものおよび共有するものまたは両性生殖細胞が混

在する生殖巣をもつものの 3群に分け,それぞれの群ごとに血液を混合した.以後の処理

は上記の場合と同様に行った.

別にまた,同様にして得られるジナンドロモルフ幼虫を,斑紋の雌性 (Ps)および雄性

(P)の混在程度によって 6群に分け, その熟蚕時の血液遊離アミノ酸組成の比較を行っ

た.なおこの場合にも採血後の幼虫の生殖巣の観察を行って区分した.

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5蛤幼虫 踊 蛾

脱皮後の日数

第1図 血液遊離アミノ酸パターンの雌雄間類似率の発育

に伴う変動

22At ・Bi

パターン類似日S8=~吾川言語(田村大沢 1附

104

結果

家蚕幼虫の血液遊離アミノ酸組成は雌雄間はもとより,蚕品種,飼料,発育段階によっ

て異なることがすでに知られている5叫.第 1図は今回供試の蚕品種目 124号 x支 124号

のカイコを桑葉で飼育した場合の血液遊離アミノ酸組成の雌雄による遠いをパターン類似

率16)によって示したものである. 5齢の初期から中期にかけては比較的高い類似性を示す

が,後半,特に吐糸完了時には類似率 0.8以下の低い値を示すようになる.踊期では化踊

6日後までは 0.94程度であり,踊末期および蛾において再び 0.8以下となり,雌雄差は

第 1表生殖腺を摘出または交換移植した齢幼虫の血液遊離アミノ酸組成

(μgjml)

ア ミ ノ 酸

アスパラギ γ 酸

スレオニン*

リ ン **

グノレタミン酸

ランチオユン

プロリン

グリシン

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シスチン

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(注)1. *:アスパラギンを含む.料グルタミンを含む.

2 生殖巣の摘出および交換移植は 5齢 1日目に行なった.

105

顕著になることが示された.

以上のような幼虫期からみられる血液遊離アミノ駿組成の雌雄差が生殖巣の摘出や交換

移植によって変動するか否かを検討した.その分析結果を第 1表に示すが,ここで用いた

幼虫は人工飼料で飼育したものであり,オルニチンの分析値がきわだって高く,含硫アミ

ノ酸濃度が低いといった人工飼育特有のパターンめが示された.正常(対照〕の雌維の聞

で分析値が大きく異なるアミノ酸はアスパラギン酸,スレオニン,グノレタミン酸,ランチ

オニン,シスチン,シスタチオニン等であり,特にシスタチオニンは雌の方が,またスレ

オニンとシスチンは雄の方が 2倍以上の値であった.一方,セリン,グリシン, ヒスチジ

ンの分析値は雌雄閑で比較的差異が少なかった.生殖巣摘出幼虫で 2倍以上の濃度差を示

したアミノ酸は,雌ではシスタチオニンのみであり,また維で、はイソロイシンとロイシン

であった.生殖巣の交換移植では正常に対して 2倍以上の変動を示したアミノ酸は雌にお

けるシスチンのみて‘あり,他の多くのアミノ酸の変動幅は小さかった.この結果から,正

常幼虫でみられる血液遊離アミノ酸組成の雌雄差は生殖巣の摘出や交換移植によって大き

く変化しないといえよう.この結論は第 2表に示したパターン類似率で比較すると一層明

白である.すなわち雌では卵巣を摘出しでも,また卵巣摘出後精巣を移植した幼虫で、も正

常雌幼虫と 0.996以上の高い類似率を示し,また雄においても精巣摘出または交換移植幼

虫は正常雄と 0.998以上の高い類似率であった.

しかし生殖巣を摘出または交換移植した幼虫の雌雄間で、比較すると,全て 0.978以下の

値であって,生殖巣の摘出または交換移植によって,雌の血液遊離アミノ酸パターンが雄

型に,雄が雌型に変化することはなかった.

つぎに第 2図に示したような生殖巣が混在するジナンドロモノレフを,生殖巣の違いによ

って 3群に分け,その熟*の血液遊離アミノ酸組成を第 3表に示した.この場合は桑葉育

であり,先に示した人工飼料育の場合とは異なったノミターンであったが,ランチオニンと

シスタチオニンは正常雌が正常維に比較して 3倍以上の濃度を示した.またプロリンとア

ラニンは雄の方が高い値を示したが,その他のアミノ酸では大きな差異は認められなかっ

第2表 生殖腺を摘出または交換移植した幼虫の血液遊離アミノ酸のパター

ン類似率

性と処置

常|卵巣摘出 1署長擁後 主翼品後|精巣摘出|正正 常

対 照、 1. 000 0.997 0.996 0.952 0.978 0.949

雌卵卵精巣巣巣摘摘移出後植出

1. 000 0.997 0.958 0.977 0.951

1. 000 0.948 0.968 0.936

精卵精巣巣巣摘移摘出後植出1. 000 0.988 0.990

雄 1. 000 0.992

対 照 1. 000

106

e

T

2 第 2図 ジナンドロモノレフ幼虫の生殖巣

1 両性~W(巣をもっ個体の生殖巣(0 :

卵巣, T :精巣〉

2 :両性生殖細胞の混在状態 (0 :卵巣

組織, T:精巣組織〉

た ジナンドロモノレフ幼虫の生前((県とJfll液遊離アミノ般の関係はランチオニンおよびシス

タチオニンの波度差に強く現われており,卵巣をもっジナンドロモノレフでは,この両アミ

ノ酸濃度がJJiく, ft'i巣をもっジナンドロモノレフではその他が低かった. しかしながら精巣

をもっジナンドロモノレフはこの両合硫アミノ酸とも,正常tftとほぼ等しい分析値であった

のに対して,卵巣をもっ ジナンドロモノレフでは正常雌よりランチオニソが 39%,シスタ

チオニンは 44%程度低い値であった また第 2図に示したような卵巣と精巣が混在する

生殖巣をもっジナンドロモノレフでは,この雨アミノ酸の分析値は正常雌よりもむしろ正常

雄に近い値であった.第 3表の分析値から,各グノレープmJのアミノ酸組成をパタ ーン類似

皐で比較する と, 第 4表に示すように卵巣をもっジナンドロモノレフは正1前雌と 0.98の高

い類似性を示すのに対して, 両生殖細胞が混在するがJ虫では 0.90となり, その類似性は

低かった.一方,正常雄と精巣をもっジナンドロモノレフおよび両性の生殖巣が混在するジ

107

第 3表 生殖巣によって組分けしたジナンドロモノレフ幼虫の血液遊離アミノ

酸組成 (μgjml)

ジナンドロモノレフ幼虫の生殖巣

ア ミ ノ酸 1 正常雌 IrtN ~ IrtN~ , ,,~~<I 日 l 正常雄

ホスホエタノールアミン

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チロシ ン 335.9I 17.8 I 35.0 I 214.0

フエニーノレプラニン 62.4 I 36. 6 I 55. 8 I 60. 0

オノレニチ ン 61.8 I 19. 6 I 44. 6 ! 40.0

ア ン モ ニア 127.21 120.71 145.2 I 184.5

スチジン 2482.9 I 1850. 8 I 2713. 5! 2762. 2

アノレギニン 134.8 I 94. 7 I 147. 2 I 184. 5

トリ プ ト アァン 44.1I15.9 I 69.4 I 92.7

合計 i制 91 6382.87228.:' 1 7902. 2

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127.5

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130.0

2083.5

147.4

58.8

6751. 1

ナンドロモルフのパターン類似率はいずれも 0.99の高い値を志した. 以上の結果から,

ジナンドロモルフの血液遊離アミノ酸組成は正常雌よりもむしろ雄に近いノξターンを示

し,特に生殖巣が精巣の場合および両i性生殖巣混在の場合は正常維とほとんど同じパダー

ンを示すといえる.

つぎにジナンドロモノレフの斑紋によって性の混合程度を 6群に分け,その血液遊離アミ

ノ酸組成を比較した.分析結果は第 5表に,また正常雌に対する各グノレーフ。のパターン類

似率は第 3図に示した.この場合にはアスパラギン酸の前に溶出するピークがメチオニン

スノレホキサイドであること, およびフェニーノレアラニンの後に溶出されるピークが Pーア

108

第4表 生殖巣によって組分けしたジナンドロモノレフ幼虫の血液遊離ア

ミノ酸のパターン類似率

正戸比.

ジナンドロモノレフの生殖巣正常雌

巣|卵巣と精巣i精正常

gs 巣

雌 1. 000 0.982 0.904 O. 870 O. 89

巣 1. 900 O. 950 0.923 O. 94

巣 1. 000 0.992 0.98

巣 1. 000 0.99

雄 1. OC

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'* 5 6 M

ジナソドロモルフの黒縞斑紋の程度

第 3図 斑紋(黒縞・姫〉で組分けしたジナンドロモノレフ幼虫の正

常雌に対する血液遊離アミノ酸パターンの類似率 (F:正

常雌, M:正常雄〉

ラニンであることが同定されたので,これらの定量値を合わせて示した.第 2表の分析値

から,正常雌と正常維の間で最も分析値の異なるアミノ酸はランチオニンとシスタチオニ

ンであり,いずれも雌は維の 3~4 倍の値であった.そのほかオノレニチン濃度は雄の方が

高い値を示した.ランチオニンとシスタチオニンの分析値について,ジナンドロモルフの

間で比較すると,ランチオニンは斑紋の雌形質(黒縞〉に対して雄形質(姫〉の占める割

合が高くなるにつれて,低い値を示した.シスタチオニンについてもほぼ同じ傾向が認め

109

第 5表 斑紋によって組分けしたジナンドロモルフ幼虫の血液遊離アミノ酸組成

(μg/ml)

ジナンドロモノレフの黒縞斑紋階程*ア 、、 ノ 酸 正常雌 正常雄

1 2 3 4 5 6

ホスホエタノーノレアミ 351. 6 520. 8 541. 0 550.6 464.6 596. 7 463.8 467.1 ンメチオニンスルホキサ 1241. 5 1552. 6 1389.4 1049. 7 1100.2 1131. 1 956. 1 1008.5 イドアスパラギン酸 29.4 67.2 60. 9 50. 3 67.8 68.3 47.8 47.8

スレオニン 299.6 587. 3 513. 2 515.6 550.8 529.6 443.0 395.9

セ リ こ/ 641. 0 788. 3 862.8 841. 6 834. 1 800.0 652. 3 1017.5

グルタミン酸 284.0 462.2 297.8 445.9 417.2 687. 1 393. 1 313.3

プロリン 201. 1 348. 9 279. 1 288.0 291. 0 324.8 321. 0 250. 1

ランチオニン 1497. 7 1539. 8 1259. 1 1050. 1 701. 4 472. 4 407. 5 511. 6

グリシン 428.3 722.0 756. 7 844.9 826. 1 738. 1 761目 O 585.3

アラニン 157. 2 332. 7 212.2 326.0 335.3 468.5 325. 1 141. 6

シスチン 35. 8 47.4 35. 8 50目 1 54.8 34.3 60. 1 65.4

ノ、 り ン 247.9 559.2 309.0 462.3 276.0 474.7 464. 3 407. 9

シスタチオニン 1674.5 1744.0 725. 1 872. 1 463. 9 633.2 253. 2 399. 7

メチオニン 77. 9 123.0 102.9 108. 8 89.4 133. 2 123.3 148. 6

イソロイシン 109. 1 195.8 143.8 201. 0 208.3 218.0 174.7 174.2

ロイシン 148. 9 247.0 165. 2 203目 l 267. 5 259. 7 218.2 244.6

チ ロシン 386. 9 470. 8 142.3 209. 7 240. 2 295.2 304.2 441. 2

フエニーノレアラニン 63.5 83.4 85.1 136.1 51. 8 65.9 49.6 74.2

Pーアラニン 71.3 106.0 122. 6 97. 7 77.6 115.3 67. 1 63.5

オノレニチン 24. 9 41. 4 49.0 124. 6 59.2 49.0 59. 6 65.3

リ ジン 350.3 468.3 525.3 487.5 669.0 555.6 713.0 633.6

アンモニア 128. 6 236. 5 188.4 209.0 180.4 235.1 159.8 160. 7

ヒスチジ γ 1959.0 2107.8 2291. 6 2288. 7 2026. 1 2909. 6 2306. 9 2097. 1

アノレギニン 118.7 201. 9 185.6 215:8 211.9 202.2 222. 7 165.6

トリプトファン 154. 3 148. 7 110.2 115.0 98‘6 108.3 165.3 181. 8

合 計 i同附i一…b出6叫一山1370初O斗1…山4ム4.~非和料i匝防同i一…b出的5臼563.位&口2沖i卜1凶21ωlドi…7巾l卜110凶O∞06削2幻 1

※: ~数数字カが:小さいほど黒縞斑(雌性〉の占める割合が多きい.

られた.ジナンドロモノレフの血液遊離アミノ酸組成と斑紋の関係は第 3図に示したパター

ン類似率できわめて明瞭に示されており,斑紋が雌型から雄型に近づくにつれて血液遊離

アミノ酸組成も正常雌とのパターン類似率が{尽くなるという結果が示された.

以上3回の実験結果から,血液遊離アミノ酸組成にみられる雌雄差は,幼虫期において

は生殖巣の違いに起因するものでないことは明白である.

110

考察

昆虫の血液遊離アミノ酸組成については発育時期,変態または飼料との関連で多くの報

告1-3)がある.しかしながら雌雄問の差異についての知見はカイコ以外の昆虫では少ない.

体全体の遊離アミノ酸についてはアカイエカ Culex Pipiens の雌の成虫はメチオニンスノレ

ホキサイドが,また介アラニンは雄の方がそれぞれ高い濃度を示すことがま口られているり.

また KAPLAN et al.10) は Drosophilamelanogasterの成虫体の遊離メチオニンは雌の方が雄

の2倍近い値であることを報告している.これらの報告は血液についての比較ではないに

しても,合硫アミノ酸が雌は雄よりも高い値を示す点で家蚕の場合と共通していることは

興味深い. 家蚕においては卵殻中の硫黄含量は約 3%であり, また卵殻の約 96%が蛋白

質であって, そのアミノ酸組成は高いシスチン含量を示しているい, 11) すなわちシスチ

ンは卵形成上重要なアミノ酸であり,その前駆体であるシス、タチオニンまたはランチオニ

ンが雌のj血液中に幼虫期から蓄積されるものと考えられる.また最近栄養実験によって家

蚕幼虫では雌の方が雄よりもメチオユンに対する要求量が高いことが明らかになり 13〉,血

液中の含硫アミノ酸濃度の雌雄差を惹起している原因の一つが解明された.

先に小原・河合12)は家蚕の血液蛋白質の泳動像は,雄では精巣の摘出および精巣摘出後

の卵巣移植によっても変化はみられず,また雌においても,同様の突験において化踊 4日

頃までは変化のないことを報告している.また玉沢ら15)はジナンドロモノレフにおける雌特

異蛋白質の血中濃度は生殖巣が卵巣の幼虫において最も高く,つぎに両生殖細胞が混在し

ている幼虫,さらに精巣をもっジナンドロモfレフの)1民に低下することを報告した. これら

の血液蛋白質と生殖巣の関係は血液遊離アミノ酸と生殖巣の関係とよく一致しているとい

えよう.

今回の実験において,ジナドロモノレフを生殖巣の違いによって分けた場合,精巣と卵巣

が混在する幼虫は雄型の血液遊離アミノ酸パターンを示した.またジナンドロモノレフを斑

紋形質の雌雄性によって分けた場合には斑紋形質の雌雄性と血液遊離アミノ酸パターンの

雌雄性は比較的よく一致していた.これらの事実は血液遊離アミノ酸パターンの雌型1ft担

は生殖巣の違いによって惹起されているのではないことを示唆している.

血液遊離アミノ酸はいわゆるアミノ酸プールとして各組織の蛋白質と動的平衡状態にあ

り,またアミノ酸相互,または脂質,炭水化物等他の物質との変換によって平衡状態が依

持されているものと思われる.このなかにあって,恒常的に雌雄間で差異があることは,

蛋白質代謝における供給と利用での違い,または酵素活性の違いによって惹起されるもの

のように忠、われる.

家蚕の性決定に関してはすでに 1930年代に結論が出されており wおよびZの向性遺

伝子の発現に関する関作用はきわめて強いことが知られている.また昆虫においては性ホ

ノレモンの存在は否定的であり,間性についても家蚕では実験例がない.今回のジナンドロ

モノレフについて斑紋の雌雄性の程度によって分けた場合にみられた血液遊離アミノ酸組成

の中間型は性の決定と発現の接点の問題として今後興味ある問題を提起しているように思

111

われる.

摘要

家蚕の幼虫期に生殖巣の摘出および精巣と卵巣の交換移植を行い,血液遊離アミノ酸組

成との関係を検討した.また産下直後の卵を過冷却]処理して得られるジナンドロモノレフに

ついて,生殖巣または斑紋によって組分けし,それぞれの性徴と血液遊離アミノ酸組成の

関係について検討した.得られた結果は下記のように要約された.

1 )幼虫期に生殖腺を摘出または交換移植しても熟蚕の血液遊離アミノ酸組成の雌雄型

は維持され,摘出の影響はほとんど認められなかった.

2)ジナンドロモロフの生殖巣と l包液遊離アミノ酸組成の関係は,精巣:と卵巣を共有す

る幼虫は雄型の血液遊離アミノ酸組成を示し,卵巣のみを有するジナンドロモノレフは中間

型を示した.

3)ジナンドロモノレフの斑紋の雌雄混在程度は血液遊離アミノ酸パターンの雌雄型とよ

く一致しており,斑紋の雌形質(票、縞〉の多いものほど雌型のアミノ酸パターンを示し,

雄形質(姫〕が多いものは雄型のアミノ酸パターンを示した.

4)これらの実験結果から,幼虫期の血液遊離アミノ酸パターンの雌・雄型は生殖巣に

よって惹起されるのではないと思考された.

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養と食糧 22.58-60

113

Surnrnary

E笠ectsof gonad on free arnino acid cornposition in larval hernolyrnph

of the silkworrn, Bombyx mori

By

Tamio INOKUCHI*, Hiroshi SHINBO*, Kozo NAKAMURA* and Susumu TAMAZAWA料

It has previously been reported that the free amino acid composition in the hemo-

lymph of the silworm (Bombyx mori) differs between both sexes; the levels ofcystathi・

onine and lanthionine are especially higher in the female than the male. The

ovariectomized females and the testicle-implanted ectomized females showed similar

amino acid pattern to the normal females. In the male, extripation of testicles or

implantation of ovaries did not affect the original amino acid pattern. Th巴 hemoly-

mph of gynandromorph larvae which retain ovaries showed an interim type of free

amino acid pattern of both sexes, however, those which retain bisexual gonad or

testicles showed the same amino acid pattern as the male. Furthermore, accoding to

increase of the skin area of striped marking (ps), which indicats more female chara-

cter among gynandromorph larvae, the larval hemolymph contained higher amounts

of cystathionine and lanthionine. On the other hand, as the skin area of striped

marking became narrow, the free amino acid pattern reached the male type. These

results suggested that the free amino acid pattern of larval hemolymph is not directly

affected by genital organs.

ゲ SericulturalExperiment Stαtion, To紗o166;料品culり ofAgγiculture, Hokkaido Unive・

rsity, Sapporo 060)