悪性黒色腫細胞B16F10における、emodinの細胞内ATPレ …...Panaitescu, & Blidaru,...

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Title 悪性黒色腫細胞B16F10における、emodinの細胞内ATPレ ベルと増殖に対する効果と作用機序の解明( Dissertation_全文 ) Author(s) 杉山, 悠真 Citation 京都大学 Issue Date 2019-09-24 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k22100 Right Type Thesis or Dissertation Textversion ETD Kyoto University

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Title悪性黒色腫細胞B16F10における、emodinの細胞内ATPレベルと増殖に対する効果と作用機序の解明(Dissertation_全文 )

Author(s) 杉山, 悠真

Citation 京都大学

Issue Date 2019-09-24

URL https://doi.org/10.14989/doctor.k22100

Right

Type Thesis or Dissertation

Textversion ETD

Kyoto University

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悪性黒色腫細胞 B16F10 における、emodinの細胞

内 ATPレベルと増殖に対する効果と作用機序の解明

杉山 悠真

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目次

要旨 (3-4)

1. 序論 (5-6)

2. 結果 (7-12)

2-1. Polygonum cuspidatum の地下茎の抽出物が B16F10細胞とMEF細胞の

ATPレベルに与える影響。

2-2. Polygonum cuspidatum の地下茎の抽出物が含有する ATP低下作用を持つ成

分の同定。

2-3. emodinが in vitro、in vivoにおいて B16F10細胞の増殖に及ぼす影響。

2-4. emodinがミトコンドリアの機能に与える作用。

2-5. ミトコンドリアの脱共役剤に対する B16F10細胞とMEF細胞の予備解糖能

の比較。

3. 考察 (13-15)

4. 実験材料と方法 (16-20)

参考文献 (21-25)

謝辞 (26)

図 (27-50)

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要旨

がんの化学療法において古くから標的とされてきたのは、異常な細胞増殖を支える活発

な DNA合成や微小管機能であるが、これらを標的とした場合、副作用を抑えつつ十分な抗

腫瘍効果が得られるケースは少ない。近年は分子標的薬の登場により、がん治療の個別医療

化が進んでいる。しかし、このような個々のがんに特化した治療戦略ですべてのがんをカバ

ーするのは現実的でなく、様々なタイプのがんに共通する、新しい治療戦略を模索する努力

を怠るべきではない。

発生部位やステージに関わらない、がんに共通する性質は無秩序な細胞増殖である。この

性質を維持するためにがん細胞は多大なエネルギーを消費していると考えられ、実際に多

くのがん細胞では解糖系が強く活性化している。この活性化はWarburg効果と呼ばれ、大

きなエネルギー需要に対応している可能性が高い。私は、がん細胞が持つ大きなエネルギー

需要、あるいはその需要を満たす特有のエネルギー代謝を標的とした新規治療戦略の構築

を目指した。

悪性黒色腫は難治性の皮膚がんであり、治療効果も十分ではない。マウス悪性黒色腫細胞

株 B16F10を正常組織由来の細胞株MEFと比較した結果、増殖、解糖系、ミトコンドリア

の呼吸が非常に活発であった。約 1000種類の植物抽出物のスクリーニングによりイタドリ

の根の抽出物が、B16F10細胞の細胞内 ATPレベルを顕著に低下させるが、MEF細胞に対

してはその作用が明らかに弱いことがみつかった。精製の結果、有効成分として emodinを

同定した。

emodinは精製前の抽出物と同様に、B16F10細胞の ATPレベルを顕著に低下させ、その

増殖を in vitro、in vivoの両方の評価系において有意に抑制した。また、emodinはミトコ

ンドリアの膜電位を速やかに低下させ、一方、酸素消費速度を上昇させた。これら2つの細

胞現象が同時に起こることから、emodinはミトコンドリアの脱共役作用を持つことが想定

された。実際、既存の 3つのミトコンドリアの脱共役剤が両細胞株の ATPレベルと増殖に

対し、emodin とよく似た作用を及ぼした。以上のことから、emodin はミトコンドリアの

脱共役剤として作用していると結論した。

emodin によるミトコンドリア膜電位の低下と呼吸の上昇は両細胞株において同程度に

観測されたが、代償的な解糖系の亢進はMEF細胞の方が明らかに顕著だった。このような

解糖系の亢進はミトコンドリアの機能障害を補うための細胞応答として知られ、“予備解糖

能”と呼ばれる。MEF細胞はこの予備解糖能により emodin存在下でも ATPレベルを保て

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るが、B16F10細胞は予備解糖能が低く、ATPレベルを維持出来ないと考えられた。これを

支持する結果として、グルコースが存在しない条件下で MEF 細胞に emodin を処理する

と、ATPレベルの低下と細胞増殖の抑制が観察された。

以上の結果は、顕著なWarburg効果を示すがん細胞で予備解糖能が低下しているケース

では、ミトコンドリア脱共役という治療戦略が有効である可能性を示している。

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1. 序論

この数十年で医療技術は大きく進歩したが、現在でも、日本人の 2 人に 1 人は生涯のう

ちにがんに罹患し、3人に 1人はがんが原因で死亡している。タイプやステージに関わらな

いがんをがんたらしめる悪性形質は、無秩序な細胞増殖である。細胞の分裂は、タンパク質

の合成、RNA(rRNA、mRNA、tRNA)の合成、DNA の複製、細胞運動など、エネルギー

を消費する多くの活動で構成される(Buttgereit, & Brand, 1995; Gibbons, & Rowe, 1965;

Summers, & Gibbons, 1971)。したがって、がん細胞の異常な増殖は、正常細胞のそれと比

べ、膨大な細胞エネルギー(ATP)需要が存在すると考えられ、ATP 低下ストレスに高い

感受性を示すのではないかと考えられる。

多くのがん細胞は、好気的条件下においても積極的に解糖系を駆動することが知られて

おり、この現象はWarburg効果と呼ばれる(Warburg, Posener, & Negelein, 1924; Warburg,

1956)。それ故に、解糖系はがんの治療標的として注目されてきた。非代謝性のグルコース

類縁体である 2-deoxy-D-glucose (2-DG)は実際に臨床の現場において、抗がん剤としての

試験が行われた。しかし強い副作用が確認されたため、単剤での適用は見送られ、現在は他

の抗がん剤との併用療法が模索されている(Vander Heiden, 2011; Mohnti, Rath, Anantha,

Kannan, & Das, 1996; Singh et al., 2005; Dwarakanath, & Jain, 2009)。

近年の疫学調査により、metforminを服用している糖尿病患者は、乳がん、大腸がん、す

い臓がん、肺がんなど種々のタイプのがん発生率が低いという結果が報告されている

(Evans, Donnelly, Emslie-Smith, Alessi, & Morris, 2005; Bodmer, Meier, Krähenbühl,

Jick, & Meier, 2010; Yin, Zhou, Gorak, & Quddus, 2013; Zhang et al., 2014; Vernieri et

al., 2016)。2000 年に metformin のがん細胞における分子標的はミトコンドリア呼吸鎖の

complexⅠであると報告され(El-Mir et al., 2000; Owen, Doran, & Halestrap, 2000)、現

在この薬剤は抗がん剤としての臨床試験が実施されている(Vernieri et al., 2016)。臨床前

の研究では、ミトコンドリアのエネルギー代謝を標的とした 2 種類のタイプの化合物の効

果が認められている(Weinberg, & Chandel, 2015)。1つ目は、電子伝達系(ETC)の構

成タンパク質の翻訳を阻害する tigecycline(Skrtić et al., 2011)、2 つ目は、heat shock

protein-90 (HSP90)と tumor necrosis factor receptor-associated protein-1(TRAP-1)

ATPaseを阻害する gemitribibである(Chae et al., 2012)。これらの阻害剤は酸化的リン

酸化(OXPHOS)による ATP産生を低下させる。

悪性黒色腫は早期から転移を起こすことなどから、最も悪性度の高いがんのひとつとして

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知られている。皮膚がんの死因の 75%以上が悪性黒色腫であり(Corrie, Hategan, Fife, &

Parkinson, 2014)、その罹患者の数は急速に増加している(Siegel, Miller, & Jemal 2018)。

ステージⅣの悪性黒色腫の場合、二年間の全生存率はわずか 10.7%である(Sandru, Voinea,

Panaitescu, & Blidaru, 2014)。近年、悪性黒色腫の新しい治療法として vemurafenib や

nivolumabなどの分子標的薬が登場し、注目を集めている(Schadendorf et al., 2018)。し

かしながら、BRAF V600E の阻害剤である vemurafenibを投与したことで腫瘍が治療抵抗

性を獲得するという問題が報告されている(Flaherty et al., 2010)。2014年には、抗 PD-

1 抗体の nivolumab が承認されたが、BRAF 変異の無い転移性悪性黒色腫に対する腫瘍縮

小効果は 40%とまだ満足できる治療成績とは言えない(Robert et al., 2015)。したがって、

このように精力的な研究が行われているにも関わらず、悪性黒色腫は未だ難治性のがんで

あり、さらなる効果的な治療戦略の構築が急務と言える。

マウスの悪性黒色腫細胞株である B16F10(Fidler, 1973)は、薬剤の抗がん作用を in vitro

と in vivo の両方で評価できる有用なモデルとして、長く利用されてきた。私は、この

B16F10細胞のATPレベルを顕著に低下させる植物抽出物として、Polygonum cuspidatum

(RPC)の地下茎の抽出物に注目した。この植物抽出物は古来より漢方の材料として用いられ、

咳、肝炎、黄疸、関節炎、火傷など様々な症状を和らげることが知られている。また、近年

の研究では、抗菌、抗ウイルス、抗炎症、脂質異常症の緩和、神経保護、心臓保護などの薬

理作用が見つかっているが(Zhang, Li, Kwok, Zhang, & Chan, 2013; Peng, Qin, Li, &

Zhou, 2013)、がん細胞の ATPを低下させるという報告は無い。私は、RPCの ATP低下作

用が emodinという成分に起因すること、またこの emodinはミトコンドリアの脱共役剤と

しての性質を持ち、B16F10細胞の増殖を顕著に抑制することを示す。本研究は、高い細胞

エネルギーの需要を持つがん、あるいは予備解糖能が低いがんに対し、ミトコンドリアの脱

共役という戦略が潜在的に新しい治療法となり得ることを示す。

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2. 結果

2-1. Polygonum cuspidatumの地下茎の抽出物が B16F10細胞とMEF細胞の ATP レベ

ルに与える影響。

B16F10細胞とマウス胚性繊維芽細胞(MEF)の増殖速度とエネルギー代謝を比較した。

B16F10 細胞は MEF 細胞に比べ、明らかに速く増殖することがわかった(Figure 1A)。

B16F10細胞が活発なエネルギー代謝を行っているかどうかを検証するため、いくつかの測

定を行った。解糖系の速度を反映する細胞外酸性化速度(ECAR)は、MEF細胞、HeLa細

胞(子宮頸癌)、A549細胞(肺癌)と比べ、B16F10細胞は突出して高い値を示した(Figure

1B、Figure 2A)。このことは、B16F10細胞が顕著にWarburg効果を示す細胞であること

を意味している。ミトコンドリアの呼吸速度を表す酸素消費速度(OCR)もまた、MEF細

胞、HeLa細胞、A549細胞と比べ、B16F10細胞は明らかに高い値を示した(Figure 1C、

Figure 2B)。さらに、B16F10 細胞はMEF細胞と比べ、非常に高いミトコンドリアの膜電

位を持つことがわかった(Figure 1D)。これらの結果は、B16F10細胞が解糖系だけでなく

ミトコンドリアの呼吸にも大きく依存したエネルギー代謝を持っていることを示唆し、ま

たこれらの活発な代謝が速い細胞増殖を支えていると推察される。私はまた、細胞溶解液の

ATPase活性を測定し(Manno、Noguchi、Fukushi、Mothohashi、& Kakizuka、2010)、

B16F10 細胞の溶解液が MEF 細胞の溶解液の約 2 倍もの ATP 加水分解活性を持つことが

わかった(Figure 1E)。これらの結果は、B16F10細胞がMEF細胞と比べ、積極的に ATP

の産生と消費を行っていることを示唆している。

当研究室の先行研究で行われたスクリーニングにより、漢方の成分として使われてきた

1000 種類以上の植物抽出物のうち、細胞内 ATP レベルを低下させるものが見つかってい

た。私は、この抽出物が「がん細胞のエネルギー状態を標的とすることで異常増殖を抑制す

る」という仮説の検証に有用ではないかと考え、まず B16F10細胞とMEF細胞に対して処

理を行い、ATP レベルを測定した。その結果、この抽出物(抽出物 A)は B16F10 細胞の

ATP レベルを顕著に低下させるが、MEF 細胞の ATP レベルは低下させないということが

わかった(Figure 3)。抽出物 Aは rhizomes of Polygonum cuspidatum(RPC)(イタドリ

の地下茎)からの抽出物である。

2-2. Polygonum cuspidatumの地下茎の抽出物が含有する ATP低下作用を持つ成分の同

定。

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RPC の抽出物に含まれる活性成分を同定するため、私は極性に基づく分画を行った

(Figure 4A)。分画には多量の抽出物が必要だったため、はじめのロット(#1)と比べると

活性の低い大容量のロット(#2)を使用した(Figure 4B)。まず、Bligh & Dayer法により

抽出物(#2)を 2つの分画、水溶性分画(F1)と脂溶性分画(F2)に分けた。これらの分

画それぞれの成分を B16F10 細胞と MEF 細胞に対し、100 μg/mL で 6 時間処理し、ATP

レベルを定量した。その結果、F2 (#2-F2と表記)が B16F10細胞の ATPレベルを大きく低

下させたが、その作用は MEF 細胞に対しては明らかに弱かった(Figure 4B)。次に、F2

を 100%の CHCl3 に溶解し、固相抽出法(SPE)によりさらに 3 つの分画、F2-1(100%

CHCl3で溶出)、F2-2(CHCl3: MeOH= 4: 1で溶出)、F2-3(CHCl3: MeOH= 1: 1で溶出)

に分けた。分画の成分それぞれ(F2、F2-1、F2-2、F2-3)を 30 μg/mLで 6時間、2つの

細胞株に処理して ATPレベルを定量した。その結果、F2と F2-1の2つが B16F10 細胞の

ATP レベルを顕著に低下させたが、その作用は F2 よりも F2-1 の方が強かった(Figure

4C)。

HPLCの分析により、F2-1は 2つの主要な成分のピークを持ち、またこれらのピークは

F2-2と F2-3ではほとんど見られなかった(Figure 5)。RPCの主要な成分がいくつか同定

されている報告から、F2-1が含有する低極性の 2成分は emodinと physcionである可能性

が高いと考えられた(Chu、Sun、& Liu、2005)。そこで emodin と physcion を購入し、

これらを標準化合物として F2-1 の成分との比較を HPLC にて行った。その結果、F2-1 の

2本のピークの保持時間(Peak A: 11.52 min, Peak B: 18.97 min)は、emodin (11.53 min)、

physcion (19.04 min)とそれぞれ非常に近いことがわかった(Figure 6A)。さらに、F2-1の

2 本のピークそれぞれの吸収スペクトルは、emodin と physcion がそれぞれもつ吸収スペ

クトルとほぼ一致した(Figure 6B)。Peak A と Peak B の構造を確認するため、F2-1、

emodin、physcionそれぞれに対し、1H-NMRによる分析を行った。Peak Aと Peak Bそ

れぞれのケミカルシフトは emodin、physcionと正確に一致し、その 2成分の F2-1中の存

在比(モル)は約 1: 0.28 (Peak A: Peak B)であることが示された(Figure 7A, B)(Danielsen,

Aksnes, & Francis, 1992)。この比率を確かめるため、F2-1の 2本のピークを、emodinと

physcionを 1: 0.28 (モル比)で混合した検体のピークと比較した。その結果、Peak Aと Peak

B のピーク面積比は、混合検体の emodin と physcion のピーク面積比と非常に近い値であ

った(Figure 8A)。以上の結果から、F2-1は 2種類の anthraquinones である emodin と

physcion(Figure 7C)を約 1: 0.28(モル比)で含有することがわかった。

次に、2 つの細胞株に対し、emodin の単剤処理 (8 μg/mL)と、emodin (8 μg/mL)と

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physcion (2.24 μg/mL)の同時処理(emodin: physcion= 1: 0.28(モル比))を行い、ATPレ

ベルを評価した。その結果、DMSOと比べ、どちらの処理もほぼ同程度に B16F10 細胞の

ATPレベルを低下させた(Figure 8B)。B16F10細胞において、physcionは emodinの作

用に干渉しなかった。しかし MEF 細胞の場合、統計学的には有意な差は無いが、emodin

と physcionの混合物を処理した場合若干の ATPレベルの低下が確認できた。この傾向は、

MEF細胞に 30 μg/mLの F2-1を処理した場合にも見られた(Fugure 4C)。これらの結果

から、RPC 抽出物に含有される、B16F10 細胞に対し顕著な ATP 低下作用を示す成分は、

emodinであると結論付けた。

2-3. emodinが in vitro、in vivoにおいて B16F10細胞の増殖に及ぼす影響。

次に私は、emodin が B16F10 細胞の増殖に与える影響を評価した。予想していた通り、

4、8、16 μg/mLの emodinは B16F10細胞の増殖を有意に抑制した(Figure 9A)。それに

対し、MEF細胞の増殖を有意に抑制した emodinの濃度は 16 μg/mLだけだった。これら

の抗増殖作用とよく似た傾向の ATPレベルの低下が emodinの 6時間処理、24時間処理で

確認できた(Figure 10A)。私はこれらの実験の対照として、深刻な副作用が臨床で確認さ

れる抗がん剤 cisplatinを2つの細胞株に処理した。その結果、cisplatinは B16F10 細胞と

MEF細胞の増殖を同程度に抑制した(Figure 9B)。cisplatinは2つの細胞株の ATPレベ

ルを低下させなかったが(Figure 10B)、これはこの薬剤の作用機序がエネルギー代謝を標

的としたものではなく、隣接するグアニン塩基やアデニン塩基間に架橋構造をつくること

で DNAの複製を阻害するものであるということと矛盾しない。MEF細胞と比べ、B16F10

細胞の ATP レベルを強く低下させるという emodin の作用を別の方法で確認するために、

AMP-activated protein kinase (AMPK)の 172番目のリン酸化を評価した。Western blot

の結果、8、16 μg/mLの emodinは B16F10細胞の AMPKのリン酸化を顕著に増加させた

のに対し、MEF細胞に対する作用は相対的に弱かった(Figure 10C)。

次に私は、より長時間 emodin の処理を行い、2 つの細胞株の増殖曲線に与える影響を評

価した(Figure 11)。4と 8 μg/mLの emodinは有意に B16F10細胞の増殖を遅延させた

のに対し(それぞれ p<0.005、p<0.005)、MEF 細胞の増殖に対する影響は明らかに弱かった

(それぞれ p=0.571、p=0.059)。反対に、cisplatinは B16F10細胞よりも、MEF細胞の増殖

を相対的に強く抑制した。さらに emodin の B16F10 細胞に対する抗増殖作用を生体内で

評価するため、マウスの皮下に B16F10細胞の腫瘍を形成させる過程で、vehicleもしくは

emodin (50 mg/kg)をマウスに投与した(Figure 12A)。emodin投与群 (n=9)の腫瘍の成長

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は、vehicle投与群(n=9)の腫瘍と比較して、有意に遅延した(Day8, 10, 12)(Figure 12B)。

2-4. emodinがミトコンドリアの機能に与える作用。

emodinは B16F10細胞の ATPレベルを低下させたことから、次に私は、emodinがミト

コンドリアの機能に与える影響を調べた。まず、tetramethylrhodamine methyl ester

(TMRM)を用いてミトコンドリアの膜電位(mitochondrial membrane potential: MMP)

を評価した結果、emodinは 30分以内にMMPを約 30%まで低下させるという急性の作用

が確認された(Figure 13A)(Qu et al., 2013)。この作用は emodinを添加して 24時間経

過しても維持された(Figure 13B)。また、emodinはMEF細胞に対しても、同程度のMMP

低下効果を示した。MMPの低下という細胞内現象は、2つの可能性を示唆している。すな

わち、ミトコンドリア呼吸鎖の阻害、もしくはミトコンドリアの膜間スペースからマトリッ

クス側へのプロトンのリークである。前者の場合は酸素消費速度(OCR)は低下し、後者の

場合は逆に増加する。そこで私は、OCRをモニターし、emodinの影響を調べるとともに、

比較対象として呼吸鎖の阻害剤である rotenoneとプロトンリークを引き起こすミトコンド

リアの脱共役剤として知られている carbonyl cyanide 3-chlorophenylhydrazone (CCCP)を

用いた。その結果、emodinと CCCPは OCRを速やかに増加させ、この増加した OCRは

呼吸鎖阻害剤の混合液(rotenone + antimycin)の添加で急速に低下した(Figure 14A)。

リークにより低下したプロトンの濃度勾配を回復させるため、OXPHOSが活性化してOCR

が上昇するという細胞応答はよく知られている。また、emodin と CCCP によって生じる

OCRの増加は、ATP合成酵素の阻害剤である oligomycin存在下でも誘導されたことから、

ATP合成酵素はこの作用に関係していないと考えられる(Figure 14B)。通常、膜間スペー

スからマトリックスへのプロトンの移動は主に ATP 合成酵素を通過することで起こるが、

CCCPのような脱共役剤と呼ばれる化合物は自身がプロトンを運ぶ。emodinと CCCPは、

MMP を速やかに低下させ、OCR を増加させるという作用がよく似ている。CCCP はプロ

トンが高濃度で存在する環境ではプロトンをトラップし、ミトコンドリアの内膜を自由に

通過し、中性の環境ではプロトンをリリースするという性質を持つ。このようなふるまいを

する脱共役剤は化学的に 2 つの性質、すなわち膜を自由に通過するための脂溶性と、中性

環境でプロトンをリリースするために弱酸であるという条件を満たす。LogP と pKa の理

論値は、emodinと CCCPで非常に近い(Figure 15)(Scifinder, accessed 2017)。

次に私は、ミトコンドリアの脱共役と emodin が誘導する細胞現象の比較を行った。3 種

類のミトコンドリアの脱共役剤、CCCP、carbonyl cyanide 4-(trifluoromethoxy)phenylhydazone

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(FCCP)、2,4-dinitrophenol (DNP)はすべて、emodin と同様に MMP を速やかに低下させた

(Figure 16A, B)。FCCP と DNP は顕著な作用では無かったが、CCCP と emodin は有意に

B16F10 細胞の ATP レベルを低下させ(Figure 17A)、3 種類の脱共役剤はすべて、MEF細胞

と比較して B16F10 細胞に強い抗増殖作用を示した(Figure 17B)。一方で、ミトコンドリア

の呼吸鎖を構成する complexⅠを阻害する rotenoneや metformin で処理した場合は、B16F10

細胞で優先的に起こる ATP レベルの低下や抗増殖作用はみられなかった(Figure 17C, D)。

むしろ ATP レベルの低下は MEF細胞のほうが大きかった(Figure 17C)。以上の結果から私

は、emodin はミトコンドリアの脱共役剤として作用すると結論づけた (Ubbink-Kok,

Anderson, & Konings, 1986; Betina, & Kuzela, 1987; Attene-Ramos et al., 2013)。

2-5. ミトコンドリアの脱共役剤に対する B16F10細胞とMEF細胞の予備解糖能の比較。

emodin と他のミトコンドリア脱共役剤は B16F10 細胞に対し相対的に強く作用するこ

とから、次に私は、もうひとつのエネルギー産生系である解糖系に及ぼす影響を調べた。は

じめに、培養液中のグルコースの消費速度を測定した。その結果、emodinと他のミトコン

ドリア脱共役剤はMEF細胞のグルコース消費を大きく亢進させることと、B16F10細胞に

対する作用は比較的小さいことがわかった(Figure 18A)。次に細胞外酸性化速度(ECAR)

をモニターし、3種類のミトコンドリア脱共役剤、2-deoxy-D-glucose (2-DG)を順番に添加

して影響を調べた。emodin は自家蛍光が干渉するため、このシステムで ECAR を測定で

きなかった。結果、ミトコンドリア脱共役剤は MEF 細胞の ECAR を添加前の3~5倍に

上昇させた(Figure 18B, C 右)。このような、ミトコンドリアの機能不全に直面した細胞

が解糖系を活性化させるという代償作用は“予備解糖能”と呼ばれ、細胞内の ATPレベル

の保持が目的と考えられている。一方で、ミトコンドリア脱共役剤に対する B16F10 細胞

の ECARの上昇は 50-80%にとどまった(Figure 18B, C 左)。さらに、私は他のがん細胞

株である HeLa 細胞と A549 細胞でも、ミトコンドリアの機能阻害に対する予備解糖能を

評価した。これら 2つのがん細胞株の予備解糖能はB16F10細胞よりも高く(Figure 19A)、

また emodinやミトコンドリア脱共役剤の処理に対し、細胞増殖は大きな影響を受けなかっ

た(Figure 19B)。

次に私は、B16F10 細胞と MEF 細胞に対し、異なるグルコース濃度条件下で emodin を

処理し、ATPレベルを測定した。その結果、すべてのグルコース濃度条件下(200、 100、

50、 0 mg/dL)において、8 μg/mLの emodinは B16F10細胞の ATPレベルを顕著に低下

させた(Figure 20左)。それに対しMEF細胞では、0 mg/dLのグルコース濃度条件下で 8

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μg/mLの emodinを処理した場合のみ ATPレベルを維持できないことがわかった(正確に

は、FBSが含有するグルコースが含まれるので 0 mg/dLではない)(Figure 20右)。そし

て、このようなグルコース非存在下において emodin により誘導される MEF 細胞の ATP

レベルの低下は、TCA 回路で代謝されるピルビン酸の添加では抑えられなかった(Figure

21A)。さらに、0 mg/dL のグルコース条件下では、8 μg/mL の emodin はMEF細胞の増

殖を有意に抑制した(Figure 21B, C)。これらの結果から、MEF細胞の emodinに対する

抵抗性は予備解糖能に起因していると考えられる。

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3. 考察

無秩序な細胞増殖や浸潤・転移など、がん細胞が持つ悪性の形質はすべて、活発すぎる細

胞活動と言えるものであり、正常細胞と比べて大きなエネルギー需要とそれを満たす供給

システムを備えているはずである。Warburg 効果はその代表的なシステムであると考えら

れる。こうしたがん細胞が持つ特徴的なエネルギー代謝は治療標的として大きな可能性を

秘めている。ATP レベルの下方制御は、がん細胞の異常増殖を抑えるためのシンプルで効

果的な戦略であり、実際にミトコンドリアの呼吸鎖を阻害する metformin は抗がん剤とし

ての臨床試験が行われている。

当研究室は 1000種類以上の植物抽出物を保有し、様々な生物学的活性を示す抽出物が確

認されている。その中で私は、先行研究で細胞内の ATPレベルを低下させたというイタド

リ(polygonum cuspidatum (RPC))の地下茎の抽出物に注目し、がん細胞と正常組織に由

来する細胞に対する効果を比較することにした。その結果、増殖とエネルギー代謝が非常に

活発なマウス悪性黒色腫細胞 B16F10 に対し、RPC の抽出物は効果的に ATP レベルと増

殖速度を低下させ、一方でmouse embryonic fibroblast (MEF)細胞に対する作用は明らか

に弱いということがわかった。精製した結果、RPC 抽出物の活性成分が emodin という

anthraquinone の一種であることが判明した。emodin の研究の歴史は長く、こでまでに

様々な植物から抽出されており、抗がん作用、肝臓保護作用、抗炎症作用、抗菌作用、抗酸

化作用など種々の薬理効果が報告されている(Dong et al., 2016)。当研究室が保有する 1000

種類以上の植物抽出物のうち、他に B16F10細胞の ATPレベルを顕著に低下させるものが

見つからなかったことから、RPC の抽出物が非常に豊富に emodin を含有していることが

示唆される。

がん治療において、emodinが潜在的に持つ可能性は大きい。MEF細胞の ATPレベルを

ほとんど低下させない処理濃度で、B16F10 細胞の ATP レベルを劇的に低下させることが

できる。さらに細胞増殖の抑制についても同じことが言える。このような emodin の性質

は、広く抗がん剤として利用されている cisplatin とは対照的である。cisplatin は ATP レ

ベルを低下させず、また細胞増殖の抑制については B16F10 細胞に対するそれと同程度も

しくはそれ以上に MEF 細胞に強く作用する。MEF 細胞の増殖を相対的に強く抑制するこ

とは、臨床の現場において cisplatinが高頻度で重篤な副作用を発生させるという事実を反

映していると考えることができる(Thang, Al-Fayea, & Au, 2009)。したがって emodinは、

cisplatinよりも小さい副作用で抗腫瘍効果を示す可能性を秘めている。emodinの抗腫瘍効

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果は、B16F10 細胞をマウスの皮下に移植することで評価した。emodin の投与(50

mg/kg/day)は有意に腫瘍の成長を抑制した。これらの結果は、がん細胞の ATP を下方制

御することが将来的な治療戦略となり得ることを示している。

emodin の抗増殖作用はどのようなメカニズムなのか。emodin は細胞内の酸化ストレス

を誘導するという報告があるが(Qu et al., 2013; Su, Chang, Shyue, & Hsu, 2005)、私が

行った実験では、emodin誘導性の抗増殖作用を抗酸化剤であるN-acetyl-L-cysteine (NAC)

で打ち消すことができなかった(Figure 22)。この時用いたNACの濃度は 1 mMであった

が、同じ濃度のNACは過酸化水素が引き起こす細胞毒性を明白に打ち消した。したがって、

emodin が B16F10 細胞の増殖を抑える作用に酸化ストレスの惹起は主要なメカニズムで

はないと考えられる。私は自身が行った実験で、emodin が OCR を増加させることを確認

している。一般に OCRの増加はマトリックスから膜間スペースへのプロトンの移動を促す

ため、MMPの上昇につながる。しかし、emodinはMMPを速やかに低下させた。これら

の結果は、emodinがプロトンを逆輸送して濃度勾配を解消させる方向に働いたことで、ミ

トコンドリアが呼吸鎖を活性化して勾配を回復させようとした結果、OCR が上昇したこと

を示唆している。すなわち、emodin はミトコンドリアの呼吸と ATP 合成を脱共役させた

と考えられる。この考えを支持する結果として、実際にミトコンドリアの脱共役剤として知

られている CCCP、FCCP、DNP は、OCR と MMP において emodin と同じ挙動を示し

た。また、これらの脱共役剤は、MEF 細胞と比較して B16F10 細胞で強く ATP レベルの

低下と抗増殖作用を誘導した。加えて、ある程度以上の脂溶性を持つ弱酸であるという脱共

薬剤としての化学的性質の必要条件を、emodinは満たしていると考えられる。まとめると、

emodinによる抗増殖作用は、ミトコンドリアの脱共役剤としての性質に起因すると思われ

る。いくつかの報告により、emodinはある種のがん細胞に対する抗増殖作用や細胞死誘導

作用、そしてそれらの細胞現象を説明する種々の分子的挙動が知られている。例えば、ミト

コンドリアのアポトーシスシグナルの活性化、FASリガンド下流のシグナルの活性化、cell

stemnessに関わるシグナルの減弱、ERαの発現レベルの低下などが挙げられる(Dong et

al., 2016)。しかしながら、emodin を処理したがん細胞における分子的なイニシャルイベ

ントははっきりしていない。さらに、私が悪性のがん細胞で観測したミトコンドリアの脱共

役と ATP レベルの下方制御という、emodin の特筆すべき性質について注目した報告は存

在しない。

emodinやミトコンドリアの脱共役はMEF細胞と比べ、B16F10細胞の ATPレベルを大

きく低下させたが、MMP の低下や OCR の上昇は2つの細胞株間で明白な差がなかった。

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そこで私は、ミトコンドリアの脱共役の程度に差異があるのではなく、脱共役に対する2つ

の細胞株の応答が違うのではないか、と考えた。その結果、emodinやミトコンドリアの脱

共役はMEF細胞のグルコース消費量を 300~450%まで増加させるのに対し、B16F10 細胞

では 170~190%程度であることがわかった。さらにこれと一致する結果として、ミトコンド

リアの脱共役は MEF 細胞の ECAR を劇的に増加させたのに対し、B16F10 細胞での増加

は明らかに小さかった(emodinの ECARは自家蛍光の干渉により測定できなかった)。さ

らにMEF細胞は、グルコース存在下では 8 μg/mLの emodinに対し ATPレベルがほとん

ど変動しなかったが、グルコースが存在しない条件下で同じ濃度の emodin を処理すると、

ATPレベルを維持することが出来なくなった。以上の実験結果から、B16F10細胞はMEF

細胞と比較して予備解糖能が低く、それ故に emodinやミトコンドリアの脱共役に対する感

受性が高く、相対的に大きな ATPレベルの低下と顕著な増殖の抑制が誘導されると考えら

れる (Figure 23)。したがって、ミトコンドリアの脱共役に対し、ATPレベルを維持する上

で予備解糖能の果たす役割は大きい。一般に腫瘍は、無秩序な細胞増殖の結果、多くの低酸

素領域をその中に生じさせる。この低酸素環境はがん細胞の解糖系を亢進させ、より

Warburg 効果を顕著に示すようになり、結果として予備解糖能は低下していくと推察され

る。私は、単剤あるいは既存の治療法と併用することで、がん治療に貢献する可能性を秘め

た新しい戦略として、ミトコンドリアの脱共役によるがん細胞の ATPレベルの下方制御と

いう概念を提案する。

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4. 実験材料と方法

4-1. 細胞培養

B16F10細胞(理化学研究所バイオリソースセンター)とMEF細胞(自然に不死化した

マウス胚性繊維芽細胞。米原伸先生(京都大学)から提供して頂いた株。)は、Roswell Park

Memorial Institute medium (RPMI、ナカライテスク)で培養した。HeLa(米原伸先生(京

都大学)から提供して頂いた株)と A549(理化学研究所バイオリソースセンター)は

Dulbecco Modified Eagle medium (DMEM、ナカライテスク)で培養した。細胞培養は 10%

のウシ胎児血清(Sigma)を培養液に添加し、5%の二酸化炭素濃度、37℃、高湿度を維持

したインキュベータ内で行った。すべての細胞株は、MycoAlert (Lonza)を用いて定期的に

マイコプラズマ感染を検査した。

4-2. 植物抽出物と試薬

植物抽出物は中国漢方薬の輸入業者から購入した。試薬の入手先は以下の通り:emodin

(東京化成)、 physcion (LKT Laboratories)、 dimethyl sulfoxide (DMSO)(ナカライテスク),

polyethylene glycol 400 (PEG400)(HAMPTON)、 cisplatin (CDDP)(日本化薬)、 rotenone

(Sigma) 、 antimycin (Sigma) 、 oligomycin (Sigma) 、 carbonyl cyanide 3-

chlorophenylhydrazone (CCCP) ( ナ カ ラ イ テ ス ク ) 、 carbonyl cyanide 4-

(trifluoromethoxy)phenylhydazone (FCCP) (Santa Cruz Biotechnology) 、 2,4-

dinitrophenol (DNP)(Sigma-Aldrich)、metformin (Sigma)、 2-deoxy-D-glucose (2-DG) (ナ

カライテスク)。

4-3. 細胞外フラックスアナライザー(XF96システム)

細胞外酸性化速度(ECAR)と酸素消費速度(OCR)は、Seahorse extracellular flux

analyzer 96 (Agilent)を用いて、使用説明書に従って測定した。大まかな手順は、まず測定

したい細胞を 1x104個 /ウェルで Seahorse XF96 Cell Culture Microplateに播種し、約 24

時間培養した。培養液を低 pH干渉能の測定用培養液(Agilent)に交換し、XF96本体にセ

ットした。emodinやその他の薬剤は任意の時点で自動的に添加されるよう入力した。測定

後、細胞は固定し(20% formaldehyde、2% glutaraldehyde、PBS(Ca2+不含Mg2+不含))、

Hoechst33342(Invitrogen)にて核染色を行った。ArrayScan VTI High Content Platform

(ThermoFisher Scientific)にて自動的に核の数を計数し、これをウェルあたりの細胞数とし

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て ECARと OCRを標準化して 1x104個あたりの測定値を算出した。

4-4. ATPase活性試験

100 mmのディッシュで培養した細胞を ice-cold PBSで洗浄し、500 μLの ice-cold ATPase

buffer (50 mM Tris-HCl, 250 mM sucrose, 5 mM MgCl2, 0.5 mM EDTA, 0.3 mM DTT)で

スクレイパーを用いて細胞を回収した。回収した細胞は 27G のニードルと 1 mL のシリン

ジを用いてよく破砕し、12,000 rpm、4℃、10分間の遠心を行った。上清(細胞溶解液)を

新しいチューブに移し、一部を bicinchoninic acid assay (BCA、ナカライテスク)の検体に

用いてタンパク質量を測定した。細胞溶解液を ATPase bufferにて希釈して 20 μL の溶液

中にタンパク質が 1 μg 含まれるようにし、37℃で 15 分間インキュベートした。インキュ

ベートの後、100 μM [γ-32P] ATP (18.5 GBq/mmol)を含む 20 μL の ATPase assay buffer

(1mM HEPES[pH 7.4], 2.5 mM KCl, 5 mM MgCl2, 50 μM ATP, 15 mM DTT)を加え、37℃

で 20 分間、ATP 加水分解反応を進行させた。反応を停止するために ice-cold 8% TCA を

200 μL 加え、さらに 50 μL の solution A (3.75% ammonium molybdate, 0.02 M

silicotungstic acid in 3 N H2SO4)と 300 μLの n-butyl acetateを添加した。きちんと混合

した後、15,000 ×gで 5分間、室温で遠心を行った。2層に分かれたのを確認し、上清 200

μLを 2 mLの clear-sol Ⅱと混合し、32Pのリリースに伴い発生する放射線を液体シンチレ

ーションカウンター(PerkinElmer)にて測定した。放射線量の相対値を結果に示す。

4-5. ミトコンドリアの膜電位(MMP)の評価

コラーゲンコートした 35 mm のガラスボトムディッシュ(Mat-Tek)に細胞を播種し、

10% FBS の RPMI(フェノールレッド不含、ナカライテスク)に希釈した 50 nM の

tetramethylrhodamine methyl ester (TMRM)(Invitrogen)に培養液を交換した。37℃で 30

分間インキュベートした後、NIS-Elements (Nikon)で制御された Nikon Ti-E inverted

microscopeを用いて、60倍の対物レンズ (Nikon; CFI Plan Apo λ 60× oil: NA 1.40)で

画像撮影を行った。フィルターセットは以下を使用した:TMRM の撮影には 562/40 の励

起フィルターとダイクロイックミラーFF593、641/75 の蛍光フィルター。検体からの蛍光

は Zyla4.2 sCMOSカメラ(ANDOR)を使用。すべての撮影は、stage-top incubator (Tokai

Hit)を用いて 37℃、95%の空気と 5%の CO2 の持続的な供給条件下で行った。撮影した画

像はMetaMorph (Molecular Devices)で解析した。

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4-6. ルシフェラーゼ法による ATPレベルの定量

細胞を 24 ウェルプレートに播種して約 24 時間培養した後、薬剤処理を行った。薬剤処

理は 6時間、もしくは 24時間行い、培養液ごと取り除いた後、PBSで細胞を慎重に洗浄し

た。200 μlの Glo Lysis Buffer (1×, Promega)をウェルごとに添加し、約 5分間インキュ

ベートした。プレートシェイカーでウェル内の細胞溶解液を 1分間撹拌し、上清を 96ウェ

ルプレートに移した。ATP assay reagent (ToyoB-net)を自動的に 50 μlずつ各ウェルに添

加し、生物発光を順次検出するよう ARVO (PerkinElmer)を設定し、測定を行った。各ウェ

ルの発光量はタンパク質量(Assay Bicinchoninate kit (ナカライテスク))で標準化した。

4-7. Bligh & Dyer法

70-80 mgの植物抽出物を 3.8 mLの solvent 1 (chloroform: methanol: water, 1ml: 2ml:

0.8ml)に懸濁し、ボルテックスにより撹拌した。室温で 10 分間インキュベートした後、2

mLの solvent 2 (chloroform: water, 1ml: 1ml)を加え、ボルテックスで混和した。再び室温

で 15分間インキュベートし、4℃で 10,000 rpmの遠心を 15分間行った。上清(水溶性分

画)を F1、下層(脂溶性分画)を F2として分離し、それぞれ乾燥させ、重量を測定した。

乾燥重量は、分画前の抽出物に対し、F1が約 70%、F2が約 10%で、残りの 20%は遠心後

に中間層を形成した不溶性成分等だと考えられる。

4-8. 固相抽出法

乾燥させた脂溶性分画(F2)を 100% chloroformに溶解させ、Sep-Pak Plus Silica column

(Waters)を用いてさらに分画を行った。カラムにロードする前に、Acrodisc LC 25 mm

Syringe Filter with 0.45 μm PVDF Membrane (Pall corporation)を用いて検体をろ過した。

ろ過したF2検体をカラムにロードし、順に、100% chloroform (F2-1)、chloroform: methanol

(4:1) (F2-2)、chloroform: methanol (1:1)(F2-3)で溶出を行い、3つの分画を得た。それぞれ

の分画は乾燥させた後に dimethyl sulfoxide (DMSO)に溶解させ、生物学的な試験に使用し

た。

4-9. HPLC

逆相HPLCによる分析には、Alliance 2690 HT (Waters)、996 Photodiode Array Detector

(Waters)、Mightysil RP-18 150-4.6 (particle size 5 μm) HPLC column(関東化学)を用い

た。50 μlのろ過した検体をカラムに流し、移動相は、(0.1% TFAを含む acetonitrile: 0.1%

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TFAを含む水)の比率を(40:60)から(90:10)に 30分間かけて一定の割合で変化させた。

移動速度は 1.0 ml/ 分でカラム温度は 40℃。

4-10. 1H-NMR

JNM-AL 400 (JEOL)を用い、400 MHzで測定した。DMSO-d6を溶媒に用い、Me4Si (δ

0.00)を基準にして解析を行った。また、化合物のピークは s (singlet)、brs (broad singlet)、

d(doublet)を組み合わせることで示した。

4-11. トリパンブルー染色

細胞を薬剤で処理した後、浮遊細胞と接着細胞の両方をチューブに回収した。チューブを

6,000 rpm で 5 分間遠心し、ペレットを任意の量の PBS に再懸濁した。10 μl の細胞懸濁

液を同じく 10 μlのトリパンブルー染色液(0.4%, Gibco by Life Technologies)と混合し、

TC10 Automated Cell Counter (Bio-Rad)により総細胞数と生細胞数を計数した。

4-12. Western blotting

細胞を RIPA buffer (5 mM EDTA (Dojindo), 0.1% CHAPS (Dojindo), 1 mM NaF

(Nacalai), 1 mM NaVO4 (Nacalai), 1 mM NaPPi (Dojindo), 0.5 mM PMSF (Nacalai),

1×protease inhibitor cocktail (Nacalai), 0.5 mM DTT (Nacalai), 5 mM β-glycerophosphate

(Sigma))で回収し、氷上でソニケーションによる破砕を行い、続いて 4℃、15,000 rpm で

5分間遠心した。上清のタンパク質濃度を BCA法(ナカライテスク)により定量し、10 μg

/ウェルとなるようにロードして SDS-PAGE による分離と、polyvinylidene fluoride

membranes (Millipore)への転写を行った。使用した一次抗体は次の通り:anti-phospho-

AMPKα (Thr172) (1:1,000, Cell Signaling Technology, #2535S)、 anti-AMPKα (1:1,000,

Cell Signaling Techonology, #2603S)、 anti-actin (1:1,000, Millipore, MAB1501)、 anti-

p53 (FL-393) (1:200, Santa Cruz Biotechnology, sc-6243)、anti-p21 (C-19) (1:200, Santa

Cruz Biotechnology, sc-397)。二次抗体は、HRPが結合したものを GE Healthcareから購

入し、シグナルの検出はEnhanced Chemiluminescence (GE Healthcare)を用いて行った。

4-13. 腫瘍の成長評価

100 mm ディッシュで培養した B16F10 細胞を 0.25% trypsin で剥離し、培養液

(RPMI1640、10% FBS)で回収した後、1,000 rpmで 3分間遠心した。得られたペレッ

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トから培養液をきちんと除くために、PBS に再懸濁し、再び同じ条件の遠心を行った。次

にペレットを少量の PBSに懸濁して細胞数を計数し、PBSで 4×106個 /mLとなるように

希釈した。この細胞懸濁液を 50 μl (2×105)ずつ C57BL/6Nマウス(メス、7~8週齢)の右

腹側部の皮下に注入した(Day0)。翌日(Day1)から、DMSOと PEG400の混合液(容積

比は 1: 1)に溶解した emodinを 12日間、50 mg/kgで腹腔内投与した。Day8、9、10の

時点において、腫瘍の長径(A mm)、短径(B mm)、高さ(C mm)を測定し、楕円体と仮

定して容積を算出した(A×B×C×0.52)。動物実験は、京都大学動物実験委員会の承認を

得て実施した。

4-14. グルコース消費量の測定

細胞を 24ウェルプレートに播種して約 24時間の培養を行い、200 μlの試験薬剤を含む

培養液に交換して 4時間インキュベート(通常の培養条件)した。細胞を培養した薬液を回

収して 6,000 rpmで 5分間遠心し、Glucose C2 assay kit (Wako)を用いてグルコース濃度

を測定した(手順は使用説明書に従った)。試験薬剤が上記 kit の反応に干渉する可能性を

考慮し、細胞に処理しなかった薬液(培養液)の測定も行った。

4-15. 統計学的評価

統計学的有意差は、Student’s t testもしくは Dunnett’s testにより検定した。

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謝辞

本学位論文は以下の学術論文の内容に基づいて書かれたものである。

Yuma Sugiyama, Toshiyuki Shudo, Sho Hosokawa, Aki Watanabe, Masaki Nakano, Akira Kakizuka.

emodin, as a mitochondrial uncoupler, induces strong decreases in ATP levels and proliferation of

B16F10 cells, owing to their poor glycolytic reserve. Genes to Cells (in press)

本研究を進めるにあたり、最後まで熱心にご指導して下さいました京都大学大学院生命

科学研究科・高次生命科学専攻・高次生体統御学分野の垣塚彰教授に深く感謝致します。ま

た、先行研究により貴重な実験結果を残してくださいました渡邉亜紀さん、化合物の精製・

単離に尽力して下さいました首藤敏之研究員と細川翔君、本研究の方向性を決める上で重

要かつ活発な議論をしてくれた中野将希君に深く感謝致します。

当研究室に貴重な細胞株を提供して下さった京都大学大学院薬学研究科・薬学部・寄付講

座・ナノバイオ医薬創成科学の米原伸教授(当時、京都大学大学院生命科学研究科・高次生

命科学専攻・高次遺伝情報学)、共通機器を用いた測定方法について御指導を頂きました京

都大学大学院医学研究科・医学研究支援センターの奥野友紀子特定講師に深く感謝致しま

す。

また貴重なアドバイスを下さいました今村博臣准教授、笹岡紀男助教、竹安邦夫名誉教授、

そして研究をサポートして下さいました研究室のスタッフと学生の皆様、最後まで支えて

くれた家族に感謝致します。

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A B

C D E

Figure 1. B16F10細胞とMEF細胞の細胞増殖速度とエネルギー代謝の比較

(A) 24時間おきに3日間、総細胞数を計数し、2つの細胞株の増殖速度を比較した。グラフはn=3の平均値±SD。

(B)(C) XF96システム(Seahorse)を用いて細胞外酸性化速度(ECAR)(B)と酸素消費速度(OCR)(C)を測定し、2つの細胞株のエネルギー代謝を比較した。(解糖系によるECAR)=(通常状態のECAR)ー(100 mM 2-deoxyglucoseを添加した後のECAR)。(ミトコンドリアのOCR)=(通常状態のOCR)ー(rotenone+antimycin (それぞれ3 μM)を添加した後のOCR)。B16F10:n=5、MEF:n=3。

(D) Tetramethylrhodamine methyl ester (TMRM)を添加して、通常状態のミトコンドリア膜電位(MMP)を2つの細胞株で比較した。グラフは個々の細胞の蛍光強度の平均±SD。B16F10:n=22、MEF:n=28。

(E) 2つの細胞株それぞれの細胞溶解液のATP分解活性を改変モリブデン酸アッセイで評価した。グラフは3つの反応系の平均±SD。

(B-E) B16F10細胞 vs. MEF細胞でStudent’s t-testを行った結果、*p<0.05、***p<0.005であった。

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A B

Figure 2. B16F10細胞に対するMEF細胞、HeLa細胞、A549細胞のエネルギー代謝の比較

(A)(B) XF96システム(Seahorse)を用いてECAR(A)とOCR(B)を測定し、B16F10細胞に対するMEF細胞、HeLa細胞、A549細胞のエネルギー代謝を比較した。(解糖系によるECAR)=(通常状態のECAR)ー(100 mM 2-deoxyglucoseを添加した後のECAR)。(ミトコンドリアのOCR)=(通常状態のOCR)ー(rotenone+antimycin (それぞれ3 μM)を添加した後のOCR)。B16F10:n=3、MEF:n=3、HeLa: n=3、A549: n=5。グラフは平均値±SD。B16F10細胞に対する各細胞の値をDunnett’s testにより評価した結果、***p<0.005であった。

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Figure 3. 未精製の各種植物抽出物が細胞内ATPレベルに及ぼす影響

B16F10細胞とMEF細胞それぞれを各種の植物抽出物(A: Rhizoma Polygonum cuspidatum、B: Rhizoma Cortex periplocae、C: Fructu Cucurbitae moshatae、D: Flos Chrysanthem、E:

Semen Lepidii)を添加して6時間培養し、ルシフェラーゼ法によるATPレベルの測定を行った。各ウェルのATPレベルをタンパク質量で標準化し、平均値±SDでグラフ化した。有意差検定はDunnett’s testで行い、*p<0.05、***p<0.005 (B16F10細胞、vs. DMSO)、†p<0.05、††p<0.01、N.S.(not significant)(MEF細胞、vs. DMSO)。

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AB

C

Figure 4. Polygonum cuspidatumの根の抽出物の分画とATP低下効果の評価

(A) 極性の差異を利用したpolygonum cuspidatumの根の抽出物の分画。(B)(C) ルシフェラーゼ法によるATPレベルの測定。測定の前に、各細胞株をDMSO、#1 (crude、

Lot.1)、#2 (crude、Lot.2)、#2-F1、#2-F2でそれぞれ6時間処理した(B)。(C)では、各細胞株を#2

(crude、Lot.2)から分画したF2、F2-1、F2-2、F2-3、DMSOでそれぞれ6時間処理した。結果は平均値±SD。統計処理はDunnett’s testにより行い、***p<0.005 (B16F10, vs. DMSO)、††p<0.01、†††p<0.005 (MEF, vs. DMSO)、N.S. (not significant)であった。

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Figure 5. 逆相HPLCによるSPE後の3つの分画の分析

SPE後の3つの分画、F2-1、F2-2、F2-3を逆相HPLCで分析した。結果は、210から600 nmの立体クロマトグラムで表した。

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A

B

Figure 6. 逆相HPLCによるF2-1と標準品化合物のemodin、physcionとの比較

SPEで得たF2-1、購入した標準化合物emodinとphyscionそれぞれをアセトニトリルに溶解した検体をMightysil RP-18 GP 150-4.6 (5 μm) カラムに注入し、アセトニトリルの比率を40%-90%(残りの成分は0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)を含む水)へ30分間で移行させるリニアなグラジエントプロトコルで分析した。(A)は254 nmのクロマトグラムを示し、(B)は210 nmから600 nmの吸収スペクトルを示している。

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A

B

C

Figure 7. ¹H-NMR (DMSOd₆) によるF2-1が含有する成分の構造確認

(A) ¹H-NMR (DMSOd₆) によるF2-1の分析結果。(B) ¹H-NMR (DMSOd₆) による標準化合物のemodinとphyscionの分析結果。(C) 2種類のアントラキノン、emodinとphyscionの構造。

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A

B

Figure 8. F2-1が含有する2成分の存在比とATP低下作用の評価

(A) 逆相HPLCで分析した際の254 nmのクロマトグラム。F2-1が含有する2つの成分のピーク面積比と、標準化合物のemodinとphyscionを混ぜた検体(emodin: physcionの分子量比は1: 0.28)の2成分のピーク面積比の比較。

(B) ルシフェラーゼ法によるATPレベルの定量。B16F10細胞、MEF細胞をDMSO、標準化合物(emodin単独処理、もしくはemodinとphyscionを分子量比1: 0.28で同時処理)で6時間処理し、細胞溶解液のATPレベルを定量した。結果は4ウェルの平均値±SD。統計学的有意差はDunnett’s test (vs. DMSO)で検定し、***p<0.005、N.S. (not significant)であった。

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A

B

Figure 9. B16F10細胞とMEF細胞の増殖にemodin、cisplatin(CDDP)が与える影響

(A) B16F10細胞とMEF細胞それぞれをDMSO、もしくは各濃度のemodin (2、4、8、16 μg/mL)で24

時間処理し、トリパンブルー染色によって総細胞数と生細胞数を計数した。グラフは3回の独立試行の平均値±SEを示す。

(B) B16F10細胞とMEF細胞それぞれをDMSO、もしくは各濃度のcisplatin (CDDP) (10、30、100

μM)で24時間処理し、トリパンブルー染色によって総細胞数と生細胞数を計数した。グラフは平均値±SD。

(A)(B) 統計学的有意差は総細胞数 (Total)に対しDunnett’s testにより検定し (vs. DMSO)、*

p<0.05、*** p<0.005 (B16F10)、†† p<0.01、††† p<0.005 (MEF)であった。

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Figure 10. B16F10細胞とMEF細胞に対するemodinのATP低下作用

(A) ルシフェラーゼ法によるATPレベルの定量。2つの細胞株それぞれに対し、DMSO、各濃度のemodin (2、4、8、16 μg/mL)を6時間(左)、もしくは24時間(右)処理した後、細胞溶解液のATPレベルを測定した。グラフはATPレベルをタンパク質量で標準化し、3回の独立試行の平均値±SE

で表示。(B) ルシフェラーゼ法によるATPレベルの定量。2つの細胞株それぞれに対し、DMSO、各濃度の

cisplatin (CDDP) (10、30、100 μM)を6時間処理し、細胞溶解液のATPレベルを測定した。グラフはATPレベルをタンパク質量で標準化し、平均値±SDで表示。

(C) それぞれの細胞株の溶解液をウエスタンブロット法で評価した。溶解前、DMSO、emodin (8、16

μg/mL)、CDDP (30、100 μM)でそれぞれ6時間処理した。AMPKの172番目のスレオニンのリン酸化レベルと、AMPKαとp53とactinの発現レベルを評価した。

(A)(B) 統計学的有意差はDMSOに対してDunnett’s testで検定し、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005 (B16F10)、†p<0.05 (MEF)、N.S. (not significant)であった。

A

B

C

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Figure 11. B16F10細胞とMEF細胞の増殖曲線に対するemodin、cisplatin (CDDP)の影響

2つの細胞株をDMSO、各濃度のemodin (4、8 μg/mL)、もしくは各濃度のcisplatin (CDDP)(1、2

μM)で3日間の処理を行い、継時的に (Day0、1、2、3)ウェルあたりの総細胞数を計数した。グラフは3回の独立試行の平均値±SEを示し、Dunnett’s testによりDay3の統計学的有意差を算出した(vs. DMSO)。

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A

B

Figure 12. emodinがB16F10細胞の腫瘍の成長に及ぼす影響

(A) 腫瘍の成長に対するemodinの薬理効果を評価する実験系のデザイン。C57BL/6N (♀)の側腹部 (皮下)にB16F10細胞 (PBSに懸濁した2x10⁵ 個の細胞)を移植し、翌日から1日に1回、vehicle

もしくはemodin (50 mg/kg body weight)を腹腔内に投与した。(B) Vehicle投与群マウスとemodin投与群マウスの腫瘍サイズの比較。各ドットは個々のマウスに形成させた腫瘍の容積を示し、水平のバーは各群の平均値を示す。Student’s t-testによりDay8、9、12各時点での統計学的有意差を算出し (vehicle vs. emodin)、*p<0.05、**p<0.01であった。

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A B

Figure 13. emodinがミトコンドリア膜電位 (MMP)に及ぼす影響

(A) 2つの細胞株それぞれをコラーゲンコートしたガラスボトムディッシュに播種し、24時間培養した。培養液を蛍光試薬を含むもの (50 nM TMRM、1 μg/mL Hoechst33342、フェノールレッド不含)に交換してさらに30分間37℃でインキュベートを行った。emodin (8 μg/mL)添加前と添加後15分、30分の蛍光画像を撮影し、個々の細胞のTMRMの蛍光輝度 (MMP)を、MetaMorph (Molecular

Devices)を用いて計算した。結果は箱ひげ図で示す。統計学的有意差はDunnett’s testによって算出し、***p< 0.005 (B16F10、vs. 0 min)、††† p< 0.005 (MEF、vs. 0 min)であった。

(B) (A)と同様の実験を、前もって24時間、DMSOあるいはemodin (8 μg/mL)で処理した細胞に対して行った。結果は箱ひげ図で示す。統計学的有意差はStudent’s t-testで評価し、***p< 0.005 (vs.

DMSO)であった。

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A

B

Figure 14. emodinがミトコンドリアの呼吸に与える効果

(A) 2つの細胞株を播種後約24時間培養し、培養液をXF RPMI-based medium (炭酸水素ナトリウム不含、Seahorse)に交換した。XF96システム(Seahorse)によりOCRをモニターし、途中2回の薬剤添加を行った。インジェクションAでは、emodin (添加後の濃度8 μg/mL)、CCCP (添加後の濃度5 μM)、もしくはrotenone (添加後の濃度0.3 μM)を添加。インジェクションBでは、complexⅠの阻害剤の混合液 (rotenone +antimycin、それぞれの添加後の濃度3 μM)を添加した。グラフは、5ウェルの平均値±SD。

(B) (A)と同様の方法で2つの細胞株のOCRをモニターし、途中3回の薬剤添加を行った。インジェクションAではoligomycin (添加後の濃度3 μM)、インジェクションBではemodin (添加後の濃度8

μg/mL)もしくはCCCP (添加後の濃度5 μM)、インジェクションCではcomplexⅠの阻害剤の混合液 (rotenone +antimycin、それぞれの添加後の濃度3 μM)を添加した。グラフは、5ウェルの平均値±SD。

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Figure 15. データベース (SciFinder)に記録されているemodinとCCCPの物性についての理論値 (pKaとlogP)

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A

B

Figure 16. emodinもしくはミトコンドリア脱共薬剤の処理によるミトコンドリア膜電位(MMP)の変化

(A) 50 nM TMRMと1 μg/mL Hoechst33342で細胞を染色し、emodinもしくはミトコンドリア脱共役剤を添加する前と添加後30分のMMP (TMRM)を撮影した。薬剤添加によるMMPの変化を視覚的に比較するために、MEF細胞のMMPの輝度は増幅して示している。スケールバーは50 μm。

(B) MEF細胞のMMPの輝度を増幅する前の(A)と同じ画像。

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A B

C D

Figure 17. ミトコンドリア脱共薬剤とcomplexⅠ阻害剤が、2つの細胞株のATPレベルと増殖に与える効果

(A)(B) 2つの細胞株をそれぞれをDMSO、emodin、ミトコンドリア脱共役剤 (CCCP、FCCP、DNP)、あるいはCDDPで6時間培養し、ルシフェラーゼ法によるATPレベルの定量を行った(A)。また同様の薬剤処理を24時間行い、トリパンブルー染色により総細胞数と生細胞数を計数した (B)。それぞれのグラフは3ウェルの平均値±SD。統計学的有意差はDunnett’s testで評価し、*p< 0.05、***

p< 0.005 (B16F10、vs. DMSO)、†p< 0.05、††† p< 0.005 (MEF、vs. DMSO)であった。(C)(D) 2つの細胞株それぞれをDMSO、もしくはcomplexⅠ阻害剤 (rotenone、もしくはmetformin)

で6時間培養した後、ルシフェラーゼ法によりATPレベルを定量した (C)。また同様の薬剤処理を24時間行い、トリパンブルー染色による総細胞数と生細胞数を定量した (D)。グラフは平均値±SD。統計学的有意差はDunnett’s testで評価し、*** p< 0.005 (B16F10、vs. DMSO)、††† p<

0.005 (MEF、vs. DMSO)であった。(B)(D) 統計学的有意差は総細胞数 (Total)に対して評価を行った。

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A B

C

Figure 18. ミトコンドリア脱共薬剤に対する解糖系の代償作用

(A) B16F10細胞とMEF細胞をそれぞれ24ウェルプレートで約24時間培養し、培養液をそれぞれの試薬を含むもの (DMSO、8 μg/mL emodin、3 μM CCCP、3.5 nM FCCP、150 μM DNP、もしくは30 μM CDDP)に交換した。4時間後、それぞれのウェルから培養液を回収し、glucose CⅡtest

(Wako)を用いてグルコース濃度を測定した。培養液中のグルコースの消費量を算出し、ウェルあたりの接着細胞数で標準化した。結果は4ウェルの平均値±SD。Dunnett’s testにより統計学的有意差を評価し、*** p< 0.005 (B16F10、vs. DMSO)、††† p< 0.005 (MEF、vs. DMSO)、N.S.

(not significant)であった。(B) CCCPが解糖系に与える影響を、XF96システムでECARをモニターすることで評価した。細胞を播種して約24時間後、培養液をXF RPMI-based medium (炭酸水素ナトリウム不含、Seahorse)

に交換し、ECARを測定しながら2回の薬剤添加を行った。インジェクションAでは各濃度のCCCP

(添加後の濃度は2.5、もしくは5 μM)、インジェクションBでは2-DG (添加後の濃度100 mM)を添加した。結果は1x10⁴細胞あたりに標準化し、4ウェルの平均値±SDで示した。

(C) ミトコンドリア脱共役剤が解糖系に与える影響を、ECARをモニターすることで評価した。インジェクションAではDMSO、ミトコンドリア脱共役剤 (5 μM CCCP、3.5 nM FCCP、150 μM DNP (それぞれ添加後の濃度))、もしくはCDDP (添加後の濃度30 μM)を添加した。インジェクションBでは2-

DG (添加後の濃度100 mM)を処理した。結果は1x10⁴細胞あたりに標準化し、平均値±SDで示した。

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A

B

Figure 19. HeLa細胞とA549細胞の予備解糖能と、細胞増殖に対するミトコンドリア脱共薬剤の影響

(A) XF96システムで測定した4つの細胞株のECAR。播種して約24時間後、B16F10細胞とMEF細胞はXF RPMI-based medium (炭酸水素ナトリウム不含、Seahorse)に、HeLa細胞とA549細胞はXF DMEM-based medium (炭酸水素ナトリウム不含、Seahorse)に交換した。各培養液は通常の培養条件と同濃度のグルコース (RPMI: 2 g/L、DMEM: 4.5 g/L)とFBS (10%)を含む。ECARをモニターしながら、最初のインジェクションでcomplexⅠ阻害剤の混合液 (rotenone

+antimycin、添加後の濃度それぞれ3 μM)を添加し、2回目のインジェクションで2-DG (添加後の濃度100 mM)を処理した。B16F10細胞、MEF細胞、HeLa細胞は3ウェルの平均値±SD。A549

細胞は5ウェルの平均値±SD。(B) HeLa細胞とA549細胞をDMSO、emodin、ミトコンドリア脱共役剤 (CCCP、FCCP、DNP)、もしくはCDDPで24時間処理し、トリパンブルー染色を行った。結果は3ウェルの平均値±SD。統計学的有意差は総細胞数 (Total)に対しDunnett’s testで評価し (vs. DMSO)、** p< 0.01、*** p<

0.005、N.S. (not significant)であった。

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Figure 20. emodinのATP低下作用に対するグルコース濃度の影響

B16F10細胞とMEF細胞を異なるグルコース濃度の条件下 (0、50、100、もしくは200 mg/dL) (正確には、FBSが含有するグルコースが加算されている)において、DMSOもしくはemodin (8 μg/mL)

を6時間処理し、ルシフェラーゼ法によりATPレベルを定量した。各ウェルのATPレベルはタンパク質量で標準化した。グラフは平均値±SD。統計学的有意差はStudent’s t-test (vs. DMSO)で評価し、* p< 0.05、*** p< 0.005、N.S. (not significant)であった。

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C

Figure 21. emodin誘導性のATP低下作用と抗増殖作用に対するMEF細胞の低感受性と、培養液中のグルコース、ピルビン酸との関係

(A) ルシフェラーゼ法によるATPレベルの定量。グルコース存在下と非存在下、ピルビン酸の存在下と非存在下それぞれの条件において、DMSOあるいはemodinをMEF細胞に6時間処理した。グラフは平均値±SD。Student’s t-testにより統計学的有意差を検討し、** p< 0.01、*** p< 0.005 (vs.

DMSO)、N.S. (not significant)であった。(B)(C) グルコース存在下と非存在下、ピルビン酸の存在下と非存在下それぞれの条件において、

DMSOあるいはemodinをMEF細胞に24時間処理し、写真の撮影 (B)とトリパンブルー染色 (C)を行った。スケールバーは250 μm。グラフは平均値±SD。統計学的有意差はStudent’s t-testを用いて総細胞数 (Total)に対して算出し、 *** p< 0.005 (vs. DMSO)、N.S. (not significant)であった。

(A)(B)(C) Glc 0 mg/dLについては、正確にはFBSが含有するグルコースが含まれる。

B

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Figure 22. emodinによる抗細胞増殖効果に対する、抗酸化作用を持つN-acetyl-L-

cysteine (NAC)の影響

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Figure 23. 通常の状態とミトコンドリアが脱共役した状態における、2つの細胞株のエネルギー収支モデル

B16F10細胞は通常の状態で多くのATPを産生・消費している。この細胞株は予備解糖能が不十分なため、ミトコンドリア脱共役剤存在下ではATPレベルを保つことが出来ない。一方、MEF細胞のATPのターンオーバーは相対的に緩やかであり、通常、解糖系の活性は低く抑えられている。故に、MEF細胞はミトコンドリア脱共役存在下でも解糖系の代償的な活性化により、ATPレベルを保つことが出来る。

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