超音波画像による症例検討•CNB:硬化性腺症...

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超音波画像による症例検討 つくば国際ブレストクリニック 東野 英利子

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超音波画像による症例検討

つくば国際ブレストクリニック

東野 英利子

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有意義な症例検討を行うには

• よい検査

• よいプレゼンテーション

• 適切な画像読影

• 正しい用語の使い方

が重要である

今回はこれらに重点を置いた症例検討を行う

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症例1

• 50歳台代(または50代)前半女性

• 主訴:乳がん検診MG、USで異常を指摘された。

• 自覚症状:なし

• CBE(視触診):異常なし

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B-mode画像

検査が正しく行われているか 読影可能な画像か 所見は?

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B-mode画像

検査が正しく行われているか 表示深度は? フォーカスの位置は? グレースケールは? 読影可能な画像か 病変の表示は適切か? 計測方法は正しいか プレゼンテーションの方法はよいか

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B-mode画像

検査が正しく行われているか フォーカスの位置は病変の位置にある グレースケール(ゲインとダイナミックレンジ の設定)はほぼよい 読影可能な画像か ボディマーク・スケールが表示されている 病変は画像の中央にある キャリパーの無い画像が表示されている 計測はhaloを含んでいる バックグラウンドは黒 所見・鑑別診断・カテゴリーは?

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B-mode画像

右乳房の10時Peripheral領域 11.8x7.2x10.9mmの低エコー腫瘤 形状は不整形 後方エコーは不変(やや減弱) haloを伴い、境界不明瞭 乳腺境界線の断裂を伴う 浸潤性乳管癌(腺管形成型あるいは硬性型) を疑う カテゴリー5 乳頭側に乳管内病巣の広がりを疑う

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検査が正しく行われているか 所見は?

ドプラー(Doppler)画像:速度モード

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検査が正しく行われているか ROI(カラー表示エリア)の 位置・大きさは適切か? 速度レンジ(PRF)は適切か? カラーゲインは適切か? 探触子のあて方は適切か? 所見は? 血流の量は? 血流のパターンは?

ドプラ(Doppler)画像:速度モード

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バスキュラリティ(血流の多寡)

• avascular (-)

• hypovascular (+)

• moderate vascular (++)

• hypervascular (+++)

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血流の形態・分布

• 悪性を示唆する所見:

貫入、貫通(penetrating)、屈曲蛇行

広狭不整、モザイク、周辺の血流増加

入射角が小さい

• 良性を示唆する所見:

血流を欠く、monotone、なだらか、円弧状 境界部に沿う(surrounding marginal vessel)

入射角が大きい

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血流形態の表現法

境界に沿う血流 圧排性発育する病変

*アスタリスク型の 貫入する血流 浸潤発育型乳癌

Πパイ型の 貫入する血流 圧排発育型の乳癌

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入射角

入射角が大きい 入射角が小さい

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ドプラ(Doppler)画像:速度モード

ROIの大きさ・位置はよい 速度レンジは3.04cm カラーゲインは・・・ バスキュラリティは moderate vascular (++) π型の貫入する血流を認める

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エラストグラフィ:Strain Elastography

検査が正しく行われているか ROIの位置大きさは適切か? 探触子のあてかた(初期圧)は 適切か ストレイングラフの適切な 位置で評価されているか FLRのROIの取り方は適切か? 所見は?

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Strain Elastography(日立)の評価 Elasticity Score (ES)

腫瘤の低エコー部分に対するひずみの分布を評価

ES=1:全体にひずみが生じる (全体が緑) ES=2:一部にひずみが生じない (緑が主、やや青が混じる) ES=3:辺縁部にのみひずみが生じる (中心部が青、周囲が緑) (または青が主、やや緑が混じる) ES=4:全体にひずみが生じない (全体が青い) ES=5:周辺までひずみが生じない

(青い部分が低エコー腫瘤部分よりも大きい)

ES=1 ES=2

ES=3

ES=4 ES=5

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Strain Elastography(日立)の評価

FLR (Fat/Lesion Ratio)

B-modeの画像で

低エコー部分に内接する最大の円(lesion)

脂肪部分で出来るだけ大きな円(fat)

>5 悪性より

<5 良性より

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探触子のあてかた(初期圧)は・・・ ROIは皮膚から大胸筋の半ばくらいまでで適切

所見をとっているフレーズは適正(初期圧を表すストレイングラフの谷の部分)

Elasticity Score =5 FLR=43.14

エラストグラフィ:Strain Elastography

適切な初期圧の指標 ・皮下脂肪のひずみ: 緑と赤のしま(横縞)状、左右ほぼ均等 ・大胸筋のひずみ: 青が主体

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所見のまとめ 所見 右乳房の10時Peripheral領域に 11.8x7.2x10.9mmの低エコー腫瘤 形状は不整形で haloを伴い、境界不明瞭 乳腺境界線の断裂を伴う 血流はvascular(++)でπ型の血流シグナルを認める Elasticity Score =5、FLR=43.14 結論 浸潤性乳管癌(腺管形成型あるいは硬性型)を疑う カテゴリー5 乳頭側に乳管内病巣の広がりを疑う

次に行う検査は?

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その後の経過

• CNB:IDC

ER(+) PgR(+) Ki67 21% HER2 FISH(-)

• 治療(他院)

手術直前に肺炎で延期(NAH導入)

治癒後に右乳頭温存乳房全切除術+腋窩郭清 +TE挿入

最終診断:浸潤性乳管癌(硬性型)

pT1cpN1acM0 Stage IIA

Oncotype Dx®の結果を待って術後補助療法

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症例2

• 40歳台後半女性

• 主訴:USによる乳がん検診で要精査

• 自覚症状:検診結果が来てから触ると少し硬い?

• CBE:右乳房上外側に硬結

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B-mode画像

検査が正しく行われているか 読影可能な画像か 所見は

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B-mode画像

右乳房10時方向Middle領域に 7.4x6.3x5.3mm (D/W=0.85)の 不整形の低エコー腫瘤 境界は不明瞭(明瞭粗ぞう) Halo・前方境界線の断裂はない 点状高エコーは明らかではない 周囲に乳管内病巣の広がりを疑う 浸潤性乳管癌(腺管形成型)を疑う カテゴリー4

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検査が正しく行われているか 所見は?

ドプラ(Doppler)画像:速度モード

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動画のROI(カラー表示エリア) の大きさはやや大きい FR=12 速度レンジはよい カラーゲインはよい 血流は hypervascular (+++) π型の貫入する血流を認める

ドプラ(Doppler)画像:速度モード

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エラストグラフィ:Strain Elastography

検査が正しく行われているか 所見は?

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検査は・・・ Elasticity Score =5 FLR=5.62

エラストグラフィ:Strain Elastography

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所見のまとめ 所見 右乳房10時方向Middle領域に 7.4x6.3x5.3mm (D/W=0.85)の 不整形の低エコー腫瘤 境界は不明瞭(明瞭粗ぞう) Halo・前方境界線の断裂はない 点状高エコーは明らかではない 血流はhypervascular(+++)でπ型の貫入血管を伴う Elasticity Score =5 FLR=5.62 結論 浸潤性乳管癌(腺管形成型)を疑う 周囲に乳管内病巣の広がりを疑う カテゴリー5

次に行う検査は

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• CNB:IDC

• 治療(他院)

手術:右乳房部分切除(広範囲)・センチネルリンパ 節生検・広背筋皮弁再建

最終診断:浸潤性乳管癌(硬性型)

T1であるが、浸潤巣が多発

SLN 0/2

ER(+) PgR(+) Ki67 4% HER2 score 2

放射線治療+ホルモン療法

その後の経過

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症例3

• 40歳台女性

• 主訴:USによる乳がん検診で要精査

• 自覚症状:なし

• CBE:異常なし

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B-mode画像

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B-mode画像(拡大)

検査が正しく行われているか 読影可能な画像か 所見は

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B-mode画像(拡大)

左乳房6時M(middle)領域 4.8x4.4x3.9mm(D/W=0.9) 低エコー腫瘤 形状は不整、境界は明瞭粗ぞう Haloはない、前方境界線の断裂は明らかではない カテゴリー 4

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検査が正しく行われているか 所見は?

ドプラ(Doppler)画像:速度モード

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ドプラ(Doppler)画像:速度モード Feather touch

病変の位置がB-modeよりも深くなっている → B-mode撮像時よりも探触子をややうかせている

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フリーズ画像はノイズが多い 血流はhypervascular(+++) 貫入血管(plunging vessel) を認める

ドプラ(Doppler)画像:速度モード

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エラストグラフィ:Strain Elastography

検査が正しく行われているか 所見は?

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ES=2 FLR=2.13

エラストグラフィ:Strain Elastography

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所見のまとめ • 所見: 左乳房6時M(middle)領域 4.8x4.4x3.9mm(D/W=0.9) 低エコー腫瘤 形状は不整、境界は明瞭粗ぞう Haloはない、前方境界線の断裂は明らかではない 血流豊富(+++) 貫入血管(plunging vessel)を認める ES=2、FLR=2.13で比較的軟らかい • 結論 乳癌疑い(非浸潤性乳管癌、浸潤性乳管癌) カテゴリー4

次に行う検査は

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その後の経過

• CNB:硬化性腺症

–乳腺組織が採取されています。いずれも異型が軽度な細胞が線維間質を伴い、小型腺管状や崩れた小胞巣状となって密に増生する像がみられます。筋上皮を伴い、二相性が見られます。明らかな浸潤性増殖は見られません。

• 6か月後に経過観察 –大きさに変化なし

–当施設での検診に戻り(念のため画像のサーマル写真を差し上げた)

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Take home message

• 丁寧な検査を行う –検査方法:

• 皮膚にまっすぐに探触子をあてる(大胸筋の層構造が良く見える)

• 適切な条件:ゲイン・ダイナミックレンジ・画像処理

• アーチファクトが入らないように

–保存画像: • 病変は中央に

• 所見を読み取り、その所見が表わされるような画像を保存する

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Take home message

• 評価できるプレゼンテーション – MG、USの提示にはバックグランドは黒 文字の色にも注意(赤は見えにくいetc.) – 間違えやすい語 MMG → MG Color doppler → color Doppler (ドプラ)

• 評価できる画像の提示 – 明るさコントラストの表示に注意 – ボディマーク、スケールを表示する – キャリパーの無い写真で画像を評価

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Take home message

• 適切な画像読影

–所見の表現方法を学ぶ

–正しい用語を用いる

• 略語に関しては何の略かを知ったうえで、言葉では略さずに用いるのがbetter?

間違えることを恐れないでください 間違えるほど多くのことを学びます