一般病院に勤務する看護師の 職務満足を構成する概...

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57 日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011 報告 一般病院に勤務する看護師の 職務満足を構成する概念 Factors Influencing Job Satisfaction of Nurses Working at General Hospitals 撫養 真紀子 1) 勝山 貴美子 2) 尾﨑 フサ子 3) 青山 ヒフミ 1) Makiko Muya 1) Kimiko Katsuyama 2) Fusako Ozaki 3) Hifumi Aoyama 1) Key words : job satisfaction, nurses, construct, qualitative analysis キーワード : 職務満足,看護師,構成概念,質的帰納的分析 Abstract In this study, we aimed to clarify the factors providing nurses with a positive feeling and sense of satisfaction concerning their work. We conducted semi-structured interviews with 18 nurses working at general hospitals, and studied the results through qualitative analysis. The results indicated that their senses of job satisfaction were influenced by factors in 6 categories: [positive feelings about the work] ,[professional autonomy] , and[checking work achievements]with regard to their work, [support from superiors]and[relationships with other people]with regard to interpersonal relationships, and a[good working environment] . The respondents had gained[positive feelings about the work] , such as pride and a sense of satisfaction in their work, by actively seeking professional goals and achieving their [professional autonomy] . Further, [checking work achievements]enhanced the [positive feelings about the work]and [professional autonomy] . The respondents were encouraged by[support from superiors] , including appropriate advice and communication provided by superiors facilitating growth and development, and [relationships with other people] , including positive evaluation by their colleagues and doctors and approval by their patients. For a [good working environment] , proper working conditions and workload, as well as the opportunity to take a leave of absence and attend academic society meetings, were important. The results suggested that the respondents had a heightened sense of job satisfaction by meeting the criteria in the 3 categories with regard to their work with support from superiors and other people in a [good working environment] . 本研究の目的は,一般病院に勤務する看護師の職務における肯定的感情について具体的な内 容を明らかにし,職務満足を構成する概念を明確にすることである.参加者は一般病院に勤務 する看護師 18 名で,研究方法は半構成的面接法で質的帰納的に分析を行った.その結果,仕事 に関する【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】【仕事の成果の確認】と,他者と の関係に繋がる【上司からの支援】【他者とのつながり】,さらには【働きやすい労働環境】の 6カテゴリーで,職務満足は構成されていた.参加者は,主体的に専門職として目標を見出し たり【専門職としての自律】を発揮することにより,仕事への誇りややりがいといった【仕事 に対する肯定的感情】を抱いていた.さらに,【仕事の成果の確認】をすることにより,【仕事 に対する肯定的感情】【専門職としての自律】に繋がっていた.参加者は,上司からの適切なア 受付日 :2010年9月22日  受理日 :2010年12月18日 1) 大阪府立大学 看護学部 School of Nursing, Osaka Prefecture University 2) 横浜市立大学医学部看護学科 College of Nursing, Yokohama City University 3) 佐久大学 看護学部 School of Nursing, Saku University

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57日看管会誌 Vol. 15, No. 1, 2011

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 15, No. 1, 2011

 報告

一般病院に勤務する看護師の職務満足を構成する概念

Factors Influencing Job Satisfaction of Nurses Working at General Hospitals

撫養 真紀子1) 勝山 貴美子2) 尾﨑 フサ子3) 青山 ヒフミ1)

Makiko Muya1) Kimiko Katsuyama2) Fusako Ozaki3) Hifumi Aoyama1)

Key words : job satisfaction, nurses, construct, qualitative analysis

キーワード : 職務満足,看護師,構成概念,質的帰納的分析

AbstractIn this study, we aimed to clarify the factors providing nurses with a positive feeling and sense of

satisfaction concerning their work. We conducted semi-structured interviews with 18 nurses working at general hospitals, and studied the results through qualitative analysis. The results indicated that their senses of job satisfaction were infl uenced by factors in 6 categories: [positive feelings about the work], [professional autonomy], and [checking work achievements] with regard to their work,

[support from superiors] and [relationships with other people] with regard to interpersonal relationships, and a [good working environment]. The respondents had gained [positive feelings about the work], such as pride and a sense of satisfaction in their work, by actively seeking professional goals and achieving their [professional autonomy]. Further, [checking work achievements] enhanced the [positive feelings about the work] and [professional autonomy]. The respondents were encouraged by [support from superiors], including appropriate advice and communication provided by superiors facilitating growth and development, and [relationships with other people], including positive evaluation by their colleagues and doctors and approval by their patients. For a [good working environment], proper working conditions and workload, as well as the opportunity to take a leave of absence and attend academic society meetings, were important. The results suggested that the respondents had a heightened sense of job satisfaction by meeting the criteria in the 3 categories with regard to their work with support from superiors and other people in a [good working environment].

要 旨本研究の目的は,一般病院に勤務する看護師の職務における肯定的感情について具体的な内

容を明らかにし,職務満足を構成する概念を明確にすることである.参加者は一般病院に勤務する看護師 18 名で,研究方法は半構成的面接法で質的帰納的に分析を行った.その結果,仕事に関する【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】【仕事の成果の確認】と,他者との関係に繋がる【上司からの支援】【他者とのつながり】,さらには【働きやすい労働環境】の6カテゴリーで,職務満足は構成されていた.参加者は,主体的に専門職として目標を見出したり【専門職としての自律】を発揮することにより,仕事への誇りややりがいといった【仕事に対する肯定的感情】を抱いていた.さらに,【仕事の成果の確認】をすることにより,【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】に繋がっていた.参加者は,上司からの適切なア

受付日 : 2010年9月22日  受理日 : 2010年12月18日1) 大阪府立大学 看護学部 School of Nursing,Osaka Prefecture University2) 横浜市立大学医学部看護学科 College of Nursing,Yokohama City University 3) 佐久大学 看護学部 School of Nursing, Saku University

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Ⅰ. はじめに

職務満足は,業績ないし生産性,離転職,欠勤に影響を及ぼし(渡辺ら,1999),仕事の質や効率に大きく関わっている.職務満足を測定するために,いくつかの尺度が開発されてきた.1960 年代,産業界では組織の活力と競争力を引き出すために,Weiss が開発し高橋(1999) が作成したMinnesota Satisfaction Questionnaire(MSQ),Job Descriptive Index(JDI:Smith, et al.,1969)といった職務満足を測定する尺度が開発された.看護職者においても,1970 年代にアメリカでは,看護師の離職を抑制するた め に,Reward/Satisfaction Scale (McCloskey,1974),The Index of Work Satisfaction(IWS:Stamps, et al., 1978)などが開発され,看護師の職務満足を測定しようとする試みが行われ,職務満足が離職と負に相関することを明らかにした(Stamps, et al., 1978).一方,日本においても,看護師不足という社会的背景から,離職防止や職場への定着を促進するために,看護師の職務満足に関する研究が行われるようになった.前述した尺度は,アメリカの看護師を対象に開発され,Reward/Satisfaction Scaleは McCloskey/Mueller Satisfaction Scale(MMSS:McCloskey & Mueller,1990)に改訂されている.MMSS は,志自岐(1997)によって日本語版の信頼性 ・妥当性が検証されているが,構成概念妥当性について若干の問題が指摘されている.また,IWSは,尾崎,忠政(1988)によって翻訳後,信頼性 ・妥当性が検証され,日本の看護師の職務満足調査に広く今日まで用いられている.しかし,質問項目に複数の条件を含んでいると思われる内容など尺度自体の妥当性が指摘されている(中川,林,2004).職務満足尺度が開発された 1970 年代より,7:1入院基本料の設置,専門・認定看護師の増加,チーム医療の推進など,看護師を取り巻く環境は著しく変化してきている.そのため,これまでの職務満足を構成する因子だけでは現在の看護師の職務満足を

十分に説明できていないことが考えられる.そこで,日本の看護師の職務満足測定尺度を開発する第 1段階として,一般病院で入院患者の看護を担当する看護師の職務における肯定的感情について具体的な内容を明らかにし,職務満足を構成する概念を明確にすることを本研究の目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン半構成的面接法による質的帰納的研究である.

2. 研究参加者近畿地区で日本医療機能評価機構 ・病院機能評価

の認定を受けている一般病院に勤務する看護師 18名である.師長主任等役職にある看護師,外来で勤務する看護師は除外した.

3. データ収集方法と調査期間便宜的に抽出した一般病院 4箇所の看護部長及び看

護師長に,研究目的と研究方法を口頭と文書で説明し研究協力の承諾を得た.その後,研究参加者となる看護師の紹介を依頼した.質問内容は,「働いていて良かったと思う時,職場や上司,同僚からの必要な支援内容,職務満足を妨げていること,職務満足に必要な条件」について自由に語ってもらった.面接は,研究参加者の所属病院の個室で行った.面接内容は,事前に承諾を得た上で ICレコーダーに録音した.調査期間は 2008 年 7 月 23 日~ 10 月 15 日である.

4. データ分析方法参加者の語りから逐語録に記述し,記述したデー

タは,次のような手順で分析を行った.分析手順は,①逐語録を丹念に熟読し,職務満足に関する内容に着目し,データを抽出した.②抽出したデータの意味を要約し,コード化した.③コード化したデータ

ドバイスや成長・発達を促す関わりからなる【上司からの支援】や医師・同僚からの肯定的評価や患者からの承認といった【他者とのつながり】によって支えられていた.【働きやすい労働環境】として,適切な勤務形態や業務量,休暇の取得,研修参加への機会などを求めていた.【働きやすい労働環境】の上で,上司や他者からの支援を得ながら,仕事に関する 3 つのカテゴリーを円滑に進め職務満足を向上させていることが考えられた.

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を継続して比較検討,分類・整理し,サブカテゴリー,カテゴリーとしてまとめた.さらに,カテゴリー間の関係性を確認した.④データ分析における真実性は,質的研究の経験がある研究者のスーパーバイズを受けながら進めた.

5. 倫理的配慮参加者には,研究内容,自由意志の確保,プライ

バシーの保護,不利益を受けない権利,研究者の守秘義務について口頭と文書にて説明し,同意を得た.本研究は大阪府立大学看護学部研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.

Ⅲ. 結果

1. 研究参加者の背景研究参加者の年齢は,23 ~ 40 歳(平均 29.4 歳)

であった.経験年数は,2~17年(平均7.6年)であった.最終の看護専門課程は,4年制大学 5名,それ以外 13名であった.面接時間は平均 35分であった.

2. 看護師の職務満足に対する内容(表1)表1. 看護師の職務満足に対する内容

カテゴリー サブカテゴリー

仕事に対する肯定的感情

仕事に対する誇り

仕事の意義

仕事のやりがい

仕事の面白さ

専門職としての自律

自己の目標を見つける

主体的な取り組み

専門職としての発言や決定の機会

力の無さとの対峙

独自性が高い看護実践

仕事の成果の確認自らに自信を獲得する体験

看護の仕事に手応え

上司からの支援

看護部の方針や目標の浸透

臨機応変なトラブルへの対応

個々の仕事の調整やコントロール

賞賛や労いの言葉かけ

上司は何でも相談できる存在

成長・発達を促すような関わり

希望による職場の異動

他者とのつながり

同僚からの肯定的なフィードバック

何でも相談できる同僚の存在

目標となる看護師の存在

他職種との良好なコミュニケーション

医師からの尊重

患者からの承認

患者からの暴力や理不尽なクレームに直面

働きやすい労働環境

融通が利く勤務形態

仕事とプライベートの調和

業務量に応じた人員の配置

研修に参加できる機会

給料に関する不満

休み希望が受け入れられる土壌

時間内に仕事が終了しないことへの苛立ち

自分の業務に専念できない不満

データを分析した結果,【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】【仕事の成果の確認】【上司からの支援】【他者とのつながり】【働きやすい労働環境】の 6つのカテゴリーが抽出された.以下,[ ]はサブカテゴリー,「 」は参加者の語りを示す.1) 【仕事に対する肯定的感情】このカテゴリーは,仕事そのものに意義ややりが

いを感じたり,看護師という職業に関する責任感に立脚しており,[仕事に対する誇り][仕事の意義][仕事のやりがい][仕事の面白さ]の4つのサブカテゴリーから構成される.看護師という仕事を継続することで,「責任を伴うけど,キャリアを積むごとに,自分のスキルアップが得られるし,看護をしていて良かったとか,喜びが大きい」というように,知識や技術の向上とともに[仕事に対する誇り]を抱いていた.また,「資格を持っているというだけじゃなくって,知識や技術を使っていかないと身につかない仕事なので,それが出来るとどんどん自分に自信がついてくる仕事だと思う」と,自分の仕事の成果を確認することにより,看護師としての[仕事の意義]を認識していた.また,「患者さんが回復する過程をみて,喜びを感じ」たり,「患者さんが楽になっていく」のを,患者と共に体験し[仕事のやりがい]を感じていた.そして,「患者さんと今後どうするかを考えていったり,その中で,患者さん自身やりたいことができたり,そういう生き方をみる」と,看護実践において[仕事の面白さ]を得ていた.2) 【専門職としての自律】このカテゴリーは,様々な活動の場において,自

らの判断のもとに行動できる態度であり,[自己の目標を見つける][主体的な取り組み][専門職としての発言や決定の機会] [力の無さとの対峙][独自性が高い看護実践]の 5つのサブカテゴリーから構成される.[自己の目標を見つける]として,参加者は仕事

を通して2種類の目標を抱いていた.一つは,「急変の場面でも慌てずにきちんと対応ができたり」という,自らが向上するための課題や現在感じている問題点を解決するための短期的目標である.もう一つは,「スペシャリストになりたいとは考えてなくて,いろんな知識や技術を身につけて自分できちんと判断した上で看護が提供できる人になりたい」と

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いう,将来的に目指す看護師像に向かう長期的目標である.一方,参加者は,「目標がない時期は焦っていて,これでいいか悩んでしまう」というように,目標が見出せないと仕事にやりがいや楽しさを感じられず,疲弊する傾向にあった.業務改善では,「自分の病棟のデータを集めて,できているか,できていないか把握し,いろいろな発案をして病棟を動かしていく」というように,自らが率先しリーダーとして[主体的な取り組み]を行っていた.また,日々の病棟カンファレンスでは,「患者さんの思いや今必要なケアを話し,どんどんこうしようと決まっていく」ことで「患者さんが希望する外泊ができた」というように,[専門職としての発言や決定の機会]を発揮することで,自分の意見が全体の決定に活かされたと感じていた.しかし,インシデントを起こしてしまったり,委員会活動や後輩指導が上手くいかないと,「自分が何をどうしたらいいのか,わからなくって,やっぱり私には全体を引っ張るのはまだ難しいのかな」というように,[力の無さとの対峙]により,自信をなくしていた.一方,看護実践で「水分管理ができない患者さんに,分割方法や飲み方など,その人の生活スタイルを見ながらこういうタイミングでいきましょうと説明し」「水分管理ができる」ようになると,創意工夫し[独自性が高い看護実践]が患者にとって有効であったと実感できていた.3) 【仕事の成果の確認】このカテゴリーは,看護実践を通して上手くいっ

たと感じたり,成功体験を積み重ねて看護への手応えを得ていることであり, [自らに自信を獲得する体験][看護の仕事に手応え]の 2つのサブカテゴリーから構成される.参加者は,「自分の指導したことが現場でちゃんと広がっているとか」「後輩がやっている内容をみて,看護をやっているなというのがみえて,ちゃんと教えられて良かった」というように,自らの関わりによって,新人の成長を実感できたり,職場の問題が解決できたりすることが,[自らに自信を獲得する体験]になっていた.また,日常の「看護ケアについて研修に行ったスタッフと話をして,プロトコルを作ったんですね,スタッフがみんな,最低レベル以上のケアが出来る」と,自らの知識,技術,経験を活かせたという成功体験により,[看護の仕事に手応え]を感じていた.

4) 【上司からの支援】このカテゴリーは,看護師個々の成長・発達につ

ながる上司からの管理的,教育的,情緒的支援に関することであり,[看護部の方針や目標の浸透][臨機応変なトラブルへの対応][個々の仕事の調整やコントロール][賞賛や労いの言葉かけ][上司は何でも相談できる存在][成長・発達を促すような関わり][希望による職場の異動]の 7つのサブカテゴリーから構成される.「師長さんがカンファレンスとかで,方針や病棟

をこういう風にしていく」というように,一貫した[看護部の方針や目標の浸透]を図ることにより,「チームでの目標が立てやすいし,動きやすい」 とスタッフ個々の意識の中に浸透していた.また,日々に「先生との取り決めは,師長さんが介入してくれますし,ちょっと対応に困っている患者さんがいると,師長さんはすぐ患者さんの所にいって話を聞いてくれる」というように,解決が難しい問題に,率先して関わるとともに[臨機応変なトラブルへの対応]を行い,安心して仕事に専念できる環境を作っていた.また,「同じ時期に期限がくる様な仕事を被せないとか,委員会でたくさん仕事を抱えているのであれば,負担の割り振りをしてもらえたら活動しやすい」と,[個々の仕事の調整やコントロール]を行うことにより,余裕を持って委員会活動に取り組んでいた.そして,「自分から動けるようになってきているよ」と委員会活動の取り組みが評価されたり,「患者さんが退院できた時,あんたやったからここまでもってこれたんや,その言葉にやる気がでましたね」とタイムリーに看護実践が認められたり,上司からの[賞賛や労いの言葉かけ]が仕事の意欲につながっていた.「上司とのコミュニケーションが円滑」で「肯定的なことも否定的なことも言いやすい」というように,プライバシーが守られ安心して話せる環境の中で,[上司は何でも相談できる存在]であった.看護ケアにおいて,「内服マップを作ろうと思うと,それについての資料とか,こういうところから探したらいいと,すごい相談にのってくれます」というように,具体的な[成長・発達を促すような関わり]を実践していた.[希望による職場の異動]は,「自分のキャリアアップにもつながっているのかな」というように,キャリアアップの機会と捉え,自分を変えるチャンスであると認識していた.

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5) 【他者とのつながり】このカテゴリーは,看護実践を遂行するに際し,

看護師が関わりを持つ同僚,他職種,医師,患者から様々な評価を受けていることであり,[同僚からの肯定的なフィードバック][何でも相談できる同僚の存在][目標となる看護師の存在][他職種との良好なコミュニケーション][医師からの尊重][患者からの承認][患者からの暴力や理不尽なクレームに直面]の 7つのサブカテゴリーから構成される.参加者は,「先輩にちゃんとできてると言われた時は,やれたんやな(やることができた)と自分で思った」というように,[同僚からの肯定的なフィードバック]により,仕事への自信を得ていた.また,「自分だけが悩んでいるんじゃない,というのがわかるとすごく安心するし,自分の思いを聞いてもらえる」というように,[何でも相談できる同僚の存在]が仕事において安心感を与えていた.一方,「出来ていないことをきつく注意されると,仕事に来るのが嫌になった」と,感情的な指摘に傷つき,仕事の継続に支障をきたしかねない状況にあった.また,「職場とかで満足を感じる要素ですごく大切なのは,モデルの存在だと思うんですね.どんな時も,自分をふるい立たせてくれたと言うか,あんな人みたいになりたいから頑張ろう」というように,[目標となる看護師の存在]が力になり,前向きな気持ちにつながっていた.他職種とは,「話しやすいし,報告しやすい雰囲気がある」 や「お互いがちゃんとお互いのことを尊重している」というように,[他職種との良好なコミュニケーション]を図りながら,チームで医療を実践していた.[医師からの尊重]とは,「治療とかも先生とコンタクトを取りながらやっていけた」や「私たちが立てた計画を取り入れてくれた」というように,カンファレンスで医師に気兼ねなく患者の情報を尋ね,お互いに治療方針や看護目標を共有していた.一方,「医師に指示を確認するのに,気を遣うし,どうして看護の意見が聞き入れられないのかな」というように,医師の業務に気を使いながら指示を受け,医師との関係で葛藤を生じていた.患者から「相談できてよかったと言われたり,ありがとうと言ってくれた時や,良い反応が返ってきた時は,自分のやった看護と言うのが評価された」というように,[患者からの承認]により,自らの看護実践に手応えを感じていた.一方,

「患者さんに暴言を吐かれたり,こっちの思いがなかなか伝わらなくって」というように,[患者からの暴力や理不尽なクレームに直面]すると,「患者さんに対してもちょっと関わりたくない」 と思い,患者と関わることに強い負担感を抱えていた.6) 【働きやすい労働環境】このカテゴリーは,適切な勤務形態や業務量,休

暇の取得,仕事に見合った給料,研修参加への機会に関することであり,病院や看護部に関する[融通が利く勤務形態][仕事とプライベートの調和][業務量に応じた人員の配置][研修に参加できる機会][給料に関する不満],部署に関する[休み希望が受け入れられる土壌][時間内に仕事が終了しないことへの苛立ち][自分の業務に専念できない不満]の 8つのサブカテゴリーから構成される.参加者は,「保育所の迎えの時間が一番困るんで,

その時間で終われる仕事や子供の都合とかで急に休んでも,他の職員にそんなに負担がかからない働き方」というように,日勤だけの病棟勤務や短時間制正職員制度が導入され,家庭の事情で休んでも他の職員に負担がかからない,柔軟で[融通が利く勤務形態]を希望していた.また,「休みの日に思いっきり仕事を離れて,家族と遊びに行ったりとか,プライベートはプライベート,仕事は仕事という風に上手く休みを分けれないとストレスですね」というように,休日には仕事を離れ充実した生活を送ることが,[仕事とプライベートの調和]につながり,よい仕事を生み出す原動力になっていた.一方,委員会活動や報告書の作成に追われ,休みの日にも仕方なく仕事をしていた.日頃から「夜勤の人数が足りないと感じる時もありますし,日勤も忙しい時とかはもうちょっと人数がいたらなと思う」というように,場所や時間帯ごとに適切な[業務量に応じた人員の配置]により,過重労働から回避されることを望んでいた.一方,「行きたい研修に参加できたり,興味がある研修を紹介してもらい,学ぶ環境は整っています」というように,希望すれば[研修に参加できる機会]が保障されていた.給料には,「私の能力に対して,給料がきちっと払われているかというのはよくわからない」というように,支払われる給料に納得できず,[給料に関する不満]を抱いていた.部署では,「勤務希望を取ってはくれるんですけど希望が重なったりとかで,希望通りに休むの

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がなかなか難しい」というように,予定通り[休み希望が受け入れられる土壌]を望んでいた.日常業務では,「やっぱりこういう職業なので,時間的にちょっとはっきりきちっと 5時だったら 5時というように終わるという所がないし,ずっと仕事に追われていて,体も気持ちもくたくたになります」というように,業務量が多いことから[時間内に仕事が終了しないことへの苛立ち]を抱き,肉体的・精神的疲労を感じていた.また,「何かにいつも追われている感じですので,それは患者さんに対してもゆっくり接しられないから始まり,常に走っているみたいな感じがあります」と,ナースコールへの対応と後輩への仕事のサポートを同時に行い,直接患者に関わる時間が減っていることにより,[自分の業務に専念できない不満]を持っていた.

Ⅳ. 考察

一般病院に勤務する看護師の職務満足は,【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】【仕事の成果の確認】【上司からの支援】【他者とのつながり】【働きやすい労働環境】といった6つのカテゴリーで構成されていた.これまでの職務満足尺度 IWS(1978)やMMSS(1990)に示された因子と比較すると,仕事に関するカテゴリーとして【専門職としての自律】は類似していたが,本研究では【仕事に対する肯定的感情】【仕事の成果の確認】といった新しい 2つのカテゴリーが抽出された.

1. 仕事に関する3つのカテゴリーの特徴Stamps, et al.(1978)は,【専門職としての自律】

として,仕事に関する主導権,権限,そして決定の自由を掲げていた.本研究では,Stamps, et al.(1978)と共通する[専門職としての発言や決定の機会]だけでなく,新たに[自己の目標を見つける][主体的な取り組み]というサブカテゴリーが見出された.Deci & Flaste(1995)は,目標をめざすことで,人は本筋から離れることなく,自分が前進しているかどうかを絶えず評価できると述べ,目標の設定が重要であることを示している. [自己の目標を見つける]について,参加者は,「分からないことをきっかけに新しい知識や技術を習得する」といった日々

の業務における短期的な目標と,「自らの判断で必要なケアが提供できる」「自分らしさを生かし勉強したい分野を見つける」といった長期的な目標についても語っていた.参加者は,日々の業務を通して直面する短期的な目標の設定と,それに対する主体的な取り組みや達成を繰り返しながら,長期的な目標の設定へ挑戦していく過程をたどっていくことが窺われた.一方,参加者は与えられた役割が果たせず自信を無くしたり,自分の力で解決できない未熟さを感じていた.このような状況では,自己の目標が見出せず主体的な取り組みが阻害され,[自らに自信を獲得する体験]が得られず,【仕事の成果の確認】につながらないことが考えられた.【仕事に対する肯定的感情】として,[仕事に対する誇り][仕事の意義][仕事のやりがい][仕事の面白さ]が抽出された.IWS(1978)の構成因子である「職業的地位」では,看護師という職業への誇りや意義を示しており,本研究で見出された[仕事に対する誇り][仕事の意義]と共通していた.しかし,本研究では,職業としての地位に関する一般的感情だけでなく,[仕事のやりがい][仕事の面白さ]が抽出された.【仕事に対する肯定的感情】とは,外からの圧力でなく自ら仕事をしようとする意欲である.Deci & Flaste(1995)は,内発的動機づけとは 「自ら学ぶ・やる意欲」 で,活動それ自体に内在する報酬のために行う行為の過程を意味し,「自律性」と「有能さ」を高めることが内発的動機づけを高めることを報告している.本研究で見出された【仕事に対する肯定的感情】とは,それ自体が報酬であり重要な内発的動機づけと考えられた.参加者は,自らの考えで看護を実践し,手応えを実感すると「仕事のやりがいや面白さを感じる」という内発的動機づけを得ていた.従って,創意工夫し個別性がある【専門職としての自律】や【仕事の成果の確認】が,【仕事に対する肯定的感情】を高めていることが考えられた.また,類似する概念としてIronson(1989)が開発した仕事そのものの価値や意識を問う Job in General(JIG)原版が報告されている.撫養ら(2009)は,中堅看護師の職務満足に関連する要因として,これまで報告されてきた承認(Blegen,1993)だけでなく,JIG を高くもつことを指摘してきた.【仕事に対する肯定的感情】は,職務満足の中でも重要な概念であると考えられた.

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【仕事の成果の確認】は,産業界を中心に,成果主義の下で注目されてきた.しかし,産業界だけでなく医療の現場においても,目標管理の導入や適正な人事考課の推進など,日常的に仕事の成果の確認が行われてきている.本研究参加者においても,自らが行う看護業務の成果を通して,[看護の仕事に手応え]を感じ,自己の成長や目標の達成につなげていた.Robbins(2005)は,個人が関心を持っている仕事(有意義感の経験)において,自分が行った(責任感の経験)仕事がうまくいったことを知ったとき(結果に対する知識),その個人は内的報酬を受け取ることになると述べている.そこでは,仕事の成果を確認することが不可欠である.これは成功体験であり,Bandura(1995)は,制御体験という成功する体験が強力な自己効力感を作り出す最も効果的な方法であると述べており,日常の看護実践において【仕事の成果の確認】が重要である.

2. 仕事に関する3つのカテゴリーに影響を与える【上司からの支援】【他者とのつながり】【働きやすい労働環境】

これまでの職務満足尺度IWS(1978),MMSS(1990)では,いずれも上司との関係が示されていた.そこでは,看護管理の視点,良好な人間関係,賞賛の程度であったが,本研究では看護師個々の成長・発達に焦点を当てた支援が抽出された.参加者は,管理的支援として[看護部の方針や目標の浸透][臨機応変なトラブルへの対応][個々の仕事の調整やコントロール]と教育的支援として[成長・発達を促すような関わり]を得ていた.Robbins(2005)は,リーダーシップ理論の中で,リーダーが目標達成に必要な方向性や支援を与えることが集団や組織の全体的な目標にかなうと述べており,本研究で見出されたサブカテゴリーと類似していた.上司が方針を具体的に提示し,それに基づき実践を導くような支援により,参加者は[主体的な取り組み]や[自己の目標を見つける]という前向きな姿勢へと変化し,そして[成長・発達を促すような関わり]により,潜在能力が引き出され仕事へのやる気へつなげていることが窺われた.また,参加者は,上司から情緒的支援として[賞賛や労いの言葉かけ]を得ており,[上司は何でも相談できる存在]であった.撫養ら(2009)は,中堅看護師の職務満足と承認の関連で「上司が個々のスタッフを尊重した関わりと支援」という承認が最も

高い相関を示していた.上司が行う[賞賛や労いの言葉かけ]により,参加者は安心して仕事に取り組め,仕事意欲を向上させていた.参加者は,【上司からの支援】により,仕事に関する3つのカテゴリーを円滑に進め職務満足を向上させていることが考えられた.【他者とのつながり】として,これまでの職務満

足因子では,同僚や医師との関係が報告されてきた(Stamps, et al., 1978).しかし,本研究では,同僚や医師だけでなく,他職種や患者との関係が新たに抽出された.厚生労働省(2008)は「安心と希望の医療確保ビジョン」で,医療従事者と患者や家族の協働の推進が重要であることを報告している.参加者は,NSTや感染管理で「それぞれの立場から適切な情報やアドバイスがもらえ共に助けあっている」と述べ,同僚や医師だけでなく他職種を含んだチームで医療を提供していた.そして,患者とは「共にケアを立案しこれからの方向性を決める」など,お互いに同じ目標に向かって協働していることが窺われた.中村ら(2001)は,看護師の仕事意欲に関する研究で「患者との信頼関係および患者からの評価」が得られるとやりがいを感じると述べている.本研究参加者でも,患者からの感謝や看護ケアの賞賛が[仕事のやりがい]や[自らに自信を獲得する体験]につながっていた.一方,サブカテゴリーとして[患者からの暴力や理不尽なクレームに直面]が抽出された.ICNの所信声明(2007)では,暴力は被害者の心身に影響を与えるのみならず,勤労意欲の低下,離職率の上昇など職場へも影響を及ぼすと明示している.【他者とのつながり】において,患者との関係が大きく関わっていることが分かった.従って,チームで協働するという立場から【他者とのつながり】では,同僚,他職種,患者を包含したサブカテゴリーとした.これまでの職務満足尺度を概観すると,MMSS

(1990)では「物理的報酬」「スケジュールの作成」「家庭と仕事のバランス」,IWS(1978)では「給料」「看護業務」という環境要因が抽出されており,本研究で見出された【働きやすい労働環境】と類似していた.【働きやすい労働環境】では, [時間内に仕事が終了しないことへの苛立ち][自分の業務に専念できない不満]を抱き,過重な労働から解放される機会として,休日の確保と仕事を離れリフレッシュできる時間を希求している状況が推察された.林,米山(2008)は,労働条件に対する満足度が職業継続

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意思に直接の影響を与えたと述べており,労働条件が整えられ,精神的・心理的にも余裕を持てることが重要であることが分かった.そして,参加者は,[融通が利く勤務形態]や[休み希望が受け入れられる土壌]を求めていた.仕事を遂行する上で【働きやすい労働環境】は必要な条件であることが考えられた.

3. 職務満足のカテゴリー間の関係性(図1)病棟のカンファレンスや委員会活動でリーダーと

して主体的に取り組んだり,日常の看護実践でも創意工夫するといった【専門職としての自律】を発揮することにより,チームでの活動が上手く行ったり,患者が快方に向かったりと【仕事の成果の確認】を自覚していた.このような成功体験が,次に進むための目標をみつけ【専門職としての自律】を促すと,看護師としてのやりがいや責任感といった【仕事に対する肯定的感情】につながっていた.また,前述のような【専門職としての自律】が高まれば,仕事の面白さと看護師という仕事の意義をより強く感じるといった【仕事に対する肯定的感情】につながっていた.逆に,この【仕事に対する肯定的感情】が高まれば,さらに日々の業務で,より良い方向へ職場やチームを導こうとしたり,日常業務の中から解決すべき課題を見出し【専門職としての自律】も向上していた.同時に,「忙しい中でも,仕事に楽しさや面白さを感じる」といった【仕事に対する肯定的感情】を支えに,「最近自分が成長しているように感じる」 「しっかり看護ができるようになった」と,

職場での自分の成長や自らが行ってきたことの成果を実感していた.このように仕事に関わる【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】【仕事の成果の確認】の 3つのカテゴリーは,相互に関係しあい相乗効果をもたらしていた.「仕事の調整や役割の分担を行ったり,カンファ

レンスで具体的な助言をする」といった【上司からの支援】により,「仕事に前向きに取り組め,活動がしやすい」といった【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】や,職場を変化させることができたといった【仕事の成果の確認】につながっていた.また,「同僚とは何でも相談できるし,医師や他職種とは協力し合い,良いコミュニケーションが取れている」といった【他者とのつながり】によって,「チームでの活動が上手く行き,仕事の面白さを感じる」といった【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】【仕事の成果の確認】に関わっていた.そして,適切な勤務形態や業務量といった【働きやすい労働環境】の上で,上司が個々の仕事の調整やコントロールを行ったり,同僚,医師,他職種,患者から様々な支援を得ることにより,仕事に関する 3つのカテゴリーを相互に変化させ職務満足を向上させていた.したがって,看護師は仕事に関する 3つのカテゴ

リーを相互に関係させながら仕事を遂行していることが考えられた.また,職場に起因する人間関係が仕事に関する 3つのカテゴリーを支援し,そして,組織からは働きやすい労働環境によって支えられていることが示唆された(図 1).

【上司からの支援

 【専門職としての自律】

【他者とのつながり

【仕事に対する肯定的感情】  【仕事の成果の確認】

【働きやすい労働環境】

図1. 職務満足のカテゴリー間の関係性

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Ⅴ. 看護管理への示唆

看護師の職務満足を構成するカテゴリーは,McCloskey(1974)や Stamps, et al.,(1978)が職務満足尺度を開発した時代と比較すると,看護師を取り巻く環境や求められている役割の変化と共に,看護師が価値を置いている仕事そのものや職務満足につながる内容が著しく変わってきていることが明らかになった.今後,本研究の結果に基づいた看護師の職務満足を測定する尺度を作成し,客観的に看護師の職務満足を示すことが重要である.

Ⅵ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,一般病院に勤務する看護師の職務満足に関する内容を抽出し記述したものである.本研究は,近畿地区にある一般病院に勤務する看護師を便宜的に選択しており,異なる対象によりさらに看護師の職務満足を構成する新しい因子が抽出される可能性がある.

Ⅶ. 結論

本研究は,一般病院に勤務する看護師の職務満足を構成する概念を明確にすることを目的とした.看護師の職務満足は【仕事に対する肯定的感情】【専門職としての自律】【仕事の成果の確認】【上司からの支援】【他者とのつながり】【働きやすい労働環境】で構成されていた.特に,専門職として自律した看護ケアを行うことが,自ら仕事の成果の確認につながり,その結果,肯定的感情をもたらしていた.そして,働きやすい労働環境の上で,他者から肯定的評価と上司から支援されることが職務満足の向上につながっていた.

謝辞:本研究にご協力いただきました参加者の皆様に

深く感謝申し上げます.本研究は大阪府立大学大学院看

護学研究科博士後期課程で遂行している研究の一部であ

る.本研究の一部は第 14 回日本看護管理学会年次大会

にて発表した.

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責任著者 撫養真紀子大阪府立大学〒583-8555 大阪府羽曳野市はびきの3 丁目7 番 30E-mail [email protected]

Correspondence: Makiko MuyaOsaka Prefecture University, School of Nursing3-7-30, Habikino, Habikino-shi, Osaka 583-8555, [email protected]

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