当院療養型病床リハビリテーション対象者の入院時栄養管理方法 … ·...

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台 4-1-1 リハと栄養・嚥下障害(1) 当院療養型病床リハビリテーション対象者の入院時栄養管理方法と血清アルブミン値、ADL能力、 転帰先の関連 1 清恵会三宝病院 リハビリテーション部,2 神戸学院大学 総合リハビリテーション学部 うえだ まさや ○上田 将也(作業療法士) 1 ,村田 喜寛 1 ,林 誠二 1 ,中西 信敬 1 ,酒井 香苗 1 ,恵崎 騰文 1 ,村尾 浩 2 【目的】 療養型病床に入院する症例のほとんどが多彩な病態を併存する後期高齢者であり、認知機能障害、運動機能障 害等に加えて高率で栄養障害を持つ患者が存在すると推察できる。しかし、療養型病床での栄養管理方法と栄 養状態(血清アルブミン値)、ADL能力および転帰先の関連を検討した報告は少ない。 本研究の目的は、当院療養型病床でのリハビリテーション(以下、リハ)対象者の入院時栄養管理方法と栄養 状態、ADL能力および転帰先との関連を明らかにすることである。 【対象及び方法】 2015年4月1日から2016年3月31日までに当院療養型病床に入院後にリハが処方された症例から、死亡退院、急 性期病院へ転院した患者を除いた155例を対象とした。入院時の平均年齢は77.8歳、男性88名、女性67名で、 経管栄養患者46名(経管栄養群)、経口摂取患者は109名(経口栄養群)であった。調査項目は、入院時とリハ 終了時の総蛋白値、血清アルブミン値、BMI、FIMおよび転帰先とした。調査項目を経管栄養群と経口栄養群 の2群に分け比較した。 【結果】 総蛋白値は2群間で有意差は無かったが、血清アルブミン値、BMI、FIMにおいて入院時とリハ終了時共に経 口栄養群で有意に高かった(p<0.01)。FIM利得においては経口栄養群で有意に高かった(p<0.01)。転帰先 については経口栄養群で自宅に退院する割合が有意に高かった(p<0.01)。 【考察】 当院療養型病床における入院時経口栄養患者は経管栄養患者と比較して、栄養状態、ADL能力、自宅に退院 する割合が有意に高いことが示され、入院時の栄養管理方法の違いが栄養状態のみならずADL能力や転帰先 にも影響していると考えられた。先行研究でも同様の報告がみられる。入院後早期からの適切な栄養補給や経 管栄養からの離脱促進が重要と考えられた。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-1-1 リハと栄養・嚥下障害(1)当院療養型病床リハビリテーション対象者の入院時栄養管理方法と血清アルブミン値、ADL能力、転帰先の関連

1 清恵会三宝病院 リハビリテーション部,2 神戸学院大学 総合リハビリテーション学部

うえだ まさや

○上田 将也(作業療法士) 1,村田 喜寛 1,林 誠二 1,中西 信敬 1,酒井 香苗 1,恵崎 騰文 1,村尾 浩 2

【目的】療養型病床に入院する症例のほとんどが多彩な病態を併存する後期高齢者であり、認知機能障害、運動機能障害等に加えて高率で栄養障害を持つ患者が存在すると推察できる。しかし、療養型病床での栄養管理方法と栄養状態(血清アルブミン値)、ADL能力および転帰先の関連を検討した報告は少ない。本研究の目的は、当院療養型病床でのリハビリテーション(以下、リハ)対象者の入院時栄養管理方法と栄養状態、ADL能力および転帰先との関連を明らかにすることである。

【対象及び方法】2015年4月1日から2016年3月31日までに当院療養型病床に入院後にリハが処方された症例から、死亡退院、急性期病院へ転院した患者を除いた155例を対象とした。入院時の平均年齢は77.8歳、男性88名、女性67名で、経管栄養患者46名(経管栄養群)、経口摂取患者は109名(経口栄養群)であった。調査項目は、入院時とリハ終了時の総蛋白値、血清アルブミン値、BMI、FIMおよび転帰先とした。調査項目を経管栄養群と経口栄養群の2群に分け比較した。

【結果】総蛋白値は2群間で有意差は無かったが、血清アルブミン値、BMI、FIMにおいて入院時とリハ終了時共に経口栄養群で有意に高かった(p<0.01)。FIM利得においては経口栄養群で有意に高かった(p<0.01)。転帰先については経口栄養群で自宅に退院する割合が有意に高かった(p<0.01)。

【考察】当院療養型病床における入院時経口栄養患者は経管栄養患者と比較して、栄養状態、ADL能力、自宅に退院する割合が有意に高いことが示され、入院時の栄養管理方法の違いが栄養状態のみならずADL能力や転帰先にも影響していると考えられた。先行研究でも同様の報告がみられる。入院後早期からの適切な栄養補給や経管栄養からの離脱促進が重要と考えられた。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-1-2 リハと栄養・嚥下障害(1)療養病棟高齢者症例における栄養障害指標Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI)とADL、 転帰との関係

たたらリハビリテーション病院

かじはら のりよし

○梶原 敬義(医師),平田 済

【目的】療養病棟高齢者症例に対し栄養障害指標であるGeriatric Nutritional Risk Index(GNRI)とADLの程度や転帰との関係を調査しGNRI評価の有用性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2014年1月から3年間に当院療養病棟を退院した65歳以上の高齢者244例(年齢81.9±8.3歳)。疾患は骨・関節疾患60例、脳卒中57例、神経疾患29例、肺炎22例、術後16例などであった。身体計測値、血液検査値、退院先、 ADLを調査。GNRIは14.89×血清アルブミン(g/dl)+41.7×現体重(kg)/標準体重(kg)にて算出し、重度リスク群(<82)、中等度リスク群(82 ~ 91)、軽度リスク群(92 ~ 98)、リスクなし群(98<)の4群に分類し比較検討した。ADLはFunctional Independence Measure(FIM)を用いて評価。自宅退院に影響する因子をロジスティック回帰分析にて調査した。【結果】GNRI分類は重度リスク群45例、中等度リスク群71例、軽度リスク群62例、リスクなし群67例であった。入院時FIMは、重度リスク群(46.0±25.0点)が軽度リスク群(77.4±23.1点)、リスクなし群(87.8±25.1点)に比べ有意に低く、退院時FIMは、重度リスク群(53.1±30.4点)および中等度リスク群(72.8±30.9点)とも軽度リスク群(86.4±24.5点)、リスクなし群(96.3±24.9点)に比べ有意に低かった。FIM利得は各群間に差は無かったが、利得率は重度リスク群(2.8±5.1点/月)がリスクなし群(5.7±6.2点/月)に比べ有意に低かった(Tukey HSD検定)。自宅退院率は重度リスク群37.8%、中等度リスク群59.0%、軽度リスク群71.0%、リスクなし群92.0%であった。自宅退院に影響する因子では、GNRI重症度(オッズ比0.517)と退院時FIM(オッズ比1.055)が有意な因子であった。【結論】療養病棟高齢者症例においてGNRI評価での栄養リスク群はADLが低く、自宅退院率が低いことが示された。GNRIによる栄養障害評価はADLの程度や自宅退院の有無予測に有用であると考えられた。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-1-3 リハと栄養・嚥下障害(1)当院におけるKTバランスチャートを用いたNSTの取り組み

1 各務原リハビリテーション病院 リハビリテーション科,2 各務原リハビリテーション病院,3 各務原リハビリテーション病院 栄養課,4 平成医療短期大学 リハビリテーション科

かつらがわ ちひろ

○桂川 智宏(理学療法士) 1,和座 雅浩 2,杉田 敦子 3,河合 克尚 4,岸本 泰樹 1,磯野 倫夫 2

はじめに当院では平成28年1月よりKTバランスチャートを導入し、NSTでの活動やリハビリテーション、食事動作に対するアプローチの際の参考指標として活用している。今回、KTバランスチャートを用いたNSTの取り組みの中で良好なアウトカムを得られたため報告する。

対象平成28年1月より平成29年4月末までに当院回復期病棟に入院されていた患者84名(男性39名、女性45名)

方法対象者における入院時および退院時のKTバランスチャート得点を集計し、その変化をWilcoxon符号付き順位検定を用い比較した。また、KTバランスチャートの変化量とFIM利得との関係性をSpearmanの相関分析を用い調査した。

結果KTバランスチャートの合計点数、および13項目のうち11項目において有意な改善を認めた。残り2項目においても改善傾向がみられた。またFIM利得との関係では、中等度の正の相関(r=0.456)が認められた。

考察得られた結果については、入院患者に対し入院早期から医師・看護師・リハビリスタッフ・管理栄養士によるNSTチームによるアプローチが功奏したと考える。またKTバランスチャートとFIM利得の結果から、対象者の摂食状況の変化はFIMの改善にも影響することが示唆された。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-1-4 リハと栄養・嚥下障害(1)他職種連携によるKTバランスチャートにおける検討

1 安藤病院 看護,2 安藤病院 リハビリ

すぎうら ちさと

○杉浦 千里(看護師) 1,杉山 千晴 2

はじめに当院は、NG/PEGの患者様が5割を占める慢性期病院である。高齢者の最後がどうあるべきか、本人や家族の意思をどう支えていくのか、「食べられない」人への関わりはどうあるべきか、「安全に最期まで食べること」を目標とし2年前に嚥下チーム及び部会を発足した。他職種への教育・理解に困難を来していたがKTBCを用いることで連携が上手くいった事例があったのでここに報告する。事例紹介63歳男性、平成17年クモ膜下出血、3か月後水頭症OPE、右不全麻痺。平成28年9月頃よりADL低下。回復期HPへ。10月食事摂取量低下、熱発、NGチューブ留置となる。回復期HP/STにて直接訓練を行ったが12月に熱発。その後、NGチューブ留置中ST介助の状態で平成29年1月17日当院入院となり介入開始。実際初期評価ではMWST3b・RSST1回、頸部聴診では詰まり音・連続音聴取。2月10日VF施行。咽頭収縮弱く喉頭蓋反転不良あり、残留多く60度で水分誤嚥を認めた。ST介入し、口腔機能訓練、ハッフィング、咳訓練、シャキアの間接訓練とゼリーによる直接訓練を施行。病棟ではおでこ体操を行った。KTBCの①②③④の強みを維持しつつ⑤~⑬の弱みを強化すべく介入した。結果3/29にNGチューブ抜去。60度・全粥・特刻みあんかけ1%とろみを3食摂取できるようになったが、他職種の教育不足、高次脳による易怒性、本人の強い希望で自己摂取へ変更したところ4/13熱発し右誤嚥性肺炎をおこした。家族と本人と話し合いの結果「口からのみ」との意思を確認した。4/21より全介助経口のみで再開となった。まとめ誤嚥の再発を防ぐ為、他職種への教育を見直し、KTBCを使用し可視化することで、他職種への理解の浸透を行った。その結果、現在、誤嚥なく経口摂取可能となった。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-1-5 リハと栄養・嚥下障害(1)食思低下の見られた嚥下障害患者に対する嚥下リハの取り組み

1 橋本病院,2 千里リハビリテーション病院

せき さいり

○関 彩里(言語聴覚士) 1,白川 卓 1,宮本 美恵子 1,橋本 康子 1,熊倉 勇美 2

【はじめに】訓練初期に食思低下が見られたものの、3 ヶ月後には、自力で3食、経口摂取可能となった一症例を経験した。嚥下リハの経過と考察を交えて報告する。

【症例】80代・女性、元理容師、右片麻痺、嚥下障害、構音障害、高次脳機能障害(失語症、注意障害、記憶障害)、平成28年X月X日に右片麻痺で発症。A病院へ救急搬送、脳梗塞と診断され、点滴・内服治療を実施。41病日に当院回復期リハ病棟に転院となった。

【訓練経過】入院時FIM 24点、MMSE 4点、藤島Gr5(昼食のみ経口摂取、他は経鼻経管栄養)、RSST 0回/30秒、嚥下食ピラミッドL3で、濃いトロミをベッドアップ60°で摂取を開始したが拒否あり、摂取量は1割程度であった。訓練初期、嚥下反射惹起遅延と食塊形成不良、またペースト粥が「美味しくない」と拒否され、摂取量の低下が見られた。そこで間接訓練(口腔顔面運動、嚥下おでこ体操など)を実施すると、準備期・口腔期ともに短期間で改善し、52病日に嚥下食ピラミッドL4粥へ変更すると、40分で5割程度摂取可能となった。77病日に第1回VFを実施し、軟飯に形態変更した。その後、変更した主食だけでなく副食の摂取量も増加し、81病日には3食経口摂取となった。頭部挙上訓練で10秒の持続が可能となり、反復訓練を追加した。146病日に第2回VFを実施し、濃いトロミのコップ飲みが可能となった。失語症を含む構音障害、高次脳機能障害も改善し、意思疎通がスムースになった。

【考察】適切な間接訓練を選択・提供することで、早期に嚥下機能の改善を認め、食形態を上げることができた。訓練初期に見られた食思低下については、「美味しくない」という訴えがあったことから、薬の副作用、元々の食習慣などについて検討したが、該当するものはなく、嚥下機能改善と食形態の向上が、摂取量増加に繋がったものと考えられた。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-1-6 リハと栄養・嚥下障害(1)言語聴覚士のモーニングリハ介入により多職種との連携を深め、経口摂取に繋がった症例

愛全病院 リハビリテーション部

やまもと きよと

○山本 聖人(言語聴覚士),吉川 文博

【はじめに】当院は早朝や夕方~入眠までの時間帯でモーニング・イブニングリハを行い、平成28年7月よりSTのモーニングリハも開始した。今回STのモーニングリハにより多職種連携を深め、経口摂取に繋がった症例について報告する。

【症例】80歳代、男性疾患名:視床出血身体機能:基本動作は起き上がりまでは自立。立ち上がり以降は中等度介助。起立性低血圧、軽度右片麻痺、全身筋力・耐久性低下認知機能:NMスケールB判定4/30点。会話の項目で加点。嚥下機能:経鼻経管栄養。ゼリー、とろみ付きの液体、液体、全粥で咽頭残留あり。追加嚥下でクリアランスは良好。全粥で喉頭侵入あるも咳反射なし。FIM:26点(記憶は2、それ以外の項目は全て1)日常場面:昼夜逆転傾向で朝は覚醒不良なことが多い。

【目標】3食安定した経口摂取の獲得、生活リズムの構築

【アプローチと経過】<①モーニングリハ開始以前>PT・OTは耐久性向上や覚醒向上、病棟職員は離床時間の拡大、STは週7回間接的・直接的嚥下訓練、呼吸訓練を実施。日中の覚醒状態は安定し、開眼していることが多くなり、昼の食事を介助にて経口摂取可能となった。朝夕の覚醒は依然悪く誤嚥のリスクは高い状態であった。<②モーニングリハ導入前期>STは週2回、PT・OTは週5回朝食時に実施。STが朝食時の状況を評価し注意点・実施方法を立案し、PT・OTに伝達。朝食の習慣化や刺激入力により覚醒状態が改善し、朝食の自力摂取が可能になった。<③モーニングリハ導入後期>病棟職員にも同様に注意点・実施方法を伝達。3食の自力摂取が可能となり、経鼻経管が抜去され、経口での食事が継続して行えた。

【考察】STのモーニングリハを通して、STが中心となり多職種と情報共有を密に行いチームとして1日を通したアプローチができたことで経口摂取に繋がったと考えられる。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-2-1 リハと栄養・嚥下障害(2)経管栄養から経口摂取に移行する患者の特徴―リハビリテーションを行った当院療養型病床入院患者の調査―

1 清恵会三宝病院 リハビリテーション科,2 神戸学院大学 総合リハビリテーション学部

むらた よしひろ

○村田 喜寛(理学療法士) 1,上田 将也 1,林 誠二 1,中西 信敬 1,上山 亜実 1,川添 めぐみ 1,中野 愛未 1,村尾 浩 2

【はじめに】 近年の報告では、長期療養患者には低栄養状態の者が多いとされており、適切な栄養管理のもとリハビリテーション(以下リハ)を行うことの重要性が提唱されている。その中で摂食嚥下障害とADL及び栄養状態等との関連について報告されている先行研究も多い。本研究は、当院療養型病床リハ対象者において、経管栄養から経口摂取へ移行する患者の特徴(ADL、栄養状態等)について調査し、今後の栄養管理方法等について再検討することを目的とした。

【対象・方法】 対象は2015.4.1 ~ 2016.4.1にリハを処方された療養型病床入院患者のうち、入院時の栄養管理方法が経管栄養であった46名で、その内リハ実施期間中に栄養管理方法が経口摂取へと移行した25名を移行群、リハ終了時まで経管栄養のままであった21名を不変群とした。調査項目は入院時・リハ終了時のFIM総合点数、FIM獲得点数、血清アルブミン値、ヘモグロビン値、およびリハ終了時の転帰先とし、2群間を比較した。

【結果】 リハ終了時のFIM総合点数、FIM獲得点数、血清アルブミン値においては移行群の方が高かった(p=0.05)。入院時のFIM総合点数は両群間で差は認められなかった。終了時の転帰先については、移行群で自宅退院が多かった。(p=0.05)

【考察】 移行群では退院時のFIM総合点数、FIM獲得点数、血清アルブミン値が高く、入院時は調査項目のいずれも

(FIM総合点数、血清アルブミン値、ヘモグロビン値)両群間で差を認めなかった。先行研究と同様、経口摂取に移行し栄養状態(血清アルブミン値)の改善が認められた群はFIM総合点数やFIM獲得点数が高く、自宅退院率も高いという結果となった。今後、当院療養型病床において、経口摂取への移行をよりスムーズに行えるよう取り組んでいくとともに、経管栄養患者への栄養管理方法やリハでの運動負荷量等の検討が必要であると考えられた。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-2-2 リハと栄養・嚥下障害(2)経管栄養から経口摂取へと回復した患者の一例

1 AMG埼玉回生病院,2 杏林大学大学院医学研究科 社会医学系専攻社会医療情報学分野

かわさき なぎさ

○川崎 渚(看護師) 1,高田 裕司 1,佐藤 千佳 1,伊賀 文恵 1,高橋 恭子 1,岳 眞一郎 1,吉田 正雄 2

【はじめに】近年、嚥下障害患者に対する摂食嚥下訓練の試みや効果の研究報告は数多く行われている。当院でも経管栄養から経口摂取に移行出来ないかと考えアプローチした結果、完全に経口摂取に移行するまでに回復した症例を経験したので、その概要を報告する。

【対象と方法】対象は51歳男性。平成25年10月(47歳時)脳腫瘍・脳出血で手術。その後、ADLが低下し胃瘻増設、経管栄養となる。当院入院時は発語がほとんどなく、コミュニケーションが取れなかった。また、長時間の座位保持が難しく日常的にベッド上で傾眠傾向であった。この患者に対しスタッフは積極的に声掛けを行い、発語を促した。また、家族からTVやカラオケが好きという情報がありベッドサイドにTVを購入、雰囲気づくりの為スタッフがマイクを自作し離床している際にはCDを流した。

【結果】外的刺激を増やした事で徐々に発語が見られ、CDやスタッフの歌に合わせてマイクを持ち 歌うようになった。VFによる嚥下機能評価を行い、嗜好に合わせた食事提供を開始した。平成26年9月、当院入院時は1日3回の経管栄養であったが、平成28年7月より経口摂取を開始し、同9月から全粥食へと食形態をUP、10月からは軟飯となり、胃瘻からの経管栄養は中止となった。それに伴い離床時間が増加し、1日の生活スタイルが整う様になった。

【考察】発声発語の状態を知ることで嚥下機能の一部を推定できる可能性がある。発声発語の変化が嚥下機能の向上や増悪を予想させるという研究報告があるように、スタッフの積極的な声掛けによる発語の促し、歌を歌う事が発声発語機能の向上に繋がり、対象者の嚥下機能が向上したと考えられる。また、発語が多くなったことで対象者とスタッフ、そして家族とのコミュニケーションが取れ、本人の嗜好に合わせた食事を提供することができ、この事が食事に対する意欲につながったと考えられる。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-2-3 リハと栄養・嚥下障害(2)経鼻栄養から経口摂取へ移行した1症例~最後まで口から栄養を~

東名裾野病院

みわ ますみ

○三輪 真澄(管理栄養士),高杉 敦子,堀内 美沙,曽根 敦代,高梨 千尋

[はじめに]レビー小体型認知症の周辺症状により向認知症薬・向精神薬の投与が行われ廃用が進行し経口摂取困難となったが夫の献身的食支援により経口摂取が可能となった1症例を報告する。

[方法]対象:H26初旬レビー小体型認知症と診断された女性方法:1週間に6 ~ 7日 午後14時半頃、家族様(夫)来院。持ち込みデザートの種類は市販のヨーグルトやゼリー、プリン、チョコレートムース等数種類。小さめのカップに入ったデザートを患者様の嗜好に合わせ1日1 ~ 2種類用意。30分程度かけてご主人介助のもと摂取。背中や足・腕のマッサージなど間食含め、1日約1時間半~ 2時間程度行う。H27/06/21当院入院後から現在までの2年程継続している。

[経過]H26/5/19 大腸がん発覚し手術のため入院。点滴管理。H26/6/6 ~経口摂取するも食事摂取量乏しく点滴併用。その後一時的MT用いるも拒薬等あり経口摂取と末梢点滴併用し栄養管理を施行。H27/6/21 当院入院後も経口摂取と点滴併用するも食事量低下。H27/6/24 十分な栄養補給法確保のためMTと昼のみ経口摂取へ変更。H29/1/10 1年半程度かけご家族の熱心な食支援と食事回数増加・食形態変更を経て、3食経口移行となる。

[考察・結論]往々にして福祉・医療の現場では家族との繋がりが希薄になりやすい。また資格者としての医学的目線と家族の目線が異なる傾向にあるかもしれない。しかし患者様を想う気持ちは同じである。チーム医療が大切となる中、ご家族と協力しリハビリを行っていくことにより経口摂取のみでは栄養補給が絶対的困難と思われた女性が能力を取り戻し、夫と幸せな時間を過ごしている。私たち医療人は患者様のことを一番よく知っているご家族もチーム医療の一員として協力が必要であると改めて考えさせられた。今後の対応を検討するきっかけとなった。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-2-4 リハと栄養・嚥下障害(2)経管栄養から2年ぶりに経口摂取を目指した一症例

平成横浜病院

ふじさわ ともや

○藤澤 友弥(言語聴覚士),坂村 真之輔,森岡 研介

[はじめに]高齢化社会が進行するなかで摂食嚥下障害患者も増加傾向にある。経口摂取困難に伴う胃瘻造設は生きる為に必要な行為となっている一方、延命処置になるのではという議論がなされている。今回、経皮内視鏡的胃瘻造設術(以下PEG)後に、長期経管栄養のみで栄養摂取していた症例に対し、段階的にアプローチを行い経口摂取が可能となった症例を報告する。

[方法]60歳代女性。X年Y月に食事摂取困難となりA病院に入院。その後も嚥下機能は改善せず、Y+2 ヵ月にPEG造設し老人保健施設へ退院。嚥下訓練は実施されずX+2年、経口摂取の希望により当院入院しリハビリ開始となる。

[結果]準備期から咽頭期の機能低下を認めた為、間接的嚥下訓練及び舌運動機能訓練から開始した。その後、ヘッドアップ(以下Hup)40°・60°で直接的嚥下訓練を段階的に進め、入院+30日にはHup80°でゼリー形状食摂取見守りレベルへと改善した。食事摂取自立に向け、交互嚥下及び食物の選択訓練を加えアプローチを継続し、入院+60日食事摂取自立レベルとなる。しかし、パーキンソン病の影響で覚醒レベルが安定せず、食事提供時間の調整や薬剤調整を継続し、入院+80日退院となる。

[考察]段階的に嚥下訓練を実施したことで嚥下反射惹起改善が認められ、舌運動機能を重視したことで口腔構音器官機能が改善、それにより経口摂取が可能となったと考える。また、経口摂取と経管栄養を併用することで、栄養状態の安定化が図れ、活動量や座位耐久性の向上に繋がったと考える。

「口から食べる」ことは、その人らしい生活を送る上で大切な意味を持つ。PEG施行後もPEGと経口を併用する栄養摂取方法を選択肢に持つことで、“生きるためのPEG”ではなく、“食べるためのPEG”という意味が生まれ、それが経口摂取を継続する重要な要因になると考える。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-2-5 リハと栄養・嚥下障害(2)誤嚥性肺炎患者の経口摂取へのアプローチ~嚥下訓練プログラムを取り入れて~

岸和田平成病院

つつい ゆみこ

○筒井 弓子(看護師),上田 宮子,福田 弥生,中辻 典子,辻 亜希

[はじめに]日本人の死亡原因4位という高位に位置する肺炎の約9割が75歳以上の高齢者である。うち7割は「誤嚥性肺炎」が原因である。誤嚥性肺炎の原因は老化や疾患、内服薬によるもので、食事の時だけに限らず睡眠中にもおこる。そのため誤嚥性肺炎予防対策は高齢者医療の最重要課題である。今回、経管栄養中の誤嚥性肺炎患者に対し、病棟で実施可能な嚥下訓練プログラムを考案・実施し有効な結果を得た。

[方法]対象者:経管栄養中で全身状態が安定しており、意思疎通可能な患者2名期間:2015年7月1日~ 9月30日方法:嚥下訓練プログラム(以下嚥下訓練とする)を実施し振り返る①腹式呼吸(口すぼめ呼吸)②口腔ケア:歯磨きと含嗽③間接的嚥下訓練:舌運動・発声練習④運動療法:座位保持訓練・離床時間の延長・レクリエーション参加

[結果]A氏は「口から何も食べられなくなるなら死んだ方がましや。」と経口摂取を希望しペースト食・嚥下訓練実施。徐々に誤嚥・ムセ・吸引回数が減少し食事摂取量が増加。趣味の歌を取り入れ、「練習しようか?」という声も聞かれた。B氏は ゼリー食1回/日と食事摂取時車椅子移乗し嚥下訓練開始。単語程度の発声が可能となり、声のボリュームもアップした。

[考察]嚥下訓練を取り入れたことで、A氏は誤嚥・ムセが軽減し食べる喜びを取り戻すことができ、意欲・ADLの向上につながった。B氏は生活リズムの変化やコミュニケーションの機会が増え、失語症の改善につながった。A氏においてはマズローの欲求5段階説の第3段階社会的欲求まで満たされてきているのがうかがえる。「口から食べたい!」というのは人間の根源的な欲求であり、それを満たすことができた嚥下訓練は効果があったと考える。今後も個々に応じた嚥下訓練を取り入れ、経口摂取可能となるよう関わっていきたい。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-2-6 リハと栄養・嚥下障害(2)お食い締めを試み,最期まで経口摂取できた誤嚥性肺炎の1症例

温泉リハビリテーション いま泉病院 リハビリテーション科

よねくら あんな

○米倉 杏奈(言語聴覚士),金子 亜弥,明野 未来

【はじめに】経口摂取量が低下していく中,本人の希望に沿って家族の協力を得ながらお食い締めを試み,最期まで経口摂取できた症例を報告する.

【症例】80歳代 男性本人要望:お粥が食べたい家族構成:妻と2人暮らし医学的診断名:誤嚥性肺炎,廃用症候群現病歴:肺炎にてA病院入院.抗生剤治療し,改善を認めるも食事摂取不良続き,家族は胃瘻増設や中心静脈カテーテル治療挿入希望せず,末梢点滴のみ選択する.19病日,当院入院となる.神経学的所見:構音障害,嚥下障害

【経過】入院8日目,熱発あり,次の日より食止めとなる.11日目,完全側臥位法導入,エンゲリード(学会分類2013コード0j:以下コードで示す)より開始し,提供量増量していく.36日目より経口摂取量低下認め,45日目,ゼリーは嫌だとの本人の希望に沿い,重湯を提供する.59日目より家族に協力依頼し,病院では提供できない物や馴染みの物を差し入れてもらう.家族に説明指導行い,家族による食事介助開始する.自発話,笑顔の増加みられる.咀嚼運動改善認め,76日目,全粥ミキサー菜(コード4 ~ 3),106日目,全粥ソフト食(コード4 ~ 2)へ変更し,本人の要望であるお粥の摂取可能となる.129日目,ソフトクリームを摂取し,人生の最期を迎える.

【考察】 本症例は,誤嚥リスクや疲労を考慮した上で,本人の希望に沿った物を摂取し,お食い締めを試みた.食べたい物を摂取した事で,食事意欲が高まり,摂取量も増加した.経口摂取の機会が増え,嚥下調整食コード3の食品も摂取した事で,舌運動,咀嚼運動が促進され,食事形態のレベルを上げる事に繋がったと考える.牧野は「お食い締めにより,対象者は自己超越感を得,家族は心のけじめをつけるようになる」と述べている.本症例は,家族の介助で食べたい物を摂取し,人生を終える事ができた.家族は自ら差し入れた物を介助する事で達成感,満足感に繋がった.最期まで経口摂取できる症例は多くない.希望に沿いながら,経口摂取の可能性を探り,納得のいく最期を迎えられる支援をしていきたい.

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-3-1 リハと栄養・嚥下障害(3)一見、拒食に見える。が、しかし、原因は失行であり失行を軽減させることで経口摂取可能となった症例

千木病院 リハビリテーション部

ただ あずさ

○多田 杏沙(言語聴覚士)

【はじめに】本当に拒食なのか…!?高次脳障害を呈した患者は言動で自身の欲求を正しく表現できるとは限らない。患者に対し自然な動作が出易いような状況にて、道具を使わない摂食動作の促しから摂食訓練開始した。結果、自力摂取可能になり一食経口摂取となった症例を報告する。【症例】60代女性【現病歴】H28年X月くも膜下出血発症。他院にて一時経口摂取可能となる摂取量減り経鼻経管栄養となる。X+7 ヶ月当院入院。【病巣】左前頭葉~頭頂葉、左放射冠、左基底核、陳旧性ラグナ梗塞。左被殻出血【神経心理学的所見】重度失語症(+)観念運動失行(+)口腔顔面失行(+)【経過】当初唾液嚥下動作は認められ、水分はコップでムセなく数口飲めており、口腔期・咽頭期に顕著な問題はないと判断した。食物に対しては手で退けたり、介助でスプーンを口元に近づけると閉口した。他者がお菓子を食べる状況にて手に餡子をつけると口まで運び舐めた。自然な状況下では摂食できた為、失行により意図的な摂食動作が難しいと考えた。自然な動作を誘発すべく、患者の後方から手にゼリーをのせ手食を促すことから開始。X+10 ヶ月一食開始。食器の蓋に食物を入れ自力摂取を促す。X+11 ヶ月スプーンで自力摂取が可能となった。【考察】一見、拒食とも伺える動作は観念運動失行や口腔顔面失行が影響していたと考える。訓練でリラックスした状況の下、道具を使わない手食を行なったことで、失行の影響を軽減でき、意図的な手指・開口動作が導きやすかったと考える。意図的に簡単な摂食動作を繰り返し手食から道具の使用しての摂食が可能になったと考える。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-3-2 リハと栄養・嚥下障害(3)舌接触補助床を使用し一部経口摂取可能となった症例

聖ヶ塔病院 リハビリテーションセンター

いぐち かずき

○井口 和樹(言語聴覚士),松田 絹恵,徳永 やすみ,大野 美咲

【はじめに】 当院では平成26年12月にがんリハビリテーション・ケアチームを設立し、活動を開始。 今回、右側舌亜全摘術後の症例に舌接触補助床(以下PAP)を作成し、一部経口摂取獲得に繋がった為経過を含め報告する。

【症例】 60歳代男性。平成27年8月右側舌扁平上皮癌の診断にて化学療法開始。10月に舌亜全摘術、両側頚部郭清術、右側大胸筋皮弁成建術施行。その後嚥下訓練を行ったが誤嚥性肺炎を繰り返していた為、12月にPEG作成。平成28年1月にリハビリテーション継続目的にて当院入院。

【経過】 入院時、舌運動範囲、開口範囲制限が認められていた。改訂水飲みテスト、フードテストは共に4点であり、口腔内残留が認められた。藤島の摂食・嚥下グレードは3。間接訓練、ゼリーを用いた直接訓練を開始した。徐々に舌運動範囲の拡大が認められ、ゼリー形態であれば口腔内残留はほぼなく嚥下できた。3月上旬にミキサー食を使用しVF実施。誤嚥は無かったが口腔内残留が多かった。口腔内残留軽減の為に3月中旬歯科医師にPAP作成依頼。4月下旬より作成開始。摂食訓練に用いる食品は、症例の意向を重視しながら嚥下能力に合わせて選択した。また、自助具や食事時の姿勢も他職種と共に調整した。口蓋部を調整しPAPのフィッティング向上につれて口腔内残留が減少し、本人の食に関する要望が高まった。10月下旬PAP完成し、全粥・キザミ食を経口摂取できるようになった。

【まとめ】 舌亜全摘によって生じた舌運動範囲の制限に対し、PAPを作成し嚥下機能の改善を図った。嚥下機能・能力の改善のみならず食形態の検討や環境調整などの多面的なアプローチの提供により誤嚥性肺炎の発症を防ぎ、本人のニーズに応え経口摂取を継続することでQOLの向上に繋がったと考える。今回の経験を活かし、今後も個々に合わせたがんリハビリテーションを提供していきたい。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-3-3 リハと栄養・嚥下障害(3)経口摂取の改善を目的に覚醒状況の向上に成功した一例

福島寿光会病院 リハビリテーション科

ほりごめ めぐみ

○堀篭 恵美(言語聴覚士),木田 雅彦

【はじめに】 声門閉鎖術を受けたが覚醒の悪化が主要因で経口摂取が困難となり経腸栄養管理となった症例を経験した。覚醒状態の改善を目的にフィジカルアプローチ及び環境刺激の多様化を図ったところ、部分的ではあるが経口摂取が可能となったので報告する。【症例】 レビー小体型認知症の90歳代前半の男性である。X年5月に誤嚥性肺炎により他院にて声門閉鎖術を施行された。同年6月、当院へ転院したが食事が進まず同年7月にPEG造設が行われた。同年8月当院関連施設へ入居したが、家族は経口摂取を希望された。【方法】 意識レベルの改善刺激として肉体的刺激を基本とするためリクライニングではなく普通型車いすに移乗させた。また、環境変化を図るため、室内・屋内ばかりではなく屋外も散歩し、風船や棒体操等の全身運動も組み込んだ。また口腔ケア・氷を用いた口腔内刺激も実施した。これらの刺激療法を、約2年間継続した。【結果】 介入から約1年で覚醒している時間が増え、経口摂取に取り組める状態となった。口を動かし意思を伝えようとする姿も見られるようになった。経口摂取に対して拒否はないもののいまだ持続性はなく、依然食思にも乏しい状態であった。それからさらに1年、棒付きキャンディーを用いた口腔運動の引き出しなどを行い、現在はその日の状態に応じて水分やゼリー程度の固形物摂取が可能となった。【考察】 経口摂取を行う上で覚醒レベルの維持は不可欠である。今回の症例では積極的な離床と口腔刺激や環境変化とを同時に行ったことで覚醒の改善が見られ、経口摂取が可能となった。本症例は、誤嚥性肺炎を繰り返していたため声門閉鎖術が行われた。これにより誤嚥が予防され全身状態の安定が図れたことが、今回の積極的アプローチを可能とさせた要因であると考えている。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-3-4 リハと栄養・嚥下障害(3)摂食機能療法の取り組みの効果と分析

宇都宮病院 看護科

いのうえ ももこ

○井上 桃子(看護師)

1.はじめに 当院では誤嚥性肺炎の患者に対してより専門的なアプローチが必要と考え平成25年に摂食嚥下チームを立ち上げた。連携先耳鼻科医とSTの助言をもとにチームで活動を行っている。そこで四年間の取り組みを分析することによりチームのかかわりの効果と摂食嚥下指導に影響する要因について示唆を得たので報告する。2.対象者 平成25年4月~ 28年12月までに当院で摂食機能療法をうけた患者96名3.方法 カルテより①全体の42%に食形態の変化を点数化②嚥下回診時の指導内容・病棟での取り組みを質的研究ソフトNVIVO11を用いて分析4.結果 ①全体の42%に食形態の改善が認められた②残留・反射に表される確認事項、ゼリー・とろみに表される形状に関すること、ギャッジアップ・交互嚥下・マッサージになどの摂取に関することが頻出ワードとして検出された。5.考察 全体の4割以上の改善を認めることができたがそのうち47%が絶食からのスタートであった。このことから経口摂取困難と諦めずに根気強く関わることの重要性を示唆している。嚥下内視鏡を行うと反射が弱く喉頭が上がらないために高い確率で梨状かに残留が認められる。残留が解消されないとあふれて気管に侵入し誤嚥となる。空嚥下・ゼリー又はとろみ茶との交互嚥下が有効である。また食前や食事中に顔面・口腔内のマッサージを行うことにより覚醒度をあげ嚥下運動を促してくれる。患者家族はギャッジアップ角度が低いと「寝てるからむせる」と言う方がいる。しかし嚥下機能の低下した患者の場合、角度を下げることで口腔期の送り込みを助け、また気道が上・食道がしたとなり誤嚥を減らす可能性がある。6.まとめ 嚥下困難患者に根気強く関わることは食事の改善に有効である。誤嚥のリスクの患者には食前の顔面・口腔内マッサージ、交互嚥下、ギャッジアップ角度が重要である。これらのデータを元に効率的な嚥下指導及び新人教育に活かしていきたい。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-3-5 リハと栄養・嚥下障害(3)完全側臥位法の導入における職種間の反応の違いと、対応方法について

志田病院

のぐち さゆり

○野口 さゆり(言語聴覚士),上杉 義隆,西川 武彦,大石 浩隆,志田 知之

【はじめに】完全側臥位法は2012年に福村らによって報告された誤嚥防止効果の高い食事姿勢である。2016年3月より当法人で導入を行った。重度嚥下障害のある認知症患者の終末期において、STによる同法の指導を行いながら最期まで経口摂取できた2症例を経験した。1症例は病院で、もう1症例はグループホームで看取ることができた。今回、スムースな導入にはどのような指導が必要なのかを探るために、同法の導入について事後アンケートを実施したので結果を報告する。

【対象、アンケート項目】対象は地域包括ケア病棟看護師12名、グループホーム介護士6名。アンケートは「良かったこと」「悪かったこと」「またやりたいか」「完全側臥位法について」の設問を設定し、自由記載にて回答を得た。

【結果】「良かったこと」では「最期まで食べられた、むせや誤嚥がなかった」等の意見があり、「悪かったこと」では「開口のない人へ無理に食べさせた、手間・時間がかかる、周知不足」等の意見があった。「またやりたいか」では、看護師は殆どが「本人に食べる意志があり他に方法がなければ」という意見だったに対し、介護士は「やりたい」との意見だった。「完全側臥位法について」は、看護師は「介助しにくい、食べこぼしが多い」という意見が多く、介護士は「初めは不安だったが後に安心でき喜びがあった」という意見が多かった。

【考察】終末期患者への完全側臥位法の導入に関して、看護師はより慎重な意見が多く、介護士は積極的な意見が多く、職種による差異を認めた。スムースな導入のためには、看護師に対しては手技のより詳しい説明、ケアの方向性、倫理面への配慮が必要と考えられた。介護士に対しては不安や驚き等の心理面へより配慮することが重要と考えられた。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-3-6 リハと栄養・嚥下障害(3)療養病棟における「食べる」を再考する~経口摂取をすすめるための合意形成と他職種連携強化~

小平中央リハビリテーション病院 看護部

くろごうち せいじ

○黒河内 誠司(看護師)

はじめにA病院B病棟は療養病棟であり、長期的に点滴管理となり禁飲食となっている患者が全体の約2割を占めている。そのような患者・家族より再び経口摂取を希望する声が聞かれた。今回、患者・家族との合意形成が成功し、他職種連携強化の奏功により経口摂取が定着した取り組みを考察することで、患者・家族の経口摂取に対するニーズに応えていけると考えた。Ⅰ.研究目的本事例の取り組みを考察することで、安全に経口摂取をすすめるための方策を明確にし、経口摂取導入基準の作成に寄与できる。Ⅱ.研究方法1.方法① 合同カンファレンス② 患者・家族との合意形成③ 他職種との連携上記場面で行った方策とその過程が結果にどのような影響を与えたか考察する。2.倫理的配慮この研究によって得られた患者の個人情報はこの研究以外には使用しない。3.事例紹介C氏 男性 70歳代既往 第4腰椎圧迫骨折 嚥下障害 廃用症候群Ⅲ.結果合同カンファレンスでは、入院当初よりゼリーでの経口摂取開始が決定された。また半年後には食事の再開となった。そして経口摂取のながれをフローチャート化し説明時に使用し患者・家族より理解と同意が得られた。他職種連携では合同での経口摂取評価を実施しルールを設定した。Ⅳ.考察合同カンファレンスにより、早期経口摂取が可能となった。合意形成では、経口摂取のながれを可視化したことで患者・家族から良好な反応が得られ同意につながったと考えられる。他職種合同での経口摂取評価を実施したことで、注意点や制限時間や中止基準を作り日常業務への導入といった複数の事柄を設定できたといえる。Ⅴ.結論1、経口摂取導入基準の確立が必要である。2、合意形成には、可視化できるツールの利用が効果的である。3、合同経口摂取評価による他職種連携強化が重要である。おわりにこれらの取り組みを標準化し、基準として導入することが課題となった。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-4-1 リハと栄養・嚥下障害(4)パーキンソン病患者の食事介助―不安なく介助が出来ることを目指して―

南昌病院 看護科

あきやま めぐみ

○秋山 めぐみ(看護師),滝浦 千恵子,藤田 昭子

はじめに摂食・嚥下障害は、パーキンソン病患者の多くにみられる症状である。死因も摂食・嚥下に起因するものが多く重大な障害である。A氏の食事介助についてはスタッフから介助に不安があるとの声が聞かれた。今回パーキンソン病患者に対して安全に食事介助が行えるよう取り組んだ症例を報告する。患者紹介A氏 男性 80歳代 平成16年 パーキンソン病発症 平成27年 自宅で倒れ緊急搬送。左被殻出血にて右上下肢不全麻痺、嚥下障害出現 ADL:全介助食形態:全粥 刻み食1/2量 とろみ付食事介助時間:30分~ 1時間以上(1時間以上かかる時は嚥下が悪くなるので中止した)食事中の状態:キョロキョロする。上を向いて嚥下する。口の中に溜めて嚥下しない(OFF兆候)食事の途中から疲れる(OFF兆候)看護の展開摂食・嚥下のメカニズムに合わせて計画を実施した。メカニズムの中でも患者は準備期、口腔期、咽頭期の障害があり、それに合わせてケアを実施。スタッフにはメカニズム毎の障害の理解と時期に合わせたケアについて勉強会を実施した。結果A氏は食事介助中の問題点が現れても、その症状に対するケアを行ったことで時間内での食事摂取が出来た。A氏の食事介助の統一を図ったことで介助者の不安は減った。考察パーキンソン病患者の摂食・嚥下障害は、準備期から食道期まで各相に渡る多様な障害である。またジスキネジアやOFF症状を伴い介入困難である。この患者の場合、様々な摂食・嚥下障害が現れているが、各期に合わせた個別のケアが出来たことが、患者、介助者それぞれにとって良い結果に繋がったと考えられる。おわりにパーキンソン病患者は、病態の出現の仕方や使用している薬剤によって状態が異なる為、一定化されたケアではなく個別に合わせた介入方法の検討が必要であり、それが介助者の不安をなくすことにも繋がるとわかった。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-4-2 リハと栄養・嚥下障害(4)嚥下障害を呈するパーキンソン病患者の6年間の経過と言語聴覚士の関わり

札幌西円山病院

はやし さやか

○林 沙也加(言語聴覚士),竹下 知

1. はじめに嚥下障害を呈するパーキンソン病(以下PD)患者の6年間の経過と言語聴覚士(以下ST)の関わりを報告する。2. 症例紹介70歳台女性。診断名はPD。X-14年にPDと診断。その後入退院を繰り返す。X年自宅生活が困難となり長期療養目的で当院入院。入院時MMSE20/30点、FIM56/126点。Hoehn-Yahr重症度分類 Ⅳ3. 経過X年普通型車椅子に乗車し、粥・一口大にカットした副菜を摂取。X+1年食べこぼしが増加。食形態変更は本人が拒否。前傾姿勢の緩和やテーブルの高さなどの食事環境調整で一時的に食べこぼし軽減。3 ヵ月後、再度食べこぼし増加。STでは口唇閉鎖やグミを用いた咀嚼訓練などを実施。合わせて義歯調整や細かく刻んだものへの副食形態変更などで徐々に食べこぼし軽減。X+3年普通型車椅子では頚部伸展が強まるようになり、チルトリクライニング車椅子での食事へ変更。X+5年結腸癌手術のため転院。1 ヶ月で当院へ帰院。口輪筋や頬部の固縮などがみられ嚥下機能が著明に低下。主食が重湯ゼリー、副食がミキサー食へ形態変更。転院中はリハビリを行っていなかった。X+6年徐々に機能改善あり、主食形態が粥に戻っている。入院当初から現在まで肺炎は発症していない。4. 考察一般的にPDのHoehn-Yahr重症度分類に関わらず嚥下障害は先行期から食道期の各期に渡って症状が出現し、不顕性誤嚥・誤嚥性肺炎を引き起こし経口摂取が困難になっていくとされている。症例も食べこぼしが継続していれば食事摂取量低下に伴い低栄養となり肺炎の危険性が高まっていたと考えられる。また1 ヶ月間転院後の嚥下機能の著明な低下の要因は嚥下障害に対する専門的な関わりの欠如と考えられる。嚥下障害を呈する神経疾患患者が安全に経口摂取を継続していくには途切れることのない専門的な関わりが不可欠であると考えられる。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-4-3 リハと栄養・嚥下障害(4)作業療法士による食事場面への直接介入効果

聖ヶ丘病院 リハビリテーションセンター

あまの しょうた

○天野 翔太(作業療法士),佐々木 聡,佐々 昂典

【はじめに】 作業療法士が食事に介入することは、高齢者における栄養の充足や食べる喜びを獲得する上で重要であると言われている。今回、作業療法士(以下OT)が直接食事場面に介入した事で患者の食事状況に変化が見られたため報告する。

【対象】 平成28年4月から1年間で当院に入院し、毎日昼食時に担当OTが食事場面に介入した患者の中で、食事を自力摂取されている患者37名。

【方法】 ①初回介入時の食事状況の問題である食べこぼし、食事摂取量低下、食事摂取時間の遅延、ムセ込みを有する各人数。 ②食事状況の問題に対してOT介入項目を5項目に分類し、各患者に何項目介入を要したか。 ③OT介入による食事状況の問題の3ヵ月後の改善度。 ④初回介入時から3 ヶ月後のFIM改善点数。 以上の4点を調査した。

【結果】 全体の内、食べこぼしが11名、食事摂取量低下が18名、食事摂取時間の遅延が22名、ムセ込みが14名となった。 食事状況の問題に対してOT介入項目が1項目のみの方は12名、複数項目に介入を要した方は25名となった。 食べこぼしは6名に食べこぼしの減少が見られ、食事摂取量は18名に平均3.6割の向上を認めた。食事摂取時間は22名に平均7.5分の時間短縮を認め、ムセ込みは13名にムセ込み頻度の減少を認めた。 FIMの食事項目の改善は全体の内22名に認め、平均1.08点向上した。

【考察】 高齢者は食事の自力摂取において複数の要因が重複し制限を受けている事が多く、多様な症状に合わせた専門的な介入がOTには求められていると考えられる。 毎日食事場面に介入する事は、問題点の即時解決や代替手段を用いて機能を補う事により食事状況の改善に繋がり、自力摂取を継続する事で食事への意欲や関心の向上だけでなく、尊厳を保つ上でも重要であると考える。

【結語】 慢性期病院において、食事場面への直接介入は高齢患者における食事状況の改善に有用である事が示唆された。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-4-4 リハと栄養・嚥下障害(4)在宅復帰支援への試み~もう一度、食べたい~

湯田内科病院 看護課

にしこくりょう まゆみ

○西国領 真由美(看護師),鮫島 由香里

【はじめに】摂食・嚥下とは、様々な神経系を活用した一連の行為である。今回、進行性神経難病により症状悪化を認めた患者の「もう一度、魚を食べたい」という言葉をきっかけに、患者・家族の思いにより添った看護を継続的に行うことで、自宅退院へと繋がった症例についてまとめ報告する。

【症例紹介】S・M氏 男性 75歳現病歴:パーキンソン病既往歴:多発性脳梗塞 虫垂炎周囲膿瘍術後 慢性下痢症入院までの経過:パーキンソン病増悪にて経口摂取困難となり、経腸栄養管理となる。その後下痢症状やADL低下を認め、在宅での生活は家族の負担も大きく、他院よりリハビリテーション目的で入院。

【経過】入院後、下痢症状に対し栄養剤を中心とした排便コントロールを行い、「食べたい」「家に帰りたい」という思いに対して、経口摂取訓練やリハビリテーションを実施した。一部経口からの食事摂取が可能となり、ベッド上中心の生活から見守り歩行も可能なレベルとなった。自宅退院への意向が高まり、患者・家族へパンフレットを用いての指導・支援を開始し、外出・外泊を経て自宅退院となった。

【結果及び考察】栄養剤や食事形態を本人に見合った物に検討を重ね、排便コントロールが可能となったことで、下痢による羞恥心が和らぎ、心理面へも大きく影響をもたらしたと考える。意欲のきっかけとなる経口食の開始・拡大を進めることで、表情や言動に前向きな変化が見られ、リハビリテーションへの意欲も増し、ADLの拡大から自宅退院に結びついた。患者の思いを傾聴し、患者・家族のペースに合わせ継続的に退院指導・支援することで、不安の軽減に繋がったと考える。

【まとめ】栄養摂取の見直しとリハビリテーションにより、退院までには約8ヶ月という時間を要したが、進行性神経難病患者の看護を通し、患者・家族との関わりや個別ケアの大切さを改めて感じた。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-4-5 リハと栄養・嚥下障害(4)嚥下障害のある一人の患者の思い

山口平成病院

あんへれす じゃにす ぐてぃえれず

○アンヘレス ジャニス グティエレズ(看護師),岡山 奈津美,吉井 恵美,井手 昭子

[はじめに]回復期病棟では脳血管障害、認知症などの疾患により嚥下障害をきたしている患者が多い。食事を摂ることは人として一つの楽しみであり、また口の働きには表情をつくる、会話をするなどの様々な役割があり、摂食、嚥下機能は重要な役割といえる。今回、ひとりの患者に対して経口摂取の確立を目指し、アプローチしたためここに報告する

[方法]対象 60歳代男性 右視床出血 嚥下障害胃瘻造設中 経管栄養 1日3回 摂食機能訓練でゼリー提供中嗜好調査離床時間を増やし活動への意欲向上看護師による嚥下・摂食訓練(アイスマッサージ・発声練習)

[結果]開始時発語も少なく、意欲低下があり、離床拒否も強くベッド上での摂食訓練を実施していた。そこで、患者自身と離床中の過ごし方、車椅子乗車時間を話し合い、日中の離床を増やすことにより、自室以外で過ごす時間も増えてきた。離床時間の延長、耐久性も出たので、離床中に口腔マッサージ、発声練習も行うことで自然な発語、表情の変化もみられた。「~が食べたい」と食事に対する興味の表出もあり、ゼリーの摂取では満足できない等の発語もみられた。そこで本人の嗜好に近いものを提供することにしたことで、「おいしい」と満足感も得られ、笑顔も見られた。

[考察]今回のアプローチではまず、嗜好品の確認を行ったり、本人の食べたい思いを尊重することで、円滑にケアできた。A氏は、嚥下障害により経口摂取もできなくなり、意欲の低下も著明にみられ、ADL全般の機能低下をきたしていた。しかし日々の離床や嚥下訓練により人との関わり・刺激が増えたことで、自分の思いを伝えたり、表情の変化もみられ、ADLの改善にもつながったと思われる。経口摂取の確立とまでは至らなかったが、今回の取り組みで「食べたい」という欲求、「食べられた」という達成感「食べた」という満足感も得られたのではないかと考える。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-4-6 リハと栄養・嚥下障害(4)離水しない安全な嚥下食(主食)の提供への取り組み

1 宮地病院 栄養科,2 宮地病院

はなふさ ちか

○花房 智佳(管理栄養士) 1,清水 聡子 1,井上 絵津子 1,田尾 桃子 1,村上 里織 1,宮地 千尋 2

【目的】病棟から当院で提供している嚥下食のうどんが離水しているとの意見が寄せられた。増粘剤を使用しているにも関わらずなぜか離水していた。調査すると調理方法が統一されていない事が分かった。また、麺以外にも危険を感じる料理として全粥が上げられた。麺と全粥の離水による危険性をなくすため、離水しない嚥下食(主食)の提供を目指し取り組みを行った。

【方法】調理師と食事介助に関わる看護師、看護助手、介護福祉士、言語聴覚士に対し自記式のアンケート調査を行った。結果から特性要因図を作成しマトリックス図を用い問題点を抽出した。対策として①厨房スタッフへ知識の啓発、②マニュアルの見直し・調理手順の統一、③病棟スタッフへ介助方法の注意喚起、④つぶ粥(全粥にアミラーゼ分解酵素を含むゲル化剤を入れた、時間が経過しても離水しにくい全粥)の導入を実施した。対策実施後、再び食事介助に関わる職種に対してアンケート調査を行った。

【結果】アンケート結果より、嚥下食の麺で危険を感じた割合が28%から5%に減少した。5%の意見は形態や介助方法の違いによる新たな意見であり、離水の危険性への意見はなくなった。つぶ粥を導入したことで麺以外の食事で危険を感じた割合は62%から22%に減少した。また離水が原因と考えられる時間帯(食事開始20分以降)で危険を感じた割合が26%から6%へ減少した。離水しない嚥下食(主食)の提供が実現できた。

【考察】今回つぶ粥を導入することで嚥下状態から自己摂取に不安のあった患者も食べやすさを実感されており、食事の自立支援につながったと考える。また、病棟・厨房スタッフ共に嚥下食に対する関心が高まり、食事の安全性に対しての意識が向上した。しかしながら形態や介助方法についての意見は尽きず、今後も安全な嚥下食の提供のために多角的に検討していきたい。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-5-1 リハと栄養・嚥下障害(5)音響分析によるディサースリアの定量的評価の検討

花川病院 リハビリテーション部

しんかい まい

○新海 舞(言語聴覚士)

【はじめに】本研究は、ディサースリアの発話運動の総体を、音響分析により定量的に評価する方法の提案を行う。持続発声による5母音の音響的特徴(第1ホルマント:F1,第2ホルマント:F2)から作られるF1-F2平面上の五角形の面積により、発語器官の運動範囲を評価し会話明瞭度との相関を明らかにする。

【対象】ST評価によってディサースリアと認められた患者(男性8名、女性2名、54 ~ 85才)と健常者(男性5名、女性5名、22 ~ 27才)を対象とした。

【方法】マイクロホンまでの距離は20 cmとし、訓練室にて5母音の通常発声をPCM録音した。母音の安定した区間約600 msを音声サンプルとし、F1、F2の値を分析ソフトPraatにて求めた。5母音のホルマントの位置をF1を横軸、F2を縦軸にとり、図に表した。5母音の図の面積と会話明瞭度との関連はSpearmanの順位相関係数を、健常者と患者の面積の比較はt検定を用い検証を行った。優位水準は5%とした。

【結果】会話明瞭度と5母音の図の面積との間で負の相関が認められた。健常者と患者の面積との間では有意差が認められた。

【考察】今後、症例数を増やしていく必要はあるが、健常者の5母音のF1、F2の図の面積と患者の面積の比較は、訓練効果等を評価する上で有用と思われる。母音発声課題に関しても、ディアドコキネシス(DDK)と異なり、発症前より十分身につけているものであり、再現性が高く、低ストレスなため、認知症患者でも導入可能であった。加えてDDKの限定的な子音と比べ、基礎となる母音を分析するため総合的な評価ができる可能性やF1、 F2 を個別に比較すると、口唇、舌とが個別に考察できる可能性がある。他の音響特徴量を用いた総合的な音響分析、QOLとの関係付け(Dysarthria Impact Profile等)は今後の課題である。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-5-2 リハと栄養・嚥下障害(5)吹き戻しを用いた訓練の有用性の検証

介護老人保健施設 ケアホーム南淡路

さわた ゆりか

○澤田 優莉花(言語聴覚士),三木 ひかる,井上 真一,佐平 安紀子,浅井 美咲,苅部 直寿,伊井 邦雄

[はじめに]「吹き戻し」は日本の伝統的な玩具であるが、最近では高齢者の呼吸訓練として病院や施設などで使用されている。今回、当施設の入所者に対し吹き戻しを用いた訓練の有用性の検証を行い、呼吸機能および発声機能に及ぼす影響について結果と考察を踏まえて以下に報告する。

[方法]対象者は当施設入所者27名、平均年齢84±9.0歳(男性5名、女性22名)。吹き戻しを用いて1日2セットを週3回個別にて1 ヶ月実施。1セットの回数は10 ~ 30回。Borg scaleを用いて個々の負荷量から決定。取り組み前後に、標準ディサースリア検査から一部抜粋し、呼吸機能・発声機能評価、徒手筋力検査法(以下MMT)を用いて口腔周囲筋の筋力測定を実施。統計処理は対応あるt検定を用い、MMTはWilcoxn符号順位検定を用いてどちらも有意水準は5%以下とした。

[結果]呼吸機能では最長呼気持続時間は平均4.3秒から平均6.3秒(p=0.003)、発声機能では最長発声持続時間は平均9.0秒から平均12.6秒(p=0.001)、/a/の交互反復は平均8.5回から平均10.6回(p=0.006)と実施前後で有意な改善を認めた。MMTでは26名中、口輪筋は6名(α=0.05)、頬筋は19名(α=0.01)と向上がみられ有意な改善を認めた。

[考察]今回、対象者27名に対して吹き戻しを用いた訓練を実施することで呼吸機能および発声機能に改善がみられた。吹く動作(口腔気流)により気管内圧の上昇や鼻咽腔閉鎖に関わる神経・筋群の活性化が促進され、さらに呼気機能を向上させる作用があるとされている。これは吹き戻しでも同様の働きがあると報告されており、呼吸機能の向上に繋がり、これにより口腔周囲筋の筋力向上や発声機能向上に影響したと考える。今後は自主訓練の導入や他職種との連携を図り、機能低下防止を目的に継続していく必要があると考える。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-5-3 リハと栄養・嚥下障害(5)多職種が行なう摂食嚥下スクリーニングの導入に向けて

大宮共立病院 リハビリテ-ション科

かわむら かずふみ

○川村 和史(言語聴覚士),田島 博文

【はじめに】当院は療養病棟、回復期リハビリ病棟からなる415床の病院である。近年、摂食嚥下障害を呈し入院される患者は増加しつつあり、当院においても全体のおよそ5割が経管栄養の食事管理となっている。そのため摂食嚥下障害の患者に対し、各職種の円滑な対応が求められている。そこで、多職種が統一した評価で話合うために摂食嚥下スクリーニング用紙を作成し検討を重ねた結果を報告する。

【対象】H28.9.1 ~ 10.31の2 ヵ月間、回復期リハビリ病棟に入院されていた患者66名(男性27名、女性39名、平均年齢83.7歳)。評価件数は総計127件、疾患別では脳血管・廃用症候群が69件、整形疾患が58件であった。

【方法】評価は言語聴覚士(以下ST)2名、病棟看護師19名、介護職6名それぞれが実施。評価項目は全12項目、摂食能力は6段階として評価用紙を設定した。9 ~ 10月の2 ヶ月は試作段階の評価用紙を使用し、10月終了時点でアンケートを実施、その回答を踏まえて評価用紙の改訂を実施した。今回STの評価を基準とし①疾患別、②クリニカルラダーレベル別、③食事形態別の3点から分析を行った。

【結果】STの結果と病棟職員の結果が完全に一致、または一項目の差があるものを合致したものとした割合を計算した。疾患別では、脳血管・廃用症候群68%に対し整形疾患88%、クリニカルラダーレベル別では、ラダーレベルⅡが80%と最も高かった。食事形態別では、軟菜食以上の96%に対し、刻み食以下は54%と低かった。

【まとめ】合致した割合で整形疾患や常食に近い食事形態では、摂食嚥下障害の有無が関係している。また、クリニカルラダー別では、実務経験の差が表れており、勉強会や研修等を継続実施していく必要性を感じる。その後、今回の結果を踏まえ簡略化した評価用紙を作成している。容易な分、誤差は縮小したものの信頼性の高い結果を求めるためには、勉強会の実施や意識の変革も必要なのではないかという見解に至った。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-5-4 リハと栄養・嚥下障害(5)当院におけるVideofluoroscopic Dysphagia Scale (VDS)の有用性

1 新戸塚病院 リハビリテーション科,2 新戸塚病院 外科,3 新戸塚病院 内科

ふじさき ゆきよ

○藤崎 幸代(言語聴覚士) 1,小田 海 1,藤田 美子 1,池谷 聡毅 1,中尾 健太郎 2,橋爪 義隆 3

【はじめに】Videofluoroscopic Dysphagia Scale (以下VDS)は嚥下造影検査(以下VF)の評価尺度で脳卒中後嚥下障害の6か月後の誤嚥を予測するのに有用とTai Ryoon Hanらによって報告されている。VDSは14項目を順序尺度で採点する100点満点の尺度で47点以上が誤嚥リスクありと判定される。当院では嚥下障害を有する患者に対し積極的にVF検査を実施し、VDSを使用している。今回、当院入院患者におけるVDSの有用性を検討した。

【対象】平成28年度にVFを実施した入院患者94名(回復期病棟50名、療養病棟44名)。

【方法】VF報告書からVDSスコアを調査した。また、担当者への聞き取り調査を行い、VF後約6 ヶ月後の誤嚥と呼吸気症状の有無について聞き取り調査を実施した。47点をカットオフとし、約6 ヶ月後の誤嚥と、約6 ヶ月後の呼吸気症状に対する感度・特異度を検討した。

【結果】約6か月後の誤嚥に対する感度は回復期病棟48%、療養病棟33%、特異度は回復期病棟90%、療養病棟79%。約6か月後の呼吸器症状に対する感度は回復期病棟80%、療養病棟87%、特異度は回復期病棟33%、療養病棟45%。

【考察】先行研究は6 ヶ月後の誤嚥に対する感度91%、特異度92%であったが、当院における検討では誤嚥に対する特異度は先行研究と同様に高い数値となったが、感度に関しては異なる傾向がみられた。約6か月後の呼吸気症状に対する感度は回復期病棟でも療養病棟でも80%以上と高い数値を示したが特異度は低い傾向を示した。以上より、VDSは誤嚥予後の確定診断と、呼吸器症状の予後の除外診断として有用であるが、VDS以外の指標を用いた多角的な判断の必要性も示唆された。

【まとめ】VDSは、回復期病棟や療養病棟における嚥下障害患者の予後予測においてある程度有用である。しかし、疾患の種類や全身状態など患者の背景因子を考慮した多角的な判断が求められる。他の検査結果との関連性についても症例数を増やして検討する。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-5-5 リハと栄養・嚥下障害(5)当院における1%トロミ水飲みテストによる嚥下評価の有用性の検討

西宮回生病院

まつむら まあさ

○松村 真麻(言語聴覚士),小出 兼之,中田 智恵,風嵐 真理,樋野 美佳,藤原 千優妃,吉田 操,井上 馨

[はじめに]改訂水飲みテスト(以下MWST)と1%トロミ水飲みテスト(以下TLST)の併用が臨床の初期評価にて直接嚥下訓練の可否の指標となる研究が報告されている(横関ら2016)。当院でも摂食嚥下障害患者に対する従来の嚥下評価にTLSTを加え、ST間で統一を図り有用性の検討を行なった。

[方法]対象者は①2016年6月~ 12月の間に当院に入院中②経口摂取を行っていない、もしくは経口+補助栄養を実施している症例③脳血管疾患もしくは廃用症候群である④覚醒度がJCSにて1桁である⑤TLSTの実施が可能であるとし、TLST、MWST、MASA、DSS、FILS、での摂食嚥下評価を実施、比較分析を行なった。

[結果]対象は9名、平均年齢87.7歳(±4.7)。初期の栄養摂取方法は点滴栄養5名、経鼻経管3名、経口+点滴栄養1名、最終では経口8名、経口+点滴栄養1名だった。MWST初期にて段階3以下でもTLST初期にて段階4以上の症例が6名あった。TLSTは初期平均3.88→最終平均4.22 (P<0.05)、DSS初期平均3.33→最終平均4.44 (P<0.05)、FILS初期平均3→6.66 (P<0.01)、MASA初期平均145→最終平均167(P<0.01)と有意な改善を認めたが、MWSTは初期平均3→最終平均3.22 (P=0.26)と有意差は認めていない。

[考察]MWST段階3以下の症例でもTLST段階4以上の症例に直接嚥下訓練を行い、最終的には経口摂取となることができた。MWSTの段階に変化がなくてもその他の嚥下評価に改善が認められており、TLST段階4以上であれば食品の調整にて嚥下が可能であることが示された。直接嚥下訓練の開始は嚥下機能の向上を図るためにも非常に重要だと考えられ、TLSTは直接嚥下訓練を早期に開始するための評価として有用性があるのではないかと考えられた。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-5-6 リハと栄養・嚥下障害(5)嚥下障害を有する高齢者における舌圧と咽頭貯留の関連性について

1 緑成会病院,2 平成扇病院,3 緑成会整育園,4 博愛記念病院,5 世田谷記念病院

いけだ ゆうき

○池田 友記(言語聴覚士) 1,奥墨 美佳 3,山田 志帆 2,井関 優風 1,菊地 章江 1,飯島 直孝 1,裵 東海 5,池村 健 4,佐藤 禎二 1

[はじめに]嚥下障害を有する高齢者の舌圧を測定。嚥下造影検査(以下VF)を行い、咽頭貯留の有無及び貯留部位に関して検討を実施。その結果より高齢者における舌圧と咽頭貯留の関連性について考察を行う。

[方法]対象は嚥下障害を有する男性11名、女性1名。内訳は脳血管疾患6名、廃用症候群6名、平均年齢81.3才。舌圧測定はJMS社製TPM-01を使用。咽頭貯留はVF実施にて、喉頭蓋谷、梨状窩における貯留有無を評価する。検査食には水分200ccにとろみ剤5ccを添加したもの及び、ゼリーを使用。評価結果を70歳以上の年代別最大舌圧基準値とされる32±9kPaを鑑み、23kPa以上及び23kPa未満にて検討を行う。

[結果]最大舌圧が23kPaを超えていた症例は12症例中2症例であり、平均舌圧は16.0 kPaであった。咽頭貯留は水分、ゼリー共に12症例中11例にて確認された。貯留無しは最大舌圧25.3 kPaの1例のみであった。咽頭貯留症例を部位別で見ると、喉頭蓋谷貯留では水分、ゼリー共に全例で貯留を確認。梨状窩貯留では水分、ゼリーにて最大舌圧23kPa以上において貯留有り1例、23kPa未満にて貯留有り9例、貯留無し1例であった。

[考察]舌圧は加齢や疾患、低栄養によるサルコペニアなどにより低下し、口腔内食物残留、食塊形成、送り込み、喉頭蓋谷貯留に強い相関がみられるとされる。本検討においても12症例中10症例で70歳以上の年代別最大舌圧基準値を下回っており、その全例で咽頭貯留がみられたことから、咽頭貯留には舌圧が関連している可能性が高いと考えられる。慢性期医療の現場では入院年齢が高く嚥下障害を有する患者が多くみられる。こうした患者においては、舌圧の向上が咽頭貯留改善の要因の1つとなる可能性が考えられる。今後は貯留症例における舌圧強化訓練実施と結果に対し検討を深めていきたい。

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第25回日本慢性期医療学会 in 仙台4-5-7 リハと栄養・嚥下障害(5)機能的口腔ケアが要介護高齢者の舌圧に与える効果

平成病院

ますだ けい

○増田 けい(言語聴覚士),藤本 由香,坂口 博紀,岨 和輝,大野 育苗,萩 一矢,北河 宏之

[はじめに]先行研究において機能的口腔ケアを実施したところ最大舌圧値が増加したとしており、摂食嚥下機能と舌圧との相関が報告されている(菊谷ら2005)。そこで今回、介護老人保健施設(以下、老健)入所者に対して舌圧測定を行い、機能的口腔ケアの実施による効果について検討した。

[方法]平成28年7月~ 8月までの老健入所者のうち、改訂長谷川式簡易知能評価スケールにおいて10点以上の29名(男性6名、女性23名、平均年齢85.4歳±10.1歳)を対象とした。但し、失語症を有する方、麻痺などにより口腔機能が低下した方、入院や死亡など継続して実施困難な方は除いた。週3回約20分の機能的口腔ケアを1ヶ月間実施。介入前後にJMS社製TPM-01舌圧測定器を使用し、舌圧測定を実施した。介入前後の最大舌圧値の変化についてt検定を用い、有意水準は5%とした。倫理的配慮として本人または家族に説明し同意を得た。

[結果]最大舌圧値の平均値は介入前14.21±7.5kPaであったのに対し、介入後は17.42±8.9kPaと有意差を認めた

(p=0.013<0.05)。[考察]機能的口腔ケアとして舌に等尺性収縮の抵抗運動を行ったことで、舌の筋力が強化され、最大舌圧値が増加したと考えられる。よって、機能的口腔ケアは、要介護高齢者の摂食嚥下機能を維持・増進させるために有効であると考えられる。超高齢社会の進行に伴い、摂食嚥下障害を有する要介護高齢者の急増が避けられないと言われている。今回実施した機能的口腔ケアの方法は簡易であり、言語聴覚士のみならず歯科衛生士や理学療法士などの要介護高齢者のケアに関わる職種でも実施が可能である。今後は、施設内の多職種が介入することで、実施頻度が増して更なる訓練効果が期待できると考える。