認知発達水準と認知的変化の関係についての一考察 - COREDoise & Mugny (1984, pp....

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早稲田大学大学院教育学研究科紀要 別冊15号-1 2007年9月 認知発達水準と認知的変化の関係についての一考察 一順列課題を用いた社会的相互作用事例の検討- 81 1.問題 複数名で話し合いをしながら課題を解く社会的相互作用場面において,事前に1人で課題に取り組 んだ場合よりも高レベルな考え方が生じたり,さらに社会的相互作用の前後を比較して認知的変化 が見られたりする場合があるということは多くの研究で指摘されている(例えばWilliams &Tolmi 2000など)。 Doise & Mugny (1984, pp. 159-160)は, Piaget て社会的相互作用内で発生する認知的葛藤の役割を重視し, (1)葛藤により自分自身の考えとは異な る考え方の存在に気が付くということ,特にそれが社会的な関係性の中で発生することでより葛藤が 明らかなものになるということ, (2)他者が新しい認識の精微化に対するてがかりを与えるというこ と, (3)社会認知的葛藤が認知的活動を活性化する可能性を高めるということを指摘した。また佐藤 (1996 pp.91-95)においては, Piaget派以外の様々な立場での研究も含め,認知的葛藤 会的相互作用が効果をもたらす原因として考えられるものをいくつか指摘している。例えば相互作用 の中で学習や理解の促進につながるような情報が生まれてそれが内化されること,言語的なやりとり による課題解決の手続きの明示化,共同作業による責任の分散と負担軽減や多様な視点取得などであ る。 しかし,社会的相互作用により常に認知的変化が生じるかと言うと,必ずしもそうとは言い切れな い。社会的相互作用が効果をもたらすための条件の1つとして,被験者の発達的水準,認知的水準 の問題があげられる。 Perret-Clermont (1980, pp. 118-146), Doise 定の認知的水準に達している場合に社会的相互作用の効果が現れたという実験結果を示している。ま た,権・藤村(2004)は,高レベルの者との相互作用を行っても,低レベルの者は中レベルの者ほ ど進歩が生じず,より優れたパートナーとの相互作用であっても対象児童の初期の認知状態がパート ナーの方略を能動的に取り入れることが可能なレベルかどうかで学習効果が異なると考察している。 他者から得られる情報や,他者の視点は,課題解決のための手がかりとして認知的変化をもたらすの に重要な役割を果たすものの,それを理解し,自らの考えとして取り込むことが可能な認知的水準を 達成していることが条件であり,そうでなければ進歩には結びつかないということである。この間題 に関しては,複数の研究で共通して指摘されていることであるといえる。また社会的相互作用のみな らず,個人に対する学習の効果に関しても同様の結果を報告している研究がある。例えば, Inhelder,

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早稲田大学大学院教育学研究科紀要 別冊15号-1 2007年9月

認知発達水準と認知的変化の関係についての一考察

一順列課題を用いた社会的相互作用事例の検討-

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阪 脇 孝 子

1.問題

複数名で話し合いをしながら課題を解く社会的相互作用場面において,事前に1人で課題に取り組

んだ場合よりも高レベルな考え方が生じたり,さらに社会的相互作用の前後を比較して認知的変化

が見られたりする場合があるということは多くの研究で指摘されている(例えばWilliams &Tolmie,

2000など)。 Doise & Mugny (1984, pp. 159-160)は, Piaget派の立場から,変化が生じる原因とし

て社会的相互作用内で発生する認知的葛藤の役割を重視し, (1)葛藤により自分自身の考えとは異な

る考え方の存在に気が付くということ,特にそれが社会的な関係性の中で発生することでより葛藤が

明らかなものになるということ, (2)他者が新しい認識の精微化に対するてがかりを与えるというこ

と, (3)社会認知的葛藤が認知的活動を活性化する可能性を高めるということを指摘した。また佐藤

(1996 pp.91-95)においては, Piaget派以外の様々な立場での研究も含め,認知的葛藤以外にも,社

会的相互作用が効果をもたらす原因として考えられるものをいくつか指摘している。例えば相互作用

の中で学習や理解の促進につながるような情報が生まれてそれが内化されること,言語的なやりとり

による課題解決の手続きの明示化,共同作業による責任の分散と負担軽減や多様な視点取得などであ

る。

しかし,社会的相互作用により常に認知的変化が生じるかと言うと,必ずしもそうとは言い切れな

い。社会的相互作用が効果をもたらすための条件の1つとして,被験者の発達的水準,認知的水準

の問題があげられる。 Perret-Clermont (1980, pp. 118-146), Doise & Mugny (1984, pp.46-53)は一

定の認知的水準に達している場合に社会的相互作用の効果が現れたという実験結果を示している。ま

た,権・藤村(2004)は,高レベルの者との相互作用を行っても,低レベルの者は中レベルの者ほ

ど進歩が生じず,より優れたパートナーとの相互作用であっても対象児童の初期の認知状態がパート

ナーの方略を能動的に取り入れることが可能なレベルかどうかで学習効果が異なると考察している。

他者から得られる情報や,他者の視点は,課題解決のための手がかりとして認知的変化をもたらすの

に重要な役割を果たすものの,それを理解し,自らの考えとして取り込むことが可能な認知的水準を

達成していることが条件であり,そうでなければ進歩には結びつかないということである。この間題

に関しては,複数の研究で共通して指摘されていることであるといえる。また社会的相互作用のみな

らず,個人に対する学習の効果に関しても同様の結果を報告している研究がある。例えば, Inhelder,

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Sinclair, & Bovet (1974 pp.31-59)においては,液量の保存に関する訓練実験を行い,訓練の後で進

歩をした者の多くは当初から一定の水準に達していたものであったという結果を示している。

ただし,一般的に課題の理解ができるようになると報告されているより低い年齢層でも,訓練の効

果が見られたとする課題もある。 Fischbein, Pampu & Minzat (1970)では,重複順列や順列の課題

を扱い,樹形図による方略を教え,そこから順列の総数の計算式に一般化させるように導く訓練手続

きを行った。それにより, Piaget & Inhelder (1975)により順列課題の最終的な理解水準に達すると

された一般的年齢層よりも低年齢の被験者の多くが順列の総数を求める計算に成功するようになり,

学習効果があるとした。しかし,阪脇(2007)でも指摘したがこの研究では,たとえ計算によって順

列の総数を求めることに成功したとしても,順列の作成手順を教示しており,計算も手順にそって実

施すればすぐにできるような課題であることから順列の規則性の理解に効果が及ぶものであったかど

うかは疑問をはさむ余地があると思われる。さらに,順列や順列と関連の深い組合せの課題は,中垣~\

(1979)や阪脇(2007)で考察しているように,何らかの材料を用いて実際に順列や組合せを実際に

自分で作ってみる際の方略としての理解水準(ここでは「実行的理解」とする)と完成した組合せ・

順列に見られる規則性についての理解水準(ここでは「概念的理解」とする)とを区別して考える

べき課題であると思われる。 Piaget& Inhelder (1975)の考察においては,実行的理解と概念的理解

の区別が不明瞭であったが,何らかの手続きにより課題の理解に進歩が生じたとする場合,両者を区

別してどちらの種類の理解において進歩が生じたのかを明確にする必要があると思われる。 Piaget&

Inhelder (1975)によって,順列課題の最終的な理解水準に達するとされた一般的年齢層より低い午

齢層に属するものであっても,課題解決のための手がかりを与えられる訓練によってより高次な理解

に至ることが可能だとすれば, (1)社会的相互作用場面内において,一般的に順列の理解ができると

されるよりも低い年齢層に考え方や解決方略の進歩がみられるのであろうか。前述のように,社会的

相互作用では他者の観点や他者から得られる課題解決の手がかりによって進歩が生じうるとされ,あ

る種の訓練効果があると考えられる。さらに,たとえ同じ発達水準同士の相互作用であっても,課題

の解決に関して何らかの手がかりが与えられるような手続きを実施することにより,その手がかりと

関連した話し合いが生じることが考えられる(2)社会的相互作用場面内において進歩がみられると

すれば,それは実行的理解ばかりではなく,概念的理解にまで及びうるものなのであろうか。あるい

は,進歩が生じるとしてもそれは実行的理解の水準にとどまるものであり,概念的理解の進歩に至る

ためには,一定の発達水準に達していることが必要なのだろうか。阪脇(2007)では,順列課題にお

ける実行的理解と概念的理解の関係を問題として扱い事例の検討を行ったが,対象となったのは順列

の最終的理解に至る移行途上と考えられる年齢層であった。上記のような問題について考察するため

には,より低年齢層の事例を検討する必要がある。

本研究では,このような考察に基づき,順列課題を用いた社会的相互作用場面を取り上げ,相互作

用場面内の課題解決の様相を元にして上記2点の問題について考察することを目的とする。ただし,

ここでは社会的相互作用前後の結果を比較したものではなく社会的相互作用内での変化に限定した事

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例の検討を行うものとする。

なお,ここで用いる「実行的理解」 「概念的理解」は,より幅広く数学的課題の検討において用い

られている「手続的知識(procedural knowledge)」 「概念的知識(conceptual knowledge)」に類似す

る概念と考えられる(定義についてはHiebert&Lefevre, 1986などを参照)。しかし,手続的知識と

概念的知識との関係を考察した研究において, 「手続的知識」として,何らかの材料を用いて実際に

その材料に働きかけつつ実施するような種類の課題というよりは,計算手順を扱うことが比較的多い

(例えばRittle-Johnson & Alibali, 1999)。そのためここでは中垣(1979)で用いられた用語を参考に,

一貫して「実行的理解」 「概念的理解」の語を用いることとし,また他の数学的課題と比較した検討

としてではなく,順列課題とその認知的水準との関係に限定して考察を行う。

2.方法

2.1対象児童

阪脇(2007)と同じ,東京都内の小学校3年生から中学1年生までを対象として2人組で実施した

調査の中から,前述の問題について考察をするために3年生同士の2人組4組を事例として取り上げ

る。また比較の対象として3年生と6年生の兄妹の事例を補足的に検討する。対象児の募集にあたり

類似の課題の経験の有無などの条件については特に配慮をしていない。ここで3年生の事例を選択す

る理由は, Piaget&Inhelder (1975)によれば, 3年生に該当する8, 9歳は,一般的に順列課題を提

示した際組織性が見られない段階と,部分的に組織性の探究が見られる段階との境目頃に当たる年齢

層である。そのため,前述のように,順列課題に関する認知発達水準が比較的低いと考えられる年齢

層であっても学習効果があるとされた順列課題について,課題解決の手がかりとなるように段階的に

順列の規則を考えさせるような課題を用いたり,他者と協同で課題を実施したりすることによって概

念的理解においても効果が生まれるかということを検討するために適当な年齢層であると思われる。

また, Piaget&Inhelder (1975)の報告によれば, 6年生に該当する11, 12歳は一般的に順列課題の

部分的な組織性を見出す段階と,組織性を一般化された形で見出していく段階との境目に当たる年齢

層と考えられる。そのため, 3年生と6年生の相互作用では, 3年生同士の相互作用と比較して,よ

り高い理解水準に当たる者が,より高度な説明を行うことが予想され, 3年生同士で課題に取り組む

場合とどのように異なるかを考察することができると思われる。

2.2 課題の実施手順

阪脇(2007)と同様であるが,あらためて本論文で扱う問題の検討のために重要と思われる点を補

足した上で,主要な手続きを記載する。

① 赤,育,黄,緑の4種類の色付きブロックを使い, 3階建ての異なる建物を可能な限り全部作る

という課題を実施。ただし, 1つの建物に同じ色のブロックを使うことはできない。組合せが同じで

も配列順序が異なれば異なる建物とみなす。この課題は順列の4P3に該当する(以降同様の課題を

nPrのように記述。課題の例は図1-(丑参照)。完成すると24個できる.最初は相手の作成している

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ものを見ないようにして1人ずつ別個に作成し,後からお互い比較を行う。理由の1つは, 「他者の

視点」を明確に提示するためである。

② 上記の課題を元にして,作ったものが完成しているかどうかを確めるための「並び替え」の方法

を考えさせる(図1-②参照)。 Piaget&Inhelder (1975)も事例の一部で完成したことがなぜわかる

かを確める質問を行っている場合があり,ここでも確めるように促すだけではなく, 「並び替え」す

ることによって確認するということを明言する。ただし, Newman, Grif丘n,&Cole (1989,pp.36-37)

によって実施された組合せに関する課題の場合,全部できたかどうかチェックするように指示した

級,対象児童が適切な方法を思いつかない場合に,組織的方略を示唆しているが,ここでは面接者が

対象児童が用いた方略より高次な方略を教示することはしない。課題の成否に関して介入する場合,

一部重複や作成漏れを指摘することにとどめる。ただし, 2人組での話し合いが発展しない場合など,

相互作用を促すためなどの介入は行っている。このことにより,直接的に課題解決のための方法を教

示するわけではないが,課題解決のための考察の「手がかり」を与えることができるものと思われる。

なお, ①の段階で少なくとも一方が24個完成していない場合, 「並び替え」を考えさせる前に, 2人

でもう一度完成したという状態にするように促す。

∈ヨ

日 赤 緑-t--.

日 緑

緑 緑 黄 黄 赤

黄∃三D. 赤 緑 黄

-*.--.

ipl

赤 緑 _u!eI 蘇

緑 緑 黄 黄 赤

黄=t=.

日 赤 緑 黄

① 4種類のブロックで3階建ての建物作成         ② 完成を確かめる並べ替えの例

※実例ではなく課題を説明するための例示である。

図1実行的理解に関する課題

③ ブロックの種類を一旦3色に減らし. 3P2を作成する。その後, 3P3 (1つ見本を作る)とどの程

度総数に差があるかの予測について考えさせる(図2-③参照)。正解は「同じ」である。 3種類のブ

ロックで建物を作成する場合,最初の階の色の選択肢が3通り,次の階の色の選択肢が2通り,最後

の階の色の選択肢は1通りしかなく, 2階建ても3階建ても同じとなる。意見がまとまった後,実際

に3P3を作成して予測の正誤を確認,その後,同じになった理由や規則性について考えさせる。

④ さらにブロックの種類を4種類に増やし4P4 (1つ見本を作る)を作った場合, 3P3とどの程度差

があるかを予測して2人で話し合いをさせる。 (図2-④参照)正解は「18通り増える」である。 3

種類のブロックで3階建てを作成すると6通りできるが,一番上, 3階と2階の間, 2階と1階の間,

一番下の4箇所にそれぞれ増えた色を挿入するので, 6×4-24通り作成できる。意見がまとまった後,

実際に4P4を作成して予測の正誤を確認,その後で規則性について考えさせる。

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赤 赤 」てこ■弓 三【三■∃ 黄 黄

∃三日 黄 赤 黄 赤 ∃三日

∃三日

赤 赤 --I--■弓 ∃三H 黄 黄

」 r日黄 赤 黄 赤 -I--.日

黄 主日 黄 赤 主日 赤

二ヒ二

③ 3P2と3P3の比較              ④ 3P3と4P4の比較※実例ではなく課題を説明するための例示である。

図2 概念的理解に関する課題

①, ②では,実際に順列を作成する,実行的理解を問うことが課題の中心となる。 ③, ④の段階では,

実際に順列を作成する場面もあるが,ここではnPrのnやrが増えた時の順列の総数の変化や,変化

の規則性などの概念的理解を問うことが課題の中心となるため,その課題の前提となる順列の作成で

手間取る場合には,介入して完成に至らせるように努める。しかし単発的に重複や作成漏れを指摘す

るにとどめ,実行方略を教示することのないように配慮した。 ③, (彰の課題では,予測と実際の作成

結果とが異なる場合,認知的葛藤が生じると思われる。そのため,社会的相互作用の場面であると同

時に,液量の保存課題において対象児童の予測と実際の結果との間で葛藤を生じさせるような手続き

を用いたInhelder etal. (1974 pp.31-59)と同様に,葛藤が考察の手がかりとなり,学習的効果が生

じることも考えられる。

なお,この調査は試験的に実施したものであるため,練習的課題を挿入している事例があるなど,

手続の細部で異なる場合がある。特に今回取り上げる3年生の例では,後述のように,実施が困難と

思われるなどの理由により手続きの一部を省略するなど,状況にあわせた対応を行ったり,相互作用

を活性化させるための手続きの試行錯誤を行った場合がある。調査の様子はビデオおよびICレコー

ダーにより記録し,その記録を元に分析を行った。

3.事例分析

ここで3年生同士の相互作用の概要を記す。 3年生同士の姐は4組調査を行ったが, 3年生同士で

は課題に対する集中力が持続せず,指示がなかなか守られなかったり,課題に関する発展的な話し合

いが発生しなかったり,課題に関係ない活動を行う場合もあるなど,相互作用自体に問題がある場面

が少なくなかった。 Perret-Clermont (1980,p. 118)は,相互作用で効果が生じるための条件として(1)

社会的相互作用を行うための前提条件, (2)認知的再構造化のための前提条件の2つの問題があるこ

とを指摘しているが, 3年生において相互作用自体で問題が生じた例は, (1)の問題に関わるもので

はないかと思われる。ここでは,課題に関する認知的水準と社会的相互作用の効果との関係を検討

することが必要であるため, 3年生同士の相互作用の中でも比較的問題が少なく課題に関する話し令

いが発生した1組(Al�"A2)を主として検討し,他の3年生同士の2人組3組(Bl�"B2, Cl�"C2,

Dl・D2)および6年生と3年生の相互作用(El�"E2)の事例を補足する。

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① 4P3の実行(個人による実行)

まずAlとA2の事例において, A2の作成法には,明確な規則性を見つけ出すことが難しい。 Alは,

作成順序そのものは必ずしも規則的ではないが,途中,同じ3色組で配列順を入れ替えてできるもの

を同じ場所に固めるような形での並べ替えが見られる(図3参照)0

他の3租の3年生同士の事例では,この段階でもっとも効率的な作成方略と思われる樹形図型の方

略(1色を固定し,さらに2色目も固定して,残りの色を順番に配置していく方法)により作成して

いる事例は見られなかったが,途中試行錯誤をしつつ並べ替えを考える段階で, 1色を固定し,残り

の2色が上下入れ替わりになっているものを固める例(図4参照)など,比較的規則性のある配列順

を考えはじめる様子が見られる事例があった(Cl)。また,図3のパターンでかつ一番上が同じ色を

揃える配列を考えはじめる例(Bl, B2:ただしBlは一旦完成を告げた後で並べ替える), 1色を固

定はするが, 2色目以降の決め方が一貫して組織的とはいえない例(C2, Dl)などの配列も見られ

た。一貫して方略を見出すのが困難であったのは1名のみ D2 であった。ただし, Dl�"D2およ

びBl以外は,所要時間など状況を見て,完成したと対象児が判断する前に一旦1人ずつでの作成を

打ち切っている。 Blは早い時点で完成したと報告したが,課題の意味に誤解があり4色全ての色を

使って作成していない。 B2も色の組合せが同じでも上下を入れ替えたものを別の建物と認識してい

なかったため途中で再度説明を行った。 Dl, D2は実際は出来ていないが子どもが完成と判断。

なお, 6年生と3年生の相互作用の事例(El, E2)でも途中で打ち切っているが,打ち切りの時点で,

6年生(El)が作成した4P3の最終的な配列順に効率的な方略の存在を見出すのは難しく,この時点

において6年生の課題遂行が特に優れていたというわけではなかった。

三巨日黄 ∵巨日 蘇 緑 黄

緑 緑 黄 黄 主■弓

∃三日

黄 二±三日 緑 三巨日黄 緑

図3 Alの配列の例(一部)

緑 緑 緑 緑 緑 緑

黄 三巨日 赤 黄 赤 jtK日^Jf-日

海 * % 主事日

tL:

図4 比較的組織的な方略の例

② 4P3の並べ替え

AlとA2の事例においては, 2人とも完成したという前に一旦2人でつくったものを比べつつA2

作成分を元にして完成させるように促す。 2人で「なくない?黄色,赤,青。」 「あるか。」 「あるね。」

「え,黄色ない?」などのように,足りないものを探す様子が見られる。 2人で完成したとする時点

で重複を作っているがこの時点で指摘はせず,完成しているかどうかを確めるための並べ替えを考え

させる。適切な並べ替え方を考えさせると,最初の作り方に規則性を見出すのが困難であったA2も,

「緑が一番上のやつを並べて,次真ん中が緑のやつを並べてとかやるのかな?」と特定の色を固定し

てそろえる考え方を示している。その後, Alの別の提案で,同じ3色組で配列順を入れ替えてでき

るものを固める。 A2もそのやり方に合わせて並べ方を考える場面が見られる。さらにその中で一番

上が同じ色を固めるような配列が見られる(図5)。途中で重複に気がついて取り除いている。

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認知発達水準と認知的変化の関係についての一考察(阪脇)         87

他の3年生の事例において2人組での4P3再作成で, 2組では,部分的に協力的作業が見られる。

Bl�"B2の例では全般的に言語的な話し合いに乏しく,何度も面接者が2人で話し合いをするよう促

した。しかし実行時,一番上が同じ色のものを2人で揃えていく様子も見られる。途中,別々に実行

する場面もあるが,何度か協力するように促すとB2が作成している様子を見て, Blが相手の配列

を見て実行を補足するなど,部分的に協同的な場面が見られた。途中部分的に図4と類似のパターン

の考え方が見られた場面もあったが,完全な方略とはならなかった。またCl・C2の例では, C2が

課題に関係のない活動を始める場面が目立ったが, Bl�"B2と同様に部分的に協同的作業が見られる。

しかし途中別々に作る場面もあり,その際並べ替えの方略は2人の間で一貫していないように思われ

たo C2は樹形図型の並び替えの変則(真ん中を固定し,さらに2色目として一番上を固定する)と

思われる方法を途中で示した。ただしClの同意がなく途中で投げ出している。 Dl-D2では,全般

的に課題の実行に関して協同性が低く, Dlの指示により, 3階に赤,青が置かれるパターンを作成

する者と, 3階に黄,緑が置かれるパターンを作成する者にわかれて分業を行おうとするが,指示さ

れた方は1色を固定してもすぐには該当する順列を作成することができず,指示した方が取り上げた

り,一方的に作り出すような場面も見られた。課題に集中せず関連性のない会話や活動が目立つ。最

終的にどの組も樹形図型の並び替えには至っていないが, D2を除き何らかの規則性の配慮が見られ

る。

6年生(El)と3年生(E2)の相互作用においては,途中3年生(E2)の方でも6年生(El)の

様子を見て, 3階が同じ色のものを固めたり,まだ作成されていないパターンを作る場面などが見ら

れた。確認の主導権は6年生(El)にあり,図4と同様のパターンで,完成しているかどうかの確

認を行った。最終的に,もっとも適切な並び替えの方法として6年生の主導で樹形図型の配列に至っ

た。 6年生(El)の説明に合わせて3年生(E2)が手伝う場面も見られるが,補足的な役割であった。

二≡巨日

_≡圭三

三【三円

:巨日

図5 Al, A2の事例で見られた配列の例(一部)

(参 3P2と3P3の実行と総数比較

AlとA2の事例について, 3P2は2人で完成する。 3P3を作った場合の数の予測をさせると, 2人と

も増えるということで意見が一致するo どの程度増えるかについては,途中「これの倍だな」といっ

た発言もあるが,確信を持った結論とならない。 A2により「増えるのは15個ぐらいで,理由は4種

類で3階を作った時にたくさんできたから,これだったらもっとできるんじゃないかと思った。」と

いう趣旨の説明がある。実際に3P3を作る際, A2が重複を作っていて面接者が指摘する場面がある。

作ってみて3P2と同じになった理由を考えさせてみるa 3P2と3P3の中から,図6のような2つを比

べてみて, 3階建てはあと1つ加わるだけであることを説明する趣旨の発言や,両者の共通する部分

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についての指摘があるが,そこから3P2と3P3が同じである理由を説明するような発言には至らない。

∃三円

l≡ヨEi

図6 3P2と3P3の比較の例

他の3年生同士の組も,予測の段階で正しい予測をした者は皆無であり,また実際に3P3を作成し

た後での説明もすべて, Al�"A2と同様3P3が部分的に共通していることを指摘するにとどまる。図

6同様のパターンの比較をして, 「1つのせれば同じになる」という趣旨の指摘,あるいは, 3P2と3P3

とで, 「両方とも同じ色が一番上にくるものが2個ずつ」という趣旨の指摘が見られた。

6年生(El)と3年生(E2)の相互作用においては,3年生(E2)は,増えると主張する。ただし,

理由の説明に関しては,それほど明瞭な説明はなく, 3階建てだと多くの種類が作れるという趣旨の

説明をする。 6年生 El は, 3P3になっても総数は同じであると正しく説明をしている。 「上が必ず

赤って絞られたときに, 2番目にくるのは,黄色と青しかないじゃん。緑はないから。で,黄色がき

たとしたら,次にくるのは-。黄色がきたとしたら次にくるのは青しかないじゃん。で,黄色がき

たとき次にくるのは青しかないでしょ。」という論理的説明である。 3年生 E2 は同意の言葉を示

すが完全に納得していない様子である。 2人で実際に作って同じ数になることを確認し,なぜ同じに

なったのか,きまりについて話し合うようにすると, 6年生(El)が図6と類似のパターンで3P2と

3階, 2階の色が一致する3P3を並べて配列し, 2階建てにもう1色加えて3階建てをつくろうとすると,

残りの色の選択肢が1つしかないことを説明する。 3年生(E2)は, 6年生(El)の説明により, 「わ

かった」と言うが,やはり自分の言葉で説明するような場面はなかった。

④ 3P3と4P4の実行と総数予測

AlとA2の事例について, 4P4の総数予測に関して, A2は「2つの時も3つの時も同じ数だったっ

てことは, 3つの時も4つの時も同じなんじゃないかな」と言って, Alに同意を求める。Alも「同

じだね,確かに」と同意する。 4P4作成時,本来2人で協同で作成するところであるが,別々に作っ

て後で比べたい,という対象児からの強い要求があり,一旦別々に作らせた。作りながら増えると

いうことに気付く。多少時間がかかり,また作成したものに多少誤りがあり,面接者が介入したが,

作成方法において, 1色を固定したものをまとめるという規則に関しては定着していることが伺えた

(ただし2, 3色目の配列については必ずしも規則的であるとはいえない)。増えた理由に関して, 「ブ

ロックの数が多かったから」 「いろいろな色が使われているから」という趣旨の説明にとどまり,規

則性に踏み込んだ説明は見られなかった。

他の3年生の事例について, 2組(Bl�"B2, Dl�"D2)は,これ以前の課題実施時の状況や所要時

間などに配慮し,この課題の実施を省略した。 Cl-C2に関しては,予測の時点で, Clが上記A2と

同様の理由で同じと言うが, C2はブロックの種類が増えているから,増えると意見してそれで合意

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認知発達水準と認知的変化の関係についての一考察(阪脇) 89

する。 4P4作成の際, 1人が作成してもう1人がそれを順序よく並べ替えをする場面が見られ, 4P3時

点よりも協同性が感じられた。一部不完全で面接者が指摘した点はあったが並べ替えはほぼ樹形図型

であった。しかし数が増えた理由については,規則性に踏み込んだ説明には至らなかった。

6年生(El)と3年生(E2)の事例においては,最初6年生(El)は, 4P4を作成した場合の数の

変化を問うと, 3P2から3P3への変化と同じ説明により,やはり4P4も同じであるように考える。 3階

建てが4階建てになっても, 3階建ての一番下の段に増えた色を挿入するしか選択肢がないと最初考

えているようである。一方ここで, 3年生(E2)の方が,増えた色が上の段にもつくということを指

摘する。それによって6年生(El)は考えをあらためる。さらに3年生(E2)が真ん中にも入るこ

とを指摘し,それを補足して6年生(El)は3階建てを元に, 3階の上, 3階と2階の臥 2階と1

階の間, 1階の下にそれぞれ,増えた色を挿入するパターンが作成できることに気がつく。そして,

どれぐらい増えるかという質問に対しても,規則性に基づいて計算で回答を導き出すに至る。 4P4作

成時には, 6年生(El)の作成順に先立って, 3年生(E2)が次に使う色の名前をつぶやいたり,必

要な色を6年生に渡す場面も見られる。しかし最後に,もう一度まとめとして, 3P2と3P3を比べて

数が同じだったが, 3P3と4P4を比べて大幅に増えている理由について,あらためて3組の順列を比

較して気づくことがないかどうか質問したところ, 6年生(El)はいろいろ考えようとしたが明確な

説明には至らず, 3年生(E2)は特に説明的発言がなかった。

4.考察

このような結果から,冒頭で提示した問題を考察してみる(1)社会的相互作用場面内で,一般的

に順列の理解ができるとされるよりも低い年齢層に考え方や解決方略の進歩がみられるかという問題

について,今回の2人組による話し合いの事例では,具体的に方略を教示せず, 「並べ替え」を2人

組で考えさせるのみでも, 3年生同士の2人組で, Al�"A2の事例で4P3実行において,またCl�"C2

の事例で4P4実行時点において,最初に個人で用いていたよりも高次の規則性が示唆される配列方略

を用いている。また6年生(El)と相互作用した3年生(E2)の事例で, 4P3よりも4P4でより実行

に関する理解の兆候が見られた。このような点から考えると,実行的理解に関しては,今回の対象と

なる年齢層でも社会的相互作用場面において進歩は不可能ではないということになる。 Fischbein et

al. (1970)のように,解決手順を教示しているような場合には,一定の手順を実施すれば解決できる

ような課題において学習効果が見られたとしても不思議はない。それでも, (2)進歩は概念的な理解

にも及ぶものか,という問題について,概念的な理解を問う課題においては, 3年生同士では順列の

規則性に踏み込んだ話し合いをするのが困難であった。さらに3年生(E2)と6年生(El)の相互

作用で,正確な説明を聞いていても, 3年生の段階ではすぐには理解することが困難な場面があった。

特に特徴的であるのは, 3P2と3P3を比較した場合に,両者の一部が同じであり, 3P2に1つブロック

を加えると3P3と同じになるということに気がついても, 「なぜ作れる数が同じになるのか」という

問いに対する適切な説明には至らないことである。今回の例では6年生 El 以外は順列の規則性

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の考察に基づいた説明には至っていない 4P4では逆に. 6年生(El)の方が誤った考え方を示すが,

3年生(E2)の簡単な指摘により, 6年生(El)ではすぐに正しい説明を構築することが可能であっ

た。この例は,きわめて明確に「他者の与える手がかり」によって進歩が生じた例と思われる。ここ

で, 3年生の方が4P4の総数の予測により正しい理解を示しており,概念的な理解があるとも考えら

れるが, 3P3の総数予測で見られた様子および, 3年生と6年の事例においては 3P2と3P3と4P4の

3祖の順列を比較してもう一度規則性を考えるように質問した時に特に説明的発言がないことなどか

ら, 4P4に理解を示したのは, 「ブロックの種類が増えるから作れる数が増える」という信念に基づい

たもので,順列の規則性の理解によるものではないと考える方が適切ではないかと思われる。

このように,実行的理解に関しては, 3年生同士でも協同的な作業に基づき,規則性に気付くこと

は不可能ではないことが示唆されたが,概念的理解に関する課題について話し合いを維持したり,規

則性の考察を行うことは難しかった。

前述のInhelder et al. (1974)は,液量の保存課題に関する訓練実験において,発達的に低い段階

にある場合も, 「観察可能な特徴」を認めることはできたが,それを自らの推論システムに取り込む

ことができない例を指摘している。今回の順列の課題で見られた事例も,課題が異なり,扱う年齢層

も異なるものの,類似の解釈をすることも可能であるかも知れない。実行的理解を問う課題において,

例えば作成した順列を並べ替えをする際は「特定の色が3階にあるものをそろえる」といった視覚的

な特徴を手がかりとして考えれば,比較的容易な課題となるのではないかと思われる。しかし, 3P2

と3P3の比較に見られるように,両者の共通点を探し出すことは比較的容易であるが,それを元に適

切な説明を考え出すことは非常に困難であったという結果は, Inhelderetal. (1974)の結果と類似す

るものである。

このような点から考えると単なる解決「手順」としての理解,それも特に今回の順列課題のように,

観察可能な視覚的特徴を比較的容易に解決に用いることができるような課題の場合においては,相互

作用内で進歩が生じることも不可能ではないが,課題の本質的な理解に関わる,概念的理解に関して

は Perret-Clermont (1980, pp. 118-146), Doise & Mugny (1984, pp.46-53)が示したように,発達

的水準に相互作用の効果がより左右されることが示唆される。このように,冒頭で論じたように,脂

列のようなタイプの課題は,実際に具体物を扱って順列を作成する際の理解と,規則性の理解に基づ

き,実際に順列を作成せずにnやrの変化に基づく総数を予測させる概念的な課題の理解が必ずしも

一致していないということ,何らかの手順により理解に進歩が生じたと結論付ける際に,それが実行

的理解に関するものであるのか,それとも概念的理解に関するものであるのかを明確にする必要性が

今回取り上げた事例によっても裏付けられたと考えられる。

ただし,これらの結果は,最初に述べたように相互作用内での様子のみを分析した事例であり,棉

互作用前の理解状態と相互作用後の理解状態を比較しているわけではないため,相互作用と認知的進

歩との関係についての考察としては限界がある。相互作用の中で必ずしも,より高度な理解に至るこ

とがなくても,その後に進歩している例があり(Howe,Tolmie, &Rodgers, 1990, 1992),相互作用の

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中での議論が後の認知的再構造化に影響を与えたと考察されている。そのため,相互作用の時点で必

ずしも進歩した理解に達していなくても,その後で効果が生じる場合も考えられないわけではない。

また,逆に,相互作用の中で理解を示しているように思われても, 2人で協力して補完的な役割を果

たしていることの効果によってそのような結果が生じるだけで,相互作用の後に1人で課題を実行す

ると必ずしも相互作用前と比べて進歩した理解に達しているわけではないということも考えられるで

あろう(Lumpe &Staver, 1995参照)。そのため,相互作用の事前・事後の理解度を含め,さらに量

的な分析によって,今回の事例によって示唆される結果が再確認できるかどうかを検討する必要があ

る。さらにより幅広い数学的課題において検討されている, 「手続的知識」と「概念的知識」に関す

る研究結果と比較して考察することも必要であろう。

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