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1 / 10 資料 1 「プロサバンナ事業で招聘されたモザンビーク政府一行との面談」 に関する日本の市民社会による記録・問題提起・要請 2015 10 26 2015 9 1 日に JICA 本部にて、外務省・JICA、モザンビーク農業・食糧安全保障省 MASA(派遣団長:前農業副大臣)、駐日モザンビーク大使と日本の市民社会の面談が行わ れました。面談にご協力頂いた外務省・JICA の皆さまに感謝致します。 【面談の背景】 プロサバンナ事業の一環として行われたこの招聘については、 7 24 日に第 12 回意見交換 会が開催されたものの外務省・JICA からの説明はなく、意見交換会前後に日本の国会議員 並びに現地農民組織から連絡を受けて知るに至りました。当初は7月末来日とのことでした。 その際、この派遣団内に UNAC 傘下の農民組織代表が含まれているとの連絡を現地から 受けたため、「ProSAVANA 事業に関する意見交換会」(NGO・外務省定期協議会 ODA 政策協 議会サブグループ)に参加する NGO 一同から、外務省・JICA に対し、派遣団の一覧の共有 と面談の設定を要請いたしました(8 6 日)。 その後、日本の市民社会のメンバーらが現地に向かい、招聘予定の農民組織代表とその出 身組織、UNAC に対し聞き取り調査を行いました。この結果を受けて、8 10 日に、外務 大臣並びに JICA 理事長宛に、緊急声明「プロサバンナ事業における農民の分断と招聘計画 の即時中止」(12 組織署名)を提出しています 1 。理由は不明ですが、結局農民組織代表は 来日メンバーには含まれず、9 1 日は、政府関係者のみとの面談となりました。 【本資料の 3 つの目的】 第一の目的は、面談で重要と思われる点を社会に広く共有することにあります 2 。第二の目 的は、当日ご手配頂いた通訳が、政府側の説明は比較的正確に訳されたものの、市民社会側 の発言の一部について不適切に訳されたため、これらを訂正する形で記録を共有することに あります 3 。第三の目的は、時間の不足により、モザンビーク政府から頂いたご意見に対し て、聞きっぱなしで終わってしまい、市民社会側がきちんとした形で反論や問題提起・要請 をさせて頂く機会がございませんでしたので、それらについて明記致しました。 本資料について、日本政府・JICA 内、並びにモザンビーク政府の皆さまとのご共 有、ご確認、要請へのご返答をお願いいたします。なお、モザンビーク政府からのお返 事・ご連絡は、必ず外務省・JICA 経由でお寄せ下さい。 1. モザンビーク農業省一行と日本市民社会やり取りの記録 2. 以上に関する事実関係の確認と市民社会からの問題提起 (1) 現地市民社会からの問題提起と早急なる回答の要請 (2) CN 意見聴取がナンプーラ州 10 郡で開催されなかった事実に基づく訂正の要請 (3) 対象地で頻発する土地収奪に関するモザンビーク政府の把握状況と対応の確認 (4) 公聴会で発生した諸問題に関する市民社会声明の内容把握の要請 (5) 公聴会(郡レベル)の「無効化」が要求された背景と再考の要請 (6) モザンビークで悪化する人権状況/「表現の自由」の侵害の改善要請 r (7) 「多様な意見に耳を傾ける」姿勢の歓迎と現実への反映の重要性 (8) 重視されない「JICA 環境社会配慮ガイドライン」の理解促進と反映の要請 (9)その他(「賛成市民社会組織」名称開示の要請・何故ナカラ回廊開発か?) 1 声明掲載先→http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/ps20150810statement.html 2 ここで紹介する記録は面談の全記録ではなく、後日政府側の記録の共有もされるとの前提で、市民社会として 重要と考えたものを抜粋した(意見交換会等で既に説明があった諸点については記載していない)。 3 当日許可を得て録音したものを元に記録メモを作成し、ポルトガル語が分かる者に確認を依頼した上で作成。

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資料 1

「プロサバンナ事業で招聘されたモザンビーク政府一行との面談」

に関する日本の市民社会による記録・問題提起・要請

2015年 10月 26日 2015 年 9 月 1 日に JICA 本部にて、外務省・JICA、モザンビーク農業・食糧安全保障省MASA(派遣団長:前農業副大臣)、駐日モザンビーク大使と日本の市民社会の面談が行われました。面談にご協力頂いた外務省・JICAの皆さまに感謝致します。 【面談の背景】 プロサバンナ事業の一環として行われたこの招聘については、7月 24日に第 12回意見交換会が開催されたものの外務省・JICA からの説明はなく、意見交換会前後に日本の国会議員並びに現地農民組織から連絡を受けて知るに至りました。当初は7月末来日とのことでした。 その際、この派遣団内に UNAC 傘下の農民組織代表が含まれているとの連絡を現地から受けたため、「ProSAVANA事業に関する意見交換会」(NGO・外務省定期協議会 ODA政策協議会サブグループ)に参加する NGO一同から、外務省・JICAに対し、派遣団の一覧の共有と面談の設定を要請いたしました(8月 6日)。 その後、日本の市民社会のメンバーらが現地に向かい、招聘予定の農民組織代表とその出

身組織、UNACに対し聞き取り調査を行いました。この結果を受けて、8月 10日に、外務大臣並びに JICA理事長宛に、緊急声明「プロサバンナ事業における農民の分断と招聘計画の即時中止」(12 組織署名)を提出しています1。理由は不明ですが、結局農民組織代表は

来日メンバーには含まれず、9月 1日は、政府関係者のみとの面談となりました。 【本資料の 3 つの目的】 第一の目的は、面談で重要と思われる点を社会に広く共有することにあります2。第二の目

的は、当日ご手配頂いた通訳が、政府側の説明は比較的正確に訳されたものの、市民社会側

の発言の一部について不適切に訳されたため、これらを訂正する形で記録を共有することに

あります3。第三の目的は、時間の不足により、モザンビーク政府から頂いたご意見に対し

て、聞きっぱなしで終わってしまい、市民社会側がきちんとした形で反論や問題提起・要請

をさせて頂く機会がございませんでしたので、それらについて明記致しました。 本資料について、日本政府・JICA 内、並びにモザンビーク政府の皆さまとのご共有、ご確認、要請へのご返答をお願いいたします。なお、モザンビーク政府からのお返

事・ご連絡は、必ず外務省・JICA経由でお寄せ下さい。 1. モザンビーク農業省一行と日本市民社会やり取りの記録

2. 以上に関する事実関係の確認と市民社会からの問題提起 (1) 現地市民社会からの問題提起と早急なる回答の要請

(2) CN 意見聴取がナンプーラ州 10 郡で開催されなかった事実に基づく訂正の要請

(3) 対象地で頻発する土地収奪に関するモザンビーク政府の把握状況と対応の確認

(4) 公聴会で発生した諸問題に関する市民社会声明の内容把握の要請

(5) 公聴会(郡レベル)の「無効化」が要求された背景と再考の要請

(6) モザンビークで悪化する人権状況/「表現の自由」の侵害の改善要請 r

(7) 「多様な意見に耳を傾ける」姿勢の歓迎と現実への反映の重要性

(8) 重視されない「JICA 環境社会配慮ガイドライン」の理解促進と反映の要請

(9) その他(「賛成市民社会組織」名称開示の要請・何故ナカラ回廊開発か?)

1 声明掲載先→http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/ps20150810statement.html 2 ここで紹介する記録は面談の全記録ではなく、後日政府側の記録の共有もされるとの前提で、市民社会として重要と考えたものを抜粋した(意見交換会等で既に説明があった諸点については記載していない)。 3 当日許可を得て録音したものを元に記録メモを作成し、ポルトガル語が分かる者に確認を依頼した上で作成。

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1. モザンビーク農業省一行と日本市民社会やり取りの記録 (1) 招聘・面談の前提について 【モザンビーク政府の説明】 l 日本の皆さんからプロサバンナ事業への理解を得るために設定された。 l 日本の NGO・市民社会が、ある一定期間、プロサバンナ事業に関与してきたことを踏

まえ、この事業についてどう考え、改善のためにどのような貢献ができると考えている

のかを知るために、来日・面談。一方だけの話ではなく、多様な話を聞きたいと考えた。

到達したい目標は同じと考え、具体的な提案を知りたい。 l (含:現地)市民社会との対話については、マスタープランに留まらず、インプレメン

テーション(実施)においても行う。市民社会を、仕事のパートナーとしたい。モニタ

リング等について協力してほしい(開始 44分)。 【日本市民社会の説明】 l 日本の市民社会は、モザンビークの農民組織や市民社会組織の要請を受けて活動を行っ

てきた。何度も現地調査や対話などを行い実態・情報把握に努め、国民・納税者として、

自国政府・JICAが行う政府開発援助(ODA)の改善を目指している。 l 公聴会に関する複数の声明が現地組織から出されている。モザンビーク政府の説明や協

議は、本来現地の農民組織や市民社会に対して行われるべきものであり、それに先んじ

て日本の市民社会への説明・協議がなされるべきではない。今後についても同様である。

(2) 声明・公聴会の無効化について 【日本市民社会の質問】 l 3 カ国市民社会の声明4(2015 年 6 月 4 日、外務省・JICA、モザンビーク・ブラジル

政府宛)の内容確認とこれへの回答、とりわけ「公聴会プロセスの無効化」の要請につ

いてはどうか? 【モザンビーク政府の回答】 l モザンビーク市民社会は、「政府がやったことのすべてを無視したい」と声明で述べて

いる(開始 1時間 31分)。 l 政府が実施した「すべてを投げ捨てる」べきか、前に進めるべきか。ゼロから再開すべ

きか?声明には、「止めろ」とはあるが、提案がない。そのため、「止める」必要はなく、

前に進めながら、対話を続ける。賛成がマジョリティと考えられるため、反対意見を優

先するのではなく、前に進めなければならない(開始から 1時間 34分)。 l より丁寧に声を聞くため意見聴取の場を設ける予定である。開催にあたっては、事前に、

UNAC をはじめとする農民組織連合、市民社会組織に、そのやり方を含め相談する。まずかった点があれば、そこで正せば良い5。

(3) 公聴会でみられた問題について 【日本市民社会の説明】 l 公聴会に実際に参加し、現地市民社会・農民組織による声明に書かれている多くの問題

を直接目撃・確認した。そのため内容に賛同している。 Ø 例えば、公聴会開催の情報は広く流布し、文書を共有したとの説明があったが、

実際は大半の農民組織・市民社会組織は直前に開催を知り、知らないままの農村

住民も多かった。 Ø 公聴会に参加しても、「(マスタープラン初稿に意見を言って)文書への貢献をし

てほしい」との呼びかけに応えるだけの文書アクセス、内容確認ができた農民や

組織はほとんどなかった(誤訳多し)。 Ø また、参加者が懸念や反対を封じ込めるような抑圧的な言動が政府の側からなさ

4 http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/ps20150608statement.html 5 この政府のいう「対話」について、「意味のある対話」という意味であるかについて、日本の市民社会からの確認があり、「そうだ」との回答があった。

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れた(誤訳多し6)。これらは声明に記載されている。 【モザンビーク政府の説明】 l 大まかな話ではなく、具体的に明確に問題提起してほしい。でないと対応できない。 l たまたまそうだっただけ。問題発言をした個人の問題だから、気にするべきでない。公

式な政府のポジションと捉えるべきではない。 l 市民社会は、マスタープランの内容に同意できないだけで、公聴会のあり方に賛成でき

なかったわけではない(開始から 1時間 32分)。 (4) マスタープラン、今後のプロセスについて 【モザンビーク政府の説明】 l あくまでもゼロドラフトであり、完成版ではない。 l 皆が納得するまで何回でも書き直し、正式な「ナカラ回廊農業開発」の政策文書となる

よう 大限努力する(開始 43分)。 l 反対者らには提案がない。UNAC やその他の市民社会組織、日本の市民社会からの分

析や提言を歓迎する。 【日本市民社会からの意見】 l 提案は声明に書いてある。声明を再度確認してほしい。 l 現地農民組織は、このマスタープランの内容だけでなく、策定プロセスを問題としてき

たことを忘れるべきではない。

(5) 土地収奪の問題への対応について 【モザンビーク政府の説明】 l 500万件の DUAT(土地利用権)登記を 5年で進める(開始 45分)。 (6) 人権侵害について 【日本市民社会の指摘】 l モザンビークも国連加盟国として、国際人権規約、社会権規約、拷問禁止条約など重要

な人権関係の規約・条約のすべての批准国であり、これらの遵守が不可欠であることを

確認7。 l 悪化する現在のモザンビークの人権侵害状況を憂慮する。看過できない。

Ø 出典:“Amnesty International Report 2014/15: Mozambique”8(配布) l 特に、「表現の自由」の侵害、カステルブランコ教授とムバンゼ編集長(独立紙MediaFax)

の訴追に抗議する9。 Ø アムネスティで取り組む訴追反対の緊急行動の紹介と記事の配布10。

l プロサバンナ事業で発生する人権侵害についても懸念し、今後も監視していく。 l 「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011 年国連で採択) 11の紹介。

Ø 国家が人権を保護する義務、関わる企業は人権を尊重する義務があると明記。

人権侵害に対する救済が謳われている。 Ø 本指導原則に見られる国際合意の大きな変化は、政府が人権侵害に関わる事

業に民間企業が関与すると「暗黙に加担した」とみなされ、企業も責任が問

われる。その結果、企業も投資先政府の監視の責任を負う。これは新しい。 【モザンビーク政府の回答】 l モザンビークに「犯罪」があることは否定しない。だからといって、外国市民の生命を

重視していないというわけではない。政府は犯罪を促進していない。警察は能力不足な

だけである。 6 英語に切り替えたが、言語の問題から意味が正確に通じず、間違った理解に基づきモザンビーク大使が反論を述べている。2(3)にある通り、声明内容を確認してほしい。 7 通訳に誤訳多く、この部分の内容は全く伝わっていないので、共有を求めたい。 8 https://www.amnesty.org/en/countries/africa/mozambique/ 9 国家治安維持法違反(国家元首への誹毀[ひき]罪) 10 http://www.amnesty.or.jp/get-involved/ua/ua/2015ua162.html 11 http://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/

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l モザンビークにおける報道の歴史において、ジャーナリストが投獄されたことはない。 l 誰かについて記事を書きたければ、事前に本人と共有し、両方のコメントを掲載すべき

である。このケースは、事前に大統領に文書を送って彼のコメントを受けない形で掲載

されている。すべての記述について根拠が示されなければならないが、根拠も示されて

いない。これらにより、法律違反であるとの判断が検察にあった。 l 裁判をするのは、被告に申し開きの場を提供するためであり、「公平な措置」として行

っている。裁判官がどちらの側の主張が正しいか決める。カステルブランコは投獄され

ておらず、裁判にかけられているだけだ。これは「ベストなプラクティス」を示す。 l 「表現の自由」で批判する権利があるというのであれば、批判から自分を守る権利もあ

る。だから彼らは裁判にかけられている。批判にもマナーがあり、大統領の名誉を汚し

たり、尊厳を軽視する言論は許されない。 【JICA の主張】 l 人権問題は重要だが、プロサバンナ事業の議論からは切り離すべきだ。

(7) JICA環境社会配慮ガイドラインについて 【日本市民社会からの質問】 l 同ガイドラインについてモザンビーク政府はどう把握(認識)しているか? l これをいつどのように適応するのか? 【JICA の補足】 l ガイドラインは特定のプログラムに適応される。マスタープランが完成し、特定のプロ

ジェクトが開始するときにこのガイドラインは適応される。 l (モザンビーク政府が把握しているかどうかについての回答は遮り、)この後(モザン

ビーク政府と)しっかり議論を行う(開始 1時間 46分)。 【モザンビーク政府の回答】 (「NGOから質問があった以上、答えたい」として、以下回答。) l 日本のガイドラインについていっているが、日本には日本のルールがあり、モザンビー

クにはモザンビークのルールがある。 l 対象人口が多すぎて(モザンビークが定める)環境アセスメント評価はできないので、

特定の事業が決まり実施段階になれば、これらの評価を実施する。これは法が義務づけ

るもの。だから、特定事業を確定しなければならない。そのためマスタープランがある。 (8) その他について 【モザンビーク政府の回答】 l プロサバンナに賛成している市民社会組織もいる。だから、政府は反対側だけの意見を

聞くべきではなく、政府としてバランスをとるべきである。そのため両方の話を、同じ

席について聞きたい( 初から 1時間 33分)。 l UNACは 大の農民組織ではなく、綿花栽培者の組織が 30万人いる。ただし、だから

といってそのこと自体が重要な訳ではない。 l 他の回廊でも開発を進めているが、問題になっているのは日本と行うナカラ回廊開発、

プロサバンナ事業だけだ。その理由が知りたい。 2. 以上に関する事実関係の確認と市民社会からの問題提起 上記のモザンビーク政府の説明・主張について、事実関係において疑問が多数生じましたが、

当日は、冒頭の理由により、それらを提示して質問する時間を持つことができませんでした。

以下、事実関係を明らかにした上で、問題提起を行いますので、外務省・JICA 内部、モザンビーク政府とご共有の上で、要請についてご返答をお願いいたします。

(1) 現地市民社会からの問題提起と早急なる回答の要請 l また、現地市民社会より、3カ国市民社会声明は、モザンビーク政府に提出されている

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が、現在においても回答がない旨連絡があった。(i) 当事者であるモザンビーク市民社会に先んじて日本の市民社会への回答がなされたこと、(ii) 2 ヶ月近くが経過した現在においても同程度の回答すらなされていないことが問題視されている。

声明の署名団体への早急なる回答を要請する。 (2) CNの意見聴取がナンプーラ州 10郡で不開催であった事実に基づく訂正の要請 l コンセプトノートに関し、「3州 19郡で意見聴取」との説明がなされたが(開始 36分)、

実際にはナンプーラ州内の 10郡では行われていない。モザンビーク政府に記録の確認と訂正を要請する。

(3) 対象地で頻発する土地収奪に関するモザンビーク政府の把握状況と対応の確認 l プロサバンナ事業対象地における土地収奪について、これまで日本の NGOが行ってき

た現地調査で多発が確認されている12。モザンビーク政府に対し、土地を失った住民か

ら嘆願書も出ており13、公聴会でも政府の対応が求められていた。 l しかし、日本の NGOの調査時の面談の際にも、モザンビーク政府関係者は「土地収奪

は起きていない」と説明し、さらなる「民間農業投資の奨励」がなされている14。 l 他方、土地収奪の実態を訴えた農民やそれを発信した組織に圧力が加えられている15。 l なお、対象地で土地収奪を行っている企業の一つ(AgroMoz 社)は、前大統領(アル

マンド・ゲブーザ)のファミリー企業(Intel社)が関与している16。 l このような政治社会経済構造下で現実に起きている土地収奪の実態と原因を把握せず

に、DUATの登記だけを進めても問題は解消できないと考える17。 l 現在、プロサバンナ事業対象値で具体的に生じている土地収奪に対し、モザンビ

ーク政府としてどのように把握し、対応する /しているのか教えてほしい。 (4) 公聴会で発生した諸問題に関する市民社会声明の内容把握の要請 l 公聴会の問題については、3カ国政府に宛てられた 3カ国市民社会声明(6月 4日)に

詳しく記載。本面談にて同声明への回答がされるとの事前連絡があったため、声明の内

容は把握されているものと考え、面談時に市民社会側から詳しい説明は行わなかった。 l しかし、モザンビーク政府は、「具体性や根拠がない」「市民社会は、問題は MP の内

容で公聴会自体に問題はない」「たまたま問題が発生」「やったことのすべてを無視」と

の説明を行っており、上記の声明や、現地の多様なアクターによって出された複数声明18についても、その内容を十分理解していない可能性が高い。今一度、声明の内

容についての正確な把握を求めたい。 (5) 公聴会(郡レベル)の「無効化」が要求された背景と再考の要請 l 公聴会で「ポジティブな意見も多かった」との主張がなされたが、各種声明にある通り、

公聴会は政府・与党関係者が圧倒的多数を占めるように準備され、実施されている以上、

これは当然である。一部には参加が拒否された農民もいた。さらに、公聴会の直前に、

12 HoyoHoyo社、AgroMoz社、Lurio Green/Resource社、他。「プロサバンナ事業の考察:概要と変遷、そして NGOからの提言」http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/data/proposal%20final.pdf 13 ProSAVANAイニシアティブ開発基金(DIF)で融資するMatharia Empreendimentos(マタリア社)。 14 前掲報告書「プロサバンナ事業の考察」。 15 先述マタリア社の事例。 16 https://www.grain.org/article/entries/4703-leaked-prosavana-master-plan-confirms-worst-fears 17 DUATの登記がなされた農民の土地の収奪も起こっている。また、放置された旧国営農場で 10年以上耕作してきた農民の権利についても、論争がある。 18 カトリック大司教区委員会等(5月 11日)http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/data/20150511-prosavanastatement.pdf モザンビーク 10組織による声明(5月 15日)http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/data/20150515-prosavanastatement.pdf なお、これらの声明は訳して外務大臣・JICA理事長にも提出されている。同様に、2種類の声明が日本の市民社会から出されている。抗議と要請(4月 18日)http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/data/20150418prosavanastatement.pdf 緊急要請(5月 1日)http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2015/05/20150520-prosavana.html

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関係者のみの非公式事前会合が政府によって開催され、何を言うべきかの調整もなされ

ている。一部公聴会には、制服を着用し武器を携帯した警察も同席した他、異論・批判

を封じ込める議事進行がなされた。与党フレリモの党歌が歌われた公聴会もあった19。 l また、公聴会プロセスは突然郡レベルから開始されたが、204頁のポルトガル語のMP

の内容を、農民たちが十分理解して「賛成」したとは考えられない。現地研究機関等の

声明にも指摘されているが、公聴会時のプレゼンは MP の内容を十分反映したものではなかった。一部では、寸劇で「プロサバンナが来ると、種や肥料がもらえ、奇麗な服

と鞄、バイクが買える」との説明がなされ、プロパガンダのための集会になっていた20。 l その結果として集められた「大多数のポジティブな意見」が強調され、事業推進の「根

拠」とされることは、これら公聴会の費用の大半(870万円)を負担した日本の市民としても大いに問題と考える。

l 本来の「MP に関する公聴会」の趣旨から大きく逸脱した集会が行われており、「すでにやったことをやり直す必要がない」との趣旨の主張は、日本の市民社会

としても受け入れ難く、この逸脱した公聴会を根拠に「マジョリティの賛同を得た」

として事業を進めることには大いに問題である。以上から、現地農民組織、市民社会組

織が要求する「無効化」について、3カ国政府の検討を再度要請する。

(6) モザンビークで悪化する人権状況/「表現の自由」の侵害の改善要請 l 「モザンビークにはモザンビークのルールがある」とのことだが、上記のとおり、モザ

ンビークは主要な人権規約・条約の批准国である。同国政府の日本での代表(駐日大使)、

プロサバンナ事業の主管省(農業・食糧安全保障省)で同事業のコーディネイター(前

副大臣)らが、その意味を踏まえていない現状に憂慮する。 l 現在の多発する人権侵害について、「犯罪の問題」や「警察の能力不足」の問題との認

識が示されたことに、驚きを禁じ得ない。 l 「(モザンビーク史上)ジャーナリストの投獄はない」と説明されたが、事実ではない。

実際には、本年 1 月のニュッシ新政権誕生以来、下記のジャーナリストの逮捕勾留・裁判が連続して起きている。 ① 密猟問題を調査していた国際ジャーナリストの逮捕・勾留(2月) ② 与党事務局長の汚職を報じた独立系新聞編集長の起訴・賠償命令(6月) ③ 上記カステルブランコ教授とムバンザ編集長の起訴(6月) *なお、2013年9月には、独立系テレビ関係者の逮捕が米国国務省「国別人権報告2013」で懸念をもって紹介されている21。

l 大使が「モザンビーク史上ジャーナリストの投獄は皆無」と述べた理由は、「表現の自

由は侵害されていない」と主張するためと考えられるが、上記「国別人権報告」では、

「報道の自由への政治的・法的な圧迫(弾圧、攻撃、ハラスメント)」「報道自粛」が問

題として明記されている22。 また、過去 15年内に「ジャーナリストの暗殺」が2度起きているが、事件の全容の解明に至らず、一件については、容疑者が繰り返し脱獄した上で殺害される等している。 ① 2001年独立紙(Vertical)編集長カルロス・カルドーゾの暗殺23 ② 面談直前の 8月 28日に、汚職事件の調査報道で著名で、同国の「報道の自由」に

尽力してきたパウロ・マシャヴァ独立紙編集長が暗殺24

19 これらの詳細・根拠は上記声明に掲載され、公聴会時の写真・動画を用いて報告会等でも紹介している。 20 モザンビーク政府の「寸劇」の説明は、公聴会開催を知らせるための寸劇の説明に限られ、このような公聴会の中で行われたプロサバンナ宣伝のための寸劇は言及されなかった。この動画も既に披露されている。 21「2013年 9月 3日、ベイラ市選挙におけるフレリモ党青年部(OJM)の活動に関する番組を制作していたテレビ局撮影スタッフが、OJM メンバーに道路封鎖に遭い、脅迫され、テレビカメラが盗まれかけた。しかし、

警察は、OJMメンバーではなく、撮影隊 3名を逮捕した。」(出典:下記米国政府サイト) 22 「ジャーナリストの一部は、その報道により、弾圧、攻撃、ハラスメントを受けている」「多くのジャーナ

リストは自己検閲せざるを得ない状態を報告した。その理由について、メディア関係者らは、政府や与党に批判

的な報道を行うと広告依頼が停止されるからだ述べている」 http://www.state.gov/j/drl/rls/hrrpt/humanrightsreport/index.htm?year=2013&dlid=220141#wrapper 23 シサノ大統領(当時)の息子の関与する銀行関連の汚職事件を調査している 中の暗殺。 24 マシャヴァ編集長は、カステルブランコ教授らの起訴を止めるキャンペーンの中心人物でもあった。暗殺につ

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l カステルブランコ教授等の起訴と裁判については、「モザンビーク・ジャーナリスト連

合」も抗議声明を発表し、政府系メディア(AIM)すら批判的な記事を掲載している25。 l さらに、裁判の結果、9月 17日の判決は「無罪」であり、検察の主張(概ね面談時の

モザンビーク政府のものと同様)は該当せずとの判決が下った。「グッドプラクティス

としての裁判」の主張を踏まえるならば、これで結論が出たはずである。しかし、検察

は上告しており、「公平性のため」に裁判をした訳ではなったことは明白である。

l 以上から、モザンビーク政府関係者について、人権(とりわけ「表現の自由」)

に関わる次の点の理解が不十分であることが明らかになった。

Ø 人権関連の規約・条例、人権擁護における政府の責務、現在起きている「表現の

自由」をめぐる深刻な現状や事例、権力による法の濫用(治安維持法を使った起

訴、報道の自由への介入)。

Ø 自由権規約第 19 条「すべての者は干渉されることなく意見を持つ権利(1 項)、表

現の自由についての権利を有する…あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及

び伝える自由を含む(2 項)」は、いかなる例外も制限も許さない権利。第 3 項「特

別な義務と責任」は、権利それ自体を否定するものではない。 l モザンビーク政府は、今一度、自国が批准する規約・条約を確認するとともに、

人権状況を正確に把握し、目に見える形での改善に尽力してほしい(含:裁判結

果を尊重した上記2名の上告を取り下げ)。現状のままでは、日本の国民・納税

者・市民社会として、多額の ODA を供与することに関し、不安が拭えない。 l また、このような状態にもかかわらずなされた JICA 関係者の発言は問題である。

同事業による人権侵害の訴えが農民らから直接 JICA にされているにもかかわ

らず、「人権問題をプロサバンナ事業から切り離すべき」と相手国政府の前で述

べたことは、ドナーの言動として受け入れ難いものであり、JICA ガイドラインにも反し(理念並びに 2.5.「社会環境と人権への配慮」)、かつ現地への悪影響が懸念される。JICA が早急にこの発言を訂正し、それをモザンビーク政府に伝えることを要請する。

(7) 「多様な意見に耳を傾ける」姿勢の歓迎と現実への反映の重要性 l 本面談では繰り返し「対話/多様な意見の重要性」が強調され、モニタリングについて

日本の市民社会の貢献を促す発言がなされた。これについて、高く評価するとともに、

今後これが徹底されることを強く望む。日本の市民社会としても、これまで以上にモニ

タリングに協力していく所存である。 l 他方、プロサバンナ事業においては、現実は正反対のこと・人権侵害に相当する事例が

多発してきた。そのことが結果として本事業における農民や市民社会との対話を頓挫さ

せてきた経緯があり、うやむやにされるべきではない。以下、具体的に列挙する。なお、

これらは表面化したごく一部の事例であり、そのすべてではない26。 ① 2015 年 6 月 12 日首都:公聴会(全国)でのパシェコ大臣の議事進行・言動が、

農業省が定める公聴会開催にあたっての「独立/責任の原則」に反していた点27 ² 公聴会の法的前提に疑義を唱えた者に対し、「参加を希望しない者は退出せよ」 ² 冒頭で、「如何なる障害があろうともプロサバンナ事業を断行する」と表明 ² 「愛国的な主張のみ行うこと」を出席者に命じ、「反対意見や反対運動は許さ

れない」と威嚇的に述べた28。

² 批判的な市民社会メンバーや研究者に発言させず、一方的に議事を打ち切り。

いて、国際ジャーナリスト連盟、国境なき記者団、ジャーナリスト保護委員会が一斉に非難声明している(8月

28 日)。詳細 http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-173.html 25 AIM (Aug.26, 2015) ”Journalists’ Union Condemns Guebuza Libel Case”. 26 詳細は、これまでの意見交換会にて共有済みである。今回の資料もあわせて参照されたい。 27 農業省省令 2006 年 7 月 19 日付/省令 130 号「独立性の原則:公聴会や協議の過程において、(当該事業に

より)影響を受けたり意見を有するすべての人たちの懸念を反映した環境が作り出されなければならず、ある特

定の利害や意見を持つ人々によって独占されることを防がねばならない。「責任性の原則:公聴会や協議の過程

は、誠実かつ責任あるやり方で行われ、すべての関係者の懸念が代表されなければならない」。 28 この点に関する批判声明が 9つのモザンビーク市民社会組織 (人権・環境・女性・農村)から出され、政府に提出されている(2015年 6月 17日)→http://www.ngo-jvc.net/data/20150617-prosavanastatement_jpn.pdf

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*以上の点は、幅広く報道。「大臣が脅す」との見出しも29。

② 2015年 4月ナンプーラ州:郡長・農業省関係者による公聴会(農村部)での司会進行問題・抑圧的発言(詳細:各種声明を参照) ² 「(異論への)拍手はいけない」「批判はだめだ。質問だけ受け付ける」 ² 「(反対意見者は)カネをもらって反対している」

③ 2015年 5月ナンプーラ州マレマ郡:公聴会で批判的な意見を述べた地元農民らへの郡長・SDAE(郡経済活動振興部 *プロサバンナ事業のカウンターパート)による公聴会後のストーキングと脅迫30 ² 5 月 8 日ムトゥワリ行政ポスト長が農民組織を呼び出し、威嚇・命令:

Ø 「民衆と農民が事業に反対するように煽動しているのは誰か。あれほど

多くの人びとを公聴会に集めたのは誰か?政府は 25 人しか招待せず」。

Ø 「コミュニティへ行き、農民たちの心に働きかけ、プロサバンナに対す

る立場を変え、事業に賛成するようにしろ。」

² 農民らの返答: Ø 「ProSAVANA 事業を農民たちに受け入れるよう強制することはできない。

事業を望んでいない農民やコミュニティに対して、政府が今行っている

情報操作や脅迫のキャンペーンを、直ちに止めるべき。」

² 5 月 9 日:SDAE 代表者が次のように脅迫: Ø 農民やコミュニティに ProSAVANA 事業を受け入れるように執拗に迫り、

「そうしなければ牢屋に入れる」と強調した。

④ 以下は、既に何度も JICA・外務省に指摘し、資料を提供してきた点である。 (ア) 2015年 2月ナンプーラ州モナポ郡:プロサバンナチーム、UPC-Nへの脅迫

² 「協力しないと投獄することになるぞ。」(詳細、第二議題) (イ) 2014年 7月ザンベジア州:州知事による農民代表への投獄の脅しの発表

² 「プロサバンナ事業に反対する者/表明する者は投獄する。」 (ウ) 2014年 4月ナンプーラ市:州農業局長による PPOSC-N関係者への脅し

² 「(三段表の議論の場につかなければ)愛国心がないと見なす。」 (エ) 2013年 8月ナンプーラ市:州農業局長・プロサバンナのフォーカルポイント

らによる PPOSC-N関係者への脅し: ² 「かつてはトップに対し楯突く、異論を口にすると暗殺。上司がヤレ

といったらやるのが部下の仕事」と、銃口を指で作り2人に向ける。

l ナンプーラ州での問題の多発が生じており、とりわけ同州における農業政策やプロサバ

ンナの責任者であるペドロ・ズクーラ州農業局長は、「立場・言論の多様性」に配慮し

ない発言を繰り返していることが、記録されている。 Ø 2014年 8月日本 NGOとの面談時:

² 「農民組織や市民社会組織が異議を唱えるのは、外国からカネをもらうため。開発を停滞させて有権者の不満を高め野党を利するため。」

Ø 2014年 8月 26日(政府系新聞 Noticias):ナンプーラ州内の全郡の SDAEの全ディレクターが招集されて行われた会議の場で、ズクーラ農業局長と SDAE ディレクターが次のように述べたことが報道されている。 ² 局長:「国外からのどんな反対工作があっても前に進められなければならな

い。国外勢力は、国内の市民社会のあるセグメントを使って、モザンビーク

の貧困削減努力を鈍化させようとしている。」 ² 以上を受けたSDAEディレクターの発言:「SDAEは、プロサバンナ事業につ

いて起こりうる障害を排除し、プロサバンナの宣伝活動の進捗の確認を行う。」 l 以上は、多様な意見」の尊重に当たらないばかりか、明確に自由権規約に反しており、

プロサバンナ事業に関与するモザンビーク政府関係者が、事業の枠組みの中で行ってい

る人権侵害、とりわけ「表現の自由」の侵害に相当する。 29 MediaFax紙(6月15日)「パシェコの脅しに市民社会は退室」、CanalMoz(6月15日)「パシェコは愛国的な意見

を言えと要求」、Verdade紙(6月17日)。 30 http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-153.html

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l このように明確な人権侵害の言動でなくとも、権力の非対称性が実態である社会では、

不用意な言動は強い脅迫として機能する。相手に対する萎縮効果が明確である限り、政

府関係者はその言動に 大限の注意を払うべきである。これらのケースは、日本政府・

JICAにも繰り返し注意喚起しており、それでも問題が解消していないことを鑑みると、事態は深刻であると受け止めざるを得ない。

l JICA・外務省に対しては、以上の言動について、第三者からなる調査委員会を立ち上げ、モザンビーク政府や被害者に話を聞き、早急なる人権救済を要請する。

l モザンビーク憲法や国際人権規約に基づき、事業に疑問をもったり、問題提起し

たり、批判する農民・市民社会に対し、抑圧や威嚇と受け止められるような言動

をしないように強く要請する。 (8) 重視されない「JICA環境社会配慮ガイドライン」の理解促進と反映の要請 l JICA環境社会配慮ガイドラインは、次のように記す。

Ø 「JICA が行う環境社会配慮の責務と手続き、相手国等に求める要件を示すことにより、相手国等に対し、適切な環境社会配慮の実施を促すとともに、JICA が行う環境社会配慮支援・確認の適切な実施を確保することを目的とする。これにより、JICAは、JICAが行う環境社会配慮支援・確認の透明性・予測可能性・アカウンタビリティーを確保すること

に努める」(目的 1.2) Ø 「JICA は、環境社会配慮の観点から相手国等に求める要件を本ガイドラインで明記し、

相手国等がその要件を満たすよう協力事業を通じて環境社会配慮の支援を行う。JICAは、その要件に基づき、相手国等の取組みを適宜確認するとともに、その結果を踏まえて意思

決定を行う」(1.4.環境社相配慮の基本方針) l したがって、同ガイドラインの適応は、JICA の補足のように「特定プロジェク

ト確定後」であってはならないはずであるが、JICA 担当者らの認識を再度確認させてほしい。

l また、モザンビーク政府は大使を含め、上記ガイドラインについて、プロサバン

ナ事業におけるモザンビーク政府の動向に関係あるものとして認識していなか

った。なぜこのようなことが起こったのかの原因を把握し、早急にガイドライン

の内容を周知徹底し、事業をめぐる環境社会配慮を向上させてほしい。 l 現在、モザンビークは日本の重点国として援助が集中する状態にある。市民社会は、

2013 年 4 月から公用語であるポルトガル語版のガイドラインの作成と公開を要請してきた。ぜひ、これを実現してほしい。

(9) その他(「賛成市民社会組織」名称開示の要請・何故ナカラ回廊開発か?) l 「プロサバンナに賛成の市民社会組織」について言及され、それとのバランスを取ると

のことだったが、具体的にこの(これらの)組織名と組織概要を教えてほしい。 l 「問題にされている回廊開発はプロサバンナだけ」とズクーラ・ナンプーラ州農業局長

が述べているが、何故プロサバンナ事業、特にナンプーラ州で問題が多発してい

るのか、自らの言動について今一度振り返って頂きたい。 l なお、日本の市民社会による「プロサバンナ事業・ナカラ回廊開発」に関する透明性や

アカウンタビリティーの向上を促進するための諸活動は、第一に、これらの事業・開発

が自国政府・JICA・企業によって推進され、日本国民・納税者の資源を使って行われてきたこと、第二に、現地農民組織並びに市民社会の要請を受けたためである。これら

については、面談の冒頭に説明されており、これ以上の説明は不要と考える。

以上 *モザンビーク政府より「モザンビークの他の回廊開発に現地の農民組織からの批判がない」

と発言されたが、事実ではない。今月、次頁の報告書が、アフリカ生物多様性センター(Africa Center for Biodiversity)と UNACから出されている。政府関係者らとの共有を提案する。

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Executive summary report in English <http://www.acbio.org.za/lists/lt.php?id=Yh8FAxkFURoACA8> Full report in English <http://www.acbio.org.za/lists/lt.php?id=Yh8FAhkFURoACA8> Executive summary report in Portuguese <http://www.acbio.org.za/lists/lt.php?id=Yh8FARkFURoACA8> http://acbio.org.za/ Investments in the Beira Corridor in Mozambique: threats to farmers’ seed and food systems (2015年10月24日) The African Centre for Biodiversity (ACB) in partnership with the União Nacional de Camponeses (UNAC, National Peasants Union), and Kaleidoscopio has today released preliminary findings in a research project: ‘Agricultural investment activities in the Beira Corridor, Mozambique: Threats and opportunities for small-scale farmers.’ Joining Zimbabwe, Zambia and Malawi to the coast of Mozambique, the Beira Corridor plays a central role in the expansion of the Green Revolution project in Southern Africa. The multi-donor Beira Agricultural Growth Corridor (BAGC) initiative has been established as Mozambique’s entry point for the Alliance for a Green Revolution in Africa (AGRA). The report explores small-scale farmers’ agro-ecological dynamics related to seed and soil fertility in Mozambique and the expansion of the Green Revolution project. The report considers the changing seed system in Mozambique, and the possible effects of regional seed agreements and laws on farmer-managed seed systems. The report also discusses private agro-dealers as key delivery mechanisms for Green Revolution technologies, especially improved seed, fertilizers and agrochemicals. In Mozambique, most seed is still reproduced by farmers themselves, with some public sector and commercial activity. Mozambique’s plant variety protection (PVP) law prohibits farmers from reproducing and reusing protected seed varieties, even if these varieties are blended with varieties that farmers have nurtured and reproduced historically. Mozambique has signed the Arusha PVP Protocol adopted by the African Regional Intellectual Property Organisation (ARIPO) in July 2015. Ratification by Mozambique will lead the country to being bound to seed-related decisions at a regional level, where the private interests of multi-national corporations are favoured. Seed certification systems, as is the case elsewhere in the region, are too stringent for small-scale farmer certified seed production. The current seed certification system not only prevents many small-scale farmers from producing certified seed because of inappropriate and stringent requirements. It also more directly threatens the maintenance and building of diverse and practical farmer-managed seed systems, since it constrains and even criminalises some essential activities on the farm which ensures agricultural biodiversity, such as freely exchanging and selling seed. It also drains public resources away from supporting farmers, and towards supporting and benefiting corporations. The report interrogates the role of the corporations and question what the real benefits of their activities are, not only for farmers but also for the ecological and food systems more generally. The other focus area of the report is on soil fertility. The Green Revolution fertilizer push is heavily premised on the Corridor concept. Mozambique’s farmers do not use much fertilizers, because the economies of scale are not present. But farmers in Zimbabwe, Zambia and Malawi use much more synthetic fertilizers, with fertilisers being subsidised in Zambia and Malawi by the state through farm input supply programmes (FISPs). By developing the Corridor, it is anticipated that Beira will become an entry point to the whole region to distribute synthetic fertilizers. The report points out that this will contribute to building demand in Mozambique because a portion of the fertilizers can be diverted into the domestic market on the back of existing infrastructure. At this stage in the expansion of the synthetic fertilizer project in the region, economies of scale are regional, not national, and therefore regional strategies are being deployed.