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2 独創的なソフトを開発する当社の財産 は“人”が全て。 従業員満足度の向上や従業員教育を 計画的・徹底的に行い、次代の飛躍 を目指す。 代表取締役 宮内照雄 御社の業務内容について教えて下さい 宮内 最近の家電やオーディオ機器には複雑 な機能を実現するために、マイコンによる制 御が欠かせないが、こうしたマイコンに組み 込まれたソフトウェアの受託開発を主に行っ てきた。当社は昭和57年の設立であるが、最 初からソフトウェアの開発を行っていたので はなく、半導体の検査業務や電子部品をプリ ント基板に配置する業務等様々な業務を行っ てきた。当社がソフトウェアの受託開発を最 初に行ったのは約20年前、アイワ(平成14年 ソニーに吸収合併)のミニコンポに搭載され たマイコンである。以来当社はホームオー ディオやカーオーディオに採用されている次 世代のソリューション ※1 の開発や、そのカスタ マイズ作業を受託することを主なビジネスモ デルとして成長してきた。 オーディオ関連のソリューションでは 「Jennifer-1」(ジェニファー1、平成15年開発・ 販売開始)から始まり、「Jennifer-5」(平成19 年開発・販売開始)までを開発・販売してき ハートランド・データ 株式会社 訪問先企業 ソフトウェアの受託開発、ソリューションの開発とライセンス販売、開発支援ツールの開発 販売を主な業務とする当社。高速リッピング(音楽CDなどのデジタルデータを電子機器に取 り込む技術)やワンセグ等、当社が開発したソフトウェアやソリューションはホームオーディ オやカーオーディオ、カーナビゲーションシステムに幅広く採用されている。 さすてなぶる(=サステナブル):「持続可能性」という意味。 サステナブルという言葉には、単に維持・持続できるということだけでなく、 次世代に向けた発展を追求し続けるという意味合いが含まれている。 本項では、あしぎん総合研究所の会員企業の中から、毎月1社訪問インタ ビューさせていただき、その企業の特徴や強み、今後の課題等を紹介させてい ただくコーナーである。 オーディオ分野のソフトウェアの開 発で成長

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独創的なソフトを開発する当社の財産は“人”が全て。従業員満足度の向上や従業員教育を計画的・徹底的に行い、次代の飛躍を目指す。

代表取締役 宮内照雄 氏

御社の業務内容について教えて下さい

宮内 最近の家電やオーディオ機器には複雑

な機能を実現するために、マイコンによる制

御が欠かせないが、こうしたマイコンに組み

込まれたソフトウェアの受託開発を主に行っ

てきた。当社は昭和57年の設立であるが、最

初からソフトウェアの開発を行っていたので

はなく、半導体の検査業務や電子部品をプリ

ント基板に配置する業務等様々な業務を行っ

てきた。当社がソフトウェアの受託開発を最

初に行ったのは約20年前、アイワ(平成14年

ソニーに吸収合併)のミニコンポに搭載され

たマイコンである。以来当社はホームオー

ディオやカーオーディオに採用されている次

世代のソリューション※1の開発や、そのカスタ

マイズ作業を受託することを主なビジネスモ

デルとして成長してきた。

オーディオ関連のソリューションでは

「Jennifer-1」(ジェニファー1、平成15年開発・

販売開始)から始まり、「Jennifer-5」(平成19

年開発・販売開始)までを開発・販売してき

ハートランド・データ株式会社

訪問先企業

ソフトウェアの受託開発、ソリューションの開発とライセンス販売、開発支援ツールの開発

販売を主な業務とする当社。高速リッピング(音楽CDなどのデジタルデータを電子機器に取

り込む技術)やワンセグ等、当社が開発したソフトウェアやソリューションはホームオーディ

オやカーオーディオ、カーナビゲーションシステムに幅広く採用されている。

さすてなぶる(=サステナブル):「持続可能性」という意味。サステナブルという言葉には、単に維持・持続できるということだけでなく、次世代に向けた発展を追求し続けるという意味合いが含まれている。本項では、あしぎん総合研究所の会員企業の中から、毎月1社訪問インタ

ビューさせていただき、その企業の特徴や強み、今後の課題等を紹介させていただくコーナーである。

●オーディオ分野のソフトウェアの開

発で成長

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たが、これらは大手メーカーのカーオーディ

オやカーナビゲーションシステム、ホーム

オーディオ機器の基幹部品として幅広く採用

されている。

最近開発したソリューションでは、昨年の

「カーエレJAPAN※2」に出展した「Netro2」

(ネトロ2)の評判が良く、大手自動車メー

カーと試作機の開発も進めている。これは自

動車にWi-Fi※3の無線ルーターを設置すること

によって、車内に無線のネットワーク環境を

作り、様々な製品を利用することが出来るも

のである。無線のネットワーク環境を作るこ

とによって、例えばリアカメラをつける時に

有線でつなぐ必要が無くなったり、運転者や

搭乗者が持ち込んだスマートフォンのオー

ディオコンテンツを車内で自由に聴くことが

出来たり、持ち込んだスマートフォンでイン

ターネットに接続し、カーナビの地図の更新

等を行うことが可能となるものである。

DT10という商品を新聞記事で拝見しましたが

宮内 「DT10」は「動的解析ツール」と呼ん

でいるもので、マイコンが組み込まれた商品を

作動させながら、マイコンのプログラムが正し

く動くかどうかを検証するいわば“テスト用の

ツール”である。

メーカーなどではマイコンに組み込まれたソ

フトウェアのテストを、様々なパターンのデー

タを人海戦術的に入力して、正しく動くかどう

かを確認しているケースが多かったが、この方

法では、どんな状況で誤作動するかは把握出来

ても、ソフトウェアのどこに欠陥があるかは同

時に把握出来ず、改めてソフトウェアを解析す

る必要があった。

これに対して「DT10」はマイコンの作動中

でもソフトウェアの動きをリアルタイムに表示

することが出来ることから、誤作動時にどのよ

うな処理が行われているか「可視化」出来る。

つまり、誤作動する状況とソフトウェア上の欠

陥が同時に分かることから、従来のように改め

てソフトウェアを解析する必要が無くなる画期

的な商品である。

※1 ソリューション:ある機能を動作させるために、必要なソフトウェアやハードウェアを実装した製品(複合体)を指す。

※2 カーエレJAPAN(国際カーエレクトロニクス技術展):カーエレクトロニクス技術に関するあらゆる材料、ソフトウェア、製造装置等が一堂に集結する日本唯一の専門技術展で、規模もアジア最大級である。

DT10

Jennifer-V

●組込みソフトウェアの動き・品質を

見える化した画期的な商品「DT10」

※3 Wi-Fi(Wireless Fidelity):Wi-Fi Alliance(業界団体)によって無線LAN機器間の相互接続性認証されたことを示す名称

Netro2

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また、従来も「デバッカー」というマイコン毎

に「動的解析」するツールはあったが、製品が

変わると使えないという弱点があった。「DT10」

はマイコンがどのようなものであっても繰返し

使えることから、開発を行うメーカーにとって

は開発期間の短縮、コストの圧縮等の面で大き

なメリットのある商品となっている。

「DT10」を開発・販売開始して2年程度にな

るが、当社がソフトウェアと(ソリューション

のような)ハードウェアにおいても精通してい

たからこそ開発出来た商品である。

今後、家電等製品の機能が複雑化する中で、

ソフトウェアの開発規模の大型、複雑化が進む

だろう。つまり“ソフトウェアの品質が製品の

品質を左右するようになる”といっても過言で

なく、「DT10」のような製品の需要はますます

大きくなるものと思われ、当社の次世代を担う

商品になることを期待している。

企業理念等を教えて下さい

宮内 当社の経営理念は「ハートランド・

データは心が豊かで明るい社会の実現を目指

し、一人ひとりが“お客様に価値があるもの

を提供する”地道な活動をします」であり、

ビジョン・ミッション※4は「一人ひとりが充

実した社会生活を送ることのできる働きがい

のある会社」である。

また、これら経営理念やビジョン・ミッ

ションを支える2つの柱が「継続的成長」と

「従業員満足度(以下ES)の向上」である。

企業というのは少しずつでもいいから絶えず

成長をし続けなければ倒れてしまうし、ES

が上がらないと会社に対する従業員の忠誠心

も上がらない。ESについては、当社にはも

のづくりの企業と違い、製造設備がある訳で

もなく、開発を手がける“人”しかいないか

らなおさらである。ESが良くないとCSも良

くならないし、企業活動の円滑化も図れない

と考える。

具体的な活動として、当社では平成21年の

4月から半年毎に同じ質問を使ってESの調査

を行っており、「満足度や負担感に影響を与

える要因(職場要因・会社要因)」について

中身の分析を行い、満足度が低い項目につい

ては個別に施策を打っている。

例えば職場要因で、前回「仕事の納期が守

られている」や「部門間の連携はうまくいっ

ている」といった項目が良くなかったため、

改善運動を立上げて対策を打ったところ、直

近の調査ではそれぞれ改善することが出来

た。また会社要因で、福利厚生の部分が最初

の調査では非常に低かったため、年間の総労

※4 ビジョン:「将来こうなりたい」という会社(従業員をはじめ全てのステークホルダーにとって)の目標ミッション:ビジョンに向かって会社や従業員一人ひとりが担う「使命」

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●ES(従業員満足)の向上なしにはCS(顧客満足)の向上も企業活動の円滑化もない

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るために「OJT」「Off-JT」「S-up」※5で能力向

上を進めている。「S-up」とは社内の自主的

な勉強会のことであり、就業時間後に社内の

食堂などで「新製品の新しい機能」や「エク

セル・ワード・パワーポイントの使い方」等

毎回テーマを決めて行っている。

「Off-JT」は教育計画の下に行っており、特に

入社してから4~5年の従業員に対して重点的

に厳しく行っている。具体的には、3年計画で

「ハートランドカレッジ」という教育計画を組

んでおり、毎月1回集まってビジネススキルや

専門技術といった内容の勉強会を行っている。

受講生は毎回講義内容についてレポートの

提出や講義内容に関する具体的行動まで求め

られ、いわば大学の単位取得の仕組みと同様

働時間を見直し、完全週休2日にする等年間

の休日をかなり増やしたり、有給休暇を取り

やすくした(計画的に取らせるようにした)

結果、福利厚生に対する満足度がかなり良く

なった。直近の調査では「職場を通じて、自

分の将来像が描ける」といった項目が低かっ

たので、対策を打っているところである。

従業員教育で工夫されている点があるとお聞

きしました

宮内 先ほども言ったとおり、当社は“人が

すべて”であり、個々人のレベルアップを図

5

ES調査 質問内容(例)

※5 S-up:当社内の造語であり、社内の自主的な勉強会を指す。Sは Skill(スキル)、Self motivation(自発性)、Study(勉強・研究)Software(ソフトウェア)、Scale(仕掛け)、Step(ステップ)の頭文字をとっている。

●「ハートランドカレッジ」~入社後4~5年目までの従業員の重点的教育計画~

3ヵ年教育計画一覧

卒業・修了認定の仕組み

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ある。次の世代が台頭してこなければ継続的

な成長はないと思っており、そのようになる

よういろいろと仕掛けているのが“次の一手”

である。

当社では「半年にひとつの新製品を出し続

ける」といった会社の方針があるが、これに

は「ハートランドはいつも新しいことをやっ

ている」「活きのいい会社」「何が自社の価値

なのか追求している会社」「常にチャレンジ

している」というようなムードを社内外に作

る目的もある。「半年にひとつの新製品を出

し続ける」ために、私は年度計画の進捗状況

を毎月しつこくフォローするようにしてお

り、例えば毎月の経営会議の場においては、

「来月、新製品開発チームでは新製品のプレ

ゼンを行う計画になっていますが…」といっ

たように、計画した事については容赦なくや

らせるように追い込んでいる(笑)。

技術は“世界的な大発明”よりも世の中に

受け入れられる“ちょっと進んだ技術”をい

ち早くやることだと思う。他社よりも先んず

ることが価値を生むのである。当社が生き残

るためにも“ちょっと進んだ技術”を数多く

生み出せるような風土、従業員を育てていき

たい。

のものである。講師は従業員が勤めることか

ら、講師役となった者も事前準備で勉強をし

なくてはならず、講師役の従業員のレベル

アップにも繋がっている。

「E2」(入社後5年位までの従業員の等級)

はステージ1からステージ3まであり、ステー

ジ1からステージ2、ステージ2からステージ3

へは「ハートランドカレッジ」での年間計画

の単位を取得し、修了認定を得られないと進

めない。更に、「E2」の次の等級である「E1」

へは卒業論文をパスしないと上がれない仕組

みとしている。

また、これから仕掛けようとしているのが

「OJTの診断書と計画書」である。これは

“上の者は部下を育てることが最優先の仕事”

ということを再確認してもらい、一人ひとり

部下を診断し、1年間でやり切る課題を決め

て、それを4半期毎の計画書に落とし込んで

フォローしていくという制度であり、来年か

らの導入を考えている。

次の一手は

宮内 当社は今まで良くも悪くも、一部の幹

部社員が開発などをリードしてきたところが

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●“世界的な大発明”よりも世の中に受け入れられる“ちょっと進んだ技術”

本社社屋

聞き手:あしぎん総合研究所 社長 豊田晃

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ハートランド・データ株式会社代表取締役 宮内 照雄

住 所/栃木県足利市福居町361電 話/0284-22-8791設 立/昭和57年1月資本金/3,200万円年 商/3億8千万円(22年3月期)従業員/41名事業内容/ソリューションの開発とライセンス販売、ミドルウェアの開発とライセンス販売

DVD/CD-ROM解析ソフトの開発と販売、開発支援ツールの開発と販売

組込みソフトウェア受託開発、テストパッケージ開発用アプリケーション開発

テスト効率向上サービス、LSIテストパッケージ受託開発

平成20年9月から“保険・医療・福祉をコンピュータでサポートする”「株式会社ワイズマン」の

グループ企業となり、より幅広い分野での活動を展開する。

お客様から価値を認めて頂く商品を提供する

7

お忙しい中、取材にご協力いただきありがとうございました。宮内社長の

従業員を大事にする気持ち、育てようとする気持ちが当社の活性化に寄与し、

ひいては新商品開発およびお客様への提案力の強化につながっているものと

考えます。

これからも“足利発の元気な企業”としてますます発展・活躍されること

を祈念いたします。

ハートランド・データ様が提供するソリューションは、一言で言えば「機械に魂を吹き込み、人の感

性に近づける」ものです。それは商品の表面には見えないものですが、メカニカルでは制御できない複

雑な動きや、より人間の感性に近いコントロールを実現することで、カーオーディオなどの各種デジタ

ル機器や電気製品の商品力を向上させるための、まさに心臓部(=ハート)とも言えるものではないで

しょうか。

そして、こうした「Jenniferシリーズ」や「Netro2」、「DT10」に代表されるトップレベルの独創的な

技術を開発し続けられるのも、当社の数々のユニークな従業員教育制度に育まれた“人財”があってこ

そなのだと、取材を通じて強く感じました。

「ハートランドカレッジ」をはじめとした、当社ならではの工夫を凝らした様々な人材育成制度やES

向上活動などは、まさに「当社は人が全て」との宮内社長の強いお言葉のもと、全社をあげて実践され

ているものです。

“世界的な大発明”よりも世の中に受け入れられる“ちょっと進んだ技術”をいち早く生み出し続け

るべく、今日もハートランドカレッジは開講中です。

「若々しく発展・成長をし続けたい」「チャレンジ精神

を持ち続けたい」「社員同士の絆を大切にしたい」と

いう思いを込め、地中で繋がりながらグングン成長す

るタケノコをモチーフにデザインされている。

また、マークの中心部分が「人」という文字になって

おり、人を大切にする企業文化を表現している。