CORE - ハーバーマス・ロールズ論争の出発 : 合意論の 可能性ハーバーマス・ロールズ論争の出発 : 合意論の 可能性 著者 五十嵐 沙千子
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卒 業 論 文
核力ポテンシャルの一般化分離展開法
総合システム工学科
11111021 菅沢早帆
指導教員: 鎌田裕之
平成 27 年 2 月 5 日
目 次
第 1章 序論 2
1.1 研究課題の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
1.2 論文の流れ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
第 2章 シュレディ ンガー方程式とリ ッ プマン・ シュウィ ンガー方程式 5
2.1 座標表示におけるシュレディ ンガー方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
2.2 運動量表示におけるシュレディ ンガー方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
2.3 リ ップマン・ シュウィ ンガー方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
2.3.1 束縛状態 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8
2.3.2 散乱状態 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
2.4 リ ップマン・ シュウィ ンガー方程式の解法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
2.4.1 現実的ポテンシャルを用いた LS方程式の解法 . . . . . . . . . . . . 10
2.4.2 解の収束性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
2.4.3 λが負でλ2 > 1になる場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
2.4.4 アルゴリ ズム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
第 3章 分離展開法 18
3.1 分離型ポテンシャルによる LS方程式の解法 . . . . . . . . . . . . . . . . . 18
3.2 一般化分離展開法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
3.3 分離度の評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
第 4章 計算結果 24
4.1 核力ポテンシャル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
4.2 現実的核力 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
4.3 重陽子の波動関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26
4.4 分離型ポテンシャルの評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29
4.4.1 rank1の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34
4.4.2 rank2の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34
4.4.3 波動関数と分離度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42
第 5章 結論および今後の展開 49
付録A (2.52)式の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50
付録Bガウスの掃き出し法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 50
1
概 要
核力ポテンシャルは、 一般的に分離型という形式で与えられていない。 分離型に変形することによって、 少数多体系の分離型ポテンシャルを作製する。 行列の階数は積分点の数より も格段に少なく なるため、 容易に解く ことができる。 本研究の目的は、 一般化分離展開法 (GSE: Generalized Separable Expansion)を用いて、 その展開法が階数 (rank)のとり方によってどのく らい精度が高い計算ができるかを評価することである。 現実的核力モデルとしてボン( Bonn) グループの開発したポテンシャルを採用した。 重陽子の波動関数の量子数は、 3S1 − 3D1の部分波を持っており 、 S波 (l = 0)と D波 (l = 2)の混成軌道にある。 分離型ポテンシャルを分離度によって評価を行った。 その結果、 rank1、 rank2についてそれぞれ 17.3%、 42.0% となり 、 また、 波動関数も rankが高く なるにつれてその精度 (内積の 2乗)が 96.7% から 99.0% へと向上することが理解できた。
第1章 序論
原子核は 1fm = 10−15mと言う大きさで、 原子分子のそれより も6 桁も小さな宇宙に存在している。 今日のエレクト ロニクスではコンピューターの素子や発光ダイオード ( 2014
年のノ ーベル物理学賞が日本人 3名に与えられた事は耳に新しい) といった物質科学の基盤となったものも量子力学である。 その量子力学の創成期にはアインシュタイン、 ボーア、 ディ ラック、 ファインマンなど多く の天才達による試行錯誤があった。 その舞台は原子核と電子にあった。九州の物理学者長岡半太郎が世界で初めて原子核はプラスの電荷を持ち、 その周辺をマイナスの電気をもつ電子が周回するモデル( 土星モデルと呼ばれた) を提案した事はあまり 知られていない。 後にラザフォード 等が実験によってこの事実を示したことから 、 今日では土星モデルではなく ラザフォード モデルとして知られている。アジアで初めてノ ーベル賞を受賞した湯川秀樹博士は原子核は複数個の粒子( 後に陽子や中性子と呼ばれる) からなるが同じ符号の電気をもつ粒子間には斥力のクーロン力が働く ために原子核は安定に束縛状態を保てずバラバラに崩壊してしまわなければならないと言ったパラド ックスに挑み、 今日では中間子論と言われる理論によってそれを解決した。その中間子論によれば、 陽子や中性子の間に働く 力は、 重力でも電磁気力でもない新しい力を予言するものであった。 さらにその力は中間子という新しい素粒子によって生まれるという メカニズムも画期的なものであった。 当時は、 この世は光、 電子、 原子核のみでできており 、 力も重力と電磁気力のみであると考えられていた時代である。現代物理学では、 湯川の発見した力を「 強い相互作用」 と呼ばれる核力に分類されている。 その後、「 弱い相互作用」 も発見され重力、 電磁気力を合わせて 4つの基本的な力があることが知られている。 原子核を安定させる力は強い相互作用の方で、 その力の形も最初に湯川によって与えられた。 しかしながら現代においてもその核力の正確な形は確定していない。 量子力学を発展させた材料となった原子核物理学は、 更に素粒子論や現代宇宙論への展開を産み、 発展させた。 原子核を構成する陽子や中性子( 総じて核子と呼ぶ)は、 クォークとよばれるもので構成され、 2008年のノ ーベル賞で有名な小林・ 益川理論によれば、 クォークの種類は6 つあり 、 クォークの組み合わせによって数百の素粒子が予言され、 発見された。 また、 量子力学と一般相対性理論から導かれる現代宇宙論においては、 宇宙の年齢は 137億年という結果を導きだしたり 、 ブラックホールや宇宙の大きさについて議論ができるようになった。 一方、 先に述べた物質科学の発展は目覚しく 、 発光ダイオード のみならず、 iPhoneなどハイテクな電子機器は、 高度な情報社会のツールとして、 人類には欠かせない物になっている。 こういった、 高度な科学技術を提供したものは、 量子力学、 ひいては原子核物理学であったが、 現代においては、 この分野を研究する
2
物理学者人口は最も少ない状況にある。 原子核物理学があまり顧みられない理由は、 社会的な要因としては放射能や原発事故といった危険を伴うネガティヴなものにあるのかもしれないが、 他分野に類を見ない困難があるからである。 実験的な困難は明らかである。 ナノ テクと呼ばれる最新の技術は原子分子のスケールに留まり 、 その大きさから更に6 桁も小さな世界なのでコント ロールが容易ではない。原子核の問題は、 有限多体問題と呼ばれる。 ニュート ン力学の有限多体問題の代表的なものして、 3体問題がある。 一般に 3体問題以上になると解析的に解けないことは、 19世紀末にフランスの数学者アンリ ・ ポアンカレによって証明された。 原子核は、 量子力学で解く 最大二百数体の核子からなる有限多体問題であり 、 数値計算による方法でも、 完全に解ける系はスーパーコンピュータを用いても 4核子系止まり である [1]。このように近似なしで数個の核子から成る有限多体系を研究対象とする分野に、 少数多体系原子核物理学がある。少数多体系の問題は、 粒子数Nが増加するにしたがって 3Nの次元の関数を扱う ことになる。 Faddeev-Yakubovskyの散乱理論 [2]によれば、 第 2章の散乱状態のところで述べたよう に境界条件が加わり複雑化し、 粒子のチャンネルの数Cも必要になる。 すなわち、C = 1
2NN !(N − 1)!であるため、 それは解く べき方程式の数に等しく 3体で 3個、 4体で
は 18個となるが、 5体問題では 180個に膨らむ。 問題を有効に解く ためには、 いかに自由度を減少させるかが鍵である。 本研究では 2体問題の範囲であるため、 粒子のチャンネルの問題とは直接関連を持たないが、 間接的に多体問題を扱うための基礎的な課題として 2
体系のレベルで自由度を減らすことは極めて重要になる。
1.1 研究課題の目的核子間ポテンシャルはテンソル力等を含むため、 一般に複雑である。 原子核のような少数多体問題を扱うためには、 その基本単位である 2体力( 核力) を精度を保ちながら簡単化 (粗視化)することが必要になる。 その技術の一つに分離展開法がある。 分離展開法には数種類あるが、 本研究では一般化分離展開法 (GSE:Generalized Separable Expansion)[3]
を採用する。 陽子と中性子の束縛状態である重陽子 (2H)状態について、 作成した分離型ポテンシャルの精度を調査する。
1.2 論文の流れ第 2章で量子力学を解く ため、 リ ップマン・ シュウィ ンガー方程式を導入する。 これはシュレディ ンガー方程式と等価な積分方程式であるが、 散乱問題を扱う上で境界条件を直接加えて解く ことができる利点がある。第 3章は本研究の中心的な部分である。 分離展開法によって、 第 2章で扱った積分方程式を行列方程式に書き直すことによって解けることを示す。 次に分離展開法ついて一般化分離展開法 (GSE)[3] を採用し 、 その方法によって一般のポテンシャルがどのよう に展開されるかを解説する。 分離段階の展開の精度を評価するための関数( 評価関数) を定義す
3
る。 これは次章で具体的に分離展開されたポテンシャルが元のポテンシャルからどの程度の精度で近似できたかを評価するためのツールになる。第4 章では、 核力のモデルとして最も用いられている現実的ポテンシャルの 1つにボン
(Bonn)ポテンシャル [4]を用いて、 数値計算を行う 。 具体的にそのポテンシャルを選び、重陽子について計算結果を示す。 波動関数や結合エネルギーを求める。 分離型ポテンシャルを作成しそれによって得られた波動関数や結合エネルギーを元のそれらと比較することによって評価する。 さらに評価関数を用いて分離の程度を定量化する。結論および今後の発展課題は第 5章にまとめる。
4
第2章 シュレディ ンガー方程式とリ ッ プマン・ シュウィ ンガー方程式
ここでは量子力学を解く ための基本となるシュレディ ンガー方程式から出発する。 シュレディ ンガー方程式は座標表示では微分方程式として与えられる。 量子力学を表現する方法には、 座標表示のほかに運動量表示という ものがある。 まずシュレディ ンガー方程式を運動量表示にする。 運動量表示にすることの利点は散乱状態を記述するために用いられる散乱行列を直接計算することができることにある。 さらにシュレディ ンガー方程式はリ ップマンシュウィ ンガー方程式 [5]に書き換えることによって散乱の境界条件をその積分方程式に与えることができる。 この方程式から得られた散乱行列を用いて原子核の散乱実験で測定される微分断面積を求めることができる。余談であるが、 シュウィ ンガーは、 日本の朝永振一郎とともに 1965年にノ ーベル賞を受けている。
2.1 座標表示におけるシュレディ ンガー方程式時間に依存しないシュレディ ンガー方程式はディ ラッ クのブラケッ ト 表記を用いると
H|ψ >= E|φ > (2.1)
と表記される。 このときの H は考えている系に対するエネルギーを量子化した演算子ハミ ルト ニアンであり 、
H = H0 + V (2.2)
と表される。 V はポテンシャルを表し 、 H0は運動エネルギーを表す。 座標表示では、 通常の場合、 ポテンシャル演算子は局所的なのでディ ラッ クのデルタ関数δを用いて
< x|V |x′ >= V (x)δ (x− x′) (2.3)
と表される。 また H0は固有値としてp2
2mとかけるよう な運動量 pの関数であるため、 座
標表示では微分演算子になる。 平面はを < x|p >= eipx
h と表記すれば、 固有値方程式
H0 < x|p >= p2
2m< x|p > (2.4)
5
をみたす演算子は明らかに
H0 = − h2
2m
d2
dx2(2.5)
となる。 従って、 H の行列要素は
< x|H|x′ >=< x|H0|x′ > + < x|V |x′ >= H0 + V (x)δ (x− x′) (2.6)
となる。 更に恒等演算子 1 = |x >∫
dx′ < x| を用いて
< x|H|x′ >=< x|H∫
|x′ > dx′ < x′|ψ >
=
∫
< x|H|x′ >ψ (x′)dx′
= H(x)ψ (x)
= H0ψ (x) + V (x)ψ (x)
= − h2
2m
d2
2x2ψ (x) + V (x)ψ (x) (2.7)
が得られる。 よって座標表示では
− h2
2m
d2
2x2ψ (x) + V (x)ψ (x) = Eψ (x) (2.8)
のように書けるシュレディンガー方程式が得られる。 また、 この式を三次元に拡張すると、
− h2
2m▽2ψ (~r) + V (~r)ψ (~r) = Eψ (~r) (2.9)
になる。 ここで▽2はラプラシアンと呼ばれ、 ▽2 =∂2
∂x2+
∂2
∂y2+
∂2
∂z2である。
2.2 運動量表示におけるシュレディ ンガー方程式ディ ラックのブラケット 表記を用いると運動量表示のシュレディ ンガー方程式は pを任意の運動量として
< p|H|ψ >= E < p|ψ >
< p|H0 + V |ψ >= E < p|ψ > (2.10)
とかかれる。 h = 1の単位系を採用し 、 まず運動エネルギー演算子H0の運動量表示の行列要素を計算すると
< p|H0|ψ >=< p|H0
∫
|p′ > dp′ < p′|ψ >
6
=
∫
< p|H0|p′ > ψ(p′)dp′
=
∫
< p| p2
2m|p′ > ψ(p′)dp′
=
∫
p2
2m< p|p′ > ψ(p′)dp′
=
∫
p2
2mδ (p− p′)ψ(p′)dp′
=p2
2mψ(p′) (2.11)
が得られる。 次にポテンシャル演算子に関する項を計算すると 、
< p|V |ψ >=< p|V∫
|p′ > dp′ < p′|ψ >
= dp′ < p|∫
|x > dx < x|V∫
|x′ > dx′ < x′|p′ >< p′|ψ >
=
∫ ∫ ∫
dxdx′dp′1
√
2πe−ipxV (x)δ (x− x′)
1√
2πeip
′x′
ψ(p′)
=
∫ ∫
1
2πei(p
′−p)xV (x)ψ(k′)dxdp′
=
∫
1
2πV (p− p′)ψ(p′)dp′ (2.12)
となり 、 積分型で表される。 ただし 、 ポテンシャルの運動量表示は、
V (p− p′)≡∫
ei(p′−p)xV (x)dx (2.13)
のよう にフーリ エ変換されたものである。 よって、
p2
2mψ(p) +
1
2π
∫
V (p− p′)ψ(p′)dp′ = Eψ(p) (2.14)
と与えられる。 これが、 運動量表示におけるシュレディ ンガー方程式である。 三次元表現を与えるためには球座標を用いる。 体積素は
d~p = dpxdpydpz = p2dp sinθ dθ dφ (2.15)
になるで、 一次元のシュレディ ンガー方程式 (2.14)は
p2
2mψ(~p) +
1
(2π)3
∫ ∫ ∫
V (~p− ~p′)ψ(~p)p2dpsinθ dθ dφ = Eψ(~p) (2.16)
と三次元の式に書き直すことができる。 ψの”-”は以下断らない限り 省略する。 さらに次のよう に部分波展開を行う と 、
ψ(~p) =
∞∑
l=0
(2l + 1)Pl(cosθ)ψl(p),
7
ψ(p) =1
2
∫ 1
−1
ψ(~p)Pl(cosθ)dcosθ
=1
2
∫ 1
−1
∞∑
l′=0
(2l′ + 1)Pl′(cosθ)ψl′(p)Pl(cosθ)d(cosθ)
=1
2
∞∑
l′=0
(2l′ + 1)ψl′(p)
∫ 1
−1
Pl′(x)Pl(x)dx
=1
2
∞∑
l′=0
(2l′ + 1)ψl′(p)2
2l + 1δll′
= ψl(p) (2.17)
を得る。 ここでの xは cosθである。 また、 ポテンシャルも同様に
V (~p, ~p′) =∑
l
(2l + 1)Pl(cosθpp′)Vl(p, p′) (2.18)
のよう に部分波展開すると 、∫ ∫ ∫
V (~p, ~p′)ψ(~p′)d′2dp′dcosθ dφ
=
∫ ∫ ∫
∑
l
(2l + 1)Pl(cosθpp′)Vl(p, p′)∑
l
(2l′ + 1)Pl′(cosθp′)ψl′(p′)p′2dp′dcosθp′dφp′
=
∫ ∫ ∫
∑
lm
4πY ∗lmYlmVl(p, p
′)∑
l′
(2l′ + 1)Pl′(cosθp′)ψl′(p′)p′2dp′dcosθp′dφp′
=
∫
∑
lm
4πY ∗lmVl(p, p
′)∑
l′
√4π
√2l′ + 1δll′δm′0ψl′(p
′)p′2dp′
=∑
l
(4π)3
2
√2l + 1Y ∗
l0
∫ ∞
0
Vl(p, p′)ψl(p
′)p′2dp′
=∑
l
4π(2l + 1)Pl(cosθp′)
∫ ∞
0
Vl(p, p′)ψl(p
′)p′2dp′ (2.19)
となるから 、
p2
2mψl +
4π
(2π)3
∫ ∞
0
Vl(p, p′)ψl(p
′)p′2dp′ = Eψl(p) (2.20)
を得る。
2.3 リ ッ プマン・ シュウィ ンガー方程式
2.3.1 束縛状態
束縛状態についてのリ ップマン・ シュウィンガー方程式を導こう 。 前節で得られた (2.20)
式を用いて、 式変形を行えば、
(E − p2
2m)ψl(p) =
1
2π2
∫ ∞
0
Vl(p, p′)ψl(p
′)p′2 (2.21)
8
のよう になり 、 さらに変形すると 、
ψl(p) =1
E − p2
2m
1
2π2
∫ ∞
0
Vl(p, p′)ψl(p
′)p′2dp′ (2.22)
となり 、 これが束縛状態 (E < 0)のときのリ ップマン・ シュウインガー方程式 (LS方程式)
である。 ここで G0 ≡1
E − p2
2m
を 、 グリ ーン関数とよぶ。 この様に、 束縛状態についての
LS方程式は、 シュレディ ンガー方程式と全く 内容が同じであることが理解できる。 Eは負だから 、 グリ ーン関数はどんな運動量 (0≦ p≦∞)に対しても発散をしないことは明らかである。 次節で扱う散乱状態について考えると 、 グリ ーン関数は p = p0≡
√2mEの点
で発散するため、 このままではよく ないことが分かる。
2.3.2 散乱状態
エネルギー Eが正の散乱状態 ψ(~p) =< ~p|ψ >は、
|ψ >= δ(~p− ~p0)+ < ~p|G0V |ψ >=< ~p|~p0 > + < ~p|G0V |ψ > (2.23)
で与えられる。 この式で < ~p|を省いて表せば
|ψ >= |~p0 > +G0V |ψ > (2.24)
となり 、 更に左から V をかけて < ~p′|ではさむと
< ~p′|V |ψ >=< ~p′|V |~p0 > + < ~p′|V G0V |ψ > (2.25)
を得る。 ここで恒等演算子 1 = 1(2π)3
∫
|~p′′ > d~p′′ < ~p′′| = 1
(2π)3
∫
| ~p′′′ > d ~p′′′ < ~p′′′|を用いれば、
T (~p′, ~p0)≡ < ~p′|V |ψ >= V (~p′, ~p0)+ < ~p′|V |p′′ >∫
d~p′′ < ~p′′|G0|~p′′′ > d~p′′′ < ~p′′′|V ψ >
= V (~p′, ~p0) +1
(2π)3
∫
V (~p′, ~p′′)1
E − p′′2
2m+ iǫ
T (~p′′, ~p0)d~p′′ = T (~p′, ~p0) (2.26)
を得る。 これは、 散乱状態のリ ップマン・ シュウィンガー方程式である。 T を散乱行列と呼ぶ。 グリ ーン関数はG0 ≡ 1
E− p2
2m+iǫ
1(2π)3
< p|G0|p >である。 前節で問題提起したグリ ーン関数の発散の問題は次の様に解決される。 すなわち、 (2.26)式に現れるグリ ーン関数の発散は無限小の ǫを与えることによって積分は主値の部分と留数の部分に分解できる。( コーシーの積分定理) このことによって積分値は有限( 可積分) になり 、 散乱行列は発散を起こさない。 ただし 、 ǫを正にするか負にするかによって散乱行列は変化する。 この選択は物理的な考察が必要になるが、 散乱理論 [12]から ǫは正にすることが正しい( 自然を正確に記述できる意味) ことが知られている。 この選択は境界条件の一つとして重要であり 、散乱問題はシュレディ ンガー方程式を解く だけでは問題が解けないことを示唆している。
9
また、 この方程式を部分波で表現すると 、
T (~p′, ~p0) =∑
l
(2l + 1)Pl(cosθ~p′, ~p0)Tl(p
′, p0),
V (~p′, ~p0) =∑
l
(2l + 1)Pl(cosθ~p′, ~p0)Vl(p
′, p0),
Tl(p′, p0) = Vl(p
′, p0) +1
2π2
∫ ∞
0
Vl(p′, p′′)
1
E − p′′2
2m+ iǫ
Tl(p′′, p0)p
′′2dp′′ (2.27)
を得る。 これらが、 部分波の LS方程式である。 この方程式から得られた散乱行列を用いて、 原子核の散乱実験で測定される微分断面積σを求めることができることを示せるが、ここでは割愛する [6]。
2.4 リ ッ プマン・ シュウィ ンガー方程式の解法
2.4.1 現実的ポテンシャルを用いた LS方程式の解法
( 2.22) 式で与えられたよう に束縛状態のリ ップマンシュウィ ンガー方程式は
ψ(p) =1
Eb − p2
m
1
2π2
∫ ∞
0
V (p, p′)ψ(p′)p′2dp (2.28)
で与えられる。 積分点を Gauss-Legendreの方法で与える。 運動量 pは、 n個の
p→ {pi}i=1,...,n (2.29)
積分点のセッ ト となり 、 それぞれの積分点に対する波動関数やポテンシャルは、
ψ(p)→ {ψ(pi) = ψi}i=1,...,n, V (p, p′)→ {V (pi, pj = Vij}i=1,...,n,j=1,...,n (2.30)
のよう に分割される。 LS方程式は( 2.22) は、
ψi =1
Eb − p2im
1
2π2
n∑
j
Vijψjp2jωj (2.31)
ここで ωj はGauss-Legendre積分の重みを表す。 (2.31)式はさらに、
ψi =n∑
j=1
Kijψj (2.32)
と書き直すと 、 これは固有値方程式になっている。 ここで Kij は
Kij =1
Eb − p2im
1
2π2Vijp
2jωj (2.33)
10
である。 この行列方程式は、 Gauss-Seidel法によって解く ことができる。 まず、 例えば
ψ(0)j = 1 (2.34)
のよう に ψi を 0以外の値にセッ ト する。 これを最初として、
ψ(n+1)i =
∑
j
Kijψ(n)j (2.35)
のよう に繰り 返すことによって、
limx→∞
ψ(n)i = ψi (2.36)
のよう に解を得る。
2.4.2 解の収束性
Gauss-Seidel法によって、( 2.35) 式を繰り 返すだけで、 解が求まると書いた。 これは結合エネルギー Ebが求まっている場合の話で、 実際には Ebは与えられるものではなく 、逆に解く ものである。 したがって、 任意の Eについては、 (2.32)式は、
∑
j
Kijφj =λφi (2.37)
の固有値方程式に書き換えることになる。 その固有値λm とその固有ベクト ルφ(m)i に
よって行列Kは
Kij =∑
m
φ(m)j λmφ
(m)j (2.38)
のよう に表せる。 行列Kに右から φ(l)j をかけると
∑
j
Kijφ(l)j =
∑
j
(∑
m
φ(m)i λmφ
(m)j )φ(l)
j
=∑
m
φ(m)i λm
∑
j
φ(m)j φ
(l)j
=∑
m
φ(m)i λmδml =λlφ
(l)i (2.39)
となる。 ここで φ(l)l は規格化の条件
∑
i
φ(m)i φ
(l)i =δlm (2.40)
を用いた。 (2.34)式の ψ(0)はこれらの基底φ(l)で展開でき、 Cl を展開係数として
ψ(0)i =
∑
l
Clφ(l)i (2.41)
11
とかく と 、 それを (2.35)式 (n = 0)に代入すれば、
ψ(1)i =
∑
j
Kijψ(0)j
=∑
j
Kij(∑
l
Clφ(l)j )
=∑
j
(∑
m
φ(m)i λmφ
(l)j )∑
l
Clφ(l)j
=∑
m
φ(m)i λm
∑
l
Cl
∑
j
φ(m)j φ
(l)j
=∑
m
φ(m)i λm
∑
j
Clδml
=∑
m
φ(m)i Cmλm (2.42)
となる。 n=1の場合も同様に、
ψ(2)i =
∑
m
φ(m)i Cmλ2
m =∑
m
φ(m)i C(2)
m (2.43)
を得られ、 一般的に、
ψ(n)i =
∑
m
φ(m)i Cmλn
m =∑
m
φ(m)i C(n)
m (2.44)
を得る。 ここで、 ψ(n)i を規格化すれば、
ψj(n)≡
ψ(n)i
||ψ(n)|| , (2.45)
||ψ(n)|| =√
∑
i
{
ψ(n)i
}2
=
√
∑
m
C2mλ
2nm (2.46)
を得る。 この ψi(n) を (2.34)式で ψ
(0)i に仮定したよう に、 ψ
(0)i に ψi
(n) を代入すれば、
ψ(0)i ←ψi
(n)=∑
m
φ(m)i Cm
λnm
√
∑
l Cl2λ2n
l
(2.47)
(2.41)式の新しい Cmは
CNewm ≡Cm
λnm
√∑
l C2lλ
2nl
(2.48)
のよう に再定義できる。 (2.34)式を繰り 返し 、 さらに (2.44)式は、
ψ(n)Newi =
∑
m
CNew2
m φm, (2.49)
12
C(New)2
m ≡CNewm
λnm
√∑
l(CNewl λn
l )2
(2.50)
という さらに新しい係数を定義できる。 これらを一般化すると 、
C(New)k+1
m ≡C(New)k
m
λnm
√
∑
l(C(New)k
l λnl )
2
(2.51)
と書く ことができ、
limk→∞
C(New)k
m =
{
1 ・・・ λ2mが最大値になる場合
0 ・・・ その他の場合(2.52)
が示せる。 (付録A を参照) すなわち、 以上の繰り返しを行う ことによって、 固有値がλ2mが最大になる mに対応する固有ベクト ルが求まっていく 。
limk→∞
ψ(New)k
i =φ(m)i , (2.53)
∵max{λ2i } =λ2
m. (2.54)
解く べき問題は、 (2.31)式の LS方程式
λψi =∑
j
Kijψj (2.55)
の固有値λが1 になる場合に対応し 、 かつ、 それが最大の固有値になる場合に限り 物理的な固有ベクト ル (波動関数)が求まることになる。 (2.35)式からλは
λ =ψ
(n+1)i
ψ(n)i
(2.56)
によって求まる。 これは (2.33)式のKij の中にあるエネルギー Eの関数である。
λ =λ (E). (2.57)
E = Ebで束縛するとき、
λ (Eb) = 1 (2.58)
を満たすことが分かる。 図 2.1に Eとλの関係をイメージした。 Kijの中のグリ ーン関数G0のところで、
1
E − p2im
= G0(E) < 0 (2.59)
は Eについて単調減少関数であるから 、 λ (E)は正の値であるから 、 Eについて単調増加関数であることがわかる。 図 2.2に Eと G0の関係を
13
0
1
Eb
E
λ
図 2.1: Eとλの関係
0 E
G 0
p /m2
図 2.2: Eと G0の関係
14
2.4.3 λが負でλ2 > 1になる場合
Eが P 2i
mに近づく ほど、 λが正である場合にはλ2 を増加することができる。 ところが
λが負の値でλ2が最大値になる場合は、 ガウス・ ゼーデル法は物理的な状態に収束させることができない。 そのよう なλを λ(−) とすれば、
λ(−) < 0, |λ(−)| > 1 (2.60)
である。 (2.35)式のかわり に、
ψ(n+1)i =
1
1−λ(−)(∑
j
Kijψ(n)i −λ(−)ψ
(n)i )
=1
1−λ(−){(∑
m
φ(m)i λmφ
(m)j )
∑
l
C(n)l φ
(l)i −λ(−)
∑
m
C(n)m φ
(m)i }
=∑
m
λm −λ(−)
1−λ(−)C(n)
m φ(m)i (2.61)
によって繰り 返しの操作を行う 。
C(n+1)m = C(n)
m
λm −λ(−)
1−λ(−)= Cm(
λm −λ(−)
1−λ(−))n−1 (2.62)
の関係より 、
λNewm ≡
λm −λ(−)
1−λ(−)=λm + |λ(−)|1 + |λ(−)| (2.63)
のこ λNewがもっとも m番目の固有ベクト ルのみが繰り 返しの後に残っていく ことになる。 図 2.3に (2.63)式による λmと λNew
m のグラフを示した。 ここでλm = 1の物理の解については、 λNew
m = 1となり 、 最大になることが分かる。
2.4.4 アルゴリズム
以上のことから 、 (2.34)式で初期値を与えたあと 、 (2.35)式の繰り返しを行う 。 絶対値が最大の固有値λmは (2.56)式によって求められる。 λmが負である場合はその値を λ(−)とする。 次に。 (2.35)式のかわり に (2.61)式を用いて繰り返しを行う 。 (2.56)式によって新しい固有値λNew
m が 1になるよう に行列Kijの中にあるグリ ーン関数のエネルギー E
を変えていく 。 以上のアルゴリ ズムをフローチャート にし 、 図 2.4に示した。
15
1
0 1−1λλ
λ
(−)
New
m
m
図 2.3: λm と λNewm の関係 λm = 1の時λNew
m も 1になる
16
����
����������
����
�������
�����
���
����
� ��������
������
� �� �
� �����
��
����
� ��������
������
������� �
�����
����� ����
��������� ����
�������
�� ��
��� ���
�������
� �� �
���
��������
����
� ����
!
��
���
��� ���
��
����
��
��
���
��� ���
図 2.4: フローチャート
17
第3章 分離展開法
2章で議論してきた LS方程式 (2.22)式に代入するポテンシャルが分離型で与えられる場合、 すなわち、
V sep(p, p′) =N∑
ij
gi(p)λijgi(p′) (3.1)
の形をしたポテンシャルを分離型ポテンシャルと言う 。 ここで gを形状因子、 λを結合定数と呼び、 Nをランクという 。 この章では、 分離型ポテンシャルの利点を調べる。 また、運動量表示で与えられた一般的なポテンシャルを用いて分離型ポテンシャルを作る方法を紹介し 、 そのポテンシャルの精度について議論をしていく 。
3.1 分離型ポテンシャルによる LS方程式の解法LS方程式 (2.22)に上式 (3.1)の分離型ポテンシャルを代入すれば、
ψ(p) =1
Eb − p2
m
1
2π2
∫ ∞
0
N∑
ij
gi(p)λijgi(p′)ψ(p′)p′2dp′
=1
Eb − p2
m
N∑
ij
gi(p)λijIj (3.2)
とかける。 Ij は次式で定義される。
Ij≡1
2π2
∫ ∞
0
gj(p)ψ(p)p2dp (3.3)
この (3.3)式に (3.2)式を代入すれば、
Ij≡1
2π2
∫ ∞
0
gj(p)[1
Eb − p2
m
N∑
kl
gk(p)λklIl]p2dp
=∑
kl
1
2π2
∫ ∞
0
gj(p)1
Eb − p2
m
gk(p)p2dpλklIl
=∑
kl
JjkλklIl
=∑
l
KjlIl (3.4)
18
ここで Jjk, Kjlは
Jjk≡∫ ∞
0
gj(p)1
Eb − p2
m
gk(p)p2dp,
Kjl≡N∑
k
Jjkλkl (3.5)
で与えられる。 (3.4)式は、
N∑
l
KjlIl = Ij (3.6)
とかけるので、 これは固有値が1 の固有値方程式になっている。 2節の (2.32)式と比較すれば、 表 3.1に示したよう に、 固有値、 固有ベクト ルがそれぞれ対応していることが分か
表 3.1: 積分法定式と行列方程式の規模の比較方程式 階数 固有値 固有ベクト ル 行列
(2.32)式 n≒ 200 1 ψi Kij
(3.6)式 N ≒ 2 1 Ij Kil
る。 分離型ポテンシャルを用いることによって、 大きな階数の行列Kを扱わなく て済み、このことにより 、 計算の記憶容量と計算時間を大幅に節約できる。
3.2 一般化分離展開法原子核物理学で用いられる代表的な核力間のポテンシャルは、 Reid Soft Core,ボン [4],
パリ ス ,ナイメーヘン ,アルゴンヌ等があげられる。 これらのポテンシャルは、 分離型で与えられていない。この節ではこれらのポテンシャルから分離型ポテンシャルを作成することを考える。 分離型ポテンシャルの作成方法はいく つか存在する。
• EST法 (Ernst-Shakin-Teylar法)[7]
• ワインバーグ法 (Weinberg法)[8]
• UIM(UnitaryInterpolation Method)[9]
• GSE(一般化分離展開法)[3]
本研究課題は、 この中の GSEについて調べ、 現実的ポテンシャルの分離展開を行う 。分離展開法は、 一意的な方法でないため、 一定の条件やモデルを導入しなければならない。 GSEの場合の条件は次のとおり である。 すなはち、 Batemanパラメータと呼ばれる
19
運動量 ki(i = 1, ..., N)を 0≦ ki <∞の範囲から定数として用意する。 もとのポテンシャルを V (p, p′)とし 、 分離型ポテンシャルを V sep(p, p′)とすると 、
V sep(p, kl) = V (p, kl), (3.7)
V sep(km, p′) = V (km, p
′) (3.8)
の条件を満たすことを要請する。 (3.7)式を (3.1)式と比較すれば、
N∑
ij
gi(p)λij(kl) = V (p, kl) (3.9)
となり 、 形状因子 gi(p)の pの依存性は V (p, kl)のみであることから 、
gi(p)≡ V (p, ki) (3.10)
を仮定してみよう 。
V sep(p, p′) =∑
ij
V (p, ki)λijV (kj, p′) (3.11)
p = kl, p′ = kmの時、
V sep(kl, km) =∑
ij
V (kl, ki)λijV (kj , km) = V (kl, km) (3.12)
であるから 、
λij = [V (ki, kj)]−1 (3.13)
であることが分かる。 これを一般化分離展開法 [3]という 。
3.3 分離度の評価ポテンシャルがどの程度分離展開ができているのかを評価することを考える。 基本的な考え方は、 もとのポテンシャルからの誤差Δ V を集積したものを計算することで評価することである。 即ち、 元のポテンシャルを V (p, p′)とし 、 分離展開後のポテンシャルをV sep(p, p′)とすれば、
Δ V (p, p′)≡ |V (p, p′)− V sep(p, p′)|, (3.14)
が誤差である。 この二乗を積分することにより 、 次の量 E
E =
∫∞
0
∫∞
0(∆V (p, p′)2p2dpp′2dp′
∫∞
0
∫∞
0(V (p, p′))2p2dpp′2dp′
(3.15)
20
を計算しよう 。 この Eは分離型ポテンシャルを特徴づけるベーテマン (Bateman)パラメータ kiの関数と見ることができる。
E = E(k1, k2, k3,・・・ , kn). (3.16)
この量が小さければ小さいほど、 分離展開がよく できていることになる。 この Eを評価関数と呼ぶことにする。Eの分母=
∫∞
0
∫∞
0V 2(p, p′)p2p′2dpdp′は、 湯川型ポテンシャルの場合( S波) を選ぶと 、
I =
∫ ∞
0
∫ ∞
0
(πV0
pp′µ)2 log2(
(p+ p′)2 + µ2
(p− p′)2 + µ2)p2p′2dpdp′
= (πV0
µ)2∫ ∞
0
∫ ∞
0
(log((p+ p′)2 + µ2
(p− p′) + µ2))2dpdp′ (3.17)
である。 ここで、
p+ p′ = u, p− p′ = v (3.18)
すなはち、
p =1
2(u+ v), p′ =
1
2(u− v) (3.19)
で変数変換を行えば、 Jacobian∂(p,p′)∂(u,v)
は
∂(p, p′)
∂(u, v)=
1
2(3.20)
となるので、
dpdp′ =∂(p, p′)
∂(u, v)dudv =
1
2dudv (3.21)
より 、∫ ∞
0
∫ ∞
0
dpdp′ =
∫ ∞
−∞
∫ ∞
−∞
dpdp′ =1
4
∫ ∞
−∞
∫ ∞
−∞
1
2dudv =
1
8
∫ ∞
−∞
∫ ∞
−∞
dudv (3.22)
を得る。 よって Iは
I = (π
µV0)
21
8
∫ ∞
−∞
∫ ∞
−∞
log2(u2 + µ2
v2 + µ2)dudv
= (π
µV0)
21
8
∫ ∞
−∞
∫ ∞
−∞
(log(u2 + µ2)− log(v2 + µ2))2dudv
= (π
µV0)
21
84
∫ ∞
0
∫ ∞
0
[log2(u2 + µ2)
−log2(v2 + µ2)− 2log(u2 + µ2)log(v2 + µ2)]dudv (3.23)
21
これは明らかに発散する。 したがって、 評価関数の分母が発散すれば Eは常に0 となり 、この Eは良い評価関数とはいえなく なる。 そこで次式によって評価関数を再定義する。
E≡
∫∞
0
∫∞
0(Δ V )2G2
0(p)∫∞
0
∫∞
0V 2(p, p′)G2
0(p)
p2dpp′2dp′
p2dpp′2dp′(3.24)
G0 はグリ ーン関数で、 G0 ≡ 1
Eb − p2
m
で与えられ、 Eb は重陽子の結合エネルギー( 約-
2MeV) を選ぶことにする。 この評価関数の分母が有限になることを示すことができる。束縛状態のリ ップマンシュウインガー方程式は、
ψ(p) =G0(p)
2π2
∫ ∞
0
V (p, p′)ψ(p′)p′2dp′ (3.25)
とかけることを思い出そう 。 この方程式の積分核 12π2G0(p)V (p, p′)についてのヒルベルト -
シュミ ッ ト ・ ノ ルムは次のよう に定義される。
NHS≡ || 1
2π2G0V ||2HS
=1
(2π2)2
∫ ∞
0
∫ ∞
0
G20(p)V (p, p′)2p2dpdp′2dp′ (3.26)
この積分は収束することが示せる。 具体的に S波の湯川型ポテンシャルの場合、
NHS =1
(2π2)2
∫ ∞
0
∫ ∞
0
(1
E − p2
m
)2(4π)2V 2
0
p2p′2log2
(p+ p′)2 + µ2
(p− p′)2 + µ2p2dpp′2dp′
=(π)2V 2
0
(2π2)2µ2
∫ ∞
0
∫ ∞
0
1
(p2 + k2)2log2
u2 + µ2
v2 + µ2dudv (3.27)
ここで k2 = −mEb を用いた。∫∞
01
( 14(u+v)2+k2)2
log2(u2 + µ2)duを考える。 ロピタルの定理
より 、 uが十分大きな所では、
1
(14(u+ v)2 + k2)2
log2(u2 + µ2)≒ (ddu
log(u2 + µ2)ddu(14(u+ v)2 + k2)
)2
= (
2uu2+µ2
12(u+ v)
)2
= (4u
(u+ v)(u2 + µ2))2 < (
4
(u+ v)u)2 (3.28)
となり 、∫ ∞
R
(4
(u+ v)u)2du =
16
u3{v(2R + v)
R(R + v)+ 2logR− 2(R + v)} (3.29)
を得る。 さらにこれを vで積分すると 、∫ ∞
R
∫ ∞
R
(4
(u+ v)u)2dudv = 16(
1− log2
R2) (3.30)
22
となり 、 発散しないことが示せた。 即ち、 NHS は有限の値になることが分かったので、(3.24)式は、 新しい評価関数として評価できる。分離展開が進むにつれて評価関数の値は一般に小さく なるので、 分離度 S を次の様に定義する。
S(k1, k2, ..., kn) = 1− E(k1, k2, ..., kn) (3.31)
すなわち、 分離展開が進めば、 分離度は増加する。
23
第4章 計算結果
この章では、 2章・ 3章で述べてきた理論をもとに具体的に数値計算を行う ことによって定量的に分離型ポテンシャルの有用性について調べていく 。
4.1 核力ポテンシャル原子核内の核力がどの様に記述されるかの問題は、 現代の物理学ではいまだに解明されていない謎である。 しかしながら湯川理論から導かれる核力は
V (r) = −V0e−µr
r(4.1)
という形で与えられた。 このポテンシャルを運動量表示すなわち、 フーリ エ変換すると 、
V (p) =−4πV0p2 + µ2
(4.2)
となる。 これは、 中間子のグリ ーン関数を表している。 中間子の質量は核力のそれと比べると小さい。 そのため、 中間子は相対論的に扱われる。相対性理論と量子力学を組み合わせると相対論的量子力学ができるが、 その成功例として有名なものにディ ラックによる場の量子論がある。 ディ ラックは電子を題材に扱い、アインシュタインの最も有名なエネルギーと質量の関係式を出発点にした。 cを高速度として、
E = m0c2 (4.3)
である。 この式は電子が静止している場合で、 運動している場合は、 pを運動量として、
E = mc2 =√
m20c
4 + p2c2 (4.4)
と書く ことができる。 m0は特に静止質量という 。 両辺の自乗を行う と 、
E2 = m20c
4 + p2c2 (4.5)
を得る。 この関数をそのまま量子力学に移行させると 、
(m20c
4 + p2c2)|ψ >= E2|ψ > (4.6)
24
座標表示で表すと 、
(m20c
4 − h2c2d2
dx2)ψ(x) = E2ψ(x) (4.7)
になる。 これをクライン・ ゴルド ン方程式という 。 古典力学を量子力学へ適応したシュレディ ンガー方程式に対応する方程式である。 (4.6)式を変形すれば、
|ψ >= E2
m20c
4 + p2c2|ψ >= 1
m20c
2 + p2E2
c2|ψ > (4.8)
となるが、 これは2 章で紹介したリ ップマン・ シュウィ ンガー方程式に相当する。 すなわち、 クライン・ ゴルド ン方程式から求まる LS方程式は、 グリ ーン関数
G0(p) =1
m20c
2 + p2(4.9)
が現れる。このことから 、 湯川は以上のことを電子ではなく 中間子にあてはめ、 質量m0の中間子が核力に関わり 、 中間子を核子から放出したり 、 吸収することによって力を作っていると考えた( 湯川理論)。 この考え方にノ ーベル賞が与えられた。 (4.4)式と比較すると 、 µは質量に対応していて、 核力の到達距離が 1fmであることから
µ = 1fm−1,
m0≒ 197.32MeV (4.10)
を得る。 湯川は中間子の質量を約 200MeV と予言した。 これは当時、 陽子、 中間子、 電子、 光のみによって宇宙ができていると考えられていた時代においては大胆な予言であり 、 画期的なことであった。 実際、 今日では湯川の予言した中間子は発見されており 、 π中間子と呼ばれ、 その質量は 140MeV である。
4.2 現実的核力(4.1)式の様に核力の形を表すとき、 そのポテンシャルのタイプを湯川型ポテンシャルと言う 。 より 実際の核力に近づけたものに Malfliet-Tjonポテンシャル [10]がある。 2 つの湯川型ポテンシャルを重ね合わせしたものである。
V (r) = Vke−µRr
r− VA
e−µAr
r(4.11)
これをプロット したものが図 4.1である。 ~0.5fm内部は斥力芯とよばれるコアがあり 、 2つの核子は 0.5fm以上互いに近づく ことができないことを表している。 その原因は核子はフィルミ オンと呼ばれる統計上の粒子に属しており 、 そのスピンが 1
2の半整数であるから
である。 すなわちフェルミ オンはパウリ の排他原理にしたがい、 同一粒子からなる全波動関数を ψ とした時に、
Pijψ = −ψ (4.12)
25
0
2
4
6
8
10
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
"pot.date"0
r [fm]
v [M
eV]
図 4.1: 現象論的ポテンシャル (Malfliet-Tjon)
の条件を満たさなければならない。 ここで Pijは粒子交換演算子と呼び、 i番めの粒子と j
番目の粒子の交換を行う ものである。 2核子系では (4.12)式は
(−1)l+t+s = −1 (4.13)
の条件に書き変わる。 ここで、 lは 2体の相対角運動量、 tがアイソスピン、 sはスピンの量子数をそれぞれ表す。 部分波状態についてのパウリ 排他原理について述べたが、 このことがただちに核力の斥力芯の説明にはならない。核子は素粒子であるが、 素粒子物理学においては、 3 つのクォークによって構成されていると信じられている。「 信じられている」 と書いたのは、 クォーク単体で実験的に取り出されていない事実があるからである。 素粒子理論によると 、 単体で取り 出せない理由の有力な考え方は、 磁石から S極のみ、 あるいは N極のみを単独では取り 出せない現象と同じ理屈だと言われている。 話を戻すと 、 核力内のクォークは、 アップ (up)とダウン(down)の 2種類で、 陽子 (uud)と中性子 (ddu)を作っているという 。 核力の斥力芯は、 この同じ種類のクォーク間に働く 力によるもので、 クォークレベルのパウリ の排他原理によって説明されると考えられている。
4.3 重陽子の波動関数核力の大部分は引力であることから 、 束縛状態を作る。 核力が引力でなかったら宇宙は核子だけのガスでできており 、 中性子星やブラックホールは存在するが、 恒星や惑星もない。 すなはち、 生物も人間も存在しない宇宙である。 (4.11)式のMalfliet-Tjonポテンシャルの図の 1fm辺り からの凹みに2 つの核子が束縛する可能性がある。 陽子と中性子が束縛状態をつく り 、 2H と書いて、 重陽子 (deuteron)と呼ばれる。 簡単な考察から 、 陽子と
26
中性子の組み合わせ同様、 中性子2 つが束縛状態を作るのではないかという疑問が生じる。 それが現実しない理由は、 パウリ の排他原理によるもので、 2 つの中性子あるいは2つの陽子の間に働く 力は引力であるものの、 微弱な引力であるために束縛状態を作ることができない。 しかしながら 、 この非束縛状態になる核力のあり かたも、 宇宙の姿を作る大きな要因で、 もしも、 中性子同士陽子同士の核力も強い力であったならば、 どんどん重い原子核への反応が進み、 宇宙は鉄などの金属のみの星でできあがり 、 凍り ついたものになっていたであろう 。2核子系の束縛状態は、 陽子と中性子からなる重陽子 (2H)がある。 結合エネルギー |Eb|は、 陽子の質量 (1.67262178× 10−27kg)mp と 、 中性子の質量 (1.67492716× 10−27kg)mn
と重陽子の質量 (3.343586× 10−27kg)md を引いた計算
mp +mn −md = 3.396294× 10−30kg (4.14)
にアインシュタインの公式ΔE =Δmc2 より 、
|Eb| =ΔE = 2.22452MeV (4.15)
を得る。 この値は、 原子核全体で 1核子増えるごとの平均結合エネルギーが 8MeV であることと比べると、 弱い結合をしている。 一般に結合エネルギーの少ない原子核は、 波動関数 ψ(r)が十分大きな相対距離 rで、
ψ(r)~e−√
m|Eb|r (4.16)
のように振る舞うため、 結合エネルギーが小さく 、 原子核半径が大きい。 陽子と中性子の間に働く 核力は現代においても未知の部分が多い。 部分波は全核スピン J = 1、 軌道核運動量は l = 0または 2の混成軌道で、 内部スピン s = 1であることが知られている。 これを部分波の表記で 2s+1lJ =3 S1 −3 D1 と表す。2章で議論した LS方程式 (2.26)の数値計算を行う 。 核力モデルには、 現実的ポテンシャルと言われるボン型 (CDBonn)を採用する。 [4] 3S1 −3D1の混合部分波についての LS方程式は (2.26)式または (2.28)式を次のよう に拡張する。
(
ψS(p)
ψD(p)
)
=1
Eb − p2
m
1
2π2
∫ ∞
0
(
VSS(p, p′) VSD(p, p
′)
VDS(p, p′) VDD(p, p
′)
)(
ψS(p′)
ψD(p′)
)
p′dp′ (4.17)
=
1
Eb−p2
m
12π2{
∫∞
0VSS(p, p
′)ψS(p′)p′2dp′ +
∫∞
0VSD(p, p
′)ψD(p′)p′2dp′}
1
Eb−p2
m
12π2{
∫∞
0VDS(p, p
′)ψS(p′)p′2dp′ +
∫∞
0VDD(p, p
′)ψD(p′)p′2dp′}
(4.18)
この方程式を( 2.29) 式や (2.31)式のよう に積分点を用いて、 数値計算式で表す。
ψS,i =1
Eb − pim
1
2π2[
n∑
j
VSS,ijψs,jp2jωj +
n∑
j
VSD,ijψD,jp2jωj],
27
0.94
0.96
0.98
1
1.02
1.04
1.06
1.08
1.1
1.12
1.14
-3.5 -3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0
Binding Energy [MeV]
Eig
en V
alue
[1]
図 4.2: 固有値λと結合エネルギー Eb との関係
28
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
0 1 2 3 4 5
ψ [
]
fm3/
2
ψS
ψD
p [fm ]−1
図 4.3: 重陽子の波動関数 縦軸のスケールは対数で、 波動関数は log|ψ(p)|をプロッ ト している
ψD,i =1
Eb − p2im
1
2π2[
n∑
j
VDS,ijψS,jp2jωj +
n∑
j
VDD,ijψD,jp2jωj]. (4.19)
これをガウスゼーデル法により 、 Eb = −2.22MeV で解く ことができた [11]。( 2.58) 式に対応する E −λ図は具体的に求まり 、 図 4.2に示した。 波動関数 ψS, ψDは図 4.3に示した。 このとき用いたボンポテンシャル VSS, VSD, VDS, VDD をそれぞれ図 4.4, 4.5, 4.6, 4.7
に3 Dプロッ ト した。 ポテンシャルのエルミ ート 性から 、
VSD(p, p′) = VDS(p
′, p) (4.20)
の関係を図から読み取れる。
4.4 分離型ポテンシャルの評価3 章で議論してきた一般化分離展開 (GSE)[3]を用いてボンポテンシャル [4]の分離展開を行う 。
29
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 0 0.5
1 1.5
2 2.5
3 3.5
4 4.5
5
-35-30-25-20-15-10-5 0 5
10 15 20
10 0
-10 -20 -30
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.4: 現実的ポテンシャル (CDBonn) S波から S波に遷移する部分
30
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 0 0.5
1 1.5
2 2.5
3 3.5
4 4.5
5
-5 0 5
10 15 20 25 30 35
30 20 10 0
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.5: 現実的ポテンシャル (CDBonn) S波から D波に遷移する部分
31
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 0 0.5
1 1.5
2 2.5
3 3.5
4 4.5
5
-5 0 5
10 15 20 25 30 35
30 20 10 0
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.6: 現実的ポテンシャル (CDBonn) D波から S波に遷移する部分
32
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 0 0.5
1 1.5
2 2.5
3 3.5
4 4.5
5
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
8 6 4 2
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.7: 現実的ポテンシャル (CDBonn) D波から D波に遷移する部分
33
4.4.1 rank1の場合
3.2節の (3.7)式で導入した Batemanパラメータ kを有効に選ぶために、 結合エネルギーが厳密解に一致する点を探してみよう 。
0.1≦ k ≦ 5fm−1 (4.21)
の範囲で rank1の分離型ポテンシャルを次のよう に与えた。( (3.17)式を参照。)
Vsepll′ (p, p′) =
(
VsepSS VSD(p, p
′)
VDS(p, p′) VDD(p, p
′)
)
=
(
VSS(p, k) VSD(p, k)
VDS(p, k) VDD(p, k)
)(
VSS(k, k) VSD(k, k)
VDS(k, k) VDD(k, k)
)−1(
VSS(k, p′) VSD(k, p
′)
VDS(k, p′) VDD(k, p
′)
)
=
(
VSS(p, k) VSD(p, k)
VDS(p, k) VDD(p, k)
)
・1
VSS(k, k)VDD(k, k)− VSD(k, k)VDS(k, k)(
VDD(k, k) − VSD(k, k)
−VDS(k, k) VSS(k, k)
)(
VSS(k, p′) VSD(k, p
′)
VDS(k, p′) VDD(k, p
′)
)
. (4.22)
図 4.8に k と結合エネルギー Ebの関係についてのグラフを示す。 グラフから 、 Bateman
パラメータを
0.917fm−1 (4.23)
に選べば、 真の結合エネルギーを再現する分離型ポテンシャルの作成ができた。 求まった分離型ポテンシャル V
sepSS ,V sep
SD ,V sepDS ,V
sepDD をそれぞれ図 4.9、 4.10、 4.11、 4.12にプロット
した。このポテンシャルを用いて、 重陽子の波動関数を求め、 厳密解との比較を行ったものを図 4.13に示す。 rank1の分離型ポテンシャルでは、 波動関数を十分に再現できたとは言えない。
4.4.2 rank2の場合
Batemanパラメータを 2 つ導入する。 それぞれを k1, k2 とすると 、 分離型ポテンシャルは、
Vsep(2)ll′ (p, p′) =
(
Vsep(2)SS (p, p′) V
sep(2)SD (p, p′)
Vsep(2)DS (p, p′) V
sep(2)DD (p, p′)
)
=
(
VSS(p, k1) VSS(p, k2) VSD(p, k1) VSD(p, k2)
VDS(p, k1) VDS(p.k2) VDD(p, k1) VDD(p, k2)
)
・
VSS(k1, k1) VSS(k1, k2) VSD(k1, k1) VSD(k1, k2)
VSS(k2, k1) VSS(k2, k2) VSD(k2, k1) VSD(k2, k2)
VDS(k1, k1) VDS(k1, k2) VDD(k1, k1) VDD(k1, k2)
VDS(k2, k1) VDS(k2, k2) VDD(k2, k1) VDD(k2, k2)
−1
34
-7
-6
-5
-4
-3
-2
-1
0
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2
Bin
ding
Ene
rgy
Eb
[MeV
]
k1 [fm ]−1
0.917
Bateman paramater
図 4.8: Batemanパラメータと結合エネルギーの関係 破線は実験値 (−2.22MeV )
35
0 1 2
3 4 5 0
1 2
3 4
5-6-5-4-3-2-1 0 1 2 3 4 5
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.9: rank1の分離型ポテンシャル VsepSS
36
0 1 2 3 4 5 0 1
2 3
4 5
-5 0 5
10 15 20 25 30 35 40 45 50
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.10: rank1の分離型ポテンシャル VsepSD
37
0 1 2 3 4 5 0 1
2 3
4 5
-5 0 5
10 15 20 25 30 35 40 45 50
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.11: rank1の分離型ポテンシャル VsepDS
38
0 1 2 3 4 5 0 1
2 3
4 5
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.12: rank1の分離型ポテンシャル VsepDD
39
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
0 1 2 3 4 5
ψ [
]
fm3/
2
ψD(original)
ψS(original)
ψS(rank1)
ψD(rank1)
p [fm ]−1
図 4.13: rank1の波動関数 縦軸のスケールは対数で、 波動関数は log|ψ(p)|をプロッ トしている
40
0.75
0.8
0.85
0.9
0.95
1
1.05
1.1
1.15
1.2
1.25
1.3
1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
Eig
en V
alue
λ
2.61fm−1
−1Bateman paramater k2 [fm ]
図 4.14: Batemanパラメータと結合エネルギーの関係
・
VSS(k1, p′) VSD(k1, p
′)
VSS(k2, p′) VSD(k2, p
′)
VDS(k1, p′) VDD(k1, p
′)
VDS(k2, p′) VDD(k2, p
′)
(4.24)
で表される。逆行列を求める数値解析法にガウスのはきだし法がある。 この方法の詳細は付録B に示した。rank1の場合と同じよう に Batemanパラメータを選ぶことを考える。 行列の性質から
k1≠ k2 (4.25)
の要請がある。 なぜならば、 k1 = k2の場合、 (4.24)式の逆行列が求められない。 すなわち、 逆行列を作るための行列要素が同じ行または列に並ぶことになり 、 逆行列の存在条件
det|行列 |≠ 0 (4.26)
を満たすことができないからである。 rank1の結果をふまえ、 二つの Batemanパラメータのうち一つを k1 = 0.917fm−1に選び、 再びもとの結合エネルギーを与えるように k2を検索することにする。 図 4.14に k2を横軸にし、 得られた固有値λを縦軸にプロット した。図 4.14から読み取れるよう に k2は
41
0 1 2 3 4 5 0 1
2 3
4 5
-30-20-10
0 10 20 30 40 50 60
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.15: rank2の分離型ポテンシャル Vsep(2)SS
k2 = 2.61fm−1 (4.27)
にすると結合エネルギーが再現できることがわかる。得られたポテンシャル V
sep(2)SS ,V
sep(2)SD ,V
sep(2)DS ,V
sep(2)DD をそれぞれ図 4.15, 4.16, 4.17, 4.18
に 3Dプロッ ト した。
4.4.3 波動関数と分離度
第 3章の 3節で導入した評価関数( 3.24) 式及び分離度( 3.31) 式によって一般化分離展開法の評価を行う 。 分離度が大きいほど分離展開が進み、 同時にポテンシャルの精度も向上する。 表 4.1に rank1と rank2の場合の評価関数 Eと分離度 S を与えた。 rankが増大すると分離度の改善が見られた。 更に次の様に求まった波動関数の比較とその精度について調べる。 図 4.19に元の波動関数 ψorg を共に rank1,rank2のそれぞれの分離型ポテンシャルによって求められた波動関数ψrankの比較を行った。 rankが増大するにしたがって元の波動関数が再現できていることがわかる。 特に rank1から rank2にすることによって波動関数の S波は大変良い方向に改善されたことが表 4.4.3が示している。 波動関数の精
42
0 1 2 3 4 5 0 1
2 3
4 5
-5 0 5
10 15 20 25 30 35 40
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.16: rank2の分離型ポテンシャル Vsep(2)SD
表 4.1: 波動関数と分離度rank1 rank2
評価関数 E 82.7% 58.0%分離度 S 17.3% 42.0%
43
0 1 2 3 4 5 0 1
2 3
4 5
-5 0 5
10 15 20 25 30 35 40
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.17: rank2の分離型ポテンシャル Vsep(2)DS
44
0 1 2 3 4 5 0 1
2 3
4 5
-0.5 0
0.5 1
1.5 2
2.5 3
3.5 4
4.5
p[fm ]
p’[fm ]−1
−1
V(p
,p’)
[MeV
fm ]3
図 4.18: rank2の分離型ポテンシャル Vsep(2)DD
45
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
4
0 1 2 3 4 5
ψ [
]
fm3/
2
ψS(original)
ψS(rank1)
ψD(rank1)
ψD(original)
p [fm ]−1
ψD ψ
S(rank2)
(rank2)
図 4.19: rank2と rank2の波動関数 縦軸のスケールは対数で、 波動関数は log|ψ(p)|をプロッ ト している
46
表 4.2: 射影表 4.1射影 (内積) rank1 rank2
| < ψorg|ψrank > |2 96.7% 99.0%ψ o
rgψ
|<
|
>
|ra
nk2
rank2
rank1
E [%]58.0 82.1
図 4.20: 評価関数 Eと | < ψorg|ψrank > |2
度をみるために、 < ψorg|ψrank1 > と < ψorg|ψrank2 >の射影 (内積)を考える。
< ψorg|ψrank >=
∫ infty
0
ψorg(p)ψrank(p)p2dp (4.28)
表 4.4.3にはその大きさの 2乗を示した。 波動関数の精度とポテンシャルの分離度の相関を見るために図 4.20, 4.21にそれぞれの値について xy軸にあててプロット した。 グラフから 、 分離度の高いほど、 もとの波動関数を良く 再現できることが理解できた。
47
|< | >|org rank2ψ ψ
|< | >|2ψorg ψrank
rank1
rank2
S [%
]
17.042.0
図4.21:
分離度
Sと
|<ψorg |ψ
rank>
| 2
48
第5章 結論および今後の展開
2体系のリ ップマン・ シュウィ ンガー積分方程式を解く 際の積分点の数は通常 200点程を要する。 すなわち、 階数が 200の行列の対角化を行う ことによって、 2核子の束縛状態( 重陽子の波動関数) が求まる。 このリ ップマンシュウィ ンガー方程式を解く 上で、 ポテンシャルが分離式 (3.1)式によって与えられている場合、 行列の階数は分離型ポテンシャルの階数 (rank)になり 、 その数は数個で展開できる。 強調したいことは、 階数が 200であった行列方程式が 2,3の階数で処理できるよう になることは、 数値計算上劇的な経済効果、 すなわち、 記憶容量と CPU時間の節約につながることである。 (3.1節) 具体的にドイツのボン大学で開発されたいわゆるボンポテンシャルを材料に一般化分離展開法を用いて、 rank1および rank2の分離型ポテンシャルを作成した。 (4.4節)また、 そのポテンシャルがもとのポテンシャルをどの程度精度よく 再現しているかを評価する関数( 評価関数)および分離度を導入し 、 それぞれの rankについて計算を行った。 その結果、 分離度の高いポテンシャル方程式、 もとの波動関数を良く 再現していることが分かった。 (4.4節)
今後の展開としては、 rankをさらに 3,4,...と増すことによって分離度がどこまで向上するかの問題が残されている。 また、 作成された分離型ポテンシャルは重陽子の部分波(2S1−3D1)のみであったが、 核力の次に大事な部分波としては、 1S0状態と 1P1,
3 P1,3 P2,
3 P0
の l = 1状態等についても同様に分離展開が必要になる。 さらに、 この様に分離展開したポテンシャルを用いて、 3体問題や 4体問題へ応用していく ことが考えられる。
49
付録
付録A (2.52)式の証明(2.51)式より 、
C(New)k+1
m = C(New)k
m
λnm
√
∑
l(C(New)k
l λnl )
2
=C
(New)k
m√
∑
l(C(New)k
l ( λl
λm)n)2
(1)
λmがλi(i = 1, ..., N)の中で最大値の場合は ( λl
λm)2は l = m以外の値は1 より も小さい。
nが十分大きい場合、
limn→∞
∑
l
(C(New)k
l (λl
λm
)n)2 = (C(New)k
m )2 (2)
であるから 、 (付録A )式は1 になる。 また、 l≠ mの場合は、
limn→∞
(λl
λm
)2n = 0 (3)
であるから 、
limn→∞
C(New)k
l = 0 (4)
となる。 よって、 (2.52)式が示せた。
付録B ガウスの掃き出し法逆行列を求める方法の一つに、 ガウスの掃き出し法がある。 一般に階数が nの行列を A
を書けば、 その逆行列を A−1 と書き、
AA−1 = A−1A = E (5)
を満たす。 Eは単位行列である。 数値的にこの A−1 を求めることを次のアルゴリ ズムで行う 。
50
アルゴリズムAを m× nの行列とし、 その要素を aijで表すと、 行列Aは次の様に表すことができる。
A =
a11 a12 . . . a1j . . . a1n
a21 a22 . . . a2j . . . a2n...
......
...
ai1 ai2 . . . aij . . . ain...
......
...
ah1 ah2 . . . ahj . . . ahn...
......
...
am1 am2 . . . amj . . . amn
(6)
Aの逆行列を求めるとき、 次の様に Aと単位行列E を並べて (A : E)とする。
a11 a12 . . . a1j . . . a1n 1 0 . . . . . . . . . 0
a21 a22 . . . a2j . . . a2n 0 1 0 . . . . . . 0...
......
...... 0
. . ....
ai1 ai2 . . . aij . . . ain...
......
......
......
......
. . ....
......
......
... 0
ai1 ai2 . . . aij . . . ain...
.... . .
...
am1 am2 . . . amj . . . amn 0 0 . . . . . . . . . 1
(7)
(A : E)を行基本変形で、 Aの部分を単位行列 En になるよう に変形する。 行基本変形には三つの操作があり 、 k を 0以外の有理数とすると 、1.第 i 行を k 倍する( k ≠ 0 )
A =
a11 a12 . . . a1j . . . a1n
a21 a22 . . . a2j . . . a2n...
......
...
kai1 kai2 . . . kaij . . . kain...
......
...
ah1 ah2 . . . ahj . . . ahn...
......
...
am1 am2 . . . amj . . . amn
(8)
51
2.第 i 行に第 h 行の k 倍を加える
A =
a11 a12 . . . a1j . . . a1n
a21 a22 . . . a2j . . . a2n...
......
...
ai1 + kah1 ai2 + kah2 . . . aij + kahj . . . ain + kahn...
......
...
ah1 ah2 . . . ahj . . . ahn...
......
...
am1 am2 . . . amj . . . amn
(9)
3.第 i 行と第 h 行を入れ替える
A =
a11 a12 . . . a1j . . . a1n
a21 a22 . . . a2j . . . a2n...
......
...
ah1 ah2 . . . ahj . . . ahn...
......
...
ai1 ai2 . . . aij . . . kain...
......
...
am1 am2 . . . amj . . . amn
(10)
の 3つの変形を繰り 返し行う ことである。 その変形により Eの部分が Bになったとすると 、 Bが Aの逆行列、 つまり 、 B = A−1である。 ただし 、 掃き出し法で (A : E)を変形している途中で、 Aの部分に 0のみからなる行が現れると 、 継続しても Aを E に変形することはできない。 このことは、 Aが正則でないことを示しており 、 Aは逆行列を持たない行列という ことになる。
謝辞今回卒業論文を作成するにあたり 、 指導教員の鎌田裕之教授には量子力学の勉強や研究についてご指導いただきました。 また論文の原稿のついても多く のご助言を頂いたことで完成させることができました。 その他にも , 副査の渡辺真仁准教授と中村和磨准教授には精読して頂きました。 さらに同研究室の古谷次郎さんや中村研究室の土居明樹さん、 柳本健さん、 そして大学の友人たちにもご指導や激励を頂きました。 この場を借り て、 皆様に感謝の意を表したいと思います。
52
関連図書
[1] H.Kamada et al., Phys.Rev.C64, 044001(2001).
[2] L.D.Faddeev, Soviet Phys.-JETP12, 1014(1961).
[3] S.Oryu, Prog.Theor.Phys.52,550(1974);H.Bateman, Proc.Roy.Soc.A100, 441(1969).
[4] R.Machleidt, F.Sammarruca, Y.Sang, Phys.Rev.C53, R1483(1996).
[5] B.A.Lippmann, J.Schwinger, Phys.Rev.79, 469(1950).
[6] この事については、 古谷次郎氏の卒業論文 (2012年度)に詳しい解説がある。
[7] D.J.Ernst, C.M.Shakin and R.M.Thaler, Phys.Rev.C8, 46(1973);Phys.Rev.C9,
1780(1973).
[8] S.Weinberg, Phys.Rev.131, 440(1963).
[9] R.Kircher and E.W.Schmid, Z.Phys.A299, 241(1981).
[10] R.A.Malfiet, J. A.Tjon, Nucl. Phys. A127, 161 (1969).
[11] Gauss-Seidel法のプログラムコード は当該研究室卒業の西村省吾氏が作成したものをベースにした。 (2013年度).
[12] 例えば、「 散乱の量子論」 砂川重信著,岩波全書 (1997).
53