CTO Crossing OUTBACK - Cordis Japan...Kawasaki D et al. Comparison of the OUTBACK® Elite Reentry...

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Kawasaki D et al. Comparison of the OUTBACK® Elite Reentry Catheter and the Bi-directional Approach after Failed Antegrade Approach for Femoro-popliteal Occlusive Disease. J Atheroscler Thromb 2017;24:1242-1248 [ 文 献 紹 介 ] 大腿膝窩動脈閉塞に対する順行性アプローチ不成功後の アウトバックリエントリーカテーテルと 双方向性アプローチとの比較 CTO Crossing Catheter OUTBACK with 川﨑 大三 先生 社会医療法人 大道会 森之宮病院 循環器内科 部長

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Kawasaki D et al. Comparison of the OUTBACK® Elite Reentry Catheter and the Bi-directional Approach after Failed Antegrade Approach for Femoro-popliteal Occlusive Disease.J Atheroscler Thromb 2017;24:1242-1248

[ 文 献 紹 介 ]

大腿膝窩動脈閉塞に対する順行性アプローチ不成功後のアウトバックリエントリーカテーテルと双方向性アプローチとの比較

CTO Crossing

CatheterOUTBACK

with

川﨑 大三 先生社会医療法人 大道会 森之宮病院循環器内科 部長

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 CTOのワイヤー通過法は、大腿膝窩動脈の慢性完全閉塞

(FP-CTO)に対する双方向性アプローチを含め、近年発展し

てきている1)。しかし、FP-CTOに対する順行性ワイヤー通過成

功は依然として技術的な課題である。

 順行性ワイヤー通過が不成功となる典型的な理由として、

閉塞部位の内膜下通過後、真腔にガイドワイヤーをリエントリー

できないことが挙げられる。双方向性アプローチは、順行性アプ

ローチ不成功後のワイヤー再疎通を達成する上で有効である

が、多くのデバイスと長い手技時間を要する。

 高い成功率でFP-CTOにガイドワイヤーを順行性に通過さ

せるためには、優れた技術と特殊なデバイスが必要である。アウ

トバックリエントリーカテーテル(Cordis、カリフォルニア州フリー

モント)は、順行性アプローチ不成功後のFP-CTOにガイドワイ

ヤーを順行性に通過させるのに特化したデバイスである。本デ

バイスは、真腔にワイヤーを差し戻し、FP-CTOの血管内治療

を成功させるために広く使用されている2)。2016年7月には日本

でも保険収載後、使用が開始された。

 そこで、ワイヤーを再疎通させるために、遠位アクセスによる

双方向性アプローチとアウトバックリエントリーカテーテルを用い

た単方向性アプローチによるFP-CTOの治療経験を報告する。

大腿膝窩動脈閉塞に対する順行性アプローチ不成功後のアウトバックリエントリーカテーテルと双方向性アプローチとの比較

大腿膝窩動脈慢性完全閉塞、双方向性アプローチ、アウトバックリエントリーカテーテル、順行性アプローチ不成功キーワード

[ 目 的 ]

 大腿膝窩動脈の慢性完全閉塞(FP-CTO)に対する順行性のワイヤー通過成功は依然として技術的な課題である。順行性アプローチが不成功であったFP-CTO症例を対象にアウトバックリエントリーカテーテルと双方向性アプローチの安全性および実施可能性を明らかにする。

[ 方 法 ]

 2013年5月から2016年12月に、森之宮病院で219のFP-CTO病変を対象に血管内治療を実施した。FP-CTO病変に対して、遠位アクセスによる双方向性アプローチおよびアウトバックリエントリーカテーテルを用いる単方向性アプローチによる血管内治療を施行した43の連続性病変のデータを、レトロスペクティブに解析した。従来法と血管内超音波検査(IVUSガイド下の手技)を組み合わせた順行性アプローチは、合計219の病変のうち170で成功した。2013年5月から2016年6月までをフェーズ1とし、順行性アプローチ不成功後の22の病変に遠位アクセスによる双方向性アプローチを適用した。また、2016年7月から12月までをフェーズ2とし、21の病変にアウトバックリエントリーカテーテルを用いた単方向性アプローチを適用した。

[ 結 果 ]

 患者および病変の特性は、フェーズ1とフェーズ2で有意差はなかった。初回の手技成功率は両フェーズで100%であった。使用したワイヤー数および造影剤の量は、フェーズ2がフェーズ1より有意に少なく、手技時間および透視時間はフェーズ2がフェーズ1より有意に短かった(p<0.01)。

[ 結 論 ]

 アウトバックリエントリーカテーテルを用いたFP-CTOの血管内治療は、順行性アプローチ不成功後に実施可能かつ安全であった。

社会医療法人 大道会 森之宮病院 循環器内科 部長 川﨑 大三 先生

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試験対象 2013年5月から2016年12月に、森之宮病院で血管内治療を

施行した219のFP-CTO病変のうち、遠位アクセスによる双方向

性アプローチおよびアウトバックリエントリーカテーテルを用いた

単方向性アプローチによる治療を施行した43の連続性病変の

データを、レトロスペクティブに解析した。2013年5月から2016年6

月までをフェーズ1として、順行性アプローチ不成功後の22の病

変に遠位アクセスによる双方向性アプローチを適用した。2016

年7月から12月までをフェーズ2として、21の病変にアウトバックリ

エントリーカテーテルを用いた単方向性アプローチを適用した。

重度に石灰化したFP-CTO病変は本解析から除外した。

 バイパス術を施行した患者はいなかった。高血圧は、収縮

期血圧140mmHg以上/拡張期血圧90mmHg以上、または

降圧剤の服用と定義した。糖尿病は、空腹時血糖126mg/dL

以上/HbA1c6.5%以上、または糖尿病治療薬の服用と定

義した。脂質異常症は、低密度リポ蛋白(LDL)コレステロー

ル140mg/dL以上/高密度リポ蛋白(HDL)コレステロール

40mg/dL未満、または中性脂肪150mg/dL以上と定義した。

腎機能不全は、血清クレアチニン1.2mg/dL以上と定義した。

患者から文書による同意を取得し、内部倫理委員会が試験実

施計画書を審査して本試験を承認した。

手技 血管造影による下肢の診断後、FP-CTOに対する血管内治

療を計画した。FP-CTO病変の血管内治療は、浅大腿動脈近

位部に動脈硬化病変がない場合は同側総大腿動脈からの順

行性アプローチとし、動脈硬化病変がある場合は対側総大腿

動脈からの順行性アプローチとして、6Frのシースで実施した。

シース挿入後、ヘパリン5000単位を投与した。

双方向性アプローチ フェーズ1では0.014インチのスティッフガイドワイヤーを、X線

透視や造影剤、血管内超音波検査(IVUS)の支援下で閉塞

病変に順行性に通過させた3)。

 双方向性アプローチは、順行性アプローチ不成功後に適用

した。遠位アクセス部位は、浅大腿動脈、膝窩動脈、前脛骨動

脈または後脛骨動脈の遠位部から遠位の血流(run off)状態

に基づいて選択した。22G穿刺針をX線透視ガイド下に穿刺し

動脈遠位部に挿入した。穿刺成功後、穿刺針を通して0.014イ

ンチのガイドワイヤー(Cruise、朝日インテック、日本)を挿入し、

その後シースを用いずにマイクロカテーテルを挿入した1)。双方

向性アプローチは、主にランデブー法4)を用い、再疎通に成功

した。

 遠位アクセス部位は、用手圧迫とバルーン拡張を組み合わ

せて止血した。

アウトバックリエントリーカテーテルによる単方向性アプローチ フェーズ2では0.014インチのスティッフガイドワイヤーを、X線

透視や造影剤、IVUSガイドの支援下でCTO病変に順行性に

通過させた3)。アウトバックリエントリーカテーテルは、順行性アプ

ローチ不成功後に遠位アクセスを行わずに使用した。ガイドワ

イヤーが閉塞遠位部まで内膜下で進んだ時に(図1-a)、アウト

バックリエントリーカテーテルをワイヤーにそわせて、病変遠位

の真腔近位端まで押し進め(図1-b)、2方向90°直角X線透視

像を撮影した。L字とT字の透視マーカーに従い先端の位置決

めを行った(図1-c)。その後、ガイドワイヤーをアウトバックリエン

トリーカテーテル内に引き戻し、カニューラを遠位の真腔に突き

進めた(図1-d)。その後、0.014インチのガイドワイヤーを遠位へ

通過させた(図1-e)。

大腿膝窩動脈慢性完全閉塞、双方向性アプローチ、アウトバックリエントリーカテーテル、順行性アプローチ不成功

対 象 と 方 法

図1

a

d

b

e

c

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大腿膝窩動脈閉塞に対する順行性アプローチ不成功後のアウトバックリエントリーカテーテルと双方向性アプローチとの比較

3

統計解析 連続データは平均値±SDまたは中央値で表示し、カテゴリカ

ルデータはパーセンテージで表示した。連続変数は、t検定また

はMann-WhitneyのU検定を用いて比較した。カテゴリカル変

数は、最尤法に基づいたχ2検定またはFisherの正確検定によ

り比較した。両側検定によるp値0.05未満を統計学的に有意と

した。統計解析はすべて、R(バージョン2.13.0、R Foundation

for Statistical Computing、オーストリア、ウイーン)のグラフィカ

ルユーザインターフェースであるEZR(自治医科大学附属さい

たま医療センター、栃木県下野市)を用いて実施した。これは

生物統計で高頻度に用いる統計関数を追加するために設計

されたRコマンダーの修正版(バージョン1.8-4)である。

患者特性および病変部の特性 フェーズ1とフェーズ2で、年齢や性別、動脈硬化リスク因子、

抗凝固剤および/または抗血小板剤の使用頻度のいずれの

パラメータにも差は認められなかった(表1)。

 閉塞長や病変長、石灰化の程度を含めた病変部の特性は、

フェーズ1とフェーズ2で差はなかった(表2)。加えて、真腔遠

位部の位置(遠位SFA/P1/P2/P3)5)に有意差は認められな

かった。

手技に関連した要因 従来法とIVUSガイド下法を組み合わせた順行性アプローチ

は、合計219の病変のうち170で成功した。初回の手技成功率

は両フェーズで100%であった。フェーズ2の全症例で、閉塞部

位の内膜下通過後、追加アクセスを行わずにアウトバックリエン

トリーカテーテルのカニューラを通して真腔遠位部先端にガイド

ワイヤーをリエントリーできた。加えて、病変長の延長および主

要側副血行路の消失を防止できた。手技時間はフェーズ1よりも

フェーズ2が有意に短かった(133±50分vs.64±21分、p<0.01、

図2-a)。使用したガイドワイヤーの数はフェーズ1よりもフェーズ2

が有意に少なかった(6.0±1.6vs.3.0±1.0、p<0.01、図2-b)。

造影剤および放射線被曝時間 使用した造影剤の量は、フェーズ1よりもフェーズ2が有意に

少なかった(109±67vs.75±33mL、p<0.01、図3-a)。透視時

間は、フェーズ1よりもフェーズ2が有意に短かった(70±35分

vs.36±17分、p<0.01、図3-b)。一方、両フェーズで放射線被

曝量に差はなかった(310mGy[IQR;161~309]vs.262mGy

[IQR;126~309]、図3-c)。

フェーズ1 (双方向性アプローチ、n=22) フェーズ2 (OUTBACK®、n=21) p値

TASCⅡ分類 A/B/C/D(n) 0/0/5/17 0/0/5/16 1.0

閉塞長(cm) 21[IQR;20.0-23.8] 21[IQR;20.0-24.0] 0.69

病変長(cm) 28[IQR;25.1-31.5] 28[IQR;24.0-32.0] 0.81

真腔遠位部の位置(遠位SFA/P1/P2/P3) 15/4/1/2 17/2/1/1 0.50

石灰化病変(なし/軽度/中等度) 11/5/6 14/3/4 0.53

中央値[四分位範囲]または数TASC:TransAtlantic Inter-Society Consensus  IQR:四分位範囲  SFA:浅大腿動脈P1:内転筋裂孔から大腿骨顆部上縁まで  P2:大腿骨顆部上縁から結合部まで  P3:結合部から前脛骨動脈および後脛骨動脈の分岐部まで

表2 病変の特性

フェーズ1(双方向性アプローチ、n=21)

フェーズ2(OUTBACK®、n=20)

p値

年齢 76.1 ± 8.1 75.5 ± 9.2 0.81

BMI(kg/㎡) 21.3 ± 4.2 22.2 ± 4.3 0.18

男性(%) 76.2 70.0 0.62

跛行(%) 81.0 90.0 0.41

高血圧症(%) 81.0 85.0 1.0

糖尿病(%) 47.6 40.0 0.76

脂質異常症(%) 47.6 50.0 1.0

喫煙(%) 66.7 50.0 0.36

血液透析(%) 23.8 15.0 0.70

抗凝固療法(%) 23.8 25.0 1.0

抗血小板療法(%) アスピリン(%) クロピドグレル(%) シロスタゾール(%)

81.061.952.4

80.075.025.0

1.00.530.12

表1 患者の特性 症例数(%)または平均値±SD

結 果

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大腿膝窩動脈閉塞に対する順行性アプローチ不成功後のアウトバックリエントリーカテーテルと双方向性アプローチとの比較

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ワイヤー通過までに要したデバイスの費用 ワイヤー通過までに要したデバイスの費用を算出した。デ

バイスには穿刺針、シース、ガイドワイヤー、ガイディングカテー

テル、マイクロカテーテル、IVUS、小径バルーン、リエントリー

デバイスが含まれる。ワイヤー通過までに要したデバイスの費

用には、両フェーズ間で有意差はなかった(414,870円[IQR;

317,820~464,845]vs.437,920円[IQR;422,920~479,620]、

p=0.1685、図4)。

図2フェーズ1とフェーズ2における(a)手技時間および(b)使用したガイドワイヤーの数の比較

図3 フェーズ1とフェーズ2における(a)造影剤の量、(b)蛍光透視鏡の使用時間、(c)放射線被曝量の比較 

図4フェーズ1とフェーズ2において、ワイヤーが通過するまでに要したデバイスの費用の比較

(a)手技時間

フェーズ1(双方向性アプローチ)

フェーズ1(双方向性アプローチ)

フェーズ2(OUTBACK®)

フェーズ2(OUTBACK®)

(min)

250

200

150

100

50

(n)

8

6

4

2

(b)使用したガイドワイヤーの数

p<0.01p<0.01

(a)造影剤の量

フェーズ1(双方向性アプローチ)

フェーズ2(OUTBACK®)

(mL)

200

150

100

50

0

(min)

150

100

50

(mGy)

800

600

400

200

(b)蛍光透視鏡の使用時間

フェーズ1(双方向性アプローチ)

フェーズ2(OUTBACK®)

(c)放射線被曝量

フェーズ1(双方向性アプローチ)

フェーズ2(OUTBACK®)

p=0.395p<0.01p<0.05

デバイスの費用

フェーズ1(双方向性アプローチ)

フェーズ2(OUTBACK®)

600000

550000

500000

450000

400000

350000

p=0.168

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大腿膝窩動脈閉塞に対する順行性アプローチ不成功後のアウトバックリエントリーカテーテルと双方向性アプローチとの比較

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合併症 フェーズ1では、5例に動脈攣縮が認められ、マイクロカテーテ

ルを挿入したにもかかわらず止血後に遠位穿刺部に動脈閉塞

を発現した患者が1例いた。また、遠位穿刺部の止血が完了す

るまで30分以上要した患者が2例いた。フェーズ2では、リエント

リーに動脈穿孔および動静脈瘻などの合併症を発現した患者

はいなかった。またフェーズ2では、真腔遠位部に大量のプラー

クが存在しても、全症例で真腔の一番近位端でのリエントリー

が成功したため病変長の延長および主要側副血行路の消失

は認められなかった。

 全ての患者で、30日以内に手技に関連した死亡、大切断

術、再介入などの周術期合併症は認められなかった。

 本試験は、アウトバックリエントリーカテーテルを用いた単方

向性アプローチと双方向性アプローチの安全性および有効

性を比較した最初の試験である。本試験の概要は次のとお

りである。①アウトバックリエントリーカテーテルの承認、保険

収載以降、FP-CTOの全症例で順行性の再疎通が行われ

た。②手技時間、ガイドワイヤー数、造影剤の使用量は、アウ

トバックリエントリーカテーテルの方が双方向性アプローチより

効率的であった。③アウトバックリエントリーカテーテルは慎重

に操作することで、病変長の延長および側副血行路の消失リ

スクを低下させた。

種々のワイヤー通過法の長所と短所 過去数年間における技術とデバイスの進歩により、FP-CTO

病変に対し積極的に血管内治療を行うことができるようになっ

た。一方、大腿動脈壁は解剖学的に特殊な形態のため、閉塞

性疾患を発症しやすく、血管内治療後の再閉塞率が高いこと

から、FP-CTOは依然として最も課題の多い分野の一つであ

る6)。複数の報告では、FP-CTOの血管内治療における初回

成功率は高いものの、長期開存は乏しいことが示唆されてい

る7-9)。FP-CTOの再疎通のために内膜下による手技10)、エコー

ガイド下による手技11)、IVUSガイド下による手技3)、多様な動脈

遠位部アプローチによる双方向性のランデブー法1,5)といった

複数の方法が開発された。真腔内血管形成術では内膜下血

管形成術よりも、ステントと血管との接触面積が大きく、ステント

の対称性も保持できる。一方、真腔内血管形成術はマイクロカ

テーテルおよびスティッフガイドワイヤーなどの多数のデバイス

を要することがあるうえ、手技時間は、病変の重症度に応じて

内膜下血管形成術より長くなる。浅大腿動脈、膝窩動脈、前脛

骨動脈または後脛骨動脈の遠位部を含む動脈遠位部を経由

する双方向性アプローチは、技術的成功率が高く、短期間で

妥当な開存が得られることから、FP-CTO治療の安全かつ有

効な方法と報告されている1)。しかし、遠位アクセスが困難な場

合や、動脈攣縮や動脈閉塞、偽動脈瘤、動静脈瘻、神経の損

傷、血腫などの合併症を発症することがある。また、手技中に仰

臥位から座位へ体位を変更するのは煩雑であり、完全に止血

するには時間を要する。一方、内膜下法では、0.035インチのス

ティッフガイドワイヤーを用い、内膜下を解離させ、真腔にリエン

トリーするためにアングル型スティッフカテーテルを解離断面に

通過させるが、アングル型スティッフカテーテルは閉塞部を越え

て真腔にリエントリーすることができないため、この方法には限

界がある可能性がある12)。こうした症例には、アウトバックリエント

リーカテーテルが有用である2)。本デバイスは、真腔にワイヤー

を差し戻すため広く使用されている。曽我先生らのグループは、

内膜下血管形成術の臨床的な実施可能性および有効性を明

らかにするため、大腿膝窩動脈の長い閉塞部に対するステント

留置術として、真腔内血管形成術および内膜下血管形成術の

長期開存率を調査した。3年間の開存率は両アプローチで同

程度であった13)。この結果に基づくと、内膜下血管形成術は技

術的および臨床的条件において妥当な方法である。アウトバッ

クリエントリーカテーテルを用いた治療は、双方向性アプローチ

と比較して、造影剤が少なく、手技時間が短いというベネフィット

が認められた。また、アウトバックリエントリーカテーテルを用いた

治療は手技中に特定の体位を維持できない腎機能不全患者

および高齢患者に有益である。さらに、CO2造影法は、アウトバッ

クリエントリーカテーテルのT字およびL字透視マーカーを調整

する際に造影剤の使用量を節約するうえで有用である14)。

順行性アプローチ不成功の予測因子 本試験では、合計219のうち43の病変で、造影剤とIVUSガ

イド下による順行性アプローチが不成功であった。順行性アプ

ローチ不成功の主要な原因は、対側アプローチにおいて真腔

遠位部直前でワイヤー性能が低下するためであった。概して、

閉塞部の長いFP-CTOの大半で、CTO入口部は浅大腿動脈

と深大腿動脈の分岐部から開始する。同側順行性大腿アプ

ローチは、ワイヤー性能を維持するための最良の方法である

が、多くの症例で穿刺領域は限定される。したがって、対側ア

考 察

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大腿膝窩動脈閉塞に対する順行性アプローチ不成功後のアウトバックリエントリーカテーテルと双方向性アプローチとの比較

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プローチは、順行性アプローチ不成功の予測因子の一つとい

える。

アウトバックリエントリーカテーテル不成功の予測因子 過去の報告では、アウトバックリエントリーカテーテルによるリ

エントリーは、必ずしも良好な成功率が得られていたわけでは

ない。リエントリー不成功の原因として、真腔遠位部でのリエン

トリーができないこと、ワイヤーに追従してデバイスのデリバリー

が困難なこと、Aorta分岐部が鋭角で通過できないこと、リエン

トリー部位の重度の石灰化、前拡張による内膜下の拡大が挙

げられた15,16)。幸いなことに、我々はすべての症例でアウトバック

リエントリーカテーテルによるリエントリーに成功した。この高い

成功率の要因および手技を次のように判定した。①重度の石

灰化を有するFP-CTO症例を除外した。②順行性ワイヤー挿

入は内膜下の拡大を回避するために真腔遠位部にまで通過

させなかった。③内膜下の拡大を回避するために、アウトバック

リエントリーカテーテルを導入する前にバルーンによる内膜下の

拡張は行わなかった。④リエントリー部位はIVUS情報により慎

重に決定した。

ワイヤー通過までに使用したデバイスの費用 本試験で使用したガイドワイヤーの数は、フェーズ2がフェー

ズ1より有意に少なかったが、両フェーズ間でワイヤー通過まで

に要したデバイスの費用に有意差はなかった。このことは、アウ

トバックリエントリーカテーテルの価格が0.014インチのガイドワ

イヤーより11.7倍高いことに起因する。日本の医療保険制度で

は、各手技で1組の0.014インチのガイドワイヤーのみが保険償

還される。一方、アウトバックリエントリーカテーテルと1組の0.014

インチのガイドワイヤーを用いた場合は、どちらのデバイスも保

険償還されるため、CTOに対するアウトバックリエントリーカテー

テルを用いた手技は、日本の保険医療制度において費用対効

果がよい治療といえる。本試験では、両フェーズ間でワイヤー

通過後のバルーンおよびステントの費用は比較しなかった。こ

れは当院では、FP-CTOの治療戦略をフルカバーステントから

シングルスポットステントに変更しているためである。

試験の限界 本試験には多少の限界が認められる。第一に、本試験は比

較的少数の患者を対象にした非無作為化、単一施設試験で

ある。第二に、重度の石灰化病変は除外している点である。重

度の石灰化病変の内膜下血管形成術では十分な内腔を確

保できず、転帰不良に至ることがある。したがって、重度の石

灰化病変に対しては、Crosser CTO再疎通システム(Bard

Peripheral Vascular)などの種々の方法を用いる真腔内血

管形成術を実施するべきである。加えて、アウトバックリエント

リーカテーテルはカテーテルのはね返しという点で重度の石灰

化病変に有効なデバイスとは限らない。第三に、当院ではステ

ント留置戦略を現在変更しつつあるため、本試験ではステント

数およびステント長といったワイヤー通過後の治療戦略の相違

は検討しなかった。第四に、本試験で長期開存の相違は評価

しなかった。遠位アクセスを用いる双方向性アプローチとアウト

バックリエントリーカテーテルを用いる単方向性アプローチの有

効性を再確認するために、さらなる試験が必要である。

 FP-CTOに対する治療において、順行性ワイヤーが内膜下

に進んだ際にアウトバックリエントリーカテーテルを用いた順行

性再疎通は、実施可能かつ安全である。

資金提供

なし

利益相反

著者らに利益相反はない。

謝辞

森之宮病院のMrs. Mana FonteneauとCE. Aya Nakataの

専門的協力に感謝する。

結 論

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本稿は原報の全訳です。製品のご使用にあたっては、添付文書をご確認ください。

ELITECROSS® Support Catheter

OUTBACK® Re-Entry Catheter

CTO Solutions

■ 販売名:エリートクロスサポートカテーテル ■ 承認番号:22700BZX00274000■ 販売名:アウトバックリエントリーカテーテル ■ 承認番号:22700BZX00008000

1) Schmidt A, Bausback Y, Piorkowski M, Werner M, Bräunlich S, Ulrich M, Varcoe R, Friedenberger J, Schuster J, Botsios S, Scheinert D. Retrograde recanalization technique for use after failed antegrade angioplasty in chronic femoral artery occlusions. J Endovasc Ther. 2012; 19: 23-29

2) Jacobs DL, Motaganahalli RL, Cox DE, Wittgen CM, Peterson GJ. True lumen re-entry devices facilitate subintimal angioplasty and stenting of total chronic occlusions: Initial report. J Vasc Surg. 2006; 43: 1291-1296

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