【2】環境問題の歴史的変遷...【2】環境問題の歴史的変遷 <講義のポイント> ①環境問題の質的変化(3段階) ②地球温暖化問題とその原因
環境汚染史 文明と環境破壊env.ssociety.net/20140423_2.pdf2014/04/23 · 2 - 1...
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環境政策-2
環境汚染史 文明と環境破壊
日本の近代社会における激甚公害の前史として人類史上世界各地の環境汚染、自然破壊の歴史を概観する 創世記 旧約聖書
原罪 アダムとイブ 知恵の実を食べて苦しむようになった
火の使用 プロメテウス神話 火を使う生物は人類だけ 火の使用の延長上に化石燃料文明、原子力利用
火を用いた狩猟 4):人類による最初の自然破壊か
ノアの洪水:シュメールの記録 洪水の恐ろしさの記憶2) あるいは 絶滅と大洪水の同時発生を示唆
バベルの塔:急激な社会の発展 写真:バベルの塔(想像で描いた絵の方が夢があってよかった)
(たぶん交通発達→広域交易→多地域人集中 言語不通→社会混乱)
塔を建てる力=当時としては巨大な支配力(商業交易利益)
都市建設技術革新 焼成煉瓦+瀝青目地 都市人口集中→言語問題
急成長社会による派生問題:20世紀都市問題の原型
21世紀にバベル塔問題は起きるか(急激に発達した情報通信技術の落とし穴?) 産業社会の巨大な生産力と環境汚染の萌芽が農耕社会の発展過程に既に見られる
農耕 社会生活 所有、支配、政治、宗教
農耕から「所有」、「財産」、「支配階級」が出現した 5)92p
政治(まつりごと)
余剰生産物の獲得、管理、分配、投資→社会の大規模化、支配階級の出現→軍備→国家権力
経済支配者への富・権力の集中→交易→貨幣鋳造→鉱業→資源奪取、奴隷労働、自然破壊
技術
太陽運行の予測:暦→天文学、水利、河川管理、潅漑→農業土木技術
余剰生産物の貯蔵→食品保存技術、穀物生産高管理→数学
耕作器具、武器、装飾品、貨幣→鋳造技術
神殿、墳墓建造:最高度、最大規模技術追求 例:バベル塔、ピラミッド、伊勢神宮
同一仕様品多数需要→規格→工業生産:例 古代インド都市 写真:モヘンジョダロ遺跡 安田喜憲による文明類型比較 17) アジアモンスーン気候稲作漁労文化は乾燥大陸畑作牧畜文化より持続的
稲作漁労文化=自然破壊小→日本文化 1万年以上前から水田稲作: 持続的農耕
畑作牧畜文化=森林破壊大→西欧文明と漢民族
畑作牧畜文化がユーラシア広域で森林破壊 中近東、地中海世界、黄土高原→生態系の脆(ぜい)弱化 文明は特別な生産力の源泉(=非持続?)があって成り立つもの
メソポタミア(チグリス・ユーフラテス文明)肥沃土壌河川堆積・枯渇資源+労働(灌漑)
潅漑と塩害 人工的な生産手法による自然への挑戦と失敗
ジャルモ農耕遺跡BC6000年 シュメール王朝
BC4300~BC3500 治水灌漑農業 開始
ウル王朝BC2700 写真:ウルのジッグラト
灌漑→塩害、沈泥→水路閉塞 浚渫→労力需要 農地に塩分が累積析出 生産力低下→文明滅亡
ギルス地域の小麦単位収量の低下 700年で3分の1に 4)
BC2400 2538l/ha
BC2100 1460l/ha
BC1700 897l/ha
メソポタミア南部 小麦耕作放棄→ 塩害でシュメール文明は滅んだ。4) 写真:潅漑と塩害
エジプト文明 ナイル川 緩やかな河川勾配と広大な平地 肥沃土壌河川堆積・自然力連続供給
高い土地生産性 ha当小麦生産量大 →地中海地域の文明発展
現在は不良 アスワンダムによる土壌栄養供給遮断の失敗 中国文明 水田の歴史約1万年 連作可能 米の持続的生産力が人口を増大させた
人口の増大は森林の喪失と土地の乾燥化を招いた(黄土高原の脆弱な植生) 写真: 黄土高原
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インダス文明 都市 上下水道 焼成煉瓦 規格と工業生産 公害防止土地利用 :進歩と停滞
この都市文明は持続的であったが、異民族侵入により滅亡 写真:インダス文明 ミノア(クレタ島)文明 地中海の真中-各民族の知恵が合流して文明に→技術の飛躍的発展
森林資源枯渇が衰亡の原因か 7) ミケーネ文明 都市興隆→人口増大→農地拡大+やぎ、ひつじ放牧→土壌劣化+森林減少→洪水→
土砂流出→森林再生不可能 → 写真:ギリシャの山肌 →港町が内陸化(ティリンス)→広域交易不利 1),7)
広域交易と自然破壊 例 レバノン杉 7)4) 貨幣経済=無制限生産拡大→自然破壊 ローマ、ギリシャ
金属精錬、貨幣経済、戦争、農地破壊、植民地開発
威信誇示(例:巨大船建造)1)、公衆浴場、都市人口増と薪消費、飽くなき欲求、森林破壊、土壌流出
BC670 ローマ時代 最初のコイン貨幣=小アジアのリュディア、エレクトロン(金、銀合金)4)
以来約3千年、人類は道を誤ったか?-貨幣経済の深刻な弊害としての環境問題 大プリニウスの金属文明批判 1) 環境破壊批判,非持続性の指摘
=20世紀社会批判かと見まがう、ローマ時代と現代社会の共通性=ビジネス社会の萌芽がローマにあった
鉱業とは大地(死者の霊の居場所)から内臓をつかみ出すようなもの
飽くなき所有欲の追求 金に目がくらんで自然破壊も省みない
奴隷労働,使い捨ての労働力を前提にした鉱山経営
(父子で著名な学者、父を大プリニウスと呼ぶ) ローマは鉛中毒で滅亡した?8)1) - 新しい素材・大量副産物・鉛の利用とその弊害
Gilfillan S.C.(1965)Lead poisoning and the Fall of Rome, J of Occupational Medicine 8)
貨幣の鋳造→銀鉱石採掘、精錬→銀の副産物、大量に出る鉛#1の有効利用があだ
ワインの添加物として飲用、鉛製加熱容器(ぶどうシロップ等をかきまぜながら煮る)、
「こんなに大量の有毒添加物を加えれば、ワインの味はおいしくならざるをえない。そしてそれからわれわれ
は驚くのだ、このワインが有毒であることに!」プリニウス 1)
鉛製水道管(硬水・管内石灰層のため影響は軽微か?1)
20世紀 ソーダ工業 NaCl 大量副産物・塩素利用汚染と類似
#1:ラウレイオン銀山の場合:鉛=銀の3000倍出鉱 8) 都市と金属文明
貨幣経済、広域交易、国家権力、植民地、戦争、奴隷労働 → 社会(支配領域)の大規模化
貨幣鋳造と広域交易=国家(支配者)独占 強者は増々強者に→ローマ帝国
鉄の使用は武器を発達させ戦争の大規模化→強者の広域支配 1)
支配階級=余剰生産物の独占 → 広域交易、貨幣鋳造→鉱業→資源奪取、奴隷労働、自然破壊、
規格化=工業の基礎:インダス文明 モヘンジョダロ都市遺跡-近代工業文明の基礎
ローマから現代へのつながり
要素は別に見えて同時発展的 国家、貨幣、技術:政治力、経済力、技術力が一部権力者に集中
文明と都市 元来、非持続可能的なものか 都市は惜しみなく奪うもの 都市とは富を集中させる仕組みを伴って成立
非農業労働人口=搾取者を養う分、被支配者(労働者)は貧しくなる
対比:未開民族は労働時間は短く,自由時間が長い 10) 人類の進出と森林破壊4) マディラ島等
軍備と森林破壊 ローマ時代 地中海で海戦、巨大木造戦艦が炎上、占領都市を破壊・再構築
為政者の勢力誇示のため巨大戦艦を建造 いずれも大量木材消費 1)
人口増大と森林破壊
イースター島 限られた環境と人口増大 モアイ像のある文化が栄えた島だったが、
最後に船を造る木材もなくなった 有限な地球の小型模型 9)
都市化と疫病
ペストの大流行による大量死 例:1346-1351年 2千万人死亡
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ローマやアテネでも紀元前から疫病大量死は存在した 各地で都市人口の3,4割が疫病で死亡 23)
工業生産増大と森林破壊 とくに製鉄 ヨーロッパの森林喪失 化石燃料消費前史
→薪不足→石炭,石油使用→大気汚染→酸性雨→オゾン層破壊→気候変動 都市と技術
水洗便所 前2200年 テル・アスマル宮殿 下水管整備 2)
古代メソポタミア アッカド王朝期 ディヤラ川流域
下水道 上水道より先に整備された エトルリア人の技術 2) クロアカ・マクシマ大下水溝
タルクイニウスのエトルリア王朝・都市計画 中央広場-フォルム
上水道 前27~ ネルバ帝水道長官フロンティヌス著『ローマ水道』 水道局600人従事 2) 都市的文明の根本問題:持続(自足)可能か?
都市:貨幣経済、大規模社会、支配層への富、権力の集中
非都市的居住 アメリカ先住民は都市を造らず、不起耕栽培
オーストラリア先住民アボリジナル 自然と共に生きる潜在的超能力
アフリカ (未開?)狩猟民は労働時間が短い、芸術、装飾に使う時間の余裕 日本の環境汚染先史
やまたのおろち伝説への仮説 蛇=河が人を飲む 出雲・金採掘で繁栄
斐伊川上流で金採掘 鉱毒河川汚染? 採掘による土壌流出で、あるいは精錬燃料森林伐採で洪水か 奈良の大仏建立と環境汚染 銅を献上した村が鉱毒で滅亡 原因は銅鉱石に含まれた砒素 15)
山口県美祢市美東町長登 長登産銅 砒素5%(融点低下)、銅鉱石に石灰含(溶銅粘性低下)純銅=1083℃
奈良大仏銅に砒素3%含む 低融点は精錬しやすい 金の塗布に水銀使用=労働災害 奈良の大仏建立について 帚木蓬生著 小説『国銅』(新潮文庫)25) 問:環境破壊の歴史と現代の環境問題の共通構造を考察せよ
例:ローマ時代(銀,鉛)と20世紀後半(プラスチック,農薬,各種塩素化合物、原子力、遺伝子組み換え)
自然破壊史,環境汚染史・文献
1) ヴェーバーK.W.(1996)アッティカの大気汚染-古代ギリシャ・ローマの環境破壊,鳥影社 2) 川添登(1982)裏側から見た都市,NHKブックス415 3) ジョン・パーリン(1994)森と文明,安田喜憲,鶴見精二(経済学部教授)訳,晶文社 4) 湯浅赳男(1993)環境と文明-環境経済論への道,新評論 5) クライブ・ポンティング(1994)緑の世界史(上,下),石弘之他訳,朝日選書503,504 6) 伊東俊太郎,安田喜憲扁(1995)文明と環境,日本学術振興会 7) 安田喜憲(1997)森を守る文明支配する文明,PHP新書029 8) 大場英樹(1979)環境問題と世界史,公害対策技術同友会 9) 安田喜憲, 菅原聡編(1996)森と文明,講座文明と環境, 梅原猛, 伊東俊太郎, 安田喜憲総編集,第 9 巻,朝倉書店,所収,湯浅浩史,イー
スター島巨石文化の衰亡と森林破壊-そしてモアイは歩かなくなった,62-72p 10) 山内ひさし(1994)経済人類学への招待,ちくま新書013 11) カセッリ.J監修(1996)メソポタミア文明,ニュートンムック古代遺跡シリーズ 12) 松本健(2000)四大文明[メソポタミア],NHK出版 13) 朝日新聞(2000.3.04)インダス文明の街発掘,起源前3000年ドーラビーラ遺跡*1 14) 朝日新聞(2000.7.11)なぞのインダス文字解読いつ 15) 志村史夫(1997)古代日本の超技術,BlueBacks,B1175 16) 安田喜憲(1996)森のこころと文明,NHKライブラリー44 17) 安田喜憲(2003)放送大学特別講義、森と文明 18)日経新聞(2002.01.17)古代都市発見,朝刊13版,社会34面*2 19) アンダーウッド,ポーラ(1998)一万年の旅路-ネイティヴ・アメリカンの口承史,星川淳訳,翔泳社 20) 星川淳(1995)地球生活,平凡社ライブラリー 21) 近藤英夫(2000)四大文明[インダス],NHK出版 22) 鶴間和幸(2000)員大文明[中国],NHK出版 23) アーノルド,ディビッド(1999)環境と人間の歴史,飯島昇蔵,川島耕司訳,新評論 24) ロベール・ドロール,フランソワ・ワルテール著,鈴木暁子,門脇仁訳(2007)環境の歴史,ヨーロッパ、原始から現代まで,みすず書房
25) 帚木蓬生著(2003)小説『国銅』,新潮文庫(上下)
*1:文字の解明が行われた。上水管理施設の機能も解明(近隣河川から導水)。
*2:インド スラト沖 キャンベイ湾 9500年前の古代都市遺跡発見2002.1.16 インド政府科学技術相発表、木材、つぼの破片、骨の化石、建築資材などを発見した
2 環境汚染史 メソポタミア文明 都市文明の興隆とつまずき
潅漑と塩害、 商業都市の繁栄による圏域拡大と混乱(バベルの塔)
2-4
上・左:シュメールの政治経済の中心的役割をになった
都市ウルのジッグラト。ウル第3王朝時代の建造 12)
バグダッド南部の灌漑用水路12)
メソポタミア文明当時もこのような灌漑用水路があったと
考えられる
キシュ付近、塩害でひび割れした大地 12)
塩害が発生、生産力は低下した
バベルの塔 ベルリン博物館
経済組織巨大化、商業交易の広域化と大都市建設
圏域の急激な拡大がことばの混乱を招いた
例えば有名なブリューゲル作 バベルの塔
旧約聖書「創世記」11章を題材に想像された姿
ブリューゲル作 バベルの塔:出典:http://ja.wikipedia.org/wiki/Brueghel-tower-of-babel.jpg
2 環境汚染史
文明の興隆とつまずき2 インダス文明と異民族侵入、文明興隆と森林衰退・植生の脆弱化
2 – 5
3
写真 上・右、左 ギリシャの山 2000.8撮影
ギリシャの山はねずみ色に見えるところが多い。
農耕と牧畜の結果、荒れ果て表土が流失し山肌はむきだしの
粘土になっている。かつては森林だったが、伐採後、放牧した
羊が緑を食べ尽くし、大雨で表土が流失し、保水土壌がないの
で乾燥化、オリーブの木以外は生えにくい状況。紀元前から文
明が栄え人類の活動が繰り広げられた結果、地中海沿岸はこの
ように表土が脆弱化、乾燥化している。
←写真・左 中国 黄土高原 22)
中国文明の発展と人口増加が森林を破壊し、脆弱な植生に
3000年前の黄河流域は森林地帯だった