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科学技術振興調整費 開放的融合研究 水素・水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 研究期間:平成 14 年度~ 平成 16 6 日本原子力研究所 新村 信雄 成果報告書

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科学技術振興調整費

開放的融合研究

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

研究期間平成 14年度~

平成 16年 6月

日本原子力研究所 新村 信雄

成果報告書

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

研究計画の概要 p1

研究成果の概要 p5

研究成果の詳細報告

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明 p11

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発 p29

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

1

研究計画の概要

研究の趣旨

「開放的融合研究」は次のような趣旨で公募された最近の科学及び科学技術の進歩は目を見張るような速度で進歩す

ると同時に多様化し特に旧来の学問分野だけでなくその中間領域いわゆる学際領域の進歩がこれに拍車をかけている

このように学際領域の学問は新しい科学の開拓には必須となってきているが学問の専門性と細分化によりそれの更なる

発展にはそれを意識した研究の交流と情報発信による周囲の理解が必要となるそのために二つ以上の研究機関がそ

れぞれの得意な研究手法を持ち寄り交流することである学際領域をいわゆる 1+1=2以上の効果を出すことで開発発展

させるために発足したのが開放的融合研究である

当該「水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓」はまさにこの趣旨に乗っ取って立てられた研究計画である

35億年に亘り繰り返された生物進化の歴史は複雑多種多様な生命体が生き延びるのに全く巧妙な機構を創出してきた

21 世紀に入りヒトゲノムの解読が完了し人間は自らの生命の設計図を手にしいよいよこの設計図をもとに本格的な生命

現象を理解する時代ポストゲノム時代に入ったのであるタンパク質や DNA は立体構造を形成して初めて機能を発揮する

立体構造解析の主流は放射光X線やNMRであるしかし生理機能に直接関与する水素原子や完全な水和構造はX線や

NMR では決定困難である生体物質の生理機能に関わる殆どの反応(例えば加水分解脱水素酸化還元リン酸化脱リ

ン酸化等多数)にタンパク質や基質の水素原子及び水和水が直接関与していることからも明らかなように生命現象の中で

水素原子の果たす役割や生体物質と水との関わりは大変重要であるタンパク質の構成単位であるアミノ酸は大きくわけて

疎水性と親水性のものがありこれらはタンパク質立体構造形成に際し周囲の環境(水溶液脂質膜等)に適した配置をとる

ことで立体構造の安定化がはかられていることからも水素と水和水はタンパク質の立体構造構築原理にも深く関わっている

ことはよく判るしかしタンパク質分子の水素原子や水素原子まで含めての水和水を原子レベルで観察した例は少なく生

命現象の中で水素原子の果たす役割や生体物質と水との関わりの多くは類推で議論される事が多かった

一方中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法である日本原子

力研究所は世界に先駆けて中性子イメージングプレートを開発実用化しタンパク質や核酸の中性子回折実験を可能に

したまた農業生物資源研究所ではX線結晶解析法NMR分光法で食品産業や医療に役立つ薬理活性物質や新機能

タンパク質の構造を決定してきた

日本原子力研究所はタンパク質や核酸の中性子回折実験技術をさらに高めそれに関連する基本技術を開発し農業

生物資源研究所は中性子回折実験に適したタンパク質の準備とそれの基本立体構造を X線や NMRで決定するこのよう

にして決定された立体構造は中性子回折実験のための初期モデルにもなるこのように準備の整ったタンパク質の中性子

回折実験を日本原子力研究所で実施し水素水和構造を決定しこうして得られる基礎研究の成果を食品産業や医療に

役立つ薬理活性物質や新機能タンパク質の開発にも活かす

開放的融合研究のもう一つの重様な要因は情報発信であるそのために国際シンポジウムを 1回年開催し当該研

究に関連した国内外の著名な研究者を招聘し我々の研究成果を発信すると同時に彼等の研究成果を発表してもらい

研究交流を行う

研究の概要

中性子回折実験技術の高度化中性子は水素原子と強い相互作用するのでタンパク質の水素原子を観測するのに適

したプローブである日本原子力研究所は中性子イメージングプレートを開発実用化しそれを装備した中性子回折装置

を建設したがX 線と較べて中性子強度は 8 桁から 12 桁の差があるので中性子回折実験データ取得には相当の時間

(約 4週間)がかかる何とかこれの障壁を小さくするためにさらに関連する中性子回折実験技術を高度化しデータ収集

効率を上げることを行う

中性子回折実験には大型のタンパク質単結晶(1mm 角程度)が必要であるこのような単結晶を取得するにはX 線結

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

2

晶構造解析に必要な結晶を得るのに採用している試行錯誤による手法では限界があるそこでタンパク質結晶成長の

機構を解明しこの機構に乗っ取って結晶成長を実施する必要があるそのために結晶成長の相図を決定し相図と結

晶育成の関連を解明しこれに基づいた結晶育成技術を開発することを試みる

基本的なタンパク質(ミオグロビンルブレドキシンリゾチーム)の中性子回折実験を行いタンパク質の中性子解析手

法を確立する併せてそれにより得られた水素水和構造を分類し水素水和構造の基礎を確立する

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある特に生物学的に興味深い高度に制御されたタンパク質

核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明には水素や水和構造を含む構造生物学的研究が必要に

なってきている中性子回折実験用試料として生物学的に興味深いタンパク質の大きな結晶を作成するのは基本的な

タンパク質に比べ一般に困難が予想されるしかし多少結晶サイズが小さくても試料となるタンパク質を完全重水素化

することにより中性子回折実験を有利に行うことが可能である従って生物研では遺伝子組換え技術を利用して完全

重水素化タンパク質の大量調整結晶化を行うと共にその作製技術を確立する一方X線解析法を利用した場合でもタ

ンパク質の一部の水素原子位置決定は可能である分解能 10Åを超える高分解能X線データを与える結晶を作成し差

フーリエ解析からタンパク質の水素原子位置を部分的にせよ決定を試みるまたタンパク質-タンパク質複合体のX線解

析を行い複合体構造の安定化分子認識に水分子がどのように関与するかその役割について研究する

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

3

実施体制

研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

(1) 物理学的結晶作製技術の開発

(2) 生化学的結晶作製技術の開発

(3) 高分解能 X線解析

(4) 機能解析と分子動力学計算

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

明治薬科大学

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

藤本 瑞(主任研究官)

古市 真木雄

新井 栄揮

茶竹 俊行

鴨志田 薫

前田 満

徐 新顔

水野 洋(研究チーム長)

高瀬 研二

若生 俊行

香川 正行

目野 浩二

Thirumananseri Kumaravel

増田 洋美

森田 隆司

久野 敦

水野 洋(研究チーム長)

門間 充

藤本 瑞

鹿本 康生

堀井 克紀

真板 宣夫

須藤 恭子

Penmecha Kumar

山崎 俊正(主任研究官)

加藤 悦子

前田 美紀

八田 知久

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素

水和構造決定手法の開発

(1) 高分子中性子回折計の設計製作

(2) DNAタンパク質等の中性子回折実験

日本原子力研究所

日本原子力研究所

高エネルギー加速器研究機構

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

田中 伊知朗(研究員)

栗原 和男

大原 高志

茶竹 俊行(博士研究員)

新井 栄揮

栗原 和男

Andreas Ostermann

鴨志田 薫

前田 満

(注はサブテーマ責任者)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

4

融合研究評価委員会

氏 名 所 属

John Helliwell

Eric Westhof

池原 森男

大島 泰郎

久保寺 昭子

郷 信広

高良 和武

田中 信夫

安岡 則武

マンチェスター大学 教授

ルイパスツール大学 教授

大阪大学 名誉教授

東京薬科大学 教授

東京理科大学 名誉教授

日本原子力研究所 計算科学技術推進センター

量子生命情報解析グループ リーダー

筑波研究学園 理事長

東京工業大学 教授

姫路工業大学 名誉教授

研究評価委員長

融合研究推進委員会

氏 名 所 属

田中 俊一

岡田 漱平

藤井 保彦

肥後 健一

新保 博

宮下 清貴

特殊法人 日本原子力研究所 理事東海研究所所長

特殊法人 日本原子力研究所 企画室長

特殊法人 日本原子力研究所 中性子科学研究センター長

独立行政法人 農業生物資源研究所 理事

独立行政法人 農業生物資源研究所 企画調整部長

独立行政法人 農業生物資源研究所 研究企画調整官

研究推進委員長

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

5

研究成果の概要

総 括

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価しタンパク質や核酸の水素水和構造に関する種々の構造情報を抽出することに成功したまた中性

子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでタンパク質や核酸の大型結晶育成を系

統的に育成する手法を開発した

完全重水素化タンパク質は中性子回折実験用試料として重要なことから遺伝子組換え技術を利用して3種類のタン

パク質の完全重水素化に成功したまた遺伝子組換え技術法としてはin vitro タンパク質合成系Pichia pastoris系大

腸菌 in vivo 系によるタンパク質の完全重水素化法を確立した一方分解能 10Åを超える高分解能X線解析法により

差フーリエ図からタンパク質の水素原子位置を部分的に決定することに成功したまたタンパク質複合体のX線解析から

分子間に存在する水分子が複合体構造の安定化分子認識に関与していることを見出した

サブテーマ毎個別課題毎の概要

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつあるタンパク質や核酸等のすべての水素原子位置を決定出

来る実験手法としては現在のところ中性子線回折法が唯一の手法である中性子線回折用の結晶は相当大きなサイズで

なければならないさらに中性子線回折実験を有利にするためにはタンパク質を完全重水素化することである我々は

小麦胚芽抽出物を利用した in vitroタンパク質合成システムPichia pastoris系大腸菌 in vivo系を利用して3種類の完全

重水素化タンパク質の調製結晶化に成功した一方一部のタンパク質について分解能 10Åを超える高分解能X線解

析法を行い差フーリエ法により水素原子位置を部分的に決定することに成功した

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価し荷電性アミノ酸の水素原子の結合様式α-ヘリックス安定化に寄与する新しい2分岐水素結合水素

原子を含めた水素結合の強弱関係タンパク質内水素重水素交換反応の定量化変化に富んだダイナミクな水和構造

等新しい発見が次々になされているこれらを分類することで水素原子の寄与する結合の詳細と一般即が判明しつつあ

るまた中性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することで DNA(2mm x 2mm x

03mm)やインスリン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させた

波及効果発展方向改善点等

中性子回折装置(BIX-3)はその高性能が世界で高く評価され現在ドイツオーストラリア米国韓国で同種の中性子

回折装置の建設が検討されているまた国内ではタンパク質の水素水和構造決定のみならず有機化合物中の水素原

子や水和構造の決定にも BIX-3を使いたい旨の要求が始まっている

基本的なタンパク質であるがその水素原子や水和構造が詳細に判明したことで中性子構造生物学が創薬に応用出

来る可能性が出てきており特に水素水和構造のデータベースを構築しタンパク質や核酸内の水素結合のシミュレーシ

ョンを可能にする基礎データの提供が期待されている

大型タンパク質単結晶育成技術はX線結晶構造解析用良質単結晶育成にも応用できるのでそのための結晶育成依

頼が来始めている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

6

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 サブテーマ1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

サブテーマ2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の 水素水和構造決定手法の開発

高分解能 X 線解析

糖 分 解 酵 素 Streptmyces

olivaceoviridis E-86 キシラナ

ーゼ

蛇毒由来 C 型レクチン様タンパ

ク質 IX-bpGla 複合体および

X-bpGla 複合 ディスインテグリン他

完全重水素化タンパク質の作製

ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

硫酸還元菌由来 FMN-bp DsrD 他

物理学的結晶作製技術の開発

相図に基づいた大型結晶育成

の開発 結晶評価法の確立

中性子回折装置

BIX-3BIX-4

トピックス

水和水構造

水素結合 HD交換他

中性子構造解析

ミオグロビン ルブレドキシン(野生型変

異型)

ニ ワ ト リ 卵 白 リ ゾ チ ー ム

(pH49)他

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

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3

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4

4

4

3

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1

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0

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0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

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0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

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gm

l)

05

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0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

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国外誌

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factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

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2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

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4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

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6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

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10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

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11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

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12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

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13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

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14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

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15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

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16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

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17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

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18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 2: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

研究計画の概要 p1

研究成果の概要 p5

研究成果の詳細報告

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明 p11

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発 p29

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

1

研究計画の概要

研究の趣旨

「開放的融合研究」は次のような趣旨で公募された最近の科学及び科学技術の進歩は目を見張るような速度で進歩す

ると同時に多様化し特に旧来の学問分野だけでなくその中間領域いわゆる学際領域の進歩がこれに拍車をかけている

このように学際領域の学問は新しい科学の開拓には必須となってきているが学問の専門性と細分化によりそれの更なる

発展にはそれを意識した研究の交流と情報発信による周囲の理解が必要となるそのために二つ以上の研究機関がそ

れぞれの得意な研究手法を持ち寄り交流することである学際領域をいわゆる 1+1=2以上の効果を出すことで開発発展

させるために発足したのが開放的融合研究である

当該「水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓」はまさにこの趣旨に乗っ取って立てられた研究計画である

35億年に亘り繰り返された生物進化の歴史は複雑多種多様な生命体が生き延びるのに全く巧妙な機構を創出してきた

21 世紀に入りヒトゲノムの解読が完了し人間は自らの生命の設計図を手にしいよいよこの設計図をもとに本格的な生命

現象を理解する時代ポストゲノム時代に入ったのであるタンパク質や DNA は立体構造を形成して初めて機能を発揮する

立体構造解析の主流は放射光X線やNMRであるしかし生理機能に直接関与する水素原子や完全な水和構造はX線や

NMR では決定困難である生体物質の生理機能に関わる殆どの反応(例えば加水分解脱水素酸化還元リン酸化脱リ

ン酸化等多数)にタンパク質や基質の水素原子及び水和水が直接関与していることからも明らかなように生命現象の中で

水素原子の果たす役割や生体物質と水との関わりは大変重要であるタンパク質の構成単位であるアミノ酸は大きくわけて

疎水性と親水性のものがありこれらはタンパク質立体構造形成に際し周囲の環境(水溶液脂質膜等)に適した配置をとる

ことで立体構造の安定化がはかられていることからも水素と水和水はタンパク質の立体構造構築原理にも深く関わっている

ことはよく判るしかしタンパク質分子の水素原子や水素原子まで含めての水和水を原子レベルで観察した例は少なく生

命現象の中で水素原子の果たす役割や生体物質と水との関わりの多くは類推で議論される事が多かった

一方中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法である日本原子

力研究所は世界に先駆けて中性子イメージングプレートを開発実用化しタンパク質や核酸の中性子回折実験を可能に

したまた農業生物資源研究所ではX線結晶解析法NMR分光法で食品産業や医療に役立つ薬理活性物質や新機能

タンパク質の構造を決定してきた

日本原子力研究所はタンパク質や核酸の中性子回折実験技術をさらに高めそれに関連する基本技術を開発し農業

生物資源研究所は中性子回折実験に適したタンパク質の準備とそれの基本立体構造を X線や NMRで決定するこのよう

にして決定された立体構造は中性子回折実験のための初期モデルにもなるこのように準備の整ったタンパク質の中性子

回折実験を日本原子力研究所で実施し水素水和構造を決定しこうして得られる基礎研究の成果を食品産業や医療に

役立つ薬理活性物質や新機能タンパク質の開発にも活かす

開放的融合研究のもう一つの重様な要因は情報発信であるそのために国際シンポジウムを 1回年開催し当該研

究に関連した国内外の著名な研究者を招聘し我々の研究成果を発信すると同時に彼等の研究成果を発表してもらい

研究交流を行う

研究の概要

中性子回折実験技術の高度化中性子は水素原子と強い相互作用するのでタンパク質の水素原子を観測するのに適

したプローブである日本原子力研究所は中性子イメージングプレートを開発実用化しそれを装備した中性子回折装置

を建設したがX 線と較べて中性子強度は 8 桁から 12 桁の差があるので中性子回折実験データ取得には相当の時間

(約 4週間)がかかる何とかこれの障壁を小さくするためにさらに関連する中性子回折実験技術を高度化しデータ収集

効率を上げることを行う

中性子回折実験には大型のタンパク質単結晶(1mm 角程度)が必要であるこのような単結晶を取得するにはX 線結

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

2

晶構造解析に必要な結晶を得るのに採用している試行錯誤による手法では限界があるそこでタンパク質結晶成長の

機構を解明しこの機構に乗っ取って結晶成長を実施する必要があるそのために結晶成長の相図を決定し相図と結

晶育成の関連を解明しこれに基づいた結晶育成技術を開発することを試みる

基本的なタンパク質(ミオグロビンルブレドキシンリゾチーム)の中性子回折実験を行いタンパク質の中性子解析手

法を確立する併せてそれにより得られた水素水和構造を分類し水素水和構造の基礎を確立する

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある特に生物学的に興味深い高度に制御されたタンパク質

核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明には水素や水和構造を含む構造生物学的研究が必要に

なってきている中性子回折実験用試料として生物学的に興味深いタンパク質の大きな結晶を作成するのは基本的な

タンパク質に比べ一般に困難が予想されるしかし多少結晶サイズが小さくても試料となるタンパク質を完全重水素化

することにより中性子回折実験を有利に行うことが可能である従って生物研では遺伝子組換え技術を利用して完全

重水素化タンパク質の大量調整結晶化を行うと共にその作製技術を確立する一方X線解析法を利用した場合でもタ

ンパク質の一部の水素原子位置決定は可能である分解能 10Åを超える高分解能X線データを与える結晶を作成し差

フーリエ解析からタンパク質の水素原子位置を部分的にせよ決定を試みるまたタンパク質-タンパク質複合体のX線解

析を行い複合体構造の安定化分子認識に水分子がどのように関与するかその役割について研究する

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

3

実施体制

研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

(1) 物理学的結晶作製技術の開発

(2) 生化学的結晶作製技術の開発

(3) 高分解能 X線解析

(4) 機能解析と分子動力学計算

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

明治薬科大学

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

藤本 瑞(主任研究官)

古市 真木雄

新井 栄揮

茶竹 俊行

鴨志田 薫

前田 満

徐 新顔

水野 洋(研究チーム長)

高瀬 研二

若生 俊行

香川 正行

目野 浩二

Thirumananseri Kumaravel

増田 洋美

森田 隆司

久野 敦

水野 洋(研究チーム長)

門間 充

藤本 瑞

鹿本 康生

堀井 克紀

真板 宣夫

須藤 恭子

Penmecha Kumar

山崎 俊正(主任研究官)

加藤 悦子

前田 美紀

八田 知久

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素

水和構造決定手法の開発

(1) 高分子中性子回折計の設計製作

(2) DNAタンパク質等の中性子回折実験

日本原子力研究所

日本原子力研究所

高エネルギー加速器研究機構

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

田中 伊知朗(研究員)

栗原 和男

大原 高志

茶竹 俊行(博士研究員)

新井 栄揮

栗原 和男

Andreas Ostermann

鴨志田 薫

前田 満

(注はサブテーマ責任者)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

4

融合研究評価委員会

氏 名 所 属

John Helliwell

Eric Westhof

池原 森男

大島 泰郎

久保寺 昭子

郷 信広

高良 和武

田中 信夫

安岡 則武

マンチェスター大学 教授

ルイパスツール大学 教授

大阪大学 名誉教授

東京薬科大学 教授

東京理科大学 名誉教授

日本原子力研究所 計算科学技術推進センター

量子生命情報解析グループ リーダー

筑波研究学園 理事長

東京工業大学 教授

姫路工業大学 名誉教授

研究評価委員長

融合研究推進委員会

氏 名 所 属

田中 俊一

岡田 漱平

藤井 保彦

肥後 健一

新保 博

宮下 清貴

特殊法人 日本原子力研究所 理事東海研究所所長

特殊法人 日本原子力研究所 企画室長

特殊法人 日本原子力研究所 中性子科学研究センター長

独立行政法人 農業生物資源研究所 理事

独立行政法人 農業生物資源研究所 企画調整部長

独立行政法人 農業生物資源研究所 研究企画調整官

研究推進委員長

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

5

研究成果の概要

総 括

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価しタンパク質や核酸の水素水和構造に関する種々の構造情報を抽出することに成功したまた中性

子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでタンパク質や核酸の大型結晶育成を系

統的に育成する手法を開発した

完全重水素化タンパク質は中性子回折実験用試料として重要なことから遺伝子組換え技術を利用して3種類のタン

パク質の完全重水素化に成功したまた遺伝子組換え技術法としてはin vitro タンパク質合成系Pichia pastoris系大

腸菌 in vivo 系によるタンパク質の完全重水素化法を確立した一方分解能 10Åを超える高分解能X線解析法により

差フーリエ図からタンパク質の水素原子位置を部分的に決定することに成功したまたタンパク質複合体のX線解析から

分子間に存在する水分子が複合体構造の安定化分子認識に関与していることを見出した

サブテーマ毎個別課題毎の概要

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつあるタンパク質や核酸等のすべての水素原子位置を決定出

来る実験手法としては現在のところ中性子線回折法が唯一の手法である中性子線回折用の結晶は相当大きなサイズで

なければならないさらに中性子線回折実験を有利にするためにはタンパク質を完全重水素化することである我々は

小麦胚芽抽出物を利用した in vitroタンパク質合成システムPichia pastoris系大腸菌 in vivo系を利用して3種類の完全

重水素化タンパク質の調製結晶化に成功した一方一部のタンパク質について分解能 10Åを超える高分解能X線解

析法を行い差フーリエ法により水素原子位置を部分的に決定することに成功した

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価し荷電性アミノ酸の水素原子の結合様式α-ヘリックス安定化に寄与する新しい2分岐水素結合水素

原子を含めた水素結合の強弱関係タンパク質内水素重水素交換反応の定量化変化に富んだダイナミクな水和構造

等新しい発見が次々になされているこれらを分類することで水素原子の寄与する結合の詳細と一般即が判明しつつあ

るまた中性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することで DNA(2mm x 2mm x

03mm)やインスリン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させた

波及効果発展方向改善点等

中性子回折装置(BIX-3)はその高性能が世界で高く評価され現在ドイツオーストラリア米国韓国で同種の中性子

回折装置の建設が検討されているまた国内ではタンパク質の水素水和構造決定のみならず有機化合物中の水素原

子や水和構造の決定にも BIX-3を使いたい旨の要求が始まっている

基本的なタンパク質であるがその水素原子や水和構造が詳細に判明したことで中性子構造生物学が創薬に応用出

来る可能性が出てきており特に水素水和構造のデータベースを構築しタンパク質や核酸内の水素結合のシミュレーシ

ョンを可能にする基礎データの提供が期待されている

大型タンパク質単結晶育成技術はX線結晶構造解析用良質単結晶育成にも応用できるのでそのための結晶育成依

頼が来始めている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

6

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 サブテーマ1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

サブテーマ2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の 水素水和構造決定手法の開発

高分解能 X 線解析

糖 分 解 酵 素 Streptmyces

olivaceoviridis E-86 キシラナ

ーゼ

蛇毒由来 C 型レクチン様タンパ

ク質 IX-bpGla 複合体および

X-bpGla 複合 ディスインテグリン他

完全重水素化タンパク質の作製

ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

硫酸還元菌由来 FMN-bp DsrD 他

物理学的結晶作製技術の開発

相図に基づいた大型結晶育成

の開発 結晶評価法の確立

中性子回折装置

BIX-3BIX-4

トピックス

水和水構造

水素結合 HD交換他

中性子構造解析

ミオグロビン ルブレドキシン(野生型変

異型)

ニ ワ ト リ 卵 白 リ ゾ チ ー ム

(pH49)他

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

3

0

0

0

0

1

0

0

0

0

0

0

0

0

4

4

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

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0

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0

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0

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0

0

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0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

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13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

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multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

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15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

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16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

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17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

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the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

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2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

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3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

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国外誌

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factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

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9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

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7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

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4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

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5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

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3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

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2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

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3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 3: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

1

研究計画の概要

研究の趣旨

「開放的融合研究」は次のような趣旨で公募された最近の科学及び科学技術の進歩は目を見張るような速度で進歩す

ると同時に多様化し特に旧来の学問分野だけでなくその中間領域いわゆる学際領域の進歩がこれに拍車をかけている

このように学際領域の学問は新しい科学の開拓には必須となってきているが学問の専門性と細分化によりそれの更なる

発展にはそれを意識した研究の交流と情報発信による周囲の理解が必要となるそのために二つ以上の研究機関がそ

れぞれの得意な研究手法を持ち寄り交流することである学際領域をいわゆる 1+1=2以上の効果を出すことで開発発展

させるために発足したのが開放的融合研究である

当該「水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓」はまさにこの趣旨に乗っ取って立てられた研究計画である

35億年に亘り繰り返された生物進化の歴史は複雑多種多様な生命体が生き延びるのに全く巧妙な機構を創出してきた

21 世紀に入りヒトゲノムの解読が完了し人間は自らの生命の設計図を手にしいよいよこの設計図をもとに本格的な生命

現象を理解する時代ポストゲノム時代に入ったのであるタンパク質や DNA は立体構造を形成して初めて機能を発揮する

立体構造解析の主流は放射光X線やNMRであるしかし生理機能に直接関与する水素原子や完全な水和構造はX線や

NMR では決定困難である生体物質の生理機能に関わる殆どの反応(例えば加水分解脱水素酸化還元リン酸化脱リ

ン酸化等多数)にタンパク質や基質の水素原子及び水和水が直接関与していることからも明らかなように生命現象の中で

水素原子の果たす役割や生体物質と水との関わりは大変重要であるタンパク質の構成単位であるアミノ酸は大きくわけて

疎水性と親水性のものがありこれらはタンパク質立体構造形成に際し周囲の環境(水溶液脂質膜等)に適した配置をとる

ことで立体構造の安定化がはかられていることからも水素と水和水はタンパク質の立体構造構築原理にも深く関わっている

ことはよく判るしかしタンパク質分子の水素原子や水素原子まで含めての水和水を原子レベルで観察した例は少なく生

命現象の中で水素原子の果たす役割や生体物質と水との関わりの多くは類推で議論される事が多かった

一方中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法である日本原子

力研究所は世界に先駆けて中性子イメージングプレートを開発実用化しタンパク質や核酸の中性子回折実験を可能に

したまた農業生物資源研究所ではX線結晶解析法NMR分光法で食品産業や医療に役立つ薬理活性物質や新機能

タンパク質の構造を決定してきた

日本原子力研究所はタンパク質や核酸の中性子回折実験技術をさらに高めそれに関連する基本技術を開発し農業

生物資源研究所は中性子回折実験に適したタンパク質の準備とそれの基本立体構造を X線や NMRで決定するこのよう

にして決定された立体構造は中性子回折実験のための初期モデルにもなるこのように準備の整ったタンパク質の中性子

回折実験を日本原子力研究所で実施し水素水和構造を決定しこうして得られる基礎研究の成果を食品産業や医療に

役立つ薬理活性物質や新機能タンパク質の開発にも活かす

開放的融合研究のもう一つの重様な要因は情報発信であるそのために国際シンポジウムを 1回年開催し当該研

究に関連した国内外の著名な研究者を招聘し我々の研究成果を発信すると同時に彼等の研究成果を発表してもらい

研究交流を行う

研究の概要

中性子回折実験技術の高度化中性子は水素原子と強い相互作用するのでタンパク質の水素原子を観測するのに適

したプローブである日本原子力研究所は中性子イメージングプレートを開発実用化しそれを装備した中性子回折装置

を建設したがX 線と較べて中性子強度は 8 桁から 12 桁の差があるので中性子回折実験データ取得には相当の時間

(約 4週間)がかかる何とかこれの障壁を小さくするためにさらに関連する中性子回折実験技術を高度化しデータ収集

効率を上げることを行う

中性子回折実験には大型のタンパク質単結晶(1mm 角程度)が必要であるこのような単結晶を取得するにはX 線結

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

2

晶構造解析に必要な結晶を得るのに採用している試行錯誤による手法では限界があるそこでタンパク質結晶成長の

機構を解明しこの機構に乗っ取って結晶成長を実施する必要があるそのために結晶成長の相図を決定し相図と結

晶育成の関連を解明しこれに基づいた結晶育成技術を開発することを試みる

基本的なタンパク質(ミオグロビンルブレドキシンリゾチーム)の中性子回折実験を行いタンパク質の中性子解析手

法を確立する併せてそれにより得られた水素水和構造を分類し水素水和構造の基礎を確立する

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある特に生物学的に興味深い高度に制御されたタンパク質

核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明には水素や水和構造を含む構造生物学的研究が必要に

なってきている中性子回折実験用試料として生物学的に興味深いタンパク質の大きな結晶を作成するのは基本的な

タンパク質に比べ一般に困難が予想されるしかし多少結晶サイズが小さくても試料となるタンパク質を完全重水素化

することにより中性子回折実験を有利に行うことが可能である従って生物研では遺伝子組換え技術を利用して完全

重水素化タンパク質の大量調整結晶化を行うと共にその作製技術を確立する一方X線解析法を利用した場合でもタ

ンパク質の一部の水素原子位置決定は可能である分解能 10Åを超える高分解能X線データを与える結晶を作成し差

フーリエ解析からタンパク質の水素原子位置を部分的にせよ決定を試みるまたタンパク質-タンパク質複合体のX線解

析を行い複合体構造の安定化分子認識に水分子がどのように関与するかその役割について研究する

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

3

実施体制

研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

(1) 物理学的結晶作製技術の開発

(2) 生化学的結晶作製技術の開発

(3) 高分解能 X線解析

(4) 機能解析と分子動力学計算

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

明治薬科大学

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

藤本 瑞(主任研究官)

古市 真木雄

新井 栄揮

茶竹 俊行

鴨志田 薫

前田 満

徐 新顔

水野 洋(研究チーム長)

高瀬 研二

若生 俊行

香川 正行

目野 浩二

Thirumananseri Kumaravel

増田 洋美

森田 隆司

久野 敦

水野 洋(研究チーム長)

門間 充

藤本 瑞

鹿本 康生

堀井 克紀

真板 宣夫

須藤 恭子

Penmecha Kumar

山崎 俊正(主任研究官)

加藤 悦子

前田 美紀

八田 知久

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素

水和構造決定手法の開発

(1) 高分子中性子回折計の設計製作

(2) DNAタンパク質等の中性子回折実験

日本原子力研究所

日本原子力研究所

高エネルギー加速器研究機構

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

田中 伊知朗(研究員)

栗原 和男

大原 高志

茶竹 俊行(博士研究員)

新井 栄揮

栗原 和男

Andreas Ostermann

鴨志田 薫

前田 満

(注はサブテーマ責任者)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

4

融合研究評価委員会

氏 名 所 属

John Helliwell

Eric Westhof

池原 森男

大島 泰郎

久保寺 昭子

郷 信広

高良 和武

田中 信夫

安岡 則武

マンチェスター大学 教授

ルイパスツール大学 教授

大阪大学 名誉教授

東京薬科大学 教授

東京理科大学 名誉教授

日本原子力研究所 計算科学技術推進センター

量子生命情報解析グループ リーダー

筑波研究学園 理事長

東京工業大学 教授

姫路工業大学 名誉教授

研究評価委員長

融合研究推進委員会

氏 名 所 属

田中 俊一

岡田 漱平

藤井 保彦

肥後 健一

新保 博

宮下 清貴

特殊法人 日本原子力研究所 理事東海研究所所長

特殊法人 日本原子力研究所 企画室長

特殊法人 日本原子力研究所 中性子科学研究センター長

独立行政法人 農業生物資源研究所 理事

独立行政法人 農業生物資源研究所 企画調整部長

独立行政法人 農業生物資源研究所 研究企画調整官

研究推進委員長

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

5

研究成果の概要

総 括

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価しタンパク質や核酸の水素水和構造に関する種々の構造情報を抽出することに成功したまた中性

子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでタンパク質や核酸の大型結晶育成を系

統的に育成する手法を開発した

完全重水素化タンパク質は中性子回折実験用試料として重要なことから遺伝子組換え技術を利用して3種類のタン

パク質の完全重水素化に成功したまた遺伝子組換え技術法としてはin vitro タンパク質合成系Pichia pastoris系大

腸菌 in vivo 系によるタンパク質の完全重水素化法を確立した一方分解能 10Åを超える高分解能X線解析法により

差フーリエ図からタンパク質の水素原子位置を部分的に決定することに成功したまたタンパク質複合体のX線解析から

分子間に存在する水分子が複合体構造の安定化分子認識に関与していることを見出した

サブテーマ毎個別課題毎の概要

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつあるタンパク質や核酸等のすべての水素原子位置を決定出

来る実験手法としては現在のところ中性子線回折法が唯一の手法である中性子線回折用の結晶は相当大きなサイズで

なければならないさらに中性子線回折実験を有利にするためにはタンパク質を完全重水素化することである我々は

小麦胚芽抽出物を利用した in vitroタンパク質合成システムPichia pastoris系大腸菌 in vivo系を利用して3種類の完全

重水素化タンパク質の調製結晶化に成功した一方一部のタンパク質について分解能 10Åを超える高分解能X線解

析法を行い差フーリエ法により水素原子位置を部分的に決定することに成功した

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価し荷電性アミノ酸の水素原子の結合様式α-ヘリックス安定化に寄与する新しい2分岐水素結合水素

原子を含めた水素結合の強弱関係タンパク質内水素重水素交換反応の定量化変化に富んだダイナミクな水和構造

等新しい発見が次々になされているこれらを分類することで水素原子の寄与する結合の詳細と一般即が判明しつつあ

るまた中性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することで DNA(2mm x 2mm x

03mm)やインスリン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させた

波及効果発展方向改善点等

中性子回折装置(BIX-3)はその高性能が世界で高く評価され現在ドイツオーストラリア米国韓国で同種の中性子

回折装置の建設が検討されているまた国内ではタンパク質の水素水和構造決定のみならず有機化合物中の水素原

子や水和構造の決定にも BIX-3を使いたい旨の要求が始まっている

基本的なタンパク質であるがその水素原子や水和構造が詳細に判明したことで中性子構造生物学が創薬に応用出

来る可能性が出てきており特に水素水和構造のデータベースを構築しタンパク質や核酸内の水素結合のシミュレーシ

ョンを可能にする基礎データの提供が期待されている

大型タンパク質単結晶育成技術はX線結晶構造解析用良質単結晶育成にも応用できるのでそのための結晶育成依

頼が来始めている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

6

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 サブテーマ1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

サブテーマ2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の 水素水和構造決定手法の開発

高分解能 X 線解析

糖 分 解 酵 素 Streptmyces

olivaceoviridis E-86 キシラナ

ーゼ

蛇毒由来 C 型レクチン様タンパ

ク質 IX-bpGla 複合体および

X-bpGla 複合 ディスインテグリン他

完全重水素化タンパク質の作製

ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

硫酸還元菌由来 FMN-bp DsrD 他

物理学的結晶作製技術の開発

相図に基づいた大型結晶育成

の開発 結晶評価法の確立

中性子回折装置

BIX-3BIX-4

トピックス

水和水構造

水素結合 HD交換他

中性子構造解析

ミオグロビン ルブレドキシン(野生型変

異型)

ニ ワ ト リ 卵 白 リ ゾ チ ー ム

(pH49)他

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

3

0

0

0

0

1

0

0

0

0

0

0

0

0

4

4

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

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lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

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neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

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13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

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14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

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15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

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16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

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regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

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1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

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2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

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3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

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high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

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成果の発表

原著論文による発表

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4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

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Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

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5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

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3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

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of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

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13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 4: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

2

晶構造解析に必要な結晶を得るのに採用している試行錯誤による手法では限界があるそこでタンパク質結晶成長の

機構を解明しこの機構に乗っ取って結晶成長を実施する必要があるそのために結晶成長の相図を決定し相図と結

晶育成の関連を解明しこれに基づいた結晶育成技術を開発することを試みる

基本的なタンパク質(ミオグロビンルブレドキシンリゾチーム)の中性子回折実験を行いタンパク質の中性子解析手

法を確立する併せてそれにより得られた水素水和構造を分類し水素水和構造の基礎を確立する

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある特に生物学的に興味深い高度に制御されたタンパク質

核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明には水素や水和構造を含む構造生物学的研究が必要に

なってきている中性子回折実験用試料として生物学的に興味深いタンパク質の大きな結晶を作成するのは基本的な

タンパク質に比べ一般に困難が予想されるしかし多少結晶サイズが小さくても試料となるタンパク質を完全重水素化

することにより中性子回折実験を有利に行うことが可能である従って生物研では遺伝子組換え技術を利用して完全

重水素化タンパク質の大量調整結晶化を行うと共にその作製技術を確立する一方X線解析法を利用した場合でもタ

ンパク質の一部の水素原子位置決定は可能である分解能 10Åを超える高分解能X線データを与える結晶を作成し差

フーリエ解析からタンパク質の水素原子位置を部分的にせよ決定を試みるまたタンパク質-タンパク質複合体のX線解

析を行い複合体構造の安定化分子認識に水分子がどのように関与するかその役割について研究する

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

3

実施体制

研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

(1) 物理学的結晶作製技術の開発

(2) 生化学的結晶作製技術の開発

(3) 高分解能 X線解析

(4) 機能解析と分子動力学計算

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

明治薬科大学

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

藤本 瑞(主任研究官)

古市 真木雄

新井 栄揮

茶竹 俊行

鴨志田 薫

前田 満

徐 新顔

水野 洋(研究チーム長)

高瀬 研二

若生 俊行

香川 正行

目野 浩二

Thirumananseri Kumaravel

増田 洋美

森田 隆司

久野 敦

水野 洋(研究チーム長)

門間 充

藤本 瑞

鹿本 康生

堀井 克紀

真板 宣夫

須藤 恭子

Penmecha Kumar

山崎 俊正(主任研究官)

加藤 悦子

前田 美紀

八田 知久

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素

水和構造決定手法の開発

(1) 高分子中性子回折計の設計製作

(2) DNAタンパク質等の中性子回折実験

日本原子力研究所

日本原子力研究所

高エネルギー加速器研究機構

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

田中 伊知朗(研究員)

栗原 和男

大原 高志

茶竹 俊行(博士研究員)

新井 栄揮

栗原 和男

Andreas Ostermann

鴨志田 薫

前田 満

(注はサブテーマ責任者)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

4

融合研究評価委員会

氏 名 所 属

John Helliwell

Eric Westhof

池原 森男

大島 泰郎

久保寺 昭子

郷 信広

高良 和武

田中 信夫

安岡 則武

マンチェスター大学 教授

ルイパスツール大学 教授

大阪大学 名誉教授

東京薬科大学 教授

東京理科大学 名誉教授

日本原子力研究所 計算科学技術推進センター

量子生命情報解析グループ リーダー

筑波研究学園 理事長

東京工業大学 教授

姫路工業大学 名誉教授

研究評価委員長

融合研究推進委員会

氏 名 所 属

田中 俊一

岡田 漱平

藤井 保彦

肥後 健一

新保 博

宮下 清貴

特殊法人 日本原子力研究所 理事東海研究所所長

特殊法人 日本原子力研究所 企画室長

特殊法人 日本原子力研究所 中性子科学研究センター長

独立行政法人 農業生物資源研究所 理事

独立行政法人 農業生物資源研究所 企画調整部長

独立行政法人 農業生物資源研究所 研究企画調整官

研究推進委員長

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

5

研究成果の概要

総 括

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価しタンパク質や核酸の水素水和構造に関する種々の構造情報を抽出することに成功したまた中性

子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでタンパク質や核酸の大型結晶育成を系

統的に育成する手法を開発した

完全重水素化タンパク質は中性子回折実験用試料として重要なことから遺伝子組換え技術を利用して3種類のタン

パク質の完全重水素化に成功したまた遺伝子組換え技術法としてはin vitro タンパク質合成系Pichia pastoris系大

腸菌 in vivo 系によるタンパク質の完全重水素化法を確立した一方分解能 10Åを超える高分解能X線解析法により

差フーリエ図からタンパク質の水素原子位置を部分的に決定することに成功したまたタンパク質複合体のX線解析から

分子間に存在する水分子が複合体構造の安定化分子認識に関与していることを見出した

サブテーマ毎個別課題毎の概要

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつあるタンパク質や核酸等のすべての水素原子位置を決定出

来る実験手法としては現在のところ中性子線回折法が唯一の手法である中性子線回折用の結晶は相当大きなサイズで

なければならないさらに中性子線回折実験を有利にするためにはタンパク質を完全重水素化することである我々は

小麦胚芽抽出物を利用した in vitroタンパク質合成システムPichia pastoris系大腸菌 in vivo系を利用して3種類の完全

重水素化タンパク質の調製結晶化に成功した一方一部のタンパク質について分解能 10Åを超える高分解能X線解

析法を行い差フーリエ法により水素原子位置を部分的に決定することに成功した

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価し荷電性アミノ酸の水素原子の結合様式α-ヘリックス安定化に寄与する新しい2分岐水素結合水素

原子を含めた水素結合の強弱関係タンパク質内水素重水素交換反応の定量化変化に富んだダイナミクな水和構造

等新しい発見が次々になされているこれらを分類することで水素原子の寄与する結合の詳細と一般即が判明しつつあ

るまた中性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することで DNA(2mm x 2mm x

03mm)やインスリン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させた

波及効果発展方向改善点等

中性子回折装置(BIX-3)はその高性能が世界で高く評価され現在ドイツオーストラリア米国韓国で同種の中性子

回折装置の建設が検討されているまた国内ではタンパク質の水素水和構造決定のみならず有機化合物中の水素原

子や水和構造の決定にも BIX-3を使いたい旨の要求が始まっている

基本的なタンパク質であるがその水素原子や水和構造が詳細に判明したことで中性子構造生物学が創薬に応用出

来る可能性が出てきており特に水素水和構造のデータベースを構築しタンパク質や核酸内の水素結合のシミュレーシ

ョンを可能にする基礎データの提供が期待されている

大型タンパク質単結晶育成技術はX線結晶構造解析用良質単結晶育成にも応用できるのでそのための結晶育成依

頼が来始めている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

6

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 サブテーマ1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

サブテーマ2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の 水素水和構造決定手法の開発

高分解能 X 線解析

糖 分 解 酵 素 Streptmyces

olivaceoviridis E-86 キシラナ

ーゼ

蛇毒由来 C 型レクチン様タンパ

ク質 IX-bpGla 複合体および

X-bpGla 複合 ディスインテグリン他

完全重水素化タンパク質の作製

ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

硫酸還元菌由来 FMN-bp DsrD 他

物理学的結晶作製技術の開発

相図に基づいた大型結晶育成

の開発 結晶評価法の確立

中性子回折装置

BIX-3BIX-4

トピックス

水和水構造

水素結合 HD交換他

中性子構造解析

ミオグロビン ルブレドキシン(野生型変

異型)

ニ ワ ト リ 卵 白 リ ゾ チ ー ム

(pH49)他

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

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0

0

0

3

0

0

0

0

1

0

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0

4

4

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

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0

0

0

0

0

0

0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

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0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

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0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

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国外誌

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2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

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10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

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11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

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12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

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13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

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14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 5: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

3

実施体制

研 究 項 目 担当機関等 研究担当者

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

(1) 物理学的結晶作製技術の開発

(2) 生化学的結晶作製技術の開発

(3) 高分解能 X線解析

(4) 機能解析と分子動力学計算

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

明治薬科大学

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

産業技術総合研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

農業生物資源研究所

藤本 瑞(主任研究官)

古市 真木雄

新井 栄揮

茶竹 俊行

鴨志田 薫

前田 満

徐 新顔

水野 洋(研究チーム長)

高瀬 研二

若生 俊行

香川 正行

目野 浩二

Thirumananseri Kumaravel

増田 洋美

森田 隆司

久野 敦

水野 洋(研究チーム長)

門間 充

藤本 瑞

鹿本 康生

堀井 克紀

真板 宣夫

須藤 恭子

Penmecha Kumar

山崎 俊正(主任研究官)

加藤 悦子

前田 美紀

八田 知久

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素

水和構造決定手法の開発

(1) 高分子中性子回折計の設計製作

(2) DNAタンパク質等の中性子回折実験

日本原子力研究所

日本原子力研究所

高エネルギー加速器研究機構

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

日本原子力研究所

田中 伊知朗(研究員)

栗原 和男

大原 高志

茶竹 俊行(博士研究員)

新井 栄揮

栗原 和男

Andreas Ostermann

鴨志田 薫

前田 満

(注はサブテーマ責任者)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

4

融合研究評価委員会

氏 名 所 属

John Helliwell

Eric Westhof

池原 森男

大島 泰郎

久保寺 昭子

郷 信広

高良 和武

田中 信夫

安岡 則武

マンチェスター大学 教授

ルイパスツール大学 教授

大阪大学 名誉教授

東京薬科大学 教授

東京理科大学 名誉教授

日本原子力研究所 計算科学技術推進センター

量子生命情報解析グループ リーダー

筑波研究学園 理事長

東京工業大学 教授

姫路工業大学 名誉教授

研究評価委員長

融合研究推進委員会

氏 名 所 属

田中 俊一

岡田 漱平

藤井 保彦

肥後 健一

新保 博

宮下 清貴

特殊法人 日本原子力研究所 理事東海研究所所長

特殊法人 日本原子力研究所 企画室長

特殊法人 日本原子力研究所 中性子科学研究センター長

独立行政法人 農業生物資源研究所 理事

独立行政法人 農業生物資源研究所 企画調整部長

独立行政法人 農業生物資源研究所 研究企画調整官

研究推進委員長

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

5

研究成果の概要

総 括

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価しタンパク質や核酸の水素水和構造に関する種々の構造情報を抽出することに成功したまた中性

子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでタンパク質や核酸の大型結晶育成を系

統的に育成する手法を開発した

完全重水素化タンパク質は中性子回折実験用試料として重要なことから遺伝子組換え技術を利用して3種類のタン

パク質の完全重水素化に成功したまた遺伝子組換え技術法としてはin vitro タンパク質合成系Pichia pastoris系大

腸菌 in vivo 系によるタンパク質の完全重水素化法を確立した一方分解能 10Åを超える高分解能X線解析法により

差フーリエ図からタンパク質の水素原子位置を部分的に決定することに成功したまたタンパク質複合体のX線解析から

分子間に存在する水分子が複合体構造の安定化分子認識に関与していることを見出した

サブテーマ毎個別課題毎の概要

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつあるタンパク質や核酸等のすべての水素原子位置を決定出

来る実験手法としては現在のところ中性子線回折法が唯一の手法である中性子線回折用の結晶は相当大きなサイズで

なければならないさらに中性子線回折実験を有利にするためにはタンパク質を完全重水素化することである我々は

小麦胚芽抽出物を利用した in vitroタンパク質合成システムPichia pastoris系大腸菌 in vivo系を利用して3種類の完全

重水素化タンパク質の調製結晶化に成功した一方一部のタンパク質について分解能 10Åを超える高分解能X線解

析法を行い差フーリエ法により水素原子位置を部分的に決定することに成功した

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価し荷電性アミノ酸の水素原子の結合様式α-ヘリックス安定化に寄与する新しい2分岐水素結合水素

原子を含めた水素結合の強弱関係タンパク質内水素重水素交換反応の定量化変化に富んだダイナミクな水和構造

等新しい発見が次々になされているこれらを分類することで水素原子の寄与する結合の詳細と一般即が判明しつつあ

るまた中性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することで DNA(2mm x 2mm x

03mm)やインスリン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させた

波及効果発展方向改善点等

中性子回折装置(BIX-3)はその高性能が世界で高く評価され現在ドイツオーストラリア米国韓国で同種の中性子

回折装置の建設が検討されているまた国内ではタンパク質の水素水和構造決定のみならず有機化合物中の水素原

子や水和構造の決定にも BIX-3を使いたい旨の要求が始まっている

基本的なタンパク質であるがその水素原子や水和構造が詳細に判明したことで中性子構造生物学が創薬に応用出

来る可能性が出てきており特に水素水和構造のデータベースを構築しタンパク質や核酸内の水素結合のシミュレーシ

ョンを可能にする基礎データの提供が期待されている

大型タンパク質単結晶育成技術はX線結晶構造解析用良質単結晶育成にも応用できるのでそのための結晶育成依

頼が来始めている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

6

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 サブテーマ1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

サブテーマ2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の 水素水和構造決定手法の開発

高分解能 X 線解析

糖 分 解 酵 素 Streptmyces

olivaceoviridis E-86 キシラナ

ーゼ

蛇毒由来 C 型レクチン様タンパ

ク質 IX-bpGla 複合体および

X-bpGla 複合 ディスインテグリン他

完全重水素化タンパク質の作製

ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

硫酸還元菌由来 FMN-bp DsrD 他

物理学的結晶作製技術の開発

相図に基づいた大型結晶育成

の開発 結晶評価法の確立

中性子回折装置

BIX-3BIX-4

トピックス

水和水構造

水素結合 HD交換他

中性子構造解析

ミオグロビン ルブレドキシン(野生型変

異型)

ニ ワ ト リ 卵 白 リ ゾ チ ー ム

(pH49)他

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

3

0

0

0

0

1

0

0

0

0

0

0

0

0

4

4

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

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neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

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3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

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6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

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7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

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9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

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the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

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2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 6: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

4

融合研究評価委員会

氏 名 所 属

John Helliwell

Eric Westhof

池原 森男

大島 泰郎

久保寺 昭子

郷 信広

高良 和武

田中 信夫

安岡 則武

マンチェスター大学 教授

ルイパスツール大学 教授

大阪大学 名誉教授

東京薬科大学 教授

東京理科大学 名誉教授

日本原子力研究所 計算科学技術推進センター

量子生命情報解析グループ リーダー

筑波研究学園 理事長

東京工業大学 教授

姫路工業大学 名誉教授

研究評価委員長

融合研究推進委員会

氏 名 所 属

田中 俊一

岡田 漱平

藤井 保彦

肥後 健一

新保 博

宮下 清貴

特殊法人 日本原子力研究所 理事東海研究所所長

特殊法人 日本原子力研究所 企画室長

特殊法人 日本原子力研究所 中性子科学研究センター長

独立行政法人 農業生物資源研究所 理事

独立行政法人 農業生物資源研究所 企画調整部長

独立行政法人 農業生物資源研究所 研究企画調整官

研究推進委員長

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

5

研究成果の概要

総 括

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価しタンパク質や核酸の水素水和構造に関する種々の構造情報を抽出することに成功したまた中性

子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでタンパク質や核酸の大型結晶育成を系

統的に育成する手法を開発した

完全重水素化タンパク質は中性子回折実験用試料として重要なことから遺伝子組換え技術を利用して3種類のタン

パク質の完全重水素化に成功したまた遺伝子組換え技術法としてはin vitro タンパク質合成系Pichia pastoris系大

腸菌 in vivo 系によるタンパク質の完全重水素化法を確立した一方分解能 10Åを超える高分解能X線解析法により

差フーリエ図からタンパク質の水素原子位置を部分的に決定することに成功したまたタンパク質複合体のX線解析から

分子間に存在する水分子が複合体構造の安定化分子認識に関与していることを見出した

サブテーマ毎個別課題毎の概要

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつあるタンパク質や核酸等のすべての水素原子位置を決定出

来る実験手法としては現在のところ中性子線回折法が唯一の手法である中性子線回折用の結晶は相当大きなサイズで

なければならないさらに中性子線回折実験を有利にするためにはタンパク質を完全重水素化することである我々は

小麦胚芽抽出物を利用した in vitroタンパク質合成システムPichia pastoris系大腸菌 in vivo系を利用して3種類の完全

重水素化タンパク質の調製結晶化に成功した一方一部のタンパク質について分解能 10Åを超える高分解能X線解

析法を行い差フーリエ法により水素原子位置を部分的に決定することに成功した

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価し荷電性アミノ酸の水素原子の結合様式α-ヘリックス安定化に寄与する新しい2分岐水素結合水素

原子を含めた水素結合の強弱関係タンパク質内水素重水素交換反応の定量化変化に富んだダイナミクな水和構造

等新しい発見が次々になされているこれらを分類することで水素原子の寄与する結合の詳細と一般即が判明しつつあ

るまた中性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することで DNA(2mm x 2mm x

03mm)やインスリン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させた

波及効果発展方向改善点等

中性子回折装置(BIX-3)はその高性能が世界で高く評価され現在ドイツオーストラリア米国韓国で同種の中性子

回折装置の建設が検討されているまた国内ではタンパク質の水素水和構造決定のみならず有機化合物中の水素原

子や水和構造の決定にも BIX-3を使いたい旨の要求が始まっている

基本的なタンパク質であるがその水素原子や水和構造が詳細に判明したことで中性子構造生物学が創薬に応用出

来る可能性が出てきており特に水素水和構造のデータベースを構築しタンパク質や核酸内の水素結合のシミュレーシ

ョンを可能にする基礎データの提供が期待されている

大型タンパク質単結晶育成技術はX線結晶構造解析用良質単結晶育成にも応用できるのでそのための結晶育成依

頼が来始めている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

6

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 サブテーマ1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

サブテーマ2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の 水素水和構造決定手法の開発

高分解能 X 線解析

糖 分 解 酵 素 Streptmyces

olivaceoviridis E-86 キシラナ

ーゼ

蛇毒由来 C 型レクチン様タンパ

ク質 IX-bpGla 複合体および

X-bpGla 複合 ディスインテグリン他

完全重水素化タンパク質の作製

ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

硫酸還元菌由来 FMN-bp DsrD 他

物理学的結晶作製技術の開発

相図に基づいた大型結晶育成

の開発 結晶評価法の確立

中性子回折装置

BIX-3BIX-4

トピックス

水和水構造

水素結合 HD交換他

中性子構造解析

ミオグロビン ルブレドキシン(野生型変

異型)

ニ ワ ト リ 卵 白 リ ゾ チ ー ム

(pH49)他

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

3

0

0

0

0

1

0

0

0

0

0

0

0

0

4

4

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 7: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

5

研究成果の概要

総 括

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価しタンパク質や核酸の水素水和構造に関する種々の構造情報を抽出することに成功したまた中性

子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでタンパク質や核酸の大型結晶育成を系

統的に育成する手法を開発した

完全重水素化タンパク質は中性子回折実験用試料として重要なことから遺伝子組換え技術を利用して3種類のタン

パク質の完全重水素化に成功したまた遺伝子組換え技術法としてはin vitro タンパク質合成系Pichia pastoris系大

腸菌 in vivo 系によるタンパク質の完全重水素化法を確立した一方分解能 10Åを超える高分解能X線解析法により

差フーリエ図からタンパク質の水素原子位置を部分的に決定することに成功したまたタンパク質複合体のX線解析から

分子間に存在する水分子が複合体構造の安定化分子認識に関与していることを見出した

サブテーマ毎個別課題毎の概要

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

タンパク質核酸中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明らかになっ

てきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつあるタンパク質や核酸等のすべての水素原子位置を決定出

来る実験手法としては現在のところ中性子線回折法が唯一の手法である中性子線回折用の結晶は相当大きなサイズで

なければならないさらに中性子線回折実験を有利にするためにはタンパク質を完全重水素化することである我々は

小麦胚芽抽出物を利用した in vitroタンパク質合成システムPichia pastoris系大腸菌 in vivo系を利用して3種類の完全

重水素化タンパク質の調製結晶化に成功した一方一部のタンパク質について分解能 10Åを超える高分解能X線解

析法を行い差フーリエ法により水素原子位置を部分的に決定することに成功した

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

世界に先駆けて開発した中性子イメージングプレートを装備した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)を用い基本的

なタンパク質を高分解能で全水素全水和水決定を行うことに成功したこれらの水素水和構造を含めたタンパク質構造

を総合的に評価し荷電性アミノ酸の水素原子の結合様式α-ヘリックス安定化に寄与する新しい2分岐水素結合水素

原子を含めた水素結合の強弱関係タンパク質内水素重水素交換反応の定量化変化に富んだダイナミクな水和構造

等新しい発見が次々になされているこれらを分類することで水素原子の寄与する結合の詳細と一般即が判明しつつあ

るまた中性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することで DNA(2mm x 2mm x

03mm)やインスリン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させた

波及効果発展方向改善点等

中性子回折装置(BIX-3)はその高性能が世界で高く評価され現在ドイツオーストラリア米国韓国で同種の中性子

回折装置の建設が検討されているまた国内ではタンパク質の水素水和構造決定のみならず有機化合物中の水素原

子や水和構造の決定にも BIX-3を使いたい旨の要求が始まっている

基本的なタンパク質であるがその水素原子や水和構造が詳細に判明したことで中性子構造生物学が創薬に応用出

来る可能性が出てきており特に水素水和構造のデータベースを構築しタンパク質や核酸内の水素結合のシミュレーシ

ョンを可能にする基礎データの提供が期待されている

大型タンパク質単結晶育成技術はX線結晶構造解析用良質単結晶育成にも応用できるのでそのための結晶育成依

頼が来始めている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

6

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 サブテーマ1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

サブテーマ2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の 水素水和構造決定手法の開発

高分解能 X 線解析

糖 分 解 酵 素 Streptmyces

olivaceoviridis E-86 キシラナ

ーゼ

蛇毒由来 C 型レクチン様タンパ

ク質 IX-bpGla 複合体および

X-bpGla 複合 ディスインテグリン他

完全重水素化タンパク質の作製

ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

硫酸還元菌由来 FMN-bp DsrD 他

物理学的結晶作製技術の開発

相図に基づいた大型結晶育成

の開発 結晶評価法の確立

中性子回折装置

BIX-3BIX-4

トピックス

水和水構造

水素結合 HD交換他

中性子構造解析

ミオグロビン ルブレドキシン(野生型変

異型)

ニ ワ ト リ 卵 白 リ ゾ チ ー ム

(pH49)他

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

3

0

0

0

0

1

0

0

0

0

0

0

0

0

4

4

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 8: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

6

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓 サブテーマ1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

サブテーマ2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の 水素水和構造決定手法の開発

高分解能 X 線解析

糖 分 解 酵 素 Streptmyces

olivaceoviridis E-86 キシラナ

ーゼ

蛇毒由来 C 型レクチン様タンパ

ク質 IX-bpGla 複合体および

X-bpGla 複合 ディスインテグリン他

完全重水素化タンパク質の作製

ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

硫酸還元菌由来 FMN-bp DsrD 他

物理学的結晶作製技術の開発

相図に基づいた大型結晶育成

の開発 結晶評価法の確立

中性子回折装置

BIX-3BIX-4

トピックス

水和水構造

水素結合 HD交換他

中性子構造解析

ミオグロビン ルブレドキシン(野生型変

異型)

ニ ワ ト リ 卵 白 リ ゾ チ ー ム

(pH49)他

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

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1

1

1

0

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3

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4

4

4

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0

0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

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0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

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国外誌

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factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

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2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

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10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

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11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

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12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

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13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

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14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

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15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

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16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

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17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

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18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 9: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

7

所要経費(サブテーマ毎)

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 11

年度

12

年度

13

年度

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

140637

158690

140503

156595

153458

145710

所 要 経 費 (合 計) 299327 297098 299168

(単位千円)

所要経費

研 究 項 目 担当機関等 研 究

担当者 14

年度

15

年度() 合計

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機

構の解明

2 中性子回折法によるタンパク質や核

酸の水素水和構造決定手法の開発

独立行政法人

農業生物資源研究所

特殊法人

日本原子力研究所

水野 洋

新村 信雄

150388

155091

146072

151749

731058

773373

所 要 経 費 (合 計) 305479 297821 1498893

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

3

0

0

0

0

1

0

0

0

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0

0

0

0

4

4

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

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0

0

0

0

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0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 10: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

8

研究成果の発表状況

(1) 研究発表件数

原著論文による発表 左記以外の誌上発表 口頭発表 合 計

国 内 第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 6件

第Ⅰ期 9件

第Ⅱ期 10件

第Ⅰ期 59件

第Ⅱ期 65件

第Ⅰ期 70件

第Ⅱ期 81件

国 外 第Ⅰ期 17件

第Ⅱ期 35件

第Ⅰ期 2件

第Ⅱ期 3件

第Ⅰ期 34件

第Ⅱ期 50件

第Ⅰ期 53件

第Ⅱ期 87件

合 計 第Ⅰ期 19件

第Ⅱ期 41件

第Ⅰ期 11件

第Ⅱ期 13件

第Ⅰ期 93件

第Ⅱ期 115件

第Ⅰ期 123件

第Ⅱ期 169件

(2) 特許等出願件数

第Ⅰ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

第Ⅱ期 2件 (うち国内 2件国外 0件)

合計 4件 (うち国内 4件国外 0件)

(3) 受賞等

第Ⅰ期 0件 (うち国内 0件国外 0件)

第Ⅱ期 1件 (うち国内 1件国外 0件)

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構造生

物学の発展」 20031211

(4) 主な原著論文による発表の内訳

タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

1 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko SYoshida HKobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

2 H Mizuno Z Fujimoto Hideko Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

3 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

4 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

5 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain of

factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

6 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein Ib

αbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

7 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a disintegrin

containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

8 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of collagen

receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

9 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis a-amylase in

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

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4

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19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

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13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

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multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

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15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

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16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

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17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

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the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

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2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

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3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

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国外誌

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factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

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9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

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7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

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4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

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5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

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3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

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2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

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3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 11: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

9

complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

10 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem 279

9606-9614 (2004)

中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for

a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

3 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru Meth

A487(3) 504-510 (2002)

4 Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as seen by a

Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

5 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

6 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

7 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

8 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of cubic

insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

9 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

10 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals

for diffraction experiment Acta Cryst D60(5) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

0

0

0

0

0

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3

0

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1

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4

4

4

3

2

1

1

1

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1

1

1

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0

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0

0

0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 12: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

10

(5)主要雑誌への研究成果発表

Journal Impact Factor サブテーマ 1 サブテーマ 2 サブテーマ 3 合計

Acta Cryst D

J Mol Biol

J Biol Chem

Biochemistry

J Biochem

Proc Nat Acad Sci USA

Plant Cell

Nucleic Acids Res

Structure

J Virology

J Bacteriology

Biochem BiophysRes Commun

Protein Expression and Purification

Biosci Biotech Biochem

J Appl Cryst

J Phys Soc Jpn

J Phys Chem Solids

J Synchrotron Rad

Biophys Chem

Curr Opi Struct Biol

Proteins

Appl Phys A

J Crystal Growth

Cell Biochem Biophys

Z Kristallogr

Nucl Instru Meth A

1760

5359

6696

4064

1878

10700

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

1871

1596

1140

0885

1494

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

8

5

4

3

2

1

1

1

1

1

1

1

1

1

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3

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1

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4

4

4

3

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0

19360

26795

26784

12192

3756

21400

10751

7051

6030

5241

3959

2935

1375

0992

7484

6384

4560

2655

2988

9630

4096

2231

1529

1521

1430

1167

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 13: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

11

1 タンパク質核酸の構造構築と制御機構の解明

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

農業生物資源研究所蛋白機能研究チーム

新村 信雄水野 洋新井 栄揮前田 満栗原 和男大西 裕季門間 充藤本 瑞鹿本 泰生古市 真木雄

香川 正行堀井 克紀須藤 恭子目野 浩二山崎 俊正田中 伊知朗Andreas Ostermann茶竹 俊行

鴨志田 薫

要 約

最近の研究でタンパク質中及び周辺の水素や水和構造は立体構造の維持や反応性に大きく関与していることが明ら

かになってきており水素原子位置情報の需要が急速に増大しつつある一方中性子線回折法はタンパク質や核酸等

のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるものの構造決定に至るまでの時間的な効率性や結晶育

成技術の高度化の必要性など解決すべき課題も多い従って中性子線回折法と従来のX線結晶解析NMR分光学

計算機科学手法を組み合わせた総合研究に取り組む必要がある本サブテーマでは生物学的に興味深いタンパク質

核酸等の生体高分子試料を調製し結晶化し水素以外の原子位置はX線解析を用いて決定したまた高分解能X線

解析により一部の水素原子位置を決定した中性子線解析は大きな結晶を必要とするのでその作製技術を試みたま

た中性子回折実験にとって有効な完全重水素化した生物学的に興味深い生体高分子試料を調製し結晶化した水素

原子位置決定は中性子線解析実験それ以外の原子位置決定はX線解析を利用した一方NMR計算機科学を利

用して動的構造解析を試みた最終的に上述の実験手法に基づき水素を含む全構造及び機能を明らかにし高度に制

御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化あるいは分子認識

におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行った

目 的

生物学的に興味深いタンパク質核酸など生体高分子試料を調製し結晶化し水素水分子を含む全構造を原子レ

ベルで明らかにする水素原子位置は中性子線解析それ以外の原子位置はX線解析を利用する中性子線解析は大

きな結晶を必要とするので物理学的及び生化学的結晶作製技術を開発するまた中性子回折実験にとって有効な完

全重水素置換タンパク質の作製を行う一方NMR計算機科学を利用してタンパク質の動的構造を明らかにする最終

的には中性子回折法X 線結晶解析法NMR 分光法計算機科学等を組み合わせて水素を含む全構造及び機能を明

らかにし高度に制御されたタンパク質核酸の構造構築原理酵素反応機構及び機能発現機構の解明構造の安定化

あるいは分子認識におよぼす水分子及び分子内分子間水素結合の直接的間接的関与の解明を行う

研究方法

先ず目的とするタンパク質遺伝子のクローニング発現精製を行う次に結晶を作製するための大量発現精製を行う

中性子線解析を行うには大きなサイズの結晶が必要なため相図溶解度曲線核形成などの物理的要因に基づく物理学

的結晶作製技術及び沈殿剤pHタンパク質濃度添加剤など生化学的要因に基づく生化学的結晶作製技術の開発を

行う一方水素原子を重水素置換したタンパク質結晶が中性子線解析に有用であるため小麦胚芽による in vitroタンパク

質合成システム酵母Pichia pastorisの系大腸菌 in vitroの系を利用して重水素置換タンパク質の発現精製結晶化を行

うX線データ測定は主として結晶を100Kに凍結し高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリー(PF)西播磨に

ある SPring-8 の両シンクロトロン放射光を利用して行う実際の測定の際にはタンパク質結晶に凍結防止剤を加え外部よ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

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3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

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6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

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7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

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9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

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10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

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2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 14: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

12

り液体窒素を吹き付けるシステムを用いる位相決定のために重原子誘導体結晶を作製し同様にX線データ測定を行う

構造解析にはCCP4 X-PLORなどを用いる中性子実験は原研で開発した装置を利用するタンパク質のNMR測定は1

mM濃度に調製したサンプルを Bruker DMX750を用いて 25 degCで行うNMRシグナルの帰属は多核種多次元 NMR法を

用いて定法に従って行い立体構造計算は X-PLOR を用いて行う一方計算機を利用したタンパク質の分子動力学や分

子軌道法計算には計算センターのOriginn3800及び SX-5マシンをはじめとするワークステーションを利用する

研究成果

11 物理学的結晶作製技術の開発

111 相図

1111 DNAオリゴマー

生体分子の大型単結晶育成(体積 1mm3以上)は中性子構造生物学の重要基盤である本研究では相図を含む溶解度

曲線を決定することによりB-DNA 十量体 d(CCATTAATGG)の大型単結晶育成に成功した[1]この結晶化相図により

DNA10mM2-メチル-24ペンタンジオール(MPD)30wvMgCl2 100mMの条件が大型単結晶育成に最適であると判明

し同条件から 27mm3以上の巨大単結晶を得ることが出来た

1112 インスリン

インスリンの結晶化条件は論文[2]を参考にして実行したインスリンの試料はブタインスリンを用いた沈殿剤としてリ

ン酸水素2ナトリウム(Na2HPO4)添加剤としてエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム(Na3EDTA)等を用いた結晶育成温

度は 25 度とした塩濃度―タンパク質濃度相図としてバッチ法を用いて 500μl の結晶溶液を調整し24 穴結晶化プレ

ートの穴に入れカバーガラスで密封して作成した図-1 に結果の相図を示した相図から明らかになった結晶化の最適条

件を基に透析法を用いて36x34x10mmのブタインスリンの大型結晶を得ることに成功した

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

05

1015202530

0 005 01 015 02 025 03

Na2HPO4 (M)

Insu

lin (m

gm

l)

8 mm

図-1 ブタインスリンの相図および最適条件を基に作製したブタインスリン

1113 2Zn インスリン

インスリン15mgmlあたり 00072M ZnSO4溶液を原液として結晶化剤にTrisodium citrateを用いてバッチ法で 2Zn イ

ンスリン結晶成長相図を 25度Cで作成した(インスリンは 40度C以上でないと溶解しない)この相図を基に透析法(内

液Insulin 15mgml (002M Dcl) 外液00072M ZnSO4 02M D-Trisodium citrate)で大型結晶育成を行い現在

1-15mm x 02mm x 02mmの結晶が得られている

112 結晶評価

結晶品質を簡便且つ迅速に評価する方法としてWilson Plotによる Overall B factorの利用を検討したX線回折データ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

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a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

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4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

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Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

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12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

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14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

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16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

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18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

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of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

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21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 15: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

13

図-2 蛍光標識リゾチームのトポロジー像(左)及び蛍光像(右)蛍光観測条

件励起波長=532nm ダイクロイックミラー カットオンエッジ波長=520nm

ショートパスフィルター カットオフ波長=650nm

のWilson Plotからは Overall B factorを得ることができるがd~3Åより低分解能の反射しか得られない場合は困難を伴う

本研究では上述の問題点を解決する Relative Wilson Plot法を開発しB型 DNA d(CCATTAATGG)DsrD蛋白質鶏卵

白リゾチームの結晶品質評価に成功した[3]例えば B型 DNA では式 1に基づき4種類の異なった条件で得られた結

晶について ln(YYA)対(sinθλ)2の Relative Wilson Plotを行った結果前述の DNA結晶化相図における溶解度極小付

近に近づくほど結晶品質が向上することが判明したこのことからMPD濃度一定の条件下における DNA結晶は低塩濃

度且つ低 DNA 濃度の条件であるほど大きさだけではなく品質も向上する傾向が明らかになったDNA と同様に結晶品

質が結晶化条件に依存しやすい傾向はDsrD 蛋白質においても確認された一方鶏卵白リゾチームは結晶品質が結

晶化条件に殆ど依存しないことが判明したRelative Wilson Plot法は既存の評価法と比較して実験条件の影響を受けに

くく迅速且つ簡便に利用することが出来るため非常に有効な手法である

(式 1)

Iobs(hkl)は実験データの測定強度λは入射 X線の波長(本研究ではλ=15418Å)fjは静止原子 jの原子構造因子

であるBは Overall B-factorkは測定強度を絶対尺度に直すための尺度因子である

113 Factrial design

溶解度曲線は結晶化における最も基礎を担うが殆どの場合溶解度のデータを調べる程十分な試料を手に入れること

は困難であるそこで生体物質の結晶化条件の初期スクリーニングを効率良く行う方法として Factorial design 法(以下

FD法)を用いたB型DNA d(CCATTAATGG)の結晶化についてFD法による解析を行った結果DNAMgCl2MPD濃度

の相関を決定することに成功した各結晶化条件毎[得られた結晶の大きさ][析出数][光学顕微鏡観察による結晶の

質]に得点Qを与えて解析を行った結果(1) 低MgCl2濃度の方がQに有利であること(2) 低 DNA濃度の時は高MPD

濃度の方が Qに有利であり逆に高 DNA濃度の時は低 MPD濃度の方が Qに有利であることが判明した本解析によっ

て得られた各パラメータの相関関係は結晶成長メカニズムを考える上で有効であり結晶化相図等の結晶成長学的考察

に取り入れることで最適結晶化条件を素早く選出するための手がかりを与えた

114 核形成

タンパク質や核酸の結晶成長機構の素過程の一つである結晶核形成過程を1分子レベルで直接観察する試みを行った

本測定には試料の光学情報と構造情報が同時に観察できる走査型近視野原子間力顕微鏡(Scanning Near Field Optical

Atomic Force MicroscopeSNOAM)を用いさらに以下の改造を加えた(1)カンチレバー用レーザ光波長を 670nm から

780nm に変更し励起蛍光波長 532580nm から十分離すことにより蛍光像のバックグランドを低減させた(2)蛍光量の経

時変化を測定する機能を追加し時間分解能 50μs~60sの範囲で最大 67時間の経時変化の測定を可能とした

試料タンパク質にはニワトリ卵白リゾチーム標識蛍光色素には Alexa546(Molecular Probe Inc)を使用した蛍光標識リ

ゾチームの結晶化では結晶全体が着色し

ていることから蛍光標識リゾチームが結晶内

に取り込まれたていることが確認できる(図

-2)しかし予備的なX線構造解析の結果

電子密度図では Alexa546 蛍光色素の存在

が確認できなかったよって蛍光標識リゾチ

ーム分子は結晶内に数しか取り込まれなか

ったことが明らかになったこの原因として

当蛍光色素の分子量が 1074 と比較的大き

いため蛍光標識リゾチームの結晶化条件が

lnY1

Y2

= ln

Iobs hkl( )1 f1 j2

jsum

Iobs hkl( )2 f2 j2

jsum

= lnk1

k2

minus 2 B1 minus B2( )sin2 θ

λ2

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

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7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

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disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

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13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 16: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

14

Native リゾチームと異なっていたという可能性と標識化がそもそも不十分であったという可能性が考えられる

今後の課題としてはタンパク質と蛍光試薬の標識反応条件蛍光試薬の種類及び蛍光標識リゾチームの結晶化条件

について詳しく検討していく必要があると考えている

115 相図に基づいた大型結晶育成技術開発

サイズフリー良質結晶を得るためには結晶化相図の作成が必要であり特に相図上の溶解度曲線を含む準安定領域を

見積もることが重要である今回透析法を応用して考案された合理的な結晶育成法に基づき新たに開発した結晶育成装

置の試作機により準安定領域の探索および大型結晶化についてニワトリ卵白リポソームとブタインスリンを用いて検討した

ニワトリ卵白リゾチームではすでに結晶化相図が求められているのでそれと比較することでタンパク質濃度可変による結

晶化および結晶溶解実験を一定時間間隔で観察して行ったこの結果見積もられていた相図とタンパク質濃度可変における

相図上の結晶化結晶溶解が一致したこれは本装置による準安定領域探査の実用性を証明しているさらに準安定領域

から濃縮することで過飽和領域へと移行させ1ミリ角の大型結晶へと成長させることに成功したまた結晶成長が停止した後

にもさらにタンパク質濃度を濃縮することで他に結晶が発生することなく大型結晶育成も可能であることが判明した(図-3)

ブタインスリンでは結晶化剤を変化させることで軽水と重水中との結晶化相図を比較検討したこの結果特定の濃度におけ

る準安定領域が非常に狭いことが判明し軽水と重水中では準安定領域を含む溶解度曲線が大きく異なることが示されたさら

に一度結晶を溶解したタンパク質溶液を用いてこの領域中で結晶を育成したところ05 ミリ角の結晶を得ることに成功した

このことから結晶化相図を作成する際に使用したタンパク質を変えること無く大型結晶化へと利用可能であることが示された

以上の結果から他のタンパク質においても結晶発生および結晶溶解を一定時間間隔で観察すれば一回のタンパ

ク質のサンプリングで準安定領域を探査することが可能となることおよびそれに基づいての大型結晶化を可能とすること

を示唆していると考えている

図-3 ニワトリ卵白リゾチームの結晶 結晶成長が止まった後濃縮によりタンパク質濃度を上げて結晶化した例

他に微結晶など発生せずひとつの結晶のみが大型結晶へと成長した

12 生化学的結晶作製技術の開発

121 大きなサイズのタンパク質結晶の作製

X 線中性子線による水素および水和を含んだタンパク質結晶構造解析を行うためには比較的大きな結晶(約2mm3以

上)が必要とされるこれまで比較的大きな結晶に成長するタンパク質として放線菌由来キシラナーゼ細菌由来イヌリン果

糖転移酵素及びニガウリトリプシンインヒビターを見い出しX線及び中性子線回折実験構造解析を進めている

(1) キシラナーゼ (藤本作成)

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり我々は糖分解酵素ファミリー10 に属する放線菌(Streptomyces

olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼの結晶化条件の確立結晶構造解析に成功した結晶は斜方晶系 P212121 に

属し格子定数は a=796Åb=952Åc=1403Åであり非対称単位中2つの分子を含んでいる本酵素は(βα)8-バレル

構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメイン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 17: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

15

更に基質結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らかにしたしかし更に詳

細な基質結合機構及び触媒反応機構を明らかにするためには触媒部位阻害剤及び水和水の水素原子の位置情報

が必要であるそのためには中性子回折を用いた構造解析が有効であると考え中性子解析に必要な大きな結晶の作製

を進めてきた大きなサイズの結晶化は結晶化試薬を重水で調整しシッティングドロップ法による蒸気拡散法を用いて

行ったこれまでに得られた最大の結晶は40x10x03mm のサイズであり(図-4)同等の大きさの結晶を用いて中性子

線回折データ測定を行った結果20 を超える反射が観察されたが中性子結晶構造解析には未だ不十分の大きさの結晶

であることが明らかとなった

mm

図-4放線菌キシラナーゼの結晶

(2) Arthrobacter globiformisに由来する果糖転移酵素(Fructotransferase FTase)

土壌細菌 Arthrobacter globiformisに由来するイヌリン果糖転移酵素(Inulin Fructotransferase IFTase)は植物多糖の

イヌリンを基質として無水ジフルクトースⅢ(DFAⅢ)といわれる特殊なオリゴ糖を生成する酵素であるDFAⅢは新規な食

品素材あるいはファインケミカル工業製品の原料としての用途が期待されており酵素活性の改善安定性の改良等のた

めに立体構造反応機構等の解明が待たれている大きな結晶作製のために必要量のタンパク質を供給するために大腸

菌大量発現系を確立し大量調製を行った結晶化はタンパク質濃度 115~18M 硫酸リチウムを沈殿剤として含む

01M HEPES-Na pH75 をリザーバーとしてハンギングドロップあるいはシッティングドロップ蒸気拡散法により行い各辺

~1mm 程度までの結晶を安定して得ることができた(図-5)X線回折データは適当な大きさ(~05mm)の結晶をクライオ

条件下で高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し分解能 10Åを超える反射を確認しHKL2000 によ

り能 105Åまで処理することができた結晶は空間群 R32 に属し格子定数 a=b=921Åc=2294Åα=β=90degγ

=120degであった結晶構造はセレノメチオニン置換体を用いた位相をもとに解析し典型的なβ-へリックス構造を取ってい

ることを明らかにした現在立体構造情報及び生化学的情報をもとに詳細な酵素反応機構の解明を行っている

図-5果糖転移酵素 FTaseの結晶

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

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14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

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成果の発表

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

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neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

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seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

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4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

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5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

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6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 18: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

16

(3) ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

植物起源トリプシンインヒビターは昆虫や微生物に対する生体防御に関与していると言われているニガウリ種子に含ま

れるトリプシンインヒビターは5種類ありそのうち BGTIはトリプシン及び Subtilisin carlsbergに対して阻害活性を示すこの

BGTI をニガウリ種子より大量精製し結晶化を行ったタンパク質濃度 20 mgml16M 酒石酸ナトリウムカリウムを含む

01M Tris-HCl (pH 85)をリザーバーとしてシッティングドロップ蒸気拡散法にて板状の小さな結晶を得たさらにマイクロシ

ーディング及びマイクロバッチ法にて結晶を再現性よく 02 x 02 x 005 mm3程度まで成長させることができたさらに大きく

成長した 05 x 05 x 02 mm3の結晶を用い原研において中性子線回折データを測定し現在20Aring分解能データを50近く収集したところである一方X線回折データは高エネルギー加速器研究機構放射光施設において測定し空間

郡 P1格子定数 a=226 b=230 c=277Aring α=921 β=1001 γ=1018degの結晶を得たX線高分解能解析では放射

光で得られた 093Aring分解能のデータを用いて精密化し一部の水素が観察できるまでになった(図-6)

図-6 ニガウリトリプシンインヒビターBGTI

122 完全重水素化タンパク質の作製

(1) ジヒドロ葉酸還元酵素 DHFR

小麦胚芽抽出物を利用した in vitro タンパク質合成システム[4]を使用してジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)の完全重水

素化タンパク質の作製を行ったT7プロモータの入ったプラスミドに導入した DHFR遺伝子から in vitro転写により mRNA

を作製したこの mRNA と ATPGTP小麦胚芽抽出物アミノ酸混合物を1ml の透析チューブに入れ7ml外液チャンバ

ーに ATPGTPアミノ酸混合物を加えてインキュベートすると目的のタンパク質が得られた次の実験でアミノ酸混合物

の代わりに重水素化アミノ酸混合物を使用することにより重水素化 DHFR を得ることができた重水素化のチェックと重水

素化率についてはNMR法とマススペクトロスコピーにより確認し重水素化率は理論値にほぼ合致した

(2) 硫酸還元菌由来 FMN-bp

FMN-bpは硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris由来のタンパク質で大腸菌を使った安定かつ大量な発現系が構築され

ており高分解能でのX線構造解析も済んでいるそのため重水素化における発現系および結晶化に対する影響を考察

するのに適したサンプルとして今回実験に用いたFMN-bp の発現は発現プラスミド pET-20b と大腸菌 BL21(DE3)の組

み合わせで行い重水素ラベル用培地Martek 9-d (Spectra Gases Inc)を用いて行った1Lの培地から精製後収量にし

て 5mgの holo タンパク質と 3mgの apo タンパク質が得られたTOFF-MASSによる分子量の測定から重水素ラベル率は7

3の結果になった重水中で結晶化を試みたところラベルしていない FMN-bp とは若干異なる条件で最適な結晶がで

きたその結晶は 135Aring まで X 線の回折が観測できる良質なものであった格子定数が若干変わったものの重水素化し

てもタンパク質の構造そのものは基本的に同一であることがそのデータから証明されたその後結晶は 1mm x 05mm x

03mmまで成長した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

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3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 19: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

17

(3) DsrD

DsrD は亜硫酸還元酵素をコードする遺伝子群(dsr オペロン)中の dsrD から発現される蛋白質でありその機能につい

てはまだよく分かっていないまた78アミノ酸残基からなる分子量8700の比較的小さな蛋白質で硫酸アンモニウムを沈

澱剤として比較的大きい結晶が得られる事が報告されていたが最近になって12Å分解能での X 線結晶構造解析が報

告された [5]我々はC1化合物資化性酵母 Pichia pastoris の系を用いて完全重水素化タンパク質の作成を行った

DsrD遺伝子を PCR法にて増幅後目的遺伝子を分泌型タンパク質として発現させるベクターpPIC9Kに組み込んだその

プラスミドを P pastoria GS115株に形質転換し抗生物質を含む His-培地で His+Mut+形質転換体を選択したタンパク質

の発現はメタノールを添加する事により誘導し4日間培養した結果通常の非重水素化培地で 30mglの dsrDタンパク質

が得られたさらに培地上清を80硫安沈澱により濃縮し疎水性カラム及びゲル濾過カラムにて精製することによりほ

ぼ純品の DsrD タンパク質を得る事ができた次に培地成分中の硫酸アンモニウムグリセロールメタノールを重水素化

物に換え98重水にて重水素化培地を作製し同条件で培養を行ったところ10mgl の重水素化タンパク質が得られ

たマススペクトロメトリーにより重水素化率を測定した結果その重水素化率は約78であったDsrD タンパク質につい

ては大腸菌による発現系でも重水素化タンパク質が得られておりこれらのタンパク質をシッティングドロップ蒸気拡散法

により結晶化した結果最大 20mmtimes05mmtimes04mmの結晶が得られたまたX線を照射した結果20Å分解能のデー

タが得られ結晶の空間群はP212121格子定数 a=453Å b=600Å c=646Åであった

13 高分解能X線解析

131 糖分解酵素

糖鎖は動植物微生物界で広く生命活動に使われており糖分解酵素も同じである近年糖分解酵素の利用研究の

進展は著しく洗剤製紙食品生産などに幅広く応用されてきている酵素の立体構造の情報は酵素の反応機構を明

らかにすることができるだけではなく酵素の分子設計の基盤にもつながり重要視されてきている我々は工業的に利用

されている幾つかの糖分解酵素について詳細に立体構造を決定し酵素反応機構の解明分子設計を行うことを目的に

X線結晶解析を行った

(1) 放線菌 Streptomyces olivaceoviridis E-86キシラナーゼ

キシラナーゼはキシランを切断する糖分解酵素であり放線菌(Streptomyces olivaceoviridis E-86)由来β-キシラナーゼ

の結晶構造解析を進めてきた本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触媒ドメインと基質結合に関与するC末基質結合ドメ

イン及びその2つを結ぶリンカー部分で構成されている基質結合ドメインは糖結合モジュールファミリー13 に分類され

植物毒素リシンのB鎖と同様の構造をもち40残基ほどの3つの類似サブドメインが集まって球状ドメインとなっているリン

カー部分は結晶構造では同定されないことから溶液中で一定の構造をとらずリンカーをはさむ2つのドメインは互いにフ

レキシブルな位置をとれると考えられた基質結合ドメインが不溶性のキシランに結合しその際触媒ドメインが周辺の基質

を切断しやすくなるという本酵素の反応機構が示唆された

次にキシロースキシロビオースキシロトリオースといった基質やアラビノフラノースやグルクロン酸など天然キシランの

側鎖のついたキシロオリゴ糖との結合構造解析を行い触媒ドメイン及び基質結合ドメインのキシラン結合機構を明らか

にした先に構造解析された本酵素のモデルを用いた 2Fo-Fc および Fo-Fc 差フーリエ電子密度図より結合した糖の構

造を同定した触媒ドメインにはキシロビオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-2 にまたキシロト

リオース複合体では基質クレフトのサブサイト+1~+2 及び-1~-3 に糖の結合が観測されたまた基質結合ドメインには

3つのサブドメインのうちαとγに結合した糖の一部と思われるキシロースの結合が観測されたサブドメインβは結晶

の分子間結合に関与していたことから基質結合ドメインには実際は3つのキシラン結合部位があり直鎖状のキシランに

結合することが可能であることが立体構造上明らかとなった

(2) 枯草菌 Bacillus subtilis由来α-amylase と基質アナログ阻害剤アカボース複合体

α-アミラーゼはデンプンやマルトオリゴ糖のα-14グルコシド結合を分解する酵素であり動植物微生物界に広く

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

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15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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成果の発表

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

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neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

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seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

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4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

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5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

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7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 20: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

18

図-7 イネ由来α-ガラクトシダーゼのリボンモデル

分布する酵素である我々はこれまでに Bacillus subtilis由来のα-アミラーゼを用いて触媒部位に存在する一連のアミ

ノ酸残基について変異体を作成しAsp176Asp269またはGlu208が触媒残基であり触媒活性に必須であることを報告し

た[6]またGlu208を Glnに置換し活性を消失させた変異体 EQ208 と基質マルトペンタオース(G5)との基質複合体の X

線結晶解析を行い触媒反応機構を提案した[7]今回より詳細な本酵素の触媒機構を明らかにする研究の一環として

基質アナログ阻害剤であるアカボースとの複合体結晶を作製しX線結晶構造解析を行った

複合体の結晶化は沈殿剤として 10 PEG3350 を用いハンギングドロップ蒸気拡散法により行なった2Fo-Fc および

Fo-Fc 差フーリエ電子密度図から結合した阻害剤アカボースの構造を同定した同定した阻害剤は糖転移反応によるヘキサ

サッカライド誘導体であると推定された以前に構造解析した EQ208G5複合体と阻害剤アカボース複合体の立体構造は非常

に類似しており両者を重ねあわせるとサブサイト-1 にある糖残基の C5 原子の位置のみが異なっていたつまりこの C-5

原子の位置はグルコース環の chair型と half-chair型の違いを表しておりプロトネーション後ただちに-1部位にあるグル

コース環の立体配座の変換が起こすことが示唆されchair 型から half-chair 型へのフリップが生じる機構を提案した今後本

酵素の基質結合触媒反応機構について詳細に解析するために様々な変異体と高分解能構造解析を予定している

(3) 中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus α-アミラーゼ

中等度好熱菌 Bacillus stearothermophilus 由来のα-アミラーゼ(BSTA)の立体構造を 20Åの分解能で決定しアミノ

酸配列に 65のホモロジーがあり熱安定性がより高い Bacillus licheniformis由来α-アミラーゼ(BLA)[8]と比較することによ

って熱安定化の要因を考察することを目的とした結晶化の条件検討の結果酢酸ナトリウムと 2-プロパノールを沈殿剤と

するハンギングドロップ蒸気拡散法により01mm 長の針状結晶が得られた本結晶の空間群はP212121で放射光で 2Å

を越える反射が観測された構造解析は BLA のモデルを用いた分子置換法により決定したBSTA と BLA は主鎖構造が

きわめてよく一致しわずかにループ領域の所が2箇所異なるのみであったが両酵素の熱安定性の違いはBSTA の

Ile181-Gly182 の2残基挿入による Ca イオン結合様式の変更(Asp207 が Ca に配位できなくなる)水素結合の合計数の

違いキャビティーの有無分子表面電荷の面積の違い等によると考えられたこのうちIle181-Gly182 の2残基を欠損し

た変異体を作製したところ熱安定性が上昇しこの2残基が熱安定性に関わっている因子であることを明らかにした

(4) イネ由来α-ガラクトシダーゼ

α-ガラクトシダーゼはリソソーム酵素の一つで糖脂質や糖タンパク質の非還元末端のα-ガラクトシド結合を切断する

エキソグリコシダーゼであり動物の他微生物や植物にも存在が認められるα-ガラクトシダーゼの立体構造情報を得

触媒残基基質特異性に関与するアミノ酸残基を特定し触媒機構を解明することを目的にイネ由来のα-ガラクトシダー

ゼのX線構造解析にとりかかった結晶化の条件検討の結果硫酸アンモニウムと 2-プロパノールを沈殿剤とするハンギン

グドロップ蒸気拡散法により03mm 長の柱状結晶が得られた本

結晶の空間群はP212121 で放射光で 2Åを越える反射が観測さ

れた構造解析は水銀と金の重原子誘導体結晶を用いた多重同

型置換法を用いて行った本酵素は(βα)8-バレル構造をもつ触

媒ドメインと機能未知C末ドメインで構成されている(図-7)糖分解

酵素のファミリー27に分類され同じファミリーの中ではチキン由来

α-N-アセチルガラクトサミニダーゼの立体構造が解析されており

ファミリーで2番目α-ガラクトシダーゼでは初めて報告された立

体構造解析例となったガラクトースとの複合体構造として解析し

たため詳細な基質結合様式をあきらかにすることができ反応機

構解明のための足がかりとなったまたα-N-アセチルガラクトサ

ミニダーゼの構造との比較により両酵素間の基質認識機構の違

いを明らかにした

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 21: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

19

132 蛇毒由来C型レクチン様タンパク質

C型レクチンスーパーファミリーに属する蛇毒由来タンパク質のX線解析を行ったこのうち血液凝固因子に結合し抗

血液凝固活性を持つタンパク質については既にⅨ因子に結合するタンパク質Ⅸ-bpⅨ因子及びX因子に結合するタン

パク質ⅨⅩ-bpについてX線解析を明らかにしてきたさらに IXX-bpの立体構造からドメインスワッピングによる2量体形

成を提案した[9]今回これらのタンパク質とそのリガンドとなる Gla ドメインとの複合体のX線解析を行い抗血液凝固機

構を明らかにすると共に分子間に存在する水分子が構造の安定化のみならず分子認識にも寄与していることを明らかに

した一方血小板のレセプターGP1b に結合し血小板の凝集を阻害するタンパク質フラボセチンについては25Å分解

能についての構造を明らかにしたこの構造はⅨ-bp を一つの単位とすると4量体(tetramer)で構成された環状構造をして

おり4量体のそれぞれは結晶学的4回軸の関係にあるおそらくこのユニークな構造が GP1b と高い親和性をもって結合

するものと考えられる一方血液中の重要な因子であるフォンビルブラント因子に結合し血小板凝集を促進するタンパク質

ビチセチンについては 20Å分解能で構造を明らかにした同種のタンパク質としてボトロセチンが見いだされており既にX

線解析されている[10]が最近ボトロセチンとフォンビルブラント因子の A1 ドメインとの複合体のX線解析が報告された我々

も蛇毒タンパク質と血小板レセプターとの複合体のX線解析を行ったので詳細を以下に示す

(1) IX-bpGla複合体及び X-bpGla複合体

血液凝固第 IX因子および第 X因子は血液凝固において重要な役割を果たす蛋白であるこれら凝固因子の欠損や

異常は重篤な疾患を引き起こすことが知られているIX因子X因子のN末端にはGlaドメインと呼ばれる部位が存在し

Ca2+と配位して立体構造変化を引き起こして生体膜に結合し血液凝固を促進することが知られているまたヘビ毒中に

は第 IX因子や第 X因子に結合して機能を阻害する蛋白(IX-bpおよび X-bp)が存在することが知られている

今回IX因子および X因子 Gla ドメインの Ca2+および Mg2+結合部位および IX-bpや X-bpへの結合部位を明らかに

するために X線構造解析を行ったIX因子およびX因子の Gla ドメインを調製し各々に特異的に結合するヘビ毒由来の

IX因子結合蛋白(IX-bp)および X因子結合蛋白(X-bp)との複合体を調製後結晶化しX線解析を行ったX因子 Gla ド

メインと X-bpの複合体の構造解析からX因子 Gla ドメインはX-bpの A鎖と B鎖によって形成されたくぼみに結合して

複合体を形成することが明らかとなり両分子間に存在する水分子のクラスターが2つの分子の結合に大きく関与している

ことが明らかとなった(図-8)またGla ドメインにこれまで知られていた7つの Ca2+バインディングサイトに加えてX因子の

Gla ドメインには8番目の Ca2+バインディングサイトが存在することが明らかとなったIX因子 Gla ドメインと IX-bp の複合体

の立体構造はX因子Gla ドメインと X-bp複合体のそれと似ていたが3つの Ca2+イオンがMg2+イオンに置換されていたこと

からMg2+イオンが血液凝固に必須であることが証明されたまたIX-bpX-bp ともに多数の水分子を介して Gla ドメイン

に結合していたことから複合体の形成には水分子が重要な役割を果たしていることが示唆された(図-8)

subunit A subunit A

subunit B subunit B

Gla Gla

図-8 蛇毒タンパク質 X-bp(サブユニット AB)と Gla ドメイン複合体のリボンモデルのステレオ図

球(オレンジ色)はカルシウムイオン小球(青色)は水分子を示す

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 22: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

20

(2) bitiscetinA1複合体

ビチセチンは購入した粗毒からA1 ドメインは大腸菌で発現させたものをそれぞれ精製した両者を混合しゲルろ過に

より複合体を精製し6mgmL まで濃縮した精製品を用いて結晶化スクリーニングを行いPEG6000MPDPEGMME550

を含む条件で棒状の結晶が得られた結晶は最大で 005x005x06mm の大きさまで成長した高エネルギー加速器研究

機構内のPF-BL6b で分解能 285Åのデータを収集し分子置換法により位相を求めRRfree=01940276 で構造を

決定したビチセチン二量体によって形成される窪みにVWFのA1ドメインが結合しており(図-9)結合に関与する側鎖は

A1 ドメインのアラニンスキャニングの結果と非常に良く一良く致していたビチセチンVWFA1 複合体構造と構造既知の

VWF A1GPIbα複合体構造[12]を比較したところVWF A1上での結合部位は重なっていないことが判った このことか

らビチセチンが A1 ドメインと結合したままさらに GPIbαが結合しうることが示唆されたビチセチンVWF A1複合体に GPI

bαを重ねたモデルからGPIbαC末の酸性領域とビチセチンの塩基性領域が近接していることがわかった同じ活性を

持つ別の蛇毒であるボトロセチン VWF A1複合体においても同様の塩基性領域があることからGPIbαC末の酸性領域

とビチセチンの塩基性領域が相互作用することで GPIbαと A1 ドメインの結合が促進される可能性が示唆された

図-9 ビチセチンと VWFA1 ドメイン複合体のリボンモデル 図-10 EMS16 と I ドメイン複合体のリボンモデル

(3) EMS16I domain複合体

EMS16は Echis Multisquamatus毒に含まれる C型レクチンタンパク質であり血小板表面に発現するコラーゲン受容体

の一つインテグリンα2-1 ドメイン(膜蛋白質 GPIaIIa)に特異的に結合し血小板凝集阻害活性をもつことが知られている

[13]EMS16 とインテグリンα2-1 ドメインの結合様式や認識機構を構造学的観点より解明することによりインテグリンα

2-1 ドメイン阻害剤の開発に役立つものと期待される我々はEMS16 の全アミノ酸配列を決定しEMS16 の結晶構造を

19Åの分解能で明らかにすることに成功したEMS16 はジスルフィド結合で繋がったヘテロ2本鎖(サブユニット AB)で

構成され他の蛇毒由来C型レクチンタンパク質と同様特徴的なくぼみが中心部分に存在していたこのくぼみの表面電

荷は EMS16 特有のものでありインテグリンα2-1 ドメインの認識に重要な役割を担っているものと推察されたその後

我々は EMS16 とインテグリンα2-1 ドメイン I domain複合体の結晶化にも成功し19Åの分解能で構造を決定したその

結果実際EMS16のくぼみ部分がインテグリンα2-1 ドメインのコラーゲン結合部位を覆うように結合することが明らかに

なった(図-10)EMS16 は主にくぼみの周りの二カ所でインテグリンα2-1 ドメインと結合しておりくぼみの中心部分は水

分子を介した多くの水素結合ネットワークがみられたこのことからEMS16 のくぼみの形および電荷がインテグリンα2-1

ドメインの認識に重要であることが示唆された

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 23: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

21

133 ディスインテグリン

インテグリンは生体内において細胞と細胞周辺環境との接着という現象を担う細胞側のレセプターである薬剤などに

よるその機能制御は癌や炎症などの効果的な治療につながると考えられる蛇毒から見いだされた多種類のインテグリン

活性阻害ペプチドあるいは低分子タンパク質はディスインテグリンと呼ばれ高い血小板凝集阻害活性をもっている[14]

このタンパク質に保存されているRGDアミノ酸配列はレセプターとの結合に必須でありこのRGDアミノ酸配列を含むペプ

チドをデザインすることによって抗血小板凝固剤を中心とする有用な医薬候補物質として開発されてきている最近蛇毒か

ら2量体ディスインテグリンが見いだされモノマーディスインテグリンとの機能的な違いも報告されている[15]このように

ディスインテグリンはきわめて重要な機能をもっているにもかかわらずまだX線解析の報告はない我々は2量体ディス

インテグリンとしてPVS とアコスタチンを結晶化しそれぞれ 20Åと 28Å分解能のデータを集めることができた一方モ

ノマーディスインテグリンとしてトリメスタチンを結晶化し18Å分解能のデータを用いて構造解析に成功した70 残基か

らなるペプチド鎖は6本のジスルフィド結合によりコンパクトに折りたたまれ1つのループの先端にRGDアミノ酸配列をもつ

特徴的な構造をしていることが明らかになった

134 アスパラギン酸プロテアーゼ

キノコの一種である Irpex lacteus(和名ウスバタケ)より分離されたアスパラギン酸プロテアーゼ(ILAP)はその特徴から

ペプシン様の酵素であると認められチーズの製造において優れた特性を示しているILAP は全340アミノ酸残基中シス

テインを全く含んでいないためジスルフィド結合で安定化された他の凝乳酵素とはかなり立体構造が異なることが予想さ

れるとともにこれが耐熱性の低さに影響しているものと考えられているそこで本酵素の立体構造情報を得るために

ILAPのX線結晶解析を行った構造解析はブタペプシン(4pep)をサーチモデルとした分子置換法により行った13Å分解

能データに対し結晶学的 R-factor 0147Rfree-factor 0171 のモデルを得た全体構造はペプシンと同様にβ-シート

を主としておりほぼ同じ大きさの N 末とC末の2つのドメインからなる双葉様構造であるまた得られた構造モデルは精

製の際酵素の安定化のために加えていた酵素阻害剤であるペプスタチンとの複合体として解析された高分解能でのX線

結晶解析による差フーリエ電子密度図および原子間結合距離にもとづきペプスタチン結合の際の触媒部位の水素結

合状態を議論することができたまたペプチド分解の際の基質特異性の機能発現機構も一部明らかにすることができた

135 BSD

農業用抗生物質ブラストサイジン S(BS)は広範な生物種に対して比較的強い毒性を示すがこれを無毒化する酵素

ブラストサイジン Sデアミナーゼ(BSD)はBSのシトシン核部分を脱アミノ化して無毒化するBSDは補因子に亜鉛イオンを

含み極めて高い基質特異性をもち高効率で BS を無毒化するこの特徴的なBSDの基質認識機構及び反応機構を明ら

かにする為基質存在下非存在下において 18Åの分解能で X線結晶構造解析を行ったBSDの活性中心は基質非

存在下では亜鉛イオンを中心として3つのシステイン残基と水分子で正四面体配位構造をとっている一方基質存在下

においては更にもう1分子の水が亜鉛イオンに配位し三角両錐構造に転換される即ちBSD の触媒反応はこの配位

構造の変化と密接に関係することが考えられるこの配位構造の変化は酵素反応においてほかに報告例はなく多様な酵

素反応に関与する亜鉛原子を配位しているシステイン残基の挙動は非常に重要であると考えた我々は中性子解析に適

したサイズの結晶作成に取り組んだが残念ながら解析に適したサイズにまで成長させることは出来なかったしかしながら

基質アナログとの複合体構造において興味深い電子密度マップが観察された現在その報告を纏めている

136 核酸結合タンパク質

アンチターミネータータンパク質はオペロン中で起こる転写の終結を抑制することで遺伝子発現を調節するタンパク質

で一般にプロモーター近傍または転写産物中の特定の配列を認識して結合する150 アミノ酸ほどの HutP タンパク質は

この一例であり枯草菌のヒスチジン資化オペロン(hut オペロン)の転写を調節するHutP タンパク質は hut オペロンの最

上流の ORF にコードされておりhutH(ヒスチダーゼ遺伝子)以下のヒスチジン資化酵素群遺伝子が下流に続いている

hutP遺伝子と hutH遺伝子の間にはステム-ループ構造を取りうる配列がありHutP タンパク質によるアンチターミネーショ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

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7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 24: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

22

図-11 イネ萎縮ウイルスの結晶構造外殻タンパク質

P8の配列の様子を示す

ンがここで起こることが示されている[16]RNA結合タンパク質が関与する同様の転写調節は hutオペロン以外の細菌オペ

ロンでも発見されているがHutPによるアンチターミネーション機構はヒスチジンの濃度依存的に調節される点でアンチタ

ーミネータータンパク質の存在のみに依存するλファージのNタンパク質とボックスB RNAなどによるものと異なる

最近in vitroの研究から HutP タンパク質が L-ヒスチジン存在下でのみ hutオペロン転写産物中のステム-ループ構造

に特異的に結合することを示唆する結果が得られている[17]またTRAP(trp RNA-binding attenuation protein)等のタン

パク質と異なりHutP タンパク質は二本鎖 RNAに結合するL-ヒスチジンと結合することで HutP タンパク質は構造変化を

起こすと予想できるそこで我々はHutP タンパク質(本タンパク質はデータベース中のいかなるタンパク質ともホモロジ

ーがない)の新規な構造を明らかにするためHutP タンパク質と L-ヒスチジン複合体のX線解析を行ったPEGMME 550

を沈殿剤とするハンギングドロップ蒸気拡散法により03mm 大の結晶が得られた結晶の空間群はP213 で高エネルギ

ー加速器研究機構放射光施設で 3Åを越える反射が観測された構造解析は水銀の重原子誘導体結晶を用いた多波長

異常分散法により構造を決定した構造はユニークな折りたたみを示し6量体を形成していた

137 イネ萎縮ウイルスRDV

イネ萎縮ウイルス(RDV)は粒子量(全体の分子量)が約 7000 万と

いう巨大なウイルスで2重殻構造をもつRNAウイルスであるツマグロヨ

クバエを媒介してイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こすことが知

られている既に結晶が得られており長年かけて収集した 35Å分

解能のX線データを用いて最近ようやく構造解析が終了し2重殻構

造を持つ RDV の構造の全容が明らかになった外殻タンパク質 P8 の

配列の様子を図-11 に示すそれぞれの3角形は3量体を示し

icosahedral symmetryに従って色分けされている5種類の3量体のう

ち icosahedral3回軸上にある3量体(青色)は内殻タンパク質 P3 と水素

結合により強固な相互作用をしているこれはRDV を 08M の MgCl2

で処理してもこの3量体のみが内殻から外れないで残っていることから

も支持される内殻タンパク質 P3は2量体を形成しモノマーのN末端

が他のモノマーに挿入して強固に結合しているP3のN末端52残基を

欠失した変異体を作製すると会合能が完全に消失することからN 末

端が2量化する役割を担っているRDVの構築は先ず P3の2量体が

できこれを基に内殻球ができる次に P8 の3量体が結合しさらに

side-by-sideの結合で2重殻を形成するという構築原理を提案した

14 機能解析と分子動力学計算

YhhP タンパク質(81 残基)は細胞分裂や染色体分配に深く関与していることが示唆されているがその分子機能や作用

機構は不明であるYhhP タンパク質はどの機能既知タンパク質ともアミノ酸配列の相同性は低く極めて特異な一次構造

を有するしかしゲノムデータベースを検索した結果YhhP と相同性の高いタンパク質が多くのバクテリアに存在しいず

れもが共通配列 CPxPをもつことが明らかになった本研究では機能未知タンパク質 YhhPの立体構造を NMR法で決定し

(図-12)立体構造のホモロジー検索及び分子表面のトポケミストリー解析からYhhP タンパク質はαヘリックス上の極性アミ

ノ酸(Glu21 Arg27 Lys28 Arg31)を利用して RNA と結合することによりその機能を発現するものと推定したまたYhhP類

似タンパク質に共通な CPxPモチーフはαヘリックスの N端に位置しており新しいタイプの N-capping box として高次構造

の安定化に貢献していることが示唆された(図-12c)一方植物の形態形成を制御する転写因子ZPTタンパク質群は典型

的な TFIIIA型(Cys2His2)のジンクフィンガー(ZF)を2~4個含む今回はZPT2-2の DNA結合領域(ZF1F2 E99-L194)と

C端側の ZFのみを含む領域(ZF2C S163-S210)の立体構造および DNA との相互作用を NMRにより解析したこの結果

DNA結合領域 ZF1および ZF2領域にのみ規則構造を有し両者を連結するリンカーはランダムコイル状態にあることが明ら

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

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5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

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8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

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9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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成果の発表

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

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neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

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15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

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bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

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位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

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5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

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6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

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10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

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11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 25: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

23

かになった またターゲット配列CAGTを含む 12merDNAとの複合体のNMR解析では以下の知見を得た(1) ZF2C単

体においては Gly170-His189 の 11残基で構成されていたα-ヘリックスがDNA と複合体を形成することにより 5残基伸張

する(2) ZF2はこの伸張したα-ヘリックス上の+1~+3 +5 +6 +8~+10 +12~+14および+16位の残基を利用して DNAを

認識する(図-13)つまりZF2 の DNA 認識残基はヘリックスの全長にわたっていることになりヘリックスの N 端部の残基の

みを利用して DNA と結合する動物由来のクラスター型 ZFの DNA認識機構とは異なることが明らかになった

( a )

N

C

( b )

N

C

β 3 β 4 β 2 β 1 α 2

α 1 L 4

F 5

P 8

L 4 0 A 6 5

( c )

N

P 2 0

P 2 2 E 2 1

L 1 7

R 1 8 C 1 9

図-12 YhhPの NMR溶液構造(a)20個の構造の重ね合わせ図

(b)エネルギー極小化のリボンモデル(c)へリックス N末端のシス構造をとる領域

TFIIITFIII

ZPT2-2-

図-13動物由来クラスター型 ZF タンパク質(左)と植物転写因子 ZPT2-2 タンパク質(右)の DNA認識様式の比較

考 察

中性子回折実験に必要な充分大きなサイズの結晶を得ることは特に生物学的に重要なタンパク質を材料に用いた場

合には容易ではないことを実感したこの点完全重水素化タンパク質は結晶のサイズが多少小さくてもすむので魅力的

である小麦胚芽による in vitro系C1化合物資化性酵母 Pichia pastorisの系及び大腸菌 in vivo系などの遺伝子組換え

技術を利用して3種類のタンパク質の完全重水素化に成功したまたこれらのタンパク質の大量発現結晶化にも成功

したので今後は完全重水素化タンパク質を用いた中性子線回折実験が期待できるX線解析法の場合高分解能デー

タを利用することにより部分的にせよ水素原子位置を決定できるX線解析では結晶のサイズはそれほど重要ではなく

如何にすれば高分解能のデータが得られるかにある凍結防止剤を導入して作製した結晶を 100Kに凍結させることによ

ってX線照射による結晶へのダメージを軽減することができる本サブテーマでいくつかの結晶について高分解能データ

を測定することができた特にBGTIについては093Å分解能のデータが得られその電子密度図からは原子と原子が分

離したいわゆる原子分解能のマップが得られまた差フーリエ図からいくつかの水素原子位置を決定することができた

またその他のいくつかのタンパク質やウイルスについての結晶についてはX線構造解析溶液構造についてはNMR解

析を行い生物学的に興味深い議論を展開することができたこのうち蛇毒タンパク質と Gla ドメインとの複合体のX線解

析結果から両分子間に水分子のクラスターが存在し水分子を介した水素結合の重要性構造安定化への寄与分子

認識の可能性をも明らかにすることができた

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

prepared from wheat embryos Plants apparently contain a suiside system directed at ribosomes Proc Nat Acad Sci

USA 97 559-564 (2000)

5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

6 K Takase T Matsumoto H Mizuno and K Yamane Site-directed mutagenesis of active site residues in Bacillus

subtilis α-amylase Biochim Biophys Acta 1120 281-288 (1992)

7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

mutant α-amylase from Bacilus subtilis complexed with maltopentaose J Mol Biol 277 393-407 (1998)

8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

the von Willebrand factor modulator botrocetin Biochemistry 40 345-352 (2001)

11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 26: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

24

引用文献

1 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

2 EJ Dodson GG Dodson A Lewitova and MSabesan J Mol Biol 125 387 (1978)

3 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular crystals for

diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo

4 K Madin T Sawasaki T Ogasawara Y Endo A highly efficient and robust cell-free protein synthesis system

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5 N Mizuno G Voordouw K Miki A Sarai Y Higuchi Structure 11 1133-1140 (2003)

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7 Z Fujimoto K Takase N Doui M Mommma T Matsumoto and H Mizuno Crystal structure of a catalytic-site

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8 M Machius N Declerec R Fuber and G Wiegland Activation of Bacillus licheniformis α-amylase through a

disorder - order transition of the substrate binding site mediated by a calcium-sodium-calcium metal triad Structure

6 281-292 (1998)

9 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Structure of coagulation factors

IXX-binding protein a heterodimer of C-type lectin domains Nature Struc Biol 4 438-441 (1997)

10 U Sen S Vasudevan G Subbarao RA McClintock R Celikel ZM Ruggeri KI Varughese Crystal structure of

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11 K Fukuda TA Doggett LA Bankston MA Cruz TG Diacovo and RC Liddington Structural basis of von

Willebrand factor activation by the snake toxin botrocetin Structure 10 943-950 (2002)

12 EG Huizinga S Tsuji RA Romijn ME Schiphorst PG de Groot JJ Sixma and P Gros Structures of

glycoprotein Ibα and its complex with von Willebrand factor A1 domain Science 297 (2002)

13 C Marcinkiewicz RR Lobb MM Marcinkiewicz JL Daniel JB Smith C Dangelmaier PH Weinreb DA

Beacham and S Niewiarowski Isolation and characterization of EMS16 a C-lectin type protein from Echis

multisquamatus venom a potent and selective inhibitor of the alpha2beta1 integrin Biochemistry 39 9859-9867

(2000)

14 MA McLane C Marcinkiewicz S Vijay-Kumar I Wierzbicka-Patynowski and S Niewiarowski Viper venom

disintegrins and related molecules Proc Soc Exp Biol Med 219 109-119 (1998)

15 D Okuda and T Morita Purification and characterization of a new RGDKGD-containing dimeric disintegrin

piscivostatin from the venom of Agkistrodon piscivorus piscivorus The unique effect of piscivostatin on platelet

aggregation J Biochem (Tokyo) 130 407-415 (2001)

16 M Oda T Katagai D Tomura H Shoun T Hoshino and K Furukawa Analysis of the transcriptional activity of

the hut promoter in Bacillus subtilis and identification of a cis-acting regulatory region associated with catabolite

repression downstream from the site of transcription Mol Microbiol 18 2573-2582 (1992)

17 M Oda N Kobayashi A Ito Y Kurusu K Taira cis-acting regulatory sequences for antitermination in the

transcript of the Bacillus subtilis hut operon and histidine-dependent binding of HutP to the transcript containing the

regulatory sequences Mol Microbiol 35 1244-1254 (2000)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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成果の発表

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

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neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

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seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

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4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

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5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

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7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 27: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

25

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 Y Ishii H Yamada T Yamashino K Ohashi E Katoh H Shindo T Yamazaki and T Mizuno Deletion of

the yhhP gene results in filamentous cell morphology in Escherichia coli Biosci Biotechnol Biochem 64

799-807 (2000)

2 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Crystal structure of Bacilus

stearothermophilus α-amylase possible factors determining the thermostability J Biochemistry 129

461-468 (2001)

3 D Okuda K Horii H Mizuno and T Morita Characterization and Preliminary Crystallographic Studies of

EMS16 an Antagonist of Collagen Receptor (GPIaIIa) from the Venom of Echis multisquamatus J Biochem

(Tokyo) 134 19-23 (2003)

国外誌

1 H Mizuno Z Fujimoto M Koizumi H Kano H Atoda and T Morita Crystal structure of coagulation

factor IX-binding protein from habu snake venom at 26Å Implication of central loop swapping based on

deletion in the linker region J Mol Biol 289 103-112 (1999)

2 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystallization and preliminary X-ray studies of flavocetin-A

a platelet glycoprotein 1b-binding protein from the habu snake venom Acta Cryst D55 1911-1913 (1999)

3 K Fukuda H Mizuno H Atoda and T Morita Crystal structure of flavocetin-A a platelet glycoprotein

1b-binding protein reveals a novel cyclic tetramer of C-type lectin-like heterodimers Biochemistry 39

1915-1923 (2000)

4 D Suvd K Takase Z Fujimoto M Matsumura and H Mizuno Purification crystallization and preliminary

X-ray study of α-amylase from Bacilus stearothermophilus Acta Cryst D56 200-202 (2000)

5 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko S Yoshida H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of

Streptomyces olivaceovilidis E-86 β-xylanase containing xylan-binding domain J Mol Biol 300 575-585

(2000)

6 B Padmanabhan T Kuzuhara H Mizuno and M Horikoshi Purification crystallization and preliminary

X-ray crystallographic analysis of human CCG1-interacting factor B Acta Cryst D56 1479-1481 (2000)

7 E Katoh T Hatta Shindo H Ishii H Yamada T Mizuno and T Yamazaki High precision NMR structure

of YhhP a novel Escherichia coli protein implicated in cell division J Mol Biol 304 219-229 (2000)

8 H Mizuno Z Fujimoto H Atoda and T Morita Crystal structure of an anticoagulant protein in complex

with the Gla domain of factor X Proc Natl Acad Sci USA 98 7230-7234 (2001)

9 S Hirotsu H Mizuno K Fukuda MC Qi T Matsui J Hamako T Morita and K Titani Crystal structure

of bitiscetin a von Willebrand factor-dependent platelet aggregation inducer Biochemistry 40 13592-13597

(2001)

10 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto T Morita and H Mizuno Crystallization and preliminary crystallographic

studies of dimeric disintegrins from the venom of two Agkistrodon snakes Acta Cryst D58 145-147 (2002)

11 M Kimura M Furuichi M Yamamoto T Kumasaka H Mizuno M Miyano and IYamaguchi The flexible

C-terminal region of Aspergillus terreus blasticidin S deaminase identification of its functional roles with

deletion enzymes Biochem BiophysRes Commun 290 421-426 (2002)

12 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Crystal structure of the sugar

complexes of Streptomyces olivaceoviridis E-86 xylanase sugar binding structure of the family 13 carbohydrate

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 28: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

26

binding module J Mol Biol 316 65-78 (2002)

13 TS Kumarevel Z Fujimoto B Padmanabhan M Oda S Nishikawa H Mizuno and PKR Kumar

Crystallization and preliminary X-ray diffraction studies of HutP protein A RNA-binding protein that

regulates the transcription of hut operon in Bacillus subtilis J Struc Biol 138 237-240 (2002)

14 J-W Nam Z Fujimoto H Mizuno H Yamane T Yoshida H Habe H Nojiri and T Omori

Crystallization and preliminary crystallographic analysis of the terminal oxygenase component of carbazole

19a-dioxygenase of Pseudomonas resinovorans strain CA102 Acta Cryst D58 1350-1352 (2002)

15 Z Fujimoto O Kobayashi S Kaneko M Momma H Kobayashi and

H Mizuno Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of rice α-galactosidase2 Acta

Cryst D58 1374-1375 (2002)

16 H Atoda H Kaneko H Mizuno and T Morita Calcium-binding analysis and molecular modeling reveal

echis coagulation factor IXfactor X-binding protein has the Ca-binding properties and Ca ion-independent

folding of other C-type lectin-like proteins FEBS Letters 531 229-234 (2002)

17 K Hosoda A Imamura E Katoh T Hatta M Tachiki H Yamada T Mizuno T Yamazaki Molecular

structure of the GARP family of plant Myb-related DNA binding motifs of the Arabidopsis response regulators

Plant Cell 14 2015-29 (2002)

18 Z Fujimoto S Kaneko M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystal structure of rice α-galactosidase

complexed with D-galactose J Biol Chem 278 20313-20318 (2003)

19 Y Shikamoto T Morita Z Fujimoto and H Mizuno Crystal structure of Mg2+- and Ca2+-bound Gla domain

of factor IX complexed with binding protein J Biol Chem 278 24090-24094 (2003)

20 H Masuda Y Takenaka Y Shikamoto M Kagawa H Mizuno and F I Tsuji Chromatography of isoforms

of recombinant apoaequorin and method for the preparation of aequorin Protein Expression and Purification

31 181-187 (2003)

21 N Maita K Nishio E Nishimoto T Matsui Y Shikamoto T Morita JE Sadler and H Mizuno Crystal

structure of von Willebrand factor A1 domain complexed with snake venom bitiscetin Insight into glycoprotein

Ibαbinding mechanism induced by snake venom proteins J Biol Chem 278 37777-37781 (2003)

22 Y Fujii D Okuda Z Fujimoto K Horii T Morita and H Mizuno Crystal structure of trimestatin a

disintegrin containing a cell adhesion recognition motif RGD J Mol Biol 332 1115-1122 (2003)

23 A Nakagawa N Miyazaki J Taka H Naitow A Ogawa Z Fujimoto H Mizuno T Higashi Y Watanabe T

Omura R H Cheng and T Tsukihara The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly

mechanism of component proteins Structure 11 1227-1238 (2003)

24 K Horii D Okuda T Morita and H Mizuno Structural characterization of EMS16 an Antagonist of

collagen receptor (GPIaIIa) from the venom of Echis multisquamatus Biochemistry 42 12497-12502 (2003)

25 M Kagawa Z Fujimoto M Momma K Takase and H Mizuno Crystal structure of Bacillus subtilis

a-amylase in complex with acarbose J Bacteriology 185 6981-6984 (2003)

26 MMomma Z Fujimoto N Maita K Haraguchi and H Mizuno Expression crystallization and preliminary

X-ray crystallographic studies of Arthrobacter globiformis inulin fructotransferase Acta Cryst D 59

2286-2288 (2003)

27 Z Fujimoto W-D Kim S Kaneko G-G Park M Momma H Kobayashi and H Mizuno Crystallization and

preliminary X-ray crystallographic studies of α-galactosidase I from Mortierella vinacea Acta Cryst D 59

2289-2291 (2003)

28 K Ono O Kusano S Shimotakahara M Shimizu T Yamazaki and H Shindo ldquoThe Linker Histone Homolog

Hho1p from Saccharomyces cerevisiae Represents a Winged Helix-Turn-Helix Fold as Determined by NMR

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 29: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

27

Spectroscopy Nucleic Acids Research 31 7199-7207 (2003)

29 K Hagiwara T Higashi N Miyazaki H Naitow H Cheng A Nakagawa H Mizuno and T Tsukihara T

Omura The amino-terminal region of major capsid protein P3 is essential for self-assembly of single-shelled

core-like particles of Rice dwarf virus J Virology 78 3145-3148 (2004)

30 Z Fujimoto S Kaneko A Kuno H Kobayashi I Kusakabe and H Mizuno Crystal structures of decorated

xylooligosaccharides bound to a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 J Biol Chem

279 9606-9614 (2004)

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 森田隆司 水野洋「Gla ドメインの立体構造と機能」 日本血栓止血学会誌 11(4) 391-396 (2000)

2 藤本瑞 高瀬研二 水野洋「α-アミラーゼ-基質複合体の結晶構造と触媒機構モデル」 日本結晶学会誌

42 165-170 (2000)

3 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子のモジュレータタンパク質であるボトロセチンの立体

構造と機能」 日本血栓止血学会誌 12(3) 240-245 (2001)

4 松井太衛 広津晶子 水野洋「フォンビルブラント因子を活性化する蛇毒タンパク質の構造と機能」 「血小

板血栓形成の分子機構」関西血栓フォーラム編 編集代表 藤村吉博 p181-188 (2001)

5 難波一徳 藤井佳史 藤本瑞 御子柴義郎 水野洋「PF ビームライン6B および6C における Cocksfoot

mottle virusの X線データ収集」 構造生物 7(2) 65-71 (2001)

国外誌

1 T Yamazaki E Katoh T Hatta T Tomari S Tashiro H Shindo and T Mizuno A new N-terminal helix

capping box Peptides The Wave of the Future M Lebl and RA Houghten Eds American Peptide Society

pp 350-352 (2001)

2 Z Fujimoto A Kuno S Kaneko H Kobayashi I Kusakabe and HMizuno Structure of the catalytic module

and family 13 carbohydrate binding module of a family 10 xylanase from Streptomyces olivaceoviridis E-86 in

complex with xylose and galactose Carbohydrate Bioengineering Interdisciplinary Approaches edited by TT

Teeri B Svensson HJ Gilbert and T Feizi Royal Society of Chemistry p106-112 (2002)

口頭発表

招待講演

1 鹿本康生「血液凝固Ⅸ因子結合タンパク質とⅨ因子 Gla ドメイン複合体の結晶構造解析」 京都 第74回日

本生化学会大会 200110

2 水野洋「X線結晶解析法による血小板凝集阻害タンパク質 Disintegrin の立体構造の解明」 京都 第74回

日本生化学会大会 200110

3 水野洋「蛇毒由来タンパク質の立体構造とそのメカニズム」 山形 生研機構プロジェクトミニシンポジウム

200110

4 水野洋rdquoAn inhibition mechanism of coahulation based on the structure of blood coagulation factor complex

with its binding protein from snake venomrdquo 西播磨 The 6th Harima International Forum 20021

5 水野洋 森田隆司「ヘビ毒に含まれる C 型レクチン様タンパク質の構造と多様な機能」 藤沢 日本農芸化

学会 2003年度大会 20034

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 30: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

28

特許等出願等

1 平成 15年 1月 10日出願 「蛋白質 trimestatinの結晶化構造座標の決定構造座標の使用」 河合永文

水野洋 森田隆司 農業生物資源研究所 特願 2003-004289

2 平成 15年 8月 29日出願 「高純度化されたイクオリンとその精製方法」 竹中洋美 大塚元央 水野洋 農

業生物資源研究所 特願 2003-305743

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 31: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

29

2 中性子回折法によるタンパク質や核酸の水素水和構造決定手法の開発

日本原子力研究所中性子利用研究センター中性子構造生物学研究グループ

新村 信雄田中 伊知朗栗原 和男Andreas Ostermann茶竹 俊行前田 満鴨志田 薫新井 栄揮

要 約

既存の中性子回折計(BIX-3)建設の経験からその性能を2倍向上できる中性子回折計(BIX-4)の設計建設を行った

既存の BIX-2BIX-3および新設の BIX-4 を用い基本的タンパク質ミオグロビンルブレドキシン(野生型変異型)ニワ

トリ卵白リゾチームヒトリゾチームインスリンDsrD B-DNA Z-DNAの構造解析を行ったその結果タンパク質二次構

造αヘリックス中の2分岐水素結合の詳細アミド基水素の HD 交換率の決定タンパク質の水和構造とそのダイナミクス

の解明酵素活性に及ぼす水素原子の寄与タンパク質の熱安定性に寄与する水素結合など解明がなされたまた中

性子回折実験では大型結晶育成が必須で溶解度曲線を含む相図を作成することでDNA(2mm x 2mm x 03mm)やインスリ

ン(3mm x 3mm x 1mm)等の大型結晶育成を世界で初めて成功させたまた相図を用いることで大型結晶育成の一般的

手法の開発を行った

結晶育成の原理解明をすすめており結晶の評価を定量的に行う手法として変形Wilson plotを開発した

タンパク質の水素水和構造をデータベース化するための概念設計を完了した

目 的

中性子回折法はタンパク質や DNA 等のすべての水素原子位置を決定出来る唯一の実験手法であるしかし実験例が少

ないためその有用性があまり理解されていないそこで基本的なタンパク質を用いて中性子回折法の有意性を実証するその

ために高性能中性子回折計を建設し大型結晶育成技術を開発し水素を含む新しいタンパク質の立体構造の世界を作る

研究方法

主要な実験手法は中性子回折実験である中性子回折実験には大型結晶が必要でそのためには溶解度曲線を含む相

図を詳細に決定することである主にバッチ法さらに高度な手法として透析法を用いることで相図を作る手法を開発する

中性子回折法で得られた水素水和構造情報を分類することで水素に関連した共通基本情報を得る

研究成果

21 中性子回折装置

211 中性子回折計 BIX-3

日本原子力研究所 JRR-3Mにおいて高性能生体高分子結晶構造解析用中性子回折計(BIX-3)を完成させたこれは

これまでに我々が開発した中性子イメージングプレート(NIP)の技術と弾性湾曲シリコンモノクロメータの技術を組み合わせ

縦型に配置することで従来この種の装置のなかでも最もコンパクトにデザインされたものであるこの装置によりタンパク質

ルブレドキシンおよびミオグロビンの水素原子位置決定実験を試みたがそれぞれ約 1 ヶ月の測定で分解能 15Åの精度

で分子構造を決定できる精度の高いデータが取得できたことから世界最大の研究用原子炉のある仏ラウエランジュバン

研究所にある準ラウエ式生体高分子用中性子回折計の性能を超えて世界一の性能を有することが確認できた

その後も装置の改良を行い光学系データ吸収補正6低温試料環境試料設置方式の改善そしてモノクロメータ

調整用測定器を整備しより使いやすく安定に精度よくデータが出るように配慮した特に光学系のNIP読み取り機のレ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 32: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

30

ーザー強度をマルチレーザー管方式を用いて増強し読み取り強度を 38倍にすることが出来た

(1)生体物質以外の測定例

またこの装置は生体物質の構造決定だけではなく有機分子コバロキシム錯体の水素移動メカニズム解明や Schubert

system に関わる有機分子中の水素原子位置の解明および 1mm 角の極微量無機粉末試料からの中性子回折実験にも

十分使えることが実証された同様にポリエチレン等の高分子結晶の測定にも有効であることが示された

(2)新回折計 BIX-3

BIX-3M 増設に伴いBIX-3 も実質的にグレードアップしたモノクロメータの高さを 2 倍の 80mm とし4Q スーパーミラ

ーフライトチューブを用いることで従来の BIX-3の 3~5倍のビーム強度が期待できる

212 中性子回折計 BIX-3M

我々は既に本格的な生体物質中性子回折計BIX-3を原研研究用原子炉 JRR-3の 1Gビームポートに所有していたが

中性子構造生物研究における近年の数々の成果と高まりつつあるさらなる高性能回折計への要望から新たに生体高分

子用中性子回折装置 BIX-3Mの建設を同 1Gビームポートで行ったBIX-3Mの基本デザインはBIX-3をベースとしてい

るしかしさらに回折装置及びモノクロメータ遮蔽体にも改良を加えることにより既存の BIX-3よりも測定性能の向上を計

った具体的には

(1) モノクロメータビームサイズ現在の BIX-3ではビームサイズの下半分(40times40 mm)のみ使用しているBIX-3Mでは

縦にシリコンプレート 3枚(上下は傾斜可能)を組み合わせた新型のモノクロメータを導入することによって上半分も使用し

80times40 mm とする(2) フライトチューブモノクロメータサンプル位置間の飛行管にはNiTi多層膜を使用した 365Q ス

ーパーミラーを使用するこれによりスーパーミラー内壁に入射した中性子の一部を全反射させ試料位置での強度を増

加させた(3) 波長の選択モノクロメータ大型化による入射ビーム角度分散の増大はスポット間距離の減少を招くこの

減少の抑制を考慮しモノクロメータ散乱角として 2θM = 49ordmを選択した(4) 読取出力モード出力分解能は従来のまま

(02times02mm)読取間隔を従来に比べ水平垂直方向各 12 倍の 01times01mm とするモードを追加したこれにより反射

強度の統計精度向上を計った

表 1 に BIX-3M と改造前 BIX-3 の仕様比較表を示す結果として改造前 BIX-3 に比べて BIX-3M の性能向上は約

25倍と評価されたこの結果に基づくと仮に現在の BIX-3 を使用して 1 フレーム 60分で 800 フレーム測定するとすると

約 36日必要だがBIX-3Mでは約 18日で測定が完了することになるこれを年間(原子炉利用可能時間 = 25週年)に

換算すれば最大約 5試料年から最大約 10試料年となる

22 中性子構造解析

221 ミオグロビン

本研究ではsperm whale 由来メトミオグロビンの中性子結晶解析を 15Å分解能で行った中性子回折像を JRR-3M の

BIX-3を用いて常温で収集しこの回折像をコンピューター上で処理することによりRmerge値=103収率=879の強度デ

ータを多重度=29で得ることに成功した最外殻(155-15Å)の統計値は Rmerge値=249収率=670多重度=21である

この強度データを用いて構造決定を行いR値=201Rfree値=238で構造精密化を終了した(PDBID 1L2K)本解析の分

解能(15Å)は中性子蛋白質結晶解析における現時点での最高分解能である今回の高分解能データを用いることにより

我々は主鎖の軽水素の重水素置換率を精度よく求めることが可能となったこの重水素置換率は蛋白質の構造分布と柔軟

性に依存している[1]またこれまでエネルギー計算等で得られていた水素原子位置と今回実測された位置を比較したとこ

ろメチル基中の水素原子などの自由度を持つ水素原子においては70以上のケースで計算値と実測値の間に 02Å以

上のずれが観測された[2]水和構造についても X線解析では見つけられなかった興味深い結果が得られた[3]

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

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17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 33: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

31

図-1 チロシン 12 番残基付近の(2FO-FC)フーリエ図網状のも

ので青は正の散乱密度(σ=+25)赤は負の散乱密度(σ

=-25)を示す文字 COHD はそれぞれ炭素酸素水素重

水素原子を表す

222 ルブレドキシン(野生型)

様々な種におけるルブレドキシン間の異なる熱安定性

を理解しようとする目的から超好熱菌 Pyrococcus

furiosus 由来の野生型ルブレドキシンの中性子構造解析

を行った回折測定ではd=15Å付近まで回折点を検出

することができ収率は 817であった構造精密化では

306 個の水素原子と 50 個の重水素原子を含め最終的に

分解能=15Åで R値 186Rfree値 217を得たまた 37

個の水和水分子を同定したこの立体構造解析から次のよ

うな結果を得た(1) 図-1はフーリエ図の一例(チロシン 12

番残基)であるこの図では未置換の軽水素原子を負の散

乱振幅(赤で表示)として明確に見ることができるチロシン

残基の酸素-重水素(青)間結合の配向には 2 つの方向が

考えられるが中性子解析では図-1のようにはっきりと決定

することが出来るこれは X 線解析では測定困難な詳細な

水素結合パターンを中性子解析では得ることが可能である

ことを示す一例である(2) 置換可能な水素原子のうち 24

個の原子位置が有意な正の散乱ピークを持っていなかっ

たそのうち 11 個は主鎖に結合しているこれらの位置は

水素重水素置換が充分行えない位置にあることが示唆さ

れる主鎖の窒素原子に結合する水素位置に対して水素

重水素置換率を求めたそれによると置換率の非常に低い値を持つ水素位置は温度因子も低く接触表面積も低い水素位

置と一致したこれはその位置での構造の剛性をよく示しているこのような解析は高分解能な中性子回折測定によって可能

となった本研究はNatalia Moiseeva Robert Bau(南カルフォルニア大学)Michael WW Adams Francis E Jenney Jr(ジ

ョージア大学)らとの共同研究である

223 ルブレドキシン(変異型)

熱に強い蛋白質を作り出すことは蛋白質の工業への応用において有用性が高く世界各国で蛋白質の熱安定化機構

の解明が試みられている本研究では高度高熱菌 P Furiosus由来ルブレドキシン(PfRd)の持つ高い熱安定性の原因を

探るためにPfRdに常温菌 C Pasterurianum由来ルブレドキシンのアミノ酸配列を導入した変異体(mut-PfRd)の中性子結

晶解析を行いPfRd との比較をおこなったJRR-3M の BIX-3 を用いた中性子回折実験で30 日間で 16Å分解能の強

度データを収集した先に解析した mut-PfRd重水結晶の X線構造を初期構造として解析を行い水素原子を含めたほと

んどの原子位置の決定に成功した[4]構造比較の結果Trp(PfRd)から Tyr(mut-PfRd)への変異が起こっている 3 番目の

残基において水素結合ネットワークの変化が観測されたPfRdでは Trp3のN1-D1とGlu14のカルボキシル基が直接水素

結合しているしかしながらmut-PfRd ではTyr3Glu14間の直接の水素結合は失われており水を介した間接的な相互

作用に変化してしまっているそのためにこの部位での分子内相互作用は減少しているように見える[5]この水素結合様

式の変化が熱安定性低下の一因となっていると推測される

224 ニワトリ卵白リゾチーム

pH49のニワトリ卵白リゾチームの中性子構造解析を行い既に解析が終わっている pH70の結果[6]と比較し異なった

pH下でのアミノ酸残基のプロトネーションの状態を明らかにしタンパク質の活性等を議論することを目的とした

結晶化剤 NiCl2の濃度勾配法により重水中で正方晶系ニワトリ卵白リゾチームリゾチーム単結晶(pH49)を育成した単

結晶の大きさは2x2x1mm3 であった中性子回折実験は日本原子力研究所の BIX-2を用いて行った図-2 に中性子

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

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7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 34: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

32

図-2 グルタミン酸(Glu)35の2F0-Fcマップ

図-3 ヒトリゾチームの 35 番のグルタミン酸X線(緑色)の

2fo-fc mapと中性子によるグルタミン酸 35の omit map(黄色)

側鎖のカルボキシル基の他に主鎖のカルボニル酸素近傍にも

水素の局在が示唆された

構造解析の結果から得られたリゾチームの活性部位であるグ

ルタミン酸(Glu)35の2F0-Fc マップを示した矢印で示し

たようにGlu35のOE1の先にpH70の場合では存在しなか

った重水素原子が見いだされたこの結果は従来の Philips

らの加水分解モデルを支持する結果となった

225 ヒトリゾチーム

野生型ヒトリゾチームを用いて中性子結晶構造解析を行っ

たところ活性中心のグルタミン酸の主鎖のカルボニル酸素

に対して重水素イオンによる水素付加と思われる核密度が

観測された(図-3)この核密度が重水素イオン付加によるも

のである可能性を検討するために我々が中性子結晶構造

解析を行ったのと比較的近い実験条件で測定されデータ

ベースに登録されていたこの残基のカルボニル酸素と共鳴

構造をとっている隣の残基のアミド窒素の NMR のケミカルシ

フトをみたところペプチド結合が強固な共鳴構造にあれば

低磁場シフトして観測されるはずの窒素のケミカルシフト値が

高磁場方向に観測されていることが分った隣のカルボニル

酸素に対して局在水素の代わりにはっきりと水和水の水素

の配位が観測された窒素でも同様に高磁場に片寄ったケミ

カルシフトが観測されたアミド窒素のケミカルシフトの低磁

場シフトとペプチド結合の平面性が表裏一体であることを考

えるとこの残基ではペプチド結合の平面性に対する束縛が

弱まった結果ケミカルシフトが高磁場シフトしたのではないか

と考えられたそこでペプチド結合の平面性に対する束縛

条件の緩いヒトリゾチームの高分解能X線結晶構造解析デー

タからペプチド結合の歪みの角度を計算したところいくつか

のアミノ酸残基で局所的なペプチド結合の回転がみられ最

大で 18 度以上ものペプチド結合の歪みが観測されることが

わかったこれらの結果から野生型ヒトリゾチームでは分子

内部に形成された静電ポテンシャルが低いところにプロトン

の局在がおこりそれによって通常は非常に低い pH でしか

起こりにくいと考えられる主鎖のカルボニルへの水素付加が

起こりこれが通常平面構造をとるとされている蛋白質のペプ

チド結合を歪めている可能性が強く示唆された

226 チトクローム Crsquo

原研研究用原子炉 JRR-3の中性子回折装置 BIX-3において Alcaligenes xylosoxidans由来チトクローム Cの中性子回

折実験を行った28Å分解能の強度データを Rmerge 値=216収率=88で得ることに成功したX 線結晶構造(PDBID

1CGO)をモデルとして剛体近似精密化を行った結果R値 218Rfree値 223の分子構造を得た今回用いた結晶(空間

群 P6522)には以下に述べる難関が存在していた(1) サイズが 14mm3 と従来の中性子回折実験に用いられた結晶よりも

小さい(2) 単位格子の c 軸が非常に長く(1818Å)回折斑点の分離が難しい(3) 結晶化試薬の重水素化が部分的で

あったために結晶の重水素置換が不十分でありデータ収集時のバックグランドが非常に高かった(これは中性子フーリ

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 35: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

33

図-4 DsrDの分子間接触

エ図の検討により解析後に明らかになった)今回の回折実験はBIX-3 の潜在能力を試す非常に挑戦的な実験であった

そして上に示した様な複雑な条件下でも回折実験が可能であったことは中性子結晶構造解析の将来計画において重

要な点であると結論できる

227 インスリン

立法晶インスリンの中性子構造解析を 16Å分解能(comleteness40)で行った但しcompleteness 80のデータを用い

ると明らかにフーリエ像は悪くなるのでcompleteness 40であるが16Å分解能データを用いて解析を行った用いた結

晶の大きさは 4mm x 4mm x 2mmであったB鎖にある His5 と His10のイミダゾール環の二つの窒素原子への水素原子の

結合状態が異なることが見いだされたHis5 は1個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に中性であるが His10 は2

個の窒素原子に水素原子が結合し電気的に正に帯電していることが明瞭に見てとれる

228 DsrD

蛋白質のDNA認識における水素結合様式及び水和構造ネットワークを考える上でのモデル蛋白質としてDNA結合蛋

白質DsrDの中性子結晶解析を行った本実験においては結晶析出相図と X線回折による品質評価を併用することによ

り僅か 60日程度で中性子回折実験に十分な大きさの結晶(17mm3)を得ることに成功した

中性回折実験は JRR-3M-1G-A-BIX-3で行った(dmin=288 Aring)撮影角度は合計 1536度(512フレーム)であり一枚あ

たりの撮影時間が 2 時間であったためデータ収集に 7 週間を要したこれらについて画像処理を行いdmin=24 Aring

completeness= 925Rmerge 143 の強度データを得た

構造決定についてはこれまでに行われた中性子解析法と同様の手順を用いたただしDsrD は解析分解能がそれほ

ど高くなかったので幾つかの解析手順を簡略化した解析の初期モデルにはJAERI内のX線装置DIP2020で解析した

X線結晶構造を用いている最終的に分解能 24 AringR=228 Rfree=287の最終構造を得ることに成功した

DsrDは前述の通りDNA結合蛋白質と予測されているがそのDNA結合モチーフについてはDNAとの複合体の解析

が終了していないためにまだはっきりとは分かっていないしかも本結晶ではその領域の一部は分子間接触に相当し

ているので結合について論じる事はかなり難しい本

研究では分子間接触等の結晶学的見地に立った考

察を現在進めている本蛋白質の分子間相互作用は

特徴的であり二回軸対称の二分子(図-4 の赤と青)は

その接している領域の両端において非常に特徴的な

相互作用を形成しているここではGlu50 のカルボキ

シル基がプロトン化(pka=45)していてこれによりGln6

との間でCO-O-D (Glu50) hellip O=C (Gln6) C=O

(Glu50) hellip D-N (Gln6)の六角形型の水素結合ネットワ

ークを形成しているしかもこれ以外の直接の相互作

用は疎水性相互作用以外は殆ど見つけることが出来

ないこの様な特徴的な相互作用が結晶成長と pH と

の相関の原因となっているのではないかと考えられる

229 B-DNA

DNA に代表される核酸分子は生体内では水溶液中に存在しておりその構造と機能に対する水和の重要性が指摘さ

れてきた例えば水分子は DNA 結合蛋白質と DNA を結びつけるrdquo糊rdquoのような役割を果たすことが知られているまた

B-DNA 二重鎖の副溝内には水分子が規則的に配列し構造安定化に寄与しているしかしこれまでの X 線回折では

水素原子位置を含めて水和水を決定した例は皆無に等しい本研究ではDNA 二重らせんについて水素を含めた完全

な水和構造の決定を目指し中性子結晶回折計 BIX-3 及び BIX-4 による中性子結晶回折実験及び構造解析を行った

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

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2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

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3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 36: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

34

測定の際は約1ヶ月の間結晶を 6に保つ空冷式結晶

冷却装置を開発して用いたまたSPring8 の X線構造解

析よって得られた比較的高分解能の分子モデルを初期構

造とし中性子構造解析における分子モデルの精密化を

行った構造解析の結果27 個の水和水について水素

(重水素)原子位置を含めて決定することに成功しDNA

の鎖の間を繋ぐ多くの water bridge を確認することが出来

た特に二重らせん中央付近の minor groove 内には複

合的な water bridge によって形成される水和水のネットワ

ークが存在することが知られていたが本研究では大ま

かではあるが水和水の配向を含めた水和水ネットワーク

を決定することに成功した(図-5) これによって従来の

X 線結晶解析から予想されていたものよりも複雑な水和

水ネットワークが存在する可能性が生じたこれらの water

bridgeは二重らせんの立体構造構築に強く影響していると

思われまたその水和のパターンはゲノム情報認識にも

影響をもたらしている可能性がある

2210 Z-DNA

DNA は元来塩基対間の水素結合(塩基対合)が構造形成の主因子であり糖鎖の拘束条件は非常に弱いよってら

せん構造の形成はかなり確りとしたものだが一方らせん構造自体の構造は非常に揺らぎが大きなものとなっているこの

ためにDNA は周りの環境(塩濃度や温度等の要因)によりらせん構造を転移させることになる特にBrarrZ 転移は生物

学的な意義が深くそのメカニズムの解明が急がれている我々はZ-DNA の構造構築の要因として水和に注目した

B-DNAの水和構造と Z-DNAのそれが大きく違っていることはこれまでの数多くの X線結晶構造解析により提示されてい

るしかしながらX 線は原理的に水素原子の位置決定能力が弱く水分子の配向については未だ不明な点が多いこれ

では水和による水素結合ネットワークを検討することが非常に難しい本研究では中性子結晶解析により Z-DNA

d(CGCGCG)の水和構造について水素原子を含んだ形で決定することに成功した

結晶化は結晶化溶液のAnnealingにより行った2ヶ月間の結晶化で3mm3以上の大型結晶を作成することに成功した

中性子回折実験はその結晶を分割して15mm3程度の大

きさにしたものをキャピラリに封入して行った中性回折実験

は JRR-3 BIX-3で行った 16 Aring分解能までの反射像をプロ

グラム DENZO を用いた指数決定と積算処理プログラム

SCALEPACKを用いたマージ処理することにより収率737

Rmerge 127 の強度データを得た構造決定はX線結晶構

造をスタートモデルとした分子置換法をプログラムCNSより行

ったトポロジー及びパラメーターファイルはX 線用のもの

を自分で改変して使用した最終的に分解能 18 Aring

R=222 Rfree=294の最終構造を得ることに成功した

本解析の分解能では軽水素原子については少々シビ

アだが重水素原子についてはかなりクリアなマップを得る

ことが出来た図-6 はその一例であるCyt(左側)と Gua(右

側)の塩基対の中性子密度がかなりはっきりと観察できる

赤は-25σ以下の負の核密度青は 15σ以上の正の核

図 -5 中 性 子 回 折 法 に よ っ て 明 ら か に な っ た

d(CCATTAATGG)の minor groove 内の水和水ネットワークの

様子

図-6 Guanine-Cytosine塩基対部分の中性子核密度図

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

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neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

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high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

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Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

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成果の発表

原著論文による発表

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4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

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5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

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6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

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8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

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9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

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14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

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3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

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10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

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11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

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水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

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of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

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3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

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2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

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Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 37: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

35

密度を示している双方とも少々ノイズがのっているが本分解能で十分に予測される範囲内であるので解析分解能や

その結果については妥当であると判断できる

2211 エンドポリガラクツロナーゼ I

リンゴ銀葉病発現の鍵となるタンパク質エンドポリガラクツロナーゼ I(endoPGI)はペクチンのポリガラクツロン酸主鎖の

α-14 グリコシド結合を加水分解する酵素であるこの反応は二つの酸性残基によって触媒されると示唆されているそ

のうち一方の残基はグリコシド結合の酸素にプロトンを供給する一般酸触媒としてもう一方の残基は加水分解を行う水

分子からプロトンを引き抜く一般塩基触媒として働くと考えられているしたがって水素原子(およびプロトン)を含めた本

酵素の構造情報は酵素反応メカニズムの解明に重要であるがこれまで実験的に酸塩基触媒残基の水素原子を直接同

定した研究は皆無で中性子回折実験への期待はきわめて高い

回折測定実験データ

試料 Endopolygalacturonase I from Stereum purpureum

結晶化 軽水溶液中(結晶化後重水溶液と置換)

結晶サイズ 456mm3

測定時間 37日(05時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=472 Aring b=528Aring c=378Aring α=723ordm β=701ordm γ=711ordm

分解能 15Aring

独立反射数 41535

データ収率 823

R-merge 61

図-7にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す中性子回折において分子量約 3万クラスのタンパク質結晶

からこのような高分解能データを得られた例は稀有である現在この回折データをもとに構造精密化が進められている

本研究は佐藤 衛(横浜市立大学)清水哲哉中津 亨加藤博章(京都大学)宮入一夫奥野智旦(弘前大学)ら

との共同研究である

10Aring5Aring3Aring 2Aring 15Aring 137Aring

図-7 エンドポリガラクツロナーゼ Iの回折パターン

露出時間30分15Aring 以上まで回折点を確認することができる

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 38: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

36

2212 ニガウリトリプシンインヒビター

ニガウリトリプシンインヒビター(BGTI)の変性過程研究のため蛍光の減衰と蛍光異方性を時間分割で測定することに

よりタンパク質分子内蛍光プローブであるトリプトファン残基周囲の局所的環境の変化や同残基の運動性(局所的構造揺

らぎ)の変化などが調べられているしかしこの蛍光は隣接リジン残基のアミノ基からのプロトン移動により大きく左右され

るこのトリプトファンとアミノ基との実空間上での立体配置と蛍光緩和との関係が明らかにされれば時間分割蛍光法より

得られる情報は大きくその定量性を増す中性子解析によってこの隣接リジン残基のアミノ基性プロトンの位置及び周囲の

水素結合ネットワークを明らかにする

回折測定実験データ(途中経過)

試料 Bitter Gourd Trypsin Inhibitor (BGTI)

結晶化 軽水溶液中(重水溶液と未置換)

結晶サイズ 03mm3

測定時間 29日(1時間フレーム)

空間群 P1

格子定数 a=228 Aring b=235Aring c=283Aring α=931ordm β=997ordm γ=1012ordm

分解能 21Aring

独立反射数 1473

データ収率 443

R-merge 84

図-8 にこの結晶から得られた回折パターンの一例を示す現在結晶回転軸 1 軸目の回折データの収集を完了した

今後2軸目(1軸目に垂直)の回転軸でデータ収集を行い構造精密化に移行する予定である

10Aring5Aring3Aring 2Aring

図-8 ニガウリトリプシンインヒビターの回折パターン

露出時間1時間2Aring 近辺まで回折点を確認することができる

23 トピックス

231 水素原子

図-9にチロシン残基の中性子フーリエ図を示す6員環の炭素原子に結合している水素原子が明瞭に見える一方酸

素原子に結合している水素は重水素に置換していることがわかる(注中性子回折実験に用いる単結晶は水素の非干

渉性散乱によるバックグランドを下げるため重水中から育成されるかあるいは軽水中で育成し重水に結晶を付けておき

タンパク質周囲の水を重水に置換したものを用いるその結果一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素

原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換される)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 39: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

37

232 水素結合

水素原子が明瞭に見えたことで水素結合の様子がよく解るようになった例えば1951 年ポーリングによって提案されたα

ヘリックス骨格構造は n番目のアミノ酸の C-O と n+4番目のアミノ酸の N-Hが水素結合で結ばれラセン構造をとる構造モデ

ルである今回我々は中性子回折法でミオグロビン及びリゾチームのαヘリックス中のすべての水素原子を決定したところ

骨格構造の水素結合の多くは確かにポーリングのモデルを支持する構造であるがいくつかの n+4番目のアミノ酸の N-Hは n

番目のアミノ酸の C-O とだけでなく n+1番目のアミノ酸の C-O とも水素結合している所謂 2分岐水素結合が数多くあることが

見い出された図-10 に2分岐水素結合の典型例を示す水素結合のドナーアクセプターをそれぞれ XY で表すと水素結

合は X-HY と一般的に表せるX線結晶構造解析で水素結合の強さの程度を XYの距離で議論される場合が多いがこ

れは X-HY が直線であることを仮定しているからであるが今回の中性子解析の結果からは X-HY が直線になっているケ

ースは殆ど無いことが判明したつまり水素結合の強さの程度を XYの距離で議論するのは危険であることが判った

233 HD交換

一般にアミド基の水素原子を始めアミノ酸残基の窒素原子や酸素原子に結合している水素原子は重水素原子に置換

されるしかし詳細に調べてみると必ずしも重水素置換しない箇所があるのが判明したそこで水素の原子散乱長に HD

占有率を新たなパラメータとして導入し HD交換率を求めたその結果骨格アミド基水素の HD交換率は温度因子及び

ASA (Accessible Surface Area)が高い箇所では高いという強い相関がありことが明瞭に判明した一方ミオグロビン 97番目

のヒスチジンに関してイミダゾール環内の二つの窒素原子の間の炭素原子に結合した水素原子が重水素置換していることが

判明したこれはこの炭素が側鎖内両窒素の電気陰性度により正に荷電し結合水素を酸性的にした結果と考えられる

234 水和水構造

タンパク質やDNAの水和水の位置決定は水和水と結合するアミノ酸残基の種類構造相互作用の強さを定量的に議

論出来る基礎データを提供するこのようにして得られた水和構造は立体構造構築原理タンパク質分子のダイナミックス

計算分子認識ドラグデザイン等に大きな寄与が期待できるX線解析でも水和水は酸素位置を同定することで観測され

るのが水素原子を含めた水和水とアミノ酸残基との結合の様子は判らない水和水の水素原子を含め水和水の配向まで

決定できる実験手法は中性子回折法のみである

図-9 ルブレドキシン(野生型)の Tyr10の 2Fo-Fcマップ赤線で

示してあるのが水素原子(負の散乱長)であり水素原子位置は

精密化して得られる酸素原子に結合している水素は重水素(正

の散乱長)に置換していること-OD 基はベンゼン環とほぼ同一

面上にあることがわかる

図-10 中性子回折法で新たに確認されたαヘリックス2分岐水

素結合構造の例107番目のアミノ酸(イソロイシン)のN-Hは 103

番目のアミノ酸(チロシン)の C-O とだけでなく 104番目のアミノ酸

(ロイシン)の C-O とも水素結合している

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 40: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

38

我々は中性子回折法でミオグロビンルブレドキシン(野生型)ルブレドキシン(変異型)の水和構造を 15Å分解能で

決定しそこで決定された水和水をフーリエ図に現れた形状から分類してみた結果4種類三角形型長い棒型短い棒

型球型のどれかに属することが判明した(図-11)これら形状の違いは水和水が近傍のアミノ酸残基とどのような水素結

合の仕方をしているかや水和水の分子運動の程度を反映している例えば三角形型に見える水和水の多くは 3 方向で

それぞれ近傍の原子と水素結合しており温度因子を解析してみると他の形状の水和水より小さい値をとっていることが判

明したまた棒型球型は 2方向1方向でそれぞれ近傍の原子と水素結合している

図-11 観測された水分子の形状の数とダイナミクス

24 重水素化試料調製

241 ヒトリゾチーム

Pichia Pastorisは酵母の他の株やこれまで蛋白質の重水素化に用いられて来た大腸菌に比べて発現量が格段に高く

また分泌発現であるので特にリゾチームのように複数の S-S結合を有する蛋白質の発現には非常に有利である本研究で

は中性子結晶解析用に重水素化蛋白質の発現系を確立することを目的として酵母 Pichia Pastorisを用いて野生型ヒトリ

ゾチームの重水素化を試みた培地の組成も単純であるので蛋白質のラベル化に適している本研究ではリゾチームの

培養過程に含まれる培地中の水炭素源のメタノールアンモニア塩類を順に重水素化された試薬に置換することによ

り段階的は重水素化を試み重水素化率の向上を試みた培養実験の結果得られたリゾチームの重水素化率を測定する

ためMALDI-TOF mass法を使用した重水素化率の測定法も合わせて開発したヒトリゾチームは分子中に約 1000個の

水素を含んでいるのでこれらの全てが重水素化されれば分子量が 1000増えるはずであるあらかじめ蛋白質中の溶媒

の水素と交換可能な全ての水素を軽水素及び重水素に置換した上でリゾチーム分子全体の分子量を測定した溶媒の水

素と交換可能な水素が全て重水素に置換された場合の分子量と軽水素で置換された試料との分子量の差が交換可能

な水素の数に一致していることを確認した上で重水素化率を算出したこの方法で重水及び重メタノールのみを用いて

培養したリゾチームで80の重水素化率のリゾチームが 2 リットル培養で 100mg程度得られることがわかったさらにあ

らかじめ重水素置換しておいた塩化アンモニムから合成した重アンモニアや塩類を用い空気中の水蒸気を除湿により除

き溶媒と交換しない水素を重水素に交換するため炭素源のグルコースを重水素化した原料を用い培養を行ったところ

同様の培養で 10 ミリグラムの高度重水素化ヒトリゾチームを得ることができた

242 DNAオリゴマー

中性子解析では水素からの非干渉性散乱に起因するノイズの増大が問題となる通常は重水中で結晶化することに

よりノイズを抑えているが炭素に結合している水素は重水中でも置換できない我々は東工大の竹中助教授千葉工大

の河合助教授日本酸素株式会社の横山氏との共同研究により分子中の全ての水素を重水素置換した DNA を用いて

回折像の SN比を飛躍的に向上させることを試みた重水中で培養した藍藻からDNAの原材料をとりだして試験管内で

酵素により目的の重水素化 DNAを作り出す方法を用いたPCR法により合成されたサンプルを用いて通常の DNA と同条

件[7]で結晶化を試みたその結果 1mm3程度の良質の単結晶を得ることに成功した

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 41: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

39

考 察

我々が建設した中性子回折装置(BIX-2BIX-3BIX-4)により基本的なタンパク質(ニワトリ卵白リゾチームヒトリゾチー

ムミオグロビンルブレドキシンインスリン核酸等)の中性子構造解析を行った結果水素原子水和構造が期待された

精度で観測可能なことが実証された今後は実例を増やしタンパク質の種々の機能や構造構築原理での水素原子水

和構造の寄与を明確にしていくさらに生物学的に興味あるタンパク質の中性子構造解析を行いX線では解決出来なか

った機能解析に貢献していく現在これまで得られた水素水和構造を分類しているがタンパク質の水素結合の詳細が

明瞭になりつつある

また中性子構造生物学のボトルネックであった大型単結晶育成技術についても溶解度曲線を含む相図を決定するこ

とで最適結晶成長条件が探索されることが実証されたことでこの分野のおおきな障害が除かれたことになりこの分野の

今後の発展に期待がもてるようになった

引用文献

1 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and deuterium in myoglobin as seen by a

neutron structure determination at 15 A resolution Biophys Chem 95 183-193 (2002)

2 N Engler A Ostarmann N Niimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics Proc

Nat Ac Sci 100 10243-10248 (2003)

3 T Chatake A Ostarmann K Kurihara FGParaka and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography PROTEINS 50 516-523 (2003)

4 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Applied Physics A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

5 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau FE Jenney Jr MWW Adams and N Niimura A neutron

crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Aring resolution submitted paper

6 N Niimura Y Minezaki T Nonaka J-C Castagna F Cipriani P Hǿghǿj MS Lehmann and C Wilkinson

Neutron Laue diffractometry with an imaging plate provides an effective data collection regime for neutron protein

crystallography Nat Struct Biol 4 909-914 (1997)

7 S Arai T Chatake Y Minezakia and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer for a

neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Crystallogr D58 51-53 (2002)

成果の発表

原著論文による発表

国内誌(国内英文誌を含む)

1 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI J Phys Soc Jpn 70 SupplA 396-399 (2001)

2 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura Neutron Diffractometer for Biological Crystallography

(BIX-3) J Phys Soc Jpn 70 SupplA 459-461 (2001)

3 K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr N Moiseeva R Bau and N Niimura Neutron

Diffraction Study on the Structure of Rubredoxin from Pyrococcus furiosus J Phys Soc Jpn 70 SupplA

400-402 (2001)

4 M Maeda S Fujiwara Y Yonezawa and N Niimura Neutron Structure Analysis of Hen Egg-White

Lysozyme at pH49 J Phys Soc Jpn 70 SupplA 403-405 (2001)

5 新村信雄 新井栄揮 「結晶評価法の確立と蛋白質宇宙実験」 日本マイクログラビティ応用学会 20(2)

111-117 (2003)

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 42: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

40

国外誌

1 I Tanaka N Niimura and P Mikula An elastically bent silicon monochromator for a neutron diffractometer

J Appl Cryst 32(3) 525-529 (1999)

2 N Niimura Neutron structural biology J Phys Chem Solids 60(8-9) 1265-1271 (1999)

3 Y Minezaki T Nonaka and N Niimura Structural study of HEW-lysozyme by neutron crystallography J

Phys Chem Solids 60(8-9) 1387-1391 (1999)

4 I Tanaka K Kurihara Y Haga Y Minezaki S Fujiwara S Kumazawa and N Niimura An upgradede

neutron diffractometer (BIX-IM) for macromolecules with a neutron imaging plate J Phys Chem Solids

60(8-9) 1623-1626 (1999)

5 Y Haga S Kumazawa and N Niimura Gamma-ray sensitivity and shielding of a neutron imaging plate J

Appl Cryst 32(8-9) 878-882 (1999)

6 Y K Haga S Kumazawa and N Niimura The optimization and gamma-ray effects of the neutron imaging

plate J Phys Chem Solids 60(8-9) 1619-1621 (1999)

7 FU Ahmed I Tanaka and N Niimura Performance of a multi - wavelength monochromator system for

neutron single crystal and powder diffraction J Appl Cryst 33(2) 291-295 (2000)

8 L Rong T Yamane and N Niimura Measurement and control of the crystal growth rate of tetragonal hen

egg-white lysozyme imaged with an atomic force microscope J Crystal Growth 217(1-2) 161-169 (2000)

9 S Arai T Chatake Y Minezaki and N Niimura Crystallization of a large single crystal of a B-DNA decamer

for a neutron diffraction experiment by the phase-diagram technique Acta Cryst D58(1) 151-153 (2002)

10 I Tanaka K Kurihara T Chatake and N Niimura A high-performance neutron diffractometer for biological

crystallography (BIX-3) J Appl Cryst 35(1) 34-40 (2002)

11 Y K Haga K Neriishi K Takahashi and N Niimura Optimization of Neutron Imaging Plate Nucl Instru

Meth A487(3) 504-510 (2002)

12 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams FE Jenney Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant Appl Phys A74(Suppl) S1280-S1282 (2002)

13 N Niimura Preface of Hydrogen and hydration sensitive structural biology Biophys Chem 95(3) 181

(2002)

14 A Ostermann I Tanaka N Engler N Niimura and FG Parak Hydrogen and Deuterium in Myoglobin as

seen by a Neutron Structure Determination at 15Å Resolution Biophys Chem 95(3) 183-193 (2002)

15 N Niimura K Shibata and D Middendorf Neutron Inelastic Scattering Spectrometer for Protein Dynamics

Analysis J Neutron Res 10(3) 163-167 (2002)

16 T Chatake A Ostermann K Kurihara FG Parak and N Niimura Hydration in proteins observed by

high-resolution neutron crystallography Proteins 50(3) 516-523 (2003)

17 N Engler A Ostermann NNiimura and FG Parak Hydrogen atoms in proteins Positions and dynamics

Proc Natl Acad Sci 100(18) 10243-10248 (2003)

18 T Chatake N Mizuno G Voordouw Y Higichi S Arai I Tanaka and N Niimura Crystallization and

preliminary neutron analysis of the dissimilatopry sulfite reductase D (DsrD) protein from the sulfate-reducing

bacterium Desulfovibrio vulgaris Acta Cryst D59(12) 2306-2309 (2003)

19 M Maeda T Chatake I Tanaka A Ostermann and N Niimura Crystallization of a large single crystal of

cubic insulin for neutron protein Crystallography J Synchrotron Rad 11(1) 41-44 (2004)

20 K Kurihara I Tanaka M Refai-Muslih A Ostermann and N Niimura A new neutron single crystal

diffractometer dedicated for biological macromolecules (BIX-4) J Synchrotron Rad 11(1) 68-71 (2004)

21 T Chatake A Ostermann K Kurihara F G Parak N Mizuno G Voordouw Y Higuchi I Tanaka N

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 43: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

41

Niimura Hydration structures in proteins and neutron diffraction experiment on dissimilatory sulfite

reductase D (DsrD) J Synchrotron Rad 11(1) 72-75 (2004)

22 S Arai T Chatake N Suzuki H Mizuno and N Niimura More rapid evaluation of biomacromolecular

crystals for diffraction experiments Acta Crystallogr D60 1032-1039rdquo 23 I Tanaka T Ozeki T Ohhara K Kurihara and N Niimura Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) at Material and Life Science Facility in

J-PARC J Neutron Res submitted

24 K Kurihara I Tanaka T Chatake M W W Adams F E Jenny Jr N Moiseeva R Bau N Niimura

Neutron crystallographic study on rubredoxin from Pyrocuccus furiosus by BIX-3 a single-crystal

diffractometer for biomacromolecules Proc Natl Acad Sci submitted

25 T Chatake K Kurihara I Tanaka I Tsyba R Bau F E Jenny Jr M W W Adams and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16Å resolution Acta CrystD submitted

原著論文以外による発表(レビュー等)

国内誌(国内英文誌を含む)

1 新村信雄 「中性子イメージングプレートの構造生物学への寄与」 RADIOISOTOPES 48(11) 705-711

(1999)

2 新村信雄 「構造生物学の温故知新 -中性子構造生物学の目指すもの-」 放射線と産業 85 37-44

(2000)

3 田中伊知朗 栗原和男 新村信雄 「新型生体物質中性子回折装置の開発とそれによるタンパク質の水素

位置決定」 Isotope News 2000(7) 8-10 (2000)

4 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 「原研中性子構造生物学の現状」 構造生

物 7(2) 1-17 (2001)

5 新村信雄 田中伊知朗 栗原和男 茶竹俊行 A Ostermann 大原高志 「中性子回折計 BIX-3が拓く新し

い構造の世界」 波紋 12(1) 14-18 (2002)

6 新村信雄 「巻頭言 水」 生物物理 42(6) 261 (2002)

7 新村信雄 茶竹俊行 「構造生物学 X線と中性子の相補性」 波紋 13(1) 47-50 (2003)

8 新村信雄 茶竹俊行 栗原和男 「タンパク質の水素水和構造」 酵素工学ニュース 49 26-37 (2003)

9 大西裕季 新井栄揮 新村信雄 「タンパク質DNA 等結晶成長相図作成とそれに基づいた合理的な結晶

育成技術」 基礎科学ノート 10 10-13 (2003)

10 新村信雄 「サイズフリー良質タンパク質結晶育成技術開発結晶評価中性子構造解析」 Science amp

Technonews Tsukuba 68 (2003)

11 新村信雄 栗原和男 田中伊知朗 「世界最高性能を誇る中性子回折装置」 化学 59(2) 46-47 (2004)

12 「J-PARCへの夢 -J-PARCが拓くサイエンステクノロジー-」 ()

13 新村信雄 「中性子構造生物学 -ポストタンパク質 3000計画-」 波紋 14(1) 41-43 (2004)

14 新村信雄 「DNA とタンパク質の巨大結晶を作る」 現代化学 396 26-30 (2004)

国外誌

1 N Niimura Neutrons expand the field of structural biology Curr Opi Struct Bio 9(5) 602-608 (1999)

2 N Niimura T Chatake A Ostermann K Kurihara and I Tanaka High Resolution Neutron Protein

Crystallography Hydrogen and Hydration in Proteins Z Kristallogr 218(2) 96-107 (2003)

3 N Niimura T Chatake K Kurihara and M Maeda Hydrogen and Hydration in Proteins Cell Biochem

Biophys 40(3) in press

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 44: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

42

口頭発表

招待講演

1 I Tanaka Design of a neutron diffractometer on biological macromolecules Tsukuba (Japan) 15th Meeting

of the International Collaboration on Advanced Neutron Sources 2000116

2 N Niimura Hydrogen and Hydration in proteins Grenoble (France) Workshop on Protons in Proteins

2001125

3 N Niimura Neutrons expand the fields of structural biology Novosibirsk (Russia) The IV ISTC Scientific

Advisory Committee Seminar on ldquoBasic Science in ISTC Activitiesrdquo 2001423

4 A Ostermann Hydrogen in Proteins Recent results from the single crystal neutron diffractometer BIX-3

Munich (Germany) International Conference on Neutron Scattering 2001910

5 A Ostermann Macromolecular Crystallography with Monochromized Neutrons Recent Results from the

Single-Crystal Neutron Diffractometer BIX-3 Sydney (Australia) Instrument Workshops for Australiarsquos

Replacement Research Reactor 20011211

6 I Tanaka Single Crystal Diffraction in Japan and Plans for Instruments at the JSNS SNSSCD Instrument

Workshop 2002

7 N Niimura M Ataka S Arai M Maeda and T Chatake Crystallization Process of HEWL and Rational

Crystallization Design of aLarge Single Crystal for Neutron Protein Crystallography Jena (Germany) ICCB

M9 20023

8 N Niimura Neutron Imaging Plate つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

9 I Tanaka BIX-Type diffractometer for Single Xrsquotal つくば 第 2回日韓中性子科学研究会 2002

10 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Daejeon (Korea) The 3rd Japan-Korea Meeting on Neutron Science

2003227

11 茶竹俊行 「タンパク質中性子回折結果実例紹介」 東京 第 219 回 CBI 学会(情報計算化学生物学会)研

究講演会 2002531

12 N Niimura High resolution neutron protein crystallography Oak Ridge (USA) 1st American Conference on

Neutron Scattering 2002624

13 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins observed by high resolution neutron protein crystallography

Geneva (Switzerland) XIXth International Union of Crystallography Congress and General Assembly

2002810

14 N Niimura Hydrogen and hydration in proteins Boston (USA) 224th ACS National Meeting 2002819

15 茶竹俊行 「中性子結晶学による生体分子の水素水和構造の解析」 東京 結晶化学研究会第 52 回講演

会 20021221

16 T Chatake N Mizuno Y Higuchi GVoordow I Tanaka and N Niimura Crystallization and preliminary

neutron crystallographic analysis of DsrD protein Tsukuba (Japan) The International Symposium on

Diffraction Structural Biology 2003 2003529

17 N Niimura Hydrogen and Hydration in Proteins Determined by High Resolution Neutron Diffractometr

Tsukuba (Japan) The International Symposium on Diffraction Structural Biology 2003 2003529

18 N Niimura Hydrogen and Hydration In Protein Structural Chemistry The Annual National Meeting of the

American Crystallographic Association Cincinnati (USA) 2003729

19 新村信雄 「JRR-3 における中性子結晶構造生物学と J-PARK の将来の展望」 アルゴンヌ(米国) 「SNS に

おける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003102

20 田中伊知朗 尾関智二 大原高志 栗原和男 新村信雄 Single Crystal Pulsed Neutron Diffractometer for

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 45: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

43

Biologically Important Materials Crystallography No1 (BIX-P1) A proposal in J-PARCrdquo アルゴンヌ(米国)

「SNSにおける中性子生体高分子結晶構造解析」ワークショップ 2003103

21 I Tanaka Neutron Protein Crystallography in JAERI Mumbai (India) Conference on Neutron Scattering

200411

22 N Niimura Detector System for BIX-P1 Tokyo (Japan) Joint Meeting Neutron Optics and Detectors

2004113

その他 27件

応募主催講演等

1 新井栄揮 茶竹俊行 峯崎善章 新村信雄 「DNA の溶解度相図と大きな結晶育成」 東海 「タンパク

質核酸の結晶成長」ワークショップ 200137

2 A Ostermann I Tanaka N Engler FG Parak and N Niimura Neutron structure determination of

myoglobin Hydrogen exchange and hydrogen bonding 東海 「タンパク質核酸の結晶成長」ワークシ

ョップ 200137

3 T Chatake K Kurihara I Tanaka MWW Adams F E Jenny Jr I Tsyba R Bau and N Niimura A

neutron crystallographic analysis of a rubredoxin mutant at 16 Angstrom resolution Tsukuba (Japan) The

3rd ORCS Symposium 20011210

4 K Chiba Neutron Structure Analysis of Human Lysozyme Tsukuba (Japan) The 3rd ORCS Symposium

20011211

5 前田満新村信雄 「中性子回折実験のためのインスリンの結晶化」 東海 タンパク質核酸の結晶成長のワ

ークショップ 2002214

6 K Kurihara Neutron single crystal diffractometers dedicated for biological macromolecules at the JAERI A

summary of their preliminary results Tsukuba (Japan) The 4rd ORCS Symposium 20021122

7 新井栄揮 茶竹俊行 新村信雄 「合理的な新規結晶評価法」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ

2003128

8 前田満 茶竹俊行 田中伊知朗 A Ostermann 新村信雄 「インスリン結晶育成と中性子回折」 東海 生

体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

9 茶竹俊行 「DsrD結晶育成と中性子回折」 東海 生体高分子結晶成長ワークショップ 2003128

10 N Niimura Neutron Protein Crystallography in JAERI Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

11 S Arai Neutron crystallography of B-DNA decamer d(CCATTAATGG) Tokai (Japan) The 5rd ORCS

Symposium 20031119

12 K Chiba-Kamoshida Distortion of peptide bond due to hydration or localization of deuterium atom observed

by neutron crystallography Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

13 I Tanaka A Proposal for the Construction of Diffractometer on Biological Structural Analysis (BIX-P1) in

J-PARC the Next Generation Pulsed Neutron Source Tokai (Japan) The 5rd ORCS Symposium 20031119

14 新井栄揮 「B型 DNA十量体の中性子結晶構造解析」 東海 中性子構造生物学シンポジウム 2004216

15 田中伊知朗 「J-PARK における生体関連物質結晶構造解析用中性子解析計(BIX-P1)」 東海 中性子構

造生物学シンポジウム 2004216

16 大西裕季 伊藤剛士 戸祭智 新村信雄 「タンパク質良質結晶育成技術の開発」 東海 中性子構造生物

学シンポジウム 2004217

17 鴨志田薫 「中性子結晶構造解析で観測された水和水及び局在水素によるペプチド結合の歪み」 東海 中

性子構造生物学シンポジウム 2004217

その他 64件

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211

Page 46: 科学技術振興調整費 成果報告書 - JST...Thirumananseri Kumaravel 増田 洋美 森田 隆司 久野 敦 水野 洋(研究チーム長) 門間 充 藤本 瑞 鹿本

水素水和構造を含めた新しい構造生物学の開拓

44

特許等出願等

1 平成 13年 4月 25日出願(平成 14年 11月 8日公開) 「放射線画像読取装置」 片山忠二 新村信雄 田

中伊知朗 日本原子力研究所 特願 2001-127394(特開 2002-323726)

2 平成 13年 7月 18日出願(平成 15年 2月 7日公開) 「DNAオリゴマー大型単結晶育成法」 新村信雄 新

井栄揮 茶竹俊之 日本原子力研究所 特願 2001-218424(特開 2003-034600)

受賞等

1 新村信雄第 1回中性子科学会学会賞受賞 「中性子構造生物学関連技術開発とそれらを応用した中性子構

造生物学の発展」 20031211