産学連携が生み出す革新的創薬 - JST...詳細な定義 再分類 創薬支援...

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産学連携が生み出す革新的創薬 アステラス製薬株式会社 代表取締役会長 野木森 雅郁 「健康研究成果の実用化加速のための研究・開発システム関連の 隘路解消を支援するプログラム」 シンポジウム 2015年1月23日

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産学連携が生み出す革新的創薬

アステラス製薬株式会社

代表取締役会長 野木森 雅郁

「健康研究成果の実用化加速のための研究・開発システム関連の

隘路解消を支援するプログラム」 シンポジウム

2015年1月23日

1. 創薬環境の変化

2. 創薬の新たな展開

3. 産学連携の事例

4. 新しい産学連携に向けて

5. 2050年の創薬展望

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1. 創薬環境の変化

創薬をめぐる環境変化

難易度の高い創薬標的への対応

多様な新規技術の対応

審査基準の 厳格化への対応

創薬標的が、より複雑な機能制御を必要

とするものにシフト

細胞治療,遺伝子治療などの新規技術を継続的にフォローし、

導入する必要性

安全性基準の厳格化や既存薬との明確

な差別化

創薬標的 創薬技術 承認審査

創薬環境の変化により、製品化で得た利益を次の新薬開発に投資する 1企業単独での自己完結型創薬サイクルの維持が困難に

新薬創出の生産性の低下

• 10年前に比べ、新薬創出の生産性は70%以上も低下 4

1996~2004 2005~2010

NMEs Approved per year

22個 per year

36個 per year

承認薬の数 約40% down

Averaged 5th-year sales per NME

$430 millions per year

$515 millions per year

1剤あたりの平均売上 約15% down

R&D spend per year

$125 billions per year

$65 billions per year

Pharmaceutical Commerce, Jan 8, 2012 (Oliver Wyman) Hewitt, J, et al.,「BEYOND THE SHADOW OF A DROUGHT –THE NEED FOR A NEW MINDSET IN PHARMA R&D」より作成

{新薬創出の生産性}={年間の新薬総売上高(①×②)}÷{年間の研究開発コスト(③)}上式で見積ると、1996~2004に比べ、2005~2010の新薬創出の生産性は27%にdown

研究開発コスト 約90% up

製薬各社の研究体制再編の動き

GSK マサチューセッツ州の研究開発施設閉鎖 (’13.03)

AZ 研究所を3カ国(英国・米国・スウェーデン)に集約 (’13.03)

J&J 新興企業最大50社とJ&J社スタッフが共存するインキュベーター拠点を サウスサンフランシスコに開設することを発表 (’14.05)

BMS 重点領域シフト(糖尿病、C型肝炎、神経科学の3領域から撤退)、 約75名の研究員削減発表 (’13.11)

Novartis 英国ホーシャムの研究開発施設閉鎖 (’14.02)

Merck 世界の主要研究開発集積地にR&D拠点を設置 (’13.12) アステラス 米国内研究組織の閉鎖・縮小、加島事業所閉鎖を発表 (’13.05)

エーザイ R&D組織の改編、欧米で約130名の人員削減を発表 (’13.11)

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アステラス製薬のR&D戦略

1) 外部資源の更なる活用

2) 新規領域・新技術への取り組み

3) 有望な前臨床段階プロジェクトの加速

4) 後期開発プロジェクトへの資源投下

環境変化に“しなやか”に対応できる体制への変革

R&D経営資源

有望な前臨床段階PJの加速

外部資源

新規領域・新技術

1)

2)

新規領域・新技術

自社研究 自社研究 外部資源

後期開発PJへの資源投下

3) 4)

グローバルカテゴリー

リーダー戦略

(2006~)

×

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オープンイノベーション

• 外部の力を活用、あるいは、企業の枠を超えて技術や知財を持ち寄り、自社の

課題を解決し一社だけではできない価値を生み出すこと

オープンイノベーションとは

• 創薬研究の効率化をはかり、競合優位性を確保するため

• 社外のアイデアや技術、研究成果、人材などの資源を幅広く活用するため

• 世の中に存在する創薬応用が可能、かつ魅力的な先端技術を活用するため

• 新薬開発のスピードアップ、コスト削減だけではなく、自社の強みに立脚し、研究

開発・ビジネスモデルの再構築や社内と社外の健全な競争による生産性向上

(切磋琢磨・自己研鑽)が可能であるため

なぜ、オープンイノベーションが必要なのか

再編、合併

Novartis(‘96) AstraZeneca(‘99)

GSK(‘00) Pfizer(‘02) Sanofi(‘04)

オープンイノベーション ⇒Global Scale

Eli Lilly:RA(’98),GERD(‘04), GSK: CEEDD(‘05)

Pfizer: WBD Merck: EDPS

海外 大手製薬

1995 2000 2005 2010

買収

(’07~)

再編、合併 アステラス(‘05) 第一三共(‘05) 大日本住友(‘05) 田辺三菱(‘07) 協和発酵キリン(‘07)

国内 製薬

基盤技術 の取得

RA; Research Acquisition, GERD; Global External R&D, CEEDD; Centres of Excellence for External Drug Discovery,

WBD; Worldwide Business Development, EDPS: External Discovery and Preclinical Science

オープンイノベーションの推進

• オープンイノベーションは、欧米で先行 8

オープンイノベーション 塩野義(‘07)

第一三共(‘11) アステラス(’11)

エーザイ 武田

アウトプット

新薬 競合他社

競合他社

競合他社

導入

新しい 疾患領域

■ 狩猟採取型オープンイノベーション*

• 外部リソースおよび能力の積極的な活用

• 開発ステージにおいて主に活用

導入

• かつて盛んだった狩猟採取型オープンイノベーションは、他社との競合が激しく、資金にゆとりのない企業には不向きである

バイオベンチャー

アカデミア

バイオベンチャー

9

1対1

1対1

1対1

バイオベンチャー

導入

競合他社

1対1

*「狩猟採取型オープンイノベーション」は、松田記子・鵜飼勇人「オープン・イノベーション ―オープン・イノベーション先進企業に学ぶ、 自前主義脱却のKSFs―(アクセンチュアwebページ)」で用いられた用語、本スライドの図は演者が作成

2. 創薬の新たな展開

従来型オープンイノベーション

製薬会社

• 自社資源をオープン化することで、イノベーションを創出

• 創薬研究のアーリーステージでの有効性に期待

新しいオープンイノベーションモデル

■ 農耕型オープンイノベーション*

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製薬会社

新規創薬 技術の開発

専門技術の蓄積

業界横断の 大規模コンソーシアム

化合物ライブラリ

蛋白結晶構造

ビッグデータ 研究基盤

イノベーションの創出

リード化合物の創製

新規創薬 標的の取得

従来の資源

自社資源の オープン化

優秀な人材の 取り込み

専門技術の 取り込み

必要なパートナーとの コラボレーション

*「農耕型オープンイノベーション」は、松田記子・鵜飼勇人「オープン・イノベーション ―オープン・イノベーション先進企業に学ぶ、 自前主義脱却のKSFs―(アクセンチュアwebページ)」で用いられた用語、本スライドの図は演者が作成」

基礎技術

標的探索

ライブラリ拡充(化合物、微生物)

シード・リード探索(化合物、蛋白)

最適化研究

高次評価(薬効、ADME、毒性)

■ 研究目的別

NEDO

官民(NEDO以外)

大学

財団法人

民間

■ 相手先別

2013年10月1日現在

40%

25%

25%

2013年10月1日現在

76%

14%

アカデミア 86%

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3. 産学連携の事例

アステラスにおける創薬研究提携の状況

アステラス製薬

a-cube

エーキューブ

第一三共

TaNeDS

タネデス

塩野義製薬

SSP

シオノギサイエンス

プログラム

アステラス製薬HPより アステラス製薬HPより

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■ a3 の特徴 ・年間オープン ・具体的なテーマの提示 ・迅速な随時評価 ・ゆとりのある資金提供

産学連携:公募システム a3(a-cube)

• 製薬企業は企業ニーズを開示し、潜在的パートナーを求め、公募システムを活用

最近の国内産学連携オープンイノベーションの例 1.拠点型

北海道大学 • 塩野義創薬イノベーションセンター(塩野義製薬)

京都大学 • AKプロジェクト(アステラス製薬;免疫) • TKプロジェクト(武田薬品工業;中枢性肥満、統合失調症領域) • DSKプロジェクト(大日本住友製薬;がん) • TMKプロジェクト(田辺三菱製薬;慢性腎臓病とその合併症) • SKプロジェクト(塩野義製薬;アルツハイマー病、精神疾患)

2.大学内共同研究講座

大阪大学 • ナノ粒子アジュバント共同研究講座(武田薬品工業) • 癌免疫学共同研究講座(大塚製薬) • 脳神経機能再生学共同研究講座(帝人ファーマ)

名古屋大学 • 実践創薬科学講座(田辺三菱)

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京都大学 世界有数の

基礎免疫研究基盤

アステラス製薬 最先端の創薬技術 プログラフ開発経験

革新的免疫制御薬の創出 (免疫難病の克服、安全な移植医療の確立)

• 創薬システムのイノベーションとともに、基礎医学研究、創薬技術、知的財産管理などに精通した創薬医学研究者の養成にも貢献する。

• 10以上の標的(プログラム)が創薬プロセスに既に移行済。

• 最先端の基礎免疫学研究および臨床研究の成果と創薬技術の融合により、次世代の安全で革新的免疫制御薬の創出を目指し、基礎研究段階から、長期にわたり(最長10年)、産学が共同して研究開発を推進する。

アステラス・京都大学(AK)プロジェクト

提供:京都大学 14

少子高齢化社会

患者

健康

生物情報 生活環境 医療情報

データ収集

実臨床情報

ゲノム情報

マルチオミックス情報

“個”のBig Data

診察、検査、 健康診断

解読 解析 推論

健康支援

健康医療情報基盤の構築

予防医学 バイオマーカー探索

疾患の 詳細な定義

再分類

創薬支援

創薬標的探索

Y36

Y95*

N97*

P1

I64

K32

P33

W108 F113

O

O

O

OHO

他産業との共同 新ビジネス領域の

拡大

個別化医療に向けた次世代オープンイノベーション

Big Data創薬の産学連携は、新たな仕組み作りに向けた試金石 ⇒成功の必要条件:複数の製薬企業及び異業種(IT企業)との連携、アカデミアの技術、国の支援

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4.新たな産学連携に向けて

日本医療研究開発機構の設立

死の谷

医療に関する研究開発の実施

基礎研究 臨床研究 審査・承認 保険適用

創薬支援ネットワーク(創薬支援戦略室)

理化学研究所 医薬基盤研究所 産業技術研究所

死の谷の克服 ・アカデミア有望シーズの情報収集・調査・評価 ・企業への導出に向けた出口戦略、マッチング ・応用研究・非臨床試験等の支援 ・知財管理支援 ・厚生労働科学研究等の支援

日本医療研究開発機構 ・ 産業化に向けた支援 ・ 国際戦略の推進 2015/4/1 設立予定

臨床研究等の基盤整備

ARO機能を併せ持つ臨床研究中核病院の整備

・コアセンターの設置 ・複数病院のネットワーク化に よるバーチャル大規模病院 ・難病等の治験、質の高い 臨床研究

応用 研究

非臨床 研究

• 日本医療研究開発機構の設立は産学連携の在り方に大きなインパクト

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イノベーションを生み出す場として期待

アカデミア

医療現場

企業

公的研究

機関 バイオ

ベンチャー

異分野の

サイエンス

外部情報(行政、社会、企業等)

現場に直結した 医療ニーズの把握

臨床サンプルへのアクセス

様々な機関との連携の ハブとしての機能

製薬企業から見たアカデミアの魅力

高度な専門性

現状

• アカデミアはシーズを発掘する基礎研究に強みを持つ一方、製薬企業は製剤、毒性、物性などの研究に強みを持つ。連携に関する率直な議論が不足している。

アカデミアへの期待

• 産業界が求めるオープンイノベーションを率直に議論できる場の設立

• 創薬研究に通じたアライアンスマネージャーの育成

アカデミアの独創性を創薬へ活かすためには(1)

現状

• 創薬難易度の上昇。限りある資金提供ならびにアセット。

アカデミアへの期待

• スピード感とマイルストンを備えた研究計画

• 実用化を進める上で効果的な支援体制の構築

課題1:Immatureな連携の仕組み

課題2:低い成功確率

企業側からみた産学連携における課題

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独自性を重視

Technology-push型

Market-pull型

コンセプトを重視

譲渡先に委任

事業化が前提 戦略的特許出願

出口戦略が明確な特許

広範なPCT出願

基本的特許出願

出口戦略に拘らない特許

日本国特許中心

研究戦略 知財戦略 事業化戦略

企業

アカデミア

• 出口戦略を鑑みた特許戦略の構築を期待

課題3:知財に対する

価値観の違い

アカデミアの独創性を創薬へ活かすためには(2)

出典:情報管理 2014, 57, 8より作成

パイプラインを保有する事業主体の割合(低分子)

課題4:創薬シーズ不足

アカデミアの独創性を創薬へ活かすためには(3)

• 日本発のパイプラインを絶やさないために、アカデミア発のシーズインプットが必要 20

日本 米国 日本 米国

0

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パイプラインを保有する事業主体の割合(バイオ医薬品)

米国では、アカデミアの研究成果をバイオベンチャーがインキュベートすることで、アカデミアが創薬シーズのインプットに非常に重要な役割を果たしている

新たな連携体制構築

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新しい産学連携に向けて

課題1:immatureな連携の仕組み

課題2:低い成功確率

日本発の革新的医薬品創出へ

農耕型オープンイノベーション

狩猟採取型オープンイノベーション

橋渡し機能/密な連携体制 資源・技術のオープン化

事業化を担う人材

創薬支援ネットワークおよび

日本医療研究開発機構

の設立(2015年4月)

学 産

課題3:知財に対する価値観の違い

課題4:創薬シーズの不足

がん、 生活習慣病、認知症等の増加 新興国におけるドラッグアクセスの課題

• 創薬ビジネスの対象地域は、先進国からアジア・アフリカに、また対象は高齢者に 遷移する ⇒ 2050年に向け、今からマインドセットを変えていくことが必要

5. 2050年の創薬展望

2050年の創薬展望

人口増加 アジア/アフリカでの人口急増*

アフリカ

アジア

2050年の人口予想 (世界人口の8割はアジア・アフリカに集中)

2014年の人口

高齢化 60歳以上人口の急増*

4.2億

16.1億

新興国

先進国

2012年 2050年

110%増

12%増

3大感染症(HIV、結核、マラリア) 顧みられない熱帯病

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*UN Population Ageing and Development 2012より作成

2.8億

5.3億

24億

11億

43億

52億

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ご清聴ありがとうございました