新型炉部会セッション 第4世代原子炉の国内外の開発動向 (5 ......thorium...
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溶融塩炉・トリウム炉の開発状況
大学院総合理工学研究科共同原子力専攻
工学部原子力安全工学科
高木 直行
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NPOニュークリア・サロン(NSF)8月講演会めっきセンター2階会議室
2019年8月21日(水)
目次
• 溶融塩炉・トリウム炉を取り巻く状況
• 溶融塩炉とは
• 各国の開発状況
• 日本の取り組み
• ThEC2018@Brussels会議報告
• 溶融塩炉開発が活性化した背景
• 総括
2
溶融塩炉・Th炉を取り巻く状況
3
安全
長寿命廃棄物なし
経済性に優れる
資源豊富
燃料増殖可能
核拡散の懸念小
・・・・
トリウム関連会議・テキスト
4
Molten Salt Reactors and Thorium Energy (WoodheadPublishing Series in Energy)2017/7/8
溶融塩とは
• そもそも溶融塩とは、イオン
結晶を主成分とした高温で
溶融した塩であり、フッ化物
と塩化物がある
• 原子炉の目的に応じて、ウラ
ン、トリウムや超ウラン元素
(TRU)が燃料としてこれらの
塩に混合される
• MSRとは核燃料物質を溶融
塩に溶解させた液体燃料炉
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A beautiful sight: our first melt of lithium fluoride-thorium tetrafluoride. By Flibe Energy (2019/8/20)
溶融塩炉(Molten Salt Reactor)とは
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• 燃料でありかつ冷却材の
役目を持つ燃料塩が、原
子炉で発生した熱を炉容
器外にある1次系熱交換
器へと運び発電等に利用
する炉概念が主流
• 原理的に、核燃料やFPを
大量に含んだ燃料そのも
のが炉心を出て熱交換
ループを巡るプラント構成
• 最近ではこれを回避する
ため、燃料にペブルやピン
形状の固体燃料を用い、
溶融塩を冷却材目的のみ
に利用する炉概念もある
熱交換器=プラントのアキレス腱
溶融塩炉の特徴(1/2)
• 沸点が高いため一次系を低圧にできる
• 燃料が液体(溶融塩)のため、
• 燃料の成形加工が不要で燃料棒で生じる燃料ペレットの膨張や被覆管損傷課題といった課題が無い
• 再処理との適合性に優れる
• 重金属溶解度が高く、高発熱・高線量となるPuやMAを含有する炉としての利用に適
• 系統圧が低いことに加え、Cs, Iなど揮発性FPの蒸気圧が低いため、事故時の環境放出放射能を抑制
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溶融塩炉の特徴(2/2)
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• 原理的には、オンライン処理で燃料の連続供給や核分裂生成物(FP)の連続除去が可能であり、運転に伴い蓄積して中性子寄生吸収物質として働くFPの反応度影響を軽減できる
• トリウム燃料(Th-233U系燃料)を用いる場合には、熱中性子スペクトル下で燃料増殖が成立することが大きな特徴
• 但し熱中性子増殖が可能なのは、燃料にウランやプルトニウムではなくトリウム(核分裂性物質としてU-233)を用いた場合に限定
• 「溶融塩炉=トリウム炉」といった認識が広く定着している主な理由
U-233の中性子再生率η
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• U-233の中性子再生率ηは熱域、熱外域を含む広いレンジにわたって2.0より大きい
• 熱中性子、熱外中性子スペクトルを持つ炉でも増殖炉になる可能性あり
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MSR=小型?
溶融塩炉では炉内に構造物がないため通常炉に比べ熱的制限が緩和でき高出力密度化が可能。
出力密度を制限するのは熱交換器での二次冷却系への熱輸送量であり、その上限は150 MW/m3
程度と評価されている。
3MWt出力の航空機用原子炉ARE
8MWt実験炉MSRE
米が手がけた溶融塩炉開発
• 溶融塩炉の技術開発は、65年以上前、米国ORNLにてワインバーグ所長のもとで端緒が開かれた
• 1954年に3MWt出力の航空機用原子炉(ARE)が、1965年には8MWtの実験炉(MSRE)が建設され、後者のMSREは1969年までに13,000時間の全出力運転を実施
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Gen-IV溶融塩炉の関係国
• OECD は、 2001 年に米国がGen IVの国際共同開発を提唱して以来、第4世代原子炉国際フォーラム(Generation IV reactor International Forum: GIF)の事務局を務め、溶融塩炉委員会を主催している
• このGIF溶融塩炉委員会で、研究に義務を負うMOU (Memorandum of Understanding)に署名している国(連合)は署名順でユーラトム、フランス、ロシア、スイス、アメリカ、オーストラリアである
• ロシアのクルチャトフ研究所では1976年からMSR研究計画を進めており、当初本委員会への正式参加を見送っていたが、自国概念とGen-IV概念の共通性を活かせるとの判断で2013年末MOUに署名
• 中国は2012年に永年オブザーバーとして参加することを宣言した
• 日本は公式には関与無し
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第二回GIF-MSR運営会議
• 2018年4月、中国上海SINAPでのGIF-MSR運営会議に、 OECDの他,日,中,米,仏,露,加,豪が参加し、インドネシアがゲスト参加
• GIF会合に引き続き、中国熔融塩実験炉の設計レビュー会議と見学会が開催
NPO法人「トリウム熔融塩国際フォーラム」吉岡律夫氏提供
Gen-IVの主眼「溶融塩高速炉」
• 1950~1970年のORNLでのMSR実証実験は、黒鉛減速熱中性子スペクトル炉を対象としたものであったが、Gen-IVでは、特に固体燃料高速炉の代替炉としてプルトニウムまたはU-233を増殖する、もしくは長寿命のTRU元素を燃焼する高速スペクトル型の溶融塩高速炉を主な対象に
• 2016年時点では主に二つの炉概念が対象とされており、一つは仏CNRSで提案されたMSFR (Molten Salt Fast Reactor)、もう一つはロシアで開発中のMOSART (MOltenSalt Actinide Recycler and Transmuter)
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溶融塩高速炉のMSFR(欧州)とMOSART(露)の炉心概念
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溶融塩高速炉の特徴
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ELYSIUM INDUSTRIESが提案するループタイプの溶融塩高速炉
MOLTEN CHLORIDE SALT FAST REACTOR (MCSFR)
Southern CompanyとTerraPowerが
提案する塩化物溶融塩高速炉と2019年に20億円で建設を予定でする統合テストループ
1. 高速炉の溶融塩: NaCl/KCl/PuCl3、PuCl3/NaCl、LiF/BeF2/(TRU)F3やLiF/NaF/(TRU)F3
2. 燃料サイクル上の自由度が大きく、増殖炉、転換炉、燃焼炉のいずれとしても設計可能
3. 燃焼炉の場合、固体燃料では課題となる発熱や線量の高いTRU含有燃料の成形加工が不要
4. 燃料/冷却塩のボイド反応度や温度反応度が負
5. 燃料/冷却塩は透明であり可視光での点検可能性
6. 炉心は減速材が不要であり除熱可能な臨界形状であれば良いため設計の自由度が高い
溶融塩高速炉の中性子スペクトル
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TRU含有率をパラメータとした無限体系解析結果:
• フッ化物に比べて塩化物ではTRU富化度が同等でもスペクトルが硬い
• フッ化物では数百keVの領域で共鳴による中性子束の“くぼみ”
• F-19の散乱によるもので、転換性能への影響大
• 塩化物では、そうしたくぼみはなく、またTRU富化度が10%程度以上になるとNa冷却高速炉と同様なスペクトルとなる
• 塩化物溶融塩炉では、半減期30万年のCl-36が大量に生成することが課題
D. E. Holcomb et.al., “FAST SPECTRUM MOLTEN SALT REACTOR OPTIONS”, ORNL/TM-2011/105 (2011)
溶融塩高速炉の核的特徴(1/2)
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• 溶融塩高速炉の転換比(増殖比)は、他の高速炉と同様に、燃料(塩の)組成や炉内および周辺の重元素装荷量に依存
• 塩中の重元素比率を増大させると、塩による中性子減速効果が弱まりスペクトルが硬化して増殖性能改善1. σc/σf (=α)は減少、2. 中性子放出数νは核分裂を誘起する中性子エネル
ギーの増大とともにほぼ線形に増加
• しかし溶融塩炉の場合、燃料塩の燃料元素モル比は半分に満たないため、重元素インベントリを確保しにくく、炉心サイズを大きくしても中性子漏れも大→増殖は容易でない
溶融塩高速炉の核的特徴
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• 一般に、高速スペクトルを持つ原子炉では、燃焼に伴う核分裂生成物(FP)蓄積による反応度低下が生じにくい
• 故に溶融塩高速炉ではFPガス捕集やフィルターによる貴金属粒子回収といった方法で燃料塩を簡易に処理するだけで長期間の臨界維持が可能であり、原子炉サイトに核燃料を回収・供給するための再処理施設を持つ必要がない事が経済面や核不拡散面のメリットとなり得るとされている
• 元々高速スペクトル炉では、熱炉に比べ、原子炉の制御に重要な遅発中性子割合βが小さいが、燃料が炉外ループを循環する溶融塩炉では遅発中性子損失があるため固体燃料炉よりさらにβが小さくなる
溶融塩高速炉の開発レベル
• 現時点の溶融塩高速炉は、数値解析で検討される概念レベルで技術成熟度は極めて低いもの
• しかしながら、
• 米でのMSREの経験や乾式再処理と金属燃料高速炉を統合したIFR(Integral Fast Reactor)プロジェクトで蓄積した知見と経験を活用することが可能
• また炉心は均質で構造が単純であり、炉心や1次系統は低圧システムであるため、
• 溶融塩高速炉機器の製造に関わる技術の成熟度は低くないとの見方もある
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溶融塩開発に挑戦する組織
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GIFへは未参加ながら、独自の溶融塩炉概念を追求しているベンチャー企業が多数存在。対象は熱中性子溶融塩炉が中心。
米: Flibe Energy, MartingaleTransatomic PowerThoreact
米/加: Terrestrial EnergyElysium Industry
英: Moltex Energyデンマーク: Seaborg Technologies
Copenhagen Atomics
ベンチャーはノウハウが唯一の資産故、情報共有を目的とするGIF、IAEA活動には不参加 → 溶融塩炉に限らず、Gen-IVが全ての新型炉をカバーしているわけではない!
Gen-IVの枠組み以外で開発されている溶融塩炉の例
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原子炉名称 国 設計者熱出力(MWt)
電気出力(MWe)
ユニット数
中性子スペクトル
減速材構造物
燃料 冷却材 進捗段階
IMSR カナダ Terrestrial Energy 400 185-192 1 熱 黒鉛 フッ化物塩 概念設計
MSTW デンマークSeaborg Technologies
270 100-115 1 熱/熱外金属被覆
黒鉛フッ化物塩 概念設計
ThorCon国際コン
ソーシアムMartingale 557 250 4 熱 黒鉛 フッ化物塩 概念設計
TMSR-SFTMSR-LF
中国上海応用物理研究所(SINAP)
395 168 1 熱 黒鉛被覆粒子/フッ化物塩
フッ化物塩 試験炉開発
FUJI 200 日本トリウム熔融塩国際フォーラム(ITMSF)
450 200 1 熱 黒鉛 フッ化物塩概念設計
完了
Stable (Static)Salt Reactor
イギリス Moltex Energy 94 37.5 8 高速 N/A 塩化物塩 フッ化物塩 概念設計
SmAHTR1) アメリカ ORNL 125 NA 1 熱 黒鉛 被覆粒子 フッ化物塩予備的
概念設計
LFTR2) アメリカ Flibe Energy 600 250 1 熱 黒鉛 フッ化物塩 概念設計
Mk1PB-FHR3) アメリカ
University of California, Berkeley
236 100 1 熱 黒鉛 被覆粒子 フッ化物塩予備的
概念設計
1)Small Modular Advanced High Temperature Reactor,2)Liquid Fluoride Thorium Reactor, 3)Pebble-Bed Fluoride- salt-cooled, High-temperature Reactor
Transatomic
• マサチューセッツ工科大学(MIT)
からスピンアウトし広く注目を集め、
数百万ドルもの資金を調達した
Transatomic Power (2011年設立)
は昨年9月25日、廃業を発表
• 従来型の軽水炉と比べて75倍以
上の効率で発電でき、また軽水炉
の使用済み核燃料を再利用して稼
働できると主張していたが、2016年
後半に主張を完全撤回、「75倍」と
いう数値を「2倍以上」に訂正
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Transatomic• Founders FundやAcadia Woods Partnersなどから400万ドル以上の資金を調達したが、
必要な追加資金約1500万ドルの調達が困難になり、妥当な期間で原子炉を建設できる
ほど、迅速かつ十分に会社を拡大することができなかった(デワンCEO)
• 他の研究者が「トランスアトミックが始めた取り組みを継続し、願わくばそれらを基礎にで
きる」ように、すべての知的財産をオープン・ソース化
• 一方、NuScaleやテレストリアルなどの企業は政府の審査を通して事業を推進。溶融塩
炉ベンチャー統合期の始まりか?
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Terrestrial Energy• 統合型溶融塩炉IMSR(Integral Molten Salt Reactor)
• 減速材に黒鉛、初段階の燃料に低濃縮ウランを含有したフッ化物塩を用い、熱交換器を炉容器内に配置した熱中性子溶融塩炉
• IMSR商業用初号機を2020年代に建設することを目標に、オンタリオ州にあるカナダ原子力研究所CNLのチョークリバー研究所所有のサイト内で建設に適した地点を特定するためのフィージビリティ・スタディ(FS)を2017年の夏に開始
• 2019年後半にも設計認証(DC)審査をNRCに申請する計画で現在はpre-licensing vendor design reviewが進行中。これは許認可の必要要件ではないが、認可取得可能性検討に有益
• 2018年10月、カナダ原子力安全委員会(CNSC)の設計レビューの第2段階に前進。19項目を2年間で評価する。
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中国上海応用物理研究所(SINAP)
• 2011 年に設置したTMSR 研究センターを中心としてTMSRプロジェクトを実施
• TMSRには、被覆粒子燃料を塩で冷却する固体燃料型のTMSR-SFと液体燃料のTMSR-LFの二種類がある
• 両炉型とも2MWthの試験炉、10MWthの実証炉を経て、複数ユニットで1GWeの商業炉へと発展させる計画
• オンライン再処理技術開発を伴うTMSR-LFはTMSR-SF より10年程度遅い展開(SFは中止との噂もあり)
• 近年は実験データベースの充実を理由として計画全体がスーローダウン
• 2015年時点で本計画に関与する人員は600名でその平均年齢は31歳と若い。本取り組みは中国全体の原子力人材の拡充にも寄与している。 25
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NPO法人「トリウム熔融塩国際フォーラム」吉岡律夫氏提供
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NPO法人「トリウム熔融塩国際フォーラム」吉岡律夫氏提供
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NPO法人「トリウム熔融塩国際フォーラム」吉岡律夫氏提供
国際コンソーシアムMartingale
• 造船技術を活用したモジュール型の熱中性子溶融塩炉ThorCon
• 4年以内にもプロトタイプ炉の運転開始が可能な技術レベルで建設費は$500/KWと評価
• 積極的なビジネス展開でインドネシアと開発に関するMOUを締結
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7/18ロイターニュース ←?
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「Thorconの浮揚式溶融塩炉をインドネシアに開発&建設する契約が成立。プラント製造は韓国の造船所で。1000億円以上のプロジェクトにThorconは積極的」
との記事だが、誇張あり不正確な記事。
正確には、Thorconが
サプライヤーとなるための調査研究の契約に合意とのこと。
Moltex
• 燃料ピン内に塩化物燃料塩を充填し、その表面を
冷却材のフッ化物塩で除熱するStable Salt Reactor
を提案
• 放射能の強い燃料物質やFPがプラントを循環せず
ピン内に留まっていることからStable- もしくは
Static-Salt Reactorと称される(いずれも略名称は
SSR)
• 炉心には軽水炉の様に燃料ピンを束ねた集合体の
みが配置され減速材構造物を持たない。このため
塩組成やピンピッチなどの変更によって中性子スペ
クトルを熱、高速のいずれにも調整可能
• 燃焼/増殖の目的に応じた炉として設計できるとし
ているが、炉構成的に燃料塩体積比率が小さくウラ
ン装荷量が少ないため、増殖炉とすることは容易で
ない
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• カナダ東部のニュー・ブランズウィッ
ク(NB)州政府は2018/7/13、世界
的水準の小型モジュール炉(SM
R)開発で同州がカナダのリーダー
的立場を確立することを目的に、英
国籍のMoltexエナジー社が開発し
ている燃料ピン型溶融塩炉(SSR
-W)の商業規模の実証炉を、20
30年までに州内のポイントルプ
ロー原子力発電所敷地内で建設す
ることを目指すと発表した。
• なお、Moltex社は、英ビジネス・エ
ネルギー・産業戦略省(BEIS)が
昨年12月に開始していた新型モ
ジュール式原子炉(AMR)のコンペ
に応募。BEISが技術面、商業面
の実行可能性調査を支援する対象
企業8社の1つに、今年6月に選定
された。
Moltex関連ニュース
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日本国内の状況
• 日本原子力学会では2010年6月、原子力学会核燃料部会に「軽水炉、高速炉におけるトリウム燃料の利用ワーキンググループ」(主査:山中伸介)が設置され、トリウム燃料を軽水炉、高速炉で利用する方法について検討が進められた。
• 2013年6月には「溶融塩技術の原子力への展開」研究専門委員会 (主査:山脇道夫)が活動を開始し、様々な溶融塩技術や溶融塩を用いた原子炉概念や加速器駆動炉等の新型炉概念を調査し、溶融塩取り扱いに関する最新の知見や研究開発課題が整理された。
• 上記二委員会は燃料形態を固体もしくは液体に限定、いずれも2017年にまでに終了。
• 固体液体を区別せず、本来不可分である原子炉と燃料サイクル全体を俯瞰的に調査・検討するための「トリウム原子力システム」研究専門委員会を2018年8月に設置(主査:報告者)。2020年3月まで活用予定。終了後、原子力学会2020年秋の大会で成果報告予定。
• 委員数:40名(産・官・学)
• 研究活動項目
• 諸外国・国内で進められているトリウムを用いる革新的原子炉・サイクル概念の最新動向の調査。(具体的には、検討・開発状況、開発の背景や体制、予算規模、許認可対応状況、実現性や経済性の見通しを調査する)
• トリウム原子力システムの特徴や開発意義、ウラン原子力システムとの得失比較の検討
• 我が国でのトリウム原子力研究のあり方に関する検討33
トリウム増殖炉(都市大のアプローチ)
• 熱中性子増殖炉(CANDU炉ベース)
• CANDU炉はプラント構成に大きな変更無く(燃料バンドルのみ変更で)熱中性子増殖炉成立の可能性あり
• 但し燃焼度が10GWd/t程度と低 → 検討継続中
• 加圧重水トリウム増殖炉(PWRベース)
• 主流軽水炉(PWR)と重水炉(CANDU)の技術をベースとして増殖炉成立(BR~1.05)の可能性あり
• 負のボイド反応度。Na冷却FBRに比肩する燃焼度達成(~70GWd/t)
• 国内に既に蓄積したPuを火種として、100年間で50GWeのU-LWR全てをトリウム増殖炉にレプレース可能
• トリウム酸化物燃料の再処理技術が未開発
• 静的溶融塩増殖炉(Moltex提案のStatic MSR)
• 塩化物燃料を燃料ピン内に保持
• 冷却材をフッ化物塩→Naに変更しても増殖達成は困難34
• 2010年に始まったトリウムエネルギー国際会議(ThEC)の第6回目が10月末ブリュッセルにて開催
• 参加者はヨーロッパ、米を中心に100名強。アジア圏からは日本1名、韓国(KAERI)から1名が参加したのみで中国、インドからはゼロ
• 溶融塩炉開発を行うThorCon、Seaborg Technologies、MoltexEnergy、Flibe Energy、 Copenhagen Atomicsなど数々の企業、研究機関、大学が出席し、最新情報が報告された
• 溶融塩炉開発が再活性化して10年弱。今も炉概念の進化がある他、国の予算を確保してのフッ化試験施設や塩ループ設置(米)などの動きあり。
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ThEC2018会議報告
• 最初の液体燃料炉は重水+硫酸ウラニル均質炉• 実験は計算と良く整合。Uの炉内滞在時間が長すぎ容器が過熱→穴
• 続いて8MWtのMSREを建設• 低出力で長周期の出力振動は出力増に伴い短周期化&減衰。計算予測と整合。
• ある嵐の夜での動特性実験中、制御棒引き抜き操作で出力が最大値を超えて上昇。後に自然に定常出力へ。記録を残し帰宅。翌日、事故報告の必要なし。
• MSRE成功の背景
• プロジェクトはORNL内で完結(姉妹研究所への分割なし)
• 異分野(部課)間の密接な協力(チームワーク)
• 部下を鼓舞するリーダーシップと管理力(官僚主義の排除)
• 卓越した能力を持った核・化学技術者、メンテナンス技術者の存在
• 予測と実験の良い一致
• 適切な予算措置
• 何より、職員が楽しみながら仕事をしたこと!
• 課題
• 予期せぬ腐食(後に解決)
• FBRへの予算配分によるMSR予算カット→密閉管理の予算不足は後の除染コストを増大
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ORNLの経験・教訓 (Syd Ball)
• エネルギー、医療用RI、炭水、水素などを生産する持続可能なクリーンエネルギーとしてliquid-fluoride thorium reactor (LFTR)を開発
• 2018年7月、Flibe EnergyはDOEnergyの米国先進原子力技術プロジェクト予算(総額20億円強)の内、約3億円の予算を獲得
• PNNLと共同してNF3をフッ化剤としてLiF-BeF2-UF4からUを回収する試験を行う。FP分離を行う前段階として
• DOEのU-233保有量は、純粋な酸化物として337kg、7.3%富化度のU同位体混合物として101kg、2.5%富化度のThとの混合物として352kg。
• 溶融塩は、希ガス元素を除き、殆どのFPと結合するので、希ガスFP対応が事故時の鍵となる
• 冷却塩と化学平衡となる材料を適切に選択することにより、放射性物質放出を抑制可能
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• “Waste burner 0.2.3”は50MWth出力、重水減速、単一流体(フッ化物塩)の熱中性子型廃棄物燃焼炉/増殖炉
• 炉心、FP分離器、燃料ダンプタンク、一次熱交換器、ポンプ類が、凍結したトリウムフッ化物塩で遮蔽された約12mの密閉コンテナに格納
• 簡易計算から熱中性子増殖ができる見通し
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COPENHAGEN ATOMICS
• 塩化物燃料塩と鉛冷却材の二流体構成
• MSFRは単一流体、均質炉心、燃料塩と冷却塩が同一のため、出力密度に制限あり
• 一方、DFRは非均質炉心で除熱は液体鉛で行うため高出力密度化が可能→物力削減→高価な材料を使用可能(SiC利用)→高温化→経済性向上
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Institute for Solid-State Nuclear Physics
Dual Fluid Reactor (DFR)
• 増殖比BRは用いる燃料より変わるがU-235で0.9、原子炉級Puで1.2程度
• 塩化物燃料を固体金属燃料に置き換えるとBR>1.6
• 鉛冷却フッ化物溶融塩燃料炉HSR(HARD SPECTRUM REACTOR)
• 出力50-300MWth、炉心出/入口温度700℃/750℃
• 燃料塩は循環せず茶色の練炭型炉心タンク(D:230cm, H160cm)内に留まり、炉心を上下に貫通する冷却材流路を鉛が通過・除熱
• コンセプト: 規制局、投資家、公衆に配慮
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ARISTOS POWER
Compact MSR (CMSR)
• 燃料管内部を燃料塩が流れ除熱
• 内側炉心容器内(燃料管外側)に溶融塩減速材(CaH2?)
• 特徴
• 高出力密度
• 炉内最高温度=冷却材出口温度(軽水炉では燃料ペレット中心は2000℃でも冷却材出口温度は300℃)
• 燃焼度に偏りがない
• 崩壊熱密度は塩により希釈(低減)
• 極めて早い熱応答
• 燃料ピン(管)の設計は除熱による制約を受けない → 太径に
• 安全性に関する特徴
• 燃料と冷却材が同じ→冷却材喪失=出力喪失
• 低圧システム→爆発無し
• 可燃性ガスの生成無し
• 揮発性FPは溶融塩中に安定に溶解
• 熱平衡制御→Walk away safe41
Seaborg Technologies
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世界でトリウム研究、溶融塩炉開発が活性化した背景(1/3)
2000年以前
• U以外のもう一つの核分裂資源として、Th基礎研究は世界的に継続
• インドを除き、多くの国は基礎研究のみ
2000年以降
• 1990年代後半より、需要が増加する希土類元素のバイプロダクトとしてのトリウムについて、その処理・処分、エネルギー資源としての活用法への関心増大
• 米のThorium Power、ノルウェーのThor Energyなど民間企業も。いずれも固体燃料トリウム炉を追求
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原子力 eye (アイ) 2011年 04月号2011/3/10
世界でトリウム研究、溶融塩炉開発が活性化した背景(2/3)
• 溶融塩炉については2011年(1F事故前)、中国のTMSR開発計画開始を発表。これに伴い、各国で溶融塩炉開発活発化
• 2011年3月の福島原発事故が既存炉(BWR, PWR)への不安・不信増大 → トリウム溶融塩炉への関心加速
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(中国科学院(CAS)上海局院長Mian Heng Jiang)
中国科学院 上海応用物理研究所 TMSRセンター長Xu Hongjie
世界でトリウム研究、溶融塩炉開発が活性化した背景(3/3)
トリウム溶融塩炉推進派による主張例:
• 巨大津波が引き金とは言え、福島事故は、1) 従来の軽水炉の様に一次系が高圧、燃料ピン内側も高圧の炉は、2)電源喪失し除熱不足になると炉心が溶融し、3)水素ガスを発生させ爆発の恐れがあり、4)放射性物質を環境へ放散させる、5)事故後にも再臨界の可能性を持つ、との認識を世界に与えた。
• これに対し溶融塩炉は、1)低圧システムであり、2)燃料は元々溶融状態、3)水が無いので水素ガス発生無し、4)FP元素はある程度塩中にトラップされ放散を軽減、5)事故時には炉底部のドレインプラグで燃料塩を排出し未臨界達成、
と定性的には上記の懸念に応える炉概念としてアピールされている。
が、時に誇張され過ぎの感も。
45
• 過酷事故が無く高度な安全性
← 動特性、材料腐食挙動など、不明点多く現時点で断定不可能
• 資源効率が100倍
← 非増殖炉か増殖炉かの違い。閉サイクルが前提
• 放射廃棄物を出さない
← UかThの別で無く、開サイクルか閉サイクルかの違い
• 現システムでは被覆管内に限定される高放射能物質。MSRでは熱交換器を含む一系系ループ全体を汚染。
• 現システムではコンパクトなガラス固体化として収まる高レベル廃棄物。MSRでは炉容器・一系全体がHLWに?
• 高い経済性
← 小規模発電炉と再処理施設一体型が各所に多数分散は経済的か?
• 核不拡散性高い
← 再処理施設が各所に分散、連続再処理可な液体燃料は抵抗性高?
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懸念
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Gamma dose
Criticalmass
Enrichmenttechnology
Implosiontechnology
Heatproduction
U-235 None 48kg Required Not required None
Pu(Weapon grade)
Low 10kg Not required Required Low
U-233(Low grade)
High 16kg Not required Not required Low
核不拡散性の比較
• 電気陰性度の高い塩は多くの元素と結合しやすく、事故時の揮発性FPの環境放出を抑制
• 今後、Pu燃焼、MA変換など、リサイクル高度化が要求される場合、高発熱・高線量の固体燃料製造は困難→多様な元素を溶かし込める溶融塩燃料有利
• 1Fの廃炉にあたり、高線量下でのロボット技術開発、現象解明が進んでいる→MSRプラントの保守・補修に適用可能
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期待(溶融塩炉の優れた側面)
総括• 原子力に向けられる目は
厳しさを増す一方、世界的には、環境保全(脱炭素)とエネルギー確保を両立し得るエネルギー源として原子力のポテンシャルを再認識する動きあり
• 一部では「固体燃料炉を知り尽くしたエキスパート」がそれを先導
• 原子力を”rebrand”したいとの想いが溶融塩炉開発を活性化させ、原子力界に新潮流を生み出している
• 一方で、トリウム溶融塩炉の解説記事、書籍は過度な期待・誇張も
4920180927(日経産業新聞)
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