曲線と曲面ノートyamaguti/jugyo/geom/surface.pdfだから, u = 1 ∥x∥ x, v = ∥x∥ p...
Transcript of 曲線と曲面ノートyamaguti/jugyo/geom/surface.pdfだから, u = 1 ∥x∥ x, v = ∥x∥ p...
曲線と曲面ノート
目 次
1 空間曲線 1
2 曲面のパラメータ表示 7
3 曲面の面積 12
4 局所座標と座標変換 14
5 第一基本量 16
6 第二基本量 19
7 曲面上の曲線 22
8 曲面の曲率 26
9 主方向と漸近方向 35
10 計算例 38
11 測地的極座標 49
12 単連結性 54
13 面積分 57
14 ガウス・ボンネの定理 59
15 最速降下曲線 61
1 空間曲線
R を実数全体の集合とし, R2, R3 によってそれぞれ, 座標平面 (2次元数ベクトル空間), 座標空間 (3次元数ベク
トル空間) を表す.
R2 =
(x
y
)∣∣∣∣∣ x, y ∈ R
, R3 =
xyz
∣∣∣∣∣∣∣ x, y, z ∈ R
定義 1.1 x =
x1x2x3
, y =
y1y2y3
, z =
z1z2z3
を 3次元数ベクトルとする.
(1) x と y の内積 x1y1 + x2y2 + x3y3 を (x,y) で表す.
(2) x の長さ√
(x,x) =√x21 + x22 + x23 を ∥x∥ で表す.
(3) x と y の外積 x× y を x× y =
x2y3 − x3y2
−x1y3 + x3y1
x1y2 − x2y1
によって定義する.
(4) x, y, z をそれぞれ第 1列, 第 2列, 第 3列とする行列(x y z
)の行列式を det(x,y, z) で表す.
det(x,y, z) =
∣∣∣∣∣∣∣x1 y1 z1
x2 y2 z2
x3 y3 z3
∣∣∣∣∣∣∣ = x1y2z3 + x2y3z1 + x3y1z2 − x1y3z2 − x2y1z3 − x3y2z1
命題 1.2 3次元数ベクトル x, y, z と実数 r に対し, 以下の等式が成り立つ.
(1) (x+ y)× z = x× z + y × z, x× (y + z) = x× y + x× z
(2) (rx)× y = x× (ry) = r(x× y)
(3) y × x = −x× y, x× x = 0
(4) (x× y, z) = det(x,y, z)
(5) (x× y)× z = −(y, z)x+ (x, z)y
(6) (x× y, z ×w) = (x, z)(y,w)− (x,w)(y, z), ∥x× y∥2 = ∥x∥2∥y∥2 − (x,y)2
(7) Ax×Ay = tA(x× y) (ただし AはAの余因子行列)
証明 (1), (2), (3)は外積の定義から明らかである.
(4) x, y, z の第 i成分をそれぞれ xi, yi, zi とする. A =(x y z
)とおき, A の (i, j)成分を aij とし, A の第 i
行と第 j 列を除いて得られる 2次正方行列を Aij とすれば i = 1, 2, 3 に対して ai1 = xi, ai2 = yi, ai3 = zi であり,
x× y, y × z の第 i成分はそれぞれ (−1)i+3|Ai3|, (−1)i+1|Ai1| だから, |A| = det(x,y, z) の第 3列と第 1列に関す
る余因子展開を考えれば, 以下の等式が得られる.
(x×y, z) = (x2y3−x3y2)z1−(x1y3−x3y1)z2+(x1y2−x2y1)z3 = a13|A13|−a23|A23|+a33|A33| = |A| = det(x,y, z)
(x,y×z) = x1(y2z3−y3z2)−x2(y1z3−y3z1)+x3(y1z2−y2z1) = a11|A11|−a21|A21|+a31|A31| = |A| = det(x,y, z)
(5) x と y が 1次独立な場合, x,y− (x,y)
∥x∥2x,x× y は R3 の直交基底で,
∥∥∥∥y − (x,y)
∥x∥2x
∥∥∥∥2= ∥x∥2∥y∥2 − (x,y)2
∥x∥2
だから, u =1
∥x∥x, v =
∥x∥√∥x∥2∥y∥2 − (x,y)2
(y − (x,y)
∥x∥2x
), w =
1
∥x× y∥(x× y) とおけば, u,v,w は R3 の
右手系の正規直交基底である. 従って z = (z,u)u+ (z,v)v+ (z,w)w であり, u× v = w, v×w = u, w×u = v
が成り立つ. また, x = ∥x∥u, y =
√∥x∥2∥y∥2 − (x,y)2
∥x∥v +
(x,y)
∥x∥u だから
(x× y)× z =
(∥x∥u×
(√∥x∥2∥y∥2 − (x,y)2
∥x∥v +
(x,y)
∥x∥u
))× ((z,u)u+ (z,v)v + (z,w)w)
=√∥x∥2∥y∥2 − (x,y)2 w × ((z,u)u+ (z,v)v + (z,w)w)
1
=√
∥x∥2∥y∥2 − (x,y)2((z,u)v − (z,v)u) = (z,x)
(y − (x,y)
∥x∥2x
)−(z,y − (x,y)
∥x∥2x
)x
= −(y, z)x+ (x, z)y
x と y が 1 次従属ならば y = kx または x = ky を満たす実数 k が存在する. 前者の場合は (x × y) × z =
(x× kx)× z = k(x× x)× z = 0 と −(y, z)x+ (x, z)y = −(kx, z)x+ (x, z)kx = −k((x, z)x+ (x, z)x) = 0 が
成り立つため, (x × y) × z = −(y, z)x + (x, z)y である. 後者の場合も同様に (x × y) × z = −(y, z)x + (x, z)y
が示される.
(6) (4)と (5)の結果から
(x× y, z ×w) = det(x× y, z,w) = ((x× y)× z,w) = (−(y, z)x+ (x, z)y,w) = −(y, z)(x,w) + (x, z)(y,w)
上の等式で, とくに z = x, w = y の場合を考えれば,
∥x× y∥2 = (x× y,x× y) = (x,x)(y,y)− (x,y)(y,x) = ∥x|2∥y∥2 − (x,y)2
(7)まず Aが正則行列である場合を考える. z を R3 の任意のベクトルとすれば, (4),行列式の性質 |AB| = |A||B|,逆行列の公式 A−1 =
1
|A|A および内積の性質 (Bx,y) = (x, tBy) を用いると
(Ax×Ay, z) = det(Ax, Ay, z) = det(Ax, Ay, AA−1z) = |A|det(x,y, A−1z) = det(x,y, |A|A−1z)
= det(x,y, Az) = (x× y, Az) = (tA(x× y), z)
が得られるため, (Ax × Ay − tA(x × y), z) = 0 がすべての z ∈ R3 に対して成り立つことが分かる. とくに
z = Ax×Ay− tA(x×y) の場合を考えれば ∥Ax×Ay− tA(x×y)∥2 = 0 となるため, Ax×Ay = tA(x×y) が得ら
れる. A が正則行列でない場合, A の 0でない実数の固有値はたかだか 2つだから, 正の実数 δ で条件「0 < |s| < δ
ならば A − sE3 は正則行列」を満たすものがある. このとき上の結果から 0 < |s| < δ をみたす実数 s に対して
(A− sE3)x× (A− sE3)y = t ˜(A− sE3)(x× y) が成り立つ. この両辺の各成分は s の多項式だから, s を変数とす
る連続関数である. 従って, この等式の両辺の s を 0 に近づけたときの極限を考えれば Ax×Ay = tA(x× y) が得
られる.
注意 1.3 (1) 上の (2)と (3)から (rx)× x = x× (rx) = r(x× x) = 0 だから, x, y の一方が他方の実数倍ならば
x× y = 0 である.
(2) 上の (4)で, とくに z = y,x の場合を考えると (x× y,x) = (x× y,y) = 0 となるため, x× y は x と y の
両方に垂直なベクトルである.
(3) x と y のなす角を θ とすれば, 上の (6)より ∥x× y∥ =√∥x∥2∥y∥2 − ∥x∥2∥y∥2 cos2 θ = ∥x∥∥y∥ sin θ だか
ら x× y の長さは x と y を 2辺とする平行四辺形の面積に等しい.
実数 a, b (a < b) に対し, (a, b), [a, b] によって a, b を両端とする開区間, 閉区間を表す.
(a, b) = x ∈ R | a < x < b, [a, b] = x ∈ R | a ≦ x ≦ b
定義 1.4 x(t), y(t), z(t) を閉区間 [a, b] で定義された連続関数とし, t ∈ [a, b] に対し, x(t) =
x(t)y(t)
z(t)
とおく. t が
a から b まで動くとき, 3次元数ベクトル x(t) 全体からなる集合 x(t) ∈ R3 | t ∈ [a, b] を空間曲線という. 言い
換えれば, 各 t ∈ [a, b] を 3次元数ベクトル x(t) に対応させる [a, b] からR3 への写像 x を考えると, x による閉
区間 [a, b] の像が空間曲線であり, 写像 x (またはその成分の関数 x(t), y(t), z(t)) をこの空間曲線のパラメータ表示
(媒介変数表示, 助変数表示)という.
2
定義 1.5 写像 x : [a, b] → R3 によってパラメータ表示される空間曲線 C が与えられたとき, t0 = a, tN = b を満
たす単調増加数列 ∆ = tiNi=0 に対して, L(x;∆) =N∑i=1
∥x(ti)− x(ti−1))∥ とおく. 実数 λ で, 次の条件 (i)と (ii)
を満たすものが存在するとき, 曲線 C は長さをもつといい, λ を C の長さと呼ぶ.
(i) t0 = a, tN = b を満たす任意の単調増加数列 ∆ = tiNi=0 に対して, L(x;∆) ≦ λ である.
(ii) λ′ < λ ならば, L(x;∆) > λ′ かつ t0 = a, tN = b を満たす単調増加数列 ∆ = tiNi=0 が存在する.
写像 x : (p, q) → R3 の x成分, y 成分, z 成分の関数をそれぞれ x(t), y(t), z(t) とする. これらの関数が開区間
(p, q) の各点で微分可能であるとき, t ∈ (p, q) を
x′(t)
y′(t)
z′(t)
に対応させる (p, q) からR3 への写像を x′ で表す. この
とき, x′(t) は曲線 C 上の点 x(t) における接線方向のベクトルである.
定理 1.6 写像 x : (p, q) → R3 の各成分の関数 x(t), y(t), z(t) が開区間 (p, q) の各点で微分可能であり, これらの
導関数 x′(t), y′(t), z′(t) はすべて連続であるとする. p < a < b < q に対し, 空間曲線 C が写像 x : [a, b] → R3 に
よってパラメータ表示されるとき, C の長さは∫ b
a
∥x′(t)∥ dt で与えられる.
以後, x : [a, b] → R3 を空間曲線 C のパラメータ表示とするとき, xは上の定理の条件を満たし,さらに各 t ∈ [a, b]
に対して, x′(t) は零ベクトルではないと仮定する.
定義 1.7 C を写像 x : [a, b] → R3 によってパラメータ表示される空間曲線とする. t ∈ [a, b] に対し, x′(t) を x(t)
における C の接ベクトルという.
区間 [a, t] に対応する曲線 C の部分の長さを s(t) とすれば, 上の定理から s(t) は
s(t) =
∫ t
a
∥x′(u)∥ du (1.1)
で与えられる. s(t) を区間 [a, b] で定義された t の関数と考えて, s の導関数を考えれば, 微分積分学の基本定理に
より, s′(t) = ∥x′(t)∥ であり, x′(t) は零ベクトルではないという仮定から, すべての t ∈ [a, b] に対して s′(t) > 0 で
ある. 従って s は狭義単調増加関数だから, L = s(b) とおけば, s は [a, b] から [0, L] への 1対 1の関数である.
s−1 : [0, L] → [a, b] を s の逆関数として, 写像 x : [a, b] → R3 との合成写像 x s−1 : [0, L] → R3 を x とおけば,
x も曲線 C のパラメータ表示を与える.
x(t) = x s−1(t) =
x(s−1(t))
y(s−1(t))
z(s−1(t))
(1.2)
だから, 合成関数の微分法から
x′(t) =
(s−1)′(t)x′(s−1(t))
(s−1)′(t)y′(s−1(t))
(s−1)′(t)z′(s−1(t))
= (s−1)′(t)
x′(s−1(t))
y′(s−1(t))
z′(s−1(t))
= (s−1)′(t)x′(s−1(t))
が得られる. u = s−1(t) とおけば t = s(u) であり, 逆関数の微分法と s′(t) = ∥x′(t)∥ から
(s−1)′(t) = (s−1)′(s(u)) =1
s′(u)=
1
s′(s−1(t))=
1
∥x′(s−1(t))∥(1.3)
が成り立つため,
x′(t) =1
∥x′(s−1(t))∥x′(s−1(t)) (1.4)
を得る. 故に, x′(t) は単位ベクトルである. 従って, s, t ∈ [0, L] (s < t) に対し, 区間 [s, t] に対応する曲線 C の部
分の長さ∫ t
s
∥x′(u)∥ du =
∫ t
s
du は t− s に等しい.
3
定義 1.8 空間曲線 C が写像 x : I → R3 (I は区間)によってパラメータ表示され, 各 s, t ∈ I (s < t) に対して区
間 [s, t] に対応する曲線 C の部分の長さが t− s に等しいとき, x を曲線 C の弧長パラメータ表示いう. 上の議論
から, 任意の曲線は弧長パラメータ表示をもつ.
次の結果は, 容易に確かめられる.
命題 1.9 関数 f : (p, q) → R と写像 x,y : (p, q) → R3 の各成分は微分可能であるとする. 関数 (x,y) : (p, q) → R
と写像 x + y, fx,x × y : (p, q) → R3 を (x,y)(t) = (x(t),y(t)), (x + y)(t) = x(t) + y(t), (fx)(t) = f(t)x(t),
(x× y)(t) = x(t)× y(t) によって定義する. このとき, 次の等式が成り立つ.
(1) (x+ y)′(t) = x′(t) + y′(t) (2) (fx)′(t) = f ′(t)x(t) + f(t)x′(t)
(3) (x,y)′(t) = (x′(t),y(t)) + (x(t),y′(t)) (4) (x× y)′(t) = x′(t)× y(t) + x(t)× y′(t)
空間曲線 C が写像 x : [a, b] → R3 によって弧長パラメータ表示されているとき, 任意の t ∈ [a, b] に対して∫ t
a
∥x′(u)∥ du = t− a が成り立つため, この両辺を微分すれば, 微分積分学の基本定理により, ∥x′(t)∥ = 1 が得られ
る. e(t) = x′(t) とおき, x の各成分の関数は 2回微分可能であるとする. (e(t), e(t)) = ∥e(t)∥2 = ∥x′(t)∥2 = 1 で
あり, 命題 1.9の (3)から (e, e)′ = (e′, e) + (e, e′) = 2(e′, e) だから, (e′(t), e(t)) = 0 が任意の t ∈ [a, b] に対して
成り立つことがわかる. すなわち, ベクトル e′(t) は曲線 C 上の点 x(t) における接線方向のベクトル e(t) = x′(t)
に垂直である.
定義 1.10 空間曲線 C は写像 x : [a, b] → R3 によって弧長パラメータ表示されているとする.
(1) ベクトル e′(t) の長さ ∥e′(t)∥ を曲線 C 上の点 x(t) における曲率といい, κ(t) で表す.
(2) e′(t) = 0 を満たす t ∈ [a, b] に対して n(t) =1
∥e′(t)∥e′(t) とおき, n(t) を C 上の点 x(t) における主法線ベ
クトルという.
(3) e′(t) = 0 を満たす t ∈ [a, b] に対して b(t) = e(t)×n(t) とおき, b(t) を C 上の点 x(t) における従法線ベク
トルという.
(4) x の各成分の関数は 3回微分可能であるとする. t ∈ [a, b] に対し, e′(t) = 0 であるとき, −(b′(t),n(t)) を C
上の点 x(t) における捩率といい, τ(t) で表す.
命題 1.11 空間曲線 C は写像 x : [a, b] → R3 によって弧長パラメータ表示されているとする. e′(t) = 0 を満たす
t ∈ [a, b] に対して以下の等式が成り立つ. ((2)の 3つの等式を「フルネ・セレの公式」という.)
(1) (n′(t), e(t)) = −κ(t), (n′(t),n(t)) = (b′(t), b(t)) = (b′(t), e(t)) = 0, (n′(t), b(t)) = τ(t)
(2) e′(t) = κ(t)n(t), n′(t) = −κ(t)e(t) + τ(t)b(t), b′(t) = −τ(t)n(t)
証明 (1) (e′(t), e(t)) = 0 だから, この両辺を t で微分すれば, 命題 1.9の (3)から (e′′(t), e(t)) + (e′(t), e′(t)) = 0
が得られる. 従って (e′′(t), e(t)) = −∥e′(t)∥2 = −κ(t)2 である. n(t) =1
∥e′(t)∥e′(t) を t で微分すれば,
n′(t) = − (e′′(t), e′(t))
∥e′(t)∥3e′(t) +
1
∥e′(t)∥e′′(t)
が得られる. (e′(t), e(t)) = 0 より, 次の等式が成り立つ.
(n′(t), e(t)) =
(− (e′′(t), e′(t))
∥e′(t)∥3e′(t) +
1
∥e′(t)∥e′′(t), e(t)
)=
1
κ(t)(e′′(t), e(t)) = −κ(t)
n(t) と b(t) はともに長さが 1だから, 等式 (n(t),n(t)) = (b(t), b(t)) = 1 を t で微分すれば, 命題 1.9の (3)か
ら (n′(t),n(t)) = (b′(t), b(t)) = 0 が得られる. e′(t) = κ(t)n(t) だから, 命題 1.9 の (4) と注意 1.3 の (1) から
b′(t) = e′(t)×n(t)+e(t)×n′(t) = e(t)×n′(t) である. 従って, 注意 1.3の (2)から b′(t) は e(t) に垂直なベクトル
になるため, (b′(t), e(t)) = 0 である. 命題 1.2の (5)から (n′(t), b(t)) = (n′(t), e(t)×n(t)) = (e(t)×n(t),n′(t)) =
det(e(t),n(t),n′(t)) = −det(e(t),n′(t),n(t)) = −(e(t)× n′(t),n(t)) = −(b′(t),n(t)) = τ(t) が得られる.
4
(2) e′(t) = κ(t)n(t) は曲率と主法線ベクトルの定義から明らかである. e′(t) = 0 のとき, e(t),n(t), b(t) は
R3 の正規直交基底だから n′(t), b′(t) は n′(t) = (n′(t), e(t))e(t) + (n′(t),n(t))n(t) + (n′(t), b(t))b(t), b′(t) =
(b′(t), e(t))e(t) + (b′(t),n(t))n(t) + (b′(t), b(t))b(t) と表されるため, (1)の結果から残りの等式が得られる.
次の定理はフルネ・セレの公式と線形常微分方程式の解の存在定理を用いて示される.
定理 1.12 (空間曲線の基本定理) 微分可能な関数 κ : (a, b) → (0,∞), τ : (a, b) → R に対し, 空間曲線 C で, その
弧長パラメータ表示 x : (a, b) → R3 による点 x(t) における曲率, 捩率がそれぞれ κ(t), τ(t) であるものが存在す
る. C, D がともに上記の条件を満たす曲線で, x,y : (a, b) → R3 をそれぞれ C, D の弧長パラメータ表示とする
とき, 行列式の値が 1 である直交行列 R とベクトル c で, すべての t ∈ (a, b) に対して y(t) = Rx(t) + c を満たす
ものが存在する.
証明 t0 ∈ (a, b) を 1つ選んで固定する. M3(R) を実数を成分とする 3次正方行列全体からなるR上のベクトル空
間とし, 写像 Ω : (a, b) →M3(R) を
Ω(t) =
0 −κ(t) 0
κ(t) 0 −τ(t)0 τ(t) 0
によって定義する.
[前半の証明]写像 F : (a, b) → M3(R) に関する方程式 F ′(t) = F (t)Ω(t) を考えると, これは F (t) の 9個の成分
を未知関数とする線形常微分方程式だから, 線形常微分方程式の解の存在定理により F (t0) が 3次単位行列 E3 で
ある解 F がただ 1つ存在する. Ω(t) が交代行列であることに注意すれば, t ∈ (a, b) に対し,
(F (t)tF (t))′ = F ′(t)tF (t) + F (t)tF ′(t) = F (t)Ω(t)tF (t) + F (t)t(F (t)Ω(t))
= F (t)Ω(t)tF (t) + F (t)tΩ(t)tF (t) = F (t)(Ω(t) + tΩ(t))tF (t) = O
が成り立つため, F (t)tF (t) は t によらない一定の行列である. 従って F (t)tF (t) = F (t0)tF (t0) = E3 だから F (t) は
直交行列である. とくに |F (t)| = ±1 であるが, |F (t0)| = |E3| = 1 であり, t ∈ (a, b) を |F (t)| に対応させる関数は連続だから, つねに |F (t)| = 1 である. F (t) の第 1列, 第 2列, 第 3列をそれぞれ e(t), n(t), b(t) とおけば, これらは
R3 の正規直交基底で, |F (t)| = 1 より b(t) = e(t)×n(t) が成り立つ. そこで x : (a, b) → R3 を x(t) =
∫ t
t0
e(s) ds
で定め, x によってパラメータ表示される曲線を C とすれば x′(t) = e(t) は単位ベクトルだから x は C の弧長パ
ラメータ表示である. F ′(t) の第 1列, 第 2列, 第 3列はそれぞれ e′(t), n′(t), b′(t) であり, F (t)Ω(t) の第 1列, 第 2
列, 第 3列はそれぞれ κ(t)n(t), −κ(t)e(t) + τ(t)b(t), −τ(t)n(t) だから
x′′(t) = e′(t) = κ(t)n(t) · · · (i), n′(t) = −κ(t)e(t) + τ(t)b(t) · · · (ii), b′(t) = −τ(t)n(t) · · · (iii)
が成り立つ. κ(t) > 0 だから (i)より κ(t) = ∥κ(t)n(t)∥ = ∥e′(t)∥ = ∥x′′(t)∥ が得られるため κ(t) は C の x(t) にお
ける曲率である. また (i)より n(t) は C の x(t) における主法線ベクトルであり, b(t) = e(t)×n(t) より b(t) は C
の x(t) における従法線ベクトルである. さらに (iii)より −(b′(t),n(t)) = −(−τ(t)n(t),n(t)) = τ(t)∥n(t)∥2 = τ(t)
だから τ(t) は C の x(t) における捩率である.
[後半の証明]x,y : (a, b) → R3 をそれぞれ曲線 C, D の弧長パラメータ表示とし, 各 t ∈ (a, b) に対して C の x(t)
における曲率と捩率がそれぞれ κ(t), τ(t) であり, D の y(t) における曲率と捩率もそれぞれ κ(t), τ(t) であると
する.
e(t) = x′(t), n(t) =1
κ(t)e′(t), b(t) = e(t)× n(t), e(t) = y′(t), n(t) =
1
κ(t)e′(t), b(t) = e(t)× n(t)
とおき, e(t), n(t), b(t) をそれぞれ第 1列, 第 2列, 第 3列とする 3次正方行列を F (t), e(t), n(t), b(t) をそれぞれ
第 1列, 第 2列, 第 3列とする 3次正方行列を G(t) で表せば F (t), G(t) はともに行列式の値が 1である 3次直交行
5
列である. t ∈ (a, b) を F (t), G(t) に対応させる (a, b) から M3(R) への写像をそれぞれ F , G とすればフルネ・セ
レの公式より F ′(t) = F (t)Ω(t), G′(t) = G(t)Ω(t) が成り立つため,
(G(t)F (t)−1)′ = (G(t)tF (t))′ = G′(t)tF (t) +G(t)tF ′(t) = G(t)Ω(t)tF (t) +G(t)t(F (t)Ω(t))
= G(t)Ω(t)tF (t) +G(t)tΩ(t)tF (t) = G(t)(Ω(t) + tΩ(t))tF (t) = O
が成り立つため, G(t)F (t)−1 は t によらない一定の行列である. 従って R = G(t0)F (t0)−1 とおけば, R は行列式
の値が 1である 3次直交行列で, G(t) = RF (t) がすべての t ∈ (a, b) に対して成り立つ. この両辺の第 1列を考えれ
ば y′(t) = Rx′(t) が得られるため, 微積分学の基本定理と積分の線形性から
y(t)− y(t0) =
∫ t
t0
y′(s) ds =
∫ t
t0
Rx′(s) ds = R
∫ t
t0
x′(s) ds = R(x(t)− x(t0))
が成り立つ. 故に c = y(t0)−Rx(t0) とおけば, すべての t ∈ (a, b) に対して y(t) = Rx(t) + c が成り立つ.
空間曲線 C をパラメータ表示する写像 x : [a, b] → R3 が弧長パラメータ表示ではないとき, (1.1)によって関数
s を定めれば, C の弧長パラメータ表示は (1.2)によって定義される写像 x によって与えられ, (1.3)と (1.4)から
e′(t) = (x′)′(t) は命題 1.9を用いて次の (1.5)で与えられ, κ(t)2 = (e′(t), e′(t)) は (1.5)と命題 1.2の (6)から次の
(1.6)で与えられる.
e′(t) = (x′)′(t) =1
∥x′(s−1(t))∥2x′′(s−1(t))− (x′(s−1(t)),x′′(s−1(t)))
∥x′(s−1(t))∥4x′(s−1(t)) (1.5)
κ(t)2 =∥x′(s−1(t))∥2∥x′′(s−1(t))∥2 − (x′(s−1(t)),x′′(s−1(t)))2
∥x′(s−1(t))∥6=
∥x′(s−1(t))× x′′(s−1(t))∥2
∥x′(s−1(t))∥6(1.6)
命題 1.2の (5)の x, y, z にそれぞれ1
∥x′(s−1(t))∥2x′(s−1(t)), x′′(s−1(t)),
1
∥x′(s−1(t))∥2x′(s−1(t)) を代入すれば,
(1.5)から次の等式が得られる.
e′(t) =1
∥x′(s−1(t))∥4(x′(s−1(t))× x′′(s−1(t))
)× x′(s−1(t)) (1.7)
さらに (1.4), (1.5), (1.7)と n(t), b(t) の定義から以下の等式が得られる.
n(t) =1
∥e′(t)∥e′(t) =
1
∥(x′(s−1(t))× x′′(s−1(t)))× x′(s−1(t))∥(x′(s−1(t))× x′′(s−1(t)))× x′(s−1(t)) (1.8)
b(t) = e(t)× n(t) =1
∥x′(s−1(t))× x′′(s−1(t))∥x′(s−1(t))× x′′(s−1(t)) (1.9)
上の等式から, 命題 1.9, 1.2を用いて計算すれば, b′(t), τ(t) は次のように与えられることがわかる.
b′(t) = − (x′(s−1(t))× x′′(s−1(t)),x′(s−1(t))× x′′′(s−1(t)))
∥x′(s−1(t))∥∥x′(s−1(t))× x′′(s−1(t))∥3x′(s−1(t))× x′′(s−1(t))
+1
∥x′(s−1(t))∥∥x′(s−1(t))× x′′(s−1(t))∥x′(s−1(t))× x′′′(s−1(t))
τ(t) = − (x′(s−1(t))× x′′′(s−1(t)),x′′(s−1(t)))
∥x′(s−1(t))× x′′(s−1(t))∥2=
det(x′(s−1(t)),x′′(s−1(t)),x′′′(s−1(t))
∥x′(s−1(t))× x′′(s−1(t))∥2
x(t) = x(s(t)) であることに注意して, 以上の結果をまとめれば, 次のようになる.
命題 1.13 写像 x : [a, b] → R3 によってパラメータ表示される曲線 C の x(t) における単位接ベクトル e(t), 主法
線ベクトル n(t), 従法線ベクトル b(t), 曲率 κ(t), 捩率 τ(t) は以下の等式で与えられる.
e(t) =1
∥x′(t)∥x′(t), n(t) =
1
∥(x′(t)× x′′(t))× x′(t)∥(x′(t)×x′′(t))×x′(t), b(t) =
1
∥x′(t)× x′′(t)∥x′(t)×x′′(t),
κ(t) =∥x′(t)× x′′(t)∥
∥x′(t)∥3, τ(t) =
det(x′(t),x′′(t),x′′′(t))
∥x′(t)× x′′(t)∥2
6
例 1.14 実数 a, b (a = 0) に対し, x(t) =
a cos ta sin t
bt
によって定義される写像 x : R → R3 でパラメータ表示さ
れる曲線をつるまき線という. t が p から q まで動いたときの曲線の長さは,dx
dt= −a sin t, dy
dt= a cos t,
dz
dt= b
より∫ q
p
√(dx
dt
)2
+
(dy
dt
)2
+
(dz
dt
)2
dt =
∫ q
p
√a2 + b2dt =
√a2 + b2(q − p) によって与えられる. また, x′(t) =−a sin t
a cos t
b
, x′′(t) =
−a cos t−a sin t
0
, x′′′(t) =
a sin t
−a cos t0
だから, 上の命題から e(t) =1√
a2 + b2
−a sin ta cos t
b
,
b(t) =a
|a|√a2 + b2
b sin t
−b cos ta
, n(t) =a
|a|
− cos t
− sin t
0
, κ(t) =|a|
a2 + b2, τ(t) =
b
a2 + b2が得られる. 従って, つる
まき線の曲率と捩率はともに一定である.
2 曲面のパラメータ表示
定義 2.1 D を座標平面 R2 の領域とする. f , g, h を D で定義され, 実数値をとる連続関数とし, u ∈ D に対し,
p(u) =
f(u)g(u)
h(u)
とおく. u が D 全体を動くとき, 3次元数ベクトル p(u) 全体からなる集合 p(u) ∈ R3 |u ∈ D
を曲面という. 言い換えれば, 各 u ∈ D を 3 次元数ベクトル p(u) に対応させる D から R3 への写像 p を考
えると, p による領域 D の像が曲面であり, 写像 p (またはその成分の関数 f, g, h) をこの曲面のパラメータ表示
(媒介変数表示, 助変数表示)という.
以下で, 曲面のパラメータ表示の例を与える. cosh, sinh は coshx =ex + e−x
2, sinhx =
ex − e−x
2で定義される,
双曲線関数と呼ばれる関数である.
例 2.2 (1) D = R2, p
(u
v
)=
u
vu2
a2 + v2
b2
で領域 D と写像 p を定めれば, p は楕円放物面 z =x2
a2+y2
b2のパラ
メータ表示を与える.
7
(2) D = R2, p
(u
v
)=
u
vu2
a2 − v2
b2
で領域D と写像 p を定めれば, p は双曲放物面 z =x2
a2− y2
b2のパラメータ
表示を与える.
(3) D =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ |u| ≦ π
2, 0 ≦ v < 2π
, p
(u
v
)=
a cosu cos vb cosu sin v
c sinu
で領域D と写像 p を定めれば, p は楕
円面x2
a2+y2
b2+z2
c2= 1 のパラメータ表示を与える.
(4) D =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ u ∈ R, 0 ≦ v < 2π
, p
(u
v
)=
a coshu cos vb coshu sin v
c sinhu
で領域D と写像 p を定めれば, p は一
葉双曲面x2
a2+y2
b2− z2
c2= 1 のパラメータ表示を与える.
8
(5) D =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ u ∈ R, 0 ≦ v < 2π
, p
(u
v
)=
a sinhu cos vb sinhu sin v
c coshu
で領域D と写像 p を定めれば, p は二
葉双曲面 −x2
a2− y2
b2+z2
c2= 1 の, z座標が c と同符号の部分のパラメータ表示を与える.
I を区間とするとき, 座標空間において, xz平面上の曲線 C が写像 x : I → R3 によってパラメータ表示されてい
るとき, C を z 軸のまわりに回転させて得られる曲面のパラメータ表示を考える. z 軸を軸とした角度 v の回転は,
v ∈ R3 に 3次正方行列
cos v − sin v 0
sin v cos v 0
0 0 1
を v の左からかけたベクトルに対応させる 1次変換だから, 曲線上
の点 x(u) を z 軸のまわりに角度 v だけ回転させた点は
cos v − sin v 0
sin v cos v 0
0 0 1
x(u) である. 従って, 次のことがわ
かる.
命題 2.3 座標空間において, xz平面上の曲線 C が写像 x : I → R3 によってパラメータ表示されており, u ∈ I に
対し, x(u) の成分が, 関数 x, z : I → R を用いて x(u) =
x(u)0
z(u)
と表されているとき, D を u ∈ I, 0 ≦ v ≦ 2π
を満たす座標平面の点
(u
v
)全体からなる集合とすれば, C を z軸のまわりに回転させて得られる曲面のパラメータ
表示は, p
(u
v
)=
cos v − sin v 0
sin v cos v 0
0 0 1
x(u) =
x(u) cos vx(u) sin v
z(u)
で定義される写像 p : D → R3 によって与えられる.
例 2.4 (1) 0 < a < b とするとき, xz 平面において, 中心が
b00
, 半径が a の円は x(t) =
a cos t+ b
0
a sin t
で定義され9
る写像 x : [0, 2π] → R3 でパラメータ表示されるが, この円を z軸のまわりに回転させて得られる曲面は 2次元トーラ
スと呼ばれる. D =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ 0 ≦ u ≦ 2π, 0 ≦ v ≦ 2π
とおけば, この曲面は p
(u
v
)=
(a cosu+ b) cos v
(a cosu+ b) sin v
a sinu
で定義される写像 p : D → R3 によってパラメータ表示される.
(2) x(u) =
a sinu cosu2−cos2 u
0a cosu
2−cos2 u
によって定義される写像 x : [0, π] → R3 でパラメータ表示される xz 平面上の曲線
はレムニスケートと呼ばれ, この曲線を z 軸のまわりに回転させて得られる曲面は回転レムニスケートと呼ばれる.
D =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ 0 ≦ u ≦ π, 0 ≦ v ≦ 2π
とおけば, この曲面は p
(u
v
)=
a sinu cosu cos v
2−cos2 ua sinu cosu sin v
2−cos2 ua cosu
2−cos2 u
で定義される写像p : D → R3 によってパラメータ表示される.
10
(3) x(u) =
a cosu
0
a(
12 log
1+sinu1−sinu − sinu
) によって定義される写像 x :
(−π
2 ,π2
)→ R3 でパラメータ表示される xz
平面上の曲線はトラクトリックスと呼ばれ, この曲線を z 軸のまわりに回転させて得られる曲面は擬球と呼ばれる.
D =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ − π
2< u <
π
2, 0 ≦ v ≦ 2π
とおけば, この曲面は p
(u
v
)=
a cosu cos v
a cosu sin v
a(
12 log
1+sinu1−sinu − sinu
) で定
義される写像 p : D → R3 によってパラメータ表示される.
一般に, 座標平面の領域 D を定義域とし, 2つの変数 u, v について偏微分可能な関数 f と D の点 a に対し, 1× 2
行列(∂f
∂u(a)
∂f
∂v(a)
)を f ′(a) で表す. また, f の 2つの偏導関数
∂f
∂u,∂f
∂vがともに連続関数であるとき, f を
C1 関数という. このとき, 平均値の定理を用いることによって次の結果が示される.
定理 2.5 座標平面の領域 D を定義域とする C1 級関数 f と a ∈ D に対し, 次が成り立つ.
limu→a
f(u)− (f(a) + f ′(a)(u− a))
∥u− a∥= 0
上の結果は, u が a に近くの点ならば, f(u) を u の成分の 1次関数 f(a) + f ′(a)(u− a) で近似したときの誤差
は u と a の間の距離 ∥u− a∥ に比べて「非常に小さい」ことを意味している.
Rn の部分集合から Rm の部分集合への写像 f の各成分の関数が, すべての変数に関して偏微分可能で, それら
の偏導関数がすべて連続関数であるとき, f を C1 級関数という.
以後, 曲面をパラメータ表示する写像は C1級写像であると仮定する. p : D → R3 を曲面 S のパラメータ表示と
し, p の x成分, y成分, z成分の関数をそれぞれ f , g, h として写像 pu,pv : D → R3 を次のように定める.
pu(u) =
∂f∂u (u)∂g∂u (u)∂h∂u (u)
, pv(u) =
∂f∂v (u)∂g∂v (u)∂h∂v (u)
11
また, u ∈ D に対して pu(u), pv(u) をそれぞれ第 1列, 第 2列とする 3× 2行列を p′(u) で表すことにする. すな
わち
p′(u) =
∂f∂u (u)
∂f∂v (u)
∂g∂u (u)
∂g∂v (u)
∂h∂u (u)
∂h∂v (u)
である. このとき, u,a ∈ D に対し, ベクトル p(u) − (p(a) + p′(a)(u − a)) の x成分, y 成分, z 成分はそれぞれ
f(u)− (f(a) + f ′(a)(u− a)), g(u)− (g(a) + g′(a)(u− a)), h(u)− (h(a) + h′(a)(u− a)) だから, 定理 2.5から
limu→a
p(u)− (p(a) + p′(a)(u− a))
∥u− a∥= 0
が成り立つことがわかる. 従って u =
(u
v
),a =
(a
b
)∈ D に対し, p(u) を
p(a) + p′(a)(u− a) = p(a) + (u− a)pu(a) + (v − b)pv(a)
で近似したときの誤差は u と a の間の距離 ∥u− a∥ に比べて「非常に小さい」. pu(a) と pv(a) の一方が他方の
実数倍ではないとき, u =
(u
v
)∈ R2 を p(a) + (u− a)pu(a) + (v − b)pv(a) に対応させる写像は, p(a) を通る平
面のパラメータ表示を与えるが, 上のことから, この平面は p(a) の近くで曲面 S の良い近似を与えているため, こ
の平面を S の p(a) における接平面と呼ぶことにする.
3 曲面の面積
p : D → R3 を曲面 S のパラメータ表示とし, p の x 成分, y 成分, z 成分の関数をそれぞれ f , g, h とする.
u =
(u
v
)∈ D とし ∆u, ∆v は「微小な」実数で,
(u
v
),
(u+∆u
v
),
(u
v +∆v
),
(u+∆u
v +∆v
)を 4つの頂点とする長
方形は Dに含まれるとする. この長方形を R(u;∆u,∆v)で表し, pによるR(u;∆u,∆v)の像 p(R(u;∆u,∆v))を考
えれば,この面積 (が定義されるとすれば)は∆u, ∆vの絶対値が小さいとき, p(u), p(u)+∆upu(u), p(u)+∆vpv(u),
p(u) +∆upu(u) +∆vpv(u) を 4つの頂点とする S の p(u) における接平面上の平行四辺形の面積で近似され, ∆u
と ∆v を小さくすればするほど, 近似の誤差は 0 に近づくと考えられる. 一方, 注意 1.3の (3)により, この平行四辺
形の面積は ∥pu(u)× pv(u)∥|∆u||∆v| に等しいため, この「微小な」面積を足し合わせて, ∆u, ∆v を 0 に近づけた
ときの極限値 ∫∫D
∥pu(u)× pv(u)∥ dudv
が曲面 S の面積であると定義するのは, 上の議論 (言い訳)から妥当である. そこで, 次のように定義する.
定義 3.1 p : D → R3 を曲面 S のパラメータ表示とするとき, S の面積は∫∫D
∥pu(u)× pv(u)∥ dudv
であると定義する.
上の定義を, S をパラメータ表示する写像 p : D → R3 の成分の関数を用いて書き直すと, S の面積は次の重積分
で与えられる. ∫∫D
√(∂g
∂u
∂h
∂v− ∂h
∂u
∂g
∂v
)2
+
(∂h
∂u
∂f
∂v− ∂f
∂u
∂h
∂v
)2
+
(∂f
∂u
∂g
∂v− ∂g
∂u
∂f
∂v
)2
dudv
12
とくに, S が xz平面上の曲線を z軸の回りに回転させて得られる曲面の場合, 命題 2.3から,
D =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ a ≦ u ≦ b, 0 ≦ v ≦ 2π
とおけば, D で定義された関数 f , g, h は f
(u
v
)= x(u) cos v, g
(u
v
)= x(u) sin v, h
(u
v
)= z(u) の形だから,
∂f
∂u
(u
v
)= x′(u) cos v,
∂g
∂u
(u
v
)= x′(u) sin v,
∂h
∂u
(u
v
)= z′(u),
∂f
∂v
(u
v
)= −x(u) sin v, ∂g
∂v
(u
v
)= x(u) cos v,
∂h
∂v
(u
v
)= 0
である. 従って, この場合, S の面積は次の公式で与えられる.∫∫D
√z′(u)2x(u)2 + x′(u)2x(u)2 dudv =
∫ b
a
(∫ 2π
0
√z′(u)2x(u)2 + x′(u)2x(u)2 dv
)du
= 2π
∫ b
a
|x(u)|√x′(u)2 + z′(u)2 du
例 3.2 (1) 例 2.2の (3)における楕円面の面積は次の積分で与えられる.∫ π2
−π2
(∫ 2π
0
√b2c2 cos4 u cos2 v + a2c2 cos4 u sin2 v + a2b2 cos2 u sin2 u dv
)du
とくに, a = b = c の場合, この楕円面は半径 a の球面になり, 上の積分の値は 4πa2∫ π
2
0
cosu du = 4πa2 となるた
め, 半径 a の球面の面積は 4πa2 である.
(2) 例 2.4の (1)における 2次元トーラスの面積は x(t) = a cos t + b, z(t) = a sin t とおけば x′(t) = −a sin t,
z′(t) = a cos t だから, 2π
∫ 2π
0
|x(t)|√x′(t)2 + z′(t)2 dt = 2π
∫ 2π
0
a(a cos t+ b) dt = 4π2ab である.
(3) −π2< α < β <
π
2を満たす α, β に対して, xy平面に平行な 2つの平面 z = a
(1
2log
1 + sinα
1− sinα− sinα
)と
z = a
(1
2log
1 + sinβ
1− sinβ− sinβ
)にはさまれた部分にある,例2.4の (3)における擬球の面積をAとする. x(t) = a cos t,
z(t) = a
(1
2log
1 + sin t
1− sin t− sin t
)とおけば x′(t) = −a sin t, z′(t) = a sin2 t
cos tだから, A は以下で与えられる.
2π
∫ β
α
|x(t)|√x′(t)2 + z′(t)2 dt = 2π
∫ β
α
a2| sin t| dt =
2πa2| cosα− cosβ| αβ ≧ 0
2πa2(2− cosα− cosβ) αβ < 0
(4) a を正の定数とするとき, x(t) =
a(1− cos t)
0
a(t− sin t)
で定義される写像 x : [0, 2π] → R3 でパラメータ表示
される xz 平面上のサイクロイドを, z 軸のまわりに回転させて得られる曲面を S とする. x(t) = a(1 − cos t),
z(t) = a(t− sin t) とおけば x′(t) = a sin t, z′(t) = a(1− cos t) だから, S の面積は以下で与えられる.
2π
∫ 2π
0
|x(t)|√x′(t)2 + z′(t)2 dt = 2π
∫ 2π
0
√2a2(1− cos t)
32 dt = 2π
∫ 2π
0
4a2 sin3t
2dt
= 8πa2∫ 2π
0
(1− cos2
t
2
)sin
t
2dt = 8πa2
∫ 1
−1
2(1− x2
)dx =
64πa2
3.
13
4 局所座標と座標変換
曲面 S が写像 p : D → R3 によってパラメータ表示されているとし, すべての u ∈ D に対して pu(u) と pv(u)
の一方は他方の実数倍ではないと仮定する. 例 2.2の (3)における楕円面では,
pu
(u
v
)=
−a sinu cos v−b sinu sin v
c cosu
, pv
(u
v
)=
−a cosu sin vb cosu cos v
0
だから, u = ±π2のとき, pv
(u
v
)は零ベクトルになるため, この仮定は満たされない. このような仮定をするのと引
き替えに, p による D の像が S 全体であるという, いままで暗黙のうちにしてきた仮定は諦めることにして, 曲面
の定義を修正する. そのために, まず開集合という言葉を導入する.
定義 4.1 R2 または R3 の部分集合 D の点 a に対し, 正の実数 r で条件「∥x− a∥ < r ならば x ∈ D」を満たす
ものが存在するとき, a を D の内点といい, D の点がすべて内点であるとき, D を開集合という.
曲面は, パラメータ表示された曲面の一部を滑らかになるように貼り合わせたものとして, 以下のように定義する.
定義 4.2 R3 の部分集合 S に対して, R2 の開集合の集合 Di| i ∈ I と単射の集合 pi : Di → R3| i ∈ I で次の条件を満たすものが存在するとき, S を曲面と呼ぶ.
(i) すべての i ∈ I に対し, R3 の開集合 Vi が存在して, pi による Di の像が S ∩ Vi と表される.
(ii) S の各点 a に対して i ∈ I と u0 ∈ Di で pi(u0) = a を満たすものがある.
(iii) すべての i ∈ I に対し, pi は C1 級写像である.
(iv) すべての i ∈ I と u ∈ Di に対し, (pi)u(u) と (pi)v(u) の一方は他方の実数倍ではない.
例 4.3 楕円面は定義 4.2の意味で, 曲面である. 実際, R2 の部分集合 Di (i = 1, 2, 3, 4) を
D1 =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ |u| < π
2, 0 < v < 2π
D2 =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ |u| < π
2, −π < v < π
D3 = D4 =
(u
v
)∈ R2
∣∣∣∣∣ u2a2 +v2
b2< 1
で定め, 写像 pi : Di → R3 (i = 1, 2, 3, 4) を
p1
(u
v
)=
a cosu cos vb cosu sin v
c sinu
p2
(u
v
)=
a cosu cos vb cosu sin v
c sinu
p3
(u
v
)=
u
v
c√
1− u2
a2 − v2
b2
p4
(u
v
)=
u
v
−c√1− u2
a2 − v2
b2
によって定めれば, Di, pi は定義 4.2の条件をすべて満たしていることが確かめられる.
R2 の開集合の集合 Di| i ∈ Iと単射の集合 pi : Di → R3| i ∈ Iは定義 4.2の条件を満たすとする. S∩Vi∩Vj =∅ を満たす i, j ∈ I に対し, Dij = u ∈ Di|pi(u) ∈ Vj, Dji = u ∈ Dj |pj(u) ∈ Vi とおけば, pi, pj の連続性か
ら Dij , Dji はともに R2 の開集合である. 定義 4.2の条件 (i)によって, pj は Dj から S ∩ Vj への全単射とみなせるので, この写像の逆写像を p−1
j : S ∩Vj → Dj で表して写像 φij : Dij → Dji を φij(u) = p−1j (pi(u)) で定義する.
14
定義 4.4 定義 4.2における各写像 pi : Di → R3 を S の局所座標という. a ∈ S ∩ Vi に対し, pi(u) = a を満
たす Di の点 u がただ 1つ存在するが, これを局所座標 pi に関する a の座標という. また, 上で定義した写像
φij : Dij → Dji を pi から pj への座標変換という.
注意 4.5 写像 φij の定義から, u ∈ Dij のとき, pj(φij(u)) = pi(u) が成り立つため, pi に関する a ∈ S の座標が
u であるとき, pj に関する a の座標は φij(u) である.
u =
(u
v
)∈ R2 と w ∈ R に対し, R3 のベクトル
uvw
を (u
w
)で表す.
命題 4.6 D を R2 の開集合とし, p : D → R3 を C1級写像とする. u0 ∈ D に対し, pu(u0),pv(u0) が 1次独立で
あるとき, p(u0) を含む R3 の開集合 V ,
(u0
0
)を含むR3 の開集合 W と C1級写像である全単射 ψ : V →W で
次の条件 (i), (ii)を満たすものが存在する.
(i) ψ : V →W の逆写像 ψ−1 :W → V は C1 級写像である.
(ii) u0 を含み D に含まれる R2 の開集合 U が存在し, u ∈ U ならば ψ(p(u)) =
(u
0
)が成り立つ.
証明 n ∈ R3 を pu(u0),pv(u0),n が 1次独立になるように選び, 写像 F : D ×R → R3 を F
(u
w
)= p(u) + wn
で定めると, F ′
(u0
0
)=(pu(u0) pv(u0) n
)は正則行列である. 従って, 逆写像定理により, u0 を含む R2 の開集合
Z ⊂ D, r > 0 と p(u0) を含む開集合 V で, F の定義域を Z × (−r, r) に制限したものが Z × (−r, r) から V への
全単射を定め, その逆写像 F−1 : V → Z × (−r, r) が C1級写像であるものが存在する. W = Z × (−r, r), ψ = F−1
とおけば ψ と ψ−1 = F はともに C1 級写像であり, U = Z ∩ u ∈ D |p(u) ∈ V とおくと, p の連続性から U は
R2 の開集合で, u0 を含み, u ∈ U ならば ψ(p(u)) = F−1
(F
(u
0
))=
(u
0
)が成り立つ.
系 4.7 命題 4.6の仮定の下で, p(u0) を含む R3 の開集合 V0, u0 を含み D に含まれる開集合 U と C1 級写像
r : V0 → U で, 任意の u ∈ U に対して r(p(u)) = u を満たすものが存在する.
証明 ψ : V → W を命題 4.6 の条件を満たす C1 級写像とし, U を命題 4.6 の証明におけるものと同じとする.
V0 = v ∈ V |ψ(v) ∈ U × (−r, r) とおけば, ψ の連続性から V0 はR3 の開集合で, V0 の定義から ψ は V0 の各点
を U × (−r, r) の点に写す. また, 命題 4.6の条件 (ii)が満たされることから u ∈ U ならば, ψ(p(u)) ∈ U × (−r, r)
となるため, p(u) ∈ V0 である. 従って, とくに p(u0) ∈ V0 である. 写像 ρ : U × (−r, r) → U を ρ
(v
w
)= v で定
め, 写像 r : V0 → U を r(v) = ρ(ψ(v)) で定義すれば r は C1 級写像であり, 命題 4.6の条件 (ii)によって任意の
u ∈ U に対して r(p(u)) = ρ(ψ(p(u)) = ρ
(u
0
)= u が成り立つ.
命題 4.8 座標変換 φij : Dij → Dji は C1 級写像である.
証明 u0 ∈ Dij に対し, v0 = φij(u0) とおけば pi(u0) = pj(v0) である. 系 4.7から, pj(v0) を含む R3 の開集合
V0 ⊂ Vi ∩ Vj , v0 を含み Dji に含まれる R3 の開集合 U と C1 級写像 r : V0 → U で, 任意の u ∈ U に対して
r(pj(u)) = u を満たすものが存在する. U0 = u ∈ Dij |pi(u) ∈ V0 とおけば u0 ∈ U0 であり, pi の連続性から
U0 は R3 の開集合である. 任意の u ∈ U0 に対し, r(pi(u)) = r(pj(φij(u))) = φij(u) が成り立ち pi と r は C1
級写像だから, φij を u0 ∈ Dij を含む開集合に定義域を制限したものも C1級写像である. u0 は Dij の任意の点だ
から, φij : Dij → Dji は C1 級写像である.
15
命題 4.9 曲面 S 上の点 a における接平面が z軸と平行でないとき, R2 のある開集合 D 上の関数 φ が存在して
pφ(u) =
(u
φ(u)
)
によって定義される写像 pφ : D → R3 が S の局所座標で, pφ(u0) = a を満たす u0 ∈ D が存在する.
証明 p : E → R3 を a のまわりの S の局所座標で, v0 ∈ E に対し p(v0) = a とする. E 上の関数 f , g, h を
u ∈ E に対して p(u) =
f(u)g(u)
h(u)
で定め, 写像 F : E → R2 を F (u) =
(f(u)
g(u)
)で定義する. 仮定から a における
S の法線ベクトル pu(v0)× pv(v0) は z軸方向の単位ベクトル e3 とは垂直ではないため,
det F ′(v0) =∂f
∂u(v0)
∂g
∂v(v0)−
∂f
∂v(v0)
∂g
∂u(v0) = (pu(v0)× pv(v0), e3) = 0
が成り立つ. 従って逆写像定理から v0 を含む開集合 U と F (v0) を含む開集合 D で, F は U から D への全単射に
なり, さらにその逆写像 F−1 : D → U が C1 級写像になるものが存在する. そこで u0 = F (v0) とおくと u0 ∈ D
であり, φ : D → R を φ(u) = h(F−1(u)) で定めれば u ∈ D に対し,
p(F−1(u)) =
f(F−1(u))
g(F−1(u))
h(F−1(u))
=
(F (F−1(u))
φ(u)
)=
(u
φ(u)
)
が成り立つため, pφ(u) = p(F−1(u)) によって pφ : D → R3 を定めればよい.
5 第一基本量
p : D → R3 を曲面 S の局所座標とし, D に含まれる平面曲線 C が与えられたとする. C が写像 x : [a, b] → D
によってパラメータ表示されているとき, x と p の合成写像 p x : [a, b] → R3 は S 上の曲線のパラメータ表示を
与える. f, g, h : D → R をそれぞれ p の x成分, y成分, z 成分の関数とし, x, y : [a, b] → R をそれぞれ x の x成
分, y成分の関数とすれば, 合成写像の微分法から次の等式が成り立つ.
(p x)′(t) = p′(x(t))x′(t) =
∂f∂u (x(t))
∂f∂v (x(t))
∂g∂u (x(t))
∂g∂v (x(t))
∂h∂u (x(t))
∂h∂v (x(t))
(x′(t)y′(t)
)=
∂f∂u (x(t))x
′(t) + ∂f∂v (x(t))y
′(t)∂g∂u (x(t))x
′(t) + ∂g∂v (x(t))y
′(t)∂h∂u (x(t))x
′(t) + ∂h∂v (x(t))y
′(t)
= x′(t)pu(x(t)) + y′(t)pv(x(t))
従って E = E(u) = (pu(u),pu(u)), F = F (u) = (pu(u),pv(u)), G = G(u) = (pv(u),pv(u)) とおけば
∥(p x)′(t)∥ =√(x′(t)pu(x(t)) + y′(t)pv(x(t)), x
′(t)pu(u) + y′(t)pv(x(t)))
=√E(x(t))x′(t)2 + 2F (x(t))x′(t)y′(t) +G(x(t))y′(t)2 (5.1)
が成り立つため, 合成写像 p x : [a, b] → R3 によってパラメータ表示される S 上の曲線の長さは∫ b
a
∥(p x)′(t)∥ dt =∫ b
a
√E(x(t))x′(t)2 + 2F (x(t))x′(t)y′(t) +G(x(t))y′(t)2 dt
で与えられる. この値は, C と D 上で定義された関数 E, F , G のみに依存することに注意する.
また, 命題 1.2の (6)から ∥pu(u)× pv(u)∥ =√E(u)G(u)− F (u)2 だから, p の像の面積は∫∫
D
∥pu(u)× pv(u)∥ dudv =
∫∫D
√E(u)G(u)− F (u)2 dudv
と表せるため, この値は関数 E, F , G のみに依存することがわかる.
16
定義 5.1 曲面 S の局所座標 p に対し, E = E(u) = (pu(u),pu(u)), F = F (u) = (pu(u),pv(u)), G = G(u) =
(pv(u),pv(u))によって定義される D 上の関数 E, F , Gを pの第一基本量という. また, 2次正方行列 tp′(u)p′(u) =(E(u) F (u)
F (u) G(u)
)を p の第一基本行列といい, Ip(u) で表す.
注意 5.2 第一基本行列 Ip(u) の行列式 det Ip(u) = E(u)G(u) − F (u)2 は ∥pu(u) × pv(u)∥2 に等しいので, つ
ねに正の実数を値にとる. さらに E(u) = (pu(u),pu(u)) > 0 だから, x = ( xy ) ∈ R2 が零ベクトルでないならば
txIp(u)x = E(u)x2 + 2F (u)xy +G(u)y2 = E(u)
(x+
F (u)
E(u)y
)2+E(u)G(u)− F (u)2
E(u)y2 > 0 である。
p : D → R3 を曲面 S の局所座標とし, D に含まれる平面曲線 C1 と C2 がu0 ∈ D で交わっているとする. C1, C2
がそれぞれ写像 x : [a, b] → D, y : [c, d] → D によってパラメータ表示されていて, x(t1) = y(t2) = u0 (t1 ∈ (a, b),
t2 ∈ (c, d)) であるとし, x, y の第 i成分 (i = 1, 2)をそれぞれ xi : [a, b] → R, yi : [c, d] → R とする. また, p によ
る C1, C2 の像である空間曲線をそれぞれ C1 と C2 とすれば, p(u0) における C1 の接ベクトル p′(u0)x′(t1) と C2
の接ベクトル p′(u0)y′(t2) の内積は次で与えられる.
(p′(u0)x′(t1),p
′(u0)y′(t2)) = (x′1(t1)pu(u0) + x′2(t1)pv(u0), y
′1(t2)pu(u0) + y′2(t2)pv(u0))
= E(u0)x′1(t1)y
′1(t2) + F (u0)(x
′1(t1)y
′2(t2) + x′2(t1)y
′1(t2)) +G(u0)x
′2(t1)y
′2(t2)
= tx′(t1)Ip(u0)y′(t2) = (x′(t1), Ip(u0)y
′(t2)) = (Ip(u0)x′(t1),y
′(t2)) (5.2)
u0 における C1 の接ベクトル x′(t1) と C2 の接ベクトル y′(t2) のなす角と p(u0) における C1 の接ベクトル
p′(u0)x′(t1) と C2 の接ベクトル p′(u0)y
′(t2) のなす角が等しくなるためには, (5.1)と (5.2)から
E(u0)x′1(t1)y
′1(t2) + F (u0)(x
′1(t1)y
′2(t2) + x′2(t1)y
′1(t2)) +G(u0)x
′2(t1)y
′2(t2)√
E(u0)x′1(t1)2 + 2F (u0)x′1(t1)x
′2(t1) +G(u0)x′2(t1)
2√E(u0)y′1(t2)
2 + 2F (u0)y′1(t2)y′2(t2) +G(u0)y′2(t2)
2
とx′1(t1)y
′1(t2) + x′2(t1)y
′2(t2)√
x′1(t1)2 + x′2(t1)
2√y′1(t2)
2 + y′2(t2)2が等しいことが必要十分である.
従って, E(u0) = G(u0) かつ F (u0) = 0 すなわち Ip(u0) が 2次単位行列の実数倍ならば x′(t1) と y′(t2) のな
す角と p′(u0)x′(t1) と p′(u0)y
′(t2) なす角は等しい.
逆に x(t) = u0 + te1, y(t) = u0 + t(cos θe1 + sin θe2) (0 ≦ θ ≦ π) で定義される写像 x : [−r, r] → D,
y : [−r, r] → D によってパラメータ表示される D の線分をそれぞれ C1, C2 として, p による C1, C2 の像で
ある空間曲線をそれぞれ C1 と C2 とするとき, 任意の 0 ≦ θ ≦ π に対して p(u0) における C1 の接ベクトル
p′(u0)x′(0) と C2 の接ベクトル p′(u0)y
′(0) なす角が u0 における C1 の接ベクトル x′(0) = e1 と C2 の接ベクト
ル y′(0) = cos θe1 + sin θe2 のなす角 θ に等しいならば, 次の等式が任意の 0 ≦ θ ≦ π に対して成り立つ.
E(u0) cos θ + F (u0) sin θ√E(u0)
√E(u0) cos2 θ + 2F (u0) cos θ sin θ +G(u0) sin
2 θ= cos θ
とくに θ =π
2の場合に上式が成り立つことから F (u0) = 0 が得られ, さらに θ =
π
4の場合に上式が成り立つこと
から E(u0) = G(u0) が得られる. 以上から次の結果が示された.
命題 5.3 p : D → R3 を曲面 S の局所座標, u0 ∈ D とする. D に含まれ, u0 で交わる任意の平面曲線 C1, C2
に対し, p による C1, C2 の像である空間曲線をそれぞれ C1 と C2 とするとき, u0 における C1 の接ベクトルと
C2 の接ベクトルのなす角と p(u0) における C1 の接ベクトルと C2 の接ベクトルのなす角が等しくなるためには,
Ip(u0) が 2次単位行列の実数倍であることが必要十分である.
p : D → R3 を曲面 S の局所座標, u0 ∈ D を通る D に含まれる平面曲線 C が与えられたとする. C が写像
x : [a, b] → D によってパラメータ表示されていて, x(t0) = u0 (t0 ∈ (a, b)) であるとし, x の第 1成分, 第 2成分を
17
それぞれ x : [a, b] → R, y : [a, b] → R とする. p による C の像である空間曲線を C すれば, p(u0) における C の
接ベクトル p′(u0)x′(t0) の長さと u0 における C1 の接ベクトル x′(t0) の長さが等しいためには, (5.1)より
E(u0)x′(t0)
2 + 2F (u0)x′(t0)y
′(t0) +G(u0)y′(t0)
2 = x′(t0)2 + y′(t0)
2
が成り立つことが必要十分である.
従って, E(u0) = G(u0) = 1かつ F (u0) = 0すなわち Ip(u0)が 2次単位行列ならば p′(u0)x′(t0)の長さと x′(t0)
の長さは等しい. さらに, すべての u0 ∈ D に対して Ip(u0) が 2次単位行列ならば ∥(p x)′(t)∥ = ∥x′(t)∥ が任意の t ∈ [a, b] に対して成り立つため, 曲線 C の長さは曲線 C の長さに等しい.
逆に x(t) = u0 + t(cos θe1 + sin θe2) (0 ≦ θ ≦ π)で定義される写像 x : [−r, r] → D によってパラメータ表示さ
れるDの線分を C として, p による C の像である空間曲線を C とするとき, 任意の 0 ≦ θ ≦ π に対して p(u0) に
おける C の接ベクトル p′(u0)x′(0) の長さと u0 における C1 の接ベクトル x′(0) = cos θe1 + sin θe2 の長さ 1 に
等しいならば, 次の等式が任意の 0 ≦ θ ≦ π に対して成り立つ.
E(u0) cos2 θ + 2F (u0) cos θ sin θ +G(u0) sin
2 θ = 1
とくに θ = 0,π
2の場合に上式が成り立つことから E(u0) = G(u0) = 1 が得られ, さらに θ =
π
4の場合に上式が成
り立つことから F (u0) = 0 が得られる. また, 任意の 0 ≦ θ ≦ π と t ∈ [−r, r] に対して, 閉区間 [−r, t] に対応する
曲線 C と C の部分の長さが等しいならば∫ t
−r
∥(p x)′(s)∥ds =∫ t
−r
∥x′(s)∥ds が成り立つため, この両辺の t = 0
おける微分係数を考えれば ∥(p x)′(0) = ∥x′(0)∥ 得られる. 以上から次の結果が示された.
命題 5.4 p : D → R3 を曲面 S の局所座標, u0 ∈ D を通る D に含まれる任意の平面曲線 C に対し, p による C
の像である空間曲線を C するとき, p(u0) における C の接ベクトルの長さと u0 における C1 の接ベクトル x′(t0)
の長さが等しいためには, Ip(u0) が 2次単位行列であることが必要十分である. また, D に含まれる任意の平面曲
線 C の長さと p による C の像である空間曲線の長さが等しいためには, すべての u0 ∈ D に対して Ip(u0) が 2
次単位行列であることが必要十分である.
p : D1 → R3, q : D2 → R3 を曲面 S の局所座標とする. R3 の開集合 V1, V2 で p による D1 の像が S ∩ V1, qによるD2 の像が S ∩ V2 となるものが存在するが, S ∩ V1 ∩ V2 が空集合ではないとき, Di (i = 1, 2) の部分集合 Di
を D1 = u ∈ D1|p(u) ∈ V2, D2 = u ∈ D2| q(u) ∈ V1 で定めて, p から q への座標変換 φ : D1 → D2 を考え
る. φ が関数 ξ, ζ : D1 → R を用いて
φ(u) =
(ξ(u)
ζ(u)
)と表されているとき, u ∈ D1 に対し, 2次正方行列 φ′(u) を
φ′(u) =
(∂ξ∂u (u)
∂ξ∂v (u)
∂ζ∂u (u)
∂ζ∂v (u)
)で定める. 座標変換の定義から, p の定義域を D1 に縮小した写像は φ と q の合成写像 q φ : D1 → R3 に一致す
るため, u ∈ D1 に対し, 合成写像の微分法から p′(u) = (q φ)′(u) = q′(φ(u))φ′(u) が成り立つ. このことと, 行列
A, B に対して t(AB) = tBtA が成り立つことを用いれば, p の第一基本行列は,
Ip(u) =tp′(u)p′(u) = t(q′(φ(u))φ′(u))q′(φ(u))φ′(u) = tφ′(u)tq′(φ(u))q′(φ(u))φ′(u)
と表される. ここで, tq′(φ(u))q′(φ(u)) は q の第一基本行列だから, 上式から, 次の等式が得られる.
Ip(u) =tφ′(u)Iq(φ(u))φ
′(u) (5.3)
この右辺の成分を計算して, 左辺の成分と比較すれば p の第一基本量を q の第一基本量と∂ξ
∂u(u),
∂ξ
∂v(u),
∂ζ
∂u(u),
∂ζ
∂v(u) を用いて表す式が得られる. また, 正方行列 A の行列式 detA に関して, 等式 det tA = detA, detAB =
detAdetB が成り立つことを用いれば, (5.3)から次の等式が成り立つことがわかる.
det Ip(u) = (detφ′(u))2 det Iq(φ(u)) (5.4)
18
6 第二基本量
p : D → R3 を曲面 S の局所座標とする. u ∈ D に対し, p(u) における S の接平面は, pu(u) と pv(u) の両方に
平行な平面であり, pu(u)× pv(u) は pu(u) と pu(u) の両方に垂直なベクトルだから, pu(u)× pv(u) は p(u) にお
ける S の接平面に垂直なベクトルである. pu(u)× pv(u) の 0でない実数倍であるベクトルを p(u) における S の
法線ベクトルといい,pu(u)× pv(u)
∥pu(u)× pv(u)∥を p(u) における S の単位法線ベクトルという.
u をpu(u)× pv(u)
∥pu(u)× pv(u)∥に対応させる写像を νp : D → R3 として, この写像の x成分, y成分, z 成分の関数をそ
れぞれ λ, µ, ν とする.
u が D の中を動いたとき, p(u) における S の単位法線ベクトルの変化の具合が S の曲がり方を表していると考
えられ, 写像 νp を「微分」して得られる 2つのベクトル
νpu(u) =
∂λ∂u (u)∂µ∂u (u)∂ν∂u (u)
, νpv(u) =
∂λ∂v (u)∂µ∂v (u)∂ν∂v (u)
は p(u) における S の単位法線ベクトルの動きを表しているベクトルであると考えられる. そこで, これらのベクト
ルと S の p(u) における接平面の座標軸方向のベクトル pu(u), pv(u) との内積をとることによって, 接平面に対す
る S の単位法線ベクトルの動きを「数値化」する.
u ∈ D に対して (pu(u),νp(u)) = (pv(u),νp(u)) = 0 だから, この各辺を u, v で偏微分すれば関係式
(puu(u),νp(u)) + (pu(u),νpu(u)) = (puv(u),νp(u)) + (pu(u),νpv(u)) = 0
(pvu(u),νp(u)) + (pv(u),νpu(u)) = (pvv(u),νp(u)) + (pv(u),νpv(u)) = 0
が得られる. puv(u) = pvu(u) であることに注意すれば, 上式から次の関係式が得られる.
(puu(u),νp(u)) = −(pu(u),νpu(u)) (6.1)
(puv(u),νp(u)) = −(pu(u),νpv(u)) = −(pv(u),νpu(u)) (6.2)
(pvv(u),νp(u)) = −(pv(u),νpv(u)) (6.3)
u ∈ D に対して νpu(u), νpv(u) をそれぞれ第 1列, 第 2列とする 3× 2行列を ν′p(u) で表す.
定義 6.1 曲面 S の局所座標 p に対し, L = L(u) = −(pu(u),νpu(u)), M = M(u) = −(pu(u),νpv(u)) =
−(pv(u),νpu(u)), N = N(u) = −(pv(u),νpv(u)) によって定義される D 上の関数 L, M , N を p の第二基本量
という. また, 2次正方行列 −tp′(u)ν′p(u) =
(L(u) M(u)
M(u) N(u)
)を p の第二基本行列といい, IIp(u) で表す.
p : D1 → R3, q : D2 → R3 を曲面 S の局所座標として, 前節の後半で考えた p から q への座標変換 φ を考え
る. p′(u) = q′(φ(u))φ′(u) だから, この両辺の列ベクトルを比較すれば, 次の等式が得られる.
pu(u) =∂ξ
∂u(u)qu(φ(u)) +
∂ζ
∂u(u)qv(φ(u)), pv(u) =
∂ξ
∂v(u)qu(φ(u)) +
∂ζ
∂v(u)qv(φ(u))
従って, 命題 1.2の (1), (2), (3)を用いれば
pu(u)× pv(u) =
(∂ξ
∂u(u)qu(φ(u)) +
∂ζ
∂u(u)qv(φ(u))
)×(∂ξ
∂v(u)qu(φ(u)) +
∂ζ
∂v(u)qv(φ(u))
)=∂ξ
∂u(u)qu(φ(u))×
∂ζ
∂v(u)qv(φ(u)) +
∂ζ
∂u(u)qv(φ(u))×
∂ξ
∂v(u)qu(φ(u))
=
(∂ξ
∂u(u)
∂ζ
∂v(u)− ∂ζ
∂u(u)
∂ξ
∂v(u)
)qu(φ(u))× qv(φ(u)) = detφ′(u)qu(φ(u))× qv(φ(u))
19
が得られる. 注意 5.2と等式 (5.4)から ∥pu(u)× pv(u)∥ = |detφ′(u)|∥qu(φ(u))× qv(φ(u))∥ だから, 上式から
νp(u) =pu(u)× pv(u)
∥pu(u)× pv(u)∥=
detφ′(u)qu(φ(u))× qv(φ(u))
|detφ′(u)|∥qu(φ(u))× qv(φ(u))∥=
detφ′(u)
|detφ′(u)|νq(φ(u))
=
νq(φ(u)) detφ′(u) > 0
−νq(φ(u)) detφ′(u) < 0
を得る. 故に, 合成写像の微分法から
ν′p(u) =
ν′q(φ(u))φ
′(u) detφ′(u) > 0
−ν′q(φ(u))φ
′(u) detφ′(u) < 0
が成り立ち, さらに p′(u) = q′(φ(u))φ′(u) だから tp′(u) = tφ′(u)tq′(φ(u)) であることに注意すれば,
−tp′(u)ν′p(u) =
−tφ′(u)tq′(φ(u))ν′q(φ(u))φ
′(u) detφ′(u) > 0
tφ′(u)tq′(φ(u))ν′q(φ(u))φ
′(u) detφ′(u) < 0
となるため, 次の関係式が示された.
IIp(u) =
tφ′(u)IIq(φ(u))φ′(u) detφ′(u) > 0
−tφ′(u)IIq(φ(u))φ′(u) detφ′(u) < 0
(6.4)
u ∈ Dに対し, pu(u), pv(u), νp(u)は同一平面内にはないため, R3 の任意のベクトルは apu(u)+bpv(u)+cνp(u)
の形に表すことができる. そこで, puu(u), puv(u), pvv(u), νpu(u) νpv(u) を apu(u) + bpv(u) + cνp(u) の形に表
すと, 次の命題のようになる.
命題 6.2 D で定義された関数 Γuuu, Γ
vu u, Γ
uu v, Γ
vu v, Γ
uv v, Γ
vv v が存在して, u ∈ D に対して次の等式が成り立つ.
puu(u) = Γuuu(u)pu(u) + Γ v
u u(u)pv(u) + L(u)νp(u)
puv(u) = Γuu v(u)pu(u) + Γ v
u v(u)pv(u) +M(u)νp(u)
pvv(u) = Γuv v(u)pu(u) + Γ v
v v(u)pv(u) +N(u)νp(u)
νpu(u) =F (u)M(u)−G(u)L(u)
E(u)G(u)− F (u)2pu(u) +
F (u)L(u)− E(u)M(u)
E(u)G(u)− F (u)2pv(u)
νpv(u) =F (u)N(u)−G(u)M(u)
E(u)G(u)− F (u)2pu(u) +
F (u)M(u)− E(u)N(u)
E(u)G(u)− F (u)2pv(u)
証明 νp(u) は pu(u) と pv(u) の両方に垂直な単位ベクトルだから, puu(u) = a1pu(u) + a2pv(u) + a3νp(u),
puv(u) = b1pu(u) + b2pv(u) + b3νp(u), pvv(u) = c1pu(u) + c2pv(u) + c3νp(u) とおけば, (6.1), (6.2), (6.3)から
a3 = (a1pu(u) + a2pv(u) + a3νp(u),νp(u)) = (puu(u),νp(u)) = −(pu(u),νpu(u)) = L(u)
b3 = (b1pu(u) + b2pv(u) + b3νp(u),νp(u)) = (puv(u),νp(u)) = −(pu(u),νpv(u)) =M(u)
c3 = (c1pu(u) + c2pv(u) + c3νp(u),νp(u)) = (pvv(u),νp(u)) = −(pv(u),νpv(u)) = N(u)
が得られる. また, 第一基本量の定義式 E(u) = (pu(u),pu(u)), F (u) = (pu(u),pv(u)), G(u) = (pv(u),pv(u)) の
両辺を u, v で偏微分すれば, 命題 1.9の (3)から
Eu(u) = 2(puu(u),pu(u)) Fu(u) = (puu(u),pv(u)) + (puv(u),pu(u)) Gu(u) = 2(puv(u),pv(u))
Ev(u) = 2(puv(u),pu(u)) Fv(u) = (puv(u),pv(u)) + (pvv(u),pu(u)) Gv(u) = 2(pvv(u),pv(u))
が得られるため,
(puu(u),pu(u)) =1
2Eu(u) (puv(u),pu(u)) =
1
2Ev(u) (puu(u),pv(u)) = Fu(u)−
1
2Ev(u)
(puv(u),pv(u)) =1
2Gu(u) (pvv(u),pv(u)) =
1
2Gv(u) (pvv(u),pu(u)) = Fv(u)−
1
2Gu(u)
20
が成り立つ. 従って
1
2Eu(u) = (puu(u),pu(u)) = (a1pu(u) + a2pv(u) + a3νp(u),pu(u)) = a1E(u) + a2F (u) (6.5)
Fu(u)−1
2Ev(u) = (puu(u),pv(u)) = (a1pu(u) + a2pv(u) + a3νp(u),pv(u)) = a1F (u) + a2G(u) (6.6)
1
2Ev(u) = (puv(u),pu(u)) = (b1pu(u) + b2pv(u) + b3νp(u),pu(u)) = b1E(u) + b2F (u) (6.7)
1
2Gu(u) = (puv(u),pv(u)) = (b1pu(u) + b2pv(u) + b3νp(u),pv(u)) = b1F (u) + b2G(u) (6.8)
Fv(u)−1
2Gu(u) = (pvv(u),pu(u)) = (c1pu(u) + c2pv(u) + c3νp(u),pu(u)) = c1E(u) + c2F (u) (6.9)
1
2Gv(u) = (pvv(u),pv(u)) = (c1pu(u) + c2pv(u) + c3νp(u),pv(u)) = c1F (u) + c2G(u) (6.10)
が成り立つ. (6.5) と (6.6) を a1, a2 に関する連立 1 次方程式, (6.7) と (6.8) を b1, b2 に関する連立 1 次方程式,
(6.9)と (6.10)を c1, c2 に関する連立 1次方程式とみなし, それぞれの解を求めて, a1 = Γuuu(u), a2 = Γ v
u u(u),
b1 = Γuu v(u), b2 = Γ v
u v(u), c1 = Γuv v(u), c2 = Γ v
v v(u) を次の式で定義すればよい.
Γuuu(u) =
Eu(u)G(u)− 2Fu(u)F (u) + Ev(u)F (u)
2(E(u)G(u)− F (u)2)Γ vu u(u) =
2Fu(u)E(u)− Ev(u)E(u)− Eu(u)F (u)
2(E(u)G(u)− F (u)2)
Γuu v(u) =
Ev(u)G(u)−Gu(u)F (u)
2(E(u)G(u)− F (u)2)Γ vu v(u) =
Gu(u)E(u)− Ev(u)F (u)
2(E(u)G(u)− F (u)2)
Γuv v(u) =
2Fv(u)G(u)−Gu(u)G(u)−Gv(u)F (u)
2(E(u)G(u)− F (u)2)Γ vv v(u) =
Gv(u)E(u)− 2Fv(u)F (u) +Gu(u)F (u)
2(E(u)G(u)− F (u)2)
νpu(u) = u1pu(u) + u2pv(u) + u3νp(u), νpu(u) = v1pu(u) + v2pv(u) + v3νp(u) とおく. νp(u) は pu(u) と
pv(u) の両方に垂直な単位ベクトルだから,
u3 = (u1pu(u) + u2pv(u) + u3νp(u),νp(u)) = (νpu(u),νp(u))
v3 = (v1pu(u) + v2pv(u) + v3νp(u),νp(u)) = (νpv(u),νp(u))
が成り立つ. 一方, (νp(u),νp(u)) = 1 の両辺を u, v で偏微分すれば, 命題 1.9の (3)から 2(νpu(u),νp(u)) =
2(νpv(u),νp(u)) = 0 が得られるため, 上式から u3 = v3 = 0 である. 従って, νpu(u) = u1pu(u) + u2pv(u),
νpu(u) = v1pu(u) + v2pv(u) だから, νpu(u), νpv(u) と pu(u), pv(u) との内積を考えれば, 第一基本量と第二基
本量の定義から u1, u2 に関する連立 1次方程式と v1, v2 に関する連立 1次方程式が得られる.E(u)u1 + F (u)u2 = −L(u)
F (u)u1 +G(u)u2 = −M(u)
E(u)v1 + F (u)v2 = −M(u)
F (u)v1 +G(u)v2 = −N(u)
これらの方程式を解くことにより, u1, u2, v1, v2 は u1 =F (u)M(u)−G(u)L(u)
E(u)G(u)− F (u)2, u2 =
F (u)L(u)− E(u)M(u)
E(u)G(u)− F (u)2,
v1 =F (u)N(u)−G(u)M(u)
E(u)G(u)− F (u)2, v2 =
F (u)M(u)− E(u)N(u)
E(u)G(u)− F (u)2で与えられることがわかる.
注意 6.3 A を行列式の値が 1 である 3 次直交行列, c ∈ R3 とし, T : R3 → R3 を T (x) = Ax + c で定め
る. S を曲面とし, T による S の像を S′ とする. p : D → R3 を S の局所座標とすれば, T p : D → R3
は S′ の局所座標である. u ∈ D に対し, (T p)′(u) = T ′(p(u))p′(u) = Ap′(u) だから (T p)u(u) = Apu(u),
(T p)v(u) = Apv(u)である. また tAAは 3次単位行列だから A = A−1 = tAが成り立つので, 命題 1.2の (7)によっ
て (T p)u(u)× (T p)v(u) = Apu(u)×Apv(u) = A(pu(u)×pv(u)) が成り立つ. さらに ∥A(pu(u)×pv(u))∥ =
∥pu(u)× pv(u)∥ だから νTp(u) = Aνp(u) である. 従って次の等式が得られる.
ITp(u) =t(T p)′(u)(T p)′(u) = t(Ap′(u))Ap′(u) = tp′(u)tAAp′(u) = tp′(u)p′(u) = Ip(u)
IITp(u) = −t(T p)′(u)ν′Tp(u) = −t(Ap′(u))Aν′
p(u) = −tp′(u)tAAν′p(u) = −tp′(u)tν′
p(u) = IIp(u)
21
7 曲面上の曲線
S を曲面とし, S 上の曲線 C が与えられており, C は S の局所座標 p : D → R3 による, 写像 x : [a, b] → D で
パラメータ表示される曲線の像であるとする. このとき, x と p の合成写像 p x : [a, b] → R3 が C のパラメータ
表示を与える.
x, y : [a, b] → R をそれぞれ x の x成分, y成分の関数として γ = p x とおけば, 合成写像の微分法から
γ′(t) = p′(x(t))x′(t) = x′(t)pu(x(t)) + y′(t)pv(x(t)) · · · (∗)
が得られる. この等式から, 各 t ∈ [a, b] に対して C の γ(t) における接ベクトルは S の接平面に含まれることがわ
かる.
さらに, (∗)の両辺を t で微分し, 合成写像の微分法と命題 6.2の等式を用いれば
γ′′(t) = x′′(t)pu(x(t)) + x′(t)p′u(x(t))x
′(t) + y′′(t)pv(x(t)) + y′(t)p′v(x(t))x
′(t)
= x′′(t)pu(x(t)) + y′′(t)pv(x(t)) + x′(t)2puu(x(t)) + 2x′(t)y′(t)puv(x(t)) + y′(t)2pvv(x(t))
=(x′′(t) + x′(t)2Γu
uu(x(t)) + 2x′(t)y′(t)Γuu v(x(t)) + y′(t)2Γu
v v(x(t)))pu(x(t))
+(y′′(t) + x′(t)2Γ v
u u(x(t)) + 2x′(t)y′(t)Γ vu v(x(t)) + y′(t)2Γ v
v v(x(t)))pv(x(t))
+(x′(t)2L(x(t)) + 2x′(t)y′(t)M(x(t)) + y′(t)2N(x(t))
)νp(x(t))
となる. そこで,
κg(t) =(x′′(t) + x′(t)2Γu
uu(x(t)) + 2x′(t)y′(t)Γuu v(x(t)) + y′(t)2Γu
v v(x(t)))pu(x(t))
+(y′′(t) + x′(t)2Γ v
u u(x(t)) + 2x′(t)y′(t)Γ vu v(x(t)) + y′(t)2Γ v
v v(x(t)))pv(x(t))
κn(t) =(x′(t)2L(x(t)) + 2x′(t)y′(t)M(x(t)) + y′(t)2N(x(t))
)νp(x(t))
とおけば, κg(t) は γ(t) における S の接平面上のベクトル, κn(t) は γ(t) における S の法線方向のベクトルであ
り, C の γ(t) における加速度ベクトル γ′′(t) は
γ′′(t) = κg(t) + κn(t)
と表される. ここで, κg(t) は γ(t) における S の接平面上での曲がり具合を表すベクトルであり, κn(t) は γ(t) に
おける C の法線方向の曲がり具合を表すベクトルであると解釈できる. そこで, 次のように定義する.
定義 7.1 (1) p x : [a, b] → R3 が C の弧長パラメータ表示であるとき, κg(t) を曲線 C の測地的曲率ベクトル,
κn(t) を曲線 C の法曲率ベクトルという. また,
κn(t) = (γ′′(t),νp(x(t))) = x′(t)2L(x(t)) + 2x′(t)y′(t)M(x(t)) + y′(t)2N(x(t)) = tx′(t)IIp(x(t))x′(t)
とおけば κn(t) = κn(t)νp(x(t)) であるが, κn(t) を C の γ(t) における法曲率という.
(2) κg(t) が常に零ベクトルである, 言い換えれば C の加速度ベクトルが S の法線方向の成分しかないような S
上の曲線を測地線という.
注意 7.2 (1) C の γ(t) における法曲率は, p の第二基本行列を用いれば κn(t) =tx′(t)IIp(x(t))x
′(t) と表され, 写
像 x : [a, b] → D でパラメータ表示される D に含まれる曲線の x(t) における接ベクトル x′(t) にのみ依存する.
(2) κg(t) の定義式から C が測地線であるためには, x の成分の関数 x, y : [a, b] → R が次の 2階連立微分方程式
の解であることが必要十分である.x′′(t) + x′(t)2Γuuu(x(t)) + 2x′(t)y′(t)Γu
u v(x(t)) + y′(t)2Γuv v(x(t)) = 0
y′′(t) + x′(t)2Γ vu u(x(t)) + 2x′(t)y′(t)Γ v
u v(x(t)) + y′(t)2Γ vv v(x(t)) = 0
(7.1)
22
命題 7.3 曲面 S 上の点 a のまわりの局所座標を p : D → R3 とし, a は p による u0 ∈ D の像であるとする. 写
像 x : [a, b] → D は x(t0) = u0 (t0 ∈ (a, b)) を満たし, x′(t0) = ( pq ) ならば p x : [a, b] → R3 によってパラメータ
表示される S 上の曲線を C とすれば, C の (p x)(t0) = a における法曲率はp2L(u0) + 2pqM(u0) + q2N(u0)
p2E(u0) + 2pqF (u0) + q2G(u0)で与えられる.
証明 単調増加関数 λ : [c, d] → [a, b] で, p x λ : [c, d] → R3 が C の弧長パラメータ表示になるものを考える.
λ(s0) = t0 (s0 ∈ (c, d)) とすれば, (x λ)′(s0) = λ′(s0)x′(t0) = λ′(s0) (
pq ) より, C の点 a における法曲率 κn は
κn = λ′(s0)2(p2L(u0) + 2pqM(u0) + q2N(u0)
)· · · (∗)
である. 一方,
∥(p x λ)′(s0)∥2 = ∥λ′(s0)p′(u0)x′(t0)∥2 = λ′(s0)
2∥ppu(u0) + q pv(u0)∥2
= λ′(s0)2(p2E(u0) + 2pqF (u0) + q2G(u0))
であり, p x λ : [c, d] → R3 が C の弧長パラメータ表示であることから, ∥(p x λ)′(s0)∥2 = 1 である. 従って
λ′(s0)2 =
1
p2E(u0) + 2pqF (u0) + q2G(u0)だから (∗) より κn =
p2L(u0) + 2pqM(u0) + q2N(u0)
p2E(u0) + 2pqF (u0) + q2G(u0)である.
注意 7.4 0 ≦ θ < 2π に対して cos θ =p√
p2 + q2, sin θ =
q√p2 + q2
ならば, 上の命題の曲線 C の a における法曲
率はcos θ2L(u0) + 2 cos θ sin θM(u0) + sin θ2N(u0)
cos θ2E(u0) + 2 cos θ sin θF (u0) + sin θ2G(u0)である. 従って, C の法曲率は, x′(t0) の傾きのみで定まる.
定義 7.5 曲面 S 上の点 a と a における S の法線ベクトルを含む平面と S の共通部分である平面曲線を S の直
截口という.
aの近くで S の直截口のパラメータ表示は以下のようにして得られる. aのまわりの S の局所座標を p : D → R3
とし, a = p(u0) を満たす u0 ∈ D をとる. F : D × R → R3 を F (u, t) = p(u) + tνp(u) によって F を定
めると, F ′(u, t) は pu(u) + tνpu(u), pv(u) + tνpv(u), νp(u) をそれぞれ第 1 列, 第 2 列, 第 3 列とする 3 次正
方行列である. 従って F ′(u0, 0) は正則行列だから, 逆写像定理によって, u0 を含み, D に含まれる R2 の開集
合 U と r > 0 で, F が R3 の開集合 U × (−r, r) から a を含む R3 のある開集合 V への全単射を与え, その逆
写像 F−1 : V → U × (−r, r) も微分可能になるようなものが存在する. そこで, F−1(v) = (f(v), φ(v)) によって
f : V → U と φ : V → (−r, r) を定めると v ∈ V に対して p(f(v))+φ(v)νp(f(v)) = v が成り立つため, v ∈ V ∩Sであることは, φ(v) = 0 と同値である. このとき, (F−1)′(a) =
(f ′(a)
φ′(a)
)は F ′(u0, 0) =
(pu(u0) pv(u0) νp(u0)
)の逆行列だから φ′(a)pu(u0) = φ′(a)pv(u0) = 0, φ′(a)νp(u0) = 1 が成り立つ.
aにおける S の接ベクトル e0 に対し, e0 と aにおける S の法線ベクトル νp(u0)を含む平面を H とすれば, H は
a+se0+tνp(u0) (s, t ∈ R)によってパラメータ表示される. ρ > 0を条件「s2+t2 < ρ2ならば a+se0+tνp(u0) ∈ V」
を満たすように選び, E = u ∈ R2 | ∥u∥ < ρ とおいて, g : E → R を g( st ) = φ(a + se0 + tνp(u0)) に
よって定義すれば∂g
∂t( 00 ) = φ′(a)νp(u0) = 1 だから, 陰関数定理によって ε > 0 と関数 ψ : (−ε, ε) → R で,
ψ(0) = 0 かつ s ∈ (−ε, ε) に対して s2 + ψ(s)2 < ρ2 と φ(a + se0 + ψ(s)νp(u0)) = 0 を満たすものが存在する.
e0 = αpu(u0) + βpv(u0) と表せるため,∂g
∂s( 00 ) = φ′(a)e0 = αφ′(a)pu(u0) + βφ′(a)pv(u0) = 0 である. 従って
ψ′(0) = −∂g∂s (
00 )
∂g∂t (
00 )
= 0 が成り立つ.
そこで, ω(s) = a+ se0 + ψ(s)νp(u0) で定義される写像 ω : (−ε, ε) → R3 でパラメータ表示される曲線を Ca,e0
とすれば, Ca,e0は H に含まれる曲線で, ω(0) = a だから Ca,e0
は a を通り, さらに各 s ∈ (−ε, ε) に対してφ(ω(s)) = 0 かつ ω(s) ∈ V だから Ca,e0
は S にも含まれる. 故に Ca,e0は a の近くでの平面 H による S の直截
口であり, ω′(0) = e0 だから, Ca,e0の a における接ベクトルは e0 である.
23
次に, Ca,e0の a における法曲率について考える. 写像 x : (−ε, ε) → U を x(t) = f(ω(t)) で定めれば,
ω(t) = F (F−1(ω(t)) = F (f(ω(s)), φ(ω(s))) = F (x(t), 0) = p(x(t))
であり, v = F (u, t) (u ∈ U , t ∈ (−r, r)) のとき, (F−1)′(v)F (u, t) = E3 だから, f ′(v)p′(u) = E2, f′(v)νp(u) = 0
が成り立つため, e0 = αpu(u0) + βpv(u0) とおけば, 次の等式が成り立つ.
x′(0) = f ′(ω(0))ω′(0) = f ′(a)(e0 + ψ′(0)νp(u0)) = f ′(a)(αpu(u0) + βpv(u0) + ψ′(0)νp(u0)) = αe1 + βe2
従って Ca,e0の a における法曲率 κn(0) は命題 7.3 から, κn(0) =
α2L(u0) + 2αβM(u0) + β2N(u0)
α2E(u0) + 2αβF (u0) + β2G(u0)によって与
えられる. このことと, 注意 7.4から, 次の主張が成り立つ.
命題 7.6 曲面 S 上の点 a を通る曲線 C に対し, a を通り, a における C の接ベクトルと, a における S の法線
ベクトルを含む平面による S の直截口を C とするとき, C と C の a における法曲率は一致する.
次に測地線について考える.
命題 7.7 γ = p x : [a, b] → R3 が S の測地線のパラメータ表示ならば任意の t ∈ [a, b] に対して ∥γ′(t)∥ は一定の値である. 従って ∥γ′(t0)∥ = 1 を満たす t0 ∈ [a, b] が存在すれば γ は測地線の弧長パラメータ表示である.
証明 γ′′(t) = κn(t) は γ(t) における S の法線に平行なベクトルで, γ′(t) は γ(t) における S の接平面上のベクト
ルだから, これらは直交する. 従ってd
dt(γ′(t),γ′(t)) = 2(γ′′(t),γ′(t)) = 0 だから t を ∥γ′(t)∥2 = (γ′(t),γ′(t)) に
対応させる関数は定数値関数である.
正の実数 δ に対して関数 ρδ : R → R を次のように定義する.
ρδ(x) =
e1
x2−δ2 |x| < δ
0 |x| ≧ δ
補題 7.8 ρδ は何回でも微分可能である.
証明 n ≧ 1 のとき, x の 3n− 2次多項式 fn(x) で, |x| < δ ならば ρ(n)δ (x) =
fn(x)
(x2 − δ2)2ne
1x2−δ2 を満たすものが存
在する. 実際 f1(x) = −2x であり, ρ(n)δ (x) =
fn(x)
(x2 − δ2)2ne
1x2−δ2 が成り立つと仮定して, この導関数を考えれば,
ρ(n+1)δ (x) =
(f ′n(x)
(x2 − δ2)2n− 4nxfn(x)
(x2 − δ2)2n+1− 2xfn(x)
(x2 − δ2)2n+2
)e
1x2−δ2
=(x2 − δ2)2f ′n(x)− 2x(2nx2 − 2nδ2 + 1)fn(x)
(x2 − δ2)2(n+1)e
1x2−δ2
だから fn+1(x) = (x2 − δ2)2f ′n(x)− 2x(2nx2 − 2nδ2 + 1)fn(x) が得られる. 従って, fn(x) が x の 3n− 2次の係数
が cn である 3n− 2次多項式ならば fn+1(x) は x の 3n+ 1次の係数が −(n+ 2)cn である 3n+ 1次多項式である.
R − −δ, δ の各点で ρδ は何回でも微分可能である. ρ(n)δ (−δ) = ρ
(n)δ (δ) = 0 であることを nによる帰納法で示
す. n = 0 の場合は ρδ の定義から明らかである. ρ(n)δ (−δ) = ρ
(n)δ (δ) = 0 が成り立つと仮定する. |x| > δ ならば
ρ(n)δ (x) = 0 だから
limx→−δ−0
ρ(n)δ (x)− ρ
(n)δ (−δ)
x− (−δ)= lim
x→δ+0
ρ(n)δ (x)− ρ
(n)δ (δ)
x− δ= 0
が成り立つ. 一方, 0 < y < 2δ ならば 0 <1
2δy<
1
y(2δ − y)だから, 指数関数のマクローリン展開を考えると
0 <1
(2n+ 2)!(2δy)2n+2< e
12δy < e
1y(2δ−y) が得られる. 従って, 0 < e−
1y(2δ−y) < (2n + 2)!(2δy)2n+2 だから,
24
0 <e−
1y(2δ−y)
y2n+1(2δ − y)2n<
(2n+ 2)!(2δ)2n+2y
(2δ − y)2nが成り立つ. 故に lim
y→+0
e−1
y(2δ−y)
y2n+1(2δ − y)2n= 0 であり, fn(x) は x の多
項式で, 連続関数であるため, 極限 limy→+0
fn(y − δ) と limy→+0
fn(δ − y) が存在することから
limx→−δ+0
ρ(n)δ (x)− ρ
(n)δ (−δ)
x− (−δ)= lim
x→−δ+0
fn(x)
(x+ δ)2n+1(x− δ)2ne
1x2−δ2 = lim
y→+0
fn(y − δ)
y2n+1(2δ − y)2ne−
1y(2δ−y) = 0
limx→δ−0
ρ(n)δ (x)− ρ
(n)δ (δ)
x− δ= lim
x→δ−0
fn(x)
(x− δ)2n+1(x+ δ)2ne
1x2−δ2 = lim
y→+0
−fn(δ − y)
y2n+1(2δ − y)2ne−
1y(2δ−y) = 0
が得られ, ρ(n+1)δ (−δ) = ρ
(n+1)δ (δ) = 0 が成り立つことがわかる.
曲面 S の相異なる 2点 c0, c1 に対し, 集合 C(c0, c1) を,
C(c0, c1) = ω : [0, l] → R3 | l > 0, ω(0) = c0, ω(l) = c1, s ∈ [0, l]ならばω(s) ∈ S, ωは微分可能
で定める. L : C(c0, c1) → R を L(ω) =
∫ l
0
∥ω′(s)∥ ds で定義する.
定理 7.9 L が ω0 ∈ C(c0, c1) において最小値をとれば, ω0 は S の測地線である.
証明 ω0 は弧長パラメータ表示されていると仮定してよい. ε > 0 とし, 微分可能な写像 ω : [0, l] × (−ε, ε) → R3
が次の条件を満たすとする.
(i) (s, t) ∈ [0, l]× (−ε, ε) ならば ω(s, t) ∈ S.
(ii) t ∈ (−ε, ε) ならば ω(0, t) = c0, ω(1, t) = c1.
(iii) s ∈ [0, l] ならば ω(s, 0) = ω0(s).
このとき, t ∈ (−ε, ε) に対し, 写像 ωt : [0, l] → R3 を ωt(s) = ω(s, t) で定めれば, ωt ∈ C(c0, c1) である. 従って,
関数 Lω : (−ε, ε) → R を Lω(t) = L(ωt) =
∫ l
0
∥ω′t(s)∥ ds =
∫ l
0
∥∥∥∥∂ω∂s (s, t)∥∥∥∥ ds によって定めれば, 条件 (iii)より,
Lω は 0 で最小値をとるため L′ω(0) = 0 である. 一方, 以下の等式が成り立つ.
L′ω(t) =
d
dt
∫ l
0
∥∥∥∥∂ω∂s (s, t)∥∥∥∥ ds = ∫ l
0
∂
∂t
√(∂ω
∂s(s, t),
∂ω
∂s(s, t)
)ds =
∫ l
0
(∂2ω∂s∂t (s, t),
∂ω∂s (s, t)
)√(
∂ω∂s (s, t),
∂ω∂s (s, t)
) ds条件 (ii)より Vω(s) =
∂ω
∂t(s, 0) とおけば, Vω(0) = Vω(l) = 0 であり, ω0 が弧長パラメータ表示されていることか
ら,
√(∂ω
∂s(s, 0),
∂ω
∂s(s, 0)
)=√(ω′
0(s),ω′0(s)) = ∥ω′
0(s)∥ = 1 であることに注意すれば, 上式から
L′ω(0) =
∫ l
0
(V ′ω(s),ω
′0(s)) ds = [(Vω(s),ω
′0(s))]
l0 −
∫ l
0
(Vω(s),ω′′0(s)) ds = −
∫ l
0
(Vω(s),ω′′0(s)) ds
が得られる. 従って上記の条件 (i), (ii), (iii)を満たす写像 ω に対して次が成り立つ.∫ l
0
(Vω(s),ω′′0(s)) ds = 0 · · · (∗)
ω0 は S 上の曲線だから, 区間 [0, l] の分割 0 = l0 < l1 < · · · < lk = l と S の局所座標 pi : Di → R3 お
よび写像 xi : [li−1, li] → Di (i = 1, 2, . . . , k) で ω0(s) = pi(xi(s)) (s ∈ [li−1, li]) を満たすものがある. ここ
で, 必要ならば pi の変数の順序を入れ替えることによって, i = 1, 2, . . . , k に対し, pi−1 から pi への座標変換
φi−1 i : Di−1 i → Di i−1 は detφ′i−1 i(u) > 0 (u ∈ Di−1 i) を満たすと仮定してよい. このとき, u ∈ Di−1 i に対し,
25
S の点 pi−1(u) = pi(φi−1 i(u)) における単位法線ベクトルについて, 第 6節の結果から νpi−1(u) = νpi
(φi−1 i(u))
が成り立つことに注意する.
s ∈ [li−1, li] に対し, ng(s) = νpi(xi(s))× ω′
0(s) とおけば, ng(s) は ω0(s) における S の接平面上のベクトルだ
からng(s) = αi(s)piu(xi(s))+βi(s)piv(xi(s)) を満たす微分可能な関数 αi, βi : [li−1, li] → R が存在する. 曲線 ω0
は弧長パラメータ表示されているため, ω′′0(s) は ω′
0(s) と垂直であり, ω′0(s) は曲線 ω0 の ω0(s) における単位接ベ
クトルだから νpi(xi(s)),ω
′0(s),ng(s) は R3 の正規直交基底である. 従って, 各 s ∈ (0, l) に対し, s ∈ [li−1, li] と
なる 1 ≦ i ≦ k をとれば (ng(s),ω′′0(s)) = 0 であることが示されれば ω0 の ω0(s) における測地的曲率ベクトルが
零ベクトルとなり, ω0 が測地線であることがわかる.
(ng(c),ω′′0(c)) = 0 を満たす 1 ≦ i ≦ k と c ∈ [li−1, li] (c = 0, l) が存在すると仮定する. このとき, li−1, li を少
し動かすことによって, c ∈ (li−1, li) と仮定してよい. 0 < δ < minc − li−1, li − c かつ s ∈ (c − δ, c + δ) ならば(ng(s),ω
′′0(s))
(ng(c),ω′′0(c))
> 0 が成り立つように δ を選ぶ. また, Di が R2 の開集合で, xi([li−1, li]) が Di に含まれるコンパ
クトな部分集合であることから, ε > 0 で条件「(s, t) ∈ [li−1, li]× (−ε, ε) ならば xi(s) + tρδ(s− c)(
αi(s)βi(s)
)∈ Di」
を満たすものがある. そこで, ω : [0, l]× (−ε, ε) → R3 を以下のように定義する.
ω(s, t) =
pi
(xi(s) + tρδ(s− c)
(αi(s)βi(s)
))(s, t) ∈ [li−1, li]× (−ε, ε)
ω0(s) (s, t) ∈ ([0, c− δ] ∪ [c+ δ, l])× (−ε, ε)
|s− c| ≧ δ ならば ρδ(s− c) = 0 だから, (s, t) ∈ ([li−1, c− δ] ∪ [c+ δ, li])× (−ε, ε) ならば
pi
(xi(s) + tρδ(s− c)
(αi(s)βi(s)
))= pi(xi(s)) = ω0(s)
が成り立つため, 補題 7.8から ω は微分可能である. さらに s ∈ [0, c− δ] ∪ [c+ δ, l] ならば Vω(s) =∂ω
∂t(s, 0) = 0
であり, s ∈ [li−1, li] ならば
Vω(s) =∂ω
∂t(s, 0) = ρδ(s− c)p′
i(xi(s))(
αi(s)βi(s)
)= ρδ(s− c)(αi(s)piu(xi(s)) + βi(s)piv(xi(s))) = ρδ(s− c)ng(s)
が成り立つ. 従って∫ l
0
(Vω(s),ω′′0(s)) ds =
∫ c+δ
c−δ
(ρδ(s− c)ng(s),ω′′0(s)) ds = (ng(c),ω
′′0(c))
∫ c+δ
c−δ
ρδ(s− c)(ng(s),ω
′′0(s))
(ng(c),ω′′0(c))
ds
であり, s ∈ (c− δ, c+ δ) ならば ρδ(s− c)(ng(s),ω
′′0(s))
(ng(c),ω′′0(c))
> 0 だから, 上記の積分は 0でない. ω の定義から ω 条件
(i), (ii), (iii)を満たすため, このことは (∗)と矛盾する. 故に, すべての s ∈ (0, l) に対して (ng(s),ω′′0(s)) = 0 が成
り立つため, ω0 は S の測地線である.
8 曲面の曲率
曲面 S 上の点 a に対し, a を通る S 上の曲線全体の集合を Ca とする. Ca の各要素 C に C の a における法曲
率を対応させる関数を κna とし, κna の最大値と最小値について以下で考察する.
S の局所座標 p : D → R3 で, p による D の像が a を含むようなものを選び, p によって a に写される D の点
u0 とする. Ca の各要素 C に対して写像 xC : [a, b] → D で, 合成写像 p xC : [a, b] → R3 が C の a を通過する部
分の弧長パラメータ表示になるものを考える. xC(t0) = u0 を満たす t0 ∈ (a, b) をとれば, p xC が弧長パラメー
タ表示であることから ∥(p xC)′(t0)∥ = 1 である. xC の x成分, y成分の関数をそれぞれ x, y とすれば, 第 5節の
初めに示したことから,
∥(p xC)′(t0)∥ =
√E(u0)x′(t0)2 + 2F (u0)x′(t0)y′(t0) +G(u0)y′(t0)2
26
だから, p の第一基本行列を用いれば, xC でパラメータ表示される曲線の u0 における接ベクトルは関係式
tx′C(t0)Ip(u0)x
′C(t0) = 1
を満たす. また, 注意 7.2の (1)から,
κna(C) =tx′
C(t0)IIp(u0)x′C(t0)
である. そこで, A = Ip(u0), B = IIp(u0) とおき, 2 次元ベクトル v ∈ R2 を tvBv に対応させる関数を
QB : R2 → R で表す. このとき, 条件 tvAv = 1 の下での QB(v) の最大値と最小値を求めればよい.
a = (pu(u0),pu(u0)), b = (pu(u0),pv(u0)), c = (pv(u0),pv(u0)) とおけば, A =
(a b
b c
)であり, pu(u0),
pv(u0), pu(u0)× pv(u0) はいずれも零ベクトルではないため, a, c > 0 かつ, 命題 1.2の (6)より detA = ac− b2 =
∥pu(u0)× pv(u0)∥2 > 0 であることに注意する. このとき, 次の結果が成り立つ.
命題 8.1 2次対称行列 A =
(a b
b c
)は条件 a > 0, ac − b2 > 0 を満たすとする. 2次対称行列 B に対し, A−1B
は実数の固有値をもち, それらを α, β (α ≦ β) とし, z, w をそれぞれ α, β に対する固有ベクトルとすれば,
QB(x) =txBx で定義される関数 QB : R2 → R は条件 txAx = 1 の下で, ± 1√
tzAzz において最小値 α をとり,
± 1√twAw
w において最大値 β をとる. また, α < β の場合は, (Az,w) = (z, Aw) = 0 が成り立つ.
証明 x =
(x
y
)とおけば txAx = ax2 + 2bxy + cy2 =
(√ax+
b√ay
)2
+
(√ac− b2√a
y
)2
だから txAx = 1 なら
ば
∣∣∣∣√ax+b√ay
∣∣∣∣ ≦ 1 かつ
∣∣∣∣∣√ac− b2√a
y
∣∣∣∣∣ ≦ 1 である. 従って |y| ≦√a√
ac− b2であり, − 1√
a− b
ay ≦ x ≦ 1√
a− b
ay
だから, txAx = 1 を満たす点全体の集合は R2 の有界閉集合である. よって, 最大値・最小値の定理から, 関数
QB : R2 → R は条件 txAx = 1 の下で最大値と最小値をとる.
一方, QA(x) =txAx で定義される関数 QA : R2 → R を考えれば, 関数 QB が条件 QA(x)− 1 = 0 の下で v に
おいて極値をとるとき, ラグランジュの未定乗数法から, 実数 λ で∂QB
∂x(v) = λ
∂QA
∂x(v) かつ
∂QB
∂y(v) = λ
∂QA
∂y(v)
を満たすものが存在する.∂QA
∂x(x) = 2(ax + by),
∂QA
∂y(x) = 2(bx + cy) であり, B =
(l m
m n
)とおけば,
QB(x) = lx2 + 2mxy + ny2 だから∂QB
∂x(x) = 2(lx + my),
∂QB
∂y(x) = 2(mx + ny) であるため, λ と v は
Bv = λAv を満たす. さらに detA = ac− b2 > 0 より A は正則行列だから A−1Bv = λv が得られ, QA(v) = 1 よ
り v は零ベクトルではないため, λ は A−1B の固有値で, v は λ に対する A−1B の固有ベクトルである.
QB(v) =tvBv = tvA(A−1Bv) = tvA(λv) = λQA(v) = λ
だから A−1B の固有値 λ は条件 QA(x) = 1 の下での QB の v における極値である.
関数 QB が条件 QA(x) − 1 = 0 の下で最大値と最小値をとるため, 上の議論から 2次正方行列 A−1B は少なく
とも 1つの実数の固有値をもつが, A−1B の固有方程式は実数係数の 2次方程式だから, A−1B の固有方程式の解は
すべて実数である. QB が条件 txAx = 1 の下で w において最大値 µ をとり, z において最小値 ν をとるならば,
µ と ν は A−1B の固有値であり, w, z はそれぞれ µ, ν に対する A−1B の固有ベクトルである. 従って ν < µ の
場合は, A−1B の固有値は µ と ν のみで, µ に対する A−1B の固有空間と ν に対する A−1B の固有空間はともに
1次元だから α = ν, β = µ となって主張が成り立つ. また, この場合 Bz = αAz, Bw = βAw だから A, B が対称
行列であることに注意すれば次の等式が成り立つ.
α(Az,w) = (αAz,w) = (Bz,w) = (z, Bw) = (z, βAw) = β(Az,w)
27
従って (α− β)(Az,w) = 0 で, α = β だから (Az,w) = 0 が成り立つ.
µ = ν の場合, QB は条件 txAx = 1 の下で一定の値 µ をとるため, 零ベクトルでない任意のベクトル x に対して
QB
(1√
txAxx
)= µが成り立つ. この左辺は
txBxtxAx
に等しいため,任意のベクトル xに対して txBx = µtxAxが成
り立つ. とくに xが
(1
0
),
(0
1
),
(1
1
)の場合にこの等式が成り立つことから l = µa, n = µc, l+2m+n = µ(a+2b+c)
が得られ, B = µA が成り立つ. 故に A−1B =
(µ 0
0 µ
)となるため, A−1B の固有値は µ のみで, 零ベクトルでな
い任意のベクトルが µ に対する固有ベクトルである. 従って, µ = ν の場合も主張が成り立つ.
命題 8.2 Ip(u0)−1IIp(u0) は実数の固有値をもち, それらを α, β (α ≦ β) とすれば, 関数 κna : Ca → R の最小値
は α, 最大値は β である.
証明 Ip(u0), IIp(u0) はともに実対称行列で, E(u0) = (pu(u0),pv(u0)) > 0 であり, 注意 5.2から det Ip(u0) > 0
だから, A = Ip(u0), B = IIp(u0) とすれば, A, B は命題 8.1の条件を満たす. z, w をそれぞれ α, β に対する固有
ベクトルとし, z =1√
tzIp(u0)zz, w =
1√twIp(u0)w
w とおけば, x ∈ R2 を txIIp(u0)x に対応させる関数は条
件 txIp(u0)x = 1 の下で, ±z において最小値 α をとり, ±w において最大値 β をとる.
そこで u0 を通って, 方向ベクトルが z, w である直線を考え, ε > 0 を「|t| ≦ ε ならば u0 + tz ∈ D かつ
u0+ tw ∈ D」となるように選んで, 写像 xα,xβ : [−ε, ε] → D を xα(t) = u0+ tz, xβ(t) = u0+ tw で定める. さら
に p xα σ と p xβ τ が弧長パラメータ表示になるような単調増加関数 σ : [0, δ] → [−ε, ε], τ : [0, η] → [−ε, ε]を選んで xα = xα σ : [0, δ] → D, xβ = xβ τ : [0, η] → D とおけば, x′
α(σ−1(0)) = x′
α(0)σ′(σ−1(0)) =
σ′(σ−1(0))z, x′β(τ
−1(0)) = x′β(0)τ
′(τ−1(0)) = τ ′(τ−1(0))z が成り立つ. 従って x′α(σ
−1(0)), x′β(τ
−1(0)) はそれぞ
れ α, β に対する Ip(u0)−1IIp(u0) の固有ベクトルで, p xα と p xβ がともに弧長パラメータ表示であることか
ら, tx′α(σ
−1(0))Ip(u0)x′α(σ
−1(0)) = tx′β(τ
−1(0))Ip(u0)x′β(τ
−1(0)) = 1 が成り立つ. γα = p xα, γβ = p xβ に
よってパラメータ表示される S 上の曲線をそれぞれ Cα, Cβ とすれば,
κna(Cα) =tx′
α(σ−1(0))IIp(u0)x
′α(σ
−1(0)) = α, κna(Cβ) =tx′
β(τ−1(0))IIp(u0)x
′β(τ
−1(0)) = β
となって, 関数 κna : Ca → R は Cα で最小値 α をとり, Cβ で最大値 β をとる.
注意 8.3 κna が最大値と最小値をとることは, 以下の議論からも分かる.
S1 を R2 の原点を中心とする単位円とすれば, 注意 5.2により, x ∈ S1 に対して txIp(u0)x > 0 だから, S1 上
の関数 γ を γ(x) =txIIp(u0)xtxIp(u0)x
で定めることができる. S1 は R2 の有界閉集合だから, 最大値・最小値の定理に
よって γ は v1 ∈ S1 で最小値 α をとり, v2 ∈ S1 で最大値 β をとるとする. 一方, 任意の C ∈ Ca に対し, 写像
x : [a, b] → D で, 合成写像 p x : [a, b] → R3 が C のパラメータ表示になり, さらに x が D の弧長パラメータ
表示になるものを考えると, 命題 7.3から x(t0) = u0 を満たす t0 ∈ (a, b) に対し, κna(C) = γ(x′(t0)) が成り立
つため, α ≦ κna(C) ≦ β である. 条件「∥v − u0∥ ≦ r ならば v ∈ D」を満たす r > 0 をとり, xi : [−r, r] → D
(i = 1, 2)を xi(t) = u0 + tvi で定めれば x′i(0) = vi で, xi は D に含まれる線分の弧長パラメータ表示であり,
p xi でパラメータ表示される S 上の曲線を Ci とすれば, κna(C1) = γ(v1) = α, κna(C2) = γ(v2) = β が成り立
つので, α は κna の最小値であり, β は κna の最大値である.
以上の議論をふまえて, 曲面の曲率を次のように定義する.
定義 8.4 (1) Ip(u0)−1IIp(u0) の固有値を α, β とするとき, これらを a = p(u0) における S の主曲率といい, こ
れらの主曲率を与える S 上の曲線の a における 0でない接ベクトルを a における S の主方向という.
(2) K = K(u0) = αβ, H = H(u0) =1
2(α + β) とおき, K(u0) を p(u0) における S のガウス曲率, H(u0) を
p(u0) における S の平均曲率という.
28
(3) K(u0) > 0 を満たす S の点 p(u0) を S の楕円点, K(u0) < 0 を満たす S の点 p(u0) を S の双曲点,
K(u0) = 0 を満たす S の点 p(u0) を S の放物点という. また, Ip(u0)−1IIp(u0) の固有方程式が重解をもつとき
p(u0) を S の臍点という.
注意 8.5 (1) λ が Ip(u0)−1IIp(u0) の固有値であるためには, IIp(u0)x = λIp(u0)x を満たす零でないベクトル x
が存在することが必要十分であるが, この等式は (IIp(u0) − λIp(u0))x = 0 と同値だから, λ が Ip(u0)−1IIp(u0)
の固有値であることと IIp(u0)− λIp(u0) が正則でないこと, すなわち IIp(u0)− λIp(u0) の行列式の値が 0 であ
ることと同値である.
det(IIp(u0)− λIp(u0)) =
∣∣∣∣∣L(u0)− λE(u0) M(u0)− λF (u0)
M(u0)− λF (u0) N(u0)− λG(u0)
∣∣∣∣∣= (E(u0)G(u0)− F (u0)
2)λ2 − (E(u0)N(u0) +G(u0)L(u0)− 2F (u0)M(u0))λ+ L(u0)N(u0)−M(u0)2
だから Ip(u0)−1IIp(u0) の固有値は 2次方程式
(E(u0)G(u0)− F (u0)2)x2 − (E(u0)N(u0)− 2F (u0)M(u0) +G(u0)L(u0))x+ L(u0)N(u0)−M(u0)
2 = 0
の解である. 従って解と係数の関係から
K(u0) =L(u0)N(u0)−M(u0)
2
E(u0)G(u0)− F (u0)2=
det IIp(u0)
det Ip(u0)
H(u0) =E(u0)N(u0)− 2F (u0)M(u0) +G(u0)L(u0)
2(E(u0)G(u0)− F (u0)2)=
1
2tr(Ip(u0)
−1IIp(u0))
が得られる. det Ip(u0) = E(u0)G(u0)− F (u0)2 > 0 だから, 上式からK(u0) は det IIp(u0) と同符号であること
がわかる.
(2) p : D → R3, q : E → R3 を曲面 S の局所座標とし, p から q への座標変換を φ とする. (5.3), (6.4)から
Ip(u0)−1IIp(u0) =
(tφ′(u0)Iq(φ(u0))φ
′(u0))−1
tφ′(u0)IIq(φ(u0))φ′(u0) detφ′(u0) > 0
−(tφ′(u0)Iq(φ(u0))φ
′(u0))−1
tφ′(u0)IIq(φ(u0))φ′(u0) detφ′(u0) < 0
=
φ′(u0)−1Iq(φ(u0))
−1IIq(φ(u0))φ′(u0) detφ′(u0) > 0
−φ′(u0)−1Iq(φ(u0))
−1IIq(φ(u0))φ′(u0) detφ′(u0) < 0
である. 従って, detφ′(u0) > 0 ならば Ip(u0)−1IIp(u0) の固有多項式と Iq(φ(u0))
−1IIq(φ(u0)) の固有多項式は
一致し, detφ′(u0) < 0 ならば Ip(u0)−1IIp(u0) の固有多項式と −Iq(φ(u0))
−1IIq(φ(u0)) の固有多項式は一致す
る. ここで, −Iq(φ(u0))−1IIq(φ(u0)) の固有多項式は, Iq(φ(u0))
−1IIq(φ(u0)) の固有多項式の変数 x を −x で置き換えたものだから, α, β を−Iq(φ(u0))
−1IIq(φ(u0)) の固有値とすれば, Iq(φ(u0))−1IIq(φ(u0)) の固有値は−α,
−β である. 以上のことから, ガウス曲率は局所座標の選び方に依存せず, detφ′(u0) > 0 ならば p に関する平均曲
率と q に関する平均曲率は一致し, detφ′(u0) < 0 ならば p に関する平均曲率と q に関する平均曲率は符号が異
なる.
命題 6.2の 4番目と 5番目の等式と注意 8.5の (1)の等式から次の結果が得られる.
命題 8.6 曲面 S の局所座標 p : D → R3 に関して次の等式が成り立つ.
(νpu(u),νpu(u)) =E(u)M(u)2 − 2F (u)L(u)M(u) +G(u)L(u)2
E(u)G(u)− F (u)2
(νpu(u),νpv(u)) =M(u)(E(u)N(u) +G(u)L(u))− F (u)(M(u)2 + L(u)N(u))
E(u)G(u)− F (u)2
(νpv(u),νpv(u)) =E(u)N(u)2 − 2F (u)M(u)N(u) +G(u)M(u)2
E(u)G(u)− F (u)2
tν′p(u)ν
′p(u) = −K(u)Ip(u) + 2H(u)IIp(u)
29
命題 8.7 φ を xy 平面の開集合 D で定義された 2回連続微分可能な実数値関数とする. S を φ のグラフとすれ
ば, p(u) =
(u
φ(u)
)で定義される写像 p : D → R2 は S の局所座標である.
∂φ
∂x= φx,
∂φ
∂y= φy,
∂2φ
∂x2= φxx,
∂2φ
∂x∂y= φxy,
∂2φ
∂y2= φyy とおけば, p に関する S の第一基本行列, 第二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率は次
で与えられる.
Ip(u) =
(φx(u)
2 + 1 φx(u)φy(u)
φx(u)φy(u) φy(u)2 + 1
), IIp(u) =
φxx(u)√φx(u)2+φy(u)2+1
φxy(u)√φx(u)2+φy(u)2+1
φxy(u)√φx(u)2+φy(u)2+1
φyy(u)√φx(u)2+φy(u)2+1
K(u) =
φxx(u)φyy(u)− φxy(u)2
(φx(u)2 + φy(u)2 + 1)2, H(u) =
(φx(u)2 + 1)φyy(u) + (φy(u)
2 + 1)φxx(u)− 2φx(u)φy(u)φxy(u)
2(φx(u)2 + φy(u)2 + 1)32
証明 p の定義から
pu(u) =
1
0
φx(u)
, pv(u) =
0
1
φy(u)
, νp(u) =pu(u)× pv(u)
∥pu(u)× pv(u)∥=
1√φx(u)2 + φy(u)2 + 1
−φx(u)
−φy(u)
1
,
νpu(u) =
φxy(u)φx(u)φy(u)−φxx(u)(φy(u)2+1)
(φx(u)2+φy(u)2+1)32
φxx(u)φx(u)φy(u)−φxy(u)(φx(u)2+1)
(φx(u)2+φy(u)2+1)32
−φxx(u)φx(u)+φxy(u)φy(u)
(φx(u)2+φy(u)2+1)32
, νpv(u) =
φyy(u)φx(u)φy(u)−φxy(u)(φy(u)2+1)
(φx(u)2+φy(u)2+1)32
φxy(u)φx(u)φy(u)−φyy(u)(φx(u)2+1)
(φx(u)2+φy(u)2+1)32
−φxy(u)φx(u)+φyy(u)φy(u)
(φx(u)2+φy(u)2+1)32
だから, 結果が得られる.
補題 8.8 f が R2 の原点を含む開集合で定義された C3 級関数で, limx→0
f(x)
∥x∥2= 0 を満たすとする.
(1) 0 を含む開区間 I で定義され, γ(0) = 0 を満たす C1 級写像 γ : I → R2 に対し limt→0
1
t2f(γ(t)) = 0 である.
(2) 関数 g を g( xy ) =
1x2 f(
axbx+xy ) x = 0
0 x = 0(a, bは定数) によって定義すれば, g は C1 級関数である.
証明 (1) 仮定と limt→0
γ(t) = γ(0) = 0 から, 任意の ε > 0 に対し, 条件「|t| < δ ならば
∥∥∥∥ 1
t2f(γ(t))
∥∥∥∥ ≦ ε
∥∥∥∥1t γ(t)∥∥∥∥2」
を満たす δ > 0 が存在する. limt→0
1
tγ(t) = γ′(0) だから, 任意の ε > 0 に対して lim
t→0
∥∥∥∥ 1
t2f(γ(t))
∥∥∥∥ ≦ ε∥γ′(0)∥2 が成
り立つため, limt→0
1
t2f(γ(t)) = 0 である.
(2) 仮定とテイラーの定理から i + j ≦ 2 ならば∂i+jf
∂xi∂yj(0) = 0 だから, ci =
1
i!(3− i)!
∂3f
∂x3−i∂yi(0) とおき,
関数 ρ を ρ( xy ) = f( xy ) − (c0x3 + c1x
2y + c2xy2 + c3y
3) で定めれば, ρ は C3 級関数であり, limx→0
ρ(x)
∥x∥3= 0 が
成り立つ. また,∂ρ
∂x( xy ) =
∂f
∂x( xy ) − (3c0x
2 + 2c1xy + c2y2),
∂ρ
∂y( xy ) =
∂f
∂y( xy ) − (c1x
2 + 2c2xy + 3c3y2) だから,
∂f
∂x,∂f
∂yに関するテイラーの定理から, lim
x→0
1
∥x∥2∂ρ
∂x(x) = lim
x→0
1
∥x∥2∂ρ
∂y(x) = 0 である. さらに x = 0 ならば
g( xy ) = c0a3x + c1a
2x(b + y) + c2ax(b + y)2 + c3x(b + y)3 +1
x2ρ( ax
bx+xy ) が成り立つため, 次で定義される関数 h
が C1 級関数であることを示せばよい.
h( xy ) =
1x2 ρ(
axbx+xy ) x = 0
0 x = 0
y0 =(
0y0
)が f の定義域に含まれるとする. K =
√a2 +max(b+ y0 + 1)2, (b+ y0 − 1)2とおけば, |y−y0| < 1
ならば a2 + (b+ y)2 < K2 が成り立つことに注意する. limx→0
ρ(x)
∥x∥3= lim
x→0
1
∥x∥2∂ρ
∂x(x) = lim
x→0
1
∥x∥2∂ρ
∂y(x) = 0 だか
30
ら, 任意の ε > 0 に対して δ0 > 0 で, 0 < (ax)2 + (bx+ xy)2 < δ20 ならば |ρ( axbx+xy )| <
ε
K3((ax)2 + (bx+ xy)2)
32 ,∣∣∣∣∂ρ∂x ( ax
bx+xy )
∣∣∣∣ < ε
K2((ax)2 + (bx+ xy)2) および
∣∣∣∣∂ρ∂y ( axbx+xy )
∣∣∣∣ < ε
K2((ax)2 + (bx+ xy)2) を満たすものが存在する.
従って δ = min
δ0K, 1
とおくと, x = 0 かつ x2 + (y − y0)
2 < δ2 ならば 0 < |x| < δ かつ |y − y0| < 1 だから
0 < (ax)2+(bx+xy)2 = x2(a2+(b+ y)2) < K2δ2 ≦ δ20 が成り立つため,
∣∣∣∣ 1x3 ρ( axbx+xy )
∣∣∣∣ < ε
K3(a2+(b+ y)2)
32 < ε,∣∣∣∣ 1x2 ∂ρ∂x ( ax
bx+xy )
∣∣∣∣ < ε
K2(a2 + (b+ y)2) < ε,
∣∣∣∣ 1x2 ∂ρ∂y ( axbx+xy )
∣∣∣∣ < ε
K2(a2 + (b+ y)2) < ε である.
上の結果と h(0y
)= 0 から
∂h
∂x(y0) = lim
x→0
h( xy0 )
x= lim
x→0
1
x3ρ( ax
bx+xy0) = 0,
∂h
∂y(y0) = 0 であり, x = 0 ならば
∂h
∂x( xy ) =
a
x2∂ρ
∂x( axbx+xy ) +
b+ y
x2∂ρ
∂y( axbx+xy )−
2
x3ρ( ax
bx+xy ) ,∂h
∂y( xy ) =
1
x
∂ρ
∂x( axbx+xy )
だから, h は f の定義域の各点で xと yに関して偏微分可能である. また, 上式から∂h
∂xと
∂h
∂yは第 1成分が 0で
ない点で連続である. 任意の ε > 0 に対して 0 < δ ≦ 1 で, x = 0 かつ x2 + (y − y0)2 < δ2 ならば∣∣∣∣ 1x2 ∂ρ∂x ( ax
bx+xy )
∣∣∣∣ < ε
3(|a|+ 1)
∣∣∣∣ 1x2 ∂ρ∂y ( axbx+xy )
∣∣∣∣ < εmin
1
3K, 1
,
∣∣∣∣ 1x3 ρ( axbx+xy )
∣∣∣∣ < ε
6
を満たすものが存在するため, f の定義域に含まれる x = ( xy ) が ∥x− y0∥ < δ を満たすとき, x = 0 ならば∣∣∣∣∂h∂x (x)− ∂h
∂x(y0)
∣∣∣∣ = ∣∣∣∣∂h∂x (x)∣∣∣∣ ≦ ε|a|
3(|a|+ 1)+ε|b+ y|3K
+ε
3< ε,
∣∣∣∣∂h∂y (x)− ∂h
∂y(y0)
∣∣∣∣ = ∣∣∣∣∂h∂y (x)∣∣∣∣ ≦ ε|x|
3K< ε
が成り立ち, x = 0 ならば∂h
∂x(x) =
∂h
∂x(y0) =
∂h
∂y(x) =
∂h
∂y(y0) = 0 だから
∂h
∂xと
∂h
∂yは第 1成分が 0である点で
も連続である.
曲面 S の点 a の近くの様子を調べるために, a を原点に写し S の a における接平面を xy平面に写すような R3
の合同変換 T (行列式の値が 1である直交行列 A と c ∈ R3 に対して T (v) = Av + c で与えられる写像.)を考え
る. T による S の像を S′ とすれば命題 4.9によって R2 の原点を含むある開集合 D 上の関数 φ が存在して
pφ(u) =
(u
φ(u)
)
によって定義される写像 pφ : D → R3 が S′ の局所座標で, pφ(0) = 0を満たすものが存在する. T−1 pφ : D → R3
は S の a のまわりの局所座標であり, 注意 6.3によって, IT−1pφ(0) = Ipφ
(0) と IIT−1pφ(0) = IIpφ
(0) が成り立
つため, S の a におけるガウス曲率と S′ の 0 におけるガウス曲率は一致し, S の a における平均曲率と S′ の 0
における平均曲率は一致する.
命題 8.9 曲面 S 上の点 a におけるガウス曲率を K, a における接平面を H とする.
(1) K > 0 ならば a を含む R3 の開集合 V で S ∩H ∩ V = a を満たすものが存在する.
(2) K < 0 ならば a を含む R3 の開集合 V で S ∩H ∩ V が a で交わる 2つの曲線になるものが存在する.
証明 S を R3 の合同変換で写すことによって, a は原点で, H は xy 平面であると仮定してよい. このとき, R2
の原点を含む開集合で定義された関数 φ で, 命題 4.9 のように定義される写像 pφ : D → R3 が S の局所座標
で, pφ(0) = 0 を満たすものが存在する. ここで, 必要ならば D を小さく取り直すことによって, 実数 c > 0 で,
S ∩ (D × (−c, c)) が pφ による D の像となるものがあるとしてよい. S の原点における接平面が xy平面であるこ
とから, φ(0) = φx(0) = φy(0) = 0 が成り立つ.
(1) 命題 8.7から φxx(0)φyy(0)−φxy(0)2 = K > 0 だから, φxx(0) > 0 ならば φ は原点で極小値 0をとり, r > 0
で条件「0 < ∥x∥ < r ならば φ(x) > 0」を満たすものが存在し, φxx(0) < 0 ならば φ は原点で極大値 0をとり,
31
r > 0 で条件「0 < ∥x∥ < r ならば φ(x) < 0」を満たすものが存在するため, V = x ∈ R2 | ∥x∥ < r × (−c, c) とすれば主張が成り立つ.
(2) φ の原点におけるヘッセ行列を A とすれば, 命題 8.7より |A| = K < 0 だから A は正と負の固有値を持ち,
それぞれ a2, −b2 (a, b > 0)とする. z軸を軸にした回転移動を行うによって A は a2, −b2 を対角成分とする対角行
列であるとしてよい. D 上の関数 f を f(x) = φ(x)− txAx で定めれば, テイラーの定理から limx→0
f(x)
∥x∥2= 0 が成
り立つ. 0 を含む開区間 I で定義された C1 級写像 ω : I → R2 が ω(0) = 0, ω′(0) = 0 を満たし, ω の像が S と
xy平面の共通部分に含まれるとする. 各 t ∈ I に対して f(ω(t)) = −tω(t)Aω(t) だから, 補題 8.8の (1)より次の
等式が得られる.
tω′(0)Aω′(0) = limt→0
tω(t)
tAω(t)
t= − lim
t→0
f(ω(t))
t2= 0
従って ω の第 i成分の関数を ψi (i = 1, 2) とすれば, a2ψ′1(0)
2 − b2ψ′2(0)
2 = 0 が成り立つため, ψ′2(0) = ±a
bψ′1(0)
が得られて ω′(0) は ( ba ) または
(b
−a
)と平行である. b = 0 だから ( b
a ) と(
b−a
)はどちらも y軸と平行ではないた
め, ψ′1(0) = 0 である. 故に ψ1 は 0 を含み, I に含まれるある開区間 I ′ からその像である開区間 J への全単射を定
め, その逆写像 ψ−11 も C1級写像である. そこで, γ(t) = ω(ψ−1
1 (bt)) によって写像 γ を定義すれば, γ の像は S と
xy平面の共通部分に含まれ, γ(t) の第 1成分は bt であり, γ(t) の第 2成分は λ(0) = 0 を満たす 0を含む開区間上
の連続関数 λ を用いて at+ tλ(t) または −at+ tλ(t) の形に表される.
0 を含む開区間上の連続関数 λi (i = 0, 1) が λi(0) = 0 を満たし, γi(t) =(
bt(−1)iat+tλi(t)
)でパラメータ表示され
る xy平面上の曲線が S と xy平面の共通部分に含まれるためには, 次の等式が成り立つことが必要十分である.
f
(bt
(−1)iat+ tλi(t)
)− 2(−1)iab2t2λi(t)− b2t2λi(t)
2 = 0
関数 gi を gi(xy ) =
1x2 f(
bx(−1)iax+xy
)x = 0
0 x = 0によって定義し,さらに関数 Fi をFi(
xy ) = gi(
xy )−2(−1)iab2y−b2y2
(i = 0, 1) で定義すれば, 補題 8.8の (2)によって Fi は C1級関数である. また, Fi(0) = 0 であり, 補題 8.8の証明か
ら∂gi∂y
(0) = 0 だから∂Fi
∂y(0) =
∂gi∂y
(0)− 2(−1)iab2 = −2(−1)iab2 = 0 が成り立つ. 従って陰関数定理により, 0 を
含む開区間 I で定義されたC1級関数 λi で, 各 t ∈ I に対して gi(
tλi(t)
)−2(−1)iab2λi(t)−b2λi(t)2 = Fi
(t
λi(t)
)= 0
かつ λi(0) = 0 を満たすものが存在する. さらに γ′i(0) =
(b
(−1)ia
)だから γ′
0(0) と γ′1(0) は 1次独立である. 故に
γ0, γ1 でパラメータ表示される 2つの xy平面上の曲線は原点で交わる.
注意 8.10 命題 8.7から, 上の (2)の証明の行列 A は S の原点における第二基本行列に一致し, tγ′i(0)Aγ
′i(0) = 0
だから, 命題 7.3から γ0, γ1 でパラメータ表示される曲線の原点における法曲率はともに 0に等しい.
命題 8.11 p : D → R3 を曲面 S の局所座標, I を 0を含む開区間, f を D × I 上の C2 級関数とし, すべての
u ∈ D に対して f(u, 0) = 0 が成り立つとする. t ∈ I に対して写像 pt : D → R3 を pt(u) = p(u) + f(u, t)νp(u)
によって定義し, 面積確定である D の部分集合 A に対して関数 α : I → R を α(t) =
∫∫A
√det(tp′
t(u)p′t(u)) dudv
で定義すれば, α′(0) = −2
∫∫A
∂f
∂t(u, 0)H(u)
√E(u)G(u)− F (u)2 dudv が成り立つ.
証明 (pu(u),νp(u)) = (pv(u),νp(u)) = (νp(u),νpu(u)) = (νp(u),νpv(u)) = 0 より tp′(u)νp(u),tνp(u)p
′(u),tν′
p(u)νp(u),tνp(u)ν
′p(u) はすべて零行列であり, tp′(u)p′(u) = Ip(u),
tp′(u)ν′p(u) =
tν′p(u)p
′(u) = −IIp(u)が成り立つことに注意する. t を定数とみなして u を f(u, t) に対応させる D 上の関数の u における微分を fu(u, t)
で表せば, pt の定義から p′t(u) = p′(u) + νp(u)fu(u, t) + f(u, t)ν′
p(u) だから, 命題 8.6の 4つ目の等式から
tp′t(u)p
′t(u) =
(tp′(u) + tfu(u, t)
tνp(u) + f(u, t)tν′p(u)
)(p′(u) + νp(u)fu(u, t) + f(u, t)ν′
p(u))
= tp′(u)p′(u)+f(u, t)tp′(u)ν′p(u)+
tfu(u, t)fu(u, t)+f(u, t)tν′
p(u)p′(u)+f(u, t)2 tν′
p(u)ν′p(u)
= (1− f(u, t)2K(u))Ip(u)− 2f(u, t)(1− f(u, t)H(u))IIp(u) +tfu(u, t)fu(u, t)
32
が得られる. 従って tp′t(u)p
′t(u) の第 1列, 第 2列はそれぞれ(
(1− f(u, t)2K(u))E(u)−2f(u, t)(1− f(u, t)H(u))L(u)+ ∂f∂u (u, t)
2
(1− f(u, t)2K(u))F (u)−2f(u, t)(1− f(u, t)H(u))M(u)+ ∂f∂u (u, t)
∂f∂v (u, t)
)((1− f(u, t)2K(u))F (u)−2f(u, t)(1− f(u, t)H(u))M(u)+ ∂f
∂u (u, t)∂f∂v (u, t)
(1− f(u, t)2K(u))G(u)−2f(u, t)(1− f(u, t)H(u))N(u)+ ∂f∂v (u, t)
2
)で与えられる. δ : D × I → R を δ(u, t) = det(tp′
t(u)p′t(u)) で定める. 各 u ∈ D に対し f(u, 0) = 0 より
∂f
∂u(u, 0) =
∂f
∂v(u, 0) = 0 であり, 上の結果と注意 8.5の (1)の等式を用いれば,
∂δ
∂t(u, 0) =
∣∣∣∣∣−2L(u)∂f∂t (u, 0) F (u)
−2M(u)∂f∂t (u, 0) G(u)
∣∣∣∣∣+∣∣∣∣∣E(u) −2M(u)∂f∂t (u, 0)
F (u) −2N(u)∂f∂t (u, 0)
∣∣∣∣∣ = −4∂f
∂t(u, 0)H(u) det Ip(u)
が成り立つため, β(u, t) =√δ(u, t) によって D × I 上の関数 β を定めれば次の等式が得られる.
∂β
∂t(u, 0) =
−4∂f∂t (u, 0)H(u) det Ip(u)
2√E(u)G(u)− F (u)2
= −2∂f
∂t(u, 0)H(u)
√E(u)G(u)− F (u)2
故に α(t) =
∫∫A
β(u, t) dudv より
α′(0) =
∫∫A
∂β
∂t(u, 0) dudv = −2
∫∫A
∂f
∂t(u, 0)H(u)
√E(u)G(u)− F (u)2 dudv
が得られる.
注意 8.12 u ∈ D が H(u) = 0 を満たすとき,∂δ
∂t(u, 0) = 0 であり, 次の等式が成り立つ.
∂2δ
∂t2(u, 0) = 2E(u)
∂2f
∂v∂t(u, 0)2 − 4F (u)
∂2f
∂u∂t(u, 0)
∂2f
∂v∂t(u, 0) + 2G(u)
∂2f
∂u∂t(u, 0)2 + 4det IIp(u)
∂f
∂t(u, 0)2
β(u, t) =√δ(u, t) より
∂2β
∂t2(u, t) =
1
2√δ(u, t)
∂2δ
∂t2(u, t)− 1
4δ(u, t)32
∂δ
∂t(u, t)2 だから
∂2β
∂t2(u, 0) =
2E(u) ∂2f∂v∂t (u, 0)
2 − 4F (u) ∂2f∂u∂t (u, 0)
∂2f∂v∂t (u, 0) + 2G(u) ∂2f
∂u∂t (u, 0)2 + 4det IIp(u)
∂f∂t (u, 0)
2
2√E(u)G(u)− F (u)2
が得られるが, すべての u ∈ D に対して H(u) = 0 の場合に α′′(0) の符号は上式から判定できない.
注意 8.5の (2)から, 曲面 S の点での平均曲率が 0 であるかどうかはその点を含む局所座標の選び方によらない.
定理 8.13 曲面 S 上の点 a における平均曲率が 0でないとき, a を含むある有界な開集合 V の中で S を変形させ
て得られる曲面 S′ で, 変形させた部分の面積が元の部分の面積より小さくなるものが存在する.
証明 p : D → R3 は S の局所座標で, p(u0) = a を満たす u0 ∈ D があるとする. u ∈ R2 | ∥u− u0∥ ≦ r ⊂ D
が成り立つように r > 0 を選び, λ : D → [0, 1] を λ(u0) = 1 と条件「∥u− u0∥ ≧ r かつ u ∈ D ならば λ(u) = 0」
を満たす C∞ 級関数とする. t ∈ R に対し, 写像 pt : D → R3 を pt(u) = p(u) + tλ(u)H(u)νp(u) で定義すれば
p0 = p であり, ∥u− u0∥ ≧ r ならばすべての t ∈ R に対して pt(u) = p(u) だから, 正の実数 ε で t ∈ (−ε, ε) ならばすべての u ∈ D に対して det(tp′
t(u)p′t(u)) > 0, すなわち (pt)u(u) と (pt)v(u) が 1次独立になるものが存在
する. 従って, 各 t ∈ (−ε, ε) に対して pt は局所座標になるため, S の局所座標 p を pt で置き換えることによって
曲面 St が定義できる. u0 を内点に含む面積確定である D の部分集合 A に対して, pt による A の像である St の
部分の面積を α(t) とおけば, 命題 8.11と λ(u0)H(u0)2√E(u0)G(u0)− F (u0)2 > 0 が成り立つことから
α′(0) = −2
∫∫A
λ(u)H(u)2√E(u)G(u)− F (u)2 dudv < 0
である. 故に α は 0 の近くで狭義単調減少関数だから, ある c ∈ (0, ε) で, α(c) < α(0) を満たすものが存在する.
33
定義 8.14 すべての点における平均曲率が 0 である曲面を極小曲面という.
次の定理は, ガウス曲率が第一基本量のみに依存し, 曲面の法線ベクトルの「動き」から定義される第二基本量に
は依存しないことを示している.
定理 8.15 (Theorema egregium) ガウス曲率 K(u) は第一基本量 E, F , G と, これらの偏導関数 Eu, Ev, Fu, Fv,
Gu, Gv, Evv, Fuv, Guu を用いて, 以下で与えられる.
K(u) =E(u)(Ev(u)Gv(u)− 2Fu(u)Gv(u) +Gu(u)
2)
4(E(u)G(u)− F (u)2)2
+F (u)(Eu(u)Gv(u)− Ev(u)Gu(u)− 2Ev(u)Fv(u)− 2Fu(u)Gu(u) + 4Fu(u)Fv(u))
4(E(u)G(u)− F (u)2)2
+G(u)(Ev(u)
2 − 2Eu(u)Fv(u) + Eu(u)Gu(u))
4(E(u)G(u)− F (u)2)2− Evv(u)− 2Fuv(u) +Guu(u)
2(E(u)G(u)− F (u)2)
証明 命題 6.2の証明における (6.5), (6.6), (6.7), (6.8) と Γuuu, Γ
vu u の定義式から, 次の等式が成り立つ.
Γuuu(u)E(u) + Γ v
u u(u)F (u) =1
2Eu(u) Γu
uu(u)F (u) + Γ vu u(u)G(u) = Fu(u)−
1
2Ev(u)
Γuu v(u)E(u) + Γ v
u v(u)F (u) =1
2Ev(u) Γu
u v(u)F (u) + Γ vu v(u)G(u) =
1
2Gu(u)
上式と命題 6.2の結果から, 以下の等式を得る.
(puu(u),pv(u)) = (Γuuu(u)pu(u) + Γ v
u u(u)pv(u) + L(u)νp(u),pv(u))
= (Γuuu(u)pu(u),pv(u)) + (Γ v
u u(u)pv(u),pv(u)) + (L(u)νp(u),pv(u))
= Γuuu(u)F (u) + Γ v
u u(u)G(u) = Fu(u)−1
2Ev(u)
(puu(u),pvv(u)) = (Γuuu(u)pu(u) + Γ v
u u(u)pv(u) + L(u)νp(u), Γuv v(u)pu(u) + Γ v
v v(u)pv(u) +N(u)νp(u))
= (Γuuu(u)pu(u), Γ
uv v(u)pu(u))+ (Γ v
u u(u)pv(u), Γuv v(u)pu(u))+ (L(u)νp(u), Γ
uv v(u)pu(u))
+ (Γuuu(u)pu(u), Γ
vv v(u)pv(u))+ (Γ v
u u(u)pv(u), Γvv v(u)pv(u))+ (L(u)νp(u), Γ
vv v(u)pv(u))
+ (Γuuu(u)pu(u), N(u)νp(u)) + (Γ v
u u(u)pv(u), N(u)νp(u)) + (L(u)νp(u), N(u)νp(u))
= Γuv v(u)(Γ
uuu(u)E(u) + Γ v
u u(u)F (u)) + Γ vv v(u)(Γ
uuu(u)F (u) + Γ v
u u(u)G(u)) + L(u)N(u)
=1
2Γuv v(u)Eu(u) + Γ v
v v(u)Fu(u)−1
2Γ vv v(u)Ev(u) + L(u)N(u)
(puv(u),pv(u)) = (Γuu v(u)pu(u) + Γ v
u v(u)pv(u) +M(u)νp(u),pv(u))
= (Γuu v(u)pu(u),pv(u)) + (Γ v
u v(u)pv(u),pv(u)) + (M(u)νp(u),pv(u))
= Γuu v(u)F (u) + Γ v
u v(u)G(u) =1
2Gu(u)
(puv(u),puv(u)) = (Γuu v(u)pu(u) + Γ v
u v(u)pv(u) +M(u)νp(u), Γuu v(u)pu(u) + Γ v
u v(u)pv(u) +M(u)νp(u))
= (Γuu v(u)pu(u), Γ
uu v(u)pu(u)) + (Γ v
u v(u)pv(u), Γvu v(u)pv(u)) + (M(u)νp(u),M(u)νp(u))
+ 2 (Γuu v(u)pu(u), Γ
vu v(u)pv(u))
= Γuu v(u)
2E(u) + Γ vu v(u)
2G(u) +M(u)2 + 2Γuu v(u)Γ
vu v(u)F (u)
= Γuu v(u)(Γ
uu v(u)E(u) + Γ v
u v(u)F (u)) + Γ vu v(u)(Γ
uu v(u)F (u) + Γ v
u v(u)G(u)) +M(u)2
=1
2Γuu v(u)Ev(u) +
1
2Γ vu v(u)Gu(u) +M(u)2
従って
Fuv(u)−1
2Evv(u) =
∂
∂v
(Fu(u)−
1
2Ev(u)
)=
∂
∂v(puu(u),pv(u)) = (puuv(u),pv(u)) + (puu(u),pvv(u))
1
2Guu(u) =
∂
∂u
(1
2Gu(u)
)=
∂
∂u(puv(u),pv(u)) = (puvu(u),pv(u)) + (puv(u),puv(u))
34
であり, puuv(u) = puvu(u) より, 上式から (puu(u),pvv(u))− (puv(u),puv(u)) = Fuv(u)−1
2Evv(u)−
1
2Guu(u)
が得られる. この左辺に上の結果と命題 6.2の証明で与えた Γuu v, Γ
vu v, Γ
uv v, Γ
vv v の定義式を用いて整理すると,
L(u)N(u)−M(u)2 =1
2Γuu v(u)Ev(u) +
1
2Γ vu v(u)Gu(u)−
1
2Γuv v(u)Eu(u) +
1
2Γ vv v(u)(Ev(u)− 2Fu(u))
+ Fuv(u)−1
2Evv(u)−
1
2Guu(u)
=Ev(u)G(u)−Gu(u)F (u)
4(E(u)G(u)− F (u)2)Ev(u) +
Gu(u)E(u)− Ev(u)F (u)
4(E(u)G(u)− F (u)2)Gu(u)
− 2Fv(u)G(u)−Gu(u)G(u)−Gv(u)F (u)
4(E(u)G(u)− F (u)2)Eu(u) + Fuv(u)−
1
2Evv(u)−
1
2Guu(u)
+Gv(u)E(u)− 2Fv(u)F (u) +Gu(u)F (u)
4(E(u)G(u)− F (u)2)(Ev(u)− 2Fu(u))
= Fuv(u)−1
2Evv(u)−
1
2Guu(u) +
Ev(u)2G(u)− 2Ev(u)Gu(u)F (u) +Gu(u)
2E(u)
4(E(u)G(u)− F (u)2)
+−2Eu(u)Fv(u)G(u) + Eu(u)Gu(u)G(u) + Eu(u)Gv(u)F (u)
4(E(u)G(u)− F (u)2)
+Ev(u)Gv(u)E(u)− 2Ev(u)Fv(u)F (u) + Ev(u)Gu(u)F (u)
4(E(u)G(u)− F (u)2)
+−2Fu(u)Gv(u)E(u) + 4Fu(u)Fv(u)F (u)− 2Fu(u)Gu(u)F (u)
4(E(u)G(u)− F (u)2)
= Fuv(u)−1
2Evv(u)−
1
2Guu(u) +
E(u)(Ev(u)Gv(u)− 2Fu(u)Gv(u) +Gu(u)2)
4(E(u)G(u)− F (u)2)
+F (u)(Eu(u)Gv(u)− Ev(u)Gu(u)− 2Ev(u)Fv(u)− 2Fu(u)Gu(u) + 4Fu(u)Fv(u))
4(E(u)G(u)− F (u)2)
+G(u)(Ev(u)
2 − 2Eu(u)Fv(u) + Eu(u)Gu(u))
4(E(u)G(u)− F (u)2)
が得られるため, K(u) =L(u)N(u)−M(u)2
E(u)G(u)− F (u)2から主張が示される.
9 主方向と漸近方向
命題 9.1 曲面 S 上の点 a の近くの局所座標を p : D → R3 とし, a = p(u0) とする. a におけるガウス曲率を K,
平均曲率を H とするとき, 以下は同値である.
(i) a は臍点である. (ii) H2 = K (iii) Ip(u0)−1IIp(u0) は 2次単位行列の実数倍である.
証明 a における S の主曲率を α, β とする.
(i) ⇔ (ii); H2 −K =(α+ β)2
4− αβ =
(α− β)2
4だから, α = β であることと, H2 = K は同値である.
(i) ⇔ (iii); α = β ならば命題 8.1から QB は条件 txAx = 1 の下で一定の値をとるため, 命題 8.1の証明の後半
から, IIp(u0) = αIp(u0) が成り立つことがわかる. 従って Ip(u0)−1IIp(u0) は 2次単位行列の実数倍である. 逆は
明らかである.
命題 9.2 曲面 S 上のすべての点におけるガウス曲率と平均曲率が 0ならば, S は平面の一部である.
証明 p : D → R3 を S の局所座標, u ∈ D とすれば, p(u) は S の臍点だから, 命題 9.1から, Ip(u)−1IIp(u) は零
行列である. 従って IIp(u) も零行列になるため, 次の等式が成り立つ.
(pu(u),νpu(u)) = (pu(u),νpv(u)) = (pv(u),νpu(u)) = (pv(u),νpv(u)) = 0
35
従って, νpu(u), νpv(u)はともに νp(u)と平行になるが, (νp(u),νp(u)) = 1の両辺を u, v で偏微分すれば, νpu(u),
νpv(u) はともに νp(u) と垂直でもあることがわかるので, νpu(u) = νpv(u) = 0 である. 故に νp(u) は u に依存
しない一定のベクトルである. そこで νp(u) = n とおくと, 任意の u ∈ D に対して (pu(u),n) = (pv(u),n) = 0
だから, (p(u),n) は u に依存しない一定の値である. この値を c とすれば p による D の像は方程式 (x,n) = c で
与えられる平面に含まれるため, S は平面の一部である.
命題 9.3 曲面 S 上の点がすべて臍点ならば, S は平面か球面の一部である.
証明 p : D → R3 を S の局所座標, u ∈ D とすれば, p(u) は S の臍点だから, 命題 9.1から, Ip(u)−1IIp(u) =
λ(u)E2 を満たす実数 λ(u) が存在する. 従って IIp(u) = λ(u)Ip(u) の両辺の各成分を比較すれば
−(pu(u),νpu(u)) = λ(u)(pu(u),pu(u)), −(pu(u),νpv(u)) = λ(u)(pu(u),pv(u)),
−(pv(u),νpu(u)) = λ(u)(pv(u),pu(u)), −(pv(u),νpv(u)) = λ(u)(pv(u),pv(u))
が得られるため, νpu(u) + λ(u)pu(u) と νpv(u) + λ(u)pv(u) はともに, pu(u) と pv(u) の両方に垂直である. 一
方, (νp(u),νp(u)) = 1 の両辺を u, v で偏微分すれば, νpu(u), νpv(u) はともに νp(u) とも垂直であることが導か
れるため,
νpu(u) + λ(u)pu(u) = νpv(u) + λ(u)pv(u) = 0 · · · (∗)
である. そこで, νpu(u) = −λ(u)pu(u) の両辺を v で偏微分し, νpv(u) = −λ(u)pv(u) の両辺を u で偏微分する
ことによって, 次の等式を得る.
∂λ
∂v(u)pu(u) + λ(u)puv(u) =
∂λ
∂u(u)pv(u) + λ(u)puv(u)
故に∂λ
∂v(u)pu(u)−
∂λ
∂u(u)pv(u) = 0 が成り立つが, pu(u),pv(u) は 1次独立だから,
∂λ
∂v(u) =
∂λ
∂u(u) = 0 が得ら
れる. よって, λ は定数値関数である. λ(u) = c とおいて, u ∈ D を νp(u) + cp(u) に対応させる写像を考えれば,
(∗)により, この写像は一定のベクトルを値にとる定値写像である. νp(u) + cp(u) = a とおくと, c = 0 の場合は
νp(u) = a となり, νp(u) は u に依存しない一定のベクトルである. 従って, この場合は命題 9.2の証明の後半の議
論から, S は平面の一部である. c = 0 の場合は
∥∥∥∥p(u)− 1
ca
∥∥∥∥ =
∥∥∥∥1cνp(u)
∥∥∥∥ =1
|c|となるため, p による D の像は
中心が1
ca, 半径が
1
|c|である球面に含まれるため, S は球面の一部である.
命題 9.4 a が曲面 S の臍点でないとき, S の主方向は直交する.
証明 p : D → R3 を a のまわりの S の局所座標とし, p(u0) = a (u0 ∈ D) とする. a における S の主曲率を α,
β とし, α, β に対する Ip(u0)−1IIp(u0) の固有ベクトルをそれぞれ z, w とする.
r > 0を条件「|t| ≦ r ならば u0+tz,u0+tw ∈ D」を満たすように選び, xα,xβ : [−r, r] → D を xα(t) = u0+tz,
xβ(t) = u0 + tw で定義する. このとき, p xα によってパラメータ表示される曲線は, S の a における主曲率 α
を与え, p xβ によってパラメータ表示される曲線は, S の a における主曲率 β を与え, p xα(0) = p xβ(0) = a
だから, (p xα)′(0) = p′(u0)z, (p xβ)
′(0) = p′(u0)w が a における S の主方向である. (5.2)と命題 8.1から
(p′(u0)z,p′(u0)w) = (Ip(u0)z,w) = 0 が得られるため, S の主方向は直交する.
定理 9.5 (オイラーの公式) a が曲面 S の臍点でないとき, a における S の主曲率を α, β とし, これらに対応す
る主方向で単位ベクトルであるものをそれぞれ eα, eβ とする. a を通る S 上の曲線 C の a における接ベクトル
が cosφ eα + sinφ eβ と平行であるとき, C の a における法曲率は α cos2φ+ β sin2φ に等しい.
証明 p : D → R3 を a のまわりの S の局所座標とし, p(u0) = a (u0 ∈ D) とする. 命題 9.4によって eα と
eβ は直交するため, cosφ eα + sinφ eβ は単位ベクトルである. a における法曲率がそれぞれ α, β である曲線 Cα,
Cβ を選び, 写像 xα : [c, d] → D, xβ : [p, q] → D で p xα : [c, d] → R3, p xβ : [p, q] → R3 がそれぞれ Cα,
Cβ の弧長パラメータ表示になるものを考える. このとき xα(s1) = xβ(s2) = u0 (s1 ∈ (c, d), s2 ∈ (p, q))とし,
p′(u0)x′α(s1) = (p xα)
′(s1) = eα, p′(u0)x
′β(s2) = (p xβ)
′(s2) = eβ であるとしてよい.
36
写像 x : [a, b] → D に対し, p x : [a, b] → R3 によって C は弧長パラメータ表示され, x(t0) = u0 (t0 ∈ (a, b))
とする. C の a における接ベクトル (p x)′(t0) = p′(u0)x′(t0) は単位ベクトルで, cosφ eα + sinφ eβ と平行であ
ることから, p′(u0)x′(t0) = ±(cosφ eα + sinφ eβ) であるが, α cos2(φ+ π) + β sin2(φ+ π) = α cos2φ+ β sin2φ で
あることに注意すれば, φ を φ + π で置き換えることによって p′(u0)x′(t0) = cosφ eα + sinφ eβ であるとしてよ
い. このとき, p′(u0)x′(t0) = cosφp′(u0)x
′α(s1) + sinφp′(u0)x
′β(s2) = p′(u0)(cosφx′
α(s1) + sinφx′β(s2)) より
x′(t0) = cosφx′α(s1) + sinφx′
β(s2) が得られる.
また Cα, Cβ の a における法曲率 α, β であることから, 等式
IIp(u0)x′α(s1) = αIp(u0)x
′α(s1), IIp(u0)x
′β(s2) = βIp(u0)x
′β(s2)
が成り立ち, 命題 8.1より (Ip(u0)x′α(s1),x
′β(s2)) = (x′
α(s1), Ip(u0)x′β(s2)) = 0 だから, 次の等式が成り立つ.
tx′α(s1)IIp(u0)x
′β(s2) = (x′
α(s1), βIp(u0)x′β(s2)) = β(x′
α(s1), Ip(u0)x′β(s2)) = 0
tx′β(s2)IIp(u0)x
′α(s1) = (x′
β(s2), αIp(u0)x′α(s1)) = α(Ip(u0)x
′α(s1),x
′β(s2)) = 0
上式と, tx′α(s1)IIp(u0)x
′α(s1) = α, x′
β(s2)IIp(u0)x′β(s2) = β から, C の a における法曲率 κn について,
κn = tx′(t0)IIp(u0)x′(t0) =
t(cosφx′α(s1) + sinφx′
β(s2))IIp(u0)(cosφx′α(s1) + sinφx′
β(s2))
= cos2φ tx′α(s1)IIp(u0)x
′α(s1) + cosφ sinφ
(tx′
α(s1)IIp(u0)x′β(s2) +
tx′β(s2)IIp(u0)x
′α(s1)
)+ sin2φ tx′
β(s2)IIp(u0)x′β(s2)
= α cos2φ+ β sin2φ
が得られる.
定義 9.6 曲面 S 上の点 a を通る曲線の a における法曲率が 0 になるとき, この曲線の a における接ベクトルの
方向を漸近方向という.
命題 9.7 曲面 S の点 a におけるガウス曲率を K とするとき, 次が成り立つ
(1) K > 0 ならば a における漸近方向は存在しない.
(2) a が臍点でないとき, K = 0 ならば a における漸近方向はただ 1つ存在する.
(3) K < 0 ならば a において相異なる 2つの漸近方向が存在する.
証明 S の a における主曲率を α, β (α ≦ β) とする.
(1) K > 0 ならば α ≦ β < 0 または 0 < α ≦ β であり, a を通る曲線の法曲率 κn の値は α 以上 β 以下だから,
κn = 0 とはなりえない.
(2) α < β で, α = 0 または β = 0 だから, 主曲率 0 に対する主方向が唯一の漸近方向である.
(3) K < 0 ならば α < 0 < β だから −1 <β + α
β − α< 1 である. κ(φ) = α cos2φ+ β sin2φ とおけば
κ(φ) =α(1 + cos 2φ)
2+β(1− cos 2φ)
2=β + α
2− β − α
2cos 2φ
だから, ψ0 =1
2cos−1 β + α
β − αとおけば, 0 < ψ0 <
π
2であり, κ(φ) = 0 を満たす 0 ≦ φ ≦ π は ψ0 と π − ψ0 に限る.
従って, 定理 9.5から a において相異なる 2つの漸近方向が存在する.
命題 9.8 曲面 S の点 a におけるガウス曲率が負であるとする.
(1) a における漸近方向の単位ベクトルを v1, v2 とすれば v1 + v2 と v1 − v2 は a の主方向である. 従って a
の主方向は a における漸近方向のベクトルのなす角を 2等分する.
(2) a における S の主曲率を λ, µ (|λ| ≦ |µ|) とし, a における漸近方向の 2つの直線のなす角を θ (0 < θ ≦ π2 )
とすれば次の等式が成り立つ.
tanθ
2=
√|λ||µ|
37
証明 主曲率 α, β (α < 0 < β)に対応する主方向で単位ベクトルであるものをそれぞれ eα, eβ とする.
(1) ψ0 =1
2cos−1 β + α
β − αとおけば,命題 9.7の証明より, aにおける S の漸近方向は cosψ0 eα+sinψ0 eβ と cos(π−
ψ0) eα + sin(π − ψ0) eβ = − cosψ0 eα + sinψ0 eβ である. v1 = cosψ0 eα + sinψ0 eβ , v2 = − cosψ0 eα + sinψ0 eβ
とおけば eα と eβ が直交する単位ベクトルであることから, v1, v2 は単位ベクトルであり, v1 − v2 = 2 cosψ0 eα,
v1 + v2 = 2 sinψ0 eβ だから, 主方向は漸近方向の直線のなす角を 2等分している.
(2) 0 < ψ0 <π
2であり, (v1,v2) = − cos2ψ0 + sin2ψ0 = cos(π − 2ψ0) だから v1 と v2 のなす角は π − 2ψ0 であ
る. 従って θ = min2ψ0, π− 2ψ0 = min
cos−1 β + α
β − α, π − cos−1 β + α
β − α
= min
cos−1 β + α
β − α, cos−1α+ β
α− β
だか
ら θ = cos−1 |β + α|β − α
が得られる. −1 < x ≦ 1 に対して tan
(1
2cos−1x
)=
√1− x
1 + xが成り立つため, β + α ≧ 0 す
なわち µ = β, λ = α の場合, x =µ+ λ
µ− λを上の等式に代入すれば tan
θ
2=
√−λµ
=
√|λ||µ|が得られ, β + α < 0 す
なわち µ = α, λ = β の場合, x =λ+ µ
µ− λを上の等式に代入すれば tan
θ
2=
√λ
−µ=
√|λ||µ|が得られる.
命題 8.9と注意 8.10から次の結果が得られる.
定理 9.9 曲面 S の点 a におけるガウス曲率が負であるとき, a を含む十分小さな開集合 V が存在し, a における
S の接平面と S の交線の V に含まれる部分は, a で交わる 2つの曲線で, それらの a における接線は漸近方向で
ある.
10 計算例
定義 10.1 開区間 I と微分可能な写像 w : I → R3, z : I → R3 − 0 に対して p(u) = w(u) + vz(u) (u =
(u
v
))
で定義される写像 p : I ×R → R3 を局所座標とする曲面を線織面という.
注意 10.2 p(u) = w(u) +v
∥z(u)∥z(u) で定義される写像 p : I ×R → R3 の像は上の定義の局所座標 p の像と一
致する. また pu(u) = w′(u) + vz′(u), pv(u) = z(u) だから,
pu
(u
v
)= w′(u) +
v
∥z(u)∥z′(u) +
v(z′(u), z(u))
∥z(u)∥3z(u) = pu
(uv
∥z(u)∥
)+v(z′(u), z(u))
∥z(u)∥3pv
(uv
∥z(u)∥
)
pv
(u
v
)=
1
∥z(u)∥z(u) =
1
∥z(u)∥pv
(uv
∥z(u)∥
)
が成り立つため, pu
(uv
∥z(u)∥
), pv
(uv
∥z(u)∥
)が 1次独立であることと pu
(u
v
), pv
(u
v
)が 1次独立であることは同
値である. 故に線織面の局所座標 p の代わりに p を考えることによって写像 z は単位ベクトルを値にとる写像で
あると仮定してよい. このとき, u ∈ I に対して ∥z(u)∥ = 1 だから (z′(u), z(u)) = 0 である. 従って, このような
局所座標に関する線織面の第一基本量は E(u) = ∥w′(u)∥2 + 2v(w′(u), z′(u)) + v2∥z′(u)∥2, F (u) = (w′(u), z(u)),
G(u) = 1 で与えられる.
命題 10.3 線織面の各点のガウス曲率は 0以下である.
証明 S を線織面とすれば, 区間 I で定義された, 微分可能な写像 w : I → R3, z : I → R3 − 0 が存在して p(u) = w(u) + vz(u) で定義される写像 p : I × R → R3 が S の局所座標になる. pvv(u) = 0 より
N(u) = (pvv(u),νp(u)) = 0 だから, p(u) ∈ S における S のガウス曲率はK(u) =−M(u)2
E(u)G(u)− F (u)2≦ 0 であ
る.
38
例 10.4 (1) a, b > 0 に対し, w : R → R3, z : R → R3 − 0 を次のように定義する.
w(u) =
au0u2
, z(u) =
a
b
2u
このとき, p(u) = w(u) + vz(u) で定義される写像 p : R×R → R3 を局所座標とする線織面は例 2.2 (2)の双曲放
物面である.
(2) a, b, c > 0 に対し, w : R → R3, z : R → R3 − 0 を次のように定義する.
w(u) =
−a sinub cosu
0
, z(u) =
a cosub sinu
c
このとき, p(u) = w(u) + vz(u) で定義される写像 p : R×R → R3 を局所座標とする線織面は例 2.2 (4)の一葉双
曲面である.
(3) a = 0 に対し, w : R → R3, z : R → R3 − 0 を次のように定義する.
w(u) =
0
0
au
, z(u) =
cosu
sinu
0
このとき, p(u) = w(u) + vz(u) で定義される写像 p : R×R → R3 を局所座標とする線織面は螺旋面と呼ばれる.
p
(u
v
)=
v cosuv sinu
au
より pu
(u
v
)=
−v sinuv cosu
a
, pv
(u
v
)=
cosu
sinu
0
だから νp
(u
v
)=
1√a2 + v2
−a sinua cosu
−v
である. 従って νpu
(u
v
)=
1√a2 + v2
−a cosu−a sinu
0
, νpv
(u
v
)=
1
(a2 + v2)32
av cosu
−av sinu−a2
だから第一基本行列, 第二
基本行列およびガウス曲率, 平均曲率は
Ip
(u
v
)=
(a2 + v2 0
0 1
), IIp
(u
v
)=
(0 a√
a2+v2
a√a2+v2
0
), K
(u
v
)= − a2
(a2 + v2)2, H
(u
v
)= 0
で与えられる.
補題 10.5 C を単位球面上の曲線とし, x : [a, b] → R3 を C のパラメータ表示とする. すべての t ∈ [a, b] に対し
て det(x(t),x′(t),x′′(t)) = 0 が成り立つならば, C は原点を通るある平面と単位球面の交線に含まれる.
証明 λ : [c, d] → [a, b] に対し, (x λ)′(t) = λ′(t)x′(λ(t)), (x λ)′′(t) = λ′′(t)x′(λ(t)) + λ′(t)2x′′(λ(t)) だから,
すべての t ∈ [c, d] に対して det((x λ)(t), (x λ)′(t), (x λ)′′(t)) = 0 が成り立つ. 従って, x は C の弧長パラ
メータ表示であるとしてよい. このとき, x(t),x′(t),x(t) × x′(t) は R3 の正規直交基底であり, ∥x′(t)∥ = 1 より
(x′′(t),x′(t)) = 0, 仮定より (x′′(t),x(t)× x′(t)) = det(x(t),x′(t),x′′(t)) = 0 だから, x′′(t) = (x′′(t),x(t))x(t) が
すべての t ∈ [a, b] に対して成り立つ.
t0 ∈ (a, b) を 1つ固定して, n = x(t0) × x′(t0) おいて, 関数 κ, f : [a, b] → R を κ(t) = (x′′(t),x(t)), f(t) =
(x(t),n)で定める. f ′(t) = (x′(t),n)だから f(t0) = f ′(t0) = 0であり, f ′′(t) = (x′′(t),n)かつx′′(t) = κ(t)x(t)だ
から f ′′(t) = κ(t)f(t) が成り立つ. 従って x = f(t) は 2階線形微分方程式d2x
dt2= κ(t)x の解で x(t0) =
dx
dt(t0) = 0
を満たす解だから, 常微分方程式の解の一意性によってすべての t ∈ [a, b] に対して f(t) = 0 である. 故に x の像は
原点を通り, n に垂直な平面に含まれる.
定理 10.6 線織面で極小曲面は平面または螺線面の一部である.
39
証明 S を線織面とすれば, 注意 10.2によって, 区間 I と微分可能な写像w, z : I → R3 で, すべての u ∈ I に対し
て ∥z(u)∥ = 1 を満たすものが存在して, p(u) = w(u) + vz(u) で定義される写像 p : I ×R → R3 が S の局所座標
になる. f(u) =1√
E(u)G(u)− F (u)2によって関数 f : I ×R → R を定めれば
νp(u) = f(u)pu(u)× pv(u) = f(u)(w′(u)× z(u) + vz′(u)× z(u))
だから νpu(u) =∂f
∂u(u)(w′(u)× z(u) + vz′(u)× z(u)) + f(u)(w′′(u)× z(u) +w′(u)× z′(u) + vz′′(u)× z(u))が
得られる. 命題 10.3の証明から, すべての u ∈ I ×R に対して N(u) = 0 であり, 上と注意 10.2の等式から
L(u) =
(w′(u) + vz′(u),
∂f
∂u(u)(w′(u)× z(u) + vz′(u)× z(u)) + f(u)(w′′(u)× z(u) + vz′′(u)× z(u)))
)= −f(u)(w′(u),w′′(u)× z(u))− vf(u)((w′(u), z′′(u)× z(u)) + (z′(u),w′′(u)× z(u)))
− v2f(u)(z′(u), z′′(u)× z(u))
M(u) = −f(u)(z(u),w′(u)× z′(u))
H(u) =1
2f(u)3(2(w′(u), z(u))(z(u),w′(u)× z′(u))− (w′(u),w′′(u)× z(u)))
− vf(u)3
2((w′(u), z′′(u)× z(u)) + (z′(u),w′′(u)× z(u)))− v2f(u)3
2(z′(u), z′′(u)× z(u))
が得られる. S が極小曲面ならば, すべての u ∈ I ×R に対して H(u) = 0 だから, すべての u ∈ I に対して次の等
式が成り立つ.
(z′(u), z′′(u)× z(u)) = 0 · · · (i)
(w′(u), z′′(u)× z(u)) + (z′(u),w′′(u)× z(u)) = 0 · · · (ii)
2(w′(u), z(u))(z(u),w′(u)× z′(u))− (w′(u),w′′(u)× z(u)) = 0 · · · (iii)
上の (i)の等式と補題 10.5から z : I → R3 でパラメータ表示される曲線は原点通る平面と単位球面の交線に含
まれるため, この平面が xy 平面になるように S を回転移動する. このとき, 関数 θ : I → R を用いて, z(u) は
z(u) =
cos θ(u)
sin θ(u)
0
と表せる. また w(u) の第 i成分を wi(u) (i = 1, 2, 3)とする.
I に含まれる開区間 J の各点 u で z′(u) = 0 の場合, z のパラメータを取り替えて弧長パラメータ表示, すなわ
ち θ(u) = u であると仮定してよい. このとき, z′(u) =
− sinu
cosu
0
, z′′(u) = −z(u) だから z(u) × z′(u) =
0
0
1
,
z(u)× z′′(u) = 0 である. 従って (ii)の等式から w′′3 (u) = 0 が得られるため, 定数 a, b に対して w3(u) = au+ b と
なる. さらに (iii)の等式から a(−2w′1(u) cosu − 2w′
2(u) sinu − w′′1 (u) sinu + w′′
2 (u) cosu) = 0 が得られる. a = 0
の場合, p(u) の z 成分はつねに b に等しいため, S は平面 z = b に含まれる. a = 0 の場合, 関数 φ : J → R を
φ(u) = −w′1(u) sinu+ w′
2(u) cosu によって定めれば, (iii)より次の等式が得られる.
φ′(u) = −w′1(u) cosu− w′
2(u) sinu− w′′1 (u) sinu+ w′′
2 (u) cosu = w′1(u) cosu+ w′
2(u) sinu
この等式と φ(u) を定義した式を w′1(u) と w′
2(u) を未知数とする連立 1次方程式とみなして解を求めれば w′1(u),
w′2(u) は w′
1(u) = φ′(u) cosu − φ(u) sinu = (φ(u) cosu)′, w′2(u) = φ′(u) sinu + φ(u) cosu = (φ(u) sinu)′ と表せ
る. 故に w1(u) = φ(u) cosu+ c, w2(u) = φ(u) sinu+ d を満たす定数 c, d が存在するため, S の局所座標 p は
p
(u
v
)=
cdb
+
0
0
au
+ (v + φ(u))
cosu
sinu
0
40
となることから, 領域 J ×R に対応する S の部分は, 例 10.4の (3)で与えた螺旋面の一部を平行移動したものであ
ることがわかる.
I に含まれる開区間 J の各点 u で z′(u) = 0 の場合, θ は J において定数値関数である. z軸を軸にして S を回転
移動することによって, 各 u ∈ J に対して θ(u) = 0 であると仮定してよい. このとき (iii) より, すべての u ∈ J に
対して w′2(u)w
′′3 (u)−w′′
2 (u)w′3(u) = 0が成り立つ. また, この場合は E(u)G(u)−F (u)2 = w′
2(u)2+w′
3(u)2 だから,
w′2(u) と w′
3(u) は同時に 0にならない. 従って w′2(u) = 0 ならば
d
du
w′3(u)
w′2(u)
= 0, w′3(u) = 0 ならば
d
du
w′2(u)
w′3(u)
= 0
が成り立つため, 少なくとも一方は 0でない定数 a, b で, すべての u ∈ J に対して aw′2(u) + bw′
3(u) = 0 を満たす
ものが存在する. 故に定数 c で, すべての u ∈ J に対して aw2(u) + bw3(u) + c = 0 を満たすものが存在する. この
ことと S の局所座標 p は
p
(u
v
)=
0
w2(u)
w3(u)
+ (v + w1(u))
1
0
0
であることから, S は平面 ay + bz + c = 0 に含まれることがわかる.
命題 10.7 I を区間とし, 微分可能な関数 x, z : I → R に対し, x(u) =
x(u)0
z(u)
で与えられる写像 x : I → R3 に
よってパラメータ表示される xz平面上の曲線を C とし, C を z軸のまわりに回転させて得られる曲面を S とする.
また, u ∈ I, 0 ≦ v ≦ 2π に対し, u =
(u
v
)とおくとき, S 上の点 p(u) =
x(u) cos vx(u) sin v
z(u)
における第一基本行列, 第
二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率はそれぞれ以下で与えられる.
Ip(u) =
(x′(u)2 + z′(u)2 0
0 x(u)2
), IIp(u) =
−x′′(u)z′(u)−x′(u)z′′(u)√x′(u)2+z′(u)2
0
0 x(u)z′(u)√x′(u)2+z′(u)2
K(u) = −z
′(u)(x′′(u)z′(u)− x′(u)z′′(u))
x(u)(x′(u)2 + z′(u)2)2, H(u) =
z′(u)
2x(u)√x′(u)2 + z′(u)2
− x′′(u)z′(u)− x′(u)z′′(u)
2(x′(u)2 + z′(u)2)32
x が C の弧長パラメータ表示であるとき, p(u) における第一基本行列, 第二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率
はそれぞれ以下で与えられる.
Ip(u) =
(1 0
0 x(u)2
), IIp(u) =
(−x′′(u)
z′(u) 0
0 x(u)z′(u)
), K(u) = −x
′′(u)
x(u), H(u) =
z′(u)
2x(u)− x′′(u)
2z′(u)
証明 S のパラメータ表示は, p
(u
v
)=
x(u) cos vx(u) sin v
z(u)
で定義される写像によって与えられるため,
pu(u) =
x′(u) cos v
x′(u) sin v
z′(u)
, pv(u) =
−x(u) sin vx(u) cos v
0
, νp(u) =1√
x′(u)2 + z′(u)2
−z′(u) cos v−z′(u) sin v
x′(u)
である. 従って
νpu(u) =x′′(u)z′(u)− x′(u)z′′(u)
(x′(u)2 + z′(u)2)32
x′(u) cos v
x′(u) sin v
−z′(u)
, νpv(u) =1√
x′(u)2 + z′(u)2
z′(u) sin v
−z′(u) cos v0
だから,前半の結果が得られる. xが C の弧長パラメータ表示ならば x′(u)2+z′(u)2 = 1だから,この両辺の導関数を
考えて 2x′′(u)x′(u)+2z′′(u)z′(u) = 0を得る. 故に x′′(u)z′(u)−x′(u)z′′(u) = x′′(u)z′(u)2 + x′′(u)x′(u)2
z′(u)=x′′(u)
z′(u)となるため, 後半の結果が得られる.
41
系 10.8 S を命題 10.7の曲面とする. 写像 φ : [a, b] → I ×R から定義される S 上の曲線 p φ : [a, b] → S が S
の測地線であるためには, φ の成分の関数 φ : [a, b] → I, ψ : [a, b] → R が定数 A, B に対して次の微分方程式の解
であることが必要十分である.
(x′(φ(t))2 + z′(φ(t))2)φ′(t)2 = B2 − A2
x(φ(t))2, ψ′(t) =
A
x(φ(t))2
とくに C を z軸の回りに回転させて得られる曲線は測地線である.
証明 命題 10.7より, S に関して Γ vu u(u) = Γu
u v(u) = Γ vv v(u) = 0 であり, 下記の等式が成り立つ.
Γuuu(u) =
x′′(u)x′(u) + z′′(u)z′(u)
x′(u)2 + z′(u)2, Γ v
u v(u) =x′(u)
x(u), Γu
v v(u) =−x′(u)x(u)
x′(u)2 + z′(u)2
従って p φ : [a, b] → S が S の測地線であるためには, 注意 7.2から, φ,ψ : [a, b] → R が次の 2階連立微分方程式
の解であることが必要十分である.(x′(φ(t))2 + z′(φ(t))2)φ′′(t) + (x′′(φ(t))x′(φ(t)) + z′′(φ(t))z′(φ(t)))φ′(t)2 − x′(φ(t))x(φ(t))ψ′(t)2 = 0
x(φ(t))ψ′′(t) + 2x′(φ(t))φ′(t)ψ′(t) = 0
2つ目の方程式は (log |ψ′(t)|)′ = (−2 log |x(φ(t))|)′ と同値だから, A を定数として ψ′(t) =A
x(φ(t))2となることが
わかる. これを 1つ目の式に代入して, φ に関する 2階微分方程式
(x′(φ(t))2 + z′(φ(t))2)φ′′(t) + (x′′(φ(t))x′(φ(t)) + z′′(φ(t))z′(φ(t)))φ′(t)2 − A2x′(φ(t))
x(φ(t))3= 0
が得られる. この両辺に 2φ′(t) をかければ, 左辺は (x′(φ(t))2 + z′(φ(t))2)φ′(t)2 +A2
x(φ(t))2の導関数に等しいため,
B を定数として, φ は次の 1階微分方程式の解である.
(x′(φ(t))2 + z′(φ(t))2)φ′(t)2 = B2 − A2
x(φ(t))2
とくに A = 0 の場合は ψ は定数値関数で, x が弧長パラメータ表示されているならば, φ は 1次関数 φ(t) = Bt+C
だから, C を z軸の回りに回転させて得られる曲線は測地線であることがわかる.
例 10.9 例 2.2の (1)で与えた楕円放物面のパラメータ表示 p
(u
v
)=
u
vu2
a2 + v2
b2
から, u =
(u
v
)とおけば
pu(u) =1
a2
a2
0
2u
, pv(u) =1
b2
0
b2
2v
, νp(u) =1√
a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2
−2b2u
−2a2v
a2b2
である. 従って
νpu(u) =−2a2b2
(a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2)32
a2(b4 + 4v2)
−4b2uv
2b4u
, νpv(u) =−2a2b2
(a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2)32
−4a2uv
b2(a4 + 4u2)
2a4v
だから, 第一基本行列, 第二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率は次のようになる.
Ip(u) =1
a4b4
(b4(a4 + 4u2) 4a2b2uv
4a2b2uv a4(b4 + 4v2)
), IIp(u) =
2√a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2
(b2 0
0 a2
)
K(u) =4a6b6
(a2b2 + 4b4u2 + 4a4v2)2, H(u) =
a2b2(a4b2 + a2b4 + 4b2u2 + 4a2v2)
(a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2)32
42
例 10.10 例 2.2の (2)で与えた双曲放物面のパラメータ表示 p
(u
v
)=
u
vu2
a2 − v2
b2
から, u =
(u
v
)とおけば
pu(u) =1
a2
a2
0
2u
, pv(u) =1
b2
0
b2
−2v
, νp(u) =1√
a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2
−2b2u
2a2v
a2b2
である. 従って
νpu(u) =−2a2b2
(a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2)32
a2(b4 + 4v2)
4b2uv
2b4u
, νpv(u) =−2a2b2
(a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2)32
−4a2uv
−b2(a4 + 4u2)
2a4v
だから, 第一基本行列, 第二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率は次のようになる.
Ip(u) =1
a4b4
(b4(a4 + 4u2) −4a2b2uv
−4a2b2uv a4(b4 + 4v2)
), IIp(u) =
2√a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2
(b2 0
0 −a2
)
K(u) = − 4a6b6
(a2b2 + 4b4u2 + 4a4v2)2, H(u) = −a
2b2(a4b2 − a2b4 + 4b2u2 − 4a2v2)
(a4b4 + 4b4u2 + 4a4v2)32
例 10.11 例 2.2の (3)で与えた楕円面のパラメータ表示 p
(u
v
)=
a cosu cos vb cosu sin v
c sinu
から, u =
(u
v
)とおけば
pu(u) =
−a sinu cos v−b sinu sin v
c cosu
, pv(u) =
−a cosu sin vb cosu cos v
0
,
νp(u) =1√
b2c2 cos2 u cos2 v + a2c2 cos2 u sin2 v + a2b2 sin2 u
−bc cosu cos v−ac cosu sin v
−ab sinu
である. 従って
νpu(u) =abc
(b2c2 cos2 u cos2 v + a2c2 cos2 u sin2 v + a2b2 sin2 u)32
ab2 sinu cos v
a2b sinu sin v
−c cosu(b2 cos2 v + a2 sin2 v)
νpv(u) =abc cosu
(b2c2 cos2 u cos2 v + a2c2 cos2 u sin2 v + a2b2 sin2 u)32
a sin v(c2 cos2 u+ b2 sin2 u)
−b cos v(c2 cos2 u+ a2 sin2 u)
c(a2 − b2) sinu cosu cos v sin v
だから, 第一基本行列, 第二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率は次のようになる.
Ip(u) =
(a2 sin2 u cos2 v + b2 sin2 u sin2 v + c2 cos2 u (a2 − b2) cosu sinu sin v cos v
(a2 − b2) cosu sinu sin v cos v cos2 u(a2 sin2 v + b2 cos2 v)
),
IIp(u) =abc√
b2c2 cos2 u cos2 v + a2c2 cos2 u sin2 v + a2b2 sin2 u
(1 0
0 cos2 u
)
K(u) =a2b2c2
(b2c2 cos2 u cos2 v + a2c2 cos2 u sin2 v + a2b2 sin2 u)2,
H(u) =abc(a2 sin2 u cos2 v + b2 sin2 u sin2 v + c2 cos2 u+ a2 sin2 v + b2 cos2 v)
2(b2c2 cos2 u cos2 v + a2c2 cos2 u sin2 v + a2b2 sin2 u)32
43
例 10.12 例 2.2の (4)で与えた一葉双曲面のパラメータ表示 p
(u
v
)=
a coshu cos vb coshu sin v
c sinhu
から, u =
(u
v
)とおけば
pu(u) =
a sinhu cos vb sinhu sin v
c coshu
, pv(u) =
−a coshu sin vb coshu cos v
0
,
νp(u) =1√
b2c2 cosh2 u cos2 v + a2c2 cosh2 u sin2 v + a2b2 sinh2 u
−bc coshu cos v−ac coshu sin v
ab sinhu
である. 従って
νpu(u) =abc(
b2c2 cosh2 u cos2 v + a2c2 cosh2 u sin2 v + a2b2 sinh2 u) 3
2
ab2 sinhu cos v
a2b sinhu sin v
c coshu(b2 cos2 v + a2 sin2 v)
νpv(u) =abc coshu(
b2c2 cosh2 u cos2 v + a2c2 cosh2 u sin2 v + a2b2 sinh2 u) 3
2
a sin v(c2 cosh2 u+ b2 sinh2 u)
b cos v(c2 cosh2 u+ a2 sinh2 u)
c(a2 − b2) sinhu coshu cos v sin v
だから, 第一基本行列, 第二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率は次のようになる.
Ip(u) =
(a2 sinh2 u cos2 v + b2 sinh2 u sin2 v + c2 cosh2 u −(a2 − b2) coshu sinhu sin v cos v
−(a2 − b2) coshu sinhu sin v cos v cosh2 u(a2 sin2 v + b2 cos2 v)
),
IIp(u) =abc√
b2c2 cosh2 u cos2 v + a2c2 cosh2 u sin2 v + a2b2 sinh2 u
(−1 0
0 cosh2 u
)
K(u) = − a2b2c2(b2c2 cosh2 u cos2 v + a2c2 cosh2 u sin2 v + a2b2 sinh2 u
)2 ,H(u) =
abc(a2 sinh2 u cos2 v + b2 sinh2 u sin2 v + c2 cosh2 u− a2 sin2 v − b2 cos2 v)
2(b2c2 cosh2 u cos2 v + a2c2 cosh2 u sin2 v + a2b2 sinh2 u
) 32
例 10.13 例 2.2の (5)で与えた二葉双曲面のパラメータ表示 p
(u
v
)=
a sinhu cos vb sinhu sin v
c coshu
から, u =
(u
v
)とおけば
pu(u) =
a coshu cos vb coshu sin v
c sinhu
, pv(u) =
−a sinhu sin vb sinhu cos v
0
,
νp(u) =1√
b2c2 sinh2 u cos2 v + a2c2 sinh2 u sin2 v + a2b2 cosh2 u
−bc sinhu cos v−ac sinhu sin v
ab coshu
である. 従って
νpu(u) =−abc(
b2c2 sinh2 u cos2 v + a2c2 sinh2 u sin2 v + a2b2 cosh2 u) 3
2
ab2 coshu cos v
a2b coshu sin v
c sinhu(b2 cos2 v + a2 sin2 v)
44
νpv(u) =abc sinhu(
b2c2 sinh2 u cos2 v + a2c2 sinh2 u sin2 v + a2b2 cosh2 u) 3
2
a sin v(c2 sinh2 u+ b2 cosh2 u)
−b cos v(c2 sinh2 u+ a2 cosh2 u)
−c(a2 − b2) sinhu coshu cos v sin v
だから, 第一基本行列, 第二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率は次のようになる.
Ip(u) =
(a2 cosh2 u cos2 v + b2 cosh2 u sin2 v + c2 sinh2 u −(a2 − b2) coshu sinhu sin v cos v
−(a2 − b2) coshu sinhu sin v cos v sinh2 u(a2 sin2 v + b2 cos2 v)
),
IIp(u) =abc√
b2c2 sinh2 u cos2 v + a2c2 sinh2 u sin2 v + a2b2 cosh2 u
(1 0
0 sinh2 u
)
K(u) =a2b2c2(
b2c2 cosh2 u cos2 v + a2c2 cosh2 u sin2 v + a2b2 sinh2 u)2 ,
H(u) =abc(a2 cosh2 u cos2 v + b2 cosh2 u sin2 v + c2 sinh2 u+ a2 sin2 v + b2 cos2 v)
2(b2c2 cosh2 u cos2 v + a2c2 cosh2 u sin2 v + a2b2 sinh2 u
) 32
例 10.14 z 軸に平行な xz 平面上の直線 x = a, y = 0 を z 軸のまわりに回転させて得られる円柱面の第一基本行
列, 第二基本行列およびガウス曲率, 平均曲率は, 命題 10.7 から, 次のようになる.
Ip(u) =
(1 0
0 a2
), IIp(u) =
(0 0
0 a
), K(u) = 0, H(u) =
1
2a
例 10.15 例 2.4の (1)で与えた 2次元トーラスは x(u) =
a cosu+ b
0
a sinu
によってパラメータ表示される xz平面上
の曲線を z軸のまわりに回転させて得られる曲面だから, 命題 10.7から, 第一基本行列, 第二基本行列およびガウス
曲率, 平均曲率は次のようになる.
Ip(u) =
(a2 0
0 (a cosu+ b)2
), IIp(u) =
(a 0
0 cosu(a cosu+ b)
)
K(u) =cosu
a(a cosu+ b), H(u) =
2a cosu+ b
2a(a cosu+ b)
例 10.16 例 2.4の (2)で与えた回転レムニスケートは x(u) =
a sinu cosu2−cos2 u
0a cosu
2−cos2 u
によってパラメータ表示 xz平面上の
曲線を z軸のまわりに回転させて得られる曲面だから, 命題 10.7から, 第一基本行列, 第二基本行列およびガウス曲
率, 平均曲率は次のようになる.
Ip(u) =
(a2
2−cos2 u 0
0 a2 sin2 u cos2 u(2−cos2 u)2
), IIp(u) =
− 3a cosu
(2−cos2 u)32
0
0 −a sin2 u cosu(2+cos2 u)
(2−cos2 u)52
K(u) =
3(2 + cos2 u)
a2(2− cos2 u), H(u) = − 2 cos2 u+ 1
a cosu√2− cos2 u
例 10.17 例 2.4の (3)で与えた擬球は x(u) =
a cosu
0
a(
12 log
1+sinu1−sinu − sinu
) によってパラメータ表示される xz平面
上の曲線を z軸のまわりに回転させて得られる曲面だから, 命題 10.7から, 第一基本行列, 第二基本行列およびガウ
45
ス曲率, 平均曲率は次のようになる.
Ip(u) =
(a2 sin2 ucos2 u 0
0 a2 cos2 u
), IIp(u) =
(−a| sinu|
cosu 0
0 a| sinu| cosu
), K(u) = − 1
a2, H(u) = − cos 2u
a| sin 2u|
関数 φ : [p, q] →[0, π2
), ψ : [p, q] → R をそれぞれ第 1, 第 2成分とする
(0, π2
)×R 上の曲線φ : [p, q] →
[0, π2
)×R
を, p
(u
v
)=
a cosu cos v
a cosu sin v
a(
12 log
1+sinu1−sinu − sinu
) で与えられる擬球のパラメータ表示によって写して得られる擬球上の曲線
p φ : [p, q] → R3 が擬球の測地線であるためには, 系 10.8から, ψ が定数値関数ではない場合は, A, B を 0でな
い定数として,
φ′(t) tanφ(t) = ±A
√B2
A2− 1
cos2φ(t)· · · (∗), ψ′(t) =
A
a cos2φ(t)· · · (∗∗)
が成り立つことが必要十分である. f(t) = − log cos2φ(t) とおくと f ′(t) = 2φ′(t) tanφ(t) であり, cos2φ(t) = e−f(t)
だから, (∗) は f に関する微分方程式 f ′(t) = ±2A
√B2
A2− ef(t) に帰着する. ここで,
1√c2 − ex
の原始関数は
1
clog
c−√c2 − ex
c+√c2 − ex
で与えられるため, ±B をあらためて B とおけば, 定数 C に対して log1−
√1− A2
B2 ef(t)
1 +√1− A2
B2 ef(t)=
2(Bt + C) が成り立つ. この等式に, ef(t) =1
cos2φ(t)を代入すれば, cosφ(t) =
|A||B|
cosh(Bt + C) が得られ
る. φ は区間[0, π2
)に値をとるため, 0 < cosφ(t) ≦ 1 であり, 一方 cosh(Bt + C) ≧ 1 だから, 上式より定
数 A, B は |A| < |B| を満たすように選ぶ必要がある. このとき cosh(Bt + C) =|A||B|
cosφ(t) ≦ |A||B|
だから
tanh(Bt+ C) = ±√
1− 1
cosh2(Bt+ C)は区間
[−√
1− A2
B2 ,√
1− A2
B2
]に値をとることに注意する. また,
ψ′(t) =A
a cos2φ(t)=
B2
aA cosh2(Bt+ C)=
(B
aAtanh(Bt+ C)
)′
だから, ψ は ψ(t) =B
aAtanh(Bt+C) +D で与えられる. θ = ψ(t)−D とおけば, tanh(Bt+C) =
aAθ
Bより, 上
の注意から |θ| ≦√B2 −A2
a|A|である. このとき, k =
|B||A|とおくと k > 1 であり,
cosφ(t) =|A||B|
cosh(Bt+ C) =|A|
|B|√
1− tanh2(Bt+ C)=
|A|√B2 − a2A2θ2
=1√
k2 − a2θ2
sinφ(t) =√1− cos2φ(t) =
√1− A2
B2 − a2A2θ2=
√1− 1
k2 − a2θ2=
√k2 − a2θ2 − 1√k2 − a2θ2
だから, 擬球の測地線は, θ を −√k2 − 1
aから
√k2 − 1
aまで動くパラメータとして
q(θ) =
a cos(θ+D)√
k2−a2θ2
a sin(θ+D)√k2−a2θ2
a log(√k2 − a2θ2 +
√k2 − a2θ2 − 1
)− a
√k2−a2θ2−1√k2−a2θ2
で定義される曲線によって与えられる. とくに a = 1, D = 0 の場合, |θ| ≦
√k2 − 1 であり,
qk(θ) =
cos θ√k2−θ2
sin θ√k2−θ2
log(√k2 − θ2 +
√k2 − θ2 − 1
)−
√k2−θ2−1√k2−θ2
46
となる. 下の図は a = 1, k = 1.5, 2, 2.5, 3,√π2 + 1, 4, 10 に対する qk でパラメータ表示される擬球の測地線を, xy
平面, xz平面, yz平面に投影したものである.
0 1−1
1
−1
xy平面への投影
0 1−1
xz平面への投影
0 1−1
yz平面への投影
例 10.18 単位球面上の曲線 C は写像 ω : [a, b] → R3 によって弧長パラメータ表示されているとし, p
(u
v
)= uω(v)
によって定義される写像 p : (0,∞)× [a, b] → R3 を局所座標とする錐面を S とする.
C が単位球面上の曲線であることから, (ω(t),ω(t)) = 1が任意の t ∈ [a, b]に対して成り立つため, (ω(t),ω′(t)) = 0
が任意の t ∈ [a, b] に対して成り立つ. また ω が C の弧長パラメータ表示だから, (ω′(t),ω′(t)) = 1 が任意の
t ∈ [a, b] に対して成り立つ. 故に pu
(u
v
)= ω(v), pv
(u
v
)= uω′(v) より, Ip
(u
v
)=
(1 0
0 u2
)である. 従って,
命題 6.2 から, 局所座標 p から定まる関数 Γuuu, Γ
vu u, Γ
uu v, Γ
vu v, Γ
uv v, Γ
vv v は Γu
v v
(u
v
)= −u, Γ v
u v
(u
v
)=
1
u,
Γuuu
(u
v
)= Γ v
u u
(u
v
)= Γu
u v
(u
v
)= Γ v
v v
(u
v
)= 0 で与えられる.
さらに pu
(u
v
)× pv
(u
v
)= vω′(u) × ω(u) であり ω(u),ω′(u) は正規直交系だから, ∥ω′(u) × ω(u)∥ = 1 で
ある. 従って νp
(u
v
)= ω(v) × ω′(v) であり, νpu
(u
v
)= 0, νpv
(u
v
)= ω(v) × ω′′(v) が得られる. 故に,
δ(v) = −(ω′(v),ω(v)× ω′′(v)) = det(ω(v),ω′(v),ω′′(v)) とおけば IIp
(u
v
)=
(0 0
0 uδ(v)
)である.
c ∈ (a, b) に対し, R2 の開集合 Dc を
Dc =
( xy ) ∈ R2
∣∣ x > 0
a+ π2 ≦ c ≦ b− π
2( xy ) ∈ R2
∣∣ x > 0, y > −x tan(c− a)
c < a+ π2 , c ≦ b− π
2( xy ) ∈ R2
∣∣ x > 0, y < x tan(b− c)
c ≧ a+ π2 , c > b− π
2( xy ) ∈ R2
∣∣ x > 0, −x tan(c− a) < y < x tan(b− c)
b− π2 < c < a+ π
2
によって定め, 写像 φc : Dc → R3 を φc
(x
y
)=√x2 + y2 ω
(tan−1 y
x+ c)によって定める. このとき, 次の等式
47
が成り立つ.
φc x
(x
y
)=
x√x2 + y2
ω(tan−1 y
x+ c)− y√
x2 + y2ω′(tan−1 y
x+ c)
φc y
(x
y
)=
y√x2 + y2
ω(tan−1 y
x+ c)+
x√x2 + y2
ω′(tan−1 y
x+ c)
ω(tan−1 y
x+ c),ω′(tan−1 y
x+ c)は正規直交系だから, 上式から, 各
(x
y
)∈ Dc に対して φc x
(x
y
),φc y
(x
y
)も
正規直交系である. 従って (Dc,φc) は ω(c) を含む S の座標近傍である. このとき, 局所座標 φc に関する第一基
本行列は 2次単位行列になるため, 局所座標 φc から定まる関数 Γuuu, Γ
vu u, Γ
uu v, Γ
vu v, Γ
uv v, Γ
vv v はすべて値が 0 で
ある定数値関数である. 故に, 写像 x : [p, q] → Dc に対し, 合成写像 φc x : [p, q] → R3 でパラメータ表示される
曲線が S の測地線ならば, 注意 7.2の (2)より, x は x′′(t) = 0 を満たすため, x は Dc に含まれる線分である.
注意 10.19 写像 x : [p, q] → (0,∞)× [a, b] に対し, 合成写像 p x : [p, q] → R3 でパラメータ表示される曲線が S
の測地線であるとして, x(t) の第 1成分, 第 2成分の関数をそれぞれ x : [p, q] → [a, b], y : [p, q] → (0,∞) とすれば,
上の議論と, 注意 7.2の (2)より, x, y は次の微分方程式を満たす.x′′(t)− x(t)y′(t)2 = 0 · · · (i)
y′′(t) +2x′(t)y′(t)
x(t)= 0 · · · (ii)
y が定数値関数の場合, (ii)は成り立ち, (i)は x′′(t) = 0 となるため, x は 1次関数である. y が定数値関数ではな
いとき, (ii)の両辺を y′(t) で割って t で積分すれば, log |y′(t)|+ 2 log x(t) = log |A| (A は 0でない定数) が得られ
る. 従って y′(t) =A
x(t)2だから, これを (i)に代入して x′′(t)− A2
x(t)3= 0 を得る. この両辺に 2x′(t) をかけて t で
積分すれば, x′(t)2 +A2
x(t)2=A2
B2(B は 0でない定数) が得られる. この微分方程式は
x(t)x′(t)√x(t)2 −B2
=A
Bと変形
され, 両辺を t で積分すれば,√x(t)2 −B2 =
A
B(t− t0) (t0 は定数)が得られる. つねに x(t) > 0 であることから,
A を改めて AB2 と置き直せば, 上式から x は x(t) = B√A2(t− t0)2 + 1 という形の関数であることがわかる. 故
に y′(t) =A
A2(t− t0)2 + 1だから y は y(t) = tan−1(A(t− t0)) + c という形の関数である.
従って p x は (p x)(t) = A(t− t0)ω(c) で与えられる S の稜線であるか,
(p x)(t) = B√A2(t− t0)2 + 1ω(tan−1(A(t− t0)) + c) = φc
(B
AB(t− t0)
)
(ただし A,B, c, t0は定数で B > 0)という形で与えられる写像で, これは
(B
0
)∈ Dc を通り, y 軸に平行な Dc に
含まれる線分の φc による像のパラメータ表示に他ならない.
例 10.20 xz 平面上の曲線 C を z 軸のまわりに回転させて得られる曲面を S とし, x(u) =
x(u)0
z(u)
を C の弧長
パラメータ表示とする.
(1) S の任意の点におけるガウス曲率が 0 であるとする. 命題 10.7から, x′′(u) = 0 だから x は x(u) = au+ b と
いう形で与えられる. x′(u)2 + z′(u)2 = 1 から, z(u) = ±√1− a2u+ c が得られるため, C は直線であること
がわかる. C が x軸に平行な直線ならば S は平面, z軸に平行な直線ならば S は円柱面, x軸にも z軸にも平
行でない直線ならば S は円錐面である.
48
(2) S の任意の点におけるガウス曲率が a2 (a > 0)であるとする. 命題 10.7から x は微分方程式 x′′(u) = −a2x(u)の解である. 従って A, b を任意定数として x は x(u) = A cos(au+ b) と表される関数である. パラメータ u
を u− b
aで置き換えて b = 0 仮定してよい. x′(u)2 + z′(u)2 = 1 から, z′(u) = ±
√1− a2A2 sin2(au) だから,
z は楕円積分
z(u) = ±1
a
∫ au
0
√1− a2A2 sin2t dt+B
で与えられる関数である. とくに A =1
aの場合は z(u) = ±A sin(au) + B となって C は z 軸上に中心をも
つ円だから, S は球面である.
(3) S の任意の点におけるガウス曲率が −a2 (a > 0)であるとする. 命題10.7から xは微分方程式 x′′(u) = a2x(u)の
解である. 従って A, B を任意定数として xは x(u) = Aeau+Be−au と表される関数である. x′(u)2+z′(u)2 = 1
から, z′(u) = ±√1− a2(Aeau −Be−au)2 だから, z は積分
z(u) = ±∫ u
0
√1− a2(Aeat −Be−at)2 dt+K
で与えられる関数である. とくに A = 0 の場合, x = x(u) = Be−au だから K を u =1
alog
B
aのときに
z(u) = 0 となるように定めれば, z は以下で与えられる関数である.
z(u) =1
2a
(log
1 +√1− a2B2e−2au
1−√1− a2B2e−2au
− 2√1− a2B2e−2au − log
1 +√1− a4
1−√1− a4
+ 2√1− a4
)
=1
a
(log
1 +√1− a2x2
ax−√1− a2x2 − log
1 +√1− a4
a2+√1− a4
)
(4) S の任意の点における平均曲率が 0であるとする. 命題 10.7から x(u)x′′(u) = z′(u)2 が得られ,右辺は 1−x′(u)2
に等しいため, x に関する微分方程式 x(u)x′′(u) = 1− x′(u)2 が得られる. この両辺に − 2x′(u)
x(u)(1− x′(u)2)を
かければ −2x′(u)x′′(u)
1− x′(u)2= −2x′(u)
x(u)が得られ, この左辺は log(1− x′(u)2) の導関数であり, 右辺は log
1
x(u)2
の導関数だから, 0 以上の定数 c に対して 1− x′(u)2 =c2
x(u)2が成り立つ. 従って
x(u)x′(u)√x(u)2 − c2
= ±1 であ
り, 左辺は√x(u)2 − c2 の導関数だから, 定数 k に対して
√x(u)2 − c2 = ±(u + k) が成り立つ. 故に x は
x(u) = ±√(u+ k)2 + c2 で与えられ, 次の方程式が得られる.
z′(u) = ±√1− x′(u)2 = ± c√
(u+ k)2 + c2
sinh−1 t = log(t+
√t2 + 1
)であることを用いれば, c = 0 の場合, l を定数として z は
z(u) = ±c log(u+ k +
√(u+ k)2 + c2
)+ l = ±c sinh−1 u+ k
c∓ c log c+ l
で与えられる. L = ∓c log c + l とおけば sinhz − L
c= ±u+ k
c= ±
√x(u)2 − c2
cだから, z は x の関数と
して z = ±c sinh−1
√x2 − c2
c+ L という形になる. ここで, cosh2
z − L
c− 1 = sinh2
z − L
c=x2
c2− 1 だから
x > 0 と仮定すれば x = c coshz − L
cが得られる.
11 測地的極座標
定義 11.1 曲面 S と S の点 P および S の P における接平面上の正規直交基底 e1, e2 が与えられているとき, 次
の条件 (i), (ii), (iii)を満たす写像 p : [0, ε)×R → S (ε > 0) を P のまわりの測地的極座標という.
49
(i) すべての θ ∈ R に対して p( 0θ ) = P.
(ii) 任意の ( rθ ) ∈ [0, ε)×R に対して ωr,θ : [0, r] → S を ωr,θ(t) = p( tθ ) によって定めれば, ωr,θ は P と ωr,θ(r)
を結ぶ測地線の弧長パラメータ表示である.
(iii) ω′r,θ(0) = cos θe1 + sin θe2
補題 11.2 原点が Cr 級曲面 S 上の点で, 原点における S の接平面が xy平面であるとき, R2 の原点を含む開集合
U と Cr 級関数 f : U → R で, f( uv ) =
(uv
f(uv )
)によって定義される写像 f : U → R3 が原点のまわりの S の局
所座標になるものがある.
証明 q : D → R3 を原点のまわりの S の局所座標とする. R2 の平行移動を考えることにより, D は ( 00 ) を含み,
q( 00 ) = 0 であると仮定してよい. q の第 1成分, 第 2成分, 第 3成分の関数をそれぞれ g, h, k とし, π : R3 → R2
を xy平面への射影 π(
xyz
)= ( xy ) とする. このとき合成写像の微分法から次の等式が成り立つ.
(π q)′( 00 ) = π′(q( 00 )) q′( 00 ) =
(1 0 0
0 1 0
)∂g∂u (
00 )
∂g∂v (
00 )
∂h∂u (
00 )
∂h∂v (
00 )
∂k∂u (
00 )
∂k∂v (
00 )
=
(∂g∂u (
00 )
∂g∂v (
00 )
∂h∂u (
00 )
∂h∂v (
00 )
)
仮定から qu(00 ) =
∂g∂u (
00 )
∂h∂u (
00 )
∂k∂u (
00 )
, qv(00 ) =
∂g∂v (
00 )
∂h∂v (
00 )
∂k∂v (
00 )
は xy 平面上のベクトルだから∂k
∂u( 00 ) =
∂k
∂v( 00 ) = 0 であり,
qu(00 ), qv(
00 ) は 1次独立だから, (π q)′( 00 ) =
(∂g∂u (
00 )
∂g∂v (
00 )
∂h∂u (
00 )
∂h∂v (
00 )
)は正則行列である. 従って逆写像定理から, R2 の
原点を含む開集合 U , V ⊂ D とCr級写像φ : U → V で (π q)(V ) = U かつ φ((π q)(x)) = x, (π q)(φ(u)) = u
がすべての x ∈ V , u ∈ U に対して成り立つものがある. 写像 f : U → R3 を f(u) = q(φ(u)) で定めれば
π(f(u)) = (π q)(φ(u)) = u だから , f の第 3成分の関数を f とおけばよい.
Cr 級曲面 S は原点を含み, 原点における S の接平面が xy 平面であるとし, 原点のまわりの S の局所座標
p : U → R3 は Cr 級関数 f : U → R のグラフで与えられるとする. このとき, pu(00 ) と pv(
00 ) はともに xy 平面
上のベクトルだから fx( 00 ) = fy( 00 ) = 0 である. 従って命題 8.7から Ip( 00 ) は単位行列であり, E(u) = fx(u)2 + 1,
F (u) = fx(u)fy(u), G(u) = fy(u)2 + 1 だから, 次の等式が得られる.
Γuuu(u) =
fxx(u)fx(u)
(fx(u)2 + fy(u)2 + 1)2Γuu v(u) =
fxy(u)fx(u)
(fx(u)2 + fy(u)2 + 1)2Γuv v(u) =
fyy(u)fx(u)
(fx(u)2 + fy(u)2 + 1)2
Γ vu u(u) =
fxx(u)fy(u)
(fx(u)2 + fy(u)2 + 1)2Γ vu v(u) =
fxy(u)fy(u)
(fx(u)2 + fy(u)2 + 1)2Γ vv v(u) =
fyy(u)fy(u)
(fx(u)2 + fy(u)2 + 1)2
p の原点における ξ, ζ ∈ R に対し, 原点における接ベクトルが v =( ξ
ζ0
)である S の測地線で, 原点を通るものが写
像 γ でパラメータ表示されているとし, γ は t の関数 x(t) = x(t; ξ, ζ), y(t) = y(t; ξ, ζ) を用いて
γ(t;v) = p
(x(t; ξ, ζ)
y(t; ξ, ζ)
)
の形に表されているとする. このとき, 注意 7.2の (2)から x, y は微分方程式(fx(x(t))2+fy(x(t))
2+1)2x′′(t)+fx(x(t))(fxx(x(t))x′(t)2+2fxy(x(t))x
′(t)y′(t)+fyy(x(t))y′(t)2)=0
(fx(x(t))2+fy(x(t))
2+1)2y′′(t)+fy(x(t))(fxx(x(t))x′(t)2+2fxy(x(t))x
′(t)y′(t)+fyy(x(t))y′(t)2)=0
(11.1)
の解で, 初期条件 (x(0), y(0), x′(0), y′(0)) = (0, 0, ξ, ζ) を満たすものである. このとき,( t
ξζ
)を x(t; ξ, ζ), y(t; ξ, ζ)
に対応させる関数はともに R3 の原点を含むある開集合で定義された Cr 級関数である.
50
補題 11.3 実数 c に対し, x(ct; ξ, ζ) = x(t; cξ, cζ), y(ct; ξ, ζ) = y(t; cξ, cζ) が成り立つ. 従って γ(ct;v) = γ(t; cv)
である.
証明 x(t) = x(ct; ξ, ζ), y(t) = y(ct; ξ, ζ) によって関数 x, y を定義すれば
x′(t) = cx′(ct; ξ, ζ), y′(t) = cy(ct; ξ, ζ), x′′(t) = c2x(ct; ξ, ζ), y′′(t) = c2y(ct; ξ, ζ)
だから, x, y も微分方程式 (11.1)の解で,初期条件 (x(0), y(0), x′(0), y′(0)) = (0, 0, cξ, cζ)を満たす. 一方 x(t; cξ, cζ),
y(t; cξ, cζ) も (11.1)の解で同じ初期条件を満たすため, 常微分方程式の解の一意性から x(t) = x(t; cξ, cζ), y(t) =
y(t; cξ, cζ) が成り立つ.
補題 11.4 正の実数 ε > 0 で次の条件 (∗)を満たすものが存在する.
(∗) ξ2 + ζ2 < ε2 を満たす任意の実数 ξ, ζ に対し, 微分方程式 (11.1)の解 x(t) = x(t; ξ, ζ), y(t) = y(t; ξ, ζ) で,
初期条件 (x(0), y(0), x′(0), y′(0)) = (0, 0, ξ, ζ) を満たし, [0, 1] を含む開区間で定義されたものがある.
証明 常微分方程式の解の存在定理から ε, δ > 0が存在して, ξ2+ζ2 < ε2 ならば区間 (−δ, δ)で定義された (11.1)の解
x(t) = x(t; ξ, ζ), y(t) = y(t; ξ, ζ)で,初期条件 (x(0), y(0), x′(0), y′(0)) = (0, 0, ξ, ζ)を満たすものが存在する. ε =δε
2
とおけば ξ2+ζ2 < ε2 を満たす ξ, ζ に対し,
(2ξ
δ
)2
+
(2ζ
δ
)2
< ε2 だから, x(t; 2ξ
δ ,2ζδ
), y(t; 2ξ
δ ,2ζδ
)は[0, δ2]を含む
区間で定義された (11.1)の解である. 従って補題 11.3から x(t) = x(
δt2 ;
2ξδ ,
2ζδ
)= x(t; ξ, ζ), y(t) = y
(δt2 ;
2ξδ ,
2ζδ
)=
y(t; ξ, ζ) は [0, 1] を含む開区間で定義された (11.1)の解で, 初期条件 (x(0), y(0), x′(0), y′(0)) = (0, 0, ξ, ζ) を満た
す.
補題 11.4 の設定のもとで, R2 の原点を中心とする半径 ε の開円板を Dε で表し, 写像 φP : Dε → R2 を
φP
(ξζ
)=
(x(1; ξ, ζ)
y(1; ξ, ζ)
)によって定義する.
補題 11.5 φP は原点を含むある開集合 U から原点を含むある開集合 V への同相写像で, φP の逆写像も Cr 級写
像である.
証明 x(1; 0, 0) = y(1; 0, 0) = x(0; ξ, ζ) = y(0; ξ, ζ) = 0 であることに注意すれば, 補題 11.3から
∂x
∂ξ(1; 0, 0) = lim
t→0
x(1; t, 0)− x(1; 0, 0)
t= lim
t→0
x(t; 1, 0)− x(0; 1, 0)
t= x′(0; 1, 0) = 1
∂x
∂ζ(1; 0, 0) = lim
t→0
x(1; 0, t)− x(1; 0, 0)
t= lim
t→0
x(t; 0, 1)− x(0; 0, 1)
t= x′(0; 0, 1) = 0
∂y
∂ξ(1; 0, 0) = lim
t→0
y(1; t, 0)− y(1; 0, 0)
t= lim
t→0
y(t; 1, 0)− y(0; 1, 0)
t= y′(0; 1, 0) = 0
∂y
∂ζ(1; 0, 0) = lim
t→0
y(1; 0, t)− y(1; 0, 0)
t= lim
t→0
y(t; 0, 1)− y(0; 0, 1)
t= y′(0; 0, 1) = 1
だから φP の原点における微分 φ′P(
00 ) は単位行列である. 従って逆写像定理によって主張が成り立つ.
必要ならば ε > 0 を小さいものに取り替えることによって, 補題 11.5の U は Dε に一致するとしてよい.
定理 11.6 曲面 S と S 上の任意の点 P に対して P のまわりの測地的極座標が存在する.
証明 P が原点に写るように S を平行移動して, さらに P における S の接平面の与えられた正規直交基底 e1, e2
がそれぞれ(
100
),(
010
)に写るように原点を通る直線を軸にして S を回転移動することにより, P が R3 の原点で
e1 =(
100
)e2 =
(010
)の場合に主張を示せばよい. このとき補題 11.2における S の原点のまわりの局所座標 f を考
51
え, 補題 11.5の写像を用いて p( rθ ) = f
(x(1; r cos θ, r sin θ)
y(1; r cos θ, r sin θ)
)によって写像 p : [0, ε)×R → S を定める. このとき
θ ∈ R に対し p( 0θ ) = f
(x(1; 0, 0)
y(1; 0, 0)
)= 0 である. ( rθ ) ∈ [0, ε)×R に対して ωr,θ : [0, r] → S を ωr,θ(t) = p( t
θ ) に
よって定めれば, 補題 11.3から ωr,θ(t) = f
(x(t; cos θ, sin θ)
y(t; cos θ, sin θ)
)だから
ω′r,θ(0) = f ′( 00 )
(x′(0; cos θ, sin θ)
y′(0; cos θ, sin θ)
)=
1 0
0 1
0 0
(cos θsin θ
)= cos θe1 + sin θe2
であり, ωr,θ は原点と ωr,θ(r) を結ぶ測地線のパラメータ表示である. さらに ω′r,θ(0) の長さは 1だから命題 7.7よ
り ωr,θ は弧長パラメータ表示である. 以上から, p は原点のまわりの測地的極座標である.
p : [0, ε)×R → S を曲面 S の点 P のまわりの測地的極座標とし, pr =∂p
∂r, pθ =
∂p
∂θとおく.
補題 11.7 任意の ( tθ ) ∈ [0, ε)×R に対して (pr(
tθ ) ,pr(
tθ )) = 1, (pr(
tθ ) ,pθ(
tθ )) = 0, lim
r→+0
(prθ(rθ ) ,pθ(
rθ ))
r= 1,
limr→+0
(pθ(rθ ) ,pθ(
rθ ))
r2= 1 が成り立つ.
証明 t ∈ [0, ε) を p( tθ ) に対応させる写像は測地線の弧長パラメータ表示であることから (pr(
tθ ) ,pr(
tθ )) = 1 であ
る. 等式 (pr(tθ ) ,pr(
tθ )) = 1 の両辺を θ で偏微分すれば, 2 (pr(
tθ ) ,prθ(
tθ )) = 0 が得られるため, θ を固定すれば
d
dt(pr(
tθ ) ,pθ(
tθ )) = (prr(
tθ ) ,pθ(
tθ )) + (pr(
tθ ) ,prθ(
tθ )) = (prr(
tθ ) ,pθ(
tθ ))
である. pθ(tθ ) は S の接平面上のベクトルであり, t ∈ [0, ε) を p( t
θ ) に対応させる写像は測地線の弧長パラメー
タ表示だから, p( tθ ) における主法線ベクトル prr(
tθ ) は p( t
θ ) における S の法線ベクトルと平行である. 故に
(prr(tθ ) ,pθ(
tθ )) = 0 となるため, 上式から (pr(
tθ ) ,pθ(
tθ )) は t に依存しない. 一方, 任意の θ ∈ R に対して
p( 0θ ) = 0 だから pθ(0θ ) = 0 である. 従って (pr(
tθ ) ,pθ(
tθ )) = (pr(
0θ ) ,pθ(
0θ )) = 0 が得られる. また, p′
r(0θ ) は
t ∈ [0, ε) を p( tθ ) に対応させる測地線の P における接ベクトルだから pr(
0θ ) = cos θe1 + sin θe2 である. 故に
prθ(0θ ) = − sin θe1 + cos θe2 であり (prθ(
0θ ) ,prθ(
0θ )) = 1 だから, ロピタルの定理を用いれば
limt→+0
(pθ(tθ ) ,pθ(
tθ ))
t2= lim
t→+0
(prθ(tθ ) ,pθ(
tθ ))
t= lim
t→+0((prrθ(
tθ ) ,pθ(
tθ )) + (prθ(
tθ ) ,prθ(
tθ )))
= (prrθ(0θ ) ,pθ(
0θ )) + (prθ(
0θ ) ,prθ(
0θ )) = 1
が得られる.
関数 h : [0, ε)×R → R を h( rθ ) = ∥pθ(rθ )∥ によって定める. このとき, 補題 11.7から p に関する第一基本量は
E( rθ ) = (pr(rθ ) ,pr(
rθ )) = 1 F ( rθ ) = (pr(
rθ ) ,pθ(
rθ )) = 0 G( rθ ) = (pθ(
rθ ) ,pθ(
rθ )) = h( rθ )
2
で与えられる.
補題 11.8 任意の θ ∈ R に対して limr→+0
h( rθ )
r= 1, lim
r→+0h( rθ ) = 0, lim
r→+0hr(
rθ ) = 1 が成り立つ.
証明 補題 11.7から limr→+0
h( rθ )2
r2= 1 であり, h はつねに 0 以上の値をとるため, lim
r→+0
h( rθ )
r= 1 である. 従って
limr→+0
h( rθ ) = 0 である. h( rθ ) =√(pθ(
rθ ) ,pθ(
rθ )) より hr(
rθ ) =
(prθ(rθ ) ,pθ(
rθ ))√
(pθ(rθ ) ,pθ(
rθ ))
=(prθ(
rθ ) ,pθ(
rθ ))
h( rθ )である. 故
に limr→+0
h( rθ )
r= 1 と補題 11.7から lim
r→+0hr(
rθ ) = lim
r→+0
(prθ(rθ ) ,pθ(
rθ ))
h( rθ )= lim
r→+0
(prθ(rθ ) ,pθ(
rθ ))
rlim
r→+0
r
h( rθ )= 1
が得られる.
52
補題 11.9 S の点 p( rθ ) におけるガウス曲率は K( rθ ) = −hrr(rθ )
h( rθ )で与えられる.
証明 Er = Eθ = Eθθ = Fr = Fθ = Frθ = 0, Gr = 2hhr, Grr = 2hhrr + 2h2r が成り立つため, 定理 8.15から
K( rθ ) =Gr(
rθ )
2
4G( rθ )2 − Grr(
rθ )
2G( rθ )=
4h( rθ )2hr(
rθ )
2
4h( rθ )4 − 2h( rθ )hrr(
rθ ) + 2hr(
rθ )
2
2h( rθ )2 = −hrr(
rθ )
h( rθ )である.
補題 11.10 関数 r : [a, b] → [0, ε), θ : [a, b] → R に対し, γ(s) = p(
r(s)θ(s)
)で定義される写像 γ : [a, b] → S が S の
測地線であるためには, r, θ が次の微分方程式の解であることが必要十分である.
r′′(s)− h(
r(s)θ(s)
)hr
(r(s)θ(s)
)θ′(s)2 = 0 θ′′(s) + 2
hr
(r(s)θ(s)
)h(
r(s)θ(s)
) r′(s)θ′(s) + hθ
(r(s)θ(s)
)h(
r(s)θ(s)
) θ′(s)2 = 0
証明 Er = Eθ = Eθθ = Fr = Fθ = Frθ = 0, Gr = 2hhr, Gθ = 2hhθ だから命題 6.2より
Γ rr r(
rθ ) = Γ r
r θ(rθ ) = Γ θ
r r(rθ ) = 0, Γ r
θ θ(rθ ) = −Gr(
rθ )G(
rθ )
2G( rθ )= −h( rθ )hr( rθ ) ,
Γ θr θ(
rθ ) =
Gr(rθ )
2G( rθ )=
2h( rθ )hr(rθ )
2h( rθ )2 =
hr(rθ )
h( rθ ), Γ θ
θ θ(rθ ) =
Gθ(rθ )
2G( rθ )=
2h( rθ )hθ(rθ )
2h( rθ )2 =
hθ(rθ )
h( rθ )
が成り立つ. 従って注意 7.2の (2)から主張が成り立つ.
測地的極座標 p に関してE( rθ ) = 1, F ( rθ ) = 0 だから, 任意の ( rθ ) ∈ (0, ε) に対し, pr(rθ ),
1
h( rθ )pθ(
rθ ) は p( rθ ) に
おける S の接平面の正規直交基底である.
補題 11.11 γ : [a, b] → S を S の測地線の弧長パラメータ表示とする. s ∈ [a, b] に対して γ(s) = p(
r(s)θ(s)
)を満た
す [a, b] 上の関数 r, θ を考え, [a, b] 上の関数 φ が任意の s ∈ [a, b] に対して等式
γ′(s) = cosφ(s)pr
(r(s)θ(s)
)+
sinφ(s)
h(
r(s)θ(s)
)pθ
(r(s)θ(s)
)
を満たせば φ′(s) = −θ′(s)hr(
r(s)θ(s)
)が成り立つ.
証明 γ′(s) = r′(s)pr
(r(s)θ(s)
)+ θ′(s)pθ
(r(s)θ(s)
)だから, 仮定から r′(s) = cosφ(s) かつ θ′(s) =
sinφ(s)
h(
r(s)θ(s)
) である. 従っ
て, 合成写像の微分法から次の等式が得られる.
θ′′(s) =φ′(s) cosφ(s)
h(
r(s)θ(s)
) −sinφ(s)
(r′(s)hr
(r(s)θ(s)
)+ θ′(s)hθ
(r(s)θ(s)
))h(
r(s)θ(s)
)2=φ′(s) cosφ(s)
h(
r(s)θ(s)
) −sinφ(s) cosφ(s)hr
(r(s)θ(s)
)h(
r(s)θ(s)
)2 −sin2φ(s)hθ
(r(s)θ(s)
)h(
r(s)θ(s)
)3これらを補題 11.10の左の方程式に代入して整理すると φ′(s) cosφ(s) + cosφ(s)hr
(r(s)θ(s)
)θ′(s) = 0 が得られるため
cosφ(s) = 0ならば主張が成り立つ. ε > 0で, s ∈ (s0−ε, s0+ε)ならば cosφ(s) = 0となるもの存在する場合, φの連
続性から φは (s0−ε, s0+ε)で一定の値をとる. このとき φ′(s0) = 0だから r′′(s0) = −φ′(s0) sinφ(s0) = 0である.
従って補題 11.10の右の方程式から hr
(r(s0)θ(s0)
)θ′(s0)
2 = 0が成り立つ. cosφ(s0) = 0だから sinφ(s0) = ±1となるた
め, θ′(s0) =sinφ(s0)
h(
r(s0)θ(s0)
) = 0である. 故に上式から hr
(r(s0)θ(s0)
)= 0が得られるため, φ′(s0) = 0 = −θ′(s0)hr
(r(s0)θ(s0)
)が
成り立つ. cosφ(s0) = 0かつ s0 を含むいかなる区間でも cosφ(s) = 0となる sが存在する場合は s0 に収束する [a, b]
の数列 (sn)n∈N で cosφ(sn) = 0 を満たすものがある. このとき, 任意の n に対して φ′(sn) = −θ′(sn)hr(
r(sn)θ(sn)
)が成り立つため, この等式に現れる関数の連続性から n→ ∞ とすれば φ′(s0) = −θ′(s0)hr
(r(s0)θ(s0)
)が得られる.
53
定義 11.12 曲面 S の点 P のまわりの測地的極座標 p : [0, ε) × R → S が与えられたとき 0 < r < ε に対して,
θ ∈ [0, 2π] を p( rθ ) に対応させる写像でパラメータ表示される曲線を P を中心とする半径 r の測地円という.
定理 11.13 曲面 S の点 P を中心とする半径 r の測地円の周囲の長さを LP(r), 測地円で囲まれた部分の面積を
AP(r) で表す. また P における S のガウス曲率を K(P) とおけば次の等式が成り立つ.
K(P) = limr→+0
3
π
(2πr − LP(r)
r3
)= lim
r→+0
12
π
(πr2 −AP(r)
r4
)
証明 LP(r) =
∫ 2π
0
∥pθ(rθ )∥ dθ =
∫ 2π
0
h( rθ ) dθ だから, L′P(r) =
∫ 2π
0
hr(rθ ) dθ であり, 補題 11.8から
limr→+0
LP(r) = limr→+0
∫ 2π
0
h( rθ ) dθ =
∫ 2π
0
limr→+0
h( rθ ) dθ =
∫ 2π
0
0 dθ = 0
limr→+0
L′P(r) = lim
r→+0
∫ 2π
0
hr(rθ ) dθ =
∫ 2π
0
limr→+0
hr(rθ ) dθ =
∫ 2π
0
1 dθ = 2π
が成り立つ. また, 補題 11.9を用いれば
L′′P(r) =
∫ 2π
0
hrr(rθ ) dθ = −
∫ 2π
0
K( rθ )h(rθ ) dθ
である. r → 0 のとき p( rθ ) → P だから, ガウス曲率の連続性から limr→+0
K( rθ ) = K(P) である. 従ってロピタルの
定理と補題 11.9から
limr→+0
3
π
(2πr − LP(r)
r3
)= lim
r→+0
2π − L′P(r)
πr2= lim
r→+0
−L′′P(r)
2πr= lim
r→+0
1
2π
∫ 2π
0
K( rθ )h( rθ )
rdθ
=1
2π
∫ 2π
0
limr→+0
K( rθ )h( rθ )
rdθ =
1
2π
∫ 2π
0
K(P) dθ = K(P)
が得られる. p : [0, ε)×R → S によって ( tθ ) ∈ [0, ε)×R | 0 ≦ t ≦ r, 0 ≦ θ ≦ 2π が点 P を中心とする半径 r の
測地円で囲まれた部分に面積 0の部分を除いて 1対 1に写されるため,
AP(r) =
∫ r
0
∫ 2π
0
√E( t
θ )G(tθ )− F ( t
θ )2dθdt =
∫ r
0
∫ 2π
0
h( tθ ) dθdt =
∫ r
0
LP(t) dt
が成り立つ. 故に微積分学の基本定理から A′P(r) = LP(r) が得られるため, ロピタルの定理と上の結果から
limr→+0
12
π
(πr2 −AP(r)
r4
)= lim
r→+0
3
π
(2πr − LP(r)
r3
)= K(P)
が得られる.
12 単連結性
定義 12.1 X, Y を位相空間, A, B をそれぞれ X, Y の部分空間, f, g : X → Y を連続写像とする.
(1) f(A) ⊂ B, g(A) ⊂ B が成り立つとき, 連続写像 H : X × [0, 1] → Y で, H(A × [0, 1]) ⊂ B かつ, すべての
x ∈ X に対して f(x) = H(x, 0), g(x) = H(x, 1) を満たすものが存在するとき, f と g はホモトピックであるとい
い, f ≃ g で表す. また H を f から g へのホモトピーという.
(2) f(x) = g(x) がすべての x ∈ A に対して成り立つとき, 連続写像 H : X × [0, 1] → Y で, すべての x ∈ X に
対して f(x) = H(x, 0), g(x) = H(x, 1) かつすべての (x, t) ∈ A× [0, 1] に対して f(x) = H(x, t) を満たすものが存
在するとき, f と g は A を固定してホモトピックであるといい, f ≃ g rel A または f ≃A g で表す.
位相空間 X, Y とこれらの部分空間 A ⊂, B ⊂ Y に対し, f(A) ⊂ B を満たす X から Y への連続写像全体から
なる集合を Map((X,A), (Y,B)) で表す. A, B がともに空集合の場合, Map((X, ∅), (Y, ∅)) を Map(X,Y ) で表す.
54
命題 12.2 ≃ は Map((X,A), (Y,B)) における同値関係である.
証明 f ∈ Map((X,A), (Y,B)) に対し, H : X × [0, 1] → Y を H(x, t) = f(x) で定めれば, H は f から f へのホモ
トピーだから f ≃ f である. f, g ∈ Map((X,A), (Y,B)) に対し, f ≃ g ならば f から g へのホモトピー H が存在す
る. G : X× [0, 1] → Y を G(x, t) = H(x, 1− t)で定めれば, G(A× [0, 1]) = H(A× [0, 1]) ⊂ B かつ, すべての x ∈ X
に対して g(x) = H(x, 1) = G(x, 0), f(x) = H(x, 0) = G(x, 1) が成り立つため, G は g から f へのホモトピーであ
る. 従って g ≃ f である. f, g, h ∈ Map((X,A), (Y,B)) に対し, f ≃ g かつ g ≃ h ならば f から g へのホモトピー
H と g から h へのホモトピー G が存在する. F : X × [0, 1] → Y を F (x, t) =
H(x, 2t) 0 ≦ t ≦ 12
G(x, 2t− 1) 12 ≦ t ≦ 1
で定めれ
ば, F は連続で, F(A×
[0, 12])
= H(A× [0, 1]) ⊂ B, F(A×
[12 , 1])
= G(A× [0, 1]) ⊂ B だから F (A× [0, 1]) ⊂ B
であり, すべての x ∈ X に対して f(x) = H(x, 0) = F (x, 0), h(x) = G(x, 1) = F (x, 1) が成り立つため, F は f か
ら h へのホモトピーである. 故に f ≃ h が成り立つ.
f(1) = g(0) を満たす f, g ∈ Map([0, 1], X) に対し, f ∗ g ∈ Map([0, 1], X) を
(f ∗ g)(t) =
f(2t) 0 ≦ t ≦ 12
g(2t− 1) 12 ≦ t ≦ 1
によって定義する. また f ∈ Map([0, 1], X) に対し, f ∈ Map([0, 1], X) を f(t) = f(1− t) で定義する.
命題 12.3 p ∈ X に対し, cp : [0, 1] → X をつねに値が p である定値写像とする. f, g, h, k ∈ Map([0, 1], X) に対し
以下が成り立つ.
(1) f(1) = g(0), h(1) = k(0), f(i) = h(i), g(i) = k(i) (i = 0, 1) かつ f ≃ h rel 0, 1, g ≃ k rel 0, 1 ならばf ∗ g ≃ h ∗ k rel 0, 1, f ≃ h rel 0, 1 である.
(2) f(1) = g(0), g(1) = h(0) ならば (f ∗ g) ∗ h ≃ f ∗ (g ∗ h) rel 0, 1 である.
(3) f(0) = p, f(1) = q とおけば cp ∗ f ≃ f ∗ cq ≃ f rel 0, 1 である.
(4) f(0) = p, f(1) = q とおけば f ∗ f ≃ cp, f ∗ f ≃ cq rel 0, 1 である.
証明 (1) H, G をそれぞれ f から h, g から k へのホモトピーとする. F,E : [0, 1]× [0, 1] → X を
F (s, t) =
H(2s, t) 0 ≦ s ≦ 12 , 0 ≦ t ≦ 1
G(2s− 1, t) 12 ≦ s ≦ 1, 0 ≦ t ≦ 1
, E(s, t) = H(1− s, t)
によって定めれば, F , E は連続で s, t ∈ [0, 1] に対し F (s, 0) = (f ∗ g)(s), F (s, 1) = (h ∗ k)(s), F (0, t) = f(0) =
(f ∗ g)(0), F (1, t) = g(1) = (f ∗ g)(1), E(s, 0) = f(s), E(s, 1) = h(s), E(0, t) = f(1) = f(0), E(1, t) = f(0) = f(1)
だから, F は f ∗ g から h ∗ k へのホモトピーであり, E は f から h へのホモトピーである.
(2) H : [0, 1]× [0, 1] → X を
H(s, t) =
f(
4st+1
)0 ≦ s ≦ t+1
4
g(4s− t− 1) t+14 ≦ s ≦ t+2
4
h(
4s−2−t2−t
)t+24 ≦ s ≦ 1
によって定めれば H は連続で, H(s, 0) = ((f ∗g)∗h)(s), H(s, 1) = (f ∗ (g ∗h))(s), H(0, t) = f(0) = ((f ∗g)∗h)(0),H(1, t) = h(1) = ((f ∗ g) ∗ h)(1) が成り立つため, (f ∗ g) ∗ h ≃ f ∗ (g ∗ h) rel 0, 1 である.
(3) H,G : [0, 1]× [0, 1] → X を
H(s, t) =
p 0 ≦ s ≦ 1−t2
f(
2s+t−1t+1
)1−t2 ≦ s ≦ 1
, G(s, t) =
f(
2st+1
)0 ≦ s ≦ t+1
2
q t+12 ≦ s ≦ 1
55
によって定めれば H, G は連続で, H(s, 0) = (cp ∗f)(s), H(s, 1) = f(s), H(0, t) = p = (cp ∗f)(0), H(1, t) = f(1) =
(cp ∗ f)(1), G(s, 0) = (f ∗ cq)(s), G(s, 1) = f(s), G(0, t) = f(0) = (f ∗ cq)(0), G(1, t) = q = (f ∗ cq)(1) が成り立つため, cp ∗ f ≃ f rel 0, 1 である.
(4) H,G : [0, 1]× [0, 1] → X を
H(s, t) =
f(2s(1− t)) 0 ≦ s ≦ 12
f(2(1− s)(1− t)) 12 ≦ s ≦ 1
, G(s, t) =
f(1− 2s(1− t)) 0 ≦ s ≦ 12
f(2(s− 1)(1− t) + 1) 12 ≦ s ≦ 1
によって定めれば H, G は連続で, H(s, 0) = (f ∗ f)(s), H(s, 1) = f(0) = cp(s), H(0, t) = p = (f ∗ f)(0),H(1, t) = f(1) = (f ∗ f)(1), G(s, 0) = (f ∗ f)(s), G(s, 1) = f(1) = cq(s), G(0, t) = f(1) = (f ∗ f)(0), G(1, t) =f(1) = (f ∗ f)(1) が成り立つため, f ∗ f ≃ cq rel 0, 1 である.
位相空間 X と p ∈ X に対し, 集合 Map(([0, 1], 0, 1), (X, p)) の同値関係 ≃ による商集合を π(X, p) で表し,
f ∈ Map(([0, 1], 0, 1), (X, p)) の同値類を [f ] で表す.
定義 12.4 α, β ∈ π(X, p) に対し, α = [f ], β = [g] となる f, g ∈ Map(([0, 1], 0, 1), (X, p)) を選び, α∗β = [f ∗g]によって π(X, p) における演算 ∗ を定義する. 命題 12.3から, この演算により π(X, p) は群になるが, π(X, p) を p
を基点とする X の基本群という.
p, q ∈ X と f(0) = p f(1) = q を満たす連続写像 f : [0, 1] → X に対し f♯ : π(X, p) → π(X, q) を次のように定め
る. α ∈ π(X, p) に対し, α = [h] となる h ∈ Map(([0, 1], 0, 1), (X, p)) を選び, f♯(α) = [(f ∗ h) ∗ f ] とする. 命
題 12.3から, f♯(α) は同値類 α の代表元 h の選び方に依存しない. また, f ≃ g rel 0, 1 ならば f♯ = g♯ である.
命題 12.5 f♯ : π(X, p) → π(X, q) は同型写像である. 従って X が弧状連結ならば, すべての p ∈ X に対して
π(X, p) は同型である.
証明 α, β ∈ π(X, p) に対し, α = [g], β = [h] となる g, h ∈ Map(([0, 1], 0, 1), (X, p)) を選べば f♯ の定義から
f♯(α) ∗ f♯(β) = [((f ∗ h) ∗ f) ∗ ((f ∗ g) ∗ f)], f♯(α ∗ β) = [(f ∗ (g ∗ h)) ∗ f ] であり, 命題 12.3を用いると
((f ∗ h) ∗ f) ∗ ((f ∗ g) ∗ f) ≃ ((f ∗ h) ∗ f) ∗ (f ∗ (g ∗ f)) ≃ (((f ∗ h) ∗ f) ∗ f) ∗ (g ∗ f)
≃ ((f ∗ h) ∗ (f ∗ f)) ∗ (g ∗ f) ≃ ((f ∗ h) ∗ cp) ∗ (g ∗ f) ≃ ((f ∗ h) ∗ (g ∗ f)
≃ ((f ∗ h) ∗ g) ∗ f ≃ (f ∗ (h ∗ g)) ∗ f rel 0, 1
だから f♯(α ∗ β) = f♯(α) ∗ f♯(β) が成り立つ. α ∈ π(X, p) に対し, α = [g] となる g ∈ Map(([0, 1], 0, 1), (X, p))を選ぶと ˇf = f だから f♯(f♯(α)) = [(f ∗ ((f ∗ g) ∗ f)) ∗ f ] であり, 命題 12.3を用いると
(f ∗ ((f ∗ g) ∗ f)) ∗ f ≃ f ∗ (((f ∗ g) ∗ f) ∗ f) ≃ f ∗ ((f ∗ g) ∗ (f ∗ f)) ≃ f ∗ ((f ∗ g) ∗ cq)
≃ f ∗ (f ∗ g) ≃ (f ∗ f) ∗ g ≃ cp ∗ g ≃ g rel 0, 1
だから f♯(f♯(α)) = [g] = α が成り立つ. さらに f を f で置き換えれば α ∈ π(X, q) に対し, f♯(f♯(α)) = α が得ら
れる. 従って f♯ : π(X, q) → π(X, p) は f♯ : π(X, p) → π(X, q) の逆写像である.
定義 12.6 位相空間 X が弧状連結で, ある p ∈ X に対して π(X, p) が単位元だけからなる群であるとき, X は単
連結であるという. このとき命題 12.5から任意の p ∈ X に対して π(X, p) は単位元だけからなる群である.
命題 12.7 X を位相空間とし, 連続写像 f, g : [0, 1] → X は f(0) = g(0), f(1) = g(1) 満たすとする. f(0) = p と
おくとき π(X, p) が単位元だけからなる群ならば f ≃ g rel 0, 1 である.
56
証明 f(1) = g(1) = g(0) だから f ∗ g が定義できて, (f ∗ g)(0) = (f ∗ g)(1) = p を満たすため, 仮定から連続写像
H : [0, 1]× [0, 1] → X で, すべての s, t ∈ [0, 1] に対して (f ∗ g)(s) = H(s, 0), H(s, 1) = H(0, t) = H(1, t) = p を満
たすものが存在する. 写像 φ : [0, 1]× [0, 1] → [0, 1]× [0, 1] を
φ(s, t) =
(s+t2 , t
)0 ≦ t ≦ 1
2 , t ≦ s ≦ 1− t(12 , 1− s
)12 ≦ s ≦ 1, 1− s ≦ t ≦ s(
1−s+t2 , 1− t
)12 ≦ t ≦ 1, 1− t ≦ s ≦ t
(s, 3t− 2s) 0 ≦ s ≦ 12 , s ≦ t ≦ 1+s
3
(3t− 1, 1− s) 0 ≦ s ≦ 12 ,
1+s3 ≦ t ≦ 2−s
3
(1− s, 3− 2s− 3t) 0 ≦ s ≦ 12 ,
2−s3 ≦ t ≦ 1− s
によって定めれば, φ は連続であり, 次の等式を満たす.
φ(s, 0) =(s2 , 0), φ(s, 1) =
(1− s
2 , 0), φ(0, t) =
(0, 3t) 0 ≦ t ≦ 1
3
(3t− 1, 1) 13 ≦ t ≦ 2
3
(1, 3− 3t) 23 ≦ t ≦ 1
, φ(1, t) =(12 , 0)
故に (H φ)(s, 0) = H(s2 , 0)= (f ∗ g)
(s2 , 0)= f(s), (H φ)(s, 1) = H
(1− s
2 , 0)= (f ∗ g)
(1− s
2 , 0)= g(s),
(H φ)(0, t) = p, (H φ)(1, t) = H(12 , 0)= f(1) = g(1) がすべての s, t ∈ [0, 1] に対して成り立つため, f ≃ g
rel 0, 1 である.
13 面積分
定義 13.1 S を曲面とし, S の局所座標の集合 pi : Di → R3| i ∈ I で, 定義 4.2の (i)から (iv)の条件に加えて
次の条件 (v)を満たすものが存在するとき, S は向き付け可能であるという.
(v) i, j ∈ I に対し, S ∩ Vi ∩ Vj が空集合でないとき, pi から pj への座標変換 φij : Dij → Dji は任意の u ∈ Dij
に対して det φ′ij(u) > 0 を満たす.
定義 13.2 n を曲面 S のベクトル場とする. 任意の x ∈ S に対して n(x) が x における S の法線に平行なベク
トルであるとき, n を S の法ベクトル場という. さらに n(x) がつねに単位ベクトルであるとき, n を S の単位法
ベクトル場という.
補題 13.3 p : D → R3, q : E → R3 を曲面 S の局所座標として p, q の像をそれぞれ V , W とする. V ∩Wが空集合でないとき, D = u ∈ D |p(u) ∈ W, E = u ∈ E | q(u) ∈ V とおいて, p から q への座標変換を
φ : D → E とすれば, 任意の u ∈ D に対して pu(u)× pv(u) = detφ′(u)(qu(φ(u))× qv(φ(u))) が成り立つ.
証明 p = q φ が成り立つため, 合成写像の微分法から p′(u) = q′(φ(u))φ′(u) が得られる. 故に φ′(u) =
(a b
c d
)とおけば detφ′(u) = ad− bc であり pu(u) = aqu(φ(u)) + cqv(φ(u)), pv(u) = bqd(φ(u)) + cqv(φ(u)) だから,
pu(u)× pv(u) = (aqu(φ(u)) + cqv(φ(u)))× (bqu(φ(u)) + dqv(φ(u)))
= aqu(φ(u))× bqu(φ(u)) + aqu(φ(u))× dqv(φ(u))
+ cqv(φ(u))× bqu(φ(u)) + cqv(φ(u))× dqv(φ(u))
= adqu(φ(u))× qv(φ(u)) + bcqv(φ(u))× qu(φ(u)) = detφ′(φ(u))(qu(φ(u))× qv(φ(u))).
57
命題 13.4 曲面 S が向き付け可能であるためには, S の単位法ベクトル場が存在することが必要十分である.
証明 S が向き付け可能であるとして, pi : Di → R3| i ∈ I を定義 13.1を満たす S の局所座標の集合とする.
x ∈ S に対して, i ∈ I と u ∈ Di で pi(u) = x を満たすものを選び
n(x) =1
∥(pi)u(u)× (pi)v(u)∥((pi)u(u)× (pi)v(u))
によって n(x)を定めれば, n(x)は S の点 xにおける S の単位法線ベクトルである. j ∈ I と v ∈ Dj も pj(v) = x
を満たすとき, u ∈ Dij だから補題 13.3から (pi)u(u) × (pi)v(u) = detφ′ij(u)((pj)u(v) × (pj)v(v)) であり, 仮定
から det φ′ij(u) > 0 より ∥(pi)u(u)× (pi)v(u)∥ = detφ′
ij(u)∥(pj)u(v)× (pj)v(v)∥ である. 従って
1
∥(pi)u(u)× (pi)v(u)∥((pi)u(u)× (pi)v(u)) =
1
∥(pj)u(v)× (pj)v(v)∥((pj)u(v)× (pj)v(v))
が成り立つため, n(x) の定義は pi(u) = x を満たす i ∈ I の選び方に依存しない. 故に n は S の単位法ベクトル
場である.
逆に S の単位法ベクトル場 n が存在すると仮定して pi : Di → R3| i ∈ I を S の局所座標の集合とする. この
とき各 i ∈ I に対して Di は連結であると仮定してよい. i ∈ I に対し, u ∈ Di を det((pi)u(u), (pi)v(u),n(pi(u)))
に対応させる関数は連続であるが, Di の連結性から中間値の定理によって, この関数のつねに正の値をとるかつね
に負の値をとるかいずれかである. 後者の場合, T : R2 → R2 を T ( xy ) = ( x−y ) で定め, Di の T−1 = T によ
る像を Di とおけば, T は R2 の同型写像だから, Di も開集合であり, pi : Di → R3 を pi = pi T で定めれば, pi の像は pi の像と一致して, pi は定義 4.2の条件 (i)から (iv)を満たす. さらに T は pi から pi への座標
変換であり, 合成写像の微分法から p′i(u) = p′
i(T (u))T′(u) だから, T ′(u) が
(1 0
0 −1
)であることに注意してこ
の等式の両辺の列ベクトルを比較すれば (pi)u(u) = (pi)u(T (u)), (pi)v(u) = −(pi)v(T (u)) が得られる. 従って
det((pi)u(u), (pi)v(u),n(pi(u))) = −det((pi)u(T (u)), (pi)v(T (u)),n(pi(T (u)))) > 0 が成り立つため, i ∈ I で,
det((pi)u(u), (pi)v(u),n(pi(u))) < 0 となる u ∈ Di が存在する局所座標 pi : Di → R3 は pi : Di → R3 で
置き換えることによって, S の局所座標の集合 pi : Di → R3| i ∈ I で, すべての i ∈ I と u ∈ Di に対して,
det((pi)u(u), (pi)v(u),n(pi(u))) > 0 を満たすものが得られる. このとき (pi)u(u) × (pi)v(u) は pi(u) の法線
ベクトルであり, det((pi)u(u), (pi)v(u), (pi)u(u) × (pi)v(u)) > 0 だから, (pi)u(u) × (pi)v(u) = ri,un(pi(u)) を
満たす正の実数 ri,u が存在する. i, j ∈ I に対し, S ∩ Vi ∩ Vj が空集合でないとして, pi から pj への座標変換
φij : Dij → Dji を考えれば, 補題 13.3から
ri,un(pi(u)) = (pi)u(u)× (pi)v(u) = detφ′ij(u)((pj)u(φij(u))× (pj)v(φij(u)))
= rj,φij(u) detφ′ij(u)n(pj(φij(u))) = rj,φij(u) detφ
′ij(u)n(pi(u))
が成り立つため, ri,u = rj,φij(u) detφ′ij(u) が得られて detφ′
ij(u) > 0 であることがわかる.
定義 13.5 曲面 S の単位法ベクトル場を S の向きという. S の単位法ベクトル場 n に対し, S の局所座標系
pi : Di → R3| i ∈ I が任意の i ∈ I と u ∈ Di に対して det((pi)u(u), (pi)v(u),n(pi(u))) > 0 を満たすとき,
pi : Di → R3| i ∈ I を S の向き n と両立する局所座標系という.
注意 13.6 曲面 S が連結であるとき, S が向き付け可能で, n が S の単位法ベクトル場ならば, −n も S の単位法
ベクトル場であり, S の単位法ベクトル場は n か −n のいずれかである.
位相空間 X 上の関数 f : X → R に対し, 区間 (0,∞) の f による逆像 f−1(0,∞) の閉包を supp f で表す.
定義 13.7 曲面 S の部分集合 X 上の関数 f が与えられ, S の局所座標 p : D → R3 で, D がR2 の面積確定集合
であり, p の像が supp f を含むものが存在するとき, f の積分∫∫
X
f dA を以下で定義する.∫∫X
f dA =
∫∫D
f(p( uv ))∥pu(uv )× pv(
uv )∥ dudv
ここで, p( uv ) ∈ X である ( uv ) ∈ D に対して f(p( uv )) = 0 であるとする.
58
命題 13.8 曲面 S の部分集合 X 上の関数 f が与えられ, S の局所座標 p : D → R3 と q : E → R3 について D
と E が R2 の面積確定集合であり, p の像と q の像がともに supp f を含むならば次の等式が成り立つ.∫∫D
f(p( uv ))∥pu(uv )× pv(
uv )∥ dudv =
∫∫E
f(q( uv ))∥qu(uv )× qv(
uv )∥ dudv
証明 補題 13.3と同じ記号のもとで, p から q への座標変換 φ : D → E を考えれば, u ∈ D に対し, p(u) = q(φ(u))
であり, 補題 13.3から, pu(u) × pv(u) = detφ′(u)(qu(φ(u)) × qv(φ(u))) が任意の u ∈ D に対して成り立つ. そ
こで φ : D → E によって重積分の変数変換を行えば∫∫D
f(p( uv ))∥pu(uv )× pv(
uv )∥ dudv =
∫∫D
f(q (φ( uv )))∥detφ′( uv )(qu(uv )× qv(
uv ))∥ dudv
=
∫∫D
f(q (φ( uv )))∥qu(uv )× qv(
uv )∥ |detφ′( uv )| dudv
=
∫∫E
f(q ( uv ))∥qu(uv )× qv(
uv )∥ dudv
が得られる. p, q の像をそれぞれ V , W とすれば, u ∈ D − D ならば p(u) ∈ V −W であり, u ∈ E − E ならば
q(u) ∈ W − V である. 一方, 仮定から supp f ⊂ V ∩W だから u ∈ D − D ならば f(p(u)) = 0, u ∈ E − E なら
ば f(q(u)) = 0 が成り立つ. 従って∫∫D
f(p( uv ))∥pu(uv )× pv(
uv )∥ dudv =
∫∫D
f(p( uv ))∥pu(uv )× pv(
uv )∥ dudv∫∫
E
f(q ( uv ))∥qu(uv )× qv(
uv )∥ dudv =
∫∫E
f(q( uv ))∥qu(uv )× qv(
uv )∥ dudv
が成り立つため, 主張が示された.
上の結果から f の積分∫∫
X
f dA の定義は, 像が supp f を含む S の局所座標の選び方によらない.
14 ガウス・ボンネの定理
定義 14.1 C1, C2 を R3 の C1 級曲線とし, それぞれ ω1 : I → R3, ω2 : J → R3 によってパラメータ表示され
ているとする. このとき, C1 と C2 はパラメータ表示 ω1, ω2 によって向きが定められていると考える. a ∈ I,
b ∈ J に対して ω1(a) = ω2(b) が成り立ち, ω′1(a),ω
′2(b) = 0 であるとき, ω′
1(a) と ω′2(b) のなす角を, C1 と C2
の ω1(a) = ω2(b) におけるなす角という.
注意 14.2 上の定義の状況の下で, Ic = t ∈ R | − t ∈ I とおき, 曲線 ωc1 : Ic → R3 を ωc
1(t) = ω1(−t) で定義する. このとき, ωc
1 は C1 の向きを逆にした曲線 −C1 のパラメータ表示で, (ωc1)
′(−a) = −ω′1(a) が成り立つ. 従っ
て, ω1 と ω2 の a, b におけるなす角を θ とすれば, ωc1 と ω2 の −a, b におけるなす角は π − θ に等しい. C1 と
C2 の向きを考慮しない場合は, θと π − θ の小さい方を C1 と C2 の ω1(a) = ω2(b)におけるなす角という.
定義 14.3 曲面 S の単連結な閉部分空間 T に対し, T の点 A, B, C が存在して, T の境界が A と B, B と C, C
と A を結ぶ S の 3本の測地線の合併集合に一致するとき, T を S の測地三角形といい ABC で表す. このとき,
A, B, C を T の頂点という. また, A から B に向かう測地線と A から C に向かう測地線のなす角を ∠A または∠BAC で表し, B から A に向かう測地線と B から C に向かう測地線のなす角を ∠B または ∠ABC で表し, C か
ら A に向かう測地線と C から B に向かう測地線のなす角を ∠C または ∠ACB で表す.
定理 14.4 K を曲面 S の点 x に対して, x における S のガウス曲率を対応させる関数とする. S 上の測地三角形
ABC に対して次の等式が成り立つ.
∠A+ ∠B+ ∠C = π +
∫∫ABC
K dA
59
証明 A のまわりの S の測地的極座標に ABC が含まれる場合について主張を示す. p : [0, ε)×R → S (ε > 0) を
A のまわりの測地的極座標とし, p の像に ABC が含まれるとする. ∠A = θA とおき, 辺 AB, AC の長さをそれぞ
れ rB, rC とするとき, p に関する B, C の座標はそれぞれ ( rB0 ),( rCθA
)であるとしてよい. 写像 γAB : [0, rB] → S,
γAC : [0, rC] → S を γAB(s) = p( s0 ), γAC(s) = p( s
θA ) によって定めれば, γAB は辺 AB のパラメータ表示であり,
γAC は辺 AC のパラメータ表示である.
BC の長さを l とおき, 写像 γBC : [0, l] → S を, γBC(0) = B, γBC(l) = C を満たす辺 BC の弧長パラメータ表示
とすれば, s ∈ [0, l] に対して γBC(s) = p(
r(s)θ(s)
)を満たす [0, l] 上の関数 r, θ が定まる. θ′(s0) = 0 となる s0 ∈ [0, l]
が存在すると仮定する. ω(s) = p( sθ(s0)
)で定義される写像 ω : [0, ε) → S でパラメータ表示される曲線を C0 とす
れば, C0 は A を通る測地線であり, 辺 BC と点 p(
r(s0)θ(s0)
)において交わる. さらに
γ′BC(s0) = r′(s0)pr
(r(s0)θ(s0)
)+ θ′(s0)pθ
(r(s0)θ(s0)
)= r′(s0)pr
(r(s0)θ(s0)
)= ω′(r(s0))
だから辺 BC は点 p(
r(s0)θ(s0)
)において C0 と接する. 注意 7.2の (2)と常微分方程式の解の一意性から, 測地線は
通る点とその点における接ベクトルを定めれば一意的に定まるため, 辺 BC が A を通る測地線 C0 に含まれるこ
とにななるが, この場合は ∠A, ∠B, ∠C のうちの 2つが 0 で残りの 1つが π であり, ABC は内点を持たない
ため,
∫∫ABC
K dA = 0 となって, 主張が成り立つ. そこで以後は θ′(s0) = 0 となる s0 ∈ (0, l) は存在しない
と仮定する. このとき, θ は単調関数であるが, θ(0) = 0 < θA = θ(l) だから θ は単調増加関数である. 従って
θ : [0, l] → [0, θA] の逆関数 ψ : [0, θA] → [0, l] が存在する. r : [0, θA] → [0, ε) を r = r ψ で定めれば [0, ε)×R の
部分集合 E = ( rθ ) ∈ [0, ε)×R | 0 ≦ θ ≦ θA, 0 ≦ r ≦ r(θ) は p によって ABC の上に 1対 1に写される. 補題
11.9と補題 11.7からK (p( rθ ))∥pr(rθ )× pθ(
rθ )∥ = −hrr(
rθ )
h( rθ )
√E( rθ )G(
rθ )− F ( rθ )
2= −hrr( rθ ) が成り立つため, 面
積分の定義と補題 11.8から, 以下の等式が得られる.∫∫ABC
K dA =
∫∫E
K (p( rθ )) ∥pr(rθ )× pθ(
rθ )∥ drdθ = −
∫∫E
hrr(rθ ) drdθ = −
∫ θA
0
(∫ r(θ)
0
hrr(rθ ) dr
)dθ
= −∫ θA
0
[hr(rθ )]
r=r(θ)r=0 dθ = −
∫ θA
0
(hr
(r(θ)θ
)− hr( 0θ )
)dθ = −
∫ θA
0
(hr
(r(θ)θ
)− 1)dθ
= θA −∫ θA
0
hr
(r(θ)θ
)dθ · · · (∗)
B と C を結ぶ測地線のパラメータ表示 γBC に対し, 補題 11.11の関数 φ を考えれば hr
(r(s)θ(s)
)= −φ
′(s)
θ′(s)が成り立
つ. φ = φ ψ とおけば hr
(r(θ)θ
)= −φ
′(ψ(θ))
θ′(ψ(θ))= −φ′(ψ(θ))ψ′(θ) = φ′(θ) である. 故に (∗)と ψ(0) = 0, ψ(θA) = l
より次の等式が得られる.∫∫ABC
K dA = θA +
∫ θA
0
φ′(θ)dθ = θA + φ(θA)− φ(0) = ∠A+ φ(l)− φ(0) · · · (∗∗)
φ の定義から γ′BC(ψ(θ)) = cosφ(ψ(θ))pr
(r(θ)θ
)+
sinφ(ψ(θ))
h(
r(θ)θ
) pθ
(r(θ)θ
)が成り立つため, r(0) = r(0) = rAB,
r(θA) = r(l) = rAC より
γ′BC(0) = cosφ(0)pr(
rAB0 ) +
sinφ(0)
h( rAB0 )
pθ(rAB0 ) , γ′
BC(l) = cosφ(l)pr
( rAC
θA
)+
sinφ(l)
h( rAC
θA
) pθ
( rAC
θA
)が成り立つ. 前者の等式は A から B に向かう測地線と B から C に向かう測地線のなす角が φ(0) であることを意
味しているため, ∠B = π − φ(0) である. 後者の等式は A から C に向かう測地線と B から C に向かう測地線のな
す角が φ(l) であることを意味しているため, ∠C = φ(l) である. 従って (∗∗)より∫∫ABC
K dA = ∠A+ ∠B+ ∠C− π
が得られるため, 主張が示された.
60
15 最速降下曲線
R2 の y 座標が 0以下である点全体からなる集合を H∗− で表す. x軸上の点 p と点 q ∈ H∗
− を結び, H∗− に含
まれる区分的 C1 級曲線 C が写像 ω : [a, b] → R2 (ω(a) = p, ω(b) = q)でパラメータ表示されているとき, 質点
Pが鉛直方向下向きの重力場の中で, p を速度 0で出発して, 曲線 C 上を動いて q に到達するのに要する時間は,
1√2g
∫ b
a
√ω′1(s)
2 + ω′2(s)
2
−ω2(t)ds で与えられるが, この値は H∗
− に通常とは異なる「計量」を与えれば, その計量にお
ける曲線 C の長さに一致することをみる. R2 の y座標が負である点全体からなる集合を H− で表して, 第一基本
量が E( uv ) = G( uv ) = − 1
2gv, F ( uv ) = 0 となるように H− に計量を与える. このとき, H− の区分的 C1 級曲線 C
が写像 ω : [a, b] → H− によってパラメータ表示されている場合, C の長さは
∫ b
a
√E(ω(s))ω′
1(s)2 + 2F (ω(s))ω′
1(s)ω′2(s) +G(ω(s))ω′
2(s)2 ds =
1√2g
∫ b
a
√ω′1(s)
2 + ω′2(s)
2
−ω2(s)ds
によって与えられる (第 7節参照). H∗− の区分的 C1 級曲線 C が写像 ω : [a, b] → H∗
− によってパラメータ表示さ
れており, x軸と C との交点の数が有限個で, 広義積分
1√2g
∫ b
a
√ω′1(s)
2 + ω′2(s)
2
−ω2(s)ds (15.1)
の値を C の長さであると定めれば, pが x軸上にあるときの C の長さは, 質点 Pが鉛直方向下向きの重力場の中で
速度 0で p を出発して, C 上を q まで移動するのに要する時間に一致する. 従って, x軸上に与えられた点 p から
H∗− の点 q まで最短時間で到着する曲線は, 上で与えた「計量」のもとで, 長さが最短になる曲線に一致する.
定理 15.1 上のような計量を与えた H− の測地線は y 軸に平行な線分であるか, または x軸を基線とするサイクロ
イドを x軸に関して対称移動して得られる曲線の一部である.
証明 命題 6.2から下記の等式が成り立つ.
Γuuu(
uv ) = 0, Γu
u v(uv ) = − 1
2v, Γu
v v(uv ) = 0, Γ v
u u(uv ) =
1
2v, Γ v
u v(uv ) = 0, Γ v
v v(uv ) = − 1
2v
従って H− において x(t) =
(x(t)
y(t)
)によってパラメータ表示される曲線が測地線ならば注意 7.2の (2)から関数 x,
y は次の微分方程式を満たす.
x′′(t)− x′(t)y′(t)
y(t)= 0 · · · (i) y′′(t) +
x′(t)2
2y(t)− y′(t)2
2y(t)= 0 · · · (ii)
x が定数値関数の場合は (i)は成立し, y が定数値関数でないならば (ii)はy′′(t)
y′(t)=
y′(t)
2y(t)と同値である. この両辺
を t で積分すれば log |y′(t)| = log√−y(t) + C が得られるため, a = ±e
C
2とおけば y′(t) = 2a
√−y(t) であり, こ
の微分方程式の解は y(t) = −(at+ b)2 の形で与えられる. x が定数値関数でない場合, (i) からx′′(t)
x′(t)=y′(t)
y(t)であ
り, この両辺を t で積分すれば log |x′(t)|+ C = log |y(t)| が得られるため, c = ±eC とおけば y(t) = cx′(t) である.
この等式を (ii)に代入すれば cx′′′(t) +x′(t)
2c− cx′′(t)2
2x′(t)= 0 が得られる. x′′ が恒等的に 0ならば, (i)から y は定数
値関数になり, さらに (ii)から x も定数値関数になるため仮定に反する. そこで, 上式の両辺に1
x′′(t)をかけて, t
を ct で置き換えれば次の方程式が得られる.
cx′′′(ct)
x′′(ct)+
x′(ct)
2cx′′(ct)− cx′′(ct)
2x′(ct)= 0 · · · (∗)
61
z(t) =cx′′(ct)
x′(ct)とおけば x′′(ct) =
x′(ct)z(t)
cだから, この両辺を t で微分すれば
cx′′′(ct) = x′′(ct)z(t) +x′(ct)z′(t)
c= x′′(ct)z(t) +
x′′(ct)z′(t)
z(t)
が得られる. この関係式を (∗)に代入して整理すれば, z に関する 1階微分方程式z′(t)
z(t)+
1
2z(t)+z(t)
2= 0 が得
られ, この方程式はz′(t)
1 + z(t)2= −1
2の形に変形できるため, 変数分離形である. この一般解は z(t) = − tan
t+ t02
の形になるため,cx′′(ct)
x′(ct)= − tan
t+ t02
である. この両辺を t で積分すれば log |x′(ct)| = 2 log
∣∣∣∣cos t+ t02
∣∣∣∣ + D
だから a = ±eD
2とおけば x′(ct) = 2a cos2
t+ t02
= a(1 + cos(t + t0)) となるため, t をt
cで置き換えれば
x′(t) = a
(1 + cos
(t
c+ t0
))である. 故に x, y は x(t) = ac
(t
c+ sin
(t
c+ t0
))+ k, y(t) = ac
(1 + cos
(t
c+ t0
))(a, c, k は任意定数)で与えられる関数である. 任意定数 t0 を t0 + π で, c を −1
cで置き換えてから a を acで置き
換え, さらに k を k− at0 で置き換えれば x(t) = a(ct− t0 − sin(ct− t0)) + k, y(t) = a(cos(ct− t0)− 1) となり, 写
像 x によってパラメータ表示される曲線が H− の測地線ならば, この曲線は y 軸に平行な線分であるか, または x
軸を基線とするサイクロイドを x軸に関して対称移動して得られる曲線の一部である.
補題 15.2 R× [0, 1] 上の関数 Φ を次のように定める.
Φ(x, y) =(cosx sin−1(y sinx) + sinx− x cosx
)√1− y2 sin2 x− y cosx sinx
0 < x ≦ π かつ 0 ≦ y < 1 ならば Φ(x, y) > 0 であり,π
2< x ≦ π ならば Φ(x, 1) > 0 である.
証明 0 ≦ x ≦ π
2ならば Φ(x, 1) = 0 である.
π
2≦ x ≦ π ならば Φ(x, 1) = (2x − π) cos2 x − 2 cosx sinx だから
∂Φ
∂x(x, 1) = 2 sinx((π− 2x) cosx+sinx),
∂2Φ
∂x2(x, 1) = 2(π− 2x) cos 2x が成り立つ. 故に
∂Φ
∂x(x, 1) は
[π2 ,
3π4
]で単
調に増加し,[3π4 , π
]で単調に減少して,
∂Φ
∂x
(π2 , 1)= 2 > 0,
∂Φ
∂x(π, 1) = 0 だから, x ∈
[π2 , π
)ならば
∂Φ
∂x(x, 1) > 0
である. 従って Φ(x, 1) は[π2 , π
]において単調に増加するため,
π
2< x ≦ π ならば Φ(x, 1) > Φ
(π2 , 1)= 0 である.
g(x, y) = cosx sin−1(y sinx) + sinx− x cosx とおいて R× [0, 1] 上の関数 g を定めれば, 次が成り立つ.
∂Φ
∂y(x, y) = −
y sin2x(cosx sin−1(y sinx) + sinx− x cosx
)√1− y2 sin2x
= − y sin2x g(x, y)√1− y2 sin2x
· · · (i)
g(x, 0) = sinx − x cosx であり, 0 < x < π ならば∂g
∂x(x, 0) = x sinx > 0 だから, 0 < x ≦ π ならば g(x, 0) >
g(0, 0) = 0 である. 0 < x ≦ π
2ならば g(x, 1) = sinx > 0,
π
2< x < π ならば cosx < 0, sinx > 0 だか
ら g(x, 1) = (π − 2x) cosx + sinx > 0 である. 一方,∂g
∂y(x, y) =
sin 2x
2√
1− y2 sin2xだから, 0 < x <
π
2ならば
x を固定すれば g(x, y) は y の関数として単調増加関数である. 従って 0 ≦ y ≦ 1 ならば g(x, y) ≧ g(x, 0) > 0
である.π
2< x < π ならば x を固定すれば g(x, y) は y の関数として単調減少関数だから 0 ≦ y ≦ 1 ならば
g(x, y) ≧ g(x, 1) > 0 である. また g(π2 , y)= 1 > 0, g(π, y) = π > 0 だから, (x, y) ∈ (0, π] × [0, 1] ならば
g(x, y) > 0 である.
故に (i)から, (x, y) ∈ (0, π)× (0, 1) ならば∂Φ
∂y(x, y) < 0 だから, x > 0 を固定すれば Φ(x, y) は y に関して狭義
単調減少関数である. 従って 0 < x ≦ π かつ 0 ≦ y < 1 ならば Φ(x, y) > Φ(x, 1) ≧ 0 である.
補題 15.3 0 ≦ λ ≦ 1 に対し, [0, π) 上の関数 Ψλ を次のように定める.
Ψλ(x) =
x− sin−1(λ sinx)− sinx cosx+ λ sinx
√1− λ2 sin2 x
sin2 xx ∈ (0, π)
0 x = 0
62
0 ≦ λ < 1 ならば, Ψλ は狭義単調増加関数で, [0,∞) への全単射であり, Ψ1 の定義域を[π2 , π
)に制限したものは
狭義単調増加関数で, [0,∞) への全単射である.
証明 limx→0
x− sinx cosx
x3=
2
3, limx→0
− sin−1(λ sinx) + λ sinx√
1− λ2 sin2 x
x3= −2λ3
3だから lim
x→0Ψλ(x) = 0 が成り
立つため, Ψλ は 0 で連続である. 補題 15.2の関数 Φ を用いれば
Ψ′λ(x) =
2((sin(λ sinx) cosx+ sinx− x cosx)
√1− λ2 sin2 x− λ cosx sinx
)sin3 x
√1− λ2 sinx2
=2Φ(x, λ)
sin3 x√
1− λ2 sin2 x
だから, 0 ≦ λ < 1 ならば補題 15.2 の結果から Ψλ は [0, π) の狭義単調増加関数である. x ∈[π2 , π
)のとき,
Ψ1(x) =2x− π + sin(2x− π)
sin2 xであり, 2x− π + sin(2x− π) と
1
sin2 xはともに 0以上の値をとる
[π2 , π
)で狭義単
調増加関数だから, Ψ1 の定義域を[π2 , π
)に制限したものは狭義単調増加関数である. また, lim
x→π−0Ψλ(x) = ∞ だ
から Ψλ は [0,∞) への全射である.
命題 15.4 r > 0, k ∈ R に対して, x = r(t− sin t) + k
y = r(1− cos t)(0 ≦ t ≦ 2π)
によってパラメータ表示される xy平面上の曲線を C(r, k) で表す. a < p かつ b, q ≧ 0 ならば (a, b) と (p, q) がと
もに曲線 C(r, k) 上の点になるような r > 0, k ∈ R が一通りに定まる.
証明 次の等式を満たす r > 0, k ∈ R, s, t ∈ [0, 2π] が一通りに定まることを示す.a = r(s− sin s) + k
b = r(1− cos s)
p = r(t− sin t) + k
q = r(1− cos t)· · · (∗)
t− sin t は t の単調増加関数で, a < p だから (∗)を満たす r > 0, k ∈ R, s, t ∈ [0, 2π] が存在すれば s < t である.
b = q の場合, b = q = 0 ならば s = 0, t = 2π, k = a, r =p− a
2πで (∗)を満たす r > 0, k ∈ R, s, t ∈ [0, 2π] は一
通りに定まる. b = q = 0 のとき, 補題 15.3によって Ψ1
(t2
)=p− a
qを満たす π ≦ t < 2π がただ 1つ存在する. こ
のとき s = 2π − t, r =q
1− cos t, k =
a+ p
2− πr によって s, r, k を定めれば, (∗) が成り立つ. 逆に (∗)を満たす
r > 0, k ∈ R, s, t ∈ [0, 2π]が存在すれば r =b
1− cos s=
q
1− cos tであるが b = q = 0の場合, s < tより s = 2π− t
かつ t > π である. このとき, a = 2πr + k − r(t − sin t) = 2πr + 2k − p だから k =a+ p
2− πr である. 従って
r(t−π+sin(t−π)) = p− a
2が成り立ち, 一方 r(1−cos t) = q だから, tは Ψ1
(t2
)=
2t− 2π + 2 sin(t− π)
1− cos t=p− a
qを満たすため, 1通りに定まる. よって, s, r, k も一通りに定まる.
b < q の場合, λ =
√b
qとおくと 0 ≦ λ < 1 である. 補題 15.3により, Ψλ
(t2
)=p− a
qを満たす t ∈ (0, 2π) が
ただ 1つ存在する. r =q
1− cos t, k = p− r(t− sin t), s = 2 sin−1
(λ sin
t
2
)によって k, r, s を定める. このとき,
0 < s < π かつ sins
2= λ sin
t
2< sin
t
2だから s < t である. さらに 1− cos s = 2 sin2
s
2=
2b
qsin2
t
2=b
q(1− cos t)
だから
b =q(1− cos s)
1− cos t= r(1− cos s)
a = p− qΨλ
(t
2
)= p−
q(
t2 − sin−1
(λ sin t
2
)− sin t
2 cost2 + λ sin t
2
√1− λ2 sin2 t
2
)sin2 t
2
= p−q(t− s− sin t+ 2 sin s
2
√1− sin2 s
2
)1− cos t
= p− r(t− sin t) + r(s− sin s) = r(s− sin s) + k
63
となって, (∗) が成り立つ. 逆に (∗) が成り立つならば b(1 − cos t) = q(1 − cos s) より λ =
√b
qとおくと 0 ≦
λ < 1, λ sint
2= sin
s
2だから, s < t であることに注意すれば s = 2 sin−1
(λ sin
t
2
)である. 実際 x の関数
2π − 2 sin−1(λ sin
x
2
)のグラフは 0 ≦ x ≦ 2π の範囲で下に凸で, グラフ上の点 (2π, 2π) での接線の傾きは λ
となって 1 より小さいため, この関数のグラフは 0 ≦ x < 2π の範囲では直線 y = x のグラフより上にある.
k = p − q(t− sin t)
1− cos t= a − b(s− sin s)
1− cos s= a − q(s− sin s)
1− cos tより
t− s− sin t+ sin s
1− cos t=
p− a
qである. ここで,
sin s = sin
(2 sin−1
(λ sin
t
2
))= 2λ sin
t
2
√1− λ2 sin2
t
2であることから, 次の等式が成り立つ.
Ψλ
(t
2
)=
t2 − sin−1
(λ sin t
2
)− sin t
2 cost2 + λ sin t
2
√1− λ2 sin2 t
2
sin2 t2
=t− s− sin t+ sin s
1− cos t=p− a
q
故に補題 15.3により, t は一通りに定まるため, s, r, k も一通りに定まる.
q < b の場合, λ =
√q
bとおくと 0 ≦ λ < 1 である. 補題 15.3により, Ψλ
(π − s
2
)=p− a
bを満たす s ∈ (0, 2π) が
ただ 1つ存在する. r =b
1− cos s, k = a−r(s−sin s), t = 2π−2 sin−1
(λ sin
s
2
)によって k, r, tを定める. このとき,
π < t < 2π かつ sint
2= λ sin
s
2< sin
s
2だから s < t である. さらに 1− cos t = 2 sin2
t
2=
2q
bsin2
s
2=q
b(1− cos s)
だから
q =b(1− cos t)
1− cos s= r(1− cos t)
p = a+ bΨλ
(π − s
2
)= a+
b(π − s
2 − sin−1(λ sin s
2
)+ sin s
2 coss2 + λ sin s
2
√1− λ2 sin2 s
2
)sin2 s
2
= a+b(t− s+ sin s+ 2 sin t
2
√1− sin2 t
2
)1− cos s
= a− r(s− sin s) + r(t− sin t) = r(t− sin t) + k
となって, (∗) が成り立つ. 逆に (∗) が成り立つならば q(1 − cos s) = b(1 − cos t) より λ =
√q
bとおくと 0 ≦
λ < 1, λ sins
2= sin
t
2だから, s < t であることに注意すれば t = 2π − 2 sin−1
(λ sin
s
2
)である. 実際 x の
関数 2 sin−1(λ sin
x
2
)のグラフは 0 ≦ x ≦ 2π の範囲で上に凸で, グラフ上の点 (0, 0) での接線の傾きは λ と
なって 1 より小さいため, この関数のグラフは 0 ≦ x < 2π の範囲では直線 y = x のグラフより下にある.
k = a − b(s− sin s)
1− cos s= p − q(t− sin t)
1− cos t= p − b(t− sin t)
1− cos sより
t− s− sin t+ sin s
1− cos s=
p− a
bである. ここで,
sin t = − sin(2 sin−1
(λ sin
s
2
))= 2λ sin
s
2
√1− λ2 sin2
s
2であることから, 次の等式が成り立つ.
Ψλ
(π − s
2
)=π − s
2 − sin−1(λ sin s
2
)+ sin s
2 coss2 + λ sin s
2
√1− λ2 sin2 s
2
sin2 s2
=t− s− sin t+ sin s
1− cos s=p− a
b
故に補題 15.3により, s は一通りに定まるため, t, r, k も一通りに定まる.
上の命題により, H∗− の x座標が異なる 2点に対し, これらを結ぶ x軸を基線とするサイクロイドを x軸に関し
て対称移動して得られる曲線がただ 1つ存在する.
証明はやさしくないので省略するが, H∗− の 2点 p と q を結ぶ最短の区分的 C1 級曲線が存在することが示され
るので, 上の結果と定理 7.9から p と q を結ぶ最短の区分的 C1級曲線は y軸に平行な線分であるか, x軸を基線と
するサイクロイドを x軸に関して対称移動して得られる曲線の一部であることがわかる. 故に x軸上に与えられた
点 p から H∗− の点 q まで最短時間で到着する曲線は, q の x座標が p の x座標と異なるとき, x軸を基線とするサ
イクロイドを x軸に関して対称移動して得られる曲線で, p と q を結ぶものである.
64
参考文献
[1] 梅原雅顕, 山田光太郎著「曲線と曲面 —微分幾何学的アプローチ—(改訂版)」,裳華房, 2015.
[2] 小林昭七著「曲線と曲面の微分幾何(改訂版)」, 裳華房, 1995.
65