数学科教員養成課程における代数系カリキュラム ·...
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数学科教員養成課程における代数系カリキュラム
竹内聖彦(椙山女学園大学)
1.はじめに
数学科教員養成課程における数学専門教育に関してはこれまで多くの研究報告がなされ
てきた。ここではいくつかの教員養成系大学・学部において実施されている数学専門教育
を概観するとともに,数学リテラシー概念に基づいて設計された椙山女学園大学教育学部
数学コースのカリキュラムを軸に代数系科目の講義内容を検討したい。
2.教員養成大学・学部の数学専門科目の講義内容
(1)国立大学法人教員養成大学・学部の数学専門科目
若干古い資料ではあるが,2009 年 6~8 月に日本数学会の教員養成大学・学部数学教員
懇談会に参加の国立大学法人教員養成大学・学部に対して実施された「教員養成大学・学
部の数学専門科目の講義内容についての調査」による 21大学(教員養成大学 6大学,総合
大学 15学部の教員養成学部)の回答([1])を確認しておく(表 1~6)。同調査では,当時
の各科目の講義内容の実情を A「必修科目等で免許取得者の大多数が受講する科目の中で扱
っている」,B「選択科目等で免許取得者の少数が受講する科目の中で扱っている」,C「扱
っていない」の 3分類で尋ね,更に,理想的標準モデル案に入れるべき(D)か否(E)か
表 1 線形代数学の講義内容の項目一覧
整理
番号 講義内容の項目
A
(%)
B
(%)
C
(%)
D
(%)
E
(%)
1-01 行列式の置換を用いた定義,行列式の展開と計算 89 11 0 100 0
1-02 行列の定義,行列の演算(加法・スカラー倍・乗法),正則行
列,逆行列の計算 89 11 0 100 0
1-03 数ベクトル空間,線形写像とその行列表示,連立 1次方程式の
解法(クラメルの公式,掃き出し法) 84 16 0 100 0
1-04 ベクトル空間,一次独立・一次従属,部分空間,基底・次元 84 16 0 100 0
1-05 線形写像と行列の階数の概念,核・像の次元公式,一般の連立
1次方程式の解法 89 11 0 100 0
1-06 アフィン部分空間,内積・外積,面積・体積等の幾何学的性質 37 26 37 84 16
1-07 固有値,固有ベクトル,行列の三角化,対角化 89 5 5 95 5
1-08 内積,計量ベクトル空間,直交直和分解 68 11 21 95 5
1-09 対称(エルミット)行列の直交(ユニタリ)行列による対角化 63 11 26 89 11
1-10 2次曲線・2次曲面の分類 21 26 53 95 5
1-11 行列のジョルダン標準形 5 11 84 32 68
1-12 双対空間,テンソル積,外積代数 0 5 95 21 79
を尋ねている。ここでは,その調査のうち本稿で特に注目する線形代数学を含む代数系科
目についての結果を,回答実数ではなくパーセンテージに直して再録する。併せて代数系
科目の一部として扱われることの多い「集合と論理の基礎」分野についても示す(表 2)。
表 2 集合・写像・論理の講義内容の項目一覧
整理
番号 講義内容の項目
A
(%)
B
(%)
C
(%)
D
(%)
E
(%)
3-01 集合の基本的記号,簡単な論理(特に∀∃を含む述語論理) 89 11 0 100 0
3-02 写像,全射,単射,全単射,逆写像の定義と性質 89 11 0 100 0
3-03 同値関係・類別・商集合の定義,性質,例(分数,ベクトル等) 79 11 11 95 5
3-04
有限集合の基数,集合の基数(濃度),有限集合と無限集合の違
い,可附番基数(濃度)(自然数,整数,有理数,代数的数の集
合),連続基数(濃度)(実数の集合),Cantorの対角線論法
53 11 37 95 5
3-05 冪集合,写像集合,対角線論法の拡張 26 11 63 50 50
表 3 初等整数論の講義内容の項目一覧
整理
番号 講義内容の項目
A
(%)
B
(%)
C
(%)
D
(%)
E
(%)
4-01 ユークリッドの互除法,拡張ユークリッドアルゴリズム,1 次
不定方程式の解法 72 17 11 100 0
4-02 合同式の定義と性質,1次合同方程式の解法 61 22 17 100 0
4-03 nを法とする整数,乗法構造と Fermatの小定理,RSA暗号系
の紹介 67 17 17 100 0
4-04 中国式剰余定理(連立 1次合同方程式),合同方程式への応用 56 22 22 100 0
4-05 有限体のベキ構造,無限循環小数,BCH符号の紹介 11 6 83 61 39
4-06 連分数とその応用 17 6 78 72 28
表 4 群論の講義内容の項目一覧
整理
番号 講義内容の項目
A
(%)
B
(%)
C
(%)
D
(%)
E
(%)
4-07 群とは,半群,モノイド,群の定義,可換群の例:整数の剰余
類,巡回群とその性質 78 22 0 100 0
4-08 非可換群の例:置換群とその性質,行列群 67 28 6 100 0
4-09 非可換群の例:多面体群,オイラーの公式とその応用 28 17 56 94 6
4-10 部分群,ラグランジュの定理とその応用,準同型写像,正規部
分群,剰余群,準同型定理,同型定理とその応用 72 22 6 94 6
4-11 生成元と関係式 50 17 33 78 22
4-12 群の集合の上への作用,シローの定理 17 22 61 61 39
表 5 可換環と体の講義内容の項目一覧
整理
番号 講義内容の項目
A
(%)
B
(%)
C
(%)
D
(%)
E
(%)
4-13 可換環,整域,体の定義と簡単な性質 44 56 0 100 0
4-14 可換環のイデアル:Z のイデアル,イデアルの和,交わり等,
素イデアルと極大イデアル,剰余環,環準同型定理 33 50 17 89 11
4-15 多項式環,除法の定理,多項式の規約性判定:アイゼンシュタ
イン判定,ガウスの補題等 17 61 22 94 6
4-16 ユークリッド整域,単項イデアル整域,一意分解整域,既約元
と素元 11 44 44 94 6
表 6 ガロア理論の講義内容の項目一覧
整理
番号 講義内容の項目
A
(%)
B
(%)
C
(%)
D
(%)
E
(%)
4-17 体の代数拡大・超越拡大,拡大次数,最小多項式,体の代数単
拡大の基本定理(有理化の原理),同型の拡張定理,分解体 11 56 33 89 11
4-18 対称式と交代式:対称式の基本定理,ニュートンの公式 6 28 67 72 28
4-19 定規とコンパスによる作図問題 6 66 28 83 17
4-20 共役の原理,正規拡大体,群の不変体,ガロア拡大体,ガロア
群,ガロアの基本定理 0 44 56 72 28
4-21 円分体,Lagrangeの分解式,巡回拡大体 0 22 78 50 50
4-22 可解群,方程式の可解性 0 28 72 67 33
更にアンケートの自由記述欄には,大多数の免許取得者に修得させたい代数学分野の追
加すべき講義内容項目として
・方程式に関するアーベルの定理の結果と全体像(証明は除く)。
・2次合同式,平方数の和への表示,ペル方程式など 2次体の整数論の入門的な部分。
・数の体系について(ペアノの公理から始めて複素数まで,数の体系を構築する)。
の 3点が,「集合と論理の基礎」分野の追加すべき内容として
・順序関係
・ラッセルのパラドックス
・ベン図は証明にならないことの説明
の 3点があげられている。
これらの表において,線形代数学の整理番号が他の代数学分野と異なるのは,国立大学
のような総合大学においては線形代数学および微分積分学は教養養育科目として位置づけ
られることが多く,[1]で別分野として設定されていることによる。
(2)教員養成学部における数学専門科目の標準モデル
表 8 集合と論理の基礎の標準モデル
整理
番号 講義内容の項目
D
(%)
3-01 1 集合の基本的記号,簡単な論理(特に∀∃を含む述語論理) 100
3-02 2 写像,全射・単射・全単射,逆写像の定義と性質 100
3-03 3 同値関係・類別・商集合の定義,例(分数,ベクトル等) 95
3-* 4 順序関係,例(数の大小関係,集合の包含関係,整数の整除関係等)
3-04
5 有限集合の基数,集合の濃度,有限集合と無限集合の違い
95 6 可附番濃度(自然数,整数,有理数,代数的数の集合)
7 連続濃度(実数の集合),Cantorの対角線論法
表 9 初等整数論の標準モデル
整理
番号 講義内容の項目
D
(%)
4-01 1 ユークリッドの互除法,1次不定方程式の解法 100
4-02 2 合同式の定義と性質,1次合同方程式の解法 100
4-03 3 nを法とする整数,乗法構造と Fermatの小定理
100 4 Fermatの小定理の応用(無限循環小数,RSA暗号系の紹介)
4-04 5 中国式剰余定理(連立 1次合同方程式),環同型定理との関係 100
4-06 6 連分数,無理数の近似 72
表 7 線形代数学の標準モデル
整理
番号 講義内容の項目
D
(%)
1-01 1 行列式の置換を用いた定義,行列式の展開と計算法 100
1-02 2 行列の定義,行列の演算,正則行列,逆行列の計算法 100
1-03 3 数ベクトル空間,線形写像とその行列表示
100 4 連立 1次方程式の解法(クラメルの公式,掃き出し法)
1-04 5 ベクトル空間,一次独立・一次従属,部分空間,基底・次元 100
1-05 6 線形写像と行列の階数の概念,核・像の次元公式
100 7 一般の連立 1次方程式の解法
1-06 8 アフィン部分空間,内積・外積,面積・体積等の幾何学的性質 84
1-07 9 固有値,固有ベクトル,行列の三角化,対角化 95
1-08 10 内積,計量ベクトル空間,直交直和分解 95
1-09 11 対称行列の直交行列による対角化 89
1-10 12 2次曲線・2次曲面の分類 95
上記の調査に基づいて教員養成学部における数学専門科目の標準的モデル案が提案され
ており([2]),その代数系科目について抽出すると表 7から表 13のとおりである。ただし,
ここでは上記調査の項目との関連を明示するための対応する整理番号と,標準モデル項目
の必然性の指標として D欄のパーセンテージを附し,[2]にいう「単元」別に表を分割して
示す。
表 10 群の基礎の標準モデル
整理
番号 講義内容の項目
D
(%)
4-07 1 群の定義と簡単な性質
100 2 可換群の例:整数の剰余類,巡回群
4-08 3 非可換群の例:置換群,行列群,多面体群
100
4-09 94
4-10 4 部分群,準同型写像,正規部分群,剰余群
94 5 準同型定理,同型定理
4-11 6 生成元と関係式 78
4-12 7 群作用,シローの定理 61
表 11 可換環の基礎の標準モデル
整理
番号 講義内容の項目
D
(%)
4-13 1 環,可換環,整域の定義と簡単な性質 100
4-14 2 可換環のイデアルの定義と例:Zのイデアル等
89 3 素イデアル・極大イデアル,剰余環,環準同型定理
4-15 4 多項式環,多項式の規約性(アイゼンシュタイン判定法,ガウスの補題) 94
4-16 5 ユークリッド整域,単項イデアル整域,一意分解整域 94
表 12 体の基礎の標準モデル
整理
番号 講義内容の項目
D
(%)
4-13 1 体の定義と簡単な性質 100
4-05 2 有限体,冪構造と応用(巡回符号の紹介) 61
4-17 3 体の代数拡大・超越拡大,拡大次数,最小多項式
89 4 体の代数単拡大の基本定理(有理化の原理)
4-19 5 定規とコンパスによる作図問題 83
表 13 ガロア理論の標準モデル
整理
番号 講義内容の項目
D
(%)
4-* 1 3次・4次方程式の解法
4-18 2 対称式と交代式(対称式の基本定理,ニュートンの公式) 72
4-20 3 共役の原理,群の不変体,ガロア拡大体
72 4 ガロアの基本定理
4-21 5 円分体,巡回拡大体 50
4-22 6 方程式の可解性 67
これら標準モデルは[1]のアンケート結果を反映したものであるが,いくつかの相違点も
みられる。表 13 のガロア理論は「必修 40 単位のころには広範に扱われていたと思うが、
現在では必修ではほとんど扱われず、また、扱うべきという意見も一部の項目となってい
る」と[1]で指摘されている分野であり,その講義内容項目 1「3次・4次方程式の解法」は
アンケート項目にも見当たらないものである。また,アンケートの自由記述欄記載事項を
反映し,「順序関係」が「集合と論理の基礎」の標準モデル(表 8)に組み込まれている(整
理番号 3-*,講義内容項目 4)が,追加すべきとされた「数の体系」については標準モデル
に組み込まれていない。後に見るように実際にいくつかの大学で展開されている授業内容
には「数の体系」が組み込まれており,標準モデルに組み込むべきものであった。
(3)いくつかの教員養成学部の現行講義内容
昨今は大学基本情報の公表の義務化に伴い,教員養成学部・学科の教職課程の内容を公
表している大学も多く,中部地区の教員養成学部・学科を擁するいくつかの大学を中心に
教職課程の現状調査が比較的容易となった。各大学のカリキュラムと各科目シラバスを調
査し,各大学の教職課程において代数学に分類されている科目について,前節で述べた標
準モデルの科目内容との比較を試みた(表 14~16)。表は各学部学科に置かれた教職課程に
おける代数系の教科専門科目の開講科目名とその内容である。科目内容は標準モデルにお
ける項目番号で表示した。必修科目は科目名を太字とした。少ない科目数の中に多くの内
容を盛り込むためにそれぞれの大学では工夫が凝らされていることがわかると同時に,所
属する教員の専門分野に科目内容が偏っている場合も見受けられる。
(3-1)国立大学教育学部の例
国立大学教育学部の代数系科目実施例を表 14にあげる。
国立 AK大学教育学部においては入学定員初等 39名,中等 24名の数学専攻に 15名の所
属専任教員があり,非常に多くの科目が用意されている。教職課程における数学教科専門
科目は代数学 11科目(うち 2科目は 2019年度非開講),幾何学 6科目,解析学 9科目,確
率統計 4科目,コンピュータ 2科目,複合 3科目の計 35科目である。線形代数学は 1年前
後期での講義とともに 1 年前期には線形代数のための演習「線形数学演習」が設定されて
いる。集合と論理に関しては命題・集合・写像・同値関係・濃度を扱う「集合と論理」が 2
年前期に開講される。一般的な「初等整数論」,「代数学概論」(群・環・イデアル),「代数
学 A」(多項式環)の他にグラフ理論を中心とする「応用数学 A(代数学)」,作図問題を扱
う「代数学特論」が特徴的である。選択,必修の別は HPの情報からは確認できない。
国立 GF 大学教育学部の数学教育講座,国立 NK 大学教育学部の算数科/数学科教育コー
スは,それぞれ入学定員 24名,11名であり,所属する専任教員はともに 6名である。教職
課程における教科専門科目は GF 大学では代数学 5 科目,幾何学 4 科目,解析学 9 科目,
確率統計 1 科目,コンピュータ 1 科目の合計 20 科目であり,NK 大学では代数学 4 科目,
幾何学 4 科目,解析学 4 科目,確率論統計学 2 科目,コンピュータ 2 科目で教職課程とは
別に基礎数学 2 科目の合計 18 科目である。GF大学で解析学科目が多いのは位相数学 3科
目を解析学に含んでいるためである。
表 14 国立大学教育学部の代数系科目実施例
AK大学 GF大学 NK大学
線形代数学
線形数学Ⅰ
1-01, 1-02, 1-03, 1-05,
1-06
線型代数学Ⅰ
1-01, 1-02, 1-03, 1-05
代数学Ⅰ
1-01, 1-02, 1-03, 1-05,
1-06
線形数学Ⅱ
1-03, 1-04, 1-05, 1-07,
1-09
線型代数学Ⅱ
1-03, 1-04, 1-05, 1-07,
1-09
線形数学演習Ⅰ
1-01, 1-02, 1-03, 1-05
初等整数論
群
可換環
体
ガロア理論
初等整数論
4-01, 4-02, 4-03, 4-04
代数学Ⅰ
4-02, 4-07, 4-08, 4-10
代数学Ⅱ
4-01, 4-02, 4-03
代数学概論
4-07, 4-08, 4-10, 4-13,
4-14
代数学Ⅱ
4-13, 4-14, 4-15
代数学Ⅲ
4-07, 4-08, 組合せ論
代数学 A
4-07, 4-13, 4-14, 4-15,
4-16
代数学特論
1-10, 4-01, 4-13, 4-15,
4-16
代数学特論
4-15, 4-17, 4-19
集合と論理
集合と論理
3-01, 3-02, 3-03, 3-04
応用数学 A(代数学)
グラフ理論
GF大学の代数系科目は 1年前後期の「線型代数学Ⅰ・Ⅱ」,整数と群を扱う「代数学Ⅰ」
(2年後期),環・イデアル・多項式環を扱う「代数学Ⅱ」(3年前期)がある。この他,「代
数学Ⅲ」(ガロア理論)があるが,この科目は担当者が 2016 年で退官したのちは開講され
ていないようである。
NK大学の代数系科目は 1年前期の「代数学Ⅰ」(線形代数),2年前期の「代数学Ⅱ」(初
等整数論),3 年前期の「代数学Ⅲ」(組合せ論・群論),「代数学特論」(多項式環・2 次曲
線・楕円曲線)である。線形代数において線形空間,線形写像に全く触れないカリキュラ
ムは珍しい。「代数学Ⅰ」のみが教職課程上は必修になっている。
(3-2)私立大学教員養成学部の例
私立大学については SJ 大学教育学部,CB 大学現代教育学部現代教育学科,GS 大学教
育学部の 3校(3課程)の状況をみる(表 15)。
表 15 私立大学教育学部の代数系科目実施例
SJ大学 CB大学 GS大学
線形代数学
線形代数学Ⅰ
1-01, 1-02, 1-03, 1-05
代数学概論
1-01, 1-02, 1-03, 1-05,
1-06
代数学序論Ⅰ
1-01, 1-02, 1-03, 1-05
線形代数学Ⅱ
1-03, 1-04, 1-05, 1-07,
1-08
代数学
1-04, 1-05, 1-07, 1-08,
1-09, 1-10
代数学序論Ⅱ
1-04, 1-05, 1-07
代数学演習
1-01, 1-02, 1-03, 1-04,
1-05, 1-07, 1-08, 1-09,
1-10
初等整数論
群
可換環
体
ガロア理論
代数学基礎
4-01
数学基礎演習
3-01, 3-02, 4-01, 4-02,
4-03, グラフ理論
代数学Ⅰ
4-01, 4-02, 4-03, 4-04
代数学要論
4-01, 4-02, 4-03, 4-15,
4-13, 4-14, 4-15
代数学研究法
4-07, 4-08, 4-10, 4-19,
4-22
代数学Ⅱ
4-07, 4-08, 4-10, 4-11,
4-13, 4-17
代数学続論
4-07, 4-08, 4-09, 4-11,
4-17, 4-18, 4-20
代数学続論
4-01, 4-07, 4-08, 4-17,
4-19, 4-20, 4-21, 4-22
代数学Ⅲ
4-*, 4-17, 4-18, 4-20
代数学特論
4-*, 4-17, 4-18
集合と論理
SJ大学教育学部は入学定員 80名のうちの一部の学生(20~30名)が中等数学教員養成
コースを履修する。代数学 6 科目(必修 5 科目),幾何学 6 科目(必修 3 科目),解析学 8
科目(必修 5 科目),確率論統計学 1 科目(必修),コンピュータ 2 科目,複合 7 科目(必
修 1科目)の合計 30科目が教科専門科目として設けられている。線形代数学は行列・行列
式・連立一次方程式を扱う「線形代数学Ⅰ」と線形空間・線形写像・固有値などを扱う「線
形代数学Ⅲ」の他,平面ベクトルの幾何学的な扱いを中心とする複合科目「線形代数学Ⅱ」
を挟んで 1年前期から 2年前期までの 1年半で履修する。1年前期の「代数学基礎」は初等
整数論を,2年前期の「代数学要論」は多項式環・環・イデアルを扱い,3年次の選択科目
の「代数学続論」は剰余類群・置換群などを扱う。
入学定員 160名の CB大学現代教育学部現代教育学科の所属教員 28名,入学定員は 160
名であり,そのうち中等教育国語数学専攻は定員 20名である。代数学 6科目(必修 2科目),
幾何学 5 科目(必修 1 科目),解析学 4 科目(必修 1 科目),確率論統計学 3 科目(必須 2
科目),コンピュータ 3 科目(すべて必修)の合計 21 科目が用意されている。代数学の必
修科目は 1年次科目の行列・行列式・連立一次方程式を扱う「代数学概論」と初等整数論・
論理・離散数学を含む演習科目の「数学基礎演習」である。2 年次の「代数学」「代数学演
習」は 2次形式の標準形まで扱う線形代数であり,3年次の「代数学続論」は方程式論を中
心として多項式環・作図問題などを扱い,「代数学研究法」は数え上げ・作図問題などを扱
う。
GS 大学教育学部は入学定員 330 名,所属教員 40 名のうち数学専修入学定員 43 名,所
属教員 6 名である。代数学 6 科目(必修 1 科目),幾何学 6 科目(必須 1 科目),解析学 9
科目(必修 3 科目),確率論統計学 2 科目(必修 1 科目),コンピュータ 3 科目(必修 1 科
目)の計 26科目である。解析学 9科目のうち 3科目(必修 2科目)は位相数学である。「代
数学序論Ⅰ・Ⅱ」(連立一次方程式・行列式・線形空間・線形写像)は線形代数学であり,
「代数学Ⅰ」は初等整数論,「代数学Ⅱ」は群論,「代数学Ⅲ」「代数学特論」は方程式論で
ある。
(3-3)私立大学理数系学科における教職課程の例
教員養成学部ではないが,卒業生に中高の数学教員を輩出している私立大学の理数系学
科についても開講科目を比較する(表 16)。
NZ大学理工学部システム数理学科は入学定員 75名,所属教員 10名であり,教職課程科
目が充実している。代数学 6 科目(必修 5 科目),幾何学 2 科目(必修 1 科目),解析学 5
科目(必修 4 科目),確率論統計学 5 科目(必修 1 科目),コンピュータ 5 科目(必修 1 科
目)の合計 23科目が用意されている。特に確率論統計学,コンピュータの科目群が多いの
は基礎となる学科(システム数理学科)の特性である。線形代数学が 1 年後期の「線形代
数学Ⅰおよび演習」「線形代数学Ⅱおよび演習」と 2年前期の「線形代数学Ⅲ」の演習を含
む 3科目 6単位の構成となっているが,「線形代数学Ⅰ・Ⅱ」は行列演算と連立一次方程式
を中心に据え,その解空間として部分空間を導入し線形独立性や基底・次元を解説する内
容で,「線形代数学Ⅲ」で行列式・内積・直交補空間・固有値・対角化を扱っており,線形
写像についてはシラバス上に明示されていない。一般的な写像に関しては論理・集合・同
値関係とともに「論理と集合」(1 年前期)で扱われる。代数学に割り付けられている唯一
の選択科目として命題論理・述語論理などの「数理論理学」が置かれていることも特徴的
である。「代数系入門」として数体系と初等整数論が扱われている。
表 16 私立大学理数系学科の教職課程代数系科目実施例
NZ大学 MJ大学
線形代数学
線形代数学Ⅰおよび演習
1-02, 1-03, 1-05
線形代数Ⅰ, 線形代数Ⅰ演習
1-01, 1-02, 1-03, 1-06, 1-08,
線形代数学Ⅱおよび演習
1-02, 1-04, 1-05
線形代数Ⅱ, 線形代数Ⅱ演習
1-01, 1-02, 1-03, 1-04, 1-05
線形代数学Ⅲ
1-01, 1-03, 1-05, 1-07, 1-08, 1-09
線形代数Ⅲ
1-04, 1-05, 1-06, 1-07, 1-08, 1-09, 1-10
線形代数Ⅳ
1-04, 1-05, 1-07, 1-09, ジョルダン分解
初等整数論
群
可換環
体
ガロア理論
代数系入門
3-01, 3-04, 4-01, 4-02, 4-03, 4-04
代数学Ⅰ
4-01, 4-03, 4-07, 4-08, 4-10, 4-13, 4-14,
4-15, 4-16
代数学Ⅱ
3-01, 3-02, 3-03, 3-*, 4-07, 4-08, 4-09,
4-10, 4-11, 4-13
代数学Ⅲ
4-07, 4-08, 4-09, 4-10, 4-11, 4-12
代数学Ⅳ
4-04, 4-13, 4-14, 4-15, 4-16
代数学Ⅴ, 代数学Ⅵ
4-05, 4-13, 4-17, 4-20, 4-21
代数学Ⅶ
代数曲線論
代数学Ⅷ
p 進整数論
集合と論理
集合と論理
3-01, 3-03
(数学序論Ⅰ)
3-01, 3-02, 3-03, 3-*
数理論理学
命題論理, 述語論理
(数学序論Ⅱ)
3-01, 3-02, 3-03, 3-*, 3-04
MJ大学理工学部数学科は入学定員 90名,所属教員 18名であり,「代数学Ⅰ~Ⅷ」,「幾
何学Ⅰ~Ⅷ」,「解析学Ⅰ~Ⅷ」,「数理情報Ⅰ~Ⅷ」,「計算機科学Ⅰ~Ⅷ」を選択必修科目
(各科目Ⅰ・Ⅱ)及び選択科目(各科目Ⅲ~Ⅷ)として各分野 8 科目ずつ備え,基礎的な
部分は「線形代数Ⅰ・Ⅱ」「微分積分Ⅰ・Ⅱ」とそれらに対応する演習科目,集合・写像・
同値関係を扱う「数学序論Ⅰ」,順序・濃度・実数を扱う「数学序論Ⅱ」が必修科目として
置かれている。これら必修基礎科目の上位科目として「線形代数Ⅲ・Ⅳ」,「数学通論Ⅰ・
Ⅱ」,「微分積分Ⅲ・Ⅳ」は選択必修科目となっている。数学科として充実した科目構成と
なっており,これらの科目のほとんどを教職課程教科専門科目としているが,「数学序論
Ⅰ・Ⅱ」は教職課程教科専門科目としていない。代数系の教職課程教科専門科目のうち必
修科目は「代数学Ⅰ」のみ(学科としてはこの科目は選択必修科目で,「線形代数Ⅰ・Ⅱ」
及びその演習が必修)である。NZ大学のシステム数理学科と共にMJ大学の数学科では線
形代数学を相当な時間をかけて学修するカリキュラムとなっている。特に後者では線形代
数学の講義科目に演習科目を加えると計 6 科目を充てており,内容的にも充実したものと
なっている。丁寧な教育体制を維持することで,学力的に決して十分とは言えない学生を
対象にしつつも教育成果を上げているものと思われる。
NZ 大学理工学部システム数理学科,MJ 大学理工学部数学科とも,中学校・高等学校教
諭一種免許状(数学)に加えて高等学校教諭一種免許状(情報)の教職課程も備えている。
3.私立大学数学教員養成系学部における代数系科目
前節でみたように AK大学のような大規模教員養成系学部あるいはNZ大学・MJ大学の
ような教員養成を主としない数学科・数理学科等と異なり,中規模の教員養成系学部では
多くが教職課程設置基準を満たす最低限の専任教員数で教員養成を行っている。従って,
代数系科目の開講科目数も 5 科目程度が限度であり,その限られた中で標準モデルにある
項目を網羅的に扱うことは難しく,いくつかはあきらめざるを得ない。ところが,標準モ
デル自体が既にかなり精選された内容となっており,そこから更にいくつか削減すること
は困難であるが,ここでは敢えて考えてみたい。
中学校高等学校の指導内容の背景となる部分として,初等整数論,線形代数,集合と論
理の基礎は外せない。具体的には,多くの大学での実施例のように,初等整数論初歩では,
ユークリッドの互除法・不定方程式・合同式(4-01,4-02,4-03,4-04)を扱い,線形代
数は入門と初歩に分け,行列・行列式・線形 1次方程式の解法までの線形代数入門(1-01,
1-02,1-03,1-05),ベクトル空間・線形写像・内積・固有値程度までの線形代数初歩(1-03,
1-04,1-05,1-07,1-08)とし,集合と論理の基礎的科目においては集合の記号と論理に
十分習熟させ,写像の基本的概念・関係・無限集合にも慣れさせる(3-01,3-02,3-03,
3-*,3-05)。対象となる学生は残念ながら数理的能力が十分とは言えず,これらの内容を
身につけるには相当の時間を要し,そのためにそれぞれの科目に対応する演習科目を併設
するのが望ましい。このように考えるとこれだけで 6~7科目とならざるを得ず,群・環・
体などの基本的な概念の紹介もままならないのが実情といえよう。しかしながら,学校数
学で扱うような具体的な対象をより抽象的な概念で統合し再構成することは,数学的思考
の根幹であり,そのような思考方法を次世代に伝える責務のある数学教員には,この思考
方法を体験することは欠かせない。この内容を扱うためには,集合・論理についてはそれ
以外の科目内に散在させることで対処し,初等整数論との対応を意識しつつ,話題の豊富
な多項式環を中心とする環論入門を加えることで抽象的思考の訓練の機会とするのが限度
であろう。
参考文献
[1] 丹羽雅彦,松岡隆,川﨑謙一郎,伊藤仁一「「教員養成大学・学部の数学専門科目の講
義内容についての調査」の結果とその考察(数学教師に必要な数学能力に関する研究)」
数理解析研究所講究録 1711(2010年 9月)pp.89-105
[2] 丹羽雅彦,松岡隆,川﨑謙一郎,大竹博巳,伊藤仁一「中学校・高等学校の数学教師
の養成における数学専門科目の標準的なモデルの構想」数理解析研究所講究録 1711
(2010年 9月)pp.106-129