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平成 14年度  学位論文

2次体の整数環について

兵庫教育大学大学院 学校教育研究科

教科・領域教育専攻 自然系コース

M 0 1 1 8 2 J 上 島 和 久

目 次0章 序 1

1章 準備 5

2章 2次体の整数環 21

3章 Euclid 体 34

4章 2次体のイデアル 45

5章 イデアル類と類数 68

参考文献 82

0章 序

本論文では2次体の整数環が一意分解性を持つかどうかについて考察する.

整数全体のなす環 Z において, 任意の整数 n (6= 0,±1) は順序を除いて一意的に

n = ±p1 · · · pr と素数 p1, ..., pr の積に分解できる. すなわち Z は一意分解整域をなす. 一

方, 平方因子を含まない (素数の平方で割り切れない) 整数 m (6= 0, 1) と有理数体 Q に対して

Q(√

m) = Q+Q√

m = {r + s√

m | r, s ∈ Q}

と表される集合を2次体という. 特に m > 0のときは実2次体, m < 0のときは虚2次体

という. 2次体 Q(√

m)にも代数的整数全体のなす整数環 Om が定まる.

Q Z...

...

Q(√

m) Om

虚2次体 Q(√−1) の整数環 O−1 は Gaussの整数環として知られ, 一意分解整域であ

る. 一方, 虚2次体 Q(√−6) の整数は r + s

√−6 (r, s ∈ Z) と表される. ここで整数 55は

55 = 5 · 11 = (7 +√−6)(7−√−6) = (1 + 3

√−6)(1− 3√−6)

と分解不可能な因子の積として3通りに表されることから O−6 は一意分解整域ではない.

このように2次体の整数環は必ずしも一意分解整域でない. 整数環 Om が一意分解整域で

ある2次体 Q(√

m) を単純体と呼ぶ. 同様に, 整数環が (ノルムに関して)Euclid 整域であ

る2次体を Euclid 体という. Euclid 整域は一意分解整域であることから Euclid 体は単純

体である. 2次体 Q(√

m)が Euclid 体となる mは

m = −11, −7, −3, −2, −1, 2, 3, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73

の 21 個であることが 1950年 Chatland と Davenportによって証明された (cf. [5]).

1

0. 序 2

逆に単純体が Euclid 体であるとは限らない. 1967年, Stark ([6]) は虚2次体 Q(√

m)

で単純体となる mは次の 9 個に限ることを示した.

m = −1, −2, −3, −7, −11, −19, −43, −67, −163

これより m = −19,−43,−67,−163 のとき Q(√

m) は単純体であるが Euclid 体ではない.

また「 実2次体 Q(√

m)が単純体となる mは無限に存在するであろう」という予想は現

在でも未解決である. ちなみに, このような mは 2 ≤ m < 100 の範囲において

m = 2, 3, 5, 6, 7, 11, 13, 14, 17, 19, 21, 22, 23, 29, 31, 33, 37, 38, 41,

43, 46, 47, 53, 57, 59, 61, 62, 67, 69, 71, 73, 77, 83, 86, 89, 93, 94, 97

の 38 個であることが知られている.

2次体の整数環は一意分解整域とは限らないが, 0 でないイデアルは一意的に素イデ

アルの積として分解できる. すなわち2次体の整数環は Dedekind 整域である. さらに 0

でないイデアル全体のなす集合にある同値関係が導入され, この同値関係よる同値類全体

は有限群をなす. この群をイデアル類群, その位数を類数という. また, 2次体の整数環に

ついて, 一意分解整域であることと類数が1であることとが同値となる. これより2次体が

単純体であるかどうかは類数を求めることにより判定できる.

与えられた2次体の類数を求めるためには Zの素数がどのように素イデアル分解されるかを知る必要が生じる. Z の素数の素イデアル分解は3つの型に分類され, Artin 記号

により判定される. 本論文では,これらの結果を利用していくつかの2次体についてその類

数を決定する.

なお「与えられた自然数 k を類数とする虚2次体 Q(√

m)は有限個であろう」という

Gaussの類数問題は 1976年のGoldfeldの仕事を経て, 1983年に Zagierと Grossにより証

明された. 上に述べた Stark の結果は k = 1 のとき,このような mは −1 ≥ m ≥ −163を

みたすことを示している.

以下, 論文の概要を述べる.

1章では後章で必要となる整数論, 群・環・体, ベクトル空間, 整域とイデアルなどに

ついての基本事項を説明する. §1.1では整数論の基本概念と平方剰余の基本事項について,

§1.2 では群・環・体の基本事項について, §1.3 ではベクトル空間の基本事項と体の拡大次

数について説明する. §1.4ではイデアル, 素イデアル, イデアルの積などの用語を定義する.

§1.5 では整域における同伴, 既約元, 素元, 単項イデアル整域, 一意分解整域, Euclid 整域

などの概念について説明し ,一意分解整域であることと素元分解整域であることとが同値で

0. 序 3

あること, 単項イデアル整域が一意分解整域であること, Euclid 整域が単項イデアル整域で

あることなどを証明する.

2章では2次体の整数環に関する基本的定理について述べる. §2.1 では2次体が平方

因子をもたない整数 m 6= 0, 1により

Q(√

m) = {a + b√

m | a, b ∈ Q}

と与えられること, および Q(√

m) に含まれる代数的整数全体 Om が部分環をなすことを

示す. さらに m ≡ 1 (mod 4) の場合と m ≡ 2, 3 (mod 4) の場合に分けて整数環 Om の Z基底を求める. §2.2 では m ≡ 2, 3 (mod 4) かつ Om が一意分解整域である場合について,

有理素数 p の素元分解が平方剰余(

mp

)により定まることを示す. これは4章で証明する

(p) の素イデアル分解法則のひな形とも目される. §2.3 では O−2, O3 が一意分解整域であ

ることを示し , 有理素数 p の素元分解を例示する.

3章では Euclid 体について考察する. §3.1 では Euclid 体, 単純体を定義し , 2次体

Q(√

m) が虚 Euclid 体となるのは m が −1,−2,−3,−7,−11 の場合に限ることを証明す

る. §3.2 では m ≡ 2, 3 (mod 4) となる実 Euclid 体 Q(√

m) が有限個であることを示し ,

Chatland と Davenport のリストにあるいくつかの m について Q(√

m)が Euclid 体であ

ることを確かめる.

4章では2次体のイデアル論について述べる. 2次体 Q(√

m) の整数環 Om において

0 でないイデアルが素イデアルの積として一意的に分解できること, 有理素数 p で生成さ

れる Om の単項イデアル (p) の素イデアル分解が Artin記号により判定できることなどを

証明する. §4.1では Om の 0 でないイデアルに標準的基底が存在すること, および 0 でな

いイデアルが階数 2 の自由 Z 加群であることを示す. §4.2 では標準的基底からイデアル

のノルムを求め, 単項イデアルのノルムが生成元のノルムの絶対値に一致することを示す.

§4.3では 0でないイデアルが素イデアルの積として一意的に分解できること,すなわち Om

が Dedekind 整域であることを示す. また Om が単項イデアル整域であることと一意分解

整域であることとが同値であることを示す. §4.4では有理素数 pで生成される Om の単項

イデアル (p)の素イデアル分解が3つの型に分類できること, Artin記号により統一的に述

べられることなどを示す. また (p)を割る素イデアルの標準的基底が明示されるが,これは

5章での類数計算に用いられる.

5章ではイデアル類の全体 CLm が有限アーベル群をなすことを証明する. また類数

hが 1であることと Om が一意分解整域であることとが同値であることを示す. これより

整数環 Om が一意分解整域であるかどうかは類数を計算することにより判定できる. §5.1

ではイデアルの間に対等という同値関係を定義し , このときの同値類としてイデアル類を,

0. 序 4

それらの個数として類数を定義する. またMinkowski の定数 κ を定義し , すべてのイデア

ル類にノルムが κ 以下のイデアルが存在することを示す. これより類数が有限であること

が導かれる. さらにイデアル類全体のなす有限アーベル群として, イデアル類群を定義す

る. §5.2では §5.1 の結果をふまえて, いくつかの2次体についてその類数を決定する.

1章 準備

この章では後章で必要となる整数論, 群・環・体, ベクトル空間, 整域とイデアルなど

についての基本事項を説明する. 一部を除き定理の証明を省略したが, 可能な限り参考

文献を明示した.

§1.1 では整数論の基本概念と平方剰余の基本事項について, §1.2 では群・環・体の基

本事項について, §1.3ではベクトル空間の基本事項と体の拡大次数について説明する.

§1.4ではイデアル, 素イデアル, イデアルの積などの用語を定義する. §1.5では整域に

おける同伴, 既約元, 素元, 単項イデアル整域, 一意分解整域, Euclid 整域などの概念に

ついて説明し ,一意分解整域であることと素元分解整域であることとが同値であるこ

と, 単項イデアル整域が一意分解整域であること, Euclid 整域が単項イデアル整域であ

ることなどを証明する.

以下, 論文を通して次の記号を用いる.

N = {1, 2, 3, 4, ......} 自然数全体

Z = {0,±1,±2,±3, ....} 整数全体

Q ={

ba

∣∣∣ a, b ∈ Z, a 6= 0}有理数全体

R =実数全体

C = {a + ib | a, b ∈ R} 複素数全体 (ただし i は i2 = −1 をみたす数 )

なお2次体の整数と区別するために Z の整数, 素数を有理整数, 有理素数と呼ぶ場合があるので注意されたい.

A =⇒ B (A ならば B が成り立つこと)

A ⇐⇒ B (A と B が同値であること)

1.1 整数論の基本事項

定理 1.1 (除法の定理) 整数 a と自然数 b が与えられたとき a = bq + r, 0 ≤ r < b を

満たす整数 q, r が一意に存在する.

5

1. 準備 6

除法の定理で定まる q を a を b で割った商, r を a を b で割った余りという.

Z の元 a, b, c が a = bc をみたすとき「a は b の倍数である」, 「b は a の約数であ

る」,「bは a を割る」,「aは b で割り切れる」などといい b | a と表す.

a | b かつ a | c のとき a を b, c の公約数, a | c かつ b | c のとき c を a, b の公倍数と

いう.

a, b のいずれか一方が 0でないとき a, b の公約数の中に最大のものが存在する. それ

を a, b の最大公約数といい (a, b) と表す. ただし (0, 0) = 0 と定める. (a, b) = 1 のとき a

と bは互いに素であるという.

2 以上の自然数 n で, 約数が ±1 と ±n のみであるようなものを素数という. 素数で

ない 2 以上の自然数を合成数という. 素数 p と整数 nに対して (p, n) = 1か p | n のいずれかが成り立つことを注意しておく.

定理 1.2 ([1, 1章 定理 1.8]) a, b が整数, p が素数のとき次が成り立つ.

p | ab =⇒ p | a または p | b

nは自然数とする. 整数 a, bが n | a− bをみたすとき a ≡ b (mod n)と表し , nを法とし

て a は b に合同であるという. 合同関係 ≡ は Z 上の同値関係であり, このときの同値類

を剰余類または合同類という. また整数 a を含む剰余類を a と表す.

定義 1.3 (平方剰余記号) pを奇素数, aを pと互いに素な整数とする. 合同方程式 x2 ≡a (mod p) が解をもつとき, a は法 p で平方剰余であるといい

(ap

)= 1 と表す. 解を

もたないとき, 法 p で平方非剰余であるといい(

ap

)= −1 と表す. また p | a のとき

は(

ap

)= 0 と定める.

上で定めた記号(

ap

)を 平方剰余記号, または Legendre 記号という. 平方剰余記号につい

て(

abp

)=

(ap

)(bp

)が成り立つ (cf. [1, 1章 定理 1.30]).

定理 1.4 (Euler の規準, [1, 1章 定理 1.32]) a が奇素数 p の倍数でないとき次がな

り立つ. (ap

)≡ a

p−12 (mod p)

1. 準備 7

定理 1.5 (第1補充法則, [1, 1章 定理 1.33])

(−1p

)=

{1, p ≡ 1 (mod 4)

−1, p ≡ 3 (mod 4)

定理 1.6 (第2補充法則, [1, 1章 定理 1.33])

(2p

)=

{1, p ≡ 1, 7 (mod 8)

−1, p ≡ 3, 5 (mod 8)

定理 1.7 (平方剰余の相互法則, [1, 1章 定理 1.33]) p, qが相異なる奇素数のとき次が

なり立つ. (qp

)(pq

)= (−1)

p−12

q−12

1.2 群・環・体の基本事項

定義 1.8 (群) 集合 G に2項演算 ·が定義され, 次の条件をみたすとき G を群という.

(1) 結合律が成り立つ.すなわち任意の a, b, c ∈ Gに対して (ab)c = a(bc)が成り立つ.

(2) ある元 1 ∈ G が存在して, 任意の a ∈ G に対して a1 = 1a = a が成り立つ.

(3) 任意の a ∈ G に対して ab = ba = 1 をみたす b ∈ G が存在する.

上の条件 (2) をみたす 1は一意に定まる. 1 を G の単位元という. G の元 aに対して条

件 (3) をみたす bは一意に定まる. b を a の逆元といい, a−1と表す.

任意の a, b ∈ Gに対して ab = baが成り立つ群 G をアーベル群または可換群という.

G がアーベル群のとき演算を加法 + で表し , 加法群ということがある. 加法群 G の単位

元は零元と呼ばれ 0 と表される. また a の逆元は −a と表される.

定義 1.9 (部分群) 群 G の空でない部分集合 H が次の条件をみたすとき G の部分群

であるといい H ≤ G と表す.

(1) 任意の a, b ∈ H に対して ab ∈ H である.

(2) a ∈ H ならば a−1 ∈ H である.

1. 準備 8

部分群 H は G の演算に関してそれ自身群となる.

群 Gが有限集合であるとき G を有限群という. 有限群 G の元の個数を G の位数と

いう.

群 G の元 a と整数 nにたいして a のべき an を次のように定義する.

an =

n 個︷ ︸︸ ︷aa · · · a n > 0のとき

1 n = 0のとき

a−1a−1 · · · a−1︸ ︷︷ ︸−n 個

n < 0のとき

群 G の元 aに対して an = 1 をみたす自然数が存在するとき, そのようなものの中で

最小の n を a の位数という. そのような自然数が存在しないとき a の位数は無限である

という.

群 G の元 aに対して a のべき全体の成す集合を < a > と表す.

< a > = { an | n ∈ Z }

< a > は G の部分群である. < a >が有限群であるとき, 群 < a > の位数と元 a の位数

は一致する.

定理 1.10 (Lagrange の定理, [2, 2章 定理 8.4, 系 8.5]) 位数 g の有限群 G におい

て次が成り立つ.

(1) 部分群 H の位数 h は g の約数である.

(2) G の元 a の位数は g の約数である. 特に ag = 1 が成り立つ.

定義 1.11 (環) 集合 R に加法 + と乗法 · の2つの演算が定義され, 次の条件をみた

すとき R を環という.

(1) R は加法についてアーベル群をなす.

(2) R の任意の元 a, b, c に対して (ab)c = a(bc) が成り立つ.

(3) R の元 1 で, R の任意の元 a に対して a1 = 1a = a をみたすものが存在する.

(4) R の任意の元 a, b, c に対して a(b + c) = ab + ac, (a + b)c = ac = bc が成り立つ.

任意の a, b ∈ R に対して ab = baが成り立つとき R を可換環という. 可換環 R の元 aに

1. 準備 9

対して ab = ba = 1となる b ∈ Rが存在するとき aは可逆であるという. 可逆な元 aを単

数, または単元という. R の単数全体の集合は乗法に関して群をなす. この群を R の単数

群, または単元群といい R× と表す.

定義 1.12 (部分環) 環 R の部分集合 R′ が R の単位元を含み, R の加法, 乗法につい

てそれ自身環をなすとき R′ を R の部分環という.

定義 1.13 (体) 可換環 R の 0 以外の元がすべて可逆であるとき R を体という.

自然数 nに対して Z の法 nによる剰余類全体を Z/nZ または Z/(n) と表す.

定理 1.14 (剰余環, [3, 3章 §3.1]) Z/nZ は可換環となる. Z/nZ を n を法とする剰

余環という.

定義 1.15 (零因子, 整域) 可換環 R の元 a (6= 0) に対し, 条件 ab = 0 をみたす 0 で

ない元 b ∈ R が存在するとき a を零因子という. R が零因子を持たないとき, 整域で

あるという.

定理 1.16 ([3, 3章 命題 3.4]) 剰余環 Z/nZ (n > 1)において次の2条件は同値である.

(1) Z/nZ は整域である.

(2) n は素数である..

体の 0 でない元はすべて可逆であるから零因子になり得ない. ゆえに次の定理を得る.

定理 1.17 ([3, 3章 §3.1]) 体は整域である.

多項式環

R を可換環とする. 次の形の式を X を変数とする R 係数多項式という.

anXn + an−1Xn−1 + · · ·+ a1X + a0, ai ∈ R

可換環 R の元を係数とし , X を変数とする多項式の全体を R[X] と表す. R[X]は通常の

和と積について可換環となる. R[X] を R 上の多項式環という (cf. [3, 3章 §3.3]).

1. 準備 10

R[X] の多項式 f(X)が

f(X) = anXn + an−1X

n−1 + · · ·+ a1X + a0, an 6= 0

をみたすとき f の次数は n であるといい, deg(f) = n と表す. ただし deg(0) = −∞ とする. 次数が 0 以下の多項式は R の元と同一視でき, 定数と呼ばれる. また最高次係数が

1 である多項式はモニック多項式と呼ばれる.

定理 1.18 ([2, 1章 §6]) R が整域のとき R[X] も整域である.

定理 1.19 (除法の定理, [2, 1章 定理 6.1]) K を体, K[X] 3 f, g, g 6= 0 とする. この

とき f = gq + r, deg(r) < deg(g) をみたす q, r ∈ K[X] が一意に定まる.

q, r をそれぞれ f を g で割った商, 余りという. 余りが 0 のとき f は g で割り切れると

いい g | f と表す.

多項式 f が定数でない多項式 g, h により f = gh と表されるとき f は可約であると

いう. 次数が 1 以上で可約でない多項式は既約であるという.

定義 1.20 (原始多項式) Z[X] 3 f(X) = anXn + an−1Xn−1 + · · · + a0 の係数

a0, a1, . . . , an の最大公約数が 1 であるとき f(X) を原始多項式という.

定理 1.21 ([2, 3章 補題 26.9]) Z[X] 3 g, hが原始多項式のとき, その積 gh も原始多

項式である.

多項式 f(X)に対して f(a) = 0 をみたす a を f の根という.

定義 1.22 (代数的数と代数的整数) 有理数を係数とする 0 でない多項式の根である複

素数を代数的数という. 整数係数モニック多項式の根である複素数を代数的整数という.

定理 1.23 (最小多項式, [4, 7章 pp.224-225]) α が代数的数であるとき f(α) = 0 を

みたす 0 でない多項式 f(X) ∈ Q(X) のうち最小次数でモニックなものを α の (Q 上の)最小多項式という. α の最小多項式は一意的に定まる. α の最小多項式を p(X) と

すると次が成り立つ.

(1) Q(X) 3 f(X) が α を根にもつならば p(X) | f(X) が成り立つ.

(2) p(X) は Q 上既約である.

1. 準備 11

最小多項式の次数が 1であることと α ∈ Qであることとが同値であるのは明らかであろう.

補題 Z 係数多項式の等式

anxn + · · ·+ a1x + a0 = (brx

r + · · ·+ b0)(csxs + · · ·+ c0)

において, すべての ai が素数 p の倍数であれば, すべての bi が p の倍数であるか, す

べての ci が p の倍数である.

Proof 背理法で示す. ある bi, cj が p の倍数でないと仮定し , このような i, j を最小に選

ぶ. このとき bi−1, ...., b1, b0, cj−1, ...., c1, c0 が p の倍数であるから, 右辺の i + j 次の係数

bi+jc0 + · · ·+ bi+1cj−1 + bicj + bi−1cj+1 + · · ·+ b0ci+j

は bicj 以外の項が p の倍数で bicj が p の倍数でないので, p の倍数でない. これはすべて

の ai が素数 p の倍数であることに矛盾する.

次の定理は2章 §2.1で必要になる.

定理 1.24 Q 係数の多項式の等式

xn + an−1xn−1 + · · ·+ a0 = (xr + br−1x

r−1 + · · ·+ b0)(xs + cs−1xs−1 + · · ·+ c0)

において, すべての ai が整数であれば, すべての bi, cj は実は整数である.

Proof bi =βi

αi

, cj =δj

γj

を既約分数表示とし , αr−1, ..., α0 の最小公倍数を `, γs−1, ..., γ0 の

最小公倍数を mとする. |`m| = 1を示せばよいので, |`m| 6= 1と仮定して矛盾を導く. 右辺をそれぞれ `, m 倍すると次の等式を得る.

`m(xn + an−1xn−1 + · · ·+ a1x + a0) = (`xr + λr−1x

r−1 + · · ·+ λ0)(mxs + µs−1xs−1 + · · ·+ µ0)

ここで λi, µj は整数である. `m の素因数の 1つを p とすると前の補題よりすべての λi

と `が p の倍数であるか, すべての µi と mが p の倍数であるか, のいずれかが成り立つ.

今, すべての λi と `が p の倍数であると仮定する. ` = pt`′ とおく. ただし `′ は p と互

いに素であるとする. ` は αr−1, ..., α0 の最小公倍数であるから, ある αk は pt で割り切れ

る. このとき λk = `βk

αk

は p で割りきれないので矛盾が生じる. すべての µi と mが p の

倍数としても同様に矛盾を得る.

1. 準備 12

1.3 ベクトル空間

M を加法群, R を可換環とする. R×M 3 (a,m)に対して M の元 amが定まり, 任

意の a, b ∈ R と任意の x, y ∈ M に対して次が成り立つとき M を (左) R 加群という.

(1) (ab)x = a(bx)

(2) a(x + y) = ax + ay

(3) (a + b)x = ax + bx

(4) R の単位元 1に対して 1x = x

Rが体であるとき, M は R 上のベクトル空間と呼ばれ, M の元はベクトルと呼ばれる.

M を R 加群, N を加法群 M の部分群とする. 任意の a ∈ R と任意の x ∈ N に対

して ax ∈ N が成り立つとき N を M の部分加群という. 部分加群はそれ自身 R 加群で

ある.

R 加群 M の部分集合 S に対して S の有限個の元の1次結合として表される元全体,

すなわち

a1x1 + a2x2 + · · ·+ anxn (ai ∈ R, xj ∈ S)

の形の元全体の集合は M の部分加群となる. この部分加群を S で生成される部分加群と

いう. 特に M が有限集合 S で生成されるとき M を有限生成 R 加群という. 以下特に断

らない限り R 加群はすべて有限生成であるとする.

R 加群 M の部分集合 B が

n∑i=1

aixi = 0 (ai ∈ R, xi ∈ B) =⇒ a1 = · · · = an = 0

をみたすとき B は R 上1次独立であるという. R 上1次独立でないとき R 上1次従属

であるという.

M を生成する1次独立な部分集合を M の (R) 基底という. B が M の基底である

ことと, M の任意の元 xが一意的に

x = c1x1 + · · ·+ cnxn (ci ∈ R, xi ∈ B)

と B の有限個の元の1次結合として表されることとは同値である.

基底を持つ R 加群を自由 R 加群という.

1. 準備 13

定理 1.25 ([2, 3章 例題 27.9]) 体 F 上のベクトル空間 V は自由 F 加群である. V

の F 基底に含まれる元の個数は基底の選び方によらない. これをベクトル空間 V の

F 上の次元といい dim V と表す.

以下, 有限生成 F 加群 V を有限次元ベクトル空間という. また有限生成でない F 加群を

無限次元ベクトル空間という.

定理 1.26 ([2, 3章 定理 30.1]) R は可換環とする. このとき自由 R 加群 M の基底

に含まれる元の個数は基底の選び方によらない. これを M の階数といい rank M と

表す.

定義 1.27 (体の拡大) 体 E の部分環 F が E の演算に関して体をなすとき, F を E

の部分体, E を F の拡大体という. また E が F の拡大体であることを E/F と表し,

体の拡大という.

定義 1.28 (有限次拡大体) 体 E は部分体 F 上のベクトル空間と見なすことができる.

E が F 上有限次元ベクトル空間であるとき E を F の有限次拡大 (体), 無限次元ベク

トル空間であるとき, 無限次拡大 (体)という. また E の F 上のベクトル空間としての

次元を拡大次数といい [E : F ] と表す.

定義 1.29 (2次体) 複素数体 C の部分体で, 有理数体 Q の有限次元拡大である体 E

を代数体という. 代数体 E の Q 上の拡大次数が n のとき E を n 次代数体という. ま

た 2 次代数体を単に2次体という.

1.4 イデアル

定義 1.30 (イデアル) 可換環 R の空でない部分集合 I が次の条件をみたすとき R の

イデアルという.

(1) α, β ∈ I =⇒ α + β ∈ I

(2) γ ∈ R, α ∈ I =⇒ γα ∈ I

可換環 R の元 α1, . . . , αr ∈ R に対して

I = { γ1α1 + · · ·+ γrαr | γi ∈ R }

1. 準備 14

とおけば, I は R のイデアルとなる. このとき I を α1, . . . , αr によって生成されるイデア

ルといい I = (α1, · · · , αr) と表す. I は α1, · · · , αr を含む最小のイデアルである. なぜな

らば I ′ を α1, . . . , αr を含む Rのイデアルとすると I ′ は γ1α1 + · · ·+γrαr ∈ I ′ より I ⊆ I ′

となるからである. 特に1つの元 α から生成されるイデアル (α) を単項イデアルという.

なお, 以下において可換環はすべてのイデアルが有限生成であるような環であるとする (こ

のような環はネーター環と呼ばれる).

定理 1.31 可換環 R のイデアル A = (α1, . . . , αr), B = (β1, . . . , βs)に対し次の2条件

は同値である.

(1) A = B

(2) αi =s∑

j=1

γijβj , βj =r∑

i=1

δjiαi (γij, δji ∈ R ) と表される.

Proof (1)が成り立つとする. A の元 αi は B の元でもあるから

αi =s∑

j=1

γijβj , (γij ∈ R)

と表される. B の元 βj についても同様である. よって (2)が成り立つ.

逆に (2)が成り立つとする. このとき α1, ..., αr ∈ B となることから

A = { γ1α1 + · · ·+ γrαr | γi ∈ R } ⊆ B

となる. 同様に β1, ..., βs ∈ A より B ⊆ Aが導かれる. ゆえに A = B である.

2つのイデアル A = (α1, . . . , αr), B = (β1, . . . , βs) の積を

AB = (α1β1, . . . , α1βs, . . . . . . αrβ1, . . . , αrβs)

と定める. 特に A = (α), B = (β) のとき AB = (α)(β) = (αβ) である. まずこの積が

well-defined であることを示そう.

定理 1.32 可換環 R のイデアル A, B の積 AB は生成元のとり方によらない.

Proof A = (a1, . . . , ar) = (α1, . . . , αt), B = (b1, . . . , bs) = (β1, . . . , βu) とする.

(a1b1, . . . . . . , arbs) = (α1β1, . . . . . . , αtβu)

1. 準備 15

を示せばよい. ここで ai は αj の1次結合であり, bk は β` の1次結合であるから aibk は

αjβ` の1次結合である. 同様にして αjβ` は aibk の1次結合である. 従って定理 1.31に

より

(a1b1, . . . . . . , arbs) = (α1β1, . . . . . . , αtβu)

を得る.

可換環 Rの乗法は交換可能であり, 結合律もみたすから次の定理が成り立つ (証明略).

定理 1.33 可換環 R のイデアル A, B, C について AB = BA, A(BC) = (AB)C が成

り立つ.

可換環 R のイデアル I と a, b ∈ R に対して a − b ∈ I であるとき a ≡ b (mod I) と表

し , I を法として aは bに合同であるという. 合同関係は R 上の同値関係であり, 各同値

類を I を法とする剰余類という. I を法とする剰余類全体を R/I とおく. R の元 a を

含む剰余類を a と表すことにし , R/I における加法と乗法を a + b = a + b, ab = ab と

定義すれば, これは well-defined であり, この演算により R/I は可換環をなす (cf. [2, 3章

pp.84-85]). R/I を R の I による剰余環という.

定義 1.34 (素イデアル) 整域 R のイデアル I に対し剰余環 R/I が整域であるとき, I

を素イデアルという.

剰余環の定義より, 次の4つは同値である. ただし , α, β ∈ R とする.

(1) I は R の素イデアル.

(2) R/I は整域である.

(3) αβ ≡ 0 (mod I) =⇒ α ≡ 0 または β ≡ 0 (mod I)

(4) αβ ∈ I =⇒ α ∈ I または β ∈ I

定理 1.35 P を整域 R の素イデアル, S を R の部分環とするとき, P ∩S は S の素イ

デアルである.

Proof P ∩ S が S のイデアルであることは明らかである. a, b ∈ S, ab ∈ P ∩ S とする

と ab ∈ P となるが, P は素イデアルだから a ∈ P または b ∈ P が成り立つ. すなわち

a ∈ P ∩ S または b ∈ P ∩ S となる. ゆえに P ∩ S は S の素イデアルである.

1. 準備 16

1.5 一意分解整域

Rを整域, α, β, γ ∈ Rとする. Z の場合と同様に α = βγ が成り立つとき「αを β の

倍数」,「 β を αの約数」,「β は αを割る」,「αは β で割り切れる」などといい, β | αと表す.

定義 1.36 (同伴) 整域 R の 2元 α, β に対し α = uβ をみたす単数 u ∈ Rが存在する

とき α と β は同伴であるという.

同伴という関係は R 上の同値関係である.

定理 1.37 整域の2元 α, β に対し次は同値である.

(1) (α) = (β)

(2) α と β は同伴である.

Proof α と β が同伴であると仮定すると α = uβ をみたす単数 uが存在する. このとき

β = u−1α となる. 従って定理 1.31より (α) = (β)が得られる. 逆に (α) = (β)であるとす

れば α = γβ, β = δα をみたす γ, δ が存在する. ここで α = γδα となるが R は整域であ

るから γδ = 1 となる. 従って γ, δ は単数である. よって α と β は同伴である.

系 1.38 整域 R において α が単数であることと (α) = (1) が成り立つことは同値で

ある.

定義 1.39 (単項イデアル整域) 任意のイデアルが単項イデアルである整域 R を単項イ

デアル整域という.

補題 1.40 単項イデアル整域 R の 0 でない元の列 α1, α2, . . . が αi+1 | αi をみたして

いるとする. このとき, ある n0 ∈ Nが存在して, 任意の n ≥ n0 に対して αn と αn0 が

同伴となる.

Proof R のイデアル (αi) (i = 1, 2, · · · ) 全ての和集合を I とする. まず I が R のイデア

ルであることを示す. x, y ∈ I とすると αi | x, αj | y をみたす i, j が存在する. i ≥ j の場

合も同様であるから i ≤ j の場合について考える. αj | αi, αj | x より x, y ∈ (αj) となる.

従って x + y ∈ (αj) ⊆ I が成り立つ. 次に x ∈ I, γ ∈ Rに対して x ∈ (αi)をみたす iが存

在するので γ x ∈ (αi) ⊆ I も成り立つ. よって I は R のイデアルである.

1. 準備 17

さて Rは単項イデアル整域だから I = (β)と表される. これより任意の iに対し β | αi

が成り立つ. 一方 β ∈ I より β ∈ (αn0) となる n0 が存在する. 従って n ≥ n0 ならば

αn | αn0 が成り立つが, αn0 | β と β | αn より αn0 | αn も成り立つ. ゆえに αn0 と αn は同

伴である.

定義 1.41 (既約元) 整域 R の 0でも単数でもない元 αが次の条件をみたすとき, αは

既約であるという.

α = βγ ならば β または γ が単数である.

定義 1.42 (素元) 整域 R の 0 でも単数でもない元 π が次の性質をもつとき π を素元

という.

π | αβ (α, β ∈ R) =⇒ π | α または π | β

有理素数 pは Z の素元である.

定理 1.43 整域 R の元 π について, π が R の素元であることと (π) が R の素イデ

アルであることとは同値である.

Proof 次の同値変形より導かれる. ただし α, β ∈ R である.

π は R の素元 ⇐⇒ π | αβ ならば π | α または π | β⇐⇒ αβ が π の倍数ならば α または β が π の倍数

⇐⇒ αβ ∈ (π) ならば α ∈ (π) または β ∈ (π)

⇐⇒ (π)は素イデアル

定理 1.44 整域 R において素元は既約元である.

Proof 素元 π が π = αβ と分解されたとする. このとき π | αβ より π | α または π | β

が成り立つ. 今 π | α と仮定すると α = πγ と表されることから π = αβ = πγβ となるが

π 6= 0 より 1 = γβ を得る. ゆえに β は R の単数となる. π | β と仮定しても同様にしてα が単数であることが導かれる. ゆえに α または β が単数となる. よって π は既約元で

ある.

1. 準備 18

定義 1.45 整域 R の 0 でも単数でもない任意の元 α が有限個の既約元の積として表

され, かつ α = π1 · · · πr = ρ1 · · · ρs と2通りに既約元の積として表されるときは r = s

であり, 番号を適当に付け直すと πi と ρi が同伴になるようにできるとき, R を一意分

解整域という.

一意分解整域を UFD と略記することがある.

定義 1.46 0でも単数でもない元はすべて有限個の素元の積として表されるような整域

を素元分解整域という.

定理 1.47 一意分解整域 R において既約元と素元は一致する.

Proof 定理 1.44より素元は既約元である. 従って一意分解整域において既約元が素元であ

ることを示せばよい. 今 ρ を既約元とし , ρ | αβ と仮定する. このとき αβ = ργ と表さ

れるが R は一意分解整域だから ρ と同伴な既約元 π が α または β の既約分解に現れる.

よって ρ | α または ρ | β が成り立つ. ゆえに ρは素元である.

系 1.48 一意分解整域は素元分解整域である.

Proof 一意分解整域において 0 でも単数でもない元は既約元の積として表される. 一方,

定理 1.47より, 一意分解整域において既約元は素元である. ゆえに一意分解整域において

は 0 でも単数でもない元は素元の積として表される. よって一意分解整域は素元分解整域

である.

定理 1.49 (素元分解の一意性) 素元分解整域において素元分解は一意的である. また

素元分解整域は一意分解整域である.

Proof 素元分解整域 R の元 αが

α = p1p2 . . . pr = q1q2 . . . qs

と2通りに素元分解されたとする. このとき r = s であり, 適当に番号を付け直すことに

より p1 と q1, p2 と q2, . . . , pr と qr がそれぞれ同伴となることを r に関する帰納法によ

り証明する.

r = 1 のとき p1 は既約元でその約数は単数と p1 と同伴な元のみであるから s = 1 で

q1 と p1 は同伴である.

1. 準備 19

次に r > 1 とし r − 1 までは成立しているものとする. q1q2 · · · qs ∈ (p1) であり (p1)

は素イデアルだから, q1, q2, . . . , qs のうちのいずれか, 例えば q1 が q1 ∈ (p1) をみたす. こ

のとき p1 | q1 で, q1 が既約元であるから p1 と q1 は同伴となる. 従って適当な単数 uによ

り q1 = up1 とおくことができ

p2 · · · pr = (uq2)q3 · · · qs

が成り立つ. ここで uq2 も素元であるから帰納法の仮定により r − 1 = s− 1で, 適当に番

号を付け直すことで p2 と q2 ,..., pr と qr がそれぞれ同伴となる. よって r の場合も証明

された.

以上で素元分解整域においては素元分解の一意性が成り立つことが示された.

次に β を R の既約元として, β = p1 · · · p`, (piは素元)と素元分解されたとする. β の

約数は β と同伴な元か単数のみであるから ` = 1 で p1 = β が成り立つ. 従って β は素元

である. ゆえに素元分解整域において既約元と素元は一致する. 素元分解が一意であるか

ら既約分解も一意である. よって素元分解整域は一意分解整域である.

系 1.48と定理 1.49より次の定理が得られる.

定理 1.50 整域 R について一意分解整域であることと素元分解整域であることとは同

値である.

定理 1.51 単項イデアル整域は素元分解整域である.

Proof 背理法で示す. 単項イデアル整域で素元分解整域でないものが存在したとしてそ

れを R とする. R には 0 でも単数でもない元 α1 で素元の積として表されないものが

存在する. α1 は素元でないから α1 | βγ かつ α1 - β, α1 - γ をみたす β, γ が存在する.

(α1, β) = R とすると 1 = α1x + βy と表されることから γ = α1γx + βγy より α1 | γ となり矛盾が生じる. 従って (α1, β) = (λ) ( Rである. α1 = λδとおく. δが単数ならば α1 | λ,

λ | β より矛盾が生じるので δ は単数でない. よって λ, δ は 0 でも単数でもない. また λ,

δ の少なくとも一方は素元の積として表すことができない. それを α2 とおく. α2 は 0 で

も単数でもなく, 素元の積として表されず (α1) ( (α2) をみたす. なぜならば (α1) = (α2)

とすれば α1 と α2 が同伴となることから λ, δ の一方が単数となり, 先に示したことに矛

盾するからである. α2 から上と同様にして 0でも単数でもなく, 素元の積として表されな

い元 α3 が定まる. 以下, 同様にして

(α1) ( (α2) ( (α3) ( · · · · · · ( (αn) ( (αn+1) ( · · · · · ·

1. 準備 20

と無限に続く R の単項イデアルの列が得られるが, これは補題 1.40に矛盾する.

Euclid 整域

R は整域とする. 写像 φ : R 7−→ N ∪ {0} で次の条件をみたすものが存在するとき R

を Euclid 整域という.

(1) α 6= 0 ならば φ(α) > 0

(2) R の任意の元 α(6= 0), β に対して β = αq + r, φ(r) < φ(α)をみたす q, r ∈ Rが存

在する.

定理 1.52 Euclid 整域は単項イデアル整域である.

Proof Rを Euclid 整域とし , Aを R の 0でないイデアルとする. 0でない元 x ∈ Aに対

し φ(x) は自然数だから, その中に最小値が存在する. この最小値を与える A の元を α と

する. このとき任意の β ∈ Aに対し

β = αq + r, φ(r) < φ(α)

となる q, r が定まる. ここで r 6= 0 とすると r = β − αq ∈ A となり φ(α) の最小性に反

する. 従って r = 0 となり β ∈ (α) を得る. これより A = (α) となり, R の任意のイデア

ルが単項イデアルであることが示された. よって R は単項イデアル整域である.

有理整数環 Z は絶対値をとる写像により Euclid 整域となるので単項イデアル整域で

ある.

定理 1.50, 定理 1.51, 定理 1.52より次の定理を得る.

定理 1.53 Euclid 整域は一意分解整域である.

最後に単項イデアル整域上の加群についての次の定理をあげておく.

定理 1.54 ([2, 3章 定理 30.3]) R は単項イデアル整域とする. このとき階数 n の自

由 R 加群の部分加群は階数が n 以下の自由 R 加群となる.

2章 2次体の整数環

この章では2次体の整数環に関する基本的定理について述べる.

§2.1 では2次体が平方因子をもたない整数 m 6= 0, 1により

Q(√

m) = {a + b√

m | a, b ∈ Q}

と与えられること, および Q(√

m)に含まれる代数的整数全体 Om が部分環を

なすことを示す. さらに m ≡ 1 (mod 4) の場合と m ≡ 2, 3 (mod 4) の場合に

分けて整数環 Om の Z 基底を求める.

§2.2 では m ≡ 2, 3 (mod 4) かつ Om が一意分解整域である場合について, 有

理素数 p の素元分解が平方剰余(

mp

)により定まることを示す. これは4章で

証明する (p) の素イデアル分解法則のひな形とも目される.

§2.3では O−2, O3 が一意分解整域であることを示し , 有理素数 pの素元分解を

例示する.

2.1 2次体の整数環

K を2次体とする. K は有理数体 Q 上の2次元のベクトル空間であるから適当な複素数 αが存在し

K = Q(α) = Q+Q · α = {u + vα | u, v ∈ Q }

と表すことができる. ここで α2 ∈ K だから適当な有理数 s, tが存在して

α2 = s · α + t · 1 すなわち α2 − sα− t = 0

が成り立つ. ここで n = s2 + 4tとおくと α /∈ Q より n /∈ Q2 = {u2 | u ∈ Q}である. 従っ

て n = `2 ·m をみたす正の有理数 ` と平方因子をもたない整数, すなわち素数の平方で割

21

2. 2次体の整数環 22

り切れない整数 m 6= 0, 1が一意に定まる. α =s±√s2 + 4t

2であるから

Q(α) = {u + vα | u, v ∈ Q } = {u +s

2v ± v`

√m

2| u, v ∈ Q }

= { a + b√

m | a, b ∈ Q } = Q(√

m)

が成り立つ.

定理 2.1 2次体は平方因子をもたない整数 m 6= 0, 1 により

Q(√

m) = { a + b√

m | a, b ∈ Q }

と表される. また, このような Q(√

m) は2次体である.

Proof 2次体が Q(√

m) と表されることはすでに示した. 逆に Q(√

m) が2次体である

ことを示せばよい. Q(√

m) が C の部分環であることは容易に確かめられる. 従って

a + b√

m 6= 0が可逆であることを示せば Q(√

m)は Qと異なり, Q上2元で生成されることから2次体であることがわかる. ここで a, bが同時に 0とはならず, mが平方因子をも

たないことから a2 −mb2 6= 0 であるので

a− b√

m

a2 −mb2∈ Q(

√m) かつ (a + b

√m)

(a− b

√m

a2 −mb2

)= 1

が成り立つ. ゆえに a + b√

mは Q(√

m)の可逆元である. よって Q(√

m)は2次体である.

以下 Q(√

m) の元 z = a + b√

m に対して z′ = a− b√

m とおき z′ を z の共役元 (ま

たは共役)という. z′ も Q(√

m) の元である. 明らかに z = z′ となるのは z ∈ Q のときのみである. また Q(

√m) の元 z1, z2 に対して (z1 + z2)

′ = z1′ + z2

′, (z1 · z2)′ = z1

′ · z2′ が成

り立つことを注意しておく. 次に

T (z) = z + z′ = 2a , N (z) = zz′ = a2 −mb2

と定め, T (z), N (z) をそれぞれ z のトレース, ノルムという. z のトレースとノルムは有

理数である.

定理 2.2 Q(√

m) 3 z1, z2 に対して次が成り立つ.

T (z1 + z2) = T (z1) + T (z2) , N (z1z2) = N (z1)N (z2)

2. 2次体の整数環 23

Proof Q(√

m) 3 z1, z2 に対して

T (z1 + z2) = (z1 + z2) + (z1 + z2)′ = (z1 + z′1) + (z2 + z′2) = T (z1) + T (z2)

N (z1z2) = (z1z2)(z1z2)′ = (z1z

′1)(z2z

′2) = N (z1)N (z2)

が成り立つ. よって定理が証明された.

2次体 Q(√

m) の任意の元 z は

X2 − T (z) X +N (z) = 0

をみたす. 従って定義 1.22により代数的数である.

定理 2.3 2次体 Q(√

m) の元 α に対して次は同値である.

(1) α は代数的整数である.

(2) T (α) ∈ Z かつ N (α) ∈ Z が成り立つ.

Proof まず (2)を仮定して (1)を導く.

f(X) = X2 − T (α)X −N (α)

とおくと f(α) = 0である. また T (α),N (α) ∈ Z より f(X) ∈ Z[X]であるから α は代数

的整数である.

次に (1)から (2)を導く. α を代数的整数とする. 定義 1.22より α は Z 係数モニック多項式 g(X) の根である. ここで α の最小多項式を p(X) とすると定理 1.23より,

g(X) = p(X)q(X) と分解できる. g(X), p(X) はモニックであるから q(X) もモニックで

定理 1.24より p(X) の係数はすべて有理整数である. deg(p) = 1 ならば α ∈ Z であるから明らかに (2)が成り立つ. 従って以下 deg(p) > 1 と仮定する.

f(X) = X2 − T (α)X +N (α)

とおくと f(α) = 0 より p(X) | f(X) となる. 次数を比較して deg(p) = deg(f) を得

る. ゆえに f(X) は p(X) の定数倍である. 一方 f(X), p(X) はモニックであることから

p(X) = f(X)が得られる. 以上から f(X) の係数が有理整数であり, (2)の成り立つことが

示された.

2. 2次体の整数環 24

2次体の整数環

以下, 2次体 Q(√

m)に含まれる代数的整数全体のなす集合を Om と表し , Q(√

m) の

整数環と呼ぶ. ただし Om が Q(√

m) の部分環であることは定理 2.7で証明する.

補題 2.4 2次体 Q(√

m) の元 α = a + b√

m について次は同値である.

(1) α = a + b√

m ∈ Om

(2) u = 2a, v = 2b は有理整数で u2 −mv2 ≡ 0 (mod 4) をみたす.

Proof まず (1)から (2)を導く. α = a + b√

m ∈ Om であるから定理 2.3より T (α) =

2a = u, N (α) = a2−mb2 は有理整数である. よって u2−mv2 = 4(a2−mb2) ≡ 0 (mod 4)

が成り立つ. またこれより mv2 = m(2b)2 ∈ Zを得るが mは平方因子を含まないから有理

数 2b の分母は 1 でなければならない. すなわち v = 2b ∈ Z である.

次に (2)から (1)を導く. 仮定より u = 2a, v = 2b ∈ Z, u2 −mv2 ≡ 0 (mod 4) である

から 4(a2 −mb2) ≡ 0 (mod 4)が成り立つ. 従って N (α) = a2 −mb2 ∈ Z を得る. これと

T (α) = u ∈ Z より定理 2.3の条件 (2)をみたすから α ∈ Om が成立する.

補題 2.5 m 6= 0, 1 が平方因子を含まない整数で m ≡ 2, 3 (mod 4) のとき, Z 3 u, v

について次がなり立つ.

u2 −mv2 ≡ 0 (mod 4) ⇐⇒ u, v はともに偶数である

Proof u2 ≡ mv2 (mod 4)と仮定する. m ≡ 2 (mod 4)のときは 2 | uとなり 4 | mv2から

2 | v が得られる. よって u, v はともに偶数である. また m ≡ 3 (mod 4) のときは v が奇

数であるとすれば mv2 ≡ 3 (mod 4) となるが, このとき u も奇数となり u2 ≡ 1 (mod 4)

に矛盾が生じる. よって v は偶数である. このとき u も明らかに偶数である. 逆に u, v が

ともに偶数であるときは明らかに u2 ≡ mv2 (mod 4) が成り立つ. 以上で補題が証明され

た.

補題 2.6 m 6= 0, 1 が平方因子を含まない整数で m ≡ 1 (mod 4) のとき Z 3 u, v につ

いて次がなり立つ.

u2 −mv2 ≡ 0 (mod 4) ⇐⇒ u ≡ v (mod 2)

Proof u2 ≡ mv2 (mod 4) と仮定する. m は奇数であるから u2 と v2 の偶奇は一致する.

従って u と v の偶奇も一致する. 逆に u ≡ v (mod 2) であれば u2 ≡ v2 ≡ 0 (mod 4) ま

2. 2次体の整数環 25

たは u2 ≡ v2 ≡ 1 (mod 4) となるから u2 −mv2 ≡ 0 (mod 4) が成り立つ. 以上で補題が

証明された.

定理 2.7 2次体 Q(√

m) の整数環 Om は次のように与えられる. 特に Om は Q(√

m)

の部分環である.

(1) m ≡ 2, 3 (mod 4) のとき Om = {a + b√

m | a, b ∈ Z}

(2) m ≡ 1 (mod 4) のとき Om =

{u + v

√m

2| u, v ∈ Z, u ≡ v (mod 2)

}

Proof 補題 2.4より

α = a + b√

m ∈ Om ⇐⇒ u = 2a, v = 2b ∈ Z, u2 −mv2 ≡ 0 (mod 4)

が成立する. m ≡ 2, 3 (mod 4) のときは補題 2.5より

u2 −mv2 ≡ 0 (mod 4) ⇐⇒ u, v はともに偶数である

が成り立つ. 従ってこの場合

α = a + b√

m ∈ Om ⇐⇒ a, b ∈ Z

を得る. よって Om = {a + b√

m | a, b ∈ Z}が示された.

次に m ≡ 1 (mod 4) のときは補題 2.6より

u2 −mv2 ≡ 0 (mod 4) ⇐⇒ u ≡ v (mod 2)

が成り立つ. 従って

Om =

{u + v

√m

2| u, v ∈ Z, u ≡ v (mod 2)

}

が示された. いずれの場合も Om が Q(√

m) の部分環であることは容易に確かめられる.

さて定理 2.7より m ≡ 2, 3 (mod 4) のときは

Om = {a + b√

m | a, b ∈ Z}

となる. 明らかに {1,√m}は Z 上1次独立であるから Om の Z 基底である. 特に Om は

階数 2 の自由 Z 加群である.

2. 2次体の整数環 26

一方 m ≡ 1 (mod 4) のときは定理 2.7より

Om =

{u + v

√m

2| u, v ∈ Z, u ≡ v (mod 2)

}

となる. ここで

u + v√

m

2=

(u− v) + v + v√

m

2=

u− v

2+ v

(1 +

√m

2

)

と表されu− v

2∈ Z であるから

Om =

{a + b

(1 +

√m

2

) ∣∣∣∣ a, b ∈ Z}

を得る. 明らかに {1, 1+√

m2} は Z 上1次独立であるから Om の Z 基底である. よってこ

の場合も Om は階数 2 の自由 Z 加群である. 以上より次の定理を得る.

定理 2.8 2次体 Q(√

m) の 整数環 Om は階数 2 の 自由 Z 加群である. ω を次のよ

うに定めると { 1, ω } は Om の Z 基底である.

ω =

√m m ≡ 2, 3 (mod 4)

1 +√

m

2m ≡ 1 (mod 4)

定理 2.9 Om ∩Q = Z である.

Proof 定理 2.8より Omの元は有理整数 a, bにより a+b ωと表される. ここで a+b ω ∈ Qであることと b = 0 とは同値であるから Om ∩Q = Zが成り立つ.

定理 2.10 Om の元 α について次が成り立つ.

α が単数 ⇐⇒ N (α) = ±1

Proof N (α) = ±1とする. このとき α α′ = ±1であるから αは単数である. 逆に αが単

数であるとすると α β = 1 となる β ∈ Om が存在する. 両辺のノルムをとると

N (α)N (β) = N (α β) = N (1) = 1

が得られるが N (α), N (β)は有理整数だから N (α) = N (β) = ±1 である.

2. 2次体の整数環 27

定理 2.11 Om の元 α, β が同伴ならば N (α) = ±N (β) が成り立つ.

Proof 仮定より α = uβ をみたす単数 uが存在する. このとき定理 2.10より

N (α) = N (uβ) = N (u)N (β) = ±N (β)

が得られる.

定理 2.12 α ∈ Om とする. N (α) = ±p (pは有理素数) ならば α は既約元である.

Proof N (α) = ±p より α は 0 でも単数でもない. ここで α = βγ とすると N (α) =

N (β)N (γ) = ±pが成り立つ. 従って N (β), N (γ) の一方は ±1 となり, 定理 2.10より単

数となる. よって α は既約元である.

定理 2.13 Om 3 α, β, γ が α | β, α | γ をみたすとき任意の δ, ε ∈ Om に対し α |δ β + ε γ が成り立つ.

Proof 有理整数の場合と同様にして証明できる.

2.2 有理素数のZ[√

m]における素元分解

この節では m ≡ 2, 3 (mod 4)と仮定する. 従って Q(√

m) の整数環 Om は Z[√

m]で

ある. 以下 O = Z[√

m] とおき O は一意分解整域であるとする.

π を O の素元とすると (π) は O の素イデアルである. 一方 Z は O の部分環である

から定理 1.35より (π) ∩ Zは Z の素イデアルである. 従って pZ = (π) ∩ Z をみたす有理素数 p が存在する. ここで p ∈ (π) であることから p = πα をみたす α ∈ O が存在する.

これより O の素元 π はある有理素数 p の約数となる.

次に有理素数 p を任意に選び p の O における素元分解を p = π1 . . . πr とする. 両辺

のノルムをとると

p2 = N (π1) · · · N (πr)

を得る. πi は単数でないので N (πi) 6= ±1 である. 従って r = 1 または r = 2 のいずれか

が起こり得る.

(1) r = 1 の場合. このとき p = π1, N (π1) = p2 となる. また pは素元である.

2. 2次体の整数環 28

(2) r = 2 の場合. このとき p = π1π2, N (π1) = N (π2) = ±p となる.

(i) N (π1) = N (π2) = p のとき p = π1π2 = N (π1) = π1π′1 より π2 = π′1, p = π1π

′1

が成り立つ. π1 = π′1 とすれば π1 は有理整数となり N (π1) = p に矛盾する.

よって π1 6= π′1 である.

(ii) N (π1) = N (π2) = −p のとき p = π1π2 = −N (π1) = −π1π′1 より π2 = −π′1 が

成り立つ. この場合も上と同様に π1 6= π′1 である.

上の (2) の場合についてさらに考察する.

p 6= 2 の場合

p = π1π2 と仮定し , π1 = a + b√

m とおくと N (π1) = a2 −mb2 = ±pが成り立つ. 今

p | b と仮定すると p | a より p2 | (a2 −mb2)が得られ矛盾が生じる. 従って p - b である.

p - m とする. p | a ならば p | mb2 より p | b となり前述の結果に反する. 従って p - aである. このとき a2 ≡ mb2 (mod p) より

(mp

)=

(bp

)2(mp

)=

(mb2

p

)=

(a2

p

)= 1

が成り立つ.

p | m のときは(

mp

)= 0 である.

以上から p = π1π2 と分解されるときは(

mp

)= 0, 1が成り立つ.

逆に(

mp

)= 1 とすると c2 ≡ m (mod p) をみたす c ∈ Zが存在し

p | (c2 −m) = (c +√

m)(c−√m)

であるが p - (c±√m)だから pは O の素元ではない. また(

mp

)= 0 すなわち p | m のと

き p | m = (√

m)2 であるが p -√

m より pは O の素元ではない.

以上から pが素元でないこと,すなわち p = π1π2 と素元分解されることと(

mp

)= 0, 1

となることとが同値であることが示された. これより pが素元であることと(

mp

)= −1で

あることも同値である.

次に(

mp

)= 1 のとき π1 と π2 が同伴でないことを示す. π1 と π2 が同伴であるとす

ると単数 ρが存在し π2 = ρπ1 と表される. c2 ≡ m (mod p) をみたす c ∈ Zに対して

p = ρπ21 , π2

1 | (c +√

m)(c−√m)

2. 2次体の整数環 29

が成り立つ. π21 | (c +

√m) または π2

1 | (c − √m) と仮定すると p | (c +

√m) または

p | (c−√m) となり矛盾が生じる. 従って π1 | (c +√

m) かつ π1 | (c−√

m)が成り立つ.

このとき π1 | {(c +√

m) + (c − √m)} = 2c より両辺のノルムをとると p | 4c2 を得るが

p 6= 2 より p | c となり矛盾が生じる. よって π1 と π2 は同伴でない.(

mp

)= 0 とすると p | m かつ p | a2 −mb2 から p | a を得る. N (π1) = N (π2) = p

のときは π1 + π2 = 2a かつ π1π2 = p となるから π1π2 | (π1 + π2) が成り立つ. また

N (π1) = N (π2) = −pのときも π1− π2 = 2aかつ π1π2 = pとなるから π1π2 | (π1− π2)が

成り立つ. いずれの場合も π1 | π2 かつ π2 | π1 が成り立つので π1 と π2 は同伴である.

p = 2 の場合

mが奇数のときは

(1 +√

m)2 = 2

(1 + m

2+√

m

),

1 + m

2+√

m ∈ O

より 2 | (1 +√

m)2 であるが 2 - (1 +√

m) より, 2は素元でない.

mが偶数のときも 2 | m = (√

m)2 であるが 2 -√

mだから 2は素元ではない. よって

いずれの場合も 2 = π1π2 と素元分解される.

π1 = a + b√

m とおく. N (π1) = N (π2) = 2 のときは π1 + π2 = 2a, π1π2 = 2 より

π1π2 | (π1 + π2)が成り立つ. N (π1) = N (π2) = −2 のときも π1 − π2 = 2a, π1π2 = 2 より

π1π2 | (π1 − π2)が成り立つ. 従って π1 | π2 かつ π2 | π1 となり π1 と π2 は同伴となる.

以上をまとめると次の定理が得られる.

定理 2.14 (p の素元分解) m ≡ 2, 3 (mod 4) とする. O = Z[√

m] が一意分解整域で

あるとき O における有理素数 p の素元分解は次のようになる.

• p 6= 2 の場合.

(1)(

mp

)= 1 のとき p = ±ππ′ となる. ここで N (π) = ±p であり π と π′ は同

伴でない.

(2)(

mp

)= −1 のとき p は O の素元である.

(3)(

mp

)= 0 のとき p = ρπ2 となる. ただし N (π) = ±p, ρ は単数である.

• p = 2 の場合. 2 = ρπ2 となる. ただし N (π) = ±2, ρ は単数である.

2. 2次体の整数環 30

2.3 Z[√−2], Z[

√3] における素元分解

ここでは前節の結果をふまえて, Z[√−2], Z[

√3]における有理素数の素元分解につい

て考察する. まず必要な補題を準備する.

補題 2.15 奇素数 p について次が成り立つ.

(1)(−2p

)= 1 ならば p ≡ 1, 3 (mod 8) である.

(2)(−2p

)= −1 ならば p ≡ 5, 7 (mod 8) である.

(3)(

3p

)= 1 ならば p ≡ 1, 11 (mod 12) である.

(4)(

3p

)= −1 ならば p ≡ 5, 7 (mod 12) である.

Proof

(1)(−2p

)=

(−1p

) (2p

)であるから

(−2p

)= 1 より

(−1p

)=

(2p

)= 1 であるかまたは(

−1p

)=

(2p

)= −1が成り立つ. 従って p ≡ 1 (mod 4)かつ p ≡ 1, 7 (mod 8)である

かまたは p ≡ 3 (mod 4)かつ p ≡ 3, 5 (mod 8)が成り立つ. よって p ≡ 1, 3 (mod 8)

を得る.

(2) (1)と同様にして p ≡ 5, 7 (mod 8) を得る.

(3)(

3p

)=

(−1p

) (−3p

)=

(−1p

) (p3

)であるから

(3p

)= 1 より

(−1p

)=

(p3

)= 1 である

かまたは(−1p

)=

(p3

)= −1が成り立つ. 従って p ≡ 1 (mod 4)かつ p ≡ 1 (mod 3)

であるかまたは p ≡ 3 (mod 4) かつ p ≡ 2 (mod 3) が成り立つ. ゆえに p ≡ 1, 11

(mod 12) を得る.

(4) (3)と同様にして p ≡ 5, 7 (mod 12) を得る.

Z[√−2]

次の図 (1)のように, 複素平面上に x 軸を ±1,±2, ... 平行移動した直線と y 軸を

±√2,±2√

2, ... 平行移動した直線を描く. このときこれらの直線の交点と Z[√−2] の元

α = a + b√−2 とが1対1に対応する. 以下このような点を格子点と呼ぶことにする.

補題 2.16 任意の複素数 z に対して | z − γ |≤√

32をみたす γ ∈ Z[

√−2] が存在する.

2. 2次体の整数環 31

Proof 右図の複素平面において, 格子点と

Z[√−2] の各元が 1対 1に対応し , ∀z ∈ C

は格子点を頂点とする辺の長さが 1,√

2 の

長方形の内部または辺上にあるから, z と最

も近い格子点γ ∈ Z[√−2]との距離について,

| z − γ |≤√

3

2

が成り立つ. よって補題が示された.0

z・×・γ

√−2

1

図 (1)

Z[√−2] 3 α = a + b

√−2 のノルムは a2 + 2b2 であり, α 6= 0 のときは自然数である.

また N (α) = |α|2 であることを注意しておく.

定理 2.17 Z[√−2] は一意分解整域である.

Proof 定理 1.53より Z[√−2]がノルムに関して Euclid 整域であることを示せばよい. そ

のためには Z[√−2] の任意の元 α(6= 0), β に対して

β = αγ + κ N (κ) < N (α)

をみたす γ, κ ∈ Z[√−2]が存在することを示せばよい. 補題 2.16より

∣∣∣βα− γ

∣∣∣ ≤√

3

2< 1 =⇒ |β − αγ| < |α|

をみたす γ ∈ Z[√−2]が存在する. ここで κ = β − αγ とおけば κ ∈ Z[

√−2] であり

N (κ) = N (β − αγ) = |β − αγ|2 < |α|2 = N (α)

が成り立つ. ゆえに Z[√−2]はノルムに関して Euclid 整域である.

Z[√−2] は一意分解整域である. 従って, 定理 2.14より Z[

√−2] における有理素数 p

の素元分解は次のようになる.

• p = 2 のとき, 2 = −(√−2)2 である. ここで

√−2は素元である.

• p 6= 2 のとき.

(1)

(−2p

)= 1, すなわち p ≡ 1, 3 (mod 8) のとき, p = ππ′ である. ここで π と π′

は同伴でない素元である. また π = a + b√−2 とすると a2 + 2b2 = p である.

2. 2次体の整数環 32

(2)

(−2p

)= −1, すなわち p ≡ 5, 7 (mod 8) のとき pは素元である.

(3)

(−2p

)= 0は起こり得ない.

Z[√

3]

Z[√

3] 3 α = a + b√

3 のノルムは N (α) = a2 − 3b2 であり, α 6= 0 のとき N (α) 6= 0

である. 従って Z[√

3] の 0 でない元のノルムの絶対値は自然数である.

定理 2.18 Z[√

3] は一意分解整域である.

Proof Z[√

3]がノルムに関して Euclid 整域であることを示せばよい. そのためには Z[√

3]

の任意の元 α(6= 0), β に対して

β = αγ + κ |N (κ)| < |N (α)|

をみたす γ, κ ∈ Z[√

3]が存在することを示せばよい. βα

= x + y√

3とおき, x, y に最も近

い有理整数を m, n とする. このとき

|x−m| ≤ 1

2, |y − n| ≤ 1

2

が成り立つ. ここで γ = m + n√

3, κ = β − αγ とおくと γ, κ ∈ Z[√

3] であり

|N (κ)| = |κκ′| = |(β − αγ)(β′ − α′γ′)| =∣∣∣(β

α− γ

)(β′

α′− γ′

)∣∣∣ · |αα′|=

∣∣((x−m) + (y − n)√

3)(

(x−m)− (y − n)√

3)∣∣ · |N (α)|

= |(x−m)2 − 3(y − n)2| · |N (α)|≤ 3

4|N (α)| < |N (α)|

が成り立つ. ゆえに Z[√

3]はノルムに関して Euclid 整域である.

Z[√

3]は一意分解整域である. 従って, 定理 2.14より Z[√

3]における有理素数 p の素

元分解は次のようになる.

• p = 2 のときは 2 = (2−√3)(1 +√

3)2 である. ここで 1 +√

3は素元である.

• p 6= 2 のとき.

2. 2次体の整数環 33

(1)

(3p

)= 1, すなわち p ≡ 1, 11 (mod 12) のときは p = ±ππ′ である. ただし π

と π′ は同伴でない素元である. また π = a + b√

3とすると a2− 3b2 = ±pが成

り立つ.

(2)

(3p

)= −1, すなわち p ≡ 5, 7 (mod 12) のとき pは素元である.

(3)

(3p

)= 0, すなわち p = 3 のとき 3 = (

√3)2 である. ここで

√3は素元である.

3章 Euclid 体

この章では Euclid 体について考察する. 整数環がノルムに関して Euclid 整域

である2次体を Euclid 体という. 特に実2次体, 虚2次体である場合をそれぞ

れ実Euclid 体, 虚Euclid 体という. また整数環が一意分解整域である2次体を

単純体という. Euclid 体は単純体であるが逆は成り立たない. 2次体 Q(√

m)

が Euclid 体となるのは mが

−11, −7, −3, −2, −1, 2, 3, 5, 6, 7, 11, 13, 17, 19, 21, 29, 33, 37, 41, 57, 73

の 21 個の場合に限ることが 1950年 Chatlandと Davenportによって証明され

た. §3.1ではEuclid体,単純体を定義し ,2次体 Q(√

m)が虚Euclid体となるの

は mが −1,−2,−3,−7,−11の場合に限ることを証明する. §3.2では m ≡ 2, 3

(mod 4) となる実 Euclid 体 Q(√

m) が有限個であることを示し , Chatland と

Davenport のリストにあるいくつかの mについて Q(√

m)が Euclid 体である

ことを確かめる.

3.1 Euclid 体

2次体 Q(√

m) の整数環 Om において次の条件がみたされているとする.

• 任意の α(6= 0), β に対して β = αq + r, |N (r)| < |N (α)| となる q, r が存在する.

このとき写像 φ を

φ : Om 3 α 7−→ |N (α)| ∈ N ∪ {0}

と定めると α 6= 0 のとき N (α) 6= 0 であることより, 条件

(1) α 6= 0 ならば φ(α) > 0

(2) Om の任意の元 α(6= 0), β に対して β = αq + r, φ(r) < φ(α) をみたす q, r ∈ Om

が存在する.

34

3. Euclid 体 35

をみたす. 従って Omは Euclid整域となる. 以下,このような Omはノルムに関して Euclid

整域であるということにする.

Omがノルムに関して Euclid 整域であるとき Q(√

m)を Euclid体という. 特に m < 0

のとき虚 Euclid 体, m > 0 のとき実 Euclid 体という. 定理 1.53より Euclid 整域は一意分

解整域であるから Euclid 体は単純体である.

定理 3.1 Euclid 体は単純体である.

定理 3.2 Q(√

m) が Euclid 体であることと次の条件が成り立つこととは同値である.

Om の任意の元 α(6= 0), β に対して∣∣N (

βα− q

)∣∣ < 1をみたす q ∈ Omが存在する.

Proof 明らかに次の2条件は同値である.

• 任意の α(6= 0), β に対して β = αq + r, |N (r)| < |N (α)| となる q, r が存在する.

◦ 任意の α(6= 0), β に対して |N (β − α q)| < |N (α)| となる q が存在する.

また Om の任意の元 α(6= 0), β, q に対して

∣∣∣∣N(

β

α− q

)∣∣∣∣ < 1 ⇐⇒ |N (β − α q)| < |N (α)|

が成り立つことから, 上の2条件は次の条件に同値である.

¯ 任意の α(6= 0), β に対して∣∣N (

βα− q

)∣∣ < 1 となる q が存在する.

以上から定理の成り立つことは明らかである.

補題 3.3 Q(√

m) が虚 Euclid 体で m ≡ 2, 3 (mod 4) ならば m = −1,−2 である.

Proof 補題 3.2 より Q(√

m) が虚 Euclid 体となる条件は, 任意の α(6= 0), β に対し

て∣∣N (

βα− κ

)∣∣ < 1 をみたす κ ∈ Om が存在することである. ここで

β

α= a + b

√m (a, b ∈ Q), κ = r + s

√m (r, s ∈ Z)

とおく.

N(β

α− κ

)= N

((a− r) + (b− s)

√m

)= (a− r)2+ | m | (b− s)2

3. Euclid 体 36

であるから Q(√

m)が虚Euclid 体となることと (a− r)2+ | m | (b− s)2 < 1をみたす有理

整数 r, sが存在することとは同値である.

| a− r |≤ 12, | b− s |≤ 1

2となるように r, s ∈ Z を選ぶと

N(β

α− κ

)= (a− r)2+ | m | (b− s)2 ≤

(1

2

)2

+ | m |(1

2

)2

=1

4+| m |

4

となる. 従って m = −1,−2 のときは1

4+| m |

4< 1 となるから Q(

√m) は Euclid 体で

ある.

一方 m < −2 のときは m ≡ 2, 3 (mod 4) より m ≤ −5 となる. ここで β = 1 +√

m,

α = 2 とするとβ

α=

1

2+

1

2

√m となる. |m| ≥ 5 であることから任意の r, s ∈ Zに対して

(1

2− r

)2

+ | m |(1

2− s

)2

≥(1

2

)2

+ | m |(1

2

)2

=1

4+| m |

4> 1

となる. 従って m < −2 のとき Q(√

m)は Euclid 体でない. 以上で補題が示された.

補題 3.4 Q(√

m) が虚 Euclid 体で m ≡ 1 (mod 4) ならば m = −3,−7,−11 である.

Proof 補題 3.3と同様に任意の α(6= 0), β に対して∣∣N (

βα− κ

)∣∣ < 1 をみたす κ ∈ Om が

存在するかどうかが問題である. ここで

β

α= a + b

√m (a, b ∈ Q), κ = r + s

1 +√

m

2(r, s ∈ Z)

とおくと

N(

β

α− κ

)= N

((a− r − s

2

)+

(b− s

2

)√m

)=

(a− r − s

2

)2

+|m|4

(2b− s)2

となる. | 2b− s |≤ 12, | a− s

2− r |≤ 1

2となるように r, s ∈ Z を選ぶと m = −3,−7,−11

のときは

N(β

α− κ

)≤

(1

2

)2

+| m |

4

(1

2

)2

=1

4+| m |16

< 1

が成り立つ. 従って m = −3,−7,−11 のとき Q(√

m)は Euclid体である.

一方 m < −11 のときは m ≡ 1 (mod 4) であるから m ≤ −15 となり, β = 1+√

m2

,

α = 2 とすると a = b = 14より

N(β

α− κ

)=

(1

4− r − s

2

)2

+| m |

4

(2 · 1

4− s

)2

3. Euclid 体 37

が成り立つ. ここで

∣∣∣ 1

2− s

∣∣∣ ≥ 1

2,

∣∣∣ 1

4− r − s

2

∣∣∣ =| 1− 2(2r + s) |

4≥ 1

4

であることから

N(β

α− κ

)≥

(1

4

)2

+| m |

4

(1

2

)2

=1

16+| m |16

≥ 1

となる. 従って m < −11 のとき Q(√

m)は Euclid 体でない.

補題 3.3と補題 3.4より次の定理が得られる

定理 3.5 Q(√

m) が虚 Euclid 体になるのは m = −1,−2,−3,−7,−11 のときに限る.

3.2 実Euclid 体

Q(√

m)がEuclid体となるmが 21個に限ることはすでに述べたが,ここでは Chatland

と Davenport のリストの中の m = 2, 3, 5, 6, 7, 13, 17, 21, 29について Q(√

m)が Euclid 体

であることを確かめる. また m ≡ 2, 3 (mod 4) をみたす実 Euclid 体 Q(√

m)が有限個で

あることを示す. なお実2次体の場合はノルムが負になる場合があるので注意されたい.

補題 3.6 m = 2, 3, 6, 7 のとき Q(√

m) は実 Euclid 体である.

Proof m > 0, m ≡ 2, 3 (mod 4) として, Q(√

m) が Euclid 体でないと仮定する. 以下

m ≥ 8 であることを示そう. 仮定より条件

• 任意の α(6= 0), β に対して∣∣N (

βα− κ

)∣∣ < 1 をみたす κ ∈ Om が存在する.

は成り立たない. 従って, ある α(6= 0), β が存在して βα

= a + b√

m とおくと, 任意の

κ = r + s√

mに対して

∣∣∣N(β

α− κ

) ∣∣∣ = | (a− r)2 −m(b− s)2 |≥ 1

が成り立つ. まず

0 ≤ a ≤ 1

2, 0 ≤ b ≤ 1

2

とできることを示そう. β を β − α (x + y√

m)に置き換えると

β − α (x + y√

m)

α=

β

α− (x + y

√m) = (a− x) + (b− y)

√m

3. Euclid 体 38

となる. x, y として適当な整数を選べば β − α (x + y√

m) ∈ Om であり 0 ≤ |a| ≤ 12, 0 ≤

|b| ≤ 12となるようにできる. 次に a < 0 ならば β を −β に置き換えて 0 ≤ a ≤ 1

2が成り

立つようにできる. ここで b < 0 ならば α, β を共役で置き換えれば 0 ≤ b ≤ 12が成り立

つようにできる. これらの操作により, 任意の κ = r + s√

mに対して

∣∣∣N(β

α− κ

) ∣∣∣ = | (a− r)2 −m(b− s)2 |≥ 1

が成り立つことに変わりはない. 従って以下, 0 ≤ a ≤ 12, 0 ≤ b ≤ 1

2がみたされているも

のとする. ここで

P (r, s) : (a− r)2 −m(b− s)2 ≥ 1(⇐⇒ (a− r)2 ≥ 1 + m(b− s)2

)

Q(r, s) : (a− r)2 −m(b− s)2 ≤ −1(⇐⇒ m(b− s)2 ≥ 1 + (a− r)2

)

とおく. 仮定より任意の r, s ∈ Zに対して P (r, s), Q(r, s) のいずれかが成り立つ. 特に

1© P (0, 0) : a2 ≥ 1 + mb2 , Q(0, 0) : mb2 ≥ 1 + a2

2© P (1, 0) : (a− 1)2 ≥ 1 + mb2 , Q(1, 0) : mb2 ≥ 1 + (a− 1)2

3© P (−1, 0) : (a + 1)2 ≥ 1 + mb2 , Q(−1, 0) : mb2 ≥ 1 + (a + 1)2

とおくと 1©~ 3© の各組について少なくとも一方が成り立つ.

a = b = 0とすると 1© の両方が成り立たない. 従って a または b のどちらか一方は 0

でない.

b = 0 とすると 0 < a ≤ 12であるから 1© の両方とも成り立たない. 従って b 6= 0 で

ある.

a = 0 とすると 0 < b ≤ 12であるから P (−1, 0)が成り立たない. 従って Q(−1, 0)が

成り立つ. これより mb2 ≥ 2が得られるが 0 < b ≤ 12であることから m ≥ 8が導かれる.

従って以下 a, b 共に 0 でないとして m ≥ 8 を示せばよい.

0 < a, b ≤ 12より P (0, 0), P (1, 0)が成り立たない. 従って Q(0, 0), Q(1, 0)が成り立つ.

ここで P (−1, 0), Q(−1, 0) のいずれが成り立つかで場合分けすることにする.

P (−1, 0)が成り立つとする. このとき Q(0, 0), Q(1, 0) とあわせて次を得る.

mb2 ≥ 1 + a2 , mb2 ≥ 1 + (a− 1)2 , (a + 1)2 ≥ 1 + mb2

3. Euclid 体 39

第2式と第3式より

(a + 1)2 ≥ 1 + mb2 ≥ 2 + (a− 1)2 =⇒ (a + 1)2 ≥ 2 + (a− 1)2 =⇒ a ≥ 1

2

よって a = 12を得る. これを上式に代入すると

(3

2

)2

≥ 1 + mb2 ≥ 2 +(1

2

)2

=⇒ 5

4≥ mb2 ≥ 5

4=⇒ mb2 =

5

4

となるがこれは起こり得ない. なぜならば b = qp, (p, q) = 1 とおくと

m(q

p

)2

=5

4=⇒ 4mq2 = 5p2 =⇒ q2 | 5, q = 1

となり, 4m = 5 p2 より p = 2, m = 5が導かれるが, これは m ≡ 2, 3 (mod 4)に矛盾する

からである. よって P (−1, 0)は起こり得ない.

Q(−1, 0)が成り立つとする. このとき Q(0, 0), Q(1, 0) とあわせて次を得る.

mb2 ≥ 1 + a2 , mb2 ≥ 1 + (a− 1)2 , mb2 ≥ 1 + (a + 1)2

ここで 0 < a ≤ 12より

mb2 ≥ 1 + (a + 1)2 > 2 =⇒ m

4≥ mb2 > 2 =⇒ m > 8

を得る. 以上で Q(√

m)が Euclid 体でないときは m ≥ 8の成り立つことが示された. 従っ

て m = 2, 3, 6, 7 のとき Q(√

m)は Euclid 体である.

補題 3.7 m = 5, 13, 17, 21, 29 のとき Q(√

m) は実 Euclid 体である.

Proof m > 0, m ≡ 1 (mod 4) として, Q(√

m) が Euclid 体でないと仮定する. m ≥ 32

であることを示せばよい. 仮定より条件

• 任意の α(6= 0), β に対して∣∣N (

βα− κ

)∣∣ < 1 をみたす κ ∈ Om が存在する.

は成り立たない. 従って, ある α(6= 0), β が存在して βα

= a + b√

m とおくと, 任意の

κ = r + s 1+√

m2に対して

∣∣∣N(β

α− κ

) ∣∣∣ =∣∣∣(a− r − s

2

)2

− m

4(2b− s)2

∣∣∣ ≥ 1

が成り立つ. まず

0 ≤ a ≤ 1

2, 0 ≤ b ≤ 1

4

3. Euclid 体 40

としてよいことを示そう. β を β − α (x + y 1+√

m2

)に置き換えると

β − α (x + y 1+√

m2

)

α=

β

α−

(x + y

1 +√

m

2

)=

(a− x− y

2

)+

(b− y

2

)√m

となる. 従って有理整数 y を適当に選び, 次いで x を適当に選ぶことにより

0 ≤ |a| ≤ 1

2, 0 ≤ |b| ≤ 1

4

が成り立つようにできる. 次に a < 0 ならば β を −β に置き換えて 0 ≤ a ≤ 12が成り立

つようにできる. ここで b < 0 ならば α, β を共役で置き換えれば 0 ≤ b ≤ 14が成り立つ

ようにできる. これらの操作により, 任意の κ = r + s 1+√

m2に対して

∣∣∣N(β

α− κ

) ∣∣∣ =∣∣∣(a− r − s

2

)2

− m

4(2b− s)2

∣∣∣ ≥ 1

が成り立つことに変わりがない. 従って以下, 0 ≤ a ≤ 12, 0 ≤ b ≤ 1

4がみたされているも

のとする.

ここで

P (r, s) :(a− r − s

2

)2− m

4(2b− s)2 ≥ 1

(⇐⇒

(a− r − s

2

)2≥ 1 +

m

4(2b− s)2

)

Q(r, s) :(a− r − s

2

)2− m

4(2b− s)2 ≤ −1

(⇐⇒ m

4(2b− s)2 ≥ 1 +

(a− r − s

2

)2)

とおく. 仮定より任意の r, s ∈ Zに対して P (r, s), Q(r, s) のいずれかが成り立つ. 特に

1© P (0, 0) : a2 ≥ 1 + mb2 , Q(0, 0) : mb2 ≥ 1 + a2

2© P (1, 0) : (a− 1)2 ≥ 1 + mb2 , Q(1, 0) : mb2 ≥ 1 + (a− 1)2

3© P (−1, 0) : (a + 1)2 ≥ 1 + mb2 , Q(−1, 0) : mb2 ≥ 1 + (a + 1)2

とおくと 1©~ 3© の各組について少なくとも一方が成り立つ.

a = b = 0とすると 1©の両方とも成り立たない. 従って aまたは bの一方は 0でない.

b = 0 とすると 1© の両方とも成り立たない. 従って b 6= 0 である.

a = 0 とすると P (−1, 0)が成り立たないから Q(−1, 0)が成り立ち, mb2 ≥ 2 を得る.

これより m16≥ mb2 ≥ 2, すなわち m ≥ 32が導かれる. 従って, 以下 a, b 共に 0 でないと

して m ≥ 32 を示せばよい.

0 < a ≤ 12, 0 < b ≤ 1

4より P (0, 0), P (1, 0)が成り立たない. 従って Q(0, 0), Q(1, 0)が

成り立つ.

3. Euclid 体 41

ここで P (−1, 0), Q(−1, 0) のいずれが成り立つかで場合分けすることにする.

P (−1, 0)が成り立つとする. このとき Q(0, 0), Q(1, 0) とあわせて次を得る.

mb2 ≥ 1 + a2 , mb2 ≥ 1 + (a− 1)2 , (a + 1)2 ≥ 1 + mb2

第2式と第3式より

(a + 1)2 ≥ 1 + mb2 ≥ 2 + (a− 1)2 =⇒ (a + 1)2 ≥ 2 + (a− 1)2 =⇒ a ≥ 1

2

よって a = 12を得る. これを上式に代入すると

(3

2

)2

≥ 1 + mb2 ≥ 2 +(1

2

)2

=⇒ 5

4≥ mb2 ≥ 5

4=⇒ mb2 =

5

4

となるがこれは起こり得ない. なぜならば b = qp, (p, q) = 1 とおくと

m(q

p

)2

=5

4=⇒ 4mq2 = 5p2 =⇒ q2 | 5, q = 1

となり, 4m = 5 p2 より p = 2, b = 12が導かれ 0 ≤ b ≤ 1

4に矛盾するからである. よって

P (−1, 0)は起こり得ない.

Q(−1, 0)が成り立つとする. このとき Q(0, 0), Q(1, 0) とあわせて次を得る.

mb2 ≥ 1 + a2 , mb2 ≥ 1 + (a− 1)2 , mb2 ≥ 1 + (a + 1)2

ここで 0 < a ≤ 12より

mb2 ≥ 1 + (a + 1)2 > 2 =⇒ m

16≥ mb2 > 2 =⇒ m > 32

を得る. 以上で Q(√

m)が Euclid体でないときは m ≥ 32の成り立つことが示された. 従っ

て m = 5, 13, 17, 21, 29 のとき Q(√

m)は Euclid 体である.

補題 3.6と補題 3.7より次の定理が得られる

定理 3.8 m = 2, 3, 5, 6, 7, 13, 17, 21, 29 のとき Q(√

m) は実 Euclid 体である.

補題 3.9 実数 a, b が a− b > 2 をみたすならば b < t < a となる奇数 t が存在する.

Proof 背理法で示す. b < t < a となる奇数 t が存在しないと仮定する. a − b > 2 より

b < s < a をみたす整数 s が存在する. 仮定より s は偶数である. このとき s + 1 ≥ a,

s− 1 ≤ b となることから a− b ≤ 2 となり仮定に矛盾する. よって補題が示された.

3. Euclid 体 42

補題 3.10 自然数 n について次がなり立つ.

(1) n ≥ 45 のとき 2n < t2 < 3n をみたす奇数 t が存在する.

(2) n ≥ 100 のとき 5n < t2 < 6n をみたす奇数 t が存在する.

Proof√

3−√2 = 0.317... > 0.3,√

45 = 6.708... であるから n ≥ 45 のときは

√3n−

√2n = (

√3−

√2)√

n > 0.3 ·√

45 = 2.01... > 2

が成り立つ. 従って√

3n−√2n > 2 となり補題 3.9より√

2n < t <√

3n をみたす奇数 t

が存在する. このとき 2n < t2 < 3nが成り立つ.

√6−√5 = 0.213... > 0.2 であるから n ≥ 100 のときは

√6n−

√5n = (

√6−

√5)√

n > 0.2 ·√

100 = 2

が成り立つ. 従って√

6n−√5n > 2 となり√

5n < t <√

6n をみたす奇数 tが存在する.

このとき 5n < t2 < 6nが成り立つ.

定理 3.11 m ≡ 2, 3 (mod 4) をみたす実 Euclid 体 Q(√

m) は有限個である.

Proof m ≡ 2, 3 (mod 4)で Q(√

m)が Euclid 体であると仮定する. 以下 m < 100である

ことを示そう. これより定理が導かれることは明らかである.

Om の任意の元 α(6= 0), β に対して βα

= a + b√

mとおくと, ある κ = r + s√

m ∈ Om

が存在して

∣∣∣N(β

α− κ

)∣∣∣ =∣∣∣N

((a− r) + (b− s)

√m

)∣∣∣ =| (a− r)2 −m(b− s)2 |< 1

が成り立つ. ここで任意の有理整数 t に対して α = m, β = t√

m とおくと a = 0, b = tm

となる. このとき

∣∣∣r2 −m( t

m− s

)2∣∣∣ < 1 すなわち | (ms− t)2 −mr2 |< m

をみたす r, s ∈ Z が存在する. ここで (ms − t)2 − mr2 ≡ t2 (mod m) であるから z2 =

(ms− t)2 とおけば z2 −mr2 ≡ t2 (mod m) を得る. 以上から任意の有理整数 tに対して

z2 −mr2 ≡ t2 (mod m) , | z2 −mr2 |< m

3. Euclid 体 43

をみたす有理整数 z, r の存在することが示された.

以下 m ≥ 100 と仮定し , 上の条件がみたされたとして矛盾を導く. これより Q(√

m)

が Euclid 体であれば m < 100 でなければならないことがわかる.

まず m ≡ 3 (mod 4) とする. 補題 3.10より 5m < t2 < 6m をみたす奇数 t が存在す

る. ここで t2 = 5m + k とおく. 0 < k < m である.

z2 −mr2 ≡ t2 ≡ k (mod m) かつ | z2 −mr2 |< m

より z2 −mr2 = k または k −m である. これより

z2 −mr2 = t2 − 5m または z2 −mr2 = t2 − 6m

が得られるので

t2 − z2 = m(5− r2) または t2 − z2 = m(6− r2) · · · · · · 1©

が成り立つ. ここで 8 を法として考えると tが奇数であることから

t2 ≡ 1, z2 ≡ 0, 1, 4, r2 ≡ 0, 1, 4, m ≡ 3, 7 (mod 8)

となり, t2 − z2 ≡ 0, 1, 5 (mod 8) を得る. 一方

5− r2 ≡ 1, 4, 5 , 6− r2 ≡ 2, 5, 6 (mod 8)

であることから

m(5− r2) ≡ 3, 4, 7 , m(6− r2) ≡ 2, 3, 6, 7 (mod 8)

となり 1©に矛盾する.

次に m ≡ 2 (mod 4) とする. 補題 3.10より 2m < t2 < 3m をみたす奇数 t が存在す

る. ここで t2 = 2m + k とおく. 0 < k < m である.

z2 −mr2 ≡ t2 ≡ k (mod m) かつ | z2 −mr2 |< m

より z2 −mr2 = k または k −m である. これより

z2 −mr2 = t2 − 2m または z2 −mr2 = t2 − 3m

3. Euclid 体 44

が得られるので

t2 − z2 = m(2− r2) または t2 − z2 = m(3− r2) · · · · · · · · · 2©

が成り立つ. ここで 8 を法として考えると

t2 ≡ 1, z2 ≡ 0, 1, 4, r2 ≡ 0, 1, 4, m ≡ 2, 6 (mod 8)

より t2 − z2 ≡ 0, 1, 5 (mod 8) を得る. 一方

2− r2 ≡ 1, 2, 6 , 3− r2 ≡ 2, 3, 7 (mod 8)

であることから

m(2− r2) ≡ 2, 4, 6 , m(3− r2) ≡ 2, 4, 6 (mod 8)

となり 2©に矛盾する. 以上で定理が証明された.

4章 2次体のイデアル

この章では2次体のイデアル論について述べる. 2次体 Q(√

m) の整数環 Om

において 0 でないイデアルが素イデアルの積として一意的に分解できること,

有理素数 pで生成される Om の単項イデアル (p)の素イデアル分解が Artin記

号により判定できることなどを証明する.

§4.1では Om の 0でないイデアルに標準的基底が存在すること, および 0でな

いイデアルが階数 2 の自由 Z 加群であることを示す. §4.2 では標準的基底か

らイデアルのノルムを求め, 単項イデアルのノルムが生成元のノルムの絶対値

に一致することを示す. §4.3では 0でないイデアルが素イデアルの積として一

意的に分解できること, すなわち Omが Dedekind 整域であることを示す. また

Om が単項イデアル整域であることと一意分解整域であることとが同値である

ことを示す. §4.4では有理素数 pで生成される Om の単項イデアル (p)の素イ

デアル分解が3つの型に分類できること, Artin記号により統一的に述べられる

ことなどを示す. また (p) を割る素イデアルの標準的基底が明示されるが, こ

れは5章での類数計算に用いられる.

4.1 イデアルの基底

定理 2.8 (p.26)より2次体 Q(√

m)の整数環 Om は 1, ω を基底とする階数2の自由 Z加群である. 従って Om の元は a + b ω, a, b ∈ Z, と一意的に表される. ただし ω は次のよ

うに与えられる.

ω =

√m m ≡ 2, 3 (mod 4)

1 +√

m

2m ≡ 1 (mod 4)

Om の 0でないイデアル Aは Om の部分加群だから, 定理 1.54より, 階数が 2 以下の自由

Z 加群である. ここで A 3 a 6= 0に対して a, a ω は明らかに Z 上1次独立である. 従って

A の階数は 2 である. 以上から次の定理を得る.

45

4. 2次体のイデアル 46

定理 4.1 Om の 0 でないイデアルは階数 2 の自由 Z 加群である.

補題 4.2 A を Om の 0 でないイデアルとする. このとき次がなり立つ.

(1) A は自然数を含む. A に含まれる自然数の中で最小のものを a とすると A に含

まれる全ての有理整数は a の倍数である.

(2) Aは x + yω, y 6= 0, の形の元を含む. そのような元の中で y の値が最小の自然数

となるものを b + cω とすると任意の A の元 x + y ω に対して c | y が成り立つ.

Proof (1) A 3 α(6= 0)とする. n = N (α) = αα′ とおく. 明らかに n ∈ A, n 6= 0である

が, 定理 2.3より n ∈ A ∩ Zが成り立つ. ここで ±n ∈ A であるから Aは自然数を含む.

A の中の最小の自然数を a とする. このとき, 任意の ` ∈ A ∩ Z に対して ` = aq + r,

0 ≤ r < a,となる q, r ∈ Zが存在する. ここで aq ∈ A より r ∈ Aとなり, a の選び方から

r = 0 が得られる. 従って a | ` が成り立つ. ゆえに A に含まれる全ての有理整数は a の

倍数である.

(2) (1) で定まる a に対して aω ∈ A だから A は x + yω, y 6= 0, の形の元を含む.

このような元の中で y の値が最小の自然数となるものを b + cω とおく. このとき 任意の

x + yω ∈ Aに対し y = cq + r, 0 ≤ r < c とおくと

x + yω − q(b + cω) = x− qb + (y − qc)ω = x− qb + rω ∈ A

となるが, c の選び方より r = 0 である. よって c | y が得られた.

補題 4.3 補題 4.2で定まる {a, b + cω} はイデアル A の Z 基底をなす.

Proof a ∈ Q, b + cω /∈ Q より a と b + cω は Z 上1次独立である. 従って A の任意の元

が a, b + cω の1次結合として表されることを示せばよい. 以下 β = b + cω とおく.

任意の α = x + y ω に対して補題 4.2より y = cq となる q ∈ Zが存在する. このとき

α− q β = x− bq ∈ Zとなる. また x− bq = ar となる r ∈ Zが存在するから α = a r + q β

を得る. 従って A の任意の元は aと β の1次結合として表される. ゆえに {a, β}は A の

Z 基底である.

4. 2次体のイデアル 47

定義 4.4 (標準的基底) Om の 0 でないイデアル A に対して次の条件をみたす Z 基底{a, b + cω} を A の標準的基底といい A = (a, b + cω) と表す.

(1) a, c は自然数, b は整数である.

(2) A に含まれる全ての有理整数は a の倍数である.

(3) 任意の A の元 x + y ω に対して c | y が成り立つ.

以下, 特に断らない限りイデアルは2次体の整数環のイデアルである. 補題 4.2, 補題 4.3よ

り任意のイデアルは標準的基底をもつ.

補題 4.5 イデアル A の標準的基底 (a, b + cω) について c | a, c | b が成り立つ.

Proof aω ∈ A であるから補題 4.2 より c | a を得る. 次に ω =√

m のときは

(b + c ω) ω = cm + b ω

より c | b を得る. また  ω = 1+√

m2のときは

(b + c ω) ω =m− 1

4c + (b + c) ω

となるから c | (b + c) より c | bが得られる.

補題 4.5よりイデアル A の標準的基底 (a, b + cω)に対して a = ca0, b = cb0 とおくこ

とができる. このとき

A = (a, b + cω) = c(a0, b0 + ω)

と表すことができる. これより A の元はすべて有理整数 c の倍数であることがわかる. こ

こで A0 = (a0, b0 + ω) とおくと, A = c A0 であり, A0 の全ての元に共通の約数で有理整

数であるものは ±1に限る.

定義 4.6 (原始的イデアル) 全ての元の約数で, 有理整数であるものが ±1 のみである

イデアルを原始的イデアルという.

上述のことから次の定理を得る (証明略).

定理 4.7 すべてのイデアルは原始的イデアルの整数倍である.

4. 2次体のイデアル 48

補題 4.8 0 でないイデアル A の標準的基底 (a, b + cω) について次がなり立つ.

(1) 0 ≤ b < a となるような標準的基底が存在する.

(2) −a2≤ b < a

2となるような標準的基底が存在する.

Proof (1) a は自然数であるから除法の定理が適用できて b = aq + b1, 0 ≤ b1 < a, をみ

たす q, b1 ∈ Zが定まる. ここで b + c ω を b + c ω − aq = b1 + c ω で置き換えた標準的基

底 (a, b1 + c ω)は 0 ≤ b1 < a をみたす. (2) も同様である.

以上をまとめて次の定理を得る.

定理 4.9 0 でないイデアル A の標準的基底 (a, b + cω) について次がなり立つ.

(1) A に含まれる有理整数はすべて a の倍数である.

(2) A に含まれる任意の元 x + y ω について c | y が成り立つ.

(3) c | a, c | b が成り立つ.

(4) 0 ≤ b < a または −a2≤ b < a

2をみたすように b を選ぶことができる.

以下, 行列 M の行列式を det M と表す.

定理 4.10 η1, η2 をイデアル A の基底, cij ∈ Z とする. このとき次がなり立つ.

{ω1 = c11η1 + c12η2

ω2 = c21η1 + c22η2

が A の基底である ⇐⇒ det

[c11 c12

c21 c22

]= ±1

Proof ω1, ω2 が A の基底であるとする. このとき

[η1

η2

]=

[d11 d12

d21 d22

][ω1

ω2

]=

[d11 d12

d21 d22

][c11 c12

c21 c22

][η1

η2

]

をみたす有理整数 dij が存在するが η1, η2 が基底であることから

[d11 d12

d21 d22

][c11 c12

c21 c22

]=

[1 0

0 1

]

を得る. 従って det

[c11 c12

c21 c22

]= ±1が成り立つ.

4. 2次体のイデアル 49

逆に det

[c11 c12

c21 c22

]= ±1が成り立つとすると

[η1

η2

]=

[c11 c12

c21 c22

]−1 [ω1

ω2

]

となるが

[c11 c12

c21 c22

]−1

の成分は有理整数であるから ω1, ω2 は Aを生成する. A の階数

は 2 であるから ω1, ω2 は1次独立となり, A の基底である.

4.2 イデアルのノルム

整数環 Omの 0でないイデアル Aを法とする剰余類の個数を Aのノルムといい N (A)

と表す. 明らかに N (A) = 1 であることと A = Om であることとは同値である.

定理 4.11 イデアル A の標準的基底を (a11, a21 + a22 ω) とすると N (A) =

det

[a11 0a21 a22

]= a11a22 が成り立つ.

Proof まず b1 + b2ω, 0 ≤ b1 < a11, 0 ≤ b2 < a22,と表される a11a22 個の元は Aを法とし

て互いに合同でないことを示そう.

b1 + b2ω ≡ b′1 + b′2ω (mod A) と仮定すると

b1 + b2 ω − (b′1 + b′2 ω) = (b1 − b′1) + (b2 − b′2) ω ≡ 0 (mod A)

を得る. ここで b2 − b′2 は a22 の倍数であるが 0 ≤ b2, b′2 < a22 であるから b2 = b′2 が成り

立つ. これより b1 − b′1 ∈ A を得るが b1 − b′1 は a11 の倍数であり, 0 ≤ b1, b′1 < a11 である

から b1 = b′1 となる. ゆえに b1 + b2ω, 0 ≤ b1 < a11, 0 ≤ b2 < a22, と表される a11a22 個の

元は A を法として互いに合同でない. 従って N (A) ≥ a11 a22 が成り立つ.

次に任意に α = c1 + c2ω ∈ Om を選ぶと c2 = a22q2 + r2, 0 ≤ r2 < a22, となる q2, r2

が定まる. このとき

α− q2(a21 + a22 ω) = c1 − a21q2 + (c2 − a22q2)ω = c′1 + r2ω

4. 2次体のイデアル 50

となる. ただし c′1 = c1 − a21q2 である. 従って α ≡ c′1 + r2 ω (mod A) 0 ≤ r2 < a22,が得

られた. さらに c′1 = a11q1 + r1, 0 ≤ r1 < a11 とすると

c′1 + r2ω − a11q1 = r1 + r2 ω

を得る. 以上から

α ≡ c′1 + r2 ω ≡ r1 + r2 ω (mod A)

を得る. ここで 0 ≤ r1 < a11, 0 ≤ r2 < a22であるから任意の剰余類は b1+b2ω, 0 ≤ b1 < a11,

0 ≤ b2 < a22, なる形の元を含むことが示された. よって N (A) ≤ a11 a22 が成り立ち, 前の

結果とあわせると N (A) = a11 a22 が示された.

定理 4.12 a + bω, c + dω が A の基底であるとき N (A) =

∣∣∣∣∣det

[a b

c d

]∣∣∣∣∣が成り立つ.

Proof A の標準的基底の1つを η1 = a11, η2 = a21 + a22ω とすると定理 4.10より

[a + bω

c + dω

]=

[c11 c12

c21 c22

][η1

η2

]=

[c11 c12

c21 c22

] [a11 0

a21 a22

] [1

ω

]

をみたす [cij]が存在する. ここで det[cij] = ±1 である. 一方

[a + bω

c + dω

]=

[a b

c d

][1

ω

]

と表されるから [a b

c d

]=

[c11 c12

c21 c22

][a11 0

a21 a22

]

が成り立つ. 従って

det

[a b

c d

]= ±a11a22 = ±N (A)

より定理が得られる.

単項イデアル (α)の任意の元は Om の元 a + b ω を α 倍したものであるから a・α + b・

αω と表される. 従って α, α ω は (α) を生成し , 明らかに1次独立であるから (α) の基底

である.

定理 4.13 単項イデアル (α) に対して N ((α)) =| N (α) | が成り立つ.

4. 2次体のイデアル 51

Proof α = a+ bωとおく. 上で述べたことから α, α ωが (α)の基底である. まず m ≡ 2, 3

(mod 4) とすると ω =√

mだから

α = a + bω, αω = aω + bω2 = mb + aω

となるが定理 4.12より

N ((α)) =

∣∣∣∣∣det

[a b

mb a

]∣∣∣∣∣ =| a2 −mb2 |=| N (α) |

が成り立つ. 次に m ≡ 1 (mod 4) とする. ω = 1+√

m2より

α = a + bω, αω = aω + bω2 =m− 1

4b + (a + b)ω

となる. 従って

N ((α)) =

∣∣∣∣∣det

[a b

m−14

b a + b

]∣∣∣∣∣ =∣∣∣a2 + ab + (1−m)

b2

4

∣∣∣ =| N (α) |

を得る. よってこの場合も N ((α)) =| N (α) |が成り立つ.

4.3 Dedekind 整域

この節では Om の 0 でないイデアルが素イデアルの積として一意的に分解されるこ

と, すなわち Om が Dedekind整域であることを証明する. なおイデアルは, 特に断らない

限り 0 でないものとする.

定理 4.14 (共役イデアル)

(1) イデアル A の各元の共役元全体の集合 A′ = {α′ | α ∈ A} はイデアルである. A′

を A の共役イデアルという. 特に単項イデアルについて (α)′ = (α′)が成り立つ.

(2) イデアル A, B に対し (AB)′ = A′B′ が成り立つ.

Proof (1) α′, β′ ∈ A′ とする. α + β ∈ Aに注意すれば α′ + β′ = (α + β)′ ∈ A′ が成り立

つ. また γ ∈ Om と α′ ∈ A′ に対して γα′ = (γ′α)′ ∈ A′ が成り立つ. 従って A′ はイデア

ルである. 単項イデアル (α)については

(α)′ = {α x | x ∈ Om}′ = {α′x′ | x′ ∈ Om} = {α′y | y ∈ Om} = (α′)

4. 2次体のイデアル 52

が成り立つ.

(2) A は2元で生成されるから A = (α1, α2), B = (β1, β2) おくことができる. ここ

で A′ = (α′1, α′2), B′ = (β′1, β

′2) であることに注意すれば, イデアルの積の定義から

(AB)′ = (α1β1, α1β2, α2β1, α2β2)′ = (α′1β

′1, α

′1β

′2, α

′2β

′1, α

′2β

′2) = A′B′

が得られる.

定理 4.15 任意のイデアル A に対して, ある整数 nが存在して AA′ = (n) と表すこと

ができる.

Proof A = 0 のときは AA′ = (0) より成り立つ. 以下 A 6= 0 として A の標準的基底を

(α, β) とおく. α は自然数である. このとき A′ = (α′, β′) であるから

AA′ = (αα′, αβ′, α′β, ββ′)

となる. αα′ = a, αβ′ + α′β = b, ββ′ = c とおくと a, b, c ∈ Zである. ここで (a, b, c) = n

とする. aが自然数の積であるから n > 0である. また ax+by+cz = nをみたす x, y, z ∈ Zが存在することから

n ∈ AA′ , となり (n) ⊆ AA′

を得る. ここで αα′, ββ′ ∈ (n) であることを注意しておく. さて

p =αβ′

n+

α′βn

=b

n, q =

αβ′

n・

α′βn

=ac

n2

とおくと, これらは有理整数である.αβ′

n,

α′βnは X2 − pX + q = 0 の根だから

αβ′

n,

α′βn

は Om に含まれる. αβ′ = n · αβ′

n, α′β = n · α

′βnであるから αβ′, α′β ∈ (n)となる. これ

より AA′ ⊆ (n) となるので AA′ = (n)が示された.

定義 4.16 A,B,C をイデアルとする. A = BC が成り立つとき A は B で割り切れる

といい B | A と表す. またこのとき, B を A の約イデアルという.

定理 4.17 A,B,C がイデアルで AB = AC, A 6= 0 であるとき B = C が成り立つ.

Proof 定理 4.15 より AA′ = (a) とおくことができる.ここで a ∈ Z である. 定理 1.33よ

りイデアルの積は交換可能で結合律もみたすから

AB = AC =⇒ A′AB = A′AC =⇒ (a)B = (a)C =⇒ aB = aC =⇒ B = C

4. 2次体のイデアル 53

が成り立つ.

定理 4.18 A,B をイデアルとする. このとき, A ⊆ B が成り立つことと A = BC をみ

たすイデアル C が存在することとは同値である.

Proof A = BC となるイデアル C が存在するならば C ⊆ Om より A = BC ⊆ BOm = B

が成り立つ. 逆に A ⊆ B と仮定する. 定理 4.15より AB′ ⊆ BB′ = (b) となる有理整数 b

が存在する. これより AB′ の各元は b の倍数だから

AB′ = (bγ1, bγ2) = b(γ1, γ2)

と表される. ここで C = (γ1, γ2) とおくと AB′ = bC = (b)C = BB′C = BCB′ が成り立

つ. 従って定理 4.17より A = BC を得る.

定義 4.19 イデアル A,B に対して, D | A, D | B をみたすイデアル D を A, B の公

約イデアルという.

イデアル A, B に対して A, B を含むイデアルすべての共通部分を M とすると, 明らかに

M もイデアルで, A, B を含むことから定理 4.18より A, B の公約イデアルである. D を

A, B の公約イデアルとすると A ⊆ D, B ⊆ D より M ⊆ D が成り立ち, D | M となる.

いま N が A, Bの公約イデアルで,すべての公約イデアルで割りきれるとするとM | Nかつ N | M , すなわち N ⊆ M かつ M ⊆ N が成り立つ. よって, N = M である. M を

A, B の最大公約イデアルといい, (A,B) = M と表す.

定理 4.20 0 でないイデアル P 6= Om について次の (1) ∼ (3) は同値である.

(1) P は極大イデアルである. すなわち P ( I ( Om をみたすイデアル I が存在し

ない.

(2) AB ⊆ P ならば A ⊆ P または B ⊆ P が成り立つ. すなわち P | AB ならば

P | A または P | B が成り立つ.

(3) αβ ∈ P ならば α ∈ P または β ∈ P が成り立つ. すなわち P は素イデアルで

ある.

Proof (2)⇒ (3) αβ ∈ P と仮定する. このとき (α)(β) ⊆ P であるから, (2)より (α) ⊆ P

または (β) ⊆ P が成り立つ. よって α ∈ P または β ∈ P が成り立つ.

4. 2次体のイデアル 54

(3)⇒ (2) AB ⊆ P であり, A 6⊆ P かつ B 6⊆ P と仮定する. このとき α ∈ A− P か

つ β ∈ B − P が存在して α β ∈ P となるが, (3)より α ∈ P または β ∈ P となり矛盾が

生じる. ゆえに A ⊆ P または B ⊆ P が成り立つ.

(1)⇒ (3) αβ ∈ P とする. α /∈ P と仮定すると P ( (α, P ) が成り立つ. (1)より

(α, P ) = Om である. 従って 1 = ακ + γ をみたす κ ∈ Om, γ ∈ P が存在する. このとき

β = β · 1 = βακ + βγ

であるが, αβ, γ ∈ P であるから β ∈ P を得る.

(3)⇒ (1) P は素イデアルとする. P ( A ⊆ Om として A = Om であることを示せ

ばよい. P に標準的基底が存在するから P ∩Zは 0でない. 定理 1.35より P ∩Zは Z の素イデアルである. 従って P ∩ Z = (p) となる有理素数 pが存在する.

ここで α ∈ A− P を選び α + a ∈ P をみたす a ∈ Zが存在する場合と存在しない場合に分けて考える.

まず α + a ∈ P をみたす a ∈ Zが存在すると仮定する. a = (α + a)− α ∈ A である.

ここで a ∈ P とすると α = (α + a)− a ∈ P となり矛盾が生じるから, a /∈ P である. よっ

て p - aである. これより pe+ af = 1をみたす e, f ∈ Zが存在するが p, a ∈ Aより 1 ∈ A

が成り立つ. ゆえに A = Om である.

次に α + a ∈ P をみたす a ∈ Z が存在しないとする. このとき α /∈ Z であるから α

の最小多項式は 2 次式である. 従って

α2 + a1α + a2 = 0

をみたす a1, a2 ∈ Zが存在する. ここで a2 ∈ P とすると

α(α + a1) = (α2 + a1α + a2)− a2 ∈ P

を得るが, 仮定より α /∈ P だから α + a1 ∈ P となり矛盾が生じる. よって a2 /∈ P である.

これより p - a2 となり, pe + a2f = 1 をみたす e, f ∈ Zが存在することになる. 一方

a2 = (α2 + a1α + a2)− (α2 + a1α) ∈ A

より p, a2 ∈ Aであるから pe + a2f = 1 より 1 ∈ Aを得る. ゆえにこの場合も A = Om が

成り立つ.

4. 2次体のイデアル 55

定理 4.21 (素イデアル分解) 0でない任意のイデアルは素イデアルの積に分解される.

Proof 0でないイデアルを任意に選び Aとおく. Aが素イデアルの積に分解されること

を示せばよい.

まず A の約イデアルが有限個であることを示す. A 3 α 6= 0 に対して a = αα′ は A

に属する有理整数で, 0 でない. 必要ならば −a と置き換えることにより a > 0 と仮定し

てよい. さて A の約イデアル B は B ⊇ Aをみたすから元 aを含む. ここで B = (α1, α2)

とおき [α1

α2

]=

[c11 c12

c21 c22

][1

ω

]

とする. ただし cij ∈ Zである. 除法の定理より cij = qija + rij, 0 ≤ rij < aと表されるこ

とから

[α1

α2

]= a

[q11 q12

q21 q22

][1

ω

]+

[r11 r12

r21 r22

] [1

ω

]

= a

[q11 q12

q21 q22

][1

ω

]+

[β1

β2

]

が得られる. これより B = (α1, α2) = (β1, β2, a)が成り立つ. このような β1, β2 は有限個

だから A の約イデアルも有限個である.

Aの約イデアルが有限個であるから Aを含むイデアルの列 A ( A1 ( · · · ( Ar ( Om

において r は A の約イデアルの個数を越えない. 従ってこのような列の中で r が最大と

なるものがある. それを改めて A ( A1 ( · · · ( Ar ( Om とする. ここで定理 4.18より

A = B1A1 , A1 = B2A2 , A2 = B3A3 , . . . . . . , Ar−1 = BrAr

をみたすイデアル B1, ..., Br が定まる. このとき A = B1B2 · · ·BrAr が成り立つ. 従って

Ar, Bi が素イデアルであることを示せばよい. Ar は極大イデアルであるから定理 4.20よ

り素イデアルである. 一方 Bk が素イデアルでないとすると Bk ( C ( Om をみたすイデ

アル C が存在する. これより Bk = CD となるイデアル D が定まるが Bk ( C であるか

ら D ( Om である. 従って

Ak−1 = BkAk = CDAk ( OmDAk = DAk, DAk ( OmAk = Ak

4. 2次体のイデアル 56

となり Ak−1 ( DAk ( Ak を得る. これは Aを含むイデアルの列の中で rが最大になるよ

うに選んだことに矛盾する. よって Bk は素イデアルである.

定理 4.22 (素イデアル分解の一意性) 0 でないイデアルの素イデアルの積への分解は

一意的である.

Proof 0 でないイデアルを任意に選び A とする. A が A = P1 · · ·Pr = Q1 · · ·Qs と

素イデアル分解されたとき r = s かつ適当に番号を付けかえることにより P1 = Q1 ,...,

Pr = Qr となることを r に関する帰納法で示す.

r = 1 として A = P1 = Q1 · · ·Qs であるとする. s ≥ 2 と仮定すると Q2 · · ·Qs ( Om

より

P1 = Q1 · · ·Qs ( Q1Om = Q1 ( Om

となり P1 が極大イデアルであることに矛盾する. よって s = 1かつ P1 = Q1 を得る.

次に r > 1とし r−1のときは素イデアル分解の一意性が成り立つとする. P1 · · ·Pr =

Q1 · · ·Qs であるとする. このとき Q1 | P1 · · ·Pr であるから定理 4.20 (2)より Q1 はある Pi

を割り切る. 一般性を失うことなく Q1 | P1 としてよい. このとき定理 4.18より P1 ⊆ Q1

であるが P1 も極大イデアルであるから P1 = Q1 を得る. このとき定理 4.17 より

P2 · · ·Pr = Q2 · · ·Qs

が得られる. ここで帰納法の仮定を適用すれば, r = sかつ適当に番号を付けかえることに

より P2 = Q2 ,..., Pr = Qr とできる. よって r のときも成り立つことが示された.

一般に可換環 R において, 0 でない任意のイデアルが素イデアルの積として一意的に

分解されるとき R を Dedekind整域という. 定理 4.21, 定理 4.22より次の定理を得る.

定理 4.23 2次体 Q(√

m) の整数環 Om は Dedekind 整域である.

定理 4.24 2次体の整数環 Om が単項イデアル整域であることと一意分解整域である

こととは同値である.

Proof 定理 1.50と定理 1.51により単項イデアル整域は一意分解整域である. 従って Om

が一意分解整域ならば単項イデアル整域であることを示せばよい. Om の 0でないイデア

ルは素イデアルの積として分解できるから, 0でない素イデアルが単項イデアルであること

を示せばよい. 0 でない素イデアルを任意に選び P とする. P の 0 でない元を1つ選び

4. 2次体のイデアル 57

α とする. P 6= Om より α は単数でない. Om は一意分解整域であるから α = π1π2 · · · πr

と素元 πi の積として表すことができる. P は素イデアルであるから πi ∈ P となる i が

存在する. このとき (πi) ⊆ P であるが (πi)は素イデアル, 従って極大イデアルであるから

(πi) = P が成り立つ. ゆえに P は単項イデアルである. 以上で Om が単項イデアル整域で

あることが示された.

4.4 (p)の素イデアル分解

この節では有理素数 pで生成される単項イデアル (p) の素イデアル分解について考察

する.

補題 4.25 Om の 0でないイデアル Aと素イデアル P に対して N (AP ) = N (A)N (P )

が成り立つ.

Proof N (A) = r, N (P ) = sとし , Aを法とする剰余類の代表元を α1, . . . , αr, P を法と

する剰余類の代表元を β1, . . . , βs とする.

A = AOm ) AP より A に属して AP に属さない元 γ がある. このとき (γ) ⊆ A よ

り A | (γ) となるので (γ) = AC をみたすイデアル C が存在する. 一方 (γ) 6⊆ AP より

P - C であることを注意しておく. さて

αi + γβj (1 ≤ i ≤ r, 1 ≤ j ≤ s)

とおき, これら rs 個の元が AP を法とする剰余類の代表系であることを示そう. まず, あ

る i, j, k, `に対して

αi + γβj ≡ αk + γβ` (mod AP )

が成り立つと仮定する. このとき

αi − αk + γ(βj − β`) ∈ AP ⊂ A かつ γ(βj − β`) ∈ A

であることから

αi − αk + γ(βj − β`) ≡ αi − αk ≡ 0 (mod A)

となり i = k を得る. これより γ(βj − β`) ≡ 0 (mod AP )が得られるので2つの単項イデ

アル (γ) と (βj − β`) の積 (γ)(βj − β`) は AP に含まれる. 従って AP | (γ)(βj − β`) が

成り立つ. このとき P | C(βj − β`) かつ P - C となるが P が素イデアルであることから

4. 2次体のイデアル 58

P | (βj − β`), すなわち βj − β` ∈ P を得る. ゆえに j = `が示された. よって

αi + γβj ≡ αk + γβ` (mod AP )

が成り立つのは i = k かつ j = ` のときに限る. すなわち

αi + γβj (1 ≤ i ≤ r, 1 ≤ j ≤ s)

は AP を法として互いに合同でない. 次に 任意の δ ∈ Om が AP を方として上の rs 個の

元のいずれかに合同であることを示す. δ ≡ αi (mod A) となる αi に対して δ − αi ∈ A

であるが ((γ), AP ) = A であることより δ − αi = γκ + λ をみたす κ ∈ Om, λ ∈ AP が存

在する. この κに対して κ ≡ βj (mod P )となる βj を選ぶと γ(κ− βj) ∈ AP であるから

δ − αi = γκ + λ ≡ γκ ≡ γβj (mod AP ) =⇒ δ ≡ αi + γβj (mod AP )

を得る. 以上で

αi + γβj (1 ≤ i ≤ r, 1 ≤ j ≤ s)

が AP を法とする剰余類の代表系であることが示された. ゆえに N (AP ) = rs より,

N (AP ) = N (A)N (P )が得られる.

定理 4.26 Om の 0でないイデアルA, B に対して N (AB) = N (A)N (B)が成り立つ.

Proof A = P1 · · ·Pr, B = Q1 · · ·Qs と素イデアル分解されたとする. このとき補題 4.25

より

N (A) = N (P1 · · ·Pr) = N (P1 · · ·Pr−1)N (Pr) = · · · = N (P1) · · · N (Pr)

が成り立つ. 同様にして N (B) = N (Q1) · · · N (Qs)が得られる. これより

N (AB) = N (P1 · · · · · ·PrQ1 · · · · · · · · ·Qs)

= N (P1 · · · · · ·PrQ1 · · · · · ·Qs−1)N (Qs)

= N (P1 · · · · · ·PrQ1 · · ·Qs−2)N (Qs−1)N (Qs)...

= N (P1) · · · N (Pr)N (Q1) · · · N (Qs)

= N (A)N (B)

が導かれる.

4. 2次体のイデアル 59

定理 4.27 0 でないイデアル A に対して AA′ = (N (A)) が成り立つ.

Proof イデアル Aの基底を選び a+ bω, c+ dω とする. このとき明らかに a+ bω′, c+ dω′

は A′ の基底である. m ≡ 2, 3 (mod 4)のときは ω′ = −ω より A′ の基底は a− bω, c− dω

となる. 従って定理 4.12より

N (A′) =

∣∣∣∣∣det

[a −b

c −d

]∣∣∣∣∣ =| −ad + bc |=| ad− bc |= N (A)

が成り立つ.

m ≡ 1 (mod 4) のときは ω′ = 1−√m2

= 1− ω より A′ の基底は a + b− bω, c + d− dω

となるので

N (A′) =

∣∣∣∣∣det

[a + b −b

c + d −d

]∣∣∣∣∣ =| −(a + b)d + (c + d)b |=| ad− bc |= N (A)

となる. ここで 定理 4.15 より AA′ = (n) となる n ∈ Zが存在するが, n > 0 となるよう

に選ぶことができるから, 定理 4.26を適用すると

N (A)N (A′) = N (AA′) = N ((n)) = n2 =⇒ N (A) = N (A′) = n

が得られる. ゆえに AA′ = (N (A))が成り立つ.

定理 4.28 Om のイデアルについて次が成り立つ.

(1) 素イデアル P に対して P | (p) をみたす有理素数 p が存在し, N (P ) = p又は

p2 が成り立つ. 特に N (P ) = p2 のときは P = (p) が成り立つ.

(2) N (P ) = p, p は有理素数, となるイデアル P は素イデアルで PP ′ = (p) が成り

立つ. 特に P | (p) かつ P ′ | (p) である.

Proof (1) P を素イデアルとすると定理 1.35より P ∩Zは Zの素イデアルである. 従っ

て P ∩ Z = (p) となる有理素数 pが存在する. このとき P ⊇ (p) より PC = (p) をみたす

イデアル C が存在する. 両辺のノルムをとり, 定理 4.13を適用すれば

N (P )N (C) = N (PC) = N ((p)) =| N (p) |= p2

を得る. P 6= Om より N (P ) 6= 1 であるから N (P ) = p または p2 である. ここで

N (P ) = p2 と仮定すると N (C) = 1 であるから C = Om となり P = (p)が得られる.

4. 2次体のイデアル 60

(2) N (P ) = p とする. P が素イデアルでないと仮定すると Om が Dedekind 整域

であることから P = P1 . . . Pr, r ≥ 2, と素イデアル分解される. 従って

p = N (P ) = N (P1) · · · N (Pr)

を得るが, (1)より N (Pi) は素数か素数の平方であるから矛盾が生じる. 従って P は素イ

デアルである. またこのとき定理 4.27より PP ′ = (N (P )) = (p) が得られるので P | (p)

かつ P ′ | (p)が成り立つ.

上の定理より Om の任意の素イデアル P はある有理素数 p で生成される単項イデア

ル (p) の約イデアルであることがわかる. また有理素数 p で生成される単項イデアル (p)

が (p) = P1 · · ·Pr と素イデアル分解されたとすると, ノルムをとり

N ((p)) = p2 = N (P1) · · · N (Pr), N (Pi) = p または p2

が得られる. これより次の2つの場合が起こり得る.

(p) = P1P2, N (P1) = N (P2) = p (4.1)

(p) = P1, N (P1) = p2 すなわち (p)は素イデアルである. (4.2)

(4.1)の場合, 定理 4.28より (p) = P1P′1 が成り立つので P2 = P ′

1 が得られる.

次に素イデアル P の標準的基底を (a, b + cω)とすると, 素イデアルに属する最小の自

然数は有理素数 p であるから a = p が成り立つ. このとき補題 4.5より c | a となるので

c = 1 または c = p である. c = p とすると, b も c の倍数だから

P = (p, b + pω) ⊆ (p) =⇒ P = (p)

が成り立つ. これは(4.2)の場合である. c = 1 とすると P の標準的基底は (p, b + ω) とな

り, 定理 4.11より N (P ) = det

[p 0

b 1

]= pが成り立つ. これは(4.1)の場合である. また

このとき

N (b + ω) = (b + ω)(b− ω) ∈ P ∩ Z =⇒ p | N (b + ω)

となることから

• m ≡ 2, 3 (mod 4) のとき N (b + ω) = b2 −m ≡ 0 (mod p)

• m ≡ 1 (mod 4) のとき N (b + ω) = (2b+1)2−m4

≡ 0 (mod p)

4. 2次体のイデアル 61

が成り立つ. 以上をまとめて次の定理を得る.

定理 4.29 pが有理素数で (p) = PP ′ と素イデアル分解されるとき P の標準的基底は

適当な整数 b により (p, b + ω) と表される. また

b2 −m ≡ 0 (mod p) , m ≡ 2, 3 (mod 4)

(2b + 1)2 −m

4≡ 0 (mod p) , m ≡ 1 (mod 4)

が成り立つ. 特に p 6= 2 のとき(

mp

)= 0, 1 である.

補題 4.30 m ≡ 2, 3 (mod 4), P = (p, a +√

m) とする. ただし p は有理素数, a は有

理整数であり, (p, a +√

m) は必ずしも標準的基底を表すものではないとする. このと

き, 次のいずれかの条件がみたされれば P = pZ+ (a +√

m)Z が成り立つ.

(1) m ≡ a2 (mod p)

(2) p | m かつ a = 0

(3) p = 2 かつ m ≡ 2 (mod 4) かつ a = 0

(4) p = 2 かつ m ≡ 3 (mod 4) かつ a = 1

Proof pZ + (a +√

m)Z ⊆ P が成り立つことは明らかであるから P ⊆ pZ + (a +√

m)Zが成り立つことを示せばよい. P の任意の元 α は適当な r, s, t, u ∈ Zにより

α = p(r + s√

m) + (a +√

m)(t + u√

m) = (pr + at + um) + (ps + au + t)√

m

と表される. ここで

y = ps + au + t, px + ay = pr + at + um

とおく. 明らかに y ∈ Z である. さて x ∈ Zが示されれば

α = px + ay + y√

m = xp + y(a +√

m) ∈ pZ+ (a +√

m)Z

4. 2次体のイデアル 62

となり, P = pZ+ (a +√

m)Zが得られる.

xp = pr + at + um− ay

= pr + at + um− a(ps + au + t)

= p(r − as) + (m− a2)u

より x = r − as +m− a2

pu を得る. 従って

(1) m ≡ a2 (mod p)

(2) p | mかつ a = 0

(3) p = 2かつ m ≡ 2 (mod 4)かつ a = 0

(4) p = 2かつ m ≡ 3 (mod 4)かつ a = 1

の各場合について x ∈ Zが成り立つ. よって補題が示された.

補題 4.31 m ≡ 1 (mod 4), P = (p, a + 1+√

m2

) とする. ただし p は有理素数, a は有理

整数であり, (p, a + 1+√

m2

) は必ずしも標準的基底を表すものではないとする. このと

き, 次のいずれかの条件がみたされれば P = pZ+ (a + 1+√

m2

)Z が成り立つ.

(1) p 6= 2 かつ (2a + 1)2 −m ≡ 0 (mod p)

(2) p 6= 2 かつ p | m かつ 2a + 1 = p

(3) m ≡ 1 (mod 8) かつ p = 2 かつ a = 0

Proof pZ+(a+ 1+√

m2

)Z ⊆ P が成り立つことは明らかであるから P ⊆ pZ+(a+ 1+√

m2

)Zが成り立つことを示せばよい. ω = 1+

√m

2, ω2 = m−1

4+ ω を想起されたい. P の任意の元

α は適当な r, s, t, u ∈ Zにより

α = p(r + sω) + (a + ω)(t + uω) = pr + at +m− 1

4u + (ps + (a + 1)u + t) ω

と表される. ここで y = ps + (a + 1)u + t, px + ay = pr + at + m−14

u とおく. 明らかに

y ∈ Z である. また x ∈ Zが示されれば

α = px + ay + yω = xp + y(a + ω) ∈ pZ+ (a + ω)Z

4. 2次体のイデアル 63

となり, P = pZ+ (a + 1+√

m2

)Zが得られる.

xp = pr + at +m− 1

4u− ay

= pr + at +m− 1

4u− a(ps + (a + 1)u + t)

= p(r − as) +m− (2a + 1)2

4u

より x = r − as +m− (2a + 1)2

4pu を得る. 従って

(1) p 6= 2かつ (2a+1)2−m ≡ 0 (mod p)のとき 4 | (2a+1)2−mかつ p | (2a+1)2−m

(2) p 6= 2かつ p | mかつ 2a + 1 = p のとき 4 | (2a + 1)2 −mかつ p | (2a + 1)2 −m

(3) m ≡ 1 (mod 8)かつ p = 2かつ a = 0 のとき 8 | m− 1

が成り立ち, 各場合について x ∈ Z を得る. よって P = pZ+ (a + 1+√

m2

)Zが示された.

p 6= 2,

(m

p

)= 1 の場合

(i) m ≡ 2, 3 (mod 4)のとき.

a2 ≡ m (mod p) をみたす整数 a を選び P = (p, a +√

m) とおく. このとき P ′ =

(p, a−√m) である. 補題 4.30 (1)より P = Zp + Z(a +√

m) となるから {p, a +√

m} は自由 Z 加群 P の Z 基底である. このとき定理 4.12より

N (P ) =

∣∣∣∣∣det

[p 0

a 1

]∣∣∣∣∣ = p

が成り立つ. 従って定理 4.28より P は素イデアルで (p) = PP ′が成り立つ. またこのとき

(p, 2a) = 1 より ps + 2at = 1 をみたす s, t ∈ Zが存在することから

(P, P ′) = (p, a +√

m, a−√m) = (p, 2a) = (1) = Om

となるので P 6= P ′ である.

(ii) m ≡ 1 (mod 4) のとき.

(2a + 1)2 ≡ m (mod p) をみたす整数 a を選び P = (p, a + 1+√

m2

) とおく. P ′ =

(p, a + 1−√m2

) である. 補題 4.31 (1)より P = Zp + Z(a + 1+√

m2

) が成り立つ. 従って

4. 2次体のイデアル 64

{p, a + 1+√

m2}は P の Z 基底である. このとき

N (P ) =

∣∣∣∣∣det

[p 0

a 1

]∣∣∣∣∣ = p

だから定理4.28より P は素イデアルで (p) = PP ′が成り立つ. またこのとき (p, 2a+1) = 1

より ps + (2a + 1)t = 1 をみたす s, t ∈ Zが存在するから

(P, P ′) = (p, a +1 +

√m

2, a +

1−√m

2) = (p, 2a + 1) = (1) = Om

が成り立つ. 従って P 6= P ′ である.

p 6= 2,

(m

p

)= 0 の場合

(i) m ≡ 2, 3 (mod 4)のとき.

P = (p,√

m)とおく. 補題 4.30 (2)より P = Zp + Z√

mとなるので {p,√m}は P の

Z 基底である. このとき N (P ) = p より定理 4.28より P は素イデアルで (p) = PP ′ が成

り立つ. また P ′ = (p,−√m) = P であるから (p) = P 2 である.

(ii) m ≡ 1 (mod 4) のとき.

2a + 1 = p, P = (p, a + 1+√

m2

)とおく. 補題 4.31 (2)より P = Zp + Z(a + 1+√

m2

)とな

るので {p, a + 1+√

m2} は P の Z 基底である. このとき N (P ) = p であるから定理 4.28よ

り P は素イデアルで (p) = PP ′ が成り立つ. ここで

P ′ = (p, a +1−√m

2) = (p,

p− 1

2+

1−√m

2) = (p,−a− 1 +

√m

2) = P

より (p) = P 2 となる.

p 6= 2,

(m

p

)= −1 の場合

定理 4.29より (p) は素イデアル P に一致し N (P ) = p2 が成り立つ. 以上をまとめて

次の定理を得る.

4. 2次体のイデアル 65

定理 4.32 有理素数 p 6= 2 に対して Om における (p) の素イデアル分解は次のようになる.

(1)(

mp

)= 1 のとき (p) = PP ′, P 6= P ′, N (P ) = N (P ′) = p が成り立つ. また a を次の

ように選べば (p, a + ω) は P の標準的基底である.

{a2 ≡ m (mod p) m ≡ 2, 3 (mod 4)

(2a + 1)2 ≡ m (mod p) m ≡ 1 (mod 4)

(2)(

mp

)= −1 のとき (p) は素イデアルで N ((p)) = p2 が成り立つ.

(3)(

mp

)= 0のとき (p) = P 2, N (P ) = pが成り立つ. また aを次のように選べば (p, a+ω)

は P の標準的基底である.{

a = 0 m ≡ 2, 3 (mod 4)a = p−1

2 m ≡ 1 (mod 4)

p = 2 の場合

(i) m ≡ 2 (mod 4) のとき.

P = (2,√

m) とおくと補題 4.30 (3)より P = Z · 2 + Z · √m となるから {2,√m} はP の Z 基底である. このとき N (P ) = 2 であるから定理 4.28より P は素イデアルで

(2) = PP ′ が成り立つ. また P ′ = (2,−√m) = P より (2) = P 2 である.

(ii) m ≡ 3 (mod 4) のとき.

P = (2, 1 +√

m) とおくと, 補題 4.30 (4)より P = Z · 2 + Z · (1 +√

m) となるから

{2, 1 +√

m}は P の Z 基底である. このとき N (P ) = 2 であるから, 定理 4.28より P は

素イデアルで (2) = PP ′ が成り立つ. また P ′ = (2, 1−√m) = P より (2) = P 2 である.

(iii) m ≡ 1 (mod 8) のとき.

P = (2, 1+√

m2

)とおくと補題 4.31 (3)より P = Z ·2+Z ·(

1+√

m2

)となるから {2, 1+

√m

2}

は P の Z 基底である. このとき N (P ) = 2だから定理 4.28より P は素イデアルで (2) =

PP ′ が成り立つ. このとき

(P, P ′) = (2,1 +

√m

2,1−√m

2) = (2, 1) = (1) = Om

より P 6= P ′ である.

(iv) m ≡ 5 (mod 8) のとき.

4. 2次体のイデアル 66

定理 4.29 より (2)は素イデアルである.

以上をまとめて次の定理が得られる.

定理 4.33 Om における (2) の素イデアル分解は次のようになる.

(1) m ≡ 2, 3 (mod 4) のとき (2) = P 2, N (P ) = 2 が成り立つ. また a ≡ m (mod 2)

となる整数 a に対して (2, a + ω) は P の標準的基底である.

(2) m ≡ 1 (mod 8) のとき, (2) = PP ′, P 6= P ′, N (P ) = N (P ′) = 2 が成り立つ. ま

た (2, ω) は P の標準的基底である.

(3) m ≡ 5 (mod 8) のとき (2) は素イデアルである. また N ((2)) = 4 である.

さて2次体 Q(√

m)に対してその判別式 D を次式で定義する.

D = D[1, ω] = det

[1 ω

1 ω′

]2

= (ω − ω′)2

このとき次の定理が成り立つ (証明略).

定理 4.34 2次体 Q(√

m) の判別式の値は次のようになる.

(1) m ≡ 2, 3 (mod 4) のとき ω =√

m であるから D = 4m である.

(2) m ≡ 1 (mod 4) のとき ω = 1+√

m2であるから D = m である.

定義 4.35 (Artin 記号) Q(√

m) の判別式を D とする. 素数 p に対して Artin 記号(Dp

)を, p 6= 2 のときは平方剰余記号, p = 2 のときは次のように定めることにする.

(D2

)=

1 , D ≡ 1 (mod 8) (⇐⇒ m ≡ 1 (mod 8))

−1 , D ≡ 5 (mod 8) (⇐⇒ m ≡ 5 (mod 8))

0 , 2 | D (⇐⇒ m ≡ 2, 3 (mod 4))

定理 4.32, 定理 4.33より Om における (p) の素イデアル分解は次の3つの型に分けること

ができる.

(1) (p) = PP ′, P 6= P ′, N (P ) = N (P ′) = p となる. この場合 p は Q(√

m) で完全分解

するという.

4. 2次体のイデアル 67

(2) (p) = P 2, P = P ′, N (P ) = p となる. この場合 pは Q(√

m) で分岐するという.

(3) (p)は素イデアル, N ((p)) = p2 となる. この場合 pは Q(√

m) で惰性するという.

定理 4.32, 定理 4.33は Artin 記号を用いて次のように述べることができる.

定理 4.36 Om における (p) の素イデアル分解は次のようになる. ただし p は有理素

数,

(Dp

)は Artin 記号である.

(1) p が完全分解する条件は(

Dp

)= 1 となることである.

(2) p が分岐する条件は(

Dp

)= 0 となることである.

(3) p が惰性する条件は(

Dp

)= −1 となることである.

5章 イデアル類と類数

この章ではイデアル類の全体 CLmが有限アーベル群をなすことを証明する. ま

た類数 h が 1 であることと Om が一意分解整域であることとが同値であるこ

とを示す. これより整数環 Om が一意分解整域であるかどうかは類数を計算す

ることにより判定できる.

§5.1 ではイデアルの間に対等という同値関係を定義し , このときの同値類とし

てイデアル類を, それらの個数として類数を定義する. またMinkowski の定数

κ を定義し , すべてのイデアル類にノルムが κ 以下のイデアルが存在すること

を示す. これより類数が有限であることが導かれる. さらにイデアル類全体の

なす有限アーベル群として, イデアル類群を定義する. §5.2では §5.1 の結果を

ふまえて, いくつかの2次体についてその類数を決定する.

5.1 イデアル類群と類数

2次体 Q(√

m) の整数環 Om の 0 でないイデアル A,B に対し

A = γB = { γ x | x ∈ B }

をみたす γ ∈ Q(√

m), γ 6= 0が存在するとき, Aと B は対等であるといい A ∼ B と表す.

明らかに対等という関係は 0でないイデアル全体のなす集合上の同値関係である. このと

きの同値類をイデアル類といい, イデアル類全体の集合を CLm, イデアル Aを含むイデア

ル類を cl(A) と表す. またイデアル類の個数を類数といい, h(m) または単に h と表す. 0

でない2つの単項イデアル (α), (β)は (α) = αβ(β) より, 互いに対等である. 従って 0でな

い単項イデアル全体は1つのイデアル類をなす.

類数の定義より次の定理が得られる (証明略).

定理 5.1 h = 1 であることと Om が単項イデアル整域であることとは同値である.

定理 5.1と定理 4.24より次の定理を得る (証明略).

68

5. イデアル類と類数 69

定理 5.2 h = 1 であることと Om が一意分解整域であることとは同値である.

定義 5.3 (Minkowski の定数) D を Q(√

m) の判別式とする. このとき 次式で与え

られる κ をMinkowski の定数という.

κ =

12

√D (m > 0)√|D|3

(m < 0)

以下 κはMinkowski の定数を表すこととする.

定理 5.4 任意のイデアル類は N (A) ≤ κ をみたすイデアル A を含む.

Proof イデアル類を任意に選び, その中でノルムが最小のものを A とする. 定理 4.7に

より A = γ B と表される. ここで B は原始的イデアルである. 一方 B ∈ cl(A) である

が N (A) = |N (γ)| N (B) となることから N (A) の最小性より |N (γ)| = 1 を得る. ゆえに

γ は単数で A = B が得られる. よって Aは原始的イデアルである.

Aは原始的イデアルであるから, その標準的基底が (a, r + ω)と与えられる. 従って定

理 4.11より N (A) = a である. また定理 4.9より −a2≤ r < a

2をみたすとしてよい. さて

N (r+ω) ∈ A∩Zであるから定理 4.9より a | N (r+ω)が成り立つ. ここで N (r+ω) = ac,

c ∈ Z とおく. (r + ω) ⊆ A だから, 定理 4.18より (r + ω) = AB をみたすイデアル B が

存在する. このとき

N (A)N (B) = N ((r + ω)) =| N (r + ω) |=| ac |

となることから N (B) =| c |が得られる. 従って定理 4.27より BB′ = (N (B)) = (c) を得

る. これより

(r + ω)B′ = ABB′ = (c)A

となり A ∼ B′ が得られる. 仮定より N (B′) ≥ N (A) であるから, N (B) = N (B′) より

| c |≥ aが成り立つ.

一方 T (r + ω) = (r + ω) + (r + ω′) = bとおくと m ≡ 2, 3 (mod 4) のときは ω′ = −ω

より b = 2r が成り立ち, m ≡ 1 (mod 4) のときは ω′ = 1 − ω より b = 2r + 1 が成り立

つ. よっていずれの場合も |b| ≤ aが成り立つ. 以上で | b |≤ a ≤| c |が示された.

さて r + ω, r + ω′ は

x2 − T (r + ω)x +N (r + ω) = x2 − bx + ac = 0

5. イデアル類と類数 70

の根だから Q(√

m) の判別式を D とすると, 定義 (p.66)より

b2 − 4ac = ((r + ω)− (r + ω′))2= (ω − ω′)2 = D

が成り立つ. ここで定理 4.34より m ≡ 2, 3 (mod 4) のとき D = 4m, m ≡ 1 (mod 4) の

とき D = m であることを注意しておく.

m > 0 のとき D > 0であるから |b| ≤ a ≤ |c| より | ac |≥ b2 = D + 4ac > 4acが成り

立つから c < 0 を得る. 従って

D = b2 − 4ac = b2 + 4 | ac |≥| 4ac |≥ 4a2

より

N (A) = a ≤√

D

2

が成り立つ.

m < 0 のとき D = b2 − 4ac < 0 より ac > 0, c > 0だから

4a2 ≤ 4ac = b2 −D = b2+ | D |≤ a2+ | D |

を得る. これより 3a2 ≤| D | となり

N (A) = a ≤√| D |

3

が成り立つ. 以上で定理が証明された.

定理 5.5 正の実数 λ に対して, ノルムが λ 以下のイデアルの個数は有限である.

Proof Om はDedekind整域だから任意のイデアル Aは A = P1 · · ·Pr と素イデアル Pi の

積に分解される. ここで N (A) ≤ λ とすると

N (A) = N (P1) · · · N (Pr) ≤ λ

が成り立つ. これより N (Pi) ≤ λが得られる. ここで定理 4.28より有理素数 pi が存在し

て N (Pi) = pi または N (Pi) = p2i が成り立つが, pi ≤ λとなるので,このような pi は有限

個である. Pi | (pi) より N (Pi) ≤ λ をみたす Pi も有限個である. 一方 N (Pi) ≥ 2 より

2r ≤ N (P1) · · · N (Pr) ≤ λ

5. イデアル類と類数 71

が成り立つことから r ≤ log2 λ を得る. よって, ノルムが λ 以下のイデアルは有限個の素

イデアル Pi の高々 r 個の積である. ゆえにノルムが λ 以下のイデアルは有限個である.

以上で任意のイデアル類にノルムが κ 以下であるイデアルが存在すること, およびノ

ルムが κ 以下のイデアルが有限個であることが示された. よって次の定理を得る.

定理 5.6 2次体 Q(√

m) の類数は有限である.

定理 5.7 イデアル A, B を含むイデアル類 cl(A)と cl(B)の積を cl(A)cl(B) = cl(AB)

と定義することにより CLm はアーベル群をなす. CLm をイデアル類群という.

Proof まず積が well-defined であることを示そう. cl(A) = cl(A1), cl(B) = cl(B1) とす

る. このとき 0 でない λ, ρ が存在して A = λA1, B = ρB1 と表すことができる. 従って

AB = λρA1B1 より cl(AB) = cl(A1B1) を得る. よって積は well-defined である.

定理 1.33より, イデアル A, B, C は AB = BA, (AB)C = A(BC) をみたすので

cl(A)cl(B) = cl(AB) = cl(BA) = cl(B)cl(A)

および

(cl(A)cl(B))cl(C) = cl(AB)cl(C) = cl((AB)C) = cl(A(BC))

= cl(A)cl(BC) = cl(A)(cl(B)cl(C))

が成り立つ. 従って積は交換可能で, 結合律をみたす.

次に cl(A)cl((1)) = cl(A(1)) = cl(A) より cl((1)) は単位元である. また定理 4.27よ

り cl(A)cl(A′) = cl(AA′) = cl((N (A))) = cl((1))となるから cl(A′)は cl(A)の逆元である.

以上で CLm がアーベル群をなすことが示された.

定理 5.8 類数が h のとき, 0 でないイデアル A に対して Ah は単項イデアルである.

Proof イデアル類群の位数が hであるから Lagrange の定理 (cf.定理 1.10) より cl(A)h =

cl((1))が成り立つ. ゆえに Ah は単項イデアルである.

定理 5.9 有理素数 p が完全分解するならば, 互いに素な有理整数 a, b が存在して, 次

をみたす. ただし h は類数である.

a2 −mb2 =

{± ph m ≡ 2, 3 (mod 4)

±4ph m ≡ 1 (mod 4)

5. イデアル類と類数 72

Proof 仮定より (p) = PP ′, P ′ 6= P , N (P ) = N (P ′) = pをみたす素イデアル P が存在す

る. 定理 5.8より P h は単項イデアルである. P h = (α) とし

α =

{a + b

√m · · · · · · · · · · · · · · · m ≡ 2, 3 (mod 4)

a+b√

m2

, a ≡ b (mod 2) · · · m ≡ 1 (mod 4)

とおく. ただし a, bは有理整数である. このとき

ph = (N (P ))h = N (P h) = N ((α)) =| N (α) |=| a2 −mb2 | または∣∣∣a

2 −mb2

4

∣∣∣

が成り立つ. 従って

a2 −mb2 =

{± ph m ≡ 2, 3 (mod 4)

±4ph m ≡ 1 (mod 4)

が示された. また (a, b) 6= 1 とすると, q | aかつ q | b をみたす有理素数 q が存在し , q | αより (q) | (α) を得る. これより (q) | P h となるので (q) = P r と表される. 両辺のノルム

をとって q = p を得るが, このとき P r = (q) = (p) = PP ′ より P = P ′ となり矛盾が生じ

る. ゆえに (a, b) = 1 である.

5.2 類数の計算例

前節の結果により, 次の手順で類数, イデアル類群を計算することができる

(1) Minkowski の定数 κ と κ 以下の有理素数 p を求める.

(2) 単項イデアル (p) の素イデアル分解に現れる素イデアルを決定する.

(3) 上で求めた素イデアルの積でノルムが κ 以下となるものを求め, イデアル類に分類

する.

Q(√−14) の場合

m = −14 ≡ 2 (mod 4), D = 4m = −56 より κ =√

|−56|3

= 4.3 · · · < 5 となる. 次に定理

4.32, 定理 4.33を用いて p = 2, 3 の場合について (p) の素イデアル分解を求める.

◦ p = 2のとき, m ≡ 2 (mod 4)より 2は分岐する. P2 = (2,√−14)とおけば (2) = P 2

2 ,

N (P2) = 2 となる.

5. イデアル類と類数 73

◦ p = 3 のとき,(−14

3

)=

(13

)= 1 より 3 は完全分解する. P3 = (3, 1 +

√−14),

P ′3 = (3, 1−√−14) とおけば (3) = P3P

′3, P3 6= P ′

3, N (P3) = N (P ′3) = 3 となる.

以上からノルムが 4 以下のイデアルは (1), P2, P 22 = (2), P3, P ′

3 の 5 個である. また

類数は 4 以下である.

• P2 が単項イデアルであるとすると P2 = (a + b√−14) と表されるので定理 4.13より

N (P2) = N ((a + b√−14)) =| a2 + 14b2 |= a2 + 14b2 = 2

を得るが, これをみたす a, b ∈ Z は存在しない. 従って P2 � (1) である. また P 22 =

(2) ∼ (1)より cl(P 22 ) = cl(P2)

2 = 1であるから cl(P2)の位数は 2で cl(P2)−1 = cl(P2)

が成り立つ.

• P2 と同様にして P3, P′3 � (1) が得られる. また P3P

′3 = (3) より cl(P3P

′3) =

cl(P3)cl(P′3) = 1 となるので cl(P3)

−1 = cl(P ′3) である.

• P 23 = (9, 3 + 3

√−14,−13 + 2√−14) = (9,−2 +

√−14),

P2P23 = (2,

√−14)(9,−2 +√−14) = (18,−4 + 2

√−14, 9√−14,−14− 2

√−14)

= (18,−2 +√−14) = (−2 +

√−14)

より

cl(P2P23 ) = cl(P2)cl(P3)

2 = 1 =⇒ cl(P3)2 = cl(P2)

−1 = cl(P2) 6= 1

cl(P3)4 = cl(P2)

2 = 1 =⇒ cl(P3)3 = cl(P3)

4cl(P3)−1 = cl(P ′

3) 6= 1

が成り立つ. よって cl(P3) の位数は 4である.

以上により Q(√−14)のイデアル類群 CL−14 の類数は 4である. また cl(P3) = Aと

おくと CL−14 = {1, A, A2, A3} となり, CL−14 は A を生成元とする位数 4 の巡回群

である.

Q(√−21) の場合

m = −21 ≡ 3 (mod 4), D = 4m = −84 より κ =√

|−84|3

= 5.2 · · · < 6 となる. 次に

p = 2, 3, 5 の場合について (p) の素イデアル分解を求める.

◦ p = 2 のとき, m ≡ 3 (mod 4) より 2 は分岐する. P2 = (2, 1 +√−21) とおけば

(2) = P 22 , N (P2) = 2 となる.

5. イデアル類と類数 74

◦ p = 3 のとき,(−21

3

)= 0 より 3 は分岐する. P3 = (3,

√−21) とおけば (3) = P 23 ,

N (P3) = 3 となる.

◦ p = 5 のとき,(−21

5

)=

(45

)= 1 より 5 は完全分解し , P5 = (5, 2 +

√−21),

P ′5 = (5, 2−√−21) とおけば (5) = P5P

′5, P5 6= P ′

5, 3N(P5) = N (P ′5) = 5 となる.

以上からノルムが 5 以下のイデアルは (1), P2, P 22 = (2), P3, P5, P ′

5 の 6 個である.

また類数は 5 以下である.

• P2 が単項イデアルであるとすると P2 = (a + b√−21) と表され

N (P2) = N ((a + b√−21)) =| a2 + 21b2 |= a2 + 21b2 = 2

となるが, これをみたす整数 a, bは存在しない. よって P2 � (1) である.

• P2 と同様にして P3, P5, P′5 � (1)が得られる.

• P 22 , P 2

3 ∼ (1)より cl(P2), cl(P3)の位数は 2で cl(P2)−1 = cl(P2), cl(P3)

−1 = cl(P3)が

成り立つ.

• N (P2P3) = 6かつ 6 = a2 +21b2 をみたす整数 a, bが存在しないことから P2P3 � (1)

である. 従って

cl(P2)cl(P3) 6= 1, cl(P2) 6= cl(P3)−1 = cl(P3)

が成り立つ. 特に類数は 3 以上である. 一方, 類数は cl(P2) の位数 2 の倍数で 5 以

下であることから 4 となる. また

P2P3P5 = (2, 1 +√−21)(3,

√−21)(5, 2 +√−21)

= (6, 3 + 3√−21, 2

√−21,−21 +√−21)(5, 2 +

√−21)

= (6, 3 +√−21)(5, 2 +

√−21)

= (30, 15 + 5√−21, 12 + 6

√−21,−15 + 5√−21)

= (30,−3 +√−21) = (−3 +

√−21) ∼ (1)

が成り立つ. よって

cl(P2)cl(P3)cl(P5) = 1, cl(P5) = cl(P2)−1cl(P3)−1 = cl(P2)cl(P3) = cl(P5)−1 = cl(P ′5)

を得る.

5. イデアル類と類数 75

以上より Q(√−21) の類数は 4 であり, cl(P2) = A, cl(P3) = B とおくと CL−21 =

{1, A,B, AB} と表される.

Q(√

105) の場合

m = 105 ≡ 1 (mod 8), D = m = 105 より κ =√

1052

= 5.1 · · · < 6 となる. p = 2, 3, 5 の場

合について (p) の素イデアル分解を求める.

◦ p = 2 のとき, 105 ≡ 1 (mod 8) より 2 は完全分解する. P2 = (2, 1+√

1052

) とおけば

(2) = P2P′2, P2 6= P ′

2, N (P2) = N (P ′2) = 2が成り立つ.

◦ p = 3のとき,(105

3

)= 0より 3は分岐する. P3 = (3, 1 + 1+

√105

2)とおけば (3) = P 2

3 ,

P3 = P ′3, N (P3) = 3が成り立つ.

◦ p = 5のとき,(105

5

)= 0より 5も分岐する. P5 = (5, 2 + 1+

√105

2)とおけば (5) = P 2

5 ,

P5 = P ′5, N (P5) = 5が成り立つ. ここで P5 = (5, 5+

√105

2) = (10 +

√105)となるので

P5 ∼ (1) を得る.

以上からノルムが 5 以下のイデアルは (1), P2, P ′2, P2P

′2 = (2), P3, P5 の 6 個である.

また類数は 4 以下である.

• P2が単項イデアルであるとすると P2 = (a+b√

1052

)と表される. ただし a ≡ b (mod 2)

である. このとき

N (P2) =

∣∣∣∣a2 − 105b2

4

∣∣∣∣ = 2, a2 − 105b2 = ±8

となり, a2 ≡ 2, 3 (mod 5) より矛盾が生じる. 従って P2 � (1) である.

• P2 と同様にして P3 � (1)が得られる. P 23 = (3) より cl(P3) の位数は 2 となり, 類

数が 2か 4 であることがわかる.

• P 22 = (4, 1 +

√105, 53+

√105

2) = (4, 5+

√105

2) = (31+3

√105

2) より cl(P2) の位数は 2 とな

り, cl(P2)−1 = cl(P ′

2) = cl(P2)が成り立つ.

• P2P3 = (6, 3 +√

105, 3+3√

1052

, 27 +√

105) = (6, −3+√

1052

) = (9+√

1052

) より cl(P3) =

cl(P2)−1 = cl(P2)が得られる.

以上より O105 の類数は 2である. また cl(P2) = A とおくと CL105 = {1, A} と表される.

5. イデアル類と類数 76

定理 5.2で2次体が単純体であることと, 類数が 1 であることとが同値であることを示し

た. ここで Q(√

m)が Euclid 体以外の単純体, すなわち

m = −163,−67,−43,−19, 14, 22, 23, 31, 38, 43, 46, 47

の場合について, 実際に類数が 1 となることを確認することにする.

Q(√−19) の場合

m = −19 ≡ 1 (mod 4), D = m = −19 より

κ =

√| −19 |

3= 2.5 · · · < 3

が成り立つ. p = 2 のとき, m ≡ 5 (mod 8) より (2) は素イデアルで, ノルムは 4 である.

従って, ノルムが 3 より小さいイデアルは (1) のみとなるから, 類数は 1 である.

Q(√−43) の場合

m = −43 ≡ 1 (mod 4), D = m = −43 より

κ =

√| −43 |

3= 3.7 · · · < 4

が成り立つ. p = 2 のとき, m ≡ 5 (mod 8) より (2) は素イデアルで, ノルムは 4 である.

p = 3 のとき,(−43

3

)=

(23

)= −1 より (3) も素イデアルで, ノルムは 9である. よってノ

ルムが 4 より小さいイデアルは (1) のみとなるから, 類数は 1 である.

Q(√−67) の場合

m = −67 ≡ 1 (mod 4), D = m = −67 より

κ =

√| −67 |

3= 4.7 · · · < 5

が成り立つ. p = 2 のとき, m ≡ 5 (mod 8) より (2) は素イデアルで, ノルムは 4 である.

p = 3 のとき,(−67

3

)=

(23

)= −1 より (3) も素イデアルで, ノルムは 9 である. 従って,

ノルムが 5 より小さいイデアルは (1), (2) のみで (1) ∼ (2) より類数は 1 である.

Q(√−163) の場合

m = −163 ≡ 1 (mod 4), D = m = −163 より

κ =

√| −163 |

3= 7.3 · · · < 8

5. イデアル類と類数 77

が成り立つ. p = 2 のとき, m ≡ 5 (mod 8) より (2) は素イデアルで, ノルムは 4 である.

p = 3 のとき,(−163

3

)=

(23

)= −1 より (3) も素イデアルで, ノルムは 9 である. p = 5

のとき,(−163

5

)=

(25

)= −1 より (5) も素イデアルで, ノルムは 25 である. p = 7 のと

き,(−163

7

)=

(57

)= −1 より (7) も素イデアルで, ノルムは 49である. よってノルムが 8

より小さいイデアルは (1), (2) のみで (1) ∼ (2) より類数は 1 である.

Q(√

14) の場合

m = 14 ≡ 2 (mod 4), D = 4m = 56 より

κ =

√56

2= 3.7 · · · < 4

が成り立つ. 14 ≡ 2 (mod 4) より 2 は分岐し , P2 = (2,√

14) とおけば (2) = P 22 ,

P2 = (4 +√

14), N (P2) = 2が成り立つ. p = 3 のとき(14

3

)=

(23

)= −1 より (3)は素イ

デアルで, ノルムは 9 である. よってノルムが 4 より小さいイデアルは (1) と P2 のみで

(1) ∼ P2 より, 類数は 1 である.

Q(√

22) の場合

m = 22 ≡ 2 (mod 4), D = 4m = 88 より

κ =

√88

2= 4.6 · · · < 5

が成り立つ. 22 ≡ 2 (mod 4) より 2 は分岐し , P2 = (2,√

22) とおけば (2) = P 22 ,

P2 = (14 + 3√

22), N (P2) = 2 が成り立つ. p = 3 のとき,(22

3

)=

(13

)= 1 より

P3 = (3, 1 +√

22) とおけば (3) = P3P′3, P3 = (61 + 13

√22), P ′

3 = (61 − 13√

22),

N (P3) = N (P ′3) = 3が成り立つ. よってノルムが 5より小さいイデアルは (1), P2, P 2

2 , P3,

P ′3 であるが (1) ∼ P2, P

22 , P3, P

′3 より, 類数は 1 である.

Q(√

23) の場合

m = 23 ≡ 3 (mod 4), D = 4m = 92 より

κ =

√92

2= 4.7 · · · < 5

が成り立つ. 23 ≡ 3 (mod 4) より 2 は分岐し , P2 = (2, 1 +√

23) とおけば (2) = P 22 ,

P2 = (5 +√

23), N (P2) = 2が成り立つ. p = 3 のとき,(23

3

)=

(23

)= −1 より (3) は素

イデアルで, ノルムは 9となる. よってノルムが 5 より小さいイデアルは (1), P2, P 22 であ

るが (1) ∼ P2, P22 より, 類数は 1 である.

Q(√

31) の場合

5. イデアル類と類数 78

m = 31 ≡ 3 (mod 4), D = 4m = 124 より

κ =

√124

2= 5.5 · · · < 6

が成り立つ. 31 ≡ 3 (mod 4) より, 2は分岐し P2 = (2, 1 +√

31) とおけば (2) = P 22 , P2 =

(39+7√

31), N (P2) = 2が成り立つ. p = 3のとき,(31

3

)=

(13

)= 1より P3 = (3, 1+

√31)

とおけば (3) = P3P′3, P3 = (11 + 2

√31), P ′

3 = (11 − 2√

31), N (P3) = N (P ′3) = 3 が成

り立つ. p = 5 のとき,(31

5

)=

(15

)= 1 より P5 = (5, 1 +

√31) とおけば (5) = P5P

′5,

P5 = (6 +√

31), P ′5 = (6−√31), N (P5) = N (P ′

5) = 5が成り立つ. よってノルムが 6 よ

り小さいイデアルは (1), P2, P22 , P3, P

′3, P5, P

′5 であるが (1) ∼ P2, P

22 , P3, P

′3, P5, P

′5 より, 類

数は 1 である.

Q(√

38) の場合

m = 38 ≡ 2 (mod 4), D = 4m = 152 より

κ =

√152

2= 6.1 · · · < 7

が成り立つ. 38 ≡ 2 (mod 4) より 2 は分岐し , P2 = (2,√

38) とおけば (2) = P 22 ,

P2 = (6 +√

38), N (P2) = 2 が成り立つ. p = 3 のとき,(38

3

)=

(23

)= −1 より (3) は

素イデアルで, ノルムは 9 である. p = 5 のとき,(38

5

)=

(35

)= −1 より (5) は素イデア

ルで, ノルムは 25 である. よってノルムが 7 より小さいイデアルは (1), P2, P22 であるが

(1) ∼ P2, P22 より, 類数は 1 である.

Q(√

43) の場合

m = 43 ≡ 3 (mod 4), D = 4m = 172 より

κ =

√172

2= 6.5 · · · < 7

が成り立つ. 43 ≡ 3 (mod 4)より 2は分岐し , P2 = (2, 1 +√

43)とおけば (2) = P 22 , P2 =

(59+9√

43), N (P2) = 2が成り立つ. p = 3のとき,(43

3

)=

(13

)= 1より P3 = (3, 1+

√43)

とおけば (3) = P3P′3, P3 = (400 + 61

√43), P ′

3 = (400 − 61√

43), N (P3) = N (P ′3) = 3が

成り立つ. p = 5 のとき,(43

5

)=

(35

)= −1 より (5) は素イデアルで, ノルムは 25 であ

る. よってノルムが 7 より小さいイデアルは (1), P2, P22 , P3, P

′3, P2P3, P2P

′3 であるが, すべ

て (1)に対等になるので類数は 1 である.

Q(√

46) の場合

5. イデアル類と類数 79

m = 46 ≡ 2 (mod 4), D = 4m = 184 より

κ =

√184

2= 6.7 · · · < 7

が成り立つ. p = 2 のとき, 2 は分岐し P2 = (2,√

46) とおけば (2) = P 22 , P2 = (156 +

23√

46), N (P2) = 2 が成り立つ. p = 3 のとき,(46

3

)=

(13

)= 1 より P3 = (3, 1 +

√46)

とおけば (3) = P3P′3, P3 = (7 +

√46), P ′

3 = (7 − √46), N (P3) = N (P ′

3) = 3 が成り

立つ. p = 5 のとき,(46

5

)=

(15

)= 1 より P5 = (5, 1 +

√46) とおけば (5) = P5P

′5,

P5 = (997 + 147√

46), P ′5 = (997 − 147

√46), N (P5) = N (P ′

5) = 5 が成り立つ. よってノ

ルムが 7 より小さいイデアルは (1), P2, P22 , P3, P

′3, P2P3, P2P

′3, P5, P

′5 であるが, すべて (1)

に対等になるので類数は 1 である.

Q(√

47) の場合

m = 47 ≡ 3 (mod 4), D = 4m = 188 より

κ =

√188

2= 6.8 · · · < 7

が成り立つ. 47 ≡ 3 (mod 4) より 2 は分岐する. P2 = (2, 1 +√

47) とおけば (2) = P 22 ,

P2 = (7 +√

47), N (P2) = 2が成り立つ. p = 3 のとき,(47

3

)=

(23

)= −1 より (3) は素

イデアルで, ノルムは 9 である. p = 5 のとき,(47

5

)=

(25

)= −1 より (5) は素イデアル

で, ノルムは 25である. よってノルムが 7 より小さいイデアルは (1), P2, P22 であるが, す

べて (1)に対等になるので類数は 1 である.

以上で

m = −163,−67,−43,−19, 14, 22, 23, 31, 38, 43, 46, 47

の場合について Q(√

m)が単純体であることが確認できた.

応用

最後に不定方程式への 2, 3 の応用を述べておく.

補題 5.10 a, b ∈ Z, (a, b) = c とする. このとき α ∈ Om が α | a かつ α | b をみたせ

ば α | c である. 特に a と b が互いに素のとき, α は単数である.

Proof (a, b) = c なら, ar + bs = c をみたす r, s ∈ Zが存在する. α | a, α | b であるから定理 2.13より α | ar + bsが成り立つ. 従って α | cが得られる. また a と bが互いに素の

5. イデアル類と類数 80

とき, c = 1 であるから, α | 1 となるので α は単数である.

補題 5.11 2次体 Q(√−5) の類数は 2 である.

Proof m = −5 とおく. このとき m = −5 ≡ 3 (mod 4), D = 4m = −20 より κ =√|−20|

3= 2.5 · · · < 3が成り立つ. −5 ≡ 3 (mod 4) より 2 は分岐する. P2 = (2, 1 +

√−5)

とおけば (2) = P 22 , N (P2) = 2が成り立つ.

ここで P2 が単項イデアルであると仮定し , P2 = (a + b√−5) とおくと

N (P2) = N ((a + b√−5)) =| a2 + 5b2 |= a2 + 5b2 = 2

が得られるが, これをみたす a, b ∈ Z は存在しない. よって P2 � (1) である. ノルムが 2

以下のイデアルは (1), P2 のみであるから Q(√−5) の類数は 2 である.

補題 5.12 有理整数 x, yが x2 +2 = y3 をみたすとき, 2次体 Q(√−2)の整数 x+

√−2

と x−√−2 は互いに素である.

Proof x+√−2と x−√−2が単数以外に公約数を持たないことを示せばよい. 2 | xとす

ると 2 | x2 + 2より 2 | y3, 2 | y, 8 | y3 となり 4 | x2 + 2が得られるが,これは x2 + 2 ≡ 2, 3

(mod 4) であることに矛盾する. よって 2 - x, すなわち (x, 2) = 1 である.

次に α を O−2 の素元とし , α | x +√−2, α | x−√−2 とすると

α∣∣ (x +

√−2) + (x−√−2) =⇒ α | 2x

α∣∣ √−2(x +

√−2)−√−2(x−√−2) =⇒ α | −4

が得られる. これより α | (2x,−4) = 2(x,−2) となるので α | 2 が成り立つ. ここで

α = a + b√−2 とおき, ノルムを計算すると N (α) | N (2) より a2 + 2b2 | 4 となる. これを

みたす有理整数 a, bは (a, b) = (±1, 0), (0,±1), (±2, 0) のいずれかである.

ここで α = ±√−2 とすると α | x +√−2 より

√−2 | xが得られる. ノルムを計算す

ると 2 | x2 となり, (x, 2) = 1 に矛盾する. α = ±2 としても同様に矛盾を得る. 従って

α = ±1 となるので α は単数である.

定理 5.13 x2 + 2 = y3 の整数解は x = ±5, y = 3 のみである.

Proof 定理 3.5より Q(√−2)は Euclid 体であり, 類数は 1 である.

x2 + 2 = (x +√−2)(x−√−2) = y3

5. イデアル類と類数 81

とおくと補題5.12より x+√−2と x−√−2は互いに素であるから (x+

√−2)と (x−√−2)

の公約イデアルは (1)のみである. よって (x +√−2)はあるイデアルの 3 乗として表され

る. Q(√−2) のイデアルはすべて単項イデアルであり, 単数は = ±1 のみであるから

x +√−2 = (a + b

√−2)3 = a3 − 6ab2 + (3a2b− 2b3)√−2

が成り立つ. 従って 3a2b− 2b3 = b(3a2 − 2b2) = 1 より b = ±1 となるので 3a2 − 2b2 = 1

を得る. 従って b = 1, a = ±1が成り立つ. これより x = ±5, y = 3が導かれる.

定理 5.14 x2 + 5 = y3 は整数解を持たない.

Proof x2 + 5 = y3 をみたす有理整数 x, y が存在すると仮定する. このとき

x2 + 5 = (x +√−5)(x−√−5) = y3

となる. 5 | x と仮定すると 5 | y より, y3 ≡ 0 (mod 25) となるが, x2 + 5 ≡ 5 (mod 25)

となり, 矛盾が生じる. ゆえに (5, x) = 1 である.

イデアル (x +√−5) と (x−√−5) の公約イデアルである素イデアルが存在したとし

て, それを P とする. P は (2x), (10) の公約イデアルとなる. (2x, 10) = 2(x, 5) = 2 よ

り P は (2) を割り切る. 補題 5.11の証明中で示したように, (2) = P 22 が成り立つ. ここで

P2 = (2, 1 +√−5) である. これより P = P2 を得る. P は (y) を割り切るので y は偶数

である. 従って y3 ≡ 0 (mod 8)が成り立つ. 一方, xは奇数となるが,このとき x2 + 5 ≡ 6

(mod 8) となり矛盾が生じる. よってイデアル (x +√−5) と (x −√−5) の公約イデアル

は (1) のみである.

上の結果より, 単項イデアル (x +√−5)はあるイデアル J の 3 乗として表される. こ

こで (x +√−5) = J3 とおく. 補題 5.11より Q(

√−5) の類数は 2であるから, 定理 5.8 よ

り J2 は単項イデアルとなる. ゆえに J 自身が単項イデアルである. 今 J = (a + b√−5)と

おけば単数は ±1 のみであるから

x +√−5 = (a + b

√−5)3 = a3 − 15ab2 + (3a2b− 5b3)√−5

より 3a2b − 5b3 = b(3a2 − 5b2) = 1 が得られる. これより b = ±1 が導かれる. 従って

3a2 = 5± 1となるがこれをみたす有理整数 a, bは存在しない. 以上で定理が証明された.

References

[1] 高木貞治,「初等整数論講義」第 2版, 共立, 1971.

[2] 永尾 汎,「代数学」朝倉, 1983.

[3] 山本芳彦,「数論入門1」岩波, 1996.

[4] 山本芳彦,「数論入門2」岩波, 1996.

[5] H.Chatland, H.Davenport, Euclid’s algorithm in real quadratic fields , Canadian Jour-

nal of Mathematics, 2 (1950), pp. 289-296.

[6] H.M. Stark, A complete determination of the complex quadratic fields of class-number

one, Michigan Mathematical Journal, 14 (1967), pp. 1-27.

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