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特集 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 45 スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での 利用を実現する「RealGreen」システム技術 “RealGreen” System Technology that Allows for “Zero- Waiting-Time Experience” even in Sleep Mode 富士ゼロックスでは、省エネなどに代表される地環境負荷低減と、これと相反する快適性や利便性など とを高い次元で両立するコンセプト「RealGreen」の 実現を加速させている。 我々は、富士ゼロックスが保有する環境要素技術の ポテンシャルを最大限に活かしながら、省エネ性と利 便性とを高い次元で追求した新たな「RealGreen」シ ステム技術を開発し、カラー複合機 ApeosPort-IV/ DocuCentre-IV の新シリーズに導入した。本複合機 では、省エネ性の優れたスリープ状態から利用する場 合においても実質的に『体感待ち時間ゼロ』を実現た。これによりお客様には、常にスリープ状態でご使 用いただいてもストレスなくお使いいただくこと可能になった。 本稿では、この「RealGreen」を実現するシステム 技術について紹介する。 Abstract 執筆者 小野 真史(Masafumi Ono*1 馬場 基文(Motofumi Baba*2 三木 清史(Kiyoshi Miki*3 尾形 健太(Kenta Ogata*4 山科 晋(Susumu Yamashina*5 本田 誠司(Seiji Honda*5 木下 晋一(Shinichi Kinoshita*6 *1 コントローラ開発本部 コントローラプラットフォーム第二開発部 Controller Platform Development II, Controller Development Group*2 商品開発本部 第三商品開発部 Product Development & Program Management III, Product Development Group*3 商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部 Human Interface Design Development, Product Development Group*4 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部 Imaging Platform Development, Device Development Group*5 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム開発部 Device System Platform Development, Device Development Group*6 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社 デバイス制御開発部統括部 デバイスコントローラ Integ 開発部 Device Controller Integration Development, Device Controller Development Unit Fuji Xerox Advanced Technology Co., LtdFuji Xerox is accelerating efforts toward realizing its “RealGreen” concept that combines lower global environmental impact, typically by conserving energy, with comfort and convenience at a high level. By making the most of Fuji Xerox’s potential in its environmental technologies, we have developed new “RealGreen” system technology that provides high energy efficiency and convenience, and applied it to new models of the ApeosPort-IV series and Docu-Centre-IV series. The technology allows for a virtually “zero-waiting-time experience” even in highly energy-efficient sleep mode. End users can thus use the models without any stress, even when they remain constantly in sleep mode. This report introduces the system technology that realizes the “RealGreen” concept.

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特集

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 45

スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術“RealGreen” System Technology that Allows for “Zero-Waiting-Time Experience” even in Sleep Mode 要 旨

富士ゼロックスでは、省エネなどに代表される地球

環境負荷低減と、これと相反する快適性や利便性など

とを高い次元で両立するコンセプト「RealGreen」の

実現を加速させている。

我々は、富士ゼロックスが保有する環境要素技術の

ポテンシャルを 大限に活かしながら、省エネ性と利

便性とを高い次元で追求した新たな「RealGreen」シ

ステム技術を開発し、カラー複合機 ApeosPort-IV/

DocuCentre-IV の新シリーズに導入した。本複合機

では、省エネ性の優れたスリープ状態から利用する場

合においても実質的に『体感待ち時間ゼロ』を実現し

た。これによりお客様には、常にスリープ状態でご使

用いただいてもストレスなくお使いいただくことが

可能になった。

本稿では、この「RealGreen」を実現するシステム

技術について紹介する。

Abstract

執筆者 小野 真史(Masafumi Ono)*1 馬場 基文(Motofumi Baba)*2 三木 清史(Kiyoshi Miki)*3 尾形 健太(Kenta Ogata)*4 山科 晋(Susumu Yamashina)*5 本田 誠司(Seiji Honda)*5 木下 晋一(Shinichi Kinoshita)*6

*1 コントローラ開発本部 コントローラプラットフォーム第二開発部

(Controller Platform Development II, Controller Development Group)

*2 商品開発本部 第三商品開発部 ( Product Development & Program Management III,

Product Development Group) *3 商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部

(Human Interface Design Development, Product Development Group)

*4 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部

(Imaging Platform Development, Device Development Group)*5 デバイス開発本部

デバイスシステムプラットフォーム開発部 (Device System Platform Development,

Device Development Group) *6 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社

デバイス制御開発部統括部 デバイスコントローラ Integ 開発部

(Device Controller Integration Development, Device Controller Development Unit Fuji Xerox Advanced Technology Co., Ltd)

Fuji Xerox is accelerating efforts toward realizing its“RealGreen” concept that combines lower globalenvironmental impact, typically by conserving energy,with comfort and convenience at a high level.

By making the most of Fuji Xerox’s potential in itsenvironmental technologies, we have developed new“RealGreen” system technology that provides highenergy efficiency and convenience, and applied it tonew models of the ApeosPort-IV series andDocu-Centre-IV series. The technology allows for avirtually “zero-waiting-time experience” even in highlyenergy-efficient sleep mode. End users can thus usethe models without any stress, even when they remainconstantly in sleep mode.

This report introduces the system technology thatrealizes the “RealGreen” concept.

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特集

スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

46 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

1. 緒言

昨今、環境問題は全世界的な問題として取り

上げられ、地球環境保全への取り組みが加速し

ている。我が国においても、東日本大震災後の

電力供給不足問題を契機に、節電の必要性がよ

り一層求められるようになってきている。

富士ゼロックスでは、お客様が使用する電力

や排出 CO2 の削減を、快適な環境で提供するこ

とを目指した「RealGreen」というコンセプト

を掲げ、地球環境負荷低減を快適に進めていた

だける製品やサービスの開発を進めている。今

回その取り組みの 1 つの成果として複合機がス

リープ状態からでも『体感待ち時間ゼロ』でお

使いいただける新しいシステム技術を開発して

商品化した。

今回我々が開発した「RealGreen」システム

技術は、「Smart WelcomEyes」技術、「スマー

ト節電」技術、「スリープ高速復帰」技術の3つ

を統合したシステム技術である(図 1)。「Smart

WelcomEyes」は、自動センシングによるお客

様検知技術、「スマート節電」は、複合機の使用

サービスに対して必要な機能モジュールだけに

電気エネルギーを供給する技術、「スリープ高速

復帰」は、スリープ状態から出力装置を高速に

立上げる制御技術である。

『体感待ち時間ゼロ』とは、お客様にスリー

プ状態という複合機の も優れた省エネ状態で

常にお使いいただけるように、スリープ状態か

らの利用であっても待ち時間のない使用感でお

使いいただける商品を提供しようというコンセ

プトである。

2. 「RealGreen」システム技術概要

この『体感待ち時間ゼロ』を実現するためは、

複合機を構成する機能モジュールすべてが、ス

リープ状態から数秒で高速立上げできなければ

実現できない。カラー複合機においては、定着

器のスリープ復帰時間が遅いことが課題になっ

ていた。定着器に大きな熱エネルギーを使用す

るため、スリープ状態から使用可能な状態に復

帰するまでに数十秒を要してしまうためである。

富士ゼロックスではこの課題を解決するため

にスリープ状態から世界 速の3秒で復帰でき

る独自の IH 定着技術を開発した。この技術を搭

載 し た カ ラ ー 複 合 機 ApeosPort-IV/

DocuCentre-IV C2270/C3370 は、スリー

プ復帰時間を 10 秒まで短縮化した 1) 2)。

しかし、お客様の使用実態調査結果では、従来

機から大幅にスリープ復帰時間を短縮したにも

係わらず、10 秒でも省エネ性の高いスリープ状

態でお使いいただけないケースが多くあった。

そこで我々は、あるべき姿の実現のためには、

人がストレスを感じる待ち時間の調査が必要と

考え、モニター評価による調査を実施したとこ

ろ、一連の操作において2秒を超えて次の操作

ができない、もしくは、動作開始が確認されな

いと、ストレスを感じるという結果を得た。こ

の結果を基にスリープ状態からジョブを実行す

るまでのお客様の操作を分析し、以下に示す 3

つの操作ステップに分割した。

ステップ 1: 複合機の前に立ち、節電ボタ

ンを押してスリープ復帰受付までの操作

(「Smart WelcomEyes」技術)。

ステップ 2: スリープ復帰受付から「操作

パネル」表示、サービス選択、ジョブ設定

し、スタートするまでの操作(「スマート節

電」技術)。

ステップ 3: 実行したジョブを確認できる

までのステップ 2 からの応答(「スリープ

高速復帰」技術)。

SSmmaarrtt WWeellccoommEEyyeess

ススママーートト 節節電電

ススリリーーププ高高速速復復帰帰

スリープ状態からでも お客様を検知して自動復帰

必要部だけに通電 静音な省エネで

すばやく操作可能

操作している間に準備完了

『『体体感感待待ちち時時間間ゼゼロロ』』

図 1. 「RealGreen」システム技術のコンセプト

Three technologies to realize “RealGreen”

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 47

この操作ステップ間の時間が 2 秒以下になる

ことを目標に、各ステップに対応した技術開発

を実施することにより、お客様に待ち時間のス

トレスを感じさない利便性の追求を進めた。

図 2 に、従来システムと本システムとのス

リープ復帰の操作ステップの比較図を示す。コ

ピーをとる場合の各操作ステップが従来よりも

短縮され、スリープ状態からスタートボタンを

押せるようになるまでの一連の動作が、省エネ

な状態でありながらストレスなく流れるような

操作を実現できていることがわかる。

以下では、これを実現する「RealGreen」シ

ステム技術を構成する3つの技術について、「ス

リープ高速復帰」技術、「スマート節電」技術の

順に紹介し、 後に当社の新規技術である

「Smart WelcomEyes」技術について述べる。

3. スリープ高速復帰技術

3.1 目標値設定と課題

概要に示した通り、複合機のスリープ復帰時

間は、定着器のスリープ復帰時間が遅いことが

課題であったが、IH 定着技術の開発により定着

器の立上げ時間は 3 秒となった 1)。

と こ ろ が 、 2009 年 に 発 売 し た

ApeosPort-IV C2270/C33702)は、この IH

定着器を搭載したにも係わらずスリープ復帰時

間に 10 秒を要した。そこでスリープ復帰の

シーケンスを分析したところ、出力装置が制御

部の立上げに約 7 秒の時間を要していた。この

ことから、出力装置制御部をスリープ状態から

高速復帰させる技術の開発が必要になった。

スリープ状態からの立上げに必要となる初期

化処理を定着器の立上げと並行して実施すると

しても出力装置全体、および、定着器の立上げ

準備の時間も必要となる。そのことから IH 定着

器の立上げに要する3秒から1秒以上待たせな

い 3.9 秒を目標値に設定した。この時間は、『体

感待ち時間ゼロ』を実現するためのスリープ高

速復帰の目標値である。

出力装置制御部におけるスリープ復帰に時間

を要する要因は、次の3つである。

メモリーからのデータ読出し時間

オプションとの初期化通信時間

IH ドライバー起動時間

以下にこの3つの課題と対策について説明す

る。

図 2. 従来システムと本システムのスリープ復帰操作ステップの比較

Comparison of the sleep mode operation steps

            

コピーサービス

                  節電ボタン

従来システム

自動復帰自動復帰

コピーサービスメニュー

表示スリープ復帰待ち

パラメータ設定

動作開始

すぐに操作すぐに操作エコに操作エコに操作

パラメータ設定

ステップ1 ステップ3

ステップ1

本システム

すぐに動作開始

ステップ2

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

操作パネル操作パネル

コントローラーコントローラー

出力装置出力装置出力装置出力装置

コントローラーコントローラー

操作パネル操作パネル

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

出力装置出力装置

コントローラーコントローラー

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

操作パネル操作パネル

出力装置出力装置

コントローラーコントローラー

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

操作パネル操作パネル

スタート

ステップ2 ステップ3

出力装置出力装置

コントローラーコントローラー

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

操作パネル操作パネル操作中に操作中に準備準備

操作中に操作中に準備準備

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

操作パネル操作パネル

コントローラーコントローラー

出力装置出力装置

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

操作パネル操作パネル

出力装置出力装置

コントローラーコントローラー

スタート

…待機/稼働状態

…スリープ復帰中

…スリープ状態

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

48 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

3.2 メモリーからのデータ読出し時間

出力装置の制御プログラムや制御に用いるパ

ラメーターを格納しているメモリー(記憶デバ

イス)からのデータ読出し時間の課題である。

出力装置の制御部では、制御プログラム・デー

タを格納するフラッシュメモリーと制御パラ

メーターを格納する EEPROM*1、消耗品管理

データを格納する IC タグの 3 種類のメモリー

を使用しており、通信でデータ読み出しを行う

ハードウェア構成のため、データの読み出しに

時間がかかる。そこで、以下の2つの施策によ

りデータ読出し時間の短縮を図った。

① プログラム/消耗品データ読出し時間

フラッシュメモリーに格納しているプログラ

ム、および、IC タグに格納している消耗品

データを DRAM*2に読出し、セルフリフレッ

シュ電力によりスリープ中も DRAM のデー

タを維持することで、スリープ復帰時に再読

出しを不要にした。

② 制御パラメーターの読出し時間

EEPROM からの制御パラメーター読出し処

理を I/O のシリアル・バス初期化処理と並列

に実施することで、実質ゼロになるように設

計した。

3.3 オプションとの初期化通信時間

出力装置に装着される拡張トレイモジュール

や後処理装置(フィニッシャー)などのオプショ

ン装置との初期化通信時間の課題である。

出力装置は、スリープ状態中は電源オフ状態

であることから、従来は電源オン時と同じ初期

化シーケンスを実施していた。

しかし、スリープ状態からの復帰時には、通

常はオプション構成など変更されない。これを

前提として、コンフィグレーション情報の通信

処理の優先順位を見直し、スリープ状態移行前

のコンフィグレーション情報を使用して初期化

処理するようにスリープ復帰に 適化した。こ

のスリープ復帰に 適化したインターフェース

設計により、後述する操作パネル表示の高速化、

コピー時の原稿スキャン開始タイミングの早期

*1 Electrically Erasable Programmable Read-Only

Memory *2 Dynamic Random Access Memory

化にも貢献している。

3.4 IH ドライバー起動時間

IH ドライバーとは、IH 定着器の定着温度を制

御するための IH に供給する電力を制御する IH

電源制御部のことで、この起動時間に時間を要

することが課題である。

安全性を設計上確認して、シリアル・バスの

初期化終了と同時に IH リレーを起動し、制御ソ

フトの立上げと並行して IH ドライバーの CPU

の立上げを実施するようにした。さらに、IH ド

ライバーの CPU 起動をモニターし、起動直後

から IH 電力制御を開始するようにした。従来は、

IH ドライバーの起動のばらつきを考慮した

マージン時間を確保していたが、起動をモニ

ターして同期することで、マージン時間を削除

した。並列処理とマージン時間の削除により立

上げ時間を短縮化した。

3.5 スリープ高速復帰の実現

上記の3つの課題に対する対策を導入するこ

とで、「出力装置」の目標値である 3.9 秒での

スリープ高速復帰を達成した。

図 3 は、「出力装置」制御部の改善効果を従

来システムと比較した図である。無駄な処理を

排除し、並列で初期化処理することによりス

リープ復帰時間が 60%短縮できた。また、後

述するスマート節電の効果によりスリープ復帰

中も操作パネルの操作できるようになった。

4. スマート節電技術

4.1 スマート節電技術の狙い

従来の複合機では、スリープ状態からの復帰

時に、使用する機能に関わらず複合機全体に通

図 3. 「出力装置」制御部の改善効果

Comparison of recovery time from sleep

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 49

電し、全ての機能が操作できるようにしていた。

スマート節電技術とは、これを根本的に改善し

た技術のことで、お客様が利用する機能に対応

する部分にのみ通電し、利用しない部分には通

電しないように 適化した省エネ・システム技

術の富士ゼロックスにおける呼称である。

このスマート節電技術は、スリープ状態から

復帰時の通電部分を 適化することにより、複

合機内の節電による省エネ性の向上と、不要な

起動音抑止による静粛性の向上を狙った。また、

スリープ復帰から「操作パネル」がすぐに使え

るという利便性の向上にも貢献している。

4.2 システム通電制御

複合機は、「原稿読み取り装置」「操作パネル」

「コントローラー」「出力装置」の4つの機能モ

ジュールから構成されている。図 4 にこれら 4

つの機能モジュールを電源制御する構成を示す。

スマート節電を実現するために、これら機能モ

ジュールを単独でオン・オフできる電源制御機

能を搭載した。これにより「コントローラー」

において、お客様が使用するサービスに応じて

使う部分だけ通電させるきめ細かい通電制御を

実現可能にした。

お客様が節電ボタンを押下すると「コント

ローラー」だけに通電しているスリープ状態が

解除され、「操作パネル」に通電してメニュー画

面を表示する。そのメニュー画面からお客様が

利用されるサービスを選択した際に、対応する

機能モジュールの電源を各々通電するように制

御する。

このようなハード構成に変えることにより、

リモートからのジョブ実行に関しても同様に制

御することができる。リモートからお客様が利

用するジョブを受付、利用するサービスを判別

し、必要な機能モジュールの電源を通電制御す

る。この際、操作パネルには通電するが、バッ

クライトは消灯する節電設計としている。リ

モートからのジョブ実行中に操作パネルの表示

は必要ないが、異常発生時には瞬時に操作パネ

ルを表示させ、ジョブ完了や警告時の通知音を

鳴動させるためである。

4.3 操作性課題

単に機能モジュールを単独でオン・オフでき

る電源制御機能を搭載するだけのことであれば、

簡単に実現できていた。課題は、お客様の操作

性、利便性を低下させずにサービスを提供しな

図 4. スマート節電技術による通電制御

Smart Energy Management Technology for Power Control

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

50 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

ければならないことにあった。

従来は、お客様の利便性を損なわないために

「出力装置」はなるべく通電状態を保ち、定着

器の温度を下げないようにしていた。ところが、

3 秒で立ち上がる IH 定着技術を開発したこと

で、複合機の利便性に対する考え方に変革が起

こった。これまで立上げに 8.5 秒必要としてい

た「原稿読み取り装置」も、白色 LED 光源採

用により 2.5 秒に改善した。このようにスリー

プ復帰に関して一番大きな技術課題であった

「原稿読み取り装置」と「出力装置」の立上げ

時間が、環境要素技術により大幅に短縮できた

(図 5)。

しかし、スマート節電の場合、図 6 に示すよ

うに、節電ボタンを押下して「操作パネル」に

メニューが表示された状態でも、「原稿読み取り

装置」と「出力装置」は通電状態になく、コピー

などのサービスを選択した時点で必要な機能モ

ジュールに通電する。そのためお客様は、サー

ビスを選択した後に数秒間待たされることとな

り、「操作パネルが表示されているのにすぐに使

えない」ため、これまで以上にストレスを感じ

ることになる。

4.4 操作性課題への対応

「原稿読み取り装置」と「出力装置」をスリー

プ復帰させずに「操作パネル」を表示するため

に、「コントローラー」でスリープ状態に移行す

る前の情報をすべて記憶し、この記憶した情報

を元に表示するようにした。

しかし、「原稿読み取り装置」、「出力装置」共

にジョブが実行可能になるまでには、前述の数

秒間の時間が必要となるため、スリープ移行前

の記憶情報で「操作パネル」に表示しても、確

実に操作可能になるまでには数秒の時間を必要

とする。そこでお客様の操作時間を 2 秒以下と

想定して、サービスが実行可能になるまでの時

間を 2 秒以下に押さえ込むことで、サービス画

面を切り替えて直ちにスタートボタンを押下し

ても実行を受付けられるように改善した。

特にコピーサービス提供時においては、「原稿

読み取り装置」で原稿の読み取り開始時に「出

力装置」の出力用紙のサイズが必要となるため、

「出力装置」の用紙トレイに格納されている出

力用紙のサイズ情報の通知があるまでは、原稿

のスキャンを開始しないように制御している。

この出力用紙のサイズ確定までの時間は、従来

は「出力装置」の初期化完了を待たなければな

らなかったが、先行してサイズ情報を通知する

ことで、すぐにスキャン開始できるようにした。

4.5 スマート節電技術の効果

4.5.1 省エネ性向上

スマート節電技術の導入によりカタログ値と

して比較される TEC 値の低減にも貢献してい

るが、本技術の狙いはお客様の実使用環境にお

いて確実に省エネ利用して頂けることにある。

近は、コピーサービス利用よりもスキャン

サービスやソリューション連携などの利用が多

くなっている。本技術により、このようなお客

様の複合機の利用形態の変化に合わせて確実に

消費電力を削減し、お客様の TCO 削減、CO2

排出量の削減に貢献することができる。

図 7 にサービスごとのスマート節電有効時と

無効時の電力量比較を示す*3。

*3 エネルギースターに準拠した評価において、プリントの

代わりにスキャンを実施。

図 5. 環境要素技術(左:IH 定着器, 右 LED 光源)

IH Fusing Unit and LED Light Source

図 6. 従来システムとスマート節電の違い

The conventional system andSmart Energy Management Technology

出力装置出力装置

コントローラーコントローラー

操作パネル操作パネル

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

出力装置出力装置

コントローラーコントローラー

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

操作パネル操作パネル

すべて準備完了

「原稿読み取り装置」と「出力装置」は、

サービスが選択されてからスリープ復帰

従来システム スマート節電

…待機/稼働状態

…スリープ状態

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 51

4.5.2 静粛性向上

前述した通り複合機の利用形態にも変化があ

り、静音性能が求められるようになってきた。

特に FAX 着信をそのままサーバーへ転送する

ような所謂 FAX ペーパーレス・ソリューショ

ンやプライベートプリント時のプリント蓄積の

ようなサービスにおいては、お客様が複合機の

前に立っていない状態で突然複合機が稼動音を

伴って起動するが、紙の出力もないまま再び待

機状態、もしくは、スリープ状態となっていた。

何も動作しないのに騒音だけすることになるた

め、改善の声が多くあった。

スマート節電技術を導入することで、スリー

プ状態から復帰する際の複合機の起動音を 小

限にし、お客様のオフィス環境の静粛性を向上

することが実現できる。図 8 にスマート節電適

用の有無での音圧レベルの比較を示す*4。

4.5.3 利便性向上

スマート節電技術導入により、「コントロー

ラー」、「操作パネル」のスリープ復帰時の「原

稿読み取り装置」と「出力装置」のデータの同

期を分離したことで、スリープ状態から 2 秒以

内で「操作パネル」を復帰させ、お客様の操作

が開始できるようになった。図9に従来システ

ムとスマート節電を導入した本システムの「操

作パネル」復帰時間とシステムの違いの比較図

を示す。

*4 騒音値は JIS X 7779 によるバイスタンダ位置(正面)

での A 特性放射音圧レベル。表示したグラフは、節電状

態を解除し、機械が待機状態となるまでの騒音の時間変化。

また、お客様が、コピーやスキャンを実行す

る際には、 初に「原稿読み取り装置」を操作

することが考えられる。スマート節電では、「操

作パネル」が表示されていても「原稿読み取り

装置」が通電されていないことがあるため、原

稿圧着板の開閉や原稿読み取り部への原稿セッ

トでもスリープ復帰できるようにした。

このようにスリープ状態からであっても待機

状態での利用と変わらない待ち時間の操作感覚

を実現することによってお客様の利便性の向上

を図っている。

図 7. スマート節電の節電効果

Energy Saving Performance

スキャン/ファクス

:スマート節電 OFF

親展ボックス文書取りし

プリント

約 6%低減 電力量比較

:スマート節電ON

出力装置 出力装置

原稿読み取り装置原稿読み取り装置

出力装置 出力装置

原稿読み取り装置 原稿読み取り装置

コントローラー コントローラー

操作パネル 操作パネル

コントローラー コントローラー

操作パネル操作パネル

100% 94%

原稿読み取り装置 原稿読み取り装置

操作パネル 操作パネル

出力装置 出力装置

コントローラー コントローラー

約 36%低減

100% 64%

約 52%低減

100% 48%

図 8. スリープ復帰時の音圧レベルの時間変化比較

Quiet Performance

20

30

40

50

60

-2 0 2 4 6時間 [s]

音圧

レベ

ル [

dB]

スマート節電あり

スマート節電なし

図 9. スリープ復帰時のメニュー画面表示時間比較

Comparison of Screen Time

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

52 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

5. Smart WelcomEyes 技術

5.1 省エネ利用のための利便性の追求

複合機がスリープ状態になっているとスリー

プ状態から復帰させるために節電ボタンを押下

して、複合機が使用可能な状態になるまで待つ

必要がある。そのため複合機を使用する際の“待

たされ感”によるストレスが大きいため、業務

の効率を重視するオフィスではスリープ状態に

入る時間を伸ばして使用することが多くなって

いた。富士ゼロックスの複合機は、工場出荷状

態では も省エネ利用可能な設定となっており、

お客様の使用後1分でスリープ状態に移行する。

しかし、お客様の使用実態調査の結果、約 64%

のお客様がこのスリープ状態の移行時間を延長

されているという事実があった(2011 年 7 月、

国内営業アンケート実施結果)(図 10)。

これは、3 秒でスリープ復帰する当社の速熱

IH 定着技術を搭載し、スリープ状態から 10 秒

以 下 で 復 帰 す る ApeosPort-IV C2270/

C3370 であっても同様であった。このままで

は、カタログや販売時に省エネ性をお客様に訴

えて購入して頂いたとしても、実際にはお客様

は省エネ性を享受できていないことになる。

そこで我々は、お客様に省エネ性の も優れ

た設定である工場出荷設定のまま利用して頂く

ためにはどうしたらいいのか、概要に示したお

客様の複合機の各使用ステップに対する要求を

以下のように分析して考えた。

ステップ 1:スリープ状態を意識することな

く操作パネルをすぐに利用したい。

ステップ2:必要な機能デバイスだけが立ち

上がり、節電利用したい。

ステップ3:節電利用していても待たされる

ことなく動きだしてほしい。

ステップ2とステップ3を実現する技術は

「スマート節電技術」と「スリープ高速復帰技

術」で説明してきた。ステップ1を実現するた

めに開発した技術が、「Smart WelcomEyes」

技術である。

近では、フロア照明やトイレにも採用され

ているような人を検知して連動するシステムが

多く登場してきており、券売機やテレビへの採

用事例もある。そこで我々は、この市販の技術

を複合機に応用することで開発を加速させるこ

とにした。

スリープ状態中でもお客様が複合機使用の意

図に基づいて近づいたら、お客様を迎え入れる

ように自動的にスリープ状態から「スマート節

電」で復帰させ、「操作パネル」がすぐに使える

ようすることで待たされ感のストレスフリー化

を目指した。

5.2 Smart WelcomEyes のコンセプト

本技術は、人感センサーによる自動センシン

グ技術により、節電ボタン押下によるスリープ

復帰操作の“煩わしさ”と、「操作パネル」が使

えるようになるまでの“待たされ感”をなくす

ことをコンセプトにお客様に新しい利便性を提

供しようと考えた。

使用する前に節電ボタンを押して節電解除す

る操作に対しては、「煩わしさを感じる」、「面倒

である」、「操作にとまどう」などのお客様の声

が上がっている。お客様のストレスフリーの使

用感とは、スリープ状態を意識すること無く待

機状態と同じ使用感で複合機を利用できること

である。複合機の前に立ち、操作パネルに触れ

ようとしたときにはメニュー画面が表示されて

おり、お客様の思考を中断することなく次の操

作にスムーズに移れるようにしていくことは、

『体感待ち時間ゼロ』の基本コンセプト実現に

は欠かせない。

5.3 人感センサーの課題

人感センサーを使った Smart WelcomEyes

のコンセプトを実現するにあたっては、機能設

延長 していない

36% 延長 している

64%

図 10. スリープ移行時間を延長している割合

Percentage of our customers who have extendedsleep mode shift time setting

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特集

スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 53

計を進める上で2つの課題を設定して開発を進

めた。省エネ性追求と誤検知の抑制である。

利便性向上のために人感センサーを搭載した

ことで、省エネ性能が悪化することは許されな

い。人感センサーを搭載しても省エネ性能を維

持する省エネ設計が必要である。

また、人感センサーは、人を検知するが、利

用者を認識するわけではないため、通りすがり

の人を誤検知することがある。この誤検知が頻

繁に発生するようでは、頻繁にスリープ状態か

ら復帰するため省エネ利用にならない。そのた

め誤検知を極力抑える設計が必要である。

我々は、省エネでありながら、誤検知の少な

い自動センシグシステム設計を進めるべく、セ

ンサー構成の基本設計に取り組んだ。

5.4 Smart WelcomEyes のセンサー構成

開発工期やコストの関係から市販品、または、

市販直前品のセンサーを探索した。表 1 に 2 種

類のセンサーの比較を示す。

焦電センサー 反射センサー

説明

受動型の赤外線人体検知センサー。周囲の温度差のある人が動く際に発生する赤外線量の変化で人を検知する。

投光部からの赤外線光が、検出体表面より反射し受光部に入る位置が異なることから距離を算出し人を検知する。

省エネ性 電力小 電力大 検知領域 広い 狭い 応答性 良い 良い 維持性 悪い(人の動き検知) 良い(人の存在検知)

起動時間 30 秒 1 秒以下

備考 環境依存性あり (温度差が必要)

検知素材限定 (光沢物など検知不可)

我々は、それぞれ特徴を持つどちらか 1 つの

センサーで複合機の利用形態をカバーするのは

困難と考え、焦電センサーと反射センサーの 2

種類のセンサーを組み合わせて使用する独自構

成にすることにより、双方のセンサーのメリッ

トを活かしながら、デメリットは打ち消すとい

う設計思想で開発を進めた。

5.5 5 つの設計技術

5.5.1 省エネ設計

消費電力の大きな反射センサーを常時通電し

ておくと複合機全体の消費電力が大きくなって

しまうため、消費電力が極めて小さい焦電セン

サーを常時通電させ、反射センサーは初期から

通電させないという省エネ設計を導入している。

焦電センサーが、複合機近傍の人の動きを検

知すると反射センサーを起動させ、お客様の接

近の有無を反射センサーで確認してから機器の

スリープ復帰判断を行っている。反射センサー

の通電期間は、焦電センサーが人の動きを検知

しなくなってから数十秒とした。複合機は、お

客様の利用が終了してから 1 分でスリープ状態

に移行することから、複合機から立ち去る際の

お客様の動きで焦電センサーが人を検知する時

間も考慮し、複合機がスリープ移行するまでに

反射センサーをオフできるように設計している。

図 11 に、上記2つのセンサーと人の動きの

関係を示す。お客様が複合機に意図して近づき、

操作し、使用後に機器から離れていく動きを

図 11. 焦電センサーと反射センサーの省エネ設計

Two Types of Sensors Combination

表 1. 人感センサー比較 Comparison of two sensors

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54 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

オフィス空間内で分析し、以下で説明する設計

項目を誤検知抑制に配慮しながら決定した。

5.5.2 検知距離設計

焦電センサー

焦電センサーの検知範囲は、放射線方向に広

いため、不要に反射センサーが通電されない様

に検知範囲を制限すると同時に、焦電センサー

は反射センサーの検知領域を十分にカバーする

検知範囲を確保しなければならない。

中速機を利用されているオフィスの一般的な

レイアウトは、居室の出入り口付近やキャビ

ネットの横などの壁際に設置されているケース

やコピーコーナーなど複数の複合機がまとまっ

て設置されているケースが多く見られる。これ

らのオフィスでは、複合機の前面のデスクや

パーティションまでの距離は、およそ 800~

1,000mm 程度である。このことから複合機の

前方のデスクで執務するケースを考慮し、複合

機正面のピラーカバーの下部に開口を設けて配

置し、センサーの上面部を覆う事で検知範囲を

水平面に対し斜め下方向 800~1,000mm 程

度の距離に限定した。また、センサー開口部を

小さくすることでセンサーの正面左右扇状の範

囲に制限した(図 12)。この範囲は、後述する

反射センサーの検知範囲を確保するためである。

反射センサー

複合機には、縦型「操作パネル」、IC カード

リーダー、フィニッシング・ユニットなど様々

なオプションが取り付けられるため、操作位置

が横方向に広くなるという特徴を持つため、広

範囲からのアクセスに対応する必要がある。ま

た、誤検知の観点からは、前述の一般的なオフィ

スでは、複合機の前方に十分な空間が確保され

ないことから、複合機の前方空間の半分以上の

距離を検知範囲にすると、通行する人すべてを

検知してしまうため、それよりも短い距離、か

つ、操作感を損なわない距離にする必要がある。

ユーザビリティーの検証から、何らかの操作

に対するフィードバックが得られるまでに 2 秒

以上経過すると「待たされる」という感覚が生

じることがわかっている。Smart WelcomEyes

の開発においては、「複合機に近づいて、操作開

始するまでの時間をゼロに感じられるように画

面を表示する」ことを目標にセンサーの検知距

離や範囲の検討を行った。

我々は、これらを踏まえて実機による実験検

証を繰返し、反射センサーの角度と距離の設計

を進めた。スリープ状態において節電ボタンを

押下し、“カチッ”という音と画面の点灯により

スリープ状態が解除されたと認識するまでの時

間が、約 500msec である。このことから複合

機に正面から近づいた際にお客様操作位置であ

る複合機前面に到達する時間が500msecとな

る適切な距離を反射センサーの操作者検知距離

とした(図 13)。

また、ピラー部から本体正面に向かって角度

をつけて反射センサーを配置した。この角度は、

前述の前方検知距離において、一般的な体型の

人の体全体(肘間幅)が、複合機の幅内に入っ

ていれば、検知可能となるように設計した。(図

14)。これにより複合機正面において確実に操

図 12. 焦電センサー検知範囲設計

Pyroelectric sensor detection range図 13. 反射センサーの検知距離設計

Reflection sensor detects the distance

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 55

作者を検知可能としている。

さらに、立位姿勢と車椅子使用者を想定した

座位姿勢のどちらの場合においても検知可能な

適な高さにする必要があることから、複合機

正面のピラーカバーの上部に配置した。図 15

に Smart WelcomEyes のセンサーの取り付け

高さを示す。

5.5.3 検知領域設計

複合機に意図してアクセスするケースは主に

2つあり、操作パネルを使用して操作を行う

ケースとプリント出力紙を取りに来るケースが

ある。意図しないアクセスは、主に複合機の前

を単に通過するケースである。前者のプリント

出力紙を取りに来るケースと後者の通過する

ケースでは、複合機をスリープ復帰させないよ

うに設計することが望ましい。

そこで、図 16 に示すように焦電センサーに

検知領域と非検知領域を設けた。まず、非検知

領域については、プリント出力紙を取るために

近づいてきてもスリープ復帰しないために複合

機の用紙排出の開口部側からのアクセスでは、

焦電センサーが検知できない領域を確保した。

この領域からアクセスすることで、反射セン

サーをオフ、複合機をスリープ状態にしたまま

プリント出力紙を取り出すことを可能にした。

また、操作パネルを使用して操作するケース

については操作性設計でも述べるが、操作者を

確実に検知するために図 14 に示すように、複

合機の機器幅の内側に人体幅が入る場合に検知

する設計とした。

5.5.4 応答性設計

前述の通り一般的なオフィスでは、複合機の

前に十分な空間を確保されることは少なく、複

合機の正面を通路として人が往来されることが

多いことが想定される。そのため複合機を使用

するために近づいて来た人と、単に前方を通行

する人(室内移動者)とを区別して制御する必

要がある。

屋外空間での自由歩行速度は、周囲の状況に

もよるが、およそ 66~80m/分であるとされ

ている 4)。オフィスなどの屋内においては、若

干遅く歩行すると考え、複合機の前を歩行して

通り過ぎる人の歩行速度を約 60m/分と想定し

た 。 こ の 歩 行 者 の 速 度 を 基 に 、 人 体 幅 を

450mm 程度と想定し、反射センサーの検知範

囲を横切る際に必要となる時間を計算した。こ

の歩行者の通過時間と反射センサーが利用者を

検知してからスリープ復帰でストレスを感じな

い時間とのバランスをとって設計し、数百

msec 以上人を検知しない場合は、通り過ぎる

歩行者であると判断する応答性設計を導入した。

図 15. Smart WelcomEyes のセンサー取り付け高さ

Mounting height of Smart WelcomEyes

図 16. 検知領域と非検知領域

Non-detection region図 14. 反射センサーの水平角度

Reflection sensor detection angle

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

56 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

これにより単に複合機の前方を通行する人を

誤検知してスリープ復帰する回数の抑制を可能

にしている。

5.5.5 操作性設計

検知距離

複合機への近づき方や立ち位置によっては、

検知領域から外れることが想定される。また、

車いすなどの座位姿勢で使用する場合は、複合

機に対して直角方向に体が向き合う形となるた

め、操作パネルを使用する際にセンサーの検知

領域から外れやすくなる。

そこで、より広範囲で検知し、座位姿勢でも

検知しやすくなるように、反射センサーの検知

距離を長くする拡大設定を用意した(図17)。

この拡大設定は、特にコピーコーナーなど複合

機の前に広い空間が確保できる設置場所におい

ては、復帰タイミングが早まることで応答性が

良く感じられることになる。

検知状態の可視化

センサーの検知範囲が見えないため、お客様

が自らを検知しているとイメージしていても、

非検知領域内(前述)にいて実際には検知して

いないという操作者の意思に反した状況が起こ

ることが想定される。そのため、反射センサー

が検知状態であるか否かを確認できるように、

反射センサー上部に検知ランプを設けることで

検知状態の視覚化を図った(図 18)。

自動リセット機能抑制とスリープ移行抑制

複合機には、一定時間操作が無いと設定され

ている機能をリセットする「自動リセット」と

呼ばれる機能がある。直前に操作していた人の

設定が残っていたことによるミスコピーを防止

する効果がある反面、操作途中で気づかないう

ちに機能がリセットされてしまい、設定をやり

直すことになるという煩わしさに対する不満の

声も聞かれた。

そこで、反射センサーを利用することで、複

合機の前に立ち続けている間は原稿交換やプリ

ント状態の確認などの操作途中であるとみなし、

自動リセット機能を働かせない仕様とした。同

様に、一定時間操作がないとスリープ状態へ移

行する機能に対しても、反射センサーが検知し

ている間はスリープ状態移行しない仕様とした。

節電ボタン

節電からの復帰や移行をセンサー制御により

すべて自動化してしまうのではなく、お客様ご

自身によるコントロール感(節電移行/解除操

作できること)も重視し、節電ボタンの操作は

いつでも有効となるようにした。但し、スリー

プ移行後、お客様が操作パネルの消灯を確認し

て立ち去るまでの間に再びスリープ復帰するこ

とのないように、節電ボタン押下後の数秒間は

スリープ復帰しない期間を設けた。

このように、複合機にアクセスするお客様の

さまざまな利用シーンに配慮した操作性設計を

導入している。

初期設定 拡大設定

図 17. 反射センサーの距離設定

Extended setting of the detection distance

図 18. 検知状態の視覚化と検知領域の立体模式図

Detection Lamp and 3D schematic diagram

反射センサーと検知ランプ

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スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012 57

5.5.6 Smart WelcomEyes 技術の実現

Smart WelcomEyes は、人感センサーを利

用した当社独自の技術であり、上述した5つの

設計思想により構成されている。省エネと誤検

知抑制にこだわった 2 つのセンサー(Eyes)で、

お客様の機器アクセスを迎え入れるように

(Welcome)、自動的にスリープ状態から復帰

してすばやく操作できる(Smart)という3つ

の特徴に、お客様への「おもてなし」の心を込

めて、当社固有の名称を付けている(図 19)。

6. まとめ

概要に示したお客様の操作ステップに対応し

て、『体感待ち時間ゼロ』を実現する3つの技術

を以下にまとめる。

ステップ 1:「Smart WelcomEyes」技術

お客様が複合機の前に立つと、お客様を迎い

入れるようにスリープ状態から復帰すること

で、お待たせすることなく操作パネルの利用

が可能な新しい利便性を提供する(図 20)。

ステップ 2:「スマート節電」技術

ステップ 1 でお客様を検知すると、省エネ性

や静粛性に細かく配慮して必要な機能モ

ジュールだけを高速に立上げる(図 21)。

ステップ 3:「スリープ高速復帰」技術

ステップ 2 のお客様操作中に必要な機能モ

ジュールが高速復帰し、実質的にお待たせし

ない使用感を提供する(図 22)。

以上示してきたように、3つの技術を効果的

に組み合わせてシステム技術化することで、ス

リープ状態からでも『体感待ち時間ゼロ』でお

使いいただける複合機を実現することができた。

これは、当社が保有する環境要素技術の持つ価

値を 大限に活かしながら、待ち時間を感じさ

せない利便性を高い次元で両立し、「Smart

WelcomEyes」技術により新しい快適操作性を

提供した「RealGreen」システム技術である。

「RealGreen」の実現に向けた『体感待ち時

間ゼロ』を実現する3つの技術と環境要素技術

群のイメージを図 23 に示す。

図 19. Smart WelcomEyes の名称背景

Background the name of Smart WelcomEyes

図 20. ステップ 1:Smart WelcomEyes 技術

Step1: Smart WelcomEyes Technology

図 21. ステップ 2:スマート節電技術

Step2: Smart Energy Management Technology

図 22. ステップ 3:スリープ高速復帰技術

Step3: Speedy Recovery from Sleep Mode Technology

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特集

スリープ状態から「体感待ち時間ゼロ」での利用を実現する「RealGreen」システム技術

58 富士ゼロックス テクニカルレポート No.21 2012

今後、さらなる高みを目指して技術開発に邁

進する当社の次の「RealGreen」技術にご期待

いただきたい。

7. 商標について

RealGreen は、富士ゼロックス株式会社の登

録商標です。

Smart WelcomEyes は、富士ゼロックス株

式会社で商標登録申請中です。

その他、掲載されている会社名、製品名は、

各社の登録商標または商標です。

8. 参考文献

1) 上原 康博、馬場 基文、他,省エネ性と

利便性を両立した「RealGreen」な IH 定

着技術,富士ゼロックステクニカルレポー

ト,No.20(2011)

2) 安藤 良、他,

ApeosPort/DocuCentre-IV C2270/

C3370/C4470/C5570 省エネ大賞受

賞,富士ゼロックステクニカルレポート,

No.20(2011)

3) 富士ゼロックス株式会社,Sustainability

Report 2011,p13, 14

4) 建築設計資料集成 人間 p59、歩行の科学

筆者紹介

小野 真史 コントローラ開発本部

コントローラプラットフォーム第二開発部に所属

専門分野:システム制御ソフトウェア設計

馬場 基文 商品開発本部 第三商品開発部に所属

専門分野:電磁気、加熱システム設計、定着技術、

商品システム設計

三木 清史 商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部に所属

専門分野:ユーザビリティーデザイン、UI デザイン

尾形 健太 デバイス開発本部 イメージングプラットフォーム開発部に所属

専門分野:センサー設計

山科 晋 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム開発部に所属

専門分野:システムレイアウト設計

本田 誠司 デバイス開発本部 デバイスシステムプラットフォーム開発部に所属

専門分野:電力システム設計

木下 晋一 富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社

デバイス制御開発部統括部

デバイスコントローラ Integ 開発部に所属

専門分野:デバイス制御ソフトウェア設計

図 23. 「RealGreen」の実現イメージ図

Image of “RealGreen”