生活科がめざす アクティブ・ラーニング...A2–2...

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教授用資料 小学校生活科教授用資料 加納誠司 愛知教育大学准教授 生活科がめざす アクティブ・ラーニング ―主体的・対話的で深い学びを徹底解説!―

Transcript of 生活科がめざす アクティブ・ラーニング...A2–2...

教授用資料小学校生活科教授用資料

加納誠司 愛知教育大学准教授

生活科がめざすアクティブ・ラーニング

―主体的・対話的で深い学びを徹底解説!―

目 次

はじめに・「生活科?」それって,「もともとアクティブ・ラーニングでしょ !!」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

Q1 どんな授業を展開すれば,アクティブ・ラーニングを・   取り入れた授業と言えるのでしょうか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

Q2 生活科で主体的な学びを実践するときの・   ポイントは何ですか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

Q3 生活科で対話的な学びを実践するときの・   ポイントは何ですか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

Q4 探究のプロセスの中で学びを深めるための・   指導の手立てを教えてください。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

Q5 新しい教育課程ではカリキュラム・マネジメントが・   必要だと言われていますが,アクティブ・ラーニングとも・   関係がありますか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

☆加納誠司の教室探訪☆茨城県ひたちなか市立堀口小学校 1年「あきとなかよし」・・・・・・・・・14

おわりに・「生活科?」それって,「やっぱり!・・アクティブ・ラーニングでした!!」・・・・・・・・・・・・・・・・18

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はじめに「生活科?」それって,「もともとアクティブ・ラーニングでしょ !!」

 新しくなる学習指導要領の改訂に向けた動きの中,次世代型学力を担う学習方法として注目を集めているのがアクティブ・ラーニングです。もとは平成24年 8 月の中央教育審議会において,「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」の中で示された「生涯にわたって学び続ける力,主体的に考える力を持った人材は,学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から,教員と学生が意思疎通を図りつつ,一緒になって切磋琢磨し,相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り,学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である」という,大学の授業改善のために用いられた言葉でした。周知の通り,それ以降の教育改革の流れの中でも,その波は留まることなく,平成27年 8 月に教育課程企画特別部会において出された「教育課程企画特別部会における論点整理」にも,平成28年 8 月に教育課程部会において出された「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」(以下「審議のまとめ」と記す)にも,アクティブ・ラーニングの考え方は繰り返し重要視されてきました。 アクティブ・ラーニングが敬重される教育課程の動向において,立ち止まって考えたいことは,その学習方法の趣旨が生活科において一貫して重視してきたことと酷似していることです。生活科の学習活動は,子どもが具体的な活動や体験を通して,自分の思いや願

いの実現に向けて問題解決を連続していく,極めて能動的な課題解決学習と言えます。その過程で対象に試行錯誤したり繰り返したりしながら何度もかかわり,身体全身で学ぶ生活科の学習自体が,アクティブ・ラーニングなのです。すなわち,生活科にはもともと,その学びの理念にアクティブ・ラーニングの要素は備わっていたと言えます。換言すれば,質の高い生活科の授業を実践することで,学校の教育課程全体にアクティブ・ラーニングが促進されていくととらえています。

 本書では,今一度,生活科学習の本質をアクティブ・ラーニングの実現につなげて考え,具体的な実践場面に置き換えて解説をしていきます。皆さんにとって,明日への授業への一助になっていくことを願っています。

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Q1 どんな授業を展開すれば,アクティブ・ラーニングを取り入れた授業と言えるのでしょうか?

A1 子どもの学びに向かう「主体性」を尊重し,「対話的」な 授業場面を位置付け,学びを「深める」ことがポイントです!

 アクティブ・ラーニングの説明として,当初は「自ら課題を発見し,その解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」と表現されていました。それが平成28年 8 月に出された「審議のまとめ」では,「主体的・対話的で深い学び」という文言で示されています。端的に比較すると「主体的」という言葉はそのまま残り,「協働的」という言葉は「対話的」と表現され,より具体的な授業にイメージできるようになったと言えるでしょう。ただ,主体性・対話性だけを指摘して深まりを欠いてしまうと「体験あって学びなし」の表面的な活動に陥ってしまいます。「単に体験だけを行っていれば」,あるいは「授業の中に対話するような場面を入れられれば」アクティブ・ラーニングは実現できるという安易なとらえ方は極めて危険です。 アクティブ・ラーニングを実現するため新

たに示されたワード「深い学び」に着目してみましょう。学びを深めるためには,それなりの時間と空間を保証し,子どもの学びをつなげなければいけません。「主体的・対話的で深い学び」の実現,ひいてはアクティブ・ラーニングの実現は,1授業時間で完了するような点の学びで達成できるのではなく,点の学びを線でつなげる長いスパンでの学びの中でこそ,実現可能な学習方法と言えます。それまでの,いわゆる課題解決的な学習をそのまま移行して考えるだけではなく,「深い」と「主体的,対話的」との関係性や,その言葉に潜む意味合いを,それこそ深くくみ取って考えなければいけません。 本書ではこれ以降の論考を深い学びにつながる主体的な学び,さらには対話的な学びと整理して,生活科でめざすアクティブ・ラーニングを考えていきたいと思います。

【生活科でめざすアクティブ・ラーニングのPOINT1】・深い学びに導くために,学びを探究にし,子どもの学びをつなげる。

・�主体的に学ぶことを前提とした探究のプロセスに,対話的な学びを位置付ける。

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Q2 生活科で主体的な学びを実践するときのポイントは何ですか?

A2–1 学びの発動力を呼び起こす! 学びに向かう力の原動力こそ, 自ら学びを発し動いていく力です。

 子どもはもともと自分で学びたがっています。主体的な学びとは,一過性のものではなく,単元を通し持続するような連続した学習意欲であり,単元が終わってもなお,学び続けるような強い意志の表れです。これは「審

議のまとめ」の中で繰り返し述べられている「育てたい資質・能力の三つの柱」の一つ「学びに向かう力」に置き換えて考えることができます。学びに向かう力とは,その時々の授業での学習意欲を指すのではなく,単元を通して,さらには子どもの生活全般を通して学び続ける力です。その力の源になるのが,自分から学びだし,自らの学びの形を表現していくような力,つまり自分から学びを発動できる力なのです。学びの発動力を基盤として学びに向かうことで,考えを広げたり深めたりする学びへと発展することが期待できるのです。

A2–2 豊かな体験が学びの発動力を喚起し,主体的な学びに つながります。

 質の高いアクティブ・ラーニングを促進していくためには,体験的な学習は不可欠です。探究のプロセスに具体的な体験を位置付けることによって,より深い学びへと発展します。学びの主体者である子どもは,体験に没頭することにより,座学だけでは決して味わうことのできない自分事の学びを成立させます。子どもは体験から様々なことを感じ取ることができるでしょう。 感じる力を育むためには,自然体験が効果的です。自然体験では諸感覚を存分に発揮さ

自然の中なら子どもは自分から対象に働きかけていきます。

「知識・技能」の習得

「学びに向かう力・人間性」の涵養

「思考力・判断力・表現力等」の育成

育成をめざす資質・能力の三つの柱

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せることで,感性は研ぎ澄まされていきます。子どもを自然の中に解き放ち,全身で学びを受け止め,感じ考えながら思考を深めていくことは,豊かな表現力にもつながっていきます。 身近な社会を取り上げた体験の場合,教室での問いが切実性,現実感のある自分に関係する問いとなって還っていきます。留意する

点は地域のよさや特徴,子どもの生活から体験活動を設定することです。 体験を通すことで子どもは自ら学びを発動して,自分に重ね合わせながら学ぶようになります。豊かな体験を位置付けたカリキュラムをデザインすることで,単元を貫くような学びの発動力を喚起させ,主体的で深い学びに導くことができると考えます。

A2–3 豊かな体験(INPUT)を学びの形に変換(OUTPUT) させることです。

 豊かな体験によって,子どもたちには学習価値の高い学びが潜在化されていきます。活動や体験の在り方として,直接体験のより一層の充実と,その体験から十分に感じ考える学習行為を位置付けることが大切です。「体験あって学びなし」という誤った見識を払拭するためにも,体験したことから何を感じ取ったのか,顕在化を図る必要があります。つまり,子どもに潜在している気付きや思い,願いを顕在化するような能動的な教師支援が必要になってきます。「INPUT(潜在化)」されている自分の学びを「OUTPUT(顕在化)」

することで,自分の学びを目に見える形で自覚化するのです。子どもが体験を繰り返す段階で,教師はしっかりとその学びを価値付け,目に見える形に表出して次の活動へ生かしていくようにする。文字言語や音声言語,絵に描いたり,体で表現したりして,目に見える形に変換するのです。 こうして表出された体験の価値付けは,単元を進める上での思いや願い,新たな課題となって,次への探究の方向を指し示すことになるでしょう。

【生活科でめざすアクティブ・ラーニングのPOINT2】・�主体的な学びを子どもたちに保証するには,子どもたちが自ら学びを発し動いていく力を発揮させる。

・�体験の充実を図る,豊かな体験を目に見える形に変換し学びの自覚化を図る。

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 それでは,豊かな体験を生かした主体的な学びから,潜在化された学びを顕在化されていくプロセスを,1年「大空へとべ! シャボン玉」の実践で整理してみましょう。

②�豊かな体験は,豊かな表現活動につながります。活動中のつぶやきやカードに書かれてある言葉をもとに,シャボン玉遊びの詩ができ上がります。

③�積み重なった詩をもとに先生が曲をつけます(担任の先生の専門教科は音楽)。授業の初めはいつもシャボン玉の歌を歌います。歌い終わった後,先生は「今日は4番の歌詞ができるといいね」と子どもたちに声をかけていました。

①�活動の中心はシャボン玉遊びです。最初はストロー,次は自分で道具を見つけてきて,さらには切り込みを入れたり,形を変えたりして活動を工夫していきます。

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Q3 生活科で対話的な学びを実践するときのポイントは何ですか?

A3–1 ペアやグループ,友達との対話で学びを広げ, 比べたり関連付けたりして,個の学びを深めていきます。

 学びが探究的になれば友達同士が学び合う,すなわち協働的になることは必然と言えます。それを一歩踏み込み,学びの形として具現化したものが対話的な学びです。ここでは,子ども同士が 1対 1で対話するペア対話,3 ~ 6 人ほどの少人数でグループを形成するグループ対話,自分が自分に問いかけ自分自身の学びを深めていくような自分との対話に分類して,それぞれの教育効果について事例をあげて考えてみましょう。

 まずは,ペア対話の効果的な事例について説明します。上の写真は 1年生での学校探検の活動を振り返る授業,ベンチトークと名付けられた対話的な学びの様子です。体を向き合っての対面での発表形式の交流ではなく,椅子を隣同士に近づけ各々の活動の様子を自由に話していきます。発表というよりは

おしゃべりに近い学習形態と言えます。この際も探検を振り返ったカードが交流のきっかけをつくります。「このことを話したら,次はこれ」という話型なども定めていないので,子どもは今伝えたいことを軸として,その都度変化していく話題を自由に話すことができます。だから,「体育館でターザンロープしたんだよ」「今度は私もやりたいな,一緒にやろう」という具合いに話が止まりません。まるで,公園のベンチに座り会話を楽しむカップルのように話が続いていくのです。枠にはめられた決まったことだけを発表し,原稿を読み終えたらおしまいの交流よりも,よっぽどアクティブだと思いませんか? 入学間もないこの時期の1年生にとっては学級全体で話すことよりも,少人数で「話す」,「聞く」という活動をより多く経験することの方が,言葉の習得を考慮した発達段階においては効果的です。その人数がペアならよりその回数は巡っていきます。 次に,グループ対話について思考ツールを使った授業で考えてみましょう。生活科において思考ツールを活用する授業は,学校現場で急速に広まってきています。中には思考ツールを使うことが目的になってしまい,学びが深まらないケースもあります。思考ツールの活用は,あくまで探究の一端に効果的なツール,つまり道具というとらえが必要です。 その成功例として,2年「思考ツールを活

ベンチトークの様子。子どもは隣の友達と十分におしゃべりしたら,ペアを換えて再び交流が始まります。

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用した遊びランド」の事例を取り上げます。4 ~ 5 人のグループを形成し,一人一人が気付きや思いを視覚化し,ホワイトボード上に付箋を使って子どもの思考を構造的に整理していきます。低学年の発達段階に考慮し留意した点は, ①� 思考ツールを使った活動に遊びの要素を含んでいること

 ②� 付箋に書く文字はマジックを使用して,なるべく短い言葉で示すこと

です。 条件を絞って実践していくことが成功の秘訣と言えます。①については,楽しくなければグループで行う必然性はないわけです。②については短いワードで表し,付箋を貼りながらその趣旨を声に出して対話を楽しみます。 子どもたちは遊びランドのキャラクターのキャッチフレーズを考えるのに,対話を楽しみながら簡単な言葉で交流し,成果物を完成させていきました。 グループでの対話を生かしてつくった学びの成果物に,自分の学びが存在していることが大切です。低学年の子どもは,自分の活動が中心で活動を肯定的に見る傾向が強く,自

己評価や自尊感情が高い傾向にあります。また,他者からの評価は,子どもの自尊感情の形成に大きな役割を果たします。子ども同士の肯定的な言葉の交流に裏付けられた対話と創作は,自分自身の理解においても効果的に働くので,ぜひチャレンジして実践してみてください。

グループ対話によってつくられた学びの成果物。一人の優れたものを選ぶのではなく,みんなと協働して一つのものをつくっていくことが大切です。

グループ対話がうまくいっているときのバロメーター。子どもたちの頭が自然に中央に寄っていきます。

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A3–2 教師からの能動的な対話で子どもの学びを 価値付けましょう。

 対話的な学びは,子ども同士だけとは限りません。教師の能動的な学びへの関与によって,子どもの学びはさらに深まります。 1年「通学路の秘密を見つけよう」の場面では,先生がグループで対話しているA子に近づき,A子の気付きに対し尋ね返して対話が始まりました。その様子は以下の通りです。

先生とA子の対話のやりとりA子:私が見つけたとっておきの秘密は,車は入っちゃいけない看板(標識)です。T :(カードの数字を指して)この数字は何なの?A子:「 7時30分~ 8時30分」は車は入っちゃいけないって意味だよ。T :どうして「 7時30分~ 8時30分」はダメなの?A子:だって私たちが学校に来る時間だからだよ。

 こうした先生からの尋ね返しによって,A子は探検で見つけた秘密(看板)という無自覚な気付きを音声言語として発することで,深まった自覚的な気付きとして自分の学びが価値付けられたのです。その学びの深まりの効果は,毎日通学してくる自分にとって意味のある看板として,生活に結び付けて考えることができたことです。子ども同士が対話をしているときの先生は休憩時間ではありませ

ん。対話中である子どもの思考の流れを見取り,「ここが深まる場面」と察知した場合は,「なぜ?」「どうして?」と対話に割って入ってください。なぜかというと,それに続く子どもの返答「だって〇〇だから」,「どうしてかというと〇〇だよ」の中の「〇〇」は,間違いなく一歩踏み込んだ深い気付きが期待できるからです。

子どもたちは,それぞれ自分が通学路探検で見つけた自分たちの安全を守ってくれる秘密をグループで対話しています。そこに担任の先生が近づいていって…。

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A3–3 自分自身で対話できる姿まで深めましょう。

 単元を進めていく過程で,対象とかかわってきた自分だけではなく,自分そのものが学ぶ対象に発展することがあります。対象との精神的な距離を縮めていくと,それに反比例するかのように対象に対する思いや願いはふくらんでいくのです。やがて学ぶ対象は,本来の身近な人々や社会,自然を超えた存在,つまり「対象とかかわってきた自分」になっていくのです。

  2年「やさいが大きくなったひみつを考えよう」の話し合いの授業では,「(育てていたトマトに)『大きくなってね』って言ったら,『いいよ』って言って大きくなったよ。」「僕なんか毎日(キュウリに)『がんばれ,がんばれ』って言ったら,どんどん大きくなったよ。」と,自分が育ててきた野菜との対話を楽しむ発言が数多く聞かれました。これはすなわち,野菜に向き合ってきた自分自身との対話なのです。 子どもは学びが深まってくると自己に問いかけるようになります。主体的に自己対話をしている状態は内的なアクティブになっているのです。要するにアクティブ・ラーニングとは,身体だけを使った目に見えやすい行動的な学びだけを指すのではなく,むしろ内的な思考を活発化する学びと言えます。 子どもは対象を自分に引き付け,「自分事」として働きかけていく存在です。低学年では,この子どもの特徴を最大限に発揮させ,学びを構想する必要があります。

【生活科でめざすアクティブ・ラーニングのPOINT3】・�目的や発達段階に考慮して,交流する人数に適した対話的な学びを実践することで深い学びに導く。

・�対話的な学びに教師が能動的に関与することによって,子どもの自分自身の学びは深まる。

対象とかかわってきたプロセスから自分が学ぶ対象へ高まっていくプロセス

対 象

対 象

対 象

対 象自 分

自 分

対 象

自 分

自 分

自 分

自 分

思い・願い

思い・願い

思い・願い

思い・願い

対象との精神的な距離を縮めていくと,それに伴って対象に対する思いや願いはふくらんでいきます。

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Q4 探究のプロセスの中で学びを深めるための指導の手立てを教えてください。

A4–1 単元の中で深めるためには,他教科との関連・活用を 意識しましょう。

 次世代がめざす学力は,知識を得ることだけを学習の目的にするのではなく,生きた知識や技能を獲得することです。「生きた」とは,すなわち習得したことが様々な場面で活用されてこそ,各教科で学んだ知識や技能は確かなものとなって身に付いていくことです。生活科を,知識や技能の習得をめざした教科ではなく,探究を主とした教科と考えて各教科との関係をとらえるならば,単元の中で他教科との活用場面を設定した方が,学びは深くなると想定できるでしょう。つまり,これからの生活科と他教科との関係は,関連という

並列的な単元間のつながりではなく,探究のプロセスの中にしっかりと他教科で習得した知識・技能を実際に使うような場面を組み込み,活用融合型の独立した単元を構想していくことです。探究を進めていくと,子どもは自分の考えを「相手にうまく伝えることができない」,製作活動が「思うようにいかない」など壁にぶつかることがあります。そんな場面で,国語科や図画工作科などで習得した知識や技能を使えたときに,学びは深まるのです。

オクラの葉っぱの特徴を伝えるのに,算数科で習得したものの長さの測り方を活用して答えます。

自分が捕まえて,自分で飼育して大好きになったコオロギを子どもたちはよく見て描きます。その際に図画工作科で習得した色の濃淡を使って細かな色を表現できたとき,教科教育の有用感を感じ,かつ学びも深まるのです。

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A4–2 45分の授業時間の中で, 子どもの思考を揺さぶってみましょう。

 単元の中の 1授業時間45分の学級対話では,子どもたちの気付きや思考を広め,さらに深めていくような交流活動を意識することが大切です。学習課題を設定する際の留意点として,学級全体に共通体験が保証されていたり,課題に対して必要感を高めたりすることがあげられます。そこに低学年の発達段階と生活科の学びの特質を加味し,さらに深い学びに導くためには,子どもの心情を「揺さぶる」ことが大切になってきます。  2年「ダイコン祭りを成功させよう」の実践から,子どもの思考が揺さぶられ,深い学びに発展していく様子を見てみましょう。  9月当初,子どもたちは芽が出たダイコンに心が動かされます。愛情をこめて育てていくため,ダイコンに名前をつけます。それから数週間,ダイコンづくりの先生である地域の農家の方から「そろそろ間引きしないといけないぞ」と聞きつけます。「間引きって何?」からその意味を知り,子どもたちは驚愕の声

を上げます。今まで自分の家族のように育ててきたダイコンを,1本だけ残してあとはすべて抜くなんてできっこありません。 そこで学級の話し合いの授業「今まで大切に育ててきたダイコン! 間引きをするか? しないか?」を設定したのです。黒板に「する」を左,「しない」を右,まん中に「まよいちゅう」として数直線で示し,自分の考えをネームプレートで貼っていきます。学級全体の思考がどこにあるのか,視覚化を図った上で学級全体の対話が始まりました。最初はほとんどの子が「しない」のところに置きます。ところが,「間引きをしないとこんな小さくて細いダイコンになってダイコン屋さんが開けなくなります」と写真を示した子どもの発言をきっかけに,特に「しない派」から驚きの声が上がり,再び子どもたちの思考が揺れ始めてきました。それぞれの思いや考えを十分に話し合った後,実践者の先生は,ネームプレートの位置を変えてもよいことを子どもたちに告げます。ほとんどの子が席を立ち,自分の考えの変化を位置付けていきます。学級全体としては,「まよいちゅう」も含め,やはり左に傾きました。それでも,右のまま「絶対に間引きはしない」と言っている子だっています。この授業の正解はどちらでしょう? これは,どちらかが正解の話し合いではなく,自分の思いや考えを表出し,友達ととことん話し合って,比較,分類,関連付けて,十分に思考を深めて出した自分の答えが正解なのです。子どもの心情を揺さぶって,自分の気付きや思考を深めた質の高い学

「間引きするか? しないか?」白熱の話し合いを展開する子どもの様子と板書。

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級対話と言えます。

A4–3 学んだことの成果は単元を学んだ後,生活の中で深め 学びの生活化を図りましょう。

 生活科とは文字通り「生活を科学する教科学習」であります。子どもは自分の生活の中から身近な対象,すなわち人やもの,自然とかかわって学びを深めていきます。それは単元の中で実現できる学びと言えます。ここで留意したい点は,前述した「育成したい資質・能力の三つの柱の中の学びに向かう力・人間性」との関係です。そこには,「学びを人生や社会に生かそうとする」とも記されています。新しい教育課程では,単元が終わってからリセットされる学びではなく,学んだことを通して,生き方に役立てたり,社会に働きかけ

たりする姿まで学びを方向付け,ひいては人間性を高めていくところまで要求されているのです。これを生活科に置き換えて考えてみると,学んだことを自分の生活に還していく,まさしく学びと生活の好循環が求められているのではないでしょうか。家族単元が終わっても,しっかりと自分の役割を心得,家庭生活で実践できる。生き物を育てた後も命の尊さを実感して自分でも生き物を育てようとする。要するに,学んだことを“実生活の中で生活化する”ことで,時代が要求する子どもの姿に応えていけるのです。

【生活科でめざすアクティブ・ラーニングのPOINT4】・�探究のプロセスの途中,壁に直面したとき,それを乗り越えるために必要なのは,他教科で学んだ力。

・�自分の心が揺さぶられながらも一生懸命考えて絞り出した答えは,やっぱり“深い”。

・生活科を“生活化”する。

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Q5 新しい教育課程ではカリキュラム・マネジメントが必要だと言われていますが,アクティブ・ラーニングとも関係がありますか?

A5 大いに関係ある視点です。生活科なりの役割と存在意義を示し, 学校カリキュラムとして位置付けていくことがマネジメントを 成立させるポイントです。

 アクティブ・ラーニングと並んで新しい教育課程のキーワードとされるのがカリキュラム・マネジメントです。また,その関係は,それぞれが独立して遂行するものではなく,連動して進めていくことが大切です。学校カリキュラムにおける生活科の果たす役割とその意義について考える場合,教科としての特徴を整理してみる必要があります。例えばそれは, ・低学年に位置付けられた教科であること ・�各教科との融合が期待できる合科的な教科であること

です。 これらのことから言えることは,幼児教育との連携・接続においての役割は明確でしょう。特にスタートカリキュラムの開発,実践においてはその中心的な役割として期待されています。それは同時に,生活科でめざす子

どもの育ちには,何もない 0(ゼロ)からのスタートではなく,5歳児までに育まれた資質・能力を見定め,それを小学校で伸ばしていくカリキュラムの創造が求められているのです。さらには,学校カリキュラムをマネジメントするならば,生活科で育んだ資質・能力を3学年以降につなげて,系統的に示していく使命も担っています。 その役割を果たすのに鍵を握るのがアクティブ・ラーニングの実現だととらえています。アクティブ・ラーニングの考えは義務教育,高等教育,大学教育でめざす学習方法で,幼稚園は含まれていません。なぜでしょうか? 幼稚園はそこをめざさなくとも,最初からアクティブだからです。つまり,園児の生き生きとした姿を,小・中・高とつなげていく素地になるような役目を生活科は担っていると言えます。

【生活科でめざすアクティブ・ラーニングのPOINT5】・�カリキュラム・マネジメントの実現は,アクティブ・ラーニングと連動して行う。

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加納誠司の教室探訪

 茨城県ひたちなか市立堀口小学校 1年「あきとなかよし」 

 教室探訪のコーナーです。ここでは筆者が全国各地の優れた生活科実践を求めて直接教室を訪れ,読者の皆さんへ明日

への授業のヒントになるよう紹介していきます。

 私がおじゃました学校は,茨城県にあるひたちなか市立堀口小学校です。 1年「あきとなかよし」の実践から,本書で論考してきた生活科でめざすアクティブ・ラーニングの視点を織り交ぜて,堀口小学校の先生方の授業への取り組みと子どもたちの学びのストーリーを追っていきましょう。

STAGE1 遊びを核として,長いスパンでじっくり深める

 学びを深めるためには,連続的に展開される生活科の単元のプロセスの中で,学びを継続的に高め深めていく必要があります。そのためには,ある程度の長いスパンでの学びと育ちが必要となってくるでしょう。ときには単元と単元をつなげて,子どもの資質・能力を育んでいくような大胆な単元構想も効果的です。それをつなぐ要素として,堀口小学校

が意識しているのは,幼児教育からの連携・接続を意識した遊びを核としたカリキュラムデザインでした。秋から遊びを始めるのではなく,春から夏へ,そして秋へと単元をつなげ,子どもたちがもともともち合わせている「遊べる」という資質・能力をいかんなく発揮させていったのです。

夏のシャボン玉遊びです。子どもたちは,それぞれの道具や方法で自分のつくりたいシャボン玉を表現していきます。

春の公園探検です。子どもたちはもともと遊び名人。体全体で春を感じ,学びの姿に表現していきます。

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STAGE2 カードや板書を活用して子どもの学びを見える化する

  2学期に入り,いよいよ「あきとあそぼう」の単元に入っていきます。メインとなる活動は,自然物を利用したおもちゃをつくって遊び,さらには地域の保育園の園児を招いての秋祭りの開催です。そこに導くプロセスは,学校や地域の秋と十分に触れ合って,気付いたことを取り溜めていき,秋のよさを生かしたおもちゃづくりへ,子どもたちの思いや願いを達成するような園児との交流にしなければいけません。堀口小学校の先生方がどのような支援をして,学びを深めていったのか見ていきましょう。

【遊びの魅力をつなげる振り返りカード】 生活科における遊びと幼児教育との違いは,無自覚である活動を自覚化させることです。そのための教師支援として,子どもが体験を通して感じたこと,気付いたことを記録していく振り返りカードは有効です。平成28年度の 1年生の担任である斉藤育子先生が作

成した「はっけんカード」には「いろ,かたち,おと,なきごえ……」など,諸感覚のどこを発揮させてそれを見つけたのかわかるようになっていたり,見つけたときの感動体験を子どもの言葉で記録させたりする工夫がなされています。

誌面ではわかりづらいかもしれませんが,実はカードは4色に分かれていました。自ずと子どもは,すべての色を自分のファイルに保存したくなり,書く意欲につながっていきます。教師のほんのちょっとの工夫で,子どもの思考や気付きの広がりに発展するのです。

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【学級全体の学びを構造化する板書】 学びの見える化において,もっとも有効な教師支援は板書だと考えます。前時までの子どもの思考をとらえ,ある程度の授業プランニングの想定をし,子どもの発言をもとに,ただ順列的に記録するのではなく構造的にまとめていくのです。写真に示した板書からは,学習課題の焦点化,子どもたちの対象への思い,これまでの学びへの肯定的な振り返

りと次時への方向性など,1時間の思考の流れが整理されている様子が伝わってきます。

STAGE3 園児との触れ合いを通して,自分の学びに手応え感を得る

【あきまつり,当日の様子と子どもたちの振り返りでの言葉やつぶやき】

 いよいよ地域の園児を招いての「あきまつり」の実践へと展開していきます。 2学期の秋単元は,園児との交流にも最適な時期と言えます。子どもの思いとしては,当然園児を楽しませたいというものが根底にあるのですが,実はそこで楽しそうに遊ぶ園児の姿は,自分への学びの最大の評価なのです。子ども

は自分がしっかりと学んできたことの手応え感がほしいのです。まとめただけで終わるのではなく,教室だけでは味わえない生活の場面で,自分の学びや育ちを実感する学びを設定しましょう。

みんなが楽しく遊んでくれた。保育園の子の笑顔がとってもうれしかった。

保育園の子がすごく上手だよ。(葉っぱでつくった)魚を40匹も釣っていたよ。

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番外編 子どもの学び育ちを支えた学校カリキュラム

1 全校児童が虫網をもって登校する日 堀口小学校では,全校児童が虫捕りに没頭する「虫キング大会」の日を設定しています。学校や地域の環境を生かして,日ごろから自

然に親しんでいるからこそ,1年生の子どもたちは,すぐに生き物や植物と仲良くなれるんだと確信しました。

2 子どもの学び育ちを支えるチーム学校 本単元を進めるにあたって,地域の人たち(主に高齢者)と一緒に自然物を利用した作品づくりを経験しています。昔の人にとっては当然のように遊んでいたことでも,今の子どもたちは知りません(たぶん親の世代も)。そんな魅力ある遊びを今の時代で終わらせてしまってはもったいない。時代は変わっても子どもが変わったわけではありません。子どもたちは作品づくりにすぐに夢中になり,や

はりこの経験も「あきとあそぼう」の実践に生かしていったのです。 これからの学校教育がめざすチーム学校の理念は,学校の先生だけに子どもの成長を押しつけていません。地域の財産を有効に活用して,地域一体となって,みんなで質の高い学びと子どもの健やかな育ちを保証していくものです。堀口小学校にはすでにその文化が根付いています。

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おわりに「生活科?」それって,「やっぱり! アクティブ・ラーニングでした !!」

 今回改めて,新しい学習指導要領がめざす学習方法「アクティブ・ラーニング」の理念に照らし合わせて,これからの生活科の学びの在り方を示してみました。新学習指導要領の方向性を研究の入り口としながらも,論考の拠りどころとなったのは,私が日ごろよりお世話になっている学校現場の子どもの姿,先生方の指導法でした。スタンスとしては,「再考する必要があるな」と研究を進めたのですが,その視点はまったく必要ありませんでした。なぜでしょうか? 質の高い生活科の実践は,今のままで十分にアクティブ・ラーニングが求める要素を満たしているからです。私がかかわった子どもたちは,大人にやらされるのではなく自分からどんどん学びを主体的に進めていくし,学びが自分事になったら必ず周りを巻き込んで対話的な学びにしていくのです。そこに実践者の心のこもったエッセンスが加わり,学びは確実に深まっていくのです。

 確信しました。やっぱり! 生活科はアクティブ・ラーニングでした ! !

 要するに,新しくなる教育改革の動向に惑わされることなく,これまで生活科が築いてきた理念や考え方を,次の世代へと発展的につなぐことがアクティブ・ラーニングを実現させるポイントなのです。 生活科を愛して止まない先生方に期待します。ぜひ,時代が求めるアクティブ・ラーニングの先導として,学校教育を引っ張って

いってください。本書を手に取るだけで,その資質・能力を備えた先生なのですから。

 最後になりましたが,教室探訪のコーナーでは,お忙しい中お話を伺わせていただいたり,資料を提供してくださったりして,私の知的好奇心にお付き合いくださいました,ひたちなか市立堀口小学校の石井嘉紀校長先生,斉藤育子先生に心より感謝の意を表しまして,本書を閉じたいと思います。

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【主な参考文献】

◇教育課程部会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」文部科学省 2016年

◇無藤隆「学習指導要領に向けた様々な動向」「初等教育資料4月号」東洋館出版社2016年

◇野田敦敬代表「生活科で育った学力についての調査研究(2013)」 学会誌「せいかつか&そうごう」第22号 日本生活科・総合的学習教育学会 2015年

◇奈須正裕編著「教科の本質から迫る コンピテンシー・ベイスの授業づくり」図書文化 2015年

◇加納誠司「アクティブ・ラーニングの視点で授業づくり 体験学習 ―体験の充実がアクティブ・ラーニングの実現を促進する」「授業力&学級経営力」1月号 NO.70 明治図書 2016年

◇市川伸一「目指すべきアクティブ・ラーニングとは」「初等教育資料」4月号 東洋館出版社 2016年

◇藤井千春「アクティブ・ラーニング 授業実践の原理 迷わないための視点・基盤・環境」明治図書 2016年

◇加納誠司「児童前期における生活科から総合的学習への接続・発展を図る研究―2年生・3年生の実践分析からのアプローチ―」 学会誌「せいかつか&そうごう」第23号 日本生活科・総合的学習教育学会 2016年

◇加納誠司・菅沼敬介「次世代型学力を見据えた生活科で育む学びに向かう力の研究」愛知教育大学教職キャリアセンター紀要第1号 2016年

◇加納誠司「振り返りと交流を意識し自分自身の理解を深める生活科―自己の学びや育ちを肯定的にとらえることを中心に―」 学会誌「せいかつか&そうごう」第22号 日本生活科・総合的学習教育学会 2015年

【ご協力いただきました学校】 ◦刈谷市立小高原小学校 ◦多治見市立小泉小学校 ◦高浜市立港小学校 ◦刈谷市立富士松南小学校 ◦安城市立明和小学校 ◦西尾市立吉田小学校 ◦ひたちなか市立堀口小学校

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 平成8年度より愛知県刈谷市において小中学校の教員を11年間勤める。平成16年度,現職教員派遣で愛知教育大学大学院学校教育専攻生活科教育領域に進学,平成17年度修了。平成19年度から中部学院大学講師,24年度から同校准教授を経て,平成27年度から現職。日々,現場の子どもの姿,子どもに直面する教師の姿に学ぶという姿勢で実践的な授業研究に取り組んでいる。最近の主な研究テーマは生活科・総合的な学習の時間を中核とした探究的な学習と教科等との活用場面を生かしたカリキュラム開発や幼小中の一貫教育,子どもが主体的に学ぶための学びの発動力や自分のよさや可能性に気付く自己肯定感の育成などを反映した学校教育の創造。 日本生活・総合的学習教育学会常任理事および事務局員。【主な著書論文】・「子どもが生きる授業が生きる新しい生活科がめざす道」(2010年大日本図書)・「児童前期における生活科から総合的学習への接続・発展を図る研究―2年生・3年生の実践分析からのアプローチ―」(2016年日本生活科・総合的学習教育学会学会誌「せいかつか&そうごう」第23号)

【表彰】学会誌「せいかつか&そうごう」第18号掲載論文「言葉の力を発揮し豊かに表現する生活科授業の創造」において,日本生活科・総合的学習教育学会第9回研究奨励賞受賞(2011年)

著者・プロフィール

加 納 誠 司 (かのう せいじ)愛知教育大学 准教授

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