大石研究室 – 明治大学大学院経営学研究科 グローバル...

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経営学研究論集 36号 20122 各文化における GBI戦 ―― Hofstedeの 文化次元を用 いた理論的考察―― Global Brand lmage Strategy in e A Theoretical Study with Hofstede's Cu 博士前期課程 経営学専攻 2010年 度入学 FURUKAWA Hiroyas 【論文要 旨】 ⅣIanaging a brand image is one of fundamental marketing a tained and managed a brand image for a long tilne.This the strategies inds out the effective brand image strategies in ea multinational arms the key to expand their business intern At irst,this article looks through the issue from the vie、 v of``global brand image st shoM″ s the point of this study.After that,this article focuses o ture.They suggest Hofstede's cultural dilnensions are usef vs ettective global brand image strategies in each national c present signincance and liFnitations of this study and discuss 【キーワード】 Global Brand lmage Strat怪 ,Cultural Dimensions,Hofstede,Glo Iultinational Firm I.は じめ に .文 化研究の変遷 l Hofstedeの 文化研究 2.1980年 以降の文化研究 (1)Chinese Value Survey(CVS) 論文受付 日 2011年 10月 3日 大学院研究論集委員会承認 日 2011年 11月 9日 -57-

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  • 経営学研究論集

    第36号 20122

    各文化におけるGBI戦略

    ―― Hofstedeの 文化次元を用いた理論的考察――

    Global Brand lmage Strategy in each Culture:

    A Theoretical Study with Hofstede's Cultural Dimensions

    博士前期課程 経営学専攻 2010年度入学

    古 川 裕 康FURUKAWA Hiroyasu

    【論文要 旨】

    ⅣIanaging a brand image is one of fundamental marketing activities.The lnarketers have lnain―

    tained and managed a brand image for a long tilne.This theoretical study on global brand image

    strategies inds out the effective brand image strategies in each national culture.This study brings

    multinational arms the key to expand their business internationally.

    At irst,this article looks through the issue from the vie、 v of``global brand image strategy"and

    shoM″s the point of this study.After that,this article focuses on preceding studies of national cul‐

    ture.They suggest Hofstede's cultural dilnensions are useful even now.Then this article sho、 vs

    ettective global brand image strategies in each national culture. Finally, the author reveals the

    present signincance and liFnitations of this study and discusses the implications for further study.

    【キーワード】 Global Brand lmage Strat怪 Ⅳ,Cultural Dimensions,Hofstede,Global Marketing,

    ⅣIultinational Firm

    I.は じめに

    Ⅱ.文化研究の変遷

    l Hofstedeの 文化研究

    2.1980年以降の文化研究

    (1)Chinese Value Survey(CVS)

    論文受付日 2011年10月 3日 大学院研究論集委員会承認日 2011年 11月 9日

    -57-

  • Ⅲ .

    (2)Schwartz value Survey

    (3)Trompennarsの 文化概念 とGLOBE調査

    (4)ヽVorld Values Survey(ヽVVS)

    各文化における GBI戦略

    1.GBI(グ ローバル・プラン ド・イメージ)戦略

    2.Hoおtedeの文化次元 とGBI戦略

    (1)権 力格差

    (2)個 人主義―集団主義

    (3)男性らしさ―女性らしさ

    (4)不確実性回避

    (5)長期志向―短期志向

    (6)気 ままさ―自制

    おわりに

    I.は じめに

    日本の製造業の多くが,こ れまで製品の品質や機能性の向上に競争優位の源泉を見い出し,高品

    質 高機能の製品を消費者に提供してきた。しかし企業の国際的な活動の増加に伴い,市場に多様

    な消費者が出現することで,こ のような努力が必ずしも結実しないという現実が生じている。日本

    企業の高品質・高機能依存は,国際展開を行う上での障害になる場合がある。経済新興国では,消

    費者は必ずしも高品質・高機能を必要 としておらず,品質や機能を削ぎ落としてでも彼らの所得に

    見合った価格の製品やサービスを指向する傾向がある1。 またい くつかの経済先進国では,高品質

    ・高機能はもはやあたりまえの事 と捉えられており,消費者はそれ以上の価値を求めているのであ

    る。

    以上の問題点を踏まえ,筆者はこれまで多様なグローバル・プラン ド・イメージ (以下,GBI)

    戦略を提示し,ど のような経済発展度の国に,ど のような GBI戦略が最も有効に作用するのかを

    理論的な観点から明らかにしてきた (図 1)2。 その結果,GBI戦略の各国・各地域における有効性

    を,経済発展度のみで説明することには限界があり,「各文化における戦略の有効性」を検討しな

    ければ,包括的な国際戦略モデルを構築することができないことを確認した。

    たとえば日本貿易振興機構による2011年の「省エネ意識 と購買行動Jに関する調査では,タ イ

    の消費者は環境配慮意識が高いという事が明らかになっている3。 このことから,タ イの消費者に

    l Prahalad and Lieberthal(1998), 邦司R, p 128.

    2古川 (2010),古 川 (201la,201lb)を 参照のこと。3日 本貿易振興機構 (2011),161196頁 。

    Ⅳ .

    ―- 58 -―

  • 経済発展度

    集団訴求型

    品質訴求型

    unit鋼

    50′ 000

    45,000

    40′ 000

    35′ 000

    30,000

    25,000

    20′ 000

    15′ 000

    10,000

    5′000

    0

    出所 :古川 (201lb),144頁。

    図 2 -人あたりの名目GDP推移 (日 本とタイの比較)

    ――Japan

    ― Tha‖ and

    〓丁丁一 

    一TI一

    一 

    一 

    一I可一

    ごごごずごびぴごぴずがSSSがSSがずがずSSvear出所 :IMF World EcOnomic Outlook,April,2011を 基に筆者作成。注 :GDP is expressed in current■T S dollars per person Data are derived by ttst cOnverting GDP in national

    currency to U S dollars and then dividing it by total population 2010年 以降の値 |ま 予測値。

    は他者や環境への貢献イメージをもたらす「社会貢献訴求型Jの GBI戦略が有効に作用すること

    が想定される4。 しかし経済発展度 とGBI戦略の関連性を考慮した古川 (201lb)の 理論では,社

    会貢献訴求型は経済発展度が高い国で有効に作用することを表している (図 1)。 ここで日本 とタ

    イの「一人あたりの名 目GDP」 を比較 してみても,タ イの経済発展度は決して高いとは言えない

    (図 2)。

    このことから,古川 (201lb)の理論のみでは GBI戦略の有効性を説明できないことが確認で

    きる。類似した経済発展度の国々においても,文化差によって有効な GBI戦略は変化する。その

    ため企業は進出国の経済発展度だけでな く,文化も考慮に入れた上で,多様な GBI戦略を消費者

    4社会貢献訴求型とは,他者への貢献イメージであり,プ ランドの消費による社会や環境への貢献を訴求する

    ものである。詳細は古川 (201la)を参照されたい。

    ―- 59 -―

  • へ訴求する必要があるのだ5。 本論は,各文化における GBI戦略の有効性を理論的に検討し,上述

    した限界に取 り組むことを目的 とする。経済発展度だけでな く,文化 とGBI戦略の関係性を考慮

    することで,包括的な国際戦略モデルの構築が期待される。

    Ⅱ.文化研究の変遷

    本論では Hoおtede,Geert(以下,Hofstede)の 文化次元を用いて,各文化における GBI戦略の

    有効性を検討する。彼の文化次元は強固なものとして捉えられており,グ ローバル・マーケティン

    グの分野でも用いられてきた6。 また彼の文化次元は現代的有効性も高 く, これまでに多様な分野

    の研究で数多 く引用されている。その理由を文化研究の変遷 と共に以下で述べる。

    1.Hofstedeの 文化研究

    Hofstedeは 文化を「ある環境下における人々の,集合的な心のプログラムJと定義している7。

    そのうえで彼は1968年から1978年にかけて,全世界の11万 6000人 を超える IBM社員を対象に調

    査を行い,文化差異を分析した。その結果 ,「 権力格差」,「個人主義―集団主義」,「男性らしさ一女

    性 らしさ」,「不確実性の回避」 といった 4つの文化次元を抽出した8。 彼の抽出した 4つの文化次

    元はその後,主に社会科学の分野における国際的な研究に多 く用いられた9。 しかしその一方で ,

    1960年代から70年代にかけて行われた彼の文化次元は古 く,その現代的有効性が間われている。

    また彼の研究では,サンプルの多くがマーケティングとサービス部署における男性から抽出されて

    いる。そのため,男女比や組織が異なった場合でも同じような結果が抽出されるのかといった事も

    疑間視されている10。 そこで次項よりHofstedeの 研究が発表された1980年以降の文化研究を追い

    ながら,こ の問題を検討してい くことにする11。

    2.:980年 以降の文化研究

    (1)Chinese Va!ue Survey(CVS)

    1980年代までに行われていた文化研究や価値観研究は ,

    作成されていたことが問題であった12。 Bond,Michael H.

    被験者に対する質問票が西洋人向けに

    (以下,Bond)は 1980年代末,東洋人

    5本論で用いる文化とは,国民文化を表す。6 Hl。。ij(1998),pp.91-92,Mool (2004),pp.36-46,Hofstede,et al.(2010),pp 409-412

    7 HOfstede(1980a),p.43

    8 Hofstede(1983),pp 75 85,Hofstede,et al(1990),p.288,Hofstede(1991),邦訳,13-147頁 。なお,そ

    れぞれの次元については本論の後半で説明する。9M0011(1998),pp 91-92,Smith and BOnd(1998),邦

    訳,55頁 ,MooJi(2004),pp 45-46,Hofstede,et al

    (1990),p.288.Ю Smith and Bond(1998),邦 訳,55頁。n彼の研究が良く知られるようになったのは,HOfstede(1980b)が 公干Jさ れてからである。

    ―-60-

  • 宣けに質問票を改定することでこの問題を解消し,世界23カ 国の学生,約2300人 を対象に価値観

    調査を行った 13。 この改訂された質問票による調査は Chinese Value Survey(CVS)と 呼ばれてい

    る。そして CVSを行った結果,4つの次元が抽出された。それらは「道徳的規律」,「統合」,「人

    雪らしさ」,「儒教的ダイナミズム」である14。 その後,Bondと Hofstedeが 共に CVSを分析 した

    結果,「道徳的規律 (CVS)Jと「権力格差 (Hofstede)」 ,「統合 (CVS)」 と「個人主義―集団主義

    Hofstede)」 ,そ して「人間らしさ (CVS)」 と「男性 らしさ―女性 らしさ (Hofstede)」 のそれぞ

    71の次元に関連性があることが確認された15。 なお CVSで抽出された残 りの次元である「儒教的

    ダイナミズムJは ,東洋だけでな く西洋の思想においても認識されている16。 それにもかかわら

    ず,従来の HofStedeに よる文化次元では説明できなかったため,Hofstede(1991)は これを「長

    期志向―短期志向」 と命名し,5つ 目の次元 として新たに採用した17。 cvsの調査は Hofstedeの 調

    査と実施時期が異なるだけでなく,男女の割合,そ して異なるサンプルを対象 としている18。 それ

    にもかかわらず,「不確実性回避」以外の次元が重なり合っていたということは特筆すべきことで

    ある。

    (2)Schwartz value Survey

    イスラエルの心理学者である Schwartz,Shalom H.(以 下,Schwartz)は ,1988年 から1993年

    にかけて世界49カ 国 (1カ 国につき約122人 ),6年間で約 3万5000人を対象とした価値観調査を行

    った19。 その結果,彼はまず個人レベルの価値観 として10の次元を抽出した。そしてその後,彼は

    文化レベルに研究をまとめ,10あ った次元を 7つの次元に集約した20。 それらは「保守主義」,「感

    情的自律J,「知的自律J,「階層性」,「平和主義的コミットメン ト」,「支配」,「調和」である。なお ,

    Schwartzに よる文化レベルの 7次元 とHofstedeに よる4つの文化次元 (「長期志向―短期志向」

    を含まない)を比較分析した場合,すべての次元において関連性が確認されている21。 それぞれの

    対応は「保守主義 (Schwartz)」 と「集団主義 (Hofstede)J,「 感情的自律 (Schwartz)」 と「個人

    主義 (Hofstede)」 ,「知的 自律 (Schwartz)Jと 「 弱い不確実性回避 (Hofstede)」 ,「 階層性

    (Sch■vartz)Jと 「大きい権力格差 (Hofstede)J,「平和主義的コミットメン ト (SChwartz)Jと

    12本論では,価値観を「個人が持つ物事の評価軸」 と定義する。なお文化 とは「それぞれの価値観を社会的集合 として見た時に,表れる傾向Jを示す。

    13 Hofstede and Bond(1988),p15,Hofstede(1991),邦訳,172173頁 。

    14 Hofstede(1991),邦 訳,174177頁 。15 Hofstede and Bond(1988),p15,Hofstede(1991),邦

    訳,173177頁 。16 Hofstede(1991),邦 訳,176頁。17 Hofstede,et al.(2010),pp.37-38.

    18 sm■ h and Bond(1998),邦 訳,57頁。19 Schwartz(1999),pp.30-32

    20 schwartz and Bardi(1997),pp 385-410,Smith and Bond(1998), 邦訳, 60頁 , Schwartz(1999),p.23

    21 smith and BOnd(1998),邦 訳,66頁 ,Mool(2004),p.39,Hofstede,et al.(2010),p.41.

    -61-

  • 「 小 さい権力格差 (Hoおtede)J,「支配 (Schwartz)」 と「男性 らしさ (Hofstede)J,「 調和

    (Schwartz)」 と「女性らしさ (Hofstede)」 である22。 このように Schwartzの 文化研究では,Hof‐

    stedeの 文化次元に対応する次元が確認された。

    (3)Trompennarsの 文化概念と GLOBE調査

    オランダの Trompenaars,Fons(以 下,TrOmpenaars)は ,1950年 代から1960年代におけるア

    メリカの社会学者達によってもたらされた概念的な区別を用いて 7つの文化次元を提示した23。 そ

    れらは「普遍主義―個別主義J,「個人主義―共同体主義」,「関与特定的―関与拡散的」,「感情中立的―

    感情表出的」,「達成型地位―属性型地位J,「内部志向―外部志向」,「時間志向性」である24。 そして

    彼は1980年代後半から1990年代前半にかけて,50か国の会社員,約 3万人を対象に,こ の文化次

    元に関するデータを収集した25。 TrOmpenaarsの 文化次元を実証しようとした研究は少ないが,そ

    の一つにおける Smith and Dugan(1996)|こ よる分析では,Trompenaarsの 「個人主義―共同体主

    義Jと HofStedeの「個人主義―集団主義」における関連性が確認されている26。

    その後,1994年 から1997年にかけて,Hoおtedeの文化研究 と関連性の深い GLOBE調査が行わ

    れた。この調査はアメリカの House,Robert J.(以 下,House)|こ よるもので,世界62カ 国の食品

    加工業,金融,通信サービス業における951団 体のミドルマネージャー,約 1万 7000人のサンプル

    を対象 としたものである27。 GLOBEと は,Global Leadership and Organizational Behavior Ettc―

    tivenessの略であり,文化がどのように組織のリーダーシップに影響するかについての分析を目的

    としてぃた28。 また Houseは GLOBE調査を基にして, リーダーシップに焦点を充てた分析だけ

    ではな く,国家や組織の文化に関する分析も行っている。GLOBE調査は Hoおtedeの 5つの文化

    次元を拡張するため,ま ず 9つの次元を理論的に導出した29。 またこの 9つの次元は「慣習」 と

    「価値観」 といった 2つの側面に分類され,最終的に18の次元にまで細分化された。9つの次元 と

    は,「権力格差」,「不確実性回避」,「制度的な集団主義J,「排他的な集団主義」,「 自己主張的」,

    「性別平等主義」,「将来志向」,「人間性志向」,「成果志向」である30。 そして,こ の18の次元を基

    に実証が行われた。Hofstede(2006)は ,GLOBE調査の結果 と彼自身の文化次元の関係を定量的

    に分析 している。その結果,両者の研究結果に強い関連性を確認 している。GLOBE調査は Hof―

    22 smith and Bond(1998),邦訳,66頁。

    23 smith and Dugan(1996),p.235

    24 TrOmpenaars and Hampden―Turner(1997),邦訳,50271頁。25 TrOmpenaars and Hampden―Turner(1997),邦訳,23頁 。26 s.lith and I)ugan (1996),pp.249-250.

    27 HouSe,et al.(2004),pp.1122.

    28 HouSe,et al.(2004),p.9.

    29こ こで考慮された Hofstedeに よる 5つの文化次元は,「権力格差」,「個人主義―集団主義」,「男性 らしさ―女

    性らしさJ,「不確実性の回避」,「長期志向―短期志向」である。30 HouSe,et al.(2004),pp ll-14.

    ―- 62 -―

  • stedeの文化研究から約25年後に実施されたものであり,かつ質問票も回答者も異なる。しかし,

    GLOBE調査の結果は Hoおtedeの「男性らしさ―女性 らしさ」次元を除いたすべての文化次元を強

    く支持するものであった。GLOBE調査は Hofstedeに よる文化研究の理解をさらに深めることに

    貢献している。

    (4)Wo‖ d Values Survey(WVS)

    世界中の社会科学者や企業が協力して行う大規模な価値観調査が World Values Sun7ey(wvS)

    である。WVSは アメリカの Inglehart,Ronaldに よって組織されており,1981年 から2008年 にか

    けて 5回 の世界的調査を行っている31。 これまでに世界90カ 国 (1カ 国につき約1000サンプル),

    約25万 7000人を対象にデータが収集された。WVSは ,環境,経済,教育,人々の感情,家族,性

    別,性的関心,幸福,健康,余暇,友情,モラル,宗教,社会,政府 と政治,仕事 といった多岐に

    わたる人々の価値観を調査しており,調査結果を Web上で公開している32。

    ブルガ リアの Minkov,Michael(以下,Minkov)は 2007年 ,WVSの 膨大な調査結果を詳細に

    分析することで 3つの文化次元を抽出した。それらは「排他主義―普遍主義」,「物質主義一謙虚さ」,

    「気ままさ―自制Jである33。 Minkovは その後,Hofstedeと 共に文化研究を行い,「排他主義―普遍

    主義 (Minkov)」 と「集団主義一個人主義 (Hofstede)J,ま た「謙虚さ―物質主義 (Minkov)」 と

    「長期志向―短期志向 (Hofstede)Jの 関連性を確認した34。 しかしMinkovの「気ままさ―自制」の

    次元は,Hofstedeに よる 5つ の文化次元では説明のできない要素であった。そのため Hofstede,

    et al.(2010)は ,6つめの文化次元 として「気ままさ一自制」を採用 した。また,Hofstede and

    Minkov(2010)は WVSのデータを用いて,Hofstedeに よる「長期志向―短期志向」の国家スコ

    アを更新することに成功した。これまでの「長期志向―短期志向」は,23カ 国の国家スコアしか得

    られていないことが問題であった。 しかしHofstede and Minkov(2010)に よって93カ 国の「長

    期志向―短期志向」スコアが得 られるようになった35

    以上,1980年 以降の文化研究を追ってきた。これまでの文化研究は Hofstedeに よる文化研究の

    成果と矛盾するものではなく,む しろ彼の文化次元を維持し,拡大してきている。彼の文化次元は

    時代 と共に進化してきた。このことからHofstedeに よる文化次元の現代的有効性が確認できる。

    さらに Hofstedeは 時代による文化の変化について次のように述べている。「仮に文化が変化 して

    31第 1回 :1981-1984年 ,第 2回 11989-1993年 ,第 3回 :1994-1998年 ,第 4回 :1999-2004年 ,第 5回 :

    2005-2008年 。なお現在,2010年から2012年にかけた価値観調査が進行中である。WVS web page,http:〃

    ―WOrldValuessurvey org/(2011年 8月 1日最終アクセス)

    32調査結果は WVS web page,http:〃 www.worldvaluessurvey.org/(2011年 8月 1日最終アクセス)に掲載さ

    れており,誰でもアクセス可能である。33 h/1inkov and Hofstede(2011),pp 15-16,Hofstede,et al (2010),pp 44-45

    Hofstede,et al(2010),pp.44-45

    Hoおtede,et al.(2010),pp 252-254,Hofstede and Minkov(2010),p449

    -63-

  • いたとしても,その変化はすべての国々において一斉に発生しており,文化スコアの相対的な位置

    は無傷である」36。 このことは,Hofstede自 身が第二者による客観的かつ実測的な指標を用いて確

    認している37。

    Ⅲ.各文化における GBl戦略

    前節で述べてきた通 り,Hofstedeの 文化次元は現代的有効性が高 く,強固な文化次元である。

    さらに彼の文化次元は,グ ローバル・マーケティングのための分析でも有用であるとされてい

    る38。 そこで本節では Hofstedcに よる 6つの文化次元 (「権力格差」,「個人主義―集団主義」,「男

    性 らしさ―女性らしさJ,「不確実性の回避」,「長期志向―短期志向」,「気ままさ―自制」)を用いて ,

    各文化における GBI戦略の有効性を検討する。

    |.G Bl(グ ローバル・プランド イメージ)戦略

    古川 (2010)は ,Park,et al.(1986)が 提唱し,Roth(1992,1995a,1995b)が 実証を行った

    過去の「プラン ド・イメージ マネジメン トJ概念が,近年の多様化したマーケティング戦略に耐

    えうるものではないという問題点を指摘した39。 そのうえで古川 (201la)は ,消費者行動研究に

    おける Sheth,et al.(1991a,1991b)の消費価値概念を基盤に現代の多様化したブラン ド・コンセ

    プ ト (プラン ド・イメージの中核 となるもの)を整理し,企業が採用可能な 7つの GBI戦略を抽

    出した40。 本論での GBI戦略 とは「企業が選択 したブラン ドの意味を,国境を超えて消費者に訴

    求する戦略Jである41。 抽出された GBI戦略は,「価格訴求型」,「品質訴求型」,「ステータス訴求

    型」,「集団訴求型」,「感情訴求型」,「社会貢献訴求型」,「多様性・新規性訴求型」である。それぞ

    れのBll要 を以下に示す。

    価格訴求型 :低価格イメージ。価格 という消費者の犠牲や負荷 といった所与のネガティブ要素を低

    減させるための訴求。

    品質訴求型 :高品質イメージ。物理的性能,実用性,信頼性,サービスの質といった,消費者の受

    け取る恩恵,品質に関わる事実やデータの訴求。

    36 Hofstede,et al.(2010),p34

    37 Hofstede,et al(2010),pp.38-39.

    38 Nl。 。1(1998),pp.91-92,ル Iool(2004),p 46.39 Park,et al(1986)は ,ま ずブランド イメージの中核 となるもの (プ ランド・コンセプ ト)を選択し,そ

    れに見合ったマーケティング戦略を通して消費者ヘイメージを訴求するモデルを構築 した。

    40消費価値概念 とは,消費者の価値観についての研究成果である。消費者の価値観である「消費価値」は,消

    費行動の動因となっている。11「 ブラン ド・アイデンティティを,消費者に対して訴求する戦略」と換言可能である。詳しくは古川 (201la)

    を参照。

    ―- 64 -―

  • ステータス訴求型 :高級,希少性イメージ。ブラン ドを所持・使用することで得 られる,社会的ス

    テータスの訴求。

    集団訴求型 :大衆,流行イメージ。著名人が所持・使用することなどによる集団への帰属や,流行

    の訴求。

    感情訴求型 :製品,サービス,プラン ドー消費者間のコミュニケーシ ョン活動などによって得 られ

    る,五感経験を通した感情 (楽 しい,情熱的など)に関わるイメージの訴求。

    社会貢献訴求型 :他者への貢献イメージ。ブラン ドの消費による社会や環境への貢献を訴求。

    多様性 新規性訴求型 :製品やサービスの多様性 ・革新的イメージ。豊富な製品バラエティや新技

    術・新システムなどといった新規性 (変化)の訴求。

    2.Hofstedeの 文化次元と GBl戦略

    (l)権力格差

    権力格差 とは,「それぞれの国の制度や組織において,権力の弱い成員が,権力が不平等に分布

    している状況を予期し,受け入れている程度J42と 定義されている。権力格差は,ラ テン系諸国 ,

    アフリカ,ア ジアなどでは大きく,ラ テン系以外のヨーロッパ諸国,北米などでは小さい43。 権力

    格差は「権力の差Jに どのように対応するかで,その大きさが決定される。上司と部下の関係に例

    えると次のようになる。権力格差が大きい場合,部下にとって上司は近づきがたく,面 と向かって

    反対意見を述べることはほとんどありえない。つまり上司と部下の感情的な隔たりが大きく,権力

    の弱い者は権力者の決定に依存することになる。逆に権力格差が小さい場合,部下はかなり気軽に

    上司と接 し,反対意見を述べることもできる。つまり権力者 と権力の弱い者 との感覚的な隔たりが

    相対的に小さく,両者が相互依存の関係になっている。

    Hofstede(1980a,1980b,1991)に よれば,権力格差が大きい場合,人々は特権や地位を表すシ

    ンボルや権力の誇示を志向することが述べられている。またこの場合,他者は「自身の権力を脅か

    す脅威」 とみなされる。そして権力の弱い者同士でさえも,他者を信頼する規範が弱いために連帯

    感を持って活動することが難しいとされている44。 以上より権力格差が大きい場合,上述した GBI

    戦略におけるステータス訴求型が有効に作用する。ステータス訴求型は,地位や権力をはじめとし

    た欲求を満たすものであり,こ こでの傾向と一致する。またこの場合,人々は連帯意識が弱 く,他

    者への不信感を持っているため,集団訴求型は負の影響をもたらす。一方で権力格差が小さい場

    合,人 々は相互依存すべきであると考える傾向にあ り,皆が連帯感を持って活動することができ

    る。この場合,人々は平等 という意識が強いためにステータスを示すことは避けられる45。 っまり

    42 Hofstede(1991),邦訳,27頁。43 Hofstede(1991),邦訳,2326頁。44 Hofstede(1980a),p.46,Hofstede(1980b),邦 訳,111頁 ,Hofstede(1991),邦 訳,36頁 ,Hofstede,et

    al (2010),pp 67-88

    ―- 65 -―

  • 権力格差が小さい場合,集団訴求型が有効に作用する。集団訴求型は,他者 との相互依存,連帯感

    をもたらす。一方で,ステータス訴求型は人々の平等意識を損なうものと承なされるために負の影

    響をもたらす。これらをまとめると次の通 りである。

    ● ステータス訴求型は,権力格差が (小さい社会よりも)大 きい社会で有効であり,権力格差が

    小さい社会では負の影響を持つ。

    ● 集団訴求型は,権力格差が (大 きい社会よりも)Jヽさい社会で有効であり,権力格差が大きい

    社会では負の影響を持つ。

    (a 個人主義―集団主義

    「個人主義―集団主義」は次のように定義されている。「個人主義 (Individualism)を 特徴 とする

    社会では,個人と個人の結びつきはゆるやかである。人はそれぞれ,自 分自身と肉親の面倒をみれ

    ばよい。集団主義 (Collect市ism)を 特徴 とする社会では,人は生まれた時から,メ ンバー同士の

    結びつきの強い内集団に統合される。内集団に忠誠を誓うかぎり,人はその集団から生涯にわたっ

    て保護されるJ46。 個人主義の傾向は,西欧や北米で強 く,集団主義の傾向は,ア フリカ,南米 ,

    アジアで強い47。

    個人主義社会においては,何かを行う際に個人を強 く意識する傾向があり,集団というよりは個

    々人でのパフォーマンスを向上させることに重点をおく。また個人的な時間や自由を志向する傾向

    があり,何でも自分でやってみるなどといった経験を大切にする。自身のライフスタイルを表現で

    きるような消費を行い,楽 しさや快楽を志向する48。 この場合,個人主義社会においては経験や楽

    しさをもたらす感情訴求型が有効に作用する。一方で集団主義社会においては,何かを行う際に

    チームワークやメンバーシップが意識され,集団でのパフォーマンスを向上させることに重点を置

    く。また集団で行われた決定を信じる傾向があり,消費を行う場合は社会的なネットワークを情報

    源とする傾向がある49。 この場合,他者の情報や集団帰属意識をもたらす集団訴求型が有効である。

    ● 感情訴求型は,(集団主義社会よりも)個人主義社会で有効である。

    ● 集団訴求型は,(個人主義社会よりも)集団主義社会で有効である。

    45同上。46 HOぉ tede(1991),邦訳,51頁。47 Hofstede(1991),邦訳,51-54頁 。48H。ぉtede(1980a),p48,Hofstede(1980b),邦 訳,224頁 ,Hofstede(1991),邦 訳,68頁 ,Hofstede,et al

    (2010),pp l12-117.49同上。

    ‐一一一」 

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    一一一

    ―- 66 -―

  • (3)男性らしさ―女j性

    らしさ

    「男性 らしさ―女性らしさ」については,「仕事の目標」 というテーマにより分類されている。仕

    事の中でも「給与」,「仕事に対する承認J,「昇進」,「やりがい」 といったことを目標にする社会を

    「男性らしさ」 と定義している。一方で「上司との関係」,「仕事の協力J,「居住地」,「雇用の保障J

    に目標をおく社会を「女性らしさ」 と定義している。男性らしさの傾向は, 日本,オース トリア ,

    イタリア,ス イスなどで強 く,一方,女性 らしさの傾向は,スウェーデン,ノ ルウェー,オ ラン

    ダ,デンマーク,アジアではタイ,韓国などで強い50。

    男性らしさの強い社会では,人々は,自 己主張,競争 といった目的を持っており,男女の社会的

    な役割が決められている傾向がある。また野心的かつ自己主張が強 く,強 さやステータスを志向

    し,物質的な成功や進歩を目指している。消費については,高価なものを志向する傾向にあり,商

    品に関するデータや事実に関心を持つ51。 以上より男性 らしさの強い社会では,「顕示的であり,

    敢えて高価な商品を選択する消費者」を対象としたステータス訴求型が有効である。また,商品の

    機能,スペックや品質 といったデータや事実を訴求する品質訴求型も有効である。一方で女性らし

    さの強い社会では,人々は他者への配慮,社会環境を重視している。そして男女の性的役害Jが 明確

    でないことが特徴である。社会的弱者をはじめとした「他者」に配慮した活動を行い,奉仕活動に

    関心がある。また,自 国の経済成長よりも海外援助や環境保護に目を向ける傾向にある52。 ょって

    女性らしさの強い社会では,社会や環境 といった他者への貢献を訴求する社会貢献訴求型が有効で

    ある。

    ● ステータス訴求型・品質訴求型は,(女性 らしさの強い社会よりも)男性らしさの強い社会で

    有効である。

    ● 社会貢献訴求型は,(男性らしさの強い社会よりも)女性らしさの強い社会で有効である。

    )不確実性回避

    「不確実性の回避」は,「ある文化の成員が不確実な状況や未知の状況に対して脅威を感じる程

    度J53と 定義されている。不確実性回避の傾向は,ラ テンアメリカ,ラ テン系ヨーロッパ,地中海

    諸国, 日本,韓国では強 く, 日本,韓国以外のアジア諸国,アフリカ諸国,アングロ系 と北欧諸国

    では弱い54。

    50 HOfstede(1991),邦訳,85-89頁 。51 Hofstede(1980a),p49,H。おtede(1980b),邦 訳,273頁 ,Hoヽtede(1991),邦訳,99100頁 ,Hofstede,

    et al(2010),pp.163-17552同上。53 HOfstede(1991),邦訳,119頁。54 Hofstede(1991),邦訳,119-120頁 。

    - 67 -―

  • 不確実性の回避が強い社会においては,曖味さや自分の持つ不安をすぐに解消したいという欲求

    が強い傾向にある。人々にとって不確実性は脅威 とみなされており,取 り除かれなければならない

    ものと考えられている。また奇抜なアイデアや行動を抑制し,革新に対する抵抗があるのが特徴で

    ある。保守的な傾向を持っており,逸脱 しているものを危険視する55。 以上より不確実性の回避が

    強い社会では,商品に関するデータや事実を訴求し,消費者の曖味さを低減させる品質訴求型が有

    効である。しかしこの場合,変化や革新性,こ れまでと違うといった点を訴求する多様性・新規性

    訴求型は,曖味さや不安を低減させようとする傾向と反するものであり負の影響をもたらす。一方

    で不確実性の回避が弱い社会においては,曖味な状況であっても,危険についてよくわからなくて

    も比較的平気であるといった傾向がある。むしろ変化に関心や好奇心を持ち,奇抜で革新的なアイ

    デアを受け入れるといった特徴を持つ56。 そのため,こ の場合は変化や新しさといった点を訴求す

    る多様性・新規性訴求型が有効である。

    ● 品質訴求型は,(不確実性の回避が弱い社会よりも)不確実性の回避が強い社会で有効である。

    ● 多様性・新規性訴求型は,(不確実性の回避が強い社会よりも)不確実性の回避が弱い社会で

    有効であり,不確実性の回避が強い社会では負の影響を持つ。

    (0 長期志向短 期志向

    「長期志向―短期志向」は次のように定義されている。長期志向は,忍耐や倹約 といった「将来の

    報酬を得るために必要な活動Jを志向する社会を表 しており,短期志向は,伝統,面子の維持,そ

    して付き合いを果たすといった「過去や現在に関係した活動Jを志向する社会を表している57。 長

    期志向は,西アジアやヨーロッパ圏の国々で多 く見られる。一方で短期志向は,カ ナダ,ニ ュー

    ジーラン ド,ア メリカ,オーストラリアといったアングロ系の国々,中東,ア フリカ,南アメリカ

    の国々に多い58。

    長期志向の社会では,人々は将来性を重視しているため,長い時間をかけてでも辛抱強 く努力し

    ようとする。また資源を節約し,費用を抑え金銭の無駄遣いを避けようとする傾向にあり,貯蓄に

    励むという特徴を持っている59。 そのため長期志向の社会では,価格 という消費者の犠牲や負荷を

    低減させる価格訴求型が有効である。一方で短期志向の社会では,早 く結果を出すことを重視して

    いる。仲間との付き合いやステータスに関心を持ち,面子にこだわっている。また他者に負けない

    55H。ぉtede(1980a),p47,Hofstede(1980b),邦 訳,179頁 ,Hofstede(1991),邦 訳,133頁 ,Hofstede,et

    al (2010),pp. 197-208

    56同上。57 Hofstede(1991),邦訳,176-177頁 ,Hofstede,et al(2010),p23958 Hofstede,et al(2010),pp 255-259

    59 Hofstede(1991),邦訳,177184頁 ,Hofstede,et al.(2010),pp 239 275.

    ―- 68 -―

  • ように見栄をはることが倹約や忍耐よりも重要視されている。以上より,短期志向の社会ではス

    テータスや面子の維持に効果をもたらすステータス訴求型が有効である。

    ● 価格訴求型は,(短期志向の社会よりも)長期志向の社会で有効である。

    ● ステータス訴求型は,(長期志向の社会よりも)短期志向の社会で有効である。

    (6)気ままさ…自制

    「気ままさ―自制」は,次のように定義されている。気ままさとは,人生を楽しみ,楽 しい時間を

    過ごすために必要な,人間の基本的で自然な欲求を充足させることに開放的な傾向である。一方で

    自制 とは,厳格な社会的規範により,そのような欲求が抑制され,規制される必要があると信じる

    傾向を表している60。 気ままさの傾向は,ラ テンアメリカの北部や西アフリカの国々で多い。そし

    て自制の傾向は,西 。南アジアや西コーロッパ諸国に多い61。

    気ままさを志向する社会では,人々は「楽しさ」に関連した活動を大切にする。余暇を気ままに

    過ごすことに価値を置き,浪費を厭わず楽観的である。またこの社会では,ビールやソフトドリン

    ク,ジ ャンクフー ドといった嗜好品の消費量が多い。このことから,気ままさを志向する社会では

    感情訴求型が有効である。感情訴求型は,楽 しさをはじめとした感情を五感経験によってもたらす

    ものであり,こ こでの傾向と一致する。一方で自制を志向する社会では,人々は行動が様々な社会

    的規範によって制約されるべきであり,娯楽,浪費,そ してそれに類似した道楽は間違っていると

    感じる。倹約を重要視しており,相対的に悲観的である。以上よりこの社会においては,浪費を否

    定し,倹約を志向する傾向に合った価格訴求型が有効である。そして感情訴求型は,楽 しさを抑制

    しようとする自制の傾向と反するため負の影響をもたらす。

    ● 感情訴求型は,(自制を志向する社会よりも)気ままさを志向する社会で有効であり,自 制を

    志向する社会では負の影響を持つ。

    ● 価格訴求型は,(気ままさを志向する社会よりも)自制を志向する社会で有効である。

    Ⅳ.おわ りに

    企業は適切なGBI戦略を採用するために,経済発展度だけでなく,各国の文化も理解する必要

    がある。本論ではHofstedeの 文化次元を用いて,各文化におけるGBI戦略の有効性を理論的に検

    60 Hofstede,et al(2010),p281.

    61 Hofstede,et al (2010),pp.282-286.

    ―- 69 -

  • 文化と GBl戦略

    ※ ○は有効, ×は負の影響を表す。出所 :筆者作成。

    討してきた。これをまとめたものが表 1で ある。本論の意義は,GBI戦略を文化の側面から捉え

    たところにある。そのことで,経済発展度のみでは説明できなかった GBI戦略の有効性を説明可

    能にした。また本論は, どのような文化に, どのような GBI戦略を実施すべきかを理論的な視角

    から示唆するものである。ターゲット市場で採用する GBI戦略が決定すれば,それに従属する

    マーケティング戦略も絞 り込むことが可能である。

    一方で,本研究には「実証の必要性」,「製品群別差異の考慮」,「ダイナミックな視点の欠如」 と

    いう課題が存在する。第一に本論の問題点は,理論的研究にとどまっているところにある。本論

    は,実証のための仮説導出といった役割も担っている。ここで行った理論的な検討がどれほど現実

    を説明しているのかを実証を通して解明する必要がある。なおこれまでのプラン ド・イメージ研究

    の多 くは,各国・各地域の「消費者」を対象に調査を行い,国別比較を行うことで実証をしてき

    た。しかしそれでは,国際的な企業戦略の全体像を十分に解明できない。そのため,今後は異なる

    アプローチ手法を用いて実証を行う予定である。理論的研究に実証が伴うことで,綿密な国際的戦

    略モデルを構築する。第二に本論において,GBI戦略の製品群別における差異は考慮されていな

    い。消費者がどのようなイメージを重視するかは,製品群によって偏 りがある。そのためどのよう

    な製品群において,どのような GBI戦略がより効果的であるのかを考慮する必要がある。最後

    に,本論ではダイナミックな視点が欠如している。プランド導入期からブラン ドが成熟するにつれ

    ―- 70 -―

  • て,場合によって GBI戦略も変化させる必要がある。ダイナミックな視点を取 り入れ,長期的な

    GBIマネジメン ト・モデルを構築する必要がある。

    以上,問題点は,今後の自分の研究課題 としたい。

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