第3章 インド農業の現状と供給力 【要 旨】...89 第3章...

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89 第3章 インド農業の現状と供給力 【要 旨】 (1)インド農業の現状 産業自体のウエートは低いものの、農業就業人口の多さ、関連産業の多さから、インド 経済にとって農業は、依然として重要な産業に位置づけられる。 インドの農業は、世界的にみても大きなウエートを占める。生産量が世界一のジュート、 豆類に加え、第 2 位のコメ、小麦などの穀物が重要な農産物である。穀物生産量は、特に 1960 年代後半に始まった緑の革命以後、飛躍的に増加した。この結果、インドは 1970 代にはコメの自給を達成するとともに、余剰分については輸出を行うことが可能となった。 インドのコメの輸出は、現在では世界のコメ貿易に大きな影響を与えうる規模に達してお り、現に、 2007 年の穀物価格高騰の折、インドがコメの輸出を禁止したことが、市場に翁 影響を与えた。 (2)主要な農業関連政策 地方分権が建前のインドにあって、中央政府が 2000 年に『国家農業政策』を発表した ことは、農業重視の表れである。その後、 2007 年には、農業従事者の所得の向上に重点を 置いた『国家農業者政策』が発表された。 また、農業政策は、貧困層の割合の高い農村の発展政策や貧困層対策と不可分の存在と なっている。公的分配システムは、最も重要な農業政策の一つであり、農産物価格の安定、 生産者へのインセンティブの供与、貧困層への食料の安定供給を目的としている。穀物の 政府買入価格は毎年上昇し、生産者にとってはメリットのある制度となった。しかし、一 時は政府支出の増大や備蓄の増加、低所得者層への売り渡し価格の上昇などの問題が発生 し、余剰米の処分や貧困者向けの分配についての見直しが行われた。 (3)食料需給の現状と展望 インドは、独立以来長期にわたり、穀物の輸入大国であった。しかし、緑の革命の導入 により、1970 年代後半には穀物の自給をほぼ達成し、1990 年代後半には、コメを中心に 余剰分の輸出が可能となった。一方で、経済発展に伴い、食生活の変化が始まり、食用油 やその原料となる油糧種子の輸入が急増している。 今後の食料需給予測についてみると、インド政府の予測は楽観的なものが多く、『2020 年のインドビジョン』では、インドは世界の主要輸出国の一つになると予測している。し かし、今後の国民所得の向上に伴い食料穀物の需要増加が予想されることや、食生活の変 化に伴い肉食が増加し、家畜生産のための資料穀物の需要増大が予想されるなど、政府の 予測以上の穀物需要の増加が予想される。一方で、穀物の生産は今後も伸びが予想される ものの、需要の伸びをカバーできるかは不透明である。 以上を踏まえると、インドは将来的にもコメと小麦の自給は維持するものの、飼料穀物や 食品全体としては、輸入依存が増す見込みである。

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Page 1: 第3章 インド農業の現状と供給力 【要 旨】...89 第3章 インド農業の現状と供給力 【要 旨】 (1)インド農業の現状 産業自体のウエートは低いものの、農業就業人口の多さ、関連産業の多さから、インド

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第3章 インド農業の現状と供給力

【要 旨】

(1)インド農業の現状

産業自体のウエートは低いものの、農業就業人口の多さ、関連産業の多さから、インド

経済にとって農業は、依然として重要な産業に位置づけられる。

インドの農業は、世界的にみても大きなウエートを占める。生産量が世界一のジュート、

豆類に加え、第 2 位のコメ、小麦などの穀物が重要な農産物である。穀物生産量は、特に

1960 年代後半に始まった緑の革命以後、飛躍的に増加した。この結果、インドは 1970 年

代にはコメの自給を達成するとともに、余剰分については輸出を行うことが可能となった。

インドのコメの輸出は、現在では世界のコメ貿易に大きな影響を与えうる規模に達してお

り、現に、2007 年の穀物価格高騰の折、インドがコメの輸出を禁止したことが、市場に翁

影響を与えた。

(2)主要な農業関連政策

地方分権が建前のインドにあって、中央政府が 2000 年に『国家農業政策』を発表した

ことは、農業重視の表れである。その後、2007 年には、農業従事者の所得の向上に重点を

置いた『国家農業者政策』が発表された。

また、農業政策は、貧困層の割合の高い農村の発展政策や貧困層対策と不可分の存在と

なっている。公的分配システムは、最も重要な農業政策の一つであり、農産物価格の安定、

生産者へのインセンティブの供与、貧困層への食料の安定供給を目的としている。穀物の

政府買入価格は毎年上昇し、生産者にとってはメリットのある制度となった。しかし、一

時は政府支出の増大や備蓄の増加、低所得者層への売り渡し価格の上昇などの問題が発生

し、余剰米の処分や貧困者向けの分配についての見直しが行われた。

(3)食料需給の現状と展望

インドは、独立以来長期にわたり、穀物の輸入大国であった。しかし、緑の革命の導入

により、1970 年代後半には穀物の自給をほぼ達成し、1990 年代後半には、コメを中心に

余剰分の輸出が可能となった。一方で、経済発展に伴い、食生活の変化が始まり、食用油

やその原料となる油糧種子の輸入が急増している。

今後の食料需給予測についてみると、インド政府の予測は楽観的なものが多く、『2020

年のインドビジョン』では、インドは世界の主要輸出国の一つになると予測している。し

かし、今後の国民所得の向上に伴い食料穀物の需要増加が予想されることや、食生活の変

化に伴い肉食が増加し、家畜生産のための資料穀物の需要増大が予想されるなど、政府の

予測以上の穀物需要の増加が予想される。一方で、穀物の生産は今後も伸びが予想される

ものの、需要の伸びをカバーできるかは不透明である。

以上を踏まえると、インドは将来的にもコメと小麦の自給は維持するものの、飼料穀物や

食品全体としては、輸入依存が増す見込みである。

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1.インド農業の現状

(1)農業に関する主要指標

1)インド経済における農業の位置づけ

近年、インドは BRICs の一角に位置づけられ、経済成長率でも中国に次ぐ高い成長率

を維持している。そのなかで、農林水産業は、サービス業、鉱工業の成長率には水をあけ

られ、高成長の牽引役とはなっていないばかりか、ともすると「お荷物扱い」をされてい

る状況にある。

産業別に実質 GDP 成長率の推移をみると、インド経済が年平均 7.0%の成長を遂げた

2001~2005 年度においても、農林水産業の年平均成長率は 2.8%と低調であった。その後、

2006 年度、2007 年度とインド経済が 2 年連続で 9%超の高い成長を記録した際にも、農

林水産業の成長率は 4%台にとどまった。さらに、2008 年度は、世界的な経済危機の影響

やモンスーン期の降雨の少なさなどの影響から、農林水産業の成長率は 1.6%に低下した。

図表 3-1-1 産業別実質 GDP 成長率の推移

(%)

年度 1981-85

平均

86-90

平均

91-95

平均

96-2000

平均

01-05

平均

2006 2007 2008

実質 GDP 成長率 4.9 5.9 5.2 5.9 7.0 9.8 9.0 6.7

農林水産業 3.2 3.6 2.4 3.1 2.8 4.0 4.9 1.6

鉱工業 5.2 7.2 6.0 5.1 7.5 11.0 8.1 3.9

サービス業 6.3 6.9 6.7 8.0 8.6 11.2 10.9 9.7

(資料)インド中央統計局、CEIC データベースより JCIF 作成

(注)インドの年度は 4~3 月

次に、インドの産業構造をみると、全体として、1980 年代以降、大きな変化がみられる。

GDP の産業別構成比をみると、農林水産業のシェアは、1960 年度の 42.9%から一貫して

低下傾向にあり、2008 年度には 17.1%となった。

図表 3-1-2 GDP に占める農林水産業の構成比の推移

(%)

年度 1960 70 80 90 95 2000 05 06 07 08

農林水産業の構成比 42.9 42.3 35.7 29.3 26.5 23.4 19.1 17.8 17.5 17.1

(資料)インド中央統計局、CEIC データベースより JCIF 作成

しかし、農林水産業自体のウエートは低下しているものの、インド経済にとって農林水

産業は、依然として重要な産業として位置づけられている。これは、後述するように、農

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林水産業、とくに農業への就業人口が多いことに加え、農業に関連した産業が多く、農業

の動向が関連産業の動向にも大きく影響してくるためである。農業と密接に関連する産業

としては、食品加工業、肥料製造業、農業機械製造業、農業資材製造業などがある。

2004 年度の産業別就業人口の構成比は、農林水産業 52.1%、鉱工業 19.5%、サービス

業 28.5%となっている。GDP に占める農林水産業の比率は近年低下傾向にあり、就業人

口の農林水産業の構成比も低下している。しかし、農林水産業の構成比は、2004 年度にお

いて引き続き全体の 5 割以上を占めており、就業先として農業が依然極めて重要な役割を

演じているといえる。

図表 3-1-3 産業別就業人口構成比の推移

(%)

年度 1983 93 99 2004

農林水産業の構成比 65.4 61.0 56.6 52.1

(資料)インド財務省、“Economic Survey 2007-2008”

インドでは、人口は 10 年に1度の国勢調査によって詳しく調べられるものの、前回の

調査は 2001 年に実施されたものであり、次回は 2011 年の実施となる。このため、人口や

就業人口の正確な把握が難しいことから、関連統計の発表は限られている。最近の正確な

数字はつかめないものの、インドでは人口の約7割が農村部に居住(2001 年度国勢調査で、

72.2%が農村部に居住)、また、貧困人口の 7 割以上が農村部に居住(インド計画委員会の

発表で、2004 年度の農村部に居住する貧困者の割合は 73.2%)しているとされており、

この点からみても、農業あるいは農村、農民に関連する事項は、インドにとって極めて重

要な問題の一つとなっている。

(2)農業の地域性

1)自然条件、環境などの地域特性と地域差

①国土の概要

インドは南アジアに位置し、328 万平方キロメートルと、世界第 7 位の国土面積を有す

る。これは、旧ソ連諸国を除くヨーロッパとほぼ同じ広さで、日本の約 9 倍に相当する。

インドの陸地はほとんどがインド洋に突き出した南アジアの半島(インド亜大陸)上に

あり、南西をアラビア海に、南東をベンガル湾に区切られ、約 7000km の海岸線をもつ。

国土の北側には、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈が連なり、周辺諸国との国境地帯を形

成している。また、両山脈の氷河地帯を水源とする、ガンジス、インダス両大河とその支

流の堆積作用により、西はパンジャブから東はベンガル湾まで、ヒンドスタン平原と呼ば

れる大平原が続いている。一方、北西部には、タール砂漠などの乾燥地帯、カッチ湿地な

どがある。中央部から南部にかけては、海岸線と平行して東ガーツ山脈、西ガーツ山脈が

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走り、その間にデカン高原が広がっている。また、半島南西部のマラバル海岸沿いには、

狭い海岸平野がある。一方、東部のコロマンデル海岸沿いには、河口部に大きなデルタが

形成されている。

地域的には、北インド・中央インドはほぼ全域に肥沃なヒンドスタン平原がひろがり、

南インドのほぼ全域はデカン高原が占めている。また、北西部には岩と砂のタール砂漠が

あり、東部と北東部の国境地帯は峻険なヒマラヤ山脈が占める。

②気候

気候は、緯度が低い地域が国土の大半を占めるため、基本的には熱帯・亜熱帯性である。

北部のヒマラヤ、カラコルム両山脈地域は高所ツンドラ地帯、北西部は乾燥地帯、ガンジ

ス川流域は亜熱帯、半島の大部分は熱帯に属する。

また、インドは典型的なモンスーン気候帯に属している。このため、季節風の変化によ

り、気候は暑熱期(3~6 月)、降雨期(6~10 月)、温暖期(11~2 月)の 3 期に分類され

る。

2)農業生産における地域性

既に概略みたように、広大な面積を擁するインドでは、地域によって気候も多様である。

基本的には、各地域では気候に適した作物が作られているといえる。気候といった場合、

気温が作物の生育に大きく関係していることは当然であるが、降水量も重要な要因となっ

ている。一方、気候条件を緩和する要因として、灌漑の普及がある。降水量が多くない地

域や季節でも、灌漑の普及により、降水量の少なさをある程度までカバーすることが可能

である。

インドの主要な農作物であるコメ、小麦、雑穀などについてみると、気候との関係およ

び灌漑の普及状況により、主要な栽培地域を地域ごとに塗り分けることが可能である。

まず、コメについてみると、コメの栽培には大量の水が必要であり、年間降水量の多い

西ベンガル州やタミールナドゥ州など東部や南部、特に、降水量が多い沿海地域、および、

灌漑の普及が進んでいるパンジャブ州など北西部で発達している。

次に、小麦については、栽培条件としてある程度の冷涼な気候を必要とするため、北西

部での栽培が主となっている。このため、小麦の場合、米に比べると栽培地域が特定の州

に集中している。

ところで、小麦栽培には一定量の水も必要とされる。ところが、インドの小麦栽培の中

心であるパンジャブ州やハリヤナ州の場合、年間降水量が 600~650 ミリ程度の半乾燥地

帯であるが、降雨のほとんどない乾季に小麦を作っている。これは、地域の灌漑の普及に

負うところが大きい。これらの地域では、インダス川をはじめとする豊富な河川水を利用

した用水路灌漑と地下水を利用した井戸灌漑が普及しており、乾季でも水の確保には問題

がない。

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また、雑穀、豆類、油糧種子については、乾燥に比較的強く、年間降水量が少ない条件

下での栽培が可能なため、乾燥地帯である西部地域での栽培が多くなっている。同地域で

は、年間降水量が少ないことに加え、灌漑の普及も遅れている。

例えば、マハラシュトラ州についてみると、年間降水量が 1,000 ミリ未満であることに

加え、灌漑の普及率も 17%と非常に低い。

以上をもとに、地域別の主要作物の生産状況をマッピングすると、以下のとおりである。

図表 3-1-4 地域別主要作物の生産状況

(資料)各種資料をもとに日本総合研究所作成

(3)農業の概況

インドは世界第 7 位の広さの国土面積を持ち、また、中国に次ぐ世界第 2 位の人口を擁

することから、農産物の生産量は極めて多い。

インド政府によれば、2007 年のインドの耕地面積は 1 億 5,900 万ヘクタールで、世界

の農地の 11.2%を占め、米国に次ぐ第 2 位となっている(インド農業省、"Agricultural

ケララ州 タミールナドゥ州

カルナタカ州

アンドラプラデシュ州

ウッタルプラデシュ州

マディヤプラデシュ州

ヒマチャルプラデシュ

ウッタランチャル州

ジャム・カシミール州

パンジャブ州

ハリヤナ州

ラジャスタン州

グジャラート州

マハラシュトラ州

ビハール州

チャッティスガール州

オリッサ州

ジャルカンド州西ベンガル州

アッサム州

アルナチャルプラデシュ州

ナガランド州

シッキム州

メガラヤ州

マニプル州

トリプラ州

ミゾラム州

小麦生産が多い地域

雑穀などの生産が 多い地域

米生産が多い地域

米生産が多い地域

小麦生産が多い地域

雑穀などの生産が多い地域

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Statistics At a Glance 2009")。また、農作物では、ジュートが世界生産量の 60%以上を

占め第 1 位、豆類が同じく第 1 位、コメ、小麦がいずれも中国に次いで第 2 位、落花生が

同じく中国に次いで第 2 位、なたねが第 3 位などとなっている(同上)。

以下では、インドの農業の概況について取りまとめる。

1)生産

2008 年度の穀物の生産量は、2 億 2,990 万トンであった。2007 年度に比べて 0.4%の減

少となったが、依然安定した生産水準を維持している。

図表 3-1-5 穀物生産量の推移

(100 万トン)

年度 1960 70 80 90 2000 04 05 06 07 08

生産量 50.82 82.02 108.42 129.59 176.39 198.36 208.60 217.28 230.78 229.90

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

2005~2008 年度について、主要生産品目別の穀物生産量をみると以下のようになって

いる。

図表 3-1-6 穀物の主要生産品目別の生産量の推移

(100 万トン、%)

2005 06 07 08

割合 割合 割合 割合

コ メ 91.8 44.0 93.4 43.0 96.7 41.9 99.4 43.2

小 麦 69.4 33.3 75.8 34.9 78.6 34.1 80.6 35.1

雑 穀 33.5 16.1 34.1 15.7 33.9 14.7 40.7 17.7

トウモロコシ 14.7 7.0 15.1 6.9 19.0 8.2 18.5 8.0

穀物合計 208.6 100.0 217.3 100.0 230.8 100.0 229.9 100.0

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

穀物のなかで最も生産量が多いのはコメで、2008 年度で穀物全体の 43.2%を占めた。

コメに次いで生産量が多いのは小麦で、2008 年度は穀物全体の 35.1%を占めた。コメ、

小麦の主要 2 品目の生産量は、同 78.3%を占める。また、雑穀(トウモロコシを含む、以

下同じ)の割合は、同 17.7%となっている。

これまでの穀物生産の推移を簡単にまとめると、インドの穀物生産量は独立後順調に拡

大したものの、1960 年代になると早くも伸び悩み傾向がみられた。しかし、1960 年代後

半からいわゆる緑の革命が始まり、その後は一貫して生産量が拡大してきている。

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次に、州別の穀物生産量をみると、以下の通りとなっている。

図表 3-1-7 州別の穀物生産量(2007 年度)

(100 万トン、%)

州名 穀物生産 シェア

ウッタルプラデシュ 42.09 18.24

パンジャブ 26.82 11.62

アンドラプラデシュ 19.30 8.36

ラジャスタン 16.06 6.96

西ベンガル 16.05 6.95

ハリヤナ 15.31 6.63

マハラシュトラ 15.19 6.58

カルナタカ 12.19 5.28

マディヤプラデシュ 12.07 5.23

ビハール 10.86 4.71

グジャラート 8.21 3.56

オリッサ 8.14 3.53

タミールナドゥ 6.58 2.85

チャッティスガール 6.29 2.73

ジャルカンド 4.16 1.80

アッサム 3.47 1.50

ウッタラカンド 1.80 0.78

その他 6.19 2.68

合 計 230.78 100.00

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

最も穀物生産が多いのがウッタルプラデシュ州で 4,209 万トン、インド全体の 18.2%を

占めている。以下、パンジャブ州(2,682 万トン、インド全体に占める割合 11.6%)、アン

ドラプラデシュ州(1,930 万トン、同 8.4%)、ラジャスタン州(1,606 万トン、同 7.0%)

西ベンガル州(1,605 万トン、同 7.0%)などとなっている。

西ベンガル州までの上位 5 州で、インドの穀物生産の 51.8%を占めている。

2)作付面積

2008 年度の穀物の作付面積は、1 億 2,380 万 ha、前年度比 0.2%の微減となった。

インドの穀物作付面積は、独立後順調に拡大し、1983 年度には 1 億 3,116 万 ha でピー

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クに達した。しかし、その後はおよそ 1 億 2 千数百万 ha 台で安定的に推移している。

図表 3-1-8 インドにおける穀物作付面積の推移

(100 万 ha)

年度 1960 70 80 90 2000 04 05 06 07 08

作付面積 115.58 124.32 126.67 127.84 121.05 120.00 121.60 123.71 124.10 123.80

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

2005~2008 年度について、主要生産品目別の作付面積をみると、以下のようになって

いる。

図表 3-1-9 穀物の主要生産品目別の作付面積の推移

(100 万 ha、%)

2005 06 07 08

割合 割合 割合 割合

コ メ 43.7 35.9 43.8 35.4 43.9 35.4 45.6 36.8

小 麦 26.5 21.8 28.0 22.6 28.0 22.6 27.7 22.4

雑 穀 29.1 23.9 28.7 23.2 28.7 23.1 28.5 23.0

トウモロコシ 7.6 6.3 7.9 6.4 8.1 6.5 8.0 6.5

穀物合計 121.6 100.0 123.7 100.0 124.1 100.0 123.8 100.0

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

穀物のなかで最も作付面積が多いのはコメで、2008年度で穀物全体の 36.8%を占めた。

また、小麦の作付面積は同 22.4%、雑穀は同 23.0%であった。生産量では、小麦が雑穀を

上回るものの、作付面積では雑穀が小麦を上回る。

次に、州別の穀物作付面積をみると、以下の通りとなっている。

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図表 3-1-10 州別の穀物作付面積(2007 年度)

(100 万 ha、%)

州名 作付面積 シェア

ウッタルプラデシュ 19.08 15.38

ラジャスタン 13.61 10.65

マハラシュトラ 13.21 10.65

マディヤプラデシュ 11.29 9.10

カルナタカ 7.87 6.34

アンドラプラデシュ 7.39 5.96

ビハール 7.03 5.67

西ベンガル 6.36 5.30

パンジャブ 6.30 5.08

オリッサ 5.49 4.42

チャッティスガール 5.08 4.09

グジャラート 4.48 3.61

ハリヤナ 4.48 3.61

タミールナドゥ 3.10 2.50

アッサム 2.52 2.03

ジャルカンド 2.44 1.97

ウッタラカンド 0.99 0.80

その他 3.33 2.68

合 計 124.07 100.00

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

最も作付面積が広いのがウッタルプラデシュ州で、インド全体の 15.4%を占めており、

以下、ラジャスタン州(インド全体に占める割合 11.0%)、マハラシュトラ州(10.7%)、

マディヤプラデシュ州(9.1%)、カルナタカ州(6.3%)州などとなっている。

3)単収

2008 年度の穀物の単収は、1ヘクタール当たり 1,850kg であった。これは、前年度比

ほぼ横ばい(0.2%の減少)となっている。なお、2007 年度は前年度比 5.6%の増加であ

った。

インドの穀物の単収は独立後順調に拡大したものの、1960 年代前半になると早くも伸び

悩み傾向がみられた。しかし、1960 年代後半からいわゆる緑の革命が始まり、その後は一

貫して単収が増加傾向にあった。しかし、2008 年にはわずかながら前年を下回った。

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図表 3-1-11 インドにおける穀物の単収の推移

(kg/ha)

年度 1960 70 80 90 2000 04 05 06 07 08

単収 522 710 872 1,023 1,380 1,652 1,715 1,756 1,854 1,850

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

次に、州別の穀物の単収をみると、以下の通りとなっている。

図表 3-1-12 州別の穀物の単収(2006 年度)

(kg/ha)

州名 単収 州名 単収

パンジャブ 4,255 カルナタカ 1,548

ハリヤナ 3,420 ビハール 1,546

アンドラプラデシュ 2,613 オリッサ 1,484

西ベンガル 2,525 アッサム 1,378

ウッタルプラデシュ 2,206 チャッティスガール 1,238

タミールナドゥ 2,125 ラジャスタン 1,180

グジャラート 1,831 マハラシュトラ 1,150

ウッタラカンド 1,785 マディヤプラデシュ 1,069

ジャルカンド 1,709 合 計 1,860

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

最も単収が高いのがパンジャブ州で、4,255kg となっており、これはインド平均

1,860kg の 2.29 倍である。以下、ハリヤナ州(3,420kg)、アンドラプラデシュ州、西ベン

ガル州、ウッタルプラデシュ州などとなっている。

インドにおいては、単収が高い州と低い州との間で大きな開きがあることが大きな特徴

となっている。この理由については、穀物全体でみるとわかりにくいので、単品のコメを

例にとり、コメのところで論じる。

(4)主要農産物の生産動向

1)コメ

コメの生産量は農産物のなかで最も多く、小麦と並んでインドの最も重要な農産物とな

っている。

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99

①生産量

コメの生産量は、独立以来、一貫して増加傾向にある。2008 年度の生産量は 9,920 万ト

ン、前年度比 2.6%増であった。なお、速報ベースでは、2009 年度のコメの生産量は、干

ばつの影響から 7,170 万トンと、大きく減少することが予想されている。

図表 3-1-13 コメの生産量の推移

(100 万トン)

年度 1960 70 80 90 2000 2005 2006 2007 2008 2009

コメ 34.6 42.2 53.6 74.3 85.0 91.8 93.4 96.7 99.2 71.7

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

次に、州別の生産量をみると、以下の通りとなっている。

図表 3-1-14 州別のコメの生産量(2007 年度)

(100 万トン、%)

州 生産量 シェア

西ベンガル州 14.72 15.22

アンドラプラデシュ州 13.32 13.78

ウッタルプラデシュ州 11.78 12.18

パンジャブ州 10.49 10.85

オリッサ州 7.54 7.80

チャッティスガール州 5.43 5.62

タミールナドゥ州 5.04 5.21

ビハール州 4.42 4.57

カルナタカ州 3.72 3.85

ハリヤナ州 3.61 3.73

ジャルカンド州 3.34 3.45

アッサム州 3.32 3.43

マハラシュトラ州 3.00 3.10

グジャラート州 1.47 1.52

マディヤプラデシュ州 1.46 1.51

ケララ州 0.53 0.55

その他 3.50 3.62

合 計 9,669 100.00

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

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100

コメの生産量が最も多いのは西ベンガル州で 1,472 万トン、インド全体の 15.2%を占め

る。以下、アンドラプラデシュ州(1,332 万トン、インド全体に占める割合 13.8%)、ウッ

タルプラデシュ州(1,178 万トン、同 12.2%)、パンジャブ州(1,049 万トン、同 10.9%)、

オリッサ州(754 万トン、7.8%)などとなっている。

オリッサ州までの上位 5 州で、インドの米生産の 59.8%を占めている。

インドにおけるコメの主要産地は、西ベンガル州、アンドラプラデシュ州、オリッサ州、

タミールナドゥ州、チャッティスガール州などの南東部とウッタルプラデシュ州、パンジ

ャブ州、ハリヤナ州、ビハール州などの北西部に集中している。

図表 3-1-15 コメの主要産地の分布

(資料)日本総合研究所作成

②作付面積

2008 年度のコメの作付面積は、4,560 万 ha、前年度比 3.9%の増加となった。

インドのコメの作付面積は、やや伸び悩んだ時期もあったものの、一貫して増加傾向に

西ベンガル州

タミールナドゥ州

アンドラプラデシュ州

ウッタルプラデシュ州

パンジャブ州

オリッサ州

チャッティスガール州

ハリヤナ州

ビハール州

Page 13: 第3章 インド農業の現状と供給力 【要 旨】...89 第3章 インド農業の現状と供給力 【要 旨】 (1)インド農業の現状 産業自体のウエートは低いものの、農業就業人口の多さ、関連産業の多さから、インド

101

ある。

図表 3-1-16 コメの作付面積の推移

(100 万 ha)

年度 1960 70 80 90 2000 04 05 06 07 08

作付面積 34.13 37.59 40.15 42.69 44.71 41.91 43.66 43.81 43.89 45.60

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

次に、州別のコメの作付面積をみると、以下の通りとなっている。

図表 3-1-17 州別のコメ作付面積(2007 年度)

(100 万 ha、%)

州名 作付面積 シェア

西ベンガル 5.72 13.03

ウッタルプラデシュ 5.71 13.00

オリッサ 4.45 10.13

アンドラプラデシュ 3.98 9.06

チャッティスガール 3.75 8.54

ビハール 3.57 8.13

パンジャブ 2.61 5.94

アッサム 2.32 5.28

タミールナドゥ 1.79 4.08

ジャルカンド 1.65 3.76

マハラシュトラ 1.57 3.58

マディヤプラデシュ 1.56 3.55

カルナタカ 1.42 3.23

ハリヤナ 1.08 2.46

グジャラート 0.76 1.73

ケララ 0.23 0.52

その他 1.74 3.96

合 計 43.89 100.00

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

コメの作付面積が最も多いのは西ベンガル州で 572 万 ha、インド全体の 13.0%を占め

た。以下、ウッタルプラデシュ州(571 万 ha、インド全体に占める割合 13.0%)、オリッ

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102

サ州(445 万 ha、同 10.1%)、アンドラプラデシュ州(398 万 ha、同 9.1%)、チャッテ

ィスガール州(375 万 ha、8.5%)などとなっている。

チャッティスガール州までの上位 5 州で、インドの作付面積の 53.8%を占めている。

インド農業省によれば、インドには、コメの在来種がもともと 40 万種あり、今日でも

このうち 20 万種が残っているとしている。

また、1965 年以降、インドはコメの品種改良に力を入れており、現在まで約 600 の改

良種が登録されている。

地域別の生育品種についてみると、年間を通じて気温が高く降水量の多い南東部におい

ては、主として従来型をベースとした品種、また、灌漑が発達した北西部においては、高

級米のバスマティ米を中心とした品種の栽培が多くなっている。

まず、南東部においては、年間を通してのコメの栽培も可能であり、栽培時期によって、

カリフ米、ラビ米、プレカリフ米の 3 種類がある。

なお、カリフ米は南東部に限らず、インドにおける一般的なコメの栽培時期のパターン

となっており、インドのコメ生産の 84%を占めている。6~10 月に散播(じかまき)ある

いは田植えが行われ、11~4 月に収穫される。

ラビ米は、生産の 9%を占め、11~2 月に散播あるいは田植えが行われ、3~6 月に収穫

される。

プレカリフ米は、生産の 7%を占め、3~5 月に畑地などに散播され、6~10 月に収穫さ

れる。

以下は、東部および南部における主要な栽培品種を取りまとめたものである。

図表 3-1-18 南東部におけるコメの主要栽培地域と主要な栽培品種

地域 主要栽培地域 主要な栽培品種

東部 西ベンガル州、オリッサ州など

Ajaya Rice、Amulya Rice、Anjali Rice、Annada Rice、Birsa Dhan-101 Rice、Birsa Dhan-201 Rice、Birsa Dhan-202 Rice、Birsa Gora-102 Rice、Boro Rice、BR-34 Rice、Chelarai Rice CNM Rice、Dharitri Rice、Golak Rice、IET-1136 Rice、IET-2233 Rice、 IR-20 Rice、IR-36 Rice、Jaladhi-1 Rice、Jaladhi-2 Rice、Janki Rice、Jayamati Rice、 Ketaki joha Rice、Konark Rice、Kunti Rice、Lachit Rice、Lakhimi Rice、Laxmi Rice、 Luit Rice、Monoharsali Rice、Patna Rice、Phou-oibi Rice、Punsi Rice、Rajendra Dhan Rice、Ratna Rice、Salivahana Rice、Saraswati Rice、Sita Rice、Sneha Rice、Sugandha Rice、Tulsi Rice、Uydyagiri Rice

南部 アンドラプラデシュ州、タミールナドゥ州、ケララ州、カルナタカ州など

ADT (R) 46、ADT-37 Rice、ADT-38 Rice、ADT-39 Rice、Amrut Rice、 Annapurna-28 Rice、Chengalpattu Sirumani Rice、Improved White Ponni Rice、Jagannath Rice、Kadaikazhuthan Rice、Kaliyan Samba Rice、Kallimadaiyan Rice、Kallundai Rice、Kappa Samba Rice、 Karnataka Hill Paddy-5 Rice、Kattu Kuthalam Rice、Kaum Rice、 Kothmala-Golukulu Rice、Krishna Anjana Rice、Kudaivazhai Rice、 Kullakkar Rice、 Kuzhiyadichan Rice、 Lakshmi Kajal Rice、Nagarjuna Rice、Neelan Samba Rice、Phalguna Rice、Pitchavari Rice、Prakash Rice、Pusa-44 Rice、Ravi Rice、Rohini Rice、Sabari

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103

Rice、Sadakar Rice、Samba Mahsuri Rice、Samba Mosanam Rice、Samba Rice、Seeraga Samba Rice、Sivappu kuruvikar Rice、Sona Masuri Rice、Thangam Samba Rice、Thooyamallee Rice

(資料)各種資料をもとに日本総合研究所作成

一方、ウッタルプラデシュ州、パンジャブ州、ハリヤナ州、ラジャスタン州などの北西

部においては、バスマティ米の栽培が多い。また、バスマティ米のなかでもハイブリッド

米の栽培が増えているが、ハイブリッド米の品種は、粒の大きさにより、①小粒種、②中

粒種、③長粒種に分類される。それぞれについて、生産の多い州と栽培種は以下のとおり

となっている。

図表 3-1-19 ハイブリッドバスマティ米の主要栽培地域と主要な栽培品種

分類 主要栽培地域 主要な栽培品種

小粒種 ウッタルプラデシュ州、ビハール州、マディヤプラデシュ州

Adamchini、Badshah、Pasand、Bindli、Bhartaphool、Dhania、Chhoti Chinnawar、Laungchoor、Jeerabattis、Kanak Jeeri、Yuvraj、Moongpholi、Rambhog、Ramjawain、Sakkarchini、Tinsukhia、Bengal Juhi、Thakur Bhog、Chinore、Dubrej、Kalimooch、Deobhog、Karia Kamod、Katarni、Tulsi-Manjari、Shyam、Jeevan、Kanak Jeera、Kanak Jeeri、Badshah Pasand、Mircha、Bramobhusi、Ranijawain、 Karina、 Tulsi Pasand、 Dewatabhog、Chenaur、Sonalari、Sataria、Bishnubhog、Badshah Bhog、Tulsi-Manjari、Badshah Bhog

中粒種 ウッタルプラデシュ州、ビハール州、マディヤプラデシュ州、ヒマチャルプラデシュ州

Karmuhi、Kesar、Kesarparsom、Sonachur、Tilakchandan、Kalanamak、Vishnu Bhog、Achhu、Begrui、Panarsa (local) 、Chatri、Kalanamak

長粒種 ウッタルプラデシュ州、パンジャブ州、ビハール州、ハリヤナ州、マディヤプラデシュ州、ヒマチャルプラデシュ州、ラジャスタン州、ジャムカシミール州

Basmati-370、Dehradoon Basmati、Lalmati、Hansraj、Nagina-12、Safeda、Kalasukhdas、Tapovan Basmati、Type-9、Duniapat Dabraj、Ranjavain (T-1) Kasturi、Pusa Basmati-1、Taraori Basmati、Haryana Basmati-1、Ranvir Basmati、Khalsa-7、Karnal Local、Pakistani Basmati 、 Pusa Basmati-1 、 Pakistani Basmati 、Basmati-385、Baldhar Basmati、Madhumati、Mushkan、Seond Basmati、Basmati (local)

(資料)各種資料をもとに日本総合研究所作成

③単収

2008 年度のコメの単収は、1ヘクタール当たり 1,834kg であった。これは、前年度比

1.1%の減少であった。ちなみに、2007 年度のコメの単収は、1ヘクタール当たり 1,854kg

で、前年度比 5.6%の増加であった。

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104

図表 3-1-20 コメの単収の推移

(kg/ha)

年度 1960 70 80 90 2000 04 05 06 07 08

単収 522 710 872 1,023 1,380 1,652 1,715 1,756 1,854 1,834

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

コメの単収は独立後順調に拡大したものの、1960 年代前半になると早くも伸び悩み傾向

がみられた。しかし、1960 年代後半からいわゆる緑の革命が始まり、その後は一貫して単

収が増加してきていた。しかし、2008 年にはわずかながら、前年比で単収が減少した。

次に、州別のコメの単収をみると、以下の通りとなっている。

図表 3-1-21 州別のコメの単収(2007 年度)

(kg/ha)

州名 単収 州名 単収

パンジャブ 4,019 グジャラート 1,942

ハリヤナ 3,361 マハラシュトラ 1,903

アンドラプラデシュ 3,344 オリッサ 1,694

タミールナドゥ 2,817 チャッッティスガール 1,446

カルナタカ 2,625 アッサム 1,428

西ベンガル 2,573 ビハール 1,237

ケララ 2,310 マディヤプラデシュ 938

ウッタルプラデシュ 2,063 全インド平均 2,202

ジャルカンド 2,018

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

最も単収が高いのがパンジャブ州で、4,019kg となっており、これはインド平均 2,202 kg

の 1.82 倍である。以下、ハリヤナ州(3,361kg)、アンドラプラデシュ州(3,344kg)、タ

ミールナドウ州(2,817kg)、カルナタカ州(2,625kg)などとなっている。コメの場合、

単収の高い州と低い州とでは大きな差が生じている。

単収の高い州と低い州について、灌漑比率、高収量品種の導入状況、肥料投入量の違い

をみると以下のとおりとなっている。

Page 17: 第3章 インド農業の現状と供給力 【要 旨】...89 第3章 インド農業の現状と供給力 【要 旨】 (1)インド農業の現状 産業自体のウエートは低いものの、農業就業人口の多さ、関連産業の多さから、インド

105

図表 3-1-22 コメの単収上位州と下位州の比較

順位 州名 単収 (2007 年)(kg/ha)

灌漑普及率 (2007 年)

(%)

高収量品種の作付比率

(1998~2000年平均) (%)

肥料投入量 (トン

/10,000ha)

コメの単収が高い州

1 パンジャブ 4,019 99.5 88.0 805

3 アンドラプラデシュ 3,344 96.4 96.3 6,702

4 タミールナドゥ 2,817 93.0 90.5 6,009

コメの単収が低い州

マディヤプラデシュ 938 14.3 85.0 8,344

ビハール 1,237 53.5 88.1 456

オリッサ 1,694 42.6 70.2 117

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"、Janaiah Aldas 他、”Productivity

Impact of the Modern Varieties of Rice in India”

まず、単収の高い州について灌漑の普及率をみると、パンジャブ州が 99.5%、アンドラ

プラデシュ州が 96.4%、タミールナドゥ州が 93.0%といずれも非常に高い。

一方、単収の低い州について灌漑の普及率をみると、単収の低いマディヤプラデシュ州

については灌漑普及率がわずか 14.3%にとどまる。また、残りの 2 州についても、オリッ

サ州が 42.6%、ビハール州が 53.5%と低い普及率にとどまっている。

以上の結果から、灌漑普及率の高さは、天候変動の影響を受けずに安定的に収穫ができ

ることにつながり、高単収の要因の一つとなっているといえる。

次に、高収量品種の作付け比率についてみると、単収の高いアンドラプラデシュ州が

96.3%と非常に高い。また、単収の高い残りの 2州についても、タミールナドゥ州が 90.5%、

パンジャブ州が 88.0%と、いずれも導入率が高くなっている。

一方、単収の低い州について高収量品種の作付け比率をみると、オリッサ州は 70.2%と

相対的に低くなっている。一方、ビハール州とマディヤプラデシュ州については、作付け

比率が 88.1%、85.0%と、高単収の州と変わらない水準に達している。

このように、高収量品種の導入と作付け比率の高さは、単収の上昇に結びついていると

みられるものの、インド全体で高収量品種の作付けが増えてきていることから、単収の差

を説明する上では相対的に重要性の低い要因となっている。

最後に、肥料の投入量をみると、高単収の州のうち、アンドラプラデシュ州、タミール

ナドゥ州がそれぞれ、1 万 ha 当たり 6,702 トン、6,009 トンとなっている。これに対して、

単収の高いパンジャブ州の場合、肥料の投入量は同 805 トンに過ぎない。

また、単収の低い州については、オリッサ州が同 117 トン、ビハール州が同 456 トンと

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106

肥料の投入量が極端に低いのに対して、マディヤプラデシュ州は同 8,344 トンと投入量が

多いにもかかわらず、単収が低い。このように、肥料の投入量は単収の高さの十分条件に

はなっているものの、必要条件ではないといえる。

このように、インドでみられる州の間の単収の差は、灌漑の普及率、肥料の投入量、高

収量品種の導入・作付の増加などの複数の要因が絡み合って影響を与えているといえる。

2)小麦

小麦の生産量は農産物のなかではコメに次いで多く、インドにとっては、コメと並ぶ重

要な農産物となっている。

①生産量

小麦の生産量は、1960 年代前半にいったん停滞したものの、その後の緑の革命を経て、

60 年代後半以降は、一貫して増加傾向にある。2008 年度の生産量は 8,060 万トンであっ

た。

図表 3-1-23 小麦の生産量の推移

(100 万トン)

年度 1960 70 80 90 2000 2005 2006 2007 2008

小麦 11.0 23.8 36.3 55.1 69.7 69.4 75.8 78.6 80.6

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

次に、州別の生産量をみると、以下の通りとなっている。

図表 3-1-24 州別の小麦生産量(2007 年度)

(100 万トン、%)

州 名 生産量 シェア

ウッタルプラデシュ 25.68 32.68

パンジャブ 15.72 20.01

ハリヤナ 10.24 13.03

マディヤプラデシュ 6.03 7.67

ラジャスタン 7.12 9.06

ビハール 4.45 5.66

グジャラート 3.84 4.89

マハラシュトラ 2.08 2.65

ウッタランチャル 0.81 1.03

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107

西ベンガル 0.92 1.07

ヒマチャルプラデシュ 0.50 0.64

ジャム・カシミール 0.50 0.64

カルナタカ 0.26 0.33

ジャルカンド 0.14 0.18

アッサム 0.07 0.09

その他 0.21 0.21

合 計 7,857 100.00

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

小麦の生産量が最も多いのはウッタルプラデシュ州で、生産量が 2,568 万トン、インド

全体に占めるシェアは 32.7%と約 3 分の 1 に達する。次いで、パンジャブ州(1,572 万ト

ン、インド全体に占める割合 20.0%)、ハリヤナ州(1,024 万トン、同 13.0%)、ラジャス

タン州(712 万トン、9.1%)、マディヤプラデシュ州(603 万トン、同 7.7%)、などとな

っている。

ラジャスタン州までの上位 5 州で、インドの小麦生産の実に 82.4%を占めている。

②作付面積

2008 年度の小麦の作付面積は、2,788 万 ha であった。インドの小麦作付面積は、独立

後順調に拡大したが、1960 年代前半には停滞した。しかし、60 年代後半からは、緑の革

命が始まり、その後は順調に拡大してきている。しかし、2008 年の作付面積はわずかなが

ら前年を下回った。

図表 3-1-25 小麦の作付面積の推移

(100 万 ha)

年度 1960 70 80 90 2000 04 05 06 07 08

作付面積 12.93 18.24 22.28 24.17 25.73 26.38 26.48 27.99 28.04 27.88

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

次に、州別の小麦の作付面積をみると、以下の通りとなっている。

図表 3-1-26 州別の小麦作付面積(2007 年度)

(100 万 ha、%)

州名 作付面積 シェア

ウッタルプラデシュ 9.12 32.87

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108

マディヤプラデシュ 3.74 13.34

パンジャブ 3.49 12.45

ラジャスタン 2.59 9.24

ハリヤナ 2.46 8.77

ビハール 2.16 7.70

マハラシュトラ 1.25 4.46

グジャラート 1.27 4.53

ウッタランチャル 0.40 1.43

ヒマチャルプラデシュ 0.37 1.32

西ベンガル 0.35 1.25

カルナタカ 0.28 1.00

ジャム・カシミール 0.28 1.00

ジャルカンド 0.09 0.32

アッサム 0.06 0.21

その他 0.13 0.46

合 計 28.04 100.00

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

小麦の作付面積が最も多いのはウッタルプラデシュ州で 912万 ha、インド全体の 32.5%

と、約 3 分の 1 を占めている。以下、マディヤプラデシュ州(374 万 ha、インド全体に占

める割合 13.3%)、パンジャブ州(349 万 ha、同 12.5%)、ラジャスタン州(259 万 ha、

同 9.2%)、ハリヤナ州(246 万 ha、8.8%)などとなっている。

ハリヤナ州までの上位 5 州で、インドの作付面積の 76.3%を占めている。

③単収

2008 年度の小麦の単収は、1ヘクタール当たり 2,788kg で、前年からは横ばいであっ

た。

図表 3-1-27 小麦の単収の推移

(kg/ha)

年度 1960 70 80 90 2000 04 05 06 07 08

単収 851 1,307 1,630 2,281 2,703 2,602 2,619 2,708 2,785 2,788

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

小麦の単収は独立後順調に拡大したものの、1950 年代~60 年代前半にかけては大きく

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変動した。しかし、1960 年代後半からいわゆる緑の革命が始まり、その後は 90 年代まで

単収が増加した。2000 年代に入ると、小麦の単収は、2600~2700kg 台で概ね安定してい

る。

次に、州別の小麦の単収をみると、以下の通りとなっている。

図表 3-1-28 州別の小麦の単収(2007 年度)

(kg/ha)

州名 単収 州名 単収

パンジャブ 4,507 ジャム・カシミール 1,782

ハリヤナ 4,158 マハラシュトラ 1,659

グジャラート 3,013 ジャルカンド 1,621

ウッタルプラデシュ 2,817 マディヤプラデシュ 1,612

ラジャスタン 2,749 ヒマチャルプラデシュ 1,376

西ベンガル 2,602 アッサム 1,268

ビハール 2,058 カルナタカ 946

ウッタランチャル 2,050 全インド平均 2,802

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

最も単収が高いのがパンジャブ州で、4,507kg となっており、これは全インド平均の

2,802kg の 1.61 倍である。また、ハリヤナ州も 4,158kg と、わずかの差でこれに続いてい

る。この 2 州の単収は、他の州と比較して突出している。これ以下は、グジャラート州

(3,013kg)、ウッタルプラデシュ州(2,817kg)、ラジャスタン州(2,749 kg)などとなっ

ている。

小麦の場合も、コメの場合と同様に、灌漑の普及率の高低、肥料の投入量の多少、高収

量品種の導入・作付の増加などの複数の要因が絡み合って、単収の差に影響を与えている

ものとみられる。

3)コメ、小麦以外の主要農産品

コメ、小麦以外の主要農産品として、ここでは、雑穀(トウモロコシを含む、以下同じ)、

豆類、油糧種子、サトウキビを取り上げる。

コメ、小麦以外の主要農産品の生産量の推移は、以下のとおりである。

2008 年度の生産量は、雑穀 4,073 万トン、豆類 1,930 万トン、油糧種子 2,820 万トン、

サトウキビ 2 億 7,130 万トンであった。

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図表 3-1-29 コメ、小麦以外の主要農産品の生産量の推移

(100 万トン)

年度 1960 70 80 90 2000 2005 2006 2007 2008

雑穀 23.74 30.55 29.02 32.70 31.08 33.47 34.07 33.92 40.73

豆類 4.1 7.5 7.0 9.0 12.0 14.7 15.1 19.0 19.3

油糧種子 7.0 9.6 9.4 18.6 18.4 28.0 24.3 29.8 28.2

サトウキビ 110.0 126.4 154.3 241.1 296.0 281.2 355.5 348.2 271.3

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

次に、雑穀、豆類、油糧種子について、生産量の多い上位 3 州の生産量とシェアについ

てまとめると以下のとおりである。

図表 3-1-30 雑穀、豆類、油糧種子の生産量の多い上位 3州(2007 年度)

(100 万トン、%)

品 目 生産量上位 3州 生産量 シェア

雑穀 ラジャスタン 7.12 17.47 上位 3 州ま

での占有率:

51.90

マハラシュトラ 7.09 17.40

カルナタカ 6.94 17.03

豆類 マハラシュトラ 3.02 20.46 上位 3 州ま

での占有率:

48.58

マディヤプラデシュ 2.45 16.60

アンドラプラデシュ 1.70 11.52

油糧種子 マディヤプラデシュ 6.35 21.34 上位 3 州ま

での占有率:

53.60

マハラシュトラ 4.87 16.36

グジャラート 4.73 15.89

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

雑穀の場合、生産量の上位 3 州は、ラジャスタン州、マハラシュトラ州、カルナタカ州

で、3 州合計の占有率は 51.9%であった。

また、豆類の場合、生産量の上位 3 州は、マハラシュトラ州、マディヤプラデシュ州、

アンドラプラデシュ州で、3 州合計の占有率は 48.6%であった。

油糧種子の場合には、生産量の上位 3 州は、マディヤプラデシュ州、マハラシュトラ州、

グジャラート州で、3 州合計の占有率は 53.6%であった。

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(5)農産物の輸出入動向

以下では、インドの主要な穀物であるコメと小麦について、近年の輸出入動向について

みていくことにする。

1)コメ

2003 年度から 2008 年度までのコメの輸出額についてみると、年によって変動はあるも

のの、概ね増加傾向にある。2008 年度の輸出額は 28 億 4,331 万ドル、前年度比 20.8%増

となった。2007 年度の 23 億 5,295 万ドルを上回り、2 年連続の 20 億ドル超と、輸出額

は高水準で推移している。

一方、2008 年度の輸出量は 353 万 6,000 トンで、前年度比 43.3%の大幅減となった。

2008 年度の輸出量は、2007 年度の 624 万 1,000 トンを大きく下回った。この背景には、

非バスマティ米の輸出禁止措置やバスマティ米の最低輸出価格(MEP)導入などの影響が

ある。

なお、2008 年度の平均輸出価格は、kg 当たり 0.804 ドルであった。これは、2007 年度

の同 0.377 ドルと比べると倍以上になっている。このように平均輸出価格が急上昇したの

は、インドの輸出禁止措置などにより価格が安い非バスマティ米の輸出が減少し、バスマ

ティ米の比率が増えたためとみられる。

図表 3-1-31 コメの輸出入の推移

(1,000 ドル、1,000 トン)

2003 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度 08 年度

輸出額 919,151 1,178,738 1,636,489 1,456.255 2,352,946 2,843,305

輸入額 45 23 2 163 79 42

輸出量 3,789 3,561 5,057 4,452 6,241 3,536

輸入量 0.0 0.0 0.0 0.4 0.1 0.0

輸出入量バランス 3,789 3,561 5,057 4,452 6,241 3,536

(資料)インド財務省、インド商業省

一方、近年、インドはコメの輸入をほとんど行っていない。2008 年度の輸入量も 37.5

トンにとどまった。

次に、コメの主要輸出先についてみると、2008 年度では、サウジアラビアへの輸出額

が最も多く、7 億 8,616 万ドルに達した。以下、アラブ首長国連邦、バングラデシュ、ク

ウェート、イランの順となっている。

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図表 3-1-32 コメの主要輸出先(2007・2008 年度)

【2007 年度】

輸出先上位 5カ国 輸出額

(1,000 ドル)輸出量

(1,000 トン)輸出量に占めるシェア(%)

平均価格($/kg)

バングラデシュ 420,277 1,490 23.9 0.282

サウジアラビア 401,072 641 10.3 0.626

アラブ首長国連邦 296,854 448 7.2 0.663

コートジボワール 186,504 700 11.2 0.267

南アフリカ 95,420 329 5.3 0.290

【2008 年度】

輸出先上位 5カ国 輸出額

(1,000 ドル)輸出量

(1,000 トン)輸出量に占めるシェア(%)

平均価格($/kg)

サウジアラビア 786,160 653 18.5 1.204

アラブ首長国連邦 634,507 500 14.1 1.269

バングラデシュ 493,413 1,260 35.6 0.392

クウェート 189,594 146 4.1 1.295

イラン 94,703 68 1.9 1.400

(資料)インド財務省、インド商業省

バングラデシュ向けは、輸出額では第 3 位であるものの、輸出量では 2007 年度と同様、

第 1 位となっている。バングラデシュ向けのコメの輸出については、コメの自給ができな

い同国に対する援助の意味合いが強く、輸出の中身も、現在輸出が禁止されている非バス

マティ米で、単価も安い。これに対して、バングラデシュ以外の国向けには、より価格の

高いバスマティ米を中心に輸出が行われている。

2)小麦

2003 年度から 2008 年度までの小麦の輸出額についてみると、2004 年度までは増加傾

向にあったものの、2005 年度は 1 億 7,402 万ドルと 2004 年度の 4 億 4,342 万ドルから半

分以下に急減した。さらに、2006 年度は 867 万ドル、2007 年度 12 万ドル、2008 年度

15 万ドルと、輸出は事実上ストップしている。

一方で、輸出とは裏腹に、それまでほとんど行われていなかった小麦の輸入が、2006

年度から再開されている。2006 年度の小麦の輸入量は 139 万トン、2007 年度が 508 万ト

ンと、それまでの輸出量をはるかに上回る量の輸入が行われた。しかし、2008 年度の輸入

量は、72 万トンまで低下している。各年度ごとの輸出入量のバランスをみると、2005 年

度まではネットで純輸出国であったが、2006 年度以降は純輸入国となった。

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図表 3-1-33 小麦の輸出入の推移

(1,000 ドル、1,000 トン)

2003 2004 2005 2006 2007 2008

輸出額 441,515 443,417 174,023 8,674 120 155

輸入額 - 80 - 305,973 1,295,295 265,894

輸出量 3,621 2,946 1,028 52 0.5 0.6

輸入量 - 0.7 - 1,392 5,080 722

輸出入量バランス 3,621 2,945 1,028 -1,340 -5,079 -721

(資料)インド財務省、インド商業省

小麦の輸出先については、2007 年度、2008 年度の輸出量が少ないのでそれ以前でみる

と、バングラデシュ、スリランカ、ネパールなどの近隣の南アジア諸国や、サウジアラビ

ア、アラブ首長国連邦などの中東諸国が多い。

一方、小麦の輸入が多かった 2007 年度についてみると、主要な輸入先国は以下のとお

りとなっている。

図表 3-1-34 小麦の主要輸入先(2007 年度)

【2007 年】

輸入先上位 5カ国 輸入額

(1,000 ドル)輸入量

(1,000 トン)輸入量に占めるシェア(%)

平均価格($/kg)

ロシア 536,045 1,966 38.7 0.273

カナダ 391,491 1,565 30.8 0.250

オーストラリア 180,129 792 15.6 0.228

ウクライナ 72,932 262 5.2 0.278

フランス 62,071 260 5.1 0.238

(資料)インド財務省、インド商業省

3)近年のコメなどの輸出に関する動向

インドでは、年により生産量のばらつきはあるものの、コメの生産量は長期的にみると、

緑の革命以降、一貫して増加傾向にある。さらに、1970 年代からコメの自給に成功し、コ

メの余剰が生まれたことに加え、公的分配システムの導入により、毎年一定量のコメが備

蓄されてきた結果、コメの不作年であっても、それほどあわてて対応するようなケースは

少なかったといえる。過去数年間の米の総生産量も需要を上回っており、期末在庫量は満

足すべき水準にある。

しかし、2007 年度に穀物の国際価格が高騰した際には、コメの輸出規制が行われた。こ

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の背景には、小麦の政府備蓄量の減少があった。2006 年の春作小麦の政府の買上量が思う

ように増えなかった結果、2006 年 7 月時点の小麦の備蓄量は、最低備蓄基準量の 48%まで

低下した。この結果、政府は小麦の輸入を余儀なくされ、2006 年度の小麦の輸入量が 1960

年代以来の高水準となった。また、続く 2007 年の春作時期にも、小麦の調達目標が未達に

終わり、最低基準備蓄量の 76%しか備蓄が進まなかった。

一方、同時期にはコメの輸出が好調で、2007 年 4~9 月期の非バスマティ米の輸出は前

年同期比 48.2%増となった。このような状況が、コメの最低指示価格を上げて、小麦の備

蓄不足分をコメで補うことを意図していた政府に不安を抱かせる結果となった。政府は、

当初、2007 年 10 月 9 日に非バスマティ米の輸出を全面禁止とした。非バスマティ米に限

定したのは、政府の公的分配制度による買上には貧困層対策の意味も含まれており、貧困

層に低価格でコメを配給するという側面を持っているためである。公的分配制度の対象は、

価格の高いバスマティ米ではなく、価格の低い非バスマティ米であり、これを輸出禁止の

対象としたものである。

しかし、10 月 31 日には、非バスマティ米の輸出禁止が解除され、最低輸出価格制度が

導入された。これは、非バスマティ米の中にも、高価格のものが含まれるため、それ以外

の低価格の非バスマティ米の輸出を規制するには、輸出価格に下限を定め、それ以上の価

格の米のみ輸出可能とすることにより、低価格米の輸出を事実上不可能にするという意図

から行われたものである。

このように、インド政府のコメの輸出規制は、政府の小麦の備蓄量の不足がそもそもの

契機となり、その後の様々な状況の変化がもたらしたものであるといえる。

なお、その後のインド政府のコメの輸出規制関連の動きは以下のとおりとなっている。

図表 3-1-35 2007 年 10 月以降のインド政府のコメ輸出規制に関する動き

2007 年 10 月 9 日 ・非バスマティ米の全面輸出禁止

10 月 31 日 ・非バスマティ米の輸出禁止解除と同時に、最低輸出価格制度を導入(425

ドル/トン)

11 月 15 日 ・最低輸出価格を 500 ルピー/トン引き上げ

12 月 27 日 ・非バスマティ米の最低輸出価格を 500 ドル/トンへ引き上げ

2008 年 3 月 5 日 ・非バスマティ米の最低輸出価格を 650 ドル/トンへ引き上げ

・バスマティ米の最低輸出価格を 900 ドル/トンに設定

3 月 27 日 ・非バスマティ米の最低輸出価格を 1000 ドル/トンへ引き上げ

・バスマティ米の最低輸出価格を 1100 ドル/トンへ引き上げ

4 月 1 日 ・非バスマティ米の輸出禁止

・バスマティ米の最低輸出価格を 1200 ドル/トンへ引き上げ

5 月 10 日 ・バスマティ米に輸出税課税

10 月 16 日 ・米の最低輸出価格を 500 ルピー/トン引き上げ

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2009 年 1 月 27 日 ・バスマティ米の最低輸出価格を 1100 ドル/トンへ引き下げ

2 月 2 日 ・バスマティ米の輸出税廃止

3 月 31 日 ・非バスマティ米の輸出禁止

8 月 18 日 ・バスマティ米の最低輸出価格を 800 ドル/トンへ引き下げ

9 月 7 日 ・バスマティ米の最低輸出価格を 900 ドル/トンへ引き上げ

2010 年 1 月 21 日 ・バスマティ米の最低輸出価格を 1100 ドル/トンへ引き上げ

(資料)各種資料をもとに日本総合研究所作成

コメの輸出規制のインド国内への影響についてみると、需給に関しては大きな影響はみ

られない。そもそも、インドはコメの供給が常に需要を上回っているうえに、コメの備蓄

も毎年十分な量が行われている。今回の輸出規制も、コメ自体の需給というよりも、小麦

を含めた需給関係のなかで、小麦の政府備蓄量が最低基準を満たせなかったことに端を発

している。政府の小麦の調達が思うように進まなかったのは、小麦の国際価格の高騰が原

因であり、インド全体でみれば、小麦自体の需給動向には問題はない。

一方で、インドのコメの輸出規制は、国際市場に大きな影響を与えた。もともと国際市

場における取引量が少ないコメの場合、供給量のわずかな減少でも需給バランスに大きな

影響を与える。今回、インドは、2007 年 10 月という極めて早い段階で輸出禁止を発表し

た。このため、実際の需給面、また心理面で国際市場に与えた影響は極めて大きかったと

いえる。

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2.主要な農業関連政策と農業に関する行政組織

(1)インドにおける農業政策の位置づけの変化と『国家農業者政策』

インドでは、独立直後の 1947 年より経済開発政策が実施されている。現在は、第 11 次

の 5 カ年計画(2007~2012 年)が行われている。

一方、農業政策は、1951 年に第 1 次計画が立案され、1970 年代には、緑の革命が導入

され、コメと小麦の自給、油糧種子の生産の増加、畜産部門の牛乳の自給などが達成され

た。

その後、全産業に占める農業のウエートは低下したが、農業への従事者は依然労働人口

の大半を占めており、その所得問題は重要な政策課題の一つとなっている。2000 年には、

中央政府が『国家農業政策』を制定し、農業の生産性向上が目標とされた。この『国家農

業政策』は、中央政府の農業省が初めて体系的に策定した農業政策である。中央政府の農

業省がそれまで体系的な農業政策を策定していなかった背景には、中央政府と地方政府と

の立場の違いがある。憲法上の規定により、「インドでは多くの分野において州政府に大幅

な自治権が認められている。この結果、中央政府が州政府の意向にかかわらず権限を行使

できる分野は、国防、外交、通信の3分野にとどまる。」1これ以外の分野については、農

業分野を含めて州政府の裁量に任されていることになる。このような規定にもかかわらず、

中央政府が農業政策を策定したことは、農業を特に重視するというスタンスが強いことを

裏付けている。

さらに、『国家農業政策』の内容を全面的に見直し、農業従事者の所得向上に重点を置

いた『国家農業者政策』が、2007 年に策定された。

『国家農業者政策』における主な政策目標は以下の通りとなっている。

図表 3-2-1 『国家農業者政策』における主な政策目標

1. 農業従事者の実収入の持続的な増加を図り、農業の活力を向上するとともに、農業の発展

を農業所得向上によって評価する。

2. 農業システムの生産性、収益性及び安定性を持続するうえで不可欠な土地、水、生物多様

性、遺伝子資源の保護、改良を図る。

3. 種子、灌漑、電力、機械器具、肥料の支給を含む支援サービスにおいて、農業従事者のた

めに適切な量、価格を保障する。

4. 農業従事者の生活と所得を保障し、健康をまもるため、穀物、家畜、魚、森林の生物資源

保護を強化する。

5. 農業従事者の所得向上のため、適正価格を決定し、貿易政策を立案する。

1 経済産業省「平成 21 年度社会課題解決型の官民連携プログラム支援事業(社会課題解決型ビジネスに

関する普及・啓発セミナー等事業)・BOP ビジネスに関する潜在ニーズ調査(インド:教育・職業訓練分

野)(2010 年 3 月) 18 頁

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6. 農業従事者に対して、適時、適切な補償を行うためのリスク管理方法を提供する。

7. 農地改革における未達成の課題を解決する。

8. 農業政策において人権、ジェンダーを考慮する。

9. 持続可能な地域生活へ配慮を行う。

10. 地域共同体における食料、水、エネルギー保障システムを整備し、すべての児童、女

性、男性各レベルにおいて栄養充足を確実にする。

11. 若者の農業に対する意欲向上のため、農産物を高価値付加化するための加工手段を導

入する。

12. バイオテクノロジーと ICT(International and Communication Technology)による

農産物、農産加工品の国際的アウトソーシングを獲得する。

13. 農業教育を再構築する。

14. 農業世帯の非農業雇用者に雇用機会を提供する。

(資料)各種資料をもとに日本総合研究所作成

(2)第 11 次 5 カ年計画における農業政策

第 11 次 5 カ年計画も、この『国家農業者政策』がベースとなっている。

第 11 次 5 カ年計画では、第 10 次 5 カ年計画(2002~2007 年)の評価を次のように行

っている。

図表 3-2-2 第 10 次 5 カ年計画の評価

・ 農業成長率の目標を 4%に設定し、様々な政策を導入し、プロジェクトを実施したが、結果

的には 2%の低い成長率にとどまった。2%程度の低成長率が、1990 年代半ば頃から恒常化

しつつある。

・ 原因は、①穀物部門の極端な不振、②園芸、畜産、漁業などの成長期待分野が期待はずれで

あったことである。

・ 食料生産計画では、穀物全体で計画を達成した年次が一度もなかった。

(資料)各種資料をもとに日本総合研究所作成

これを受けて、第 11 次 5 カ年計画では、経済全体の成長率を 9%、農業の成長率目標を

4.1%に設定している。この実現のため、以下のアクションプログラムを実施する。

図表 3-2-3 第 11 次 5 カ年計画の農業関連アクションプログラム

1. 農業者への技術の提供

(1) 長期ビジョン緊急アクションプラン

① 長期ビジョンとして、SAU(State Agriculture University、州農業大学)、ICAR(Indian

Council Agricultural Research、インド農業研究協議会)が、地球科学省傘下の CSIR

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118

(Council for Scientific and Industrial Research、科学産業研究協議会)と協力し、

地球温暖化による長期気候変動に関する研究等にあたる。

② 緊急アクションプランとして、戦略的農業研究を優先、気象条件の変化に対応した作付体

系の展開、耐乾燥性品種・病虫害抵抗性品種の開発、土地の特殊性に即した技術開発、開

発・改良能力の強化等を実施する。

(2) 農業研究に対する政府支出額

現在の農業 GDP 比約 0.7%の水準から第 11 次 5 ヵ年計画の最終年には 1%に引き上げる。

2. 投資効率を高め、システム支援を増やし、補助金を合理化

(1) 灌漑

① 今後は、現在進行中の灌漑プロジェクトの完成と既存施設の近代化に焦点を絞る。

② 地下水灌漑では、アッサム州、ビハール州、チャッティスガール州、オリッサ州、ジャル

カンド州、西ベンガル州の一部の利用可能性が高い地域を開拓対象とする。

(2) 天然資源の管理と分水界開発

① 農業地域の大部分は天水地域であり、成長率が減速している要因は天水地域にある。

② 第 11 次 5 カ年計画では、約 3,700 万 ha の分水界地域の開発を目標に推進する。

③ 最低でも 3,600 億ルピーの投資が必要である。

(3) システム支援の強化と補助金の合理化

① 化学肥料の補助金合理化(従来、国産肥料は肥料メーカーへの直接支払い、輸入肥料は

輸入業者への支払いであったが、これを農業者へ直接給付する方法について検討)

② 農業改良普及に関し、各州で農業大学、農村知識センター等を利用し、農業者の農業知

識の向上を図る。

③ 種子の生産流通システムで、公共部門の種子担当機関を強化し、民間業者との関係を深

める。

3. 農業の多角化を図るとともに食料安全保障を続ける

(1) 農業生産の多角化

① 農業所得を増加させ、農業成長 4%を達成するには、園芸と畜産への多角化が重要な戦

略(第 11 次 5 カ年計画における需要予測では、食料穀物:年間 2.0~2.5%の伸び、油

糧種子、繊維類、サトウキビなどの伝統的換金作物:年間 3~4%、畜産・園芸:4~6%

の伸びを期待)

② 農産物加工の推進、特に農村地域において食品加工への投資を行い、農産物の高付加価

値化を推進し、現金収入を増やし、非農業分野の雇用機会を創出

(2) 食料安全保障への対応

第 11 次 5 カ年計画の最終年に、食料安全保障の観点から、食料穀物生産量 2,000 万トンの

増産を目指す。

4. 集団的アプローチにより、貧困層が土地、信用、技能へより良いアクセスが得られるよう

包括的なプロジェクトを実施する

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小農と貧農層が農業者の 80%を占めること、女性の従事者が増加していることから、信用、

普及サービス、生産物市場を有効に利用できる特別対策が必要となっている。

対策を個人向けに行うのではなく集団として機能し規模の経済が確保できる「集団的アプロ

ーチ」を奨励する。共同投資や売買の協同組合といった段階から、土地の共同利用、共同購入、

共同賃貸または共同営農といったより高度な団体機能へのレベルまで、集団的アプローチを行

う。

(資料)各種資料をもとに日本総合研究所作成

以上のアクションプログラムを実施するため、第 11 次 5 カ年計画では 5,480 億 1,000

万ルピーの財政支出が見込まれている。省庁別内訳では、農業協同組合局が 3,654 億 9,000

万ルピー、農業研究・教育局が 1,113 億 1,000 万ルピー、畜産・酪農・漁業局が 712 億

1,000 万ルピーとなっている。なお、第 10 次 5 カ年計画では、財政支出は 2,051 億 3,000

万ルピーであった。

(3)公的分配システム

1)制度の概要

インドにおける農業関連政策について論じる場合に、公的分配システムについておさえ

ておくことは不可欠である。

公的分配システム(PDS:Public Distribution System)は、インドが 1960 年代の半ば

に干ばつによる食糧危機に陥ったことを契機に、危機管理を目的とした穀物などの買付・

配給制度を導入したものである。

公的分配システムには、①低所得層に対する食料の安全供給、②緩衝在庫の保持による

農産物価格の安定化、③買い上げ価格の保証による生産者へのインセンティブの供与、と

いう 3 つの目的がある。

公的分配システムを管轄しているのは中央政府の消費者省食料公的分配局

(Department of Food and Public Distribution, Ministry of Consumer Affairs)である

が、実際の買付けは、関係機関であるインド食料公社(FCI:Food Corporation of India)

を通じて行っており、インド食料公社がコメなどの買付けと、最終的に貧困層へ低価格で

配給するための各州政府への売り渡しに関する責任を持っている。配給の対象品目は、コ

メ、小麦という主要穀物に加えて、砂糖、食用油、燃料油なども含まれる。コメと小麦の

公的分配システムのための買い上げが全流通量に占める割合は、2000 年以降では 20%を

超えている。

ただし、地域または州レベルでの実際の調達は、インド食料公社ではなく、州政府の関

連機関である地域食料公社または州食料公社が地場での調達を行い、これをインド食料公

社に売り渡すという方式が採られている。このような地域または州レベルの調達に関して

は、各州政府の裁量に任されており、各州政府が独自の判断で調達を行っている。一方、

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インド食料公社がこのような州レベルの調達を通さずに、自社の各地域の支社を使って、

直接調達を行っている地域もある。

インド食料公社は、政府が定める最低支持価格(MSP:Minimum Support Price)の水準

で、農家から直接、あるいは地域、州レベルの州政府の管轄する食料公社から穀物などの

買い上げを行い、買い上げた穀物の貯蔵や輸送などを行っている。本制度においては、買

い上げ量の上限は設定されておらず、農業生産者が希望すれば、原則、買上を行うシステ

ムとなっている。

図表 3-2-4 国産米の農家から消費者までの流通ルート

(資料)各種資料をもとに日本総合研究所作成

政府が定める最低支持価格の決定は、まず、消費者省食料公的分配局の関連機関である

農業費用価格委員会(Commission on Agricultural Costs and Prices:CACP)が、主とし

てコメの生産コストなどを基にその年の最低支持価格案を算定し、政府に勧告する。これ

を受けて、政府は、農家の供給意欲を高めるための価格水準や、その時点の備蓄量と今後

国内生産者

地域精米業者

地域買取業者

州・地域卸売業者

州・地域卸売業者

地域小売業者

消費者

インド食料公社 (FCI)

各州政府

公正価格店 (Fair Price Shop)

貧困層

州内の取引 州をまたぐ

取引

地域精米業者

公的分配システム

<一般流通ルート>

公設卸売市場

地域食料公社(RFC)

州食料公社 (SFC)

<政府調達ルート>

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の備蓄見通し、低所得者層への分配に必要な量などを勘案して、最終的な最低支持価格を

決定する。

また、最低支持価格は、農業生産者の生産意欲を高めることも重要な目的となっている。

このため、原則としては、カリフ期の作付が行われる前に最低支持価格を公表することに

なっているが、この時期にはモンスーンの状況によって作柄が大きく変わりうることもあ

り、実際には作付前の公表は困難になっている。さらに、コメの不作などの影響で政府の

調達目標の実現に支障が出そうな状況となった場合には、年度途中に最低支持価格が引き

上げられることもある。ただし、農業費用価格委員会の勧告は年度初めの 1回だけであり、

年度途中での見直しなどは、消費者省食料公的分配局が対応する。

インド食料公社の直接の買い取りは、現状では、実際の穀物の生産に余剰がある地域で

集中的に行われ、穀物が不足している州まで運搬されている。

政府調達は、売渡しを希望する生産者またはその代理商が公設卸売市場(一般取引ルー

トと共通)または地方政府の開設する調達センターに持ち込み、これを地方食料公社、州

食料公社、あるいはインド食料公社が買い取る。そして、地方または州レベルの食料公社

が買い取ったものは、インド食料公社に売られる。インド食料公社は、備蓄分を確保した

上で貯蔵、各州政府に分配したうえで、各州政府が地域の公正価格店(Fair Price Shop)

を通じて、指定を受けた貧困層に、定められた価格にて販売を行う。公正価格店とは、各

地域で公的分配システムに関して販売認可を受けた小売店である。

穀物の買上方法は、主として二つである。まず第1に、一般的な流通経路をとらずに、

地方政府の管轄する調達センターに直接持ち込まれたコメと小麦は、最低支持価格の水準

で買上が行われる。また、公設卸売市場に持ち込まれた穀物のうち、政府への売渡を希望

する分については、調達センターの場合と同様に買取が行われる。一方、これとは別に、

コメのみに適用される強制調達制度がある。政府は、精米業者から精米済みのコメを強制

的に買い上げることができる。ただし、この場合の買上価格は、コメの最低支持価格に一

定のマージンを加えた強制調達価格が別途設定される。強制調達によって調達する量や対

象については、各州ごとに決められる。

一方、穀物の消費者への分配は、各州政府が行う。各州政府は、中央政府が定める中央

売り渡し価格(CIP:Central Issuing Price)にて穀物を購入し、一般消費者に対し市場

価格より幾分か低めの価格で販売する。実際の販売は、インド全国で約 46 万店のネットワ

ークを持つ公正価格店(FPS:Fair Price shop)と呼ばれる地域で指定された販売店を通

じて行われる。

上記の公的分配システムの一連のプロセスのなかで、買上から州政府への売り渡しに至

るまでの過程において、政府による備蓄が生じる。政府はあらかじめ必要な備蓄水準を定

めておき、その目標に向けて、買上量から一定の水準の備蓄を積み上げるシステムとなっ

ている。

各年 1月1日時点の、主要穀物の政府備蓄量の推移は以下のとおりである。

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図表 3-2-5 穀物の政府備蓄量の推移(1月 1日時点)

(100 万トン)

コメ 小麦 雑穀 合計

2001 年度 20.70 25.04 0.03 45.77

2002 年度 25.62 32.41 0.08 58.11

2003 年度 19.37 28.83 - 48.20

2004 年度 11.73 12.69 0.60 25.02

2005 年度 12.76 8.93 0.60 21.70

2006 年度 12.64 6.19 0.43 19.26

2007 年度 11.98 5.43 0.09 17.49

2008 年度 11.47 7.71 0.00 19.18

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

また、各年度のインド食料公社の最低支持価格の推移は以下のようになっている。

図表 3-2-6 コメ、小麦の最低支持価格の推移

(ルピー/quintal)

等級 2002

年度

2003

年度

2004

年度

2005

年度

2006

年度

2007

年度

2008

年度

2009

年度

コメ Common 530 550 560 570 580

+40

645

+100

850 850

+50

950

+50

Grade A 560 580 590 600 610

+40

675

+100

880 880

+50

980

+50

小麦 - 620 630 640 650

+50

750

+100

1,000 1,080 -

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

(注)1 quintal は、100kg。下段は最低支持価格での調達が難しい場合に支払う追加上乗せ額。 2007 年度は最低支持価格を期中で引き上げ。

2)制度の問題点

公的分配システムは、1970~80 年代には、大きな問題もなく機能していたが、経済危

機を契機として 1991 年から着手された経済改革において、制度の問題点が露呈した。

1991 年以降、公的分配システムにおいて、穀物を農民から買い上げる際に適用される

最低支持価格が急速に引き上げられ、それと機を一にして、政府から消費者に売り渡され

る価格も引き上げられた。その結果、1990 年代半ばになると、政府の買入量の増加と販

売量の減少に加え、政府在庫が急激に増加し、財政負担が急拡大した。

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これをより詳しく見ていくと、1990 年代に入り、最低支持価格が農業費用価格委員会

の提言を大きく上回る水準で決定されるようになった。最低支持価格の上昇は、農家の政

府に生産物を売却するインセンティブを高め、政府は農家からの買上量を増やさざるを得

なくなった。また、穀物買い上げと在庫保管のための財政負担が急増した。

さらに、最低支持価格と同時に、中央売り渡し価格も引き上げられた。穀物価格の引き

上げは、それまで安価な配給穀物に依存していた貧困層に大きなインパクトを与えた。

1990 年代後半になると、穀物の消費量が急激に減少し、政府在庫からの配給量も減少し

た。この時期の食料消費の減少は、公的分配システムの配給価格である中央売り渡し価格

の引き上げと、これに付随して起きた穀物の小売価格の上昇によるものであるとする見方

が一般的である。

この結果、穀物需給のバランスが崩れ、政府は過剰な穀物在庫と膨大な財政負担を抱え

た。また、一方では、貧困層の食料に対する不安が継続した。

このような状況を改善するために、1997 年には、公的分配システムの配分において貧

困線以下(BPL:Below Poverty Line)の家計を貧困線以上(APL:Above Poverty Line)

の家計よりも優遇する受益者選別型公的分配システムが導入された。貧困線は一定の食料

消費に必要となる所得水準に基づき定められ、貧困線以上の家計向けの中央売り渡し価格

は政府が食料を調達する際の費用水準とされたのに対して、貧困線以下の家計向けには調

達費用を下回る逆ザヤの価格が設定された。

これと並行して、過剰在庫を処理するために、政府在庫からの輸出向けの売却や国内市

場向けの売却が、1990 年度から 1996 年度にかけて行われた。特に、1995 年度には、約

160 万トンの備蓄米を輸出向けに売却したが、流通量が少ないコメの国際市場に強い影響

を与える結果となった。

3)公的分配システムの輸出への影響

小麦の生産は、1990 年代には自給に近い水準に達していたが、年ごとの生産の変動に

より、輸入と輸出を不定期に繰り返す状況にあった。しかし、2000 年代に入ると、輸出

量が急激に増加した。ピークの 2003 年度には、インドの小麦の純輸出量は約 400 万トン

に達した。

また、コメの場合も、非バスマティ米の輸出規制が緩和されたこともあり、1994 年か

ら輸出が急増した。ピークの 2002~2003 年には、約 425 万トンにも上る輸出が行われ

た。そして、このような穀物輸出の大部分が、インド食料公社の持つ政府在庫からの輸出

向け売却によりまかなわれた。

(4)貧困層に対する支援政策2

インドでは、1947 年に独立を遂げて以来、重要な基本政策の一つとして貧困解消が位

2 本項は、前掲 1 文献 5 頁を参照して記述した。

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置づけられ、貧困者に対する多くの政策的な支援策が進められてきている。なお、インド

では、「貧困者」と言う場合には、中央政府の計画委員会(Planning Commission)が設

定する貧困線を下回る所得者層の事を指している。

1962 年から、計画委員会では、最低限必要な支出額を算定し、これに基づき「貧困線」

を設定している。貧困線とは、成人1人が1カ月間生存するために必要なカロリーを摂取

するのに必要となる最低限の食糧支出額と非食糧支出額の合計である。このような貧困線

は、州別、都市部・農村部別に設定されている。

データが入手可能な 2004 年度について、都市部・農村部別の貧困ラインをみると、農

村部が 356.30 ルピー、都市部が 538.60 ルピーとなっている。

図表 3-2-7 都市部・農村部別貧困線の推移

(ルピー)

都市部 農村部

貧困ライン

1993 年度

1999 年度

2004 年度

1993 年度

1999 年度

2004 年度

281.35 454.11 538.60 205.84 327.56 356.30

(資料)インド計画委員会

また、同じくインド計画委員会によれば、2004 年度の貧困人口は約3億人となってい

る。このうち、2 億 2,090 万人(73.2%)が農村部、8,080 万人(26.8%)が都市部となっ

ている。

1)最重要政策課題である貧困層に対する支援

既に述べたように、インドでは、1947 年に独立を遂げて以来、重要な基本政策の一つ

として貧困解消が位置づけられ、貧困者に対する多くの政策的な支援策が進められてきて

いる。

「2005 年 9 月に成立した「全国農村雇用保障法」(NREGA)は、急速な発展を遂げる

都市部から大きく取り残されている農村部において、雇用の創出と農業インフラの整備に

よって貧困削減を進めることを目的としている。同法にもとづいて行われる農村事業は、

2006 年 2 月 2 日に 200 の県で開始され、当初の計画を前倒しする形で、2008 年 4 月 1 日

から 604 のすべての県で実施に移された。(略)NREGA に従って実施される農村事業で

は、灌漑施設の整備などの小規模な公共事業が行われ、(略)雇用機会を提供することで貧

困層の経済的状況の改善を図るとともに、農業インフラの整備による生産性の向上を意図

した総合的な農村開発事業と位置づけられている。」3

3 前掲 1 文献 7 頁~8頁

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2)第 2次マンモハン・シン政権の貧困層支援政策

「2009 年4~5月にかけて行われた総選挙で、与党の国民会議派(コングレス党、INC)

が率いる統一進歩連合(UPA)が 274 議席を獲得し、第2次連立政権を発足させた。重要政

策課題の一つは、「社会的弱者、農民、女性に対する支援の強化・拡充」など、選挙公約し

た低所得者層への支援である。」4

「同政権は、農村の貧困対策、インフラ開発を最重要課題として掲げるとともに、経済

自由化路線を堅持し、財政赤字削減や付加価値税(VAT)の導入、外資規制緩和などの施策

を進めてきた。一方、貧困層の生活への配慮から、ガソリン、ディーゼル、灯油、液化石

油ガス(LPG)といった石油製品の国内小売価格を政府が統制している。この制度の下で、

原油価格の高騰局面において国営石油会社の損失(逆ザヤ)が拡大した場合、その一部を

政府が補助金や石油債(Oil Bond)の発行により補填している。」5

3)2009 年度予算における貧困対策

「2009 年 7 月に発表された 2009 年度予算案は、2008 年度予算実績見込み比 13.3%増の

10 兆 2,084 億ルピーの規模となった。景気対策を含めた積極的な財政支出を志向した予算

案といえる。重点項目として、景気対策、農業支援、輸出企業対策などが盛り込まれた。

農業分野では、農業向け融資枠を大幅に増額するとともに、債務救済スキームに基づく返

済猶予措置をとるなど、農業従事者を支援する内容となっている。また、農村インフラ整

備に向けた歳出額が前年度比 45%増やされた。」6

「2009 年度予算案について、マンモハン・シン首相は、「地方農村開発志向で包括的な

成長を目指し、都市部と農村部の格差を縮めるための予算」としている。重点項目は、①

景気対策、②農業、③輸出企業対策、④財政中期計画、⑤包括的経済成長、⑥弱者層の自

立支援の6つの柱である。これらの内、貧困対策としての意味合いが濃いものは、②農業、

⑤包括的経済成長、⑥弱者層の自立支援である。具体的には、②農業には、(イ)農業向け融

資、(ロ)短期穀物融資、(ハ)農家向け債務救済スキーム、が含まれている。⑤包括的経済成

長には、持続的かつ安定的な経済成長のために強化すべき施策として、(イ)全国農村雇用保

障制度への支出増加による農村部における雇用安定の確保、(ロ)国家食糧安全保障法の導入

による貧困層の食糧確保支援、(ハ)農村インフラ整備計画への支出増加による農村インフ

ラの充実、(ニ)指定カースト向け新規試験事業の導入などが含まれている。更に、⑥弱者層

の自立支援では、2014 年までの貧困撲滅を目指し、各種施策が実施されている。」7

4 前掲 1 文献 8 頁 5 前掲 1 文献 8 頁、同文献では、国際金融情報センター「基礎レポート インド 第 1 章 国土・政治・

社会」(2010 年 4 月)を参照して記述した。 6 前掲 1 文献 8 頁~9 頁 7 前掲 1 文献 8 頁~9 頁、同文献では、三井住友銀行「インド投資ガイド」(2009 年 11 月)を参照し

て記述した。

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(5)農業に関する行政組織

既にみたように、インドにおいては、農業が GDP の 17%を占めること、農村部の人口

が多く、かつ、農村部で貧困層が多いことなどから、農業政策は単なる産業政策ではなく、

農村政策、地方政策、貧困政策など国家にとって極めて重要な意味合いを持っている。

インドの農業に関する行政組織は、直接的には農業省である。しかし、農業政策は、貧

困政策などと密接に絡み合っており、より高次元からの政策立案、見直しが行われ、選挙

対策の目玉となることも多い。この意味で、農業関連政策はインド政府にとって、省庁の

垣根を越えた最重要・最優先の課題であると位置づけられている。

また、インド中央政府の行政組織のなかには、様々な農業関連の組織が存在する。農業

関連の行政組織について整理を行うと以下のとおりである。

1)農業省(Ministry of Agriculture)

農業省は、農業・協同局(Department of Agriculture & Cooperation)、農業研究教育

局(The Department of Agricultural Research And Education(DARE))、畜産・酪農・

漁業局(Department of Animal Husbandry, Dairying & Fisheries)より構成される。

このうち、農業・協同局が農業政策の立案や運用を担当している。また、農業に関連す

る統計、データの収集を行っている。さらに、農業費用価格委員会が毎年の最低支持価格

を算定する際の積算の根拠となる各作物ごとの生産コストに関するデータの収集も行って

いる。これに加えて、国内外の主要農産物の価格の動きについても、細かく情報を収集し

ている。

農業・協同局には、以下の課がある。

・ 州支援計画

・ 作物

・ マクロ管理

・ 油糧種子・豆類技術支援

・ 園芸農業

・ 種子管理

・ 栄養管理

・ 品種管理

・ 機械化・技術

・ 天水農業システム

・ 天然資源管理

・ 信用供与

・ 農協・共済システム

・ 農民活動

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・ 農業マーケティング

・ 情報技術

・ 政策・計画立案

・ 販売

・ 干ばつ管理

・ 国際協力

・ 農業統計

一方、農業研究教育局は、農業に関する研究・開発及び教育を所管しており、傘下にイ

ンド農業研究委員会(Indian Council of Agricultural Research:ICAR)や農業大学を有

している。

また、畜産・酪農・漁業局は文字通り、畜産業、酪農業、漁業を管轄している。

2)インド農業研究委員会(Indian Council of Agricultural Research (ICAR))

農業省農業研究教育局傘下の委員会であり、当初 1929 年に設立された。農業関連研究・

教育の実施、監督、調整を主管している。インド全国で、97 の研究所と 45 の農業大学を

管轄している。また、緑の革命などの農業改革の推進・管理機関となっている。

3)消費者省食料公的分配局(Department of Food and Public Distribution, Ministry

of Consumer Affairs)

公的分配システム(PDS:Public Distribution System)を管轄し、①低所得層に対す

る食料の安全供給、②緩衝在庫の保持による農産物価格の安定化、③買い上げ価格の保証

による生産者へのインセンティブの供与、という 3 つの目的を持つ。

実際の買付けは、関係機関であるインド食料公社(FCI:Food Corporation of India)

を通じて行っている。

4)インド食料公社(The Food Corporation of India)

消費者省食料公的分配局(Department of Food and Public Distribution, Ministry of

Consumer Affairs)の関係機関であり、公的分配システム(PDS:Public Distribution

System)に関わる実際の農産物の買付けを行う。インド食料公社は、政府が定める最低支

持価格(MSP:Minimum Support Price)の水準で農家から穀物などの買い上げを行うと

ともに、買い上げた穀物の貯蔵や輸送などを行っている。本制度においては、買い上げ量

の上限は設定されていない。穀物の買い上げは生産に余剰がある地域で集中的に行われ、

穀物が不足している州まで運搬される。

穀物を買い入れる方法には、主として二つの経路がある。一つは、自由市場を経由せず

に、政府の購入センターに持ち込まれたもみ米と小麦を、最低支持価格の水準で買い入れ

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128

るものである。もう一つは、コメのみに適用される強制調達であり、精米業者から精米済

みのコメを強制的に買い上げることが行われる。この場合の買い入れは、もみ米の最低支

持価格に一定のマージンを加えた強制調達価格の水準で行われ、強制調達の対象となる割

合は州によって異なる。

5)農業費用価格委員会(Commission on Agricultural Costs and Prices: CACP)

上記公的分配システムにおいて、インド食料公社が農産物を買い入れる際に適用される

最低支持価格について、農業費用価格委員会が、主としてコメの生産コストなどを基にそ

の年の最低支持価格案を算定し、消費者省食料公的分配局に勧告する。これを受けて、政

府は、農家の供給意欲を高めるための価格水準や、その時点の備蓄量と今後の備蓄見通し、

低所得者層への分配に必要な量などを勘案して、最終的な最低支持価格を決定する。

また、最低支持価格は、農業生産者の生産意欲を高めることも重要な目的となっている。

このため、原則としては、カリフ期の作付が行われる前に最低支持価格を公表することに

なっているが、この時期にはモンスーンの状況によって作柄が大きく変わりうることもあ

り、実際には作付前の公表は困難になっている。さらに、コメの不作などの影響で政府の

調達目標の実現に支障が出そうな状況となった場合には、年度途中に最低支持価格が引き

上げられることもある。ただし、農業費用価格委員会の勧告は年度初めの 1回だけであり、

年度途中での見直しなどは、消費者省食料公的分配局が対応する。

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3.インドの食料需給の現状と展望

(1)インドのこれまでの食料需給の概要

インドは、独立以来長い期間にわたって、年に数百万トンから 1,000 万トンの穀物を輸

入する穀物輸入大国であった。しかし、1960 年代半ばの大干ばつを契機として、緑の革

命が積極的に進められ、1970 年代後半以降は、穀物の自給をほぼ達成した状態となった。

さらに、1990 年代後半以降になると、コメを中心として大量の穀物生産の余剰を記録す

るようになり、余剰分の輸出をすることも可能となった。輸出のピークとなった 2001~

2002 年には、コメと小麦を中心に 850 万トンもの穀物輸出が行われた。一方、経済発展

が進むにつれ、食用油の需要が伸び、その原料となる油糧種子や豆類の生産が需要の伸び

に追いつかないことから、特に食用油とその原料となる油糧種子類などの輸入が急増して

いる。

インドのこれまでの食料生産についてみると、「三色の革命」によって主要穀物・食料

の増産、自給に成功している。すなわち、コメ、小麦に関する「緑の革命」、油糧種子に関

する「黄色の革命」、牛乳に関する「白い革命」である。

1990 年代から 2000 年代にかけては、コメ、小麦、砂糖が過剰生産となり、ネットの輸

出国に転じた。これら 3 品目について、1991 年の経済改革以後の動向をみると、生産量

の増大要因は各品目で異なる。コメの場合は、単収の増加が大きく寄与した。小麦の場合

は、作付面積が拡大し、単収も増加した。一方、砂糖の場合には、作付面積の増加が増産

に寄与した。作付面積の維持・増加の背景には、最低支持価格の上昇がある。

生産の増加は大量の余剰を生み出し、在庫も急速に積みあがった。この結果、政府は過

剰在庫の処分を余儀なくされ、これが、政府の買い入れコストを下回る価格での輸出をも

たらした。

また、インドでは、モンスーン時期の降雨量が、その年の農産物の生産動向に大きな影

響を与えている。この背景には、灌漑率が 1950 年度の 31.7%から 2006 年度には 56.7%

まで引き上げられたものの、依然灌漑が発達していない地域が多く、降雨量の影響をまと

もに受けてしまうことがある。

(2)主要品目別需給動向

2005 年における、インドの主要食料の需給動向は以下のとおりである。

まず、インドにおける食料消費についてみると、年間の 1 人当たりの消費量が多い品目

は、コメ 71.0kg(1999~2001 年の平均消費量 75.8kg)、小麦 55.4kg(同 57.8kg)、野菜、

73.7kg(同 68.1kg)、牛乳(バターを除く)65.2kg(同 65.9kg)の 4 品目となっている。

インドの食生活は、長年にわたりこれら 4 品目の消費が中心となっている。1999~2001

年の平均消費量との比較でも、コメ、小麦、牛乳がやや減少、野菜が増加傾向にあるもの

の、食生活の基本構造には大きな変化がないといえる。

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130

他の品目についてみると、肉類が同 5.1kg(同 5.0kg)、魚介類が同 4.7kg(同 4.5kg)

となっている。1999~2001 年の平均消費量と比べても、増えているとはいえわずかな増

加にとどまっている。

図表 3-3-1 主要食料の需給動向(2005 年)

(1000 トン)

国内供給 国内需要⑤(①~④合計)

自給率 ①/⑤×100(%)

1 人当たり消費量(kg/年)

国内生産 ①

輸入 ②

在庫取崩③

輸出 ④

穀物 194,147 115 -977 5,527 187,758 103.4 145.6

コメ 91,839 1 -2,976 4,033 84,831 108.3 71.0

小麦 68,637 82 2,000 894 69,824 98.3 55.4

サトウキビ 237,088 0 0 0 237,088 100.0 9.4

砂糖類 23,055 588 4,802 415 28,029 82.3 24.4

豆類 13,227 1,870 0 454 14,643 90.3 10.7

油糧種子 40,901 54 -1,321 479 39,155 104.5 6.9

植物油 8,602 4,933 666 326 13,875 62.0 11.0

野菜類 91,688 25 0 1,571 90,142 101.7 73.7

肉類 6,200 0 0 471 5,730 108.2 5.1

動物性油脂 3,099 21 0 20 3,101 99.9 2.6

牛乳(除バター) 95,619 10 0 1,049 94,580 103.6 65.2

卵 2,539 0 10 99 2,450 101.1 1.8

魚介類 6,312 193 20 617 5,907 106.9 4.7

(資料)FAO Food Balance Sheets

また、自給率についてみると、コメの自給率が 108.3%と高いため、穀類全体でみると

103.4%と自給しているが、小麦は 2005 年の単年では、98.3%とマイナスとなっている。

穀物以外で自給率の低さが目立つのが、植物油(自給率 62.0%)、砂糖類(82.3%)、豆類

(90.3%)である。とくに、植物油と砂糖類は、油糧種子とサトウキビにおいて品目とし

ては自給を達成しているにもかかわらず低くなっており、食生活の変化から油脂や砂糖に

ついて国内生産でカバーできない種類の品目(例えば、食用油の原料となるパーム油など)

の輸入が増えていることが見て取れる。

(3)今後の見通し 今後の自給率の維持可能性

1)インド政府の今後の食料需給予測

2002 年に中央政府の計画委員会が発表した『2020 年のインドビジョン』(India Vision

2020)によれば、2020 年に、インドは世界の主要な食料輸出国の一つになると予測して

いる。

同ビジョンでは、今後の農業の成長率が、①1980 年代と同程度の高成長率となった場合

の予測(Best Case Scenario:BCS、以下、「高成長予測」とする)、②農業の成長率が 1980

年代よりも鈍化した 1990 年代の成長率となった場合の予測(Business As Usual:BAU、

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以下、「通常予測」とする)の 2 通りの予測を行っている。

同ビジョンによれば、コメ、小麦、雑穀、豆類、牛乳の主要 5 品目について、2000 年

の実績と 2020年における需要予測、上記 2通りの生産予測は以下のとおりとなっている。

図表 3-3-2 『2020 年のインドビジョン』による主要農畜産物の需給動向

(100 万トン)

2000 年

実績

2020 年予測

需要予測 生産(通常予測)

Business As Usual

生産(高成長予測)

Best Case Scenario

コメ 89 119 125 207

小麦 76 92 108 173

雑穀 13.6 15.8 13 14

豆類 13.5 19.5 16 23

牛乳 71 166 181 203

(資料)インド計画委員会

この予測に従えば、高成長予測と通常予測のいずれの場合においても、コメ、小麦、牛

乳の自給が 2020 年まで可能であるとしている。

まず、通常予測の場合についてみると、コメは需要 1 億 1,900 万トンに対し、生産 1 億

2,500 万トンで、差引年間 600 万トンの輸出が可能となる。同様に、小麦は 1,600 万トン、

牛乳は 1,500 万トンの輸出が可能と予測されている。一方、雑穀は 280 万トン、豆類は

350 万トン、需要が生産を上回り、輸入が必要となる。

これに対して、高成長予測の場合には、コメ、小麦、牛乳のいずれの場合も、大幅な余

剰が出ることが予測されており、コメが 8,800 万トン、小麦が 8,100 万トン、牛乳が 3,700

万トンと膨大な量の輸出が可能になるとしている。さらに、豆類についても生産が需要を

上回り、輸出余力が生まれるとしている。これが実現するならば、インドは米国も上回る

世界一の穀物輸出国になる。

この予測に限らず、インド政府関係者、あるいはインドの農業関係の研究者などは、一

様に今後のインドの食料需給に関して楽観的な見通しを立てているケースがほとんどであ

る。この背景には、1970 年代に穀物の需給を早くも達成し、その後も穀物の自給を維持し

ているという強い自信があり、今後についても従来の延長路線で対応できるとの見方が大

半を占めている。

2)政府の食料需給予測の評価と今後の食料自給の可能性

『2020 年のインドビジョン』における政府予測についてみると、今後の食料の需要、

供給のいずれの面においても、見通しの甘さがみえる。

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①需要面における食料需給への影響要因

まず、需要についてみると、2020 年までの約 10 年の間で、インドの食料需要に大きな

影響を与えうる要因として、以下の 2 点が挙げられる。

第 1 は、食料穀物需要の増大である。

インドでは、近年、1 人当たりの年間穀物消費量はわずかながら減少傾向にある。FAO

の『Food Balance Sheets』で入手可能な 2005 年のインドの 1 人当たりの穀物消費量は

145.6kg であるのに対し、同統計の 1999~2003 年の平均は 160.4kg となっており、減少

している。『2020 年のインドビジョン』の場合も、2020 年における 1 人当たりの年間穀

物消費量は 2000 年前後の 180kg から微増の 185 ㎏となると仮定されている。すなわち、

2000 年から 2020 年までの 20 年の間で、1 人当たりの穀物消費量はほとんど変化しない

ことが前提となっている。

たしかに、これまでのインドは、巨大な貧困層人口を抱え、平均で見た 1 人当たりの穀

物消費量は、政府の予測に使用した前提では 180kg 前後となっている。このような低い水

準の穀物消費量を補う意味で、野菜や牛乳の消費量が相対的に多いのが、インドの食料消

費パターンの大きな特徴となっている。特に貧困層の場合には、穀物よりも野菜などの消

費が多くなっている。また、インドでは菜食主義者が多いため穀物需要が少ないという説

もあるが、菜食主義者というのは、肉食をしないだけで、野菜ばかりを食べているわけで

はない。むしろ、穀物は菜食主義者にとっての選択肢の一つであり、文化的な要因から穀

物消費量が少ないという指摘は成り立たない。また、そもそもインドの人口に占める菜食

主義者の割合も 2 割以下に過ぎないといわれる。

インド政府の予測では、2020 年までの 1 人当たりの穀物の消費量は大きな変化がない

という前提となっているが、今後は、インドの 1 人当たりの穀物消費量は著しく増加する

可能性が高い。この理由として、現在のインドの 1 人当たり穀物消費量が、世界的にみて

極めて低い水準にあることが指摘できる。FAO による主要国の穀物需要(2005 年)をも

とに他の地域と比較すると、東アジアが 300 ㎏以上(日本 326kg、中国 306kg)、ヨーロ

ッパが 400 ㎏前後(フランス 472kg、ドイツ 380kg)、米国 889kg となっている。インド

でも、今後の所得の上昇や食生活の変化に伴い、穀物の消費量は増加することが予想され

る。

また、食生活の変化も穀物の消費量を増加させる。例えば、食の西洋化に伴い、スパゲ

ッティやピザなどのメニューは、インドでも急速に広まりつつある。このような食生活の

急速な変化の兆しは早くも現れ始めている。例えば、小麦の国内生産量自体は総需要をカ

バーしうる量であっても、スパゲッティ用のデュラム小麦はインドでの栽培は難しく、ス

パゲッティの消費拡大に伴い、スパゲッティないしデュラム小麦の輸入を拡大せざるを得

ない状況にある。

第 2 は、飼料穀物需要の増大である。

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食生活の変化は、肉食の増加として顕著に現れてきつつある。インドでもマクドナルド

などのハンバーガーチェーンやその他のファーストフードチェーンが急速に拡大しつつあ

る。さらに、外食産業の台頭に伴い、都市部を中心に、これまでの家庭中心の食事から、

外食の機会が急速に増加しつつある。実際、所得が高い人ほど、牛乳、卵、肉類、魚介類

の消費が増える傾向にあり、畜産物に対する需要が増加するとともに、将来にわたって畜

産物への潜在的な需要が急速に高まることが予想される。

肉食が増加し、畜産物需要が高まれば、当然のことながら、家畜の飼料用として雑穀な

どの穀物需要が高まることになる。インドにおいても、トウモロコシの飼料向け消費が

1980 年代後半以降急増しており、総生産量に対する飼料用の割合は、2003 年の時点で

41%に達し、現在では 50%を超えているものとみられる。

今後については、畜産業の一層の発展に伴い、飼料用穀物に対する需要が急激に増加し、

トータルでみた穀物に対する需要も大きく増加することが予想される。今後の需要の伸び

を正確に予測することは困難であるものの、インドが今後も高い経済成長を続け、国民の

所得も急速に上昇することが予想されるなかで、食生活の変化も加速し、その結果として

畜産物需要、ひいては飼料穀物に対する需要が増大することが予想される。

②供給面における食料需給への影響要因

今後の穀物生産の増加の可能性についてみるには、これまでの穀物の増産を可能にした

要因がどこにあったかをみる必要がある。

コメ、小麦、雑穀(トウモロコシを含む、以下同じ)の 3 品目について、1980 年代、

1990 年代、2000 年代に分けて、作付面積、生産、単収の増減率をみると以下のようにな

っている。

図表 3-3-3 コメ、小麦、雑穀の作付面積、生産、単収の増減率

(%)

1980 年代

年度平均

1990 年代

年度平均

2000~2007

年度平均

コメ 作付面積 0.4 0.7 -0.1

生産量 3.6 2.0 1.9

単収 3.2 1.3 2.0

小麦 作付面積 0.5 1.7 1.3

生産量 3.6 3.6 1.4

単収 3.1 1.8 0.1

雑穀 作付面積 -1.3 -2.1 -0.4

生産量 0.4 0.0 3.3

単収 1.6 1.8 4.3

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

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まず、コメについてみると、2000~2007 年度には、作付面積が減少するなかで、単収

が年平均 2.0%増と、1990 年代の同 1.3%増を大きく上回った結果、生産量も年平均 1.9%

増と 1990 年代の同 2.0%増と遜色ない増産を確保した。

小麦については、作付面積の増加率が、1990 年代の年平均 1.7%から 2000~2007 年度

は同 1.3%増と鈍化した。一方、単収は 1990 年代の年平均 1.8%から 2000~2007 年度に

は同 0.1%増と大きく鈍化した。この結果、生産量についても 1990 年代の年平均 3.6%増

から 2000~2007 年度には同 1.4%増と大きく低下している。

雑穀については、1980 年代、1990 年代、2000~2007 年度のいずれの期間においても、

作付面積が減少した。それにもかかわらず生産が増加し、特に 2000~2007 年度には生産

が年平均 3.3%増加したのは、単収が同 4.3%増となったことが大きい。

このように、インドの穀物の増産、特に近年の増産においては、単収の増加が果たした

役割が極めて大きいといえる。このような単収の増加は、緑の革命の導入を契機として可

能となったものである。緑の革命においては、高収量品種(High Yielding Variety: HYV)

を選定し、これを普及させることに加え、化学肥料を大量に使用することにより、単収の

増加を実現している。

今後についても、農地自体の面積の拡大が期待できないなか、インドの穀物増産の鍵を

握るのは、単収の増加にかかっている。高収量品種の普及については、これまでで普及可

能な地域にはかなり浸透してきていることがあり、今後は肥料の投入量の増加がポイント

となる。高収量品種は、耐堆性と呼ばれる肥料を投入すれば投入するほど収量が増加する

性質を持っている。このような特性を生かして収量を増やすためには、肥料の大量投入が

必要となる。

インドにおける肥料の使用量についてみると、総使用量、農地 1ha 当たりの使用量とも、

着実に増加してきている。2007 年度の 1ha 当りの肥料の消費量は 117.07kg となってい

る。

図表 3-3-4 肥料使用量の推移

(万トン、kg/ha)

年度 1991 95 2000 05 06 07

総使用量 1,273 1,388 1,670 2,034 2,165 2,257

1ha 当たり使用量 69.84 74.02 89.63 105.50 112.30 117.07

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

このように、インドの肥料使用量は増加しているものの、その単位面積当たりの使用量

は、他の国に比べて依然低い水準にある。インド農業省の"Agricultural Statistics At a

Glance 2009"によれば、2005 年度の数字で、例えば、韓国の場合、1ha 当りの肥料の消

費量は 460kg となっており、先進国では、オランダ 326kg、日本 373kg などとなってい

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る。また、コメの生産の多い途上国の中では、エジプト(625kg)が高いが、インドの場

合、エジプトの 5 分の 1 以下の使用量にとどまっている。

また、肥料消費量が少ない結果として、単収についても、インドは他の国に比べて、依

然低い水準にある。インド政府の発表によれば、2006 年の世界の主要なコメ生産国の 1ha

当りの単収は以下のようになっている。

図表 3-3-5 世界の主要コメ生産国の単収の比較(2006 年度)

(kg/ha)

国 名 単収

エジプト 10,598

日本 6,336

中国 6,285

ベトナム 4,891

インドネシア 4,772

バングラデシュ 3,904

ミャンマー 3,500

パキスタン 3,164

インド 3,124

タイ 2,906

世界平均 4,112

(資料)インド農業省、"Agricultural Statistics At a Glance 2009"

肥料の投入量が多い、エジプト、日本のコメ(籾ベース)の単収は、2006 年で、それ

ぞれ、10,598kg、6,336kg となっており、インドの 2 倍以上の単収となっている。さらに、

アジアの主要コメ生産国の中国と比べて 2 分の 1、ベトナム、インドネシアに比べても、3

分の 2 の水準にとどまっている。さらに、南アジアのバングラデシュやパキスタンと比べ

ても、インドの単収は低い。

このように、現状におけるインドの単収は決して高くないが、それゆえ、今後大きく伸

びる可能性があるともいえる。単収の伸びがどうなるかによって、インド政府が予測する

穀物の増産が計画どおりにいくのか、あるいは、思ったほどには伸びない結果となるのか、

かなり異なる結果になることが予想され、この部分の予測は極めて難しいといえる。

③今後の食料需給に影響を与える要因

これまでみてきた農業自体の変動要因に加えて、今後の食料需給に大きな影響を与えう

る要因として、人口の増加と所得の向上がある。

【人口の増加】

インドの人口は、独立直後となる 1950 年の 3 億 7,000 万人弱から、2007 年には 11 億

6,900 万人に達したものと推計される。この間の人口増加率は、年平均約 2%であった。

なお、インドの現在の人口増加率は 1.4%まで低下してきている。

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今後、人口増加率が徐々に低下していくものと仮定すると、予測では、2020 年のイン

ドの人口は 13 億人弱、2040 年の人口は 15 億人強に達するものとみられている。

食料の需給は、このような人口の増加分に見合うだけの農業生産が今後持続できるかど

うかにかかっている。1991 年から 2003 年の年平均の人口増加率は 1.77%となっている。

これに対して、同期間の主要農産物の年平均の増加率をみると、小麦が 2.17%、砂糖が

1.96%と人口の増加率を上回っているものの、コメは 1.28%とこれを下回っている。

【所得の向上】

高い成長率での経済の発展や急速な都市化の進展に伴い、インドでも中間所得層が台頭

し始めてきた。この結果、インドの平均的な食生活である菜食中心の伝統的な食事にも変

化がみえ始めている。油脂の消費量は確実に増加傾向にあり、また、徐々にではあるもの

の、肉類、魚介類の消費量も増え始めている。また、加工食品に対する需要も徐々に増加

傾向にある。

このような食生活の変化が農産物の生産に最も大きなインパクトを与えるのは、肉類の

消費増加に伴う畜産物の増加であり、結果的には飼料穀物に対する需要の増加である。

④今後のインドにおける食料需給の動向予測

これまでみてきたように、食料の需給には、需要面、供給面の両面において、様々な要

因が絡み合って影響を与えている。従って、前提条件が多少変化するだけで、予測の結果

も大きく変わりうる状況にある。

ここでは、これまでみてきた様々な要因を勘案したうえで、主要農産物、食料の需要と

供給について、2011 年、2021 年、2026 年の状況について、以下のとおり予測した。需要

予測のシナリオⅠは安定成長シナリオ、シナリオⅡは高成長シナリオである。

図表 3-3-6 主要農産物および食品の需要予測

(100 万トン)

シナリオⅠ シナリオⅡ

2011 年 2021 年 2026 年 2011 年 2021 年 2026 年

穀物 187.8 242.8 273.5 188.5 245.1 277.2

コメ 94.5 96.9 102.2 94.4 96.8 102.1

小麦 60.1 66.8 69.1 59.0 64.3 65.9

豆類 23.0 38.7 51.0 24.1 42.5 57.7

食用油 15.7 26.7 35.3 16.8 30.2 40.9

砂糖 26.7 55.0 81.1 29.3 65.7 100.7

(資料)日本総合研究所作成

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図表 3-3-7 主要農産物および食品の供給予測

(100 万トン)

2011 年 2021 年 2026 年

穀物 209.7 242.2 260.2

コメ 95.7 105.8 111.2

小麦 80.2 91.6 97.9

豆類 16.1 17.6 18.4

食用油 10.1 12.5 13.9

砂糖 25.0 26.0 26.6

(資料)日本総合研究所作成

以上の需要予測と供給予測を踏まえ、2011 年、2021 年、2026 年の主要農産物および食

品の需給動向を取りまとめると以下のとおりである。

図表 3-3-8 主要農産物および食品の需給予測

(100 万トン)

シナリオⅠ シナリオⅡ

2011 年 2021 年 2026 年 2011 年 2021 年 2026 年

穀物 21.9 -0.6 -13.3 21.2 -2.9 -17.0

コメ 1.2 8.9 9.0 1.3 9.0 9.1

小麦 20.1 24.8 28.8 21.2 27.3 32.0

豆類 -6.9 -21.1 -32.6 -8.0 -24.9 -39.3

食用油 -5.6 -14.2 -21.4 -6.7 -17.7 -27.0

砂糖 -1.7 -29.0 -54.5 -4.3 -39.7 -74.1

(資料)日本総合研究所作成

穀物のうち主要産品のコメと小麦は今後も自給を維持できる見通しとなっている。また、

供給量から需要量を差し引いた輸出余力は、小麦の場合で 2,000~3,000 万トン、コメの

場合で 900 万トン程度を維持するものと予想される。

一方、穀物全体では、飼料穀物に対する需要増加に伴い、自給の維持は困難になるもの

とみられる。

また、これ以外の豆類、植物油、砂糖については、自給は困難とみられる。

以上を踏まえると、インドは将来的にもコメと小麦を中心に自給を維持するものの、主

要農産物および食品全体としては、輸入への依存度が高まり、これが世界的な食料の需給

動向において不安定要因をもたらすことは避けられない見通しである。

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