第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 ›...

16
アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節 通商白書 2010 185 2 (1)中間層の拡大 アジアには、人口 13 億人の中国、12 億人のインド といった人口大国が存在し、アジア全体で世界人口の 5 割を占めている(第 2-3-1-1 図)。こうした巨大な 人口を抱えるアジアが経済成長し、人々の購買力が向 上する影響は大きい。 中国、インド、ASEAN の一人当たり消費額(2008 年 ) は、 中 国 で 1,215 ド ル、 イ ン ド で 576 ド ル、 ASEAN 1,478 ドルであり、米国の 32,883 ドルや我が 国の 22,233 ドルと比較すると小さいものの、国・地域 全体でみた場合には、中国で 16,133 億ドル、インドで 6,838 億ドル、ASEAN 8,573 億ドルと一大消費市場 1 拡大するアジア消費市場 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 2 節では、消費市場としてのアジアが注目される 中で、東アジア生産ネットワークが、販売拠点や研究 開発拠点も含めたネットワークへと発展しつつあるこ とについて確認した。 本節では、消費市場としてのアジアについて様々な 角度から分析を行う。アジアを消費市場としてみた場 合、NAFTA EU と比較して経済規模や貿易規模に ついては、大きな違いはないものの、一人当たり GDP は、NAFTAEU の約 4 分の 1 と小さく、アジア 域内における国・地域別の一人当たり GDP の格差も 大きいことから、アジアは NAFTA EU とは異なっ た特徴を持つ市場となっている。ここでは、こうした アジアで消費される財・サービスそれぞれの特徴や販 売形態等について確認するとともに、アジア消費市場 が今後さらに拡大し、世界の大消費市場となる可能性 について検証する。 第 2-3-1-2 図  世界の消費市場規模と人口(2008 年) 第 2-3-1-1 図  国・地域別の世界人口構成(2008 年) 資料:IMF「World Economic Outlook」から作成。 中国 20% インド 18% ASEAN 9% その他アジア 3% EU 7% 米国 5% 南米 6% アフリカ 14% その他 18%

Transcript of 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 ›...

Page 1: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節

通商白書 2010 185

第2章

(1)中間層の拡大アジアには、人口13億人の中国、12億人のインド

といった人口大国が存在し、アジア全体で世界人口の約5割を占めている(第2-3-1-1図)。こうした巨大な人口を抱えるアジアが経済成長し、人々の購買力が向上する影響は大きい。中国、インド、ASEANの一人当たり消費額(2008

年)は、中国で 1,215ドル、インドで 576ドル、ASEANで1,478ドルであり、米国の32,883ドルや我が国の22,233ドルと比較すると小さいものの、国・地域全体でみた場合には、中国で16,133億ドル、インドで

6,838億ドル、ASEANで8,573億ドルと一大消費市場

1 拡大するアジア消費市場

第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

第2節では、消費市場としてのアジアが注目される中で、東アジア生産ネットワークが、販売拠点や研究開発拠点も含めたネットワークへと発展しつつあることについて確認した。本節では、消費市場としてのアジアについて様々な角度から分析を行う。アジアを消費市場としてみた場合、NAFTAやEUと比較して経済規模や貿易規模については、大きな違いはないものの、一人当たり

GDPは、NAFTA・EUの約4分の1と小さく、アジア域内における国・地域別の一人当たりGDPの格差も大きいことから、アジアはNAFTAやEUとは異なった特徴を持つ市場となっている。ここでは、こうしたアジアで消費される財・サービスそれぞれの特徴や販売形態等について確認するとともに、アジア消費市場が今後さらに拡大し、世界の大消費市場となる可能性について検証する。

第2-3-1-2図 �世界の消費市場規模と人口(2008年)

第2-3-1-1図 �国・地域別の世界人口構成(2008年)

資料:IMF「World Economic Outlook」から作成。

中国20%

インド18%

ASEAN9%その他アジア

3%

EU7%

米国5%

南米6%

アフリカ14%

その他18%

Page 2: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

2010 White Paper on International Economy and Trade186

第 2章 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

としての存在感がある(第2-3-1-2図)。近年、消費市場としてのアジアが急成長しており、我が国現地法人の地域別売上高は、アジア現地法人企業数の増加の影響もあるが、2006年第2四半期にアジア地域が北米を上回り最大の売上高地域となっている(第2-3-1-3図)。2008年後半から世界経済危機の影響により、各地域とも売上高は大きく減少したが、北米や欧州が低迷する中、アジアはいち早く世界経済危機前の水準まで回復している。なお、アジア現地法人の2009年の売上高を国・地

域別でみると、中国(含香港)が44%、ASEAN4が

38%となっており、合計で約8割を占めている(第2-3-1-4図)。中国やインド等のアジアの個人消費額は、近年増加しており、更なる経済成長や耐久消費財の普及等に後押しされ、今後とも増加し続けると考えられる。2020

年には中国の個人消費額は5.57兆ドルと、我が国を大きく上回ることが予想されている。また、2020年には、アジア全体の個人消費額は16.14兆ドルと、我が国の約4.5倍に成長し、欧州を抜き、米国に並ぶ見込みである 1(第2-3-1-5図)。

1 なお、2020年の各国・地域の実質ベースの個人消費額予測はそれぞれ、日本3.39兆ドル、中国4.38兆ドル、アジア全体(ASEAN+日中韓+インド)12.30兆ドル、米国12.60兆ドル、EU10.41兆ドル。

第2-3-1-3図 �我が国現地法人の地域別売上高の推移

5,523

9,883

3,203

1,528

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

4-67-9

10-121-34-67-9

10-121-34-67-9

10-121-34-67-9

10-121-34-67-9

10-121-34-67-9

10-121-34-67-9

10-121-34-67-9

10-121-34-67-9

10-12

200920082007200620052004200320022001

北米アジア欧州その他

(億ドル)

資料:経済産業省「海外現地法人四半期調査」から作成。

第2-3-1-4図 �我が国のアジア現地法人売上高の地域別内訳2009年9,883億ドル

NIES311%

資料:経済産業省「海外現地法人四半期調査」から作成。

中国(含香港)44%

ASEAN438%

その他アジア7%

第2-3-1-5図 �アジア各国・地域の個人消費額の実績と予測

2.731.53

0.66 0.85 0.85

2.36

9.86 10.30

3.61

5.57

3.062.22 1.68

6.96

15.78

12.67

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

日本 中国 インド ASEAN NIEs3 インド+ASEAN+NIEs3

米国 EU

2008 2020

(兆ドル)

備考:1.名目ベース、ドル換算。2.ここでいうアジアは、ASEAN+日中韓+インド。

資料:Euromonitor International2010から作成。

NIEs3ASEANインド中国日本

2008

2020

16.14

6.62

アジア全体

Page 3: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節

通商白書 2010 187

第2章

こうしたアジア新興国における個人消費が拡大するなかで、中間所得者層(世帯可処分所得5,000~35,000ドル)の拡大が注目されている。アジア新興国における中間所得者層は、2000年に

2.2億人から、2010年には、9.4億人に拡大しており、米国、EUを合わせた人口規模を上回っている(第

2-3-1-6図)。また、アジア新興国における中間所得者層は、2020年には20億人に拡大することが見込まれており(第2-3-1-7図)、世帯可処分所得35,000ドル以上の富裕層2.3億人(第2-3-1-8図)と合わせると、アジア新興国全体の3分の2を占めるまでに拡大する見込みとなっている。

第2-3-1-6図 �アジア新興国における所得階層別人口の推移

2.2 8.814.5

20.0

0.3

0.61.2

2.3

9.1 9.0 10.211.8

14.517.520.8

26.2

31.2 30.432.1

48.3

66.0

0

5

10

15

20

25

30

35

40

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

2019

2020

0

10

20

30

40

50

60

7035千ドル以上5~35千ドル5千ドル未満5千ドル以上の比率(右目盛)

(億人)

備考1:世帯可処分所得の家計人口。備考2:2009年までが実績値。それ以降は予測値。資料:Euromonitor international2010から作成。

第2-3-1-7図 アジアの中間層の推移

0

5

10

15

20

25

2000 2005 2010 2015 2020

その他インド中国

(億人)

2.2 4.6

9.4

14.5

20.0

2.1倍

4.3倍

中国9.7億人

その他4.1億人

インド6.2億人

5.0

2.5

1.9

0.7

1.10.4

推計値

備考:世帯可処分所得の家計人口。アジアとは中国・香港・台湾・インド・インドネシア・タイ・ベトナム・シンガポール・マレーシア・フィリピン。2010年、2015年、2020年はEuromonitor推計値。

資料:Euromonitor international 2010から作成。

第2-3-1-8図 アジアの富裕層の推移

1.0 0.9 0.91.0

1.0

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

日本

アジア(日本除く)

日本

アジア(日本除く)

日本

アジア(日本除く)

日本

アジア(日本除く)

日本

アジア(日本除く)

2000 2005 2010 2015 2020

その他 インド中国 日本

(億人)

0.3 0.5

0.6 1.2

2.3

推計値

(年)

備考:世帯可処分所得の家計人口。アジアとは中国・香港・台湾・インド・インドネシア・タイ・ベトナム・シンガポール・マレーシア・フィリピン。各所得層の家計比率×人口で算出。

資料:Euromonitor International 2010から作成。

3.5倍

1.9倍

Page 4: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

2010 White Paper on International Economy and Trade188

第 2章 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

(2)消費マインドの回復世界経済危機は、アジア各国・地域の輸出減少、生産・雇用調整を通じて、アジア消費にも大きく影響を及ぼしている。アジア各国の消費信頼感指数は、2007

年後半から大きく落ち込んだ(第2-3-1-9図)。しかし、その後アジアでは、景気刺激策の効果や今後の成長期待から、2009年に入り、各国の消費信頼感指数は回復している。すでにインドネシアや韓国で

は、世界経済危機以前の水準を上回るまでに回復している。また、アジア各国の家計支出をみても、2008

年後半から前年同月比でマイナスに転じた国が多いが、2009年後半からは、韓国、インドネシア、タイ等で回復しつつある(第2-3-1-10図)。このように、アジア消費は世界経済危機の影響からいち早く回復し、さらなる拡大に向けて動き出している。

第2-3-1-10図 �各国の家計支出(前年同月比)の推移

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

121110987654321121110987654321121110987654321

200920082007

中国 インドネシア 日本韓国 マレーシア シンガポールタイ

資料:CEIC Databaseから作成。

(前年同月比)

第2-3-1-9図 �各国の消費信頼感指数の推移

85

90

95

100

105

50

60

70

80

90

100

110

120

130(2007年1月=100) (2007年1月=100)

資料:CEIC databaseから作成。

インドネシア中国(右軸)

日本タイ(右軸)

(年月)121110987654321 121110987654321 121110987654321 321

2008 2009 20102007

(1)アジアの消費トレンド経済産業省では、日系企業のアジアのボリューム

ゾーン獲得支援を目的に、平成21年3月に「アジア消費トレンドマップ」2を作成し、拡大するアジアの中間所得者層の消費実態調査を行った。本調査では、消費トレンドの発信地として、アジアの4都市(香港、シンガポール、バンコク、ムンバイ)を指定し、20~30代の中間所得者層を対象に、衣・食・住・移動・娯楽の各分野でどのような消費実態がみられるかを調査した 3。

(a)アジア消費トレンドの現状アジアの都市中間層では、全体として経済成長に伴う消費生活の現代化が進んでおり、更なる成熟への希求がみられた。例えば、ファッション・美容にお金を

かけると答えた消費者は全ての都市において6割を超えており、食の分野でも多少高くても料理には良い食材を使うと答えた消費者は7割を超えていた(第2-3-

2-1図)。携帯、PC、デジタルカメラ、白物家電などの家電製品も普及が進み、調査対象の中間層以上では8割を超えて普及していることがわかった。デジタル機器に関しては、機能を絞り込み、価格を抑えた機種が受容されていることが分かった。

(b)更なるマーケティング&プロモーションの必要性日本製品の置かれた現状についてみると、調査対象の都市全てにおいて、品質、信頼感、技術力が優れているというポジティブなイメージが抱かれている(第2-3-2-2表)。注目すべきは、品質や技術に次いで評価されている項目として、「現代的」、「デザインがよい」

2 アジアの消費実態・トレンド

2 詳細については経済産業省Webサイトを参照(http://www.meti.go.jp/report/data/g100329aj.html)。3 調査設計は二段階に分けられ、第一に、生活環境・価値観を示す商品の写真撮影による実態情報と意識項目の調査により、生活環境全般及びライフスタイルの把握と消費傾向の分析を行うフォトダイアリー調査と、第二に、代表的な消費者像と見込まれる消費者に焦点をあて、フォトダイアリーで得られた消費性向の背景、価値意識などをより精査な消費実態、嗜好、価値観などを明らかにするフォーカスグループインタビュー調査(FGI調査)を行った。その上で、衣・食・住・移動・娯楽分野における各国の消費傾向をグラフにプロットし、各都市の消費者がどのような嗜好に基づいて消費を行っているかの相対的関係を示すマップを作成した。

Page 5: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節

通商白書 2010 189

第2章

など感性的イメージが挙げられる点であり、これらを付加価値に変換した商品作りが求められている。また、日本製品に対する選択肢の豊富さや消費の楽しさを喚起しているといった評価も高く、様々なラインナップから自分の好みで選べることが大きな強みとなっている。他方で、日本製品は価格が高いというイメージが強く、価格に見合う価値をアピールできていない点が見い出された。例えば家電製品では、消費者の求める機能と製品にミスマッチが生じている可能性がある。また、そもそも日本製品の情報が不足しており、アジアの消費者から日本製品のイメージそのものが持たれていないケースもみられた。例えば、インドでは「日本について知っていることが一つもない」との回答が30%に達するなど、日本のファッションや食分野への接触機会が少なく、有効なプロモーションが行われて

いない可能性がある(第2-3-2-3図)。

(c)日本製品のチャンスと課題前述のとおり、日本製品は「品質」、「信頼感」、「技

第2-3-2-1図 �アジアにおけるライフスタイル意識項目

65.0

77.5

82.5

62.0

58.0

80.0

84.0

76.0

54.0

76.076.0

54.0

76.0

62.0

88.0

42.0

72.0

92.0

82.0

76.0

40

60

80

100

全体シンガポールインド

タイ香港

国内ブランドより海外ブランドが好き

ファッション・美容/着るものにはお金をかける

多少高くても料理には良い材料を使う

クルマにはこだわりがある

(%)

資料:経済産業省「平成21年度アジア消費トレンド研究会報告書」から作成。

第2-3-2-3図 �日本について知っていることが一つもないとの回答率

220

30

0

40

インド香港シンガポールタイ

(%)

資料:経済産業省「平成21年度アジア消費トレンド研究会報告書」から作成。

第2-3-2-2表 �アジアにおける日本製品のイメージ

n数 1 2 3 4 5 6

全体 200 品質が良い78.5

信頼できる65.5

技術力がある/高い56.5

デザインが良い54.5

現代的50.5

価格が高い42.0

タイ 50 品質が良い74.0

技術力がある/高い56.0

現代的52.0

信頼できる46.0

価格が高い36.0

デザインが良い32.0

シンガポール 50 品質が良い82.0

信頼できる80.0

技術力がある/高い74.0

価格が高い66.0

デザインが良い62.0

壊れにくい54.0

香港 50 品質が良い88.0

信頼できる80.0

デザインが良い78.0

多機能74.0

技術力がある/高い68.0

最先端66.0

インド 50 品質が良い70.0

信頼できる56.0

使う人のことを考えている48.0

高級感がある48.0

デザインが良い46.0

現代的42.0

資料:経済産業省「平成21年度アジア消費トレンド研究会報告書」から作成。

Page 6: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

2010 White Paper on International Economy and Trade190

第 2章 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

術力」といった項目において評価が高く、次いで「デザインがよい」、「オシャレ」、「かっこいい」、「かわいい」等のイメージが持たれている。特に品質が安定しない製品やサービスがまだまだ多いアジア諸国においては、信頼感や安心感は、日本における以上に価値あるイメージとなっている。また、コンパクトに工夫された製品は日本のイメージとうまく合致しており、ライフスタイルの都市化が進むアジアの消費者に高評価を得ている。他方で多機能・高機能で価格が高くなるよりも、むしろ「適度な機能と価値に見合った価格」が望まれていることが伺えた。例えば韓国製品は、求められる機能を絞り込み、価格を押さえ積極的なプロモーションでシェアを急激に伸ばしている(第2-3-2-4図)。特に、香港、バンコク、シンガポールでは、韓国文化・製品の浸透が急激に進んでいる。音楽、アイドル、ドラマなどコンテンツ領域では日本を大きく上回る浸透がみられた。こうした状況はコンテンツ分野だけでなく、テレビドラマの中でみられる韓国製のファッションや携帯電話などの消費を促していると推測される。コンテンツや日本のライフスタイル、ブランドイメージをうまくプロモーションに組み込むことで他の分野の消費につながる可能性が高い(第2-3-2-5

表)。

(2)耐久消費財の消費動向製品ごとの消費状況を国・地域別にみると、液晶テレビやノートブックPC等、2008年の欧米での消費需要は依然として大きい(第2-3-2-6図)。しかし、2014年の消費需要予測(乗用車については2015年)をみると、中国、アジアの消費需要は欧米に匹敵するほど高く、アジア市場の存在感のさらなる高まりが見込まれている。なお、ルームエアコンや洗濯機といった家電製品については、既に2008年において、中国やその他アジアの消費需要が大きく、アジア消費市場の存在感が高まっている。液晶テレビやパソコン等については、既に製造拠点

が中国等のアジア新興国に移転しており、自動車についても、現地で販売するものについては、現地で生産するなど、市場の拡大に応じて、生産・販売拠点のアジア新興国地域へのシフトが進められている。さらに、近年では、現地市場向けに家電製品等の製品設計

を行うなど、研究開発拠点をアジアに設置する動きもみられている。

第2-3-2-4図 �アジア消費トレンドマップ・グループインタビュー発言の一部

「サムソン製は家で使っているが、サムソン製のほうがプロモーションがよい。日本のものよりもプロモーションが良ければ、韓国のものを買う。」(シンガポール女性)「携帯電話ではサムソン製も安いので好き。サムソン製で狙っているものは、800万画素のカメラつきの携帯電話。カメラ重視で購入する。」(バンコク男性)

資料:経済産業省「平成21年度アジア消費トレンド研究会報告書」から作成。

グループインタビュー発言より

第2-3-2-5表 �各都市における衣食住、乗用車バイク等、娯楽(コンテンツ)における日本ものの浸透度等

衣・日本のファッションの浸透度は、香港>シンガポール・バンコク>ムン

バイ。・香港では日本のファッション誌が読まれており、実際の洋服にも接触有

り。シンガポール以下では情報は少ない。少数の日本のテレビ番組などで接する断片的な情報からイメージ。むしろ韓国ファッションの方が浸透。

・一部、日本ファッションの情報が非常に先端的、尖鋭的なものに偏り、「過激すぎる」「極端すぎる」といったイメージあり。ボリュームゾーン向けのファッション情報発信が必要。

食・4都市ともに、目新しさや見た目の華やかさへの期待から、家庭内でも

外国料理を取り入れ出している様子。・重視されている要素としては、香港→食の安全性、シンガポール→味と

簡便性、ムンバイ→味、バンコク→健康、美容・ムンバイ以外の3都市では、日本製品は広く出回っており、品質の高さ、

安全性への信頼、味の良さなどの好イメージ。・ムンバイでは日本製品の認知度が低い。住・4都市ともに、日本の家電製品は幅広く浸透し、イメージも高い。・最も評価されているのは“きちんと品質管理されて作られている”とい

う品質への信頼感。デザインがよい、オシャレ、かっこいい、かわいい等といったイメージも高評価。

・一方、日本製の住宅機器は認知が不十分。あまりブランドが意識されていない分野。

・ムンバイを除くと、日本に似た住環境であり、日本の住宅機器のコンパクトさと、信頼性をうまくアピールすれば、受容性は大きい可能性。

移動①(携帯)・香港>シンガポール>バンコク>ムンバイの順でハイスペックなものが

求められている。・目新しさ、デザインのかっこよさは共通して重視。・日本製品は、シンガポールでは先進的なイメージが持たれているが、香

港ではむしろ台湾・韓国などより遅れているイメージ。バンコクやムンバイでは情報自体が少ない。

移動②(車・バイク)・ムンバイではステータス感がかなり意識されているが、他の都市では実

用性重視。・4都市ともに、日本の車・バイクに対するイメージは高い。技術力の高

さや燃費の良さ、耐久性への評価。・付加価値としては、運転をサポートしたりアメニティを高めたりといっ

た実利的な方向への関心あり。・エコカーや運転サポート機能に対する興味は高いものの、実際の購入・

利用に対してはコスト面に関心。娯楽(コンテンツ)・日本のコンテンツの浸透度は、香港>シンガポール・バンコク>ムンバ

イ。・最も浸透している日本コンテンツはゲームとアニメ。ともに、日本のも

のはクオリティが高く深みもあると評価が高い。・日本のものより韓国のテレビ番組や音楽、タレントがポピュラー。

資料:経済産業省「平成21年度アジア消費トレンド研究会報告書」から作成。

Page 7: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節

通商白書 2010 191

第2章

アジア新興国における、消費需要の高まりは、携帯電話、パソコン等の耐久消費財の普及率からも予想することができる(第2-3-2-7表)。特に、巨大な人口を抱える中国、インド、インドネシア等では、携帯電

話、パソコン、乗用車等の普及率が、我が国等の先進国と比較すると低い。今後の普及率の高まりを考慮すると、アジア消費市場の拡大が期待できる。

第2-3-2-6図 �製品別の各国・地域の消費需要

携帯電話(UMTS)

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

液晶テレビ(LCD-TV)

0

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

45,000

50,000

その他欧州中南米北米アジア中国日本

その他欧州中南米北米アジア中国日本

その他欧州中南米北米アジア中国日本 その他欧州中南米北米アジア中国日本

その他欧州中南米北米アジア中国日本 その他欧州中南米北米アジア中国日本

2008年 2014年(予測) 2008年 2014年(予測) 2008年 2014年(予測)

2008年 2014年(予測) 2008年 2015年(予測) 2008年 2014年(予測)

(千台)

(千台)

ルームエアコン

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000(千台)ノートブックPC

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000(千台)

洗濯機

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000(千台)自動車

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

資料:FOURIN「世界自動車統計年刊」から作成。

(千台)

資料:Euromonitor International 2010 から作成。 資料:Euromonitor International 2010 から作成。資料:Euromonitor International 2010 から作成。

資料:Euromonitor International 2010 から作成。資料:富士通キメラ総研「ワールドワイドエレクトロニクス市場総調査」から作成。

第2-3-2-7表 �アジア各国・地域の耐久消費財普及率世帯当たり

人口(百万人) 携帯電話 年 パソコン 年 乗用車 年 テレビ 年日本 127.7 86.4 (2008) 40.7 (2003) 44.1 (2004) 99.0 (2004)韓国 48.6 93.8 (2008) 57.6 (2007) 24.0 (2006) ―中国 1,327.7 47.8 (2008) 5.7 (2006) 1.8 (2006) ―香港 7.0 163.0 (2008) 68.6 (2007) 5.2 (2006) 99.0 (2007)シンガポール 4.7 131.7 (2008) 74.3 (2007) 10.5 (2006) 98.6 (2002)マレーシア 27.3 100.5 (2008) 23.1 (2006) 22.5 (2003) ―タイ 66.4 118.0 (2007) 6.7 (2005) 5.4 (2003) ―インドネシア 228.6 61.6 (2008) 2.0 (2006) 1.2 (1996) 65.4 (2004)フィリピン 90.5 75.4 (2008) 7.2 (2006) 0.9 (2005) 63.1 (2003)ベトナム 86.2 81.2 (2008) 9.6 (2006) ― 70.0 (2002)カンボジア 13.7 28.8 (2008) 0.4 (2007) 2.5 (2001) 55.2 (2005)インド 1,186.3 30.4 (2008) 3.3 (2007) 0.8 (2003) 45.9 (2006)オーストラリア 21.6 103.5 (2008) 60.3 (2003) 54.2 (2005) ―ニュージーランド 4.3 108.2 (2008) 52.6 (2006) 60.9 (2006) 98.5 (2007)

備考:人口は2008年、携帯電話、パソコン、乗用車は100人当たりの保有台数、テレビは、100世帯当たりの保有台数。資料:IMF「World Economic Outlook」、世銀「World Development Indicators 2009」から作成。

Page 8: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

2010 White Paper on International Economy and Trade192

第 2章 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

(3)アジア各国のサービス支出動向アジア各国で耐久消費財の普及率が高まる中で、

サービスについても支出が増えている。1998年から2008年の10年間に、アジア全体のサービス支出は1.6

倍に増えており、今後10年間でさらに2倍増え、2018

年には7.5兆ドルに近づくことが予測されている。(第2-3-2-8図)サービス支出の家計消費に占める割合についても増加しており、中国、インドでは家計消費の4

割程度をサービス支出が占めている(第2-3-2-9図)。

アジア新興国におけるサービス支出の中身をみると、それぞれ異なる特徴を持っている。中国では情報通信、タイ、インド等では旅行、インドネシアでは教育が、サービス支出のうち最も支出額の多い分野となっている(第2-3-2-10図)。いずれの分野も2000年から2008年にかけて支出が

拡大している。アジア新興国ではサービス需要が拡大すると同時に、求められるサービスの質も向上すると考えられる。

第2-3-2-8図 �アジア各国・地域のサービス支出の実績・予測

0

1

2

3

4

5

6

7

8

1998 2008 2018 (年)

NIEs3豪州・ニュージーランドインドASEAN中国日本

(兆ドル)

資料:Euromonitor International 2010から作成。

第2-3-2-9図 �中国、インド、インドネシア、タイのサービス支出及び家計支出に占めるサービス支出の割合

18.4

40.9

27.3

39.7

14.9

32.929.2

34.1

7,000

6,000

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

0

1990年

2008年

1990年

2008年

1990年

2008年

1990年

2008年

タイインドネシアインド中国

45

40

35

30

25

20

15

10

5

0

サービス支出額家計支出に占めるサービス支出の割合(右目盛)(億ドル)

資料:EUROMONITOR「World Consumer Spending 2009/2010」   から作成。

(%)

Page 9: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節

通商白書 2010 193

第2章

第2-3-2-10図 �アジア各国の一人当たりサービス関連支出

72

121

94

35

20

26

25

4

0 50 100 150

教育

情報通信

健康及び医療

旅行

中国

20002008

(ドル)

15

18

24

86

6

4

14

38

0 20 40 60 80 100

教育

情報通信

健康及び医療

旅行

インド

(ドル)

79

20

32

44

15

4

9

9

0 20 40 60 80 100

教育

情報通信

健康及び医療

旅行

インドネシア

(ドル)

資料:Euromonitor Internationalから作成。

21

40

140

425

12

16

78

154

0 100 200 300 400 500

教育

情報通信

健康及び医療

旅行

タイ

(ドル)

60

236

103

719

31

72

34

264

0 200 400 600 800

教育

情報通信

健康及び医療

旅行

マレーシア

(ドル)

59

8

42

105

31

5

14

44

0 20 40 60 80 100 120

教育

情報通信

健康及び医療

旅行

フィリピン

(ドル)

20002008

20002008

20002008

20002008

20002008

(1)小規模小売店販売が主流であるアジア消費市場アジア新興国では、物流網や流通システムの整備が先進国と比べて遅れていることもあり、大規模な小売チェーンよりも小規模な小売店を通じた消費財の販売が多い。消費財売上全体に占める小規模小売店を通じた販売の割合は、インドやベトナム、インドネシアでは9割を超えている(第2-3-3-1図)、中国においても、3級都市や4級都市 4といった小規模な都市においては、独立系スーパーマーケットや、家族経営による零細小

売店、ローカルな飲食店等が数多く見受けられる。こうした地域は、多くの消費財について急速に需要が高まっているものの日系企業の投資において軽視されがちである。例えば、マッキンゼーによる調査 5では、日系企業のテレビのブランドの認知度は、1級都市では35%であったが、2級以下の都市では低い(第2-3-

3-2図)。一方、中国企業は、より小規模な都市でもニーズにあった商品を販売し、高い認知度を得ている。

3 多様化するアジアの販売形態

4 中国は、人口や経済規模などにより都市を1級から5級に分類している。1級都市は直轄市、特別行政区などを指し、北京、上海、香港等が含まれる。3級都市は、沿海都市・経済が発達していて収入が高い都市を指し桂林等が含まれ、4級都市は人口100万都市・重点経済都市を指し、洛陽等が含まれる。

5 ブライアン・ソーズバーグ、金田修、李翔、ゴードン・オール(2009)「中国の消費者市場で成功を収めるために」McKinsey Asia Consumer and Retail。

Page 10: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

2010 White Paper on International Economy and Trade194

第 2章 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

(2)アジア消費市場で拡大するオンライン・ショッピングアジア消費市場の拡大は、インターネットの普及等によって、オンライン・ショッピングの拡大という現象にも現れている。インターネットの利用人口は、既に中国が世界最大となっており、インドについては普及率は低いものの世界第4位となっている(第2-3-3-3表)。中国のB to

C電子商取引市場は、毎年約2倍のペースで急拡大するなど(第2-3-3-4図)、インターネットの普及の進展により、世界のオンライン・ショッピングは、中国、インドがけん引していくと考えられる。また、アジア新興国でも所得水準の向上とインターネットの普及率の上昇につれて、オンライン・ショッピングの更なる成長が実現すると考えられる。中国やインドでは、オンライン・ショッピングを利用するのは、それぞれの国内で所得の高い層に限られている。しかし、所得に占めるオンライン・ショッピングの利用額の割合をみると、中国で10.9%、インドで9.4%と他のアジア国・地域と比較して高く、利用者がオンライン・ショッピングを積極的に活用する傾向がみられる(第2-3-3-5表)。こうした中で、ネット通販業者をはじめとしたビジネスのアジア新興国への展開を図る日系企業も増えている(第2-3-3-6表)。例えば、2010年1月、楽天は、中国の検索エンジン

最大手の百度(バイドゥ)と提携し、中国でのネット

通販事業に参入すると発表している。楽天の海外への事業展開は、2008年の台湾、2009年のタイに次いで3

例目となっており、アジアへの展開が中心となっている。一方、アジア新興国では、未成熟なオンライン決済システムや配送ネットワークの整備の遅れといった制約条件が存在し、消費者にとっては、利用するオンライン・ショップのセキュリティに対する不安や、手軽

第2-3-3-3表 �インターネット利用人口世界ランキング(2009年9月末現在)

順位 国名 インターネット利用人口 人口普及率1 中国 3億8,400万人 26.90%2 米国 2億2,772万人 74.10%3 日本 9,598万人 75.50%4 インド 8,100万人 7%5 ブラジル 6,751万人 34%6 ドイツ 5,423万人 65.90%7 英国 4,668万人 76.40%8 ロシア 4,525万人 32.30%9 フランス 4,310万人 69.30%

10 韓国 3,748万人 77.30%11 イラン 3,220万人 48.50%12 イタリア 3,003万人 51.70%13 インドネシア 3,000万人 12.50%14 スペイン 2,909万人 71.80%15 メキシコ 2,760万人 24.80%16 トルコ 2,650万人 34.50%17 カナダ 2,509万人 74.90%18 フィリピン 2,400万人 24.50%19 ベトナム 2,196万人 24.80%20 ポーランド 2,002万人 52%

備考:中国の数値は、2009年末現在のもの。資料:Internet World Statsから作成。

第2-3-3-2図 �中国における日中テレビメーカーのブランド認知度(思い浮かべるテレビブランド上位3つまで)

47

41 4244

35

1412

9

50

45

40

35

30

25

20

15

10

5

0 1級都市 2級都市 3級都市 4級都市

(%)中国のブランド日本のブランド

備考:1級都市n=475、2級都市n=1680、3級都市n=2191、4級都市n=2051

資料:「McKinsey Asia Consumer and Retail」から作成。原出所:Insights Chinaによる消費者調査(2009年)。

第2-3-3-1図 �各国の消費財売上高のうち、小規模小売店を通じた販売の割合

備考:消費財売上高のうち、hypermarkets,supermarkets,departmentstores以外の小売店を通じた販売の割合。

資料:Euromonitor International2010から作成。

84 8278 76

60 59

98

フランス

韓国

英国

中国

ロシア

イタリア

マレーシア

フィリピン

ブラジル

タイ

メキシコ

インドネシア

ベトナム

インド

96 9283 81 79

6359

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0

(%)

Page 11: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節

通商白書 2010 195

第2章

な決済手段が確立されていないという課題も存在している。アジア市場においてオンライン・ショッピングがさらに発展するためには、インターネット・セキュリティの強化、電子商取引等の法制度の整備、取引上のトラブル問題があった場合の相談システムの整備等、事業者・消費者ともに安心かつ安全にインターネット上の取引に参加できる環境整備が求められる。

第2-3-3-4図 �中国におけるB�to�C電子商取引市場の推移

52157

258

561

1,282

2,484

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

2004 2005 2006 2007 2008 2009(年)

(億元)

資料:艾瑞咨洵集団(iResearch)レポートから作成。

第2-3-3-5表 �アジア各国・地域の所得に占めるオンライン・ショッピング利用額の割合(2008年)

所得に占める利用額の割合(%)

一人当たり平均年間利用額

対象者平均年間所得(ドル)

一人当たり国民所得(ドル)

対象者数(n)

中国 10.9 2,180 20,075 3,247 504韓国 10.1 3,008 29,778 17,455 500インド 9.4 2,208 23,386 961 500シンガポール 8.6 3,364 39,300 39,462 521オーストラリア 7.7 2,576 33,661 46,986 506香港 7.3 2,172 29,675 30,710 500タイ 7.0 1,552 22,269 4,177 501日本 6.6 2,708 40,908 38,543 502

備考:一人当たり平均年間利用額は、3か月間の一人当たり平均利用額から算出。

資料:MasterCard“MasterCard Worldwide Insights”から作成。

第2-3-3-6表 �最近のネットビジネス分野の日系企業海外進出事例

(株)ファーストリティリング 2009年4月 中国でネット通販大手アリババと提携SBIベリトランス(株) 2009年4月 中国の消費者向けの仮想商店街を本格開業

(株)ヨドバシカメラ 2009年7月 中国語でのインターネット通販サイトを開設楽天(株) 2009年9月 タイの現地企業を買収し、EC事業を展開

(株)ビットウェイ(凸版印刷子会社) 2009年9月 香港にて、日本のマンガ配信を開始。他の中国語圏に拡

大予定。ケンコーコム(株) 2009年10月 シンガポールに子会社設立し、EC事業を開始

(株)リサーチパネルエイジア(ECナビ子会社) 2009年10月 中国でインターネット調査サービスの窓口となるサイト

を開設

(株)オウケイウェイブ 2009年11月 留学や旅行などで日本に興味を持つ中国人向けに中国語のQ&Aサイトを開設

トランスコスモス(株) 2009年12月

中国ECサイト最大手の淘宝と提携し、淘宝と連携するCRMシステムを構築するとともに、出店企業向けにカスタマーサポートやマーケティングなどのサービスを展開

楽天(株) 2010年1月楽天と百度が中国国内に合弁会社を同年末までに設立。中国国内のネットショップから中国の国内ユーザーに商品を販売。国際間取引も視野。

(株)リサーチパネルコリア(ECナビ子会社) 2010年3月 韓国でインターネット調査サービスの窓口となるサイト

を開設

資料:各種報道資料から経済産業省作成。

(1)所得格差と求められる社会保障整備急速に拡大しているアジア消費市場であるが、米国やEUと比較すると、一人当たり消費額や製品・サービスの質ともに未発展な部分も多い。アジア市場が量・質ともに欧米市場を上回るまでに成長するには、いくつかの課題が存在する。その一つが、地域内の所得格差である(第2-3-4-1図)。

2008年のアジアにおける国・地域別の一人当たりGDPは、オーストラリアの46,824ドルが最大で、ミャンマーの446ドルが最小となっており、105倍の格差がある。一方で、2008年のEUにおける国別の1人当たりGDPは、ルクセンブルクの62,097ドルが最大で、ブルガリアの6,561ドルが最小となっており、9.5倍の格差にとどまっている。

4 さらなるアジア消費の拡大に向けて

第2-3-4-1図 �アジアとEUのローレンツ曲線�(2008年)

EU

アジア

0102030405060708090100

1009080706050403020100人口

名目GDP

備考:直線に近づくほど平等。   名目GDP、人口は、1人当たりGDPの低い国・地域から順に累積した値。   中国、インドは省市、州別データを使用。資料:IMF「World Economic Outlook」、CEIC Databaseから作成。

(%)

(%)

Page 12: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

2010 White Paper on International Economy and Trade196

第 2章 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

また、アジアの国・地域では、家計貯蓄率が高いことが特徴として挙げられる(第2-3-4-2図)。将来の収入や雇用に対する不安が高く、消費者にリスク回避傾向があれば、支出を抑え貯蓄に回すようになると考えられる。アジアの国・地域において家計貯蓄率が高い理由の一つとして、社会保障制度が未整備である点が指摘できる。例えば、主要国の公的年金カバー率をみると、米国72.5%、我が国71.4%であるのに対して、アジア新興国では、中国17.2%、インドが5.7%と低くなっている(第2-3-4-3図)。また、MasterCardのアンケート調査 6によれば、中国の都市、農村とも支出を減らす理由として、社会福祉が不十分であることが挙げられており、社会保障制度の整備が求められている(第2-3-4-4図)。アジア新興国における社会保障制度の整備により、消費者の将来への不安が解消され、貯蓄から支出に振り向けられれば、アジア消費市場のさらなる拡大が期待される。

(2)サービス産業の発展アジア消費市場が成長・成熟していくためには、現地の様々な所得階層のニーズに応えうる、多様なサービスが必要になってくる。そのためには、現在も多くのアジアの国・地域に残っているサービス産業の規制等を緩和し、貿易・投資の自由化を図ることで、現地

における消費意欲の向上や市場の拡大・質の向上を実現することが可能となる。また、サービス産業が拡大するにつれ、その生産性向上が重要になってくる。生産性は、民営化や競争を導入することで大きく向上する 7と考えられており、外資系企業の参入は競合相手にもなるとともに、新しい技術等をもたらす存在になる 8。異なる経済環境や商習慣の下で育成された外資系企業の参入は、新しいビジネスモデルや新しい経営資源の流入による生産性向上や国内に無かった新しいサービスの提供などによる消費者利益の増大をもたらす。こうしたことから、

第2-3-4-4図 �中国の家計支出を減らす理由

所得の減少

社会福祉が

不十分

雇用不安

住宅ローン

の支払い

景気の見通し

が暗い

56%

44%38%

34%

45%

69%61%

45%

30%

5%

0

10

20

30

40

50

60

70

80

都市 農村

備考:1.都市(北京、上海、広州)n=4500、農村(江蘇省昆山、山東省莱西、陝西省神木)n=1800

2.調査期間は2009年7月~ 8月。資料:MasterCard「MasterCatd Worldwide Insights調査」から作成。

(%)

6 MasterCard Worldwide Insights「中国における政府の景気刺激策と生活者の反応」調査期間2009年7月~8月(n=都市4500、農村1800)。

7 “A Handbook of International Trade in Services”, Aaditya Mattoo, Robert M. Stern, and Gianni Zanini, Oxford University Press, 20088 “Service Trade and Growth”, Bernard Hoekman, Aaditya Mattoo, The World Bank, January 2008

第2-3-4-3図 �主要国の公的年金カバー率

72.5 71.4 69.6

54.6

18.7 18.0 17.211.3 10.8

5.7

0

10

20

30

40

50

60

70

80

資料:「OECD Pensions at a Glance」から作成。

(%)

インド

ベトナム

インドネシア

中国

タイ

フィリピン

韓国

オーストラリア

日本

米国

第2-3-4-2図 �主要国・地域の家計貯蓄率の推計�(2008年)

32.931.2

27.9

17.7 17.6 17.4

13.7 12.8 12.711.1

9.67.5 6.6

4.92.2 2.2 1.6 0.9

0

5

10

15

20

25

30

35

備考:家計貯蓄率=(可処分所得-消費支出)÷可処分所得とした。資料:「Euromonitor Consumer International 2008/2009」から作成。

(%)

タイ

フィリピン米国

ブラジル

ベトナム英国

インドネシアイン

ド日本

フランスロシ

ア台湾ドイツ韓国

マレーシア香港中国

シンガポール

Page 13: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節

通商白書 2010 197

第2章

各国・地域におけるサービス産業の発展や消費者利益の増大にとって、外資系企業への規制緩和等により対内直接投資を拡大することが重要であると考えられる 9。さらに、サービス産業は製造業と比して雇用吸収力が高いとされている。サービス産業の発展に伴い、その従事者数が増えれば、消費市場をより拡大することにつながる。アジア各国・地域においては、マレーシア、ベトナム等での動きが挙げられる。マレーシアでは、流通・サービス部門の外資参入規制を定めたガイドライン10

の改定が予定されている。ベトナムでは、2007年にWTO加盟国に流通サービス分野を開放し、代理店・卸売・小売サービス・フランチャイズの形態については、2009年から、外資100%での進出を可能としている。このように、サービス分野において規制撤廃・緩和が進みつつあるものの、アジア各国・地域においては、外資系企業に対する規制・商慣行が多く残っている(第2-3-4-5表)。これらの規制等に対しては、通商交渉・対話等を通じ、相手国の事業環境整備を促していく必要がある。

(3)商業施設へのアクセスのための交通インフラ整備アジア新興国では、交通インフラの整備も消費拡大のための重要な要素と考えられる。例えば、中国の農村部においては、インフラ整備による大都市商業施設へのアクセス改善等により消費が拡大することが期待されている。MasterCardのアンケート調査 11によれば、実施されれば支出を増やす施策として、中国農村部では、社会福祉の充実(社会保障制度の整備)と並んでインフラ整備を挙げる消費者が多い(第2-3-4-6

図)。特にインフラ整備については、商業施設が多く存在する都市部ではなく、農村部で挙げられているのが特徴である。中国の都市部と農村部の消費性向 12

を比較すると都市部が71.4%であるのに対し、農村部は55.9%と低く、消費が抑制されている(第2-3-4-7

図)。

消費が抑制されている要因は、中国の都市と農村部における社会保障制度の整備状況の違いなども考えられるが、中国農村部等では、消費における選択肢が不足していることも一因として考えられる。インフラの整備により農村地域で入手できる財やサービスが質・量の両面で改善されれば、流通、商業施設などへの新たな投資が生まれ、中国農村部やアジア新興国において新たな消費市場が生まれると考えられる。

第2-3-4-5表 �アジア各国・地域における外資系企業への主な規制

中国 ・外資出資比率規制(特定商品を扱い30以上の店舗を有する小売・卸売49%以下等。外資と中国企業の合弁の場合、外資は25%以上)

・流通、電信等の地域制限・コンピュータ関連サービスの参入分野制限・法定保険分野への参入規制・音響・映像の制作・配給等の規制・最低資本金規制(概ね15万米ドル以上)・外貨送金規制(購入、販売、配当等において許認可が

必要等)インド ・外資出資禁止(総合小売業)

・外資出資比率規制(小売51%(ブランドホルダーに限る)、保険26%、銀行74%)

・海外送金規制・コンピュータ関連サービスの法人設立制限・国際海上貨物運送の拠点設置規制

タイ ・外資出資比率規制(資本金1億バーツ未満の小売、一店舗当り最低資本金1億バーツ未満の卸売、広告50%未満等。製造業では販売75%、アフターセールスサービス60%)

・最低資本金規制(原則200万バーツ以上。規制業種は300万バーツ以上)

・電気通信分野における提供サービスの制限および外資規制

インドネシア ・外資出資禁止(スーパー、百貨店を除く小売、通販、陸上輸送機器レンタル等)

・外資出資比率規制(電気通信35%以下、商品輸送、海運、航空関係49%以下、建設55%以下、発電・給電95%以下等)

・外資進出地域限定(スーパー、百貨店等)マレーシア ・最低資本金規制(外国資本100%の場合にはローカル

資本やローカルと外資の合弁よりも最低額が高い)・電気通信分野の外資規制・流通分野における拠点設立の制限

フィリピン ・外資出資比率規制(公共事業の建設、修理25%以下、広告30%以下、電気通信、国際海上貨物輸送40%以下、建設、投資会社60%以下等)

・最低資本金規制(小売業では外資の場合250万米ドル等)

・流通における拠点設立の制限ベトナム ・外資出資比率制限(卸売、小売は2009年1月から

100%外資の設立が可能、電気通信で不可欠設備を持つ事業者は49%以下、不可欠設備を持たない事業者はWTO加盟時51%以下、2010年1月に65%以下等サービス分野で段階的に開放)

資料:国際経済交流財団「今後の多角的通商ルールのあり方に関する調査研究報告書」(2010年3月)、経済産業省通商政策局編「不公正貿易報告書 2009年版」、ジェトロ「ビジネス情報・国・地域別情報

(J-FILE)」、貿易・投資円滑化ビジネス協議会「各国・地域の貿易・投資上の問題点と要望(2009年版)」、グローバル・サービス研究会「アジアの消費者との価値共創を通じたイノベーションへの挑戦」

(平成21年3月)から経済産業省作成。

9 2007年通商白書。10 国内取引・協業・消費者省(MDTCC)「国内取引・協業・消費者省(MDTCC)による外資参入に関するガイドライン」。11 MasterCard Worldwide Insights「中国における政府の景気刺激策と生活者の反応」調査期間2009年7月~8月(n=都市4500、農村

1800)。12 可処分所得(農村部は現金収入)に占める消費支出(農村部は現金消費支出)。高いほど消費支出について積極的であることを示す。

Page 14: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

2010 White Paper on International Economy and Trade198

第 2章 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

日台企業アライアンスによる中国展開コラム16

日台企業間のアライアンスは、世界経済危機以降、中国が「工場」から「市場」として注目される中、中国

の内需市場開拓に対中ビジネスの重点を置き始めた日本企業の経営戦略の変化、中台関係の緩和などを背景に

注目を集めている。ここでは、台湾企業の世界・中国市場におけるプレゼンスの拡大を概観した上で、中国内

需市場開拓における台湾企業とのアライアンスのメリットについて紹介したい。

1.台湾企業の世界・中国におけるプレゼンス

IT製品のOEM、ODM化と共に、台湾企業は、半

導体、液晶などの分野で、世界的に大きなシェアを有

している。OEM製造ベースでみた場合、その世界

シェア(2008年)は、ノートPC92%、マザーボード

は92%などと、圧倒的な存在感を誇っている(コラ

ム第16-1図)。

第2-3-4-7図 �中国の都市・農村の消費性向�(2008年)

71.466.6

72.778.7

55.9 59.150.9

72.3

0102030405060708090

農村部都市部

備考:消費性向=消費支出(現金消費支出)÷可処分所得(現金収入)資料:CEIC Databaseから作成。

(%)

陝西省山東省江蘇省中国全体広東省上海市北京市中国全体

第2-3-4-6図 �中国で実施されれば支出を増やす施策

55%

33%40%

51%

0%0%

69%

60%

0% 0%

57%

42%

0

10

20

30

40

50

60

70

80

社会福祉の充実

自動車・家電

の購入補助金

所得税減税

不動産価格

の抑制

インフラ整備

融資環境の整備

都市 農村

備考:1.都市(北京、上海、広州)n=4500、農村(江蘇省昆山、山東省莱西、陝西省神木)n=1800

2.調査期間は2009年7月~ 8月。資料:MasterCard「MasterCatd Worldwide Insights調査」から作成。

(%)

コラム第16-1図 �台湾IT製品の世界シェア�(2008年)

(%)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

光ディスクドライブ

デスクトップPC

サーバーシステム

デジタルカメラ

モニター

LCDモニター

マザーボード

ノートPC

資料:台湾経済部国際貿易局「2008対外貿易発展概況」から作成。

25.233.335.4

39.7

53.1

76.8

92.292.4

Page 15: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて 第3節

通商白書 2010 199

第2章

こうした世界シェア拡大の背景として、台湾企業生

産拠点の中国シフトがある。台湾企業による大陸への

投資は、特に、中国の産業構造変化による投資の大型

化、IT組立工場移転の急増や台湾からの対中投資規

制の緩和などを背景に大きく拡大してきている(コラ

ム第16-2図)。

その結果、中国の経済活動における台湾企業の存在

感は大きく、成功例も多い。中国における輸出額上位

10社のうち6社が台湾系企業となる(コラム第16-3

表)。

コラム第16-3表 2008年の中国における輸出額上位10社

企業名 出資企業【国・地域】 業種1 鴻富錦精密工業(深セン)有限公司 鴻海精密工業【台湾】 コンピュータ周辺機器2 達豊(上海)電脳有限公司 広達集団【台湾】 コンピュータ3 諾基亜通信有限公司 ノキア【フィンランド】 固定電信サービス4 名碩電脳(蘇州)有限公司 華碩電脳集団【台湾】 コンピュータ関連部品5 華為技術有限公司 中国民営企業 通信製品6 英順達科技有限公司 英業達【台湾】 コンピュータ及び周辺機器7 仁寶資訊工業(昆山)有限公司 仁寶【台湾】 コンピュータ及び周辺機器8 中国石油天然気集団公司 中国国有企業 エネルギー9 緯新資通(昆山)有限公司 Wistron社【台湾】 コンピュータ及び周辺機器

10 中国中化集団公司 中国国有企業 エネルギー

資料:中国商務部投資促進事務局Webサイトから作成。

2.中国展開における日台アライアンスのメリット

台湾企業が中国市場でのプレゼンスを高める中、日台アライアンスによる中国展開を考える日本企業が増え

つつある 13。台湾企業は、90年代初頭から始まった中国進出により中国ビジネスに関する高度なリスクマネジ

メント能力を蓄積しており、ノウハウを十分に持たない企業にとっては、特に協業のメリットが大きいと思わ

れる14。日台企業アライアンスのメリットとしては、台湾企業が有する、中国との言語的・文化的な共通性、中

国人に対する労務管理力、中央・地方政府の許認可への対応、大陸でのネットワーク構築力(特に販売ネット

ワーク)15、経営力(意志決定スピードの速さ等)、ビジネスセンス等と、日本企業が有する、技術力(研究開発、

品質管理)、世界的なブランド力、プロジェクトマネジメント力等の相乗効果が挙げられる。中国現地における

台湾系企業の商工会にあたる「台商協会」は、2005年には中国全土で85団体も設立され、2万社以上が会員と

なっている16。これらの台商協会の支援により、台湾企業は中国現地の複雑な商慣行、規制等に対処し、現地市

場において広範なネットワークを構築することに成功している。

近年、小売、飲食、流通といったサービス業で中国展開を考える日本企業が増えているが、第3次産業におけ

る中国での規制は複雑と考えられる。こうした規制に対処する上で、台湾企業との協力関係が有効と思われる。

13 在台湾日系金融機関によれば、日台アライアンスに関する日本企業からの相談が増加している。14 中国に進出した台湾企業の成功率(黒字比率)は高く、中国進出台湾企業の売上トップ1,000社のうち77.2%が黒字である(「大陸台商

1000大(2008年版)」)。なお、中国進出日本企業の黒字比率は51.9%となっている(JETRO「在アジア・オセアニア日系企業活動調査実態 -中国・香港・台湾・韓国編(2009年度調査)」)。

15 また、台湾人向けの投資保護規定も定められており、台湾同胞は中国の法等に基づき優遇を受けられるとされている(中華人民共和国台湾同胞投資保護法)。

16 中国国務院台湾事務弁公室Webサイトより。

コラム第16-2図 �台湾の対中国直接投資額の推移

1.7 2.5

12.69.6 10.9 12.3

26.1

15.2 12.5

26.1 27.8

38.645.9

69.4

60.1

76.4

99.7106.9

71.4

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

0

20

40

60

80

100

120

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

(億ドル) (件)

資料:台湾経済部投資審議委員会資料から作成。

投資額件数(右目盛)

Page 16: 第3節 アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて › report › tsuhaku2010 › 2010honbun_p › ...アジア消費市場の拡大 〜良質な市場へ向けて

アジア「内需」とともに成長する我が国、持続的成長実現に向けたアジア・太平洋の枠組み

2010 White Paper on International Economy and Trade200

第 2章

また、近年では両岸関係の緊張緩和と経済緊密化が進んでいることも、日台アライアンスが注目される理由

となっている。従来、政治的な理由から台湾企業による大陸への投資については、様々な制限が設けられてい

た。2008年5月の台湾政権交代(国民党:馬英九政権)以降、直航解禁、投資制限の大幅緩和等、急速に中台間

の緊張緩和が進みつつある(コラム第16-4表)。また、2010年中に締結される見通しのECFA(Economic

Cooperation Framework Agreement:両岸経済協力枠組取決め)により、両岸経済関係の更なる緊密化が予想さ

れている(コラム第16-5表)。今後具体化されるECFAの内容によっては、台湾企業とのアライアンスにより中

国市場展開を進めやすくなることが考えられる。

コラム第16-4表 両岸経済・貿易における規制緩和の状況

項目 実施時期 内容

実施済み

「小三通」の緩和拡大と正常化 2008年6月、9月 金門・馬祖~アモイ間の直接往来全面解禁台湾の人民元交換業務を開放 2008年6月 許可を得た金融機関による2万人民元以内の売買

「大三通」 2008年7月、12月、2009年8月 海・空の直行便を段階的に実現。航空便は定期便化し、増便。

外資の台湾上場規制の緩和、大陸資本による台湾株式市場への投資を一部開放 2008年7月 海外企業の台湾上場資格等の緩和等

中国人の台湾団体旅行の解禁 2008年7月 受入人数1日平均3千人を上限として、大陸からの台湾団体旅行を解禁

大陸投資金額の上限規制の緩和と審査の効率化 2008年8月 ・大陸投資の上限が正味資産の60%まで可能に

・投資審査手続きの簡素化

中国資本による台湾投資・事業所設置の開放 2009年7月

ポジティブリスト方式により段階的に投資開放項目を拡大(09年6月30日発効)開放項目:製造業64項目、サービス業25項目、インフラ建設11項目

金融覚書(MOU) 2009年10月 両岸間の金融機関取引の規制緩和

検討中ECFA(両岸経済協力枠組取決め) 2010年中(予定) 両岸間の貿易関税撤廃中国人の台湾自由旅行 未定 個人自由旅行の解禁

資料:台湾行政院大陸委員会、海基会資料等から作成。

中国内需市場獲得においては、現地規制への対応を

はじめ、従来とは異なるビジネスノウハウ・ネット

ワークが必要となる。こうした中、中台関係の緩和を

背景に中国大陸市場にネットワークを深める台湾企業

とのアライアンスに、日本企業の関心は高まっていく

と思われる。

コラム第16-5表 �ECFA(両岸経済協力枠組取決め)の概要

ECFAの位置づけ

・両岸間の経済協力事項のみ規定し、統一・独立問題など政治問題には触れない。

・WTOの規定と合致するものとする。・経済協力の枠組と達成目標を定め、詳細な内容

については締結後引き続き更なる協議を行う意向。

内容案

○財貿易(低関税、貨物輸入制限の開放等)○サービス貿易○投資権益の保障○経済協力○アーリーハーベスト(早期市場開放)リスト

→緊急性があり、高度なコンセンサスが得られた項目からスタートし、開放範囲を順次広げていく

○紛争解決メカニズム○終了条項

資料:台湾行政院大陸委員会資料から作成。