ワールドLNG: アジア市場を念頭に、中期的な注目点...更新日:2011/03/22...

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更新日:2011/03/22 石油企画調査部:坂本茂樹 ワールド LNG: アジア市場を念頭に、中期的な注目点 (Platts, Energy Intelligence, Gas Strategies, コンサルタント資料) 2010 年の LNG 取引量は前年比 22%の大幅増加になった。LNG 需要を牽引したのは、東アジアの経 済回復に伴うガス需要増加と、欧州の新規 LNG 受入事業の輸入増加であった(英国・イタリア、カタール から輸入)。カタールは 2010 年末に液化能力 7,700 万トン体制を完成させ、抜きんでる LNG 供給力を持 つ輸出国の地位を固めた。 これからの LNG 需給の前提となる LNG 需要は、新興経済圏での需要増加を要因にアジア LNG 市場 の拡大が大きいとの見方が有力である。アジア市場向け LNG 供給の主力は豪州とカタールである。共 に大きな LNG 供給力を持つが、製造コストの安いカタールは強い価格競争力を持つ。しかしカタール LNG の外資パートナーは豪州の主要 LNG 事業者でもあるため、双方が価格競争を行うことは考え難 い。カタールはアジア市場向けの短期・スポット供給量を増やすものの、石油パリティ価格に準じる長期 契約条件を堅持する姿勢に大きな変化は無く、基本的なマーケティング戦略を維持すると考えられる。 北米で活発化した LNG 輸出に関しては、メキシコ湾岸事業(米国)は大西洋圏の短期・スポット LNG 供給力拡大に止まると見られる。しかし自国市場の小さいカナダ西岸 Kitimat LNG は東アジア向け長期 契約に基づく LNG 供給も考えられる。 1. 2010 年のLNG国際取引 : 東アジアと欧州でLNG需要回復 2010 年の LNG 国際取引は、前年比約 22%の大幅増加になった。世界の LNG 取引量の四半期別 前年同期比推移を見ると、2008 年第 2 四半期から 5 期連続で前年同期比マイナスであった後、2009 3 四半期にプラスに転じた。2010 年第 1~第 3 四半期は、東アジアを中心にした経済回復に支えら れて前年比 25%程度と大幅な伸び率で推移した。2010 年第 4 四半期は。2009 年第 4 四半期が既に 前年比+18%の増加であったが、更に+15%の大幅な伸び率となった。 – 1 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資 料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、 何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果について は一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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更新日:2011/03/22

石油企画調査部:坂本茂樹

ワールド LNG: アジア市場を念頭に、中期的な注目点

(Platts, Energy Intelligence, Gas Strategies, コンサルタント資料)

2010 年の LNG 取引量は前年比 22%の大幅増加になった。LNG 需要を牽引したのは、東アジアの経

済回復に伴うガス需要増加と、欧州の新規 LNG 受入事業の輸入増加であった(英国・イタリア、カタール

から輸入)。カタールは 2010 年末に液化能力7,700 万トン体制を完成させ、抜きんでる LNG 供給力を持

つ輸出国の地位を固めた。

これからの LNG 需給の前提となる LNG 需要は、新興経済圏での需要増加を要因にアジア LNG 市場

の拡大が大きいとの見方が有力である。アジア市場向け LNG 供給の主力は豪州とカタールである。共

に大きな LNG 供給力を持つが、製造コストの安いカタールは強い価格競争力を持つ。しかしカタール

LNG の外資パートナーは豪州の主要 LNG 事業者でもあるため、双方が価格競争を行うことは考え難

い。カタールはアジア市場向けの短期・スポット供給量を増やすものの、石油パリティ価格に準じる長期

契約条件を堅持する姿勢に大きな変化は無く、基本的なマーケティング戦略を維持すると考えられる。

北米で活発化した LNG 輸出に関しては、メキシコ湾岸事業(米国)は大西洋圏の短期・スポット LNG

供給力拡大に止まると見られる。しかし自国市場の小さいカナダ西岸 Kitimat LNG は東アジア向け長期

契約に基づく LNG 供給も考えられる。

1. 2010 年のLNG国際取引: 東アジアと欧州でLNG需要回復

2010 年の LNG 国際取引は、前年比約 22%の大幅増加になった。世界の LNG 取引量の四半期別

前年同期比推移を見ると、2008年第2四半期から5期連続で前年同期比マイナスであった後、2009年

第 3 四半期にプラスに転じた。2010 年第 1~第 3 四半期は、東アジアを中心にした経済回復に支えら

れて前年比 25%程度と大幅な伸び率で推移した。2010 年第 4 四半期は。2009 年第 4 四半期が既に

前年比+18%の増加であったが、更に+15%の大幅な伸び率となった。

– 1 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資

料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、

何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果について

は一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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LNG輸入量対前年伸率(%、四半期)推移

図 1 四半期別 LNG 国際取引量の前年同期比推移 出所:Gas Strategies

2010 年の全体の変化を地域別で見ると、LNG 需要面(輸入量)ではアジアと欧州の増加量が著しく、

それぞれ 1,900 万トン(前年比+17%)、1,300 万トン(前年比+26%)の増加であった。LNG 供給面

(輸出量)ではカタールを核とする中東地域が 2,500 万トン(前年比+48%)と大きく供給量を増やした。

カタールでは大規模プロジェクトの 780 万トン液化設備が順次供給を開始し、他輸出国を大きく引き離

す圧倒的な供給力を持つにいたった。

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世界LNG輸入量推移

中南米

北米

欧州

中東

アジア

図 2 世界の LNG 輸入量推移 出所:BP 統計、LNG Strategies

– 2 – Global Disclaimer(免責事項)

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2005 2006 2007 2008 2009 2010億m3

世界LNG輸出量推移

大西洋

中東

アジア太平洋

図 5 世界の LNG 輸出量推移 出所:BP 統計、LNG Strategies

インドネシア

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豪州

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ブルネイ

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ロシア

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2010年世界のLNG輸出(総量22,095万トン)

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万トン/年LNG輸出推移比較(2010年/2009年)

2010

2009

図 6 2010 年、国別 LNG 輸出数量および前年との比較 出所:Gas Strategies

2. これからのLNG需要をどう見るか

LNG 需給では、需要の見方がポイントになる。2010 年11 月~2011 年2 月に国際機関、大手石油企

業による長期エネルギー見通しが相次いだ。ニュアンスの違いはあるものの、多くが化石燃料の中では

ガスの増加率が も高いと想定している。地域別のガス需要では、成熟経済で低い需要増加率、発展途

上経済、特にアジアの発展途上大消費国の大きなガス需要増加を想定している。事例として、IEA「新政

策シナリオ」天然ガス需要想定を表 1 に記す。

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表 1 IEA「新政策シナリオ」による地域別天然ガス需要想定

出所:IEA, World Energy Outlook 2010, 2010 年 11 月

掲示した「新政策シナリオ」(3 ケース中の中間ケース)は、2008~2035 年の全世界ガス需要年平均伸

率を次の通りに想定している:

グループ(国) 2008~2035 年のガス需要年平均伸率

OECD 0.5%

非 OECD 2.0%

内、中国 5.9%

インド 5.4%

北米、欧州、ロシアなど主要なガス市場へは主にパイプライン輸送が行われ、LNG 輸送は日本・韓国

など東アジア市場向けが高い比率を占める。2009年の国際ガス取引に占めるLNG比率は28%であっ

た(BP統計)。将来のLNG主要消費地は、ガス自給率の低い東アジア市場、次いで欧州市場向けが中

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心になると考えられる。中でも、先述した潜在ガス需要増加の大きいアジア市場の LNG 需要増加が見

込まれる。事例として、Poten & Partners 社想定を記す。

図 7 世界の LNG 需要推移(単位 5,000 万トン/年) 出所:Poten & Partners, 2011 年 2 月

図 8 アジアの LNG 需要推移(単位 2,000 万トン/年) 出所:Poten & Partners, 2011 年 2 月

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アジア市場の中では、日本・韓国など成熟経済圏の LNG 需要増加は小さく、需要増加を牽引するの

は発展途上経済、特に中国である。中国市場へのガス供給は、長期的には国内非在来型ガスの貢献が

期待されるが、少なくとも 2020 年頃までの需要増加は LNG を含む輸入量増加で対応すると考えられ

る。

3. LNG供給力の見通し

(1) 東アジア市場向けの LNG 供給

東南アジア(インドネシア、マレーシア、ブルネイ)の LNG 産業はもともと日本など東アジア市場向け

輸出を目的に計画され、1990 年代まで世界の LNG 輸出の半ば以上を占めてきた。しかし 3 国の供給

量は1990年代から現在までほとんど変化が無いため、世界のLNG取引が拡大する中で全体に占める

供給比率を年々縮小させている。2010 年は 24%まで縮小した。代わって供給力を伸ばしてきたのはカ

タール、豪州、そしてナイジェリアなどアフリカ輸出国である。

東アジア市場へのLNG輸出に関しては、群を抜く液化能力(7,700万トン/年)を完成させたカタール

と、新規 LNG 案件が多い豪州が大きなインパクトを持つ。次いで、サハリンなど近隣の新興 LNG 輸出

国の貢献拡が考えられる。

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世界のLNG輸出推移アラスカ 他

ノルウェー

トリニダードトバゴ

赤道ギニア

ナイジェリア

リビア

エジプト

アルジェリア

イエメン

オマーン

アブダビ

カタール

サハリン

豪州

ブルネイ

マレーシア

インドネシア

図 9 世界の LNG 輸出量推移 出所:BP 統計、LNG Strategies

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世界のLNG輸出に占める東南アジア比率低下

図 10 世界の LNG 輸出に占める東南アジア比率推移 出所:BP 統計、LNG Strategies

(2) カタール、豪州の LNG 供給力推移

今後の東アジア市場向けLNG供給で重要な役割を果たすカタール、豪州の液化能力推移を図11に

記す。

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カタール・豪州液化能力推移推定

カタール

豪州

図 11 カタール・豪州の液化能力推移 出所:各種情報・報道

カタールは 2010 年末に液化能力 7,700 万トン体制を完成させた。続くマレーシア・インドネシア

(2,500~3,000 万トン)と比べて 2 倍以上の圧倒的な LNG 供給力を持つに至った。カタールに新たな

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液化設備建設計画は無いが、ボトルネック解消工事を通じて 8,800 万トン程度への能力拡大が可能と見

られる。しかしこれにはモラトリアム解消により新たなガス田開発が必要であり、実現するにしても 2020

年以降になると考えられる。

豪州は多くの新規LNG 案件を抱えており、これらが順調に進展すれば 2014 年以降順次液化能力が

拡張し、2010 年代後半以降にカタールの液化能力を凌駕すると見られる。ほとんどの豪州新規案件が

東アジア向け供給を前提としており、将来の対アジア市場向け影響度が も大きい。

(3) カタール、豪州の LNG 供給コストの違い

カタール、豪州は将来の 2 大 LNG 供給国になると見られる。しかし豪州の新規 LNG 案件は様々な

要因から高コスト体質にあり、低コストのカタール LNG 事業とは大きな差異がある。

① 両国の LNG プロジェクト構造

カタールの大型LNG プロジェクトは、上流(ガス田開発・生産)から液化、販売まで一貫して事業を行う

する 4 プロジェクトから成り(QatargasⅡ, Qatargas-3, Qatargas-4、Ras Laffan-3)、合計で 6 トレイン

を操業する。プロジェクトによって出資比率が異なるが、基本構造は国営カタール石油が約 70%、外国

企業 30%から成る共同事業である。大型プロジェクトの主要な外資企業は、Shell、ExxonMobil、

ConocoPhillips である。カタールの液化設備はすべて Ras Laffan 産業地区に集中的に立地し、効率

的に運営される。貯蔵設備・出荷設備等を全プロジェクトが共有するコスト・メリットも大きい。

表 2 カタールの大型 LNG プロジェクト 出所:各種情報・報道 プリジェクト名 成立年 パートナー 権益 トレイン名 液化能力 生産開始

Qatargas 万トン/年Qatargas I I 2002 カタール石油 67.5% Train 4 780 2009年4月

ExxonMobil 24 .2% Train 5 780 2009年4月Total 8 .4%

Qatargas 3 2003 カタール石油 68.5% Train 6 780 2010年9月ConocoPhillips 30 .0%

三井物産 1.5%Qatargas 4 2005 カタール石油 70.0% Train 7 780 2010年12月

Shell 30 .0%

RasGasRas Laffan 3 2003 カタール石油 70.0% Train 6 780 2009年10月

ExxonMobil 30 .0% Train 7 780 2010年2月

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一方、豪州のLNG プロジェクトは、それぞれ個々の民間企業・コンソーシアムによる事業である。

② 液化部門コスト

液化設備建設コストは 2000 年代前半まで安定していたが、2000 年代半ば以降世界的な資機材高騰

に伴って大幅に増加した。石油ガス分野の中で、上流(油ガス田開発)、輸送(タンカー建造)と比べて、

液化設備建設コスト上昇額が も大きかった。2008 年のリーマン・ショックに続く世界不況で資機材等コ

ストは値下がりに転じたが、液化設備建設コストは値下がり幅が も小さい。

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$/トン 液化設備建設コスト推移

図12 液化設備建設コスト推移 出所:各種情報・報道

カタールの大型液化プロジェクト成立時期は 2002~05 年であり、いずれも安価な液化設備建設コスト

を享受する事ができた。

豪州の新規 LNG 案件は、2007 年に Woodside が Pluto 第 1 トレイン 終投資決定(FID)を行った

後、2010 年に Gorgon(Chevron)、QCLNG(BG グループ)、2011 年1 月に GLNG(Santos)の FID

が続いた。2011~12年にかけて、更に多くのLNG案件のFIDが予定されている。こうした豪州の新規

案件には、2000 年代後半にかけて大きく上昇した液化設備建設コストが適用される。カタールの大型

LNG 案件との液化設備コスト差は数倍になると見られる。

③ 上流(ガス田開発)コスト

カタール LNG プロジェクト向けフィードガスは、液化設備のある Ras Laffan 産業地区の北東に位置

– 10 – Global Disclaimer(免責事項)

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する水深50m の大ガス田North Field から 40~60km 程度のパイプラインを経由して集中的に供給さ

れる。同ガス田収益は、併せて生産される液分(コンデンセート、2010 年生産=150 万 b/d)の高収益の

恩恵を受けて高いコスト競争力を持つ。

豪州の新規 LNG は、西豪州沖合ガス田案件と東部クイーンズランド州 CBM(炭層メタンガス)案件か

ら成る。西豪州沖合はガス資源が豊富であるが、新たな発見ガス田の多くは水深1,000m 程度の深海に

位置しており、ガス開発コストが高い。LNG 向け CBM 生産は、まだ実績がないために定かではないが、

既存の西豪州沖合ガス田と同程度のコストと推定される。豪州では出資者の異なる数多い LNG 案件の

ガス田開発は個別に行われて、それぞれの輸送等設備も個々に建設され、事業間協力はほとんど見ら

れない。カタールのような規模のメリットはない。

上流部門(ガス田開発・生産)でもカタールと豪州 LNG 案件のコスト差は大きい。

④ その他の事業環境

カタール大型LNGの液化設備建設は2008-09年を作業のピークとして既に終了した。中東産油国で

は南アジアの豊富な労働力が安定的に雇用されており、カタール液化設備建設にあたっても労働力不

足・労働コスト上昇は無かった。

一方、豪州は、エンジニアを含む外国人労働者流入を厳しく規制しているため、鉱業、建設業はもとも

と労働者不足気味である。特に新規 LNG 液化設備建設が重なる 2012 年以降の労働力不足の慢性化

が多方面から懸念されている。数多い液化案件の建設作業ピークは2013~2019年頃と想定され、過去

に例の無い長期に渡る可能性が高い。その間は複数プロジェクトによるガス田開発・液化設備建設が並

行して実施され、資機材・労働力の不足感からコスト上昇圧力・作業遅延が懸念される。

総じて、豪州の新規 LNG 案件コストは、カタール大型 LNG プロジェクトの数倍に達すると見られる。

豪州の新規 LNG 案件の中で、先行する案件はアジア買主との長期契約に合意して 終投資を決定し

ている。しかしまだ投資決定に至っていない案件も多い。豪州案件はそのコスト高からアジア市場向け

長期契約でないとプロジェクトが成立し難いと言われる。

(4) カタールの LNG マーケティング戦略に変化はあるか

カタールのLNG供給力は2010~11年に大きく増加する。記述の大型プロジェクトは英米市場向け輸

出を念頭に計画されたが、北米の非在来型ガス好調から同市場向け LNG 輸出数量下方修正によって、

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油企画調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資

料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、

何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果について

は一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

マーケティング政策変更を余議なくされた。カタール大型プロジェクトは代わってアジア市場向け長期契

約に焦点を移し、2008-10 年に中国向け複数の契約に合意した。大型プロジェクトは既に 2009 年半ば

から順次生産が開始され、欧州のみならずアジア向けの短期、スポット取引を増やしている。カタールは

東アジアで、韓国向け 大 LNG 供給者であるが、2010 年には台湾向けでも 大供給者になった。ア

ジア向け LNG に柔軟性を持たせるために、タンカー体制を組み替える動きもある。

しかし、カタールの基本的なマーケティング戦略に変化は無いと見られる。LNG 輸出の優先順位はア

ジア及び欧州向けの石油価格基準の長期契約、次いで英米、及び一部大陸欧州(ベルギー、オランダ)

向けに市場価格販売である。米国を LNG の last resort とする認識も変わらない。

カタール LNG プロジェクトは前述したとおり、世界でも も低いコストと液分事業の高収益から、極め

て強い価格競争力を持つ。しかし、既に液分事業から高収益を得る彼らは LNG の価格競争を通じて販

路を拡大する必要が無い。LNG カーゴに余剰が発生しても、容量の大きい米国ガス貯蔵設備が市場価

格で販売できる last resort として機能している。

仮にカタールが LNG の価格競争をするなら、中長期的な競合者は豪州案件である。ところが、カター

ル大型プロジェクトの外資パートナー(Shell、ExxonMobil、ConocoPhillips)はいずれも豪州の主要な

LNG 事業者でもある。 カタール大型 LNG 事業者 参加する豪州 LNG 案件(*:オペレーター案件) Shell Gorgon、Prelude *、Shell Curtis LNG * ExxonMobil Gorgon、Scaborough ConocoPhillips Australia Pacific LNG *、Darwin LNG(既存)*

彼らにとって、大型投資を行った上記豪州LNG 案件を成立させるのは必須事項であり、カタール事業

で価格競争を仕掛けて豪州案件を潰す意図など毛頭ない。

LNG 需給がどう推移するかも重要な要素である。需給の見方に幅はあるものの、生産者は総じてアジ

ア LNG 市場は豪州新規案件の生産が本格化する前の 2013-16 年頃は、供給不足で LNG 需給がタイ

トになると見ている。従って、LNG 供給者は長期契約条件に関して強い姿勢で臨んでいる。カタールは

アジア市場への短期・スポット販売を増やしていくと見られるが、長期契約の販売条件で軟化する可能性

は低く、基本的なマーケティング姿勢に大きな変化はないと考えられる。

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図 13 アジア太平洋の LNG 需給想定 出所:Poten & Partners, 2011 年 2 月

4. 非在来型ガス供給の影響

(1) 北米のシェールガス開発の進展

シェールガスを中心とする北米の非在来型ガス開発の隆盛は、“game changer“と認識されている。

過去5年程度の期間で、北米の将来のガス需給見通しが、大きく減少する域内生産をLNG輸入増加で

補う見通しから、堅調なシェールガス等非在来型ガス供給増加で長期にわたって域内自給体制を維持

できる見通しへと大きく変わった。

米国のガス市場価格(H.H.等、Henry Hub)はこの2~3年来、$4/MMBtu台で安定的な安価水準に

ある。欧州が域外へのガス供給依存度を強め、需要期のガス市場価格(英国 NBP、National

Balancing Point)が高止まりしているのと対照的である。

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図 14 LNG および市場ガス価格推移・想定 出所:Gas Strategies(2011 年 3 月)

北米においては、ガスは安価で安定的な供給が可能なエネルギーとの見解が定着しつつある。供給

コストの高い再生可能エネルギー(風力、太陽光等)に比べて、より安価で現実的に CO2 等温室効果ガ

ス排出抑制効果を得られる。

(2) 北米の LNG 輸出可能性

北米のLNG輸入低迷によって、逆にLNG輸出議論が盛んである。メキシコ湾岸のLNG輸入事業者

では、Freeport LNG、Sabine Pass LNG(Cheniere Energy)、Cameron LNG(Sempra)が LNG

輸出許可を取得した。カナダでは、太平洋岸ブリティッシュ・コロンビア州Kirimat LNGがLNG輸出を

検討している(Apache がガスを供給)。

メキシコ湾岸の LNG 受入基地では、以前から需給に依って、LNG 再輸出が行われていた(主に欧州

向け)。米国のガス市場は市場取引であり、LNG 輸出入もガス需給によって大きく変化する。従ってメキ

シコ湾岸から東アジア向けLNG長期契約のビジネスモデルは成立し難いと考えられる。しかし、米国の

LNG 輸出は、トリニダード・トバゴ、エジプト、西アフリカ産 LNG 等とともに、短期・スポット LNG 供給源

となり、大西洋LNG 供給力の厚みを増す。2007-08 年の世界LNG 需給逼迫期(東京電力柏崎刈羽原

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発停止、寒波が要因)には、大西洋圏から東アジア市場への短期・スポット LNG 供給量が増加した。将

来、東アジア市場が大西洋圏から短期・スポット LNG を調達する際には、米国産LNG も供給源の一部

を構成する位置づけになると考えられる。パナマ運河拡張後は、タンカー輸送費の優位性(パナマ運河

経由は喜望峰経由比で 1 ドル/MMBtu 有利)もメキシコ湾岸 LNG 事業に優位に働く。

一方、カナダKitimat LNGは東アジア市場(韓国、日本)への輸出を目的に計画されている。カナダ

西部はアルバータ州にオイルサンド事業向けガス需要はあるものの、域内ガス需要規模は小さく、輸出

余力がある。カナダ Kitimat からは東アジア向け長期契約ベースの LNGH 供給も考えられる。