第318回 骨髄腫治療後に肝,骨に多発腫瘤を認めた...
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北里大学病院CPC 北里医学 2017; 47: 150-153
第318回: 骨髄腫治療後に肝,骨に多発腫瘤を認めた一症例(H28.7.22)
赤川 直之 (主治医,血液内科学),倉林 慎太郎 (血液内科学),
秋谷 昌史,高橋 博之 (病理学)
臨床経過および検査所見
症例: 64歳女性
主訴: 腰背部痛
家族歴: 父: 舌癌
既往歴: 胆石,帝王切開,慢性腎不全
嗜好歴: 飲酒: ビール250 ml/日,喫煙 (-)
現病歴
2013年7月27日に腰痛を認め整形外科にてMRI施行,
L1に髄外腫瘤を認めた。精査し症候性骨髄腫の診断で
血液内科に転科となった。髄外腫瘤に対し放射線治療
法 (2.5 Gy × 30回) 施行,外来にてVD療法 (ベルケイ
ド・デカドロン) 開始した。その後サリドマイドを追加
し (VTD療法),治療効果が認められたため2014年9月で
中止とした。2014年10月1日よりIgG・ALPの上昇,体
幹部のCTで肝臓・椎体・左肩甲骨などに多発腫瘤を認
め,新規の多発性骨髄腫が疑われた。外来にてVD療法
再開したが,肝腫瘤は増大傾向で多発性骨髄腫の憎悪
みられ,他の腫瘤性病変除外目的に7月2日に肝腫瘤に
対し4か所生検施行した。1検体からpoorly differentiated
carcinoma (adenocarcinoma疑い),2検体からHigh-grade
B-cell lymphomaと診断された。GF・CF施行し原発巣検
索行ったが明らかな原発巣は不明で,種々の腫瘍の精
査および治療目的で7月15日に血液内科転科となっ
た。
入院時現症
身長151.8 cm,体重46.5 kg,体温36.5℃,脈拍107回/
min,血圧167/96 mmHg,呼吸数24/min,SpO2 96%
(room air),意識: 清明,皮膚: 発赤なし,両側眼瞼結膜:
貧血 (-),両側眼球結膜: 黄疸 (-),口腔粘膜: 正常,表
在リンパ節腫脹 (-),甲状腺腫脹 (-),口唇: チアノーゼ
(-),項部硬直なし,心音: 純・心雑音なし,呼吸音:
清・副雑音なし,腹部: 平坦・軟,圧痛 (-),肝脾腫 (-),
四肢: 両下肢浮腫 (±),末梢冷感 (-)
入院時検査所見
(尿) 比重1.016,pH 5.0,UP (±),US (-),UB (±),Uro
(±),Bil (-),Ket (-),Nit (-),赤血球1〜4/HPF,白
血球>100/HPF (血球) 白血球数8.8 × 103/μl (好中球
90.3%,好酸球0.0%,リンパ球5.8%,単球3.8%,好
塩基球0.1%,好中球数7,946/μl,総リンパ球数510/
μl),赤血球数3.00 × 106/μl,血色素量8.9 g/dl,ヘ
マトクリット28.2%,MCV 94.0 fl,MCH 29.7 pg,
MCHC 31.6%,血小板数18.6 × 104/μl,IPF 7.2%,
網赤血球 (%) 2.1%
(凝固) PT-T 14.8 sec,PT-% 58%,PT-INR 1.29 g/dl,
APTT 45.5 sec,FIB 451 mg/dl
(生化学) 総蛋白6.2 g/dl,アルブミン1.7 g/dl,総ビリル
ビン0.6 mg/dl,尿素窒素74.3 mg/dl,クレアチニン
3.78 mg/dl,eGFR 10.1 ml/min,尿酸12.5 mg/dl,AST
25 U/l,ALT 13 U/l,ALP 1,627 U/l,γ-GTP 434 U/l,
LDH 366 U/l,CPK 39 U/l,血糖106 mg/dl,HbAlc
(NGSP) 5.7%,Na 128 mEq/l,K 5.3 mEq/l,Cl 100
mEq/l,CRP定量28.02 mg/dl,BNP迅速102.2 pg/ml
画像所見
腹部超音波:
肝臓; 肝は腫大し,辺縁不整,実質は粗造。肝S4に
腫瘤 (48 × 30 mm大) を認める。その他にも両葉
に低エコー腫瘤と高エコー腫瘤が多発し,輪郭不
鮮明な腫瘤など認める。右肝内胆管拡張を認め
る。
胆!; 壁肥厚あり,内部にdebris認める。明らかな緊
満は認めず。
胆管; 異常なし
膵臓; 異常なし,主膵管拡張なし。
脾臓; 脾腫認める。Spleen Index: 135 mm × 46 mm =
56 cm2低エコー腫瘤 (径17 mm) を認める。
自己右腎臓; 腫大し,!胞性病変が多発。内部に充実
性エコーを伴う。
自己左腎臓; 萎縮を認める。
移植右腎; !胞を認める。腫瘍や炎症所見は認めず。
その他; 肝門部にリンパ節腫大を認める。明らかな腹
水なし。
心臓超音波: EF 60.3%,少量心!液貯留,TR II°
腎血管超音波: 移植腎は皮質エコー輝度上昇と軽度水腎
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症あり,腎盂解離幅9 mm。尿管拡張認める。尿管下
部に2〜3 mmの結石が連なるように描出され,長さ
5 mm。尿管壁肥厚を認める。これより下部の尿管は
抽出不良。移植右腎血流は全体に乏しく,血流低下
を疑う。
表在リンパ節超音波: 左鎖骨上窩リンパ節22 × l1 × 17
mm大,形状; 整,直下に左鎖骨下動脈あり。
頸部〜骨盤部単純CT: 右肺に瀰漫性のスリガラス陰影
認める。胸水,腹水の著明な貯留認める。脾臓に脾
梗塞,腫瘤塞栓を疑う楔状の低濃度領域が出現。肝
臓に多発する腫瘤を認める。一部肝内胆管拡張が認
められる。左鎖骨上リンパ節,傍大動脈リンパ節腫
大認める。右自己腎一部ニボーを伴う腎杯拡張,下
極の!胞間の軟部陰影が増大,右移植腎の水腎症,
移植腎の萎縮を認める。
臨床診断
・症候性骨髄腫: IgGλ型,ISS: Stage III
・Poorly differentiated carcinoma (adenosarcinoma疑い)
・High grade B-cell lymphoma
入院後経過
血液内科転科時,38℃台の発熱を伴う全身状態悪化
のため,今後の加療も希望せずに疼痛緩和の方針と
なった。7月22日頃より,意識レベル低下を認め,8月
1日の6時過ぎより収縮期血圧50 mmHg台へ低下あり。
HRも徐々に低下。アプニア様の呼吸でSpO2低下認め,
家族の前でモニター上心拍停止。2015年8月1日9時45
分死亡確認した。
臨床上の疑問点
1. CTですりガラス陰影がみられたが,病理所見では感
染を疑わせるものはあったか。
2. 敗血症の原因として尿路感染症が最も考えられた
が,そういった腎所見はみられたか。
病理所見 (A-8015)
A. 主病変1. 右腎盂癌 (自己腎) (215 g)
[ invas ive urothel ia l carc inoma wi th squamous
differentiation,G3,INFc,pT4,ly1,v1,結節型 (広基
性)]
1) 既往検体
P15-07525 (肝臓): 標本#1; Poorly differentiated
carcinoma
2) 剖検所見
i) 肉眼所見: 拡張した右腎盂の腎下極側に,4.5 × 3.5
cm大の白色調の結節型 (広基性)腫瘍を認めた (図
1a)。
ii) 組織所見: G3主体の浸潤性尿路上皮癌で (図2),一
部には扁平上皮生を伴う。多数のリンパ管侵襲や
静脈侵襲を認める。
iii) 浸潤・転移
直接浸潤: 右自己腎に浸潤し一部で周囲脂肪組織にお
よぶ。
転移: 血行性転移; 肝臓 (多発,4.4 × 3.5 cm大までの
境界明瞭な結節を形成 (図3a,b),門脈侵襲あり),
両側肺 (多発,顕微鏡的転移巣)。リンパ行性転移;
左鎖骨下リンパ節,腹部大動脈前リンパ節,傍大
動脈リンパ節
3) 治療 なし
2. Post-transplant lymphoproliferative disorder,
monomorphic type
1) 既往検体
P14-09438 (皮膚): Skin metastasis of multiple myeloma
suspect
P15-06900 (肝臓): Necrotic tissue containing a small
number of atypical cells
P15-07525 (肝臓): 標本#2,3: High grade B-cell
lymphoma
図1. (a) 右自己腎 (215 g),(b) 左移植腎 (160 g),(c) 左自己腎 (27 g) 図2. 右腎盂癌組織像
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2) 部検所見
i) 肉眼所見
肝臓に,胆汁色や黄白色の4.3 × 3.0 cm大までの,
辺緑不整な結節を複数認めた (図3b,c)。
ii) 組織所見
核腫大・大小不同を呈し,明らかな接着性を示さ
ないリンパ球様の異型細胞がびまん性に浸潤・増殖
していた。結節中央には壊死を認めた (図4)。
免疫染色で,CD3 (-) ,CD5 (-),CD20 (+),CD79a
(focal+),Bcl-2 (+),CD10 (-),Bcl-6 (-),Mum1 (+),
CD30 (focal+),CD138 (focal+),κ + λ (focal+,ほぼ
1 : 1),MIB-1 LI (10〜20%),LMP1 (+),EBNA2 (+),
EBER・ISH (+)。
以上,non-GCB typeのdiffuse large B-cell lymphoma
の所見である。EBV感染が見られ,移植後の免疫抑
制剤使用状況下であったことから,post-tlansplant
lymphoproliferative disorder,monomorphic typeと考え
る。
3) 治療: なし
3. 多発性骨髄腫
1) 既往検体
P13-6247 (骨髄): No evidence of malignancy,
Hypocellular bone marrow
P14-4973 (骨髄): Hypocellular bone marrow
2) 部検所見
i) 肉眼所見: 腰椎L1に圧迫骨折。
ii) 組織所見
L1に限らず,標本作成したTh11,Th12,胸骨など
にも,形質細胞のシート状増殖巣を認めた (図5)。免
疫染色で,CD3 (-),CD5 (-),CD20 (-),CD79a (-),
CD138 (+),κ + λchain (ほぼλに+),EBER・ISH (-)
で,multiple myelomaの所見である。
3) 治療
VD療法: 2013年9月17日〜9月27日,以降13回施行 (最
終; 2015年4月15日〜5月19日)
放射線治療: 2013年8月26日〜9月10日,2.5 Gy × 12回
B. 随伴所見1. 慢性腎不全,腎移植後
右自己腎: !胞化 (215 g)
左自己腎: 萎縮 (27 g)
移植腎 (161 g),境界型病変: 間質に軽度の炎症細胞浸
潤と,散在性の尿細管炎。
図5. 骨髄肉眼所見および組織像 (左上: 胸骨,右上:脊椎)
図3. 多発肝腫瘤
図4. 肝PTLD組織像
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2. 腔水症
胸水 (左: 1,200 ml,淡黄色透明,右: 1,400 ml,淡黄色
透明)
腹水: 1,200 ml,淡黄色透明
心!液: 50 ml,淡黄色透明
3. CMV胃炎
C. その他の病変1. 脾腫 + 脾梗塞 (246 g)
2. 慢性胆!炎,2.8 × 1.8 cm大の胆石あり。
3. 大動脈粥状硬化症,軽度
4. 結節性甲状腺腫 (45 g): 左葉
5. 子宮筋腫,多発
6. 身長: 151.8 cm,体重46.5 kgの一女性屍体。
コメント
部検にて,肉眼的に肝臓全体に多数の結節形成を認
め,組織学的にはPTLDと低分化carcinomaの転移が混
在していた。C a r c i n o m aの原発は右自己腎下極の
urothelial carcinomaで,肝臓の多発転移のほか,両肺多
発転移,多発リンパ節転移を認めた。さらには,生前
より指摘されていたplasmacytomaも残存しており,検
索範囲内で,3種類の腫瘍がみられた。
腎移植後の免疫抑制下の状態によって易腫瘍性とな
り,多重悪性腫瘍が惹起されたと考えられる。その
他,EBV感染,CMV感染が認められ,免疫抑制下で
あったことが示唆された。
死因は,これらによる多臓器不全と考えるが,腫瘍
の分布から,urothelial carcinomaが直接死因に最も関与
したと推察する。
なお,PTLDの分布は検索範囲内では肝臓のみで
あったが,既往の左大腿部皮膚生検 (上記,P14-09438)
をreviewした結果,免疫染色にてCD3 (-),CD5 (-),
CD20 (+),CD79a (+),Bcl-2 (+),CD138 (-),CD10 (-),
Bcl-6 (-),Mum1 (+),EBER・ISH (-),EBNA2 (+),
LMP1 (+) であり,PTLDの所見であった。
北里大学病院CPC (第318回)