第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向...

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世界経済の動向 世界経済は、2007 年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008 年 9 月のリーマン・ブラザー ズ破綻を経て、世界的な景気後退に陥ったが、2009 年春には底打ちし、全体として緩やかな回復傾向をた どった。しかし2011年に入り、欧州債務問題の深刻化、 米国の景気回復の陰り等により、世界経済は再び減速 した。2012 年に入ると急激な景気後退の懸念はいっ たん緩和したものの、依然として各国の政策措置に支 えられた、不安定さを抱えた状態にある。一方、新興 国は減速傾向ながらも引き続き堅調に推移しており、 世界経済の成長を支える役割が期待される。 第 1 章第 1 節では、こうした世界経済の現状につい て概観する。 不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済 (1)2010 年末までの世界経済 国際金融・資本市場に動揺を与えた、2007 年夏の 米国サブプライム住宅ローン問題(住宅ローンの延滞) の表面化、さらに、2008 年 9 月のリーマン・ブラザー ズの破綻(いわゆるリーマン・ショック)を契機に「100 年に一度」と言われたほどの景気後退に陥った世界経 済は、アジア新興国を中心に下げ止まりの動きが広が り始め、2009 年春頃には世界全体の景気は底打ちし た。その後、各国の財政刺激策の効果、急速な在庫積 上げの動きによる生産活動の活発化等を背景に、回復 ペースが強まった。 しかし、2009 年 10 月、従来のギリシャの財政赤字 の公表値が過小だったことが判明、ギリシャの国債に 対する信用不安が高まり、ユーロ圏を中心に金融市場 は大きく動揺した。2010 年 4 月 23 日、ギリシャ政府 が IMF 及び EU 等に対して金融支援を正式に要請し、 5 月には IMF とユーロ圏による支援の枠組みができ たものの、アイルランド、ポルトガル等の財政状況に も懸念が拡大し、欧米を中心に市場のマインドを下押 しした。 このように、2010 年半ば以降、世界経済は回復基 調を維持しながらも、それまでの勢いをやや失った。 こうした中、中国をはじめとする新興国は、比較的高 い成長率を維持し、経済規模等の面において、その存 在感が一層高まった 1 (2)2011 年に入って以降の世界経済 2011 年に入り、世界経済の回復に陰りが見え始め た。特に後半は、先進国、新興国の双方の成長速度が 鈍化すると共に、財政、金融の安定性への懸念が増し た。2011 年 6 月以降、ユーロ圏では、当事国の意見 対立によりギリシャのデフォルト懸念が収束せず、市 場の懸念はイタリアやスペインにまで拡大した。また、 米国では、連邦政府の債務上限引上げを巡る政治的対 立により、一時的なデフォルトの可能性が生じた。実 際には妥協の成立により回避したものの、8 月 5 日に は、大手格付会社の 1 つが米国債の格付を史上初めて トリプル A からダブルA へと引き下げた。このよう 1.全体概況 通商白書、2011 年 2 2012 White Paper on International Economy and Trade

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第1章

世界経済の動向

 世界経済は、2007 年の夏に表面化した米国サブプライムローン問題、2008 年 9 月のリーマン・ブラザーズ破綻を経て、世界的な景気後退に陥ったが、2009年春には底打ちし、全体として緩やかな回復傾向をたどった。しかし 2011 年に入り、欧州債務問題の深刻化、米国の景気回復の陰り等により、世界経済は再び減速した。2012 年に入ると急激な景気後退の懸念はいっ

たん緩和したものの、依然として各国の政策措置に支えられた、不安定さを抱えた状態にある。一方、新興国は減速傾向ながらも引き続き堅調に推移しており、世界経済の成長を支える役割が期待される。 第 1章第 1節では、こうした世界経済の現状について概観する。

第1節 不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

(1)2010 年末までの世界経済 国際金融・資本市場に動揺を与えた、2007 年夏の米国サブプライム住宅ローン問題(住宅ローンの延滞)の表面化、さらに、2008 年 9 月のリーマン・ブラザーズの破綻(いわゆるリーマン・ショック)を契機に「100年に一度」と言われたほどの景気後退に陥った世界経済は、アジア新興国を中心に下げ止まりの動きが広がり始め、2009 年春頃には世界全体の景気は底打ちした。その後、各国の財政刺激策の効果、急速な在庫積上げの動きによる生産活動の活発化等を背景に、回復ペースが強まった。 しかし、2009 年 10 月、従来のギリシャの財政赤字の公表値が過小だったことが判明、ギリシャの国債に対する信用不安が高まり、ユーロ圏を中心に金融市場は大きく動揺した。2010 年 4 月 23 日、ギリシャ政府が IMF及び EU等に対して金融支援を正式に要請し、5月には IMF とユーロ圏による支援の枠組みができたものの、アイルランド、ポルトガル等の財政状況にも懸念が拡大し、欧米を中心に市場のマインドを下押

しした。 このように、2010 年半ば以降、世界経済は回復基調を維持しながらも、それまでの勢いをやや失った。こうした中、中国をはじめとする新興国は、比較的高い成長率を維持し、経済規模等の面において、その存在感が一層高まった 1。

(2)2011 年に入って以降の世界経済 2011 年に入り、世界経済の回復に陰りが見え始めた。特に後半は、先進国、新興国の双方の成長速度が鈍化すると共に、財政、金融の安定性への懸念が増した。2011 年 6 月以降、ユーロ圏では、当事国の意見対立によりギリシャのデフォルト懸念が収束せず、市場の懸念はイタリアやスペインにまで拡大した。また、米国では、連邦政府の債務上限引上げを巡る政治的対立により、一時的なデフォルトの可能性が生じた。実際には妥協の成立により回避したものの、8月 5日には、大手格付会社の 1つが米国債の格付を史上初めてトリプルAからダブルA+へと引き下げた。このよう

1.全体概況

1 通商白書、2011 年

2 2012 White Paper on International Economy and Trade

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な米国の財政懸念とユーロ圏債務危機の深刻化を反映し、2011 年夏から秋には世界同時株安、国債価格の下落、為替市場の変動など、世界的な金融市場の混乱が生じた。2011 年 8 月以降、国際機関やアナリストによる世界経済の見通しは下方修正が相次いだ。 さらに、新興国においても、2011 年前半までの物価上昇に対する金融引締めに加えて、欧州債務危機の影響による金融市場の混乱並びに欧州向け輸出の減少等が背景となり、減速傾向が目立ってきた。その一方で、2011 年第 2四半期の時点において、新興国のGDP成長率(前期比年率、6.3%)は、先進国(同 0.8%)を大幅に上回り、今後も堅調な経済成長を維持することが見込まれる(第 1-1-1-1 図)。新興国では物価の落ち着きが戻りつつあり、2012 年に入って金融緩和による経済成長の下支えへと軸足を移す流れが強まっている。引き続き、世界経済の牽引役としての役割が期待されている。

 なお、IMFは 2012 年 4月 2、米国経済の改善、欧州債務危機のある程度の安定化を主な理由に「世界経済の見通しは再び次第に力強さを増している」と指摘、2012 年の世界経済見通しを同年 1月時点のものから0.2%引き上げ、3.5%とした。また、先進国、新興国についても 0.2%引き上げ、各々1.4%、 5.7%とした。大部分の国・地域で見通しが上方修正され、プラス成長が

見込まれる中、スペインとインドは下方修正され、ユーロ圏全体とイタリア、スペインはマイナス成長の見通しとなっている(第 1-1-1-2 表)。 IMFは、「主要な先進国・地域は緩慢ながら再び回復、新興国も比較的堅調な成長が続く」ものの、「改善の足取りは極めて脆弱」とし、欧州債務危機の一層の悪化、原油価格の急騰等の下ぶれリスクは引き続き高い、と指摘している。

(3)主要国の経済概況① 欧州 2010 年 5 月に、IMF及び EU等がギリシャに対する金融支援に合意した後も、金融市場では、南欧等諸国 3の財政に対する懸念が高まり、2010 年末にはアイルランド、2011 年 4 月にはポルトガルへと金融支援の対象は拡大した。2011 年 6 月半ば以降、ギリシャ問題が再燃するが、ユーロ圏当事国の調整が難航し 4、

2 IMF (2012a)3 ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン4 2011 年 8 月、フィンランドがギリシャへの新たな緊急融資に対して担保を要請。他の国も一部追随。融資手続きが遅れ、市場ではギリシャのデフォルト危機が再燃(欧州問題の深刻化)。

備考:季節調整済み。資料:IMF「WEO, January 2012 update」 から作成。

3.2

6.3

IMF予測

0.8

世界

3.2 先進国

0.8

新興国

6.3

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10

Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3

2008 2009 2010 2011 2012 2013

(前期比年率、%)

(年期)

IMF予測

第 1-1-1-1 図 世界実質GDP成長率の推移

2010 2011 2012(IMF見通し)

2013(IMF見通し)

世界(購買力平価ベース) 5.3 3.9 3.5 4.1

先進国 3.2 1.6 1.4 2.0

米国 3.0 1.7 2.1 2.4

ユーロ圏 1.9 1.4 -0.3 0.9

ドイツ 3.6 3.1 0.6 1.5

フランス 1.4 1.7 0.5 1.0

イタリア 1.8 0.4 -1.9 -0.3

スペイン -0.1 0.7 -1.8 0.1

日本 4.4 -0.7 2.0 1.7

英国 2.1 0.7 0.8 2.0

カナダ 3.2 2.5 2.1 2.2

アジア NIEs 8.5 4.0 3.4 4.2

新興国 7.5 6.2 5.7 6.0

中東欧 4.5 5.3 1.9 2.9

ASEAN5 7.0 4.5 5.4 6.2

ブラジル 7.5 2.7 3.0 4.1

ロシア 4.3 4.3 4.0 3.9

インド 10.6 7.2 6.9 7.3

中国 10.4 9.2 8.2 8.8

中東・北アフリカ 4.9 3.5 4.2 3.7

南アフリカ 2.9 3.1 2.7 3.4

備考: ASEAN5 は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム。

資料:IMF 「WTO, April 2012」から作成。

第 1-1-1-2 表 世界経済の見通し(実質)

通商白書 2012 3

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

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欧州問題の深刻化に対する懸念は世界の金融市場に広がった。2011 年 8 月の世界同時株安、同年秋口の新興国からの資金流出など、当初は、ユーロ圏の一部の国の財政に対するものだった市場の不安は、世界の金融システムの安定性に対する懸念へと拡大していった。 こうした事態が金融機関の融資縮小や新興国からの大量の資金流出を招きかねないとの不安が広がると共に、ユーロ圏各国の輸入減少によって、輸出国側の実体経済にもマイナスの影響を及ぼした。 欧州中央銀行(ECB)は、2011 年 12 月と 2012 年2 月に無制限の資金供給を実施、また、2012 年 3 月に

はギリシャ追加支援の実施に合意し、同国国債のデフォルトが回避された。こうした取組により、2012年に入ってから欧州経済に対する市場の不安はいったん後退したが、当面の景気は依然として厳しく、財政懸念は払拭されていない。例えば、南欧等諸国向けの与信残高は、2011 年 9 月末時点で、フランス、ドイツの金融機関を中心として高い水準にある(第 1-1-1-3 図)。今後、欧州債務危機が再燃した場合には、金融市場の動揺を通じて世界経済を下振れさせる可能性がある。

 なお、同図が示すように、日本の金融機関の南欧等諸国向け与信残高は 830 億ドル程度と、フランス(6,200 億ドル)、ドイツ(4,600 億ドル)等に比してはるかに小規模であり、直接的な影響は限定的と考えられる。ただし、実体経済における外需低迷、更には世界的な信用収縮が広がった場合、我が国経済への大きな打撃が生じかねない。 欧州債務問題は 2012 年も引き続き、世界経済の大きな懸案事項である(第 1章第 2節参照)。

② 米国 2011 年、米国の景気回復に向けた足取りは緩やかなものとなった。2010 年夏以降の原油価格の急騰が企業並びに消費者のマインドを萎縮させ、需要低迷が

続いた。一方、2011 年 5 月、米国では連邦債務が 14兆 3,000 億ドルの法定上限に達し、デフォルト(債務不履行)の危機に直面、その回避に必要な債務上限の引上げを巡り、合意期限の同年 8月 2日直前まで政治的対立が続いた。その間、市場では、万が一、米国が実際にデフォルトに陥り、再びリセッション(景気後退)入りした場合、各国の経済や市場に大きな影響を及ぼすとの懸念が高まった。結果的に、妥協の成立によってデフォルトは回避されたものの、その間の政治的混乱は米国の財政の先行きに対する不透明感を深めた。同年 8月 5日には、米大手格付会社の 1つが、「オバマ政権と米議会が合意した財政健全化策は、米財政の中期的な安定に必要とされる内容としては不十分」とし、米国債の長期信用格付を最高水準の「トリプル

備考:2011 年 9 月末の与信(foreign claims:公的部門、民間部門含む)の速報値。資料:BIS「Consolidated Banking Statistics」から作成。

47.9 18.6

29.0 101.6 137.1

19.6 43.7

372.4

144.7 61.3

36.433.0

25.8

30.0

23.4

144.5

160.9

93.1

3.2 1.0 11.5 1.2 6.015.9 8.635.53.5

78.81.4

5.0

29.524.7

47.8

47.9 18.6

29.0 101.6 137.1

19.6 43.7

372.4

144.7 61.3

36.433.0

25.8

30.0

23.4

144.5

160.9

93.1

3.2 1.0 11.5 1.2 6.015.9 8.635.53.5

78.81.4

5.0

29.524.7

47.8

0

300

600

フランス ドイツ イタリア スペイン 英国 日本 米国

(10 億ドル)

対スペイン対ポルトガル対イタリア対アイルランド対ギリシャ

第 1-1-1-3 図 主要国の南欧重債務国向けエクスポージャー

4 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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A」から「ダブルA+」に 1段階引き下げ、米国の財政の持続性に対する懸念を投げかけた。一方、7月末に公表された米国GDPの改定値において、2011 年第1四半期の GDPが大幅に引き下げられ(前期比年率1.9%→ 0.4%へ)、第 2四半期は市場予測を下回る 1.3%にとどまった結果(第 1-1-1-4 図)、2011 年上期、既に米国経済が、2008 年金融危機前のGDPを下回って失速状態にあったことが明らかになった。

 こうした一連の状況は、労働市場の回復の遅れ、住宅市場の長期低迷等による米景気の先行き不安を更に高めることとなった。 その後、2011 年第 4四半期から米国経済は持ち直しの兆しが見え始めた。背景として、我が国の震災に伴う供給制約が解消される中、自動車を中心に生産が持ち直したこと、雇用回復に向けた兆しが見受けられること、個人消費が底堅く推移したこと、また、米国の輸出が回復傾向を取り戻したこと等が寄与した。2012年に入ってからも輸出は増加し、製造業・非製造業共に企業マインドが改善傾向にあるなど、米国経済は緩やかな回復基調を維持している。一方、雇用情勢については、2012 年 4月の雇用者数の増加が予想を下回るなどいまだ不安定であり、IMFは、2012-13 年を通じて、雇用者数の増加見通しはごく緩やかにとどまると指摘している。住宅価格も低迷状態から脱していない。また、2011 年秋以降、世界的な景気回復期待の高まりやイラン情勢の緊迫化を背景に原油価格が上昇、ガソリン価格も上昇傾向にあり、購買力の低下と消費者マインドの悪化が個人消費を下押しする懸念がある。さ

らに、2011 年 8月 2日に合意に至った米連邦債務の上限引上げについて、条件とされた財政赤字削減策について、最終期限の 2011 年 11 月 23 日までに合意に至らなかった。今後は、国防費を中心に強制的に歳出削減が実施されることとなる。併せて、ブッシュ政権時代の減税措置の失効(2012 年末)、社会保障税減税及び失業保険給付期間拡大の失効(2012 年末)等の財政問題も控えており、この先、米国経済の回復傾向が腰折れしかねないとして懸念視されている。 このように、米国経済は緩やかな回復基調を維持しつつも、下ぶれリスクが依然として残る(第 1章第 3節参照)。

③ 中国はじめ新興国~減速傾向を示すものの、堅調な成長が見込まれる~

 新興国では、2009 年後半以降の力強い回復に加え、先進国の金融緩和に伴う大量の資金流入を受けて景気が過熱に向かった。また、資源・食料価格の世界的な高騰もあり、インフレの進行に対する懸念が拡大した。このため、2010 年中盤以降、新興国では政策金利や預金準備率の引上げ等が強化された(第 1-1-1-5 表)。こうした「金融引締め」への政策転換が奏功し、2011年後半には新興国のインフレ懸念は沈静化に向かった。 他方、継続的な金融引締め策の実施等により、2011年後半は、ブラジル、インド、ロシア、南アフリカ、トルコ等、一部の新興国において、経済成長の減速傾向が表れ始めた。さらに、欧州債務危機の影響は新興国にも及んだ。金融面では、欧州の民間金融機関によるアジア新興国からの資金引揚げ 5が発生、長期化すれば新興国の高成長を支えてきた外国からの資金流入が縮小し、企業活動や個人消費を抑制しかねない、と懸念された。また、貿易面では、新興国の主要輸出先であるEUの輸入減少により、新興国の輸出は伸び悩んだ(「3.リーマン・ショックから続く世界貿易の低迷と回復」参照)。このように、世界経済の回復を牽引してきた新興国においても、2011 年は、金融引締めや欧州債務危機の影響によって経済成長に陰りが生じた。 一方、2011 年後半からのインフレ沈静化を受けて、2012 年に入ると、新興国の間では、政策の軸足を金融引締めによる物価抑制から、金融緩和による景気下

5 主な背景として、①欧州銀行が、債務問題の深刻化による信用収縮に備えて手元のドル資金を厚くするため、アジア新興国の企業への融資の引揚げや株・債券の売却を行なったこと、②投資家のリスク回避姿勢が強まったこと等が指摘されている。

第 1-1-1-4 図 米国 GDP(前期比年率)

資料:米国商務省データベースから作成。

1.3 1.72.3

0.4

1.3 1.83.0

1.9

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2007 2008 2009 2010 2011 2012(年期)

(%)

通商白書 2012 5

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

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支えへと移行させる動きが続いている。また、IMF、OECD等の国際機関は、新興国は引き続き堅調な経済成長を維持する、との見通しを示している。仮に、更なる危機が発生した場合も、新興国は先進国に比較して金融・財政の両面から政策余地は大きいとの見方

が多い。IMFによれば、新興国経済の世界経済に占める割合は、2010 年が 34.3%、2011 年が 35.3%となり、2015 年には 38.8%に拡大することが見込まれており、引き続き、世界経済の成長を支える役割が期待されている(第 1-1-1-6 図)。

↑ 政策金利引上げ  ↓政策金利引下げ ⬆⬆預金準備率引上げ ⬇⬇預金準備率引下げ

2011 年 2012 年

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11 月 12 月 1月 2月 3月 4月 5月

新  

興  

ブ ラ ジ ル 11.25 11.25 11.75 12.00 12.00 12.25 12.50 12.00 12.00 11.50 11.50 11.00 10.50 10.50 9.75 9.00 9.00

ベ ト ナ ム 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00 9.00

イ ン ド 6.50 6.50 6.75 6.75 7.25 7.50 8.00 8.00 8.25 8.50 8.50 8.50 8.50 8.50 8.50 8.00 8.00

ロ シ ア 7.75 8.00 8.00 8.00 8.25 8.25 8.25 8.25 8.25 8.25 8.25 8.00 8.00 8.00 8.00 8.00 8.00

中 国 5.81 6.06 6.06 6.31 6.31 6.31 6.56 6.56 6.56 6.56 6.56 6.56 6.56 6.56 6.56 6.56 6.56

インドネシア 6.50 6.75 6.75 6.75 6.75 6.75 6.75 6.75 6.75 6.50 6.00 6.00 6.00 5.75 5.75 5.75 5.75

ト ル コ 6.25 6.25 6.25 6.25 6.25 6.25 6.25 5.75 5.75 5.75 5.75 5.75 5.75 5.75 5.75 5.75 5.75

フ ィ リ ピ ン 4.00 4.00 4.25 4.25 4.50 4.50 4.50 4.50 4.50 4.50 4.50 4.50 4.25 4.25 4.00 4.00 4.00

タ イ 2.25 2.25 2.50 2.75 2.75 3.00 3.25 3.50 3.50 3.50 3.25 3.25 3.00 3.00 3.00 3.00 3.00

資料:CEIC データベース、各国政府公表資料から作成。

↑ ↑ ↑ ↑ ↗ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

↓↑ ↑ ↑ ↑ ↗ ↑ ↑ ⬇⬇ ↓

↑ ↑↓

⬆⬆ ↑⬆⬆ ⬆⬆ ↑⬆⬆ ↑⬆⬆ ⬆⬆ ↗ ⬇⬇ ⬇⬇ ⬇⬇↑

↓ ↓ ↓

↓↑ ↑

↓ ⬇⬇ ↓↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑

↓ ↓

第 1-1-1-5 表 主要新興国の政策金利の推移

第 1-1-1-6 図 世界の名目GDPの推移

22.9% 23.2% 23.1% 24.1%25.0%

28.5%

34.3%

38.8%

35.3%

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

1980

1981

1982

1983

1984

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017(10 億ドル、2010 年基準)

22.9% 23.2%

予測

23.1% 24.1%25.0%

28.5%

34.3%

38.8%

基準年

35.3%

(年)

他先進国

米国

日本

英国

ドイツ

韓国

他新興国

ブラジル

ロシア

インド

中国

新興国

資料:IMF 「WEO, April 2012」から作成。

6 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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2.主要な経済指標の動向

 1.の全体概況を踏まえて、2011 年の世界経済の主な減速要因を整理すると以下のとおりである。 ・欧州債務危機の深刻化による金融市場の動揺、 ・ 米国の債務上限引上げを巡る政治的混乱と、米国の景気減速、

 ・新興国の金融引締め等による高成長の陰り、 ・中東の政治情勢の不安定化による原油価格上昇。 以下、こうした要因が生じる背景となった主要国・地域の経済動向を、主な経済指標を通じて確認する。

(1) 金融市場の動向 ~欧州債務危機の拡大懸念により混乱~

① 周辺諸国の財政問題からユーロ圏金融市場、さらに域外への影響拡大

 主要国の株価は、2011 年に入ると 4月にかけて上昇が続いたが、その後は伸び悩んだ。8月には米国経済の先行き、欧州債務問題の深刻化に対する懸念が台頭し、株価は大幅に下落した(第 1-1-2-1 図)。 国債利回りをみると、ギリシャのデフォルト懸念を

第 1-1-2-1 図 主要国の株価動向

備考:日経平均の値は 2012 年 4 月 27 日時点、それ以外は 4月 30 日時点。資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

備考: 上海総合、MICEX (ロシア)の値は 2012 年 4 月 27 日時点、それ以外は4月 30 日時点。

資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

70

90

95

100

105

110

115(指数、2011 年 1 月 13 日=100)

75

80

85

2011/01/01

2011/02/01

2011/03/01

2011/04/01

2011/05/01

2011/06/01

2011/07/01

2011/08/01

2011/09/01

2011/10/01

2011/11/01

2011/12/01

2012/01/01

2012/02/01

2012/03/01

2012/04/01

NY ダウ工業 30、113.2

日経平均 NYダウ工業株 30 韓国総合FTSE 100(英国) XETRA DAX(独)

XETRA DAX(独)、97.4

FTSE100(英国)、95.4

韓国総合、94.9

日経平均、90.6

65

110(指数、2011 年 1 月 13 日=100)

2011/01/01

2011/02/01

2011/03/01

2011/04/01

2011/05/01

2011/06/01

2011/07/01

2011/08/01

2011/09/01

2011/10/01

2011/11/01

2011/12/01

2012/01/01

2012/02/01

2012/03/01

2012/04/01

上海総合 香港ハンセン MICEX(ロシア)ボベスパ(ブラジル) ストレイトタイムス(シンガポール)

70

80

85

90

95

100

105

75 上海総合、85.5

香港ハンセン、88.8

MICEX(ロシア)、85.7

ストレイトタイム(シンガポール)、91.9

ボベスパ(ブラジル)、87.8

第 1-1-2-2 図 主要国の国債利回りの推移

備考:値は 2012 年 4 月 30 日時点。資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

68101214161820222426283032343638

4

40(利回り、%)

2011/01/01

2011/02/01

2011/03/01

2011/04/01

2011/05/01

2011/06/01

2011/07/01

2011/08/01

2011/09/01

2011/10/01

2011/11/01

2011/12/01

2012/01/01

2012/02/01

2012/03/01

2012/04/01

アイルランド 10 年物国債 イタリア 10 年物国債 ギリシャ 10 年物国債スペイン 10 年物国債 ポルトガル 10 年物国債

ギリシャ、20.645

スペイン、5.783 イタリア、5.514

ポルトガル、10.764

アイルランド、6.899

備考:日本の値は 2012 年 4 月 27 日時点、それ以外は 4月 30 日時点。資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

1.2

1.6

2.0

2.4

2.8

3.2

3.6

0.8

4.0(利回り、%)

2011/01/01

2011/02/01

2011/03/01

2011/04/01

2011/05/01

2011/06/01

2011/07/01

2011/08/01

2011/09/01

2011/10/01

2011/11/01

2011/12/01

2012/01/01

2012/02/01

2012/03/01

2012/04/01

日本国債 10 年物 米国債 10 年物 ドイツ国債 10 年物フランス 10 年物国債英国債 10 年物 オーストリア 10 年物国債

ドイツ、1.663日本、0.897

英国債 10 年物、2.11

オーストリア、2.678

フランス、2.971

米国、1.919

通商白書 2012 7

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

Page 7: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

巡って夏場以降ギリシャ国債の利回りが急上昇していったほか(第 1-1-2-2 図)、イタリア、スペインの信用不安から、両国の国債利回りが金融支援要請の目

安とされる 7%を超える場面も見られた(第 1-1-2-3図)。保証料率の推移をみても、これと整合的である(第1-1-2-4 図)。

 また、為替市場では 8月以降ユーロ安が進む一方、安全資産とされる円が買われて円高が進んだ(第1-1-2-5 図)。8月 19 日のニューヨーク外国為替市場の円相場は 1ドル= 75 円 95 銭まで円高が進行し、同年 3月 17 日につけた 76 円 25 銭の戦後最高値を更新した。 このように、当初の、一部南欧等諸国の財政危機は、イタリア、スペインなどの財政への懸念の高まりによ

りユーロ圏全体の金融市場の問題となり、更には欧州域外国へと拡大した。市場ではリスク回避スタンスが強まり、欧州や新興国からの資金流出と日本への資金逃避の状況が顕著になった。日銀が公表した2011年 10~12月期の資金循環統計(速報)によると、同年末時点の海外投資家の国債保有残高は78兆円(前年比37.8%増)と、過去最高を記録した。2012年に入ってから欧州経済に対する市場の不安は後退したが、同年3

4.5

7.5(単位:%)

2011/01/01

2011/02/01

2011/03/01

2011/04/01

2011/05/01

2011/06/01

2011/07/01

2011/08/01

2011/09/01

2011/10/01

2011/11/01

2011/12/01

2012/01/01

2012/02/01

2012/03/01

2012/04/01

イタリア 10 年物国債 スペイン 10 年物国債

イタリア、5.514

スペイン、5.783

5.0

5.5

6.0

6.5

7.0 EU などの支援を受ける目安は 7%

第 1-1-2-3 図 イタリア・スペイン 10 年物国債利回り

備考:値は 2012 年 4 月 30 日時点。資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

0

1,600(単位:bp)

2008/07/21

イタリア ポルトガル アイルランドスペイン

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

2008/10/21

2009/01/21

2009/04/21

2009/07/21

2009/10/21

2010/01/21

2010/04/21

2010/07/21

2010/10/21

2011/01/21

2011/04/21

2011/07/21

2011/10/21

2012/04/21

2012/01/21

ポルトガル、892.68

アイルランド、485.45

イタリア、435.67

スペイン、357.07

第 1-1-2-4 図 南欧等諸国の CDS 保証料率の推移

備考:値は 2012 年 4 月 30 日時点。資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

第 1-1-2-5 図 主要国の為替動向

備考:値は 2012 年 4 月 30 日時点。資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

備考:値は 2012 年 4 月 30 日時点。資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

81

115

2011/01/01

2011/02/01

2011/03/01

2011/04/01

2011/05/01

2011/06/01

2011/07/01

2011/08/01

2011/09/01

2011/10/01

2011/11/01

2011/12/01

2012/01/01

2012/02/01

2012/03/01

2012/04/01

日本円 人民元 韓国ウォン 豪ドルユーロ ブラジルレアル

(指数、2011 年 1 月 13 日=100)

通貨安(ドル高)

通貨高(ドル安)

日本円、103.8

人民元、104.7

韓国ウォン、98.4ユーロ、99.1

ブラジルレアル、87.6

豪ドル、104.6

838587899193959799101103105107109111113

対ドル

85

90

95

100

105

110

115(指数、2011 年 1 月 13 日=100)

通貨安(円高)

対 円通貨高(円安)

タイバーツ、95.2

韓国ウォン、94.8

ユーロ、95.5

豪ドル、100.7

人民元、100.9

2011/01/01

2011/02/01

2011/03/01

2011/04/01

2011/05/01

2011/06/01

2011/07/01

2011/08/01

2011/09/01

2011/10/01

2011/11/01

2011/12/01

2012/01/01

2012/02/01

2012/03/01

2012/04/01

ユーロ 人民元 豪ドル 韓国ウォンタイバーツ

8 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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月に入ると、スペインの財政への懸念が強まり、市場ではスペインのみならずイタリアについても国債利回りが急上昇するなど、危機への懸念は払拭されていない。 株価の世界合計時価総額をみても、2011 年 12 月末時点で前年比 13.6%のマイナスとなり、2012 年に入って 1-2 月は増加したが、3月には再び微減となっている。(第 1-1-2-6 図)。 また、各国・地域別に株価の時価総額をみると、2011 年 12 月、大多数の国・地域において 1年前より

も減少している(第 1-1-2-7 図)。欧州債務危機の深刻化、米国の景気低迷、新興国の景気減速等により世界経済の先行きが不安視される中、2011 年は世界的に景気が減速した状況が改めてわかる。

② 新興国の金融市場への影響拡大 ~資金の流出入により大きく動揺~

 世界経済危機の発生以降、新興国には高い経済成長と高金利を求めて多額の資金が国外から流入し、新興国の株式市場の発展と安定した経済成長を支えていた 6。しかし、2011 年 8 月以降、欧州債務問題の深刻化に伴い、中国、インド、ブラジル等の新興国からの資金引揚げが生じた(第 1-1-2-8 図、1-1-2-9 図)。 主な背景として、欧州の民間銀行が、債務問題の深刻化による信用収縮に備えて手元のドル資金を確保するため、新興国から企業向け融資を引き揚げ、株式、国債、コモディティ等を売却・現金化したこと、投資家のリスク回避姿勢が強まり、価格変動の度合いが高い新興国の株式を売却したこと等が挙げられる。この結果、新興国の株価は下落(第 1-1-2-10 図)、また、投資家が株の売却による資金を本国に戻す(リパトリエーション)際、新興国通貨を売って自国通貨に替えるため、新興国通貨が急激に下落した(第 1-1-2-11図)。新興国は、こうした資本流出に歯止めをかけるための対策を講じ 7、また、外貨準備の売却による為替介入等を実施した(第 1-1-2-12 図)。 このように、新興国への資金流入が著しく減少した結果、銀行の資金繰りが悪化し、貸出基準の厳格化と

6 一方、資金流入によって、通貨高圧力の高まりや、高インフレ、不動産価格の高騰といった問題ももたらした。

資料: World Feberation of Exchanges(WFE= 国際取引所連合)Database から作成。

第 1-1-2-6 図世界合計時価総額の推移(2011 年 1月~2012 年 3月)

(年月)

18.0 18.5 18.9 18.9 18.9 17.9 16.5 16.2 14.0 15.8 15.1 15.6 16.8 17.217.9

12.7 13.1 13.1 14.0 13.7 13.4 12.9 11.610.2

11.4 10.8 10.611.1 11.8 11.6

5.3 5.1 5.4 5.6 5.5 5.45.5

4.94.2

4.7 4.4 4.54.9 5.3 5.1

4.1 4.3 3.9 3.9 3.8 3.9 4.03.8

3.73.6

3.5 3.53.7 3.8 3.9

4.0 4.2 4.2 4.2 4.0 4.1 4.14.0

3.63.8

3.6 3.43.5 3.8 3.6

2.8 2.8 3.0 3.1 3.0 3.0 3.02.6

2.42.5

2.1 2.02.4

2.6 2.4

57.2 58.759.5 60.9 59.6 58.2 56.5

53.0

46.651.5

48.7 48.652.2

54.7 54.5

0

10

20

30

40

50

60

1 月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月11 月12 月 1月 2月 3月

(兆ドル)

中南米 MICEX(ロシア) 南ア 中東計太平洋州計 ASEAN4 カナダ インド計中国計 日本計 NIEs 計 欧州計米国 世界時価総額

2011 年 2012 年

(2011 年 12 月末)世界時価総額    48.6 兆ドル→対前年同月比      -13.6%

(2012 年 3 月末)世界時価総額    54.5 兆ドル→対前年同月比       -7.9%

-38.3-38.3

-31.8-10.8 -4.8

79.6

-58.3

1.279.6

-4.1-9.6

-11.4-11.9-12.0-13.1-14.7-16.5-17.2-18.2-18.8-19.2

-25.2-27.3-31.1-32.2-32.3-32.6-33.1-34.8

-42.2

-4.8

-50.0-50.0-58.3

Irish SE(アイルランド)Mauritius SE(モーリシャス)

Saudi Stock Market(サウジアラビア)London SE 9(英国)

SIX Swiss Exchange(スイス)Amman SE(ヨルダン)

BME Spanish Exchanges(スペイン)Casablanca SE(モロッコ)

Johannesburg SE(南アフリカ)NYSE Euronext(Europe)Deutsche Börse(ドイツ)

Malta SE(マルタ)MICEX(ロシア)

NASDAQ OMX Nordic ExchangeOslo Børs(ノルウェー)Warsaw SE(ポーランド)Tel Aviv SE(イスラエル)Budapest SE(ハンガリー)

Wiener Börse1(オーストリア)Ljubljana SE(スロベニア)

Luxembourg SE(ルクセンブルク)Istanbul SE(トルコ)

Egyptian Exchange(エジプト)Athens Exchange(ギリシャ)

Cyprus SE(キプロス)欧州中東アフリカ合計

8.2

-2.4

-3.2-3.3

-7.6-8.8

-13.1

-13.2-16.7

-17.6-19.6

-20.8

-22.4

4.9

-10.4

Indonesia SE(インドネシア)Philippine SE(フィリピン)Colombo SE(スリランカ)Bursa Malaysia(マレーシア)

Thailand SE(タイ)Singapore Exchange(シンガポール)

Korea Exchange(韓国)Tokyo SE(東京)

Shanghai SE(上海)Hong Kong Exchanges(香港)

Australian SE(豪州)Shenzhen SE(深圳)Osaka SE(大阪) 5

Taiwan SE Corp. (台湾)Bombay SE(インド)NSE India(インド)

アジア大洋州計

-1.1-3.5

-10.0-11.9-11.9

-19.7-20.5-20.8-20.9

-31.8 -38.3-38.3

-10.8

(%) (%) (%)

NASDAQ OMXColombia SE(コロンビア)

Mexican Exchange(メキシコ)TSX Group(カナダ)NYSE Euronext(米国)

Bermuda SE(バーミューダ)BM&FBOVESPA(ブラジル)

Lima SE(ペルー)Santiago SE(チリ)

Buenos Aires SE(アルゼンチン)米州合計

第 1-1-2-7 図 各国・地域別の株価時価総額(前年同月比、2012 年 12 月)

資料:World Feberation of Exchange(WFE= 国際取引所連合)Database から作成。

通商白書 2012 9

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

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需要の低下がみられた(第 1-1-2-13、1-1-2-14 図)。こうした状況が長期化すれば、新興国の景気を下押しし、世界経済の減速を招きかねないとの懸念が高まった。 しかし、新興国の資金流出は 2011 年 10 月以降は沈静化に向かい、2012 年に入って欧州債務危機にある程度の落ち着きがみられるようになると、新興国市場では、資金流入が再び活発化した。このことから、2011年秋口の資金流出はリーマン・ショック後の状況と比べても、影響は限定的であったとの指摘がある 8。 ただし、先進国・地域がもたらす下ぶれリスクは依然として存在しており、新興国としては、各国に見あった適切なマクロ経済政策を実施することが主要な課題である、とされている 9。

③世界的なマネーフローの変化 以上のような国際金融市場の動向を反映し、2011-12 年にかけて世界的なマネーフローに変化が生じた。

7 例えば、インドは、2012 年 1 月 15 日より、外国個人投資家によるインド株の直接購入を解禁、ブラジルは同年 12 月 1 日、外国人投資家の株式投資に係る税率の 0%への引下げを含む金融取引税の減免措置を発表。

8 IMF(2012a)9 同上。

第 1-1-2-9 図 新興国への資金の流れ

資料:IME 「WTO, April 2012」から作成。

(単位:10 億ドル)

-20-15-10-5051015202530

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

2010 2011 2012(年月)

資金流出

-18

-13

-8

-3

2

7

12

17

22

中国

インド

韓国

台湾

マレーシア

インドネシア

タイ

ブラジル

メキシコ

ポーランド

トルコ

ポルトガル

ギリシャ

ハンガリー

ルーマニア

(%)2011 Q12011 Q22011 Q3

第 1-1-2-8 図欧州の金融機関によるアジア、新興国向け与信状況(前期比)

資料:BIS 統計から作成。

第 1-1-2-10 図 新興国の株価の推移

資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

70

2011/07/29

上海総合 香港ハンセン MICEX(ロシア)ボベスパ(ブラジル) ストレイトタイムス(シンガポール)

(指数、2011 年7月 29 日=100)

75

80

85

90

100

95

2011/08/12

2011/08/26

2011/09/09

2011/09/23

2011/10/07

2011/10/21

2011/11/04

2011/11/18

2011/12/02

2011/12/16

上海総合、82.3

香港ハンセン、81.5

ボベスパ(ブラジル)、95.4

ストレイトタイム(シンガポール)、83.4

MICEX(ロシア)、81.1

第 1-1-2-11 図 新興国の対ドル相場の推移

資料:Thomson Reuters Eikon から作成。

82

118(指数、2011 年1月3日=100)

通貨安(ドル高)

通貨高(ドル安)

マレーシアリンギット タイバーツ インドルピー ブラジルレアルメキシコペソ ハンガリーフォリント ポーランドグロシュ チェココルナ

8486889092949698100102104106108110112114116

2011/01/03

2011/01/18

2011/02/02

2011/02/17

2011/03/04

2011/03/19

2011/04/03

2011/04/18

2011/05/03

2011/05/18

2011/06/02

2011/06/17

2011/07/02

2011/07/17

2011/08/01

2011/08/16

2011/08/31

2011/09/15

2011/09/30

2011/10/15

2011/10/30

2011/11/14

2011/11/29

2011/12/14

2011/12/29

2012/01/13

2012/01/28

2012/02/12

2012/02/27

2011 年8月以降

10 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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これまで見てきた世界経済の流れを念頭に置きつつ、世界経済危機前後まで遡って世界のマネーフローの様子を追うと、以下のようになる。

(a) 危機発生前(2007年第 2四半期):第1-1-2-15図

 危機発生前の 2007 年第 2四半期においては、米国

に向けて、全ての地域から資本が流入している。かつ、いずれも、米国に流入する資本の方が、米国から流出する資本よりも多い。また、米国・欧州間については、いずれの地域との間よりも大きな資本の流れがある。 新興国についても、グローバル投資家のリスク選好が高まったことを背景に、証券投資(株式、債券)や直接投資などが拡大した結果、2007 年夏頃まで資本

第 1-1-2-12 図 主要国の外貨準備高と為替レートの推移

資料:IME 「Principal Global Indicator」から作成。 資料:IME 「Principal Global Indicator」から作成。

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

400,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 122010 2011

(100 万ドル) (ブラジル)

1.5

1.55

1.6

1.65

1.7

1.75

1.8

1.85

1.9(対ドル)

ブラジル外貨準備高 ブラジルレアル

(年月)

0

600,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 122010 2011

(100 万ドル) (ロシア)

27

32(対ドル)

ロシア外貨準備高 ロシアルーブル

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

27.52828.52929.53030.53131.5

(年月)

240,000

330,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 122010 2011

(100 万ドル) (インド)

43

55(対ドル)

インド外貨準備高 インドルピー

(年月)

250,000

260,000

270,000

280,000

290,000

300,000

310,000

320,000

45

47

49

51

53

0

140,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 122010 2011

(100 万ドル) (インドネシア)

8,400

9,400(対ドル)

インドネシア外貨準備高 インドネシアルピア

(年月)

8,5008,6008,7008,8008,9009,0009,1009,2009,300

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

第 1-1-2-13 図 新興国市場の銀行の貸出基準の状況

資料:IME 「WEO, April 2012」から作成。

(指数、中立=50)

(年期)

30

35

40

45

50

55

60

65

70

Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2009 2010 2011 2012

中東アフリカ中南米EUアジア

緩和

厳格化

第 1-1-2-14 図 新興国市場の銀行の貸出需要の状況

資料:IME 「WEO, April 2012」から作成。

(指数、中立=50)

(年期)Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2009 2010 2011 2012

需要増加

需要減少

40

45

50

55

60

65

70

75

80

世界中東アフリカ中南米EUアジア

通商白書 2012 11

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

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流入が拡大した。

(b) 危機発生時(2008 年第 3四半期):第 1-1-2-16図

 2007 年夏以降、サブプライムローン問題の発生、さらに 2008 年秋のリーマン・ブラザーズの破綻を契機に、投資家のリスク選好は急速に低下し、その結果、資本を引き揚げる動きが顕著となった。すなわち、欧

州、中南米、中東アフリカから米国へ流入する資本も、米国からアジア太平洋諸国、中東アフリカ、オフショアへ流出する資本も、いずれもマイナス(引揚げ超過)となった。ただし、アジア・太平洋地域から米国に向かう資本の流れは、同時期においても前期比で 2割弱の減少幅にとどまっている。

第 1-1-2-15 図 主要国・地域間の資金の流れ(2007 年第 2四半期)

410 159

40132

3,824

2,891

54

122

9263

305

1,507

499

5141,259

1,652

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

410 159

欧州

中南米

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

40

中東・アフリカ

132

3,824

2,891

54

122

9263

その他西半球諸国

305

1,507

499

5141,259

1,652

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国商務省、Bank of England から作成。

第 1-1-2-16 図 主要国・地域間の資金の流れ(2008 年第 3四半期)

49

300

1,242

23

9129

▲205

▲432

▲104

▲195

▲2

▲96▲29

▲185

▲61

▲124

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

欧州

中南米

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

中東・アフリカ

49

その他西半球諸国

300

1,242

23

9129

▲205

▲432

▲104

▲195

▲2

▲96▲29

▲185

▲61

▲124

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国商務省、Bank of England から作成。

12 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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(c) 危機発生から 1年後(2009 年第 3四半期):第1-1-2-17 図

 世界経済はアジア新興国を中心に持ち直しの動きが広がり、2009 年春には底打ちした。資金フローにおいても、危機発生から 1年後の 2009 年第 3四半期には、米国を巡る資本の流れが回復し始めた。特に、投資家のリスク選好が回復し、アジア・太平洋については、米国から世界経済危機以前を上回る資本が流入し、中南米についても、米国からの資本流入が危機以前の

レベルまで回復した。

(d) 危機発生から 2年後(2010 年第 3~4四半期):第 1-1-2-18 図 , 第 1-1-2-19 図

 危機発生から 2年後の 2010 年第 3四半期には、1年前(2009 年第 3四半期)に比べて、米国への資金の流れが更に強まった。特に、中国はじめ新興国の存在感が高まる中、アジア・太平洋地域との資金の流れが強まっており、同地域から米国への資金流入が危機

第 1-1-2-17 図 主要国・地域間の資金の流れ(2009 年第 3四半期)

207

612

1,154

38

7

48

856

97

387

1,108

159▲2,019

▲108

▲50

▲294▲145

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

欧州

中南米

207

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

中東・アフリカ

612

1,154

38

7

48

その他西半球諸国

856

97

387

1,108

159▲2,019

▲108

▲50

▲294▲145

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国商務省、Bank of England から作成。

第 1-1-2-18 図 主要国・地域間の資金の流れ(2010 年第 3四半期)

199

324

1,614

1,675

14

73

21

50

14

735

1,567

331 361

▲20

▲161▲35

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

欧州

中南米

199

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

中東・アフリカ

324

1,614

1,675

14

73

21

その他西半球諸国

50

14

735

1,567

331 361

▲20

▲161▲35

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国商務省、Bank of England から作成。

通商白書 2012 13

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

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発生前(2007 年第 2四半期)を上回る一方、米国から同地域への資金の流れも、2010 年第 3四半期には危機発生前の 2倍強 , 第 4四半期には 3倍強となった。他の地域についても、中東アフリカを除いて回復した。 欧州については、2010 年第 3四半期、オフショア金融センターはじめ西半球諸国からの流入が回復したが、第 4四半期には再び同地域による資金引揚げが生じた。また、2010 年第 4四半期は、米国との間の流

出入が前期に比べて減少し、特に、米国から欧州への流入が第 3四半期の 1675 億ドルから第 4四半期の182 億ドルへと大幅に減少した。こうした欧州への資金流入の後退は、2010 年末にかけて、アイルランドの財政状況に対する懸念が顕在化し、欧米を中心に市場マインドが悪化したことによると考えられる。 世界全体としては、2010 年第 3-4 四半期の資金の流れは、2007 年第 2四半期以来の安定を見せた。

第 1-1-2-19 図 主要国・地域間の資金の流れ(2010 年第 4四半期)

171

330

182

95

1037

776

304

1,048

823

104 220

11155

▲102

▲45

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

欧州

中南米

171

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

中東・アフリカ

330

182

95

1037

その他西半球諸国

776

304

1,048

823

104 220

11155

▲102

▲45

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国 j 商務省、Bank of England から作成。

第 1-1-2-20 図 主要国・地域間の資金の流れ(2011 年第 1四半期)

145

2,707

2,505

180

866

65

399

468

238 249

2270

▲202

▲15

▲49

▲0.7

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

欧州

中南米

145

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

中東・アフリカ

2,707

2,505

180

その他西半球諸国

866

65

399

468

238 249

2270

▲202

▲15

▲49

▲0.7

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国商務省、Bank of England から作成。

14 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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(e) 欧州債務問題の深刻化(2011 年第 1~4四半期):第 1-1-2-20 図、第 1-1-2-21 図、第 1-1-2-22 図、第 1-1-2-23 図

 米国と欧州の間の資金フローは、2011 年第 1四半期、著しく拡大し、2007 年 2 月以来で最も活発となった(第 1-1-2-20 図)。しかし、その後の欧州債務危機への懸念が高まる中、米国はじめオフショア金融センターその他西半球諸国、アジア太平洋地域による欧州

からの資金引揚げが加速した。2011 年第 3四半期に危機が深刻化すると、米国による欧州からの資金引揚げは 1,112 億ドルに達した。 一方、欧州資本の引揚げも目立つ。欧州の各銀行は、信用収縮に備えて手元のドル資金を厚めにするため新興国からの資金引揚げを実施、また、市場では投資家のリスク回避姿勢が強まった。こうした背景により、2011 年第 3-4 四半期は、米国やアジア・太平洋地域、

第 1-1-2-21 図 主要国・地域間の資金の流れ(2011 年第 2四半期)

109

468

185

94

1,815

511

553

168 238

23

▲78

▲694

▲13

▲25

▲671

▲14

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

欧州

中南米

109

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

中東・アフリカ

468

185

94

その他西半球諸国

1,815

511

553

168 238

23

▲78

▲694

▲13

▲25

▲671

▲14

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国商務省、Bank of England から作成。

第 1-1-2-22 図 主要国・地域間の資金の流れ(2011 年第 3四半期)

106

1,166

14

66

787

203

326

158 251

0.6

▲138

▲1,112

▲41

▲47

▲49

▲47

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

欧州

中南米

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

中東・アフリカ

106

1,166

14

66

その他西半球諸国

787

203

326

158 251

0.6

▲138

▲1,112

▲41

▲47

▲49

▲47

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国商務省、Bank of England から作成。

通商白書 2012 15

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

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オフショア金融センターその他西半球諸国、中東アフリカ等における資金流出が活発化した。

(2) 景況感、景気先行指数 ~下ぶれリスクの高まりを背景に悪化~

 以上のように金融市場の動揺が続き、2011 年を通じて世界経済の下ぶれリスクが高まる中、2011 年は世界各国で景況感が悪化した。ユーロ圏の製造業購買担当者指数は特に弱く、2011 年 11 月(46.4)まで4か月連続で景況感の分岐点とされる「50」の数値を下回り、同年 12 月は 46.9 と微増にとどまった。また、ギリシャ(42.0)、スペイン(43.7)、イタリア(44.3)の指数の低さが目立った(第 1-1-2-24 図)。 2011 年 12 月以降、先進国、新興国のいずれも PMIが上昇した(第 1-1-2-25 図)。背景として、タイ洪水の影響が解消されつつあること、米国の景気に改善の動きが見られること、欧州債務危機への懸念が一定の落ち着きを取り戻したこと等を背景に、各国の鉱工業生産並びに貿易の勢いが増したことが考えられる。 OECD景気先行指数(2012 年 4 月公表分)をみると、2011 年後半にかけて先進国、新興国共に低下が続いたが、OECD加盟国については 2012 年 2 月時点で前年(2011 年)12 月から 4か月連続の上昇と、回復基調が見受けられた(第 1-1-2-26 図)。ただし、国・地域によるばらつきがある。日本と米国は 6か月連続の改善、また、韓国も 2012 年に入って回復傾向となり、

いずれも景気の分岐点の 100 を上回る一方、ユーロ圏は 2011 年 10 月以降、100 を下回る水準での推移となった。また、EUの主要 4か国であるイタリア、フランス、ドイツ、英国はいずれも引き続き 100 を下回るものの、ドイツと英国はプラスに転じており、一方、フランスとイタリアはマイナスで推移した(第 1-1-2-27 図)。新興国については、中国とインドが6か月連続のプラス、ブラジルが 3か月連続のプラスとなり、いずれも改善傾向を示した。また、ロシアは 2010 年7 月以降、100 を上回って推移した。一方、インドネ

第 1-1-2-23 図 主要国・地域間の資金の流れ(2011 年第 4四半期)

6

179

115

752

5471,167

160 156

6545

▲11

▲101

▲374

▲190

▲96

▲1,019

米 国アジア・太平洋地域

オフショア金融センター

欧州

中南米

資金の流れ(単位:億ドル)

英国

中東・アフリカ

6

179

115

その他西半球諸国

752

5471,167

160 156

6545

▲11

▲101

▲374

▲190

▲96

▲1,019

備考: ①投資収支(直接投資、証券投資等の合計)から見た資金の流れ。▲(マイナス)は流れが逆方向(リパトリエーション)であることを示す。②データの制約から、アジア・太平洋地域、中東・アフリカ及びオフショア金融市場は、英国との銀行部門のみを記載。③オフショア金融市場は、Aruba, Bahamas, Bahrain, Barbados, Bermuda, Cayman Islands, Guernsey, Isle of Man, Jersey, Lebanon, Macao, Mauritius, Netherlands Antilles, Panama and Vanuatu の計 14 か国・地域。

資料:米国商務省、Bank of England から作成。

第 1-1-2-24 図 主要国の製造業購買担当者指数

備考:2011 年 11 月時点の値。「50」は景況感の改善と悪化の分岐点。資料:World Bank 「Global Economic Prospects January 2012」から作成。

0 10 20 30 40 50 60

デンマークインドカナダトルコロシア豪州日本英国シンガポールチェコスイスブラジルオーストリアフランスポーランド中国アイルランドドイツ台湾韓国ユーロ圏オランダイタリアスペインギリシャ

(指数)

42.0

59.3 54.2 54.0 52.0 51.7 50.2 50.2 50.0 49.5 49.2 49.1 49.1 49.0 48.9 48.8 48.7 48.6 48.4 47.1 46.4 46.4 46.2 44.3 43.7 42.0

59.3 54.2 54.0 52.0 51.7 50.2 50.2 50.0 49.5 49.2 49.1 49.1 49.0 48.9 48.8 48.7 48.6 48.4 47.1 46.4 46.4 46.2 44.3 43.7 42.0

16 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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シアは 2012 年に入りマイナスが続いた(第 1-1-2-28図)。

(3)生産動向 ~景気低迷により停滞~① 鉱工業生産 ~2011 年は横ばい、2012 年に入り回復傾向~

 総合的な鉱業・製造業の活動状況を示す鉱工業生産指数は、2010 年中は緩やかな回復を見せたが、2011年に入り、東日本大震災によるサプライチェーンへの衝撃、夏場以降の米国の債務上限引上げ問題等を契機とする米国経済の減速懸念、欧州債務危機等、様々な下押し要因が影響を及ぼした結果、2011 年の鉱工業生産指数はおおむね横ばいで推移した(第 1-1-2-29図)。我が国については、3月の東日本大震災の影響によって大きく落ち込み、年後半にはタイ洪水によるサプライチェーン被害を受けたが、2012 年に入ると、

鉱工業生産指数は急上昇を示した。ユーロ圏については、債務危機が深刻化する中で下降傾向をたどったが、2012 年に入って回復の動きも見られた。新興国については、2011 年末以降、上昇が続いた。

② 自動車販売台数 世界的な景気減速の影響を受けて、2011 年の主要国の自動車販売台数は伸び悩みが目立つ結果となった(第 1-1-2-30 図)。世界の主要市場のうち、第 1位の中国、第 2位の米国をはじめ、インド、カナダは、販売台数は前年よりも伸びたものの、伸び率は前年比で低下した(第 1-1-2-31 図)。また、日本をはじめ、ブラジル、フランス、英国、韓国では販売台数、伸び率のいずれも前年比で減少した。他方、ドイツとロシアは前年比の伸び率が加速した。これは、ドイツでは雇用環境の改善によって購買意欲が高まったことが、ま

第 1-1-2-25 図 製造業購買担当者指数(先進国、新興国)

資料:IME 「WEO, April 2012」から作成。

(ポイント)

(年期)

50.950.2

48

50

52

54

56

58

60

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

2010 2011 2012

先進国新興国

第 1-1-2-26 図 OECD景気先行指数(主要先進国)

資料:OECD Stat から作成。

(ポイント)

(年月)

OECD 100.5 日本 101.1米国 101.3

ユーロ圏 99.6 韓国 100.0

92

94

96

98

100

102

104

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

2008 2009 2010 2011 2012

日本米国OECD ユーロ圏韓国

第 1-1-2-27 図 OECD景気先行指数(EU主要国)

資料:OECD Stat から作成。

英国 99.6

(ポイント)

(年月)

92

94

96

98

100

102

104

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3

2008 2009 2010 2011 2012

フランス 99.6

ドイツ 99.3イタリア 99.2

英国 99.6

フランスドイツイタリア英国

第 1-1-2-28 図 OECD景気先行指数(主要新興国)

資料:OECD Stat から作成。

88

90

92

94

96

98

100

102

104

106

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3

2008 2009 2010 2011 2012(年月)

(ポイント)

ロシアトルコOECD 中国インドネシアブラジルインド

ロシア 101.2OECD 100.5中国 100.4トルコ 99.9インドネシア 99.3インド 98.9ブラジル 98.7

通商白書 2012 17

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

Page 17: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

た、ロシアではエネルギー価格上昇に伴う実質所得の増加に支えられて、個人消費が堅調であることが背景と考えられる。 なお、新興国の新車販売台数は堅調に伸びており、2011 年は先進国にわずか 171 万台差まで迫った(第1-1-2-32 図)。新車販売台数を、上位国について、2004 年と 2011 年の 2時点で比較してみると、新興国は 22.7%から 48.8%へと 2倍以上に増加した(第 1-1-2-33 図)。この結果、販売台数の順位は中国が米国と

日本を抜いて 1位となり、ブラジル、インド、ロシアも順位を上げている(第 1-1-2-34 図)。

第 1-1-2-29 図 鉱工業生産指数の推移

備考:先進国は、トルコ、メキシコ、韓国、中欧諸国を除くOECD。資料:CPB 「Netherlands Bureau for Economic Policy and Analysis」 から作成。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 1 23 4 5 6 7 8 9 101112

(年月)

(2000 年=100、季節調整済)

80

85

90

95

100

105

110

115

120

125

130

(主要先進国・地域)

ユーロ圏

先進国

世界

米国

日本

2010 2011 20121 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 1 23 4 5 6 7 8 9 101112

(年月)

(2000 年=100、季節調整済)

(主要新興国・地域)

2010 2011 20121 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 1 23 4 5 6 7 8 9 101112

(年月)

(2000 年=100、季節調整済)

(先進国・新興国)

2010 2011 2012

中東アフリカ100

120

140

160

180

200

220アジア

新興国

世界

中東欧

中南米

90

100

110

120

130

140

150

160

170

180

190

新興国

先進国

世界

第 1-1-2-30 図 主要国の新車販売台数の推移

備考:ドイツ、フランス、英国、イタリアは乗用車が対象。資料:マークラインズ社データベースから作成。

中国 1,851

米国 1,278

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

(万台)

日本 421ドイツ 345ブラジル 342インド 329フランス 265ロシア 265英国 219イタリア 190カナダ 159韓国 147

0

100

200

300

400

500

600

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

日本 ドイツ ブラジル インド フランスロシア 英国 イタリア カナダ 韓国

(万台)

(年)2011(年)

18 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

Page 18: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

第 1-1-2-31 図 主要国の自動車販売台数及び伸び率(対前年比)の推移

備考:ドイツ、フランス、英国、イタリアは乗用車が対象。資料:マークラインズ社データベースから作成。

中国

507 576 722 879 9381,364

1,806 1,851

113.5125.3 121.8

106.7

145.5132.4

102.5

0

500

1,000

1,500

2,000

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台)

020406080100120140160(%)

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

米国

0

500

1,000

1,500

2,000

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

日本

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

ドイツ

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

ブラジル

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

インド

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台)

020406080100120140160(%)

フランス

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

ロシア

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台)

020406080100120140160(%)

英国

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

イタリア

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

カナダ

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

韓国

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

(万台) (%)

243250 244

252 252 264 266 265

100.999.6

102.8

97.9

103.2

99.8

104.9

230235240245250255260265270

949698100102104106

1,731 1,746 1,707 1,6481,350

1,061 1,178 1,278

100.8 97.8 96.581.9 78.6

108.5111.0

020406080100120

122 130188

257 293

147191

265

106.5

144.9 136.4114.1

50.1

130.3 138.9

050100150200250300350

584 584 573 535 508 461 495 421

100.0 98.1 93.3 94.9 90.8107.5

84.9

0100200300400500600700

020406080100120

296 283 273 280

248 222224 219

95.6 96.7

102.4

88.8 89.4

100.997.9

050100150200250300350

80

85

90

95

100

105

348 354 372 342 337 401315 345

98.3119.2 109.5101.7 104.9

92.1 78.6

0

10050

150200250300350400450

020406080100120140

253 250 259 278 242 235 211 190

98.8 103.687.0

97.4 89.7 89.8107.3

050100150200250300

020406080100120

156 170 191 246 282 315 345 342

112.3128.6

114.7 111.7109.0 109.599.1

050100150200250300350400

020406080100120140

157 163 166 169 167

148156 159

103.5 102.3 101.499.0

105.3101.8

88.5

135140145150155160165170175

80859095100105110

134 144 175 199 198 226304 329

107.1121.6 113.7

99.5114.3

134.3108.4

050100150200250300350

109 114 116 122 115139 147 147

104.5 101.9 104.7 94.7

120.7105.1 100.6

020406080100120140160

020406080100120140

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

新車販売台数〈左軸〉 対前年比〈右軸〉

通商白書 2012 19

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

Page 19: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

(4)経済成長率(GDP)と労働市場の動向 上述のような世界的な景況感の低迷、低調な生産活動等を背景に、2011 年の主要国・地域の経済経済成長率(GDP)は総じて伸び悩んだ。 先進国に関しては、米国では 2011 年後半から緩やかな回復への兆しが見受けられる一方、雇用・住宅市場を中心に景気の先行きはいまだ不安定である。ユーロ圏では欧州債務危機の深刻化を受けて、第 4四半期は景気が減速した。2012 年に入って一定の落ち着きがみられるものの、当面は再び景気後退が見込まれて

いる 10。英国は、2011 年第 3四半期、2012 年第 1四半期と、「景気後退」と判断される 2期連続マイナス成長となった。我が国は、2011 年 3 月の東日本大震災によって一部の素材や部品の供給が滞り、第 1四半期は大幅なマイナス成長となると共に、限定的ながら、国外に対しても減速要因となった。さらにタイの洪水や外需減速等により、2011 年第 4四半期もマイナス成長となったが、2012 年第 1四半期には、エコカー補助金の復活等による個人消費の増加、復興需要の顕在化による公共投資の拡大、輸出の持ち直し等が寄与

10 IMF(2012a)

第 1-1-2-32 図主要先進国・新興国の新車販売台数の推移

第 1-1-2-33 図主要先進国・新興国の新車販売台数のシェアの変化(2004 年、2011 年)

備考: 主要先進国は、カナダ、チェコ、米国、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イスラエル、イタリア、オランダ、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、豪州、日本、韓国、シンガポール、台湾。

    主要新興国は、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ウルグアイ、ベネズエラ、ポーランド、ルーマニア、ロシア、トルコ、中国、インド、インドネシア、マレーシア、パキスタン、タイ、ベトナム、南アフリカ。

資料:マークラインズ社データベースから作成。

4,270

0

500

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011(年)

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500

5,000

4,270 4,258 4,260 4,354

3,869

3,477 3,589 3,617

1,255 1,445 1,714

2,157 2,280 2,514

3,232

3,446

(万台)

先進国新興国

02004 2011 (年)

100

80

60

40

20

22.7

77.3

48.8

51.2

主な先進国主な新興国

(%)

第 1-1-2-34 図 新車販売台数上位国の順位とシェアの変化(2004 年、2011 年比較)

先進国新興国

2004 年 2011 年国 販売台数 構成比 国 販売台数 構成比

米国 17,310,401 34.5 中国 18,505,114 30.4 日本 5,843,687 11.6 米国 12,776,341 21.0 中国 5,071,071 10.1 日本 4,205,721 6.9 ドイツ 3,487,247 6.9 ドイツ 3,458,764 5.7 英国 2,957,192 5.9 ブラジル 3,423,472 5.6 イタリア 2,528,872 5.0 インド 3,294,289 5.4 フランス 2,430,485 4.8 フランス 2,653,563 4.4 スペイン 1,758,146 3.5 ロシア 2,653,408 4.4 カナダ 1,573,072 3.1 英国 2,191,316 3.6 ブラジル 1,564,169 3.1 イタリア 1,896,679 3.1 インド 1,344,317 2.7 カナダ 1,587,086 2.6 ロシア 1,218,585 2.4 韓国 1,474,637 2.4 メキシコ 1,095,736 2.2 豪州 1,008,437 1.7 韓国 1,093,652 2.2 メキシコ 905,886 1.5 豪州 955,229 1.9 スペイン 875,937 1.4 計 50,231,861 100.0 計 60,910,650 100.0 備考:ドイツ、フランス、英国、イタリアは乗用車が対象。資料:マークラインズ社データベースから作成。

20 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

Page 20: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

し、予想を上回る伸びとなった(第 1-1-2-35 図)。 新興国に関しては、2011 年、物価抑制に向けた金融引締め策の実施、欧州債務危機の金融面、貿易面での波及等により、減速傾向を示した。アジア新興国については、これらに加えて東日本大震災によるサプライチェーン寸断、タイの洪水等も影響した。世界経済の牽引役とされる中国は、依然として底堅い成長を維持したものの、伸び率にやや鈍化が見られる。インドではインフレの進行に対応した政策金利の引上げによる借入れコスト上昇が企業活動を抑制した。ブラジルは景気過熱感の高まりを受けた財政・金融引締め政策やレアル高による輸出鈍化が経済成長の減速につながった。一方、ロシアは原油高に伴う所得増を受け、内需を中心とする経済成長が目立つ(第 1-1-2-36 図)。 こうした中、労働市場の回復も遅れた。主要国においては、2009 年をピークとする失業率の改善傾向が2011 年も続いたが、リーマン・ショック前の水準と比較すると、依然として十分な低下が見られない(第1-1-2-37 図)。フランス、英国、豪州は 2011 年後半に悪化が見られる。また、雇用回復の遅れが続く米国では、同年第 4四半期から 2期連続で失業率が低下し、市場では雇用の本格的な回復への兆しとの期待が見受けられるものの、いまだ高い水準にある。そうした中、ドイツの失業率の低下が際立っている(第 1-1-2-38図)。 一方、スペイン、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、イタリアといった債務問題を抱えるユーロ圏各国については、リーマン・ショック後も、失業率は改

善することなく上昇し続けており(第 1-1-2-39 図)、その影響は、主要国の経済成長との差に表れている(第1-1-2-40 図)。

第 1-1-2-35 図 GDP 成長率の推移(先進国)

資料:OECD Stat から作成。

米国 0.5

韓国 0.9

カナダ 0.4

英国 -0.3

ドイツ 0.5

ユーロ圏 0.0

日本 1.0

-5

-4

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2008 2009 2010 2011 2012

(前期比、%)

(年期)

韓国 米国カナダ 英国日本 ドイツユーロ圏

第 1-1-2-36 図 GDP 成長率の推移(新興国)

備考: 中国は 2011 年より前期比を公表開始したため、2010 年以前は記載していない。

資料:OECD Stat から作成。

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2008 2009 2010 2011 2012

(前期比、%)

(年期)

ロシア 中国インド インドネシアブラジル

-5

-4

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

6

中国 1.8ロシア 1.9

インド 1.3インドネシア 1.3ブラジル 0.2

第 1-1-2-37 図  失業率の推移(主要国)

資料:OECD stat から作成。

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2008 2009 2010 2011 2012

(%)

(年期)

豪州 5.2

カナダ 7.4

フランス 10.0

ドイツ 5.6

日本 4.6

韓国 3.5

英国 8.3 米国 8.3

2

3

4

5

6

7

8

9

10

第 1-1-2-38 図  主要国の失業率の推移(指数)

資料:OECD stat から作成。

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2008 2009 2010 2011 2012

(2008 年 1 月=100)

(年期)

60

80

100

120

140

160

180

200

ドイツ 71.8

韓国 116.7日本 117.9カナダ 123.3豪州 126.8フランス 140.8イタリア 147.7

英国 159.6 米国 166.0

通商白書 2012 21

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

Page 21: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

(5)物価動向と金融政策 日本、米国、ユーロ圏、英国等の主要先進国は、デフレ傾向や景気減速に対する懸念から、低金利政策に加えて量的緩和、資産買入れといった非伝統的金融政策による緩和的なスタンスを維持している(第 1-1-2-41 図、第 1-1-2-42 図)。欧州は、2011 年 4 月、金融危機後初めて政策金利を引き上げ、金融引締め方向に踏み出したが、その後、欧州債務危機の深刻化と景気減速を背景に、2011 年 11 月には再び政策金利を引き下げた。米国では、2011 年秋口から 2012 年にかけて、緩やかながら景気の回復傾向が見受けられるようになり、雇用と住宅価格もこれまで続いた低迷状態から上向く兆しが出ているが、いまだ勢いを欠いており、米連邦準備理事会(FRB)は超低金利政策を 2014 年終盤まで継続する方向性を示している。 新興国では、2009 年後半以降の力強い回復と先進国の金融緩和による大量の資金流入により、インフレの進行や自国通貨の増価が強く懸念されるようになった。併せて、資源・食料価格の世界的な高騰もあり、物価上昇圧力が高まった。これに対し、2010 年中盤

以降、アジアを中心とする新興国は、政策金利や預金準備率の引上げ、資本流入規制の強化等を実施してきた(第 1-1-2-43 図)。この金融引締めの効果により、2011 年後半には新興国の消費者物価指数の上昇に歯止めがかかってきた(第 1-1-2-44 図)。一方、それまでの金融引締めや世界経済の減速により景気の先行き懸念が強まったことから、2011 年後半には金融緩和への転換が見受けられ、2012 年に入ってからも、インドが 3年ぶりの利下げを実施、ブラジルやタイも追加利下げを行う等、金融緩和政策への転換の流れが続いている。

第 1-1-2-39 図 失業率の推移(南欧諸国等)

資料:OECD stat から作成。

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2008 2009 2010 2011 2012

(%)

(年期)

0

5

10

15

20

25

アイルランド 14.6ポルトガル 15.0

スペイン 23.8

イタリア 9.6

ギリシャ 20.5

第 1-1-2-40 図 GDP成長率の推移(前年比、南欧等諸国)

Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1

2008 2009 2010 2011 2012

(%)

(年期)

-15

-10

-5

0

5

10

ギリシャ アイルランド イタリアポルトガル スペイン

資料:OECD stat から作成。

第 1-1-2-41 図 消費者物価指数の推移(主要先進国)

資料:OECD stat から作成。

-3

0

1

2

3

4

5

6

2008 2009 2010 2011 2012(年月)

(前年同月比、%)英国 イタリア 米国韓国スペイン

フランス ドイツ日本 カナダ

英国  3.0韓国  2.5

イタリア3.3

米国  2.3

スペイン2.1 ドイツ 2.1 フランス2.1

日本  0.5 カナダ 2.0

-2

-1

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4

第 1-1-2-42 図 政策金利の推移(主要先進国・地域)

備考:ユーロ圏は 17 か国。資料:CEIC データベース、各国政府公表資料から作成。

韓国  3.25

英国  0.50

ユーロ圏1.00

米国  0.25日本  0.1

カナダ 1.00

0

1

2

3

4

5

6

1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5

2008 2009 2010 2011 2012(年月)

(%) 韓国 ユーロ圏 英国米国 日本 カナダ

22 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

Page 22: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

(6)住宅価格 先進国では、デフレ傾向や景気減速懸念により、2011 年も引き続き住宅価格が低迷した(第 1-1-2-45図)。米国では 2011 年後半、景気が上向くにつれて住宅価格にも改善の兆しが見受けられるものの、先行きの不透明感は払拭されていない。 アジアNIEs、豪州においても、2011 年に入ってからの景気減速傾向を反映し、住宅価格はそれまでの継続的な上昇から減速傾向へと転じた国が目立つ(第1-1-2-46 図)。 なお、中国では、2009 年以降、都市部を中心に住宅価格が急騰し、2010 年以降も高水準で推移した(第1-1-2-47 図)。住宅価格の上昇要因としては、都市部

の人口増加による住宅需要の高まり、国内銀行の金融緩和や海外からの資金流入を背景とする不動産への投資拡大、地方政府による積極的な都市開発等が指摘されている。中国政府は 2010 年から実施してきた不動産価格抑制策を 2011 年に入って更に強化し、2012 年初めまでに国内の多くの地域で不動産価格は前年比で下落に転じた。政府の規制により、足下では不動産価格の上昇に歯止めがかかっているが、今後も中国経済は拡大傾向が見込まれること、都市部の人口増加が予測されること等により、不動産の価格上昇圧力が続く可能性がある。

第 1-1-2-45 図 主要先進国の住宅価格の推移(指数)

資料:CEIC データベースから作成。資料:CEIC データベースから作成。資料:CEIC データベースから作成。資料:CEIC データベースから作成。

Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3Q1Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q32007 2008 2009 2010 2011年

2012年2011

2012

(1980 年 3月=100)米国

300

320

340

360

380

400

(年期)

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 12007 2008 2009 2010 2011年

2012年2011

2012

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1

(1993 Q1=100)

280

300

320

340

360

380

英国

(年月)

Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1

(2005 年 3月=100)

Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q12007 20092008 2010 2011

20122012

95

100

105

110

115

120

125

130

スペイン

(年期)

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1

(2000 年 1月=100)

2007 20092008 2010 201120122012

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 17274767880828486889092

東京都心部

(年月)

第 1-1-2-43 図 政策金利の推移(主要新興国)

資料:CEIC Database から作成。

ベトナム 9.00インド 8.00

トルコ 5.75

ロシア 8.00

ブラジル 9.00

フィリピン 4.00

中国 6.56インドネシア 5.75

タイ 3.00

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5

201120102009 2012(年月)

(%) ブラジルロシアトルコ

ベトナム中国フィリピン

インドインドネシアタイ

2008

第 1-1-2-44 図 消費者物価指数の推移(主要新興国)

備考:ブラジルは拡大物価指数の 12ヶ月累計値。インドは卸売物価指数。資料:CEIC Database、各国政府公表資料から作成。

2012年

101112 101112-6 -4 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24

12345678 10111212345678910111212345678 101112 10111210111212345678 1011121234

2008

(前年同月比、%)

(年月)

9 99

2009 2010 2011 2012

トルコインドインドネシア

中国タイベトナム

ブラジルロシアフィリピン

トルコ   11.1ベトナム  10.5インド   7.2ブラジル  5.1インドネシア4.5ロシア   3.6中国    3.4フィリピン  3.0タイ    2.5

通商白書 2012 23

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

Page 23: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

(7) 商品市場~原油価格の高騰が各国経済に打撃~ 2010 年に急激な価格上昇に見舞われた商品市場では、2011 年に入ると、世界経済の見通しの不透明さ、新興国の景気減速懸念等を背景に、第 2四半期以降、商品価格が低下した。しかし、2011 年秋口以降、中東アフリカの政治不安等を背景に原油価格が高騰し、また、食料品価格も多少落ち着いたとはいえ上昇基調が見受けられる。この結果、インフレ圧力の高まりや、コモディティの輸入依存度の高い中・低所得国の国民生活への打撃等により、世界経済の不安定さを招く一因となった。

① 地政学的なリスクの高まりと原油価格の高騰 2010 年 12 月のチュニジアにおける暴動を発端に中東の政情が不安定化し、原油価格が高騰したことは、

第 1-1-2-46 図 アジアNIEs、豪州の住宅価格の推移(指数)

資料:CEIC データベースから作成。 資料:CEIC データベースから作成。

1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1 5 9 1

香港、韓国

香港(1993 Q1=100)韓国(2011年 6 月=100)

80

100

120

140

160

180

200

220

2007 2008 2009 2010 2011 20122012(年月)

80

100

120

140

160

180

200

220

Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q12007 2008 2009 2010 2011 20122012(年期)

豪州(2003 年 4 月=100)シンガポール(1998 4Q=100)台湾(1991 年 3 月=100)

豪州、シンガポール、台湾

第 1-1-2-47 図 中国の住宅価格の推移(前年同月比)

資料:CEIC データベースから作成。2012

10 10 10 10 10-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

2007 2008 2009 2010 2011 2012(年月)

(%)

北京 上海広州 深圳重慶

第 1-1-2-48 図 原油価格の推移

資料:IMF Primary Commodity Prices Data Base から作成。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4

130

110

120

90

80

100

70

(US ドル / バレル)

北海ブレント120.6

デュバイ117.4

WTI103.3

2010 2011 2012 (年月)

北海ブレントデュバイWTI

第 1-1-2-49 図 原油需要の推移

資料:World Bank 「Global Economic Prospects 2012」から作成。

OECD加盟国

1.4 1.4

0.9 0.9

2

1

1.5

1.1 1.11.2

1.4

0.60.5

0.3

0.1 0.1

0.3

-0.7

0.7

1.5

0.7

0.3

1.4

0.9

0.5

1.2

0.9

0

-0.5

0.5

-1

(100 万バレル/日)

その他 アジア(除中国) OECD加盟国 中国

2010 Q1 2010 Q2 2010 Q3 2010 Q4 2011 Q1

24 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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(1) 世界の貿易動向 ~一部回復の兆しはあるものの、いまだ不安定~

 世界貿易は、2008 年 9 月のリーマン・ショックを契機として、その後半年間で急速に減少したが、2009

年半ばから順調に回復に向かった。これを貿易量についてみると、2008 年 4 月にピークを付けた後、2009年 5 月までに 30%近く減少したが、その後の回復により 2010 年 11 月には金融危機前(2008 年 4 月)の

3.リーマン・ショックから続く世界貿易の低迷と回復

2011 年に入ってからの世界的な景気減速の大きな要因のひとつとなった。その後、2011 年 5 月には原油価格が急落し、いったん落ち着いたものの、同年 11月にはイラン情勢の緊迫化による原油の国際的な需給逼迫圧力が高まり、原油価格が再び高騰、2012 年に入ってからも原油価格は高止まりしている(第 1-1-2-48 図、第 1-1-2-49 図)。これが長期化すれば、家計、企業負担の増加につながり、景気回復の重石となることが懸念される。

② 食料価格の推移 2010 年に高騰した食料品価格は、2011 年の第 2四半期以降、低下した(第 1-1-2-50 図)。穀物、砂糖、油脂の国際価格が低下した主な理由としては、インド、EU、タイ、ロシアの豊作を背景に、 2012 年度は世界的に生産と供給が改善され、大幅な生産余剰が生じる、との見方を反映したものと考えられている 11。 一方、同年末以降の原油価格急騰を受けて、2012年に入ると、食料価格は再び上昇傾向にある。今後、

新興国における堅調な経済成長が予測されており、世界的な食料需要は高まるものと考えられ、食料価格は上昇基調で推移することが見込まれている。 このように、コモディティ価格の大幅な変動が、世界経済の不安定化の大きな要因となっている点に関して、G20 の下に設立された作業部会が 2011 年 11 月 4日に報告書を公表した。それによると、 ・ コモディティ価格の変動の主因は、需給バランスの大幅な変化である。すなわち、新興国の経済成長を背景とする需要急増に供給が追いつかず、在庫や供給能力が減少して価格が上昇すると考えられる。

 ・ 加えて、政策要因(補助金政策、バイオ燃料政策)や金融要因(金融商品化等)も価格上昇の要因となる。

 ・ 一方、金融投資家の参入がコモディティ価格に与える影響については評価は固まっていない。

 ・ 今後、コモディティ市場の機能向上を促すための施策、金融市場への影響分析、グローバルな視点での政策対応が必要である。

 と述べている。

(8)まとめ ここまで、2011 年に入って以降の世界経済の動向を、経済指標を通じて概観した。世界経済の回復は全体として弱く、主要国経済の更なる失速と下振れリスクの高まりに対する懸念は払拭されていない。世界銀行は「現時点では表面化していないが、今後、資金がより広い範囲で滞り、リーマン・ショック時と同程度の激震が発生するリスクは引き続き存在する」と指摘している 12。 世界経済は引き続き脆弱さを抱えており、今後の回復への道筋が懸念される。

11 国連食糧農業機関(FAO)メディアセンター “FAO Food Price Index ends year with sharp decline”(2012 年 1 月 12 日)http://www.fao.

org/news/story/en/item/119775/icode/12 World Bank “Global Economic Prospects”(Jan, 2012)

第 1-1-2-50 図 食料品価格指数の推移

20122012

食 料 217.0

食 肉 180.8乳製品 197.0

穀 物 227.8油 脂 244.9

砂 糖 341.9

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2

2012

3

2008 2009 2010 2011

食料価格指数 食肉価格指数乳製品価格指数 穀物価格指数油脂価格指数 砂糖価格指数

(2002~2004=100)

(年月)

資料:国連食糧農業機関(FAO)公表資料から作成。

通商白書 2012 25

不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

第1節

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レベルを回復した。しかし、2011 年に入ると、3月の東日本大震災によるサプライチェーンの寸断、同年 8月以降の米国経済の減速懸念、欧州債務危機の深刻化等により、回復に向かう動きは停滞した。2011 年末以降は緩やかな回復傾向を示しているが、足下の2012 年 2 月にはやや陰りがみられ、前月比マイナスに転じている(第 1-1-3-1 図)。この動きを 3か月移動平均で見ると、2011 年 12 月以降、世界の貿易量は3か月連続で上昇しており、モメンタム 13も同様の動

きを示している(第 1-1-3-2 図)。したがって、世界全体の貿易量は、傾向としては緩やかに伸びているものと考えられる。こうした動きを、貿易量に単価をかけた金額(ドルベース)の推移についてみた場合、2011 年の後半、貿易額のモメンタムは、貿易量のモメンタムに比べて大幅に落ち込んだ(第 1-1-3-2 図)。ただし、2011 年 12 月以降は回復傾向を示しており、今後、貿易量の動向と同様に貿易額も上昇傾向を維持できるかどうか注目される。

13 モメンタムは、足下の 3か月後方移動平均をその手前 3か月の後方移動平均で割った値。オランダ統計局は、月次の貿易データは変動が大きいため、モメンタムでみるのが望ましいと指摘している。

第 1-1-3-1 図 世界の貿易量の推移

資料:Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis(CPB)公表データから作成。

2008 年4月 159.9

2010 年 11 月 160.3リーマン・ショック発生

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

10

120

125

130

135

140

145

150

155

160

165

170

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

(%)(2000 年=100, 季節調整済み) 世界貿易量(左軸) 前月比(右軸)

2009 年5月 128.3

2012 年2月 -0.3

(年月)

第 1-1-3-2 図 世界の貿易量の推移(3か月移動平均)

備考: モメンタムは、足下の 3か月後方移動平均をその手前 3か月の後方移動平均で除したもの。オランダ 統計局は、月次貿易データは変動が大きいため、モメンタムでみるのが望ましいと指摘している。

   ここでの貿易額は貿易量と単価を掛け合わせて算出した。資料:Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis(CPB)公表データから作成。

-15

-10

-5

0

5

10

15 (3か月移動平均、2000年=100)

世界貿易(左軸) モメンタム・貿易量(右軸) モメンタム・貿易額(右軸)

2008年4月 158.4

2010年11月 158.7

2012年2月 167.2リーマン・ショック発生

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

2009年5月 129.4

2012年2月 1.5%

2012年2月 -0.7

120

125

130

135

140

145

150

155

160

165

170

(年月)

26 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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 輸入量について、主要国・地域ごとにみると、2009年半ば以降、アジアを始めとする新興国で強い回復が見受けられ、また、先進国では、米国の回復が目立っている(第 1-1-3-3 図)。2011 年は総じて輸入量の回復が鈍化し、特にユーロ圏では債務危機を背景に減少が続いた。その後、2012 年に入ると、新興国を中心に輸入量の回復傾向がみられる一方、ユーロ圏では前月比マイナスが続いている(第 1-1-3-4 図)。 一方、輸出量をみると、2011 年はアジアを始めと

する新興国で大きく回復し、先進国では米国で堅調に回復してきた。他方、ユーロ圏では輸出の停滞が続いており、日本については 2011 年 3 月の震災と同 10 月のタイの洪水の影響を反映して大きな下振れがみられた(第 1-1-3-5 図)。2012 年に入ると、特に新興国において輸出量は回復傾向を示している(第 1-1-3-6図)。ただし、先進国は引き続き輸出が伸び悩み、日本では輸出量の減少が続いている。 以上のように、世界貿易は 2011 年に入って以降、

第 1-1-3-3 図 主要国・地域の輸入量 第 1-1-3-4 図 主要国・地域の輸入量の推移(モメンタム、2011 年 10 月-2012 年 2 月)

資料: Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis(CPB)公表データから作成。

資料: Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis(CPB)公表データから作成。

2.8

7.9

-2.6

-0.7

中東欧 280.6

アジア 263.3新興国 253.5

中南米 186.0

世界全体 165.1

米国 132.2先進国 122.4ユーロ圏 119.0日本 117.4

中東アフリカ 274.0

300

280

260

240

220

200

180

160

140

120

100

80

2008 2009 2010 2011 2012123456789 10 11 12 123456789 10 11 12 123456789 10 11 12 123456789 10 11 12 12

(2000 年=100)

12

10

8

6

4

2

0

-2

-4

(%)

中東欧中東・アフリカ中南米米国日本

アジア

ユーロ圏

世界全体先進国

新興国

先進国 新興国

2011 年 2012 年

(10 月)(11 月)(12 月)(1月)(2月)

2.42.1

1.0 1.5

-0.3 0.0

2.52.8

2.11.6

1.9

9.6

2.1

7.9

2.10.8

0.2

-1.5

-2.6

-0.7

(年月) 世界 先進国 新興国 米国 日本 ユーロ圏 アジア 中東欧 中南米 中東・アフリカ

第 1-1-3-5 図 主要国・地域の輸出量 第 1-1-3-6 図 主要国・地域の輸出量の推移(モメンタム、2011 年 10 月-2012 年 2 月)

資料: Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis(CPB)公表データから作成。

資料: Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis(CPB)公表データから作成。

2.2中東欧 236.6

アジア 297.1

新興国 242.0

中南米 164.8世界全体 170.2

米国 149.0

先進国 129.9ユーロ圏 131.2日本 148.2

(年月)

中東アフリカ 127.7

300

280

260

240

220

200

180

160

140

120

100

80

2008 2009 2010 2011 世界 先進国 新興国 米国 日本 ユーロ圏 アジア 中東欧 中南米 中東・アフリカ2012123456789 10 11 12 123456789 10 11 12 123456789 10 11 12 123456789 10 11 12 12

(2000 年=100)

5

4

3

2

1

0

-1

-2

-3

-4

-5

(%)中東欧中東・アフリカ中南米米国日本

アジア

ユーロ圏

世界全体先進国

新興国

先進国 新興国

2011 年 2012 年

(10 月)(11 月)(12 月)(1月)(2月)

1.20.8

0.1

1.9

0.4

1.5

-0.4

0.80.4

2.7

2.0

3.12.9

2.2

3.5 3.4

0.4

0.7

-4.0

-2.2

通商白書 2012 27

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

Page 27: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

停滞が続いたが、2012 年に入り緩やかな回復の兆しが見受けられる。ただし、ユーロ圏では輸入の減少が続いており、当該地域を主要な輸出市場としている新興国の輸出回復にマイナスの影響を及ぼしている。WTOによる 4月時点の見通し 14でも、EUでの緩やかな景気後退による新興国への影響を考慮すると、2012 年の世界貿易は 3.7%の成長(2011 年は 5.0%)にとどまるとしている。さらに、2012 年に入り、いったん小康状態となった欧州債務危機が再燃すれば、貿易ルートを通じて更なる世界経済の減速の要因となる可能性については留意が必要である。

(2) 欧州の貿易動向 ~EUの輸入減少が主要輸入相手国に影響~

 EU27 は、世界の輸出入のうちドルベースで約 34%(2011 年)を占める大貿易圏である(第 1-1-3-7 表)。

 ユーロ圏では、2011 年に入ると、ギリシャ債務問題の再燃、その後の欧州債務危機の深刻化を背景に、年央以降、貿易量の伸びが低迷し、特に輸入量の落ち込みが目立つ(第 1-1-3-8 図)。2012 年 1 月に入ると、回復の兆しが見受けられるものの、その勢いは弱く、今後の動向については要注視と考えられる。金額ベースでも、2011 年は EU全体の輸入額が停滞し、同年12 月以降は減少している(第 1-1-3-9 図)。これを受けて、特に、ユーロ圏の主要輸入相手国では、輸出全体へのマイナスの影響が生じたのではないかと考えられる。 そこで、以下、EU27 の主要輸入相手国上位 10 か国 15について、その輸出動向(金額ベース)を見てゆく。 対象国の輸出額全体の動向については、おおむね第3四半期頃までは増勢を保ってきたものの、その後は

頭打ち傾向が顕著となり、第 4四半期には減少傾向も目立つようになった。ただし、足下では増加又は下げ止まりの兆しが見られる(第 1-1-3-10 図)。 EUの主要輸入相手国のEU向け輸出に絞った場合も、欧州債務危機の深刻化に伴う影響が読み取れる。第 1-1-3-11 図は、EU27 の主要輸入相手国のうち、EU向け輸出額の月次データが取得可能な国の対EU輸出額の動向を示している。ロシアを除く 16対象国では、2011 年秋口以降、対EU輸出額が減少し、中

14 WTO “WORLD TRADE 2011, PROSPECTS FOR 2012“(12 April 2012)15 中国、ロシア、米国、スイス、ノルウェー、日本、トルコ、インド、ブラジル、韓国16 ロシアの対EU主要輸出品目は約 8割が鉱物性燃料である。2011 年 6 月以降の対EU輸出の減少及び同年 10 月以降の増加は、同時期の原油価格の下落及び高騰が背景と考えられる。

第1-1-3-7表 EU27の輸出入額が世界の輸出入額に占める割合(2011年)

2011 年輸出 輸入

世界の輸出入額 ( 兆ドル ) 18,064 18,274

EU27 の輸出入額 ( 兆ドル ) 6,028 6,241

EU27 の輸出入/世界の輸出入(%) 33.4 34.2 資料: WTO, Short-term merchandise trade statistics, Quarterly World Trade

Estimate から作成。

第 1-1-3-8 図 ユーロ圏の輸出入量の推移

資料: Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis(CPB)公表データから作成。

100

105

110

115

120

125

130

135

140

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

2008 2009 2010 2011

( 3 か月移動平均、 2000年=100) ユーロ圏(輸出) ユーロ圏(輸入)

2012 2012

(年月)

2012 年 2 月131.0

2011 年 5 月131.2

2011 年 9 月120.4 2012 年 2 月

116.9

輸出2009 年 6 月 108.7

輸入2009 年 7 月 103.7

第 1-1-3-9 図 EU27 の輸入額の推移(指数、3か月移動平均)

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。

511,339

315,867

195,472

(年月)

511,339

315,867

195,472

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

350,000

400,000

450,000

500,000

550,000

600,000

12345678910111212345678910 1112123456789101112123456789101112123

2008 2009 2010 2011

( 3 か月移動平均、100 万ドル)

20122012

EU域外

EU域内

EU(27)

28 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

Page 28: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

でも中国の落ち込みが目立つ。2012 年に入り、米国、韓国は対EU輸出額がやや上向いたが勢いは弱く、他の国々は引き続き減少傾向を示している。 以上のように、EUの主要輸入相手国では輸出が減少しており、欧州債務危機によるマイナスの影響が見られる。2012 年に入ってからは回復の兆しが見えるものの、欧州債務危機が今後再燃した場合、EUによる輸入減少を通じた域外国への波及の可能性は、依然として世界経済にとってのリスク要因の 1つとなっている。

(3)欧州債務危機と世界貿易~リーマン・ショック時からの回復状況との比較による示唆~

 ここまで、EU27 の主要輸入相手国を中心に、欧州債務危機の影響を確認した。以下では、対象国を広げて、影響の程度と回復状況等を確認する。 まず、2008 年 9 月のリーマン・ショックを例に引き、その折の貿易への影響と回復状況を、欧州債務危機下のこれまでの世界貿易の推移と比較することにより、今後に向けた示唆を得ることを試みる。

① リーマン・ショックによる貿易への影響の大きさと回復状況

 第 1-1-3-12 図は、2007 年から 2012 年 2 月までの主要国の輸出額(3か月移動平均)の推移を、地域別にまとめたものである。リーマン・ショック発生時(2008 年 9 月)の直前の輸出額のピークは多くの国で 2008 年 7 月であるため、以下ではここを「基準時」とし、リーマン・ショックによる貿易への影響の大きさと回復状況を確認する。 なお、ここでは貿易額の動きを米ドルベースかつ季節調整前の数値で分析してゆくこととする。自国通貨ベースで分析した場合、ここでの分析との一定の乖離が生じる点に留意が必要である。 まず、2008 年 1 月まで遡って、対象国 40 か国・地域の対EU輸出シェア(対EU27 輸出額 /対世界輸出額)、輸出額の落ち込み度合い(2008 年 7 月の輸出額を 100 とした場合の、ボトム時点の輸出額の比率)、対象国の輸出額が基準時からボトム時(リーマン・ショック後、輸出額が最も落ち込んだ時)に落ち込む

第 1-1-3-10 図 EUの主要輸入相手国上位 10 か国における輸出額の動向

50

250

450

650

850

1,050

1,250

1,450

1,650

50

100

150

200

250

3001,850

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4

2009 2010 2011 2012

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4

2009 2010 2011 2012

( 3 か月移動平均、億ドル) ( 3か月移動平均、億ドル)

中国米国日本ロシア韓国

インドブラジルスイスノルウェートルコ

(年月) (年月)

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。 資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。

第 1-1-3-11 図 EUの主要輸入相手国の EU向け輸出額の動向

資料:Global Trade Atlas から作成。

255075100125150175200225250275300325350( 3 か月移動平均、億ドル)

中国 米国 ロシア スイス日本 ブラジル 韓国

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112

2010

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3

2011 2012(年月)

通商白書 2012 29

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

Page 29: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

までの月数、そこから基準時の輸出額を回復するまでに要した月数の 4点をまとめたものが以下の第 1-1-3-13 表である。 リーマン・ショックによる輸出額への影響をみると、基準時の値からボトム値に落ち込むまでの期間はおおむね 7~8か月程度で、対象国の間で大きな差は認められない。また、基準時(2008 年 7 月)の輸出額を100 とした場合の落ち込み幅は、多くの国で 30~50と著しい。これらから、リーマン・ショック時、輸出

額は短期間に、世界規模で一斉に、深く落ち込んだ、ということが改めてわかる。 一方、輸出額が底を打ってから基準値に戻るのに要した期間はばらつきが大きい。回復の先陣を切ったのは、香港はじめNIEs、中国やASEAN等のアジア新興国、豪州等の資源国が中心であった。一方、ロシア、メキシコ、スペイン、中東欧諸国等は、対米輸出の減少等による打撃が大きく、回復が遅れた。 加えて、世界経済危機発生から約 3年半となる

第 1-1-3-12 図 輸出額の推移(地域別)

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。

基準時(2008 年 7 月)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

50,000

45,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4

2007 2008 2009 2010 2011 2012

輸出額の推移(主要新興国、中国を除く)

ロシア メキシコ インド ブラジル マレーシアインドネシアタイ チリ ペルー フィリピン

( 3 か月移動平均、100 万ドル)

(年月)

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。

基準時(2008 年 7 月)

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

180,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4

2007 2008 2009 2010 2011 2012

輸出額の推移(欧州の主要輸入相手国)

中国 米国 日本 韓国 ロシア インドスイス ブラジル トルコ

( 3 か月移動平均、100 万ドル)

ノルウェー

(年月)

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。

基準時(2008 年 7 月)

10,000

30,000

50,000

70,000

90,000

100,000

130,000

150,000

170,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4

2007 2008 2009 2010 2011 2012

輸出額の推移(主要先進国、アジア NIES、中国)

中国 米国 ドイツ 日本 フランス 韓国カナダ

英国イタリア 香港

( 3 か月移動平均、100 万ドル)

シンガポール 豪州

(年月)

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4

2007 2008 2009 2010 2011 2012

輸出額の推移(その他欧州)( 3 か月移動平均、100 万ドル)

基準時(2008 年 7 月)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

オランダ ベルギー スペイン スイス スウェーデン ノルウェーポーランド オーストリア トルコ チェコ アイルランド ハンガリーフィンランド ポルトガル ルーマニア ギリシャ ブルガリア

(年月)

30 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

Page 30: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

2012 年 2 月時点でも、リーマン・ショック前の輸出額をいまだ回復できずにいる国が、欧州各国を中心として少なからず存在する。しかも、基準値の回復に30 か月以上の時間を要した国の多くが 40%以上の深い落ち込みを経験しているが、いまだに基準値の水準まで回復していない国々の中にはフランスやドイツのように落ち込みが比較的小さい国も少なくない。これらの国では、2009 年 2-3 月頃をボトムに輸出額が回復に向かったものの、回復しきらないうちに欧州債務危機をはじめ各種の下押し要因の影響を受け、回復の流れが中断されてしまった格好である。

② 欧州債務危機の下での貿易の減速と回復状況 次に、欧州債務危機による貿易への影響と回復状況

を、輸出額の前年同月比を用いて確認し、リーマン・ショック時と比較する。 第 1-1-3-14 図は、各国・地域の輸出額の前年同月比を、2008 年 1 月~2012 年 1 月の期間についてグラフ化したものである。 いずれの国、地域においても、リーマン・ショックを契機として、輸出額は一斉かつ大幅に前年比マイナスへと落ち込み、プラスに反転するまでおおむね 1年程度を要した(第 1-1-3-15 表)。 一方、欧州債務危機が深刻化した 2011 年秋口には、輸出額の伸びは低下しているものの、リーマン・ショックの際の落ち込みに比べるとはるかに緩やかであり、多くの場合、前年比プラスを維持している。これは、世界経済の減速の程度が、リーマン・ショックの際と

第 1-1-3-13 表主要国の対 EU輸出シェア、輸出の落ち込み度合い、輸出回復の所要期間、基準時からボトムに落ち込むまでの月数

対 EU輸出シェア

輸出額ボトムまでの落ち込み度合い

(基準時 2008 年 7月=100)

基準値までの回復に要した期間

(月)

基準時(2008 年 7月)から輸出額のボトムに落ち込むまで

の月数メキシコ 5.5 アイルランド -19.5 香港 22 インドネシア 7豪州 7.5 米国 -28.4 オーストラリア 23 オーストリア 7カナダ 9.4 香港 -30.1 韓国 23 韓国 7シンガポール 9.4 豪州 -30.8 中国 23 ギリシャ 7インドネシア 10.1 スイス -31.0 タイ 24 シンガポール 7韓国 10.1 タイ -32.7 フィリピン 24 スイス 7香港 10.2 フランス -33.4 インドネシア 25 スウェーデン 7マレーシア 10.4 インド -34.4 ペルー 25 スペイン 7タイ 10.5 オランダ -34.9 チリ 26 チェコ 7日本 11.6 中国 -35.2 シンガポール 27 チリ 7フィリピン 12.4 ドイツ -35.4 インド 28 ドイツ 7米国 18.1 ベルギー -36.7 日本 28 ハンガリー 7チリ 18.2 韓国 -37.4 メキシコ 28 フィリピン 7ペルー 18.2 トルコ -37.4 米国 29 ベルギー 7インド 18.6 インドネシア -37.8 ルーマニア 32 ポーランド 7中国 18.7 メキシコ -37.9 アイルランド 33 ポルトガル 7ブラジル 20.7 ペルー -37.9 スイス 33 ルーマニア 7トルコ 47.0 スペイン -39.3 ブルガリア 33 アイルランド 8英国 49.4 オーストリア -39.4 ポーランド 33 イタリア 8ギリシャ 50.5 シンガポール -40.0 オランダ 34 英国 8フィンランド 51.3 ポーランド -40.5 ギリシャ 34 カナダ 8ロシア 53.5 チリ -40.5 スウェーデン 34 中国 8スウェーデン 54.6 マレーシア -40.6 チェコ 34 日本 8イタリア 55.4 英国 -40.6 ブラジル 34 フィンランド 8スイス 56.9 スウェーデン -41.0 マレーシア 34 ブラジル 8アイルランド 58.0 日本 -41.5 ロシア 39 フランス 8ドイツ 58.6 フィリピン -41.6 スペイン 40 ブルガリア 8フランス 60.5 カナダ -41.6 イタリア

2012 年 2 月時点で未回復(便宜的に43 か月とする)

米国 8ブルガリア 62.2 イタリア -42.0 英国 ペルー 8スペイン 65.1 ハンガリー -42.0 オーストリア 香港 8オーストリア 68.2 ポルトガル -42.6 カナダ マレーシア 8ルーマニア 70.8 ギリシャ -42.6 ドイツ メキシコ 8ベルギー 72.1 チェコ -42.9 トルコ ロシア 8オランダ 72.4 ノルウェー -46.1 ノルウェー インド 9ポルトガル 72.5 ブラジル -46.6 ハンガリー オランダ 9ハンガリー 75.5 ルーマニア -46.7 フィンランド タイ 10ポーランド 79.1 フィンランド -47.0 フランス トルコ 10ノルウェー 81.0 ブルガリア -47.9 ベルギー オーストラリア 11チェコ 82.7 ロシア -57.2 ポルトガル ノルウェー 11備考: 落ち込み度は、リーマン・ショック直前の輸出額を 100 とした場合の、輸出額の最低値(ボトム値)までの落ち込みの構成比を指す。    回復所要期間は、リーマン・ショック後の輸出額の落ち込みが、基準時点(2008 年 7 月)から数えて何か月目に再び基準値を越えたかを示す。資料:WTO, Short -term merchandise trade statistics, World Trade Atlas から作成。

通商白書 2012 31

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

Page 31: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

2007 2008 2009 2010 2011

輸出額の推移前年同月比(主要先進国、アジアNIEs)

米国

ドイツ

日本

フランス

韓国

カナダ

英国

イタリア

香港

シンガポール

オーストラリア

(前年同月比、%)

1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 1 35 7 9 111120122012

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

2007 2008 2009 2010 2011

輸出額の推移 前年同月比(欧州の主要な輸入相手国)

米国

(前年同月比、%)

1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 1 35 7 9 111120122012

-60

-40

-20

0

20

40

60

100

80

2007 2008 2009 2010 2011

輸出額の推移 前年同月比(その他欧州)(前年同月比、%)

1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 1 35 7 9 111120122012

オランダベルギースペインスイススウェーデンノルウェーポーランドオーストリアチェコトルコアイルランドハンガリーフィンランドポルトガルルーマニアギリシャブルガリア

ブラジル

スイス

ノルウェー

トルコ

ロシア

中国

インド

日本

韓国

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

2007 2008 2009 2010 2011

輸出額の推移 前年同月比(主要新興国)(前年同月比、%)

1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 1 35 7 9 111120122012

中国

ロシア

メキシコ

インド

ブラジル

マレーシア

インドネシア

タイ

チリ

ペルー

フィリピン

(年月)

(年月)

(年月)

(年月)

第 1-1-3-14 図 輸出額の推移 前年同月比(国・地域別)

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics から作成。

第 1-1-3-15 表 リーマン・ショック後、輸出額が前年比マイナスからプラスへ回復するのに要した月数

15 か月 イタリア、フィンランド

14 か月 アイルランド、カナダ、トルコ

13 か月英国、オーストリア、オランダ、ギリシャ、シンガポール、スウェーデン、チェコ、中国、ドイツ、ノルウェー、ハンガリー、フィリピン、フランス、米国、ベルギー、ポルトガル、メキシコ

12 か月 インド、韓国、スイス、タイ、チリ、日本、ブラジル、ブルガリア、ペルー、ポーランド、マレーシア、南アフリカ、ルーマニア、ロシア

11 か月 インドネシア、豪州

10 か月 韓国、香港資料:WTO, Short-term merchandaise trade statistics, World Trade Atlas から作成。

32 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

Page 32: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

比べると現段階では軽微なものにとどまっていることに関係していると考えられる。一般に、ある国の輸出の増加率は経済成長率と強い相関関係があり、リーマン・ショック時の異例なほどの貿易減少も、その時の貿易環境に特殊要因があったというよりも、異例なほ

どの景気の落ち込みによって大部分が説明可能である。現在の貿易の減速についても、過去 10 年程度の間に見られる経済成長率と貿易額の成長率との間の線形の関係の範囲から外れたものにはなっていない(第1-1-3-16 図)。

リーマン・ショック後の 2008 年第 4四半期から 2009 年第 1四半期にかけての貿易額の世界的な激減は、その下落の激しさと、世界でほとんど時間差なく発生したという同時性の点で例を見ないものとなり、早くから ”Great Trade Collapse” と称され注目を集めてきた。 その要因として第一に挙げられるのは、世界経済自体の大きな落ち込みである。本文でも見たように、経済全体の変動と貿易額の変動には長期的に安定的な相関関係が見られる。リーマン・ショック後の場面でも、世界経済の大きな落ち込みに照らすと、貿易額の激減も従来の変動パターンの範囲に収まっていた(OECD, (2010), Crowley and Luo (2011))。 しかし、リーマン・ショック後の貿易減少と回復のパターンは品目によっても大きく異なっていた。

リーマン・ショック後の貿易激減の要因コラム

第 1-1-3-16 図 輸出の増加率とGDP成長率(前年同期比)(2000 年 Q1-2011 年 Q4)

備考:◆リーマン ・ショック時、◆欧州債務危機時   Volume estimate, OECD reference year, annual levels, seasonally adjusted.資料:OECD Quarterly National Accounts から作成。

(OECD)

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

6%4%2%0%-2%-4%-6%

(輸出増加率)

(ユーロ圏)

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

6%4%2%0%-2%-4%-6%

(輸出増加率)

(米国)

-25%

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

6%4%2%0%-2%-4%-6%

(輸出増加率)

(日本)

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

10%5%0%-5%-10%

(輸出増加率)

(GDP成長率)

(GDP成長率)

(GDP成長率)

(GDP成長率)

2011 Q4

2008 Q4

2010 Q12011 Q22011 Q4

2010 Q1

2011 Q2

2010 Q1

2008 Q4

2011 Q22011 Q4

2009 Q1

2010 Q12011 Q2

2011 Q4

2008 Q4

通商白書 2012 33

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

Page 33: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

Crowley & Luo (2011) によると、貿易額の変動幅が大きかったのは、①サービス貿易よりも財貿易、②石油よりも製品貿易、③非耐久財貿易よりも耐久財貿易、であった。Eaton et al. (2011) は、需要減少が実際の貿易額(対GDP比)減少の 8割を説明し、中でも耐久財(機械、金属、木材製品等)の需要減少でその 64%を説明できると分析している。 さらに、貿易減少の要因は、数量要因、価格要因、新規の貿易品目の参入、既存の貿易品目の退出の4つに分解できる。Haddad et al. (2011) の分析によると、貿易品目の新規参入や退出の影響は小さく、貿易減少の大部分は数量要因によるものとされている。特に、コモディティと製品に分けた場合、コモディティの貿易額減少は大部分が価格要因によって引き起こされているのに対し、製品貿易の減少は数量要因によるものであった。 ここで興味深いのは、製品の価格はむしろ上昇も見られたとされている点である。仮に需要の減退のみで貿易減少が説明できるとすれば、価格も低下するはずであり、製品貿易については需要サイドのみならず供給サイドでも問題が起こっていた可能性がある。 供給サイドの貿易減少要因として一般的に指摘されているのは、貿易金融で問題が生じた可能性と、保護貿易的措置によって貿易が困難になった可能性である。保護主義の蔓延はリーマン・ショック後早い段階から強く警戒されていたことであり、その抑止するためにWTOにおいてモニタリング制度が導入された。そのおかげで各国の措置の実体は相当程度明らかになっているが、世界貿易全体として見れば比較的限定的なものにとどまったというのが一般的な見方となっている(OECD, 2010; Crowley and Luo, 2011)。特に、Eaton et al. (2011) は、1930 年代の世界恐慌の際の貿易額減少の大部分は需要減退以外の要因によって引き起こされたことを示し、現代の世界貿易制度は保護主義に対する抵抗力を発揮したと指摘している。もっとも、措置の導入自体が限定的であったため影響も限定的となったが、保護主義的措置が導入された場合には貿易減少の効果があったことも指摘されている。(Henn and McDonald, 2011)。 貿易金融についても、2009 年 4 月の G20 首脳会合(ロンドン)で貿易金融支援の確保が合意されたように、高い関心を集めた課題となった。実際に貿易金融が貿易減少の原因となったか否かの実証は、データの制約により困難がある。Amundson et al (2011) は独自のアンケート結果により貿易金融が貿易減少の主たる原因であったとは言えないとしている。 最後に、塩路・内野(2011)は企業行動に着目した分析を示している。特に自動車産業を取り上げて分析を行い、上記の需要減少や貿易信用の収縮のみではこの時期の我が国の自動車輸出の急減は説明できないとし、米国における金融危機の進展がマイナスに影響したこと、また国内自動車企業が 2008 年秋の急激な在庫上昇に対してこれを一気に圧縮しようと強力な生産調整を行ったことで、急激な輸出の生産の減少が発生したと指摘している。

(4)EUとの貿易関係と輸出の回復度合い ここまで、リーマン・ショックから欧州債務危機に至る世界貿易の動向をつぶさに見てきたが、前掲の第1-1-3-12 図が示すように、国や地域によって、輸出額の落ち込み度合いや回復速度に差が見受けられる。 EUの需要減速が輸出国の対世界輸出額に対して与える影響度は、対EU輸出シェア等 17によって左右されると考えられる。ここでは、対EU輸出シェアが、

欧州債務危機による輸出の減少や回復にどのように影響するかを分析する。 なお、2008 年の世界経済危機の影響からいまだ回復していない国が少なからず存在することに鑑み、2008 年まで遡ってデータを確認することとする。また、対象国については、3(1)においてリーマン・ショックによる輸出への影響について触れた際と同じ国を扱う。

17 世界銀行は、”Global Economic Prospects”(2012 年 1 月)において、欧州の需要減速がもたらす影響度を左右する要素として、欧州向け輸出シェアと併せて欧州向け輸出品目構成を挙げている。

34 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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 第 1-1-3-17 図及び第 1-1-3-18 図は、対象国について、輸出額が基準時(2008 年 7 月)の水準を回復するのに要した期間(月数)、輸出額全体に占める対EU輸出額のシェア、基準時からボトム時までの輸出額の落ち込み度合いの 3要因の関係を示したものである。 2つのグラフからは、基準時からの落ち込み幅が大きいほど、また、対EUシェアが高いほど、輸出額がリーマン・ショック前の水準に回復するのが遅くなる傾向が明らかである。欧州先進国、中東欧、ロシア等は回復に時間を要した一方、欧州以外の先進国・地域及び主要新興国・地域においては比較的短い期間で回

復している。 こうした傾向を更に確認するため、EUの主要輸入相手国 10 か国を、回復期間ごとに、・2010 年 5 月~同年内に、基準時の輸出額水準を回復した国・2011 年 1 月~同年内に、基準時の輸出額水準を回復した国・2012 年 2 月時点で、基準時の輸出額水準をいまだ回復していない国という 3つのグループに分け、対EU輸出シェア、輸出額のボトム値への落ち込み度について各グループ内の平均値 18を求め、グループ間で比較すると以下の

第 1-1-3-17 図 基準値からの落ち込み度合いと回復に要した期間

フィリピン

日本

シンガポール

インドネシア

英国

スペイン長

回復に要した月数(月)

20

小 大基準時からボトムまでの落ち込み幅(2008 年 7月=100)

フィリピン

日本

チリシンガポール

ペルー

メキシコ

インドネシア

韓国中国

インド

タイ豪州

香港

米国

ブルガリアルーマニア

ブラジルチェコギリシャ

スウェーデンマレーシアポーランド

オランダ

スイス

ロシア

フィンランド

ノルウェー

ポルトガル

ハンガリー

イタリア

カナダ

英国オーストリア

スペイン

トルコベルギー

ドイツフランス

2012 年時点で基準時の輸出額水準を未回復の国

EUの主要輸入相手国上位 10 か国

基準時の輸出額水準回復まで所要 39ー40 ヶ月

基準時の輸出額水準回復まで所要 32ー34 ヶ月

基準時の輸出額水準回復まで所要 22ー29 ヶ月

45

40

35

30

25

-20 -25 -30 -35 -40 -45 -50 -55 -60

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics、World Trade Atlas から作成。

第 1-1-3-18 図 対 EU輸出シェアと回復に要した期間

回復に要した期間(月)

インド日本

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

インド

インドネシア

豪州韓国

シンガポール

タイ 中国ペルー

日本

フィリピン

ブラジル

米国チリ

香港

マレーシア

メキシコ

英国

ギリシャ

スウェーデン

ドイツ

スイス

トルコ

フィンランドイタリア フランス

ロシア スペインオーストリア

ベルギーポルトガル ハンガリー

ノルウェー

オランダ

ルーマニア

ポーランド

チェコ

ブルガリア

アイルランド

低 高対 EU輸出シェア(%)

資料:WTO, Short-term merchandise trade statistics、World Trade Atlas から作成。

通商白書 2012 35

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

Page 35: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

ようになる(第 1-1-3-19 図)。 グラフによれば、2010 年中に回復したグループと、2012 年 2 月時点で未回復のグループの、双方の対欧州輸出シェアを比較した場合、前者が 12.8%、後者が58.4%と、顕著な差がみられる。このことから、対象国の輸出額が基準時の水準まで回復するのに要する期間は、対EU輸出シェアと関係している(対EU輸出シェアが低いほど輸出額の回復が早い)という傾向が確認できる。 また、輸出額の回復所要期間と輸出額の落ち込み度合いの関係については、2010 年中に回復したグループは -36.1%、2012 年 2 月時点で未回復のグループは-40.4%と、輸出額の落ち込み度が大きいほど、輸出額の回復が長期化する傾向が見受けられる。 以上の結果を踏まえ、改めて、欧州債務危機の震源となったEUの主要な輸入相手国 10 か国 19について、対EU輸出シェア、回復の早さ並びに落ち込み度の 3点の関係を確認する。 前掲の第 1-1-3-17 図と第 1-1-3-18 図の双方におい

て、グラフを 4面に区切り、対象国 10 か国がどの面に属するかをみると、中国、米国、韓国、インドはいずれのグラフも左下の面(対EU輸出シェアあるいは落ち込み度が低く、回復期間が短い)に、また、ロシア、ノルウェー、はいずれも右上の面(対EU輸出シェアあるいは落ち込み度が高く、回復期間が長い)に属している。これは、基準時からの落ち込み幅が大きいほど、また、対EUシェアが高いほど、輸出額がリーマン・ショック前の水準に回復するのが遅くなるとの前述の傾向と整合的である。 他方、以下の 4か国は、2つのグラフにおいて別々の面に属しており、上述の傾向から外れているのが目を引く。 日  本: 落ち込み度が高いが、対EU輸出シェア

が低く、回復期間が短い。 ブラジル: 対 EU輸出シェアは低いが、落ち込み度

が高く、回復期間が長い。 ス イ ス: 落ち込み度は小さいが、対EU輸出シェ

アが高く、回復期間が長い。

18 ここでは貿易額等の大きさにかかわらず、単純平均を用いている。19 中国、ロシア、米国、スイス、ノルウェー、日本、トルコ、インド、ブラジル、韓国。

輸出額ボトムへの落ち込み度

12.8

56.7 58.4

-60

-40

-20

0

20

40

60(%)

-36.1-40.8 -40.4

対 EU 輸出シェア 輸出額ボトムへの落ち込み度

2010 年 5 月以降、同年内に回復した国(所要 22―29 ヶ月)2011 年 1 月以降、同年中に回復した国(所要 32―40 ヶ月)2012 年 2 月時点で未回復の国

備考: 落ち込み度は、リーマン・ショック直前の輸出額を 100 とした場合の、輸出額の最低値(ボトム値)までの落ち込みの構成比を指す。回復所要期間は、リーマン・ショック後の輸出額の落ち込みが、基準時点(2008 年 7月)から数えて何か月目に再び基準値を越えたかを示す。値は、貿易額の大きさにかかわらず、単純平均を用いている。

資料: World Trade Atlas、 WTO Short-term merchandise trade statistics から作成。

第 1-1-3-19 図 輸出額の回復所要期間別 対 EU輸出シェア、落ち込み度の比較

36 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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 ト ル コ: 落ち込み度が小さいが、対EU輸出シェアが高く、いまだ回復していない。

 こうした動向の要因のひとつには、各国の対EU向け輸出品目の構成が考えられる。上述の 4か国について、EU向け輸出の上位品目をみると、日本は一般機械、電気機械、自動車、ブラジルは貴金属、鉄鉱石、飼料、原油、スイスは医薬品、宝飾品、一般機械となっている。日本は特に自動車輸出が大きく減少したことにより、また、ブラジルは資源・エネルギー価格が下落したことにより、落ち込み幅が大きかったと考えられる。さらに、トルコは自動車輸出の低迷が足かせと

なり回復が遅れたものと考えられる。他方、スイスは医薬品の輸出が比較的安定していたことで、落ち込み幅が小さかったことが考えられる。 ちなみに、米国は、対EU向け輸出の落ち込み度合い、回復までの所要期間の双方共に、10 か国中、首位に位置している。米国の場合、対EU輸出の上位品目である一般機械、精密機械、医薬品のEU向け輸出が急速に回復したことが背景と考えられる。 次に、第 1-1-3-20 図は、地域ごとに、対EU輸出シェア、輸出額のボトム値への落ち込み度、回復期間について、所属する国の平均値を比較したものである。

 輸出額の回復に要した月数をみると、まず、「アジアNIEs(26 か月)」、「欧州以外の先進国(26 か月)」、「中南米(26.5 か月)」、「ASEAN(27 か月)」が回復し、一歩遅れて「BRIICs(30 か月)」が回復しており、総じてアジア地域の勢いが目立つ。これに比べて、欧州の回復は遅れ、「欧州で未回復の国」はもとより、「欧州で回復した国(33.9 か月)」でさえも、最も早く回

復した「アジアNIEs(26 か月)」よりも約 8か月、回復が遅れた。この背景として、対EU向けの輸出シェアが、アジアNIEs(9.9%)、ASEAN(10.8%)、欧州以外の先進国(11.7%)、中南米(15.6%)において低く、BRIICs(24.3%)も比較的低い一方、「欧州で未回復の国(62.9%)」及び「欧州で回復した国(65.2%)」においては高く、欧州の輸入減少の影響を直接受ける結

アジアNIEs 欧州以外の先進国 中南米 ASEAN BRIICs 欧州で回復した国 欧州で未回復の国

9.9 12.4

15.6 10.8

24.3

65.2 62.9

26.0 26.0 26.5 27.030.0

33.9

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30

40

50

60

70

0

5

10

20

30

40

50

15

25

35

45

55(%) (月)

対 EU輸出額シェア(左軸)輸出額ボトムへの落ち込み度(左軸)基準値回復に要した月数(右軸)

アジアNIEs 欧州以外の先進国 中南米 ASEAN BRIICs 欧州で回復した国 欧州で未回復の国

-35.8 -33.5

-40.7 -38.2

-42.2 -40.2 -38.6

備考: 落ち込み度は、リーマン・ショック直前の輸出額を 100 とした場合の、輸出額の最低値(ボトム値)までの落ち込みの構成比を指す。    回復所要期間は、リーマン・ショック後の輸出額の落ち込みが、基準時点(2008 年 7 月)から数えて何か月目に再び基準値を越えたかを示す。    値は、貿易額の大きさにかかわらず、単純平均を用いている。   各地域の構成国は以下のとおり:   ・アジアNIEs:シンガポール、香港、韓国。   ・ASEAN:フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ。   ・ 欧州以外の先進国:日本、豪州、米国。カナダは未回復のため除く。   ・中南米:ブラジル、メキシコ、ペルー、チリ。   ・BRIICs:ブラジル、ロシア、インドネシア、インド、中国。   ・ 欧州で回復した国:ルーマニア、スイス、オランダ、ブルガリア、チェコ、スウェーデン、ポーランド、アイルランド、ギリシャ、スペイン。   ・ 欧州で未回復の国:フランス、ドイツ、ベルギー、トルコ、オーストリア、英国、イタリア、ハンガリー、ポルトガル、ノルウェー、フィンランド。資料:World Trade Atlas、 WTO Short-term trade statistics から作成。

第 1-1-3-20 図 地域別 対 EU輸出シェア、落ち込み度、回復所要期間の比較

通商白書 2012 37

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

Page 37: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

果となったことが挙げられる。また、「欧州で未回復の国」及び「欧州で回復した国」は、輸出先が欧州域内に向いているため、新興国の経済成長と内需を取り込んだ形での輸出回復、という道筋にはつながらなかったとも考えられる。 なお、上述のとおり、「対EU輸出シェアが高いほど、輸出額がリーマン・ショック前の水準に回復するまでの期間が長くなる」という傾向が確認できたが、一方で、リーマン・ショック前の輸出水準を回復するのに要した期間と、対米輸出シェアとの関係をみてみると、上述の対EU輸出シェアの関係と逆の結果となる。す

なわち、対米輸出シェアが高いほど、輸出額の回復が早くなる傾向が示された(第 1-1-3-21 図)。今回の債務危機では、EU側の輸入が低迷した結果、対EUシェアが高い国は、EU向け輸出の減少を通じてマイナスの影響を受けた。一方、リーマン・ショック発生から3年半以上が経過し、米国の輸入は回復基調で推移している。このため、米国向けの輸出は、シェアが高いほど、輸出国側の貿易にプラス方向に寄与し、対EU輸出による減少分を補完した可能性がある。こうした点に鑑みて、今後、米国経済の回復の持続性が、世界貿易の回復を左右することが考えられる。

(5)まとめ ここまで、欧州債務危機による輸出への影響の大きさと回復状況を、リーマン・ショックによる影響と不可分との立場から、2008 年の時点まで遡ってデータを確認した。前述のように、世界経済危機発生から 3年半以上が経過しても、いまだにリーマン・ショック前の輸出額を回復できずにいる国が欧州各国を中心として少なからず存在する。2011 年に入って、東日本大震災、中東情勢の悪化と原油高騰、米国の景気減速、そして欧州債務危機といった数々のイベントが発生し、リーマン・ショックから回復しつつあった世界経済の動きに水を差したと言えよう。 世界銀行の試算によれば、世界の輸出量が、同行の

予測する伸び率を上回って年平均 7.5%で伸びた場合でも、リーマン・ショックが無かった場合の輸出量を回復するまでに、あと 4年は必要としている(第1-1-3-22 図)。 今後のリスク要因としても、原油価格の高騰、米国経済の本格回復の不確実性、中国経済の減速、保護主義台頭等が指摘されており、世界貿易の先行きについて楽観視できる状況にはない。 2011 年に停滞した世界経済が再び回復軌道に戻るまでの道筋については、欧州債務危機の動向に加えて、米国の景気回復の行方も含めて、引き続き注視してゆくことが必要である。

第 1-1-3-21 図 対米輸出シェアと回復に要した期間

45

40

35

30

25

20

15

10

5

00 5 10 15 20 25

アイルランド

英国

イタリア

ドイツ

フィンランド

ポルトガル

ノルウェー

中国フィリピン

ペルー日本

香港

韓国

タイ チリインド

インドネシアシンガポール

豪州

ブルガリアポーランド

ルーマニアスウェーデン

スイスブラジル

マレーシアギリシャ

ロシアスペイン

フランス

ベルギー

トルコ

オーストリア

チェコ

オランダ

低 高対米国輸出シェア(%)

回復に要した期間(月)

資料: WTO, Short-term merchandise trade statistics、World Trade Atlas から作成。

38 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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(1)欧州債務危機の拡大① ユーロ圏主要行の資産圧縮の影響 2011 年 10 月 26 日のユーロ圏首脳会議では、欧州債務危機への対応策の 1つとして、ユーロ圏主要 70行に対し、2012 年 6 月末を達成期限に、自己資本比率(コアTier1 比率)の引上げ(5%→ 9%)を課した。そのため、欧州各行は 2012 年 6 月末にかけて、欧州域内外で資本増強を実施することになることから、・子会社等の売却、証券投資の引揚げによる資金流出、為替・株価下落。・融資抑制による、各国・地域の貸出態度の一層の厳格化、

等の資産圧縮が生じた場合の景気下押しが懸念される。② リスク回避姿勢の高まりによる金利上昇 銀行間の貸出金利や社債利回りが上昇すれば、企業や家計の資金調達に対する負担が高まり、家計の消費や企業の投資を抑制する可能性がある。③ 急激な財政健全化による景気下押しへの懸念 各国の財政の持続可能性への不安が改めて高まり、さらに、財政健全化を急ぐことになれば、更なる景気の下押し要因となる。

④ 金融システム不安の再燃 ユーロ圏の国債に対する信用不安が再燃し、特にイタリアやスペイン国債へと波及した場合、再びユーロ圏の金融市場を介して世界経済に深刻な影響が出る可能性が懸念される。第 1-1-4-1 図は、各国金融機関の金融システムにおける重要度について 2つのネットワーク指標を使って示したものである 20。図において、フランス、スペイン、イタリアは、近接中心性、媒介中心性共にギリシャよりも高く、金融ネットワークに占める位置づけの重要度もより高い。 将来的に、イタリアやスペイン等が本格的な債務再編に追い込まれた場合の金融支援の枠組み整備等に向けて、EU当局と加盟国による危機対応資金(EFSF、ESM)の規模拡大に向けた議論がなされてきた。3月30 日のユーロ圏財務相会合では、現在の危機対応資金の上限を 5000 億ユーロから 7000 億ユーロへ引き上げることで合意した。この措置により市場の懸念を払拭できるかどうか注目される。 以上の①~④等が実際に生じた場合、金融市場の不安定化を反映して、世界経済の更なる減速要因となりかねない。

4.今後の注目点とリスク要因

20 近接中心性は、他国との距離感を表す指標であり、同値が高いほど少ないステップで資金を各地に移動できることを示す。また、媒介中心性は、金融市場における「ハブ」の役割を表す概念であり、同値が高いほど他地域間の取引を仲介する役割が大きいことを表す。

第 1-1-3-22 図 世界の貿易量の推移(リーマン・ショックが無かった場合との比較)

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

1,400,000(100 万ドル)

1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7

(年月)

実績 リーマンショックが無かった場合

・世界輸出量の伸び率の推移(世銀予測)2011 年:6.6%→2012 年:5.2%→2013 年:7.2%

・リーマンショックが無かった場合:1991 年-2011 年の世界輸出量の平均伸び率は 5.5%。

・年平均 7.5%で伸びても、仮にリーマン・ショックが無かった場合の輸出量を回復するまで、あと 4年必要。

資料:World Bank 「Global Economic Prospects 2012」から作成。

通商白書 2012 39

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

Page 39: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

(2)欧米のマクロ政策余地の限界と経済への影響 2007 年のサブプライムローン問題及び 2008 年のリーマン・ショックをきっかけとする米国発の金融危機に対応するため、各国は金融危機対応として、景気下支え並びに金融システム安定化のための大型の財政出動を実施した。これは世界経済の回復に大きく貢献する一方、各国財政を圧迫することとなった。また、2011 年に入り、米国では債務上限引上げを巡って政治的な混乱が生じ、財政問題の先行き不透明感が高まった。加えて、多くの先進国は緩和的金融政策を維持しており、世界経済危機当時のような内需刺激策を行う金融・財政政策の余地に乏しい(第 1-1-4-2 図、

第 1-1-4-3 図)。  新興国は、先進国に比べて政策金利の引下げ余地があり、財政状態も概して良好である。しかしながら、金融危機当時と比べると債務残高が上昇している国もあり、内需刺激策を行う金融・財政政策の余地は以前と比べて狭まっている。 このように、万が一、世界規模の経済危機が新たに発生した場合、先進国、新興国共に十分な対応が望めない可能性が高い。そうなれば、景気低迷は 2008-09年の金融危機の時よりも長引く可能性がある。また、平時には隠れていた脆弱性が顕在化し、政策的な対応を迫られる可能性がある。

備考:○は各国銀行の対外債権の大きさを表す。資料:BIS「国際与信統計 2012 年 1 月」のデータをもとに算出。

0.50 0.55 0.60 0.65 0.70 0.75 0.80 0.85 0.90 0.95

(近接中心性)

(媒介中心性)

スイス

ドイツ

オランダフランス米国

スペインスウェーデン

英国

イタリア

台湾

日本

オーストリア

ギリシャ

カナダ

アイルランド

0.002

0.004

0.006

0.008

0.010

0.000

-0.002

第 1-1-4-1 図 各国銀行のネットワーク指標(2011 年 9月末)

第 1-1-4-2 図 政策金利の推移(主要先進国・地域、主要新興国)

備考:ユーロ圏は 17 か国。資料:CEIC データベース、各国政府公表資料から作成。

韓国  3.25

英国  0.50

ユーロ圏1.00

米国  0.25日本  0.1

カナダ 1.00

0

1

2

3

4

5

6

1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5

2008 2009 2010 2011 2012(年月)

(%) 韓国 ユーロ圏 英国米国 日本 カナダ

主要先進国・地域

資料:CEIC Database から作成。

ベトナム 9.00インド 8.00

トルコ 5.75

ロシア 8.00

ブラジル 9.00

フィリピン 4.00

中国 6.56インドネシア 5.75

タイ 3.00

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5 7 9 1111 1 3 5

201120102009 2012(年月)

(%) ブラジルロシアトルコ

ベトナム中国フィリピン

インドインドネシアタイ

2008

主要新興国

40 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

Page 40: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

(3)国際商品市場におけるボラティリティ  ここ数年、大幅な変動が目立った国際商品市場では、2011 年、世界的な景気減速を受けて商品価格が全般的に下落した(第 1-1-4-4 図)。しかしながら、同年11 月、イランを巡る中東情勢の不安定化に伴って原油価格は再び高騰し、2012 年も高止まりしている。さらに、原油価格の高騰に伴い他のコモディティ価格も上昇しており、インフレ圧力の高まり、実質所得の減少、コモディティの輸入依存度の高い低所得国の国民生活への打撃等、マクロ経済上の諸問題が発生し、世界経済の先行き不透明化の大きな要因となっている。

(4)米国経済の本格回復の不確実性 ① 欧州債務危機の影響 欧州債務危機が再び深刻化した場合、米国経済も金融市場を通じて影響を受ける可能性が高い。貿易面でも、ユーロ圏は米国の輸出額の 14%を占めており、輸出の減速も大きな下押し要因となりうる。また、米国の直接投資の半分が欧州向けであり、2011 年は2,000 億ドルの大台を超えた(第 1-1-4-5 図)。さらに、直接投資を通じた所得の半分は欧州から得ていること

から、欧州経済の減速は企業収益の減少につながる可能性がある。

② 家計部門のバランスシート調整 米国では、家計の債務残高の調整が進捗し、消費者ローン残高に増加の兆しがあるなど、一部明るさも見られる。しかし家計債務の大部分は住宅ローンであり、住宅市場の過剰在庫の解消には数年単位の期間を要する状況である。2011 年後半から、米国の経済指標に改善の動きが見られるものの、雇用、住宅市場などがいまだ本格回復に至らず、予断を許さない状況にある中、GDPの7割を占める消費が本格的回復に向かうか注目される。

③ 大統領選挙を 11月に控えた政治的対立 減税、雇用回復、住宅市場の回復などに関するタイムリーな政策対応が困難になると共に、政策の継続性に対する不透明感が高まる懸念がある。

0

50

100

150

200

250(主要先進国)

英国

ドイツ

カナダ

フランス

米国

日本

(%)

195.0

71.2 67.5 71.3 66.352.0

229.1

99.587.6 84.2 80.1 83.0

2008年 2011年

0スペイン

ポルトガル

イタリア

アイル

ランド

ギリシャ

(%)

2008 年 2011 年

20

40

60

80

100

120

140

160(南欧等諸国)

110.3 106.3

44.4

65.3

39.8

152.3

120.3 114.1

90.6

63.9

ロシア

インド

ネシア

中国

南アフリカ

ブラジル

インド

73.068.2 2008 年 2011 年70.7

26.8 33.2

17.0

7.9

65.7

39.6

25.417.1

8.5

(%)

0

10

20

30

40

50

60

70

80(主要新興国)

第 1-1-4-3 図 政府債務残高の対GDP比(主要先進国、南欧等諸国、主要新興国)

資料:IMF「WEO,April 2012」から作成。 資料:IMF「WEO,April 2012」から作成。 資料:IMF「WEO,April 2012」から作成。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 22010 2011 2012(年月)

70 75 80 85 90 95 100 105 110 115 120

(ドル/バレル)

9095100105110115120125130135140(指数、2010 年 1 月=100)

食糧(左軸)原油(右軸)

第 1-1-4-4 図 資源・食料価格の推移

資料:IMF「WEO,April 2012」から作成。

資料:米国商務省データから作成。

第 1-1-4-5 図 米国の対外直接投資額(2011 年)

3,838

2,0221,769

872428 425

57 33

全世界 欧州 EU27 中南米 アジア太平洋

カナダ アフリカ 中東0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

4,000

4,500(億ドル)

通商白書 2012 41

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

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(5) 新興国の存在感の高まりの一方、新興国依存の回復過程への懸念

 中国はじめ新興国経済の高成長により、世界GDPに占める割合は、先進国の 64.7%に対して、新興国は35.3%まで接近した(第 1-1-4-6 図)。先進国が減速し、特に世界の実質GDPの 25.4%を占める EUが再び景気後退に陥る中、新興国の経済成長率(2011 年時点)は先進国の約 4倍と、その存在感は更に高まり、世界

経済の成長を支える役割が期待される(第 1-1-4-7 表)。一方、2011 年に入ると新興国の成長率にも減速が見られ、国際機関による今後の見通しについても下方修正された。特に、中国において、2011 年第 4四半期の GDP成長率が、前年同期比 8.9%となるなど景気の減速が指摘されている。中国はリーマン・ショック後の世界経済の牽引役として大きな位置づけを占めていることから、その減速による影響が懸念されている。

(6)保護主義台頭への懸念 景気減速により保護主義的な動きに拍車がかかる可能性について懸念が高まっている。WTO(2011)によれば、G20 参加国が新たに講じた貿易制限的措置は、2009 年 4 月以降の 11 か月間で 175 件、2010 年 10 月中旬以降の 12 か月で 230 件と増加している(第 1-1-4-8 図)。2011 年の 5月から半年間に講じた措置の対象品目が輸入全体に占める割合は、前年同時期の約 2倍になった(第 1-1-4-9 図)。  主要 20 か国・地域(G20)として初の貿易大臣会合が、2012 年 4 月 19~20 日にプエルト・バジャルタ(メキシコ)にて開催された。同会合では、保護主義抑止に関しても議論が行われ、牧野経済産業副大臣より、G20 内で横行する保護主義的措置に対抗するため、新たな措置をとらない「スタンドスティル」と、導入した措置を是正する「ロールバック」を徹底すると共

備考:1.「他先進国」及び「他新興国・途上国」についてのデータはなく、IMF のデータより経済産業省が推計。   2.2010 年基準で実質化。資料:IMF「WEO, April 2012」から作成。

第 1-1-4-6 図 各国・地域経済の経済成長率及び世界の実質GDPに占める割合

3%2.1%2.1% 2%

3.5%

0.6% 0.5% 0.8%

1.9%

3%

6.9%

8.2%

4%5%

5

10

-5

20 40 60 80

0

他先進国

米国

日本

韓国韓国

ドイツ

フランス

英国

イタリア

他EU

先進国

他EU

先進国

他EU

新興国

ブラジル

ブラジル

インド

中国

ロシア

他新興国・途上国

3.5%世界平均

-0.7%-1.9%

-0.7%-0.7%

先進国 新興国・途上国

-1.9%

(%)

5.7%新興国

1.4%先進国

8% 22.7%22.7% 8.4% 5.2% 4% 3.5%3.2% 8.1% 1.4% 2.6% 10% 2.4% 15.6%1.6%

3.4%3.4%

EU 25.4% EU 0%

35.3%64.7%

縦軸:2012 年実質 GDP 成長率見通し(黒字)横軸:世界各国の 2011 年実質 GDP構成比(赤字)

2010 2011 2012(見通し)

2013(見通し)

世界(購買力平価ベース) 5.3 3.9 3.5 4.1

先進国 3.2 1.6 1.4 2.0

新興国 7.5 6.2 5.7 6.0

中東欧 4.5 5.3 1.9 2.9

ASEAN5 7.0 4.5 5.4 6.2

ブラジル 7.5 2.7 3.0 4.1

ロシア 4.3 4.3 4.0 3.9

インド 10.6 7.2 6.9 7.3

中国 10.4 9.2 8.2 8.8

中東・北アフリカ 4.9 3.5 4.2 3.7

南アフリカ 2.9 3.1 2.7 3.4

備考: ASEAN5 は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム。

資料:IMF 「WEO, April 2012」 から作成。

第 1-1-4-7 表 新興国経済の見通し

42 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

Page 42: 第1章 世界経済の動向 - 経済産業省のWEBサイ …...第1章 世界経済の動向 世界経済は、2007年の夏に表面化した米国サブプ ライムローン問題、2008年9月のリーマン・ブラザー

に、建設的な議論を開始するためWTO、OECD、UNCTADによる保護主義的措置の影響分析の実施を支持することを主張した。口頭による議長総括では、こうした主張が取り入れられた。

(7)経常収支不均衡① 現状と今後の見通し 世界経済危機の発生により、貿易額が世界的に縮小したことを背景に、グローバルインバランスは 2009年に一時的に縮小した後、2010 年には再拡大へと転じたが、2011 年は再び縮小した(第 1-1-4-10 図)。 IMFは、4月の世界経済見通し 21において、グローバルインバランスの拡大は見込んでいない、としている。理由として、米国その他の経常赤字国の消費が、

世界経済危機前に比べて予測以上に減少したことと、日本の黒字の減少を挙げている。中国については前回(2011 年 9 月)の見通し以降に人民元の実質実効為替レートが 6-7%上昇し、中国の経常黒字の中期的な見通しが大幅に引き下げられた。 中国の経常黒字に関しては、循環的要因が解消されれば引き続き拡大し、世界GDPにおいて比較的高いシェアを占める、と予測している。そして、国内において投資が高く消費が低い、という不均衡な状態に対応しないまま経常黒字が縮小すれば、国内の緊張感を高めることになるとみている。このため、特に貿易分野において、一層の構造改革並びに為替レートの適正水準への調整をはかると共に、投資指向から所得増加、消費拡大へと転換してゆくことが必要としている。

21 IMF(2012a)

第 1-1-4-10 図 世界的な経常収支の不均衡の推移

備考: 他先進国、他新興国については、経常収支黒字国、経常収支赤字国の別に値を分け、計上した。資料:IMF 「WEO, April 2012」から作成。

予測

-4

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

2014

2016

(GDP 比、%)

他先進国黒字日本ドイツ韓国他新興国黒字ロシア中国米国英国他先進国赤字インドブラジル他新興国赤字乖離

予測

予測

(年)(年)

7

102 97

5088

16

30

7

15

175

230

0

50

100

150

200

250(件)

その他輸出補助金非関税障壁相殺関税

2009 年 4 月~2010 年 2 月

2010 年 10 月中旬~2011 年 10 月中旬

全体

資料: WTO 「REPORT ON G- 20 TRADE MEASURES(MAY TO MID-OCTOBER 2011),25 October 2011」から作成。

第 1-1-4-8 図G20 諸国が講じた貿易制限的措置の件数

0.4

0.2

0.5 0.50.5

0.3

0.6 0.6

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7(%) 世界全体の輸入に占める割合

G20 諸国全体の輸入に占める割合

2009 年11月~2010 年 5 月

2010 年 5 月~10 月中旬

2010年 10 月中旬~2011 年 4 月

2011 年 5 月~10 月中旬

資料: WTO 「REPORT ON G- 20 TRADE MEASURES(MAY TO MID-OCTOBER 2011), 25 October 2011」から作成。

第 1-1-4-9 図 輸入全体に占めるG20 諸国の貿易制限的措置の割合

通商白書 2012 43

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章

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 なお、IMFは、中国の経常黒字の減少理由として、中国の輸出シェアの 40%を占める米国とユーロ圏における需要停滞、経済成長を支える上での投資の重要性の高まり、コモディティ輸入の増加とそれらの国際価格の上昇、さらに、激しい機械類輸出の増加と輸出価格下落による交易条件の悪化、賃金上昇等を背景に国内コストが高まっていること等による貿易収支黒字の減少を挙げている。こうした中国の経常収支黒字の減少はグローバルインバランスの改善に資するものであるが、それは消費の高まりではなく国内の非常に高水準の投資の結果であり、第 12 次 5 か年計画による構造改革が実施されれば、消費主導への転換を目指す中国経済にとっても、世界経済にとっても、より持続的な転機となろうと指摘している。

② 国際的な枠組みを通じた対応 2011 年 4 月、ワシントンDCで 開催されたG20 財務大臣・中央銀行総裁会議において、強固で持続可能かつ均衡ある成長に資する各国の協調的な政策に関するアクションプランの作成に合意し、同年 10 月の同会議において、同アクションプランは、不均衡是正に関する以下の措置を含むことが決まった。 ― 先進国は財政健全化を達成するための具体的な措置を実施。大きな経常黒字を有する国は、内需拡大に資する施策も実施し、大きな経常赤字を有する国は国民貯蓄を増加させるための政策を実施する。

 ― 新興国市場は、資本フローの変動に対する強じん

性を高めるため、(必要な場合は)マクロ経済政策を調整。黒字の新興国市場は需要を国内消費へリバランスするための構造改革を加速。これは、より市場で決定される為替レートシステムに移行し、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を反映するよう為替レートの柔軟性を一層高めるための努力によって支援される。

 これを受けて、2011 年 11 月にカンヌで開催されたG20 サミットでは、短期的な脆弱性への対処と中期的な成長に資する基盤強化のための各国による政策コミットメント等をまとめたカンヌ・アクションプラン(「成長と雇用のためのカンヌ・アクションプラン」)22に合意した。なお、カンヌ・アクションプランの策定に当たって、2011 年 4 月の G20 財務大臣・中央銀行総裁会議で合意された不均衡を把握するための「参考となるガイドライン」23に基づき、IMFが G20各国の経済及び政策に関する分析・評価レポートをまとめており、当該レポートを構成する「Sustainability Report」では、継続した大規模な不均衡を有し、より詳細な評価を受けるべき対象国(日本、中国、インド、ドイツ、英国、フランス、米国)の不均衡の原因として、例えば、日本は長引く低成長や高齢化、中国はセーフティネットの整備の遅れ、インドは貧困を背景とする多額の社会的支出、ドイツは投資の伸び悩み、英国は消費依存の経済体質、フランスは輸出競争力の低下、米国は減税による歳入減少や社会保障給付の増大等が指摘されている。

22 成長と雇用のためのカンヌ・アクションプラン http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/g20/cannes2011/actionplan_ky.html23 G20 財務大臣・中央銀行総裁会議声明(仮訳)(2011 年 4 月 14-15 日、ワシントンDC)  http://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g20/g20_230415.htm

<参考> 「成長と雇用のためのアクションプラン」(2011 年 11 月、カンヌ)に明記された短期的な脆弱性への対処及び中期的な成長基盤強化のための取組(概要)

(脆弱性の解決及び金融の安定回復のための短期的な取組)・銀行システム及び金融市場の安定を確保するため必要なあらゆる行動を取る。現下のリスクに対処するため、銀行が適切に資本増強され、かつ十分な資金へのアクセスを保持することを確保。

・中央銀行は必要に応じて、銀行に流動性を供給できるよう準備を継続。・景気回復を確保するために、政策措置の適切な組合せを実施。・市場で決定される為替レートシステムに向けてより迅速に移行し、根底にあるファンダメンタルズを反映するため、為替レートの柔軟性を向上させると共に,通貨の競争的な切り下げを回避。

(成長基盤強化のための中期的な取組)・中期的な成長基盤の強化のため,次の 6分野の計画に合意;①財政健全化へのコミットメント、②経常収支黒字国で民間需要を押し上げ、また、適切な場合、経常収支赤字国で公的部門から民間部門へ需要を移転させることへのコミットメント、③G20 メンバーの中で,経済成長を高め,雇用創出を強化するための構造改革、④国内及び世界的な金融システム強化のための改革、⑤あらゆる形態の保護主義を排除しつつ,自由貿易・投資を促進するための方策、⑥開発を促進するための行動。

44 2012 White Paper on International Economy and Trade

第1章 世界経済の動向

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5.世界経済の持続的な成長に向けて

 1章 1節を通じて概観したように、世界経済危機による景気後退から回復軌道に戻りつつあった世界経済は、2011 年に再び減速し、2012 年に入っても回復は弱く、下ぶれリスクの高まりが懸念されている。 2012 年 4 月 19-20 日、米国ワシントンD.C. において開催された 20 か国財務大臣・中央銀行総裁会議では、「世界経済は、我々が前回の会合以降に実施した幾つかの重要な政策措置により支えられ、世界的に緩やかな回復の継続を示している。ほんの数か月前に世界経済が直面していたテール・リスクは、後退し始め

ている」としつつも、「2012 年の成長見通しは依然として緩やかであり、デレバレッジは消費と投資を抑制しており、欧州における金融市場のストレスなどを受けたボラティリティは高止まりし、下方リスクはなお根強い。」との声明を発表した。 今後、世界経済が再び回復軌道に戻るためには、世界GDPの約 65%を占める先進国と、世界経済の成長を支える役割が期待される新興国がそれぞれ経済成長に向けた努力を継続することが不可欠である。

通商白書 2012 45

第1節不安を抱え、回復への足取りの重い世界経済

第1章