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情報化社会と経済 IT 革命と情報化社会 71 第 12 回 情報格差(Digital Divide)とその克服(雇用) 1、IT 革命と情報格差(Digital Divide) IT 革命の象徴であるインターネットの利用は拡大し続けている(第 1 回参照)。 ブロードバンドを中心としたネットワークインフラ(情報基盤)の整備はこの数 年間に急速に進み、2016 年末のインターネット利用者数は、2015 年より 38 人増加して 1 84 万人、人口普及率は 83.5%(前年比 0.5 ポイント増)となっ た。また、端末別インターネット利用状況をみると、「モバイル端末全体」の内 数である「スマートフォン」は、71.8%(前年比 0.2 ポイント減)と前年と同程 度にとどまったが、「パソコン」の普及率が下がったことによりその差は前年の 4.8 ポイントから 1.2 ポイントに縮小している。 図 12-1 インターネット利用状況 『平成 29 年度版 情報通信白書』より

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情報化社会と経済

IT革命と情報化社会

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第 12回 情報格差(Digital Divide)とその克服(雇用)

1、IT革命と情報格差(Digital Divide)

IT革命の象徴であるインターネットの利用は拡大し続けている(第 1回参照)。

ブロードバンドを中心としたネットワークインフラ(情報基盤)の整備はこの数

年間に急速に進み、2016年末のインターネット利用者数は、2015 年より 38万

人増加して 1億 84万人、人口普及率は 83.5%(前年比 0.5ポイント増)となっ

た。また、端末別インターネット利用状況をみると、「モバイル端末全体」の内

数である「スマートフォン」は、71.8%(前年比 0.2ポイント減)と前年と同程

度にとどまったが、「パソコン」の普及率が下がったことによりその差は前年の

4.8ポイントから 1.2ポイントに縮小している。

図 12-1 インターネット利用状況

『平成 29年度版 情報通信白書』より

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インターネットの利用には、情報機器の購入と利用に関する知識が必要である

ため、世代別、性別、地域別、年収別、さらに障がいの有無などの面での利用格

差=情報格差(Digital Divide)が生じるのが現状である。2016年における個人

の世代別インターネット利用率は、13歳~59歳までは各階層で約 9割を超えて

いるのに対し、60 代以上では利用率が僅かながら増加しているものの他の年代

に比べて利用率は低い。また年収別でもインターネット利用率の格差がみられ

る。

図 12-2 属性別インターネット利用率及び利用頻度

『平成 29年度版 情報通信白書』より

これはインターネット利用自体の格差であるが、情報化社会においてはインタ

ーネットの利用が生活、労働、企業活動(ビジネス)、地域間など、さまざまな

分野で格差が広がっていく。インターネットの利用格差=情報格差(Digital

Divide)はそのまま経済格差につながり、また経済格差が情報格差を固定してし

まう傾向がある。1990 年代からの IT 投資の拡大による「雇用なき経済成長」、

また近年の AIによる労働市場の「二極化」(第 11回)は情報格差による経済格

差、そして経済格差による情報格差のスパイラルを示していると言えよう。

一方で、IT を活用することによって情報格差の克服を経済格差の克服につな

げようとする取組みもみられる。

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2、IT革命と雇用・テレワーク

(1)テレワークという働き方

IT 投資増は労働生産性を上昇させる反面、雇用を代替するという側面も強い。

IT 投資の拡大と労働力の流動化は無関係ではない。日本でも 1990 年代から

2000 年代にかけて非正規雇用者数は年々 増加しており、2010 年以降その伸

びが加速化している。(第 5回、第 6回参照)

また IT革命による生産過程・流通過程の情報化は生産のオンライン化、ネッ

トワーク化と併行した生産単位の小規模化をもたらす。そこで登場してきた小

規模生産形態のひとつが 1990年代後半から登場してきた SOHO(Small Office

Home Office)であり、これは市場構造の変化に柔軟に対応する生産形態、雇用

形態として注目されてきた。これは IT 投資によって雇用=労働力の流動化が進

められる過程である。

一方で、2000年代に入ってからは、インターネッ

トや携帯電話等の進展により、在宅でも働きやすい

環境が整備されることによるテレワークという勤

務形態=働き方が注目されている。テレワークには

在宅勤務型(自宅にいて、会社とはパソコンとイン

ターネット、電話、ファクスで連絡をとる働き方)、

モバイルワーク型(顧客先や移動中に、パソコンや携帯電話を使う働き方)、サ

テライトオフィス勤務型(勤務先以外のオフィススペースでパソコンなどを利

用した働き方)などがあるが1、いずれも会社との正規の雇用関係を保ちながら、

継続した勤務が可能になる働き方であり、在宅で働くことによって(長時間の通

勤を伴わず)、ワークライフバランスを保ちやすい働き方である。

テレワークの分類とテレワークの効果

日本テレワーク協会ホームページより

1 一般社団法人日本テレワーク協会による分類。

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女性は(もちろん男性も)妊娠・育児・介護などの理由により仕事の中断・キ

ャリアの非連続が補う可能性を有する。

図 11-3 女性の年齢別就業率とその推移

そこで、企業でキャリアを積みながらも様々な理由で職場を離れざるを得な

くなった女性のために、テレワークを活用して在宅でも自らのキャリアを利用

して仕事に結び付けようとする取り組みや、そのための仕事を紹介するネット

ワークの取り組みが見られる。→課題

また、テレワークは女性だけでなく、男性、そして高齢者や障がい者にも雇用

と社会参加の場を拡大する可能性があり、この分野でもさまざまな取り組みが

行われている。→課題

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(2)テレワークと企業

2000年代以降、日本でも企業にインターネットやクラウド・コンピューティ

ング(Cloud Computing)利用などの IT環境の整備は進んできたが、企業にお

けるテレワーク制度の導入率は IT 環境の整備に比べて進んでおらず、加えて、

大企業に比べて中小企業における導入率が低い傾向にある。

図 11-4 女性の年齢別就業率とその推移

『平成 25年度

版 情報通信白

書』より

これに対して、

世界的に見るなら

ば、インターネッ

トの普及によって、

情報化の進んだ地

域ほど女性の社会

参加が高まる傾向

が見られる。

図 11-5 IT化とテレワーク、女性の社会進

出の関係

3、クラウドソーシングと雇用

2010年代に入って、発注者がインターネット上のウェブサイトで受注者を公

図13-8 ICT競争力指数とテレワーカー比率の相関              (相関係数=0.74)

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

4.0 4.5 5.0 5.5 6.0

ICT競争力指数

テレ

ワー

カー

比率

図13-9 百人当たりインターネット加入率とジェンダー・ エンパワーメント指数の相関 (相関係数=0.68)

0.000.100.200.300.400.500.600.700.800.901.00

0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00

百人当たりインターネット加入率

ジェ

ンダ

ー・ エ

ンパ

ワー

メン

ト指

日本 日本

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募し、仕事を発注することができる働き方の仕組みとしてクラウドソーシング

(Crowd Sourcing)が注目を集めている。クラウドソーシングはテレワークのよ

うに従来の雇用形態を守りながらワークライフバランスを進めるものはなく、

むしろ雇用=労働力の流動化、そして格差拡大を進める可能性がある。

総務省「ICT の進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成 26年)より

日本におけるクラウドソーシングの利用は 2009 年頃から本格化したと言わ

れており、クラウドソーシング市場は 2016年度の国内市場規模(仕事依頼金額

ベース)が前年度比 46.2%増の 950 億円となる見込みで、2013 年度から 2020

年度までの CAGR は 45.4%で推移、2020 年度には 2950 億円に達すると予測

されている。一方で、クラウドソーシングの拡大は労働市場における労働者の格

差をますます進める可能性があることも考えなくてはならない。

図 12-6 クラウドソーシングの市場予測

矢野経済研究所「クラウドソーシング市場に関する調査結果 2018」より