BRE イノベーションパーク)...1 英国のゼロカーボン住宅への挑戦 (BRE...

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英国英国ののゼロカーボン住宅への挑戦ゼロカーボン住宅への挑戦

((BREBRE イノベーションパーク)イノベーションパーク)英国建築研究社英国建築研究社 BBildingilding RResearchesearch EEstablishmentstablishment

20112011年年1010月月2121--2727日日

P.V.ソーラーハウス協会

会長 南野一也

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イギリスのイギリスのZEHZEH(ゼロ・エネルギー住宅)見聞録(ゼロ・エネルギー住宅)見聞録P.V.ソーラーハウス協会 南野一也

◆レポートを書くにあたって◆

今回、イギリスの訪問は2回目。前回は、2011年3月10日に成田を出発し、ヒースロー空港には、日本時間3月11日午前0時、現地時間3月10日午後3時過ぎに到着した。ロンドン1日目は睡魔との闘いで終始し、2日目の早朝、朝のBBC放送で日本の惨状を知った。会社に電話してもまったくつながらない。スタッフの携帯電話にもつながることはなかった。その後の津波映像、原子力発電の事故の映像。前回のロンドンの旅行は、ホテルのテレビを見て終わった。さて今回はリベンジ。「しっかり勉強するぞ!」との意気込みで出発した。7ヶ月ぶりのヒースロー空港は何も変わっていなかった。実質の2日目、現地での1日目

はストーンヘンジの見学からスタート。バスガイドさんの話、『ロンドンの霧は、現在ほとんど発生しない。』発言には驚いた。「地球温暖化の進行がここまで気象を変化させてしまったのか?」実は違っていた。石炭の使用を規制したため、煤煙の発生がなくなり、スモッグが消えたためであると知った。スモッグが消えたことは、『人々が健康で生活できる環境が整えられた!』と、いう事。その結果、スモッグと共に石炭の産業も消えた。基幹エネルギーを切り替えたことで、石炭を販売していた業界、関係者はどうなったのだろうか?現在は何で生計を立てているのか?家々の煙突を見ると、当時、膨大な石炭が使われていたかが想像できる。それにしてもイギリス政府は勇気がある。産業革命の主役であり、産業の基幹であったエネルギーを切り替えた事には、勇気と大きな努力が必要だったのだと思う。心から敬意を表したい。それに引き換え日本は、このような原子力事故を起こした企業に対しても、大きな変化を求めない。温暖化対策、エネルギーの変革を叫びながら何も変わらず、エネルギー消費の増加にも歯止めが利かない。イギリスは産業革命を起こし、CO2大量発生を世界で一番にスタートさ

せた。しかし、先進国で、世界で 初に、住宅ゼロカーボン化を義務化した。この大きな仕事を実行しようとしている国の実情をしっかり見て、イギリスの奥行きを感じると共に、その感じたことを、日本の住宅産業のため、少しでも役に立てたいと思い、心を引き締めた初日であった。

火力発電所は操業停止現在は、テート・モダン美術館

霧の都ロンドンはいにしえの風景

部屋の数だけ煙突、大量の石炭を消費

大量消費した石炭は現在禁止された

石炭火力発電所は現在停止

エネルギーのリーダーは洋上風力発電 テムズ川隣接の石炭火力発電のをリノベーションし美術館に

史上 高額のピカソの絵画も所有

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◆イギリスを知る◆

イギリスのECO住宅を知るためには、イギリスの国を知る必要がある。今回の視察では、イギリス国内の南西部を周回しただけだが、草原、丘陵が延々と続き、まばらに林がある景色で、日本の風景とはまったく違っている。日本とは、可住地割合がまったく違う。この割合を調べ、同時に、国民の平均所得も調べた。土地と所得を調べたことで、住宅を作るベースを日本と比べてみた。また、イギリスと同じEU加盟国で、住宅の引き合いによく登場する、ドイツも平行して記載した。

◆イギリスの土地に対する価値観◆

今回の資料で、可住地面積に対する人口の密集度は、イギリスは日本の4分の1程度。つまり、1人に対しての可住地面積は4倍ゆったりとしている。また、ロンドン市内でも一見敷地に住宅が目いっぱい建っているように思われるが、実際は、道路とは反対側に庭が存在している場合が多い。つまり、都市部でも地面に触れる機会を持ちたいと思う民族ではないかと感じた。それを強く実感したのが、 下層の方、生活保護者の住居が高層マンションであった点だ。つまり、所得が下がると敷地当りの人口密集度が高くなる。日本の場合、高層マンションに高所得者が住んでいるが、イギリスは所得が高い人ほど敷地が広く、牧畜や農業までも行っている。日本は、土地至上主義的な風潮があるが、イギリスこそ土地に対しての認識が強いように思った。しかし、土地は領地であり、庭である。その庭に立つ建物こそが財産。財産であるから、よいものを作る。作ったものは、きちんと手入れをする。手入れをしたよい建物は、経年変化で“美”となる。庭も経年で“美”となる。そのことで、長期間経過した建物ほど、財産価値が高くなり、その市場を文化的に継続して作り出してきた。それがイギリスの住宅市場のように思う。

◆イギリス人の所得◆

イギリス人の所得は、日本より少し劣る。ところが、住宅の寿命が非常に長いため。住宅の着工件数は10万戸台。イギリスは日本の人口の半分のため、日本換算で30万戸程度だ。イギリスの国民は日本に比べ所得は低いが、生涯を通じ

て、住宅に対する支出が圧倒的に少ない。英国民は、日本よりはるかに豊かな生活ができる。日本も右肩上がりの経済のときは良いが、そのようなことは既に無くなっている。日本の住宅や建築物、日本の住宅・建築業界を再検討する時期が、とうとう来たように感じた。

ストーンヘンジとイギリスの草原

草原と丘陵の風景が延々と続く

生活保護者の住宅は高層マンション

数百年の経年変化で美しくなった住宅

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◆2016年ゼロカーボン住宅義務化◆

イギリスは、2016年以降に建築される新築住宅にゼロカーボンを義務化した。

このゼロカーボン住宅を、今回の視察旅行で見学することが一番の目的であった。特に、レポートの表紙にある、Kingspan社のLighthouseの見学がその一番

の楽しみであった。現地に行ってみるとその建物はすでに解体されていた。当初は、イギリス版のバブルの関係で、バブル後の経済の中で倒産したのかと思い、調べたのだが会社はきちんと存在している。同社HPでもBREとの関係をしっかりと表現していた。たぶん私たちのわからない問題で住宅を解体したのだと思う。2016年ゼロカーボンの象徴的な建物を解体して、更地にする意味をずっと考え

ていたのだが、いまだにわからない。さて、ゼロカーボンの義務化とは何なのか?ゼロエネと何が違うのか?探り、その後BREの建物を紹介したい。

◆イギリスのエネルギー政策◆

イギリスのエネルギー政策を整理する。また、このエネルギー政策に必要なキーワードがある。それを冒頭に整理する必要がある。そのキーワードが、“義務化”と“バックコンク・キャスティング”だ。先進国の、本以外の国々は、省エネは“義務化”されている。義務を前提に、どのような数値基準を国が定めるのか?が本来の前提。イギリスの場合も、この義務化のレベルを段階的に引き上げていくロードマップを展開している。私たちは、2016年カーボンゼロを議論の対象にするが、イギリス場合、2006年を基準に、2010年と2013年のハードルがある。イギリスのビルダーは2013年基準をどのように超えるかを、現在真剣に検討しているはずだ。この2013年基準が、2006年ベースから比較して44%削減(レベル5)となる値だ。ゼロカーボン(レベル6)というとてつもない基準がその後に待っていつために、44%削減が霞んでしまうが、実際は大変な数字だ。住宅から排出されるCO2がほとんど減少しない日本の現実から考えるととんでもない値。日本では、自立循環型住宅の設計のガイドラインで示した目標が、2000年当りの住宅に対して、50%削減を目標としている。仮に、2000年当たりの住宅から、2006年の住宅が6%CO2の排出が減少しているとすると、イギリスの2013年目標が、日本の自立循環型住宅の目標と重なる。しかも、“義務化”を前提にしてだ。では、何故そのような早急な基準引き上げを行うのか?それが、もう一つのキーワードの“バック・キャスティング”。“バック・キャスティング”とは、『こうする』、『そうしなければならない』を前提に、未来からロードマップを引いていく考え方。温暖化抑止を選定に考えるロードマップだ。先進国は2050年に、少なくとも1990年比、80%以上のCO2を削減する必要がある。つまり、2050年にマイナス80%を実現するためには、イギリスの場合、住宅の民生部門で早期でゼロカーボン化が必要となった。そのために、ロードマップに入れ込んだ。と、言うわけだ。日本の場合、『今できることを今行う。』政策。つまり、“バック・キャスティング”の真逆の、“フォア・キャスティング”だ。どちらが正しいかは後世の判断になるが、少なくとも、世界の先進国は、“バック・キャスティング”を前提とした、省エネ基準、作り手はそれを前提としている。

出典:早稲田大学 田辺新一教授 ゼロ・エミッション・ビル実現と展開に関する研究会

Kingspan社のLighthouse

Lighthouseのエネルギーパフォーマンス

BREイノベーションパーク展示場

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◆セロカーボン化を決めた経緯◆

“バック・キャスティング”を前提とした住宅のエネルギー政策は、2006年に政策立案された。当時の温暖化対策に対しての、イギリス全体でのCO2削減計画は、1990年比60%となっており、その後上方修正されて、現在では80%削減に落ち

着いた。大幅に削減を実行するには、産業部門(工場など)の大幅削減は難しいことと、住宅のCO2排出が大量であったため、ここからは南野の推測である

が、簡単に削減できる住宅に着目したのだと思う。削減期間は、10年以上の目標では、国民に対しての危機感の警告にならず、『エイ!、ヤー!』的な発想で16年と決めた。当時、省エネに対しての基準が、他国のように1次エネルギーの消費量ではなく、1平米当りのCO2排出量(暖冷房+給湯+換気+照明)にてのカウントになっていた。今回の2016年ゼロカーボン化の基準は、省エネ基準での対象設備の、暖冷房+給湯+換気+照明に加えて、今回は家電製品と調理まで入る。2006年当初は、2016年せりカーボン化が実

現できる明確な根拠はなかった。この警告を発したことによる技術進歩を期待するという、あいまいな船出であった。現在、その半分の期間が経過した段階での総括は、南野の調査では判明していない。

◆セロカーボン化実現の優先順位 第1段階の手法◆

あいまいな状態でスタートした政策だが、達成のための手法を示している。この手法は、日本の住宅を作るわれわれにも、大変参考になる。第1段階目として、『熱を大切にする』項目と同時に『熱を上手に作る』項目だ。

『熱を大切にする』ためには、住宅の高断熱化が不可欠である。しかし、高断熱化は夏場のオーバーヒートを招く。そのために、日射の遮蔽をしっかり行う必要がある。BREイノベーションパークの展示場でも、日射遮蔽を構造の中に盛り込んだ物件が複数あった。次に『熱を上手に作る』項目。暖房や給湯など生活熱を作り出す設備の高効率化だ。イギリスの住宅は、冷暖房のエネルギー消費が、住宅で消費されているエネルギーの60%前後にもなる。日本の30%前後の倍にもなる値だ。この膨大

な熱をどのように効率よく作るか。この解決だけで、エネルギーが大幅に減少する。今回の基準は、新築住宅に対しての基準となるが、新築物件のマーケットより数十倍存在するリノベーション物件でも有効な手段だ。イギリスの住宅は、無断熱住宅がほとんどだ。レンガ造、石造、ハーフティンバー(真壁木造+土壁)の

構造は、外装と内装が一体化している。それでなくても厚い構造壁が、さらに厚みえを増す。しかし、これをやり遂げないと暖房負荷が減少しない。また、レンガ造の建物で断熱を行う場合、熱橋処理も大変だ。そのために、BREの展示場の建物は、木造を選択した建物が多かった。日本では、木造が基本になっているために早期の実行は可能なはず。だが・・・(泣)。私は実現できない日本が、日本人として少し恥ずかしくなった。

出典:早稲田大学 田辺新一教授 ゼロ・エミッション・ビル実現と展開に関する研究会

ハーフティンバー

石造

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◆第1段階実現のためにはパッシブデザイン◆

第1段階を有効に実現するためには、必要な熱量を少なくする必要はある。その

有効な方策が、パッシブデザイン、日射取得を前提とした設計だ。日射取得が増加すると、暖房負荷が減少。暖房負荷が減少すると暖房消費エネルギーが減少する。つまり、CO2排出が減少することになる。

このパッシブデザインが、日本でも設計に大きな変革をもたらす。P.V.ソーラーハウス協会では、パッシブデザインを前提とした高断熱住宅で、2050年対策を行う予定である。この考え方は世界共通といえる。日本の場合、まだこの1段階目の、『高断熱+パッシブデザイン』を理解していない専門家が多く、単純な意匠性を優

先する人が多い。デザインは時代に応じて大きく変わる。現在の、地球がおかれている環境を考えると、住宅と温暖化対策は、切っても切れない関係があり、そのためには、これからの住宅は、パッシブデザインを前提とした意匠性の良い設計ができる専門家が設計し、資産価値のある優良な住宅を提供できる理念を持つ、本当の専門家が作る必要がある。会社の場合専門家チームと考えたほうが良いだろう。しかし、屋根には太陽光発電は乗る現状を考えると、パッシブデザインの日射取得は窓からであり、 窓を美しくデザインする能力を高める必要がある。

◆ゼロカーボン化実現の優先順位 第2段階の手法◆

さて、第2段階目は、『エネルギー自体を生産する』設備の導入だ。具体的には、

太陽光発電、太陽熱、コジェネ(日本では、エネファーム、エコウィル)、バイオマスなどの再生可能エネルギーの活用。実は、2段階目の手法でカウントする削減分

は、オンサイト分、つまり住宅で採用された部分だけ。例えば、太陽光発電の場合、CO2排出ゼロで大量のエネルギーを生み出す。場合によっては自己消費以上にCO2を削減できる。しかし、太陽光発電を設置可能な住宅がすべてとは限らない。

また、設置できたとしても大型のシステムが難しい場合が多い。そのために、再生エネルギーなどを多種類で活用することで、ゼロカーボン化に大きく前進する。例えば、暖房エネルギーが、エネルギーベースの基準であれば、エネルギー消費いくらとなるが、CO2ベースであれば、暖房の熱源をバイオマスにするだけでCO2の発生量は、ほぼゼロ。しかし、イギリスの土地には森林がほとんどないため、自国では燃料の調達が難しい。そこで、太陽光、太陽熱、コジェネなど総動員する必要がある。しかし、この段階でのゼロカーボン化はできないことになる。

出典:早稲田大学 田辺新一教授 ゼロ・エミッション・ビル実現と展開に関する研究会

P.V.P.V.ソーラーハウス協会ソーラーハウス協会20502050年型省エネ住宅年型省エネ住宅

再生エネルギーでの再生エネルギーでのゼロカーボン化のイメージゼロカーボン化のイメージ

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◆ゼロカーボン化実現の優先順位 第3段階の手法◆

すでに2段階までの手法で大きくCO2は削減されているが、ゼロカーボン化を実行するためには、大きな効果を発揮するのはこの第3段階だ。例えば、先程太陽光発電野件では、2段階目の手法でカウントした削減量は自宅設置量だけ。

イギリスは多数の電力会社あり、自然エネルギーを売り物にしている会社もある。そこで、例えばメガソーラーのような太陽光発電所で生産された電力もCO2カウ

ントをゼロにする手法だ。イギリスの場合、大型の太陽光発電所は難しいが、風が強い海上で、洋上風力発電所の建設に力を注いでいる。風力発電の生産された電力もほぼゼロベースでカウントできる。しかし、再生エネルギーは安定しない。そのエネルギーを蓄電池と絡めてコントロールするシステムが必要になる。ホーム・エネルギー・マネージメントシステム、HEMSである。このHEMSと再生エネルギー、蓄電池を組み合わせてスマートハウス、地域で行うことでスマートシティーが可能となる。このことで大きなエネルギー削減が実行できる。このオフサイト再生エネルギーをカウントし、また、今回の基準対象になっていない既築住宅のエネルギー効率改修を行い、そこで削減できたCO2もこの削減分カウン

トに参入する。見学した住宅展示場は確かにすごいECO住宅であった。しかし、展示場以外の住宅は本当にECO住宅???と思ったわけだが、イギリスはこの3段階目を本命とし、『1段階+2段階<3段階』と考えている。日本の場合、こ

のエネルギー政策を原子力が担ってきた。今回の震災でその裏技が使えなくなった訳だから、早期に再生エネルギーに転化し、その拡大政策を示してほしい。今までは、電力会社独占の事業であったが、きめ細かい発電時事業を行うためには、さまざまな企業理念を持った電力事業者が必要となる。

◆日本とイギリスの家庭部門エネルギー考察◆

イギリスの住宅は無断熱住宅、かつ熱効率とは無縁の設備が標準。家庭部門のエネルギー消費量は国の3分の1にもなる。一方日本のエネルギー消費の家

庭部門は、他の先進国に比べて非常に少ない。その少ないわけは、暖房エネルギー。先進諸国では全館暖房は当たり前。日本は一部の地域を除けばぜいたく。一方、高齢化社会、晩婚化で世帯数は急増。この急増を受けながら、先進国並みの生活を行うには、私たち建築業界がしっかりしなければならない。

出典:早稲田大学 田辺新一教授 ゼロ・エミッション・ビル実現と展開に関する研究会

出典:三菱重工HP

ゼロカーボン・ビレッジ BedZED

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◆イギリスのゼロカーボン化を日本で行う◆

イギリスのゼロカーボン化のプロセスを示したが、このことを前提に日本で行った場合の点を整理した。

■前提■温暖化が急速に進行していく社会構造の中で、ゼロカーボン住宅、それに近い住宅を作る意味は、2点の目的がある。

①温暖化にブレーキをかける。→この目的は、早期に実行するスピード勝負。イギリスでは2016年。日本では

2030年頃を達成年としている。②2050年には、世界では50%、先進国では80%以上の温暖化ガスを削減して

いる低炭素社会が実現している。その低炭素社会においても資産価値のある住宅を今から作る必要ある。→この目的はスピードは必要ない。そのために、新築時に行う事柄と、将来

バージョンアップをしていく事柄に分けて考える。新築時は、断熱・気密性能とパッシブデザインなどが必要。

■第1段階■

住宅のエネルギー消費を削減する家づくり。①熱を大切にする→冬:住宅の高断熱・高気密化→夏:日射の遮蔽

②熱を上手に作る→冬:高効率暖房設備、高い熱交換率の換気システム→夏:高効率冷房設備、高い熱交換率の換気システム→通年:高効率給湯設備、高効率調理設備

③パッシブデザイン→日射取得:窓からの日射取得と同時に熱容量の大きな内装材→通風計画:のこぎりの屋根型+地窓+頂側窓のような設計→昼光利用:高断熱な窓材+北側の開口、消灯率を前提に設計

■第2段階■

再生エネルギーのフル活用。①太陽発電→太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換する。電気は、住宅内の大多

数のエネルギー源。それらの設備のCO2排出はゼロ、さらには売電も期待でき

る。発電時にはマイナスカーボン住宅になることが多く、ゼロカーボン化のエース的な存在。→太陽光発電の製造時のエネルギーは1.5年程度で回収できる。その期間以

上はゼロカーボン期間といえる。②太陽熱利用→給湯:過去には販売の方法でイメージを悪くしたが、太陽熱をそのまま利用

できる点では 高の効率。現在のシステムは、不凍液循環+熱交換+貯湯タンク

の設備が多い。屋根に多大なる加重をかけなくてすむ。今後のシステムは、太陽熱システム+エコキュート。この 強タッグが更なるエコ化を実現。

③コジェネ→一般のコジェネをエコウィル。高効率はエネファームとの名称で販売してい

る。発電時に大量のお湯が作れてしまい、このお湯の使い道をしっかり計画する必要がある。ある意味、給湯時に発電できる設備と割り切る必要がある。→太陽光発電との併用は、売電価格が安く、普及の障害。

80%

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③バイオマス→再生エネルギーのルーキーだが、将来太陽光発電と並び、CO2削減に大き

く貢献できる設備と思っている。→バイオマスの基本的な燃焼&炭素固定の循環は以下のとおりである。

→木材は、成長のために光合成を行う。光合成は太陽の光エネルギーを使い、吸収したCO2をC+O2に分化し、廃棄物としてO2を捨てる。結果、Cつまり炭素の塊となり成長する。これを炭素固定と表現し、この炭素固定の期間が30から50年程度で完了する。一方、化石燃料の場合、数万年から数億年と非常に長

い期間で固定化する。化石燃料は再生エネルギーといられない点はその循環の長さが違うからだ。→このバイオマス燃料、例えばペレット材は、住宅内のペレット専用ストーブで

燃焼する。そのときに、熱エネルギーとCO2が排出する。熱は暖房で、CO2は植物成長の原材料で活用する。→ペレットストーブの普及が急がれるが、問題点もある。現在は、普及の過渡

期のために、燃料が安定供給がなされていない。 大の問題は、燃料を販売している店が少ない点。「どこで買うの?」の一言で設備の対象から外れる。もちろん、インターネットでの販売もあるが、送料が割高だ。一方、ランニングコストを燃料の発熱量で計算すると夜間電力程度の計算結果になる。皆さん是非活用ください。⑤地熱→東京近辺では地中5m以下で、地熱は約15度で安定している。冬は暖かく、

夏は冷たい熱だ。この熱を有効に活用しようという技術が地熱利用だ。→パッシブ型:複雑な機械は使わず、住宅の内部に20mから100m程度の穴

を複数ほり、その熱を単純に利用するやり方。このやり方では結露の問題が生じる。副産物としてカビ、ダニ、シックハウス問題が起こる可能性がある。→アクティブ型:ヒートポンプを使い地熱をくみ上げるやり方。安定した効果が

得られる反面、設備のイニシャルコストが大きい。また、設備を設置する場所が大きく必要な点もある。今後の技術発展を期待したい。⑥風力→家庭用の風力発電がいくつも販売されている。今後大きく発展する可能性

が十分ある。が、音と低周波の問題が気になる。また、羽の形状も一般の形状から、ジャイロ方式、円形方式などさまざまある。今後、上記問題の中で淘汰が起こると思われる。全量全種類固定買取の内容が明記された時点で、大きく化ける可能性がある。期待したい。

第第22段階段階 再生エネルギー再生エネルギー

第第11段階段階 建物で頑張る建物で頑張る

壁の断熱構造壁の断熱構造

スティーベル換気のOEMスティーベル換気のOEM

パッシブデザインパッシブデザイン

太陽光発電太陽光発電 ++ 太陽熱集熱太陽熱集熱

ペレットストーブペレットストーブ

屋根上の風力発電屋根上の風力発電

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◆エネルギーの表示制度◆

イギリスのエネルギー表示は2種類あり、設計時の予測での評価と、実際の運用時の測定を前提とした表示制

度だ。前者をEPC、後者をDEPと表し、後者のDEPはより現実なエネルギーパフォーマンスとなる。

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◆BREイノベーションパーク◆

BRE(英国建築研究所)イノベーションパークでゼロカーボン住宅を見に行った。勇んでKingspan Lighthouseを探した。「ない」、「ない!」、『ない!!』、その建物は解体されて、この地球の上から消えていた。何故解体したのか?結局真実がわからないままの見学になった。参考になる住宅もあったが、日本の個人住宅とは大きく異なり、3層構造、4層構造の住宅まで存在していて余り参考にならない。技術は日本にも存在するが、組み合わせの多さ

が違う。では、紹介します。

◆バラッドグリーンハウス Barrat Green Hous◆

レベル6住宅。ゼロカーボン住宅。2016年レベル。

基本構造はパネル式のRC造。特徴的なのは、鉄筋コンクリートの構造壁がパネル化になっており、その壁に断熱材が一体化されていることと、屋根の構造は、木質パネルになっており、屋根に厚い発砲系断熱材が入っている。非常に高い断熱性能。また、断熱性能の高く日射取得性能の高い開口部により日射取得を行う。大開口の窓の面積は床面積費25%にも及ぶ。住宅の高断熱化は夏季の

オーバーヒートを発生しやすい。そこで日射遮蔽をコントロールする電動式の日射遮蔽装置つまり、雨戸のような形状で、金属製のパンチングメタルの日射遮蔽が動く。手動なのか自動制御になっているのかは不明。また、高効率換気システムで室内の熱を回収しつつ新鮮な空気を取り込む。また、外壁面に設置されている太陽熱集熱版にて温水を取り出す。この温水で換気に加温することで、家全体に再生エネルギーの熱が供給される。屋根に大型の太陽光発電を設置してエネルギーを自給する。この建物が、レベル6とのことだが、EPC表示制度

での表示を探したが発見できず。(パンフレットなどにも示されていない。)実はBREでの説明もなし、資料もなしの状態でした。何故か?建設会社の機密情報だからだそうです。ですので、スペック表示ができません。

太陽熱の集熱版

集熱版の裏側に貯湯タンク温水と喚起がジョイント

電動式の日射遮蔽装置

建物の全景

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◆ザ・シグマハウス The Sigma Home◆

レベル5の住宅 ほぼゼロカーボン住宅 2013年レベル

シグマの名称が示すとおり『合計』を行っている住宅。行っている技術は、高断熱を前提に高効率暖房、パッシブデザイン、太陽光発電、太陽熱、そして風力発電設備を3台も有している。車に対しては、電気自動車を前提とした充電設備ま

である。しかし、基本コンセプトが都市部の小型住宅??のためにスキップフロアーの4層構造。パッシブデザインはあえて1,2階の南側窓から取得して煙突状

の階段で上部に熱を分配、塔屋を設けて室内の換気を行うパッシブデザインも行っている。

◆ザ・ハンソンエコハウス The Hanson EcoHouse◆

レベル4住宅。2010年レベル

この住宅の特徴的なことは、イギリス伝統のレンガ造を伝承しようとしている点と、建物全体でパッシブ換気を行おうとしている点と地熱ヒートポンプを活用している点だ。レンガ造の場合、構造壁画内外とも仕上げになっており、レンガの中空そうにわずかな断熱材を充填できる程度になる。この建物はレンガ+断熱材+コンクリート板をパネ

ル化して工場生産。現場でそのパネルを組み立てる。まさに日本版のプレハブ住宅だ。また、窓や屋根面に設置されている複数のトップライトから日射取得を行う。内装下地がコンクリート板のために、熱容量が極めて高い。そのために、温熱環境を安定させる効果がある。さて、パッシブ換気だが、室内の温度を利用して屋根と一体形状になっている煙突から汚れた空気を排出する。地熱ヒートポンプによる床暖房。雨水利用も行っている。

建物全景

断面イメージ3台の風力発電と2箇所の集熱版

太陽光発電電気自動車用設備

建物全景 建物が煙突状に、パッシブチムニー?

パネル式のレンガ住宅

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今回、一番の楽しみにしていたKingspan_Lighthouseのレポートを行う。実際に見ていないので、過去の英字文献を前提にレポートを行うので、多少のミスはお許しください。

◆キングスパンライトハウス Kingspan_Lighthouse◆

レベル6 ゼロカーノン住宅 2016年レベル独創的な設計のこの住宅は、曲線の木造フレームに床と壁が接合している構造だ。大断面の集成材を使ってこの曲線を演出している。外装の仕上げは木をめすかしにして独創的な意匠とした。面積は、他の住宅に比べて非常に小さい。ある意味日本の住宅の面積に似ている。実際の面積は、面積の計算方法が違うため表示が難しいが日本式の計算で、各フロアー50㎡弱、3階建ての合計が140㎡程度だと思われる。

建物は解体され更地になっていた

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ゼロカーボン化の手法は、イギリスの手法法則にしっかりのっとり作られている。基本は住宅の高断熱化。下の写真のダイニングの部分を見てほしい。構造が、木造とした場合、断熱は充填断熱+付加断熱。写真の窓部分から厚みを推測すると550ミリ程度の断熱厚はあるように見える。《当協会で24年1月に札幌で、リフォーム版のパッシブハウス(認定取得済み)の見学会を行うが、その現場が555ミリ断熱。ほぼ写真と同じ程度。》また、しっかり日射の遮蔽も行っている。しかし、日射取得は大きく行わず、塔屋部分からの取得程度だ。しかし、通風計画では、大きなウインドキャッチャーがあり、風通しの良い住宅のようだ。

ガラスの塔屋からの日射取得

室内は意外と明るい壁の高断熱化は、出窓のような窓になってしまう。

ウインドキャッチャー HEMS換気システム 日射遮蔽

バイオマス(ペレット) 高断熱 太陽熱太陽熱

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第2段階での手法は、大型の太陽光発電をかなり鋭角に設置している。ロンドンに緯度を考えるとベスト角度の可能性がある。また、太陽熱の集熱版、ペレットストーブ、などを総動員している。まさしく2016年ゼロカーボン対応の住宅といえる。