AlGaN/GaN HFET...

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平成 24 年度修士論文 AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサの温度依存性に関する研究 Research on the temperature dependency of pHsensor using AlGaN/GaN HFET 修士論文 徳島大学大学院 先端技術科学教育部 システム創生工学専攻 電気電子創生工学コース 逢坂 直也

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平成 24 年度修士論文

AlGaN/GaN HFET を用いた

pH センサの温度依存性に関する研究 Research on the temperature dependency of

pHsensor using AlGaN/GaN HFET

修士論文

徳島大学大学院 先端技術科学教育部

システム創生工学専攻 電気電子創生工学コース

逢坂 直也

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概要 pHセンサは ISFET(イオン感応性電界効果トランジスタ)の使用によって感度や安定性の向

上が進んでいる。今回、現在主流のシリコンより化学的安定、耐環境性に優れた GaN 用い

て耐高温センサを試作し、pH および温度に対する応答特性を調べた。新基板設計で金属部

分の起電力をなくし、リーク電流値の低減を達成した。保護膜として、SiO2、ポリイミド

とシリコーン樹脂を選定し、実装方法を試した。最良の特性を示したシリコーン樹脂膜を

選択することで高温溶液中でも測定可能なサンプルを作製した。電流-電圧特性からセンサ

の pH 依存性と温度依存性を確認した。pH による電圧の変化量であるΔVG/pH は理想値比

較して低くなっていても十分にセンサとして機能する値を得た。サブスレッショルドスイ

ング(S)値を考察することにより、センサの温度依存性、pH 依存性に関しての解析が進む可

能性になり、センサ改善の手がかりを得ることができた。

abstract The stability and sensitivity of pH sensor have been improved by using an ISFET (ion sensitive field effect transistors). Recently, Silicon is mainly used to fabricate ISFET. In this work, gallium nitride (GaN) was used to develop a high temperature-resistant pH sensor owing to the superior environmental resistance and chemical stability of GaN comparing with silicon. The response of pH and temperature was investigated. To reduce the leakage current and to eliminate the electromotive force from the metal parts of the substrate, the design of the substrate was improved. SiO2, polyimide and silicone resin film were selected to act as the protection film. Finally silicone resin was used as the protection material by which the samples could be measured in many kinds of solutions even at high temperature. The pH dependence and temperature dependence of current - voltage characteristics were confirmed. ∆VG/pH was not significantly deteriorated compared with the ideal value. It also becomes possible to analyze the dependence on the pH and temperature by evaluate the measured sub-threshold swing. It is considered to be useful results which will help to improve the performance of GaN pH sensor.

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目次 第 1 章 序論 1.1 はじめに 1.2 窒化ガリウムの特徴 1.3 AlGaN/GaN HFET pH センサの現状と問題点 1.4 本研究の目的 1.5 本論文の構成 第 2 章 理論 2.1 pH の定義 2.2 ネルンストの式 2.3 pH 測定器 2.3.1 ガラス電極 2.3.2 ISFET(Ion Sensitive FET) 2.4 緩衝液 2.4.1 緩衝液について 2.4.2 緩衝液の理論 2.4.3 緩衝液の選定 第 3 章 測定試料 3.1 マスク設計 3.2 測定試料構造 3.2.1 使用エピ 3.2.2 測定試料構造 3.2.3 ポリイミドの特性 3.3 プロセスフロー 3.4 実装工程 3.4.1 従来基板実装工程の問題点 3.4.2 現在使用中基板の実装工程の改善点 3.4.3 実装手順 3.4.4 保護膜による実装方法の違い

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第 4 章 AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサの評価 4.1 測定方法 4.1.1 白金電極 4.2 AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサの基本特性評価 4.2.1 ID-VG特性と IG-VG特性評価 4.2.2 測定結果からみる溶液測定適性 第 5 章 AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサの温度依存性評価 5.1 測定方法 5.2 AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサの基本特性の温度依存性評価 5.2.1 ID-VD特性による動作確認 5.2.2 ID-VG特性の温度依存性 5.3 考察 5.3.1 ID-VG特性について 5.3.2 サブスレッショルドスイング(S)値について 第 6 章 本研究のまとめ 謝辞 参考文献

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第 1 章 序論 本章では、AlGaN/GaN HFET の必要性について述べ、本研究の目的を明らかにする。

また本論文全体の構成を示す。

1.1 はじめに

微細な半導体構造を用いて、溶液中の、イオン種や、有極性分子、分子の表面吸着過

程などを検出する半導体化学センサは、化学的応用だけでなく、ナノバイオエレクトロニ

クス分野においても重要な役割を果たすと期待されている[1-2]。 センサは従来、表1.1 が示すように動物が持つ五感をもたらす感覚器官に対応する人工

的な機器、システム、装置に対してつけられたネーミングである。電気的制御が世の中の

主流になるにつれて、スイッチング素子や整流素子も広い意味でセンサとして扱われるよ

うになった[3]。 表 1.1

五感 センサ センサの分類視覚 光センサ聴覚 音波センサ触覚 圧力センサ

感温センサ嗅覚 ガスセンサ味覚 イオンセンサ

バイオセンサ

物理センサ

化学センサ

つまり現在ではセンサとは広範囲に外界の何らかの物理量/電気量あるいは化学量と人が直

接感知できないものに対してそれを何らかの電気的信号に変換して人が知り得るパラメー

ターにし検知するデバイスと定義されている。一般的に光や音といった物理量を対象とす

るものが物理センサと総称され、化学物質の種類や濃度に応じて電気的信号に変換表示す

るものを化学センサと総称している。したがって、先に述べた動物の五感で表すと、光/

音/触覚が物理センサに相当し嗅覚/味覚に対応するものが化学センサである。 半導体、デバイス技術、磁気技術が近年目紛しく成長するなかで、内界的な感知デバイ

スが著しく発達してきた。しかし外界的なデバイス、特に嗅覚や味覚などを標的とした化

学デバイスにおいて、さらなる発展が特に求められている。そのためには数多くある分子

/イオン種の反応を要する化学的な理解とその化学的変化量を電気信号に変換する物理的

な理解が共に必要になってくる。また数多くあるイオン種とその変化、反応や温度や化学

物質に影響を受けにくい電子デバイスの理解は必須となってくる。

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これらのセンサから得る情報の中でも pH 値は溶液物性パラメータとして医療、化学、

環境、バイオ等の分野において最も基本的かつ重要な情報である。pH 値を計測する pH セ

ンサは従来のガラス電極から主に Si MOSFET の ISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)への発展によって感度や安定性の向上が進んでおり、実用化されるまでに至っ

ている。また、ヒ化ガリウム(GaAs)などの、Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体材料を用いた研究もさ

れており、ヘテロ構造や量子ドット構造など Si では得ることの難しい構造や材料の多様性

を利用し、分子化学吸着プロセスの検出等を目的とした様々な化学センサの開発が続けら

れている。 本研究では窒化ガリウム系半導体(AlGaN/GaN HFET)を使用した。窒化ガリウム系半導

体はワイドバンドギャップという材料特性をもっており化学的に安定、高温動作が可能、

加えて放射線耐性に優れているためセンサとしての用途も大幅に広がる可能性がある。ま

た、同時に研究が進められているⅢ-Ⅴ族化合物半導体材料(GaAs 等)に比べ人体に無害で

あることから生体センサに容易に使用できることや AlGaN/GaN HFET の基板には能動素

子、受動素子を共に集積することが出来るから高周波送信回路を含む集積型無線pH セン

サの実現も可能である等の利点も備えている。

1.2 窒化ガリウムの特徴

窒化ガリウム GaNは、高周波用デバイスとして実用化されているGaAsと同じⅢ-Ⅴ

族半導体であるが、GaAsの高速性に加えてより高出力可能な素子として期待されている。

表1.2.1は電子デバイスに用いられる代表的な半導体材料の特性をまとめたものである。

GaNは表に示すような物性値を持ち高電子移動度、高電子飽和速度、ワイドバンドギャッ

プ(Si、GaAsの約3倍)、高絶縁破壊電界(Si、GaAsの約10倍)熱伝導度が大きいなどの

物性上の特徴をもっている。これらの特性は電子デバイス特性に高出力(高耐圧、高電流

密度)動作、高速動作、低損失動作、あるいは高温、放射線照射下などの過酷環境下での

動作が可能であるなどさまざまなメリットをもたらす可能性がある[4][5]。またGaAsやSiと違い人体に有毒なものがない点も本研究では重要な特性の1つとなっている。

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表 1.2.1 主な半導体の物性定数

GaN GaAs Si SiC

バンドギャップエネルギー (eV) 3.4 1.4 1.1 3.3

電子移動度 (cm2/Vs) 1200(バルク) 2000(2DEG)

8500 1500 1000

電子飽和速度(cm/s) 2.5×107 2×107 1×107 2.0×107

絶縁破壊電界 (V/cm) 3.3×106 4×105 3×105 3.0×106

熱伝導率[W/cmK] 2.1 0.5 1.5 4.9

電子のドリフト移動度では GaAs が高く、これが高周波デバイスとして開発実用化された

理由である。しかし高電界の状態にあるデバイスでは電子は飽和速度近くで走行するため、

低電界でのドリフト移動度よりも飽和速度の方が重要になる。GaN の電子飽和速度はシリ

コンの1×107cm/s、GaAsの2×107cm/sより高い値が記されており、優れた高周波特性が期

待できる。そのため低電界移動度が高いことも重要な要素である。低電界移動度は GaAsには劣るが、シリコンと同等である。先にも述べたようにワイドバンドギャップのGaNは

シリコンに比べて 1 桁高い破壊電界を持つ。高周波特性の指標の 1 つである遮断周波数は

材料の飽和速度とチャネル長により決定され、GaN は 2.7×107[cm/s]であり、Si の 1×107[cm/s]や GaAs の 2×107[cm/s]より高い値を示しており、優れた高周波特性であると言

える。これより、GaN 系電子デバイスは次世代の高速高出力素子として期待されている

[6]。

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1.3 AlGaN/GaN HFET pH センサの現状と問題点

前節で述べた優れた材料的特性から窒化ガリウムは高温および劣悪環境下においても動

作する必要のある pH センサに適した特性をもっている。また既に、優れた結果も何件か

発表されている。その中には GaNpH センサを作製し、各種溶液中での電気特性を測定で

きているものもある[7]。構造はオープンゲートの AlGaN/GaN HFET になっておりオープ

ンゲートの以外部分はすべて保護膜で隠れている。純水、pH3-9 の溶液中においても溶液

を介してチャンネル電流が制御され、通常の HFET と同様のトランジスタ特性が得られる

ことが確認されている。 しかし、現時点ではセンシングのメカニズムは十分解明していない。電気化学、半導体

デバイスの両面からのアプローチが必要であり非常に複雑なメカニズムであると予想され

る。また、実用に適するデバイス構造、デバイスの耐環境性(強酸、強アルカリ、高温な

ど)、安定性などに関する研究も未開拓である。中でも高温環境下において安定動作でき

る AlGaN/GaN HFET pH センサの研究は特に進んでいない。現在の ISFET(Si 系)と比較

して最も優位性をとれるのが高温特性であるため、耐高温 pH センサの研究は急務となっ

ている。 高温環境下でのデバイス作製へ向けての問題として、高温における溶液の状態把握、pHセンサのメカニズム理解、耐高温実装の 3 点が大きな問題となっている。

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1.4 本研究の目的

前節までで述べてきた研究背景から、本研究の主な目的を以下に定めた。

高温測定可能な AlGaN/GaN HFET pH センサの作製

AlGaN/GaN HFET pH センサの温度依存性の評価

本研究では、AlGaN/GaN HFET pH センサデバイスを作製し、高温環境下での動作実現

とその特性の評価することを目的とする。

1.5 本論文の構成

本論文は第 1 章「序論」から第 6 章「本研究のまとめ」の全 6 章構成になっている。第

2 章では pH、pH センサ、緩衝液等の理論を述べていく。第 3 章では、今回測定した試料

についての構造、プロセス、実装方法などを中心に変更点なども述べていく。第 4 章は

AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサの基本特性から温度測定に適したサンプルを選択

していく。第 5 章では第 4 章をうけて、本題である温度測定について述べていく。第 6 章

では結論と今後の課題について述べる。

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第 2 章 理論

2.1 pH の定義

まず、始めに pH の定義について述べる。pH を初めて導入したのはデンマークの

Sφrensenである。その定義は ]log[ +−= HpH (2.1)

もしくは ]log[ −=− OHpKwpH (2.2)

であった。 (但し[H+]は水素イオン濃度、[OH--]は水酸化イオン濃度、Kw は水の解離定数である。)

このときSφrensenは水素電極を組み立て、その電位差測によって溶液pHの測定をおこ

なった。しかしその後、水素電極によって求められる pH 値は溶液の水素イオンの活量

(H+)の逆数の対数に相当することがわかった。そして水素イオン濃度[H+]とその活量(H+)の間には

][)( ++ ×= + HH Hγ (2.3)

という関係が成立する。ここでγH+は H+イオンの活量係数である。 よって

)log( +−= HpH (2.4) と定義できる。

しかし活量を測定することはできないため、以下のような操作的定義が用いられてい

る。 まず、次のような電池の起電力 EX を測定する。 参照電極|濃 KCl 溶液::溶液 X|H2|Pt

同様に次の電池の起電力 Es を測定する。 参照電極|濃 KCl 溶液::溶液 S|H2|Pt この際、いずれの電池も同一の温度に保たれており、参照電極も塩橋の溶液もそれぞれ同

じものを用いるとする。このとき溶液 X の pH(pH(X))と溶液 S の pH(pH(S))との関係は次

式により定義される。

10ln)(

)()(RT

FEESpHXpH XS −+=

(2.5)

ここで、R は気体定数、T は温度、F はファラデー定数である。

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2.2 ネルンストの式

荷電粒子のうち、ふつう溶媒に溶けているイオンとは違って、電子は溶液中に安定な形

で存在できない。電極-電解液界面の電気化学平衡では、電子が電極から溶液中の分子や

イオンに移ったり、その逆向きに動いたりする。このような界面ではいつでも電位差があ

る。つまり、電子がいる場所の電位と、分子、イオンのいる場所の電位は同じではない。 酸化体 P、Q、…と還元体 X、Y…の電子授受平衡 ++=+++ − yYxXneqQpP

を成り立たせる電極の電位 E は次のように表される。

R

o

aa

nFRTEE ln+°= (2.6)

Eo:標準電極電位、n:原子価、aO:酸化体の活量、aR:還元体の活量 これをネルンストの式という。

A

A

qNFkNR

==

(2.7)

k:ボルツマン定数、q:電子の電荷、NA:アボガドロ定数 式(2.2)を用い、さらに溶質の活量にはモル濃度 C、金属中の電子の活量には 1 を用いると

1

2lnCC

nqkTE =∆ (2.8)

で表される。 ここで濃度 C1、C2 の溶液があるとするとその溶液間の電位差ΔE は

nqkT

pHE

pHnqkT

CC

nqkT

CC

nqkTEEE

303.2

303.2

log303.2

ln

1

2

1

212

−=∆∆

∆−=

=

=−=∆

ここで k=1.381×10-23、T=300K、n=1、q=1.602×10-19を代入すると

mp HE 5 4.5 9−=∆

∆ (2.10)

となり、室温において溶液の pH が 1 変化すると電位は 59.54mV 変化する。

(2.9)

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2.3 pH 測定器

pHの測定法として指示薬法、金属電極法、ガラス電極法の3つが主として使用されてい

る。ここでは現在最も利用されているガラス電極法と、今回作製した pH センサで原理を

使用した ISFET について述べる。

2.3.1 ガラス電極

ガラス電極法とは、ガラス電極と参照電極の 2 本の電極を用い、この 2 つの電極の間に

生じた電位差を求めることで溶液の pH 値を測定する方法である。ガラス薄膜の内・外側

に水素イオン濃度の異なる溶液が存在すると、水素イオンの薄いほうの溶液の電位は、水

素イオン濃度の濃いほうの溶液の電位に比べて正になる。この電位差を直接測るのは難し

いため、一方の溶液の水素イオンが変化したときの電位差の変化を測定する。電位差の変

化を測定するためには基準となるものが必要である。そのためどんな溶液に対しても電位

差が代わらない参照電極を用いる。 ガラス電極pHメータの構成を説明する。ガラス電極pHメータの構成は、検出部、指示

部および、標準液に分けられる。それぞれについてこれから述べる。

ガラス電極 参照電極

Ag/AgCl電極 Ag/AgCl電極

0.1M HCl 飽和KCl

ガラス薄膜 素焼きの板

試料溶液

ガラス電極 参照電極

Ag/AgCl電極 Ag/AgCl電極

0.1M HCl 飽和KCl

ガラス薄膜 素焼きの板

試料溶液

図 2.1 ガラス電極

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1.検出部 検出部はガラス電極と参照電極と温度補償電極に分けられる。 ・ガラス電極 ガラス電極はガラス管、内部電極、内部液などから構成されている。先端部分が pH に

応答するガラス薄膜になっており、厚さは0.2mmほどである。ガラス薄膜に必要とされる

条件として、水溶液の pH によく対応した電位を発生すること、酸やアルカリに侵されな

いこと、膜そのものの電気抵抗が大きすぎないこと、内部液と同じ液の中に電極を浸した

ときに、内外の液の間で、余りに大きな電位差(非対称電位差)を発生しないこと、衝撃や

薬品に対する耐性をもつこと、などが挙げられる。 内部液と内部電極はガラスの内側と内部電極との電位差を一定に保つ働きをしている。 内部液としては一定濃度の塩化カリウムを含んだ緩衝液(リン酸緩衝液)などが用いられ、

内部電極として銀-塩化銀電極やカロメル電極が用いられる。以前はカロメル電極が多く

用いられていたが環境への影響から、最近では銀-塩化銀電極が主流になっている。 ・参照電極 参照電極は、ガラス薄膜の外側に発生した電位差を測定するために、ガラス電極と組み合

わせて用いられるもので、水溶液の pH と無関係に一定の電位を示すものである。参照電

極はガラス管、内部電極、内部液、液絡部からなる。内部電極はガラス電極と同様に、銀

-塩化銀電極かカロメル電極が使われる。内部液は塩化カリウムの濃溶液である。 ガラス電極の場合と異なり、緩衝液を加える必要はない。液絡部は pH 測定の精密さを左

右する重要な部分である。直径数 10マイクロメートルの穴があいているピンホール型、ス

リ合わせ面をもつハカマをはいたスリーブ型、異種の物質を接合させたセラミック型ある

いはファイバー型などがある。ピンホール型には、内部液の流出の少ない利点があるが、

ともすると液間電位を生じやすい傾向がある。スリーブ型は、洗浄が容易であるが、内部

液の流出の多い欠点をもっている。セラミック型やファイバー型は、内部液の流出は少な

いが、被検液の吸着をおこしやすくなる。これらの長短所を補うべく、2 種を組み合わせ

たのが、ダブル・ジャンクション型である。 ・温度補償電極 ガラス電極に発生する起電力は、水溶液の温度によって変化する。温度補償電極は、この

温度による起電力の変化を補償するものである。ここで、誤解しないように注意しなけれ

ばならないことは、温度による pH 値の変化と温度補償とは全く無関係だということであ

る。そのため、pH を測定する場合、たとえ自動温度補償方式の pH 計を用いても、pH 値

とともに、必ずそのときの液の温度を記録しておかないと、その測定結果が全く意味のな

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表 2.1

いものになってしまうことがあります。 ガラス電極、参照電極、温度補償電極をひとつにまとめたものが複合電極である。 2.指示部

ガラス電極と参照電極の組合せは、内部抵抗の高い電池と考えることができ、それをその

ままふつうの電位差計につないでも、その電位差を正確に測定することはできない。そこ

で必ず高入力インピーダンスの増幅器が必要となる。このような増幅器に、さまざまな調

整用抵抗などを加えたものが pH 計の指示部となる。

3.標準液 pH 測定を行なう場合には、標準液による pH 計の校正を行なう必要がある。標準液として

は、緩衝液が用いられている。次に JIS に定められた 5 種の標準液と、各温度におけるそ

れら標準液の各温度における pH を表 2.1 に示す。また標準液の名称と組成について表 2.2に示す。今回の測定では pH 値 4、7 の 2 点公正を行ったため、フタル酸塩と中性リン酸塩

を使用した。

温度 (℃) 標 準 液

シュウ酸塩 フタル酸塩 中性リン酸塩 ホウ酸塩 炭酸塩

0 1.67 4.01 6.98 9.46 10.32 10 1.67 4 6.92 9.33 10.18 20 1.68 4 6.88 9.22 -10.07 30 1.69 4.01 6.85 9.14 -9.97 40 1.7 4.03 6.84 9.07 --- 50 1.71 4.06 6.83 9.01 --- 60 1.73 4.1 6.84 8.96 --- 70 1.74 4.12 6.85 8.93 --- 80 1.77 4.16 6.86 8.89 ---

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表 2.2

名 称 組 成

シュウ酸塩標準液 0.05mol/L 四シュウ酸カリウム

KH3 (C2O4) 2・2H2O 水溶液

フタル酸塩標準液 0.05mol/L フタル酸水素カリウム

C6H4 (COOK) (COOH) 水溶液

中性リン酸塩標準液 0.025mol/L リン酸一カリウム KH2PO4-

0.025mol/L リン酸二ナトリウム Na2HPO4水溶液

ホウ酸塩標準液 0.01mol/L ホウ酸ナトリウム (ホウ砂)

Na2B4O7・10H2O 水溶液

炭酸塩標準液 0.025mol/L 炭酸水素ナトリウム NaHCO3-

0.025mol/L 炭酸ナトリウム Na2CO3水溶液

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2.3.2 ISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor) 前項で述べたガラス電極に代わって主流の pH センサとなろうとしているのがこの

ISFETを用いたものである。ISFETは、割れやすいガラス電極の問題を解決するとともに、

その微細加工技術により一滴のサンプル量で pH 測定が可能となっている。また、半導体

技術は温度センサの集積化により 素早い温度計測を可能にし、ガラス電極より使い勝手

が良い pH センサである。 ISFETの基本構造はMOSFET(Metal Oxide Semiconductor FET)に似た構造をしている。

相違点としては、酸化膜をイオン感応膜に置き換えていること、ゲート金属が酸化膜表面

上(イオン感応膜表面上)にないこと、溶液を介してゲートバイアスを印加していることな

どが挙げられる。 次に、一般的なモデルで説明する。(図 2.1)

図 2.1 ISFET のデバイス動作は、Insulator の下に形成された電荷チャネルを利用し、ドレイ

ン・ソース間に電圧を引加する。溶液中でイオン濃度が変化すると、ΔV の電圧が

Insulator表面にかかる。これによりバンド図が点線部まで曲がり、チャネル層に溜まる電

子が変化する。図のようにできたチャネルが液中の電極で印加する Vwork により制御でき、

ドレイン・ソース間の電流をコントロールすることができる電位応答型センサとなってい

る。 一方で、この ISFET を評価する上で必要なのが、参照電極である。対極から溶液を介し

て印加される電圧に応よって、サンプルゲート部にかかる実効的な電圧 V がいくらかわか

らないからである。その電圧Vに対したFET特性を評価しなければ、正確な評価とはいえ

E C

E V E F

φ sol

φ S

Electrolyte Semiconductor

Δ q V FB

Insulator

q Ψ sol

E C

E V E F

φ sol

φ S

Electrolyte Semiconductor

- - - -

Δ q V FB

Insulator

q Ψ sol

Vwork

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ないため参照電極を用いて測定を行わなければならない。 また、既にシリコンでの製品化もされている。ほとんどがシリコンチップ上に液体を滴

下し測定する形式をとっている。

表 2.3

名称 サンプル1 サンプル 2 サンプル 3

測定範囲 0∼100℃ 0∼14pH 0∼50℃ 2∼12pH 0∼50℃ 2∼12pH

分解能 0.01pH 0.1℃ No Data 0.01pH 1℃

測定再現性 ±0.7℃(70℃未満)

±0.01pH

±1℃ ±0.05pH ±1℃ ±0.02pH

使用温度 0∼80℃ 5∼40℃ 5∼40℃

上記の表のように使用できる温度は 80℃が限界になっている。現状では”液中につけた

まま”で”高温溶液中”の測定をすることは不可能になっている。しかし、第 1 章 2 節で

述べたような GaN の特性を利用し、pH センサを作ることに成功すればこれらの性能を容

易に超えることが可能になる。

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2.4 緩衝液

2.4.1 緩衝液とは pH センサの測定をする際には pH 値がわかっており、かつ周囲の状況に左右されにくい

溶液で行わなければ結果の解析が困難となる。そこで、我々は緩衝液(buffer solution)を

使用することにし、いくつかの溶液から最も測定に易しい溶液の選定を行った。緩衝溶液

とは緩衝作用のある溶液のことを言う。通常、単に緩衝液とだけいう場合は、水素イオン

濃度に対する緩衝作用のある溶液を指す。緩衝液は少量の酸や塩基を加えたり、多少濃度

が変化したりしても pH が大きく変化しないようにした溶液のことである。 2.4.2 緩衝液の理論 例として酢酸(CH3COOH)と酢酸ナトリウム(CH3COONa)を混合した水溶液を考える。 酢酸は水中で解離し、弱酸であるから次の平衡を取る。

( )1.233+− +↔ HCOOCHCOOHCH

一方、酢酸ナトリウムは塩であるから水中で完全に電離し、酢酸イオンとナトリウムイオ

ンとなる。

( )2.233+− +↔ NaCOOCHCOONaCH

また、平衡定数 Ka は次のように表せる。

[ ][ ][ ] ( )3.2

3

3

COOHCHCOOCHH

Ka

−+

この式を変形することで次式が得られる。

[ ] [ ][ ] ( )4.2loglog

3

3−

+ −=−=COOCHCOOHCH

KHpH a

酢酸の電離度は低いため、系中に存在する酢酸イオンの濃度は加えた酢酸ナトリウムの量

にほぼ等しい。したがって、この溶液の pH は次のように近似することもできる。

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[ ][ ] ( )5.2log

3

3

COOHCH

COONaCHa C

CpKpH +≈

ここで、CCH3COOH 等で示したものはそれぞれの分析濃度である。この近似が成立するの

は 酢酸および酢酸ナトリウムの濃度があまり違わない場合に限られる。一般に緩衝作用

が発揮されるためにはこの条件が要求されるため、上式は現実的な緩衝液については有効

性が高いといえる。この関係式はヘンダーソン‐ハッセルバルヒ式 (Henderson‐

Hasselbalch equation) と呼ばれる。またこの式より

[ ][ ] ( )6.2)log( )1( xHA

ApKpH n

n

a ==−− −−

[ ] [ ] [ ] [ ] ( )62.2&61.233)1( COONaCHACOOHCHHA nn == −−−

緩衝液の pH は溶液の濃度に依存しないことが分かる。これは、緩衝液の濃度が多少変化

しても、pH はほとんど変化しないということを示している。 実際にこの溶液の緩衝液を作る場合、イオン強度の式から求める方法が考えやすい。

[ ] [ ] ( )7.2)1(21)1(

21 )1( −−− ++−= nn AnnHAnnI

式(2.61)、(2.62)それぞれのイオン強度は 0.1M であるので I=0.1M となる。イオン強度を

考慮した平衡定数 pKa は

( )

65.4

8.21.05.01

5.0)12(21

21

=

+−−=

a

aa

pK

IInpKpK

例として pH=4.8 の緩衝液を作りたいとする。 15.0=− apKpH となるため式(2.6)を利用

するとCH3COONa の濃度 C が 0.58 となり、酢酸ナトリウム:酢酸=5.8:4.2 の割合で作

製すれば目標とする pH=4.8 の酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液が出来上がる。

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2.4.3 緩衝液の選定 本節第一項にて緩衝液を使用する理由を述べているが本項ではそれに加えて緩衝液を使

用することになった原因とその後の選定を含めた経緯を述べていく。 以前の測定環境ではビーカー内の純水に塩酸または水酸化ナトリウムを滴下し pH を人

為的に変化させることで目的の pH での測定を行っていた。測定を進めていくうちにこの

方法には問題点が多数あることが確認された。まず、基本的なことであるが使用溶液が危

険という点が挙げられる。当初は市販の塩酸、水酸化ナトリウムを薄めず使用しているこ

ともあり、一つ間違えば大惨事という環境だった。次に pH 値の安定性の無さが挙げられ

る。強酸、強塩基といった極端な溶液を使用していたこともあり中性付近で値を取ること

が難しく、仮に取れたとしてもその安定性の無さから値がぶれ正確に pH 値を知ることが

できなった。第一項でも述べたように当センサは試作段階であるため測定している pH 値

を知ることは最も重要なことといっても過言ではない。そのため、今回緩衝液の使用を決

定しその溶液の選定を行った。 まず選定の重要な点として(ⅰ)酸、中性、塩基の 3 点が大まかに取れること(ⅱ)現段階で

あまり強固とはいえない試料実装にダメージを与えすぎないもの、この 2 点が挙げられ

る。

表 2.4 性質 溶液名(pH 値)

酸性

塩酸-塩化カリウム緩衝液(1.0~2.2) クエン酸-アンモニア緩衝液(1.8~6.5) フタル酸塩標準液(4.01)

中性 酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(3.4~5.9) 中性リン酸塩標準液(6.83)

塩基性

アンモニア‐塩化アンモニウム緩衝液(8.3~10.8) 水酸化ナトリウム‐塩化カリウム緩衝液(12.0~13.0) ホウ酸塩標準液(9.19)

以上の溶液から選定を行った。選定方法は 3~5 回測定を行い、pH のブレや試料実装へ

のダメージを観察し最も影響の少ない溶液を見つけていく形式をとった。緩衝液と銘打つ

ものばかりをあらかじめ選択肢に入れたこともあり全ての溶液で安定した pH 値を得るこ

とができた。しかし、塩酸‐塩化カリウム緩衝液と水酸化ナトリウム‐塩化カリウム緩衝

液において、実装の際に使用した樹脂や膜との悪相性が発見された。本来なら実装方法を

みなす必要があるのだが pH 変化を観測するという第一目標を優先し今回は相性が良い他

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の緩衝液を使用することにした。 また、表の緩衝液の中でもフタル酸塩、中性リン酸塩、ほう酸塩の 3 つは標準液という

こともあり非常に優れた安定性をもっている。既に pH センサの標準液としても使用され

ていることも考慮しこれらの溶液を中心に測定を行うことを決定した。加えて温度測定を

行う際に 80℃までの pH がわかっているため都合が良く、理論値計算等も容易であること

も選定の一因となった。

表 2.5

温度 (℃) 標 準 液

フタル酸塩 中性リン酸塩 ホウ酸塩

0 4.01 6.98 9.46 10 4 6.92 9.33 20 4 6.88 9.22 30 4.01 6.85 9.14 40 4.03 6.84 9.07 50 4.06 6.83 9.01 60 4.1 6.84 8.96 70 4.12 6.85 8.93 80 4.16 6.86 8.89

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第 3 章 測定試料

3.1 マスク設計

図3.1が今回設計したマスクの全体図である。また4区画のパターンのセンサ部分を拡大

したものをそれぞれ図 3.2~5 に載せた。今回は主に図 3.4 を使用している。

図 3.1 マスクパターン全体図

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図 3.2 マスクパターン詳細図(sensor)

図 3.3 マスクパターン詳細図(FET+sensor)

Ohmic

Ohmic

Ohmic

Open Gate 3*100μm

Ohmic

Ohmic

Ohmic

Ohmic

Open Gate 3*100μm

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図 3.4 マスクパターン詳細図(open-gate)

図 3.5 マスクパターン詳細図(liquid-passivated FET+liquid diode)

Ohmic

Ohmic

Ohmic

Ohmic

Open Gate 114*100μm

Ohmic

Ohmic

Ohmic

Ohmic

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3.2 測定試料構造

3.2.1 使用基板 今回はサファイア基板上に GaN を 3000nm 成長させ、その上に AlGaN を 24nm 堆積し

た。

図 3.1 基板構造

3.2.2 測定試料構造 本研究に用いた AlGaN/GaN HFET(Heterostructure Field Effect Transistor)の構造

はサファイア基板に MOCVD 法によって GaN を 3000nm 成長し、その上に AlGaN を24nm 成長させた構造である。図 3.6~3.8 に酸化膜、ポリイミド、シリコーンを保護膜とし

て堆積した AlGaN/GaN HFET pH センサの構造を示す。

u-AlGaN 24nm

Sapphire

u-GaN 3000nm

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図 3.6 試料構造(SiO2 膜)

図 3.7 試料構造(ポリイミド膜)

24nm

3000nm

オープンゲート

AlGaN

GaN

Buffer

Sapphire

ポリイミド膜

ゲート

24nm

3000nm

オープンゲート

AlGaN

GaN

Buffer

Sapphire

SiO2 膜

ゲート 長さ:3μm 幅:110μm

長さ:3μm 幅:110μm

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図 3.8 試料構造(シリコーン樹脂保護膜)

HFET の構造的特長は、二次元電子ガス(2 dimensional electron gas: 2DEG)と呼ばれ

る AlGaN と GaN のヘテロ接合界面近傍に形成されるチャネル層である。2DEG の形成に

より電子と不純物イオンとはヘテロ接合界面を境として空間的に分離される。つまり電子

が走行する 2DEG 内には、走行するのに邪魔になる不純物イオンが存在しないため高電子

移動度をもつことができる。これにより同じ半導体材料でも HFET 構造を形成することに

より高移動度の高速デバイスを作製することができる。 3.2.3 ポリイミドの特性 ポリイミド (polyimide) とは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通

常は芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを指す。芳香族ポリイ

ミドは芳香族と芳香族がイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造

を持ち、且つイミド結合が強い分子間力を持つためにすべての高分子中で最高レベルの高

い熱的、機械的、化学的性質を持つ。

24nm

3000nm

オープンゲート

AlGaN

GaN

Buffer

Sapphire

シリコーン樹脂

ゲート 長さ:約 60μm 幅:約 90μm

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表 3.1 ポリイミドの物理的性質

物性 ポリイミドの性質

弾性率 3~7GPA

破壊強度 200~600MPa

伸度 40~90%

線膨張係数 10~40ppm/℃

融点 なし

熱分解温度 500℃以上

表 3.1 に示されている通り通常の高分子に比べて破格の高強度、耐熱性を有する。電気

絶縁性も優れており、電子回路の絶縁材料として用いられる。また線膨張係数は有機物と

しては非常に低く金属に近いため、電子回路の絶縁材料とするときに金属配線との熱膨張

によるひずみが生じにくく、高い精度で配線加工が可能である。本研究のように保護膜と

して用いる場合は、ポリアミド酸の溶液をコーティング剤として用い、塗布乾燥後に熱処

理でイミド化させて電子回路の絶縁層とする。多層配線基板の層間絶縁材料、半導体素子

の表層の保護膜としての用途がある。 また、極めて軽量かつ過酷な環境に強いという物理的性質から、2010 年に宇宙航空研究

開発機構(JAXA)が打ち上げた、宇宙ヨットと呼ばれる小型ソーラー電力セイル実証機で

ある IKAROS の太陽帆としても採用されるなど確かな使用実績もあるため使用するに至っ

た。

3.3 プロセスフロー

図3.9に今回行ったプロセスフローを示す。 ゲート部に関しては、AlGaN表面で溶液の

変化を検出するため、ショットキー電極の形成や酸化膜による保護は行わず、オープンゲ

ート状態にしたものを作製した。上記の試料はオーミック電極の保護膜にポリイミド膜・

酸化膜を使用しているものとしていないものの 3 つを用意した。

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Gas ICP[W] Bias[W] Pressure[Pa] Flow[sccm] Time[min]

SiCl4 50 100 0.25 4 2.5

Cl2 50 50 0.25 4 1

ウェハカット

サンプルクリーニング

リソグラフィ

ドライエッチング

リソグラフィ

スパッタ

アニール

リソグラフィ

スパッタ

ポリイミド堆積

リソグラフィ

アニール

アイソレーション

ICP条件:深さ 80nm

オーミック電極形成

スパッタ条件 Ti/Al/Ti/Au 50/200/40/40nm

150/150/150/25[W]

アニール条件 N2雰囲気中 850℃ 1min

ショットキー電極(メタルゲート)

スパッタ条件 Ni/Au/Ti 70/30/10nm

ポリイミド膜形成 スピンコーター 700rpm 10s 3000rpm 30s

ベイク 140℃ 3min アニール 450℃or350℃ 60min(N2 雰囲気中)

~・~・~・~・~以下ポリイミド膜・酸化膜使用サンプルのみ~・~・~・~・~ 酸化膜形成 CVD 条件

TEOS[7sccm]、O2[300sccm] SiO2:500nm 堆積

図 3.9 プロセスフロー

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作成プロセスは以下の通りである。まず ICP エッチングによりアイソレーションを行い、

メサを形成した。AlGaN 上に Ti/Al/Ti/Au=50/200/40/40nm の条件でスパッタを行い、窒

素雰囲気中850℃、1分のアニールを行いオーミック電極の形成を行った。ゲート部に関し

てはAlGaN表面で溶液の変化を検知するためショットキー電極の形成は行わず、オープン

ゲートの状態とし AlGaN を露出させた。 保護膜に酸化膜をのせるサンプルは TEOS と O2 で CVD によって SiO2 を 500nm 堆積

している。またポリイミドをのせるサンプルではスピンコータにより塗布し、露光を経て

アニールによってポリイミドを固めた。なお、ポリイミド膜のアニール温度・時間を 350℃60min と 450℃60min の 2 種類の設定でサンプルを作製している。シリコーン樹脂を使用

するサンプルは、オーミック金属を堆積させた後、オープンゲート以外に直接樹脂をのせ

た。

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31

3.4 実装工程

測定を定量的に行うため、半導体サンプルを設置する基板を使用した。基板には電気的

に絶縁性、化学的耐性を持ち、高温にも強く、浸水性もないテフロン基板が最も今回の目

的に適していたため使用するに至った。また液中で電極部分を酸、塩基溶液から保護する

目的でシリコーン樹脂を被せている。シリコーン樹脂は特性表(表 3.2)を見ても酸、塩基共

に高い保護性能を誇り、温度変化にも対応できるため当 pH センサの電極保護膜として採

用している。 3.4.1 従来基板実装工程の問題点 まず従来の基板(図 3.9)では基板が 2 つに分離しており、それを接続し使用していた。接

続部分の多さから抵抗の高く、必然的に液中でもリークする可能性のある箇所を多く晒し

てしまいリーク電流値が増大するといった問題が発生した。金属部分が起電力をもつこと

も測定に影響することも同時に問題となっている。また、耐液保護膜として使用している

シリコーンが測定中に流動しセンス部分を覆ってしまう場合がしばしばあり代用保護膜、

あるいは確実に固化させるために実装工程の再考が急務となっていた。 3.4.2 現在使用中基板の実装工程の改善点 現在使用している基板(図 3.10)の実装工程の改善点を説明する。まず接続部の抵抗、お

よび液中リーク電流の改善策として 2 枚であった基板を 1 枚にまとめた。接続部分を 8 点

無くすことによりこの 2つの問題に関しては電流値にして 1×101~103A程度の改善を実現

した。また溶液に浸る金属部分はサンプルとの接続電極を除き無くなったため金属による

起電力の影響は最小限になっている。シリコーンの固化に関してはヒーターおよび乾燥炉

内での時間を倍にしたところ流動はほぼなくなりセンス部分を覆うことはなくなった。

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3.4.3 実装手順 基板の電極にハンダによって金線を接続する。この時に金線が外れないかきちんと確認

する。なおハンダを多く使用しすぎると隣の電極と接してしまう場合があるため注意する。

テスタを使用し電気が正常に流れることを確認したら、樹脂によって基板に半導体サンプ

ルを接着する。接着後はヒーターにより 110℃で 2 時間加熱し樹脂を固める。その後、銀

ペーストを使用して基板の電極に接続した金線を半導体サンプルの電極に接着する。また

前工程同様ヒーターにより 110℃で 1 時間加熱を行い銀ペーストを固める。半導体サンプ

ルにも電気が流れることを確認したら、半導体サンプルの必要な部分以外を樹脂で覆う。

この際サンプル表面上のポリイミドに液体の浸入を許しそうな箇所(剥離等)があれば樹脂

で覆っておくとサンプル破壊のリスクを抑えられる。また基板側の電極の被覆が十分でな

いと液中測定の際にリーク電流が出てしまうため注意が必要である。覆った後はヒーター

により 110℃で 2 時間以上加熱した後、半日程度放置すると確実に樹脂が固まる。

図 1.1 従来の使用基板

図 1.2 従来の使用基板(実装後)

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図 3.8 今回の使用基板

図 3.9 今回の使用基板(実装後)

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表 3.2 シリコーン特性表

用途 シリコーン(成形材料)

物理的性質

密度(g・cm^-3) 1.80 から 1.94

融点(℃) 結晶性 -

非晶性 -

透明度 不透明

吸水率(%)3mm、24h 0.2

成形特性 成形温度範囲(℃) 圧縮、154~182

熱的性質

熱伝導率(10-4cal・

s-1cm-2) (K・cm-1)-1 7.0~9.0

比熱(cal・K-1g-1) 0.19~0.22

熱膨張率(10-5K-1) 2.0~5.0

熱変形温度(℃) >500

電気的性質

体積抵抗率(Ω・cm)

(23℃、50%RH 相対湿

度)

1015

絶縁強さ(短時間法)

(3.18mm)/kV・mm-1 7.8 から 11.8

比誘電率

(εγ)

60Hz 3.3 から 5.0

MHz 3.2 から 4.3

誘電正接

(tanδ)

60Hz 0.004 から 0.030

MHz 0.002 から 0.020

化学的性質、耐薬品

燃焼性、速度(mm・

min-1) -

日光の影響 無し

弱酸の影響 無~わずか

強酸の影響 わずか

弱アルカリの影響 無~わずか

強アルカリの影響 わずか~著しい

有機溶剤の影響 ある種で侵される

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3.4.4 保護膜による実装方法の違い 今回ポリイミド膜・酸化膜・シリコーン保護膜の3種類のサンプルを用意している。この3種にはそれぞれ実装で使用するシリコーン塗布を異なる形で施している。 ポリイミド膜・酸化膜のサンプルの実装形式は図 3.11 に示している。実装基板保護膜と

しても使用しているシリコーンで覆っているのは実装基板と繋がっている電極の部分のみ

でセンス部付近にはシリコーンがかからないように実装している。これはセンス部付近ま

でシリコーンで覆わなくてもポリイミド膜・酸化膜によって電極を保護しているからであ

る。 シリコーン保護膜のサンプルの実装形式は図 3.12 に示している。プロセスの過程でポリ

イミド膜・酸化膜をのせていないためシリコーンで電極部を完全に覆っている。ポリイミ

ド膜・酸化膜同様溶液による電極破壊のリスクは大きく低減できている。しかし、実装が

非常に難しく手先が器用でなければ成功し辛い状況になっている。

図 3.11 実装(ポリイミド有)

図 3.12 実装(ポリイミド無)

センス部分のみ

露出

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第 4 章 AlGaN/GaN HFET を用いた

pH センサの評価

4.1 測定方法

溶液に浸した AlGaN/GaN HFET に半導体パラメータアナライザ(Agilent 社製 4155C)を接続する。ゲートバイアスは溶液に漬けた白金電極に印加する。AlGaN 表面に印可する

電圧を作用電極の電圧ではなく、参照電極よりプロットされた電圧をVGとして以下記載す

る。測定構成は図 4.1 に示す。 作用電極:Pt 参照電極:Ag/AgCl 溶液

図 4.1 測定環境簡略図

AlGaN/GaN HFET

Paramater analyzer

Agilent 4155C pH mater

HORIBA F52 Vs V

D Vref V

Paramater analyzer

Agilent 4155C pH mater

HORIBA F52 Vs V

D V Pt 参照電極

作用電極

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今回はフタル酸塩、中性リン酸塩、ほう酸塩の 3 つの標準液を使用し、水素イオン濃度

を観測しながら測定した。pH値の測定にはpHメーター (HORIBA社製 F52)を用いた。

またpHメータは使用前に標準液を用いて3点校正を行った。測定は室温で行い、同時に測

定中の溶液中全体の濃度状態を一定に保つため攪拌を行った。 4.1.1 白金電極 本 pH センサはオープンゲートという構造上、溶液を介して電位をかける必要がある。

現在その電位をかける役割を持つ作用電極に白金を使用している。我々は過去の研究でそ

の選択を行った[8]。簡単にではあるが再度白金を選択した経緯を記す。 作用電極の材料が、どのように溶液のポテンシャルに影響するかを確認すると同時に、

どの素材の電極を使うか検討した。個々の水素標準電位に対するポテンシャル(イオン化傾

向値)の電極電位差を表 4.1 にまとめた。

表 4.1 水素標準電位に対する各金属の電極電位差

金属名 元素記号 標準単極電位リチウム Li -3.04カリウム K -2.93カルシウム Ca -2.76ナトリウム Na -2.71マグネシウム Mg -1.55アルミニウム Al -1.662マンガン Mn -1.185亜鉛 Zn -0.762クロム Cr -0.744鉄 Fe -0.447カドミウム Cd -0.403コバルト Co -0.28ニッケル Ni -0.257すず Sn -0.138鉛 Pb -0.1262(水素) (H) 0銅 Cu 0.342水銀 Hg 0.851銀 Ag 0.8白金 Pt 1.118金 Au 1.498

小←

イオ

ン化

傾向

→大

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38

表 4.1 に黄色で示した、4つの金属を作用電極として用いた。 個々の水素標準電位に対するポテンシャル(イオン化傾向値)と今回使用した銅を基準に

した電極電位差、また実測による平均電流値をまとめた表を表 4.2 にまとめる。

表 4.2 各電極の銅に対する電極電位差

金属標準電極電位(V)

銅に対する予想電極電位(V)

銅に対する実測電極電位(V)

Al -1.676 -2.01 -1.186H 0 -0.34 -Cu 0.34 0 0Ag 0.799 0.45 0.395Pt 1.118 0.778 0.477

アルミ、銅、銀、白金の順にしきい値が大きくなっていることがわかる。これはイオン

化傾向が違うため標準電極電位の差が現れるためだと考えられる。しかし予想していた、

電極電位とはどの材料も一致しなかった。これは Pt 以外の電極素材は貴金属と異なり自然

酸化膜ができやすく、そのため不本意の酸化膜が表面にできてしまい、結果理想的な標準

電極電位をとらなかったものと考えられる。

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39

今回の実験では加工が容易な貴金属系の材料を中心に測定した。その中でも、白金電極

は水銀電極に比べて水素過電圧が非常に小さいので負側の電気窓が狭いが、逆にその分、

正側には+1.5(vs.NHE)近くまで分極領域が広がっている。しかしながら、白金電極は水素

吸脱着による電流が流れる。 以上から自然酸化膜ができにくく、分極領域が他の金属よりも広く、扱いも電気二重層

の充電による電流もわずかであることから以降の測定では作用電極に白金棒を使用した。

図 4.3 各材料の分極領域

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40

4.2 AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサの基本特性評価

今回の測定ではポリイミド膜、酸化膜、シリコーン樹脂膜の 3 種類の保護膜を用意しそ

れぞれの基本特性を比較し最も本測定に適したものを選択した。 4.2.1 ID-VG特性と IG-VG特性評価 常温で塩基溶液内での ID-VG特性を図 4.4~4.6に示す。VGは 0V~-5Vまで変化させ、VD

は 0.5V で測定を行った。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

-5 -4 -3 -2 -1 0Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

mA

]

図 4.4 ID-VG特性図(酸化膜)

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41

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

-6 -4 -2 0Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

mA

]

図 4.5 ID-VG特性図(ポリイミド膜)

0

0.050.1

0.15

0.2

0.250.3

0.35

0.4

-6 -4 -2 0

Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

mA

]

図 4.6 ID-VG特性(シリコーン樹脂膜)

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42

VG の値は白金電極からかけた電圧を溶液を介して参照電極が読み取った値をプロットし

ている。ID の最大値に対するしきい値以下で流れる電流の割合はシリコーン樹脂膜が他の

膜に比べ低いことが確認できた。 次に IG-VG特性図からセンサと作用電極間に流れるリーク電流の確認をする。ID-VG特性

測定時に白金電極が読み取った電流値で絶対値をとりプロットしている。

1.E-06

1.E-05

1.E-04

1.E-03

1.E-02

1.E-01

1.E+00

-5 -4 -3 -2 -1 0Gate Voltage[V]

Gate

Curr

ent[

A]

図 4.7 IG-VG特性(酸化膜)

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43

1.E-10

1.E-08

1.E-06

1.E-04

1.E-02

1.E+00

-6 -4 -2 0Gate Voltage[V]

Gate

Curr

ent[

A]

図 4.8 IG-VG特性(ポリイミド膜)

1.E-10

1.E-08

1.E-06

1.E-04

1.E-02

1.E+00

-6 -4 -2 0Gate Voltage[V]

Gate

Curr

ent[

A]

図 4.9 IG-VG(リーク電流)特性(シリコーン樹脂膜) 酸化膜が最も大きいリーク電流を示し、他の 2 種は 1μA 以下とほぼ同程度のリーク電流を

示した。

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44

4.2.2 測定結果からみる溶液測定適性 ID-VG特性および IG-VG特性からポリイミド膜、シリコーン樹脂膜の 2 つが溶液中の測定

に適性があることが確認できる。酸化膜サンプルは表面を確認しただけではリークの原因

はつかめなかったため、顕微鏡で視認できないピンホール、クラック等があり、その部分

から溶液が浸入し、そのまま作用電極に流れるリーク電流になったのではないかと考えら

れる。 優れた特性を見せたポリイミド膜であったが複数回測定を行った際にその欠点を発見し

た。複数回測定をするうちにポリイミド膜は ID-VDおよび ID-VG測定中に突然 VG制御不能

になる現象が複数枚で確認された。図 4.11、4.12 の測定前と測定後のサンプル表面図を見

比べても明らかなようにゲート部分を虹色の物体が覆っている。これはポリイミドが流動

したものと考えられる。ポリイミドの耐溶液性は優れているため溶液の影響で図のような

変化をしたとは考えにくい。アニール条件として設定した 350℃60min と 450℃60min が

いずれもポリイミドの固化条件を満たしていない可能性がある。 本研究においては酸化膜、ポリイミド膜の問題の解決には注力せず、シリコーン樹脂膜

を選択することで温度依存測定を続けることにした。

0

1

2

3

4

5

6

7

0 1 2 3 4 5Drain Voltage[V]

Dra

in C

urr

nent[

mA

]

図 4.10 オープンゲートにポリイミドが被ったサンプルの ID-VD特性

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図 4.11 ポリイミド保護膜使用サンプル(測定前)

図 4.12 ポリイミド保護膜使用サンプル(測定後)

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46

第 5 章 AlGaN/GaN HFET を用いた

pH センサの温度依存性評価

5.1 測定方法

基本的に1測定方法と同様の方法を用いるが温度を変化させるために図5.1のようにビーカ

ーをオイルバス(TBX222AA)中に入れ、温度を調整できるようにした。

図 5.1 測定機構(温度測定) 温度の確認にはガラス製温度計と温度計機能が備わっている pH メーター(HORIBA 社製

F52)の 2 つを併用し測定を行った。2 点で温度確認を行うのは、設定温度をダイヤルで決

定するため細かい温度は温度計および pH メーターで確認し、調整を行わなければならな

Paramater analyzer

Agilent 4155C pH mater

HORIBA F52 Vs V

D Vref V

Paramater analyzer

Agilent 4155C pH mater

HORIBA F52 Vs V

D V Pt

溶液

オイルバス

ADVANTEC

TBX222AA

シリコンオイル

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47

いためである。測定手順は、常温から目標温度に到達させた後にその温度で必要な測定を

全て行う、終了次第次の目標温度まで上昇させる。最高温度の測定が終了次第オイルバス

の電源を切り、温度を下げることにより続けて復路の測定を同様の手順で行い常温まで測

定を行う。ビーカーを水に浸し温度を下げる方法が有効だが目標温度を通り過ぎやすいた

め 60℃付近までは自然に下げた方が目標温度での測定を行いやすい。また目標温度ちょう

どで止める事はほぼ不可能であり、測定開始から終了まで最大で 5℃程度の誤差が生じて

いる。

5.2 AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサの基本特性の温度依

存性評価

5.2.1 ID-VD特性による動作確認 3つの異なるpHをもつ溶液(フタル酸塩、中性リン酸塩、ほう酸塩)ごとに40℃、60℃、

80℃の温度で ID-VD測定を行った。VDは0~5Vまで変化させ、VGは0Vから-1V刻みで-4Vまで変化させた。特性を図 5.2~図 5.4 に示している。

0.00E+00

2.00E-04

4.00E-04

6.00E-04

8.00E-04

1.00E-03

1.20E-03

0 1 2 3 4 5

Drain Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

A]

NT

40℃

60℃

80℃

図 5.2 溶液別 ID-VD特性(フタル酸)

VG=-2~-4V

VG=0V

VG=-1V

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48

0.00E+00

2.00E-04

4.00E-04

6.00E-04

8.00E-04

1.00E-03

1.20E-03

0 1 2 3 4 5

Drain Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

A]

NT

40℃

60℃

80℃

図 5.3 溶液別 ID-VD特性(中性リン酸塩)

0.00E+00

2.00E-04

4.00E-04

6.00E-04

8.00E-04

1.00E-03

1.20E-03

0 1 2 3 4 5

Drain Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

A]

NT

40℃

60℃

80℃

図 5.4 溶液別 ID-VD特性(ホウ酸塩)

VG=0V

VG=-1V

VG=-2~-4V

VG=0V

VG=-1V

VG=-2~-4V

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49

全ての溶液、温度帯で通常の HFET 同様に飽和特性が見られた。また全ての溶液中で温

度上昇に応じて電流が低下した。当 pH センサは今回用意した全ての溶液中で動作するこ

とができ、80℃の高温にも耐えられることが確認できた。 5.2.2 ID-VG特性の温度依存性 3つの異なるpHをもつ溶液(フタル酸塩、中性リン酸塩、ほう酸塩)ごとに40℃、60℃、

80℃の温度で ID-VG測定を行った。結果を図5.5~5.7に示す。第4章で行った測定と同様に

VG は 0V~-5V まで変化させ、VD は 0.1V、0.4V、0.9V と変化させて測定を行った。図に

は観察しやすいよう VD=0.1V のみをプロットしている。

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

-6 -4 -2 0Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

mA

]

20℃

40℃

60℃

80℃

図 5.5 溶液別 ID-VG特性(フタル酸塩)

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50

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

-6 -4 -2 0Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

mA

] 20℃

40℃

60℃

80℃

図 5.6 溶液別 ID-VG特性(中性リン酸塩)

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

-6 -4 -2 0

Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

mA

]

20℃

40℃

60℃

80℃

図 5.7 溶液別 ID-VG特性(ホウ酸塩)

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51

VG の値は白金電極からかけた電圧を溶液を介して参照電極が読み取った値をプロットし

ている。それぞれのpH帯で ID(ドレイン電流値)が高温になるほど低下するという同様の傾

向を示している。またしきい値変化も同時に確認することができ、温度上昇により正方向

にシフトしていることが判った。 また温度別でプロットした ID-VG特性図を図 5.8~5.11 に示す。

y = 5 .0435E-05x + 1 .1359E-04

y = 5 .1843E-05x + 1 .0997E-04

y = 5 .2254E-05x + 1 .0493E-04

y = 4 .9263E-05x + 1 .1559E-04

y = 4 .9259E-05x + 1 .0942E-04

y = 4 .9097E-05x + 1 .0048E-04

0.00E+00

1.00E-05

2.00E-05

3.00E-05

4.00E-05

5.00E-05

6.00E-05

7.00E-05

8.00E-05

9.00E-05

1.00E-04

-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0

Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

A]

pH4.00

pH6.88

pH9.22

図 5.8 温度別 ID-VG特性(20℃)

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52

y = 4 .4961E-05x + 1 .0361E-04

y = 4 .5552E-05x + 9 .4276E-05

y = 4 .3920E-05x + 8 .6961E-05

y = 4 .4584E-05x + 1 .0368E-04

y = 4 .4601E-05x + 9 .3729E-05

y = 4 .2768E-05x + 8 .5427E-05

0.00E+00

1.00E-05

2.00E-05

3.00E-05

4.00E-05

5.00E-05

6.00E-05

7.00E-05

8.00E-05

9.00E-05

-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0

Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

A]

pH4.03

pH6.84

pH9.07

図 5.9 温度別 ID-VG特性(40℃)

y = 3.8478E-05x + 8.7409E-05

y = 4.1523E-05x + 8.5590E-05

y = 3.9916E-05x + 7.5001E-05

y = 3.7160E-05x + 8.5614E-05

y = 4.0441E-05x + 8.3901E-05

y = 3.7767E-05x + 7.2655E-05

0.00E+00

1.00E-05

2.00E-05

3.00E-05

4.00E-05

5.00E-05

6.00E-05

7.00E-05

8.00E-05

-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0

Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

A]

pH4.10

pH6.84

pH8.96

図 5.10 温度別 ID-VG特性(60℃)

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53

y = 3.4401E-05x + 7.5288E-05

y = 3.4373E-05x + 6.8831E-05

y = 3.4297E-05x + 6.5309E-05

y = 3.2822E-05x + 7.4453E-05

y = 3.2420E-05x + 6.8661E-05

y = 3.2519E-05x + 6.4230E-05

0.00E+00

1.00E-05

2.00E-05

3.00E-05

4.00E-05

5.00E-05

6.00E-05

7.00E-05

-3 -2.5 -2 -1.5 -1 -0.5 0Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

A]

pH4.16

pH6.86

pH8.89

図 5.11 温度別 ID-VG特性(80℃)

VD=0.1 のしきい値付近に注目し、サブスレッショルド領域を除いた線形部分で近似線を

描いた。近似線はそれぞれの温度帯でしきい値付近約 20点をプロットしたものである。近

似線の 1 次方程式は往復分記載しており、矢印の先が該当する近似線となっている。今回

はしきい電流を 1μA と仮定して各 1 次方程式を解き、導出した値をしきい値とした。 近似線より求めたしきい値の温度依存性図を図 5.12 に示す。

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54

-2.6

-2.4

-2.2

-2

-1.8

-1.6

-1.4

0 20 40 60 80 100

Temparature[℃]

Vth

[V]

metal

フタル酸塩

中性リン酸塩

ホウ酸塩

図 5.12 しきい値の温度依存性

全ての溶液中で 20℃~80℃に温度上昇する場合しきい値は正方向にシフトするという結

果が得られた。金属ゲートでも同様の変化を観測できたため、溶液中でも普通の FET と同

じ温度によるしきい値変動を行えることが確認できた。 次に ID-VG特性の IDを Logscale でとった場合の ID-VG特性を図 5.13 で示す。

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55

1.00E-08

1.00E-07

1.00E-06

1.00E-05

1.00E-04

1.00E-03

1.00E-02

1.00E-01

1.00E+00

-3 -2.5 -2 -1.5 -1

Gate Voltage[V]

Dra

in C

urr

ent[

A]

図 5.13 LogID-VG特性(ホウ酸塩 20℃、40℃、60℃、80℃ VD=0.1)

サブスレッショルド領域の最小値 5 点で近似線を引き、近似式から傾きを得ることでサ

ブスレッショルドスイング値(S)を導出する。他の溶液でも同様の操作を行い全ての溶液・

温度でのサブスレッショルドスイング値を導出した。導出式は

+

=

ox

Dox

D

G

CCC

qkT

IddV

S

)10(ln

)(ln)10(ln

(5.1)

となっている。金属および 3 種溶液で導出した S 値を図 5.14 に示した。

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56

240

280

320

360

400

440

480

520

20 40 60 80

Temperature[℃]

S[m

V/decade]

フタル酸塩

中性リン酸塩

ホウ酸塩

metal

図 5.14 サブスレッショルドスイング(S)温度依存性

金属、溶液のどちらも温度上昇によって S 値が劣化することが確認できた。これは式

(5.1)からも明らかなように温度 T[K]が増加すれば値は劣化するため理想値どおりの結果が

得られたといえる。また溶液ごとの S 値が全温度で一定の間隔を保っており pH 依存性が

存在する可能性を示している。 また図 5.8~5.11 を利用して 1pH あたりの VG変化量であるΔVG/pH の導出を行った。

溶液の pH は各温度で観測したものを利用し、全ての溶液・温度で ID=50μA のΔVG/pH を

求め、ネルンストの式より求めた各温度帯での理想値と共に図 5.15 に示す。

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40

50

60

70

80

0 20 40 60 80 100

Temperature[℃]

ΔV

G/pH

[mV

]

実測

理論

図 5.15 しきい値の pH 依存性

20~60℃までは理想値と同様に温度によるΔVG/pH の値は上昇している。理想値では

20℃、40℃、60℃でそれぞれ 58.18mV、62.15mV、66.12mV であり、実測では 52.6mV、

60mV、63.8mV という値が得られており各温度で十分に pH 値をセンスできていることが

わかった。しかし 80℃では理想値が 70.08mV であるのに対し、実測では 59.2mV と 60℃を下回る値になった。

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5.3 考察

第 4,5 章の結果について言及していく。 5.3.1 ID-VG特性について ID-VG 特性は温度、溶液変化に対し VG がシフトしていることが確認できた。温度による

1pH ごとの VG は各 20℃、40℃、60℃、80℃において 52.6mV、60mV、63.8mV、

59.2mVという値をとり、80℃以外は理想値と比較しても遜色なく、十分にpHをセンスで

きているといえる。理想値との誤差は次節で詳しく言及していく。本節ではでは、80℃で

センサに起きた現象について考察していく。 80℃でのみ大きな感度低下が起こった原因として考えられるのは、溶液の温度上昇に伴

うサンプル自身の発熱による Vth の低下である。20~80℃まで温度上昇によりしきい値は

正方向にシフトしているが本来 AlGaN/GaN HFET は温度上昇によりしきい値は負方向に

シフトすると報告されている。60℃までは pH 変化によるしきい値変化が支配的であり、

80℃まで上昇するとサンプル自身の発熱も更に上昇し、pH 変化によるしきい値変化に影

響を及ぼすようになるのではないかと推測できる。しかし感度低下が起こった温度が 1 点

だけであるためさらに高温での検証が必要である。 5.3.2 サブスレッショルドスイング値(S)について 今回解析に用いたサブスレッショルドスイング値(S)はサブスレッショルド領域において

電流を一桁変化させるゲート電圧をもってその大きさを表す。

+

=

ox

Dox

D

G

CCC

qkT

IddV

S

)10(ln

)(ln)10(ln

(5.1)

前節でも述べたとおり式(5.1)によって導出可能である。マクスウェルボルツマンの理論で

仮に理想的な値をとるとすれば

+

ox

Dox

CCC

=1 となり式(5.1)は 59.53mV/dec という値をと

る。しかし温度を一定とした場合、通常、FET では基板側空乏層容量、ショートチャネル

におけるソース-ドレイン電極からの容量、界面準位容量と本来のゲート容量の C のみの

回路の電圧配分で劣化する。そのためAlGaN/GaN での測定値は 120mV/dec 程度になる本

研究室の研究で明らかになっている。 ここで pH センサでの場合を考える。AlGaN 表面に多量の界面準位が存在すると仮定し

た場合には、液体のフェルミ準位の変化がAlGaN表面との大きな容量のため電位差が発生

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せず、そのまま金属ゲートのように振る舞い図 5.19 のように VG 変化がそのまま表れ常温

での理想値 59.17mV/pH が出るはずである。 しかし実際には無限ではないため、有限の容量が発生し、電位ドロップが起こる。図

5.20のように界面準位容量によってΔVGに電位ドロップがおき、変化差分によって負電荷

が発生する。結果としてこれが理想値 59.17mV/pH と数 mV/pH の誤差を生んでいる。現

在当センサが 53mV/pH 程度の感度しか出せていない要因はこれによるものが大きいと考

えられる。 電位ドロップを生む可能性のある容量は式で表すと次のようになる。

dEdNqC

dEdNq

dVdQC

tεC

ISIS

SSSS

AlGaN

AlGaNAlGaN

2

2

=

==

=

(5.2-5.4)

上記 3 つの容量は図 5.21 に示してある通りである。

図 5.21 AlGaN/GaN pH センサ容量モデル

CSS CAlGaN CIS

VG VS VCH GND

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また S 値は式(5.1)を利用して

++

=

++

=

==

++=

AlGaN

IS

SS

ISe

IS

ISAlGaNSSe

CH

Ge

D

Ge

ISAlGaNSS

IS

G

CH

CC

CC

qkT

C

CCCq

kTS

VddV

IddV

S

CCC

CdVdV

110log1

111

10log

)()10(log

)(log)10(log

111

1

β

となる。式(5.5)からは当センサの S 値は表面準位の増大、および温度によって劣化すると

推測できるが実際には pH 変化に対しても変動している。pH 変化による S 値の変動は電気

二重層の pH 変化による界面準位密度の変動に起因する可能性がある。しかし、グイ・チャ

ップマンの理論では拡散二重層容量が溶液濃度に大きな関係性をもつため本研究結果にこ

の理論が該当するかは更なる検証が必要不可欠である。

(5.5)

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第 6 章 本研究のまとめ 基板の再設計を行い、溶液中に関わる可能性のある金属部分を大幅に減らした。減らし

たことで金属部分から発生していた起電力をなくし、センサ-作用電極間に発生していた

リーク電流を 3 桁程度低減することに成功した。 ポリイミド膜・酸化膜・シリコーン保護膜の 3 種類を新実装として試験した。酸化膜はピ

ンホールやクラックが原因だと思われるリーク電流がセンサ-作用電極間に大量に流れて

いた。ポリイミド膜は 350℃、450℃のアニールを施したがどちらもポリイミドが固まらず

高温測定中に流動した。シリコーン樹脂膜では他 2 膜で起こったような問題は発生せず高

温測定を行うことができた。 溶液中では各 pH、温度において通常のHFET 同様の電流電圧特性が得られた。pHが低

下するほど、しきい値の低下が確認できた。また温度上昇によるしきい値の低下も確認で

きた。pH による電圧の変化量は各温度 20℃、40℃、60℃、80℃で 52.6mV/pH、

60mV/pH、63.8mV/pH、59.2mV/pH であった。これは理想値と比較しても十分にセンサ

として機能できる可能性のあるデバイスを作製できたといえる。また既存の Si MOSFETのセンサでもpHに対するしきい値の変化量は理想値には一致しておらず、AlGaN/GaNも

十分に実用性があるセンサだといえる。 またサブスレッショルドスイング値(S)からも温度依存性が確認できた。S 値から pH 変

化による電気二重層の界面準位密度変動の解析が進む手がかりを得られた。 本研究により AlGaN/GaN HFET を用いた pH センサで高温動作可能なサンプルの作製

に成功し、今後の解析によって実用化に繋がるデータを得られた。

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参考文献 [1] 佐藤弦,本橋亮一“化学セミナー13 pH を測る”,pp29-36,丸善株式会社、1987 [2] 吉本葦人,松下寛,森本武利“pH の理論と測定法”,pp79-85,丸善株式会社、1968 [3]Takuya Kokawa,Takeshi Kimura,Takemoto Sato,Seiya Kasai,Hideki Hasegawa,Tamotsu Hashizume“Liquid sensor using gateless AlGaN/GaN HFET structure”IEICE Technical Report, pp.39-42 Oct.2005 [4]大野泰夫, ”窒化ガリウムを用いる高周波デバイス ”,FED Review,Vol.1,

No.13(2002) [5] 菊田大悟, 敖 金平,大野泰夫,窒化ガリウム系絶縁ゲート型へテロ構造電界効果トラン

ジスタに関する研究 平成 17 年度博士論文 徳島大学大学院 [6]高橋清 監修 長谷川文夫・吉川明彦 編著,”ワイドバンドギャップ半導体光・電子

デバイス”森北出版 [7] 野崎兼史,高橋義也,敖 金平,大野泰夫,電子情報通信学会電子デバイス研究会,信

学技報ED2009-107, 2009年7月 [8] 野崎兼史,敖 金平,大野泰夫,AlGaN/GaN HFET を用いたイオンセンサの研究第

第 4 章 4.2.1 平成 21 年度修士論文 徳島大学大学院 [9] 新潟一宇,敖 金平,大野泰夫,緩衝溶液を用いた AlGaN/GaN HFET

pH センサの評価第 5 章 5.2 平成 23 年度卒業論文 徳島大学

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謝辞

本研究を行うにあたって、終始、御指導、御助言をしていただきました、徳島大学ソ

シオテクノサイエンス研究部先進物質材料部門 大野泰夫 教授に深く感謝いたします。

本研究室の指導教官として、様々な状況で大変お世話になりました。本研究は当然のこと、

人生のことや、就職活動のこと、たくさんのアドバイスをしていただきました。心より感

謝しております。

本研究を行うにあたって、終始、御指導、御助言をしていただきました、徳島大学ソシ

オテクノサイエンス研究部先進物質材料部門 敖金平 准教授に深く感謝いたします。本

研究の指導教官として、様々な状況で大変お世話になりました。また、本研究において、

議論し合い、指導していただき、また研究以外の学業の方でもご指導していただきました。

心より感謝しております。

同じ研究室の同学年として有益な議論、助言をしていただきました、岩崎裕一氏、木尾

勇介氏、玉井健太郎氏、林野耕平氏に深く感謝いたします。研究は当然のこと、私生活で

も大変お世話になりました。

学内発表会等で有益なご助言とご指導をいただきました徳島大学ソシオテクノサイエン

ス研究部先進物質材料部門 酒井士郎 教授に深く感謝したします。

学内発表会等で有益なご助言とご指導をいただきました徳島大学ソシオテクノサイエン

ス研究部先進物質材料部門 永瀬雅夫 教授に深く感謝したします。

発表会、講義等で、有益なご助言とご指導をいただきました徳島大学ソシオテクノサイ

エンス研究部先進物質材料部門 直井美貴 准教授に深く感謝いたします。

有益な議論をしてくださり、講義においてもご指導してくださった徳島大学ソシオテク

ノサイエンス研究部先進物質材料部門 西野克志 准教授に深く感謝いたします。

装置運営やクリーンルームの運用などご協力いただきましたソシオテクノサイエンス研

究部総合技術センター 技術職員 東知里 氏に深く感謝いたします。

本研究で使用した AlGaN/GaN HFET pH センサの作製にご助力いただきました、喬 健

氏に深く感謝いたします。

同じ研究グループとして、本研究に関する活発な議論をしていただいた新潟 一宇 氏

に感謝いたします。

研究室生活や研究をバックアップしていただいた大野研究室のみなさま、物性デバイス

講座のみなさまに深く感謝いたします。

2013 年 2 月

逢坂 直也