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18 Ⅳ.モデル流域の選定 平成 27 年度調査において、モデル流域について検討した結果、有明海に流入する河川 河川流域は菊池川流域、八代海に流入する河川流域では球磨川流域がモデル流域として 適していると結論づけられた。 平成 27 年度調査の検討結果と新たな視点から視点から検討して、モデル流域を選定し た。 1.モデル流域の検討 (1)モデル流域選定の考え方 指定地域内の森林と、有明海及び八代海の海域の環境等との関係を明らかにするこ とから、有明海及び八代海へ流入する河川流域のうち、以下に示す事項を検討して、 森林が海域に及ぼす影響を効果的に評価できるモデル流域を選定した。 ・既往データの活用が可能な流域の検討 ・森林面積が大きく、かつ森林面積率が高い流域の検討 ・農地等や流域に住む人からの影響が比較的少ない流域の検討 ・流域全体としての適性の検討 (2)既往データの活用が可能な流域の検討 流出モデルをより精緻化するためには、できるだけ多数(多時点)のデータを収集 する必要があるが、一般的にはそのようなデータを収集するためには多大なコストを 要する。 そのため、雨量データ、河川水位・流量データなどが豊富で低コストかつ効率的に 収集することができる一級河川の流域から選定することとした。 表Ⅳ-1-1 雨量・水位・流量の観測所数 流入する海域 名称等 流域面積 (㎢) 雨量 観測所 水位 観測所 流量 観測所 有明海 筑後川 2,860 49 29 29 矢部川 647 6 3 3 嘉瀬川 368 17 9 9 六角川 341 11 12 12 本明川 249 7 7 7 菊池川 996 18 17 17 白川 480 8 7 7 緑川 1,100 13 10 10 八代海 球磨川 1,880 33 14 14

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Ⅳ.モデル流域の選定

平成 27年度調査において、モデル流域について検討した結果、有明海に流入する河川

河川流域は菊池川流域、八代海に流入する河川流域では球磨川流域がモデル流域として

適していると結論づけられた。

平成 27年度調査の検討結果と新たな視点から視点から検討して、モデル流域を選定し

た。

1.モデル流域の検討

(1)モデル流域選定の考え方

指定地域内の森林と、有明海及び八代海の海域の環境等との関係を明らかにするこ

とから、有明海及び八代海へ流入する河川流域のうち、以下に示す事項を検討して、

森林が海域に及ぼす影響を効果的に評価できるモデル流域を選定した。

・既往データの活用が可能な流域の検討

・森林面積が大きく、かつ森林面積率が高い流域の検討

・農地等や流域に住む人からの影響が比較的少ない流域の検討

・流域全体としての適性の検討

(2)既往データの活用が可能な流域の検討

流出モデルをより精緻化するためには、できるだけ多数(多時点)のデータを収集

する必要があるが、一般的にはそのようなデータを収集するためには多大なコストを

要する。

そのため、雨量データ、河川水位・流量データなどが豊富で低コストかつ効率的に

収集することができる一級河川の流域から選定することとした。

表Ⅳ-1-1 雨量・水位・流量の観測所数

流入する海域 名称等 流域面積 (㎢)

雨量 観測所

水位 観測所

流量 観測所

有明海 筑後川 2,860 49 29 29

矢部川 647 6 3 3

嘉瀬川 368 17 9 9 六角川 341 11 12 12

本明川 249 7 7 7

菊池川 996 18 17 17 白川 480 8 7 7

緑川 1,100 13 10 10

八代海 球磨川 1,880 33 14 14

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(3)森林面積が大きく、かつ森林面積率が高い流域の検討

森林が海域へ与える影響を評価する必要があるため、概ね平均以上の森林面積が必

要と考え、一級河川の流域のうち森林面積が 500 ㎢以上及び森林の面積率が 50%以上

の流域を抽出した。

表Ⅳ-1-2 森林面積が大きく、かつ森林面積率が高い流域の検討

流入 する 海域

名称等 流域 面積 (㎢)

森林 面積 (㎢)

森林 面積率 (%)

農地等 面積率 (%)

宅地等 面積率 (%)

有明海 筑後川 2,860 1,602 56% 20% 24% 矢部川 647 479 74% 24% 2%

嘉瀬川 368 169 46% 38% 16%

六角川 341 126 37% 50% 13%

本明川 249 102 40.9% 34.5% 24.6% 菊池川 996 697 70% 26% 4%

白川 480 310 64.5% 28% 7.5%

緑川 1,100 649 59% 31% 10%

八代海 球磨川 1,880 1,560 83% 7% 10%

(4)農地等や流域にすむ人からの影響が比較的少ない流域の検討

森林の影響を評価するため、農地等や宅地等からの影響が比較的少ない流域(概ね

平均以下)を選定する必要があると考え、一級河川の流域のうち農地面積が 300 ㎢以

下及び流域の人口が 30万人以下の流域を抽出した。

表Ⅳ-1-3 農地等や流域にすむ人からの影響が比較的少ない流域の検討

流入する海域

名称等 面積(㎢) 面積率(%) ダムの

有無 流域の人口(万) 流域 森林等 農地等 宅地等 森林等 農地等 宅地等

有明海

筑後川 2,860 1,602 572 686 56% 20% 24% 有 109

矢部川 647 479 155 13 74% 24% 2% 有 61

嘉瀬川 368 169 140 59 46% 38% 16% 有 13

六角川 341 126 171 44 37% 50% 13%

47

本明川 249 102 86 61 40.9% 34.5% 24.6% 有 9

菊池川 996 697 259 40 70% 26% 4% 有 21

白川 480 310 134 36 64.5% 28% 5%

71

緑川 1,100 649 341 110 59% 31% 10% 有 54 八代海 球磨川 1,880 1,560 132 188 83% 7% 10% 有 14

合計 8,921 5,694 1,990 1,237 - - - - 399

平均 991 633 221 137 - - - - 44

(5)流域全体としての適性の検討

モデル流域としての適性は、流域全体で見た場合にも平均的な河川が望ましいと考

えられる。

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そのため、一級河川のうち流域面積が平均値に近い流域を抽出した。

表Ⅳ-1-4 流域全体としての適性の検討(再掲)

流入する海域

名称等 面積(㎢) 面積率(%) ダムの

有無 流域の人口(万) 流域 森林等 農地等 宅地等 森林等 農地等 宅地等

有明海

筑後川 2,860 1,602 572 686 56% 20% 24% 有 109

矢部川 647 479 155 13 74% 24% 2% 有 61

嘉瀬川 368 169 140 59 46% 38% 16% 有 13

六角川 341 126 171 44 37% 50% 13%

47

本明川 249 102 86 61 40.9% 34.5% 24.6% 有 9

菊池川 996 697 259 40 70% 26% 4% 有 21

白川 480 310 134 36 64.5% 28% 5%

71

緑川 1,100 649 341 110 59% 31% 10% 有 54

八代海 球磨川 1,880 1,560 132 188 83% 7% 10% 有 14

合計 8,921 5,694 1,990 1,237 - - - - 399

平均 991 633 221 137 - - - - 44

2.モデル流域の選定

1.(1)に示した視点をもとに検討した結果、菊池川流域がいずれの項目にも該当す

ることから、モデル流域としての適性があると考え、菊池川流域をモデル流域として選

定した。

表Ⅳ-2-1 モデル流域の選定

流入する海域

名称等 森林面積 500㎢以上

かつ 森林面積率 50%以上

農地面積 300㎢以下 かつ

流域人口 30万人以下

流域面積が平均値に近い上位2流域

有明海 筑後川 ○

矢部川

嘉瀬川

六角川

本明川

菊池川 ○ ○ ○ 白川

緑川 ○

八代海 球磨川 ○ ○

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3.菊池川流域の概要

菊池川はその源を熊本県阿蘇市深葉(標高 1,041m)に発し、迫間川、合志川、岩野川

等を合わせながら菊鹿盆地を貫流し、花崗岩の山間部を流下したあと、玉名平野に出て

木葉川、繁根木川を合わせ有明海に注ぐ、幹川流路延長 71km、流域面積 996km2 の一級河

川である。

菊池川流域は、熊本県北部に位置し、関係市町は 7 市 5 町からなり、上流部に菊池市、

中流部に山鹿市、下流部に玉名市といった主要都市を有している。流域の土地利用は、

山地等が約 70%、水田や畑地等の農地が約 26%、宅地等の市街地が約 4%となっている。

また、菊鹿盆地や玉名平野では稲作が盛んなほか、近年では、スイカ・メロンの国内

有数の生産地として知られるとともに、山鹿温泉をはじめ流域内に数多くの温泉地が点

在するなど豊かな観光資源に恵まれ、この地域の社会・経済・文化の基盤を成している。

河床勾配は、上流部で約 1/60~1/150 程度、中流部で約 1/500~1/2,000 程度であり、

下流部では約 1/3,000 程度と緩勾配となっている。

下流部は有明海特有の大きな干満差による潮位変動の影響が白石堰まで及んでいる。

表Ⅳ-3-1 菊池川流域の概要

区 分 概 要 幹川流路延長 71㎞ 流域面積 996㎢

流域市町村 7市 5町 菊池市、山鹿市、玉名市、阿蘇市、合志市、日田市、 熊本市、南関町、和水町、玉東町、菊陽町、大津町

流域内人口 約 21万人※1 玉名市 (71,851 人)※ 2 山鹿市 (57,726 人)※ 2 菊池市 (51,862 人)※2

支川数 69 主な支川 繁根木川、木葉川、三蔵川、岩野川、合志川、迫間川、上内田川、木野川

主な構造物 白石堰 竜門ダム

玉名郡和水町瀬川 菊池市龍門

主な温泉 玉名温泉、山鹿温泉、平山温泉、七城温泉、菊池温泉、菊鹿温泉 ※1 流域内人口は平成 15 年河川現況調査 ※2 平成 17 年国勢調査 出典:菊池川水系河川整備計画-国管理区間-~菊池川のやすらぎと清流を未来へ~ 平成 23年9月 国土交通省 九州地方整備局

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図Ⅳ-3-1 菊池川流域の概要

出典:菊池川水系河川整備計画-国管理区間-~菊池川のやすらぎと清流を未来へ~ 平成 23年9月 国土交通省 九州地方整備局

図Ⅳ-3-2 菊池川水系縦断図

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Ⅴ.解析に使用する流出モデルの選定

アメリカ合衆国環境保護庁(以下、「EPA」という。)は、同国の水質を改善するため、

窒素やリン等の「1日当たり総合最大許容負荷量( total maximum daily load)」(以下、

「TMDL」という。)の推定や関連する流域管理に有効とされている流出モデルについて分

析を行い、「TMDL Model Evaluation and ResearchNeeds ByLeslie Shoemaker, Ting Dai,

and Jessica KoenigTetra Tech, Inc.Fairfax, Virginia 22030 Contract 68-C-04-007

(以下、「TMDLモデル評価と研究」という。)にまとめている。

本調査の流出モデルの選定に当たっては、「TMDLモデル評価と研究」で整理された表を

用いて、菊池川流域における栄養塩類、有機物、土砂、水流出プロセスを流域スケール

で評価が可能かという観点から検討した。

1.流出モデルの選定

(1)流出モデルの整理

「TMDLモデル評価と研究」において、以下に示す 64の流出モデルについて整理され

ている。

表Ⅴ-1-1 流出モデルの種類

番号

モデル通称 モデルフルネーム 諸元

1 AGNPS Agricultural Nonpoint Source Pollution Model

米国農務省

2 AGWA Automated Geospatial Watershed Assessment

米国農務省

3 AnnAGNPS Annualized Agricultural Nonpoint Source Pollution Model

米国農務省

4 AQUATOX — 米国環境保護庁

5 BASINS Better Assessment Science Integrating Point and Nonpoint Sources

米国環境保護庁

6 CAEDYM Computational Aquatic Ecosystem Dynamics Model

西オーストラリア大学

7 CCHE1D — ミシシッピィ大学 8 CE-QUAL-ICM/ TOXI — 米国陸軍工兵隊 9 CE-QUAL-R1 — 米国陸軍工兵隊 10 CE-QUAL-RIV1 — 米国陸軍工兵隊 11 CE-QUAL-W2 — 米国陸軍工兵隊

12 CH3D-IMS Curvilinear-grid Hydrodynamics 3D— Integrated Modeling System

フロリダ大学

13 CH3D-SED Curvilinear Hydrodynamics 3D— Sediment Transport

米国陸軍工兵隊

14 DELFT3D — 民間企業

15 DIAS/IDLMAS

Dynamic Information Architecture System/Integrated Dynamic Landscape Analysis and Modeling System

アルゴンヌ国立研究所

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16 DRAINMOD — ノースカロライナ州立大学 17 DWSM Dynamic Watershed Simulation Model 米国イリノイ州立水質調査所

18 ECOMSED Estuary and Coastal Ocean Model with Sediment Transport

民間企業

19 EFDC Environmental Fluid Dynamics Code 米国環境保護庁 、民間企業

20 EPIC Erosion Productivity Impact Calculator

テキサス A&M大学

21 GISPLM GIS-Based Phosphorus Loading Model チャールストン大学,民間企業,個人

22 GLEAMS Groundwater Loading Effects of Agricultural Management Systems

米国農務省

23 GLLVHT Generalized, Longitudinal-Lateral-Vertical Hydrodynamic and Transport

民間企業

24 GSSHA Gridded Surface Subsurface Hydrologic Analysis

米国陸軍工兵隊

25 GWLF Generalized Watershed Loading Functions

コーネル大学

26 HEC-6 Scour and Deposition in Rivers and Reservoirs

米国陸軍工兵隊

27 HEC-6T Sedimentation in Stream Networks 米国陸軍工兵隊

28 HEC-HMS Hydraulic Engineering Center Hydrologic Modeling System

米国陸軍工兵隊

29 HEC-RAS Hydrologic Engineering Center River Analysis System

米国陸軍工兵隊

30 HSCTM-2D Hydrodynamic, Sediment, and Contaminant Transport Model

米国環境保護庁

31 HSPF Hydrologic Simulation Program— FORTRAN

米国環境保護庁

32 KINEROS2 Kinematic Runoff and Erosion Model, v2

米国農務省

33 LSPC Loading Simulation Program in C++ 米国環境保護庁,民間企業 34 MCM Mercury Cycling Model 民間企業

35 Mercury Loading Model

Watershed Characterization System—Mercury Loading Model

米国環境保護庁

36 MIKE 11 — デンマークの油圧研究所 37 MIKE 21 — デンマークの油圧研究所

38 MIKE SHE1 — デンマークの油圧研究所

39 MINTEQA2 Metal Speciation Equilibrium Model for Surface and Ground Water

米国環境保護庁

40 MUSIC Model for Urban Stormwater Improvement Conceptualization

モナシュ大学

41 P8-UCM

Program for Predicting Polluting Particle Passage through Pits, Puddles, and Ponds—Urban Catchment Model

個人

42 PCSWMM Stormwater Management Model 民間企業

43 PGC – BMP Prince George’s County Best Management Practice Module

プリンスジョージズ郡他

44 QUAL2E Enhanced Stream Water Quality Model 米国環境保護庁 45 QUAL2K — 個人, 米国環境保護庁 46 REMM Riparian Ecosystem Management Model 米国農務省 47 RMA-11 — 民間企業

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出典:TMDLモデル評価と研究(EPA)

(2)流出モデル選定の考え方の整理

モデル選定に当たっては、菊池川流域における栄養塩類、有機物、土砂、水流出プ

ロセスを流域スケールで明らかにし、森林から流出する物質や水が有明海等の閉鎖性

海域の環境にどのような影響を与えているかといったことを把握することとしており、

以下の項目の評価が可能かどうかという観点から検討した。

1)流域(マクロ)での評価が可能

2)窒素(N)、リン(P)、ケイ素(Si)の栄養塩類の評価が可能

3)浮遊物質(SS)、全有機炭素(TOC)の評価が可能

4)表流水及び地下水を含めた水文プロセスの評価が可能

5)その他考慮事項 ・マニュアルやコードの無償公開

・森林への適用

・適切な時間間隔(日)での評価が可能等

(3)「TMDLモデル評価と研究」による検討

「TMDL モデル評価と研究」により、数多くある流出モデルについて体系的、網羅的

48 SED2D — 米国陸軍工兵隊

49 SED3D Three-Dimensional Numerical Model of Hydrodynamics and Sediment Transport in Lakes and Estuaries

米国環境保護庁

50 SHETRAN — ニューカッスル大学 51 SLAMM Source Loading and Management Model アラバマ大学

52 SPARROW SPAtially Referenced Regression On Watershed Attributes

米国地質調査所

53 STORM Storage, Treatment, Overflow, Runoff Model

米国陸軍工兵隊 ,民間企業

54 SWAT Soil and Water Assessment Tool 米国農務省 55 SWMM Storm Water Management Model 米国環境保護庁 56 Toolbox TMDL Modeling Toolbox 米国環境保護庁 57 TOPMODEL — ランカスター大学他

58 WAMView Watershed Assessment Model with an ArcView Interface

民間企業, 米国環境保護庁

59 WARMF Watershed Analysis Risk Management Framework

民間企業

60 WASP Water Quality Analysis Simulation Program

米国環境保護庁

61 WEPP Water Erosion Prediction Project 米国農務省

62 WinHSPF Interactive Windows Interface to HSPF

米国環境保護庁

63 WMS Watershed Modeling System (Version 7.0)

民間企業

64 XP-SWMM Stormwater and Wastewater 民間企業

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に調査した報告がなされており、64 のモデルについて表Ⅴ-1-2に示すように評価

されている。これらの表から上記で整理した項目の評価の有無について確認し、評価

可能項目の適合数が上位となる Soil and Water Assessment Tool(以下、SWATという。)

及び Better Assessment Science Integrating Point and Nonpoint Sources(以下、BASINS

という。)の2つのモデルを選定した。

表Ⅴ-1-2 流出モデルの選定

号 モデル通称

評価が可能な項目

流域

単位

日間

表流水

地下水

水質 その他 評価可能

項目の

適合数 リン 窒素 植生

他の

構造

54 SWAT ● ● ● ● ● ● ● 7

5 BASINS ● ● ● ● ● ● ● 7

33 LSPC ● - ● ● ● ● ● 6

56 Toolbox ● - ● ● ● ● ● 6

58 WAMView ● - ● ● ● ● ● 6

59 WARMF ● ● ● ● ● - ● 6

3 AnnAGNPS ● ● - ● ● ● - 5

25 GWLF ● - ● ● ● ● - 5

41 P8-UCM ● - - ● ● ● ● 5

51 SLAMM ● - - ● ● ● ● 5

63 WMS ● - ● ● ● - ● 5

1 AGNPS(eventbased) ● - - ● ● ● - 4

31 HSPF ● - ● ● ● - - 4

42 PCSWMM ● - ● - ● - ● 4

62 WinHSPF ● - ● ● ● - - 4

64 XP-SWMM ● - ● - ● - ● 4

16 DRAINMOD ● - ● - ● - - 3

17 DWSM ● - - ● ● - - 3

20 EPIC — ● - ● ● - - 3

21 GISPLM ● ● - ● - - - 3

22 GLEAMS — ● - ● ● - - 3

24 GSSHA ● - ● - - - ● 3

32 KINEROS2 ● - - - - ● ● 3

40 MUSIC ● - - - - ● ● 3

46 REMM — - - ● ● ● - 3

50 SHETRAN ● ● ● - - - 3

55 SWMM ● - ● - ● - - 3

57 TOPMODEL ● ● ● - - - - 3

61 WEPP ● ● ● - - - - 3

4 AQUATOX — - - ● ● - - 2

38 MIKE SHE1 ● - ● - - - - 2

43 PGC – BMP — - - - - ● ● 2

53 STORM ● - - - - - ● 2

2 AGWA ● - - - - - - 1

15 DIAS/IDLMAS ● - - - - - - 1

28 HEC-HMS ● - - - - - - 1

35 Mercury Loading Model ● - - - - - - 1

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52 SPARROW ● - - - - - - 1

6 CAEDYM — - - - - - - 0

7 CCHE1D — - - - - - - 0

8 CE-QUAL-ICM/ TOXI — - - - - - - 0

9 CE-QUAL-R1 — - - - - - - 0

10 CE-QUAL-RIV1 — - - - - - - 0

11 CE-QUAL-W2 — - - - - - - 0

12 CH3D-IMS — - - - - - - 0

13 CH3D-SED — - - - - - - 0

14 DELFT3D — - - - - - - 0

18 ECOMSED — - - - - - - 0

19 EFDC — - - - - - - 0

23 GLLVHT — - - - - - - 0

26 HEC-6 — - - - - - - 0

27 HEC-6T — - - - - - - 0

29 HEC-RAS — - - - - - - 0

30 HSCTM-2D — - - - - - - 0

34 MCM — - - - - - - 0

36 MIKE 11 — - - - - - - 0

37 MIKE 21 — - - - - - - 0

39 MINTEQA2 — - - - - - - 0

44 QUAL2E — - - - - - - 0

45 QUAL2K — - - - - - - 0

47 RMA-11 — - - - - - - 0

48 SED2D — - - - - - - 0

49 SED3D — - - - - - - 0

60 WASP — - - - - - - 0

出典:TMDLモデル評価と研究(EPA)

(4)有識者へのヒアリング

TMDL モデル評価と研究に含まれてない調査項目について、有識者(広島大学 小野

寺真一教授)へ聞き取りをしたところ、SWAT は BASINS に比べて Si、TOC、SS の評価、

GIS データとの親和性等に優位であるとの回答を得た。

(5)解析に使用する流出モデルの選定

以上の検討結果より、本調査の評価に最も適している流出モデルとして SWATを選定

した。

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2.SWATモデルの概要

(1)SWATモデルの概要

SWATモデルとは、アメリカ農務省農業研究局(USDAARS)によって開発された準分布

型流出モデルである。特に農業流域の水、土砂、物質の移動を解析することに主眼を

置いて開発されたモデルであり、Wellen et al.(2015)1によれば、1992 年から 2010

年の間に流域の栄養塩循環を扱ったモデルとして最も多く使われたモデルとされてい

る。また、SWAT モデルのコードは公開されており、必要に応じて改良することが可能

である。

SWATモデルの長所として以下の点が挙げられる。

・入手が容易な公表データを利用できる

・大きな流域であっても比較的短期間に計算することができる(計算効率がよい)

・解析スケールを任意に設定することが可能(流域レベル~小流域レベル)

・実測データが無い流域でも予測可能

・実測値を得ることが難しいパラメータについてキャリブレーションにより適切な値

を推定できる

・水、土砂の移動、作物の成長、栄養塩の循環などに関連するプロセスは物理法則に

基づいてモデル化されている

・長期的な予測が可能(気候変動などのシナリオにも対応可能)

・GISソフトとの親和性が高い(ArcGISや QGIS上で操作可能)

・ユーザーが多く、豊富な資料やユーザーグループを通した問題解決が可能

一方、SWATモデルの短所としては以下の点が挙げられる。

・地下水の流れについてはシンプルなモデルしか実装されていない

・農業地域は高い精度で推定可能だが、人為活動が複雑な都市域は推定が困難

・森林地域ではほとんど解析事例がないため、試行錯誤的に進める必要がある

地下水については、必要に応じて MODFLOW など地下水解析ソフトとのカップリング

や、MIKESHE、GETFLOWSなど地下水に強いモデルを活用すること、人為活動については

既存資料を活用することで、問題はある程度解消可能と考えられる。森林地域での解

析事例がほとんどない点については、委員をはじめとした有識者の意見を参考にし、

妥当なモデル構築となるように留意することで対応する。

1 Wellen, Christopher, Ahmad-Reza Kamran-Disfani, and George B. Arhonditsis. "Evaluation of the current state of distributed watershed nutrient water quality modeling."Environmental science & technology49.6 (2015): 3278-3290.

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(2)SWATモデルの実行手順

SWAT モデルを実行するには、大きく 3 つのステップを完了する必要がある。以下に

3ステップについて詳しく説明する。なお、以下で使用したインターフェースは QSWAT

である。これはフリーの GISソフトである QGIS上のプラグインとして操作できるプロ

グラムで、SWATの HPからダウンロードできる(http://swat.tamu.edu/)。

1)流域決定

このステップでは、解析の対象となる全体の流域と支流域の設定を行う。設定画

面を図Ⅴ-2-1に示す。

ア DEMの選択

DEMデータを読み込み、流域の標高・傾斜を決定する。DEMデータはメッシュ数に

かかわらず利用可能であり、目的に応じて選択する。

イ 河川作成

読み込んだ DEM データから地形を解析し、自動的に河川の位置が決定される。一

次谷レベル・二次谷レベルなど、どの程度の大きさまで河川を作成するかは、閾値

を設定することで任意に決めることができる。河川作成の閾値は、集水域のセル数、

または集水域の面積で設定する。ここで河川をどのレベルまで作成するかで後の作

業の支流域設定が影響されるため、解析の目的によって閾値を変化させる必要があ

る。

SWAT によって作成される河川は単純に DEM から定義される地形から決定している

ため、特に標高差の少ない都市部などでは必ずしも現実の河川の形状と一致するわ

けではない。そこで、実際の河川とシミュレーション上の河川との形状や位置が近

くなるように、既存の河川データ(shp形式)を取り込む機能がある。

これらの設定後、「Create streams」ボタンを押すと河川が作成される(図Ⅴ-2

-2)。

ウ 流出口、流入口の設定、支流域の設定

作成された河川のうち、どこが最終的な流出口となるのか設定する。この地点が

流域の最下流として認識され、地形から自動的に流域の範囲が決定される。また、

任意でその他の流出口や流入口を設定することができる。流出口の設定の後、

「Create watershed」ボタンを押すと支流域が計算され、シェープファイルとして

出力される(図Ⅴ-2-3)。

エ 支流域の統合、貯水地・排出源の設定

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支流域が多く設定されすぎると、今後の作業における計算効率が大きく下がって

しまうため、微小な支流域を隣接する支流域に統合する機能がある。統合する支流

域の基準として、平均支流域面積の一定の割合以下、または一定の面積以下の 2 つ

から選択できる。ただし、河川の合流場所など、モデル上統合できない支流域もあ

る。

さらに、貯水池や排出源を設定することができる。これにより、ダムなどによる

水の流れの変化や、下水などによる人為的な負荷の影響を考慮することができる。

図Ⅴ-2-1 Step1 支流域の設定画面

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図Ⅴ-2-2 河川の作成

図Ⅴ-2-3 支流域の作成

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2)HRUの作成

このステップでは、解析の最小単位となる HRU(Hydrological Response Unit)を

作成する。HRU は土地利用、土壌、傾斜区分の組み合わせによって分割される。この

ステップにおける設定画面を図Ⅴ-2-4に示す。

ア 土地利用データ、土壌データの準備

ラスター形式で作成した土地利用図と土壌図を読み込む。さらに、それぞれのラ

スターデータのセル値と SWAT 上にデフォルトで設定されたコードとの対応表を csv

形式で作成し読み込む。土壌については、SWAT のデフォルトデータを使用せず、ユ

ーザーが各種物性データを直接入力する方法も可能である。

イ 傾斜区分の設定

区分したい平均傾斜の範囲を任意で設定することが出来る。この設定により、急

傾斜地と緩傾斜地とでそれぞれ異なるパラメータ設定や、結果比較をすることが可

能となる。

ウ HRU除外閾値の設定

上記までの設定をした後、「Read」ボタンを押すと HRUが自動で計算・作成される。

HRUがあまりにも多く計算効率が悪くなってしまう場合や、細かい区分が必要ない場

合は、微小な HRU を削除するオプションが利用できる。1つの支流域に 1 つの HRU

のみ作成する設定や、土地利用・土壌・傾斜区分のそれぞれにおいて面積割合が一

定以下の HRUを削除する設定などが可能である。

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図Ⅴ-2-4 HRUの設定

3)気象データの読み込みとシミュレーション条件の設定・実行

このステップでは、気象データを読み込み、各種パラメータの設定を行った後に

シミュレーション実行のための詳細条件設定を行う。このステップにおける設定画

面を図Ⅴ-2-5に示す。なお、このステップでは SWAT Editor という別のアプリ

ケーションが利用されるため、事前にインストールしておくことが必要である。

ア 気象データの読み込み

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SWATのシミュレーションに必要な気象データは、以下の通りである。

・各気象観測所の緯度経度、標高(m)

・最高気温、最低気温(℃)

・降水量(mm)

・風速(m/s)

・相対湿度

・日射量(MJ/m2)

以上のデータをそれぞれ別のテキストファイルとして作成する。気象観測所の情

報を入力するテキストファイルは、1つのファイルに複数の観測所データを入力する

ことが可能であるが、それ以外のテキストファイルは観測所ごとに分けて別のファ

イルとして作成する必要がある。作成したファイルは、観測所のテキストファイル

と同じフォルダに格納する。

データに欠測値がある場合やデータの入手が難しい場合は、Weather generatorと

いう機能によりシミュレーション値で補完することが可能である。 Weather

generator を利用するにはシミュレーションを行うための気象データが必要となる

が、アメリカ大気研究センター(NCAR)の HPから世界中をカバーしたデータ(Climate

Forecast System Reanalysis: CFSR)が利用可能である。

(http://swat.tamu.edu/media/99082/cfsr_world.zip)

イ パラメータの設定

ここでは、シミュレーションに用いられる各種データベース内のパラメータの編

集や、計算方法の変更、人為影響(management scenario)の設定などが可能である。

ウ シミュレーション実行のための条件設定、シミュレーションの実行

ここでは、シミュレーションを実行するための各種設定を行う。シミュレーショ

ン期間は読み込んだ気象データから自動で設定されるが、任意で変更することが可

能である。また、シミュレーションの初期は結果が安定しないため、ウォームアッ

プ期間として、一定期間は推定結果に用いないことが推奨されており、ここで任意

に設定できる。その他、出力時の時間軸(月別、日別など)や出力項目、計算に使

用する PC の CPU(32-bit, 64-bit)などを設定する。設定を「Setup SWAT Run」ボ

タンを押して保存した後、「Run SWAT」ボタンを押すとシミュレーションが実行され

る。

シミュレーションは、流域全体及び支流域単位、日単位で評価され、水収支や物

質循環の要約結果が視覚化されて示される。

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図Ⅴ-2-5 シミュレーション実行のための条件設定

図Ⅴ-2-6 シミュレーション実行結果の一例

(3)森林域を対象にSWATモデルを適用するにあたっての課題

「水文モデルを用いた流域からのリン流出量推定の現状と課題」(清水・小野寺,2015)

によると、現状では森林域を中心に解析した事例が非常に少ない状況である。特に日本に

おける研究は斐伊川(鳥取県・島根県)(Somura et al. 2012)、旭川流域(岡山県)(Shimizu

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et al. 2011)など、森林率の高い流域で SWATを適用した事例に限られ、SWAT によって森

林の機能や流域への影響を推定することを目的とした研究例は日本においてはまだ存在し

ない。

海外で特に森林地域に着目して SWATを適用した例としては、アメリカにおいて森林生態

系の水・炭素循環を推定した例(Yang and Zhang 2016)、カナダ北方林で適用できるよう

SWATの改良を行った例(Watson et al. 2008)、及びポーランドにて森林面積の変化に伴う

水収支の変化を予測した例(Durlo et al. 2016)といった研究例があるが、日本のように

地形、土壌、地質、降水量など自然要因のみでも複雑性の高い流域での適用例は多くない。

こうした状況を踏まえると、SWATモデルをわが国の森林域に適用するには、まず日本特

有の自然の複雑性を考慮した最適化が必要となる。SWATモデルの最適化を行うために必要

な準備作業として、以下の 2点が挙げられる。

・SWATモデルに内蔵されている森林関連パラメータについて整理し、パラメータを操作・

追加するためにはどのような作業が必要か整理する。

・菊池川流域内の森林の特徴を支流域ごとに整理した上で、適切な森林小流域に調査地

を設置し、実測データを取得する。

これらの作業を行うことで、各種パラメータを日本の森林の状況にあわせた値に調整

し、SWATモデルを最適化することができる。

(参考文献)

・清水裕太, 小野寺真一. "水文流出モデルを用いた流域からのリン流出量推定の現状と課題

(リン循環)." 地球環境 20.1 (2015): 111-116.

・Somura, H., et al. "Impact of suspended sediment and nutrient loading from land uses

against water quality in the Hii River basin, Japan." Journal of Hydrology 450 (2012):

25-35.

・Shimizu, Yuta, Shin-ichi Onodera, and Mitsuyo Saito. "Effect of climate change on nutrient

discharge in a coastal area, western Japan." IAHS Publication 348 (2011): 172-177.

・Yang, Qichun, and Xuesong Zhang. "Improving SWAT for simulating water and carbon fluxes

of forest ecosystems." Science of The Total Environment 569 (2016): 1478-1488.

・Watson, Brett M., et al. "Modification of SWAT for modelling streamflow from forested

watersheds on the Canadian Boreal Plain This article is one of a selection of papers

published in this Supplement from the Forest Watershed and Riparian Disturbance (FORWARD)

Project." Journal of Environmental Engineering and Science 7.S1 (2008): 145-159.

・Durło, Grzegorz, et al. "Hydrological responses to forest cover change in mountains under

projected climate conditions."

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(4)モデル構築の概要

モデル構築の手順は、モデル設計、キャリブレーション・感度分析、検証(バリデー

ション)、予測・評価及び新たな知見の蓄積による事後評価となっている。以下にモデ

ル構築における各ステップをフロー図に示す。

図Ⅴ-2-7 モデル構築における各ステップのフロー

1)モデル設計

このステップでは支流域、HRUの設定、時間間隔の設定、土地利用・地形標高・河

道の設定等の初期条件の設定及び各種パラメータ値の設定を行う。なお、モデル設

計を行うために必要なデータについては、既存資料及び現地調査にて取得する。

2)キャリブレーション・感度分析

SWAT モデルの強みの1つとして、通常は実測値を得られないようなパラメータに

対して、流量など実測値の得られる出力結果を利用して校正(キャリブレーション)

することで現実に近いと想定される値を得られる、という点がある。調整し得られ

たパラメータ値を使用してシミュレーションを行うことで、実測値と近い出力結果

を得られる。

また、どのパラメータが出力結果に強く影響しているか明らかにするため、感度

1)モデル設計

3)検証(バリデーション)

4)予測・評価

既存資料 ・土地利用 ・地形標高 ・土壌 ・気象

現地調査データ との比較 ・水量 ・水質等

2)キャリブレーション 感度分析

5)新たな知見の蓄積

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分析を行うことが重要である。感度分析結果から、キャリブレーションの対象とす

るパラメータを絞り込むことが出来る。なお、キャリブレーション等を行うために

必要な実測データについては既存資料及び現地調査にて取得し、キャリブレーショ

ン・感度分析は SWAT-CUPというアプリケーションによって実行する。

3)検証(バリデーション)

キャリブレーションを行っていない期間において、キャリブレーション済みのパ

ラメータ値を用いて計算した出力結果と、実測データとを比較することで、モデル

の信頼性・再現性を確認する。評価の指標としては決定係数や Nash Sutcliffe

Efficiency (ENS)など各種存在し、一定の基準値以下の場合、再現精度が悪いと評価

され、再度パラメータの調整を行う必要がある。

4)予測・評価

一定以上の精度で再現性があると評価されたモデルを用いて、将来起こりうるシ

ナリオ(崩壊・開発による森林面積の減少や、樹種構成の変化など)に対して、水

収支や物質輸送量がどう変化するか予測することができる。

以上の作業を経て得られた推定結果や予測結果から、森林が海域へ与える影響に

ついて評価する。この段階までに新たな知見が得られた場合、モデル設計にフィー

ドバックし、さらに精度の高いモデルを構築していく。

図Ⅴ-2-8に、実測データが 2009 年から 2016 年まで利用可能とした場合の各

ステップの流れを示した。

図Ⅴ-2-8 各ステップの流れ