AC JP ドメイン最初の Webサイトyas.tu.chiba-u.ac.jp/paper/d/HEE-14-002.pdfHEE-14-002...

6
HEE14002 2014/1/17©2014IEEJapan ACJP ドメイン最初の Web サイト 檜垣 泰彦 (千葉大学) 池田 宏明(千葉大学名誉教授) The first web site in ac.jp domain Yasuhiko Higaki (Chiba University) Hiroaki Ikeda (Professor Emeritus, Chiba University) Ikeda lab, Chiba University started the first web site in ac.jp domain in Oct. 1993. The main content of the site was graphical symbol database and multimedia pages. OPAC in University Library, experimental web site of Chiba City, Educational affairs support system and International conference support system were developed by Ikeda lab using the same technology as the site. キーワード:インターネット,ホームページ,WWWWeb ページ,蔵書検索システム,国際標準化,図記号 (Internet, home page, World Wide Web, web page, online public access catalogue, international standardization, graphical symbol) 1. はじめに 1993 年(平成 5 年)10 19 日,筆者らの研究室「千葉 大学池田研」(当時。以下「池田研」と称す)の Web サイ トが関係メーリングリストやニューズグループを通じてア ナウンスされ,公開された。これは,日本の大学(ac.jp メイン)では最初のものであった。本稿はこの前後の千葉 大学池田研のインターネットに関連した研究活動の記録を 掘り起こし,浅いながらすでに失われつつあるインターネ ット黎明期の記録として残すことが目的である。 2. 当時のキャンパスネットワーク事情 千葉大学では 1990 年(平成 2 年)3 月より,JUNET よる電子メールサービスがスタートし,ユーザ ID@ .chiba-u.ac.jp のメールアドレスによるメール交換が可能 となった。この時点での学内ネットワークはΣネットワー クによるダイヤリングセットを用いた回線であり,パソコ ンや端末をシリアルインタフェース経由でメールホストに 接続して利用していた。 1992 年(平成 4 年) 2 月からは FDDI (100Mbps)が導入され,ネームサーバこそないものの,正 式に取得したグローバル IP アドレスによる学内の IP 接続 が可能となった。 学外との IP 接続は未だであったが,総合情報処理センタ ー(当時)からのダイヤルアップ(uucp)でメール交換す る時期がしばらく続いた。また,当時盛んであったネット ニュースの交換も外部とのダイヤルアップ接続で開始し た。その間,閉じた世界でのネームサーバの立ち上げや部 局内の LAN の整備を進め,待ちに待った学外との IP 接続 が実現したのは 1993 年(平成 5 年)4 月末である。当時の 海外との接続事情は複雑だったようで,海外まで traceroute が通るようになったのは,さらにその1ヶ月先の 6 月にな ってからであった。その後,グローバルアドレスによる学 内ネットの時代を経て,2002 年(平成 14 年)にファイア ウォールで囲まれた現在の構成となる。 3. 池田研 Web サイトの立ち上げ 池田研と UNIX OS との関係は 1985 年(昭和 60 年) 3 月に導入した TOSBAC UX-300FII から始まる。東芝の UNIX 搭載の科学技術用デスクトップコンピュータ 16bit/16MHz CPU,主記憶 1MB5.25 インチ 30MB の磁気ディスク,10 個の RS-232C インターフェース,OS SystemIII をベースに東芝が日本語化したもの)である。 1991 年(平成 3 年)5 月に DEC (Digital Equipment Corporation)社の DECstatsion(2台)を,さらに年度末 に1台を追加し,計3台(表1)を導入した。これらは Ethernet 端子を備えており,これを 1992 年(平成 4 年)2 月に設置された FDDI による学内ネットワークに接続して 利用した。 OS BSD をベースとした Ultrix 4.2a であった。 ディスクは RZ55(332MB)RZ56(645MB)等を SCSI で接 続して利用した。図1は現在保存されている DECstation 5200 である。学内だけの IP 接続という閉じた世界ではあ ったが,学内の拠点サーバから電子メールやネットニュー スの供給を受け,ネットワークの機能を活用していた。ま た,檜垣はこれらの DECstation を使って,学内における DNS の整備やそれを用いたメール配送設定など,来るべき 外部との IP 接続の準備に積極的に協力した。 電気学会研究会資料 電気技術史研究会 HEE-14 pp.5-102014-1-17)から 電気学会の許可を得て転載 http://yas.tu.chiba-u.ac.jp/paper/d/HEE-14-002.pdf 5

Transcript of AC JP ドメイン最初の Webサイトyas.tu.chiba-u.ac.jp/paper/d/HEE-14-002.pdfHEE-14-002...

  • HEE-14-002

    2014/1/17©2014IEEJapan

    AC・JP ドメイン最初の Web サイト

    檜垣 泰彦*(千葉大学) 池田 宏明(千葉大学名誉教授)

    The first web site in ac.jp domain Yasuhiko Higaki* (Chiba University)

    Hiroaki Ikeda (Professor Emeritus, Chiba University)

    Ikeda lab, Chiba University started the first web site in ac.jp domain in Oct. 1993. The main content of the site was graphical symbol database and multimedia pages. OPAC in University Library, experimental web site of Chiba City, Educational affairs support system and International conference support system were developed by Ikeda lab using the same technology as the site.

    キーワード:インターネット,ホームページ,WWW,Web ページ,蔵書検索システム,国際標準化,図記号 (Internet, home page, World Wide Web, web page, online public access catalogue, international standardization, graphical symbol)

    1. はじめに

    1993 年(平成 5 年)10 月 19 日,筆者らの研究室「千葉大学池田研」(当時。以下「池田研」と称す)の Web サイトが関係メーリングリストやニューズグループを通じてア

    ナウンスされ,公開された。これは,日本の大学(ac.jp ドメイン)では最初のものであった。本稿はこの前後の千葉

    大学池田研のインターネットに関連した研究活動の記録を

    掘り起こし,浅いながらすでに失われつつあるインターネ

    ット黎明期の記録として残すことが目的である。

    2. 当時のキャンパスネットワーク事情

    千葉大学では 1990 年(平成 2 年)3 月より,JUNET による電子メールサービスがスタートし,ユーザ ID@~.chiba-u.ac.jp のメールアドレスによるメール交換が可能となった。この時点での学内ネットワークはΣネットワー

    クによるダイヤリングセットを用いた回線であり,パソコ

    ンや端末をシリアルインタフェース経由でメールホストに

    接続して利用していた。1992 年(平成 4 年)2 月からは FDDI系(100Mbps)が導入され,ネームサーバこそないものの,正式に取得したグローバル IP アドレスによる学内の IP 接続が可能となった。

    学外との IP 接続は未だであったが,総合情報処理センター(当時)からのダイヤルアップ(uucp)でメール交換する時期がしばらく続いた。また,当時盛んであったネット

    ニュースの交換も外部とのダイヤルアップ接続で開始し

    た。その間,閉じた世界でのネームサーバの立ち上げや部

    局内の LAN の整備を進め,待ちに待った学外との IP 接続

    が実現したのは 1993 年(平成 5 年)4 月末である。当時の海外との接続事情は複雑だったようで,海外まで tracerouteが通るようになったのは,さらにその1ヶ月先の 6 月になってからであった。その後,グローバルアドレスによる学

    内ネットの時代を経て,2002 年(平成 14 年)にファイアウォールで囲まれた現在の構成となる。

    3. 池田研 Web サイトの立ち上げ

    池田研と UNIX 系 OS との関係は 1985 年(昭和 60 年)3 月に導入した TOSBAC UX-300FII から始まる。東芝のUNIX 搭載の科学技術用デスクトップコンピュータ(16bit/16MHz の CPU,主記憶 1MB,5.25 インチ 30MBの磁気ディスク,10 個の RS-232C インターフェース,OSは SystemIII をベースに東芝が日本語化したもの)である。

    1991 年(平成 3 年)5 月に DEC (Digital Equipment Corporation)社の DECstatsion(2台)を,さらに年度末に1台を追加し,計3台(表1)を導入した。これらは

    Ethernet 端子を備えており,これを 1992 年(平成 4 年)2月に設置された FDDI による学内ネットワークに接続して利用した。OSはBSDをベースとしたUltrix 4.2aであった。ディスクは RZ55(332MB),RZ56(645MB)等を SCSI で接続して利用した。図1は現在保存されている DECstation 5200 である。学内だけの IP 接続という閉じた世界ではあったが,学内の拠点サーバから電子メールやネットニュー

    スの供給を受け,ネットワークの機能を活用していた。ま

    た,檜垣はこれらの DECstation を使って,学内におけるDNS の整備やそれを用いたメール配送設定など,来るべき外部との IP 接続の準備に積極的に協力した。

    電気学会研究会資料

    電気技術史研究会 HEE-14 pp.5-10(2014-1-17)から

    電気学会の許可を得て転載

    http://yas.tu.chiba-u.ac.jp/paper/d/HEE-14-002.pdf

    ― 5 ―

  • 池田はこの間,常にインターネット関係の新しい情報を

    内外の関連メーリングリストから収集し,研究に役立ちそ

    うないくつかのソフトウェアを DECstation にインストールするように檜垣に指示していた。この中に 1993 年 1 月にリリースされた NCSA X Mosaic Ver. 0.5 や CERN httpd 0.9b が含まれていた。まだ外部と IP 接続されていなかったため,ソースを N1 ネットを利用して東大から千葉大に転送し,インストールしていた。このようにして,1993 年(平成 5 年)4 月末に外部との IP 接続が実現する前から,閉じた世界で Web サイト立ち上げの準備が進んでいた。

    海外とも通信が可能となってから約4ヶ月後の 1993 年(平成 5 年)10 月 19 日,池田研の Web サイトは公開の時を迎えた。国内では infotalk メーリングリストへ,海外へは comp.text, comp.sgml, alt.hypertext ニューズグループへアナウンスされた。これは日本では3番目(1)(2)の,ac.jpドメインでは最初の Web サイトである。まだブラウザ側の日本語対応が整っていなかったため,コンテンツは英語で

    記述されていた。池田研の Web サイト公開用としては図1に示す DECstation 5200 が使われた。

    残念ながら公開当時のスクリーンショットは残っていな

    い。図2は Internet Archive(3)により 1996 年(平成 8 年)12 月 21 日に保存されたページを最近のブラウザで表示したものである。主なコンテンツは,図記号データベース,

    絵や詩,音楽演奏等のマルチメディア情報,大学案内等で

    あった。図記号データベースとマルチメディア情報につい

    ては,以下で詳しく述べる。大学案内についてはそのトッ

    プページを図 3 に示す。 図 4 にローカルのニューズグループに自動投稿されたア

    ナウンス翌日のアクセスログの集計結果の記事を示す。こ

    れによると,学内からのアクセスの他,海外からのアクセ

    スが多くみられる。

    4. 図記号データベース

    池田研の Web サイトがアナウンスされたときの文面には「国際電気標準会議(IEC, International Electrotechnical Commission, Geneva)で SC3C(Graphical Symbols for Use

    図 2.池田研の Web サイト(1996 年 12 月 21 日) (当時の URL http://www.hike.te.chiba-u.ac.jp/)

    Fig. 2 Ikeda lab web site (Dec. 21, 1996)

    表 1. 池田研で導入した DECstation の仕様 Table 1. The specifications of the DECstations. 型名 CPU メモリ グラフィ

    クス Ethernet 使用開始

    DECstation 5200

    R3000 25MHz 32MB 24 面

    10Base2, 10Base5 1991 年 5 月

    DECstation 3100

    R2000 16.67MHz 24MB 8 面 10Base5 1991 年 5 月

    Personal DECstation 5000/25

    R3000A 25MHz 24MB 8 面 10Base5 1992 年 3 月

    図1.当時公開に使われた DECstation 5200 Fig. 1 DECstation 5200 used for web server.

    図 3. 千葉大学概要のトップページ

    Fig. 3 Top page of the Chiba University Overview

    ― 6 ―

  • on Equipment)が国際標準化している、機器や装置に使う図記号(現在までに約 500 ある)に基づいた HTML 文書を暫定的に公開します。」とある。この「図記号データベース(4)」

    は当初 Web とは無関係に,池田が中心となって整備を進めていた(5)ものであり,Web の技術の登場を受けて,当時の研究室所属学生らが HTML でマークアップした。英語とフランス語で記述されていた。この図記号データベースの

    Web による公開は世界中の国際標準化関係者から高い評価を受け,大きなインパクトを与えた。その後,検索機能の

    追加や,言語(日本語)の追加などの改良がおこなわれた。

    図 4 のディレクトリ別ログ集計において,図記号データベース関連の「iec417」を含む関係ディレクトリが上位に来ており,多くアクセスされていたことがわかる。図 5 に示すスクリーンショットは 1994 年(平成 6 年)初め頃のものである。

    5. マルチメディア情報の提供

    池田研の Web サイト公開時の一番の目的は図記号データベースであったが,そのほかにも注目されたコンテンツが

    あった。それは当時の Web サイトではまだあまり公開されていなかった,絵とそれに付けられた詩や楽器演奏などの

    マルチメディアを活用したコンテンツであった。 当時檜垣が趣味として参加していた古楽メーリングリス

    ト(EMML)の主催者である林聡子氏がメンバーを描いた絵

    付の詩集「実験物理の部屋」(図 6)は,文字中心のコンテンツが一般的であった中で,美しい絵や詩と出会える数少

    ないページの一つであった。ブラウザが日本語に対応して

    いなかったため,画像として文字を埋め込んで対応した。

    いくつかの作品には檜垣による演奏がBGMとして流れる

    ようにマークアップされていた。図 4 のコンテンツ別アクセス集計において,「rooms4res」が 2 番目にランクされていることからもその人気の高さがうかがえる。

    その後,檜垣による古い音楽の電子楽器による演奏

    「Electronic Early Music」,古楽器やそれらによる演奏を紹介する「Renaissance Consort」が追加された。これらもオーディオが聴ける珍しいコンテンツとして注目され,海

    外からのアクセスも多かった。

    図 5. 図記号データベースのページ

    Fig. 5 Web page of Graphical Symbols

    Newsgroups: hike.log.wwwPath: news.hike.te!higakiFrom: [email protected]: www.hike.te.chiba-u.ac.jp access_log daily reportMessage-ID: Sender: [email protected] (Yasuhiko Higaki)Organization: Dept of Electrical and Electronics Engineering, Chiba UniversityDate: Wed, 20 Oct 1993 15:19:40 GMT

    www.hike.te access_log daily report Thu Oct 21 00:19:09 GMT+9:00 1993From Oct 20 00:34 to Oct 21 00:10

    Access freqency sorted by host name

    579 bang.lanl.gov516 saddl1.jrc.it489 hike1406 cuphd.nd.chiba-u.ac.jp395 keymaster.crl.dec.com357 geos209.oslo.sgp.slb.com357 css.cs.sfu.ca353 yuri.ipc.chiba-u.ac.jp342 lithibm1.epfl.ch322 syy.oulu.fi314 narrow.ntt.jp295 alan.k.tsukuba-tech.ac.jp294 somosan.educ.cc.keio.ac.jp293 ground.cs.columbia.edu288 itami.naka.jaeri.go.jp237 stronsay.aiai.ed.ac.uk211 bang.nta.no210 verdandi.ics.es.osaka-u.ac.jp209 verne.cnam.fr205 att-out.att.com184 server.uwindsor.ca181 garnet.bmr.gov.au178 maigret.cog.brown.edu175 sun.com165 camel.on.cs.keio.ac.jp164 hermes.nacsis.ac.jp161 134.243.110.22157 hplose.hpl.hp.com155 yom.cerfnet.com154 meta.stanford.edu153 wings.nanzan-u.ac.jp153 venuti.aa.msen.com152 sandman.lerc.nasa.gov146 porgy.jpl.nasa.gov145 silicon.irf.se132 milawa.gh.cs.su.oz.au130 void.ncsa.uiuc.edu123 shiva.uu.net122 absolut.osf.org120 nanbu.mt.cs.keio.ac.jp120 kejal-9101.pc.helsinki.fi117 dutigd.twi.tudelft.nl114 brazos.is.rice.edu113 nsh.is.titech.ac.jp112 purgatory.ecn.purdue.edu112 korint.cmd.uu.se110 wcgall.physics.sunysb.edu

    (170行省略して折り返し)

    Access frequency sorted by directory

    7888 /iec417/symbol/iec417gif37/4499 /rooms4res/jb/584 /home/satoshi/pics/mosaic/iec417/symbol/iec417gif37/578 /iec417/html/doc/547 /iec417/symbol/iec417gif150/409 /iec417/html/index/406 /profs/325 /rooms4res/264 /231 /iec417/symbol/chibalogo/221 /iec417/symbol/etclogo/188 /iec417/153 /chiba-u/146 /iec417/symbol/ieclogo/79 /htbin/74 /eem/46 /lab/45 /symbol/iec417gif37/38 /fe/28 /ikeda/IEC/24 /te/20 /iec417/symbol/icon/16 /iec417/html/index/ap/av/14 /eem/susato/1312 /iec417/symbol/iec417gif75/9 /symbol/ieclogo/9 /symbol/chibalogo/7 /iec417/html/index/ap/appli1/7 /fe/www.hike.te.chiba-u.ac.jp/te/6 /ikeda/chiba-u/5 /ikeda/5 /iec417/html/5 /chiba-u/te/4 /iec417/html/index/ap/appli2/2 /usr/local/lib/pictures/xb/2 /ikeda/10036/2 /home/satoshi/pics/mosaic/iec417symbol/iec417gif37/2 /home/satoshi/pics/mosaic/iec417/html/doc/1 /html/index/

    error_log:[Wed Oct 20 00:57:54 1993] httpd: successful restart--------------------------------------------------

    [email protected]↓↓←←← 桧垣 泰彦@千葉大学工学部電気電子工学科(10b) ←←←←←←↓ (Higaki, Yasuhiko) [email protected] ↑→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→←→→

    図 4.アナウンス翌日のアクセスログのサマリ Fig. 4 The Access log summary of the web site

    図 6. 実験物理の部屋(林聡子)のカタログ(部分)

    Fig. 6 Rooms for Researcher by Satoko Hayashi.

    図 7. ルネッサンスコンソートのページ(部分) Fig. 7 Renaissance Consort by Yasuhiko Higaki.

    ― 7 ―

  • 6. 図書館情報の提供

    池田研は檜垣が中心となり,メインフレーム中心の 1985年(昭和 60 年)ころから,附属図書館と共同で,共同利用計算機上の蔵書検索システムの開発を行っていた。1989 年(平成元年)4 月にはメインフレーム上に構築した蔵書検索システムを研究室のPCからダイヤリングセット経由のシ

    リアル回線で接続して利用する LISICB を構築した。その後,IP 接続と UNIX 系 OS の時代に入り,これらの環境を活用した新しい構成のシステムを模索していた。池田研の

    Web サイトの立ち上げの頃からこの蔵書検索システムをUNIX 系 OS 上に OPAC(Online Public Access Catalog)として構築することを考え着手した。附属図書館の図書目録

    にはもちろん,多くの日本語蔵書が含まれ,それらの書誌

    情報は日本語で書かれている。開発開始時は Web ブラウザ

    が日本語に対応していなかったため, telnet による匿名ログインや,その頃盛んに使われていた gopher を使っての実装(図 8)を試みた。開発が進むにつれ,Web ブラウザの日本語対応が実現し,Web による OPAC の実現が可能となった。このようにして 1994 年(平成 6 年)2 月には,匿名ログインや gopher の機能に加え,CGI を用いた Web ベースの日本語 OPAC のひな形(雑誌検索用)が完成した。そ

    図 9. 附属図書館の Web サイト (http://www.ll.chiba-u.ac.jp/)

    Fig. 9 Web site of the University Library

    図 10. 蔵書検索(OPAC)のトップページ

    Fig. 10 Top page of the Online Public Access Catalog.

    図 11. 検索結果の表示

    Fig. 11 Final Page of the OPAC.

    図 8. gopher による蔵書検索システム

    Fig. 8 Online Public Access Catalog by gopher

    ― 8 ―

  • の後,単行本の検索にも対応し,同年 3 月に完成,図書館の Web サイトと(図 9)と共に公開(6)された。図 10 にOPAC のトップページ,図 11 に検索結果のページを示す。この本格的Web対応日本語OPACは日本の図書館で最初のものであった。高速な検索を実現するために用いた

    B-TREE によるライブラリは,NEC PC9800 シリーズ上のシステムで使用するために独自開発したものを流用した。

    この OPAC は 2001 年(平成 13 年)2 月に富士通の新システムが導入されるまでの約 7 年間利用された。ソフトウェアを動作する状態で保存することは難しいが,この OPACは別の UNIX 系のハードウェア上に動作する形で保存(非公開)されている。

    OPAC の他にも,お知らせ,利用案内,図書館報などのコンテンツを提供した。トップページ(図 9)で聴ける弥生の鐘の音色(当時の新館の鐘つき台に設置されていた鐘の

    音の録音)も有名になった。 図 12 は Web サーバ用として 1994 年(平成 6 年)4月に

    附属図書館に導入された NEC の EWS-4800/330(CPU: R4400PC 133MHz,メモリ 64MB,ディスク容量約 5GB)

    と当時の図書館担当者である。有岡圭子氏と加藤晃一氏(写

    真)が担当していた。

    7. 千葉市市政情報の発信実験

    千葉市の市政情報の発信実験の一環として,千葉市の実

    験 Web サイト(図 13)が 1995 年(平成 7 年)4 月 20 日から 1997 年(平成 9 年)2 月まで池田研のサーバで運用(7)

    された。千葉市の高度情報化推進室から受け入れた受託研

    究員(仲山正志氏)との共同研究として 2 年間実施(8)された。千葉市の紹介,ニュース,見どころ等の他,千葉市の

    イメージソングも公開されていた。その後,1997 年(平成9 年)3 月 1 日より,現在の URL http://www.city.chiba.jp/ にて千葉市による正式サイトとして運用開始された。

    8. 授業支援システム

    1997 年(平成 9 年)から池田研では檜垣が中心となって大学の授業運営を支援するための時間割やシラバスのため

    のシステムへの取り組みを始めた。工学部では同時期より,

    業者が solaris 上に開発したキオスク端末を持つオンラインシラバスの運用が始まっていた。このシステムはソフトウ

    ェアの維持費が高く 2 年ほどで運用継続が困難となった。1998 年(平成 10 年)秋からは同じハードウェアを利用して,檜垣が独自開発したソフトウェアによる代替システム

    の運用が開始された。これは,フロッピディスクで定めら

    れた形式のテキスト原稿を収集し,それをもとに HTML で記述したオンライン用の Web ページと,TeX で記述した冊子印刷用版下を作成するものであった。

    2000 年(平成 12 年)秋からは,Web ページによりシラバス原稿を収集し,授業編成支援機能も備えた授業支援シ

    ステムを開発し,移行した。このシステムはデータベース

    管理システムを使用せず,テキスト形式のファイルのみで

    実装されており,その性能と拡張性に限界があった。2001年度(平成 13 年度)後期には履修登録のオンライン化を試行した。

    図 13. 千葉市市政情報の発信実験のサイト

    Fig. 13 Experimental web site of Chiba City 図 14. 時間割とシラバス(授業支援システム)

    Fig. 14 Educational affairs support system.

    (b) 時間割

    (a) シラバス

    図 12. OPAC を運用していた NEC EWS-4800/330

    Fig. 12 NEC EWS-4800/330 for OPAC with Mr. Kato

    ― 9 ―

  • これらの試行期間を受け,2002 年(平成 14 年)からは,データベース管理システム Postgres を用いたシステムを構築(9)した。シラバス・時間割サブシステム,授業編成・運

    用サブシステム,履修登録サブシステム,電子メール連絡

    サブシステムからなる本格的なものである(図 14)。本システムの開発にあたっては現場(学務係)担当者であった阿

    由葉努氏の尽力によるとことが大きい。 教務系のシステムは業務内容の変化も激しく,必要とさ

    れる仕様もはっきりしないため,運用を伴う進化型プロト

    タイピングの手法を用いて,反復型のソフトウェア開発を

    行った。このシステムは工学系学生約 3000~4000 人に対して利用され,必要なメインテナンスを行いながら,現在ま

    で 10 年以上に亘って利用され続けている。

    9. 国際会議支援システム

    1999 年(平成 11 年)に国際電気標準化会議(IEC)の総会が日本(京都)で開催された。この IT システムを池田研で担当することとなり,Web を用いた国際会議支援システムを開発(10)した(図 15)。総会は 51 の IEC メンバー国が毎年持ち回りで開催する大規模な催しであり,この京都大会

    では,参加国 53 カ国から約 1500 人が集い 1999 年 10 月18 日~29 日の 12 日間に約 170 の会議が会場の国立京都国際会館で行われた。

    会議支援システムでは,ドキュメント(標準化策定のた

    めの会議文書)処理,貸出予約処理,関連情報の提供を行

    った。標準化策定のための会議を支援するという業務に対

    して,要求仕様がはっきりしないため,次々と追加される

    要求を実装し,それに修正を加えることの繰り返しで期待

    される機能を実装していった。その作業は会期中も続いた。 この会議支援システムは IEC の情報システムとしては初

    めての成功例であり,内外から高い評価を得た。それを反

    映して 2000 年,2001 年に総会を開催したスウェーデンとイタリアの国内委員会からもこのシステムを使いたいとの

    申し入れがあり,これを受けた。さらに 2003 年のカナダにおいても利用され,その実績から,2004 年にこのシステムを IEC 中央事務局に技術移転した。このシステムの成熟においては,総会コーディネータである Mrs. Arlette-Josiane Skinner の尽力によるところが大きい。これをベースに発展させたシステムが現在も IEC の総会で用いられている。

    10. おわりに

    国内の大学で最初に Web サイトを立ち上げた頃の状況と,その発展としてのその後の WWW 技術とのかかわりについて述べた。特定の研究室や大学のローカルな内容とな

    っているが,ac.jp ドメイン最初の Web サーバの立ち上げの記録であること,細かな点は異なるが他の大学も大筋は似

    たような状況であったと考えられることから記録としての

    価値があるものと考える。本稿を執筆するにあたり 1991 年以降保管してある電子メールの内容が役立った。

    いくつかの重要なハードウェアは保存してあるが,Web

    ページは保存されていないことが多い。その中で,Internet Archive(3)の存在価値は高い。データベースやプログラムと連携した Web ページを動作する状態で保存することはさらに困難である中,動作環境への依存が少ない OPAC については,動作する形で保管している。

    謝辞:ここで述べたサイトの立ち上げは,本文中に記載した方々

    や当時池田研に所属して研究を行った学生諸氏の協力があってこ

    そ実現できた。心より御礼申し上げます。

    文 献

    (1) つくばビジネスネットワーク:「日本最初のホームページ」, http://www.tsukuba.gr.jp/ (1999) (2013 年 12 月 19 日確認)

    (2) 針谷喜久雄:「WWW 黎明期の歴史と立役者」, http://www.ibarakiken.gr.jp/www/history/ (1999) (2013 年 12 月 19 日確認)

    (3) Internet Archive, WayBack Machine, http://archive.org/web/ (2013 年 12 月 19 日確認)

    (4) Hiroaki Ikeda, Satoshi Matsumura and Yasuhiko Higaki,“An International Standard as a Shared Electronic Publication”,Journal of Faculty of Engineering, Chiba University, Vol.45,No.2 pp.31-37 (1994)

    (5) 池田宏明:「国際標準化における情報・通信技術活用のリーダーシップ」,標準化と品質管理,Vol.63,No.9 pp.81-86 (2010)

    (6) Yasuhiko Higaki, Keiko Arioka and Hiroaki Ikeda: “Design and Implementation of Library Information Systems in Chiba University”, Digital libraries 2, 50-67 (1994)(in Japanese) 桧垣泰彦・有岡圭子・池田宏明:「千葉大学附属図書館情報システム

    (CULIS)の構築」,ディジタル図書館 2, pp.50-67(1994) http://www.dl.slis.tsukuba.ac.jp/DLjournal/No_2/ (2013 年 12 月19 日確認)

    (7) 「インターネットで市政情報を提供」,時事通信社 官庁速報(1995-4-17)

    (8) 池田宏明:「市政情報のインターネットへの発信の高度化に関する研究」,千葉市地域連携推進事業報告書(1997)

    (9) Yasuhiko Higaki, Tsutomu Ayuha and Syun Tutiya: “Construction and Operation of Registration System in University”, The transactions of the Institute of Electronics, Information and Communication Engineers. D-I, Vol.J88-D-I, No.2, pp.517-526(2005)(in Japanese) 檜垣泰彦・阿由葉努・土屋 俊:「履修登録システムの構築と運用」, 電子情報通信学会論文誌, Vol.J88-D-I, No.2, pp.517-526 (2005)

    (10) Yasuhiko Higaki, Hiroaki Ikeda, Syun Tutiya and Arlette- Josiane Skinner: “Design and Development of International Conference Support System for IEC General Meetings”, Proceedings of CCCT 2004, Vol.V, pp.281-288 (2004)

    図 15. 国際会議支援システム

    Fig. 15 International Conference Support System.

    ― 10 ―