68 走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いた粘着剤の糊残り解析 1Pa035 Analysis …

1
走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いた粘着剤の糊残り解析 Analysis of adhesive deposit on adherend surface by scanning probe microscopy (株)三井化学分析センター ○生井 勝康 Mitsui Chemical Analysis & Consulting Service, Inc., 580-32, Nagaura, Sodegaura, Chiba 299-0265, Japan 粘着テープなどの粘着剤を剥離した後の被着体表面での糊残りの評価法として、目視での観察や接触角測定などが一般的 な方法である。しかしながら、接触角法では、ブランク表面よりも、接触角が小さくなってしまう現象が見られており、このような ケースでの原因解析は、局所領域での分析手法が必要となる。 これまでに、走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いて、高分子の表面物性に寄与すると考えられている表面の分子運動性及び 表面官能基などの化学状態を評価することにより、ナノメートルスケールでの表面の劣化解析に適用し、報告してきた[1, 2]今回、これらの手法を用いて、局所領域での糊残り解析を試みた。 IntroductionMethods・水平力顕微鏡(LFM)による摩擦力の温度依存性測定 ・化学力顕微鏡(CFM)による高分子表面の表面官能基評価 Experiment高分子 の摩擦挙動は、分子鎖の熱運動特性と相関が あることから、摩 擦力 の温度依存性測定に よる表面 Tg などの転移温度及び表面の分子 運動性を評価出来る。 Ref.K. Tanaka et al., Macromolecules 2000, 33, 7588-7593. Ex.) ステアリン酸単分子膜での 摩擦力の温度依存性測定 Results and Discussionsある分子で修飾した探針と試料表面との間の相互 作用を摩擦 力(或いは、凝着力)として検出する。表面の官能基分布など を評価出来る。 Ref.J. L. Wilbur et al., Langmuir, 1995, 11, 825-831. Summary表面保護テープの粘着層の劣化処理前後での評価 180 °剥離試験 接触角測定 CFM による親疎水性評価 Torsion Signal / V Temperature / Degree C 市販の剥がしても糊残りの見られない表面保護テープを使用した。テープの粘着層を劣化させるため、真空紫外光処理や熱処理を実施した。熱処理時間を変える ことで、粘着力を調製した。被着体として、市販のシリコンウエハを用いて、熱処理前後での表面保護テープを貼りつけて、剥離試験を実施した(180°剥離)。剥離 試験後の被着体表面にて接触角測定を行った。 LFM による摩擦力の温度依存性測定 親水化処理探針での CFM測定 DFM による粘着層表面の観察(位相像) 粘着層劣化処理後に 、分子運動性の高い成分が、表面上に形成されたが、酸化劣化ではないことが分かった。 CFMにより、熱処理時間とともに、剥離後の表面での親水基との相互作用は弱く なり、接触角も、基板のSi waferよりも、わずかに減少することが分かった。 熱処理 120 分後では、島状の暗いコ ントラスト部分が見られにくくなる。 剥離後に基板表面の異物などが 除去され清浄化されたものと推測。 接触角試験のみでは説明出来ないような糊残り の評価に関して、 SPM による局所表面物性解析 が適用出来ることが示された。 Si wafer よりもわずかに 接触角が低くなる現象が 見られた。 水平力顕微鏡の原理 Ex.) 親水化処理した探針での表面の親水性疎水性評価 表面の親水基密度が多い程、摩擦力は大きくなる。 カンチレバー 検出器 レーザー XY摩擦力とねじれ変位の関係 摩擦力 走査 方向 摩擦力は、ねじれ信号 Torsion Signal)として検出。 [1] 生井 勝康、樋野 知雅子 64回高分子討論会 2Pe039 [2] 生井 勝康:塗装工学, 52, 324 (2017) ◎熱老化試験により、表面保護テープの粘着層を劣化させ、180°剥離試験、接触角測定、CFMによる局所分析を実施した。 粘着層表面は、真空紫外光を照射して劣化させた。 粘着層劣化後 粘着層劣化前 このように、粘着層表面の状態の違いを評価出来ることから、 SPM 表面物性評価手法を粘着剤の糊残り解析に適用した。 試験温度:23 試験速度:300 mm/min 試験片幅:20 mm 試験温度:25 試験液量:1 mL/min ・着液後、1秒後の接触角をプロットした。 テープの粘着層表面 の接触角:101.5° ・親水化処理した探針との相互作用を評価した。 CFM による親疎水性評価(摩擦力マッピング) 未処理 熱処理120分後 テープの被着体として、市販のSi waferを使用し、開封後すぐにテープを貼って、剥離試験を実施し、剥離後のSi waferの評価を行った。 劣化後 には、劣化前に観察されていた ひも 状の暗いコントラストの部分 が見られなくなり、島状 のものが 見られるようになった。 68回高分子年次大会にて発表 1Pa035

Transcript of 68 走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いた粘着剤の糊残り解析 1Pa035 Analysis …

走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いた粘着剤の糊残り解析Analysis of adhesive deposit on adherend surface by scanning probe microscopy

(株)三井化学分析センター ○生井勝康Mitsui Chemical Analysis & Consulting Service, Inc., 580-32, Nagaura, Sodegaura, Chiba 299-0265, Japan

粘着テープなどの粘着剤を剥離した後の被着体表面での糊残りの評価法として、目視での観察や接触角測定などが一般的

な方法である。しかしながら、接触角法では、ブランク表面よりも、接触角が小さくなってしまう現象が見られており、このような

ケースでの原因解析は、局所領域での分析手法が必要となる。

これまでに、走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いて、高分子の表面物性に寄与すると考えられている表面の分子運動性及び

表面官能基などの化学状態を評価することにより、ナノメートルスケールでの表面の劣化解析に適用し、報告してきた[1, 2]。

今回、これらの手法を用いて、局所領域での糊残り解析を試みた。

【Introduction】

【Methods】・水平力顕微鏡(LFM)による摩擦力の温度依存性測定 ・化学力顕微鏡(CFM)による高分子表面の表面官能基評価

【Experiment】

高分子の摩擦挙動は、分子鎖の熱運動特性と相関があることから、摩擦力の温度依存性測定による表面Tgなどの転移温度及び表面の分子運動性を評価出来る。(Ref.)K. Tanaka et al., Macromolecules 2000, 33, 7588-7593.

Ex.) ステアリン酸単分子膜での摩擦力の温度依存性測定

【Results and Discussions】

ある分子で修飾した探針と試料表面との間の相互作用を摩擦力(或いは、凝着力)として検出する。表面の官能基分布などを評価出来る。(Ref.)J. L. Wilbur et al., Langmuir, 1995, 11, 825-831.

【Summary】

表面保護テープの粘着層の劣化処理前後での評価

180°剥離試験 接触角測定CFMによる親疎水性評価

Tors

ion S

ignal /

V

Temperature / Degree C

市販の剥がしても糊残りの見られない表面保護テープを使用した。テープの粘着層を劣化させるため、真空紫外光処理や熱処理を実施した。熱処理時間を変えることで、粘着力を調製した。被着体として、市販のシリコンウエハを用いて、熱処理前後での表面保護テープを貼りつけて、剥離試験を実施した(180°剥離)。剥離試験後の被着体表面にて接触角測定を行った。

LFMによる摩擦力の温度依存性測定 親水化処理探針でのCFM測定 DFMによる粘着層表面の観察(位相像)

粘着層劣化処理後には、分子運動性の高い成分が、表面上に形成されたが、酸化劣化ではないことが分かった。

CFMにより、熱処理時間とともに、剥離後の表面での親水基との相互作用は弱く

なり、接触角も、基板のSi waferよりも、わずかに減少することが分かった。

熱処理120分後では、島状の暗いコ

ントラスト部分が見られにくくなる。

⇒剥離後に基板表面の異物などが

除去され清浄化されたものと推測。

接触角試験のみでは説明出来ないような糊残りの評価に関して、SPMによる局所表面物性解析が適用出来ることが示された。

Si waferよりもわずかに

接触角が低くなる現象が

見られた。

水平力顕微鏡の原理 Ex.) 親水化処理した探針での表面の親水性疎水性評価

※表面の親水基密度が多い程、摩擦力は大きくなる。

カンチレバー

検出器

レーザー

X軸Y軸

走査方向

摩擦:小 摩擦:大 摩擦:小

( 摩擦力 )

摩擦力とねじれ変位の関係

小 大 小摩擦力

走査方向

※摩擦力は、ねじれ信号(Torsion Signal)として検出。

[1] 生井勝康、樋野知雅子 第64回高分子討論会 2Pe039

[2] 生井勝康:塗装工学, 52, 324 (2017)

◎熱老化試験により、表面保護テープの粘着層を劣化させ、180°剥離試験、接触角測定、CFMによる局所分析を実施した。

※粘着層表面は、真空紫外光を照射して劣化させた。

粘着層劣化後粘着層劣化前

⇒このように、粘着層表面の状態の違いを評価出来ることから、SPM表面物性評価手法を粘着剤の糊残り解析に適用した。

試験温度:23 ℃

試験速度:300 mm/min 試験片幅:20 mm

試験温度:25 ℃ 試験液量:1 mL/min

・着液後、1秒後の接触角をプロットした。

※テープの粘着層表面

の接触角:101.5°

・親水化処理した探針との相互作用を評価した。

CFMによる親疎水性評価(摩擦力マッピング)未処理 熱処理120分後

※テープの被着体として、市販のSi waferを使用し、開封後すぐにテープを貼って、剥離試験を実施し、剥離後のSi waferの評価を行った。

劣化後には、劣化前に観察されていたひも状の暗いコントラストの部分が見られなくなり、島状のものが見られるようになった。

※第68回高分子年次大会にて発表(1Pa035)