『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

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安安安安安安安安安 安安安安安 Dec. 10, 2013

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安倍フェローシップからの研究助成ではじめた研究を、KDDI財団の出版助成金を用いて、2013年6月に勁草書房より出版させていただいた本についてお話しました。

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安倍フェローシップ・コロキアム Dec. 10, 2013

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アジェンダ1. ネットワーク中立性問題とは2. 政策介入のあり方3. 実証分析4. 政策提言

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

Page 3: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

1 . ネットワーク中立性問題とは?

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「ネットワーク中立性」問題とは?• ”Net neutrality (also network neutrality or Internet neutrality) is the principle that Internet service providers and governments should treat all data on the Internet equally, not discriminating or charging differentially by user, content, site, platform, application, type of attached equipment, and modes of communication.”  (Wikipedia)

• 最初に言い出したのは、コロンビア大学ロースクールの Tim Wu教授

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以前は、 End-To-End Principle(あるいは End-To-End Arguments)と呼ばれていたもの

Lawrence LessigDirector of the Edmond J. Safra Center for Ethics at Harvard UniversityProfessor of Law at Harvard Law School.

Jerome H. SaltzerMIT

David P. ReedMIT

David D. ClarkMIT

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当然に生じる最初の疑問

中立的なインターネットはどのように中立的なのか?

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近年の議論の背景1:メディアのリッチ化

出典: Noam (2008, p.28)  © 2008 COMMUNICATIONS & STRATEGIES, originally published in C&S special issue (Nov. 2008), reprinted with permission.

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近年の議論の背景2:トラフィック爆発

2012 2013 2014 2015 2016 20170 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000 

Fixed InternetManaged IPMobile data

PB per month

出典: Cisco Visual Networking Index: Forecast and Methodology, 2012–2017 より作成 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

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Wireline remains relevant even as wireless grabs most of the headlines and the attention of regulators, McCormick said. “The wireline world is really the central circulatory system of our economy,” he said. “It is the veins and the arteries that really connect what is now 

the information economy in the United States. We‘re seeing data traffic on our 

wireline networks increase at the rate of 40 percent per year and it’s wireline networks

that connect all forms of communication, whether they originate in a wireline environment or a wireless

environment.”(Communications Daily, Nov. 25, 2013)

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013Walter B. McCormick, Jr.President & CEO, US Telecom

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近年の議論の背景3:固定ネット契約者数の伸びは低い

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012*

2013*

0

5

10

15

20

25

30

35

40Global ICT developments, 2001-2013

Individuals using the InternetActive mobile-broadband subscriptionsFixed (wired)-broadband subscriptions

Per

100

inha

bita

nts

Note: * EstimateSource:  ITU World Telecommunication /ICT Indicators database

出典: ITU Statistics (http://www.itu.int/ict/statistics)より作成 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

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日本のケース

2005 2006 2007 2008 2009 2010 20111%

10%

100%

1000%

国内 ISP のバックボーン容量の拡大率トラフィック量の増加率

出典:情報通信データブック 2012 (情報通信総合研究所編 2011 )および総務省報道発表( http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_02000042.html )より作成  安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

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問題の兆候1容量逼迫の現状(ダウンロード方向)

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013出典:ネットワーク中立性に関する懇談会報告書(総務省 2007 )

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問題の兆候2

2 4 6 8 10 12 140%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

Actual QoS

平均実効速度( Mbps)

表示速度と実効速度の比率(%)

日本( 2009年11月)日本( 2011年 1月)日本( 2012年 3-4月)

日本( 2013年 3月)

米国( 2009年)英国( 2010年 5月)

豪州( 2008年Q4)

アイルランド( 2008年)

注:測定方法や対象が一定ではないので国際比較については参考値である。出典: Akamai 、 Epitiro 、 FCC 資料等より作成

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ネットワーク中立性に関するさまざまな解釈

ネットワーク事業者( ISP)は、ネット上を流れるトラフィックに対して一切関与すべきではない。

ISPは、ネット上を流れるトラフィックに対して、ネットワーク機能の維持・管理の観点から以外は、一切関与すべきではない。

ISPは、コンテンツ市場における健全な競争を育成する観点から、コンテンツ市場に対し一切進出すべきではない。

ISPは、コンテンツ市場における健全な競争を育成する観点から、著作権保護のために積極的に介入すべきである。

ISPは、健全に競争が機能している前提条件が満たされるのであれば、ネット上のトラフィックを一定範囲内で制御することはかまわない。

ISPは、利用者の QoEを改善するためには、ネット上を流れるトラフィックに介入してもかまわない。

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エポックメイキングな事象

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013http://www.nbcnews.com/id/21376597/#.UpbbCMS-2-0

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Storm in a Teacup?

Feb. 2005

Mar. 2007

House rejects net neutrality

FCC votes to begin crafting NN rules

US regulators to approve NN rules

Google, Verizon near NN plan

US court rules against FCC

Senates reject bids to overturn NN rules

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Storm in a “U.S.” Teacup?

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Not exactly true

オランダフランス

チリ韓国

イギリス EU

OECD

Neelie KroesEuropean Commissioner for the Digital Agenda 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

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集約された二つの立場

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問題を整理すると… ..

• 経済理論的に見た場合、ネットワーク中立性問題はネットワークの容量制約がもたらしたトラフィック混雑を克服して資源の最適配分を回復する問題• 派生する論点はいずれも、容量制約の存在自体、あるいは、希少な容量を支配することによって隣接市場などを支配する力を得たプレイヤーへの懸念から派生

• A「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」と、B「ネットワークを掌握し、それにより顕著な市場支配力( SMP)を持つ事業者による隣接市場での反競争的行為」の 2つの要素に分割して、議論を行うことが適当

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つまり、

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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2 . 政策介入のあり方

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トラフィック混雑への対処• 短期

• 既存容量の有効活用のために適切なインセンティブを利用者に与えることが必要

• 混雑料金• smart market

• 長期• 最適なネットワーク容量の決定• 必要な投資資金の継続的確保

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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交通経済学的知見を活用する際の留意点1. インターネットが独立プロバイダの共同作業により実現

2. サービスの品質がベストエフォート型3. 品質情報が十分に利用可能でなく、一般ユーザーにとっては理解が必ずしも容易ではないこと

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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Page 25: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

SMP事業者による反競争的行為への対処• プロバイダ単独では市場支配力の獲得・行使は困難• 問題となるのは、ボトルネックを支配する事業者がその優越的地位を利用してプロバイダ市場に参入しているケース

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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Page 26: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

SMP-ISPによる隣接市場支配への対処• ネットワーク事業者が垂直統合等を通じて隣接市場支配を試みることを一律に禁止することには問題が多い。

• 『補完財効率性の内部化』( Internalizing Complementary Efficiencies: ICE)

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

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日本政府のアプローチ• NTT東西に対する各種規制や電気通信事業法に基づく接続規制が機能し、ブロードバンドプロバイダ市場の競争性が確保されてきたと認識されていたため、反競争的行為の抑制はネットワーク中立性の中心課題としては認識されてはいなかった。

• 市場支配的事業者への対処についてはこれまでの規制を維持することで十分という認識• 「次世代ネットワーク」( Next Generation Network: NGN)の出現に対応して、これまでの規制に必要最小限の修正を加えるべきか否かが論議されたにとどまる。

• ネットワーク中立性規制の具体的運用面においても、ブロードバンド市場の競争にその解決を委ね、規制庁による直接の介入は差し控えるという姿勢が採用

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ブロードバンド産業の構造

アクセス回線卸売り業者

プロバイダ(ISP)

サービスベースの

競争事業者

設備ベースの競争事業者NTT東西

既存事業者が提供するネットワーク設備に対するアクセス

ISP

電気通信会社

サービスベースの

競争事業者

ISP

ケーブルテレビ会社

ISP

米国日本

物理的なネットワーク設備

ブロードバンドアクセス回線

インターネット接続サービス

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

78.6%

49.1%

29.1%

13.5%

5.8%

3.8%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Estimated market share

NTT group Power company CablesOther telcos Municipalities Others

BB access line wholesale market

BB access market

BB ISP market

NTT Group

Powercos

Other telcos

Cablecos

Others

Municipalities

Estimated market share in Japan

Source: Created on the basis of MIC (2008), FCC (2008a, 2008b), and Noam (2009)Note 1: ISP shares in the US are based on revenues in 2006 (Noam, 2009), which include satellite Internet; the shares

in other markets are based on the FCC’s line count and include fixed lines only.Note 2: RBOCs stand for Regional Bell Operating Companies, telcos for telecommunications companies, powercos for power

companies, and cablecos for cable companies.

43.6%

36.7%

36.3%

53.9%

53.9%

44.2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

Estimated market share

RBOC Cables Others

Estimated market share in the US

RBOCs Cablecos

Others

物理的なネットワーク設備

ブロードバンドアクセス回線

インターネット接続サービス

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日本政府は要素 Aに集中できた• プロバイダによる恣意的な帯域制御を回避するための客観的な基準が必要

• 「帯域制御に係る必要最小限の運用基準に関するルールを構築し、当該運用基準を踏まえて、各プロバイダ等が帯域制御の具体的な運用方針を自らの判断で設定・実施するという 2段階のアプローチ」

• 日本インターネットプロバイダー協会等は、 2008年 5月に「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」をまとめた

トラフィック混雑の制御

最適なネットワーク容量の確保

垂直統合型プロバイダによる市場支配力の行使

短期的施策

長期的施策

ダイナミックなネット環境において,効率性と公平性をどう確保するか?

最適容量をどのように決めるか?必要資金をどう確保するか?

低い参入障壁

特殊なビジネス慣行

自然独占性

高い参入障壁

隣接市場への参入・関与

ネットワーク事業者の市場支配力の行使をどのように規律付けるか?

隣接市場への参入は効率性基準を満たすことができるか?反競争的な市場支配力レバレッジをどう抑制するか?

「インターネット利用の急増によるネットワーク上のトラフィック混雑」(要素A)への対処

「ネットワークを支配するSMPによる隣接市場での反競争的行為」(要素B)への対処

プロバイダ

ネットワーク事業者

利用者

コンテンツ事業者

アプリケーション事業者

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

Page 30: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

Page 31: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

帯域制御ガイドラインの欠点• 制度的・形式的欠陥1. 各プロバイダの遵守状況をチェックする監査メカニズムを内包していないこと2. ガイドラインに違反したプロバイダに対してペナルティを与えるシステムを持

たないこと3. 違反状況を改善するメカニズムを構築していないこと• 自主規制としての正統性の欠如

• ガイドライン作成の段階で利用者の意見が反映されていないため、策定された自主的ルールの正統性には民主主義の観点からの不備がある。

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

Page 32: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

帯域制御ガイドラインの欠点• 制度的・形式的欠陥1. 各プロバイダの遵守状況をチェックする監査メカニズムを内包していないこと2. ガイドラインに違反したプロバイダに対してペナルティを与えるシステムを持

たないこと3. 違反状況を改善するメカニズムを構築していないこと• 自主規制としての正統性の欠如

• ガイドライン作成の段階で利用者の意見が反映されていないため、策定された自主的ルールの正統性には民主主義の観点からの不備がある。

本ガイドラインは、裁判例や行政機関による法令の適用関係に関する解釈をまとめたものではなく、あくまでも事業者としての行動の指針として、事業者団体が自主的に策定するものである。したがって、本ガイドラインは、法的効力を有するものではなく、これを遵守するか否かについては、個々の事業者の判断に任される。しかしながら、帯域制御に係る要件が本ガイドラインによって整理・公表されることにより、今後、電気通信事業者が本ガイドラインに従って制御を実施した場合には、形式的には「通信の秘密」を侵害する態様で帯域制御が行われた場合でも、正当業務行為として違法性が阻却されるとの判断がなされることが期待される。( pp.2-3)

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

Page 33: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

3 . 実証分析

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

Page 34: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

4回の実証分析を実施

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

  2007年調査 2009年調査 2011年調査 2012年調査

調査時期2007 年 7 月 27 日

~同 30 日2009 年 11 月 17 日

~同 26 日2011 年 1 月 24 日

~同 27 日2012 年 3 月 30 日

~ 4 月 25 日

調査対象地域 全国 全国 全国 関東地方一都六県

調査会社 ㈱マクロミル NTT レゾナント㈱ 楽天リサーチ㈱ NTT レゾナント㈱

有効回答数 912 1,117 768 1,024

実効速度計測サイト 調査せず http://speedtest.goo.ne.jp/ http://speedtest.net http://speedtest.net

計測サイトの位置 調査せず 東京回答者の

最寄サーバー東京

主要目的

ブロードバンド品質改善に対する支払意志額( WTP )の推定

利用者の品質リテラシーに関する分析

移動系と固定系のそれぞれにおける品質改善に対する WTPの比較

ISP 市場における競争強度の推定

対応する章 第 5章 第 7章 第 6章 第 9章

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プレミアム品質提供による資金確保の可能性(第 5章)

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1年目 2年目 3年目 4年目 5年目0 

100 

200 

300 

必要投資額投資可能額:プレミアムサービスなしの場合

指数

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ネットワーク管理の水準 厳格な基準 緩和された基準

短期的な影響利用方法に対する制約 増大 減少ネット利用時の障害確率 低下 上昇

長期的な影響要請されるネットワーク規模 抑制 拡大プロバイダ料金(月額固定) 低下 上昇

固定系と移動系の望ましい品質管理目標(第 6章)

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品質リテラシーとの関係(第 7章)• 実効速度に対して関心を有する利用者を拡大すれば、品質競争が長期的に維持されることを前提としてトラフィック混雑問題を市場メカニズムによって改善できる余地が増大( 7.3.節)

• FTTHの利用増大、トラフィック混雑の経験がそういった利用者層を増やす( 7.4.節)

• 高意識ユーザーを増やすことは高品質サービスの提供に関する収益率を改善する( 7.5.節)• プロバイダ側に高意識ユーザーのシェアを増大させるインセンティブが存在

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

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ISP市場におけるスイッチングコスト推定1(第 8章)• Shy modelをベースとしたスイッチングコストの推定

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NTT group485.4 yen

non-NTT telco710.4 yen

vender ISP724.6 yen

553.6 yen

531.7 yen

421.7 yen781.5 yen

765.0 yen610.1 yen

796.6 yen

713.5 yen

616.1 yen

NTT group2,050.0 yen

non-NTT telco3,683.0 yen

vender ISP3,427.7 yen

3,192.7 yen

cable internet4,186.5 yen

2,088.4 yen

1,752.3 yen

1,314.1 yen

4,627.6 yen

3,096.9 yen

3,535.8 yen2,589.4 yen

5,009.6 yen

4,469.5 yen

2,311.8 yen

3,245.1 yen

2,874.2 yen

3,667.1 yen

4,050.9 yen

3,067.3 yen

Page 39: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

ISP市場におけるスイッチングコスト推定2(第 9章)

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NTT系から変更

非 NTT 、ケーブルテレビ系から変更

ベンダー系から変更

NTT系から変更

非 NTT 、ケーブルテレビ系から変更

ベンダー系から変更

NTT系から変更

非 NTT 、ケーブルテレビ系から変更

ベンダー系から変更

0 500 1,000 1,500 2,000

706.3

1,933.4

1,764.0

1,348.4

1,291.4

1,764.0

1,348.4

1,933.4

1,121.9

658.8

1,941.3

1,760.8

1,292.6

1,307.4

1,760.8

1,292.6

1,941.3

1,127.0

モデル 2 モデル 1

円(月額)

NTT系プロバイダへ

非 NTT ,ケーブルテレビ系プロバイダへ

ベンダー系プロバイダへ

Page 40: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

4 . 政策提言

 安倍フェローシップ・コロキアム DEC. 10, 2013

Page 41: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

実証分析から得られた主要結果• トラフィック急増に対処するための投資資金を得る手法としてのプレミアムサービスの提供が支えうる期間は僅か数年

• 新しいビジネスモデルを早急に見出す必要がある• (特に短期の)解決策として重要なネットワーク管理について、現状では、固定系ブロードバンドについては過小な、移動系については過大な目標設定がなされている• 実効品質に対するリテラシーの改善がトラフィック混雑問題の短期的改善に有効

• 利用者教育がプロバイダの利潤最大化にも資する• 日本のアプローチが前提としてきたプロバイダ市場の競争性は不十分

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ということは、• ネットワーク中立性問題が道路混雑問題と同一視できるのであれば、解決のためには利用者に適切なコスト負担を課すビジネスモデルを早急に導入する必要がある。

• 競争市場が成立している場合、ビジネスモデル導入をめぐる関係者の利害や必要なリテラシーの獲得は価格メカニズムを通じて調整され、パレート効率的資源配分が達成される。• 現状では、当該市場は存在せず、近い将来に状況が改善することも期待薄。

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• 代替案として政府による最小限の関与。• 政策決定の歪みを防止するためには、利用者の合理的判断を巻き込む工夫が必要

• これまで主としてブロードバンドサービスの受益者として位置付けられてきた一般ユーザーを、アクティブな市場参加者としてきちんと機能発揮させることができれば、ネットワーク中立性問題の大半は政府の最小限の関与の下で効率的に解決できる。

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政府に求められる環境整備1: QoS情報の計測・開示

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情報開示による競争促進

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QoS情報の計測⇒集約⇒見える化、開示

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電気通信事業者系( NTT系)

電気通信事業者系(非 NTT系)

製造会社系

電力会社系

ケーブルテレビ

独立系

その他・不明

0% 10% 20% 30% 40%24.4%

28.8%25.3%26.2%

36.3%27.0%26.5%

実効速度が上限速度に占める比率( 2011 年度データ)モニターへのアンケート調査

モバイル環境での調査

ボランティアによる調査

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政府に求められる環境整備2:消費者への情報提供

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http://dsm-publishing.com/images/internet-marketing-services1.jpg http://i.telegraph.co.uk/multimedia/archive/02220/wine1_2220880b.jpg

• 購入時の価値が時間とともに変化する。• 財の実力は補完財によって初めて発揮され、補完財の品質に大きく左右される。

• 財の品質は十分に開示されているとはいえず、しかも素人にはいささか難解。• 財の品質に影響を与える要因は無数にあり、利用者や供給者によって完全にコントロールすることは望みがたい。

• 財の品質に問題があった場合に問題解決を一任できる主体は存在しないし、時には利用者自身が問題の原因である。

• 利用者や TPOに応じた「最適品質」が存在するが、具体的な特定は難しい。

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中立的な助言者としてのソムリエサービス

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ブロードバンドにも同じものを!!

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独立の計測機関ISP ソムリエ

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プロにはプロの、アマチュアにはアマチュアのサービスを

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Page 49: 『ネットワーク中立性の経済学』@安倍フェローシップ・コロキアム

当然に生じる最初の疑問

中立的なインターネットはどのように中立的なのか?

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ネットワーク中立性は価値中立的な概念ではない• ネットワーク中立性は、一定の中立性基準を採用するように政府の積極的関与を求める。

• ネットワーク中立性論者は、「アプリケーション間の公平な競争が確保されている状況」を将来にわたって維持していくため、政府が積極的な役割を果たすべきであると主張。社会経済活動におけるインターネットの役割が強まりつつある今日、一部プロバイダによるネット支配を許すべきではないと説明される場合もある。

• 競争中立性や技術中立性がプレイヤー間の自由な競争に資源配分の帰結を委ねるために政府の意思決定を制約することを志向したものであったのに対し、ネットワーク中立性が大きくその性質を異にする点。

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「中立的なネットワーク」が破壊するもの• 特定利用者向けの高品質サービスの提供が規制されることで、①弱小ベンチャーにとって、資金力を有する既存ネット事業者への競争機会が喪失され、②高品質な回線確保を前提とするサービスが広く安価に普及する途が閉ざされる。

• zero-price rule( ISPに対し直接の契約関係にはないコンテンツ事業者への課金を認めない)は、設備投資負担をネットワーク事業者のみに転嫁することでコンテンツ事業者を実質的に補助している仕組みだと解釈されうる

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Curse of Internet Extremistsからの解放

• ネットワーク中立性原則の下では、勝者と敗者を分けるラインが市場競争ではなく、政策決定により描かれかねず、資源配分の効率性が担保されない。

• 市場メカニズムを活用すべき• 一方、暫定的なネットワーク中立性ルールを政府が作成することは、あくまでも、輻輳問題への緊急避難

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• 目指すべきは、「ネットワーク中立性のルール化」ではなく、特定の中立性「基準」を恣意的に決定することを避けること、つまり、「『ネットワーク中立性』からの中立性」

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ご清聴に感謝いたします