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20K スターリング型パルス管冷凍機の開発 Development of 20K Stirling-type Pulse Tube Cryocooler 日本大学大学院 理工学研究科 博士前期課程(電子工学専攻) M2、石渡洋志 Master s Program (electronics technology major) Graduate college of Science & Technology, Nihon University, M2, Hiroshi Ishiwata Abstract我々はその超電導電力貯蔵装置(SMES)実現に向け 20 K 領域で安定稼働するスターリング型パルス管冷 凍機の開発を目指した。この目標を達成するため、まず 2 段パルス管冷凍機に使用した 2 段目蓄冷器及び位相制御 機構の特性を調べるため、仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機を構築し、その動作解析を行った。その後 2 スターリング型パルス管冷凍機の設計・開発を行った。仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機実験では圧力振動 発生装置内とパルス管高温端の圧力振動の位相差を測定し、位相差が 31 °あることがわかった。パルス管高温端で の変位と圧力の位相差は理論上数 °が最適であるため、位相制御機構・蓄冷材料・パルス管サイズを変化させる必 要があることがわかった。2 段側パルス管の延長後、2 段側イナータンスチューブ長を変化させその温度依存性を調 べた。結果はイナータンスチューブ長が 3.5 m 時に 1 段目温度 132 K2 段目温度 49 K となった。次に 2 段側 1 段目 蓄冷器に筒状布入りベークライトバルク体を使用し、2 段側に流入する作業流体を減少させ、2 段側イナータンスチ ュー長を変化させその温度依存性を調べた。結果は 3.5 m 時に 1 段目温度 230 K2 段目温度 48 K を得た。ベークラ イト使用前と比べ 1 段目の温度差が 100 K 増加している。更なる温度低下に向け、 1 段目蓄冷材料や 1 段側イナータ ンスイチューブ長に着目しその特性を評価する必要があることがわかった。 1. 背景 高温超伝導の発見から約 25 年以上経過し、近年超電導 電力貯蔵装置(SMES)など超伝導を使用した電力応用機 器の本格的な実用化に向けた開発が進められている。超 伝導機器の冷却には液体窒素や液体ヘリウム等の寒剤に よる方法があるが、コストが高いことや頻繁な補給が必 要となるため、実用化には冷凍機による冷却が有効であ る。スターリング型パルス管冷凍機は機械的な摩擦部分 のない圧力振動発生装置と低温部に駆動部のないパルス 管冷凍機を組み合わせた構造であり、低温振動・高信頼 性・長寿命・低価格等の特徴が挙げられる。 一昨年までの研究で、1 段スターリング型パルス管冷 凍機の蓄冷材料の最適化を行った。蓄冷器高温側に目の 粗いメッシュ、蓄冷器低温側に目の細かいメッシュを使 用することで最低到達温度 33.4K、冷凍能力 80 K 184 W を得ることができた。 2002 年に LockeedMartin 社から運転周波数 31 Hz で入 240 W 3 段スターリング型パルス管冷凍機が発表 [1] され、5.35 K(冷凍能力 8 K 70 mW)の達成が報告された。 また、近年では中国の研究グループの発表 [2] において図 1 に示す構造の 2 段スターリング型パルス管冷凍機を用い 2 段目の最低到達温度 14.2 K(1 段目 93.3 K)を得ている。 ドイツの研究グループの発表 [3] では図 2 に示す構造の 2 段スターリング型パルス管冷凍機を用いて 2 段目の最低 到達温度 12.8 K (1 段目 72.5 K)を得ている。 しかし、この報告はすべて入力電力 1 kW 以下の小型ス ターリング型パルス管冷凍機においての研究であり、大 型スターリング型パルス管冷凍では未だ実現に至ってい ない。 これらを踏まえ、冷凍機を多段化し、蓄冷材・位相制 御機構を最適化することで大型スターリング型パルス管 冷凍機の性能向上を計り、約 8 kW の消費電力で 20 K おいて安定稼働する冷凍機の開発を目指した。 この目標を達成するため、まず 2 段パルス管冷凍機に 使用した 2 段目蓄冷器及び位相制御機構の特性を調べる ため、仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機を構築し、 その動作解析を行った。その後 2 段スターリング型パル ス管冷凍機の設計・開発を行った。 1. 中国の研究グループの冷凍機の構造 2. ドイツの研究グループの冷凍機の構造

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20K スターリング型パルス管冷凍機の開発

Development of 20K Stirling-type Pulse Tube Cryocooler

日本大学大学院 理工学研究科 博士前期課程(電子工学専攻)

M2、石渡洋志

Master’s Program (electronics technology major)

Graduate college of Science & Technology, Nihon University,

M2, Hiroshi Ishiwata

Abstract:我々はその超電導電力貯蔵装置(SMES)実現に向け 20 K 領域で安定稼働するスターリング型パルス管冷凍機の開発を目指した。この目標を達成するため、まず 2 段パルス管冷凍機に使用した 2 段目蓄冷器及び位相制御機構の特性を調べるため、仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機を構築し、その動作解析を行った。その後 2 段スターリング型パルス管冷凍機の設計・開発を行った。仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機実験では圧力振動発生装置内とパルス管高温端の圧力振動の位相差を測定し、位相差が 31 °あることがわかった。パルス管高温端での変位と圧力の位相差は理論上数 °が最適であるため、位相制御機構・蓄冷材料・パルス管サイズを変化させる必要があることがわかった。2 段側パルス管の延長後、2 段側イナータンスチューブ長を変化させその温度依存性を調べた。結果はイナータンスチューブ長が 3.5 m 時に 1 段目温度 132 K、2 段目温度 49 K となった。次に 2 段側 1 段目蓄冷器に筒状布入りベークライトバルク体を使用し、2 段側に流入する作業流体を減少させ、2 段側イナータンスチュー長を変化させその温度依存性を調べた。結果は 3.5 m 時に 1 段目温度 230 K、2 段目温度 48 K を得た。ベークライト使用前と比べ 1 段目の温度差が 100 K 増加している。更なる温度低下に向け、1 段目蓄冷材料や 1 段側イナータンスイチューブ長に着目しその特性を評価する必要があることがわかった。

1. 背景

高温超伝導の発見から約 25 年以上経過し、近年超電導電力貯蔵装置(SMES)など超伝導を使用した電力応用機器の本格的な実用化に向けた開発が進められている。超伝導機器の冷却には液体窒素や液体ヘリウム等の寒剤による方法があるが、コストが高いことや頻繁な補給が必要となるため、実用化には冷凍機による冷却が有効である。スターリング型パルス管冷凍機は機械的な摩擦部分のない圧力振動発生装置と低温部に駆動部のないパルス管冷凍機を組み合わせた構造であり、低温振動・高信頼性・長寿命・低価格等の特徴が挙げられる。

一昨年までの研究で、1 段スターリング型パルス管冷凍機の蓄冷材料の最適化を行った。蓄冷器高温側に目の粗いメッシュ、蓄冷器低温側に目の細かいメッシュを使用することで最低到達温度33.4K、冷凍能力 80 Kで 184 W

を得ることができた。

2002 年に LockeedMartin 社から運転周波数 31 Hz で入力 240 W の 3 段スターリング型パルス管冷凍機が発表[1]

され、5.35 K(冷凍能力 8 K 70 mW)の達成が報告された。また、近年では中国の研究グループの発表[2]において図 1

に示す構造の 2 段スターリング型パルス管冷凍機を用いて 2段目の最低到達温度 14.2 K(1段目 93.3 K)を得ている。ドイツの研究グループの発表[3]では図 2 に示す構造の 2

段スターリング型パルス管冷凍機を用いて 2 段目の最低到達温度 12.8 K (1 段目 72.5 K)を得ている。

しかし、この報告はすべて入力電力 1 kW 以下の小型スターリング型パルス管冷凍機においての研究であり、大型スターリング型パルス管冷凍では未だ実現に至っていない。

これらを踏まえ、冷凍機を多段化し、蓄冷材・位相制御機構を最適化することで大型スターリング型パルス管冷凍機の性能向上を計り、約 8 kW の消費電力で 20 K において安定稼働する冷凍機の開発を目指した。

この目標を達成するため、まず 2 段パルス管冷凍機に使用した 2 段目蓄冷器及び位相制御機構の特性を調べるため、仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機を構築し、その動作解析を行った。その後 2 段スターリング型パルス管冷凍機の設計・開発を行った。

図 1. 中国の研究グループの冷凍機の構造

図 2. ドイツの研究グループの冷凍機の構造

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2. 目的

超電導電力貯蔵装置(SMES)冷却のために 20 K領域で安定稼働する大型スターリング型パルス管冷凍機の開発を目指した。この目的を達成するため、まず 2段パルス管冷凍機に使用した 2段目蓄冷器及び位相制御機構の特性を調べるため、仮想 2段スターリング型パルス管冷凍機を構築し、その動作解析を行った。その後2段スターリング型パルス管冷凍機の設計・開発を行った。

3. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機

3.1 実験装置

図 3 に仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機外観写真、図 4 にチャンバー内写真、図 5 に概略図を示す。

スターリング型パルス管冷凍機は (a) 圧力振動発生装置、(b) 熱交換器、(c) 蓄冷器、(d) コールドヘッド、(e) パルス管、(f) 位相制御機構で構成されているが、今回は (g)

液体窒素流入変換フランジを作製し、液体窒素を流入し、仮想 2段スターリング型パルス管冷凍機を構築した。圧力振動発生装置には低振動・長寿命が期待できる CFIC

社のリニア対向型圧力振動発生装置を使用した。作業流体の圧力と変位の位相を調節する位相制御機構はイナータンスチューブ方式であるエラー! 参照元が見つかりません。。

図 3. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機外観写真

図 4. チャンバー内写真

図 5. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機概略図

表 1 に仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機の基本構成・サイズを示す。パルス管・蓄冷器・変換フランジのサイズはチャンバー内に納まるよう設計・作製した。

表 1. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機の

基本構成・サイズ

圧力振動発生装置

(P W G)

リニア対向型圧力

振動発生装置(CFIC 社)

運転周波数 40~70 Hz

作業流体 He

最大封入圧力 3 MPa

パルス管の径 φ19 mm

パルス管の長さ 98 mm

蓄冷器の径 φ38 mm

蓄冷器の長さ 73 mm

変換フランジの径 φ38 mm

変換フランジの長さ 11 0mm

バッファータンク 3.7 8ℓ

3.2 イナータンスチューブ長変化実験

3.2.1 実験条件

表 2 にイナータンスチューブ長変化実験条件を示す。作製した 2 段目蓄冷器・パルス管の動作解析を行うためにイナータンスチューブ長を 0.6 m、0.3 m、2 m と変化させ実験(実験 3-1~3-3)を行った。また、0.6 m 時には液体窒素を封入すると同時に圧力振動発生装置の動作を開始した。0.3 m と 2 m 時には予冷を行い温度が一定となり次第圧力振動発生装置の動作を開始した。

表 2. イナータンスチューブ長変化実験条件

運転周波数 55 Hz

封入圧力 2 MPa

蓄冷材料(蓄冷器) SUS#400 400 枚

SUS#250 500 枚

SUS#200 140 枚

蓄冷材料(変換フランジ) SUS#250 300 枚

SUS#200 1000 枚

液体窒素流量 予冷時:0.1 MPa

運転時:0.01 MPa

イナータンスチューブ

(内径、肉厚、長さ)

10 mm , 1 mm ,

3-1:0.6 m

3-2:2.3 m

3-3:0.3 m

液体窒素封入圧力

(0.3m , 2m 時)

予冷時:0.1 MPa

動作時:0.01 MPa

液体窒素流入

タンク(50ℓ)

イナータンス

チューブ

バッファー

タンク

圧力振動

発生装置

パルス管

液体窒素

流入

変換フランジ

コールド

ヘッド

熱交換器

蓄冷器

(c) 蓄冷器

(b) 熱交換器

(a) 圧力振動

発生装置

(d) コールドヘッド

(e) パルス管

(f) 位相制御機構

(g) 液体窒素流入

変換フランジ 液体窒素

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3.2.2 評価方法

本実験ではコールドヘッド・変換フランジの温度を測定し評価を行った。図 6に温度測定に使用したCHINO の白金測温体 CRZ-2005 (pt1000)の写真を示す。

また、温度測定は 4 端子法で行った。図 7 に温度測定法を示す。図 7 に示すように 1mA の直流電流を温度計に流し、KEITHLEY 2000 で直流電圧を測定した。測定した直流電圧の値をパソコンに送り、プログラミングにより抵抗値を計算し、温度―抵抗値特性と比較し温度を算出した。

図 6. CHINO の白金測温体 CRZ-2005 (pt1000)

図 7. 温度測定法

3.2.3 実験結果

図 8 に実験 3-1 の結果を示す。液体窒素封入圧力を 0.1

MPa かけると同時に圧力振動発生装置の動作を開始した。変換フランジの温度が上昇しているのは液体窒素タンクに液体窒素を追加しているからである。実験開始から 253

分経過時に変換フランジの温度が 111 K、コールドヘッドの温度が 128 K となった。

図 8. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機

イナータンスチューブ長 0.6 m における時間-温度結果

また、この実験から最低到達温度を迎えてから変換フランジの最低到達温度が液体窒素の封入圧力に依存していないことがわかり、実験開始から 167 分経過時に封入圧力を 0.01 MPa とした。よって液体窒素を追加する回数の減少に繋がった。

図 9 に実験 3-2 の結果を示す。実験開始から 33 分経過時まで予冷を行った後、圧力振動発生装置の動作を開始した。153 分経過時に変換フランジの温度 113 K、コールドヘッドの温度 150 K となった。

図 9. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機

イナータンスチューブ長 3.2 m における時間-温度結果

図 10 に実験 3-3 の結果を示す。実験開始から 33 分経過時まで予冷を行った後、圧力振動発生装置の動作を開始した。90 分経過時から変換面ン時の温度が急激に上昇したため、128 分経過時には再び封入圧力を 0.1 MPa とした。実験開始から 166 分経過時に変換フランジの温度 114

K、コールドヘッドの温度 153 K となったが熱平衡状態を取ることがなかったため実験を 177 分経過時に実験を終了とした。

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図 10. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機

イナータンスチューブ長 3.2 m における時間-温度結果

3.2.4 考察

本実験において、液体窒素を封入することにより変換フランジは十分に冷却できたが、コールドヘッドの温度が変換フランジの温度を下回ることがなかったため、2

段冷凍機としての動作が行われていなかったといえる。また、イナータンスチューブ長による温度変化はほぼ見られなかった。この理由として蓄冷材料による圧力損失が大き過ぎたためであることが考えられる。

これを踏まえ、次の実験では変換フランジ内の蓄冷材料を変化させて実験を行うこととした。

3.3 変換フランジ内蓄冷材料変化実験

3.3.1 実験条件

変換フランジ内に蓄冷材料を使用しない場合(実験 3-4)

と SUS#100 メッシュを 630 枚使用した場合(実験 3-5)の比較を行った。イナータンスチューブ長を 3 m で固定とし、他条件は 3.2.1 と同様の実験条件で実験を行った。評価方法も同様である。

3.3.2 実験結果

図 11 に実験 3-5 の結果を示す。実験開始から 10 分経過時まで予冷を行い圧力振動発生装置の動作を開始した。直後から変換フランジの温度が上昇した。変換フランジとコールドヘッドの温度が反転しかかる度に封入圧力を0.01 MPa から 0.1 MPa まで上昇させ温度が低下次第、封入圧力を 0.01 MPa とした。128 分経過時に変換フランジの温度が 286 K、コールドヘッドの温度が 128 K となった。139 分経過時に液体窒素がなくなったため実験を終了とした。

図 11. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機

変換フランジ内蓄冷材料未使用時における

時間-温度実験結果

図 12 に実験 3-5 の結果を示す。実験開始から 41 分経過時まで予冷を行い圧力振動発生装置の動作を開始した。134 分経過時に変換フランジの温度が 97 K、コールドヘッドの温度が 132 K となった。

図 12. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機

変換フランジ内蓄冷材料 SUS#100 メッシュ使用に

おける時間-温度実験結果

3.3.2 考察

本実験から、変換フランジ内には蓄冷材料が必要であることがわかった。前回の実験では変換フランジ内蓄冷材料に SUS#200 メッシュを用い変換フランジの最低到達温度が 110 K となった。これに対し SUS#100 メッシュを用いた場合の最低到達温度は 97 K であった。このことから変換フランジの最低到達温度も蓄冷材料によって変化することがわかった。

また、蓄冷材料を#200 メッシュから#100 メッシュに変化させることで圧力損失を減少し、コールドヘッドの最低到達温度が低下したことが考えられる。このことから、変換フランジ・蓄冷器での蓄冷材料において比表面積と圧力損失の関係性を考えなければならないことがわかった。

3.4 圧力振動波測定

すべての仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機実験において 2 段冷凍機としての動作が見られなかったため、圧力振動発生装置ないとパルス管高温端の圧力振動波を測定した。

3.4.1 実験結果

図 13に変換フランジ内蓄冷材料 SUS#100メッシュ使用実験時における圧力振動発生装置内とパルス管高温端の圧力振動波を示す。振幅が大きい方が圧力振動発生装置内、波長が小さいほうがパルス管高温端、ほぼ振動していない波はバッファータンク端での圧力振動を示している。

結果は圧力振動発生装置内とパルス管高温端の圧力振動波の位相差が 31°であることがわかった。

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図 13. 圧力振動発生装置内 (振幅が大きい波) 、

パルス管高温端 (振幅が小さい波) 、バッファータンク端

(ほぼ振動していない波) の圧力振動波形

3.4.2 考察

パルス管内でのエンタルピーの流れはパルス管両端での位相差に強く依存しているパルス管が膨張器の機能を持つためには、パルス管高温端での変位と圧力の位相差は数°であることが望ましい[4]。今回、パルス管冷凍機の能力が発揮できていないのはその原因として次の 1)

~3) が考えられる。

1) 蓄冷器・変換フランジの蓄冷材料による圧力損失が大きい。

2) イナータンスチューブ長の最適化が計られていない。

3) 蓄冷器の空隙体積に対してパルス管の体積が小さい。

これらを踏まえ、2 段スターリング型パルス管冷凍機実験ではパルス管の延長を行った後、イナータンスチューブ長と 1 段目 2 段目の蓄冷材料を変化させることにより最適化を目指すこととした。

4. 2 段スターリング型パルス管冷凍機

4.1 実験装置

図 14に仮想 2段スターリング型パルス管冷凍機外観写真、図 15 にチャンバー内写真、図 16 に 2 段スターリング型パルス管冷凍機の概略図を示す。

2段パルス管冷凍機は 1段側と 2段側でそれぞれ(a) 圧力振動発生装置、(b) 熱交換器、(c) 蓄冷器、(d) コールドヘッド、(e) パルス管、(f) 位相制御機構と構成されている。圧力振動発生装置には入力電力 8kW が可能なリニア対向型圧力振動発生装置を用いた。位相制御機構はイナータンスチューブ方式である。作業流体にはヘリウムガスを使用し、封入圧力は 2.5 MPa とした。

図 14. 2 段スターリング型パルス管冷凍機外観写真

図 15. チャンバー内写真

図 16. 2 段スターリング型パルス管冷凍機概略図

31 °

パルス管

コールド

ヘッド

熱交換器

蓄冷器 2

蓄冷器 1 蓄冷器 1

パルス管

2 段側 1 段側

イナータンス

チューブ

圧力振動

発生装置

(c) 蓄冷器 2

(b) 熱交換器

(b) 圧力振動

発生装置

(d) コールドヘッド

(e) パルス管

(f) 位相制御機構 (f) 位相制御機構

(b) 熱交換器

(e) パルス管

(c) 蓄冷器 1

(c) 蓄冷器 1

2段側 1段側

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図 17 に 2 段目パルス管の設計図を示す。2 段目パルス管の長さを 98 mm から 200 mm に延長した。

図 17. 2 段目パルス管設計図

表 3 に 2 段スターリング型パルス管冷凍機の基本構成・サイズを示す。

表 3. 仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機の

基本構成・サイズ

圧力振動発生装置

(P W G)

リニア対向型圧力

振動発生装置

最適運転周波数 55 Hz

作業流体 He

最適封入圧力 2.5 MPa

2 段側パルス管の径 φ19 mm

2 段側パルス管の長さ 200 mm

1 段側パルス管の径 φ19 mm

1 段側パルス管の長さ 213 mm

2 段目蓄冷器の径 φ38 mm

2 段目蓄冷器の長さ 73 mm

1 段目蓄冷器の径 φ80 mm

1 段目蓄冷器の長さ 80 mm

バッファータンク 3.78 ℓ×2

4.2 評価方法

本実験では 1 段目、2 段目のコールドヘッドの温度を測定し評価を行った。図 18に温度測定に使用したCHINO

の白金・コバルト測温抵抗体 R800-6 (PtCo100)の写真を示す。温度測定は 4 端子法で行った。

図 18. 白金・コバルト測温抵抗体 R800-6 (PtCo100)

4.3 2 段スターリング型パルス管冷凍機実験

4.3.1 実験条件

表 4 に今回の実験条件を示す。今回は 1 段目、2 段目蓄冷材料及びイナータンスチューブ長に着目し実験(実験 4-1~4-8)を行った。

表 4. 2 段スターリング型パルス管冷凍機実験条件

運転周波数 55 Hz

封入圧力 2.5 MPa

1 段目蓄冷材料 4-1 , 4-2:Cu#50 160 枚

4-3:SUS#200 100 枚

Cu#50 110 枚

4-4~4-7:SUS#400 400 枚

SUS#250 500 枚

SUS#200 330 枚

2 段目蓄冷材料 4-1 , 4-2:SUS#400 400 枚

SUS#250 500 枚

SUS#200 150 枚

4-3:SUS#200 530 枚

SUS#100 105 枚

4-4:SUS#200 530 枚

SUS#100 105 枚

4-5:SUS#400 100 枚

SUS#250 220 枚

SUS#200 510 枚

4-6 , 4-7:SUS#400 100 枚

SUS#250 220 枚

SUS#200 115 枚

SUS#100 200 枚

1 段側イナータンス

チューブ

(内径、肉厚、長さ)

10mm , 1mm

4-1~4-7:2.3 m

2 段側イナータンス

チューブ

(内径、肉厚、長さ)

6.4 mm , 1 mm

4-1 , 4-3~4-6:3 m

4-2:5 m

4-7:3.5 m

4.3.2 実験結果

図 19 に実験 4-1 の結果を示す。実験開始から 44 分経過時に最低到達温度 1 段目 184K、2 段目 72K となった。

図 19. 2 段スターリング型パルス管冷凍機

実験 4-1 における時間-温度実験結果

図 20 に実験 4-2 の結果を示す。実験開始から 44 分経過時に最低到達温度 1 段目 197 K、2 段目 108 K となった。

203 mm

蓄冷材料

1 段目 Cu#50 160 枚

2 段目 SUS#400 400 枚

250 500 枚

200 150 枚

2 段側イナータンスチューブ長 3m

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図 20. 2 段スターリング型パルス管冷凍機

実験 4-2 のおける時間-温度実験結果

図 21 に実験 4-3 の結果を示す。実験開始から 44 分経過時に最低到達温度 1段目 150 K、2段目 74 Kとなった。

図 21. 2 段スターリング型パルス管冷凍機

実験 4-3 における時間-温度実験結果

図 22 に実験 4-4 の結果を示す。実験開始から 44 分経過時に最低到達温度 1 段目 98K、2 段目 58K となった。

図 22. 2 段スターリング型パルス管冷凍機

実験 4-4 における時間-温度実験結果

図 23 に実験 4-5 の結果を示す。実験開始から 49 分経過時に最低到達温度 1 段目 107 K、2 段目 58 K となった。

図 23. 2 段スターリング型パルス管冷凍機

実験 4-5 における時間-温度実験結果

図 24 に実験 4-6 の結果を示す。実験開始から 44 分経過時に最低到達温度 2 段目 58 K となった。実験開始から61 分経過時に最低到達温度 1 段目 131 K となった。

蓄冷材料

1 段目 Cu#50 160 枚

2 段目 SUS#400 400 枚

250 500 枚

200 150 枚

2 段側イナータンスチューブ長 5m

蓄冷材料

1 段目 Cu#50 160 枚

SUS#200 100 枚

2 段目 SUS#200 530 枚

100 105 枚

2 段側イナータンスチューブ長 3m

蓄冷材料

1 段目 SUS#400 400 枚

250 500 枚

200 330 枚

2 段目 SUS#200 530 枚

100 105 枚

2 段側イナータンスチューブ長 3m

蓄冷材料

1 段目 SUS#400 400 枚

250 500 枚

200 330 枚

2 段目 SUS#400 100 枚

250 220 枚

200 510 枚

2 段側イナータンスチューブ長 3m

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図 24. 2 段スターリング型パルス管冷凍機

実験 4-6 における時間-温度実験結果

図 25 に実験 4-7 の結果を示す。実験開始から 40 分経過時に最低到達温度 2 段目 49 K となった。実験開始から60 分経過時に最低到達温度 1 段目 133 K となった。

図 25. 2 段スターリング型パルス管冷凍機

実験 4-7 における時間-温度実験結果

4.2.3 考察

パルス管の延長により 2 段冷凍機として動作を確認した。また、今回は 1 段目蓄冷材料、2 段目蓄冷材料、2 段目イナータンスチューブ長に着目し実験を行った。

1 段目蓄冷材料に粗いメッシュを使用した実験 4-1~4-3 は 1 段目温度 150~194 K、2 段目温度は 72~108 K となった。それに対し 1 段目蓄冷材料に細かいメッシュを使用した実験 4-4~4-7 は 1 段目温度 98~133 K、2 段目温度 49~58 K となった。このことから 1 段目蓄冷材料には細かいメッシュを使用した方がいいことがわかった。

また、実験 4-4~実験 4-6 は 2 段目蓄冷材料を変化させ実験を行い、1 段目温度にはバラつきがあったが 2 段目温度は 58K でほぼ一定となった。

そのため 2 段側イナータンスチューブ長を変化したところ、1 段目温度が 133 K、2 段目温度 49 K となった。次回の実験では 2 段側イナータンスチューブ長に着目し実験を行うこととした。

4.4 ベークライトを使用した 2段スターリング型パルス管冷凍機実験

昨今ドイツや中国の研究グループから様々な冷凍機の研究が発表されているが[1][2]、その冷凍機の形状は 2 段側1 段目の蓄冷器が 1 段側に比べ細くなっている傾向にある。本実験では 2 段側 1 段目蓄冷器に着目し、筒状布入りベークライトバルク体を挿入することで径を絞り 2 段側に作業流体の流量を減少させ、特性を評価した。その後位相制御機構の最適化実験を行った。

4.4.1 実験条件

図 26に筒状布入りベークライトを挿入した 1段目蓄冷器の写真を示す。これにより 2 段側 1 段目の内径を

φ80 mm からφ38 mm とした。

図 26. ベークライトを挿入した 1 段目蓄冷器写真

表 5 に今回の実験条件を示す。今回は 2 段目イナータンスチューブ長に着目し実験(実験 4-8~4-13)を行った。

表 4. 2 段スターリング型パルス管冷凍機実験条件

運転周波数 55Hz

封入圧力 2.5MPa

1 段目蓄冷材料 SUS#400 400 枚

SUS#250 500 枚

SUS#200 330 枚

2 段目蓄冷材料 SUS#400 350 枚

SUS#250 450 枚

SUS#200 200 枚

1 段側イナータンス

チューブ

(内径、肉厚、長さ)

10mm , 1mm , 2.3m

2 段側イナータンス

チューブ

(内径、肉厚、長さ)

6.4mm , 1mm ,

4-9:2m

4-10:3m

4-11:4m

4-12:5m

4-13:6m

4-14:3.5m

蓄冷材料

1 段目 SUS#400 400 枚

250 500 枚

200 330 枚

2 段目 SUS#400 100 枚

250 220 枚

200 115 枚

100 200 枚

2 段側イナータンスチューブ長 3m

蓄冷材料

1 段目 SUS#400 400 枚

250 500 枚

200 330 枚

2 段目 SUS#400 100 枚

250 220 枚

200 115 枚

100 200 枚

2 段側イナータンスチューブ長 3.5 m

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4.3.2 実験結果

図 27 に実験 4-9 の結果を示す。実験開始から 166 分経過時に 1 段目温度 221 K、2 段目温度 85 K となった。その後徐々に温度が低下し、400 分経過時に 1 段目温度 218

K、2 段目温度 83 K となった。

図 27. ベークライト使用 2段スターリング型

パルス管冷凍機 2段側イナータンスチューブ長

2 mにおける時間-温度実験結果

図 28 に実験 4-10 結果を示す。実験開始から約 150 分経過時に 1 段目 233 K、2 段目 59 K となり、158 分経過時に 2 段目の温度が変動し始めた。284 分経過時に 2 段目の温度が上昇したため実験を中止した。

図 28. ベークライト使用 2段スターリング型

パルス管冷凍機 2段側イナータンスチューブ長

3 mにおける時間-温度実験結

図 29 に実験 4-1 1 結果を示す。実験開始から約 225 分経過時に最低到達温度 1 段目 228 K、2 段目 61 K となった。

図 29. ベークライト使用 2段スターリング型

パルス管冷凍機 2段側イナータンスチューブ長

4 mにおける時間-温度実験結

図 30 に実験 4-12 結果を示す。測定器の故障のため、実験開始から 15分後から 313分後まで 1段目の温度測定が行えなかった。実験開始から 233 分後に作業流体の漏洩に気付いたため、作業流体を 2.5 MPa 封入し実験を行った。実験開始から 416 分後に 1 段目 228 K、2 段目 80 K

となった。

[

図 29. ベークライト使用 2段スターリング型

パルス管冷凍機 2段側イナータンスチューブ長

5 mにおける時間-温度実験結

図 31 に実験 4-13 結果を示す。実験開始から約 315 分経過時に 1 段目 233 K、2 段目 93 K となった。

図 30. ベークライト使用 2段スターリング型

パルス管冷凍機 2段側イナータンスチューブ長

6 mにおける時間-温度実験結

図 32 に実験 4-14 結果を示す。実験開始から約 160 分経過時に 1 段目 230 K、2 段目 48K となった。

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図 32. ベークライト使用 2段スターリング型

パルス管冷凍機 2段側イナータンスチューブ長

3.5 mにおける時間-温度実験結

図 33 に 2 段側イナータンスチューブ長 2~6m の結果のまとめを示す。1 段目の温度が 230 K 付近でほぼ一定となったのに対し、2 段目の温度は 3.5 m 時に 48 K となった。

図 33. ベークライト使用 2段スターリング型

パルス管冷凍機

温度-2段側イナータンスチューブ長特性

4.3.3 考察

実験開始から最低到達温度となるまでの時間が前回実験では約 40 分ほどだったが、本実験では約 150 分であった。これは 2 段側 1 段目蓄冷器にベークライトを使用したことによる冷凍能力の減少と考える。しかし、前回実験と比べ 1 段目と 2 段目の温度差は約 100 K 増加している。温度差が大きいということは 1 段目温度を低下させることで 2 段目温度が低下しやすくなることを示唆している。ドイツ[1]や中国[2]の研究グループをはじめ、2 段冷凍機の 1 段目温度が 100 K 付近となることで 2 段目温度が 20 ~ 30 K ほどになると考察されている。このことから更なる温度低下に向け 1 段目蓄冷材料や 1 段側イナータンスチューブ長に着目しその特性を評価する必要があることがわかった。

4. まとめ

近年超電導電力貯蔵装置(SMES)など超伝導を使用した電力応用機器の本格的な実用化に向けた開発が進められている。我々はその実現に向け 20 K 領域で安定稼働するスターリング型パルス管冷凍機の開発を目指した。まず、2 段パルス管冷凍機に使用した 2 段目蓄冷器及び位相制御機構の特性を調べるため、仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機の動作解析を行い、その後 2 段スター

リング型冷凍機の開発・作製を行った。

仮想 2 段スターリング型パルス管冷凍機実験では変換フランジは十分に冷却できたが、2 段冷凍機としての動作は見られなかった。そのため、圧力振動発生装置内とパルス管高温端の圧力振動の位相差を測定し、位相差が31°あることがわかった。パルス管高温端での変位と圧力の位相差は理論上数°が最適であるため、位相制御機構・蓄冷材料・パルス管サイズを変化させる必要があることがわかった。

2 段側パルス管の延長後、イナータンスチューブを独立させ、2 段側イナータンスチューブ長を変化させその温度依存性を調べた。結果はイナータンスチューブ長が3.5 m 時に 1 段目温度 132 K、2 段目温度 49 K となった。

次に 2 段側 1 段目蓄冷器に筒状布入りベークライトバルク体を使用し、2段側に流入する作業流体を減少させ、2 段側イナータンスチュー長を変化させその温度依存性を調べた。結果は 3.5 m 時に 1 段目温度 230 K、2 段目温度 48 K を得た。ベークライト使用前と比べ 1 段目の温度差が 100 K 増加している。更なる温度低下に向け、1 段目蓄冷材料や 1 段側イナータンスイチューブ長に着目しその特性を評価する必要があることがわかった。

6. 参考文献

[1] P. Yam , G. Chen , J. Dong , W. Gao .

15K two-stage Stirling-type pulse-tube cryocooler

Cryogenics 49 (2009) 103-106

[2] T. Koettig , S. Moldenhauer , M. Patze , M.Thu¨rk, P.

Seidel , Investigation on the internal thermal link of pulse

tube refrigerators , Cryogenics 47 (2007) 137-142

[3] 大島惠一、松原陽一、低温工学 Vol.3, No.2 (1968) p.24

[4] 荻原宏康著 , 低温工学概論 (1999) 東京電機大学出版局

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