1

２０２０．１．３１

最終講義 (明治大学アカデミーコモン９０３B)

憲法学・ジェンダー

法学の課題—研究者50年の歩み

明治大学法科大学院教授・東北大学名誉教授

・弁護士・内閣府男女共同参画会議員

辻村みよ子

1

2

(2005年) 誕生から東北大学教授まで

資料2 経歴＆研究成果 （2019年まで）

辻村古稀論集、山元一・只野雅人・蟻川恒正・中林暁生編、日本評論社(2019年8月）

3

（１）フランス憲法史学から

ジェンダー法学へ（２）4本柱と螺旋階段

（３）フランス憲法史学研究

の成果 (20～30歳代)

「歴史に沈潜して！！！」１）フランスは主権論の母国

パリ共和国広場・マリアンヌ像

ジャンボダン(1530-96)

4

ＡＢ

フランス憲法史・主権論

（1970年代～）

選挙権論・代表制論・女性参政権

(1980年代～ ）

Ｃ日本国憲法解釈論・比較憲法学・女性の人権論

一橋大学・

成城大学

東北大学

(1990年～ ）

ジェンダー法学・行政・実務

(2003年～）

パリ大学等

明治大学

弁護士登録

（1999年~2013年）

（２０１３～２０２０年）

ＣＯＥ・GCOE

(2018年～ ）

4本柱と螺旋階段 Ｄ

パリ大学

5

（1989年）

（1992年）

（2002年）（2016年）

（2010年）（2012年）

フランス憲法史に関する著作

6

２） フランス革命期の憲法

２つの憲法体系①1789年人権宣言・1791年憲法

3条 国民主権 （ナシオン主権：N）「権力の淵源は国民にある」

⇒ 立憲君主制

②1793年憲法（ジャコバン憲法）人民主権（プープル主権：P）「主権は、人民（市民の総体）にある」⇒ 共和制

77

主権者 選挙権 選挙制度 代表制

①ナシオ

ン主権N

全国民

公務

（選挙権公務説）

制限選挙制（可）

純粋代表制（⇒半代表

制）・権力分立

② プープル主権

P人民（全市民）

権利

（選挙権権利説）

普通選挙制

（半直接制）人民投票・

人民発案・

人民拒否

直接制

ナシオン主権・プープル主権と統治原理

8

（１）主権の意味： 権力か、正当性（建前）か

（２）国民の意味： 国籍保持者（全国民）か、

人民（政治的意思決定資格者）か

主権主体

主権

の帰属

全国民（Ａ） 有権者（Ｂ1）

（人民）（Ｂ２）

権力（実体）の帰属（Ｘ）

ＡＸ型 Ｂ１Ｘ型

Ｂ２Ｘ型=人民（プープル）主権

正当性（建前）の帰属（Ｙ）

ＡＹ型（通説）

＝国民（ナシオン）主権

Ｂ１Ｙ型

（辻村『憲法［第6版』日本評論社、2018年、43頁）

9

「（表現の自由は）女性の最も貴重な権利である。それは、子と父の関係を確保するからである」「女性は処刑台に上る権利をもつ。同時に演壇に上る権利をもたなければならない」「財産は、婚姻していると否とにかかわらず、両性に属する」 「どのベッドから生まれようとも、子どもに財産が帰属する」「差別なく、子は父母の名前を維持する権利をもつ」

３） フランスは人権の母国⇒白人・ブルジョア・男性の権利にすぎなかった！！

10

１）明治時代初期のフランス人権宣言翻訳

自由民権運動への影響

①フランス人権宣言口訳（明治9年） 1876年・ジブスケ訳②1793年憲法人権宣言

中江兆民訳

Ｃｆ．千葉卓三郎「五日市憲法草案」

（国立国会図書館蔵）（国立国会図書館蔵）

11

アメリカ独立宣言１７７６

アメリカ合衆国憲法１７８７

フランス人権宣言１７８９

1870~1980年代自由民権運動私擬憲法草案

マッカーサー草案

憲法研究会案

日本国憲法

1945 1946 1946

２）日本国憲法制定過程への影響

辻村『人権の普遍性と歴史性』1992年、266頁参照。辻村『憲法改正論の焦点』法律文化社、2018年、18頁参照。

12

①憲法制定期の家族像（べアテ・シロタ草案）②憲法13条・14条・24条の相互関係 13条：ｌ婚姻の自由の憲法的位置

選択的別姓制問題「氏の変更を強制されない権利」

14条：実質的平等論と「間接差別」 24条1項 夫婦同権 CF.同性婚 24条2項 立法裁量の限界：

べアテ・シロタ氏、土井たか子氏と（1995年）

13

日本社会と家族の変容①生涯未婚率の推移

13

2015年国勢調査の結果

男性23.37%

女性で14.06%

に急上昇

2015（平成27）年国勢調査結果

男性23.37%

女性14.06%に急上昇

（男女共同参画白書平成25年版）

14

②出生数と合計特殊出生率の推移（少子化社会対策白書令和元年版）

14

1515

Ⅳ ジェンダー法学の課題

⇒女性のための学問ではなく、性差自体の区分の問題性を明らかにする学問へ

１）

日本評論社・2008年（改訂版）

（初版は「女性と人権」（1997年）

1616

17

GGI（ジェンダーキャップ指数）世界121位ショック（The Global Gender Gap Index2020

http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.

pdf,P.201）

政治分野 4.9点（100点満点）世界144位（１５3か国中）ワースト１０入り

18

下院順位

国名 地域名 下院

２０ フランス 欧州 ３９．７

３８ イギリス 欧州 ３２．０

４６ ドイツ 欧州 ３０．９

７７ アメリカ（←103）

北米 ２３．５

1２４ 韓国 アジア １６．７

1６４ 日本 アジア １０．１

下院順位

国名 地域名 下院

1 ルワンダ アフリカ ６１. ３

2 キューバ 中米 ５３. ２

3 ボリビア 南米 ５３. １

4 アンドラ 欧州 ５０．０

5 メキシコ 中米 ４８. ２

6 スペイン 欧州 ４７．４

7 スウェーデン

欧州 ４７．３

8 フィンランド

欧州 ４７．０

9 グレナダ 中米 ４６．７

10 ナミビア アフリカ ４６．２

世界の女性国会議員比率（193カ国調査： 201９年1１月1日現在のＩＰＵ調査より）

1919

（内閣府男女共同参画局 http://www.gender.go.jp/policy/positive_act/pdf/positive_action_006.pdfより）

世界の女性国会議員比率：経年変化

20

クオータ制導入国 (IDEA資料より）

2121

各分野の「指導的地位」に女性が占める割合（男女共同参画白書令和元年版） ←目標：2020年までに３０％！！！

22

性別役割分担意識の変化（男女共同参画白書令和元年）

23

１）政治分野／意思決定過程の男女共同参画⇒ポジティブ・アクション（PA)推進・候補者クオータ制（候補者均等法）、地方議会の女性参画拡充・活性化・民主化

2)雇用分野のポジティブ・アクション：管理職クオータ制・人材養成システム構築、両立支援体制確立・待機児童ゼロ化・雇用慣行見直し

３）性別役割分業体制・意識の改革：男性育休(パパクオータ）促進、セクハラ／パワハラ・ＤＶ等暴力撤廃

４）ジェンダー教育・人権教育の早期導入

⇒PA（即効薬）と漢方薬による意識改革インフォームドコンセント

⇒好循環へ

制度改革

意識改革

PA実効化ジェンダー教育

24

①基礎理論的研究・憲法史的の重要性研究者として・・・⇒憲法課題の追究「少年老い易く、学成り難し」

②社会改革・実践のための学問・教育・実務⇒法科大学院生・履修生・弁護士へ・・・何のために法律を極めるのかraison d’êtreの確認

③主権と人権、制度と権利、理論と実践・・・・⇒あらゆるディコトミーへの配慮・挑戦を

～2020年1月31日からの新たな挑戦へ

25ご清聴ありがとうございました。

国立市の自宅書斎３Fからの眺望