2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度...

46
2019 年度 解析学 IIa 講義ノート 新井 拓児 (慶應義塾大学経済学部) 2019 2 19 このノートは,慶應義塾大学経済学部設置科目「解析学 IIa」及び経済学研究 科設置科目「経済数学 III-A」を受講している学生のための資料であり,講 義資料以外の目的で使用することを禁じます. また,無断で転載,複写,配布することを禁止致します. 2019 2 19 : 初版

Transcript of 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度...

Page 1: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

2019年度

解析学IIa 講義ノート

新井 拓児 (慶應義塾大学経済学部)

2019 年 2 月 19 日

このノートは,慶應義塾大学経済学部設置科目「解析学 IIa」及び経済学研究

科設置科目「経済数学 III-A」を受講している学生のための資料であり,講

義資料以外の目的で使用することを禁じます.

また,無断で転載,複写,配布することを禁止致します.

2019年 2月 19日: 初版

Page 2: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

まえがき

これは,慶應義塾大学経済学部設置科目「解析学 IIa」及び経済学研究科設

置科目「経済数学 III-A」の講義ノートである.講義は基本的にこのノート

に沿って進められる.ただし,本講義で扱う内容は抽象的かつ難解である上,

他の科目に比べかなり多くのことを学習する必要がある.そのため,証明な

どの細部は各受講生の予習復習に委ね,講義では背景や考え方の説明に多く

の時間を費やす.

本講義では位相空間論を論じる.集合論の復習から始め,ユークリッド空

間の抽象化として距離空間を導入し,さらにその抽象化として位相空間を導

入する.特に,点列の収束と関数の連続性に関して,ユークリッド空間上で

の定義がどのように距離空間や位相空間上に一般化されていくのかを解説す

る.後半は,実数の連続性について詳しく議論し,連結性やコンパクト性な

どの位相空間論における諸概念と解析学との結びつきについて論じる.

本講義の目標は以下の三点である.一つは,数学における抽象化のプロセ

スを実体験することである.距離空間は「距離」の抽象化であり,位相空間

は「近さ」または「周り」の抽象化である.これ以外にも「長さ」の抽象化

としての測度など,数学では日常使われる概念の抽象化が良く行われる.こ

の抽象化に慣れてもらうために,そのプロセスを分かりやすく解説する.二

つ目は,当然成り立つと思えるような事柄を考察することである.抽象化を

行うと,当然と思えるような事でも成立しないことがある.例えば,「収束点

列の極限は一つである」は常に成立するような気がするが,一般の位相空間

においては成り立たない.どのような場合に成り立つのかを明らかにし、収

束や極限の理解を深めたい.普段疑問に思わないようなことに目を向けるこ

とは,数学において非常に重要である.三つ目は,位相空間論に登場する諸

概念を用いて解析学を論じることである.解析学の見直しを行うと共に,コ

ンパクトなどの位相空間論における諸概念の理解を深めたい.

各受講生の今後の学習や研究に少しでも資するものがあれば望外の喜びで

ある.

1

Page 3: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

参考文献

学習の手助けとなる参考文献をいくつか紹介する.下記の文献のうちのいく

つかは,このノートを作成する際にも参考にさせてもらった.

[1] 一樂重雄「意味がわかる位相空間論」日本評論社.

[2] 内田伏一「集合と位相」裳華房.

[3] 斎藤毅 「集合と位相」東京大学出版会.

[4] 志賀浩二「位相への 30講」朝倉書店.

[5] 瀬山士郎「『無限と連続』の数学」東京図書.

[6] ツァピンスキ・コップ (二宮・原訳)「測度と積分」培風館.

[7] 松坂和夫「集合・位相入門」岩波書店.

[8] 森田茂之「集合と位相空間」朝倉書店.

[9] 盛田健彦「実解析と測度論の基礎」培風館.

[10] 谷島賢二「ルベーグ積分と関数解析」朝倉書店.

[1]及び [4]は,初学者向けの位相空間論のテキストであり,専門書と言うよ

り読み物に近いスタイルで書かれたものである.標準的な位相空間論のテキ

ストとして,[2],[3],[7]及び [8]を挙げておく.これら以外にも数多くの文

献が出版されているので,自分に合ったものを見つけてほしい.講義の後半

で扱う位相空間論と解析学の繋がりに関して,[5]は非常に優れた文献である.

また,位相空間論に続く分野として,関数解析や,本講義に続いて秋学期に

開講される解析学 IIbで学習する測度・積分論が挙げられる.これら 2つの

分野を扱った文献として [10]がある.さらに,[6]と [9]は測度・積分論に関

する大変優れたテキストであるが,残念なことに両書とも既に絶版である.

2

Page 4: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

目 次

第1週 集合とは 4

第2週 有限と無限 7

第3週 数直線,平面と距離 10

第4週 距離から位相へ 13

第5週 関数の連続性 16

第6週 点列の収束 19

第7週 可算公理と分離公理 22

第8週 実数の連続性 25

第9週 微分積分学再訪 28

第10週 連結性と中間値の定理 31

第11週 コンパクト —定義と基本性質— 34

第12週 一様連続性とリーマン積分 37

第13週 コンパクト距離空間と不動点定理 40

第14週 連続関数空間 43

3

Page 5: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第1週 集合とは

集合とは,ある特定の性質を持った「もの」の集まりである.集合 Aを構

成する一つ一つの「もの」を集合 Aの元または要素という.xが Aの元で

あるとき,x ∈ Aまたは A ∋ xと書き,xが Aの元でないとき,x /∈ Aな

どと書く.a, d, f からなる集合を {a, d, f}と書く.要素が無限にある場合は{2, 4, 6, . . .}と書く.さらに,ある条件 P をみたすもの xの全体として集合

を定めるとき,{x|xは条件 P を満たす }と書く.

例 1.1 (1)自然数の全体を表す集合は,Nと記述される.つまりN = {1, 2, . . .}である.同様に,整数の全体は Z,有理数はQ,実数はR,複素数はCと書

かれる.よって,1 ∈ N, −1 /∈ N,−2 ∈ Z, π ∈ Rなどが成立する.

(2) {x|xは x2 − 1 = 0を満たす整数 } = {−1, 1}(3) 一方,{x|xは x2 + 1 = 0を満たす整数 }は元を一つも含まない集合である.このような集合を空集合といい,∅で表す.

二つの集合 A,Bを考える.任意の Aの元がBの元でもあるとき,AはB

の部分集合であるといい,A ⊂ Bなどと書く.AがBの部分集合でないとき,

A ⊂/ Bなどと書く.また,A ⊂ BかつB ⊂ Aのとき,AとBは等しいといい,

A = Bと書く.そうでないときはA ̸= Bと書く.さらに,A ⊂ BかつA ̸= B

であるとき,AはBの真部分集合であるといい,A ⊊ Bなどと書く.A ⊂ A

と ∅ ⊂ Aはいつでも成立していることを注意する.集合Aの部分集合全体を

2Aと書き,Aのベキ集合と呼ぶ.つまり,2A = {B|B は Aの部分集合 }である.2A のように要素が集合となる集合を集合族という.

注意 1.2 実数の区間はRの部分集合であることに注意する.例えば,

(a, b) = {x ∈ R|a < x < b}, (a, b] = {x ∈ R|a < x ≤ b},

[a, b) = {x ∈ R|a ≤ x < b}, [a, b] = {x ∈ R|a ≤ x ≤ b}

である. (a, b)を開区間,(a, b]や [a, b)を半開区間,[a, b]を閉区間という.

以後,A,B,C 及び A1, A2, A3, . . .を集合とする.

A ∪B = {x|x ∈ Aまたは x ∈ B}

と定義し,Aと B の和集合と呼ぶ.さらに,

A ∪B ∪ C = {x|x ∈ Aまたは x ∈ B または x ∈ C},n∪

i=1

Ai = {x|ある i ∈ {1, . . . , n}が存在して x ∈ Ai},

∞∪i=1

Ai = {x|ある i ∈ Nが存在して x ∈ Ai}

4

Page 6: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

などと定義する.同様にして

A ∩B = {x|x ∈ Aかつ x ∈ B}

と定義し,Aと B の共通部分と呼ぶ.さらに,

A ∩B ∩ C = {x|x ∈ Aかつ x ∈ B かつ x ∈ C},n∩

i=1

Ai = {x|任意の i ∈ {1, . . . , n}に対して x ∈ Ai},

∞∩i=1

Ai = {x|任意の i ∈ Nに対して x ∈ Ai}

などと定義する.A ∩B ̸= ∅のとき,Aと Bは交わるといい,A ∩B = ∅のとき,Aと B は互いに素であるという.

命題 1.3 (1) A ⊂ A ∪B, A ∪B = B ∪A.

(2) A ⊃ A ∩B, A ∩B = B ∩A.

(3) A ∪ (B ∩ C) = (A ∪B) ∩ (A ∪ C).

(4) A ∩ (B ∪ C) = (A ∩B) ∪ (A ∩ C).

証明. 演習問題とする. 2

集合X を固定する.X の部分集合 Aに対して,集合

{x ∈ X|xは Aに属さない }

を Aの (X に関する)補集合といい,Ac と書く.二つの集合 Aと B に対し

て,A∩BcをAとBの差集合といい,A−BまたはA\Bなどと書く.従って,Ac = X −Aである.さらに,A ⊂ B ならば Ac ⊃ Bc が成立する.

命題 1.4 (ド・モルガンの法則) (1) (A ∩B)c = Ac ∪Bc.

(2) (A ∪B)c = Ac ∩Bc.

証明. (1)の証明のみ紹介する.集合に関する等号を示すには,(A∩B)c ⊂Ac ∪Bcであることと (A∩B)c ⊃ Ac ∪Bcであることを別々に示すのが常套

手段である.(A ∩ B)c ⊂ Ac ∪ Bc であることを示す.x ∈ (A ∩ B)c とする.

つまり,x ∈ Xかつ x /∈ A∩Bである.x /∈ A∩Bということは,「x ∈ Aかつ

x ∈ B」でないということである.よって,x /∈ Aであるか x /∈ Bであるかで

ある.従って,x ∈ Ac ∪Bcが成立する.以上より,(A∩B)c ⊂ Ac ∪Bcを得

る.次に,(A∩B)c ⊃ Ac ∪Bcであることを示す.x ∈ Ac ∪Bcとする.今,

x ∈ Ac としよう.つまり,x ∈ X かつ x /∈ Aである.よって,x ∈ X かつ

x /∈ A∩Bなので,x ∈ (A∩B)cである.x ∈ Bcとしても同様に x ∈ (A∩B)c

を得る.以上より,(A ∩B)c ⊃ Ac ∪Bc を得る. 2

5

Page 7: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

集合列 A1, A2, A3, . . .に対して,

lim supi→∞

Ai =

∞∩j=1

∞∪k=j

Ak, lim infi→∞

Ai =

∞∪j=1

∞∩k=j

Ak

と定義し,それぞれ上極限集合,下極限集合という.さらに,lim supi→∞ Ai =

lim infi→∞ Ai であるとき,これを極限集合といい,それを limi→∞ Ai と表

す.集合列が A1 ⊃ A2 ⊃ A3 ⊃ . . .であるときは,limi→∞ Ai =∩∞

i=1 Ai で

あり,集合列が A1 ⊂ A2 ⊂ A3 ⊂ . . .であるときは,limi→∞ Ai =∪∞

i=1 Ai

である.命題 1.4より,次の命題を得る.

命題 1.5 (lim supi→∞ Ai)c = lim infi→∞ Ac

i .

二つの「もの」x, y の対 (x, y)を順序対という.一般に (x, y) = (y, x)は

成立しない.(x1, y1) = (x2, y2) とは,x1 = x2 かつ y1 = y2 のことであ

る.二つの集合 A,B に対して,Aの元と B の元から作られる順序対の全体

{(a, b)|a ∈ A, b ∈ B}を Aと Bの直積集合といい,A×Bと書く.さらに三

つ以上の集合の直積集合も同様にして定義できる.次に,関係について論じ

る.集合 Aと B の関係とは,部分集合 R ⊂ A×B のことであり,a ∈ Aと

b ∈ B に対して,(a, b) ∈ Rであるとき,aと bは R-関係にあるなどといい,

aRbなどと書く.特に,R ⊂ A×Aが Aにおける同値関係であるとは,

反射律: 任意の a ∈ Aに対して (a, a) ∈ R,

対称律: (a1, a2) ∈ Rならば (a2, a1) ∈ R,

推移律: (a1, a2) ∈ R,(a2, a3) ∈ Rならば (a1, a3) ∈ R,

の三つの条件をみたすときにいう.さらに,Rが Aの同値関係であるとき,

各 a ∈ Aに対して,[a] = {a1 ∈ A|(a, a1) ∈ R}はAの部分集合であるが,こ

れを aの同値類という.

命題 1.6 (1) (a1, a2) ∈ R ⇔ [a1] = [a2].

(2) (a1, a2) /∈ R ⇔ [a1] ∩ [a2] = ∅.

証明. (1),(2)共に自明である. 2

つまり,集合Aは同値関係Rによって互いに素な同値類の和集合として表す

ことができる.この同値類の全体を A/Rと書き,Aの Rによる商集合と呼

ぶ.Rの代わりに ∼を用いて,A/ ∼と書くことも多い.

例 1.7 (1) R上の同値関係を x ∼ y ⇔ x− y ∈ Zと定義する.ここから作ら

れる商集合はR/Zと書かれることが多い.

(2) X を線形空間,Y をその部分空間とする.x ∼ y ⇔ x− y ∈ Y と定義す

ると,関係∼は同値関係になる.これをX/Y と書き,X の Y に関する商空

間と呼ぶ.X/Y は,[x1] + [x2] = [x1 + x2]や [αx] = α[x]によって,線形空

間になる.

6

Page 8: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第2週 有限と無限

集合 Aの元に対して集合 B の元を一つずつ対応させる規則 f を集合 Aか

ら集合Bへの写像または関数といい,f : A → Bと書く.Aを f の定義域と

いい,f(A) = {f(x)|x ∈ A}を値域という.但し,写像 f によって x ∈ Aが

y ∈ B に対応しているとき,yを xの f による像といい f(x)と書く.

A,B,Cを集合とし,二つの写像 f : A → Bと g : B → Cを考える.x ∈ A

の f による像 f(x)のさらなる gによる像 g(f(x))を対応させる規則を f と g

の合成写像といい,g ◦ f で表す.つまり,

(g ◦ f)(x) = g(f(x))

である.

命題 2.1 h ◦ (g ◦ f) = (h ◦ g) ◦ f .

以後,しばらくは写像 f : A → B を考える.B の部分集合 B′ に対して,

f−1(B′) = {x ∈ A|f(x) ∈ B′}

を f による B′ の逆像という.

命題 2.2 A1, A2 と B1, B2 をそれぞれ Aと B の部分集合とせよ.

(1) f(A1 ∪A2) = f(A1) ∪ f(A2).

(2) f−1(B1 ∪B2) = f−1(B1) ∪ f−1(B2).

(3) f−1(B1 ∩B2) = f−1(B1) ∩ f−1(B2).

(4) f(f−1(B1)) ⊂ B1.

証明. (2)を示す.

f−1(B1 ∪B2) = {x ∈ A|f(x) ∈ B1 ∪B2}

= {x ∈ A|f(x) ∈ B1または f(x) ∈ B2}

= {x ∈ A|x ∈ f−1(B1)または x ∈ f−1(B2)}

= f−1(B1) ∪ f−1(B2).

次に (4)を示そう.y ∈ f(f−1(B1))とせよ.このとき,y = f(x)なる x ∈f−1(B1)が存在する.つまり,f(x) ∈ B1 である.よって,y ∈ B1. 2

任意の y ∈ f(A)に対して,x ∈ Aが一意的に定まり y = f(x)であるとき,

つまり f(x1) = f(x2)ならば x1 = x2 であるとき,f を単射という.また,

B = f(A)であるとき,f を全射または上への写像という.f が単射かつ全

射であるとき全単射という.f が単射であるとき,写像 f−1 : f(A) → Aで,

(1) x ∈ Aに対して f−1(f(x)) = x,(2) y ∈ f(A)に対して f(f−1(y)) = y,

7

Page 9: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

を満たすものが存在する.この f−1を f の逆写像という.逆像と逆写像の違

いに注意せよ.また,f : A → Aが,任意の x ∈ Aに対して f(x) = xを満

たすとき,f は全単射写像であり,一般に恒等写像と呼ばれる.

二つの集合 A,B の間に全単射写像が存在するとき,Aと B は対等である

といい,A ∼ B と書く.このとき Aと B は同じ濃度を持つという.Aの濃

度を |A|と書く.よって,A ∼ B であることと |A| = |B|は同値である.大ざっぱにいえば,濃度とは集合に含まれる元の個数である.例えば,空集合

の濃度は 0である.つまり |∅| = 0である.集合 Aが元を有限個しか含まな

いとき,つまり有限集合であるとき,ある自然数 n ∈ Nが存在して |A| = n

である.このとき,明らかに A ∼ {1, 2, . . . , n}である.有限集合でない集合を無限集合というが,無限集合に対する濃度の取り扱

いには注意が必要である.まず,自然数の全体 Nの濃度を ℵ0(アレフゼロ)

で表す.集合 Aが A ∼ Nであるとき,Aを可算という.集合が有限または

可算であるとき,高々可算という.

例 2.3 (1) Zは可算である.実際,f(0) = 1, f(n) = 2n + 1, f(−n) = 2n,

n ∈ Nとすればよい.

(2) N2 ∼ Nである.実際,自然数m,nに対して,

f(m,n) =1

2(m+ n− 2)(m+ n− 1) + n

とすればよい.より一般にNn ∼ Nが成立する.但し,N2 = N ×Nであ

り,これはNとNの直積集合である.

(3) (2)から直ちにQ ∼ Nが成立する.

Nは Zの真部分集合であるにもかかわらず,|N| = |Z|である.このようなことは有限集合では起こりえない無限集合の特徴である.

定理 2.4 無限集合は可算部分集合を含む.

証明. X を無限集合とする.X の元を一つとって x1とする.X\{x1}も無限集合であり,その中から元を一つとってきてそれを x2 とする.さらに,

X\{x1, x2}から元を一つとり x3とする.このようにして帰納的にX の可算

部分集合 {x1, x2, . . .}を得る. 2

定理 2.5 可算集合の任意の部分集合は高々可算である.

証明. X を可算集合とする.従って,X = {x1, x2, . . .} と表現できる.Y ⊂ X とせよ.自然数 nに対して,Xn = {x1, . . . , xn}とおく.Y を無限集

合として可算であることを示せば十分.∪∞

n=1 Xn = X であることに注意し

8

Page 10: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

て,以下のように自然の単調増大列 {nk}を構成する:

n1 = min{n ∈ N|Xn ∩ Y ̸= ∅},

n2 = min{n ∈ N|Xn ∩ (Y \{xn1}) ̸= ∅},

n3 = min{n ∈ N|Xn ∩ (Y \{xn1, xn2

}) ̸= ∅},

· · · .

Z = {xnk|k ∈ N} とおくと,Z ⊂ Y である.Z ̸= Y とする.このとき,

xn ∈ Y \Z なる xn が存在する.ところが,任意の番号 kに対して xn ̸= xnk

なので,nk < n < nk+1 なる番号 kが取れる.これは nk+1 の取り方に矛盾

する.よって Z = Y となり,Y は可算である. 2

定理 2.6 Rは可算でない無限集合である.

証明. 対角線論法により示す.f : (0, 1) → Rを f(x) = tanπ(x− 12 )と

定義すると,f は全単射となる.従って,I = (0, 1)が可算でないことを示せ

ば十分.I が可算であると仮定する.つまり,I = {x1, x2, . . .}と書ける.各xn を無限小数に展開する:

x1 = 0.x11x12x13 · · · ,

x2 = 0.x21x22x23 · · · ,

x3 = 0.x31x32x33 · · · ,

· · · .

このとき,自然数 kに対して yk を

1 ≤ yk ≤ 9, yk ̸= xkk, yk ̸= yk+1

を満たすようにとり,

y = 0.y1y2y3 · · ·

とすると y ∈ I である.しかし,任意の n ∈ Nに対して,yの小数第 n位は

xnn と異なるから y ̸= xn である.これより y /∈ I となり矛盾. 2

注意 2.7 (1) 上記で x ∈ I を無限小数に展開するとき,xが 0.213のような

有限小数である場合には注意が必要である.ここでは,0.213を 0.212999 · · ·のような展開を行うものとする.

(2) 実数全体Rの濃度を ℵ(アレフ)で表す.

9

Page 11: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第3週 数直線,平面と距離

数直線、つまりRの部分集合 Aを考える.点 x ∈ Rが Aの内点であると

は,xを含み Aに含まれる開区間 Sx が存在するときに言う.つまり,

x ∈ Rが Aの内点⇐⇒ x ∈ Sx ⊂ Aなる開区間 Sx が存在する,

である.実は,xが Aの内点であるとき,Sx として xを中心とする開区間

を取れる.つまり,十分小さな正数 ε > 0が存在し,x ∈ (x− ε, x+ ε) ⊂ A

となる.開区間 (x− ε, x+ ε)を xの ε-近傍と呼び,N(x, ε)と書く.A ⊂ R

が空集合であるか,任意の x ∈ Aが Aの内点であるとき,AをR上の開集

合という.開集合に関して,例と重要な性質と注意を与える.

例 3.1 (1) R上の開集合の例: R自身,∅, 任意の開区間,(x,∞)や (−∞, x)

などの無限開区間.

(2) 開集合でない例: 閉区間,半開区間,一点集合 {x}, [x,∞)や (−∞, x]な

どの無限閉区間,{1, 1/2, 1/3, . . .}など.

定理 3.2 (1) 任意個の開集合の和集合は再び開集合である.

(2) 有限個の開集合の共通部分は再び開集合である.

証明. (2) 二つの場合を示せば十分.A1 と A2 を開集合とする.A1 ∩A2

が空ならば定理は成立.そこで,A1 ∩A2が空でないとする.x ∈ A1 ∩A2を

任意に取る.このとき,i = 1, 2に対して x ∈ Ni ⊂ Aiなる開区間Niが存在

する.N1 ∩N2 は xを含む開区間であり,A1 ∩A2 に含まれる. 2

注意 3.3 (1) 定理 3.2(1)における「任意個」とは,非可算の場合も含む.

(2)開区間の列Ai = (− 1i ,

1i ), i = 1, 2, . . .を考える.このとき,

∩∞i=1 Ai = {0}

である.つまり,定理 3.2(2)において,有限個という条件は外せない.

開集合の補集合を閉集合という.従って,∅とRはR上の開集合でもあり

閉集合でもある.また,任意の閉区間,無限閉区間,一点集合もR上の閉集

合である.半開区間は開でも閉でもない.さらに,定理 3.2とド・モルガン

の法則から以下が成り立つ:

(1) 任意個の閉集合の共通部分は再び閉集合である.

(2) 有限個の閉集合の和集合は再び閉集合である.

例 3.4 {1, 1/2, 1/3, . . .}は閉集合でもない.もし閉集合ならば{1, 1/2, 1/3, . . .}c

は開である.ところが,0 ∈ {1, 1/2, 1/3, . . .}cであるが,どんな小さな ε > 0

を取ってきてもN(0, ε)∩{1, 1/2, 1/3, . . .} ̸= ∅であるから,{1, 1/2, 1/3, . . .}c

は開集合ではない.

10

Page 12: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

次に平面R2上の開集合を定義する.まず,中心 x = (x1, x2) ∈ R2,半径

ε > 0の開円盤は

{(y1, y2) ∈ R2|(x1 − y1)2 + (x2 − y2)

2 < ε2}

で与えられることに注意する.点 x ∈ R2 が A ⊂ R2 の内点であるとは,x

を含みAに含まれる開円盤が存在するときに言う.ここからR2上の開集合,

閉集合が数直線の場合と同様に定義される.従って,数直線の場合とまった

く同様に,空集合と平面全体R2は開かつ閉である.さらに任意の開円盤は開

集合,円周も含む閉円盤は閉集合になる.中心 x,半径 ε > 0の開円盤を点 x

の ε-近傍といいN(x, ε)で表す.xがAの内点であるとき,x ∈ N(x, ε) ⊂ A

をみたす ε > 0が存在する.証明なしで次の命題を紹介する:

命題 3.5 R2 上の開集合は高々可算個の開円盤の和集合で表される.

ここまでの議論は n次元ユークリッド空間 Rn へそのまま拡張できる.n

次元空間で開集合を定義するには,2次元における開円盤に相当する開球を

定義しなければならない.まず,二つの点 x, y ∈ Rn の距離は,以下のよう

に定義されるRn ×Rn 上の非負実数値関数 d(n)(x, y)である:

d(n)(x, y) =

√√√√ n∑i=1

(xi − yi)2.

但し,x = (x1, . . . , xn), y = (y1, . . . , yn)である.従って,中心 x ∈ R,半

径 εの開球,つまり xの ε-近傍N (n)(x, ε)は {y ∈ Rn|d(n)(x, y) < ε}で与えられる.これを用いて内点,開集合が 2次元の場合と同様にして定義される.

ここで,d(n) について以下の定理が成立する.

定理 3.6 d(n) は以下の三つの条件を満たす.

(1) 任意の x, y ∈ Rnに対して d(n)(x, y) ≥ 0,かつ,「d(n)(x, y) = 0であるこ

と」と「x = yであること」は同値である.

(2) 任意の x, y ∈ Rn に対して d(n)(x, y) = d(n)(y, x).

(3) 任意の x, y, z ∈ Rn に対して d(n)(x, y) ≤ d(n)(x, z) + d(n)(z, y).

証明. (3)のみ示せば十分であろう.そのために一つ補題を準備しておく.

補題 3.7 (コーシー・シュワルツの不等式) 任意の2n個の実数a1, . . . .an, b1, . . . , bn

に対して (n∑

i=1

aibi

)2

(n∑

i=1

a2i

)(n∑

i=1

b2i

)が成立する.

11

Page 13: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

証明. 0 ≤∑n

i=1(ai − tbi)2 =

∑ni=1 a

2i − 2t

∑ni=1 aibi + t2

∑ni=1 b

2i が任意

の t ∈ Rに対して成立する.あとは 2次方程式の判別式を用いればよい.2

定理 3.6の証明に戻る.x = (x1, . . . , xn), y = (y1, . . . , yn), z = (z1, . . . , zn)

とおく.ai = xi − yi, bi = yi − ziとおく.ai + bi = xi − ziであることとコー

シー・シュワルツの不等式から(d(n)(x, z)

)2=

n∑i=1

(ai + bi)2 =

n∑i=1

a2i +

n∑i=1

b2i + 2

n∑i=1

aibi

≤n∑

i=1

a2i +

n∑i=1

b2i + 2

√√√√ n∑i=1

a2i ·n∑

i=1

b2i

=(d(n)(x, y) + d(n)(y, z)

)2を得る. 2

特に,(3)を三角不等式という.関数 d(n) : Rn ×Rn → Rは n次元ユーク

リッド空間の常識的な意味での 2点間の距離を表している.従って,d(n) を

通常の距離と呼ぶ.一方,一般の集合 X の上に 2点間の距離を定義しよう

としても,常識的な意味での距離という概念は一般には存在しない.そこで,

通常の距離が持っている性質のうちのいくつかを抜き出して,それらの性質

を持っているものをすべて距離として扱うことにする.このとき,後々議論

する関数の連続性や点列の収束等において,ユークリッド空間上で成立して

いることが抽象的な距離を導入した空間でも成立するように,距離を定義し

なくてはならない.実は,定理 3.6の三つの条件は,抽象的な意味での距離

が持つべき必要最小限の性質なのである.そこで,X を集合としたときに,

定理 3.6の三つの条件を満たす関数X ×X → Rを距離または距離関数とい

い,集合X と距離 dの組 (X, d)を距離空間という.

例 3.8 (n次元ユークリッド空間Rn 上の距離) 上記で紹介した通常の距離

d(n) 以外に,以下の二つの関数もRn 上の距離である:

d(n)1 (x, y) =

n∑i=1

|xi − yi|, d(n)2 (x, y) = max

1≤i≤n{|xi − yi|}.

但し,x = (x1, . . . , xn), y = (y1, . . . , yn) ∈ Rn である.また,

d(n)3 (x, y) =

n−1∑i=1

|xi − yi|+ 1{xn ̸=yn}

も距離である.但し,1{xn ̸=yn} は,xn ̸= yn のとき 1で,そうでないとき 0

となる関数とする.n = 2における原点の 12 -近傍は {(x1, 0) : − 1

2 < x1 < 12}

となり,近傍のイメージからかけ離れたものとなる.このように距離という

概念を抽象化することにより直観に反するような距離も存在するのである.

12

Page 14: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第4週 距離から位相へ

まず距離空間の具体例をいくつか紹介することから始める.

例 4.1 (連続関数空間上の距離) 閉区間 [0, 1] 上の連続関数の全体を C[0, 1]

と書く.ここではまだ連続関数の定義を与えていないが,C[0, 1]上の距離を

考える.f, g ∈ C[0, 1]に対して

d1(f, g) =

∫ 1

0

|f(x)− g(x)|dx,

d2(f, g) = max{|f(x)− g(x)|;x ∈ [0, 1]}

は共にC[0, 1]上の距離である.正確な議論を行うためには,ルベーグ積分論,

商空間及び一様連続性などの諸概念が必要となるのでここでは割愛する.

例 4.2 直観的感覚からずれた極端な例もある.集合X に対して関数 dを

d(x, y) =

{1, x ̸= yのとき,

0, x = yのとき

と定義すると,(X, d)は距離空間である.これを自明な距離と呼ぶ.

例 4.3 (X, d)を距離空間とする.このとき,

d1(x, y) = min{1, d(x, y)}, d2(x, y) =d(x, y)

1 + d(x, y)

とおくと,(X, d1), (X, d2)は共に距離空間である.

(X, d)を距離空間とする.x ∈ X とX の部分集合 A,B( ̸= ∅)に対して

d(x,A) = inf{d(x, a)|a ∈ A},

d(A,B) = inf{d(a, b)|a ∈ A, b ∈ B},

d(A) = sup{d(x, y)|x, y ∈ A}

と定義する.特に,d(A)を Aの直径といい,d(A) < ∞であるとき Aは有

界であるという.点 x ∈ X を中心とした半径 ε > 0の開球N(x, ε)を

N(x, ε) = {y ∈ X|d(x, y) < ε}

と定義する.この N(x, ε)を xの ε-近傍ともいう.A ⊂ X を考える.x ∈ A

が Aの内点であるとは,N(x, ε) ⊂ Aとなるような ε > 0が存在するときに

いう.Aの内点の全体を内部といい,A◦と書く.Aが空集合であるか任意の

x ∈ Aが Aの内点であるとき,Aを開集合という.Aの補集合が開集合であ

るとき Aを閉集合という.

13

Page 15: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

注意 4.4 Aが開集合であることの必要十分条件はA = A◦である.一方,如

何なる Aに対しても A◦は開集合である.この事実は自明であるように思え

るがそうではない.x ∈ A◦ を取ってきたとき,x は A の内点であるから,

N(x, ε) ⊂ Aとなる ε > 0が存在する.しかし,ここでは xがA◦の内点であ

ること,つまりN(x, ε) ⊂ A◦ を示さなくてはならないのである.

Acの内点をAの外点という.内点でも外点でもない点を境界点という.さら

に,任意の ε > 0に対してN(x, ε)∩A ̸= ∅となる点 xをAの触点という.触

点の全体を Aの閉包といい Aと書く.xが A−{x}の触点であるとき,xを

Aの集積点といい,その全体を Aの導集合と呼ぶ.尚,Aの集積点は必ずし

も Aに属すとは限らない.また,Aの集積点でない Aの点を孤立点という.

定理 4.5 (1) Aの閉包Aは,Aを含む最小の閉集合である.また,Aの点は

Aの集積点であるか孤立点であるかのどちらかである.

(2) A = {x ∈ X|d(x,A) = 0}.(3) Aが閉集合⇐⇒ A = {x ∈ X|d(x,A) = 0}.

証明. (1) A ⊂ Aは明らか.定義からAの補集合はAの外点の全体,つま

り (A)c = (Ac)◦である.上記の注意 4.4よりAは閉集合となる.今,B ⊃ A

を閉集合とする.点 x ∈ BcはAの外点となることから,B ⊃ Aが成立する.

後半の主張は定義より明らか.

(2) x ∈ Aが孤立点であるとき,d(x,A) = 0となる.一方,集積点である

ならば,任意の ε > 0 に対して N(x, ε) ∩ (A − {x}) ̸= ∅ となる.従って,d(x,A) < ε.ε > 0は任意だから d(x,A) = 0となる.次に,d(x,A) = 0とな

る x ∈ X を任意に取ってくる.このとき,任意の ε > 0に対してN(x, ε)∩A

は空でない.従って,xはAの点であるか集積点であるかのどちらかである.

(3) (1),(2)より明らか. 2

例 3.8で紹介した距離 d(n)1 と d

(n)2 ,それから通常の距離 d(n) を n = 2の

場合に考察しよう.x ∈ R2 の d(2) による ε-近傍は,xを中心とした半径 ε

の円になる.d(2)1 の場合は xで対角線が交わるひし形になる.正確には正方

形だが,対角線が軸に平行になるという意味でひし形とする.さらに d(2)2 の

場合は xで対角線が交わり,各辺が軸に平行となる正方形である.εを適当

に入れ替えることにより,円に内接または外接するようにひし形や正方形を

描ける.また,ひし形と正方形同士も互いに内接または外接するように取れ

る.このことにより,xが集合 Aの内点であるかどうかは,d(2), d(2)1 , d

(2)2 を

考えている限り,距離の取り方によらない.距離空間上の開集合全体,それ

を開集合族という,を考えると,これら三つの距離空間は同じ開集合族を生

成する.関数の連続性や点列の収束を議論するに当たり,それらの定義を開

集合を用いて与える.そこで,開集合族だけに着目した構造を導入するため

に,開集合族の抽象化を以下のように行う.鍵となるのは定理 3.2である.

14

Page 16: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

定義 4.6 X を空でない集合,U を以下の三つの条件をみたすX の部分集合

からなる族とする: (1) ∅, X ∈ U , (2) U1, U2 ∈ U ならば U1 ∩ U2 ∈ U , (3)U の元からなる任意の集合族 {Uλ}λ∈Λ に対して,

∪λ∈Λ Uλ ∈ U . Λはイン

デックス集合であり,非可算であっても良い.このとき,U を開集合系といい,(X,U)を位相空間という.また,U の各要素 U ∈ U を開集合という.

ここで位相空間の例をいくつか挙げよう.

例 4.7 (1)距離空間 (X, d)において,Uとしてその開集合族を取ると,(X,U)は位相空間となる.これを距離 dが定める位相という.Rn において,三つ

の距離 d(n)1 ,d

(n)2 と d(n)は同一の位相を定める.但し,d

(n)3 の定める位相は

異なる.

(2) 集合X に対して U = {∅, X}と取ると,(X,U)は位相空間となる.これを密着位相という.

(3) U = 2X としても開集合系となる.これを離散位相という.

(4) 二つの開集合系 U1 と U2 に対して,U1 ∩ U2 は再び開集合系となる.

(5) X = {a, b, c, d, e}とする.

U1 = {X, ∅, {a}, {c, d}, {a, c, d}, {b, c, d, e}},

U2 = {X, ∅, {a}, {c, d}, {a, c, d}, {b, c, d}},

とするとき,U1 は開集合系であるが,U2 は開集合系ではない.

(6) (X,U)を位相空間とし,空でないA ⊂ Xを考える.UA = {A∩U |U ∈ U}とすると,(A,UA)は位相空間となる.これを部分空間といい,この位相を相

対位相という.例えば,Rに通常の位相を入れた場合を考えよう.A = [0, 2],

U = (−1, 1)とすると,U ∩A = [0, 1)は部分位相空間では開集合となる.し

かし,R上では開集合とはならない.

注意 4.8 X 上の二つの開集合系 U1 と U2 が U1 ⊂ U2 をみたすとき,U1 は

U2より弱い位相であるという.このとき,U2は U1より強い位相であるとも

いう.密着位相は最も弱い位相であり,離散位相は最も強い位相である.

開集合系の代わりに閉集合系を定義して位相空間を定義することができる.

F が空でない集合X の閉集合系であるとは,

(1) ∅, X ∈ F,(2) F1, F2 ∈ F ならば F1 ∪ F2 ∈ F ,

(3) F の元からなる任意の集合族 {Fλ}λ∈Λ に対して,∩

λ∈Λ Fλ ∈ Fをみたすときにいう.このとき,明らかに集合族 {F c|F ∈ F}は開集合系である.逆に,U が開集合系であるとき,{U c|U ∈ U}は閉集合系となる.この意味で,開集合系と閉集合系は一対一に対応している.

15

Page 17: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第5週 関数の連続性

距離空間において点 xが集合 Aの内点であるとは,十分小さな ε > 0をと

れば ε-近傍N(x, ε)がAに含まれることであった.N(x, ε)は,xを中心とす

る半径 εの開球であるから,xの周り全てを含む.別の言い方をすれば,点 x

に近づくためには N(x, ε)を通らなければならない.実は,「近傍」とはある

点の周り全てを含む集合という意味合いがある.逆に,Aが開集合とは,ど

の点 x ∈ Aを取ってきてもその周辺が Aに含まれる集合ということになる.

つまり,開集合AはAに属す全ての点の近傍になっている.そこで,位相空

間にも「近傍」という概念を導入したい.

定義 5.1 (X,U)を位相空間とする.集合N が x ∈ X の近傍であるとは,あ

る開集合 U ∈ U が存在して x ∈ U ⊂ N をみたすときにいう.点 xの近傍全

体をN (x)と書き,点 x ∈ X の近傍系という.各点での近傍系を集めた集合

{N (x)}x∈X を改めて近傍系と呼ぶこともある.

遠くの点から xに近づくとき,N を通らずに近づくことができないことを意

味している.位相空間における近傍は,ε-近傍とは違い,周辺の点をすべて

含んでいれば良いので,どんな大きな集合でも構わない.このことは,近傍

という言葉のイメージとはかけ離れている.例えば,全体集合X は任意の点

x ∈ X の近傍である.近傍系に関して以下の命題が成立する.

命題 5.2 {N (x)}x∈X を近傍系とする.任意の xに対して以下が成立する:

(1) N ∈ N (x)ならば x ∈ N ,

(2) N ∈ N (x), N ⊂ M ならばM ∈ N (x),

(3) N,M ∈ N (x)ならばN ∩M ∈ N (x),

(4) 任意の N ∈ N (x)に対してあるM ∈ N (x)が存在して,y ∈ M ならば

N ∈ N (y)が成立.

証明. (4)のみ示せば十分.N ∈ N (x)であるとき,ある U ∈ U が存在して,x ∈ U ⊂ N となる.M としてこの U を取ればよい. 2

実は,開集合系を使わずに近傍系から位相空間を定義することもできる.命

題 5.2の四つの条件をみたすXの部分集合族 {N (x)}x∈X(正確には集合族の集

合)が与えられたとき,{N (x)}x∈XをXの近傍系といい,組 (X, {N (x)}x∈X)

を位相空間という.つまり,位相空間の定義には開集合系,閉集合系,近傍

系による三通りの方法がある.どの方法で定義しても同じであることを確認

しなければならない.上記では開集合系から位相が定義されたときの近傍の

定義を与えた.つまり,開集合系が最初に与えられ,そこから近傍系を構成

する方法を示した.今度は近傍系が与えられたときの開集合の定義を与える.

16

Page 18: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

定義 5.3 (X, {N (x)}x∈X)を近傍系による位相空間とする.このとき,集合

U ⊂ X が開集合であるとは,任意の x ∈ U に対して U ∈ N (x)をみたすと

きにいう.

このように定義された開集合の全体を U と書くと,U は開集合系の三条件をみたすことが簡単に確認できる.よって,近傍系が最初に与えられても,そ

こから開集合系を構成することもできるのである.つまり,位相を定義する

際には何から定義しても結局は同じである.集合X上に開集合系 U が与えられ,定義 5.1を通じて近傍系 {N (x)}x∈X を構成し,さらにこの {N (x)}x∈X

から定義 5.3に従い開集合系を構成すると,再び元の U が得られるのである.関数の連続性について,所謂 ε-δ論法を用いた定義の復習から始める.

定義 5.4 関数 f : R → R が点 x0 ∈ R で連続であるとは,任意の ε > 0

に対してある δ > 0 が存在して,x ∈ R が |x − x0| < δ をみたすならば

|f(x)− f(x0)| < εなるときにいう.これを以下のように書き換える:

∀ε > 0,∃δ > 0;x ∈ N(x0, δ) =⇒ f(x) ∈ N(f(x0), ε).

ここで,N(x, ε)は (x− ε, x+ ε)であることに注意しよう.ある点における

関数の連続性は近傍の言葉で定義される.これを少し一般化しよう.

定義 5.5 (X, dX), (Y, dY )を二つの距離空間とする.f : X → Y が点 x0 ∈ X

で連続であるとは,任意の ε > 0 に対して,x ∈ NX(x0, δ) ならば f(x) ∈NY (f(x0), ε)となる δ > 0が存在するときにいう.尚,NX , NY はそれぞれ

距離空間 (X, dX), (Y, dY )上の開球である.以下のように書き換えられる:

∀ε > 0,∃δ > 0;NX(x0, δ) ⊂ f−1(NY (f(x0), ε))

これより位相空間上の関数のある点における連続性を以下のように定義する:

定義 5.6 X,Y を位相空間とし,関数 f : X → Y が点 x0 ∈ X で連続である

とは,任意の NY ∈ NY (f(x0))に対して f−1(NY ) ∈ NX(x0)をみたすとき

にいう.ただし,NX ,NY はそれぞれX,Y の近傍系である.

関数 f が x で点列連続であるとは,x に収束する任意の点列 {xn} に対して,limn→∞ f(xn) = f(x) が成立するときにいう.f が x で連続ならば

xで点列連続であるが,一般にこの逆は成立しない.X = Y = Rとする.

U = {U |U c ⊂ X は可算 } ∪ {∅}とすると (X,U)は位相空間となる.これを補可算位相という.また,Y には通常の位相を入れ,f を恒等写像とすると

点列連続であるが,f−1((a, b)) = (a, b)であり,(a, b)は如何なる開集合も含

まないから,f は連続性を持たない.これについては第 6, 7週でも触れる.

重要な点は,関数のある点における連続性は近傍を使って定義されるとい

うことである.近傍という概念は,ある点の周辺の性質、つまり局所的な性

17

Page 19: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

質を述べる際に用いられる.一方,開集合は大域的概念である.このことが

意味することを理解するために以下の定理を示そう.

定理 5.7 X,Y を位相空間とする.関数 f : X → Y に関して以下の四条件は

同値である:

(1) f はX 上の全ての点で連続である.

(2) Y の任意の開集合 U に対して,f−1(U)はX の開集合である.

(3) Y の任意の閉集合 F に対して,f−1(F )はX の閉集合である.

(4) 任意の部分集合 A ⊂ X に対して,f(A) ⊂ f(A)である.

証明. (1)と (2)の同値性だけ示そう.残りについては内田 [2]の定理 16.4

を参照せよ.(1)が成り立っているとする.UY を Y の空でない開集合とする.

f−1(UY ) = ∅ならば,f−1(UY )はXの開集合である.f−1(UY )が空でないと

する.UY は,UY に属す任意の点の近傍になっている.従って,x ∈ f−1(UY )

を任意に取ると,f(x) ∈ UY であり,UY は Y における f(x)の近傍である

から,f−1(UY )は xの近傍である.xの任意性から f−1(UY )は開集合であ

り,(2)が成立する.次に (2)を仮定する.x ∈ X とNY ∈ NY (f(x))を任意

に取る.このとき,f(x) ∈ UY ⊂ NY を満たす Y 上の開集合 UY が存在する.

f−1(UY )はX の開集合であり,x ∈ f−1(UY )であるから f−1(UY )は xの近

傍である.よって,f は xで連続である. 2

単に「関数が連続」という場合は,すべての点で連続であることを表す.あ

る点での連続性と違い,この場合の連続性は関数の大域的な性質である.大

域的な性質を議論するには開集合を用いるのが一般的である.実際,定理 5.7

より位相空間上の関数の連続性は開集合を用いて以下のように定義される:

定義 5.8 X,Y を位相空間とし,関数 f : X → Y が連続であるとは,Y の任

意の開集合 U に対して,f−1(U)はX の開集合であるときにいう.

注意 5.9 (1) X が離散位相であるか Y が密着位相であれば,どんな関数

f : X → Y も連続となる.

(2) X,Y, Z を位相空間とし,f : X → Y, g : Y → Z を連続関数とする.この

とき,合成関数 g ◦ f も連続である.

二つの位相空間 X,Y において,写像 f : X → Y が同相写像であるとは,

全単射かつ連続で逆写像 f−1 : Y → X も連続であるときにいう.X,Y の間

に同相写像が存在するとき,X,Y は同相であるという.同相は位相空間を分

類するときに用いられる.例えばR3 において,球は空間全体と同相である

が,球とドーナツは同相でない.一般に開集合の連続写像による像は開集合

とは限らないが,同相写像による像は開集合になる.このことを同相写像は

開写像であるという.

18

Page 20: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第6週 点列の収束

ε-N 論法を用いた実数列の収束の定義から始める.

定義 6.1 実数列 {xn}n∈N がある実数 yに収束するとは,任意の ε > 0に対

して,ある番号 N ∈ Nが存在し,n ≥ N ならば |xn − y| < εが成り立つと

きにいう.xn → y(n → ∞)などと書き,yを {xn}の極限という.

この定義は距離空間まで自然に拡張できる.また,この定義を ε-近傍で書き

直すと,xn → y(n → ∞)であるとは,任意の ε > 0に対して

有限個の n ∈ Nを除いて xn ∈ N(y, ε)

が成り立つことである.さらに開集合を使って書き換えると,「U が yを含む

開集合であるとき,有限個の n ∈ Nを除いて xn ∈ U」となる.つまり,収

束の定義を位相空間まで広げることが可能となる.つまり、(X,U)を位相空間とするとき,xn → y(n → ∞)であるとは,

U ∈ U に対して, y ∈ U ならば,有限個を除いて xn ∈ U

が成り立つことである.近傍を使っても同様に定義できることに注意する.

例 6.2 (1) 密着位相空間,つまり U = {∅, X}であるとき,任意の点列は任意の点に収束している.

(2) 離散位相空間,つまり U = 2X を考える.点列 {xn}が yに収束している

ならば,有限個を除いて xn = yである.

(3) X 上の二つ開集合系 U1,U2を考える.U1の方が弱い,つまり U1 ⊂ U2と

するとき,点列 {xn}が y に U2 に関して収束しているならば,U1 に関して

も収束している.

ここで改めて,位相空間における内点や集積点を定義する.(X,U)を位相空間とし,N (x) を x ∈ X の近傍系とする.A ⊂ X に対し,x ∈ A が A

の内点であるとは,N ⊂ Aとなる N ∈ N (x)が存在するときにいう.任意

の N ∈ N (x)に対して N ∩ A ̸= ∅であるとき,xを Aの触点という.xが

A− {x}の触点であるとき,xを Aの集積点という.尚,内部,外点,境界

点,閉包,導集合,孤立点は距離空間の場合と同様に定義される.定理 4.5と

同様の定理が示せる.

定理 6.3 (1) Aの閉包Aは,Aを含む最小の閉集合である.また,Aの点は

Aの集積点であるか孤立点であるかのどちらかである.

(2) Aが閉集合⇐⇒ A = A.

証明. (1)は定理 4.5(1)と同様に示せる.(2)は (1)と定義より明らか.2

以下の定理は重要である.

19

Page 21: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

定理 6.4 位相空間X と A ⊂ X に対して以下が成立する.

(1) x ∈ X に収束する A内の点列 (点列の各項が Aに属す点列)が存在する

ならば,x ∈ Aである.特に,xに収束する A内の点列で全ての項が xと異

なるものが取れるならば,xは集積点である.

(2) Aが閉集合ならば,任意の A内の収束列は A内に極限を持つ.

証明. (1) x /∈ A を任意に取る.x は A の外点なので,x の近傍 N で

N ∩A = ∅となるものが存在する.従って,xに収束する任意の点列は,有限

個の項を除いて N に属す.つまり,xに収束する A内の点列は存在しない.

次に,二番目の主張を示す.Aは Aの集積点と孤立点からなる.そこで,x

をAの孤立点とする.よって,xの近傍N でN ∩ (A−{x}) = ∅となるものが存在する.ゆえに,xに収束する A− {x}内の点列は存在しない.(2) Aを閉集合とする.A内の収束列 {xn}でその極限 yが Acに属すものが

存在するとしよう.Acは開集合だから,yはAcの内点である.つまり,yの

近傍でAcに含まれるものが取れる.有限個を除いた {xn}の項はこの近傍に含まれるので,{xn}の各項が Aに含まれることに反する. 2

注意 6.5 (1) 距離空間を考えると,定理 6.4の逆の命題も成り立つ.(X, d)

を距離空間とする.まず定理 6.4(1)の逆を示す.xを A ⊂ X の集積点とす

る.xの任意の ε-近傍 N(x, ε)は A − {x}と共通部分を持つので,例えば,N(x, 1) ∩ (A− {x})は空でない.よって,x1 ∈ N(x, 1) ∩ (A− {x})が取れる.次に,ε2 = d(x, x1)/2とし,N(x, ε2)∩ (A− {x})から x2を取る.同様

に,ε3 = d(x, x2)/2としN(x, ε3)∩ (A−{x})から x3を取る.以下これを繰

り返し,点列 {xn}を構成すると,xn → xであり,各 xn は xと異なる.一

方,xがAの孤立点であるときは,点列 x, x, x, . . .を考えればよい.さらに,

定理 6.4(2)の逆については,Aを閉集合でない X の部分集合とする.従っ

て,Ac は開でない.従って,ある x ∈ Ac で内点でないものが取れる.つま

り,任意の ε > 0に対して xの ε-近傍 N(x, ε)は N(x, ε) ∩ A ̸= ∅をみたす.従って,xに収束する A内の点列が存在する.

(2)一般の位相空間を考えると,定理 6.4の各命題の逆は必ずしも成立しない.

反例を紹介しよう.但し,議論の詳細は省く.X を無限集合とし,(X,U)を補可算位相空間とする.つまり,U = {U |U cは可算 }∪{∅}とする.補可算位相における収束列 {xn}は,yを極限とするならば,x1, x2, . . . , xn0

, y, y, y, . . .

のような形を取る.X として Rを取り A = Zc とすると,Aは開集合であ

るが閉集合ではない.収束列の構造から,A上の収束列の極限は必ず Aに含

まれるが,Aは閉集合でない.よって定理 6.4(2)の逆は成立しない.さらに

A = Rに注意すると,定理 6.4(1)の逆も成立しないことがわかる.

(3) 「点 xが Aの集積点である」ことのイメージは,xが A内のある点列の

極限になっていることであり,定理 6.4(1)の逆が成り立たないことは,何と

20

Page 22: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

なく直観からはずれている印象を持つ.さらに,閉集合の代表例は閉区間で

あり,閉集合のイメージというのは「収束列の極限について閉じている集合」

であるといえる.一般の位相空間まで拡げて考えると定理 6.4の逆命題は成

立しないのであるが,(1)で見たように距離空間では成立する.では、一般の

位相空間に対して逆命題が成り立つための条件は何であろうか.このことに

ついては次週議論することにしよう.

実数列に関してはもう少し掘り下げる必要があるが,これは実数の連続性

と深く関わってくるので,週を改めて詳しく述べることにする.ここでは,準

備としてコーシー列を紹介し,その性質について議論する.

定義 6.6 実数列 {xn}n∈Nがコーシー列であるとは,任意の ε > 0に対して,

あるN ∈ Nが存在し,n,m ≥ N ならば |xn − xm| < εであるときにいう.

命題 6.7 実数列に関して,以下が成立する:

(1) 収束列はコーシー列である.

(2) コーシー列は有界列である.

(3) コーシー列の部分列が yに収束すれば,コーシー列自身も yに収束する.

(4) コーシー列は収束列である.

証明. (1) {xn}が yに収束しているとする.ε > 0とせよ.n ≥ N ならば

|xn − y| < ε/2となる番号N ∈ Nが取れる.従って,任意の n,m ≥ N に対

して |xn − xm| ≤ |xn − y|+ |xm − y| < ε/2 + ε/2 = εが成立する.

(2) {xn}をコーシー列とすると,任意の n,m ≥ N に対して |xn − xm| < 1

となる番号 N が取れる.特に,m = N とすると xN − 1 < xn < xN + 1を

得る.以上より,任意の n ∈ Nに対して,min{x1, . . . , xN , xN − 1} ≤ xn ≤max{x1, . . . , xN , xN + 1}が成立する.(3) {xn}をコーシー列とし,部分列 {xik}は yに収束するものとする.任意

の ε > 0に対して,n,m ≥ N ならば |xn − xm| < ε/2となる番号 N が存在

する.また,iK ≥ N を満たす番号K が取れて |xiK − y| < ε/2となる.よっ

て,n ≥ N ならば |xn − y| ≤ |xn − xiK | + |xiK − y| < εとなり,{xn}は y

に収束する.

(4) 定理 9.5と (2),(3)から成立する. 2

命題 6.7において,(1)は距離空間上のコーシー列に対しても成立する.しか

し,(4)はいつでも成立するとは限らない.一般に,集合A上のコーシー列が

いつでも A内に収束するとき,Aを完備であるという.Rや [0, 1]は完備で

あるが,(0, 1)は完備でない.また,√2に収束する有理数列 1, 1.4, 1, 41, . . .

を考えれば,Qも完備でないことがわかる.

21

Page 23: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第7週 可算公理と分離公理

定理 6.4(1)と (2)の逆命題に加えて,以下の二つの命題を考える:

(a) 収束列の極限は一意である.

(b) 点列連続な関数は連続である.

これら四つの命題は直観的には成立しそうである.実際,距離空間では成立

する.ところが,一般の位相空間では必ずしも成立するとは限らない.(a)は

密着位相では成立しない.位相空間上で関数の連続性や点列の収束について

議論する際,これら四つの命題が成立しないと不便なことも多い.そこで,ど

のような条件があれば位相空間上でもこれらの命題が成立するかを議論した

い.そして,そのために必要な様々な概念を紹介することを今週の目的とす

る.また,ここでの議論を通して,数直線や距離空間を扱っている限り直観

的には当然に思えるような事柄に対して,それらが成立するための本質的な

部分を理解することも目指す.

位相空間が与えられ,関数の連続性や点列の収束について議論するとき,開

集合や近傍が重要な役割を果たす.ところが,そのとき全ての開集合や近傍

を考える必要はない.例えば,距離空間では近傍や開集合として ε-近傍を考

えれば十分である.そこで,開集合や近傍の一部を上手く抜き出して議論を

行うことが多々ある.まず,{N (x)}x∈X を集合 X の近傍系とする.x ∈ X

に対して,N0(x) ⊂ N (x)が基本近傍系であるとは,任意の N ∈ N (x)に対

してある N0 ∈ N0(x)が存在して x ∈ N0 ⊂ N をみたすときにいう.例えば

距離空間の場合には,{N(x, ε)|ε > 0}や {N(x, 1/n)|n ∈ N}は xの基本近

傍系となる.特に,{N(x, 1/n)|n ∈ N}は可算集合である.このように,各点が高々可算な基本近傍系を持つとき,その位相空間は第一可算公理をみた

すという.第一可算公理に関する命題を紹介する.

命題 7.1 (1) 距離空間及び離散位相空間は第一可算公理をみたす.

(2) 第一可算公理をみたすならば,定理 6.4(2)の逆命題が成立する.

(3) 第一可算公理をみたす位相空間上の関数に対して,ある点で連続である

こととその点で点列連続であることは同値である.

証明. (1)距離空間については明らか.離散位相空間において一点集合 {x}は xの近傍になることから,N0(x)として {{x}}を取れる.従って,第一可算公理をみたす.

(2) 一樂 [1]の定理 5-1を参照せよ.

(3) X,Y を位相空間とし,f : X → Y が x0 ∈ X で連続でないとき点列連続

でないことを示す.X が第一可算公理をみたすことから,{N1, N2, . . .}を x0

の基本近傍系とする.n ∈ Nに対して Bn = ∩nk=1Nk とおくと,これは縮小

列であり,x0の基本近傍系を成す.f(x0)の近傍NY で,f−1(NY )が x0の近

傍にならないものが存在する.つまり,各 nに対して Bn ∩ (f−1(NY ))c ̸= ∅

となる.従って,yn ∈ Bn ∩ (f−1(NY ))cをみたすように点列 {yn}を取ると,

22

Page 24: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

これは x0 に収束している.ところが,f(yn) /∈ NY であるから点列連続で

ない. 2

次に,U を X の開集合系とする.このとき,部分集合族 U0 ⊂ U が開集合系の基であるとは,任意の U ∈ U が U0 の元の和集合で書けるときにい

う.この条件は,「任意の U ∈ U と x ∈ U に対してある U0 ∈ U0 が存在して

x ∈ U0 ⊂ U をみたす」と書きかえることもできる.

注意 7.2 空でない集合X の部分集合族Aに対して,Aの有限個の要素の共通部分の全体を開集合の基に持つX上の位相が一意的に定まる.この位相を,

Aよって生成される位相という.

高々可算な開集合系の基を持つとき,第二可算公理をみたすという.通常の

距離を導入したユークリッド空間は第二可算公理をみたす.なぜならば,中

心の座標が有理数で半径も有理数であるような開球の全体が開集合系の基に

なるからである.ここで,位相空間 X に対して A = X となる A ⊂ X が取

れるとき,AはX で稠密 (ちゅうみつ)であるという.そして,高々可算な稠

密部分集合を持つ位相空間を可分という.以下の命題を証明なしで紹介する.

命題 7.3 (1) 第二可算公理をみたす位相空間は第一可算公理もみたす.

(2) 位相空間が第二可算公理をみたすならば可分である.

(3) 可分な距離空間は第二可算公理をみたす.

続いて,二つの分離公理を紹介する.

定義 7.4 (X,U)を位相空間とする.(1) X が T1-分離公理をみたすとは,任意の異なる 2点 x1, x2 ∈ X に対して,

x1 ∈ U1 ∩ U c2 , x2 ∈ U c

1 ∩ U2 をみたす開集合 U1, U2 が存在するときにいう.

また,T1-分離公理をみたす位相空間を T1-空間という.

(2) X が T2-分離公理をみたすとは,任意の異なる 2 点 x1, x2 ∈ X に対し

て,U1, U2 ∈ U が存在して x1 ∈ U1, x2 ∈ U2, U1 ∩ U2 = ∅がみたすときにいう.また,T2-分離公理をみたす位相空間をハウスドルフ空間または T2-空間

という.

距離空間や補有限位相は T1-空間である.T1-空間に関して以下の命題が成立

する.

命題 7.5 (1) 位相空間が T1-空間であるための必要十分条件は,全ての一点

部分集合が閉集合であることである.

(2) 第一可算公理を満たしている T1-空間に対して,定理 6.4(1)の逆命題が成

立する.

23

Page 25: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

証明. (1) X を T1-空間とする.x0 ∈ X とし,{x0}cが開であることを示す.T1-分離公理より,任意の x ∈ X − {x0}に対して,x ∈ Ux ⊂ {x0}cなる開集合 Ux が存在する.{x0}c =

∪x∈{x0}c Ux より,{x0}c は開集合である.

逆は,定義 7.4(1)において,U1 = {x2}c, U2 = {x1}c と取ればよい.(2) Xを第一可算公理と T1-分離公理をみたす位相空間とし,x ∈ XをA ⊂ X

の集積点とする.命題 7.1(3)の証明のように,縮小列になっている xの基本

近傍系 {B1, B2, . . .}を構成する.このとき,xはA−{x}の触点であるから,各 n ∈ Nに対してBn∩ (A−{x}) ̸= ∅である.よって,xn ∈ Bn∩ (A−{x})をみたすように点列 {xn}を構成すると,これは xに収束する. 2

次に,ハウスドルフ空間について述べよう.距離空間を始め我々が通常取

り扱う位相空間の多くはハウスドルフ空間である.

命題 7.6 (1) ハウスドルフ空間は T1-空間である.

(2) X をハウスドルフ空間とする.X 上の点列 {xn}が極限を持てば,それは一意である.

(3) X が第一可算公理をみたす位相空間であるとき,(2)の逆命題が成立す

る.つまり,任意の収束点列の極限が一意であれば,X はハウスドルフ空間

である.

証明. (1)は明らか.(2)も,収束の定義に立ち返ればすぐに分かる.(3)

を示そう.X を第一可算公理をみたす位相空間でハウスドルフ空間でないも

のとする.ゆえに,ある 2点 x1, x2 ∈ X が存在し,x1 ∈ U1, x2 ∈ U2なる任

意の開集合 U1, U2 ∈ U は U1 ∩ U2 ̸= ∅をみたす.そこで,i = 1, 2に対して,

{Bni }n∈N を縮小列となる xi の基本近傍系とする.このとき,Bn

1 ∩ Bn2 ̸= ∅

がすべての nについて成り立つから,yn ∈ Bn1 ∩Bn

2 をみたすように {yn}を取ると,x1 と x2 の両方に収束する. 2

最後に,遺伝的性質と位相的性質を定義する.集合に関する性質 P が遺

伝的性質であるとは,性質 P を持つ位相空間のすべての部分空間が性質 P

を持つときにいう.第一可算公理,第二可算公理,T1-分離公理,T2-分離公

理はすべて遺伝的性質であるが,可分はそうでない.例えば,半開長方形

{(x, y)|a ≤ x < b, c ≤ y < d}から生成されるR2上の位相空間は可分である.

一方,直線 {(x, y)|x+ y = 0}上の相対位相は離散位相であり可分でない.次に,性質 P が位相的性質であるとは,性質 P を持つ位相空間の同相な位相空

間も必ず性質 P を持つときにいう.例えば,Rと (0, 1)は同相であるが,長

さは異なる.つまり,長さは位相的性質でない.一方,第一可算公理,第二

可算公理,T1-分離公理,T2-分離公理,可分性はすべて位相的性質である.

24

Page 26: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第8週 実数の連続性

ここから趣を変えて,位相空間論を用いた解析学の基礎づけについて論じ

る.解析学 (要するに微分積分学であるが)を厳密に論じることは意外と厄介

である.そのためには実数について掘り下げる必要がある.実数について我々

は直観的に理解している部分がかなりある.特に,実数の連続性について深

く考察することはこれまでなかったと思う.微積分において割と当たり前だ

と思われる様々な結果,平均値の定理や中間値の定理を厳密に示そうと思う

と,実数の連続性の仮定なしではすまされないのである.そこで,今週はま

ず実数の連続性について論じる.

ここでは,集合とはすべて実数Rの部分集合とする.まずは定義から始め

よう.

定義 8.1 (1) 空でない集合X ⊂ Rが上に有界 (下に有界)であるとは,任意

の x ∈ X に対して x ≤ a(x ≥ a)なる a ∈ Rが存在するときにいう.この a

をX の上界 (下界)という.上にも下にも有界である集合を単に有界という.

(2) 上に (下に)有界な集合X の上界 (下界)の中で最小 (最大)なものをX の

上限 (下限)といい,supX(infX)と書く.

注意 8.2 (1) 有限集合は常に有界である.

(2) {x ∈ R|x ≤ 5}と {x ∈ R|x < 5}は共に上に有界であり,共に上限は 5

である.上限は元の集合に含まれている場合もそうでない場合もある.

(3) 自然数の全体Nは下に有界であるが,上に有界ではない.

ここで,実数の連続性公理として以下を仮定する:

仮定 8.3 (実数の連続性公理) 上に有界な集合は必ず上限を持つ.

この実数の連続性公理から導かれる命題をいくつか紹介する.まず,実数

列 {xn}を集合 {x1, x2, . . .}と同一視する.集合 {x1, x2, . . .}が有界であるとき,実数列 {xn}は有界であるという.また,xn ≤ xn+1 が任意の n ∈ Nに

対して成立しているとき,{xn}は単調増大であるという.

定理 8.4 有界な単調増加数列は収束列である.

証明. 有界単調増加数列 {xn}に対して,A = {x1, x2, . . .}とおく.連続性公理より,α = supAが存在する.ε > 0を任意に固定する.αは Aの上

限だから,α − εは Aの上界ではない.よって,α − ε < xn0をみたす番号

n0 が存在する.{xn}は単調増大列だから,n ≥ n0 ならば α − ε < xn であ

る.一方,αが上限であることから xn ≤ αが成立する.以上より,n ≥ n0

ならば |xn − α| < εが成立する.よって,{xn}は αに収束する. 2

25

Page 27: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

注意 8.5 実数の連続性公理は「下に有界な集合は必ず下限を持つ」と言い換

えても同じである.同様に,「有界単調減少数列は収束列である」も成立する.

次に,区間縮小法の原理を紹介しよう.I1, I2, . . .を閉区間の列とする.各

Inを [an, bn]と書く.今,{In}は単調減少列,つまり任意の n ∈ Nに対して

In+1 ⊂ Inであるとし,さらに limn→∞(bn − an) = 0が成り立つものとする.

定理 8.6 (区間縮小法の原理)∩∞

n=1 In = {α}をみたすただ一つの実数 αが

存在する.

証明. 閉区間列の下端と上端から作られる数列 {an}と {bn}は,

a1 ≤ a2 ≤ . . . ≤ an ≤ . . . ≤ bn ≤ . . . ≤ b2 ≤ b1

をみたす,有界単調増大及び減少な数列である.定理 8.4より,limn→∞ an =

α が存在する.いま,α > bm をみたす番号 m が存在するものとしよう.

ε = α− bmとする.このとき,十分大きな番号 n0が存在し,n > n0ならば

α− ε < an ≤ αをみたす.従って,n > n0ならば bm < an ≤ αが成立する.

これは矛盾である.以上より,任意の n ∈ Nに対して an ≤ α ≤ bn が成立.

よって,α ∈∩∞

n=1 In を得る.

次に,β ̸= αで∩∞

n=1 Inに属すものが存在するとしよう.β > αとしよう.

ε = β − αとすると,nが十分大きければ,β = α+ ε ≥ an + ε > bn が成立

する.従って,β /∈ Inとなり矛盾が生じる.β < αとしても同様に矛盾を得

る.以上より,題意成立. 2

系 8.7 任意の実数 αに対して,αに収束する有理数列が存在する.

三つ目としてデデキントの切断について論じよう.集合X ⊂ Rに対して,

(1) X = A ∪ B, A ∩ B = ∅,(2) a ∈ A, b ∈ B ならば a < b,の二条件をみ

たす集合の組 (A,B)をX の切断という.例えば,

A = {x ∈ R|x ≤ 2}, B = {x ∈ R|x > 2}

はRの切断である.この切断により,実数「2」が定義されていると考えて

も良い.一方,

A = {x ∈ R|x < 2}, B = {x ∈ R|x ≥ 2}

としてもRの切断を与える.Aに最大数が存在し B に最小数が存在しない

か,Aに最大数が存在せずBに最小数が存在するか,いずれか一方が成立す

る.今度は有理数の集合Q上の切断を考えよう.

A = {x ∈ Q|x ≤ 0または x2 ≤ 3}, B = {x ∈ Q|x > 0かつ x2 > 3}

26

Page 28: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

はQ上の切断であり,√3を定義している.ところが,Aの最大数もBの最

小数も存在しない.また,有理数の稠密性から Aの最大数も B の最小数も

存在するような切断は存在しないのである.一方,この切断を実数上で考え

ると,Aに最大数が存在しBに最小数は存在しない.このように実数上の切

断では,Aの最大数とBの最小数のいずれか一方のみが必ず存在する.これ

をデデキントの切断公理と呼ぶ.これを連続性公理から導く.

定理 8.8 (デデキントの切断公理) 実数の切断 (A,B)において,Aの最大数

または B の最小数のいずれか一方のみが存在する.

証明. a1 ∈ A, b1 ∈ B を任意に取る.中点 a1+b12 が Aに入っていれば a2

とし,b2 = b1 とする.そうでなければ中点を b2 とし,a2 = a1 とする.以

下,同様に中点を取り,[a3, b3], [a4, b4], . . .を構成する.区間縮小法の原理よ

り∩∞

n=1[an, bn] = {α}となる実数 α が取れる.α ∈ Aまたは α ∈ B であ

る.まず α ∈ Aとする.αが Aの最大数でないとすると,α < a ∈ Aなる

aが取れる.切断の定義と列 {[an, bn]}の構造から,任意の番号 nに対して

an ≤ α < a < bn となる.よって,bn − an > a − α > 0であり矛盾.結局,

αは Aの最大数である.同様に α ∈ B のとき αは B の最小数となる. 2

実は,証明は省略するが,デデキントの切断公理を仮定して実数の連続性

公理を導くこともできる.従って,連続性公理,有界単調増大列の極限の存

在,区間縮小法の原理,デデキントの切断公理は同値な条件である.従って,

どれを仮定しても構わない.

今週の締めくくりとして,数列 1, 1/2, 1/3, . . .が 0に収束することを考え

る.このことは,任意の ε > 0に対して,ある番号 n0 が取れて,n > n0 な

らば 1/n < εであることを意味している.つまり,ε > 1/nなる自然数が任

意の正数 εに対して存在するということである.このことが保証されている

理由は何であろうか? これは次のアルキメデスの原理から言えるのである.

定理 8.9 (アルキメデスの原理) 実数の連続性公理を仮定する.a, bは異なる

実数で 0 < a < bをみたすものとする.このとき,b < naをみたす自然数 n

が存在する.

このアルキメデスの原理は,

(1) Nは上に有界ではない,

(2) 2つの実数 a, bが a < bであるとき,a < x < bなる実数 xが存在する,

と同値である.アルキメデスの原理や (2)の稠密性は,実数だけでなく有理

数でも成立する.一方,連続性は実数だけが持つ性質であり,有理数との違

いを浮き彫りにしている.従って,アルキメデスの原理を仮定して連続性公

理を導くことはできない.

27

Page 29: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第9週 微分積分学再訪

実数の連続性公理を仮定し,微分積分学に現れるいくつかの基本定理を厳

密に示すことを試みる.まず,以下の定理から始める:

定理 9.1 閉区間上の連続関数は,(1)有界であり,(2)最大値を持つ.

証明. 閉区間 [a, b]上の連続関数 f に対して,M = {f(x)|x ∈ [a, b]}とする.

(1) M が上に有界でないとする.[a, b]を二つの区間 [a, a+b2 ], [a+b

2 , b]に分ける

と,Mは少なくとも一方で上に有界でない.有界でない区間を改めて [a1, b1]と

書く.さらにこれを二つに分けて上に有界でない方を [a2, b2]とする.以下,こ

れを繰り返し閉区間の縮小列 {[an, bn]}を作る.各区間で関数 f は上に有界で

ない.区間縮小法の原理より,∩∞

n=1[an, bn] = {c}をみたす実数 cが存在する.

関数の連続性より,δを十分小さく取れば,「|x− c| < δ ⇒ |f(x)− f(c)| < 1」

が成立する.従って,開区間 (c− δ, c+ δ)において f は f(c)+ 1より小さい.

一方,nが十分大きければ [an, bn] ⊂ (c− δ, c+ δ)となることより,矛盾が生

じる.結局,f は上に有界である.下に有界であることも同様にして示せる.

(2) (1) よりM は上限 α を持つ.(1) の証明と同様にして,区間 [a, b] を半

分に分け,上限 αを持つ方を [a1, b1]とする.これを繰り返して閉区間の縮

小列を構成し,区間縮小法の原理から∩∞

n=1[an, bn] = {c}をみたす実数 cを

取る.以下,f(c) = αをみたすことを示す.f(c) < αであることを仮定す

る.ε = α−f(c)2 としよう.このとき,関数の連続性から,「|x− c| < δならば

|f(x)− f(c)| < ε」をみたす δ > 0が存在する.従って,(c− δ, c+ δ)上で f

は f(c) + εを越えない.すると,f(c) + ε < αであるから f(c) + ε < y < α

となる実数 yが取れて,{f(x)|x ∈ (c− δ, c+ δ)}の上界になっている.一方,nが十分大きければ [an, bn] ⊂ (c− δ, c+ δ)となるので,[an, bn]上で f が上

限 αを持つことに反する.よって,f(c) ≥ α,つまり f(c) = αである. 2

(2)では,最大値だけでなく最小値の存在も同様にして示せる.閉区間上の

連続関数が最大値を持つことは当然のこととしてきたかもしれない.しかし,

f(x) = −(x−√2)2 が有理数上に定義されていると,もはや最大値を持たな

い.最大値の存在は実数の連続性に強く依存しているのである.上記の証明

を見ても,実数の連続性公理,実際は区間縮小法の原理,に強く依存してい

ることがわかる.定理 9.1から微積分に関する様々な定理を導出できる.こ

こではロルの定理,平均値の定理,テイラーの定理を一気に示す.

定理 9.2 (ロルの定理) 閉区間 [a, b]で連続,開区間 (a, b)で微分可能な関数

f が f(a) = f(b) = 0をみたすとき,f ′(c) = 0となる c ∈ (a, b)が存在する.

証明. f が閉区間 [a, b]上定数ならば定理は成立する.そこで,f は定数で

ないとする.定理 9.1より,f は最大値を持つ.最大値は c ∈ [a, b]で実現す

28

Page 30: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

るとしよう.f(c) ≥ 0であり,さらに f は定数でないから f(c) > 0としても

一般性を失わない.従って,c ∈ (a, b)である.cにおける微分係数を考える.

f ′(c) = limh→0

f(c+ h)− f(c)

h

であり,分子は常に 0または負である.よって,h > 0のとき,右辺の分数も

0または負であり,hを上から 0に近づけた極限も 0または負である.一方,

hを下から 0に近づけると,その極限は 0または正になる.従って,f ′(c) = 0

である. 2

定理 9.3 (平均値の定理) 閉区間 [a, b]で連続,開区間 (a, b)で微分可能な関

数 f に対して,f(b)− f(a)

b− a= f ′(c)

をみたす c ∈ (a, b)が存在する.

証明. K = f(b)−f(a)b−a として,g(x) = f(b) − {f(x) +K(b − x)}とおく.

g(a) = g(b) = 0であるから,ロルの定理から g′(c) = 0となる c ∈ (a, b)が存

在する.g′(x) = −f ′(x) +K であるから,f ′(c) = K を得る. 2

定理 9.4 (テイラーの定理) 閉区間 [a, b]で連続,開区間 (a, b)で n回微分可

能な関数 f に対して,

f(b) = f(a) + f ′(a)(b− a) +1

2!f ′′(a)(b− a)2 +

1

3!f ′′′(a)(b− a)3 + . . .

+1

(n− 1)!f (n−1)(a)(b− a)(n−1) +

1

n!f (n)(c)(b− a)n

をみたす c ∈ (a, b)が存在する.

証明. 定理 9.3と同様にして示す.K = 1(b−a)n

(f(b)−

(f(a)+ f ′(a)(b−

a) + 12!f

′′(a)(b − a)2 + . . . + 1(n−1)!f

(n−1)(a)(b − a)(n−1)))とおき,g(x) =

f(b) −(f(a) + f ′(a)(b − a) + 1

2!f′′(a)(b − a)2 + . . . + 1

(n−1)!f(n−1)(a)(b −

a)(n−1) ++K(b− x)n)と取る.ロルの定理からK = 1

n!f(n)(c)を得る. 2

話題を変えよう.自然対数の底 eの存在を示す.eの定義には何通りかの

方法があるが,ここでは e = limn→∞(1 + 1n )

n として定義する.問題は右辺

の極限が存在するかどうかである.そのためには,実数列 xn = (1 + 1n )

n が

有界単調増加であることを確かめれば,連続性公理の仮定の下,eの存在が

保証される.

xn =

n∑k=0

n!

(n− k)!k!

1

nk= 1 + 1 +

n∑k=2

1

k!

k−1∏j=1

(1− j

n

)

29

Page 31: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

< 1 + 1 +

n+1∑k=2

1

k!

k−1∏j=1

(1− j

n+ 1

)= xn+1

であるから単調増大であり,

xn = 1 + 1 +

n∑k=2

1

k!

k−1∏j=1

(1− j

n

)

< 1 + 1 +

n∑k=2

1

k!< 1 + 1 +

n∑k=2

1

2k−1< 3

であるから有界である.

最後に,ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理を紹介する.連続性公理

と同値な条件として,有界単調増加数列の極限の存在というのがあった.有

界数列であっても単調増大性がなければ収束列になるとは限らない.例えば,

1,−1, 1,−1, . . .という数列を考えよ.ここでは,有界数列は収束列とは限ら

ないが,上手く部分列を抜き出せば収束列となることを示す.

定理 9.5 (ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理) 有界数列は収束する

部分列を持つ.

証明. 再び区間縮小法の原理を用いる.有界数列 {xn} を取る.任意のn ∈ Nに対して a ≤ xn ≤ bが成立するような実数 a, bを取る.閉区間 [a, b]

を半分に分ける.少なくともどちらか一方は,{xn}の項を無限個含む.無限個含む方を [a1, b1]とする.このとき,[a1, b1]に入る {xn}の項を一つ抜き取り,xi1 とする.さらに [a1, b1]を半分に分け,{xn}の項を無限個含む方を[a2, b2]とする.ここで,[a2, b2]に属す {xn}の i1 以降の項を一つ抜き取り,

xi2 とする.[a2, b2]は無限個の {xn}の項を含むのでこのような xi2 が取れる.

以下,これを繰り返し閉区間の縮小列 {[an, bn]}を構成し,同時に {xn}の部分列 {xin}も抜き取る.区間縮小法の原理より,

∩∞n=1[an, bn] = {c}をみた

す実数 cが存在する.最後に部分列 {xin}は cに収束することを示そう.各

nに対して,|xin − c| ≤ 12n (b− a)である.従って,任意の ε > 0に対して,

nを十分大きく取れば, 12n (b− a) < εが満たされる.結局,部分列 {xin}は

cに収束する. 2

この定理を言い換えると,「有界閉区間上の如何なる点列も収束する部分列を

持つ」となる.実は,ある位相X に関して,X 上の点列が必ず収束部分列を

持つとき,X は点列コンパクトであるという.よって,定理 9.5は「数直線

上の通常の位相において,すべての有界閉区間は点列コンパクトである」と

同値である.詳しくは第 12週で述べる.

30

Page 32: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第10週 連結性と中間値の定理

位相空間やその部分集合が「ひとかたまり」であることを連結という.例

えば,数直線上の通常の位相において,閉区間 [−1, 1]はひとかたまりである.

一方,0だけを除いた集合 [−1, 0) ∪ (0, 1]は「ひとかたまり」とは言えない.

このことをきちんと定義する.

定義 10.1 位相空間 (X,U)が不連結であるとは,二つの空でない開集合U1, U2 ∈U が取れて

X = U1 ∪ U2, U1 ∩ U2 = ∅

をみたすときにいう.このような二つの開集合 U1, U2をXの分離という.さ

らに,X の分離が存在しないとき,X を連結という.また,A ⊂ X が連結

であるとは,Aを部分空間とした位相で連結であるときにいう.

連結に関して別の定義も与えておこう.但し,証明は省く.

定理 10.2 位相空間X が連結であることの必要十分条件は,閉集合かつ開集

合となるX の部分集合がX 自身と空集合に限ることである.

まず,数直線Rの連結部分集合について論じよう.閉区間や開区間が連結

であることは直観的に明らかであろう.さらに,区間は有限でなくても連結

になる.実は,Rの連結部分集合は一点集合と区間に限るのである.ここで,

区間の正確な定義を与えておく.A ⊂ Rが区間であるとは,x1, x2 ∈ Aなら

ば x1 < x < x2 なる xは Aに含まれるときにいう.

定理 10.3 A ⊂ Rを 2点以上含む集合とする.Aが連結であることの必要十

分条件は,区間であることである.

証明. 必要性: Aが区間でないとすると,x1, x2 ∈ A, y /∈ A, x1 < y < x2

なる 3 点 x1, x2, y が取れる.U1 = (−∞, y), U2 = (y,∞) とおくと,x1 ∈U1, x2 ∈ U2 となり,A ∩ U1 と A ∩ U2 は Aを分離する.Aは不連結である.

十分性: Aを不連結な区間としよう.このとき,R上の開集合U1, U2でA∩U1

とA∩U2がAの分離となるものが存在する.x1 ∈ A∩U1と x2 ∈ A∩U2を任

意に取りだす.x1 < x2であるとして一般性を失わない.A∩U1∩ [x1, x2]は上

に有界だから,α = sup (A ∩ U1 ∩ [x1, x2])が存在する.明らかに α ∈ [x1, x2]

であり,Aは x1と x2両方を含む区間なので,α ∈ Aとなる.今,α ∈ U1で

あると仮定しよう.α < x2 であり,U1 はRの開集合なので,ある δ > 0が

存在し,[α, α+ δ] ⊂ U1となる.つまり,α+ δ < x2である.Aは区間なの

で α+ δ ∈ Aであり,従って α+ δ ∈ A∩U1である.しかしこれは αの定義

に反する.よって,α /∈ U1.同様にして α /∈ U2も成立する.ゆえに,α /∈ A

となり矛盾が導き出された.結局,Aは連結である. 2

31

Page 33: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

ここで重要な一つ定理を示そう.これより,連結性は位相的性質であるこ

とがわかる.

定理 10.4 X,Y を位相空間とし A ⊂ X を連結とする.f : A → Y が連続な

らば,f(A)も連結である.

証明. f(A)が不連結であるとしよう.このとき,二つの空でない f(A)上

の開集合 U1, U2 が存在し,f(A) = U1 ∪ U2, U1 ∩ U2 = ∅をみたす.さらに相対位相の定義から,Y の開集合 UY

1 , UY2 が存在し,U1 = f(A)∩UY

1 , U2 =

f(A)∩UY2 となる.f は連続なので,f−1(UY

1 ), f−1(UY2 )はA上の開集合 (A

の部分集合である).x ∈ Aを取ると,f(A) = U1∪U2であるから,f(x) ∈ UY1

または f(x) ∈ UY2 である.つまり,x ∈ f−1(UY

1 ) ∪ f−1(UY2 )であるから,

A = f−1(UY1 )∪ f−1(UY

2 )を得る.U1は空でないので,f(A)∩UY1 も空でな

い.従って,f(x) ∈ UY1 となる x ∈ Aが存在する.よって,f−1(UY

1 ) ̸= ∅である.同様にして,f−1(UY

2 ) ̸= ∅となる.ここで,f−1(UY1 )∩ f−1(UY

2 ) ̸= ∅と仮定する.つまり,x ∈ Aで f(x) ∈ UY

1 かつ f(x) ∈ UY2 であるものが存

在する.よって,f(x) ∈ f(A)∩UY1 ∩UY

2 = U1 ∩U2 = ∅となり矛盾.結局,f−1(UY

1 ) ∩ f−1(UY2 ) = ∅となり,Aは不連結である. 2

この定理の応用例として中間値の定理を示そう.よく知られた基本的な定

理であるが,その証明には,区間が連結であることと,連結性が位相的性質

であることが使われている.

定理 10.5 (中間値の定理) 連続関数 f : [a, b] → Rが,f(a) ≤ 0かつ f(b) ≥0をみたすとき,f(c) = 0となる c ∈ [a, b]が存在する.

証明. [a, b]は連結なので,f([a, b])も連結となる.従って,f([a, b])は区

間である.区間の定義と定理の条件から,0 ∈ f([a, b])を得る. 2

中間値の定理は実数の連続性から直接示すこともできる.念のため,その証

明を紹介しておこう.まず,補題を一つ準備しておく.

補題 10.6 f を実数上の連続関数とし,f(x0) > 0とする.このとき,ある

δ > 0が存在し,|x− x0| < δならば f(x) > 0である.

証明. ε = f(x0)とすると,δ > 0が存在し |x − x0| < δ ならば |f(x) −f(x0)| < εとなる. 2

中間値の定理の証明. f(a) < 0かつ f(b) > 0の場合を示す.M = {x|a ≤x0 ≤ xならば f(x0) < 0}とおく.b /∈ M であるからM は上に有界.従って,

α = supM が存在する.f(α) > 0としよう.前述の補題より,ある δ > 0が

取れて,|x− α| < δならば f(x) > 0となる.そこで,α− δ < x < αなる x

32

Page 34: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

を取ると,x /∈ M より xはM の上界になる.これは αの定義に反する.一

方,f(α) < 0としても同様に矛盾が導かれるので,f(α) = 0を得る. 2

次にちょっとトリッキーな結果を紹介し,そこからいくつかの命題を導こう.

補題 10.7 位相空間 X が連結であることの必要十分条件は,|f(X)| ≤ 2で

ある連続関数 f : X → Rは定数関数である.

証明. 必要性: f(X) = {y1, y2}なる連続関数を考える.但し,y1 < y2

とする.δ = y2−y1

2 として,i = 1, 2に対して Ui = f−1((yi − δ, yi + δ))とお

くと,U1, U2 はX を分離する.

十分性: X を不連結とし,U1, U2 を X の分離とする.f として U1 上 0で,

U2 上 1となるものを取ると,U1, U2 は開集合であり,f は連続である. 2

命題 10.8 互いに素ではない 2つの連結集合の和集合は連結である.

証明. A1, A2をA1 ∩A2 ̸= ∅をみたす連結集合とする.f : A1 ∪A2 → R

は連続で,その値域は高々2つの要素から成るとしよう.f を A1や A2に制

限すると,補題 10.7から定数関数となる.制限した関数の連続性もすぐに示

せる.ところが,A1 ∩ A2 ̸= ∅なので,2つの制限関数が取る定数は一致す

る.よって,f は定義域全体 A1 ∪A2 で定数関数である. 2

命題 10.9 距離空間上の連結集合 Aに対して,A ⊂ B ⊂ Aならば Bも連結

である.

証明. f : B → Rを連続関数で高々2つの値しか取らないものとする.f

をAに制限した関数は定数関数である.その定数を kとしよう.一方,B−A

は Aの集積点である.そこで,x ∈ B −Aに対して,距離空間は第一可算公

理と T1-分離公理をみたすから,xに収束する A上の点列 {xn}が存在する.また,f の点列連続性から,f(x) = f(limn→∞ xn) = limn→∞ f(xn) = kが

成立する.よって,f は B 上で定数関数となる. 2

例 10.10 A = {(x, y) ∈ R2|y = sin 1x , 0 < x ≤ 1

π}とする.明らかに,sin 1x

は連続関数だから,AはR2の連結集合である.一方,B = {(x, y) ∈ R2|x =

0, y ∈ [−1, 1]}とする.実は,Bの各点はAの集積点である.例えば,点 (0, 12 )

を考えよう.{x ∈ (0, 1π ]| sin

1x = 1

2}は可算無限集合で,0を集積点に持つ.

つまり,0に収束する {x ∈ (0, 1π ]| sin

1x = 1

2}上の減少列が存在する.従って,点 (0, 1

2 )は Aの集積点である.以上より,命題 10.9から A ∪ B は連結集合

である.Aは直接Bに繋がっていないが,いくらでも近づく列を構成できる.

このことから A ∪B の連結性が導かれたのである.

33

Page 35: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第11週 コンパクト —定義と基本性質—

まずは,ハイネ-ボレルの定理から始めよう.一般に,集合Aに対し,集合

族 A = {Ai|i ∈ I}が被覆であるとは,A ⊂∪

i∈I Ai が成立するときにいう.

尚,I はインデックス集合であり,必ずしも可算集合とは限らない.また,各

Ai が開集合であるとき,Aを開被覆という.まずは,実数Rに通常の位相

を導入した場合について考察する.

定理 11.1 (ハイネ-ボレルの定理) 開区間の族 G = {Gi|i ∈ I}が有界閉区間A = [a, b]の開被覆であるとき,G の有限部分族 {Gi1 , . . . , GiK}で Aを覆う

ものが存在する.つまり,A ⊂∪K

k=1 Gik が成立する.

証明. 区間縮小法の原理を用いて示す.如何なる G の有限部分族も Aを

覆わないとする.Aを半分に分割する.つまり,[a, a+b2 ]と [a+b

2 , b]に分ける.

このうちの少なくとも一方は,どの G の有限部分族でも覆われない.これをA1 とする.A1 を二分して二つの閉区間を作ると,どちらか一方は,再び Gの有限部分族で覆われない.これをA2としよう.以下,これを繰り返し,有

界閉区間の縮小列 {An}を構成する.Anの長さは 0に収束するので,区間縮

小法の原理より,α ∈∩∞

n=1 Anなる αがただ一つ存在する.α ∈ Aであり GはAの被覆なので,αを含む Gの要素Gαが取れる.このとき,αの定義と,

Gαが開区間であることから,十分大きな番号 n0を取るとAn0⊂ Gαが成立

する.これは,列 {An}の構成の仕方に矛盾する. 2

例 11.2 上記の定理が成立するためには,Aは有界閉区間である必要がある.

(1) A = (0, 1),G = {( 1n+2 ,

1n )|n ∈ N}とすると,G は Aの開被覆であるが,

有限部分族に落とすことはできない.なぜならば,k ≥ 2に対して, 1k を含

んでいる G の要素は ( 1k+1 ,

1k−1 )のみだからである.

(2) A = [1,∞),G = {(n− 1, n+1)|n ∈ N}とすると,Gは Aの開被覆であ

る.しかしこの場合も,G を有限部分族に落とすことはできない.

有界閉区間のように,開被覆をいつでも有限被覆に落とせる集合をコンパ

クトという.正確な定義を与えよう.

定義 11.3 位相空間 X がコンパクトであるとは,任意の X の開被覆 G =

{Gi(⊂ X)|i ∈ I} に対して,ある有限部分族 {Gi1 , . . . , GiK} が存在して,X =

∪Kk=1 Gik をみたすときにいう.また,A ⊂ X がコンパクト部分集合で

あるとは,相対位相に関してコンパクトになるときにいう.

ここでもう一度,Rの場合について考察する.ハイネ-ボレルの定理より,有

界閉集合はコンパクトである.一方,Rのような有界でない集合や開区間は

コンパクトでない.実は,Rにおけるコンパクト集合は有界閉集合に限る.

34

Page 36: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

つまり,コンパクト集合は,有界閉区間の和集合や共通部分で表されるので

ある.これを定理として述べておこう.

定理 11.4 Rのコンパクト集合は有界閉集合に限る.

証明. 閉であることは後で示す定理 11.5(2)より得られる.有界であるこ

とを示そう.A ⊂ Rをコンパクトとする.{(−r, r)|r > 0}はRの開被覆で

あることから,有限個の正の実数 r1, . . . , rK を用いて,A ⊂∪K

i=1(−ri, ri)と

なる.よって,supA ≤ max1≤i≤K ri となり,Aは有界である. 2

コンパクトは位相空間論において最も重要な概念の一つである.その理由

は追々説明していくが,重要な特徴として,コンパクトは有限の範囲内で議

論できることがあげられる.コンパクト位相空間における重要な結果を四つ

紹介する.

定理 11.5 (1) コンパクト位相空間の閉集合はコンパクトである.

(2) ハウスドルフ空間におけるコンパクト集合は閉集合である.

証明. (1) X をコンパクト位相空間,F ⊂ X を閉集合とする.G を F の

開被覆 (位相Xの意味で)とすると,G′ = G ∪{F c}はXの開被覆になる.X

のコンパクト性から,G′を有限被覆に落とせる.つまり,X =∪K

k=1 Gik ∪F c

となる {Gi1 , . . . , GiK}が取れる.従って,F ⊂∪K

k=1 Gik を得る.F はコン

パクトである.

(2) (X,U)をハウスドルフ空間,A ⊂ X をコンパクトとする.今,y ∈ Ac

を任意に取る.X がハウスドルフ空間であることから,各 x ∈ Aに対して,

x の開近傍 Nx と y の開近傍 Ny が存在し,Nx ∩ Ny = ∅ をみたす.このとき,y /∈ Nx となることに注意しよう.従って,{U |U ∈ U , y /∈ U}は A

の開被覆になる.Aはコンパクトなので,この中から有限個を選び出して,

A ⊂ U1 ∪ . . . ∪ UK となる.この右辺を V とすると,V =∪K

i=1 Ui であり,

y /∈ V である.つまり,Vcは yの開近傍であり,V

c ∩A = ∅であるから,y

の任意性から Ac は開である. 2

定理 11.6 コンパクト位相空間上の連続関数の像はコンパクトである.

証明. Xをコンパクト位相空間,Y を位相空間とし,連続関数 f : X → Y

を考える.Gを f(X)の開被覆とすると,f の連続性から,H = {f−1(G)|G ∈G}はXの開被覆になる.X =

∪Kk=1 f

−1(Gik)となる有限部分族{Gi1 , . . . , GiK}が取れる.従って,f(X) = f

(∪Kk=1 f

−1(Gik))⊂∪K

k=1 Gik を得る.ゆえ

に,f(X)はコンパクトである. 2

35

Page 37: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

定理 11.7 位相空間がコンパクトであるための必要十分条件は,有限交叉性

を持つ任意の閉集合族 {Fi|i ∈ I}が∩

i∈I Fi ̸= ∅をみたすことである.但し,部分集合族が有限交叉性を持つとは,それに属する任意の有限個の部分集合

の共通部分が空でないときにいう.

証明. X をコンパクト位相空間としよう.{Fi} を有限交叉性を持つ X

の閉部分集合族とする.ここで,∩

i∈I Fi = ∅と仮定する.このとき,X =∪i∈I F

ci であるから,{F c

i }は X の開被覆である.X のコンパクト性から,

X =∪K

k=1 Fcikとなる部分族が取れる.従って,

∩Kk=1 Fik = ∅となり,{Fi}

の有限交叉性に反する.十分性も同様にして示せる. 2

定理 11.8 コンパクト位相空間上の実数値連続関数は最大値及び最小値を

持つ.

証明. X をコンパクト位相空間とし,f : X → Rを連続関数とする.定

理 11.6より,f(X)はR上のコンパクト集合である.従って,定理 11.4より

有界閉集合である.実数の連続性公理から,sup f(X)と inf f(X)が存在す

る.さらに,f(X)が閉集合であることから,sup f(X)と inf f(X)は f(X)

に属する.結局,これらは f の最大値と最小値を与える. 2

定理 11.4から,コンパクト集合が有界閉集合であるというイメージを持つ.

それ自体間違いでないが注意が必要である.例えば,密着位相では全ての集

合はコンパクトになる.定理 11.5(2)で,ハウスドルフ空間という条件は外

せないのである.また,定理 11.6では,コンパクトが位相的性質であること

を示している.さらに,最適化問題における解の存在を論じる際に,コンパ

クト性が重要な役割を果たすことが定理 11.8から分かる.

また,無限次元空間を考えると,単位閉球ですらコンパクトではなくなる

のである.例えば,R上の点列から成る空間

l2 :=

{x = (x1, x2, . . .)|

∞∑i=1

x2i < ∞

}

を考える.x, y ∈ l2に対して,d(x, y) :=√∑∞

i=1(xi − yi)2とおくと,(l2, d)

は距離空間になる.l2 の単位閉球 B := {x ∈ l2|∑∞

i=1 x2i ≤ 1}がコンパク

トでないことを確かめよう.いま,en を n 番目の要素だけが 1 で残りは 0

となる点列とする.つまり,en = (0, . . . , 0︸ ︷︷ ︸n−1

, 1, 0, . . .)である.n ̸= mならば

d(en, em) =√2となることから,l2 上の列 (点列の列){en}n≥1 は B 上の列

であり,明らかに収束部分列を持たない.つまり,B は点列コンパクトでな

い.従って,次週の定理 12.3より,B はコンパクトでない.

36

Page 38: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第12週 一様連続性とリーマン積分

ここでは,対象を距離空間に絞ってコンパクト性を論じたい.まずは,第

9週で紹介した点列コンパクト性とコンパクト性が同値であることを述べる.

定理 11.4より,定理 9.5のボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理を以下

のように書き換える:

定理 12.1 Rのコンパクト集合上の実数列は,収束する部分列を含む.つま

り,Rにおいてコンパクトなら点列コンパクトである.

点列コンパクトの定義を復習しよう.集合 Aが点列コンパクトであるとは,

A上の全ての点列がA内に極限を持つ収束部分列を持つときにいう.さらに,

ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理を下記のように書き換えよう:

定理 12.2 AをRのコンパクト集合とする.このとき,任意の無限部分集合

が Aの中に集積点を持つ.

一般に,集合Aが可算コンパクトであるとは,任意の無限部分集合がAの中

に集積点を持つときにいう.つまり,Rにおいて,コンパクト,点列コンパ

クト,可算コンパクトは同値な条件となる.さらに,証明は省略するが,距

離空間でもこの同値性は成立する.

定理 12.3 距離空間において,部分集合が (1) コンパクトであること,(2) 点

列コンパクトであること,(3) 可算コンパクトであること,は同値である.

f を距離空間 X 上の実数値連続関数とする.A ⊂ X に対して最小値問題

infx∈A f(x)を考える.当面の課題は解が存在するかどうかである.x1 ∈ Aを任

意に取る.f(x1) = infx∈A f(x)であれば x1は解となる.f(x1) > infx∈A f(x)

であるとき,下限の定義から f(x1) > f(x2)となる x2 ∈ Aが取れる.従っ

て,点列 {xn} ⊂ Aで f(xn)が単調減少し,f(xn) → infx∈A f(x)なるもの

が存在する.ここで Aをコンパクトとする.定理 12.3より Aは点列コンパ

クトである.従って,{xn}は収束部分列を持つ.その極限を x∞ ∈ Aと書く

と,f(x∞) = infx∈A f(x)が成立する.よって,最小値問題 infx∈A f(x)は,

Aがコンパクトであるとき解を持つ.解がどのようなものであるかは全く分

からなくても,解が存在するかどうかを議論することは可能なのである.

次に,一様連続性について論じよう.距離空間 (X, dX)から (Y, dY )への関

数 fを考える.fが一様連続であるとは,任意の ε > 0に対してある δ > 0が存

在し,dX(x1, x2) < δならば dY (f(x1), f(x2)) < εをみたすときにいう.一様

連続性は連続性よりも強い性質である.例えば,(0, 1)上で関数 f(x) = 1/xを

考えよう.x0 ∈ (0, 1)を任意に取ってくると,ε > 0に対して,δを δ <εx2

0

1+εx0

となるように取ることにより,f の x0における連続性が示される.一様連続

性とは,x0 とは無関係な δ が存在することを要求している.f(x) = 1/xの

37

Page 39: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

場合には,x0を 0に近づけると,δも 0に近づけなければならず一様連続性

が成立しない.一般に閉区間上の連続関数は一様連続性を持つことが知られ

ているが,この事実を距離空間上に一般化しよう.

定理 12.4 (X, dX)がコンパクトであるとき,連続関数 f : X → Y は一様連

続である.

証明. f の連続性から,任意の ε > 0と任意の x0 ∈ X に対して,ある

δ(x0) > 0が存在し,「x ∈ NX(x0, δ(x0))ならば f(x) ∈ NY (f(x0), ε/2)」が成

立する.但し,NX , NY はそれぞれ距離空間X,Y における開球 (ε-近傍)を表

す.G = {NX(x, δ(x)/2);x ∈ X}とすると,これはXの開被覆である.Xの

コンパクト性より,Gの中から有限個の元を選んで,X = NX(x1, δ(x1)/2)∪· · · ∪NX(xN , δ(xN )/2)とできる.今,δ = 1

2 min{δ(x1), . . . , δ(xN )}として,「dX(x, x′) < δならば dY (f(x), f(x

′)) < ε」が成立することを示す.

x ∈ Xを任意に取ってくると,x ∈ NX(xi, δ(xi)/2)なる番号 i ∈ {1, . . . , N}が取れる.このとき,冒頭で述べたように,f(x) ∈ NY (f(xi), ε/2)となる.

よって,dX(x, x′) < δならば

dX(x′, xi) ≤ dX(x′, x) + dX(x, xi) < δ + δ(xi)/2

≤ δ(xi)/2 + δ(xi)/2 = δ(xi)

を得る.つまり,x′ ∈ NX(xi, δ(xi))なので,f(x′) ∈ NY (f(xi), ε/2)となる.

ゆえに,

dY (f(x), f(x′)) ≤ dY (f(x), f(xi)) + dY (f(xi), f(x

′)) < ε/2 + ε/2 = ε

が成立する. 2

一様連続性が用いられている例として,リーマン積分を取り上げよう.リー

マン積分の定義を復習し,連続実数値関数が定積分を持つことを示す.まず,

有界閉区間 [a, b]上の有界関数 f を考える.f は有界であるから,あるM > 0

が存在して supx∈[a,b] |f(x)| < M が成立する.a = x0 < x1 < · · · < xk = b

となる分点を用意して,区間 [a, b]を k個の部分区間 [xi−1, xi]に分ける.こ

のとき,分割∆ : a = x0 < x1 < · · · < xk = bを与えるという.さらに,

|∆| = max1≤i≤k

|xi − xi−1|

と定義し,これを分割∆の幅という.分割∆の各部分区間 [xi−1, xi]から点

ci を任意に取る.このとき,

S(f,∆, {ci}) =k∑

i=1

f(ci)(xi − xi−1)

と定義し,これをリーマン和と呼ぶ.このリーマン和を用いて,リーマン積

分を以下のように定義する.

38

Page 40: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

定義 12.5 実数 αが存在して,「任意の ε > 0に対してある δ > 0が存在し,

|∆| < δ ならば任意の {ci}に対して |S(f,∆, {ci}) − α| < εとなる」が成立

しているとき,f は [a, b]上でリーマン積分可能であるといい,さらに αを f

の [a, b]上の定積分といい,∫ b

a

f(x)dxと書く.

つまり,各部分区間から ci をどのように選んでも,分割を細かくしたとき,

より正確には |∆| → 0としたとき,リーマン和が極限を持つならば,その極

限を∫ b

af(x)dxという記号で表現し定積分と呼ぶのである.実は,[a, b]上の

連続関数はいつでもリーマン積分可能である.それを示すには,一様連続性

と実数の連続性が重要な役割を果たす.この事実を定理として述べ,証明を

与える.

定理 12.6 閉区間 [a, b]上の連続関数 f はリーマン積分可能である.

証明. ∆を [a, b]の分割とする.定理 9.1に注意して,分割∆の各部分区間

[xi−1, xi]におけるfの最大値と最小値をそれぞれMi,mi,また,[a, b]における

最大値と最小値をそれぞれM,mとおく.このとき明らかに,任意の {ci}に対して,m(b−a) ≤ S(f,∆, {mi}) ≤ S(f,∆, {ci}) ≤ S(f,∆, {Mi}) ≤ M(b−a)

が成り立つ1.分割∆に分点を加えることにより新しい分割∆′ を構成する.

この分割∆′の各部分区間における f の最大値と最小値をそれぞれM ′j ,m

′j と

書くと,mi ≤ m′j ≤ M ′

j ≤ Mi であり2,S(f,∆, {mi}) ≤ S(f,∆′, {m′j}) ≤

S(f,∆′, {M ′j}) ≤ S(f,∆, {Mi})が成り立つ.つまり,分割を細かくすると,

閉区間 [S(f,∆, {mi}), S(f,∆, {Mi})]は小さくなる.ここで, |∆| → 0のとき

S(f,∆, {Mi})− S(f,∆, {mi})が 0に収束することを示す.

ある部分閉区間 [xi−1, xi]上の fの最大値Miと最小値miの差を考える.関

数の一様連続性より,任意の ε > 0に対して,ある δ > 0が存在し,|x−x′| < δ

ならば |f(x)−f(x′)| < εb−aをみたす.この δはxに依らない.従って,|∆| < δ

となるような分割に対して,Mi −mi <ε

b−a が常に成立する.よって,

S(f,∆, {Mi})− S(f,∆, {mi})

=

k∑i=1

Mi(xi − xi−1)−k∑

i=1

mi(xi − xi−1) =

k∑i=1

(Mi −mi)(xi − xi−1)

<

k∑i=1

ε

b− a(xi − xi−1) =

ε

b− a(b− a) = ε

となり,S(f,∆, {Mi})−S(f,∆, {mi})は |∆| → 0のとき 0に収束する.従っ

て,区間縮小法の原理から,|∆| → 0となる分割の減少列に対して,どの分

割∆に対しても α ∈ [S(f,∆, {mi}), S(f,∆, {Mi})]となる実数 αがただ一つ

存在する.定義より,この αが定積分∫ b

af(x)dxである. 2

1{Mi}という記述は正確ではない.本来,f(yi) = Mi となる yi を用いて S(f,∆, {yi})と記述すべきだが,ここではMi と yi とを同一視する.{mi} についても同様.

2分割 ∆′ の j 番目の部分区間が分割 ∆ の i 番目の部分区間に含まれているとする.

39

Page 41: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第13週 コンパクト距離空間と不動点定理

まずは,距離空間がコンパクトであるための必要十分条件を与えたい.定

義から始めよう.(X, d)を距離空間とする.A ⊂ X と ε > 0に対して,有限

集合 B = {b1, b2, . . . , bN}が Aに対する ε-ネットであるとは,任意の x ∈ A

に対して,d(x, b) < εとなる b ∈ B が存在するときにいう.そして,任意の

ε > 0に対して,Aに対する ε-ネットが存在するとき,Aを全有界という.

例 13.1 全有界集合は有界であるが,その逆は必ずしも成立しない.点列空

間 l2 を考える.n ∈ N に対して,en を第 n 項のみが 1 で,その他の項は

0である点列とする.A = {en|n ∈ N}とする.どの n,m ∈ Nに対しても

d(en, em) =√2であるから,d(A) =

√2であり Aは有界である.一方,A

の空でない部分集合で直径が 1以下になるのは一点集合のみであるから,12 -

ネットは存在しない.従って,Aは全有界ではない.

ここで,前半の主定理を述べよう.

定理 13.2 距離空間がコンパクトであることと,完備かつ全有界であること

は必要十分である.

証明. 必要性は以下の二つの補題から得られる.

補題 13.3 コンパクト距離空間は完備である.

証明. コンパクト距離空間は点列コンパクトである.従って,任意のコー

シー列は収束部分列を持つ.命題 6.7(3)より,コーシー列自身も収束列であ

り,収束部分列と同じ極限を持つ.よって,完備である. 2

補題 13.4 距離空間上の点列コンパクト集合は全有界である.

証明. Aを全有界でない集合とする.つまり,ε > 0を十分小さく取れば,

Aは ε-ネットを持たない.まず,x1 ∈ Aをとる.このとき,d(x1, x2) ≥ εな

る x2 ∈ Aが存在する.さもなければ,{x1}は Aの ε-ネットになり矛盾.さ

らに,d(x1, x3) ≥ εかつ d(x2, x3) ≥ εなる x3 ∈ Aが存在する.さもなけれ

ば,{x1, x2}は Aの ε-ネットになり矛盾.これを繰り返し,点列 {xn}を構成する.任意の n,mに対して,d(xn, xm) ≥ εが成立するので,この点列は

収束する部分列を含まない.従って,Aは点列コンパクトでない. 2

次に,十分性について論じよう.一つ補題を準備する.

補題 13.5 距離空間の全有界部分集合上の任意の点列はコーシー部分列を

含む.

40

Page 42: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

証明. E をある距離空間の全有界部分集合とし,その上の点列 {xn} がコーシー部分列を含むことを示そう.まず,Eは 1

2 -ネットを持つので,直径

が 1以下の有限個の集合に分割できる.これらの直径 1以下の集合のうち少

なくとも一つは,{xn}の項を無限個含む.そのような集合を A1 としよう.

ここで,xi1 ∈ A1 となるように番号 i1 を取る.次に,A1 も全有界であるこ

とに注意すると,直径が 12 以下の有限個の集合に分割できる.これらの分割

された集合の中に {xn}の項を無限個含むものがある.そのような集合を A2

と書くと,xi2 ∈ A2 となる番号 i2 > i1 が取れる.以下これを繰り返すと,

d(An) < 1/nをみたす集合の縮小列 E ⊃ A1 ⊃ A2 ⊃ · · ·が取れ,xin ∈ An

が満たされるような部分列 {xin}が構成できる.この部分列は明らかにコーシー列である. 2

今,X を完備かつ全有界な距離空間とする.X 上の点列は,補題 13.5より

コーシー部分列を含む.X の完備性より,このコーシー部分列は収束列であ

る.ゆえに,X は点列コンパクトである. 2

これより不動点定理について論じる.不動点とは,関数 fにおいて f(x) = x

となる点 xのことである.また,f がどのような条件をみたせば不動点が存

在するのかを述べた定理を,一般に不動点定理という.ここでは三つの不動

点定理を紹介する.

まずは縮小写像による不動点定理を紹介する.X を距離空間とする.関数

f : X → X が以下の条件をみたす α ∈ [0, 1)を持つとき,縮小写像という:

任意の x1, x2 ∈ X に対して d(f(x1), f(x2)) ≤ αd(x1, x2).

定理 13.6 完備距離空間X 上の縮小写像 f は不動点を唯一つ持つ.つまり,

f(x) = xなる x ∈ X が一意的に存在する.

証明. まずは,X の任意の点 x0 における f の連続性を示そう.ε > 0

とする.d(x, x0) < εであるとき,α ∈ [0, 1)が存在して,d(f(x), f(x0)) ≤αd(x, x0) < αε < εが成立する. ゆえに f は連続.

X の任意の点 x0を取る.x0は f の不動点でないとしよう.n ∈ Nに対し

て,xn = fn(x0)として,X上の点列 {xn}を定義する.この点列がコーシー列であることを示そう.i, j を自然数とする.三角不等式から

d(f i+j(x0), fi(x0)) ≤ αd(f i+j−1(x0), f

i−1(x0)) ≤ . . . ≤ αid(f j(x0), x0)

≤ αi

{j∑

k=1

d(fk(x0), fk−1(x0))

}

が成立する.ここで d(fk(x0), fk−1(x0)) ≤ αk−1d(f(x0), x0)に注意すると,

d(f i+j(x0), fi(x0)) ≤ αi

j∑k=1

αk−1d(f(x0), x0) ≤αi

1− αd(f(x0), x0)

41

Page 43: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

を得る.ε > 0を任意に取る.αは 1より小さい正数なので,十分大きな番号n0

をとると,αn0 < ε(1−α)d(f(x0),x0)

が成立する.そこで,n0 ≤ iとすれば,上記の計算

より d(f i+j(x0), fi(x0)) ≤ αi

1−αd(f(x0), x0) <ε(1−α)

(1−α)d(f(x0),x0)d(f(x0), x0) =

εとなり,点列 {xn}はコーシー列となる.X は完備なので,{xn}はX 内に極限を持つ.それを xと書こう.x ∈ X

が不動点であることを示す.f は連続なので点列連続である.よって,f(x) =

f(limn→∞ xn) = limn→∞ f(xn) = limn→∞ xn+1 = xが成立する.

最後に,不動点の一意性を示そう.x以外の不動点 yが存在するとしよう.

このとき,d(x, y) = d(f(x), f(y)) ≤ αd(x, y)が成立する.これは α < 1に

矛盾.よって,不動点は一意である. 2

次に縮小写像に依らない不動点定理を紹介する.まず命題を一つ示す.

命題 13.7 有界閉区間 [a, b]から [a, b]への連続関数 f は不動点を持つ.

証明. g(x) = f(x) − xとおくと,f(a) > aより g(a) > 0であり,一方

f(b) < bより g(b) < 0である.中間値の定理より,g(x) = 0なる x ∈ (a, b)

が存在する.よって,f は不動点を持つ. 2

命題 13.7における閉区間 [a, b]をRd 上の有界凸集合まで拡張しよう.ここ

で,集合Aが凸であるとは,x, y ∈ A, λ ∈ [0, 1]ならば λx+ (1− λ)y ∈ Aで

あるときにいう.この結果はブラウアーの不動点定理と呼ばれ,数理経済学

において非常に重要な定理である.ここでは証明なしで紹介しておく.

定理 13.8 (ブラウアーの不動点定理) ユークリッド空間上の有界凸集合から

それ自身への連続関数は不動点を持つ.

一般に,ブラウアーの不動点定理を無限次元に拡張することはできないこと

を注意しておく.しかし,ノルム空間を考える限り不動点定理は成立する.最

後に,証明なしでシャウダーの不動点定理を紹介しよう.その前にノルム空

間の定義を与えておく.V を線形空間とする.V 上の実数値関数 ∥ · ∥で(1) ∥v∥ ≥ 0,かつ,∥v∥ = 0 ⇔ v = 0 (v ∈ V ),

(2) ∥av∥ = |a|∥v∥ (a ∈ R),

(3) ∥v1 + v2∥ ≤ ∥v1∥+ ∥v2∥ (v1, v2 ∈ V )

をみたすものをノルムといい,(V, ∥ · ∥)をノルム空間という.ノルム空間はd(v1, v2) = ∥v1 − v2∥とおくことにより距離空間になる.

定理 13.9 (シャウダーの不動点定理) ノルム空間上の凸集合からそのコンパ

クト部分集合への連続関数は不動点を持つ.

42

Page 44: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

第14週 連続関数空間

位相空間X上の実数値連続関数の全体をC(X)とおく.すなわち,C(X) =

{f |f : X → R, 連続関数 }である.

命題 14.1 X をコンパクト位相空間とする.このとき,f, g ∈ C(X)に対し

て,dC(f, g) = maxx∈X |f(x)− g(x)|とおくと,(C(X), dC)は完備距離空間

になる.

証明. まずは,(C(X), dC)が距離空間であることを示そう.定理 11.8よ

り,dC(f, g) < ∞が任意の f, g ∈ C(X)に対して成立する.従って,dC は

実数値関数である.三角不等式を示せば十分である.任意の f, g, h ∈ C(X)

と任意の z ∈ X に対して,

maxx∈X

|f(x)− g(x)|+maxy∈X

|g(y)− h(y)|

≥ |f(z)− g(z)|+ |g(z)− h(z)| ≥ |f(z)− h(z)|

が成立する.maxz∈X を取れば,dC(f, g) + dC(g, h) ≥ dC(f, h)を得る.

次に完備性について論じよう.{fn}を C(X)のコーシー列とする.{fn}が収束列であることを示す.まず,任意の x ∈ X に対して {fn(x)}が R上

のコーシー列になることから,f(x) = limn→∞ fn(x)が定義可能である.そ

こで,f ∈ C(X) であり,かつ dC(fn, f) → 0 であることを示す.ε > 0

を任意に取る.ある番号 n0 = n0(ε)が存在して,任意の n ≥ n0 に対して

dC(fn, fn0) < ε/6が成立する.また,任意の y ∈ X に対して,十分大きな n

を取り,|f(y)−fn(y)| < ε/6とできることから,|f(y)−fn0(y)| < ε/3が成立.

従って,fが連続であれば,dC(f, fn) → 0となる.fの連続性を示そう.fn0の

(一様)連続性より,δ > 0が存在し,|x−y| < δならば |fn0(x)−fn0(y)| < ε/3

が成立する.以上より,|x−y| < δならば,|f(x)−f(y)| ≤ |f(x)−fn0(x)|+|fn0

(x) − fn0(y)| + |fn0

(y) − f(y)| < ε/3 + ε/3 + ε/3 = εとなる.よって,

f ∈ C(X). 2

一般に,X 上の関数列 {fn}が limn→∞ supx∈X |f(x)− fn(x)| = 0であると

き,{fn}は f に一様収束しているという.この定義は,「任意の ε > 0に対

してある番号 n0 = n0(ε)が存在し,任意の n ≥ n0と任意の x ∈ X に対して

|f(x)− fn(x)| < εが成立する」と書き換えることもできる.一様性とは,番

号 n0が xに依存せずに取れることを意味する.そして,C(X)上の関数列が

距離 dC の意味で収束することと,一様収束することは,同値であることも

容易に分かる.

C(X)上の関数列がいつ一様収束するのかといった問題は,解析学の様々な

場面で重要となる.この答えとしてアスコリ・アルツェラの定理を証明なしで

紹介する.まず,定義を与えよう.以下,Xをコンパクト位相空間,F ⊂ C(X)

とする.

43

Page 45: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

定義 14.2 (1) ある正数M > 0が存在して,任意の f ∈ F と任意の x ∈ X

に対して |f(x)| < M となるとき,F は一様有界であるという.

(2) 任意の x ∈ X と任意の ε > 0に対して,xを含むある近傍 N(x)が存在

して「任意の f ∈ F と任意の y ∈ N(x)に対し |f(x)− f(y)| < ε」となると

き,F は同程度連続であるという.

定理 14.3 (アスコリ・アルツェラの定理) F がコンパクトであることと,F

が一様有界かつ同程度連続であることは同値である.

系 14.4 (ディニの定理) C(X)上の列 {fn}が,(1) 任意の x ∈ X と n ∈ N

に対し fn(x) ≤ fn+1(x),(2) ある f ∈ C(X)が存在して,任意の x ∈ X に

対して limn→∞ fn(x) = f(x),をみたすとき fn は f に一様収束する.

ここで,定理 14.3の応用例を二つ紹介する.まず初めは常微分方程式の解

の存在定理を示そう.未知関数 y = y(x)に対する常微分方程式の初期値問題{dydx = f(x, y),

y(x0) = y0

を考える.

定理 14.5 r > 0, R > 0とする.f(x, y)が D = {(x, y); |x − x0| ≤ r, |y −y0| ≤ R}上で定義された実数値連続関数であるとき,|x − x0| ≤ δ におい

て,上記の初期値問題の局所解 y(x)が存在する.但し,δ = min{r,R/M},M = max(x,y)∈D |f(x, y)|とする.

証明. 簡単のため x0 = 0とする.コーシーの折れ線近似を用いて示す.

詳しくは,高橋陽一郎「力学と微分方程式」を参照せよ.

ε > 0とし,(kε, y) ∈ Dを満たす整数 kと実数 yの組に対して,Fk(y, ε) =

f(kε, y)とおく.yε0 = y0, yεk+1 = yεk + εFk(y

εk, ε)(k = 0, 1, 2, . . .), yεk−1 =

yεk−εFk(yεk, ε)(k = 0,−1,−2, . . .)により,数列 {yεk}|k|≤r/εを定める.これよ

り,折れ線 yε(x)を,kε ≤ x ≤ (k+1)εであるとき,yε(x) = (k+1−ε−1x)yεk+

(ε−1x− k)yεk+1とおくことにより定める.但し,yεの定義域は,|x| ≤ δであ

る.F = {yε|ε > 0}とおくと,|yε(x)−y0| ≤ Rとなり,F は一様有界である.

また,yεの定義から |yε(x1)− yε(x2)| ≤ M |x1−x2|であり,F は同程度連続

である.従って,定理 14.3と定理 12.3より,F は点列コンパクトとなる.よっ

て,0に収束する正数の減少列 εk が取れ,yεk はある連続関数 yに一様収束

する.一方,証明は省略するが,limε→0

∣∣yε(x)− y0 −∫ x

0f(z, yε(z))dz

∣∣ = 0

が成立する.従って,∣∣y(x)− y0 −

∫ x

0f(z, y(z))dz

∣∣ = 0を得て,yは局所解

となる. 2

44

Page 46: 2019年度 解析学IIa 講義ノートweb.econ.keio.ac.jp/staff/arai/lecturenote2019.pdf2019年度 解析学IIa 講義ノート 新井拓児(慶應義塾大学経済学部) 2019 年2

注意 14.6 (解の一意性について) 上記の微分方程式が以下の条件をみたすと

する: ある定数 L > 0 が存在して,任意の (x1, y1), (x2, y2) ∈ D に対して

|f(x1, y1) − f(x2, y2)| ≤ L|y1 − y2|をみたす.この条件を,リプシッツ条件という.|y− y0| ≤ Rをみたす |x− x0| ≤ δ上の連続関数 yの全体を C′とし,

d′(y1, y2) = max|x−x0|≤δ e−2L(x−x0)|y1(x)− y2(x)|とおくと,(C′, d′)は完備

距離空間になる.今,p : C′ → C′を p(y)(x) = y0 +∫ x

x0f(z, y(z))dzと定める

と,C′上の縮小写像となり,定理 13.6より不動点を持つ.この不動点が微分

方程式の一意解となる.詳しくは,増田久弥「非線形数学」を参照せよ.

次に,ワイエルシュトラスの多項式近似定理を紹介する.これは,閉区間

上の連続関数は多項式関数によっていくらでも近似できることを示すもので

ある.例えば,区間 [0, 1]上で関数 f(x) =√xを考えると,多項式関数の列

{pn(x)}を {p1(x) = x

pn+1(x) = pn(x) +12 (x− pn(x)

2)

と定義すると,pn が f に一様収束することが示せる.[0, 1]上の多項式関数

の全体を P ([0, 1])とすると,P ([0, 1]) = C([0, 1])と主張するのが多項式近似

定理である.もちろん,閉包は距離空間 (C([0, 1]), dC)の意味でとる.

定理 14.7 (ワイエルシュトラスの多項式近似定理) 閉区間 [0, 1]上の任意の

連続関数 f ∈ C([0, 1])と任意の ε > 0に対して,ある [0, 1]上の多項式関数

pが存在して,任意の x ∈ [0, 1]に対して |f(x)− p(x)| < εとなる.

証明. 以下,P = P ([0, 1]),C = C([0, 1])とする.

任意の f ∈ P に対して,fn(x) = pn

(f(x)2

M2

)とおく.但し,pnは上述の

√x

への近似関数,M = maxx∈[0,1] |f(x)|とする.系 14.4より lim fn = |f |/M を得る.つまり,|f | ∈ P である.max{f, g} = 1

2 (f+g+|f−g|)なので,f, g ∈ P

ならばmax{f, g} ∈ P である.同様に,min{f, g} = 12 (f + g − |f − g|)より

min{f, g} ∈ P も成立する.さらに,この議論を繰り返して,f1, f2, , . . . , fn ∈P であるとき,max{f1, f2, , . . . , fn},min{f1, f2, , . . . , fn} ∈ P を得る.

f ∈ C と ε > 0を任意に取り,x0 ∈ [0, 1]を固定する.任意の x ∈ [0, 1]に

対して,ある gx ∈ P が存在し,gx(x0) = f(x0), gx(x) = f(x)が成立する.

このとき,xの開近傍 N(x)が取れて,「y ∈ N(x)ならば f(y) − ε < gx(y)」

となる.[0, 1] のコンパクト性から,有限個の x1, . . . , xn ∈ [0, 1] が存在し,

[0, 1] =∪n

i=1 N(xi)となる.このとき,h = max{gx1 , . . . .gxn}とおくと,上記で示したように h ∈ P であり,h(x0) = f(x0)かつ,任意の x ∈ [0, 1]に対し

て f(x)−ε < h(x)をみたす.hはx0に依存しているので,改めてhx0と書こう.

このとき,x0の開近傍N ′(x0)が存在し,「y ∈ N ′(x0)ならばhx0(y) < f(y)+ε」

をみたす.再び [0, 1]のコンパクト性より,有限個の x′1, . . . , x

′m ∈ [0, 1]が取

れて [0, 1] =∪m

i=1 N′(x′

i)となる.ここで,h = min{hx′1, . . . .hx′

m}とおけば,

h ∈ P となるから,任意の x ∈ [0, 1]に対して |h(x)− f(x)| < εを得る. 2

45