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2002 学位 バルハン モデル The Model of Shape and Spacing of Barchan Dunes 央大学大学院 央大学 2003 2 28

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2002年度修士学位請求論文

バルハン砂丘の形態と分布の数値計算モデルThe Model of Shape and Spacing of Barchan Dunes

中央大学大学院理工学研究科博士課程前期課程物理学専攻

 柴田 純

指導教官中央大学理工学部物理学教室助教授 田口善弘

2003年 2月 28日

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目 次

第 1章 はじめに 5

1.1 砂と人間の生活 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

1.2 砂丘とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

1.3 砂丘研究の歴史 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

1.4 本研究の意義 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

第 2章 結合写像格子模型 12

2.1 砂の動きを観察する -昔の砂遊びの世界- . . . . . . . . . . . . . 12

2.1.1 風による運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

2.1.2 自重による運動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

2.2 結合写像格子模型 -新しい砂遊びの世界へ- . . . . . . . . . . . . 19

2.2.1 初期値の設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

2.2.2 砂の移動(salutationと creep) . . . . . . . . . . . . . . . . 20

第 3章 砂丘をながめてみると 24

3.1 砂丘はどんな規則で存在しているか . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

3.2 砂丘群の平均高 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34

3.3 砂丘群内における砂丘の分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37

第 4章 バルハン砂丘の形態と分布 39

4.1 砂丘の占める領域からの考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

4.2 シミュレーション結果の解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42

4.2.1 十分に時間が経過した定常砂丘群 . . . . . . . . . . . . . . . 42

4.2.2 定常遷移過程下の砂丘群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49

第 5章 まとめ 55

5.1 砂丘の平均高と砂丘分布間隔 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55

5.2 CMLモデルの有用性と残された課題 . . . . . . . . . . . . . . . . 56

5.3 これからの砂丘研究のあるべき姿 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 57

第 6章 謝辞 58

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図 目 次

1.1 農村にせまる砂丘 - 砂丘周辺部では砂丘制御は深刻な問題 [2] . . . . 5

1.2 砂層の液状化により倒壊した新潟県営アパート . . . . . . . . . . . . 6

1.3 シミュレーションによってつくられた砂丘 . . . . . . . . . . . . . . 7

1.4 砂丘形成条件と相図(上:シミュレーション,下:実測) . . . . . 8

1.5 サハラ沙漠に見られるバルハン砂丘 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

1.6 火星に形成されたバルハン砂丘 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

1.7 従来の伝統的な砂丘形成アルゴリズム . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.1 砂丘上の主な砂の動き . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

2.2 飛砂の運動の様子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

2.3 斜面の安定性の考察要素 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

2.4 初期値の設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

2.5 Rassmussenによる地形と風速の観測 . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

2.6 西森近似による地形勾配と飛砂の関係 . . . . . . . . . . . . . . . . 21

3.1 1000× 1000のエリアにおける 2000step試行の結果 . . . . . . . . . 24

3.2 1000× 1000のエリアにおける 0step試行の結果 (初期状態) . . . . . 26

3.3 1000× 1000のエリアにおける 500step試行の結果 . . . . . . . . . . 27

3.4 1000× 1000のエリアにおける 1000step試行の結果 . . . . . . . . . 28

3.5 1000× 1000のエリアにおける 3000step試行の結果 . . . . . . . . . 29

3.6 1000× 1000のエリアにおける 5000step試行の結果 . . . . . . . . . 30

3.7 1000× 1000のエリアにおける 10000step試行の結果 . . . . . . . . 31

3.8 風と平行な方向の断面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32

3.9 Lancasterの測定した砂丘群の平均高と分布の関係 . . . . . . . . . . 33

3.10 人工衛星によって観測されたバルハン砂丘群 . . . . . . . . . . . . . 34

3.11 正弦曲線状の砂丘における砂丘平均高 . . . . . . . . . . . . . . . . 35

3.12 砂丘間隔に関するパワースペクトルの様子 . . . . . . . . . . . . . . 38

4.1 Sauermannの 2.4乗則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 39

4.2 1個の砂丘の縄張り . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 40

4.3 砂丘平均高の時間発展の様子 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42

4.4 定常状態の砂丘群と初期砂量の関係(両対数フィッティング) . . . 43

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4.5 定常状態の砂丘群と初期砂量の関係(線型フィッティング) . . . . 44

4.6 定常砂丘群における平行方向に対するH0とL0‖の関係 . . . . . . . 46

4.7 定常砂丘群における垂直方向に対するH0とL0⊥の関係 . . . . . . . 47

4.8 定常状態における砂丘平均高と砂丘の占める面積の関係 . . . . . . . 48

4.9 定常遷移過程砂丘群における平行方向に対するHとL0‖の関係 . . 49

4.10 定常遷移過程砂丘群における垂直方向に対するHとL0⊥の関係 . . 50

4.11 時系列スケーリングをとった定常遷移過程の砂丘群の平均高 . . . . 52

4.12 時系列スケーリングをとった定常遷移過程の砂丘群の分布(風に平行な方向) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 53

4.13 時系列スケーリングをとった定常遷移過程の砂丘群の分布(風に垂直な方向) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54

5.1 移動する砂丘のモデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

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第1章 はじめに

1.1 砂と人間の生活風によって運ばれる砂を飛砂 (ひさ)という。砂丘とは風による飛砂の堆積地形である。日本には乾燥帯にあるような大規模な沙漠地帯に発展する内陸性砂丘はないが,鳥取市の鳥取砂丘に代表される海岸砂丘や,局所的な河畔砂丘や湖畔砂丘はいたるところに発達している。日本の海岸砂丘や世界の砂丘地帯の周辺では中世から飛砂災害の防止のため,あるいは農地利用のために防砂林などで砂丘の拡大が防がれてきた。安部公房の小説「砂の女 [1]」の主人公は海岸近くの砂に埋もれつつある女の家に迷い込み,監禁される。砂は人間の営みや生活,人間自身をも時には飲み込んでしまうような驚異的な象徴的存在なのである。また,その小説の中では「ほら,砂は固体でありながら,流体力学的な性質を多分にそなえている,その点に非常に興味を感じるのですがね」という優れた文章が綴られている。この小説は文学的・官能的でありながら,砂の諸性質を的確に捉えた作品である。

図 1.1: 農村にせまる砂丘 - 砂丘周辺部では砂丘制御は深刻な問題 [2]

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その一方では,鳥取砂丘のように砂丘を観光資源とする地域では周辺の植生によって砂丘が徐々に侵食されていくという深刻な事態もおきていることが報告されている。また,20世紀になると日本の砂丘地帯は空港利用,宅地造成などの都市的利用もなされてきたが,砂などに代表される粉粒体は非固結性であり振動などの外部刺激に対して液状化をおこす。日本の構造物は耐震性は強くても引き抜きの強度は非常に弱く,そのような建造物からの視点によれば,外部刺激に対して液状化してしまい,杭が不安定になってしまうような砂丘地帯は軟弱地盤である。新潟地震(1964年 6月 16日 13時 1分)において砂丘地帯に造成された構造物の杭が抜けて建造物の大規模倒壊がおこったのはその結果として典型的な例であろう。

図 1.2: 砂層の液状化により倒壊した新潟県営アパート

このような深刻な砂丘制御問題,あるいは砂に代表される粉粒体の振る舞いについて我々は多くの知識をもつべきである。そして,これまで砂丘研究の主流であった地形学者を中心とする定性的研究に理論物理学者は殴り込みをかけ,定量的研究を推し進めることがこの砂丘制御問題の最短距離的な突破口であると私は考える。勿論,最終的な目標は人間と砂丘との「共存」であろう。

1.2 砂丘とは飛砂はさまざまな地形をかたちづくる。その飛砂が風下側に堆積して堤防状あるいは丘状等になったものを砂丘 (dune)と呼ぶ。砂丘はその形成場所に応じて「内陸砂丘」「海岸砂丘」「河畔砂丘」「湖畔砂丘」などと分類される。特に内陸性気候では気温の日較差が大きく岩石の風化作用が顕著であること,降水は暖流が沿岸流として流れると多くもたらされるが,内陸ではその暖流の恩恵を受けづらく,降水量が少なくなる場合があることなどから,そのような地帯では乾燥が著しくなる場合が多く,内陸砂丘は大規模な沙漠に発達する可能性を秘めている。内陸性沙漠は「レキ沙漠」「岩石沙漠」「砂沙漠」などに大別されるため,「サバク」と言っても「砂」がいつもあるとは限らない。そのため「砂サバク」を想像させる「沙漠」という表記は避け,ここでは慣例に従って「沙漠」と表記するものとする。

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砂丘上を吹き付ける風の強さとその方向の時間変動の自由度,または乾燥砂の量,またはその規模によって砂丘は色々な形状を示す。以下はシミュレーション実験によって得られているさまざまな形態の砂丘である。変化させたパラメータは風の方向の自由度と砂の量のみである。このシミュレーションでは沙漠で観測される砂丘をすべて生み出すことに成功している。即ち,砂丘の形を決定する要素は「風向の自由度」と「砂の量」のみであることが確認される [3]。

図 1.3: シミュレーションによってつくられた砂丘

(a)Transverse Dunes  (b)Barchan Dunes

(c)Network Dunes  (d)Star Dunes  (e)Seif Dunes

美しい三日月型が特徴的なバルハン砂丘は岩盤が剥き出しになっているような砂の量が少なく,風が1方向からのみ卓越するような地帯によく形成されることがシミュレーションでも確認された。本研究では形が魅力的で比較的よく沙漠地帯に観察されるバルハン砂丘を扱うことにする。次の写真は火星に形成されているバルハン砂丘である [4]。バルハン砂丘は何も地球上にかぎった話ではない。他の天体にできているバルハンを見つけて何が楽しいのか。それは宇宙基地建設の参考となるからである。バルハン砂丘は砂が少

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図 1.4: 砂丘形成条件と相図(上:シミュレーション,下:実測)

図 1.5: サハラ沙漠に見られるバルハン砂丘

なく,かつ風向の自由度が少ない場所にできる。つまり,バルハン砂丘が発見されればそこは風向の変化が単純で砂層が薄いという宇宙基地建設にはもってこいの場所ということが現地調査をしなくても見極めることが可能なのだ。(ただし,後に述べるように砂丘は風によって移動する。建設された宇宙基地が移動してやってくる砂丘に飲み込まれるのを防ぐための砂丘制御はいかにすべきかはまた難しいのであるが…)

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図 1.6: 火星に形成されたバルハン砂丘

1.3 砂丘研究の歴史統計力学の目的は,物質のマクロな性質をミクロなレベルから理解することにある。流体の場合は,そのマクロな動的挙動はナビエ・ストークス方程式によって記述されるということが一応は確立されている。一方,粉粒体の場合にはこのマクロな挙動を記述するナビエ・ストークス方程式に対応するような基礎方程式さえも,それが存在するのかどうかも含めて分かっていない。これは,粉粒体が構成されるときの基本原理が流体とは全く異なるからである。この主要な原因は,粉粒体においては

• 粒子どうしにはたらく摩擦力の寄与が大きい• 熱運動に比べて重力の影響が圧倒的に大きい• 粉粒体は粗視化することができない

という3点にある。 重力と熱運動に関しては,例えば,水の場合 mghkTの値は常

温(300K)で,容器の高さ hを 10cmとするとほぼ 7.1× 10−6 程度となり,通常の条件下では,重力は熱運動に比べて全く無視できる。逆に,例えば砂を例にとった粉粒体の場合,仮に粒子一粒の質量を 1mgとすると,mgh

kTの値はほぼ 2.4× 1016

程度となり,重力の影響が圧倒的に大きくなる。すなわち,粉粒体においては「温度」という概念はなくなってしまうのである。さらに,粉粒体はマクロな集団である。マクロであるがゆえに粒子同士の相互作用の際に粒子の運動エネルギーの一部が内部エネルギーに変換されてエネルギーの散逸がおこる。このため,粉体粒子間の相互作用には摩擦と非弾性衝突が不可避にあらわれる。このエネルギーの散逸によって,ある瞬間に気体のように激しく飛び回っている粒子があったとしても,次の瞬間にはエネルギーは一瞬のうちに減少してすぐにすべての粒子は静止してしまうこともありえる(ただし,重力

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が無視できてほぼ一様な希釈状態とみなせる時間領域については従来の統計力学的手法に則った運動論的手法が有効であると期待され,多くの研究がなされている [6])。散逸によってエネルギーを補うために外部からのエネルギー補給が必要となる。しかし,先に述べたように熱的なエネルギー補給は粉粒体には何の意味もない。このような背景のもと,従来の統計力学的手法は粉粒体にはさっぱり通用しないことがわかる。

図 1.7: 従来の伝統的な砂丘形成アルゴリズム

風によって或いは自重によって移動する砂丘の砂粒をミクロな視点からひとつひとつの粒について考察する従来の古典力学的なスキーマは単純に見えるかもしれない。しかし,ひとつひとつの砂粒の運動は自明であってもそれが非常に多数

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集まった砂丘の記述は自明ではない。たとえば,砂粒の運動を懇切丁寧に力学的に追って行くとすると,図 1.7のようなフローチャートを追っていって考えなければならず,そして前世紀まではこのスキーマが砂丘研究の主流であった。砂丘が形成されるほどの風の流れは地表面付近ではレイノルズ数の大きな乱流となり,しかも個々の砂粒の動きは簡単であっても砂丘形成に関して運動する砂の数は天文学的大きさである。これらを一粒一粒考えて力学的に取り扱うことは決して容易なことではないことがわかる。また,風によって運搬される砂粒は風と砂粒という混層流で運動するがこれを沙漠地帯のような広範囲において解析的においても計算機的手法においても,一粒一粒すべて考察することは非現実的である。

1.4 本研究の意義砂丘の定量的な研究は前世紀の中盤頃から始まったが [5],ほとんどの部分はいまだに未解決な問題,或いは現象発見でとどまっている問題が多い。例えば,砂丘群にはその砂丘平均高と砂丘分布は冪乗則で結ばれるという深い関係があることが知られている。これは欧米の地形学者を中心に観測事実から発見されたことがらである。本研究ではさまざまな状態の砂丘を計算機上に形成し,それを対象としてその観測事実を確認する。具体的には砂丘形成初期段階のものと,砂丘形成以降に十分時間がたった段階のもの,或いは初期値を変化させたものについて詳細に調べあげるのである。事実,この点に限らず砂丘に関する測定記録は世界的にも比較的数少なく,本研の計算機上におけるシミュレーションとこれらの観測事実とが合致すれば,その砂丘観測のデータの少なさを将来的に計算機で補っていくことが期待でき,大変興味深い。そして,このことが砂丘制御のための定量的研究への突破口になりえると思われる。本研究では,前節で紹介している Bagnoldの時代から続く伝統的なスキーマによらない新しい手法を用いることにより砂丘をシミュレートして計算機上に再現する。この手法とは現・大阪府立大学の西森氏や現・原子力研究所の大内氏によって砂丘のモデル化に拡張・応用された手法である [7]。それは即ち,時空間を適度に祖視化してあるルールに従ったときの場の変数を追う手法であり,結合写像格子模型(Coupled Map Lattice Model:以下「CMLモデル」)と呼ばれ,金子邦彦氏によるものである [8]。CMLモデルは近い将来,理化学辞典にも掲載される予定の新しく,かつ有用なモデルである。西森・大内はこのもともとはカオスなどを研究するための手法であったCMLモデルに着目し,砂丘研究にまで拡張したのである。CMLモデルをいかに利用するか,それは次章にゆずる。

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第2章 結合写像格子模型

2.1 砂の動きを観察する -昔の砂遊びの世界-Bagnoldに従うと,砂粒の動きには風に由来する運動と自重に由来する運動の2種類がある。

図 2.1: 砂丘上の主な砂の動き

2.1.1 風による運動

砂丘地帯において風の作用は非常に重要である。それは風によって沙漠では多様な地形がかたちづくられるからである。何よりも,大気の密度は地表付近で 1.1×10−3g/cm3と,水の 1

1000程度でしかない。しかも水は集中して流れるのに対し,風

は広い範囲に全面に広がって流れている。このように風は地表形成営力としては比較的弱いものであることが想像に難くない。このため,風の作用が比較的優勢なのは植生被覆に乏しく,また,地表水分の少ない乾燥帯,半乾燥帯,海岸域に限られる。植生は土砂の動きを妨げ,土中水分を保持し,風速を低下させる働き

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を持つことによって風の作用をおさえることになる。海岸域では陸地面と海岸面における熱的な性質などによって風速が大きくなり,強い地形作用をあらわすようになる。実にそのような条件のそろった沙漠地帯,特に海岸砂丘地帯の砂の運動の80%は風の影響によるものである。飛砂の運動を考えるためには,まず第一に移動する砂が巻き込まれる空気の速度分布に注目をしなければならない。野外観測から,砂が巻き上げられるのに十分な速度を持つ風は乱流状態になっていることが知られている。乱流状態にある風の速度分布は

u =u∗κ

log10

z

z0

(2.1)

となり [3],ここで zは鉛直座標,z0は粗度パラメータという砂表面の凸凹具合をあらわす長さの次元をもつパラメータであり,砂粒の粒径の約 1

30程度の大きさと

して見積もることができる。u∗は摩擦速度と呼ばれ,

u∗ =

√σm

ρ(2.2)

なる値である。σmは表面のせん断応力,ρは空気の密度をあらわす。κはカルマンの普遍定数と言われている無次元量であり,

κ ∼ u∗U

log10 Reτ (2.3)

を満たす。ここで,Uはこの流れの流速,Reeは壁摩擦速度に基づくレイノルズ数である [9]。式 (2.1)は空気単層での速度分布をあらわすものであり,これに砂が混じった「混層流」となると,この式は厳密には成り立たなくなる。この混相流を扱うために,

u′ =u∗κ

log10

z

z0

+ ut (2.4)

と速度分布を変更できることがBagnoldらによって示されている [10]。さらに,ut

は衝突閾値速度と呼ばれる量である。

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図 2.2: 飛砂の運動の様子

次に砂の単位幅における単位時間あたりの飛砂量 qと風速の関係を考える。Bag-

noldはサルテーション中のそれぞれの粒子はその最大前進運動量を空気から得ていると仮定してそれを行った [5]。図2.2においてu2は砂粒が得た速度であり,u2 � u1

と仮定できる。風の作用によって合計Qの質量をもつ砂たちを移動させるのに費やされる空気の運動量の損失量はQu2である。運動量の損失はこの領域において平均的であると仮定し,サルテーション距離L,サルテーション幅L0においてその運動量の損失�pは等分配されるので,これをサルテーション距離 Lと幅 L0,およびかかる時間 tで除すことによって単位面積�S,単位時間�tあたりの運動量の損失を見積もることができ,それは

�p

�L�t=

Qu2

LL0t(2.5)

となる。ここで,単位幅における単位時間あたりの飛砂量が

q ≡ Q

L0t(2.6)

であることに注意すると(qの次元は [ML−1T−1]である),

�p

�S�t=

qu2

L(2.7)

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がただちに導かれる。これは境界面の風のせん断応力 σmの効果に等しくなければならない。即ち,

qu2

L= σm (2.8)

となる。摩擦速度の定義式 (2.2)より次の関係式がただちに結ばれる。

ρu2∗ =

qu2

L(2.9)

BagnoldはここでL

u2

=Bu∗g

(2.10)

と仮定している。これらの諸考察,および Bagnoldの仮定からただちに風の状態から単位時間,単位幅あたりの飛砂量 qは下の式で与えられる。

q = Bρ

gu3∗ (2.11)

ここでBは砂表面にある砂の粒径に依存する無次元の定数である。たとえば,砂粒の密度が一定とみなすことができるとすると,粒径が大きいほど,衝突の際に受ける力積が大きくなるため跳ね返りの作用も大きくなるので,Bの値も大きくなる。また,飛砂は砂面上の風速がある値(限界摩擦速度)を超えると発生する。標準的な砂面の場合,限界摩擦速度は 0.2~0.4m/s程度と言われており,これは地上高さ1mでの風速がおよそ 5~6m/s程度のときに相当する。この限界摩擦速度は,地表面の粗度長(地表近くの風速低下に寄与する地表面の凸凹の状態)等によって変化すると考えられている。限界摩擦速度 u∗cを含めた式として河村は

q = Kρ

g(u∗ − u∗c)(u∗ + u∗c)2 (2.12)

を与えており [11],定数KはK = 2.78である。これは,地表面 1mにおける風速を uとし,Ut = 4m/sとすると,沙漠における観測値とのよい一致が示されるようである。見て明らかなように,Bagnoldの公式も河村の公式も相互に大きく相違するものではないことは明らかである。上記の議論に裏付けられ,定性的に風による砂粒の運動には下の2種類が存在する。

サスペンション(Suspension:浮遊)流木が水流によって下流へ下流へと流されるように,風によって粉粒体が流されつづける現象。沙漠で通常生じる強い風(ウィンドストーム)によってサスペンションが行われる粒子は粒径が 0.01mm程度のオーダーのシルト粒子であり,これが低気圧などの強い上昇気流によって上空に吹き上げられ,強い偏西風にのると大洋をも越えて運搬される。毎年大陸から飛来する「黄砂」がその一例である。

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しかし,本研のあつかう粒径 0.1mmの砂粒ではサスペンションがおこなわれることはほとんどない。それは空気の密度が砂粒の密度に対して圧倒的に小さいので,この効果は一般の状況下では皆無であると推測される(水に対する石英の密度比は約 1.65であるのに対し,空気に対する石英の密度比は約 2000である)。よって,ここではこの効果は無視できるほど非常に小さいと仮定する。サルテーション(Salutation:跳躍)

風が砂に対してずれ応力を加え,砂は風から運動エネルギーを受けて空中をジャンプして移動する。砂丘の風上側でこの効果は大きい。観測では砂粒の運動全体の 80%を占めることが報告されている。空気中での沈降速度は水中のそれに比べて 60~80倍も大きいので,地表に落下したときには衝突した砂粒子に大きな運動量を与えてはじき出すので,連鎖的にサルテーションを発生させる。与えられた運動量が十分ではなかったり,衝突した粒子が大きかったりするとサルテーションはおこらない。もっともサルテーションを起こしやすい砂粒子の粒径は 0.1~0.3mm

程度であり,これが選択的により分けられて砂丘が形成される。

2.1.2 自重による運動

砂丘の表面の砂のような自然傾斜は粒子の自重や他粒子からうける力積など,さまざまな理由で崩壊する [13]。砂粒子の滑落斜面の安定性を議論するためには,砂が斜面に沿って発揮しうる抵抗力と,将来の滑落斜面より上に存在する砂に作用する滑動力の比を考えればよい。この比をここでは stability (s)と定義すると,

s =すべり面に沿って発揮しうる土の強さ(抵抗力)すべり面に沿って実際に作用している力(滑動力)

(2.13)

となる。

十分に長い直線斜面では,すべり面は表面に平行であると想定できるはずである。直線ABが砂の表面,直線CDが滑り面をあらわすものとする。このすべり面CDの傾斜角を α,考慮する砂の深さを h,考慮する要素ABCDの奥行きを a,幅を bとしてこの要素の安定性を考えれば,斜面全体の挙動を代表して調べたことになる。ここで,この要素の側面にはある大きさの力が作用しているが,これらの作用は断面ADとBCで互いに打ち消しあっているために無視してもかまわない。この要素の安定性を議論するためには,要素の底面に作用する垂直応力 P,せん断応力 Sの2つの未知数が必要となる。ここでW は要素にはたらく重力に由来する応力であるとしてこれらを式で書き下すと,(1)すべり面に垂直な方向の力の釣り合いから,

P = W cos α (2.14)

(2)すべり面に平行な方向の力の釣り合いから,

S = W sin α (2.15)

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図 2.3: 斜面の安定性の考察要素

また,先ほどの stability sを定式化すると,砂の安息角を φ,砂の滑り面に対する粘着応力を cとするとき,

s =P tan φ + c

S(2.16)

となる。砂の密度を ρとしてW = ρhg,b = l cos αであるから,上の3式を解くと

s =tan φ

tan α+

c

ρhg

1

cos α sin α(2.17)

となる。また砂丘の砂は乾燥砂であり Liquid Bridgeなどの液的粘性を考慮する必要がなく,純粋に粒子同士の作用で考えればよいのでその粘着応力に関する項

cρhg

1cos α sin α

が無視できる。即ち c −→ 0の極限において,

s =tan φ

tan α(2.18)

となる。この式はα = φとなるとき,s = 1を満たして斜面は臨界状態となるので滑落崩壊がおきることを意味していると評価できる。また,s> 1では斜面は安定しており砂は斜面を動かないことを示す。経験的にひとたび臨界状態に達した砂山に上から砂粒をぱらぱらと落としていくと砂表面では小さな雪崩が発生し,それまでの砂の堆積表面は臨界状態である安息角を保っていたことがわかる。つまり,砂丘表面での雪崩はそれまでぎりぎりの状態でふんばって耐えていた砂たちの悲鳴なのである。そしてひとたび悲鳴をあげると,また再びふんばって耐えているのである。すなわち,粉粒体は自ら臨界状態に落ち込んでいく性質をもつと考えることができる。

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砂粒を用いたときでは,砂時計を用いた簡単な測定により安息角は 34°から 35°であることがわかった。ここで安息角の正接は tan 34°� 0.67 であると近似する。上記の議論により,砂粒には安息角と呼ばれる臨界角が存在することが確認され,次のような砂粒の運動も認めなければならない。サーフェイスクリープ(Surface-creep:転がり)

砂丘の表面をなぞるように動く。砂の動き方によって rolling-creepと sliding-creep

に分類できるが,ここでは同一のものとして,サーフェイス・クリープ,または単にクリープ (creep)とする。観測ではクリープは砂粒の運動全体の 20%を占めることが報告されている。また,風上の頂上付近まで運ばれた砂が風下側の安息角の傾斜を勢いよく滑り降り,それによる砂の雪崩である「アバランチ(雪崩効果)」もクリープに含めるものとする。粒径 0.5mm以上の砂粒子は主にクリープによって運動することになる。以上の議論からわかるように,風に対して平行な方向には saltationと creepによって,風に対して垂直な方向には creepによって砂が移動することがわかる。

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2.2 結合写像格子模型 -新しい砂遊びの世界へ-

2.2.1 初期値の設定

3次元空間を想定する。平面の2次元空間を格子で切り,(i, j)とラベリングしていく。h(i, j)を任意の格子点(i, j)における砂の量をあらわすものとし,各格子点に値を持たせる。即ち,この h(i, j)はその地点の「高さ」をあらわすものと考えることが可能であり,この格子点(i, j)における量 h(i, j)が砂丘の表面形をあらわすことになる。初期値としてすべての格子点には [0, 1]×Xの一様乱数を与えるものとする。ただし,Xは任意の値とし,系の初期砂量をコントロールするパラメータである。これによって平らな固い岩盤の上に砂が一様にまかれたことになり,すなわちバルハンなどの砂丘が形成される前の砂沙漠地帯の様子が再現されたことになる。砂沙漠の広がる砂丘地帯の地下には固い岩盤が存在し,その上に岩石が風化してできた砂がのっている状態が実際の乾燥地帯の地質である。当然,風の作用によって運動がゆるされるのは岩盤上の砂のみである。本シミュレーションでも,h(i, j) ≥ 0を満たすときのみ砂の移動をゆるすものとする。

図 2.4: 初期値の設定

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2.2.2 砂の移動(salutationと creep)

2.1節において2つの砂の移動様式を考えた(saltationと creep)。特に saltation

については半世紀前までは 2.1節のような厳密な考察によって飛砂量・飛距離の考察がなされていたが,CMLモデルの利用によってそれらはずっと単純化される。風によって運搬(salutation)される砂を考えるためには,吹き飛ぶ砂の量(飛砂量 q)と砂が吹き飛ぶ距離(飛距離 L)の値を把握する必要がある。Rassmussen

によって砂丘上を流れる風によって砂がどのような運動をするか詳細に観察された [12]。その結果を下に示す。

図 2.5: Rassmussenによる地形と風速の観測

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図 2.6: 西森近似による地形勾配と飛砂の関係

この結果をもっともよく再現する関数形は双曲線関数であり,西森はこれを利用してRassmussenの観測結果を近似・定式化した。即ち,ij平面において i方向に風が吹くとき,飛砂量 qは

q = −α tanh�h + β (2.19)

飛距離 LはL = γ tanh�h + δ (2.20)

であり,α, β, γ, δ は定数とする。なお,�hとは

�h = h(i + 1, j)− h(i, j) (2.21)

で定義される風下側の隣接格子との高度差であり,位置に依存する量である。一見,奇妙な表式ではあるが,

• 風上ではほぼ一定の風が吹く

• 頂上付近では風の鋭いピークがある

• 頂上付近の風の剥離によって風下側では風の勢力が極端に衰える

という砂丘上に吹く卓越風の観測結果を非常によく反映したものである。飛砂量と飛距離の積 f ≡ qLは

f = qL = (−α tanh�h + β)(γ tanh�h + δ) (2.22)

となり,これらに該当するパラメータ値は

α = 1.0, β = 1.3, γ = 1.0, δ = 1.0 (2.23)

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のときに,現実の砂丘の形状と飛砂量・飛距離との関係をもっともよく再現する[14]。そのグラフの形状はRassmusennの観測結果とよく一致しており,砂丘形成シミュレーションに利用するのに十分なものであるとみなすことが可能と思われる。伝統的手法では扱いが困難であった流体力学的要素(図 1.7の色付きの部分)を,西森近似によって地形からのみ飛砂の飛砂量 qと飛距離 Lを決定してしまうのである。傾斜が正(砂丘の風上側)では風によるエネルギーは一定,傾斜がゼロの砂丘の頂上では風の鋭いピークがあらわれる。この頂上付近における流れの剥離により,風下側では風のエネルギーは極端に衰える。すなわち,砂丘の頂上よりも風下側に風によってサルテーションのおこることのない部分である「シャドウゾーン」があらわれる。風速は風上斜面を上るに従って地形による圧迫をうけて次第にまとまり大きくなり,ついには頂上付近で最大になる。従って,風上斜面上の微小区間において,流出砂量が流入砂量を上回り砂の純増が負になる。すなわち,実質上の砂の除去が行われる。砂丘の頂上を越えて風下斜面に達すると風はセパレーションをうけて風速は急速に減少するので頂上直下において,飛砂の落下,堆積がおこる。堆積が進んで傾斜斜面がある程度の大きさに達して静止摩擦角を越えたときに砂が斜面上を滑落して安息角を勾配とする滑落斜面(slip-face)が形成される。この滑落斜面には多くの飛砂がとらえられることが容易に想像でき,実際に80~90%程度の飛砂がとらえられる。ある地点 (i, j)の砂が飛砂量 qをもって飛距離 Lだけ風下側に飛び移る。飛び移った先の格子 (i + L, j)において,飛砂量 qの飛砂によって着地点の臨界状態が破られることも十分に考えられる。また,出発点 (i, j)においても臨界状態が破られる可能性もある。すなわち,saltationと creepを十分な回数繰り返せば砂場全体が臨界状態に達し,微少量の飛砂の移動によっても大規模な砂雪崩がことごとくおこる可能性を秘めている。saltationをおこなっていくうちに,ある地点がそのような限界を超える状態に達したら,creepを起こして再び臨界状態にまでおちつくようにする。今,砂の安息角を 34°としているため,隣接格子との差�hが 0.67以上の場合は順次クリープをおこし,臨界状態にまでもっていく。creepは砂の条件付拡散であるととらえることができる。つまり,

∆h> 0.67 (2.24)

であるうちは砂は近隣格子に拡散していくが,安息条件

∆h ≤ 0.67 (2.25)

を満たす場合は creepを行わないという縛りがつく。ここで適当な拡散係数Dを設定し,一度に移動する砂の量 qは

q = D∆h (2.26)

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とする。例えば,i方向の隣接格子との安息条件が破られているときは,

h(i, j)→ h(i, j)− q (2.27)

h(i + 1, j)→ h(i + 1, j) + q (2.28)

とすることが可能である。ただし,角でしか接していない格子(斜め方向の格子)への砂の移動に関しては,遷移確率が 1√

2となるように調節する。

以上の試行を十分な回数だけ反復する。また,砂場には周期境界条件を与えるものとし,端の影響を考えない無限に広い砂場を想定する。以上をまとめると,以下のようなアルゴリズムになる。

(1)2次元平面に l× lの格子を用意して周期境界条件を課す。ここで lはシステムサイズである。(2)すべての格子点に[0, 1]×Xの一様乱数を割り振り,値を持たせる。(3)隣接との砂量差が安息条件を越えている場合は安息条件を満たすまでクリープを行う。(4)サルテーションをおこす。西森の近似式を用いて砂を飛ばす。

以上の(3)と(4)を十分な回数だけ繰り返す。

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第3章 砂丘をながめてみると

3.1 砂丘はどんな規則で存在しているかCMLモデルによる以上の単純なアルゴリズムによって砂を動かしていくと一様乱数で埋め尽くされていた沙漠には下のような三日月型のバルハン砂丘(Barchan-

Dunes)が多数生成される。次の図は 1000× 1000-Latticeで想定された沙漠において 2000回試行を行った結果である。

図 3.1: 1000× 1000のエリアにおける 2000step試行の結果

この状態に到達するまで,大きな砂丘が小さな砂丘を飲み込んで砂丘の融合(衝

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突と合体)がなされたり,或いは,大きな砂丘の端がちぎれて小さな砂丘が分離したりするものも確認された。また,風紋のような筋状のものが生成され,それが成長してバルハン砂丘になる過程も確認されている。このような不安定は過程を経て,ほぼ 2000step程度で安定な定常状態の砂丘になったのである。実際にこれ以降,何回試行を繰り返してもこれらのバルハン砂丘の形状はほぼ保存され,少しずつ位置が風下側にずれていくようになるだけである。ここで,大きな砂丘はゆっくりと,小さな砂丘はすばやく移動する様を確認できた。砂丘を理解するためには,この定常状態に達した砂丘を理解することが重要であろう。そのためには,このできあがった定常砂丘群の「特有の値」と,砂丘形成の背景として存在する「パラメータ」との関係は大変興味深いものである。この 2000step以外の主な時刻における砂丘群の様子については次のページ以降に示す。なお,風向は図 3.1と同様にすべて左から右に向かっている。

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図 3.2: 1000× 1000のエリアにおける 0step試行の結果 (初期状態)

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図 3.3: 1000× 1000のエリアにおける 500step試行の結果

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図 3.4: 1000× 1000のエリアにおける 1000step試行の結果

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図 3.5: 1000× 1000のエリアにおける 3000step試行の結果

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図 3.6: 1000× 1000のエリアにおける 5000step試行の結果

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図 3.7: 1000× 1000のエリアにおける 10000step試行の結果

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シミュレーションの結果得られたバルハン砂丘の分布は一見ランダムのようにも見える。実際のところはどうなのであろうか。風と平行な断面によって砂丘群を切った断面を見ると,比較的大きい砂丘が存在している周囲には他の砂丘は観察されず,小さいものほど密集していることがわかる。即ち,砂丘を特徴づける量として「砂丘の分布間隔」および「砂丘の高さ」があることは想像に難くない。これはこの一部分にのみ言えることなのであろうか,それともこれにはある種の普遍性があるのだろうか。或いは,そもそもこれは私の目の錯覚なのであろうか。

図 3.8: 風と平行な方向の断面

英国の Lancasterは主にNamib沙漠で砂丘の高さとその周りに存在する砂丘との間隔の観測を行い,これら2つの物理量の間には冪乗則が存在することを発見した [15]。

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図 3.9: Lancasterの測定した砂丘群の平均高と分布の関係

Lancasterの測定によると,砂丘の平均高Hと分布 Lの間には

L ∼ H0.58∼1.92 (3.1)

の関係が結ばれている。CMLモデルによる計算機上の砂丘群についても,Lan-

casterのように冪乗則を見出すことができるのであろうか。

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3.2 砂丘群の平均高シミュレーションによって得られた砂丘地帯にはさまざまな大きさのバルハン砂丘がちりばめられている。この様子は人工衛星から撮影された砂丘地帯の様子[16]と非常によく類似しており,シミュレーションとしては評価できるものであると考えられる。「本物の」実際の砂丘の観測においてもさまざまな大きさのバルハン砂丘が分布していることがわかる。

図 3.10: 人工衛星によって観測されたバルハン砂丘群

次にこれらの砂丘群の砂丘平均高を求めたい。このモデルではシステムの端に周期境界条件を課しているため,砂量の散逸はない。即ち,砂量は保存する。しかも,砂には安息角という臨界角があるため,十分時間がたてばすべての砂丘は相似で結ばれることになる。この点を利用して砂丘群の平均高を求めたい。システムの中で砂の量は完全に保存しており,単純に全格子に存在する砂量の平均を議論することはナンセンスである。

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図 3.11: 正弦曲線状の砂丘における砂丘平均高

同一の沙漠において,簡単のために図のような正弦曲線状の砂丘があったと仮定する。あるときは上の砂丘,あるときは下の砂丘が観察されたと考えるのである。言うまでもなく,先の議論により,これら2つの砂丘は砂量保存により積分値が等しく,即ち

S =∫ l

0ydx = A

∫ πa

0sin axdx =

2A

a(3.2)

S ′ =∫ l

0ydx = A

∫ πa′

0sin a′xdx =

2A′

a′ (3.3)

となり,2A

a=

2A′

a′ (3.4)

である。それゆえ,A : a = A′ : a′ (3.5)

なる関係が結ばれる。また,これによる砂丘の平均高はこの積分値をシステムサ

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イズで除したものに等しく,

h̄ ≡ 2A

al(3.6)

h̄′ ≡ 2A′

a′l(3.7)

となるが,先の相似則 (3.5)により h̄ = h̄′となってしまい,この手法はナンセンスであることがわかる。一方,平方和によって平均高を考察すると,

S0 =∫ l

0y2dx = A2

∫ πa

0sin2 axdx =

A2π

2a(3.8)

S ′0 =

∫ l

0y2dx = A2

∫ πa′

0sin2 a′xdx =

A′2π2a′ (3.9)

となり,即ち

h̄0 ≡ A2π

2al(3.10)

h̄′0 ≡

A′2π2a′l

(3.11)

が導かれ,相似則によりh̄0 : h̄0

′= A : A′ (3.12)

が結ばれる。一方で,2乗の足し合わせの結果であるこの積分値の比 S0 : S ′0にお

いてもS0 : S ′

0 = A : A′ (3.13)

であるために,砂丘の平均高は各格子にある砂量の2乗和で考察することが可能であることがわかる。

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3.3 砂丘群内における砂丘の分布客観的に相関関数を用いて全領域について砂丘分布間隔を確認してみる。ここでその砂丘分布特性をはかるツールとして,ピアソンの相関関数を単純化した相関関数 ρ(r)が

ρ(r) =1

N

N∑i′,j′

(hij − 〈hij〉)(hi′j′ − 〈hij〉) (3.14)

で与えられるものとし,i′, j′ = |(i, j)− (i′, j′)| = rとする。初期値が [0, X]の一様乱数であったとき,〈hij〉 = X

2とすることが期待できる。実際に初期値が [0, 1]で任

意の時刻のシステムにおける全砂量の平均値を計算すると 〈hij〉 = 0.4999± 0.0004

である。揺らぎは無視できる程度のものとして,ここでは 〈hi,j〉 = 0.5とすることが可能となる。このように初期値が決定すれば一意的に平均値 〈hij〉が定まる。これにより,砂丘の分布の様子が定量的に求められるが,砂丘群は複雑系でありその相関関数の形のみから砂丘間隔を見極めるのは難しい。砂丘間隔は,システムサイズに対する砂丘の個数に逆比例するので,相関関数にフーリエ変換を施し,そのパワースペクトルの様子から,設定している区間に対する砂丘群の特徴的な長さを知ることができる。位置に関する相関関数 ρ(r)(r = na, n = 0, 1, 2,…)

をρ(r) = ρ(na) = ρn (3.15)

とすると,それをフーリエ変換した波数空間での関数 ρ̃(f)は

ρ̃(f) =l∑

n=0

ρn coskn

l=

l∑n=0

ρn cos2πfn

l(3.16)

である。この ρ̃(f)についてのパワースペクトルが極値を得るときの空間周波数 f

を f0とするとき,f0がこの系の特徴的な値であるゆえに,システムサイズを lとするときに以下の関係が結ばれる。平均的な砂丘間隔(砂丘の波長)を Lとしたとき,

L =l

f0

(3.17)

である。具体的な例を次に示す。

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図 3.12: 砂丘間隔に関するパワースペクトルの様子

このときの fは f0 = 12が特徴的であり,ここから砂丘間隔を求めることが可能である。

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第4章 バルハン砂丘の形態と分布

4.1 砂丘の占める領域からの考察あるN個の砂丘群において,任意のある砂丘の高さを hi,それに属する砂の量

(mass)をmiとする。2次元平面において,各砂丘が相似であるとき,Sauermann[17]

の観測によればmi ∝ h2.4

i    (mi = γh2.4i ) (4.1)

である。しかし,この Sauermannの観測は測定点が少なく,甚だ怪しいものではあるのは確かである。

図 4.1: Sauermannの 2.4乗則

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このとき,この砂丘の全砂量は

Mtotal = γN∑i

h2.4i (4.2)

である。

図 4.2: 1個の砂丘の縄張り

一方,バルハン砂丘が形成されるためには卓越風が常に一方向を向いていなければならないため,風を基準に風に平行な方向と,それに垂直な方向とに座標を設定することが可能である。風に対して平行な方向に関する砂丘間隔をL‖,風に垂直な方向に関する砂丘間隔を L⊥とすると,1個の砂丘のしめる縄張り Siは,それらの積に比例し,即ち

Si ∝ L‖L⊥ (4.3)

である。また,定常に達した砂丘群においてはすべての砂丘は互いに共存しているはずであるため,Siは,

Si =Stotal

N=

l2

Mtotal

γ〈hi〉2.4

= γl2

Mtotal

〈hi〉2.4 (4.4)

とすることができ,Si ∝ 〈hi〉2.4 (4.5)

である。L‖ ∝ 〈hi〉α (4.6)

L⊥ ∝ 〈hi〉β (4.7)

であるとすると,ある砂丘の占める領域 Siは

Si ∝ L‖L⊥ ∝ 〈hi〉α〈hi〉β = 〈hi〉α+β (4.8)

となる。先の議論とあわせるとより

α + β = 2.4 (4.9)

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となり,さらに一方向に対する平均的な間隔はこれの平方根に比例することが期待されるので,

Li ∝ 〈hi〉1.2 (4.10)

となることが期待される。

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4.2 シミュレーション結果の解析

4.2.1 十分に時間が経過した定常砂丘群

砂丘の平均高や分布は下に示すように十分に時間が経過すると定常状態に達することがわかる。それぞれの値Hについて,それぞれのエラーバーにある値が共通に含まれるようになったとき,それらの値Hの平均値 〈H〉を定常値H0として採用する。砂丘は他の砂丘と衝突・合体を繰り返すが,ここからわかるように,十分な時間が経過してもすべての砂丘が合体して大きなひとつの巨大砂丘になってしまうということは考えられず,平均高・分布間隔の定常値が存在するのである。ここで,平均高の定常値をH0,分布間隔の定常値を L0とする。ただし,同一初期値において初期乱数を5つ用意してそれら5サンプルの全体効果で考慮することにより一般的なものに近づける。誤差は以下すべて標準誤差(平均値の平均二乗誤差)である。

図 4.3: 砂丘平均高の時間発展の様子

初期砂量を変化させると,定常状態に達したバルハン砂丘群の平均高も変化する。前述のように,初期値は一様乱数でふるが倍率をコントロールするパラメータXを導入して [0,1]×Xで各格子点にふっていく。それによる砂丘群の平均高の

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変化は下のような関係にある。

図 4.4: 定常状態の砂丘群と初期砂量の関係(両対数フィッティング)

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図 4.5: 定常状態の砂丘群と初期砂量の関係(線型フィッティング)

初期砂量を小さくしてX � 0.1の程度までにしてしまうと,バルハン砂丘は材料不足の状態で形成されることはなく,数本の風紋ができるだけで定常となってしまう。そこでは平均高をはかるという行為自体が無意味なものになるため,ここでは「バルハン砂丘が形成される条件下において」という縛りが必要となるが初期砂量が十分にあるとき,初期砂量と定常砂丘平均高の関係は下のように一次式

H0/105 = (4.64± 0.07)X + (2.70± 0.07) (4.11)

で結ばれることがわかる。ただし,これは一般的ではなく砂の量を0(X = 0)としたとき,H0 �= 0であり,常識に反するが,これは「バルハン砂丘を研究する」というスタンスからは前述のように問題はなかろう。

(4.10)の定式化によってさまざまな初期砂量の状況下において,次のように定常値H0を期待することができる。

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表 4.1: 砂丘平均高の定常値H0の目論見

初期砂量X 平均高の定常値H0

1.0 7.34× 105

1.1 7.80× 105

1.2 8.27× 105

1.3 8.73× 105

1.4 9.20× 105

1.5 9.66× 105

これを判断材料として,砂丘の平均高を求めることにより定常か定常遷移過程かを見極めることが可能となる。様々な初期砂量条件下における定常砂丘群の平均高Hと,風に対して平行な方向,垂直な方向それぞれに対しての分布間隔の関係を調べると次のようになる。

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Spa

cing

L

0

Height H0

図 4.6: 定常砂丘群における平行方向に対するH0とL0‖の関係

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Spa

cing

L

0

Height H0

図 4.7: 定常砂丘群における垂直方向に対するH0とL0⊥の関係

以上をまとめると次のようになる。

L0‖ ∼ H0.8±0.50 −→ α = 0.8± 0.5 (4.12)

L0⊥ ∼ H1.6±0.10 ←→ β = 1.6± 0.1 (4.13)

よって,先の議論によりα + β = 2.4± 0.5 (4.14)

となり即ち,Si ∼ 〈hi〉2.4 (誤差 21%) (4.15)

が確認された。これは先の議論と一致するだけではなく,風に対して平行な方向にも垂直な方向にも砂丘の平均高と分布の様子 (4.11)(4.12)が誤差の範囲までくるめると Lancasterの観測事実 (3.1)ともよく一致しているといえる。また,ここでは間接測定に従って冪指数を求めた。その過程においては誤差伝播の法則によって誤差を見込んだ。以下の間接測定による誤差値もすべて同様である。

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各データについて,L0⊥とL0‖の積をとり,それをSと定義する。それぞれの砂丘平均高H0に対するSをプロットして直接砂丘群の平均高とその分布をあらわすと次のようになる。

図 4.8: 定常状態における砂丘平均高と砂丘の占める面積の関係

これにより,Si ∼ 〈hi〉2.5 (誤差 4%) (4.16)

が導かれる。このように直接バルハン砂丘群の平均高とその分布の様子をはかることも可能であり,先と同様の結果をもたらすことができる。

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4.2.2 定常遷移過程下の砂丘群

定常状態に遷移する過程,即ち成長過程にある砂丘群についても同様に調べる。定常遷移過程の砂丘群においても同様の冪指数が見出すことができれば,この指数は大いに意味があるといえるであろう。成長中のバルハン砂丘の周りには無数のしわ状の風紋が存在している。定常砂丘群にも風紋は観察されるが,成長中の砂丘群のまわりにはそれとは比較もならないほど多くの風紋が存在する。風紋は絶対的に砂丘よりも数が多いため,風紋の平均高や間隔までもが計数に加わってしまうと計測に大きな支障をきたす。風紋の高さはバルハン砂丘の高さに比べると圧倒的に低いことを利用し,ここでは閾値を設定して風紋の影響がでないように工夫して計測を行うものとする。

固定時刻における砂丘群

定常遷移過程におけるある固定した時刻において,砂丘群の平均高とその分布間隔について調べる。ここでは定常遷移過程の t = 1000に時刻を固定して,各初期値における砂丘群において形成されたバルハン砂丘群についてデータのアンサンブルをとり,議論する。

Spa

cing

L

Height H

図 4.9: 定常遷移過程砂丘群における平行方向に対するHと L0‖の関係

以上をまとめると次のようになる。

L‖ ∼ H0.8±0.1 −→ α = 0.8± 0.1 (4.17)

L⊥ ∼ H1.5±0.3 ←→ β = 1.5± 0.3 (4.18)

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Spa

cing

L

Height H

図 4.10: 定常遷移過程砂丘群における垂直方向に対するHとL0⊥の関係

よって,先とまったく同様に

α + β = 2.3± 0.3 (4.19)

となり即ち,Si ∼ 〈hi〉2.3 (誤差 13%) (4.20)

となり,これは定常下における砂丘群の平均高と分布と同様の評価がなされるべきである。

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砂丘群の時系列スケーリング

ここは今までとは少々毛色が異なる。いろいろな初期値によって砂丘群が定常に達するのに要する時間は変化する。したがって,今考えている時系列においては定常遷移の様子は時刻に大きく影響される。特徴的でありかつ普遍的な定常遷移の様子を知るために,時系列のスケーリングをとることによって砂丘群の定常遷移過程を解析する。各初期値における定常値H0,L0の逆数を全データに乗じることでデータの規格化を行う。そして,時系列についてはそれぞれの定常値に指数 δを作用させたものの逆数を乗じる。つまり,

t−H −→ t

Hδ0

− H

H0

(4.21)

t− L −→ t

Lδ′0

− L

L0

(4.22)

と変数変換をおこなうのである。ここで,δや δ′についてはすべての初期値における関数形がもっとも一致するような値を手作業で探し出す。そして,すべての初期値データが一致した関数形を決定する。ここでは

H

H0

= f(t

Hδ0

) ∼ (t

Hδ0

)ε (4.23)

L

L0

= f(t

Lδ′0

) ∼ (t

Lδ′0

)ε′ (4.24)

であるとする。(4.23)式の両辺をL0倍して,両辺を εε′ 乗すると,

Lεε′ ∼ L

εε′0 (

t

Lδ′0

)ε (4.25)

が導かれる。もはや我々が考える時刻という概念は無意味なものとなるので,(4.22)と(4.24)において時刻 tを消去すると次の式が得られる。

H

Lεε′∼ H0

Lεε′0

(Lδ′

0

Hδ0

)ε (4.26)

ここで右辺はすべて定数であるため結局のところは,

H ∼ Lεε′ ⇐⇒  L ∼ H

ε′ε (4.27)

となる。即ち,時系列スケーリングをとることによって決定する関数形をあらわすパラメータ ε, ε′からバルハン砂丘群の平均高Hと分布間隔Lの関係の冪指数が求めるられるのである。

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H/H

0

t/H0

図 4.11: 時系列スケーリングをとった定常遷移過程の砂丘群の平均高

この関数形はH

H0

= (0.19± 0.03)(t

Hδ0

)0.11±0.02 (4.28)

であり,ε = 0.11± 0.02である。

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図 4.12: 時系列スケーリングをとった定常遷移過程の砂丘群の分布(風に平行な方向)

この関数形はL

L0

= (0.22± 0.03)(t

Lδ′0

)0.08±0.01 (4.29)

であり,ε′ = 0.08± 0.01である。以上を総合すると,風に平行な方向に関しては,

ε′

ε=

0.08± 0.01

0.11± 0.02= 0.7± 0.2 (4.30)

である。

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次に風に垂直な方向についても同様に考える。この関数形は

図 4.13: 時系列スケーリングをとった定常遷移過程の砂丘群の分布(風に垂直な方向)

L

L0

= (0.54± 0.02)(t

Lδ′0

)0.16±0.01 (4.31)

であり,ε′ = 0.16± 0.01である。以上を総合すると,風に平行な方向に関しては,

ε′

ε=

0.16± 0.01

0.11± 0.02= 1.5± 0.4 (4.32)

である。よって,時系列スケーリングによって得られた両方向の冪指数の和によって先のように砂丘の分布を考察する。

(0.7± 0.3) + (1.5± 0.4) = 2.2± 0.4 (4.33)

即ち,Si = 〈hi〉2.2 (誤差 18%) (4.34)

となる。この時系列スケーリングを利用した冪乗則の確認からも先と同様の評価をすることができる。

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第5章 まとめ

5.1 砂丘の平均高と砂丘分布間隔本研究において,砂丘群の特徴的な長さ(砂丘間隔)は砂丘群の平均高に冪乗則の形で依存し,大きな砂丘の周りには砂丘が存在しないという観測事実を計算機上で確認することができた。しかも,砂丘には定常状態が存在し,その定常状態においても,砂丘形成初期段階における定常遷移過程においても砂丘の分布間隔は砂丘平均高にほぼ同様に冪指数をもって依存することが確認された(2003年1月 1日現在,この点に関しては本研究が世界唯一である)。ここに本研究で得られた冪指数を下に列挙する。いずれも誤差の範囲まで考慮すると理論値によく一致していると評価できる。

表 5.1: 砂丘群の平均高と分布間隔指数

砂丘の状態など 冪指数理論値 2.4

定常砂丘(1) 2.4± 0.5

定常砂丘(2) 2.5± 0.1

遷移砂丘(固定時刻) 2.3± 0.3

遷移砂丘(スケーリング) 2.2± 0.4

簡単に表現すると「大きな砂丘のまわりには他の砂丘は存在しない」ということになるがそれはなぜか。この問題は簡単な理論で片付けることができる。単純化するために1次元で考える。図 5.1において,左側の砂丘が時間 tの後に距離 dだけ離れた右側に進行したとする。砂丘表面での全砂流量を J とする。J は砂丘表面積に比例するので,この場合は砂丘表面を意味する線分の長さに比例し,そして,その長さは相似が成立していることにより高さHに比例するため,

J ∼ H (5.1)

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Jt

d

HH

図 5.1: 移動する砂丘のモデル

である。また,全砂量は保存するので

J =H2d

t(5.2)

である。砂丘の移動速度 vは

v =d

t(5.3)

であるので,tを消去し,さらに (5.1)式より

v =J

H2∼ 1

H(5.4)

が導かれる。よって,砂丘の高さ(=大きさ)と移動速度は逆比例する。従って,大きい砂丘に小さい砂丘は衝突して合体してしまい,大きい砂丘の周りにはある程度以上の大きさをもつ砂丘は存在しなくなる。

5.2 CMLモデルの有用性と残された課題CMLモデルによってバルハン砂丘群が再現された。本研究では砂丘の形態(平均高)と分布(間隔)を定量的に調べたが,報告されている観測事実(砂丘平均高と分布の冪乗則のパラメータ)と見事に一致し,現実の砂丘をよく再現しているといえる。従って,砂丘の形成条件のみならず,分布を問題とする場合もCMLモデルは非常に有用であることを結論づけることができる。しかし,CMLモデルによるバルハン砂丘はホーンの端の形状が実際のものとは違うという指摘もある。それは砂丘を定量的に研究する立場からはちょっとした脅威である。なぜならば,ホーンの形状が違うということは,実際に存在するはずの砂の分布とCMLモデルでの砂の分布が異なる部分が出てくるということを意味するからである。厳密に寸分狂わずに砂丘の形状を再現することができれば,砂丘の平均高と分布の研究も厳密なものとなるであろう。観測事実に従えば,バルハン砂丘はそのいたるところの形状が放物線で近似できるとされている(ベイの形など)。CMLモデルによって再現されたバルハン砂丘の形の厳密性を追うことも残された課題としては重要であろう。しかし,それにもかかわらず,平均高と分布の冪指数がよ

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い値を示したということは本質的にホーンの形状はそれに大した問題ではないということが結論付けられるのであろう。

5.3 これからの砂丘研究のあるべき姿繰り返すがこれまでの砂丘研究は定性的研究が主であったと言わざるを得ない。しかし,砂丘進出も砂丘後退もどちらも深刻な問題であり,砂丘制御問題は解決を急がれなければならない。また,孤立砂丘問題など,従来の砂丘研究の立場からは説明のつかない現象も発見・報告されている。これを取り込む理論として「砂丘合体緩和モデル」なるものが西森・楓(ロンドン大)から提唱され,研究されている。新世紀を迎え,砂丘研究も物理学的手法を持ち込み地形学者と手を取り合って砂丘問題に取り組む必然性があるのではないか。

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第6章 謝辞

 本研究を進めるにあたり,中央大学理工学部物理学教室の田口善弘先生には終始懇切丁寧なご教授を賜りました。できの悪い学生であった(現在形?)私を厳しくも暖かく指導していただいた良き兄貴的な田口先生に師事できました私は幸せ者であると痛感しております。そして,日本で数少ない砂丘の研究者でいらっしゃる大阪府立大学工学部の西森拓先生には随時,アドバイスをしていただきました。12月には1週間にもわたる研究会ツアーを設定してくださいました。大変貴重な機会を与えてくださいました西森先生にはいくら感謝してもしきれないほどです。また,学部時代の卒業研究から中央大学理工学部物理学教室の竹山協三先生には日々さまざまな相談ごとなどにものっていただきました。同・物理学教室の中野徹先生,地学・生物学教室の鈴木隆介先生には豊富で有用なデータ等を提示していただきました。また,私の地形への興味を盛り立ててくださいました元・河合塾地理科講師として教鞭を振るわれていた現・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科助教授の水野一晴先生には大変感謝しております。水野先生の存在なくして,私の現在の自然地形学(地理)への興味・関心はありえなかったと思われます。著名な皆様のご教授を賜ることができましたことを大変光栄に思っております。そして同研究室の同僚・山下直志君,清野暁君には私との議論にもお付き合いしていただき,彼らの存在なくして私の研究はまず完成しえなかったことでしょう。最後に,「研究に集中するために,大学の近くに住む!」と突然言い出したバカ息子のために,1年間埼玉の田舎町でひとり寂しく暮らしてくれた偉大な母に感謝します(父は熊本で 14年目の単身赴任中で,妹はあまり家に帰らない。どうしようもない子どもたちだ)。本稿のできはいかがでしょうか。本研究を進めるにあたり,私を支えてくださったすべての皆様に心から厚く御礼申し上げますとともに,本稿の結びといたします。

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関連図書

[1] 阿部公房「砂の女」(新潮社,1989)

[2] 「NATIONAL GEOGRAPHIC,2002.1」(NationalGeographic Society,2002)

[3] 西森拓「動く砂丘 - 砂のダイナミクス」(国際高等研究所学術出版,2001)

[4] http://rst.gsfc.nasa.gov/Sect19/Sect19_ 11.html

[5] R.A.Bagnold「The Physics of Blown Sand and Desert Dunes」(Methuen Lon-

don,1941)

[6] 那須野悟「粉体の物理」(物性研究,2002/5)

[7] 田口善弘「砂時計の七不思議」(中公新書,1995)

[8] http://www-6.ibm.com/jp/company/society/science/p09th/kaneko.html

[9] 木田重雄,柳瀬眞一郎「乱流力学」(朝倉書店,1999)

[10] R.A.Bagnold「The movement of Desert sand」(Proc.Roy.Soc,A157,1936)

[11] 水谷武司「物理地形学概説」(大明堂,1998)

[12] K.Rassmussen「coastal sand dunes」(Proc.Roy.Soc,B98,1989)または,R.Cooke.et al「Desert Geomorphology」(UCL Press,1993)

[13] 石原研而「土質力学」(丸善,1988)

[14] H.Nishimori,M.Yamasaki「A Simple model for the various pattern Dynamics

of dunes」(International Journal of Modern Physics B,vol.12,No3(1998) 257-

272)

[15] N.Lancaster「Geomorphology of Desert Dunes」(Routledge,1995)

[16] http://rst.gsfc.nasa.gov/Sect19/Sect19_ 11.html

[17] G.Sauermann「The Shape of the Barchan Dunes of Southern Morocco」(2000)

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付録■計算機

(CPU)Pentium� 1G Hz

(メモリ)256MBSDRAM-DIMM133/CL3

(HD)IDE 20.4GB

■OS

 MS Windows98 SecondEdition

■言語  FORTRAN 90

■誤差計算  SE(標準誤差)

■2D描画 AV似非 ver0.91(フリーソフト1)

■グラフ描画 Origin 6.1J

  gnuplot MS-Windows version 3.5(フリーソフト2) Plot for Windows32 Ver3.26a(フリーソフト3)

■執筆  LATEX  for Windows

1http://hp.vector.co.jp/authors/VA011972/2http://www.gnuplot.info/3http://kilin.u-shizuoka-ken.ac.jp/software/index.html

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