中間とりまとめ 本文(PDF形式:537KB)

27
1 産業構造審議会 情報経済分科会 中間とりまとめ 「融合新産業」の創出に向けて ~スマート・コンバージェンスの下での システム型ビジネス展開~ 平成23年8月 経済産業省

Transcript of 中間とりまとめ 本文(PDF形式:537KB)

1

産業構造審議会

情報経済分科会

中間とりまとめ

「融合新産業」の創出に向けて

~スマート・コンバージェンスの下での

システム型ビジネス展開~

平成23年8月

経済産業省

2

<目次>

1.基本的な考え方

2.重点分野に対するアクションプラン

重点分野の政策展開

①融合システム産業フォーラム(仮称)

②融合システムの設計・開発・システム輸出の支援

③産業革新機構による事業化リスクマネー供給支援

④融合領域における戦略的な標準化活動の促進

分野1:スマートコミュニティの国内外展開の加速化

分野2:スマートヘルスケア産業

分野3:社会システムに組み込まれるロボット

分野4:情報端末化する自動車と交通システム

分野5:スマートアグリシステム

分野6:コンテンツ・クリエイティブビジネス

3.横断的課題に対するアクションプラン

横断的課題1:スマート社会のセキュリティ対策

横断的課題2:スマート社会を切り拓く融合人材と教育

横断的課題3:国際的アライアンスによるグローバル展開

横断的課題4:融合領域における新規プレーヤー創出促進

横断的課題5:ビッグデータから価値を生み出す基盤となる技術強化・

利活用促進

4.震災復興

柱1:被災地域における各種プロジェクト等の重点的・先行的実施

柱2:クラウド活用等による中小企業再生支援等

柱3:情報発信、リテラシー対応

3

1.基本的な考え方

<「情報経済革新戦略」から 1 年>

昨年 5 月、当分科会は「情報経済革新戦略」を発表し、エレクトロニクス・IT

産業の構造改革、IT によるユーザ産業・社会システムの高次化(1.5、2.5、3.5

次産業化)、課題解決型社会システムの海外展開の 3 つの視点で、戦略的か

つ総合的に「電子立国再興」に向けた政策を推進していくことを宣言した。

同戦略は、新興国市場の台頭や国内事業環境の相対的悪化による産業空

洞化や国内過少投資に対する懸念を表明するとともに、クラウドコンピューティ

ングの出現による情報通信インフラの利用コストの劇的低下を、IT を利活用し

た新たなシステムやサービスの創出に活かせていないことがエレクトロニクス・

IT 産業の競争力低下の一因となっていることを述べ、グローバル化やデジタル

化が可能にするオープン水平分業型ビジネスモデルや製品の急速なコモディ

ティティ化、あるいはものづくり、サービス、コンテンツと IT の融合によるプラット

フォームビジネスの勃興といった変化に対応する必要のある時代が到来したこ

とを指摘している。

こうした、ハードウェアの上に展開されるサービスや、それらをインテグレート

するソフトウェアやアーキテクチャに付加価値の源泉が生まれつつある流れを

ふまえ、本年の当分科会では、「情報経済革新戦略」及び以下において述べる

基本的視座、変化する競争優位の源泉等に基づき、特に、ものづくり、サービ

ス、コンテンツといったレイヤーを超え、さらに IT と融合した新たな社会システ

ムの創出を目指すことを中心に、課題の抽出及びアクションプランの策定を行

うこととした。

他方、当然のことであるが、同戦略で掲げたその他の政策についても、加速

度的に実行していくことを、ここで改めて明確に述べておく(参考資料 2 参照)。

例えば、ハードウェアやデバイスの世界でいえば、日本の競争力は世界最高

水準のものであり、IT との融合の中で、さらに維持及び強化されていくことが不

可欠である。世界各国で、生産ラインの新興国へのアウトソーシングなどが増

えているが、本年発生した東日本大震災の際に、日本の生産現場のレベルの

高さを示した非常に迅速な復旧、顧客に対する供給責任感の絶大さが世界の

感銘を呼んだ。日本には、価格や品質のみで語り尽くせない、「信頼」という価

値がある。こうした日本が従来有していた有形無形の産業基盤を土台とし、更

に総合的な国際競争力をさらに向上させていくため、「情報経済革新戦略」と

本年の当分科会で策定するアクションプランが一助となれば幸いである。

4

<基本的視座①要素技術の強さのみでは勝てない時代に>

日本は、エレクトロニクス・IT産業を中心に、要素技術においては情報家電、

環境エネルギー関連などで大量の知的財産を創出、蓄積してきており、要素

技術を豊富に有している。

他方、「情報経済革新戦略」においても指摘した通り、グローバル市場では、

要素技術を駆使した我が国製品は、市場投入時にはグローバル市場で圧倒

的なシェアを獲得するものの、短期間でシェアが下落し、また、昨今はそのシェ

ア下落のスピードが加速化していることもあり、一定のシェア・利益を確保でき

る期間はますます短くなってきている。要素技術のコモディティ化が一気に進

んで競争優位を失う時代となり、それら要素技術やその集積のみではなく、全

体最適を志向したアーキテクチャ、それらを制御するソフトウェアに付加価値の

源泉がシフトしている。

このままでは、日本が要素技術の強さを持つ蓄電池等をはじめとした環境・

エネルギー分野でも同じ轍を踏む恐れがある状況であり、要素技術のみに依

存しない方向性が求められている。

日本の工場所有権(液晶関連)

日本の環境特許技術

特許技術のほとんどを握っても、「競争構造の変化」に的確に対応できていないため、基礎研究の果実(グローバルマーケット)を摘み取れていない。

日本製品の世界市場シェアの推移

○製品導入からシェア下落までの期間はますます短期間化

環境・エネルギー

技術(イメージ)

・・・・・

(平成20年度 特許出願技術動向調査報告書)

<基本的視座②『日本市場発』から『最初からグローバル』へ>

日本市場の規模が世界市場の約 2 割を占めていた頃には、日本市場で技

術を磨いてから世界に展開する流れに合理性があったが、2030 年には日本市

場は世界市場の約 6%程度となる見込みであり、今後の成長のためには最初

からグローバル市場を見据えた事業展開が必要である。

最初からグローバル展開するためには、「情報経済革新戦略」においても、

モジュラー化時代を勝ち抜くために、企業規模の大小を問わず、日本企業同士

の提携のみならず、グローバル企業も巻き込んだ業界再編により世界市場で

5

競争優位を持つグローバルプレイヤーが形成されることが必要であると指摘し

たが、市場、競合他社の分析をしつつ、自社・他社の領域設定、戦略的提携や

買収などを通じたグローバルアライアンスが重要となってくる。 世界と日本のGDP 推移

1995年(シェア最大) 18% 2030年(見込み) 約6%

日本

5.3兆ドル

24.0兆ドル

世界(除日本)

日本

6.2兆ドル

100.8兆ドル

世界(除日本)

(2009年、日本のGDPは4.9兆円、シェアは8.8%)

内閣府「世界経済の潮流」等より経済産業省作成

<基本的視座③『デジタル化』『ネットワーク化』→『IOC・IOT』による産業構造

変化>

文字・音声・映像等の多種多様なアナログ情報を、デジタル情報に変換する

ことで、低容量の同種の情報として扱うことができるようになり、書籍・音楽・映

画等のコンテンツのデジタル化が次々に進展したほか、スマートフォンやセン

サーネットワークの普及によって、交通、都市空間、モノの位置、人間行動等に

係る「リアル情報」もデジタル化の対象になった。

こうした各種のデジタル情報は、パソコン、携帯電話、テレビ、ゲーム機を始

め様々な機器がインターネットに接続することによって、瞬時に、安価に、世界

中で共有可能になった。パソコンを中心に相互にインターネットで接続されたシ

ステム内をデジタル情報が流通する世界(Internet of Computers)になると、コ

ンテンツのデジタル化ともあいまって、ネットワーク接続のパソコン、携帯端末、

テレビ等の競争優位の源泉が激変した。

「情報経済革新戦略」中でも、IT を通じたモノとモノ、モノとヒトが結びつく社

会の到来、その先にある社会システム革新の実現の重要性について指摘した

が、さらに、デジタルコンテンツだけでなく、世界のあらゆる情報がデジタル化さ

れ、インターネット・センサーネットワークを通じて広く流通する世界(Internet of

Things)になると、従来の業界区分や、製品区分はその意味をなさなくなり、分

野横断型の新たな競争構造が生まれることになる。

<基本的視座④レイヤー構造化・全体最適化を通じた事業アーキテクチャの

設計>

デジタル化・ネットワーク化が進む中で、製品・サービスが多層レイヤー構造

化。この変化を前提に、ネットワーク接続前の「部分最適」ではなく、接続後の

6

「全体最適」を志向した上でシステム全体のアーキテクチャを描くことが不可欠

である。その中で自社・他社領域の最適な設計を行い、競争力の源泉となる

「制御システム」「統合プラットフォーム」「社会システム」等のシステム設計を担

い、インテグレータ機能を押さえることが戦略的に重要である。

また、グローバル市場は巨大であり、自社経営資源が限定的である以上、

システム全体のアーキテクチャを描き、その中で自社領域を設定し、競争優位

を確保するグローバルアライアンスの形成も重要である。

グローバル市場での消費者の根源的ニーズ

・TVが欲しい訳ではなくコンテンツが視聴したい

・自動車ではなく移動手段・体験が欲しい

デジタル化・ネットワーク化による既存製品・サービスの再定義や新サービス創出

グローバル市場

短期間にグローバルレベルでの製品投入が可能な供給体制の整備

コンテンツ(アプリケーション)

プラットフォーム(コンテンツストア)

ネットワーク(通信インフラ)

ハード(OS/端末)

グローバル市場を俯瞰し、最適な事業アーキテクチャを自ら設計

コンテンツA

コンテンツC

コンテンツB

自社で提供

ハードウェアB

ハードウェアA

OS

必要な要素技術・コンテンツ等を最適に組み合わせ

消費者による瞬時・グローバルな共有と参画(動画共有サイト、SNS等)

要素技術・コンテンツ等

要素技術A

ネットワークA

ネットワークB

ハードウェアA

自社の描くアーキテクチャ

ネットワーク事業者A

要素技術B

コンテンツC

ハードウェアB

ハードウェアC

要素技術C 人材B

<新たな競争優位の源泉としてのシステム創出>

デジタル化、ネットワーク化が進むと、ネットワーク上では、あらゆるモノやシ

ステムは抽象化されたネットワークを構成する結節点(以下「ノード」)とそのノ

ード間のつながり(以下「リンク」)として認識される。特に、スマート社会では、

インターネット上に、新たなノードとリンクが大量に発生(ビッグデータの発生)

するが、抽象化されたノードとリンクの存在それ自体は、実社会では意味を持

たない。

すなわち、デジタル化とネットワーク化することで、あらゆるモノや人はネット

ワークを構成するノードとして等価に認識されるが、抽象化されたノードとリンク

の集合を組み替えることで、実社会において、新たな経済的価値を生み出すこ

とが可能となる新社会システムを創出することが可能になる。

7

データ 情報・知識情報形式

意味づけされていないデジタル信号や数値等 解釈・価値観が反映された情報

ノードとリンクの集合(実社会での意味は捨象) 新たなつながり

交通・渋滞システム

IT融合による新たな価値創出

抽象化世界

実社会

ノード・リンクの組み替え

エネルギーシステム

医療サービスシステム

抽象化

IOT化によってあらゆるモノ・人・システムが抽象化可能に

スマートコミュニティを例に取ると、EV(電気自動車)や蓄電池、スマートメー

ター等、既存のネットワークに新たに機器が繋がると、電力網が双方向化され

たり、自動車がコミュニティ内の電池システムと位置付けられたりするように、

電力システムや都市交通システム、強いては家電や家自体の機能・果たすべ

き役割が再定義される。新たに都市空間における各ノードとそのリンクが新た

に生まれることとなり、低炭素社会の創出や、世界各国で生まれつつある新興

国における都市自体の最適設計等、新たな意味づけをされ価値創出をされる

ものであると言える。

<デジタル化、ネットワーク化発展段階と競争激化領域・フロンティア領域>

デジタル化、ネットワーク化を前提としたビジネス展開は、携帯電話やゲー

ム機等だけでなく、より幅広い分野へ波及する。既に変化が始まっているスマ

ートグリッド/コミュニティや、デジタル化は進みつつあるもののネットワーク化

の進展が今後見込まれる自動車、ロボット、医療・健康や、情報のデジタル化

の進展が今後見込まれる農業、産業保安等は、ITによる産業構造の変化と新

規ビジネス創出の大きな機会が見込まれる。こうした分野は、社会システムと

密接に関連する分野であり、異分野・異業種のプレーヤーが多数関連し社会

的・経済的なインパクトも大きな分野である。また、スマート社会においては、

融合領域の創出が競争優位確保の一つの決定的要素になることなどにも注

意しなければならない。

デジタル化、ネットワーク化による社会システムと産業構造の変化が生み出

されつつある状況を踏まえて政策展開を行う必要があるが、携帯電話やゲー

ム等の競争激化領域と自動車・交通、ロボット、医療・健康等の社会システム

中心のフロンティア領域に分けつつ、市場規模等も含めて分析を深めていくこ

とが重要である。

8

①デジタル化

②ネットワーク化

携帯電話

書籍

テレビ

ゲーム

SNS

スマートグリッド/コミュニティ

ロボット

医療・健康

自動車・交通

農業

IOT

個別技術領域の確立

ハードウェア、ソフトウェア、通信規格等、個別の技術領域で有力プレーヤーの

登場、デファクト技術の創出が起こる。

レイヤー構造化

最適な社会システムに則した、各技術を横串にするプラットフォームが生まれ、

各技術領域は階層に分類される。また、個別技術領域の価値はネットワークの中で再定義される。

あらゆるものがネットにつながるIOT(Internet of Things):モノのインターネットの世界

へ。

フロンティア領域

競争激化領域

未デジタル化領域 2035年:9.6兆円(世界)

2020年:78兆円(国内だけで)

2020年:180兆円(世界)

2020年:2010年比30%増

(世界)

2010年:527兆円(世界)

出典: 農業:ロッテ社市場調査より抜粋

ロボット:経済産業省「ロボットの将来市場規模」(H22年4月)自動車:みずほコーポレート銀行「次世代パワートレーン社の需要見通しとEVの展望」(H22年1月)

医療・健康:「新成長戦略」(H22年6月)

スマートコミュニティ:日経BP社「世界スマートシティ騒乱」(H22年)

未デジタル化領域のデジタル化

従来IT化されていなかった、暗黙知等のアナログ情報・技術がデジタル化される。

<IT融合による新社会システムの創出に向けて>

以上をふまえ、当分科会は、特定事業分野・特定技術・特定市場だけでは

有効なビジネス戦略が打ち立てられない、ゲームの構造が変化した時代にお

いて、新たなビジネスモデル、社会システムの方向性を探っていく。

競争力の源泉となるプラットフォームやシステム、インテグレータやプロデュ

ーサー機能を押さえ、我が国の持つ要素技術の強みをビジネスモデルに活か

しながら、スマートデバイス(IPTV、電子書籍等)とコンテンツの融合など産業

分野、事業分野、企業をまたがる「融合モデル」を構築することが重要である。

その際、「国内市場から始める」ではなく、「最初からグローバル」で攻める姿

勢は併せて重要である。ビジネスモデルの出口をグローバルに設定できる仕

掛けを官民一体で創出する方向性が求められている。

人材も当然不可欠な要素である。激動の時代を切り開くことができる個性的

な人材の産業界への輩出に向けた産学官連携等による環境整備、あるいは、

ベンチャー創出という意味においては、単なるリスクマネー供給にとどまらない、

ベンチャーを醸成する社会システム・生態系の構築に向け、社会的に最適配

置されているとは言えない人的資産、知財等の流動化促進等、重要となる取

組は数多い。

社会システムを構築する上では公的セクターとの関係も不可避であり、技術

開発から行われる実証事業の中で見つけ出される制度的な問題点なども、行

政において解決していかなくてはならない。

当分科会では、IT融合による新たなビジネスの芽の創出に向け、幅広い業

種や各界の有識者が集まって議論を深めていくことなども含め、いくつかの重

9

点分野及び横断的課題を設定し、それらに関するアクションプランを可能な限

り具体性を持たせて策定することとしたい。以下、次頁から詳述していく。

10

2.重点領域に対するアクションプラン

重点分野の政策展開

①融合システム産業フォーラム(仮称)

融合分野の新たなシステム創出に際しては、異なる分野の産官学が集い、

分野を超えた価値体系を作り上げる場が重要である。

また、融合システム構築に向け、消費者・ユーザーを含め多種多様なプレー

ヤーから構成される「融合システム産業フォーラム」を組成し、異業種間連携を

促進する。また、行政も関係府省と連携しながら必要な制度改正の見直しも含

めたオープンな姿勢で参画していく。フォーラムにおいては、社会システム像の

抽出・整理、事業アーキテクチャの在り方、必要な情報開示や関連規制の見直

し等について分野ごとに官民の役割分担を整理しつつ検討を推進していく。

②融合システムの設計・開発・システム輸出の支援

企業コンソーシアムが融合システム全体のアーキテクチャを描き、関係企業

を巻き込みながら必要な要素技術やコンテンツを集めて全体のシステム開発・

実証を行う取組を支援する。

このために、FS調査(海外市場・先端技術動向調査)、現地企業も含んだ企

業コンソーシアムの組成促進、海外ニーズを踏まえたシステム設計・開発・輸

出を支援していくことが重要である。

また、事業化フェーズでのリスクマネー供給についても、トータルパッケージ

の支援を検討する。

③産業革新機構による事業化リスクマネー供給支援

IT融合システムの事業化にあたっては、関係する企業が事業化の目標と情

報を共有し、機動的かつ戦略的に事業構築する体制が不可欠である。そのた

め、産業革新機構(INCJ)等によるリスクマネー供給を通じ中核企業等形成を

支援する。

<具体的に支援が考えられる例>

①個別の技術・システムを持つ企業群が、全体をインテグレートする事業会

社を共同設立。

②IT融合のキーとなる情報制御システムを強みとする企業等の買収を核と

したコンソーシアムの形成。

11

④融合領域における戦略的な標準化活動の促進

重点分野を中心に、システム開発と並行して競争優位確保観点から、①標

準化すべき領域と標準すべきでない領域を特定し、②それを踏まえて戦略的

な標準化を支援する。

(注)スマートコミュニティ分野では26の技術分野を特定して、システム連携

のための「インターフェース」の標準化等を推進中。

12

分野1:スマートコミュニティの国内外展開の加速化1

現状の課題として、一つに、厳しい電力需給下での需要側の省エネ・節電対

応の必要性がある。当面の電力需給に対応し、かつ、中長期的に省エネ型の

経済社会構造を実現するためには、産業分野にとどまらず、小口の需要家、

家庭等の需要側の省エネ・節電に向けた政策展開の加速化が不可欠である。

また、中央集中型から分散型含めた最適なエネルギーマネジメントシステム

の確立も課題である。分散型で災害に強く、再生可能エネルギー導入拡大の

基盤となるスマートコミュニティの導入加速化が必要である。

こうした課題に対し、短期的取組として、スマートメーターの導入を加速化

する(オープン、相互互換、標準化等)。また、ピークシフト・カットの需要家の取

組を促す時間帯別料金(ダイナミック・プライシング、クリティカルピークプライシ

ング(CPP))等のインセンティブを導入する。スマートハウス・ビルの核となるH

EMS、BEMS等の導入加速化 (「スマートポイント(仮称)」等の導入促進策

の検討、エネルギー利用情報アグリゲーターの創出等)も重要である。さらに、

系統側と協調しつつ再生可能エネルギーを最大限活用して分散型の需給管

理を行う地域エネルギーマネジメントシステム(CEMS)の実証・標準化も推進

する。また、地域エネルギーマネジメント事業を可能とする制度環境の整備、

市場に於ける競争主体形成も支援する。

中長期的取組としては、社会全体での省エネ、CO2削減、経済性等を最適

化する投資行動を促すエネルギー供給体制の整備が挙げられる。

13

分野1:スマートコミュニティの国内外展開の加速化2

現状の課題として、社会システムとしての電池・制御システム (インフラバッ

テリー)の確立と競争力確保がある。グローバル市場で環境・エネルギー分野

での競争が激化。リチウムイオン電池でも、韓国勢・中国勢が急迫しており、電

池自体の性能向上に加え、制御システムも含め、自動車用、家庭用、地域用

など複数用途を見据えた競争力確保が重要になっている。

また、アジア等新興国含めたスマートコミュニティ市場の競争激化と中核企

業の必要性も課題である。具体的には、スマートコミュニティ関連市場において

欧米系、中国、韓国企業との競争が激化。日本企業コンソーシアムによる早期

の事業化と横展開が課題である。また、スマートコミュニティの事業化に当たっ

ては、IT、電気・電子、通信、自動車、都市設計等の異なる技術・事業を融合・

統合してビジネスモデルを描くインテグレータ機能が不可欠である。

こうした課題に対し、短期的取組として、インフラバッテリーの確立のための

国内・海外での技術実証・標準化等を推進する。また、スマートコミュニティ海

外展開プロジェクト支援と成功モデル創出を行う(インド、中国、東南アジア、中

東、欧州、米国等での日本企業コンソーシアムによる事業展開のための二国

間協力、FS・実証支援、リスクマネー支援等による成功モデルの創出)。さらに、

国内外でスマートコミュニティ事業を実施する「中核企業」組成・育成する(産業

革新機構等によるリスクマネー供給の支援、企業の優良資産の組替えを通じ

た、真に競争力を有する企業の形成支援など)。

中長期的取組としては、電力・ガス・石油・新エネ産業等による合従連衡も

含めて、グローバルで競争力ある中核企業群の競争力強化の促進が挙げら

れる。

14

分野2:スマートヘルスケア産業

現状の課題としては、一つに、成長分野における世界市場獲得の苦戦があ

る。 日本の医療機器メーカーは、国際的に放射線治療機や画像診断機器分

野に強みがある一方で、治療分野においては、日本の中小企業が持つものづ

くり技術を活かした機器開発のポテンシャルがあるものの、大幅な輸入超過の

状態となっている。

また、医療分野においても機器とサービスの融合といった観点が重要となっ

ている。医療機器における世界の主要企業は、自社の強みを活かしながらM

&Aを通じた顧客販路開拓・プロダクトラインの拡大やITを活用した病院業務

マネジメント等に進出し、医療サービスと一体となった海外展開を行っている。

こうした状況に対し、短期的取組としては、医療の国際化をサポートする組

織の設立、医療サービスと機器・システムが一体となった海外展開に向けた事

業可能性調査の実施、ものづくり企業やIT企業の強みを活かした医療機器・シ

ステムの開発の支援(医工連携の推進)、医療関係者、医療機器メーカー、IT

システム事業者、サービス事業者等の関係者間の将来像の整理・意識共有の

ための機会の創出などが挙げられる。

中長期的取組としては、医療サービス・機器・システムと関連する社会シス

テムが一体となった海外展開を支えるコーディネート機能を有する事業体の育

成、国際市場を見すえた、医療機器メーカーやものづくり企業による近接領域

への新規参入・業態転換等を支援するための資金供給・仕組みづくりなどが挙

げられる。

15

分野3:社会システムに組み込まれるロボット

現状の課題としては、ロボットの事業化・市場創出の遅れがある。日本では

電気・機械・自動車メーカー等がスタンドアローンのヒト型ロボットの開発を推

進しており、ロボットありきでサービス内容が決まる傾向もあり、十分に事業化

が進展していない。

ロボットのOSを巡る覇権争いもある。ロボットのモジュール化、レイヤー構

造化が見通される中、米国では WillowGarage 社(Google の元製品開発責任者

が設立)がロボットのOS:ROS(Robot Operating System)の普及を促進するな

ど、既に競争構造変化を捉えた動きが起こっている。

従って、レイヤー構造化による競争構造の変化も見据え具体的なサービス

を実現するために社会システムに組み込まれるロボット、社会システムと連携

するネットワーク対応型ロボット等の検討を強化していくことが必要である。

こうした課題に対し、短期的取組として、ロボット活用の前提となる社会シス

テム像の整理・共有のための異業種間の連携等を推進する。医療、健康分野、

モビリティ・都市交通システム分野等が検討分野例に挙げられる。また、社会

システムに組み込まれたロボットのシステム設計・開発・事業展開を支援する。

グローバル市場を対象に、日本企業コンソーシアムが行う社会システム組み

込まれたロボットの設計・システム開発・事業展開等を支援することも重要であ

る。

中長期的取組として、ロボット産業におけるプラットフォーム・OSの在り方や

ロボット製造技術・制御ソフトウェアの汎用化に向けた検討を世界に先駆けて

推進する、また、自動車等、他産業とのプラットフォームとの相互接続性も見据

えながらモジュール化に係る検討を推進する。

16

分野4:情報端末化する自動車と交通システム

現状の課題としては、一つに、プローブ情報の利活用の停滞がある。各自

動車メーカーの独自サービス領域と協調領域に関する合意形成やデータフォ

ーマット等の共通化ができていないことから、データの共有による災害対応や、

新サービスの創出が現時点では困難である。 これに関する短期的取組として

は、プローブ情報の用途の洗い出し、集約効果検証、処理に適した基盤技術

の設計及び機能実証、制度的課題の抽出等を行い、中長期的取組としては、

交通情報の集約と活用に関する合意形成、情報開示および相互利用の仕組

みづくりを行う。

また、スマートカー・デバイスの融合、すなわち、自動車やカーナビ等関連端

末のデジタル化/ネットワーク化を前提とした大規模な産業構想変化への対応

の遅れの懸念もある。これに対しては、自動車やカーナビ等周辺機器の競争

構造変化に対応するための、自動車メーカーと異業種サービス提供事業者と

のアライアンス組成の促進等、政策検討を開始する。

エネルギーシステムとしての自動車という観点からは、EV/PHV 等の大量導

入が見込まれるがシステム開発等の技術的な課題や事業化可能性、社会的

受容性の検討が必要である。 これに関する取組として、スマートコミュニティ国

内外実証事業(豊田市、スペイン・マラガ)等の成果をもとに、自動車(蓄電池)

を軸とした都市・交通システムとエネルギーシステムが融合した新社会システ

ムサービスを欧米・新興国で展開する。

17

分野5:スマートアグリシステム

現状の課題として、日本の農業産業化の遅れがある。米国・豪州等の広大

な土地を活用した付加価値の低い作物(トウモロコシ等)の農業では日本農業

のグローバル展開には限界がある。センサー技術や環境制御システムなどIT

を活用した農業は、日本において一部に登場しつつあるものの、その動きは限

定的。また、資本面や現地流通・販売ルート確保がネックとなり、グローバル展

開には至っていない。

他方、ITを駆使したオランダの農業モデルは成功している。オランダは、九

州と同程度の土地面積であるのにかかわらず、輸出額は世界第2位を誇る先

端農業大国である。特に都市近郊型のハウス型農業においてはITを駆使して

高度化するなど異業種プレーヤーとの融合により競争力を確保することが重

要である。

こうした課題に対する取組として、スマートアグリシステムの企業アライアン

ス組成を促進する。高度な農業ビジネスのグローバル展開を図るため、農業

技術・ノウハウ、システム制御技術、エネルギー管理技術、加工・販路等の関

連する異業種・異分野の企業のアライアンスの組成の促進が必要である。

スマートアグリシステムのシステム設計・開発・事業展開の支援も重要であ

る。野菜・花卉・果物類など高付加価値農作物を栽培可能な「ハウス型栽培農

業システム」を中心に日本企業コンソーシアムが行うスマートアグリシステムの

システム設計・開発・事業展開等を支援する。

スマートアグリシステムのシステム輸出のための支援も行う。アジア(特に中

国)、欧米、中東等を含め、都市人口・富裕層が急増する地域へのシステム輸

出を支援する。

18

分野6:コンテンツ・クリエイティブビジネス

現状の課題としては、一つに、新規創出マーケットへの対応がある。IT 化の

進展に伴い、AmazonやAppleなど豊富な資金力を背景とした巨大配信プラット

フォームが登場し、電子書籍市場が急速に拡大しつつある。出版社にとって重

要な事業機会となりうる一方、電子化コスト等が足かせとなり、特に国内中小

出版社の寡占事業者による囲い込みや、利益分配の偏りが懸念される。

ITとコンテンツの融合領域のフロンティアの拡大も課題である。既存メディア

や流通チャネルでの利幅が縮小する一方、①マスメディア、ネット、リアル(ライ

ブ、キャラクター、リメーク等)にわたる幅広い事業展開、②成長著しい新興国

等グローバル市場への展開といった新たなフロンティアの拡大が見込まれる

が、これまでのところ、十分な対応がなされているとは言い難い状況である。

課題としては、日本発の新規ビジネスを支える事業環境整備も挙げられる。

日本では、法律上も契約上もコンテンツに係る権利が分散化しているため、コ

ンテンツの迅速な多目的利用が困難である。豊富なコンテンツとIT・デバイス

技術の蓄積を活かし、日本発の新規ビジネスを創造するため、コンテンツ製作、

資金調達、収益源のグローバル化・多様化を促す事業環境整備を行うことが

必要である。

これらの課題に対し、短期的取組として、書籍等デジタル化(「書デジ」)を推

進する。電子書籍分野等において、コンテンツのデジタル化と集中管理を支援

することにより、配信プラットフォーム・端末デバイス等の事業者間において公

正な競争を確保し、適正な利益分配を促すとともに、コンテンツの流通を拡大

する。また、コンテンツの管理、資産評価のあり方を検討する。すなわち、コン

テンツの所有とマネジメントを分離し、幅広い事業展開を推進して知財の収益

力を高めるための組織法制等のあり方を検討する。グローバルな投資判断を

可能とすべく、コンテンツの資産評価のあり方も検討する。さらに、新興国等グ

ローバル市場への展開も推進する。すなわち、コンテンツ・ファンドを活用した

日本コンテンツの海外展開を推進するとともに、日中国交正常化40周年を機

に中国コンテンツ市場への参入も促進する。

中長期的取組としては、クラウド型視聴サービス等に係るルール整備が挙

げられる。日本発の新規ビジネス創造を促すべく、特にクラウド型視聴サービ

ス等に係るルール整備を検討する(基礎となる仕組の在り方について早期に

検討する)。

19

3.横断的課題に対するアクションプラン

横断的課題1:スマート社会のセキュリティ対策

現状の課題として、一つに、重要インフラ等の情報セキュリティ対策がある。

重要インフラ等の制御システムのネットワーク化や質的変化、OSの共通化が

進展し、サイバー攻撃の脅威が高まっている。

また、サイバー攻撃の高度化への対応も課題である。個人情報や機密情報

等の詐取等を目的に、特定組織を標的としたサイバー攻撃が増加、日本企業

への攻撃による大規模な個人情報漏えい事件が発生している。

これらの課題に対し、短期的取組として、制御システムの安全性確保のため、

23 年度夏頃にタスクフォースを立ち上げ、セキュリティ評価認証、インシデント

対応体制等のアクションプランを策定し、可能なものから実施する。また、サイ

バー攻撃の高度化に対応するため、 23 年度中に、個々の事業者の対策に資

する技術基準を策定する。さらに、標的型サイバー攻撃に係る情報共有のた

めのパートナーシップを立ち上げる。

中長期的取組としては、制御システムのセキュリティに係る評価・認証機関

を設立するとともに、国際相互認証スキームを確立する。また、技術基準を個

人情報保護法ガイドラインに反映することを検討する。情報共有のパートナー

シップへの参画を拡大し、国際連携も行う。

20

横断的課題2:スマート社会を切り拓く融合人材と教育

現状の課題として、一つに、高等教育を巡るグローバル競争と日本の遅れ

がある。日本のIT分野の高等教育においては、技術や産業構造の変化を生み

出すような戦略的な投資、グローバル化、産学連携といった観点で大きく立ち

遅れている。これまでも、産学連携での教育プログラム開発などの個別の政策

を打ち出してきたが、何れも日本の大学が抱える根本問題まで踏み込み、徹

底的な変革を起こすまでに至っていない。

IT融合を生み出す人材の不足も課題である。IT融合分野で急速に変化が進

む中で、従来からの「高度 IT 人材」自体の位置付けを見直すことが必要である。

我が国の情報系人材を含む理系人材の減少や実践的教育の不足感により質

の高い若手人材の輩出環境が悪化している。

また、課題として、企業にいて進まぬIT人材の活用がある。企業内における

IT 人材の適切な処遇や評価等が必ずしも十分でなく質的向上が進展していな

いことから、企業経営戦略における効果的な IT 利活用が必ずしも十分ではな

い。

こうした課題に対し、短期的取組として、日・米・韓・中・印等のIT分野の高等

教育システムの徹底した国際比較と問題点の抽出・整理のための産学官によ

る調査委員会を設置する。また、各国での産業構造変化を見据えた戦略的な

学部・学科改廃のあり方、カリキュラム改訂、産学連携による教育面での協力、

過去実施した人材政策のレビュー等を行う。IT 融合を生み出す「異端人材」の

プロファイルと人材育成システムの検討、IT 融合を生み出す次世代高度IT人

材像の具現化と育成も重要である。IT 融合により時代のニーズを踏まえたビジ

ネスをデザインできる次世代の高度 IT 人材について、人材像の具現化を行い

能力・スキルの見える化を行うとともに、育成・評価のフレームワークを見直す。

将来のスーパークリエータ人材の発掘等も行う。

中長期的取組としては、IT分野の高等教育システムとイノベーション政策の

連携強化に関する検討、海外ハイレベル人材の確保のための政策検討、現役

の高度IT人材に対する新たなビジネスの創出等に必要なスキル取得の促進

策の検討が挙げられる。

21

横断的課題3-1:国際的アライアンスによるグローバル展開

現状の課題として、一つに、要素技術における優位性の相対化がある。エレ

クトロニクス分野において、我が国企業の要素技術での優位性は高いと言え

るものの、グローバル市場における利益の獲得・維持に必ずしも成功していな

い。特に、コモディティ化後の大量普及フェーズにおけるグローバルシェア喪失

が加速度的に進行していること、また、プラットフォームを競争力の源泉とする

モデルが十分に成立していないことが課題。

最適でないポートフォリオと脆弱な財務基盤も問題である。大量普及フェー

ズでの利益維持のためには、「プラットフォーム構築によるドミナンス確立」、

「コスト構造を踏まえた戦略的投資の実施」「グローバルなサービス提供網の

構築による販売力における競争へのシフト」などの対応が考えられ、これらの

戦略を各分野の市場の状況等にあわせて適切に組み合わせる戦略が必要と

されている。上記の観点からは、生産拠点・サービス提供網等の企業の保有

するアセットが必ずしも最適配分されておらず、また、脆弱な財務基盤のため

に設備投資競争に負けてしまう。

こうした課題に対する取組として、各分野ごとに当該分野の成長性や我が国

企業の位置づけを十分にふまえつつ、利益獲得のための戦略を、アセットの組

替促進に関しては産業革新機構の活用、政府間のチャネルも活用した円滑な

国際的アライアンスの促進等、設備投資競争の支援に関してはスマートファク

トリーや成長分野等への立地補助金の戦略的配分、規制緩和による国内立地

環境整備等といった政策ツールを活用しつつ支援する。

22

横断的課題3-2:グローバル EC モール等と連携した日本企業の海外展開促

現状の課題としては、一つに、越境ECにかかる成功事例の創出がある。越

境ECサイトを構築したとしても、海外での企業の知名度獲得やサイトへの集

客、また、越境ECに取り組むにあたって必要となる外国の制度やビジネス実

態についての情報を中小企業等が入手することは困難である。 これに対し、

短期的取組として、ECモール事業をグローバルに展開するタオバオ、eBay、

楽天等と連携し、日本企業による越境 EC を通じた海外展開を推進する(楽天

は、台湾、米国、仏国、中国等で EC モール事業を展開し、日本企業の出店サ

ポート等も行っている)。また、風評被害を防止するための外国語情報や海外

EC関連制度等、越境EC事業者に必要な情報を集約した情報提供サイトの構

築等を行う。中長期的取組としては、越境ECにおける消費者保護を図るため、

紛争解決の仕組についての検討が挙げられる。

また、日本ブランドの強力な発信も課題である。震災に際して、原子力発電

所事故等による日本ブランドの毀損・対外的発信力低下が懸念されている。こ

れに対する取組として、クリエイティブビジネスの国内外での展開のために、IT

を活用した日本ブランド海外戦略を構築する(まずシンガポール、中国等で展

開する)。

オンライン・コンテンツのグローバル展開も重要である。オンラインゲーム等

の日本のコンテンツが海外展開する際の制度等に関する情報が不足している。

これに対する取組として、オンラインゲーム等のオンライン・コンテンツの海外

展開に係る制度的課題について、検討を進める。

23

横断的課題3-3:グローバルな企業連携を通じたクリエイティブビジネスの国

内外展開

現状の課題として、日本ブランドの強力な発信がある。東日本大震災に際し

て、日本人の高いモラル・秩序ある行動が海外から賛嘆された一方、原子力発

電所事故等による日本ブランドの毀損・対外的発信力低下の懸念されている。

日本ブランドの強力な発信のための、政府一体となった戦略的・包括的コミュ

ニケーション戦略(正確、統合的、継続的な情報発信や双方向の情報経路の

確立、ソーシャルメディア等を含めたプラットフォームの創出)、海外でクール・

ジャパンに関心を持つプロデューサー、クリエイター、ブロガー等のネットワー

ク化等の不足が挙げられる。

IT との連携による日本ブランド海外戦略の構築にあたり、短期的取組として、

シンガポールでリアル店舗と e コマース事業者、現地の物流事業者が統合的

に連携して、現地で人気の高い「原宿ファッション」を効果的に売り込む。また、

日本のコンテンツ事業者や、海外のeコマース事業者等と連携し、日本の特産

品等を上海での物産展に出展し、中国での e コマース展開を通じて販路拡大

を進める。

さらに、日本ブランドの継続的・統合的発信のための短期的取組として、IT

を活用した日本の伝統工芸品等の地域産品のブランディングを有名ブランド等

の支援により行い、世界に売り込む。

24

横断的課題4:融合領域における新規プレーヤー創出促進

現状、日本における新興市場の IPO が低迷しており、IPO が継続的な成長

につながらない。

こうした状況に対し、短期的取組として、IT 融合が生み出す新たな市場を示

すことでベンチャーの新規参入を促すとともに、参入に当たって必要な支援を

検討する。また、産総研等、公的研究機関の技術の掘り起こしを、海外事業者

も含め最適なパートナーと実施するための支援を行う。

中長期的取組としては、大手企業間や大手・ベンチャー企業間の人材流動

性の低さ、資本市場の未整備、大手企業に眠る人的資産や知財の活用の停

滞等、総合的に課題を捉えた上で、必要な政策対応を検討する。例えば、ベン

チャー育成に関わる金融の果たす役割など構造的問題への対応、豊富な技

術と経験を持つ大手企業からのスピンアウト企業への支援活性策を検討す

る。

25

横断的課題5:ビッグデータから価値を生み出す基盤となる技術強化・利活用

促進

現状の課題として、一つに、ビッグデータを処理するクラウドコンピューティン

グの基盤強化・利活用の促進がある。ビッグデータを安全かつ高速で処理する

ことができる基盤技術を開発すること、データ利活用促進のためのHPC利活

用含めた環境整備が必要である。

また、IT のセキュリティ・信頼性の向上も課題である。IOC・IOT化の進展に

伴い、大量に流通するデータのセキュリティや信頼性の向上を図ることが必要

である。

こうした課題に対し、短期的取組として、大量データを安全に利活用するた

めの匿名化技術等の基盤技術開発を実施するとともに、実証事業を通じてそ

の効果を検証する。また、ITの信頼性向上を図るための基盤の整備を実施す

る。さらに、25 年度までに、IPAにおいて信頼性向上に向けた品質監査制度を

創設し、IOT時代のセキュリティ対策を強化する。併せて、データの二次利用を

促進するための各種制度設計を行う。プライバシーに配慮したデータ利活用・

流通のルール整備等を実施する。

中長期的取組としては、大量の情報を収集・蓄積しつつ安全な利活用を可

能とするデータ利活用基盤の創出が挙げられる。

26

4.震災復興

柱1:被災地域における各種プロジェクト等の重点的・先行的実施

東北・被災地域は IT・エレクトロニクスの重要な集積地域であり、今後の復

興に当たっては、こうした強みを活かした上で、被災地のニーズもふまえ、IT 融

合関連のプロジェクトを支援することも一つの方向である。当該地域の大学・

研究機関、大手 IT・エレクトロニクス企業、地場の中小企業・ベンチャーの連携、

さらには国際的な協力・提携も併せて検討する。

また、医療情報を自己管理・活用できる仕組みを構築し、すべての国民が地

域を問わず、適切な医療サービス等を受けることを可能とし、災害にも強い医

療情報管理を実現するための情報基盤を構築することを検討する。

さらに、災害の際に滅失の恐れがある書籍等の著作物、技法やアイデア、

地域の共有知等のデジタル化を図るとともに、クラウド技術等を活用しながら

そのオープンな利用・閲覧を促進する基盤を整備することで、東北地域での早

急な雇用創出とその後の新規産業の苗床を形成することを検討する。

柱2:クラウド活用等による中小企業再生支援等

震災復興にあたり活用できる、中小企業のビジネス変化への柔軟な対応や

経済性等の観点からクラウド/SaaS 等導入による経営情報の基盤を確立する

仕組み等、加えて、東北地方における IT ユーザとベンダとの間でニーズのマッ

チング支援を重点的に実施することを検討する。

また、風評に流されない購買層を世界から広く集められ、リアルな店舗によ

る海外進出よりも初期投資が小さい越境 EC を、被災企業の持続的な復興・振

興に活用することを検討する。

他にも、被災地で撮影する損傷状況に関する画像情報を活用し、緊急に補

修を要する箇所の優先順位付けや損傷状況に応じた適切な補修方法の選定

などの業務を支援するシステムの開発、導入を支援することを検討する。

柱3:情報発信、リテラシー対応

震災からの復興に関し、民間の力を最大限に生かす枠組みを構築し、共通

的な運用方法の策定によるデータ提供方法の標準化と利活用を推進する。併

せて、設置が予定されている「政府CIO」を中心に公共データの利活用を強力

に推進する。

また、被災者個々人が利用する情報通信インフラは復旧し、仮設住宅入居

が進みつつあるも、IT を使い慣れているか否かで被災者の不安感、孤独感に

差。被災者自らが IT を利活用して、生活再建に役立てていけるよう、被災者向

27

けに研修等の IT 利活用支援事業を実施することを検討する。